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課題・解決手段
概要
背景
従来より、保温効果を高めた防寒衣料やインテリア、レジャー用品が様々に考案され、実用化されてきた。
当該保温効果を高める方法には、大別して2通りの方法ある。第1の方法は、例えば上述した防寒衣料において織り編みの構造を制御したり、用いられる繊維を中空や多孔質にしたりする等して、当該防寒衣料における空気層を物理的に多くし、人体から発生する熱の放散性を減少させて保温性を維持する方法である。第2の方法は、例えば上述した防寒衣料において、当該衣料全体または防寒衣料を構成する繊維ヘ化学的・物理的な加工を施して、人体から発生する熱を再び人体へ向けて輻射したり、当該防寒衣料が受けた太陽光の一部を熱に変換するなどの積極的な方法により熱を蓄熱し、保温性を向上させる方法である。
上述した第1の方法として、衣料中の空気層を多くする、生地を厚くする、目を細かくする、あるいは色を濃くするといった方法が採られてきた。例えば、セーターなどの冬期に用いられる衣料がそれである。また、例えば、冬期のスポーツ向けとして用いられてきた衣料には、表地と裏地との間に中綿が入れられ、当該中綿の空気層の厚みで保温性を維持している。しかし、中綿が入れられると、衣料が重くかさばるために、動き易さを要求されるスポーツ向け衣料では不具合を生じる。これら不具合を解消するために、近年では、上述した第2の方法である内部で発生する熱や、外部からの熱を積極的に有効利用する方法がとられ始めている。
上述した第2の方法を実施する方策の一つとして、アルミニウムやチタンなどの金属を衣料の裏地などに蒸着し、体内から出る放射熱を当該金属蒸着面で反射することで、積極的に熱の発散を防ぐ方法などが知られている。しかし、これらの方法では衣料に金属を蒸着加工する為に、かなりのコストが掛かるばかりか、蒸着むらの発生等により歩留まりが悪くなり、結果的に衣料製品自体の価格アップにつながっていた。
また、当該第2の方法を実施する他の方策として、アルミナ系、ジルコニア系、マグネシア系などのセラミック粒子を繊維そのものに混練して、これらの無機微粒子が持つ遠赤外線放射効果や、光を熱に変える効果を利用する方法、即ち積極的に外部のエネルギーを取り入れる方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、熱伝導率が0.3kcal/m2・sec・℃以上の金属、金属イオンから選択される少なくとも1種を含有させた、近赤外線放射特性を有するシリカや、硫酸バリウム等の無機微粒子を調製する。そして、当該無機微粒子の1種または2種以上を含有した近赤外線放射性繊維を製造し、当該繊維を用いて保温性を向上させる技術が記載されている。
また、特許文献2には、繊維中に、当該繊維重量に対して0.1〜20重量%の光吸収熱変換能と遠赤外線放射能力とを有するセラミック微粒子と、酸化アルミニウム微粒子とを、含有せしめて当該繊維に優れた保温性を発揮させることが記載されている。
また、特許文献3には、アミノ化合物からなる赤外線吸収剤、必要に応じて紫外線吸収剤および各種安定剤を含む、バインダー樹脂を分散、固着させてなる赤外線吸収加工繊維製品が提案されている。
また、特許文献4には、直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料の中から選定される近赤外線領域の吸収が黒色染料よりも大きい特性を持つ染料と、他の染料とを組み合わせて染色することにより、近赤外線を吸収する(波長750〜1500nmの近赤外線の範囲内で、生地の分光反射率が65%以下である。)セルロース系繊維構造物を得る近赤外線吸収加工方法が提案されている。
そして、特許文献5および特許文献6において、本発明者らは、可視光の透過率が高くかつ反射率が低いにも拘わらず、近赤外線領域の光の透過率が低くかつ反射率が高い材料として6ホウ化物微粒子、タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子を選択し、これらの微粒子を近赤外線吸収成分として含有させた繊維、およびその繊維を加工して得られる繊維製品を開示している。
概要
太陽光などからの近赤外線を効率良く吸収し、意匠性に優れ、保温性を有する繊維、および当該繊維を用いた繊維製品を提供する。近赤外線吸収特性を有する複合タングステン酸化物微粒子を、表面および/または内部に含有する繊維であって、前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であり、前記複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が100nm以下である近赤外線吸収繊維、および当該繊維を用いた繊維製品を提供する。
目的
本発明は、これらの課題を解決するために成されたものであり、太陽光などからの近赤外線を効率良く吸収し、意匠性に優れ、保温性を有する繊維、および当該繊維を用いた繊維製品、並びにそれらの製造方法を提供する
効果
実績
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請求項1
近赤外線吸収特性を有する複合タングステン酸化物微粒子を、表面および/または内部に含有する繊維であって、前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であり、前記複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする近赤外線吸収繊維。
請求項2
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線吸収繊維。
請求項3
前記複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が、10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線吸収繊維。
請求項4
前記複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径が、10nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維。
