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課題・解決手段

本発明は、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む神経網膜組織における神経節細胞アマクリン細胞水平細胞、及び/又は双極細胞分化抑制方法等を提供することを課題とする。神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞出現率極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養する工程を含む、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む神経網膜組織における神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞、及び/又は双極細胞の分化抑制方法。

概要

背景

網膜色素変性など視細胞変性脱落により視力低下視野欠損が生じる疾患では、変性・脱落を伴う視細胞に対し、視細胞からのシグナルを最初に受け取る双極細胞や、それ以外の網膜細胞は視細胞変性・脱落後も一定期間網膜組織内に残存していることが知られている(非特許文献1)。そのため、視細胞や視細胞前駆細胞を含む網膜組織の移植による再生医療治療効果を発揮するには、移植する網膜組織由来視細胞や視細胞前駆細胞が移植を受ける患者レシピエント)の双極細胞と接触し、シナプス形成する、すなわち、網膜神経回路を形成することが好ましいと考えられている(非特許文献2)。このように、患者の網膜組織由来双極細胞と、移植される網膜組織由来視細胞とが効率よくシナプス形成することが可能な、移植に適した網膜組織およびその製造方法の開発が強く求められている。
一方、胎児から採取した網膜細胞を用いて視細胞前駆細胞へ分化させる際に、神経網膜前駆細胞を含む網膜組織を分散後、レチノイン酸甲状腺ホルモンの一つであるトリヨードサイロニン(T3)を添加して接着培養を行ったことが報告されている(非特許文献3)。また、ラット網膜組織を分散後、レチノイン酸存在下に接着培養した場合にアマクリン細胞が低減することが報告されている(非特許文献4)。
しかしながら、甲状腺ホルモンが双極細胞、神経節細胞水平細胞等の分化に影響を及ぼすかどうかは、知られていなかった。
また、幹細胞から誘導された、立体構造を持つ網膜組織に含まれるアマクリン細胞、双極細胞、神経節細胞及び水平細胞等の細胞と、視細胞前駆細胞及び視細胞の割合を調節し、移植に適した網膜組織を調製する方法についても知られていなかった。

概要

本発明は、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む神経網膜組織における神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞、及び/又は双極細胞の分化抑制方法等を提供することを課題とする。神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞出現率極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養する工程を含む、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む神経網膜組織における神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞、及び/又は双極細胞の分化抑制方法。

目的

本発明の課題は、患者の網膜組織由来双極細胞と、移植される網膜組織由来視細胞とが効率よくシナプス形成することが可能な、移植に適した網膜組織およびその製造方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
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請求項1

神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞出現率極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養する工程を含む、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む神経網膜組織における神経節細胞、アマクリン細胞水平細胞、および/または双極細胞分化抑制方法

請求項2

桿体視細胞前駆細胞及び/又は双極細胞が出現する分化段階まで、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養することを含む、請求項1に記載の方法。

請求項3

外網状膜が形成される分化段階まで、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養することを含む、請求項1に記載の方法。

請求項4

ミューラー細胞が出現する分化段階まで、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養することを含む、請求項1に記載の方法。

請求項5

PAX6陰性/CHX10強陽性細胞およびPAX6陽性/CHX10陰性細胞の生成を抑制することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分化抑制方法。

請求項6

神経網膜組織が幹細胞由来である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

請求項7

幹細胞多能性幹細胞である、請求項6に記載の方法。

請求項8

幹細胞が、成体網膜から得られる体性幹細胞である、請求項6に記載の方法。

請求項9

甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質がトリヨードサイロニンである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

請求項10

トリヨードサイロニンの濃度が1〜100nMである、請求項9に記載の方法。

請求項11

神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階にある網膜組織が、全細胞数に対する神経網膜前駆細胞の含有率が50%以上の網膜組織である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。

請求項12

培養方法浮遊培養である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。

請求項13

(1)発生初期段階の網膜組織を培地で培養し、神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織を得る工程、及び(2)工程(1)で得られる網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養する工程を含む、成熟した神経網膜組織、または成熟した神経網膜組織に成熟化し得る神経網膜組織の製造方法。

請求項14

工程(1)における培地、及び/又は、工程(2)の少なくとも一部の工程における培地が、腹側マーカー発現を抑制する程度の濃度の背側化シグナル伝達物質を含む培地である、請求項13に記載の製造方法。

請求項15

工程(2)における培地が、腹側マーカーの発現を抑制する程度の濃度の背側化シグナル伝達物質を含むことを特徴とする、請求項13又は14に記載の製造方法。

請求項16

工程(1)における培地が、腹側マーカーの発現を抑制する程度の濃度の背側化シグナル伝達物質を含むことを特徴とする、請求項13〜15のいずれか一項に記載の製造方法。

請求項17

成熟した神経網膜組織が、以下の(i)〜(iii)の特徴:(i)視細胞前駆細胞(photoreceptor precursor)及び視細胞(photoreceptor)の細胞数の割合が、全細胞数に対して40%以上である;(ii)視細胞前駆細胞及び視細胞に含まれる、錐体視細胞前駆細胞(cone photoreceptor precursor)及び錐体視細胞(cone photoreceptor)の含有率が70%以上である;及び(iii)全細胞数に対する双極細胞、神経節細胞、アマクリン細胞及び水平細胞の細胞数の割合が30%以下である;を有する、請求項13〜16のいずれか一項に記載の製造方法。

請求項18

成熟した神経網膜組織に成熟化し得る神経網膜組織が、以下の(i)〜(ii)の特徴:(i)全細胞数に対する、視細胞前駆細胞及び視細胞(CRX陽性細胞)の細胞数の割合が、11%以上、好ましくは20%以上である;及び(ii)CRX陽性かつTRβ2陽性細胞の細胞数の割合が、全細胞数に対して7%以上、好ましくは10%以上である;を有し、錐体視細胞前駆細胞の出現が認められて以降30〜50日間、好ましくは30〜40日間培養が継続されることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか一項に記載の製造方法。

請求項19

成熟した神経網膜組織に成熟化し得る神経網膜組織が、以下の(i)〜(ii)の特徴:(i)全細胞数に対する、視細胞前駆細胞及び視細胞(CRX陽性細胞)の割合が25%以上である;及び(ii)視細胞前駆細胞及び/又は視細胞(CRX陽性細胞)が頂端面に接しており、頂端面の接線に垂直に交わる直線に沿って少なくとも2細胞が並んで存在する;を有し、錐体視細胞前駆細胞の出現が認められて以降55〜80日間、好ましくは55〜70日間培養が継続されることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか一項に記載の製造方法。

請求項20

工程(2)が、以下の工程(2−1)及び(2−2):(2−1)工程(1)で得られる網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で、錐体視細胞前駆細胞の出現が認められて以降30〜80日目まで培養する工程、及び、(2−2)工程(2−1)で得られる網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含んでいても良い培地で、60〜120日間培養する工程、を含む、請求項13〜17のいずれか一項に記載の製造方法。

請求項21

工程(2−2)で用いられる培地が、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質、及び/又は、腹側マーカーの発現を抑制する程度の濃度の背側化シグナル伝達物質を含む培地である、請求項20に記載の製造方法。

請求項22

背側化シグナル伝達物質がBMP4である、請求項13〜21のいずれか一項に記載の製造方法。

請求項23

BMP4の濃度が0.05〜0.45nMである、請求項22に記載の製造方法。

請求項24

背側化シグナル伝達物質がCyclopamine-KAADである、請求項13〜21のいずれか一項に記載の製造方法。

請求項25

Cyclopamine-KAAD濃度が0.01〜100μMである、請求項24に記載の製造方法。

請求項26

工程(2−2)で用いられる培地が、連続上皮構造維持培地である、請求項20〜25のいずれか一項に記載の製造方法。

請求項27

請求項13〜26のいずれか一項に記載の方法により得られる、異所性のCRX陽性細胞を含む神経網膜組織。

請求項28

錐体視細胞及び錐体視細胞前駆細胞を含み、以下の(1)〜(3)の特徴:(1)視細胞前駆細胞及び視細胞の細胞数の割合が全細胞数の11%以上、好ましくは20%以上である;(2)ニューロブラスティックレイヤーより基底膜側に出現する異所性の視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む;及び(3)錐体視細胞前駆細胞が初めに出現してから30〜50日間培養された神経網膜組織であって、CRX陽性かつNRL陽性の視細胞もしくは視細胞前駆細胞を含まない;を有する、神経網膜組織。

請求項29

錐体視細胞前駆細胞及び錐体視細胞の細胞数の割合が全細胞数の7%以上、好ましくは10%以上である、請求項28に記載の神経網膜組織。

請求項30

ニューロブラスティックレイヤーが、CHX10陽性かつPAX6陽性であるか、又はKi67陽性である細胞が存在する層である、請求項28又は29に記載の神経網膜組織。

請求項31

更に、ニューロブラスティックレイヤー(NBL)より基底膜側の異所性の視細胞前駆細胞及び視細胞の、一定面積当たりの細胞数が、NBLを含む頂端面側の領域の視細胞前駆細胞及び視細胞の当該細胞数に対して1/10倍〜10倍である、請求項28〜30のいずれか一項に記載の神経網膜組織。

請求項32

以下の(1)〜(4)の特徴:(1)CRX陽性細胞の含有率が25%以上である;(2)視細胞前駆細胞(CRX陽性細胞)が頂端面に接しており、頂端面の接線に垂直に交わる直線に沿って少なくとも2細胞が並んで存在する;(3)錐体視細胞前駆細胞及び/又は錐体視細胞、並びに双極細胞を含み、ミューラー細胞を含まない;及び(4)桿体視細胞前駆細胞及び/又は双極細胞へ分化する段階の神経網膜前駆細胞を含む;を有する神経網膜組織。

請求項33

更に以下の(5)の特徴:(5)ニューロブラスティックレイヤー(NBL)より基底膜側に異所性の視細胞前駆細胞が存在する;を有する請求項32に記載の神経網膜組織。

請求項34

以下の(1)〜(5)の特徴:(1)ミューラー細胞が検出される分化段階である;(2)神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞の含有率が30%以下である;(3)双極性細胞の含有率が10%以下である;(4)神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞および双極細胞の含有率が30%以下である;及び(5)視細胞前駆細胞及び視細胞の細胞数の割合が全細胞数の40%以上である;を有する、錐体視細胞前駆細胞及び/又は錐体視細胞を含む成熟した神経網膜組織。

請求項35

基底膜側の細胞層に異所性の視細胞層が形成されている、請求項34に記載の神経網膜組織。

請求項36

PAX6陰性/CHX10強陽性細胞およびPAX6陽性/CHX10陰性細胞の含有率が30%以下である、請求項34または35に記載の成熟した神経網膜組織。

請求項37

更に、異所性の視細胞前駆細胞及び/又は視細胞の細胞数の割合が、外顆粒層の細胞数に対して30%以上である、請求項34〜36のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織。

請求項38

更に、視細胞前駆細胞及び視細胞に含まれる、錐体視細胞前駆細胞及び錐体視細胞の含有率が70%以上である、請求項34〜37のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織。

請求項39

CRX陽性細胞の細胞数の割合が全細胞数に対して40%以上である、請求項34〜38のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織。

請求項40

神経網膜組織の層構造の50%以上が連続上皮構造を形成する、請求項27〜33のいずれか一項に記載の神経網膜組織、又は請求項34〜39のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織。

請求項41

網膜組織の長軸方向の直径が0.6mm以上である、請求項40に記載の神経網膜組織。

請求項42

培養することにより、請求項34〜41のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織へ成熟化され得る、神経網膜組織。

請求項43

請求項27〜33及び40〜42のいずれか一項に記載の神経網膜組織、又は請求項34〜41のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織を含有する移植用医薬組成物

請求項44

請求項27〜33及び40〜42のいずれか一項に記載の神経網膜組織、又は請求項34〜41のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織を動物移植することを含む、視力低下または視野欠損が生じる疾患の治療又は予防方法

請求項45

請求項27〜33及び40〜42のいずれか一項に記載の神経網膜組織、又は請求項34〜41のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織をの毒性・薬効評価用試薬としての使用。

技術分野

0001

本発明は、双極細胞アマクリン細胞神経節細胞、又は水平細胞等の割合が低く、視細胞前駆細胞もしくは視細胞の割合が高い、移植に適した網膜組織およびそれらの製造方法に関する。

背景技術

0002

網膜色素変性など視細胞の変性脱落により視力低下視野欠損が生じる疾患では、変性・脱落を伴う視細胞に対し、視細胞からのシグナルを最初に受け取る双極細胞や、それ以外の網膜細胞は視細胞変性・脱落後も一定期間網膜組織内に残存していることが知られている(非特許文献1)。そのため、視細胞や視細胞前駆細胞を含む網膜組織の移植による再生医療治療効果を発揮するには、移植する網膜組織由来視細胞や視細胞前駆細胞が移植を受ける患者レシピエント)の双極細胞と接触し、シナプス形成する、すなわち、網膜神経回路を形成することが好ましいと考えられている(非特許文献2)。このように、患者の網膜組織由来双極細胞と、移植される網膜組織由来視細胞とが効率よくシナプス形成することが可能な、移植に適した網膜組織およびその製造方法の開発が強く求められている。
一方、胎児から採取した網膜細胞を用いて視細胞前駆細胞へ分化させる際に、神経網膜前駆細胞を含む網膜組織を分散後、レチノイン酸甲状腺ホルモンの一つであるトリヨードサイロニン(T3)を添加して接着培養を行ったことが報告されている(非特許文献3)。また、ラット網膜組織を分散後、レチノイン酸存在下に接着培養した場合にアマクリン細胞が低減することが報告されている(非特許文献4)。
しかしながら、甲状腺ホルモンが双極細胞、神経節細胞、水平細胞等の分化に影響を及ぼすかどうかは、知られていなかった。
また、幹細胞から誘導された、立体構造を持つ網膜組織に含まれるアマクリン細胞、双極細胞、神経節細胞及び水平細胞等の細胞と、視細胞前駆細胞及び視細胞の割合を調節し、移植に適した網膜組織を調製する方法についても知られていなかった。

先行技術

0003

Prog Retin Eye Res,17(2),175-205(1998)
Proc Natl Acad Sci U S A,113(1),E81-90(2016)
Invest Ophthalmol Vis Sci,36(7),1280-1289(1995)
Development 120(8),2091-2102 (1994)

発明が解決しようとする課題

0004

本発明の課題は、患者の網膜組織由来双極細胞と、移植される網膜組織由来視細胞とが効率よくシナプス形成することが可能な、移植に適した網膜組織およびその製造方法を提供することにある。

課題を解決するための手段

0005

網膜色素変性など視細胞の変性・脱落により視力低下や視野欠損が生じる疾患では、変性・脱落を伴う視細胞に対し、視細胞からのシグナルを最初に受け取る双極細胞や、それ以外の網膜細胞は視細胞変性・脱落後も一定期間網膜組織内に残存していることが知られている(非特許文献1)。そのため、視細胞前駆細胞を含む網膜組織の移植による再生医療で治療効果を発揮するには、移植する網膜組織由来視細胞が移植を受ける患者(レシピエント)の双極細胞と接触し、前記視細胞前駆細胞(もしくは視細胞)のシナプス終末を介してシナプス形成する、すなわち、網膜神経回路を形成することが好ましいと考えられている(非特許文献2)。
また、移植した網膜組織は、移植された部位において生着し、特徴的なロゼット様構造をとり得ること、及び視細胞前駆細胞(もしくは視細胞)の基底膜側(すなわち視細胞前駆細胞、もしくは視細胞のシナプス終末側)がレシピエントの双極細胞と接触し、シナプス形成し得ることが報告されている(非特許文献2)。網膜組織には双極細胞の他、アマクリン細胞や神経節細胞、水平細胞が含まれるが、これらの細胞は視細胞前駆細胞が存在する層(外顆粒層)より神経網膜組織の基底膜側に存在している。このため、移植した網膜組織がロゼット様構造をとった時、移植した網膜組織由来双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞及び水平細胞は、移植した網膜組織由来視細胞前駆細胞とレシピエントの双極細胞の間に位置することになる。

0006

そのため、発明者らは、移植した網膜組織由来視細胞がレシピエントの双極細胞と接触しようとする際、移植した網膜組織由来の双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞及び水平細胞は空間的、又は物理的障害になり得ると考えた。また、移植する神経網膜組織内に双極細胞が存在していると、移植した神経網膜組織内で視細胞と双極細胞とが回路形成してしまい、移植した網膜組織由来視細胞がレシピエントの双極細胞と神経回路を効率よく形成できなくなる可能性がある。これらのことから、移植する神経網膜組織内の双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞及び水平細胞はその割合が少ないほど好ましいと考えた。
すなわち、本発明者らは、移植に使用する網膜組織におけるこれらの不要な細胞の割合を低減することにより、レシピエントの網膜組織由来双極細胞と、移植される網膜組織由来視細胞とが接触しシナプス形成する確率が高められると考え鋭意検討を行った。その結果、神経節細胞が出現していないもしくは出現直後の分化段階にある、神経網膜前駆細胞を含む網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地浮遊培養成熟させることにより、網膜組織に含まれる生体移植部位とのシナプス形成に不要な細胞を低減し、かつ視細胞前駆細胞の割合を高められることを見出し、本発明を完成するに至った。また、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質に加え、背側化シグナル伝達物質を添加することにより、更に神経網膜に含まれる全細胞中の視細胞前駆細胞の割合、及び視細胞前駆細胞中の錐体視細胞前駆細胞の割合が高い神経網膜組織を得ることができた。

0007

すなわち、本発明は以下に関する:
[1]神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養する工程を含む、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む神経網膜組織における神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞、及び/又は双極細胞の分化抑制方法
[2]桿体視細胞前駆細胞及び/又は双極細胞が出現する分化段階まで、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養することを含む、上記[1]に記載の方法;
[3]外網状膜が形成される分化段階まで、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養することを含む、上記[1]に記載の方法;
[4]ミューラー細胞が出現する分化段階まで、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養することを含む、上記[1]に記載の方法;
[5]PAX6陰性/CHX10強陽性細胞およびPAX6陽性/CHX10陰性細胞の生成を抑制することを特徴とする、上記[1]〜[4]のいずれか記載の分化抑制方法;
[6]神経網膜組織が幹細胞由来である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法;
[7]幹細胞が多能性幹細胞である、上記[6]に記載の方法;
[8]幹細胞が、成体網膜から得られる体性幹細胞である、上記[6]に記載の方法;
[9]甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質がトリヨードサイロニンである、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法;
[10]トリヨードサイロニンの濃度が1〜100nMである、上記[9]に記載の方法;
[11]神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階にある網膜組織が、全細胞数に対する神経網膜前駆細胞の含有率が50%以上の網膜組織である、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の方法;
[12]培養方法が浮遊培養である、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の方法;
[13](1)発生初期段階の網膜組織を培地で培養し、神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織を得る工程、及び
(2)工程(1)で得られる網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養する工程
を含む、成熟した神経網膜組織、または成熟した神経網膜組織に成熟化し得る神経網膜組織の製造方法;
[14]工程(1)における培地、及び/又は、工程(2)の少なくとも一部の工程における培地が、腹側マーカー発現を抑制する程度の濃度の背側化シグナル伝達物質を含む培地である、上記[13]に記載の製造方法;
[15]工程(2)における培地が、腹側マーカーの発現を抑制する程度の濃度の背側化シグナル伝達物質を含むことを特徴とする、上記[13]又は[14]に記載の製造方法;
[16]工程(1)における培地が、腹側マーカーの発現を抑制する程度の濃度の背側化シグナル伝達物質を含むことを特徴とする、上記[13]〜[15]のいずれかに記載の製造方法;
[17]成熟した神経網膜組織が、以下の(i)〜(iii)の特徴:
(i)視細胞前駆細胞(photoreceptor precursor)及び視細胞(photoreceptor)の細胞数の割合が、全細胞数に対して40%以上である;
(ii)視細胞前駆細胞及び視細胞に含まれる、錐体視細胞前駆細胞(cone photoreceptor precursor)及び錐体視細胞(cone photoreceptor)の含有率が70%以上である;及び
(iii)全細胞数に対する双極細胞、神経節細胞、アマクリン細胞及び水平細胞の細胞数の割合が30%以下である;
を有する、上記[13]〜[16]のいずれかに記載の製造方法;
[18]成熟した神経網膜組織に成熟化し得る神経網膜組織が、以下の(i)〜(ii)の特徴:
(i)全細胞数に対する、視細胞前駆細胞及び視細胞(CRX陽性細胞)の細胞数の割合が、11%以上、好ましくは20%以上である;及び
(ii)CRX陽性かつTRβ2陽性細胞の細胞数の割合が、全細胞数に対して7%以上、好ましくは10%以上である;
を有し、錐体視細胞前駆細胞の出現が認められて以降30〜50日間、好ましくは30〜40日間培養が継続されることを特徴とする、上記[13]〜[16]のいずれかに記載の製造方法;
[19]成熟した神経網膜組織に成熟化し得る神経網膜組織が、以下の(i)〜(ii)の特徴:
(i)全細胞数に対する、視細胞前駆細胞及び視細胞(CRX陽性細胞)の割合が25%以上である;及び
(ii)視細胞前駆細胞及び/又は視細胞(CRX陽性細胞)が頂端面に接しており、頂端面の接線に垂直に交わる直線に沿って少なくとも2細胞が並んで存在する;
を有し、錐体視細胞前駆細胞の出現が認められて以降55〜80日間、好ましくは55〜70日間培養が継続されることを特徴とする、上記[13]〜[16]のいずれかに記載の製造方法;
[20]工程(2)が、以下の工程(2−1)及び(2−2):
(2−1)工程(1)で得られる網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で、錐体視細胞前駆細胞の出現が認められて以降30〜80日目まで培養する工程、及び、
(2−2)工程(2−1)で得られる網膜組織を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含んでいても良い培地で、60〜120日間培養する工程、
を含む、上記[13]〜[17]のいずれかに記載の製造方法;
[21]工程(2−2)で用いられる培地が、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質、及び/又は、腹側マーカーの発現を抑制する程度の濃度の背側化シグナル伝達物質を含む培地である、上記[20]に記載の製造方法;
[22]背側化シグナル伝達物質がBMP4である、上記[13]〜[21]のいずれかに記載の製造方法;
[23]BMP4の濃度が0.05〜0.45nMである、上記[22]に記載の製造方法;
[24]背側化シグナル伝達物質がCyclopamine-KAADである、上記[13]〜[21]のいずれかに記載の製造方法;
[25]Cyclopamine-KAAD濃度が0.01〜100μMである、上記[24]に記載の製造方法;
[26]工程(2−2)で用いられる培地が、連続上皮構造維持培地である、上記[20]〜[25]のいずれかに記載の製造方法;
[27]上記[13]〜[26]のいずれかに記載の方法により得られる、異所性のCRX陽性細胞を含む神経網膜組織;
[28]錐体視細胞及び錐体視細胞前駆細胞を含み、以下の(1)〜(3)の特徴:
(1)視細胞前駆細胞及び視細胞の細胞数の割合が全細胞数の11%以上、好ましくは20%以上である;
(2)ニューロブラスティックレイヤーより基底膜側に出現する異所性の視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む;及び
(3)錐体視細胞前駆細胞が初めに出現してから30〜50日間培養された神経網膜組織であって、CRX陽性かつNRL陽性の視細胞もしくは視細胞前駆細胞を含まない;
を有する、神経網膜組織;
[29]錐体視細胞前駆細胞及び錐体視細胞の細胞数の割合が全細胞数の7%以上、好ましくは10%以上である、上記[28]に記載の神経網膜組織;
[30]ニューロブラスティックレイヤーが、CHX10陽性かつPAX6陽性であるか、又はKi67陽性である、上記[28]又は[29]に記載の神経網膜組織;
[31]更に、ニューロブラスティックレイヤー(NBL)より基底膜側の異所性の視細胞前駆細胞及び視細胞の、一定面積当たりの細胞数が、NBLを含む頂端面側の領域の視細胞前駆細胞及び視細胞の当該細胞数に対して1/10倍〜10倍である、上記[28]〜[30]のいずれかに記載の神経網膜組織;
[32]以下の(1)〜(4)の特徴:
(1)CRX陽性細胞の含有率が25%以上である;
(2)視細胞前駆細胞(CRX陽性細胞)が頂端面に接しており、頂端面の接線に垂直に交わる直線に沿って少なくとも2細胞が並んで存在する;
(3)錐体視細胞前駆細胞及び/又は錐体視細胞、並びに双極細胞を含み、ミューラー細胞を含まない;及び
(4)桿体視細胞前駆細胞及び/又は双極細胞へ分化する段階の神経網膜前駆細胞を含む;
を有する神経網膜組織;
[33]更に以下の(5)の特徴:
(5)ニューロブラスティックレイヤー(NBL)より基底膜側に異所性の視細胞前駆細胞が存在する;
を有する上記[32]に記載の神経網膜組織;
[34]以下の(1)〜(5)の特徴:
(1)ミューラー細胞が検出される程度の分化段階である;
(2)神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞の含有率が30%以下である;
(3)双極性細胞の含有率が10%以下である;
(4)神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞および双極細胞の含有率が30%以下である;及び
(5)視細胞前駆細胞及び視細胞の細胞数の割合が全細胞数の40%以上である;
を有する、錐体視細胞前駆細胞及び/又は錐体視細胞を含む成熟した神経網膜組織;
[35]基底膜側の細胞層に異所性の視細胞層が形成されている、上記[34]に記載の神経網膜組織;
[36]PAX6陰性/CHX10強陽性細胞およびPAX6陽性/CHX10陰性細胞の含有率が30%以下である、上記[34]または[35]に記載の成熟した神経網膜組織;
[37]更に、異所性の視細胞前駆細胞及び/又は視細胞の細胞数の割合が、外顆粒層の細胞数に対して30%以上である、上記[34]〜[36]に記載の成熟した神経網膜組織;
[38]更に、視細胞前駆細胞及び視細胞に含まれる、錐体視細胞前駆細胞及び錐体視細胞の含有率が70%以上である、上記[34]〜[37]のいずれかに記載の成熟した神経網膜組織;
[39]CRX陽性細胞の細胞数の割合が全細胞数に対して40%以上である、上記[34]〜[38]のいずれかに記載の成熟した神経網膜組織;
[40]神経網膜組織の層構造の50%以上が連続上皮構造を形成する、上記[27]〜[33]のいずれかに記載の神経網膜組織、又は上記[34]〜[39]のいずれかに記載の成熟した神経網膜組織;
[41]網膜組織の長軸方向の直径が0.6mm以上である、上記[40]に記載の神経網膜組織;
[42]培養することにより、上記[34]〜[41]のいずれかに記載の成熟した神経網膜組織へ成熟化され得る、神経網膜組織;
[43]上記[27]〜[33]及び[40]〜[42]のいずれかに記載の神経網膜組織、又は上記[34]〜[41]のいずれかに記載の成熟した神経網膜組織を含有する移植用医薬組成物
[44]上記[27]〜[33]及び[40]〜[42]のいずれかに記載の神経網膜組織、又は上記[34]〜[41]のいずれか一項に記載の成熟した神経網膜組織を動物に移植することを含む、視力低下または視野欠損が生じる疾患の治療又は予防方法
[45]上記[27]〜[33]及び[40]〜[42]のいずれかに記載の神経網膜組織、又は上記[34]〜[41]のいずれかに記載の成熟した神経網膜組織の毒性・薬効評価用試薬としての使用。

発明の効果

0008

本発明によれば、網膜組織に含まれる双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞又は水平細胞等の割合が低く、かつ視細胞前駆細胞の割合を増大させた網膜組織の製造が可能となる。また、本発明の一態様においては、前記の網膜組織中の視細胞前駆細胞のうち、錐体視細胞前駆細胞の割合を増大させることが可能となる。また、本発明の一態様においては、視細胞前駆細胞、又は錐体視細胞前駆細胞は異所性に出現し、双極細胞、アマクリン細胞、又は神経節細胞等が存在する網膜層の基底膜側に存在し、移植した場合に患者由来双極性細胞との効率の良い神経回路形成が期待できる。このように、本発明の網膜組織は、網膜色素変性など視細胞の変性・脱落により視力低下や視野欠損が生じる疾患の治療に有用である。

図面の簡単な説明

0009

図1は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を浮遊培養開始後35日目(a、b)及び42日目(c、d)に蛍光実体顕微鏡により撮影した画像を示す例である。a及びbは、網膜組織を含む凝集体を浮遊培養開始後35日目にピンセット切り出し、蛍光実体顕微鏡により撮影した画像であり、c及びdは、浮遊培養開始後42日目に網膜組織を含む細胞凝集体にCRX:: Venusタンパク質蛍光がみとめられる細胞、すなわち、視細胞前駆細胞が出現していることを確認した画像である。
図2は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を浮遊培養開始後69〜74日目まで培養し、蛍光実体顕微鏡により撮影した画像(a〜d)である。T3無添加群(-T3;a)に比べ、T3添加群(+T3;b)では、CRX::Venusが発する蛍光が強く、CRX::Venus陽性細胞が増加していることが分かる。また、T3に加え背側化シグナル伝達物質を添加した場合(+T3+BMP;c、+T3+Cyclopamine-KAAD;d)ではT3添加群に比べさらにCRX::Venus陽性細胞が増加していることが分かる。特に、+T3+Cyclopamine-KAAD群では+T3+BMP群に比べ更にCRX::Venus陽性細胞が増加していることが分かる。なお、in vitroで培養された網膜組織を含む細胞凝集体は、ヒトの網膜発生とおおよそ同じ順番と期間を経て分化が進行することが報告されており、この分化段階で出現するCRX::Venus陽性細胞は視細胞前駆細胞のうち、錐体視細胞前駆細胞である。また、図2においてT3は60nM、BMP4は0.15nM、Cyclopamine-KAADは500nMとなるように培地中に添加されている。
図3は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を、視細胞前駆細胞が出現し始めた浮遊培養開始38日目から100nMの9-cisレチノイン酸存在下で浮遊培養開始後74日目まで培養し、蛍光実体顕微鏡により撮影した画像(a〜c)である。T3無添加群(-T3;a)に比べ、T3添加群(+T3;b)では、CRX::Venusが発する蛍光が強く、CRX::Venus陽性細胞が増加していることが分かる。また、T3に加え背側化シグナル伝達物質を添加した場合(+T3+BMP;c)ではT3添加群に比べ更にCRX::Venus陽性細胞が増加していることが分かる。なお、in vitroで培養された網膜組織を含む細胞凝集体はヒトの網膜発生とおおよそ同じ順番と期間を経て分化が進行することが報告されており、この分化段階で出現するCRX::Venus陽性細胞は視細胞前駆細胞のうち、錐体視細胞前駆細胞である。また、図3においてT3は60nM、BMP4は0.45nMとなるように培地中に添加されている。
図4は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を浮遊培養開始後約71-75日目まで培養し、回収した網膜組織を含む細胞凝集体について切片を作製し、抗CRX抗体、抗TRβ2抗体、DAPIを用いて通常の方法により免疫染色を実施した後、CRX陽性細胞及びCRX陽性細胞のうち、TRβ2陽性細胞を解析した結果を示す図である。T3無添加群(-T3;a、e、i)に比べ、T3添加群(+T3;b、f、j)はCRX陽性細胞およびCRX陽性かつTRβ2陽性細胞が増加していることが分かる。また、T3に加え、背側化シグナル伝達物質を添加した場合(+T3+BMP4;c、g、k、+T3+Cyclopamine-KAAD;d、h、l)はCRX陽性細胞およびCRX陽性かつTRβ2陽性細胞が更に増加していることが分かる。特に、+T3+Cyclopamine-KAAD群では+T3+BMP4群と比べ更によりCRX陽性細胞およびCRX陽性かつTRβ2陽性細胞が増加していることが分かる。また、これら細胞は頂端面側だけでなく、基底膜側(ニューロブラスティックレイヤー及び神経節細胞層)でも異所性に出現し、その割合がニューロブラスティックレイヤーより基底膜側とそれ以外の領域でおよそ同程度の割合であることが分かる。なお、この分化段階ではCRX陽性細胞、及びCRX陽性かつTRβ2陽性細胞は視細胞前駆細胞、及び錐体視細胞前駆細胞である。なお、図4においてT3は60nM、BMP4は0.15nM、Cyclopamine-KAADは500nMとなるように培地中に添加されている。
図5は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体をミューラー細胞が認められる分化段階である浮遊培養開始後188〜191日目まで培養し、回収した網膜組織を含む細胞凝集体について切片を作製し、抗PAX6抗体、抗CHX10抗体、DAPIを用いて通常の方法により免疫染色を実施した例である。神経網膜組織におけるアマクリン細胞、神経節細胞又は水平細胞のいずれかの細胞(PAX6陽性/CHX10陰性細胞)と、双極細胞(PAX6陰性/CHX10強陽性細胞)は、いずれもT3を添加しなかった場合(-T3;a、g、m、+BMP;c、i、o、+cyclopamine-KAAD;e、k、q)に比べ、T3を添加した場合(+T3;b、h、n、+T3+BMP;d、j、p、+T3+Cyclopamine-KAAD;f、l、r)で顕著に低下していることが分かる。なお、図5においてT3は60nM、BMP4は0.15nM、Cyclopamine-KAADは500nMとなるように培地中に添加されている。
図6は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体をミューラー細胞が認められる分化段階である浮遊培養開始後188〜193日目まで培養し、回収した網膜組織を含む細胞凝集体について切片を作製し、抗GFP抗体(CRX::Venusタンパク質を検出する)、抗NRL抗体、抗RXR-γ抗体、DAPIを用いて通常の方法により免疫染色を実施し、GFP陽性細胞、すなわちCRX::Venus陽性細胞のうちRXR-γ陽性かつNRL陰性細胞(錐体視細胞前駆細胞)、またはCRX::Venus陽性細胞のうちNRL陽性細胞(桿体視細胞前駆細胞)を解析した結果を示す図である(a〜p)。T3無添加群(-T3;a、e、i、m)に比べ、T3添加群(+T3;b、f、j、n、+T3+BMP;c、g、k、o、+T3+Cyclopamine-KAAD;d、h、l、p)では、CRX::Venus陽性細胞である視細胞前駆細胞及び錐体視細胞前駆細胞の割合が増加していることが分かる。特に、T3に加え背側化シグナル伝達物質としてBMP4を添加した場合(+T3+BMP;c、g、k、o)では、T3添加群に比べ基底膜側の細胞が減少し、結果として更に視細胞前駆細胞及び錐体視細胞前駆細胞の割合が増加していることが分かる。また、この時桿体視細胞前駆細胞はほとんど認められないことが分かる。なお、図6においてT3は60nM、BMP4は0.15nM、Cyclopamine-KAADは500nMとなるように培地中に添加されている。
図7は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を浮遊培養開始後約70日目まで培養し、回収した網膜組織を含む細胞凝集体について切片を作製し、抗CRX抗体、抗TRβ2抗体、DAPIを用いて通常の方法により免疫染色を実施した後、網膜組織に含まれるCRX陽性細胞数および、CRX陽性細胞のうち、TRβ2陽性細胞数を、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて測定した結果を示す図である。T3を無添加とした場合(白色バー)に比べ、T3を添加した群(黒色バー)ではCRX陽性細胞、CRX陽性かつTRβ2陽性細胞、即ち視細胞前駆細胞、錐体視細胞前駆細胞がいずれも増加していることが分かる。また、T3に加え背側化シグナル伝達物質(BMP4、Cyclopamine-KAAD)を添加した群では、T3に加え背側化シグナル伝達物質を添加しなかった場合に比べ更にCRX陽性細胞、CRX陽性かつTRβ2陽性細胞、即ち視細胞前駆細胞、錐体視細胞前駆細胞がいずれも増加していることが分かる。なお、図7においてT3は60nM、BMP4は0.15nM、Cyclopamine-KAADは500nMとなるように培地中に添加されている。
図8は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体をミューラー細胞が認められる浮遊培養開始後約190日目頃まで培養し、回収した網膜組織を含む細胞凝集体について切片を作製し、抗PAX6抗体、抗CHX10抗体、DAPIを用いて通常の方法により免疫染色を実施した後、神経網膜組織におけるPAX6陽性/CHX10陰性細胞と、PAX6陰性/CHX10強陽性細胞、即ちアマクリン細胞、神経節細胞又は水平細胞のいずれかの細胞と、双極細胞の割合について、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて測定した結果を示したものである。T3を無添加とした場合(白色バー)に比べ、T3を添加した群(黒色バー)ではアマクリン細胞、神経節細胞又は水平細胞のいずれかの細胞(PAX6陽性/CHX10陰性細胞)と、双極細胞(PAX6陰性/CHX10強陽性細胞)の割合がいずれも減少していることが分かる。また、T3に加え背側化シグナル伝達物質としてBMP4を添加した群では、T3に加え背側化シグナル伝達物質を添加しなかった場合に比べ双極細胞(PAX6陰性/CHX10強陽性細胞)の割合が若干増加しているものの、アマクリン細胞、神経節細胞又は水平細胞のいずれかの細胞(PAX6陽性/CHX10陰性細胞)の割合は減少し、双極細胞(PAX6陰性/CHX10強陽性細胞)とアマクリン細胞、神経節細胞又は水平細胞のいずれかの細胞(PAX6陽性/CHX10陰性細胞)を合計した割合はほとんど変化していないことが分かる。一方、T3に加え背側化シグナル伝達物質としてCyclopamine-KAADを添加した群では、T3に加え背側化シグナル伝達物質を添加しなかった場合に比べ双極細胞(PAX6陰性/CHX10強陽性細胞)の割合には変化がないものの、アマクリン細胞、神経節細胞又は水平細胞のいずれかの細胞(PAX6陽性/CHX10陰性細胞)の割合は減少し、双極細胞(PAX6陰性/CHX10強陽性細胞)とアマクリン細胞、神経節細胞又は水平細胞のいずれかの細胞(PAX6陽性/CHX10陰性細胞)を合計した割合は減少していることが分かる。なお、図8においてT3は60nM、BMP4は0.15nM、Cyclopamine-KAADは500nMとなるように培地中に添加されている。
図9は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体をミューラー細胞が認められる浮遊培養開始後約190日目頃まで培養し、回収した網膜組織を含む細胞凝集体について切片を作製し、抗GFP抗体(CRX::Venusタンパク質を検出する)、抗NRL抗体、抗RXR-γ抗体、DAPIを用いて通常の方法により免疫染色を実施し、GFP陽性細胞、すなわちCRX::Venus陽性細胞(視細胞前駆細胞)と、CRX::Venus陽性細胞のうちRXR-γ陽性かつNRL陰性細胞(錐体視細胞前駆細胞)、またはCRX::Venus陽性細胞のうちNRL陽性細胞(桿体視細胞前駆細胞)の割合について、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて測定した結果を示したものである。T3を無添加とした場合(白色バー)に比べ、T3を添加した群(黒色バー)では視細胞前駆細胞、又は錐体視細胞前駆細胞の割合がいずれも増加していることが分かる。また、T3に加え背側化シグナル伝達物質を添加した群では、T3に加え背側化シグナル伝達物質を添加しなかった場合に比べ視細胞前駆細胞、又は錐体視細胞前駆細胞の割合がいずれもより増加していることが分かる。特に、T3に加え背側化シグナル伝達物質としてBMP4をした場合は、T3に加え背側化シグナル伝達物質を添加しなかった場合に比べ桿体視細胞前駆細胞の割合が少なく、錐体視細胞前駆細胞の割合が高いことが分かる。一方、T3に加え背側化シグナル伝達物質としてCyclopamine-KAADを添加した場合はT3に加え背側化シグナル伝達物質を添加しなかった場合に比べ桿体視細胞前駆細胞の割合には大きな変化がない一方で、視細胞前駆細胞、又は錐体視細胞前駆細胞の割合が更により高いことが分かる。なお、図9においてT3は60nM、BMP4は0.15nM、Cyclopamine-KAADは500nMとなるように培地中に添加されている。
図10は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を浮遊培養開始後約100-105日目まで培養し、回収した網膜組織を含む細胞凝集体について切片を作製し、抗CRX抗体、抗Ki67抗体を用いた免疫染色、または細胞核を染色するDAPI染色を行い、蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。また、同様の条件で調製した神経網膜組織内に含まれるCRX陽性細胞の割合を、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて測定した結果をグラフに示したものである。図10より、視細胞前駆細胞であるCRX陽性細胞は-T3群(T3を添加しなかった群)の網膜組織に比べ、+T3群(T3を添加した群)の網膜組織で顕著に増加し、特に、頂端面に存在する視細胞前駆細胞層の厚さは-T3群に比べ、+T3群でおよそ2、3倍の厚さになっていることが分かる。また、これらの結果と同様に、+T3+BMP4群(T3に加え、BMP4を添加した群)、+T3+Cyclopamine-KAAD群(T3に加え、Cyclopamine-KAADを添加した群)でも同様であることが分かる。また、浮遊培養開始後100日目前後の段階の神経網膜組織でもKi67陽性である増殖性の神経網膜前駆細胞が存在する層、即ちニューロブラスティックレイヤーが認められ、-T3群の網膜組織に比べ、+T3群の網膜組織では、胎児期の網膜組織において本来視細胞前駆細胞が存在する頂端面(視細胞層、外顆粒層)以外、即ちKi67陽性の神経網膜前駆細胞が存在するニューロブラスティックレイヤーや、それより基底膜側の神経節細胞層においても、異所性の視細胞前駆細胞を多数含むことが分かる。また、このような結果は+T3+Cyclopamine-KAAD群でも同様であることが分かる。一方で、+T3+BMP4群でもみとめられたものの、+T3+BMP4群では+T3群や+T3+Cyclopamine-KAAD群ほどこのような異所性の視細胞前駆細胞は認められず、この分化段階において視細胞前駆細胞の出現が+T3群や+T3+Cyclopamine-KAADに比べ少なくなっていることが示唆される。また、グラフから、-T3群、+T3群、+T3+BMP4群、+T3+Cyclopamine-KAAD群の順で神経網膜組織に含まれるCRX陽性細胞の割合が高くなることが分かる。これらのことから、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質は浮遊培養開始後100日目前後における網膜組織の視細胞前駆細胞を増加させる作用があること、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を単独で作用させる場合に比べ、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質及び背側化シグナル伝達物質を組み合わせて作用させる場合には、さらに視細胞前駆細胞を増加させることができることが分かる。なお、図10においてT3は60nM、BMP4は0.15nM、Cyclopamine-KAADは500nMとなるように培地中に添加されている。
図11−1は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を浮遊培養開始後約69日目、約104〜105日目、約188日目〜192日目まで培養し、それぞれ観察及び解析を行った結果を示す図である。図11−1は、浮遊培養開始後それぞれ記載の日数(例:69日目であればd69と記載)まで培養した網膜組織を含む細胞凝集体を蛍光実体顕微鏡により撮影した画像を示す例である。この画像から、いずれの条件及び日数においても、少なくとも直径2mm以上の網膜組織を含む細胞凝集体が含まれることが分かる。
図11−2は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を浮遊培養開始後約188日目まで培養し、回収した網膜組織を含む細胞凝集体について切片を作製し、抗GFP抗体を用いた免疫染色を行い、蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す図である。この図から、抗GFP抗体で染色されるCRX::Venus陽性細胞、即ち視細胞前駆細胞または視細胞は、いずれの条件でも網膜組織を含む細胞凝集体の表面に連続して規則正しく整列していることが分かる。即ち、これらの網膜組織を含む細胞凝集体は浮遊培養開始から少なくとも188日目においてもロゼット様構造を含まない、連続的な上皮構造を有する網膜組織であることが分かる。さらにこの図から、頂端面付近の視細胞層(外顆粒層)のみならず、異所性の視細胞前駆細胞が多数認められることが分かる。
図11−3は、ヒトES細胞から作製された網膜組織を含む細胞凝集体を浮遊培養開始後70日目頃、100日目頃、190日目頃まで培養した網膜組織を含む細胞凝集体について、蛍光顕微鏡で観察し、画像を取得した後、取得した画像について解析ソフトを用いて長軸の直径を測定し、網膜組織を含む細胞凝集体の平均値を算出したグラフ(左側)及び長軸の直径をプロットしたグラフ(右側)である。左側グラフから、いずれの条件及びいずれの段階の網膜組織を含む細胞凝集体においても平均で1.1mm以上の大きさであることが分かる。一方、右側グラフから、1.0mm以上の網膜組織を含む細胞凝集体が大半であり、1.5mm以上の網膜組織を含む細胞凝集体も容易に認められることが分かる。また、網膜組織を含む細胞凝集体のうち、長軸の直径が大きなものは3.0mm近く(2.93mm)に達することが分かる。