請求項5
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維。
請求項6
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする請求項5に記載の近赤外線吸収繊維。
請求項7
請求項8
請求項1から7のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の表面および/または内部ヘ、さらに遠赤外線放射物質の微粒子を含有させた繊維であって、当該遠赤外線放射物質の微粒子の含有量が、当該繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下であることを特徴とする近赤外線吸収繊維。
請求項9
前記繊維が、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維、または、これらの繊維の混紡、合糸、混繊による混合糸、のいずれかから選択される繊維であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維。
請求項10
前記合成繊維が、ポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維のいずれか、から選択される合成繊維であることを特徴とする請求項9に記載の近赤外線吸収繊維。
請求項11
請求項12
請求項13
前記再生繊維が、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維の、いずれかから選択される再生繊維であることを特徴とする請求項9から12のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維。
請求項14
請求項15
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部が、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムの、いずれかから選択される1種類以上の元素を含む表面被覆膜により、被覆されていることを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維。
請求項16
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする請求項15に記載の近赤外線吸収繊維。
請求項17
請求項18
近赤外線吸収特性を有する複合タングステン酸化物微粒子を、表面および/または内部に含有する繊維の製造方法であって、前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、前記複合タングステン酸化物微粒子を、その格子定数がa軸は7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸は7.5600Å以上7.6240Å以下の範囲となるように製造し、前記複合タングステン酸化物微粒子において前記格子定数の範囲を保ちながら、平均粒子径を100nm以下とする粉砕・分散処理工程を行うことを特徴とする近赤外線吸収繊維の製造方法。
請求項19
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする請求項18に記載の近赤外線吸収繊維の製造方法。
請求項20
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする請求項19に記載の近赤外線吸収繊維の製造方法。
請求項21
前記複合タングステン酸化物微粒子の含有量を、前記繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下とするとを特徴とする請求項18から20のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の製造方法。
請求項22
請求項18から21のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の表面および/または内部ヘ、さらに遠赤外線放射物質の微粒子を含有させる近赤外線吸収繊維の製造方法であって、当該遠赤外線放射物質の微粒子の含有量を、前記繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下とすることを特徴とする近赤外線吸収繊維の製造方法。
請求項23
前記繊維として、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維、または、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維から選択される2種類以上の繊維の混紡による混合糸、或いは、前記2種類以上の繊維の合糸による混合糸、或いは、前記2種類以上の繊維の混繊による混合糸、から選択されるいずれかの繊維を用いることを特徴とする請求項18から22のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の製造方法。
請求項24
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部を、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムの、いずれかから選択される1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により被覆することを特徴とする請求項18から23のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の製造方法。
請求項25
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする請求項24に記載の近赤外線吸収繊維の製造方法。
技術分野
背景技術
0002
従来より、保温効果を高めた防寒衣料やインテリア、レジャー用品が様々に考案され、実用化されてきた。
当該保温効果を高める方法には、大別して2通りの方法ある。第1の方法は、例えば上述した防寒衣料において織り編みの構造を制御したり、用いられる繊維を中空や多孔質にしたりする等して、当該防寒衣料における空気層を物理的に多くし、人体から発生する熱の放散性を減少させて保温性を維持する方法である。第2の方法は、例えば上述した防寒衣料において、当該衣料全体または防寒衣料を構成する繊維ヘ化学的・物理的な加工を施して、人体から発生する熱を再び人体へ向けて輻射したり、当該防寒衣料が受けた太陽光の一部を熱に変換するなどの積極的な方法により熱を蓄熱し、保温性を向上させる方法である。
0003
上述した第1の方法として、衣料中の空気層を多くする、生地を厚くする、目を細かくする、あるいは色を濃くするといった方法が採られてきた。例えば、セーターなどの冬期に用いられる衣料がそれである。また、例えば、冬期のスポーツ向けとして用いられてきた衣料には、表地と裏地との間に中綿が入れられ、当該中綿の空気層の厚みで保温性を維持している。しかし、中綿が入れられると、衣料が重くかさばるために、動き易さを要求されるスポーツ向け衣料では不具合を生じる。これら不具合を解消するために、近年では、上述した第2の方法である内部で発生する熱や、外部からの熱を積極的に有効利用する方法がとられ始めている。
0004
上述した第2の方法を実施する方策の一つとして、アルミニウムやチタンなどの金属を衣料の裏地などに蒸着し、体内から出る放射熱を当該金属蒸着面で反射することで、積極的に熱の発散を防ぐ方法などが知られている。しかし、これらの方法では衣料に金属を蒸着加工する為に、かなりのコストが掛かるばかりか、蒸着むらの発生等により歩留まりが悪くなり、結果的に衣料製品自体の価格アップにつながっていた。
0005
また、当該第2の方法を実施する他の方策として、アルミナ系、ジルコニア系、マグネシア系などのセラミック粒子を繊維そのものに混練して、これらの無機微粒子が持つ遠赤外線放射効果や、光を熱に変える効果を利用する方法、即ち積極的に外部のエネルギーを取り入れる方法が提案されている。
0006
例えば、特許文献1には、熱伝導率が0.3kcal/m2・sec・℃以上の金属、金属イオンから選択される少なくとも1種を含有させた、近赤外線放射特性を有するシリカや、硫酸バリウム等の無機微粒子を調製する。そして、当該無機微粒子の1種または2種以上を含有した近赤外線放射性繊維を製造し、当該繊維を用いて保温性を向上させる技術が記載されている。
0007
また、特許文献2には、繊維中に、当該繊維重量に対して0.1〜20重量%の光吸収熱変換能と遠赤外線放射能力とを有するセラミック微粒子と、酸化アルミニウム微粒子とを、含有せしめて当該繊維に優れた保温性を発揮させることが記載されている。
0009
また、特許文献4には、直接染料、反応染料、ナフトール染料、バット染料の中から選定される近赤外線領域の吸収が黒色染料よりも大きい特性を持つ染料と、他の染料とを組み合わせて染色することにより、近赤外線を吸収する(波長750〜1500nmの近赤外線の範囲内で、生地の分光反射率が65%以下である。)セルロース系繊維構造物を得る近赤外線吸収加工方法が提案されている。
0010
そして、特許文献5および特許文献6において、本発明者らは、可視光の透過率が高くかつ反射率が低いにも拘わらず、近赤外線領域の光の透過率が低くかつ反射率が高い材料として6ホウ化物微粒子、タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子を選択し、これらの微粒子を近赤外線吸収成分として含有させた繊維、およびその繊維を加工して得られる繊維製品を開示している。
先行技術
0011
特開平11−279830号公報
特開平5−239716号公報
特開平8−3870号公報
特開平9−291463号公報
特開2005−9024号公報
特開2006−132042号公報
発明が解決しようとする課題
0012
上述した従来の技術に対して、本発明者らが検討を加えたところ、以下の課題が見い出された。
金属等を含有させた近赤外線放射特性を有するシリカ等の無機微粒子を調製し、当該無機微粒子を含有した近赤外線放射性繊維を製造した場合、当該無機微粒子の繊維に対する添加量が多くなる。この結果、当該繊維の比重が高くなるため衣服が重くなったり、当該無機微粒子を溶融紡糸中に均一に分散させることが極めて困難になったりする等の問題点があった。
0013
また、アルミニウムやチタン等の金属粉末を、固着や蒸着加工等により繊維ヘ付着させて、輻射反射効果を持たせ保温性を向上させた場合、固着や蒸着加工による繊維の色の変化が大きく用途が限定される。さらに、蒸着加工に伴うコストアップ、蒸着加工前の準備工程における布帛の微妙な取扱いによる蒸着斑の発生、洗濯あるいは着用時の摩擦に起因する蒸着金属の脱落による保温性能の低下等種々の問題があった。
0014
また、セラミック微粒子と酸化アルミニウム微粒子とを繊維中に含有せしめる方法では、用いている赤外線吸収材料が有機材料または黒色染料等である為、熱や湿度による劣化が著しく、耐候性に劣るという課題を有している。さらに、当該赤外線吸収材料を付与することで濃色に着色されるため、淡色の製品には使用できず、使用可能分野が限定されるという課題もあった。
0015
そして、6ホウ化物微粒子を含有させた繊維の場合、保温性を持たせる実用的な繊維製品とするには、より高い近赤外線吸収特性が求められ、当該繊維においても近赤外線吸収特性の改善の余地を有していた。
0016
一方、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子を含有させた繊維の場合、少ない添加量で太陽光などからの近赤外線を効率よく吸収した。しかしながら特許文献6にて開示された方法で製造したタングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子は、その結晶性が低い為、当該微粒子を含有させた繊維の近赤外線吸収特性は十分なものではなかった。
0017
本発明は、これらの課題を解決するために成されたものであり、太陽光などからの近赤外線を効率良く吸収し、意匠性に優れ、保温性を有する繊維、および当該繊維を用いた繊維製品、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0018