0010

1.定義
本明細書において、「幹細胞」とは、細胞分裂を経ても同じ分化能を維持する、増殖能(特に自己複製能)を有する未分化な細胞を意味する。幹細胞には、分化能力に応じて、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)、複能性幹細胞(multipotent stem cell)、単能性幹細胞(unipotent stem cell)等の亜集団が含まれる。多能性幹細胞とは、インビトロにおいて培養することが可能で、かつ、三胚葉外胚葉中胚葉内胚葉)に属する細胞系列すべてに分化し得る能力分化多能性(pluripotency))を有する幹細胞をいう。複能性幹細胞とは、全ての種類ではないが、複数種の組織や細胞へ分化し得る能力を有する幹細胞を意味する。単能性幹細胞とは、特定の組織や細胞へ分化し得る能力を有する幹細胞を意味する。

0011

多能性幹細胞は、受精卵クローン胚生殖幹細胞、組織内幹細胞等から誘導することができる。多能性幹細胞としては、胚性幹細胞ES細胞:Embryonic stem cell)、EG細胞(Embryonic germ cell)、人工多能性幹細胞iPS細胞:induced pluripotent stem cell)等を挙げることが出来る。
胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。ES細胞は、内部細胞塊フィーダー細胞上又はLIFを含む培地中で培養することにより製造することが出来る。ES細胞の製造方法は、例えば、WO96/22362、WO02/101057、US5,843,780、US6,200,806、US6,280,718等に記載されている。胚性幹細胞は、所定の機関より入手でき、また、市販品を購入することもできる。例えば、ヒト胚性幹細胞であるKhES−1、KhES−2及びKhES−3は、京都大学再生医科学研究所より入手可能である。いずれもマウス胚性幹細胞である、EB5細胞は国立研究開発法人理化学研究所より、D3株はATCCより、入手可能である。
ES細胞の一つである核移植ES細胞(ntES細胞)は、細胞株を取り除いた卵子体細胞の細胞核を移植して作ったクローン胚から樹立することができる。

0012

本発明における「人工多能性幹細胞」(iPS細胞ともいう)とは、体細胞を、公知の方法等により初期化(reprogramming)することにより、多能性を誘導した細胞である。具体的には、線維芽細胞末梢血単核球等分化した体細胞をOct3/4、Sox2、Klf4、Myc(c-Myc、N-Myc、L-Myc)、Glis1、Nanog、Sall4、lin28、Esrrb等を含む初期化遺伝子群から選ばれる複数の遺伝子の組合せのいずれかの発現により初期化して多分化能を誘導した細胞が挙げられる。好ましい、初期化因子の組み合わせとしては、(1)Oct3/4、Sox2、Klf4、及びMyc(c-Myc又はL-Myc)、(2)Oct3/4、Sox2、Klf4、Lin28及びL-Myc(Stem Cells, 2013;31:458-466))等を挙げることができる。
人工多能性幹細胞は、2006年、山中らによりマウス細胞で樹立された(Cell, 2006, 126(4) pp.663-676)。人工多能性幹細胞は、2007年にヒト線維芽細胞でも樹立され、胚性幹細胞と同様に多能性と自己複製能を有する(Cell, 2007, 131(5) pp.861-872;Science, 2007, 318(5858) pp.1917-1920;Nat. Biotechnol., 2008, 26(1) pp.101-106)。人工多能性幹細胞の誘導方法についてはその後も様々な改良が行われている(例えば、マウスiPS細胞:Cell. 2006 Aug 25;126(4):663-76、ヒトiPS細胞: Cell. 2007 Nov 30;131(5):861-72)。
遺伝子発現による直接初期化で人工多能性幹細胞を製造する方法以外に、化合物の添加などにより体細胞より人工多能性幹細胞を誘導することもできる(Science, 2013, 341 pp. 651-654)。
また、株化された人工多能性幹細胞を入手する事も可能であり、例えば、京都大学で樹立された201B7細胞、201B7-Ff細胞、253G1細胞、253G4細胞、1201C1細胞、1205D1細胞、1210B2細胞、1231A3細胞、Ff-I01細胞又はQHJI01細胞等のヒト人工多能性細胞株が、国立大学法人京都大学より入手可能である。

0013

人工多能性幹細胞を製造する際に用いられる体細胞としては、特に限定は無いが、組織由来の線維芽細胞、血球系細胞(例えば、末梢血単核球やT細胞)、肝細胞膵臓細胞腸上皮細胞平滑筋細胞等が挙げられる。線維芽細胞としては、真皮由来のもの等が挙げられる。

0014

人工多能性幹細胞を製造する際に、数種類の遺伝子の発現により初期化する場合、遺伝子を発現させるための手段は特に限定されない。前記手段としては、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクターレンチウイルスベクターセンダイウイルスベクターアデノウイルスベクターアデノ随伴ウイルスベクター)を用いた感染法プラスミドベクター(例えば、プラスミドベクター、エピソーマルベクター)を用いた遺伝子導入法(例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、レトロネクチン法、エレクトロポレーション法)、RNAベクターを用いた遺伝子導入法(例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法)、タンパク質の直接注入法等が挙げられる。
本発明に用いられる多能性幹細胞は、好ましくはES細胞又は人工多能性幹細胞であり、より好ましくは人工多能性幹細胞である。
本発明に用いる多能性幹細胞は、好ましくは霊長類(例、ヒト、サル)の多能性幹細胞であり、好ましくはヒト多能性幹細胞である。従って、本発明に用いる多能性幹細胞は、好ましくはヒトES細胞又はヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)であり、最も好ましくは、ヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)である。
本発明に用いる幹細胞として、成人の網膜に存在する幹細胞(例えば、体性幹細胞)を採取して用いることもできる。

0015

遺伝子改変された多能性幹細胞は、例えば、相同組換え技術を用いることにより作製できる。改変される染色体上の遺伝子としては、例えば、細胞マーカー遺伝子、組織適合性抗原の遺伝子、網膜細胞の障害に基づく疾患関連遺伝子などがあげられる。染色体上の標的遺伝子の改変は、Manipulating the Mouse Embryo,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994);Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993);バイオマニュアルシリーズ8,ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,土社(1995);等に記載の方法を用いて行うことができる。

0016

具体的には、例えば、改変する標的遺伝子(例えば、細胞マーカー遺伝子、組織適合性抗原の遺伝子や疾患関連遺伝子など)を含むゲノムDNAを単離し、単離されたゲノムDNAを用いて標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターを作製する。作製されたターゲットベクターを幹細胞に導入し、標的遺伝子とターゲットベクターの間で相同組換えを起こした細胞を選択することにより、染色体上の遺伝子が改変された幹細胞を作製することができる。

0017

標的遺伝子を含むゲノムDNAを単離する方法としては、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)やCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987−1997)等に記載された公知の方法があげられる。ゲノムDNAライブラリースクリーニングシステム(Genome Systems製)やUniversal GenomeWalker Kits(CLONTECH製)などを用いることにより、標的遺伝子を含むゲノムDNAを単離することもできる。ゲノムDNAの代わりに、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを用いることもできる。当該ポリヌクレオチドは、PCR法で該当するポリヌクレオチドを増幅することにより取得することができる。

0018

標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターの作製、及び相同組換え体の効率的な選別は、Gene Targeting, A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press(1993);バイオマニュアルシリーズ8,ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社(1995);等に記載の方法にしたがって行うことができる。ターゲットベクターは、リプレースメント型又はインサーション型のいずれでも用いることができる。選別方法としては、ポジティブ選択プロモーター選択、ネガティブ選択、又はポリA選択などの方法を用いることができる。
選別した細胞株の中から目的とする相同組換え体を選択する方法としては、ゲノムDNAに対するサザンハイブリダイゼーション法やPCR法等があげられる。

0019

本発明における「浮遊培養」あるいは「浮遊培養法」とは、細胞または細胞の凝集体が培養液に浮遊して存在する状態を維持しつつ培養すること、及び当該培養を行う方法を言う。すなわち浮遊培養は、細胞または細胞の凝集体を培養器材等に接着させない条件で行われ、培養器材等に接着させる条件で行われる培養(接着培養、あるいは、接着培養法)は、浮遊培養の範疇に含まれない。この場合、細胞が接着するとは、細胞または細胞の凝集体と培養器材の間に、強固な細胞−基質間結合(cell-substratum junction)ができることをいう。より詳細には、浮遊培養とは、細胞または細胞の凝集体と培養器材等との間に強固な細胞−基質間結合を作らせない条件での培養をいい、「接着培養」とは、細胞または細胞の凝集体と培養器材等との間に強固な細胞−基質間結合を作らせる条件での培養をいう。
浮遊培養中の細胞の凝集体では、細胞と細胞が面接着(plane attachment)する。浮遊培養中の細胞の凝集体では、細胞−基質間結合が培養器材等との間にはほとんど形成されないか、あるいは、形成されていてもその寄与が小さい。一部の態様では、浮遊培養中の細胞の凝集体では、内在の細胞−基質間結合が凝集塊の内部に存在するが、細胞−基質間結合が培養器材等との間にはほとんど形成されないか、あるいは、形成されていてもその寄与が小さい。かかる観点から、「浮遊培養」の一形態には、細胞の凝集体を、細胞の凝集体の足場となる細い針状の器材等に固定し、培養液が満たされた器材の中で培養する培養方法等も挙げられる。当該培養方法としては、日本薬学会 第136年会29AB-pm009で発表された、株式会社サイフューズ製バイオ3Dプリンタレジェノバ(登録商標)」を使用する方法等が挙げられる。
細胞と細胞が面接着するとは、細胞と細胞が面で接着することをいう。より詳細には、細胞と細胞が面接着するとは、ある細胞の表面積のうち別の細胞の表面と接着している割合が、例えば、1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上であることをいう。細胞の表面は、膜を染色する試薬(例えばDiI)による染色や、細胞接着因子(例えば、E-cadherinやN-cadherin)の免疫染色により、観察できる。

0020

浮遊培養を行う際に用いられる培養器は、「浮遊培養する」ことが可能なものであれば特に限定されず、当業者であれば適宜決定することが可能である。このような培養器としては、例えば、フラスコ組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレートマイクロウェルプレートマイクロポアマルチプレートマルチウェルプレートチャンバースライドシャーレチューブトレイ培養バックスピナーフラスコ又はローラーボトルが挙げられる。これらの培養器は、浮遊培養を可能とするために、細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、基底膜標品ラミニンエンクチンコラーゲンゼラチン等の細胞外マトリクス等、又は、ポリリジンポリオルニチン等の高分子等によるコーティング処理、又は、正電荷処理等の表面加工)されていないものなどを使用できる。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を低下させる目的で人工的に処理(例えば、MPCポリマー等の超親水性処理タンパク吸着処理等)されたものなどを使用できる。スピナーフラスコやローラーボトル等を用いて回転培養してもよい。培養器の培養面は、平底でもよいし、凹凸があってもよい。
一方、接着培養を行う際に用いられる培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、基底膜標品、ラミニン、エンタクチン、コラーゲン、ゼラチン、マトリゲルシンマックスビトロネクチン等の細胞外マトリクス等、又は、ポリリジン、ポリオルニチン等の高分子等によるコーティング処理、又は、正電荷処理等の表面加工)されたものが挙げられる。

0021

本明細書において、細胞の「凝集体」(Aggregate)〔細胞塊又は細胞凝集体(Cell aggregate)〕とは、複数の細胞同士が接着して塊を形成しているものであれば特に限定はなく、培地中に分散していた細胞が集合して形成された塊であっても、細胞培養により形成されたコロニー由来であっても、別の細胞塊から新たに出芽、形成される細胞塊であってもよい。細胞の凝集体には、胚様体(Embryoid body)、スフェア(Sphere)又はスフェロイド(Spheroid)も包含される。好ましくは、細胞の凝集体において、細胞同士は面接着している。一部の態様において、凝集体の一部分あるいは全部において、細胞同士が細胞−細胞間結合(cell-cell junction)又は、細胞接着(cell adhesion)、例えば接着結合(adherence junction)、を形成している場合がある。凝集体には、前記細胞塊から得られる派生物質としての細胞集団も含まれる。

0022

「均一な凝集体」とは、複数の凝集体を培養する際に各凝集体の大きさが一定であることを意味し、凝集体の大きさを最大径の長さで評価する場合、均一な凝集体とは、最大径の分散が小さいことを意味する。より具体的には、凝集体の集団全体のうちの75%以上の凝集体が、当該凝集塊の集団における最大径の平均値±100%、好ましくは平均値±50%の範囲内、より好ましくは平均値±20%の範囲内であることを意味する。

0023

「均一な凝集体を形成させる」とは、細胞を集合させて細胞の凝集体を形成させ浮遊培養する際に、「一定数の分散した細胞を迅速に凝集」させることで大きさが均一な細胞の凝集体を形成させることをいう。すなわち、多能性幹細胞を迅速に集合させて多能性幹細胞の凝集体を形成させると、形成された凝集体から分化誘導される細胞において上皮様構造を再現性よく形成させることができる。具体的には、無血清培地中で多能性幹細胞を迅速に凝集させて、上皮様構造を有する細胞凝集体を形成することができる(SFEBq法 (Serum-free Floating culture of Embryoid Body-like aggregates with quick reaggregation))。
当該凝集体を形成させる実験的な操作としては、例えば、ウェルの小さなプレート(例えば、ウェルの底面積が平底換算で0.1〜2.0 cm2程度のプレート;96ウェルプレート)やマイクロポアなどを用いて小さいスペースに細胞を閉じ込める方法、小さな遠心チューブを用いて短時間遠心することにより細胞を凝集させる方法などが挙げられる。

0024

ウェルの小さなプレートとして、例えば24ウェルプレート(面積が平底換算で1.88 cm2程度)、48ウェルプレート(面積が平底換算で1.0 cm2程度)、96ウェルプレート(面積が平底換算で0.35 cm2程度、内径6〜8 mm程度)、384ウェルプレートが挙げられる。好ましくは、96ウェルプレートが挙げられる。ウェルの小さなプレートの形状として、ウェルを上から見たときの底面の形状としては、多角形長方形楕円、真円が挙げられ、好ましくは真円が挙げられる。ウェルの小さなプレートの形状として、ウェルを横から見たときの底面の形状としては、外周部が高く内凹部が低くくぼんだ構造が好ましく、例えば、U底、V底、μ底が挙げられ、好ましくはU底またはV底、最も好ましくはV底が挙げられる。ウェルの小さなプレートとして、細胞培養皿(例えば、60 mm〜150 mmディッシュ、カルチャーフラスコ)の底面に凹凸、又は、くぼみがあるもの(例えばEZSPHERE(旭テクノグラス))を用いてもよい。ウェルの小さなプレートの底面は、細胞非接着性の底面、好ましくは前記細胞非接着性コートした底面を用いるのが好ましい。

0025

「分散」とは、細胞や組織を酵素処理物理処理等の分散処理により、小さな細胞片(2細胞以上100細胞以下、好ましくは50細胞以下)又は単一細胞まで分離させることをいう。一定数の分散した細胞とは、細胞片又は単一細胞を一定数集めたもののことをいう。多能性幹細胞を分散させる方法としては、例えば、機械的分散処理、細胞分散液処理、細胞保護剤添加処理が挙げられる。これらの処理を組み合わせて行ってもよい。好ましくは、細胞分散液処理を行い、次いで機械的分散処理をするとよい。機械的分散処理の方法としては、ピペッティング処理又はスクレーパーでの掻き取り操作が挙げられる。

0026

本明細書における「組織」とは、形態や性質が異なる複数種類の細胞が一定のパターン立体的に配置した構造を有する細胞集団の構造体をさす。
本明細書における「網膜組織」とは、生体網膜において各網膜層を構成する視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、網膜色素上皮細胞、ミューラー細胞、これらの前駆細胞である、神経網膜前駆細胞、または網膜前駆細胞などの網膜細胞が、少なくとも複数種類(ただし、網膜前駆細胞の場合には、その他の網膜細胞を含まない場合がある)、層状で立体的に配列した組織を意味する。それぞれの細胞がいずれの網膜層を構成する細胞であるかは、公知の方法、例えば細胞マーカーの発現の有無若しくはその程度等により確認できる。
本明細書における「網膜組織」としては、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる網膜組織、又は生体由来網膜組織が挙げられる。具体的には、多能性幹細胞から形成される凝集体を適切な分化誘導条件で浮遊培養することにより得られる、前記凝集体の表面に形成された網膜前駆細胞及び/又は神経網膜前駆細胞等を含む上皮組織を有する細胞凝集体もしくはその一部を挙げることができる。
本明細書における「網膜組織を含む細胞凝集体」とは、前記網膜組織を含む細胞凝集体であれば特に限定はない。

0027

本明細書における「網膜層」とは、網膜を構成する任意の各層を意味し、具体的には、網膜色素上皮層及び神経網膜層が挙げられ、神経網膜層には外境界膜、視細胞層(外顆粒層)、外網状層内顆粒層内網状層、神経節細胞層、神経線維層および内境界膜が含まれる。また、後述する「発生初期段階の網膜組織」から成熟した網膜組織に至るまでの途中段階にある網膜組織においては、神経網膜層は、神経網膜組織中のニューロブラスティックレイヤーと呼ばれる神経網膜前駆細胞を含む層を含んでいる。
本明細書における「網膜前駆細胞(retinal progenitor cell)」とは、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、網膜色素上皮細胞、ミューラー細胞を含む、網膜組織を構成するいずれの成熟な網膜細胞にも分化しうる前駆細胞をいう。
本明細書における「神経網膜前駆細胞(neural retinal progenitor)」とは、眼杯(optic cup)の内層となる運命の細胞であって、網膜色素上皮を含まない神経網膜層(網膜層特異的神経細胞を含む網膜層)を構成するいずれの成熟な細胞にも分化しうる前駆細胞を挙げることができる。

0028

視細胞前駆細胞、水平細胞前駆細胞、双極細胞前駆細胞、アマクリン細胞前駆細胞、神経節細胞前駆細胞、網膜色素上皮前駆細胞とは、それぞれ、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、網膜色素上皮細胞への分化が決定付けられている前駆細胞をいう。ただし、分化段階は連続的であり、例えば視細胞前駆細胞から視細胞へ分化段階が移行する境界を明確に区別することは困難である。そこで、本明細書において、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、又は網膜色素上皮細胞等という場合、それぞれの前駆細胞を含んでいてもよい。逆に、視細胞前駆細胞、水平細胞前駆細胞、双極細胞前駆細胞、アマクリン細胞前駆細胞、神経節細胞前駆細胞、又は網膜色素上皮細胞前駆細胞等という場合、それぞれが分化した細胞、即ち、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、又は網膜色素上皮細胞等を含んでいても良い。

0029

本明細書における「網膜層特異的神経細胞」とは、網膜層を構成する細胞であって網膜層に特異的な神経細胞を意味する。網膜層特異的神経細胞としては、双極細胞、神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞、視細胞が挙げられ、視細胞としては、桿体視細胞(Rod photoreceptor cell)及び錐体視細胞(Cone photoreceptor cell)等を挙げることができる。また、錐体視細胞としては、S-opsinを発現し青色光受容するS錐体視細胞、L-opsinを発現し赤色光を受容するL錐体視細胞、及びM-opsinを発現し緑色光を受容するM錐体視細胞を挙げることができる。
本明細書における「網膜細胞」とは、上述の網膜色素上皮細胞、ミューラー細胞、視細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞及びこれらの前駆細胞、網膜前駆細胞、神経網膜前駆細胞、並びに網膜層特異的神経細胞及び網膜層特異的神経細胞の前駆細胞等を包含する概念である。