本発明者らは、上述の目的を達成するため鋭意研究を行った。
一般に、自由電子を含む材料は、太陽光線の領域周辺である波長200nmから2600nmの電磁波に対しプラズマ振動による反射吸収応答を示すことが知られている。そして、当該材料の粉末を光の波長より小さい微粒子とすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて、可視光領域の透明性を得られることが知られている。尚、本発明において「透明性」とは、可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高いという意味で用いている。
0019
一方、一般式WO3−xで表されるタングステン酸化物や、3酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加したいわゆるタングステンブロンズは、導電性材料であり、自由電子を持つ材料であることが知られている。そして、これらの材料は、単結晶等の分析結果より赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
0020
本発明者らは研究の結果、近赤外線吸収材料微粒子である複合タングステン酸化物微粒子において、含まれる結晶を六方晶とし、その格子定数においてa軸とc軸との値を、a軸は7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸は7.5600Å以上7.6240Å以下とし、当該微粒子の平均粒子径を100nm以下とする構成に想到した。そして、本発明者らは、当該構成を備える六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子を内部に含有する近赤外線吸収繊維に想到し本発明を完成したものである。
0021
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
近赤外線吸収特性を有する複合タングステン酸化物微粒子を、表面および/または内部に含有する繊維であって、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする近赤外線吸収繊維である。
第2の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の格子定数は、a軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下であることを特徴とする第1の発明に記載の近赤外線吸収繊維である。
第3の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が、10nm以上100nm以下であることを特徴とする第1または第2の発明に記載の近赤外線吸収繊維である。
第4の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径が、10nm以上100nm以下であることを特徴とする第1から第3の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維である。
第5の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維である。
第6の発明は、
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする第5の発明に記載の近赤外線吸収繊維である。
第7の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の含有量が、前記繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下であることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維である。
第8の発明は、
第1から第7の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の表面および/または内部ヘ、さらに遠赤外線放射物質の微粒子を含有させた繊維であって、
当該遠赤外線放射物質の微粒子の含有量が、当該繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下であることを特徴とする近赤外線吸収繊維である。
第9の発明は、
前記繊維が、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維、または、これらの繊維の混紡、合糸、混繊による混合糸のいずれか、から選択される繊維であることを特徴とする第1から第8の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維である。
第10の発明は、
前記合成繊維が、ポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維の、いずれかから選択される合成繊維であることを特徴とする第9の発明に記載の近赤外線吸収繊維である。
第11の発明は、
前記半合成繊維が、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、塩化ゴム、塩酸ゴムの、いずれかから選択される半合成繊維であることを特徴とする第9または第10の発明に記載の近赤外線吸収繊維である。
第12の発明は、
前記天然繊維が、植物繊維、動物繊維、鉱物繊維の、いずれかから選択される天然繊維であることを特徴とする第9から第11の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維である。
第13の発明は、
前記再生繊維が、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維の、いずれかから選択される再生繊維であることを特徴とする第9から第12の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維である。
第14の発明は、
前記無機繊維が、金属繊維、炭素繊維、けい酸塩繊維の、いずれかから選択される無機繊維であることを特徴とする第9から第13の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維である。