0030

上述の網膜組織を構成する細胞は、それぞれに発現するもしくは発現しない網膜細胞マーカーを指標として検出もしくは同定することができる。
網膜細胞マーカーとしては、網膜細胞において優位に発現している遺伝子・タンパク質が挙げられ、それぞれの細胞毎に、以下のとおり例示することができる。あるいは、網膜細胞以外で優位に発現している遺伝子・タンパク質をネガティブマーカーとして用いることもできる。
網膜前駆細胞、神経網膜前駆細胞、視細胞前駆細胞等の網膜細胞のネガティブマーカーとしては、視床下部ニューロンの前駆細胞では発現し網膜前駆細胞では発現しないNKX2.1、視床下部神経上皮で発現し網膜では発現しないSOX1等が挙げられる。
網膜前駆細胞のマーカーとしては、RX(RAXとも言う)及びPAX6が挙げられる。
神経網膜前駆細胞のマーカーとしては、RX、PAX6及びCHX10が挙げられる。
網膜層特異的神経細胞のマーカーとしては、双極細胞で強発現するCHX10、双極細胞で発現するPKCα、Goα、VSX1及びL7、神経節細胞で発現するTUJ1及びBRN3、アマクリン細胞で発現するCalretinin及びHPC-1、水平細胞で発現するCalbindin、LIM1等が挙げられる。
また、視細胞前駆細胞及び視細胞で発現するマーカーとしては、CRX、リカバリン(Recoverin)、BLIMP1及びOTX2等が挙げられる。更に、桿体視細胞及び桿体視細胞前駆細胞で発現するマーカーとして、NRL、ロドプシン(Rhodopsin)等が挙げられる。従って、例えばCRX陽性細胞がNRL陽性であることを指標にして、桿体視細胞及び桿体視細胞前駆細胞を同定することができる。錐体視細胞、錐体視細胞前駆細胞及び神経節細胞で発現するマーカーとして、RXR-γが挙げられる。また、錐体視細胞及び錐体視細胞前駆細胞で発現するマーカーとして、TRβ2、又はTRβ1が挙げられる。例えば、錐体視細胞前駆細胞は、TRβ2及びCRX、又はTRβ1及びCRXを共発現していることを指標に同定することができる。また、錐体視細胞前駆細胞はRXR-γ及びCRXを共発現し、NRLを発現していないことを指標に同定することもできる。
また、OC1(ONECUT1/HNF6)及びOC2(ONECUT2)は、錐体視細胞前駆細胞の分化に必要であり、分化の際一過的に発現する因子である。また、神経節細胞の一部、水平細胞、一部のアマクリン細胞でも発現する。例えば、OC1及びOC2を発現する錐体視細胞前駆細胞又は錐体視細胞及び水平細胞の前駆細胞から錐体視細胞前駆細胞又は錐体視細胞及び水平細胞へ分化する際、錐体視細胞前駆細胞又は錐体視細胞ではOC1及びOC2の発現が低下するのに対し、水平細胞ではOC1及びOC2の発現が上昇する。従って、その発現量又は割合を測定することにより、錐体視細胞前駆細胞の分化効率を判定することができる。
また、錐体視細胞及び錐体視細胞前駆細胞が誘導され、桿体視細胞前駆細胞が出現する前の段階の網膜組織であることは、CRX陽性細胞がNRL陰性かつTRβ2陽性であること、又はNRL陰性かつRXR-γ陽性であることを指標に確認することができる。OTX2は視細胞前駆細胞及び視細胞の他、双極細胞でも発現するマーカーであるが、神経網膜組織に含まれるOTX2陽性細胞が、CHX10陰性で、かつNRL陰性であれば、錐体視細胞前駆細胞及び錐体視細胞のマーカーとして利用できる。一方、神経網膜組織に含まれるOTX2陽性のうち、NRL陽性細胞は、桿体視細胞前駆細胞及び桿体視細胞として同定できる。
更に、S錐体視細胞のマーカーとしてS-opsin、L錐体視細胞のマーカーとしてL-opsin、及びM錐体視細胞のマーカーとしてM-opsinをそれぞれ挙げることができる。
水平細胞、アマクリン細胞及び神経節細胞で共通して発現するマーカーとして、PAX6などが挙げられる。
その他、網膜組織に含まれる網膜細胞のマーカーとして、網膜色素上皮細胞で発現するRPE65、MITF及びPAX6、ミューラー細胞で発現するCRABP及びCRALBPなどが挙げられる。

0031

網膜組織における背側マーカー及び腹側マーカーとは、網膜組織において、それぞれ背側及び腹側に相当する組織で発現する遺伝子・タンパク質を意味する。
背側マーカーとしては、網膜組織のうち、神経網膜組織の背側化領域で発現するTBX5、TBX3、TBX2、COUP-TF II、CYP26A1、CYP26C1及びALDH1A1等のマーカーが挙げられる。このうち、COUP-TF IIは、「最も背側のマーカー」に分類することができ、ALDH1A1も当該領域に近づくにつれ、その発現量が高まる因子である。また、腹側マーカーとしては、神経網膜組織の腹側領域で発現するVAX2、COUP-TF I及びALDH1A3等のマーカーが挙げられる。

0032

本明細書における「無血清培地」とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味する。本明細書では、精製された血液由来成分動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地も、無調整又は未精製の血清を含まない限り無血清培地に含まれる。
本明細書における「無血清条件」とは、無調整又は未精製の血清を含まない条件、具体的には、無血清培地を使用する条件を意味する。
ここで無血清培地は、血清代替物を含有していてもよい。血清代替物としては、例えば、アルブミントランスフェリン脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素2−メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものを挙げることができる。かかる血清代替物は、例えば、WO98/30679に記載の方法により調製することができる。血清代替物として市販品を利用してもよい。かかる市販の血清代替物としては、例えば、KnockoutTM Serum Replacement(Life Technologies社製:以下、KSRと記すこともある。)、Chemically−defined Lipid concentrated(Life Technologies社製)、GlutamaxTM(Life Technologies社製)、B27(Life Technologies社製)、N2(Life Technologies社製)が挙げられる。
また、無血清培地は、適宜、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸緩衝剤無機塩類等を含有してもよい。
調製の煩雑さを回避するために、かかる無血清培地として、市販のKSR(ライフテクノロジー(Life Technologies)社製)を適量(例えば、約0.5%から約30%、好ましくは約1%から約20%)添加した無血清培地(例えば、F-12培地とIMDM培地の1:1混合液に10% KSR及び450μM 1−モノチオグリセロールを添加した培地)を使用してもよい。また、KSR同等品として特表2001-508302に開示された培地が挙げられる。

0033

本明細書における「血清培地」とは、無調整又は未精製の血清を含む培地を意味する。当該培地は、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、1-モノチオグリセロール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を含有してもよい。また、本発明により製造された網膜細胞又は網膜組織を維持する工程において、血清培地を使用することができる(Cell Stem Cell, 10(6), 771-775 (2012))。

0034

前記無血清培地又は血清培地に、既知の増殖因子、タンパク質、増殖を促進する添加剤化学物質等を添加してもよい。既知の増殖因子、タンパク質としては、EGF、FGF、IGF、insulin等を挙げることができる。増殖を促進する添加剤として、N2 supplement(N2, Invitrogen社)、B27 supplement(Invitrogen社)等を挙げることができる。増殖を促進する化学物質としては、レチノイド類(例えば、レチノイン酸またはその誘導体)、タウリングルタミン等を挙げることができる。
本明細書において、「ゼノフリー」とは、培養対象の細胞の生物種とは異なる生物種由来の成分が排除された条件を意味する。

0035

本発明において、「物質Xを含む培地」「物質Xの存在下」とは、外来性(exogenous)の物質Xが添加された培地または外来性の物質Xを含む培地、又は外来性の物質Xの存在下を意味する。すなわち、当該培地中に存在する細胞または組織が当該物質Xを内在的(endogenous)に発現、分泌もしくは産生する場合、内在的な物質Xは外来性の物質Xとは区別され、外来性の物質Xを含んでいない培地は内在的な物質Xを含んでいても「物質Xを含む培地」の範疇には該当しないと解する。

0036

例えば、「甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地」とは、外来性の甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質が添加された培地または外来性の甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地であり、「甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質の存在下」とは、外来性の甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質の存在下を意味する。また、「BMPシグナル伝達経路阻害物質を含まない培地」とは、外来性のBMPシグナル伝達経路阻害物質が添加されていない培地または外来性のBMPシグナル伝達経路阻害物質を含まない培地である。

0037

本明細書において、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質とは、甲状腺ホルモンにより媒介されるシグナル伝達を増強し得る物質であり、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路を増強し得るものであれば特に限定はない。甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質としては、例えば、トリヨードサイロニン(以下、T3と略すことがある)、サイロキシン(以下、T4と略すことがある)、甲状腺ホルモン受容体(好ましくはTRβ受容体アゴニスト等が挙げられる。

0038

また、当業者に周知の甲状腺ホルモン受容体アゴニストとして、国際公開第97/21993号パンフレット、国際公開第2004/066929号パンフレット、国際公開第2004/093799号、国際公開第2000/039077号パンフレット、国際公開第2001/098256号パンフレット、国際公開第2003/018515号パンフレット 国際公開第2003/084915号パンフレット 国際公開第2002/094319号パンフレット 国際公開第2003/064369号パンフレット 特開2002−053564号公報 特開2002−370978号公報、特開2000−256190号公報、国際公開第2007/132475号パンフレット、国際公開第2007/009913号パンフレット、国際公開第2003/094845号パンフレット、国際公開第2002/051805号パンフレット又は国際公開第2010/122980号パンフレットに記載のジフェニルメタン誘導体ジアリールエーテル誘導体、ピリダジン誘導体ピリジン誘導体もしくはインドール誘導体等の化合物を挙げることができる。

0039

2.発生初期段階の網膜組織の製造
本明細書において、「発生初期段階」とは、網膜前駆細胞は出現しているが、神経節細胞が出現していない段階を意味する。この段階では、神経網膜前駆細胞が出現していてもよい。
すなわち、当該段階においては、RX(RAX)陽性及びPAX6陽性(更にCHX10陽性細胞であってもよい)の細胞が含まれ、TUJ1陽性細胞、BRN3陽性細胞、及びTUJ1、BRN3及びPAX6の少なくとも2種類のマーカーが陽性である細胞は含まれない。「発生初期段階の網膜組織」は網膜前駆細胞及び/又は神経網膜前駆細胞、すなわち視細胞及び神経節細胞に分化し得る細胞が含まれ、神経節細胞が含まれていなければ特に制限はなく、毛様体周縁部構造体を含んでいてもよい。
発生初期段階の網膜組織は、例えば後述する原料製造方法5〜7に準じて製造する場合には浮遊培養開始後22日目(d22)〜33日目(d33)に相当し、原料製造方法1〜4に準じて製造する場合には、浮遊培養開始後12日目(d12)〜27日目(d27)に相当する。
「発生初期段階の網膜組織」は、網膜前駆細胞マーカー、神経網膜前駆細胞マーカー及び神経節細胞マーカーの発現状況を確認することにより同定することができる。
発生初期段階の網膜組織には、「眼胞」に相当するもの、又は眼胞からやや分化が進行した、RX陽性、PAX6陽性及びCHX10陽性である神経網膜前駆細胞を含みかつ神経節細胞が存在しない「眼杯の最初期」の網膜組織が包含される。
発生初期段階の網膜組織としては、多能性幹細胞から分化誘導された、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現していない分化段階にある網膜組織が挙げられる。更に、発生初期段階の網膜組織は、視細胞もしくは神経細胞に分化し得る細胞を含み得る。発生初期段階の網膜組織を製造する方法に特に限定はなく、また、浮遊培養・接着培養のどちらの培養方法であってもよい。
具体的には、ES細胞もしくはiPS細胞等の多能性幹細胞からSFEBq法(Nat Commun. 6:6286 (2015)を参照)にて調製された凝集体(細胞塊)をBMP4等の分化誘導剤の存在下に浮遊培養することにより得られる、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体が挙げられる。
また、発生初期段階の網膜組織は、神経上皮細胞を含む細胞集団から誘導される細胞であってもよく、前記細胞集団は、ES細胞もしくはiPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導するか、成人の網膜に存在する幹細胞を採取しこれを分化誘導して得ることもできる。

0040

発生初期段階の網膜組織は、具体的には、網膜前駆細胞マーカー陽性(好ましくは、RX陽性かつPAX6陽性)の網膜前駆細胞、または神経網膜前駆細胞マーカー陽性(好ましくは、CHX10陽性かつPAX6陽性かつRX陽性)の神経網膜前駆細胞を網膜組織に含まれる全細胞数の30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、更により好ましくは99%以上含む網膜組織であり、神経節細胞マーカー陽性(好ましくは、BRN3陽性)の神経節細胞の割合が全細胞数の40%以下、好ましくは20%以下、10%以下、5%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下、更により好ましくは0.01%以下の網膜組織である。

0041

発生初期段階の網膜組織をヒトiPS細胞等の多能性幹細胞から製造する方法について説明する。
ヒトiPS細胞等の多能性幹細胞は、上述のとおり当業者に周知の方法で入手又は製造し、維持培養及び拡大培養に付すことができる。多能性幹細胞の維持培養・拡大培養は浮遊培養でも接着培養でも実施することができるが、好ましくは接着培養で実施される。多能性幹細胞の維持培養・拡大培養は、フィーダー細胞存在下で実施してもよいしフィーダー細胞非存在下(フィーダーフリー)で実施してもよいが、好ましくはフィーダー細胞非存在下で実施される。

0042

維持培養された多能性幹細胞を用いて、当業者に周知の方法で、発生初期段階の網膜組織を製造することができる。当該方法としては、WO2013/077425(& US2014/341864)、WO2015/025967(& US2016/251616)、WO2016/063985、WO2016/063986及びWO2017/183732に記載された方法等を挙げることができる。また、当該方法として非特許文献:Proc Natl Acad Sci U S A. 111(23): 8518-8523(2014)、Nat Commun. 5:4047(2014)、Stem Cells. (2017):35(5), 1176-1188等に記載された方法等を挙げることができる。

0043

2-1.原料製造方法1
発生初期段階の網膜組織を製造する好ましい一態様として、WO2015/025967に記載の、以下の工程を含む方法が挙げられる:
(1)多能性幹細胞を無血清培地中で浮遊培養することにより細胞の凝集体を形成させる第一工程、
(2)第一工程で形成された凝集体を、SHHシグナル伝達経路作用物質を含まずBMPシグナル伝達経路作用物質を含む無血清培地又は血清培地中で浮遊培養し、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る第二工程。
当該方法で得られる網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体は、本発明の方法で使用される出発物質となる発生初期段階の網膜組織として用いることができる。

0044

〔第一工程について〕
第一工程はWO2015/025967 (& US2014/341864)に記載の方法に準じて行うことができる。すなわち、第一工程では、多能性幹細胞を無血清培地中で浮遊培養することにより細胞の凝集体を形成させる。
第一工程において用いられる無血清培地は、上述したようなものである限り特に限定されない。例えば、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路阻害物質がいずれも添加されていない無血清培地を使用することができる。調製の煩雑さを回避するには、例えば、市販のKSR等の血清代替物を適量添加した無血清培地(例えば、IMDMとF-12の1:1の混合液に10%KSR、450μM 1-モノチオグリセロール及び1x Chemically Defined Lipid Concentrateが添加された培地)を使用することが好ましい。血清代替物として、無血清培地に、牛血清アルブミンBSA)を0.1 mg/mL〜20 mg/mL、好ましくは4 mg/mL〜6 mg/mL程度の濃度で添加することもできる。また、無血清培地へのKSRの添加量としては、例えばヒトES細胞もしくはヒトiPS細胞の場合は、通常約1%〜約20%であり、好ましくは約2%〜約20%である。
第一工程における培養温度CO2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30℃から約40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1%から約10%、好ましくは約5%である。
第一工程において用いられ得る多能性幹細胞の濃度は、多能性幹細胞の凝集体をより均一に、効率的に形成させるように適宜設定することができる。例えば96ウェルプレートを用いてヒトES細胞を浮遊培養する場合、1ウェルあたり約1×103から約1×105細胞、好ましくは約3×103から約5×104細胞、より好ましくは約5×103〜約3×104細胞、更により好ましくは約0.9×104〜1.2×104細胞となるように調製した液をウェルに添加し、プレートを静置して凝集体を形成させる。
凝集体を形成させるために必要な浮遊培養の時間は、用いる多能性幹細胞によって適宜決定可能であるが、均一な凝集体を形成するためにはできる限り短時間であることが望ましい(例えば、SFEBq法)。分散された細胞が、細胞凝集体が形成されるに至るまでの工程は、細胞が集合する工程、及び集合した細胞が細胞凝集体を形成する工程に分けられる。分散された細胞を播種する時点(すなわち浮遊培養開始時)から細胞が集合するまでは、例えば、ヒトES細胞もしくはヒトiPS細胞の場合には、好ましくは約24時間以内、より好ましくは約12時間以内に凝集体を形成させる。分散された細胞を播種する時点(すなわち浮遊培養開始時)から細胞凝集体が形成されるまでの時間は、例えば、ヒト多能性幹細胞(例、ヒトiPS細胞)の場合には、好ましくは約72時間以内、より好ましくは約48時間以内である。この凝集体形成までの時間は、細胞を凝集させる用具や、遠心条件などを調整することにより適宜調節することが可能である。
細胞の凝集体が形成されたことは、凝集体のサイズおよび細胞数、巨視的形態、組織染色解析による微視的形態およびその均一性、分化および未分化マーカーの発現およびその均一性、分化マーカーの発現制御およびその同期性、分化効率の凝集体間の再現性などに基づき判断することが可能である。

0045

〔第二工程について〕
前記第一工程で形成された凝集体を、SHHシグナル伝達経路作用物質を含まずBMPシグナル伝達経路作用物質を含む無血清培地又は血清培地中で浮遊培養し、発生初期段階の網膜組織として網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る第二工程について説明する。
第二工程において用いられる培地は、例えば、SHHシグナル伝達経路作用物質が添加されておらずBMPシグナル伝達経路作用物質が添加された無血清培地又は血清培地であり、基底膜標品を添加する必要は無い。かかる培地に用いられる無血清培地又は血清培地は、上述したようなものである限り特に限定されない。調製の煩雑さを回避するには、例えば、市販のKSR等の血清代替物を適量添加した無血清培地(例えば、IMDMとF-12の1:1の混合液に10% KSR、450 μM1-モノチオグリセロール及び1x Chemically Defined Lipid Concentrateが添加された培地)を使用することが好ましい。血清代替物として、無血清培地に、BSAを0.1 mg/mL〜20mg/mL、好ましくは4 mg/mL〜6 mg/mL程度の濃度で添加することもできる。また、無血清培地へのKSRの添加量としては、例えばヒトES細胞の場合は、通常約1%〜約20%であり、好ましくは約2%〜約20%である。

0046

第二工程で用いられる無血清培地は、第一工程で用いた無血清培地がSHHシグナル伝達経路作用物質を含まない限り、当該培地をそのまま用いることもできるし、新たな無血清培地に置き換えることもできる。第一工程で用いた、BMPシグナル伝達経路物質を含まない無血清培地をそのまま第二工程に用いる場合、BMPシグナル伝達経路作用物質を培地中に添加すればよい。
「SHHシグナル伝達経路作用物質を含まない」培地には、SHHシグナル伝達経路作用物質を実質的に含まない培地、例えば、網膜前駆細胞及び網膜組織への選択的分化に不利な影響を与える程度の濃度のSHHシグナル伝達経路作用物質を含有しない培地が含まれる。
「SHHシグナル伝達経路作用物質が添加されていない」培地には、SHHシグナル伝達経路作用物質が実質的に添加されていない培地、例えば、網膜前駆細胞及び網膜組織への選択的分化に不利な影響を与える程度の濃度のSHHシグナル伝達経路作用物質が添加されていない培地、も含まれる。

0047

第二工程で用いられるBMPシグナル伝達経路作用物質としては、例えばBMP2、BMP4もしくはBMP7等のBMP蛋白GDF7等のGDF蛋白、抗BMP受容体抗体、又は、BMP部分ペプチドなどが挙げられる。BMP2、BMP4及びBMP7は例えばR&D Systemsから、GDF7は例えば和光純薬から入手可能である。BMPシグナル伝達経路作用物質として、好ましくはBMP4を挙げることができる。
第二工程で用いられるBMPシグナル伝達経路作用物質の濃度は、前記第一工程で得られた凝集体に含まれる細胞の、網膜細胞への分化を誘導可能な濃度であればよい。例えばBMP4の場合は、約0.01 nMから約1 μM、好ましくは約0.1 nM〜約100 nM、より好ましくは約1 nM〜約10 nM、更に好ましくは約1.5 nM (55 ng/mL)の濃度となるように培地に添加する。BMP4以外のBMPシグナル伝達経路作用物質を用いる場合には、上記BMP4の濃度と同等のBMPシグナル伝達経路活性化作用を奏する濃度で用いられることが望ましい。
BMPシグナル伝達経路作用物質は、第一工程の浮遊培養開始から約24時間後以降に添加されていればよく、第一工程の浮遊培養開始後数日以内(例えば、15日以内)に培地に添加してもよい。好ましくは、BMPシグナル伝達経路作用物質は、浮遊培養開始後1〜15日目、より好ましくは1〜9日目、更に好ましくは2〜9日目、更に好ましくは3〜8日目、より更に好ましくは3〜6日目、更により好ましくは6日目に培地に添加する。
BMPシグナル伝達経路作用物質が培地に添加され、第一工程で得られた凝集体に含まれる細胞の網膜細胞への分化誘導が開始された後は、更にBMPシグナル伝達経路作用物質を培地に添加する必要は無く、BMPシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地を用いて培地交換を行ってよい。
あるいは、培地中のBMPシグナル伝達経路作用物質の濃度は、第二工程の期間中変動させてもよい。例えば、第二工程の開始時において、BMPシグナル伝達経路作用物質を上記範囲とし、2〜4日につき、40〜60%減の割合で、徐々に又は段階的に該濃度を低下させてもよい。
具体的な態様として、浮遊培養開始後(すなわち前記第一工程の開始後)1〜9日目、好ましくは2〜9日目、更に好ましくは3〜8日目、より更に好ましくは3〜6日目に、培地の一部又は全部をBMP4を含む培地に交換し、BMP4の終濃度を約1〜10 nMに調整し、BMP4の存在下で例えば1〜16日間、好ましくは、2〜9日間、更に好ましくは6〜9日間培養することができる。また、より長期間、具体的には20日以上、30日以上培養することも可能である。すなわち、第二工程において、BMPシグナル伝達経路作用物質の存在下で行われる培養は、第一工程で得られた凝集体が発生初期段階の網膜組織へと分化誘導されるまでの期間適宜続けられ、具体的には、BMPシグナル伝達経路作用物質を添加後6〜12日間で発生初期段階の網膜組織を得ることができる。
ここにおいて、BMP4の濃度を同一濃度に維持すべく、1もしくは2回程度培地の一部又は全部をBMP4を含む培地に交換することができる。又は前述のとおり、BMP4の濃度を段階的に減じることもできる。
一態様において、BMPシグナル伝達経路作用物質を含む培地での培養を開始後、BMPシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地による培地交換により、培地中のBMPシグナル伝達経路作用物質の濃度を、2〜4日につき、40〜60%減の割合で、徐々に又は段階的に低下させることができる。
発生初期段階の網膜組織へと分化誘導されたことは、例えば、該組織中の細胞における網膜前駆細胞マーカーや神経網膜前駆細胞マーカーの発現を検出することにより確認することができる。GFP等の蛍光レポータータンパク質遺伝子がRX遺伝子座ノックインされた多能性幹細胞を用いて第一工程により形成された凝集体を、網膜細胞への分化誘導に必要な濃度のBMPシグナル伝達経路作用物質の存在下に浮遊培養し、発現した蛍光レポータータンパク質から発せられる蛍光を検出することにより、網膜細胞への分化誘導が開始された時期を確認することもできる。
第二工程の実施態様の一つとして、第一工程で形成された凝集体を、網膜前駆細胞マーカーや神経網膜前駆細胞マーカー(例、RX、PAX6、CHX10)を発現する細胞が出現し始めるまでの間、網膜細胞への分化誘導に必要な濃度のBMPシグナル伝達経路作用物質を含みSHHシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で浮遊培養し、発生初期段階の網膜組織として網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る工程、を挙げることができる。

0048

第二工程において、培地交換操作を行う場合、例えば、元ある培地を捨てずに新しい培地を加える操作(培地添加操作)、元ある培地を半量程度(元ある培地の体積量の40〜80%程度)捨てて新しい培地を半量程度(元ある培地の体積量の40〜80%)加える操作(半量培地交換操作)、元ある培地を全量程度(元ある培地の体積量の90%以上)捨てて新しい培地を全量程度(元ある培地の体積量の90%以上)加える操作(全量培地交換操作)が挙げられる。
ある時点で特定の成分(例えば、BMP4)を添加する場合、例えば、終濃度を計算した上で、元ある培地を半量程度捨てて、特定の成分を終濃度よりも高い濃度(具体的には終濃度の1.5〜3.0倍、例えば終濃度の約2倍の濃度)で含む新しい培地を半量程度加える操作(半量培地交換操作、半量培地交換)を行ってもよい。
ある時点で、元の培地に含まれる特定の成分の濃度を維持する場合、例えば元ある培地を半量程度捨てて、元の培地に含まれる濃度と同じ濃度の特定の成分を含む新しい培地を半量程度加える操作を行ってもよい。
ある時点で、元の培地に含まれる成分を希釈して濃度を下げる場合、例えば、培地交換操作を、1日に複数回、好ましくは1時間以内に複数回(例えば2〜3回)行ってもよい。また、ある時点で、元の培地に含まれる成分を希釈して濃度を下げる場合、細胞または凝集体を別の培養容器に移してもよい。
培地交換操作に用いる道具は特に限定されないが、例えば、ピペッターマイクロピペットマルチチャネルマイクロピペット、連続分注器などが挙げられる。例えば、培養容器として96ウェルプレートを用いる場合、マルチチャネルマイクロピペットを使ってもよい。
好ましい態様において、第二工程で用いられる培地中のSHHシグナル伝達経路作用物質の濃度は、SAGのSHHシグナル伝達促進活性換算で700 nM以下、好ましくは300 nM以下、より好ましくは10 nM以下、更に好ましくは0.1 nM以下、更に好ましくは、SHHシグナル伝達経路作用物質を含まない。「SHHシグナル伝達経路作用物質を含まない」培地には、SHHシグナル伝達経路作用物質を実質的に含まない培地、例えば、網膜前駆細胞及び網膜組織への選択的分化に不利な影響を与える程度の濃度のSHHシグナル伝達経路作用物質を含有しない培地も含まれる。「SHHシグナル伝達経路作用物質が添加されていない」培地には、SHHシグナル伝達経路作用物質が実質的に添加されていない培地、例えば、網膜前駆細胞及び網膜組織への選択的分化に不利な影響を与える程度の濃度のSHHシグナル伝達経路作用物質が添加されていない培地も含まれる。

0049

第二工程における培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30℃から約40℃、好ましくは約37℃である。またCO2濃度は、例えば約1%から約10%、好ましくは約5%である。
かかる培養により、第一工程で得られた凝集体を形成する細胞から発生初期段階の網膜組織への分化が誘導され得る。発生初期段階の網膜組織として、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体が得られたことは、例えば、網膜前駆細胞のマーカーであるRX、PAX6、又は神経網膜前駆細胞のマーカーであるRX、PAX6、CHX10を発現する細胞が凝集体に含まれていることを検出することにより確認することができる。
第二工程の実施態様の一つとして、第一工程で形成された凝集体を、RX遺伝子を発現する細胞が出現し始めるまでの間、網膜細胞への分化誘導に必要な濃度のBMPシグナル伝達経路作用物質を含む無血清培地又は血清培地中で浮遊培養し、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る工程、を挙げることができる。一態様において、凝集体に含まれる細胞の20%以上(好ましくは、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、80%以上)が、RXを発現する状態となるまで、第二工程の培養が実施される。

0050

上記の方法で得られた凝集体は、SHHシグナル伝達経路作用物質、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質のいずれをも含まない無血清培地又は血清培地中で浮遊培養した後に本発明の製造方法の原料となる発生初期段階の網膜組織として使用することができる。該浮遊培養の期間は神経節細胞が出現する迄の期間であれば特に限定されないが、1日〜50日間、好ましくは1日〜15日間、より好ましくは1日〜7日間が挙げられる。
前記浮遊培養において用いられる培地は、例えば、SHHシグナル伝達経路作用物質、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質のいずれもが添加されていない無血清培地又は血清培地である。
「SHHシグナル伝達経路作用物質、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質のいずれをも含まない」培地には、SHHシグナル伝達経路作用物質、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質のいずれをも実質的に含まない培地、例えば、網膜組織への選択的分化に不利な影響を与える程度の濃度のSHHシグナル伝達経路作用物質、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質を含有しない培地、も含まれる。
「SHHシグナル伝達経路作用物質、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質のいずれもが添加されていない」培地には、SHHシグナル伝達経路作用物質、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質のいずれもが実質的に添加されていない培地、例えば、網膜組織への選択的分化に不利な影響を与える程度の濃度のSHHシグナル伝達経路作用物質、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質が添加されていない培地、も含まれる。

0051

かかる培地に用いられる無血清培地又は血清培地は、上述したようなものである限り特に限定されない。調製の煩雑さを回避するには、例えば、市販のKSR等の血清代替物を適量添加した無血清培地(例えば、IMDMとF-12の1:1の混合液に10%KSR、450 μM 1-モノチオグリセロール及び1x Chemically Defined Lipid Concentrateが添加された培地)を使用することが好ましい。無血清培地には、牛血清アルブミン(BSA)を0.1 mg/mL - 20 mg/mL、好ましくは4 mg/mL - 6 mg/mLで添加することもできる。また、無血清培地へのKSRの添加量としては、例えばヒトES細胞の場合は、通常約1%から約20%であり、好ましくは約2%から約20%である。また、血清培地調製の煩雑さを回避するには、市販の血清を適量添加した血清培地(例えば、DMEMとF-12の1:1の混合液に血清、N2 supplementが添加された培地)を使用することがより好ましい。血清培地への血清の添加量としては、例えばヒトES細胞の場合は、通常約1%〜約20%であり、好ましくは約2%〜約20%である。上記培地にはいずれもタウリン等を添加して用いてもよい。
培養温度、CO2濃度、O2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30℃〜約40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1%〜約10%、好ましくは約5%である。O2濃度は、約5%以上、例えば約20%〜約70%、好ましくは約20%〜約60%、より好ましくは約20%〜約40%、特に好ましくは約20%である。

0052

上記のとおり、原料製造方法1で得られる網膜組織が、発生初期段階、すなわち、網膜前駆細胞又は神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現していない発生初期の分化段階にあることは、RX及びPAX6等の網膜前駆細胞マーカー、CHX10、RX及びPAX6等の神経網膜前駆細胞マーカー、BRN3等の神経節細胞マーカーの少なくとも1つの発現状況を測定することにより同定することができる。すなわち、網膜前駆細胞マーカー及び/又は神経網膜前駆細胞マーカーを発現する細胞が網膜組織に含まれる全細胞のうち30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、更により好ましくは99%以上含み、かつ神経節細胞マーカーを発現している細胞が網膜組織に含まれる細胞のうち40%以下、好ましくは20%以下、10%以下、5%以下、1%以下、更に好ましくは0.1%以下、更により好ましくは0.01%以下である分化段階であることを確認することができる。この時、腹側マーカー及び/又は最も背側のマーカー(例:ALDH1A3及び/又はALDH1A1)の発現については問題とならず、いずれも背側化シグナル伝達物質によって抑制又は促進され得る分化段階であればよい。

0053

2-2.原料製造方法2
発生初期段階の網膜組織を製造する好ましい一態様として、WO2016/063985又はWO2017/183732に記載の、以下の工程を含む方法が挙げられる:
(1)多能性幹細胞を、フィーダー細胞非存在下で、1)TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及び/又はSHHシグナル伝達経路作用物質、並びに2)未分化維持因子を含む培地で培養する第一工程、
(2)第一工程で得られた細胞を浮遊培養し、細胞の凝集体を形成させる第二工程、及び(3)第二工程で得られた凝集体を、BMPシグナル伝達経路作用物質の存在下に浮遊培養し、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る第三工程。
当該方法で得られる網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体は、発生初期段階の網膜組織として本発明の方法で使用される出発物質として用いることができる。

0054

〔第一工程について〕
第一工程はWO2016/063985に記載の方法に準じて行うことができる。すなわち、第一工程におけるフィーダー細胞非存在下(以下、フィーダーフリーとも称する)とは、フィーダー細胞を実質的に含まない(例えば、全細胞数に対するフィーダー細胞数の割合が3%以下)の条件を意味する。好ましくは、フィーダー細胞を含まない条件において第一工程が実施される。第一工程において用いられる培地は、フィーダーフリー条件下で、多能性幹細胞の未分化維持培養を可能にする培地(フィーダーフリー培地)であれば、特に限定されないが、好適には、未分化維持培養を可能にするため、未分化維持因子を含む。
未分化維持因子は、多能性幹細胞の分化を抑制する作用を有する物質であれば特に限定はない。当業者に汎用されている未分化維持因子としては、FGFシグナル伝達経路作用物質、TGFβファミリーシグナル伝達経路作用物質、insulin等を挙げることができる。FGFシグナル伝達経路作用物質として具体的には、線維芽細胞増殖因子(例えば、bFGF、FGF4やFGF8)が挙げられる。また、TGFβファミリーシグナル伝達経路作用物質としては、TGFβシグナル伝達経路作用物質、Nodal/Activinシグナル伝達経路作用物質が挙げられる。TGFβシグナル伝達経路作用物質としては、例えばTGFβ1、TGFβ2が挙げられる。Nodal/Activinシグナル伝達経路作用物質としては、例えばNodal、ActivinA、ActivinBが挙げられる。ヒト多能性幹細胞(ヒトES細胞、ヒトiPS細胞)を培養する場合、第一工程における培地は、好ましくは未分化維持因子として、bFGFを含む。
本発明に用いる未分化維持因子は、哺乳動物由来の未分化維持因子であれば特に限定はないが、好適には培養する細胞と同一種哺乳動物の未分化維持因子が用いられる。例えば、ヒト多能性幹細胞の培養には、ヒト未分化維持因子(例、bFGF、FGF4、FGF8、EGF、Nodal、ActivinA、ActivinB、TGFβ1、TGFβ2等)が用いられ、単離された未分化維持因子を外来性(又は外因性)に添加することができる。あるいは、第一工程に用いる培地に予め未分化維持因子が添加されていてもよい。
第一工程において用いられる培地中の未分化維持因子濃度は、培養する多能性幹細胞の未分化状態を維持可能な濃度であり、当業者であれば、適宜設定することができる。例えば、具体的には、フィーダー細胞非存在下で未分化維持因子としてbFGFを用いる場合、その濃度は、通常4 ng〜500 ng/mL程度、好ましくは10 ng〜200 ng/mL程度、より好ましくは30 ng〜150 ng/mL程度である。
未分化維持因子を含み、多能性幹細胞を培養するために使用可能なフィーダーフリー培地として、多くの合成培地が開発・市販されており、例えばEssential 8培地(Life Technologies社製)が挙げられる。Essential 8培地は、DMEM/F12培地に、添加剤として、L-ascorbic acid-2-phosphate magnesium (64 mg/L), sodium selenium(14 μg/L), insulin(19.4 mg/L), NaHCO3(543 mg/L), transferrin (10.7 mg/L), bFGF (100 ng/mL)、及び、TGFβファミリーシグナル伝達経路作用物質(TGFβ1 (2 ng/mL)またはNodal (100 ng/mL))を含む(Nature Methods, 8, 424-429 (2011))。その他市販のフィーダーフリー培地としては、S-medium(DSファーマバイオメディカル社製)、StemPro (Life Technologies社製)、hESF9 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2008 Sep 9;105(36):13409-14)、mTeSR1 (STEMCELLTechnologies社製)、mTeSR2 (STEMCELL Technologies社製)、TeSR-E8(STEMCELL Technologies社製)、又はStemFit(味の素社製)が挙げられる。上記第一工程ではこれらを用いることにより、簡便に本発明を実施することが出来る。

0055

第一工程における多能性幹細胞の培養は、浮遊培養及び接着培養の何れの条件で行われてもよいが、好ましくは、接着培養により行われる。
接着培養を行う際に用いられる培養器は、「接着培養する」ことが可能なものであれば特に限定されないが、細胞接着性の培養器が好ましい。細胞接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理された培養器が挙げられ、具体的には前述した内部がコーティング剤被覆された培養器が挙げられる。コーティング剤としては、例えば、ラミニン[ラミニンα5β1γ1(以下、ラミニン511)、ラミニンα1β1γ1(以下、ラミニン111)等及びラミニン断片(ラミニン511E8等)を含む]、エンタクチン、コラーゲン、ゼラチン、ビトロネクチン(Vitronectin)、シンセマックス(コーニング社)、マトリゲル等の細胞外マトリクス等、又は、ポリリジン、ポリオルニチン等の高分子等が挙げられる。また、正電荷処理等の表面加工された培養容器を使用することもできる。好ましくは、ラミニンが挙げられ、より好ましくは、ラミニン511E-8が挙げられる。ラミニン511E-8は、市販品を購入する事ができる(例:iMatrix-511、ニッピ)。
第一工程において用いられる培地は、TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及び/又はSHHシグナル伝達経路作用物質を含む。
TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質とは、TGFβファミリーシグナル伝達経路、すなわちSmadファミリーにより伝達されるシグナル伝達経路を阻害する物質を表し、具体的にはTGFβシグナル伝達経路阻害物質、Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質及びBMPシグナル伝達経路阻害物質を挙げることができる。
TGFβシグナル伝達経路阻害物質としては、TGFβに起因するシグナル伝達経路を阻害する物質であれば特に限定は無く、核酸、タンパク質、低分子有機化合物のいずれであってもよい。当該物質として例えば、TGFβに直接作用する物質(例えば、タンパク質、抗体、アプタマー等)、TGFβをコードする遺伝子の発現を抑制する物質(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA等)、TGFβ受容体とTGFβの結合を阻害する物質、TGFβ受容体によるシグナル伝達に起因する生理活性を阻害する物質(例えば、TGFβ受容体の阻害剤、Smadの阻害剤等)を挙げることができる。TGFβシグナル伝達経路阻害物質として知られているタンパク質として、Lefty等が挙げられる。TGFβシグナル伝達経路阻害物質として、当業者に周知の化合物を使用することができ、具体的には、SB431542(4[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)、LY-364947(4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン)、A-83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド)等が挙げられる。
Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質としては、Nodal又はActivinに起因するシグナル伝達経路を阻害する物質であれば特に限定は無く、核酸、タンパク質、低分子有機化合物のいずれであってもよい。当該物質として例えば、NodalもしくはActivinに直接作用する物質(例えば抗体、アプタマー等)、NodalもしくはActivinをコードする遺伝子の発現を抑制する物質(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA等)、Nodal/Activin受容体とNodal/Activinの結合を阻害する物質、Nodal/Activin受容体によるシグナル伝達に起因する生理活性を阻害する物質を挙げることができる。Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質として、当業者に周知の化合物を使用することができ、具体的には、SB431542、A-83-01等が挙げられる。また、Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質として知られているタンパク質(Lefty、Cerberus等)を使用してもよい。Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質は、好ましくは、SB431542、A-83-01又はLeftyである。
BMPシグナル伝達経路阻害物質としては、BMPに起因するシグナル伝達経路を阻害する物質であれば特に限定は無く、上述したものを用いることができる。BMPシグナル伝達経路阻害物質として、当業者に周知の化合物を使用することができ、具体的には、LDN193189(4-[6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン)、Dorsomorphin等が挙げられる。また、BMPシグナル伝達経路阻害物質として知られるタンパク質(Chordin、Noggin等)を使用してもよい。BMPシグナル伝達経路阻害物質は、好ましくはLDN193189である。
TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質は、好ましくは、Lefty、SB431542、A-83-01又はLDN193189である。
作用点が異なる複数種類のTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質を組み合わせて用いても良い。組み合わせることにより、凝集体の質を向上する効果が増強されることが期待される。例えば、TGFβシグナル伝達経路阻害物質とBMPシグナル伝達経路阻害物質との組み合わせ、TGFβシグナル伝達経路阻害物質とNodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質との組み合わせ、BMPシグナル伝達経路阻害物質とNodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質との組み合わせが挙げられるが、好ましくはTGFβシグナル伝達経路阻害物質がBMPシグナル伝達経路阻害物質と組み合わせて用いられる。具体的な好ましい組み合わせとしては、SB431542とLDN193189との組み合わせが挙げられる。
SHHシグナル伝達経路作用物質としては、SHH(ソニックヘッジホッグを意味する)により媒介されるシグナル伝達を増強し得る物質であれば特に限定はなく、例えば、Hedgehogファミリーに属する蛋白質(例えば、SHHやIhh)、SHH受容体、SHH受容体アゴニスト、Purmorphamine(PMA)、又はSAG(Smoothened Agonist;N-Methyl-N'-(3-pyridinylbenzyl)-N'-(3-chlorobenzo[b]thiophene-2-carbonyl)-1,4-diaminocyclohexane)等が挙げられる。SHHシグナル伝達経路作用物質として、好ましくはSAGが挙げられる。SHHシグナル伝達経路作用物質は、好ましくはSHHタンパク質(Genbankアクセッション番号:NM_000193、NP_000184)、SAG又はPMAである。
TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質とSHHシグナル伝達経路作用物質とを組み合わせて用いても良い。具体的な組み合わせとしては、例えば、Lefty、SB431542、A-83-01及びLDN193189からなる群から選択されるいずれかのTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質と、SHHタンパク質、SAG及びPMAからなる群から選択されるいずれかのSHHシグナル伝達経路作用物質との組み合わせが挙げられる。TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質とSHHシグナル伝達経路作用物質とを組み合わせて用いる場合、TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質とSHHシグナル伝達経路作用物質の両方を含む培地中で細胞を培養してもよいし、TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及びSHHシグナル伝達経路作用物質のいずれか一方で細胞を処理した後、いずれか一方又は両方で引き続き細胞を処理してもよい。
TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及びSHHシグナル伝達経路作用物質の濃度は、上述の効果を達成可能な範囲で適宜設定することが可能である。例えば、SB431542は、通常0.1 μM〜200 μM、好ましくは2 μM 〜 50 μMの濃度で使用される。A-83-01は、通常0.05 μM〜50 μM、好ましくは0.5 μM〜5 μMの濃度で使用される。LDN193189は、通常1 nM〜2000 nM、好ましくは10 nM〜300 nMの濃度で使用される。Leftyは、通常5 ng/ml〜200 ng/mL、好ましくは10 ng/mL〜50 ng/mLの濃度で使用される。SHHタンパク質は、通常20 ng/ml〜1000 ng/mL、好ましくは50 ng/mL〜300 ng/mLの濃度で使用される。SAGは、通常、1 nM〜2000 nM、好ましくは10 nM〜700 nM、より好ましくは30〜600nMの濃度で使用される。PMAは、通常0.002〜20μM、好ましくは0.02μM〜2 μMの濃度で使用される。
一態様において、TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質は、前記濃度のSB431542と同等のTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害活性を有する量で適宜使用することができる。また、一態様において、SHHシグナル伝達経路作用物質は、前記濃度のSAGと同等のSHHシグナル伝達経路活性化作用を奏する濃度で適宜使用することができる。
第一工程において用いられる培地は、血清培地であっても無血清培地であってもよいが、化学的未決定な成分の混入を回避する観点から、好ましくは、無血清培地である。
第一工程において用いられる培地は、化学的に未決定な成分の混入を回避する観点から、含有成分が化学的に決定された培地であってもよい。
第一工程における多能性幹細胞の培養は、浮遊培養及び接着培養のいずれの条件でおこなわれてもよいが、好ましくは、接着培養により行われる。

0056

第一工程におけるフィーダーフリー条件下での多能性幹細胞の培養においては、フィーダー細胞に代わる足場を多能性幹細胞に提供するため、適切なマトリクスを足場として用いてもよい。足場であるマトリクスにより、表面をコーティングした細胞容器中で、多能性幹細胞を接着培養する。
足場として用いることのできるマトリクスとしては、ラミニン(Nat. Biotechnol. 28,611-615(2010))、ラミニン断片(Nat. Commun. 3, 1236 (2012))、基底膜標品(Nat. Biotechnol. 19, 971-974 (2001))、ゼラチン、コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン又はビトロネクチン(Vitronectin)等が挙げられる。
好ましくは、第一工程におけるフィーダーフリー条件下での多能性幹細胞の培養においては、単離されたラミニン511又はラミニン511のE8フラグメント(更に好ましくは、ラミニン511のE8フラグメント)により、表面をコーティングした細胞容器中で、多能性幹細胞を接着培養する。

0057

第一工程における多能性幹細胞の培養時間は、第二工程において形成される凝集体の質を向上させる効果が達成可能な範囲であれば特に限定されないが、通常0.5〜144時間である。第一工程における多能性幹細胞の培養時間は、好ましくは1時間以上、2時間以上、6時間以上、12時間以上、18時間以上、又は24時間以上である。第一工程における多能性幹細胞の培養時間は、好ましくは96時間以内、又は72時間以内である。一態様において、第一工程における多能性幹細胞の培養時間の範囲は、好ましくは2〜96時間、より好ましくは6〜48時間、更に好ましくは12〜48時間、より更に好ましくは18〜28時間(例、24時間)である。即ち、第二工程開始の0.5〜144時間(好ましくは、18〜28時間)前に第一工程を開始し、第一工程を完了した後引き続き第二工程が行われる。更なる態様において、第一工程における多能性幹細胞の培養時間の範囲は、好ましくは18〜144時間、24〜144時間、24〜96時間、又は24〜72時間である。TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及びSHHシグナル伝達経路作用物質のいずれか一方で細胞を処理した後、他方で引き続き細胞を処理する場合、それぞれの処理時間が、上述の培養時間の範囲内となるようにすることができる。
第一工程における培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30℃から約40℃、好ましくは約37℃である。またCO2濃度は、例えば約1%から約10%、好ましくは約5%である。