第15の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面が、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムの、いずれかから選択される1種類以上の元素を含む表面被覆膜により、被覆されていることを特徴とする第1から第14の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維である。
第16の発明は、
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする第15の発明に記載の近赤外線吸収繊維である。
第17の発明は、
第1から第16の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の加工物であることを特徴とする繊維製品である。
第18の発明は、
近赤外線吸収特性を有する複合タングステン酸化物微粒子を、表面および/または内部に含有する繊維の製造方法であって、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記複合タングステン酸化物微粒子を、その格子定数がa軸は7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸は7.5600Å以上7.6240Å以下の範囲となるように製造し、
前記複合タングステン酸化物微粒子において前記格子定数の範囲を保ちながら、平均粒子径を100nm以下とする粉砕・分散処理工程を行うことを特徴とする近赤外線吸収繊維の製造方法である。
第19の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MxWyOz(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybから選択される1種類以上の元素で、Wはタングステン、Oは酸素で、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする第18の発明に記載の近赤外線吸収繊維の製造方法である。
第20の発明は、
前記M元素が、Cs、Rbから選択される1種類以上の元素であることを特徴とする第19の発明に記載の近赤外線吸収繊維の製造方法である。
第21の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の含有量を、前記繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下とするとを特徴とする第18から第20の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の製造方法である。
第22の発明は、
第18から第21の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の表面および/または内部ヘ、さらに遠赤外線放射物質の微粒子を含有させる近赤外線吸収繊維の製造方法であって、
当該遠赤外線放射物質の微粒子の含有量を、前記繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下とすることを特徴とする近赤外線吸収繊維の製造方法である。
第23の発明は、
前記繊維として、
合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維、
または、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維から選択される2種類以上の繊維の混紡による混合糸、或いは、前記2種類以上の繊維の合糸による混合糸、或いは、前記2種類以上の繊維の混繊による混合糸、
から選択されるいずれかの繊維を用いることを特徴とする第18から第22の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の製造方法である。
第24の発明は、
前記複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部を、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムの、いずれかから選択される1種類以上の元素を含有する表面被覆膜により被覆することを特徴とする第18から第23の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収繊維の製造方法である。
第25の発明は、
前記表面被覆膜が、酸素原子を含有することを特徴とする第24の発明に記載の近赤外線吸収繊維の製造方法である。
発明の効果
0022
本発明に係る近赤外線吸収繊維は、太陽光などからの近赤外線を効率良く吸収し、同時に可視光領域の光は透過させるので意匠性に優れ、優れた保温性を発揮した。
図面の簡単な説明
0024
本発明に係る近赤外線吸収繊維は、近赤外線吸収成分として所定の構成を備えた複合タングステン酸化物微粒子を含有させた繊維である。そこで、本発明に係る近赤外線吸収繊維を実施するための形態について、[1]複合タングステン酸化物微粒子、[2]近赤外線吸収繊維、の順に説明する。
0025
[1]複合タングステン酸化物微粒子
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子と、当該複合タングステン酸化物微粒子を各種の繊維へ含有させて後述する近赤外線吸収繊維を製造する為に用いる複合タングステン酸化物微粒子分散液とについて、[a]複合タングステン酸化物微粒子の性状、[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法、[c]複合タングステン酸化物微粒子分散液、の順で説明する。
0026
[a]複合タングステン酸化物微粒子の性状