0058

好ましい態様において、第一工程により得られる細胞は多能性様性質(pluripotent-like state)が維持された細胞であり、第一工程を通じて多能性様性質が維持される。多能性様性質とは、多能性を含む、多能性幹細胞に共通する多能性幹細胞に特有形質の少なくとも一部を維持している状態を意味する。多能性様性質には厳密な多能性は要求されない。具体的には、多能性性質(pluripotent state)の指標となるマーカーの全て又は一部を発現している状態が、「多能性様性質」に含まれる。多能性様性質のマーカーとしては、Oct3/4陽性、アルカリフォスファターゼ陽性などが挙げられる。一態様において、多能性様性質が維持された細胞は、Oct3/4陽性である。Nanogの発現量がES細胞もしくはiPS細胞に比べて低い場合であっても「多能性様性質を示す細胞」に該当する。
一態様において、第一工程により得られる細胞は、少なくとも網膜組織、網膜細胞、網膜前駆細胞及び網膜層特異的神経細胞へ分化する能力を有する幹細胞である。

0059

好ましい態様において、ヒト多能性幹細胞(例、iPS細胞)を、フィーダー細胞非存在下で、TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及び/又はSHHシグナル伝達経路作用物質、並びにbFGFを含有する無血清培地で、接着培養する。
上記の当該接着培養は、好ましくは、ラミニン511又はラミニン511のE8フラグメントで表面をコーティングした細胞容器中で実施される。TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質は、好ましくはTGFβシグナル伝達経路阻害物質(例、SB431542、A-83-01、Lefty)、Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01)、BMPシグナル伝達経路阻害物質(例、LDN193189、Chordin、Noggin)、又はこの組み合わせ(例、SB431542及びLDN193189)である。TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質は、更に好ましくはLefty、SB431542、A-83-01、又はLDN193189、又はこの組み合わせ(例、SB431542及びLDN193189)である。SHHシグナル伝達経路作用物質は、好ましくはSHHタンパク質、SAG又はPurmorphamine(PMA)、より好ましくはSAGである。TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01、LDN193189)とSHHシグナル伝達経路作用物質(例、SHHタンパク質、SAG、PMA)とを組み合わせて用いてもよい。培養時間は、0.5〜144時間(好ましくは、18〜144時間、24〜144時間、24〜96時間、又は24〜72時間(例えば、18〜28時間))である。
例えば、ヒト多能性幹細胞(例、ヒトiPS細胞)を、フィーダー細胞不在下で、bFGFを含む無血清培地中で維持培養する。当該維持培養は、好ましくは接着培養により行われる。当該接着培養は、好ましくは、ビトロネクチン、ラミニン511又はラミニン511のE8フラグメントで表面をコーティングした細胞容器中で実施される。そして、この培養中へTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及び/又はSHHシグナル伝達経路作用物質を添加し、培養を継続する。TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質は、好ましくはTGFβシグナル伝達経路阻害物質(例、SB431542、A-83-01、Lefty)、Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質(例、SB431542、A-83-01、Lefty)、BMPシグナル伝達経路阻害物質(例、LDN193189)、又はこの組み合わせ(例、SB431542及びLDN193189)である。TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質は、更に好ましくはLefty、SB431542、A-83-01、又はLDN193189、又はこの組み合わせ(例、SB431542及びLDN193189)である。SHHシグナル伝達経路作用物質は、好ましくはSHHタンパク質、SAG又はPMAである。TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01、LDN193189)とSHHシグナル伝達経路作用物質(例、SHHタンパク質、SAG、PMA)とを組み合わせて用いてもよい。添加後、0.5〜144時間(好ましくは、18〜144時間、24〜144時間、24〜96時間、又は24〜72時間(例えば、18〜28時間))培養を継続する。

0060

〔第二工程について〕
第一工程で得られた細胞を培地中で浮遊培養することにより細胞の凝集体を形成させる第二工程について説明する。
第二工程において用いられる培地は血清含有培地又は無血清培地であり得る。化学的に未決定な成分の混入を回避する観点から、本発明においては、無血清培地が好適に用いられる。例えば、BMPシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路阻害物質がいずれも添加されていない無血清培地を使用することができる。調製の煩雑さを回避するには、例えば、市販のKSR等の血清代替物を適量添加した無血清培地(例えば、IMDMとF-12の1:1の混合液に10% KSR、450μM 1-モノチオグリセロール及び1 x Chemically Defined Lipid Concentrateが添加された培地、又は、GMEMに5%〜20%KSR、NEAA、ピルビン酸、2-メルカプトエタノールが添加された培地)を使用することが好ましい。無血清培地へのKSRの添加量としては、例えばヒト多能性幹細胞の場合は、通常約1%から約30%であり、好ましくは約2%から約20%である。
凝集体の形成に際しては、まず、第一工程で得られた細胞の分散操作により、分散された細胞を調製する。分散操作により得られた「分散された細胞」とは、例えば7割以上が単一細胞であり2〜50細胞の塊が3割以下存在する状態が挙げられる。分散された細胞として、好ましくは、8割以上が単一細胞であり、2〜50細胞の塊が2割以下存在する状態が挙げられる。分散された細胞とは、細胞同士の接着(例えば面接着)がほとんどなくなった状態が挙げられる。
第一工程で得られた細胞の分散操作は、前述した、機械的分散処理、細胞分散液処理、細胞保護剤処理を含んでよい。これらの処理を組み合わせて行ってもよい。好ましくは、細胞保護剤処理と同時に、細胞分散液処理を行い、次いで機械的分散処理をするとよい。
細胞保護剤処理に用いられる細胞保護剤としては、FGFシグナル伝達経路作用物質(例、bFGF、FGF4やFGF8等の線維芽細胞増殖因子)、ヘパリン、IGFシグナル伝達経路作用物質(例、インスリン)、血清、又は血清代替物を挙げることができる。また、分散により誘導される多能性幹細胞(特に、ヒト多能性幹細胞)の細胞死を抑制するための細胞保護剤として、Rho-associated coiled-coilキナーゼ(ROCK)の阻害剤又はMyosinの阻害剤を添加してもよい。分散により誘導される多能性幹細胞(特に、ヒト多能性幹細胞)の細胞死を抑制し、細胞を保護するために、ROCKの阻害剤又はMyosinの阻害剤を第二工程培養開始時から添加してもよい。ROCK阻害剤としては、Y-27632、Fasudil(HA1077)、H-1152等を挙げることができる。Myosinの阻害剤としてはBlebbistatinを挙げることができる。
細胞分散液処理に用いられる細胞分散液としては、トリプシンコラゲナーゼヒアルロニダーゼエラスターゼプロナーゼ、DNase又はパパイン等の酵素類や、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤のいずれかを含む溶液を挙げることができる。市販の細胞分散液、例えば、TrypLESelect (Life Technologies社製)やTrypLE Express (Life Technologies社製)を用いることもできる。
機械的分散処理の方法としては、ピペッティング処理又はスクレーパーでの掻き取り操作が挙げられる。
分散された細胞は上記培地中に懸濁される。
そして、分散された細胞の懸濁液を、上記培養器中に播き、分散させた細胞を、培養器に対して、非接着性の条件下で培養することにより、複数の細胞を集合させて凝集体を形成する。この際、分散された細胞を、10 cmディッシュのような、比較的大きな培養器に播種することにより、1つの培養器中に複数の細胞の凝集体を同時に形成させてもよいが、こうすると凝集体ごとの大きさにばらつきが生じる。そこで、例えば、96ウェルプレートのようなマルチウェルプレート(U底、V底)の各ウェルに一定数の分散された幹細胞を入れて、これを静置培養すると、細胞が迅速に凝集することにより、各ウェルにおいて1個の凝集体が形成される。この凝集体を複数のウェルから回収することにより、均一な凝集体の集団を得ることができる(例えば、SFEBq法)。
第二工程における細胞の濃度は、細胞の凝集体をより均一に、効率的に形成させるように適宜設定することができる。例えば96ウェルプレートを用いてヒト細胞(例、第一工程においてヒトiPS細胞から得られた細胞)を浮遊培養する場合、1ウェルあたり約1 x 103から約1 x 105細胞、好ましくは約3 x 103から約5 x 104細胞、より好ましくは約4 x 103から約2 x 104細胞、更に好ましくは、約4 x 103から約1.6 x 104細胞、より更に好ましくは約8 x 103から約1.2 x 104細胞となるように調製した液をウェルに添加し、プレートを静置して凝集体を形成させる。
第二工程における培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30℃から約40℃、好ましくは約37℃である。CO2濃度は、例えば約1%から約10%、好ましくは約5%である。

0061

第二工程において、培地交換操作を行う場合、例えば、元ある培地を捨てずに新しい培地を加える操作(培地添加操作)、元ある培地を半量程度(元ある培地の体積量の30〜90%程度、例えば40〜60%程度)捨てて新しい培地を半量程度(元ある培地の体積量の30〜90%、例えば40〜60%程度)加える操作(半量培地交換操作)、元ある培地を全量程度(元ある培地の体積量の90%以上)捨てて新しい培地を全量程度(元ある培地の体積量の90%以上)加える操作(全量培地交換操作)が挙げられる。
培地交換操作に用いる道具は特に限定されないが、例えば、ピペッター、マイクロピペット、マルチチャンネルマイクロピペット、連続分注器などが挙げられる。例えば、培養容器として96ウェルプレートを用いる場合、マルチチャンネルマイクロピペットを使ってもよい。
細胞の凝集体を形成させるために必要な浮遊培養の時間は、細胞を均一に凝集させるように、用いる細胞によって適宜決定可能であるが、均一な細胞の凝集体を形成するためにはできる限り短時間であることが望ましい。分散された細胞が、細胞凝集体が形成されるに至るまでの工程は、細胞が集合する工程、及び集合した細胞が細胞凝集体を形成する工程にわけられる。分散された細胞を播種する時点(すなわち浮遊培養開始時)から細胞が集合するまでは、例えば、ヒト細胞(例、第一工程においてヒトiPS細胞から得られた幹細胞)の場合には、好ましくは約24時間以内、より好ましくは約12時間以内に集合した細胞を形成させる。分散された細胞を播種する時点(すなわち浮遊培養開始時)から細胞凝集体が形成されるまでの時間は、例えば、ヒト多能性幹細胞(例、ヒトiPS細胞)の場合には、好ましくは約72時間以内、より好ましくは約48時間以内である。この凝集体形成までの時間は、細胞を凝集させる用具や、遠心分離条件などを調整することにより適宜調節することが可能である。
細胞の凝集体が形成されたこと、及びその均一性は、凝集体のサイズおよび細胞数、巨視的形態、組織染色解析による微視的形態およびその均一性、分化および未分化マーカーの発現およびその均一性、分化マーカーの発現制御およびその同期性、分化効率の凝集体間の再現性などに基づき判断することが可能である。
凝集体が形成された後、そのまま、凝集体の培養を継続してもよい。第二工程における浮遊培養の時間は、通常BMPシグナル伝達経路作用物質が添加されるまで継続されればよく、具体的には、通常12時間〜6日間、好ましくは12時間〜3日間程度が挙げられる。

0062

第二工程において用いられる培地の一態様として、SHHシグナル伝達経路作用物質を含む培地(WO2016/063985を参照)、Wntシグナル伝達経路阻害物質を含む培地、又は、Wntシグナル伝達経路阻害物質及びSHHシグナル伝達経路作用物質を含む培地(WO2017/183732を参照)が挙げられる。第一工程において、多能性幹細胞をTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及び/又はSHHシグナル伝達経路作用物質で処理し、第二工程において、第一工程で得られた細胞をSHHシグナル伝達経路作用物質及び/又はWntシグナル伝達経路阻害物質を含む培地(好適には無血清培地)中で浮遊培養に付して凝集体を形成させることにより、凝集体の質が、更に向上し、網膜組織への分化能力が高まる。この質の高い凝集体を用いることにより、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を高効率で誘導することができる。
SHHシグナル伝達経路作用物質としては、上述したものを用いることができる。好ましくはSHHシグナル伝達経路作用物質はSHHタンパク質、SAG又はPMAである。培地中のSHHシグナル伝達経路作用物質の濃度は、上述の効果を達成可能な範囲で適宜設定することが可能である。SAGは、通常、1 nM〜2000 nM、好ましくは10 nM〜700 nM、より好ましくは30 nM〜600 nMの濃度で使用される。PMAは通常0.002 μM〜20 μM、好ましくは0.02 μM〜2 μMの濃度で使用される。SHHタンパク質は通常20 ng/ml〜1000 ng/mL、好ましくは50 ng/mL〜300 ng/mLの濃度で使用される。SHHタンパク質、SAG、PMA以外のSHHシグナル伝達経路作用物質を用いる場合には、上記SAGの濃度と同等のSHHシグナル伝達経路活性化作用を奏する濃度で用いられることが望ましい。
培地中のSHHシグナル伝達経路作用物質の濃度は、第二工程の期間中変動させてもよい。例えば、第二工程の開始時において、SHHシグナル伝達経路作用物質を上記範囲とし、2〜4日間につき、40〜60%減の割合で、徐々に又は段階的に該濃度を低下させてもよい。
SHHシグナル伝達経路作用物質を培地に添加するタイミングは、上記効果を達成できる範囲で特に限定されないが、早ければ早い方が効果が高い。SHHシグナル伝達経路作用物質は、第二工程開始から、通常6日以内、好ましくは3日以内、より好ましくは1日以内、更に好ましくは第二工程開始時に、培地に添加される。

0063

Wntシグナル伝達経路阻害物質としては、Wntにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものであれば特に限定されず、例えば、Wnt又はWnt受容体に直接作用する物質(抗Wnt中和抗体、抗Wnt受容体中和抗体等)、Wnt又はWnt受容体をコードする遺伝子の発現を抑制する物質(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA等)、Wnt受容体とWntの結合を阻害する物質(可溶型Wnt受容体、ドミナントネガティブWnt受容体等、Wntアンタゴニスト、Dkk1、Cerberus蛋白等)、Wnt受容体によるシグナル伝達に起因する生理活性を阻害する物質[CKI-7(N-(2-アミノエチル)-5-クロロイソキノリン-8-スルホンアミド)、D4476(4-[4-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)、IWR-1-endo (IWR1e) (4-[(3aR,4S,7R,7aS)-1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル]-N-8-キノリニル-ベンズアミド)、並びに、IWP-2(N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]アセタミド)等の低分子化合物等]等がが挙げられる。Wntシグナル伝達経路阻害物質として好ましくはIWR1eが用いられる。
培地中のWntシグナル伝達経路阻害物質の濃度は、上述の効果を達成可能な範囲で適宜設定することが可能である。IWR1eは、通常、約0.1 μMから約100 μM、好ましくは約0.3 μMから約30 μM、より好ましくは約1 μMから約10 μM、更に好ましくは約3 μMの濃度となるように培地に添加する。IWR-1-endo以外のWntシグナル伝達経路阻害物質を用いる場合には、上記IWR-1-endoの濃度と同等のWntシグナル伝達経路阻害活性を示す濃度で用いられることが望ましい。
培地中のWntシグナル伝達経路阻害物質質の濃度は、第二工程の期間中変動させてもよい。例えば、第二工程の開始時において、Wntシグナル伝達経路阻害物質を上記範囲とし、2〜4日間につき、40〜60%減の割合で、徐々に又は段階的に該濃度を低下させてもよい。
Wntシグナル伝達経路阻害物質を培地に添加するタイミングは、上記効果を達成できる範囲で特に限定されないが、早ければ早い方が効果が高い。Wntシグナル伝達経路阻害物質は、第二工程における浮遊培養開始から、通常6日以内、好ましくは3日以内、より好ましくは1日以内、より好ましくは12時間以内、更に好ましくは第二工程における浮遊培養開始時に、培地に添加される。具体的には、例えば、Wntシグナル伝達経路阻害物質を添加した基礎培地の添加や、該基礎培地への一部もしくは全部の培地交換を行う事ができる。第一工程で得られた細胞を、第二工程においてWntシグナル伝達経路阻害物質に作用させる期間は、上記効果を達成できる範囲で特に限定されないが、好ましくは、第二工程における浮遊培養開始時に培地へ添加した後、第二工程終了時まで作用させる。更に、第二工程終了後(すなわち第三工程の期間中)も、継続してWntシグナル伝達経路阻害物質に曝露させることができる。一態様としては、第二工程終了後(すなわち第三工程の期間中)も、継続してWntシグナル伝達経路阻害物質に作用させ、神経上皮組織及び/又は神経組織が形成されるまで作用させても良い。

0064

好ましい態様において、第一工程で得られたヒト細胞(例、第一工程においてヒトiPS細胞から得られた細胞)を、SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SAG、PMA、SHHタンパク質)及び/又はWntシグナル伝達経路阻害物質(例、IWR1e)を含む無血清培地中で浮遊培養に付し、凝集体を形成する。SHHシグナル伝達経路作用物質は、好ましくは、浮遊培養開始時から培地に含まれる。培地には、ROCK阻害物質(例、Y-27632)を添加してもよい。培養時間は12時間〜6日間、好ましくは12時間〜3日間である。形成される凝集体は、好ましくは均一な凝集体である。

0065

例えば、第一工程で得られたヒト細胞(例、第一工程においてヒトiPS細胞から得られた細胞)を回収し、これを、単一細胞、又はこれに近い状態にまで分散し、SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SAG、PMA)及び/又はWntシグナル伝達経路阻害物質(例、IWR1e)を含む無血清培地中で浮遊培養に付す。該無血清培地は、ROCK阻害剤(例、Y-27632)を含んでいても良い。ヒト幹細胞(例、ヒトiPS細胞に由来する幹細胞)の懸濁液を、上述の培養器中に播き、分散させた細胞を、培養器に対して、非接着性の条件下で培養することにより、複数の細胞を集合させて凝集体を形成する。培養時間は12時間〜6日間(好ましくは12時間〜3日間)である。形成される凝集体は、好ましくは均一な凝集体である。
このようにして、第二工程を実施することにより、第一工程で得られた細胞、又はこれに由来する細胞の凝集体が形成される。第二工程で得られる凝集体は、第一工程において、TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及び/又はSHHシグナル伝達経路作用物質で処理しない場合よりも、高い品質を有している。具体的には、丸く、表面が滑らかで、凝集体の内部が密であり、形が崩れていない凝集体の割合に富んだ、凝集体の集団を得ることが出来る。一態様において、第二工程開始から6日目に無作為的に凝集体(例えば、100個以上)を選出した際に、嚢胞化していない凝集体の割合が、例えば70%以上、好ましくは80%以上である。
第二工程で得られる凝集体は、網膜組織へ分化する能力を有する。
好ましい一態様においては、第一工程において、多能性幹細胞をTGFβシグナル伝達経路阻害物質で処理し、かつ、第二工程において、SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SAG、PMA、SHHタンパク質)及び/又はWntシグナル伝達経路阻害物質(例、IWR1e)を含む培地で第一工程において得られた細胞の浮遊培養が実施される。ここで好ましくは、TGFβシグナル伝達経路阻害物質としてSB431542又はA-83-01を使用することができる。

0066

また、好ましい一態様においては、第一工程において、多能性幹細胞をBMPシグナル伝達経路阻害物質で処理し、かつ、第二工程において、SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SAG、PMA、SHHタンパク質)を含まない培地で第一工程において得られた細胞の浮遊培養が実施される。ここで好ましくは、BMPシグナル伝達経路阻害物質としてLDN193189を使用することができる。
好ましい一態様において、第一工程において、多能性幹細胞(例、ヒト多能性幹細胞)をTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質(例えば、TGFβシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01)、Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01)、BMPシグナル伝達経路阻害物質(例、LDN193189)、又はこの組み合わせ(例、SB431542及びLDN193189)等);SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SHHタンパク質、SAG、PMA);又はTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01、LDN193189)とSHHシグナル伝達経路作用物質(例、SHHタンパク質、SAG、PMA)との組み合わせで処理し、かつ、第二工程において、SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SAG、PMA、SHHタンパク質)を含む培地で第一工程において得られた細胞の浮遊培養が実施される。
別の態様において、第一工程において、多能性幹細胞(例、ヒト多能性幹細胞)をTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質(例えば、TGFβシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01)、Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01)、BMPシグナル伝達経路阻害物質(例、LDN193189)、又はこの組み合わせ(例、SB431542及びLDN193189)等);SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SHHタンパク質、SAG、PMA);又はTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01、LDN193189)とSHHシグナル伝達経路作用物質(例、SHHタンパク質、SAG、PMA)との組み合わせで処理し、かつ、第二工程において、SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SAG、PMA、SHHタンパク質)を含まない培地で第一工程において得られた細胞の浮遊培養が実施される。
いずれの態様においても、第二工程の培地は、好ましくは、ROCK阻害剤(例、Y-27632)を含む。

0067

〔第三工程について〕
第二工程で形成された凝集体を、BMPシグナル伝達経路作用物質の存在下で浮遊培養することにより、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得ることができる。当該工程は、上述の原料製造方法1における第二工程に準じて製造することができる。
一態様において、第二工程で培地中に添加するSHHシグナル伝達経路作用物質の濃度が比較的低濃度(例えば、SAGについては700 nM以下、他のSHHシグナル伝達経路作用物質については、前記濃度のSAGと同等以下のSHHシグナル伝達経路活性化作用を奏する濃度)の場合、培地交換を行う必要はなく、第二工程で用いた培地にBMPシグナル伝達経路作用物質(例、BMP4)を添加すればよい。一方、SHHシグナル伝達経路作用物質の濃度が比較的高濃度(例えば、SAGについては700 nM超、又は1000 nM以上、他のSHHシグナル伝達経路作用物質については、前記濃度のSAGと同等のSHHシグナル伝達経路活性化作用を奏する濃度)の場合には、BMPシグナル伝達経路作用物質添加時に残存するSHHシグナル伝達経路作用物質の影響を抑制するために、BMPシグナル伝達経路作用物質(例、BMP4)を含む新鮮な培地に交換することが望ましい。
好ましい態様において、第三工程で用いられる培地中のSHHシグナル伝達経路作用物質の濃度は、SAGのSHHシグナル伝達促進活性換算で700 nM以下、好ましくは300 nM以下、より好ましくは10 nM以下、更に好ましくは0.1 nM以下、更に好ましくは、SHHシグナル伝達経路作用物質を含まない。「SHHシグナル伝達経路作用物質を含まない」培地には、SHHシグナル伝達経路作用物質を実質的に含まない培地、例えば、網膜前駆細胞及び網膜組織への選択的分化に不利な影響を与える程度の濃度のSHHシグナル伝達経路作用物質を含有しない培地も含まれる。「SHHシグナル伝達経路作用物質が添加されていない」培地には、SHHシグナル伝達経路作用物質が実質的に添加されていない培地、例えば、網膜前駆細胞及び網膜組織への選択的分化に不利な影響を与える程度の濃度のSHHシグナル伝達経路作用物質が添加されていない培地も含まれる。
発生初期段階の網膜組織を製造する上での好ましい態様において、第一工程にて、ヒト多能性幹細胞(例、ヒトiPS細胞)を、フィーダー細胞非存在下で、TGFβシグナル伝達経路阻害物質(例えばSB431542、A-83-01)並びにbFGFを含有する無血清培地で、接着培養し、第二工程にて、細胞をSHHシグナル伝達経路作用物質(例えばSAG、PMA、SHHタンパク質)を含有する無血清培地で浮遊培養し、第三工程にて、凝集体をBMPシグナル伝達経路作用物質(例えばBMP4)を含有する無血清培地で浮遊培養する。
また、発生初期段階の網膜組織を製造する上での好ましい態様において、第一工程にて、ヒト多能性幹細胞(例、ヒトiPS細胞)を、フィーダー細胞非存在下で、BMPシグナル伝達経路阻害物質(例、LDN193189)及びbFGFを含有する無血清培地で、接着培養し、第二工程にて、細胞をSHHシグナル伝達経路作用物質(例えばSAG、PMA)を含有しない又は含有する無血清培地で浮遊培養し、第三工程にて、凝集体をBMPシグナル伝達経路作用物質(例えばBMP4)を含有する無血清培地で浮遊培養する。
発生初期段階の網膜組織を製造する上での好ましい態様において、第一工程にて、ヒト多能性幹細胞(例、ヒトiPS細胞)を、フィーダー細胞非存在下で、SHHシグナル伝達経路作用物質(例えばSAG、PMA)並びにbFGFを含有する無血清培地で、好ましくは1日間以上6日間以下、さらに好ましくは2日〜4日間、接着培養し、第二工程にて、細胞をSHHシグナル伝達経路作用物質(例えばSAG、PMA)を含有する無血清培地で浮遊培養し、第三工程にて、凝集体をBMPシグナル伝達経路作用物質(例えばBMP4)を含有する無血清培地で浮遊培養する。
発生初期段階の網膜組織を製造する上での好ましい態様において、第一工程にて、ヒト多能性幹細胞(例、ヒトiPS細胞)を、フィーダー細胞非存在下で、TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質(例えば、TGFβシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty 、SB431542、A-83-01)、Nodal/Activinシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01)、BMPシグナル伝達経路阻害物質(例、LDN193189)、又はこの組み合わせ(例、SB431542及びLDN193189)等);SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SHHタンパク質、SAG、PMA);又はTGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質(例、Lefty、SB431542、A-83-01、LDN193189)とSHHシグナル伝達経路作用物質(例、SHHタンパク質、SAG、PMA)との組み合わせ;並びにbFGFを含有する無血清培地で、接着培養し、第二工程にて、第一工程で得られた細胞を、SHHシグナル伝達経路作用物質(例、SAG、PMA、SHHタンパク質)を含む無血清培地中で浮遊培養し、細胞の凝集体を形成させ、第三工程にて、凝集体をBMPシグナル伝達経路作用物質(例えばBMP4)を含有する無血清培地で浮遊培養し、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る。

0068

2-3.原料製造方法3
発生初期段階の網膜組織を製造する好ましい一態様として、WO2016/063986に記載の、以下の工程を含む方法を挙げることもできる:
(1)多能性幹細胞を、フィーダー細胞非存在下で、未分化維持因子を含む培地で培養する第一工程、
(2)第一工程で得られた多能性幹細胞を、SHHシグナル伝達経路作用物質の存在下で浮遊培養し、細胞の凝集体を形成させる第二工程、及び
(3)第二工程で得られた凝集体を、BMPシグナル伝達経路作用物質の存在下に浮遊培養し、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る第三工程。

0069

〔第一工程について〕
第一工程はWO2016/063986に記載の方法に準じて行うことができる。すなわち、第一工程では、ヒト多能性幹細胞、好ましくはヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)もしくはヒト胚性幹細胞(ES細胞)を、フィーダー細胞非存在下で、未分化維持因子を含む培地で培養する。第一工程におけるフィーダー細胞非存在下(フィーダーフリー)とは、フィーダー細胞を実質的に含まない(例えば、全細胞数に対するフィーダー細胞数の割合が3%以下)の条件を意味する。好ましくは、フィーダー細胞を含まない条件において、第一工程が実施される。
第一工程において用いられる培地は、フィーダーフリー条件下で、多能性幹細胞の未分化維持培養を可能にする培地(フィーダーフリー培地)であれば、特に限定されないが、好適には、未分化維持培養を可能にするため、未分化維持因子を含む。例えば、未分化維持因子を含み、TGFβファミリーシグナル伝達経路阻害物質及びSHHシグナル伝達経路作用物質を含まない培地が挙げられる。
未分化維持因子及びフィーダーフリー培地としては、前記原料製造方法2に記載のものが挙げられる。
第一工程における多能性幹細胞の培養時間は、第二工程において形成される凝集体の質を向上させる効果が達成可能な範囲で特に限定されないが、通常0.5〜144時間、好ましくは2〜96時間、より好ましくは6〜48時間、更に好ましくは12〜48時間、より更に好ましくは18〜28時間(例、24時間)である。即ち、第二工程開始の0.5〜144時間(好ましくは、18〜28時間)前に第一工程を開始し、第一工程を完了した後引き続き第二工程が行われる。
第一工程において、適宜培地交換を行ってもよく、一態様として、具体的には1〜2日おきに培地交換を行う方法が挙げられる。ここにおいて、例えば、ROCK阻害剤等の細胞保護剤もしくは細胞死抑制剤を含まない培地に培地交換してもよい。
第一工程における培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、例えば約30℃から約40℃、好ましくは約37℃である。またCO2濃度は、例えば約1%から約10%、好ましくは約5%である。
好ましい一態様において、ヒト多能性幹細胞(例、ヒトiPS細胞)を、フィーダー細胞非存在下で、bFGFを含有する無血清培地中で、接着培養する。当該接着培養は、好ましくは、ラミニン511、ラミニン511のE8フラグメント又はビトロネクチンで表面をコーティングした細胞容器中で実施される。当該接着培養は、好ましくは、フィーダーフリー培地としてEssential 8、TeSR培地、mTeSR培地、mTeSR-E8培地、又はStemFit培地、更に好ましくはEssential 8又はStemFit培地を用いて実施される。

0070

〔第二工程について〕
第一工程で得られた多能性幹細胞を、SHHシグナル伝達経路作用物質の存在下で浮遊培養することにより、多能性幹細胞の凝集体を形成させる第二工程は、上記原料製造方法2の第二工程に記載された方法に準じて行えば良い。

0071

〔第三工程について〕
第三工程は、前記原料製造方法1における第二工程、又は前記原料製造方法2における第三工程に準じて行うことができる。

0072

2-4.原料製造方法4
発生初期段階の網膜組織を製造する好ましい一態様として、WO2013/077425に記載の、以下の工程を含む方法を挙げることもできる:
(1)多能性幹細胞を、Wntシグナル伝達経路阻害物質を含む無血清培地中で浮遊培養することにより多能性幹細胞の凝集体を形成させる第一工程、及び
(2)第一工程で形成された凝集体を、基底膜標品を含む無血清培地中で浮遊培養し、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る第二工程。
原料製造方法4は、WO2013/077425 (& US2014/341864)の記載に準じて実施することができる。

0073

〔第一工程について〕
Wntシグナル伝達経路阻害物質としては、上記したものが挙げられる。
ここで用いられるWntシグナル伝達経路阻害物質の濃度は、多能性幹細胞の凝集体が形成される濃度であればよい。例えばIWR1e等の通常のWntシグナル伝達経路阻害物質の場合は、0.1 μM〜100 μM、好ましくは1 μM〜10 μM、より好ましくは約3 μMの濃度である。
Wntシグナル伝達経路阻害物質は、浮遊培養開始前に無血清培地に添加されていてもよく、また、浮遊培養開始後数日以内(例えば、5日以内)に無血清培地に添加してもよい。好ましくは、Wntシグナル伝達経路阻害物質は、浮遊培養開始後5日以内、より好ましくは3日以内、最も好ましくは浮遊培養開始と同時に無血清培地に添加する。また、Wntシグナル伝達経路阻害物質を添加した状態で、浮遊培養開始後18日目まで、より好ましくは12日目まで浮遊培養する。
培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は特に限定されるものではないが、例えば約30℃から約40℃、好ましくは約37℃である。またCO2濃度は、例えば約1%から約10%、好ましくは約5%である。
また、多能性幹細胞の濃度は、多能性幹細胞の凝集体をより均一に、効率的に形成させるように当業者であれば適宜設定することができる。凝集体形成時の多能性幹細胞の濃度は、幹細胞の均一な凝集体を形成可能な濃度である限り特に限定されないが、例えば96ウェルプレートを用いてヒトES細胞を浮遊培養する場合、1ウェルあたり約1×103〜約5×104細胞、好ましくは約3×103〜約3×104細胞、より好ましくは約5×103〜約2×104細胞、最も好ましくは9×103細胞前後となるように調製した液を添加し、プレートを静置して凝集体を形成させる。
凝集体を形成させるために必要な浮遊培養の時間は、細胞を迅速に凝集させることができる限り、用いる多能性幹細胞によって適宜決定可能であるが、均一な凝集体を形成するためにはできる限り短時間であることが望ましい(例えば、SFEBq法)。例えば、ヒトES細胞やヒトiPS細胞の場合には、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内に凝集体を形成させることが望ましい。この凝集体形成までの時間は、細胞を凝集させる用具や、遠心条件などを調整することで当業者であれば適宜調節することが可能である。
多能性幹細胞の凝集体が形成されたことは、凝集体のサイズおよび細胞数、巨視的形態、組織染色解析による微視的形態およびその均一性、分化および未分化マーカーの発現およびその均一性、分化マーカーの発現制御およびその同期性、分化効率の凝集体間の再現性などに基づき、当業者であれば判断することが可能である。

0074

〔第二工程について〕
第一工程で形成された凝集体を、基底膜標品を含む無血清培地中で浮遊培養し、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞を含む凝集体を得る第二工程について説明する。
「基底膜標品」としては、その上に基底膜形成能を有する所望の細胞を播種して培養した場合に、上皮細胞様の細胞形態、分化、増殖、運動機能発現などを制御する機能を有するような基底膜構成成分を含むものをいう。ここで、「基底膜構成成分」とは、動物の組織において、上皮細胞層間質細胞層などとの間に存在する薄い膜状をした細胞外マトリックス分子をいう。基底膜標品は、例えば基底膜を介して支持体上に接着している基底膜形成能を有する細胞を、該細胞の脂質溶解能を有する溶液やアルカリ溶液などを用いて除去することで作成することができる。好ましい基底膜標品としては、基底膜成分として市販されている商品(例えばMatrigel(以下、マトリゲルという場合もある))や、基底膜成分として公知の細胞外マトリックス分子(例えばラミニン、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンなど)を含むものが挙げられる。
Matrigelは、Engelbreth Holm Swarn(EHS)マウス肉腫由来の基底膜調製物である。Matrigelの主成分はIV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンであるが、これらに加えてTGF-β、線維芽細胞増殖因子(FGF)、組織プラスミノゲン活性化因子、EHS腫瘍天然に産生する増殖因子が含まれる。Matrigelの「growth factor reduced製品」は、通常のMatrigelよりも増殖因子の濃度が低く、その標準的な濃度はEGFが<0.5 ng/mL、NGFが<0.2 ng/mL、PDGFが<5 pg/mL、IGF-1が5 ng/mL、TGF-βが1.7 ng/mLである。原料製造方法4では、「growth factor reduced製品」の使用が好ましい。
第二工程における浮遊培養で無血清培地に添加される基底膜標品の濃度としては、神経組織(例えば網膜組織)の上皮構造が安定に維持される限り特に限定されないが、例えばMartigelを用いる場合には、好ましくは培養液の1/20〜1/200の容量、より好ましくは1/100前後の容量を挙げることができる。基底膜標品は多能性幹細胞の凝集体の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、好ましくは、浮遊培養開始後5日以内、より好ましくは浮遊培養開始後2日以内に無血清培地に添加される。
第二工程で用いられる無血清培地は、第一工程で用いた無血清培地をそのまま用いることもできるし、新たな無血清培地に置き換えることもできる。
第一工程で用いた無血清培地をそのまま本工程に用いる場合、「基底膜標品」を培地中に添加すればよい。
第一工程及び第二工程における浮遊培養に用いられる無血清培地は、上述したようなものである限り特に限定されない。しかしながら、調製の煩雑さを回避する観点から、かかる無血清培地として、市販のKSRを適量添加した無血清培地(GMEM又はDMEM、0.1mM2-メルカプトエタノール、0.1mM非必須アミノ酸Mix、1mMピルビン酸ナトリウム)を使用することが好ましい。無血清培地へのKSRの投与量としては特に限定されず、例えばヒトES細胞の場合は、通常1〜20%であり、好ましくは2〜20%である。
第二工程における培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定できる。培養温度は特に限定されるものではないが、例えば約30℃から約40℃、好ましくは約37℃である。またCO2濃度は、例えば約1%から約10%、好ましくは約5%である。

0075

第二工程により得られる凝集体は、発生初期段階の網膜組織として使用可能であるが、網膜前駆細胞または神経網膜前駆細胞の含有率を高めるために、基底膜標品を含む無血清培地中で浮遊培養した後に、以下の第三工程を実施し、得られる凝集体を発生初期段階の網膜組織として使用することもできる:
(3)第二工程で培養された凝集体を、血清培地中で浮遊培養する第三工程。
第三工程で用いられる血清培地は、第二工程で培養に用いた無血清培地に血清を直接添加したものを用いてもよいし、新たな血清培地におきかえたものを用いてもよい。
第三工程で培地に添加される血清として、例えば、牛血清仔牛血清胎仔血清、馬血清、仔馬血清、胎児血清、ウサギ血清、仔ウサギ血清、ウサギ胎児血清、ヒト血清など哺乳動物の血清などを用いることが出来る。
血清の添加は、浮遊培養(すなわち第一工程)開始後7日目以降、より好ましくは9日目以降、最も好ましくは12日目に行う。血清濃度については、1〜30%、好ましくは3〜20%、より好ましくは約10%で添加する。
第三工程で用いられる血清培地は、上述したようなものである限り特に限定されないが、前記無血清培地(GMEM又はDMEM、0.1mM2-メルカプトエタノール、0.1mM非必須アミノ酸Mix、1mMピルビン酸ナトリウム)に血清を添加したものを用いることが好ましい。
また、かかる血清培地に、市販のKSR等の血清代替物を適量添加して使用してもよい。
第三工程において、血清に加えてSHHシグナル伝達経路作用物質を添加することで発生初期段階の網膜組織の製造効率を上昇させることが出来る。
SHHシグナル伝達経路作用物質としては、SHHにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されず、上記したものが挙げられる。
本工程に用いられるSHHシグナル伝達経路作用物質の濃度は、例えばSAG等の通常のSHHシグナル伝達経路作用物質の場合は、0.1 nM〜10 μM、好ましくは10 nM〜1 μM、より好ましくは約100 nMの濃度で添加する。
このようにして得られる凝集体を、発生初期段階の網膜組織として使用することもできる。

0076

また、発生初期段階の網膜組織を製造する好ましい一態様として、前記第三工程を実施した後に、以下の第四工程を実施し、得られる眼杯様構造体を発生初期段階の網膜組織として使用することもできる:
(4)第三工程で培養された凝集体を、SHHシグナル伝達経路作用物質とWntシグナル伝達経路作用物質とを含む無血清培地中又は血清培地中で浮遊培養する第四工程。
ここで、SHHシグナル伝達経路作用物質としては、SHHにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されず、上記したものが挙げられる。
ここで用いられるSHHシグナル伝達経路作用物質の濃度は、例えばSAG等の通常のSHHシグナル伝達経路作用物質の場合は、0.1 nM〜10 μM、好ましくは10 nM〜1 μM、より好ましくは約100 nMの濃度で添加する。
Wntシグナル伝達経路作用物質としては、Wntにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されず、例えば、Wntファミリーに属するタンパク質(例えば、Wnt1、Wnt3A、Wnt7A、Wnt2B)、Wnt受容体、Wnt受容体アゴニスト、抗Wnt受容体抗体、Wnt部分ペプチド、βカテニンシグナル伝達物質、GSK3β阻害剤(例えば、6-Bromoindirubin-3'-oxime(BIO)、CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジカルボニトリル)、Kenpaullone)等が挙げられる。
ここで用いられるWntシグナル伝達経路作用物質の濃度は、例えばCHIR99021等の通常のWntシグナル伝達経路作用物質の場合には、0.1 μM〜100 μM、好ましくは1 μM〜30 μM、より好ましくは約3 μMの濃度で添加する。
SHHシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質は、浮遊培養開始(第一工程開始)後12日目以降25日目以内に添加する。好ましくは、15日目以降18日目以内に添加する。この際、凝集体形成工程で添加されたWntシグナル伝達経路阻害物質を含まない培地を使用することが好ましい。
浮遊培養開始から18日目以降に、凝集体中から、眼杯様構造体が突起状に形成される。上記第四工程により製造される眼杯様構造体もまた、本発明の方法で使用される出発物質となる発生初期段階の網膜組織として利用可能である。

0077

上記第四工程で得られる凝集体は、SHHシグナル伝達経路作用物質及びWntシグナル伝達経路作用物質のいずれも含まない無血清培地又は血清培地中で1日〜20日間浮遊培養した後に、本発明の方法の出発物質となる発生初期段階の網膜組織として使用することもできる。本原料製造方法により、網膜組織以外の神経組織が同時に形成される場合もあり、これらは背側化シグナル伝達物質であるWntシグナル伝達経路作用物質等を発現することがある。このため、好ましくは、過剰な背側化シグナル伝達物質であるWntシグナル伝達経路作用物質等による影響を排除するために、凝集体の表面に存在する当該の眼杯様構造体をピンセット、ハサミ注射針カミソリ及びそれに類するもの等を用いて凝集体から物理的に切り出すこともできる。

0078

2-5.原料製造方法5
発生初期段階の網膜組織は、毛様体周縁部構造体を含んでいてもよく、毛様体周縁部構造体を含む発生初期段階の網膜組織は、WO2015/087614 (& US2016/376554)に記載の方法で製造することができる。
具体的には、網膜組織を含む細胞凝集体であり、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が20%以上100%以下である細胞凝集体〔例えば原料製造方法1〜4の製造方法においては、浮遊培養開始後約9〜60日目、好ましくは9〜40日目、更に好ましくは浮遊培養開始後約15〜20日目、例えば18日目に相当する細胞凝集体である。〕を、Wntシグナル伝達経路作用物質及びFGFシグナル伝達経路阻害物質を含む無血清培地又は血清培地中で、RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間中に限り、培養する工程を経て得られる凝集体、又は、更に得られた「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体」を、Wntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で培養する工程を経て得られる毛様体周縁部様構造体を含む凝集体もまた、本発明の方法の出発物質となる発生初期段階の網膜組織として使用することができる。
具体的には、例えば下記の方法により調製される、毛様体周縁部構造体を含む凝集体もまた、発生初期段階の網膜組織に含まれる:
(1)網膜組織を含む細胞凝集体であり、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が20%以上100%以下である細胞凝集体を、Wntシグナル伝達経路作用物質及びFGFシグナル伝達経路阻害物質を含む無血清培地又は血清培地中で、RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間中に限り、培養した後、得られた「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体」を、Wntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で培養する工程を含む、毛様体周縁部様構造体を含む凝集体の製造方法。

0079

「網膜組織を含む細胞凝集体であり、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が20%以上100%以下である細胞凝集体」は、上述の原料製造方法1〜4に記載された方法で得ることができる。すなわち、当該細胞凝集体は、それ自体発生初期段階の網膜組織を含む凝集体である。例えば、原料製造方法1における第二工程又は原料製造方法2もしくは3における第三工程において、BMP4等のBMPシグナル伝達経路作用物質の存在下で6〜15日間培養することにより発生初期段階の網膜組織、すなわち「網膜組織を含む細胞凝集体であり、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が20%以上100%以下である細胞凝集体」を得ることができる。また、上記「Wntシグナル伝達経路作用物質及びFGFシグナル伝達経路阻害物質を含む無血清培地又は血清培地中で、RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間中に限り、培養する工程」は、Wntシグナル伝達経路作用物質及びFGFシグナル伝達経路阻害物質を含む無血清培地又は血清培地中で継続して培養することにより(例えば30日間以上)、網膜組織に含まれる細胞のうち50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更により好ましくは99%以上がRPE65遺伝子を発現可能な時期まで、すなわち、網膜組織に含まれる細胞のうち上記割合の細胞が網膜色素上皮に分化可能な時期までに開始することが好ましい。具体的には浮遊培養開始後40日、好ましくは30日、より好ましくは20日までに開始する。
このようにして得られる細胞凝集体を、本工程の「網膜組織を含む細胞凝集体であり、前記網膜組織におけるChx10陽性細胞の存在割合が20%以上100%以下である細胞凝集体」として用いることができる。
まず、「網膜組織を含む細胞凝集体であり、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が20%以上100%以下である細胞凝集体」を、WO2015/087614に記載の方法に準じて、Wntシグナル伝達経路作用物質及びFGFシグナル伝達経路阻害物質を含む無血清培地又は血清培地中で、RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間中に限り、培養する。ここで、好ましい培養としては、浮遊培養を挙げることができる。
無血清培地としては、基礎培地にN2またはKSRが添加された無血清培地を挙げることができ、より具体的には、DMEM/F-12培地にN2 supplement(N2, Invitrogen社)が添加された無血清培地を挙げることができる。血清培地としては、基礎培地に牛胎児血清が添加された血清培地を挙げることができる。
培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定すればよい。培養温度としては、例えば、約30℃から約40℃の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、約37℃を挙げることができる。また、CO2濃度としては、例えば、約1%から約10%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、約5%を挙げることができる。
上記細胞凝集体を、無血清培地又は血清培地中で培養する際、該培地に含められるWntシグナル伝達経路作用物質としては、Wntにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されず、上記のものが挙げられる。
無血清培地又は血清培地に含まれるWntシグナル伝達経路作用物質の濃度としては、CHIR99021等の通常のWntシグナル伝達経路作用物質の場合には、例えば、約0.1 μMから約100 μMの範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、約1 μMから約30 μMの範囲を挙げることができる。より好ましくは、例えば、約3 μMの濃度を挙げることができる。
上記「網膜組織を含む細胞凝集体」を、無血清培地又は血清培地中で培養する際、該培地に含められるFGFシグナル伝達経路阻害物質としては、FGFにより媒介されるシグナル伝達を阻害できるものである限り特に限定されない。FGFシグナル伝達経路阻害物質としては、例えば、FGF受容体、FGF受容体阻害剤(例えば、SU-5402、AZD4547、BGJ398)、MAPキナーゼカスケード阻害物質(例えば、MEK阻害剤MAPK阻害剤、ERK阻害剤)、PI3キナーゼ阻害剤、Akt阻害剤などが挙げられる。
無血清培地又は血清培地に含まれるFGFシグナル伝達経路阻害物質の濃度は、多能性幹細胞の凝集体を形成する細胞の網膜細胞への分化を誘導可能な濃度であればよい。例えばSU-5402の場合、約0.1 μMから約100 μM、好ましくは約1 μMから約30 μM、より好ましくは約5 μMの濃度で添加する。
本明細書において「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間中に限り、培養」するとは、RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間の全部又はその一部に限り培養することを意味する。つまり、培養系内に存在する前記「網膜組織を含む細胞凝集体」が、RPE65遺伝子を実質的に発現しない細胞から構成されている期間の全部又はその一部(任意な期間)に限り培養すればよく、このような培養を採用することにより、RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体を得ることができる。「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体」には、「RPE65遺伝子を発現する細胞が全く出現していない細胞凝集体」及び「RPE65遺伝子を発現する細胞が実質的に出現していない細胞凝集体」が含まれる。「RPE65遺伝子を発現する細胞が実質的に出現していない細胞凝集体」としては、当該細胞凝集体に含まれる網膜組織におけるRPE65陽性細胞の存在割合が約1%以下である細胞凝集体を挙げることができる。
このような特定な期間を設定するには、前記「網膜組織を含む細胞凝集体」を試料として、当該試料中に含まれるRPE65遺伝子の発現有無又はその程度を、通常の遺伝子工学的手法又は生化学的手法を用いて測定すればよい。具体的には例えば、前記「網膜組織を含む細胞凝集体」の凍結切片をRPE65タンパク質に対する抗体を用いて免疫染色する方法を用いてRPE65遺伝子の発現有無又はその程度を調べることができる。
「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間」としては、例えば、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が、Wntシグナル伝達経路作用物質及びFGFシグナル伝達経路阻害物質を含む無血清培地又は血清培地中での前記細胞凝集体の培養開始時よりも減少し、30%から0%の範囲内になるまでの期間を挙げることができる。「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体」としては、前記網膜組織におけるChx10陽性細胞の存在割合が30%から0%の範囲内である細胞凝集体を挙げることができる。
「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間」の日数はWntシグナル伝達経路作用物質及びFGFシグナル伝達経路阻害物質の種類、無血清培地又は血清培地の種類、他の培養条件等に応じて変化するが、例えば、14日間以内を挙げることができる。より具体的には、無血清培地(例えば、基礎培地にN2が添加された無血清培地)が用いられる場合、前記期間として、好ましくは、例えば、10日間以内を挙げることができ、より好ましくは、例えば、2日間から6日間、更に具体的には3日間から5日間を挙げることができる。血清培地(例えば、基礎培地に牛胎児血清が添加された血清培地)が用いられる場合、前記期間として、好ましくは、例えば、12日間以内を挙げることができ、より好ましくは、例えば、6日間から9日間を挙げることができる。
こうして得られた凝集体を、本発明の方法の出発物質となる発生初期段階の網膜組織として使用することができる。
次いで、上述のようにして培養して得られた「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体」を、更にWntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で1日間〜50日間(「神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階」に相当)、好ましくは1日間〜15日間(神経節細胞が出現し始めてから約5日以内に相当)、更に好ましくは1日間〜7日間(神経節細胞が出現し始める段階に相当)培養した後に、本発明の方法において出発物質となる発生初期段階の網膜組織として使用してもよく、当該培養方法については、WO2015/087614(例えば、段落〔0076〕〜〔0079〕)を参照することができる。

0080

2-6.原料製造方法6
本発明の製造方法の出発物質として使用可能な毛様体周縁部構造体を含む発生初期段階の網膜組織は、WO2013/183774(&US2015/132787)に記載の方法で製造することもできる。
具体的には、網膜組織を含む細胞凝集体であり、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が20%以上100%以下である細胞凝集体を、Wntシグナル伝達経路作用物質を含む無血清培地又は血清培地中で、RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間中に限り、培養する工程を経て得られる凝集体、又は、更に得られた「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体」を、Wntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で培養する工程を経て得られる毛様体周縁部様構造体を含む凝集体もまた、発生初期段階の網膜組織である。

0081

ここで原料として用いられる「網膜組織を含む細胞凝集体であり、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が20%以上100%以下である細胞凝集体」、または「Wntシグナル伝達経路作用物質」としては、上記原料製造方法5の場合と同じものが挙げられる。
好ましい培養としては、例えば、浮遊培養を挙げることができる。また、好ましい培地としては、例えば、無血清培地を挙げることができる。
培養温度、CO2濃度等の培養条件は適宜設定すればよい。培養温度としては、例えば、約30℃〜約40℃の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、約37℃を挙げることができる。また、CO2濃度としては、例えば、約1%〜約10%の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、約5%を挙げることができる。
該培地に含められるWntシグナル伝達経路作用物質としては、Wntにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されず、上記のものが挙げられる。
また、無血清培地又は血清培地に含まれるWntシグナル伝達経路作用物質の濃度としては、CHIR99021等の通常のWntシグナル伝達経路作用物質の場合には、例えば、約0.1 μM〜100 μMの範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、約1 μM〜30 μMの範囲を挙げることができる。より好ましくは、例えば、約3μMの濃度を挙げることができる。
FGFシグナル伝達経路阻害物質を含まなくてもよいこと以外は製造方法5と同様にして、当該細胞凝集体を「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間中に限り、培養」する。
好ましい「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間」としては、例えば、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が50%〜1%の範囲内である期間を挙げることができる。この場合には、得られる「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体」は、前記網膜組織におけるCHX10陽性細胞の存在割合が50%〜1%の範囲内である細胞凝集体となる。
「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現するに至るまでの期間」の日数はWntシグナル伝達経路作用物質の種類、無血清培地又は血清培地の種類、他の培養条件等に応じて変化するが、例えば、14日間以内を挙げることができる。より具体的には、無血清培地(例えば、基礎培地にN2が添加された無血清培地)が用いられる場合、前記期間として、好ましくは、例えば、10日間以内を挙げることができ、より好ましくは、例えば、2日間から6日間、更に具体的には3日間から5日間を挙げることができる。血清培地(例えば、基礎培地に牛胎児血清が添加された血清培地)が用いられる場合、前記期間として、好ましくは、例えば、12日間以内を挙げることができ、より好ましくは、例えば、6日間から9日間を挙げることができる。
こうして得られた凝集体を、本発明の方法の出発物質となる発生初期段階の網膜組織として使用することができる。次いで、上述のようにして培養して得られた「RPE65遺伝子を発現する細胞が出現していない細胞凝集体」を、そのまま発生初期段階の網膜組織として使用してもよいが、更にWntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で1日間〜50日間、好ましくは1日間〜15日間、更に好ましくは1日間〜7日間培養した後に、発生初期段階の網膜組織を含む凝集体として使用してもよく、当該培養方法については、WO2015/087614(例えば、段落〔0076〕〜〔0079〕)を参照することができる。

0082

2-7.原料製造方法7
発生初期段階の網膜組織は、毛様体周縁部構造体を含んでいてもよく、毛様体周縁部構造体を含む発生初期段階の網膜組織は、WO2015/107738(及び米国特許出願No. 15/112,187)に記載の方法で製造することができる。具体的には、例えば下記の工程を含む方法により調製されるレチノスフェアもまた、本発明の製造方法で使用される方法の出発物質となる発生初期段階の網膜組織として使用することができる:
(1)多能性幹細胞から分化誘導された毛様体周縁部様構造体を含む細胞凝集体から得られた細胞を浮遊増殖培養し、レチノスフェアを得る工程。

0083

すなわち、「多能性幹細胞から分化誘導された毛様体周縁部様構造体を含む細胞凝集体」は、上記原料製造方法5又は6に従って、製造することができ、これから得られる細胞を分散し、浮遊培養し、レチノスフェアを得ることができる。
当該細胞としては、上記の「多能性幹細胞から分化誘導された毛様体周縁部様構造体を含む細胞凝集体」を分散させて得られた細胞、前記細胞凝集体から分離された毛様体周縁部様構造体を分散させて得られた細胞、又は、前記細胞凝集体から分取された細胞を分散させて得られた細胞を挙げることができる。かかる細胞を増殖因子等の存在下で低密度で浮遊培養すると、1細胞、又は、2から10細胞程度の少数の細胞に由来する球状の細胞凝集体、すなわちレチノスフェアが形成される。該レチノスフェアの製造方法については、WO2015/107738(及び米国特許出願No. 15/112,187)を参照することができる。
具体的には、分散された細胞を神経細胞培養用添加物及び増殖因子を加えた無血清培地又は血清培地中で浮遊培養することができる。培地として、好ましくは、FGFシグナル伝達経路作用物質及びEGFシグナル伝達経路作用物質からなる群から選ばれる一以上の物質を含む無血清培地又は血清培地を挙げることができる。ここで用いられるFGFシグナル伝達経路作用物質としてはFGF1、bFGF、FGF4、FGF7、FGF8、FGF9等のFGFタンパク質及びFGFシグナルの補助剤としてのheparine等が挙げられ、EGFシグナル伝達経路作用物質としてはEGF、TGF-alpha等が挙げられる。
上記のように製造したレチノスフェアは、網膜組織と同様に網膜前駆細胞又は神経網膜前駆細胞を含むので、本発明の製造方法の原料となる発生初期段階の網膜組織として使用することができる。また、上記工程(1)の後に、BMPシグナル伝達経路作用物質(例、BMP4)を含む無血清培地又は血清培地中で浮遊培養したレチノスフェアも本発明の製造方法の原料となる発生初期段階の網膜組織として使用することができる。次いで、上述のようにして得られたレチノスフェアを、更にWntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で1日間〜50日間、好ましくは1日間〜15日間、更に好ましくは1日間〜7日間培養した後に得られる細胞凝集体を発生初期段階の網膜組織として使用してもよい。

0084

3.神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織(本発明[1]に係る方法で使用可能な原料)の製造
上記本発明[1]で用いられる「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織」について以下に説明する。

0085

甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地での培養を開始する時期の網膜組織は、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養し、ミューラー細胞がみとめられる程度にまで分化・成熟した際に、PAX6陰性かつCHX10強陽性細胞(例えば、双極細胞)、及びPAX6陽性かつCHX10陰性細胞(例えば、アマクリン細胞、神経節細胞、又は水平細胞のいずれかの細胞)の割合を低減させ得る分化段階であって、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞が含まれる割合を高めることが可能な分化段階であれば特に限定はないが、後述するように「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階」にある網膜組織が好ましく用いられ得る。
具体的には、「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階」の網膜組織は、神経網膜前駆細胞のマーカーである、CHX10、好ましくはRX、PAX6及びCHX10が検出可能なレベルで検出され、かつ神経節細胞のマーカーであるTUJ1又はBRN3等が検出可能なレベルで検出可能となった直後の分化段階で、視細胞、並びに網膜色素上皮細胞、神経節細胞、水平細胞、アマクリン細胞、双極細胞及びミューラー細胞の少なくとも2つ以上、好ましくは5つ以上、より好ましくは6つ以上の細胞に分化可能な神経網膜前駆細胞(例えば、CHX10陽性、RX陽性かつPAX6陽性の細胞)を含む網膜組織が挙げられ、当該網膜組織は網膜前駆細胞を含んでいてもよい。
ここで「神経節細胞が出現直後の分化段階」か否かは、神経網膜組織に神経節細胞マーカーであるBRN3陽性細胞が出現し始める時期を特定することで判断することができる。具体的には、「神経節細胞が出現直後の分化段階」としては、神経節細胞マーカーが検出されてから約10日以内、好ましくは約5日以内、より好ましくは1日以内、更により好ましくは1時間以内が挙げられる。例えば、当該網膜組織に含まれる全細胞数の30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、更により好ましくは90%以上、特に好ましくは99%以上が神経網膜前駆細胞であり、神経節細胞マーカー陽性(好ましくは、BRN3陽性)細胞が検出され、かつその割合が全細胞数の40%以下、好ましくは20%以下、10%以下、5%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.1%以下、更により好ましくは0.01%以下の網膜組織であり、網膜前駆細胞を含んでいてもよい。
例えば、「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階」の網膜組織としては、上記の原料製造方法1〜4に記載の方法で製造する場合、浮遊培養開始後約27日〜40日目、好ましくは28日〜37日目、より好ましくは28〜33日目に相当する網膜組織が挙げられる。
また、例えば上記の原料製造方法5〜7に記載の方法で製造する場合、浮遊培養開始後約33日目〜45日目、好ましくは約33日目〜42日目、より好ましくは33日目〜38日目に相当(Wntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で培養を開始してから約11日〜23日目、好ましくは11日〜20日目、より好ましくは11〜16日目に相当)する網膜組織が挙げられる。

0086

本明細書における「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階」にある網膜組織の一態様として、視細胞前駆細胞又は錐体視細胞前駆細胞が出現し始める段階、例えば、CRX陽性細胞又はCRX陽性かつTRβ2陽性の細胞が出現し始める段階の網膜組織が挙げられる。
例えば、上記の原料製造方法1〜4に記載の方法で製造する場合、浮遊培養開始後約30日〜45日目、好ましくは約30日〜40日目に相当する網膜組織が挙げられる。
例えば、上記原料製造方法5〜7のいずれかに記載の方法で製造する場合、浮遊培養開始後約35日目〜45日目、好ましくは約35日目〜42日目に相当(Wntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で培養を開始してから約13日〜23日目、好ましくは13日〜20日目に相当)する網膜組織が挙げられる。

0087

本明細書における「錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階」の網膜組織の一態様として、具体的には、「錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大となる分化段階の網膜組織」の少なくとも1日以上前の分化段階の網膜組織が挙げられる。また、ここで、「錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大となる分化段階の網膜組織」は、錐体視細胞前駆細胞、又は錐体視細胞の出現が認められてから30〜50日後、好ましくは30〜40日後に相当する分化段階である。
甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地での培養を開始する時期の網膜組織としては、後述する通り「神経網膜前駆細胞を含み、神経節細胞が出現直後の分化段階」以降で、なるべく早い分化段階の網膜組織が好ましく使用され得る。従って、「錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階の網膜組織」としては、好ましくは錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大となる分化段階の10日以上前、より好ましくは20日以上前、更により好ましくは30日以上前、40日以上前で、かつ神経節細胞が出現している段階の網膜組織、即ち「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階にある神経網膜組織から、視細胞前駆細胞又は錐体視細胞前駆細胞が出現し始める段階までのいずれかの分化段階にある網膜組織」が好ましく挙げられる。
「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織」は、例えば、上記原料製造方法1(WO2015/025967)、原料製造方法2(WO2016/063985)及び原料製造方法3(WO2016/063986)に記載の方法であれば、BMPシグナル伝達経路作用物質(例えばBMP4)を含む培地で培養を開始してから、約27日〜69日目、好ましくは28日〜60日目、より好ましくは28〜50日目、更により好ましくは28〜40日目、28〜35日目に相当する。

0088

また、例えば上記原料製造方法4(WO2013/077425)に記載の方法であれば、前記分化段階は、基底膜標品(例えばマトリゲル)を含む培地で培養を開始してから、約27日〜69日目、好ましくは28日〜60日目、より好ましくは28〜50日目、更により好ましくは28〜40日目、28〜35日目に相当する。

0089

また、例えば、上記原料製造方法5(WO2015/087614)、原料製造方法6(WO2013/183774)又は原料製造方法7(WO2015/107738)に記載の方法であれば、前記分化段階は、RPE65陽性の毛様体周縁部構造体を含む網膜組織が得られる段階に相当し、浮遊培養開始後約33日目〜74日目、好ましくは約33日目〜65日目、より好ましくは33日目〜55日目、更により好ましくは33日目〜45日目、33日目〜40日目に相当し、上記原料製造方法5(WO2015/087614)、原料製造方法6(WO2013/183774)又は原料製造方法7(WO2015/107738)に記載の方法においてWntシグナル伝達経路作用物質存在下での培養を終了しWntシグナル伝達経路作用物質を含まない無血清培地又は血清培地中で培養を開始してから約11日〜52日目、好ましくは11日〜43日目、より好ましくは11〜33日目、更により好ましくは11〜23日目、11〜18日目に相当する。
すなわち、「発生初期段階の網膜組織」を製造する工程、及び「発生初期段階の網膜組織」を培養し「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階から錐体視細胞前駆細胞の出現率が極大に至るまでの分化段階のいずれかの段階にある網膜組織」を製造する工程は、発生初期段階の網膜組織を同定もしくは単離することなく、工程の境界なく連続的に行ってもよい。

0090

4.双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、及び/又は水平細胞の分化抑制方法
本発明の一態様として、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む神経網膜組織における、双極細胞、神経節細胞、アマクリン細胞、及び/又は水平細胞の分化抑制方法が挙げられる。
本発明の分化抑制方法によれば、「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階にある網膜組織」、すなわち「神経網膜前駆細胞を含み、かつ神経節細胞が出現直後の分化段階にある細胞凝集体」を、甲状腺ホルモンシグナル伝達経路作用物質を含む培地で培養することにより、視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む神経網膜組織における神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞及び双極細胞、これらの前駆細胞の少なくとも1つの細胞数、又はこれらの総細胞数の割合を低減させ、視細胞前駆細胞及び視細胞の割合を高めることが可能である。また、本発明の分化抑制方法により、双極細胞の割合を低減させ、視細胞前駆細胞及び視細胞の割合を高めることができる。
さらに、網膜組織を構成する各層のうち、双極細胞及びアマクリン細胞等が存在する内顆粒層や神経節細胞が存在する神経節細胞層といった基底膜側の細胞層に異所性の視細胞層(視細胞前駆細胞層とも言う)を形成させることが可能であり、移植した際、レシピエントの双極細胞と移植した網膜組織内に含まれる視細胞前駆細胞の空間的、又は物理的距離が近い、移植に適した網膜組織を作製することができる。

0091

視細胞前駆細胞及び/又は視細胞を含む移植用の網膜組織の一つの態様である、神経網膜組織内にミューラー細胞がみとめられる程度に分化、成熟した段階においては、PAX6陰性/CHX10強陽性細胞は双極細胞であり、PAX6陽性/CHX10陰性細胞は神経節細胞、アマクリン細胞もしくは水平細胞であることが当業者に知られている。このため、本明細書において視細胞前駆細胞を含む移植用の神経網膜組織において、移植の際不要となる双極細胞、アマクリン細胞、神経節細胞及び/又は水平細胞の割合を低減させることができたかどうかについては、例えば、ミューラー細胞がみとめられる程度に分化、成熟した段階の網膜組織に含まれるPAX6陰性/CHX10強陽性細胞、および/又は、PAX6陽性/CHX10陰性細胞の割合を特定すればよい。また、当該網膜組織内にミューラー細胞がみとめられるかどうかは、例えばCRALBP陽性細胞、及び/又はCRABP陽性細胞が存在することを確認すればよい。

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  • 株式会社カネカの「 多能性幹細胞凝集抑制剤」が 公開されました。( 2020/12/17)

    【課題・解決手段】この出願は、細胞周期停止剤を含むことを特徴とする多能性幹細胞の浮遊培養に用いるための多能性幹細胞凝集抑制剤、その凝集抑制剤を含む培地中で多能性幹細胞を浮遊培養する工程を含む、多能性幹... 詳細

  • 株式会社カネカの「 細胞凝集促進剤」が 公開されました。( 2020/12/17)

    【課題・解決手段】本発明は、細胞凝集塊の大きさを機械学的/物理学的な手段に依らずに適切に制御するための手段を提供することを目的とし、具体的には、SRF阻害剤を含む、細胞の浮遊培養に用いるための細胞凝集... 詳細

  • 国立大学法人東北大学の「 相同組換え修復活性の定量法」が 公開されました。( 2020/12/17)

    【課題・解決手段】細胞における相同組換え修復活性の測定方法は、部位特異的ヌクレアーゼにより、細胞内の標的ゲノムDNA領域の二本鎖を特定部位で切断すること、細胞にタグ配列を含むドナーベクターを導入し、相... 詳細

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