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、近赤外線吸収特性を有し、六方晶の結晶構造を含む複合タングステン酸化物微粒子であり、当該六方晶の複合タングステン酸化物の格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下を有するものである。そして、(c軸の格子定数/a軸の格子定数)に係る比の値が、1.0221以上、1.0289以下であることが好ましいものである。また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その平均粒子径が100nm以下のものである。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子について、(1)結晶構造と格子定数、(2)粒子径および結晶子、(3)複合タングステン酸化物微粒子の組成、(4)複合タングステン酸化物微粒子の表面被覆、(5)まとめ、の順に説明する。
0027
(1)結晶構造と格子定数
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造を取るが、いずれの構造をとるときも近赤外線吸収材料として有効である。しかしながら、当該複合タングステン酸化物微粒子がとる結晶構造によって、近赤外線領域における吸収位置が変化する傾向がある。即ち、近赤外線領域の吸収位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、六方晶のときは正方晶のときよりも、さらに長波長側へ移動する傾向がある。また、当該吸収位置の変動に付随して、可視光線領域の光の吸収は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。
0028
以上の知見から、可視光領域の光をより透過させ、近赤外線領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが最も好ましい。複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過率が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造において、WO6単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙(トンネル)が構成され、当該空隙中にM元素が配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
0029
本発明に係る、可視光領域の透過を向上させ、近赤外線領域の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物微粒子中に、単位構造(WO6単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中にM元素が配置した構造)が含まれていれば良い。
この六角形の空隙にM元素の陽イオンが添加されて存在するとき、近赤外線領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きなM元素を添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、Rb、K、Tl、In、Baから選択される1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易く好ましい。
さらに、これらイオン半径の大きなM元素のうちでもCs、Rbから選択される1種類以上を添加した複合タングステン酸化物微粒子においては、近赤外線領域の吸収と可視光線領域の透過との両立が達成できる。
尚、M元素として2種類以上を選択し、その内の1つをCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択し、残りを、M元素を構成する1以上の元素から選択した場合にも、六方晶となることがある。
0030
M元素としてCsを選択したCsタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.4031Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5750Å以上7.6240Å以下であることが好ましく、より 好ましくはa軸が7.4031Å以上7.4111Å以下、c軸が7.5891Å以上7.6240Å以下である。
M元素としてRbを選択したRbタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.3950Å以下、c軸が7.5600Å以上7.5700Å以下であることが好ましい。
M元素としてCsとRbとを選択したCsRbタングステン酸化物微粒子の場合、その格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であることが好ましい。
尤も、M元素が上記CsやRbに限定される訳ではない。M元素がCsやRb以外の元素であっても、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加M元素として存在すれば良い。
0031
本発明に係る六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子を一般式MxWyOzで表記したとき、当該複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加M元素の添加量は、0.001≦x/y≦1、好ましくは0.2≦x/y≦0.5、更に好ましくは0.20≦x/y≦0.37、最も好ましくはx/y=0.33である。これは、理論上z/y=3のとき、x/y=0.33となることで、添加M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられた為である。典型的な例としてはCs0.33WO3、Cs0.03Rb0.30WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Ba0.33WO3などを挙げることができる。
0032
ここで、本発明者らは、複合タングステン酸化物微粒子の近赤外線吸収機能をより向上させる方策について研究を重ね、含有される自由電子の量をより増加させる構成に想到した。
即ち、当該自由電子量を増加させる方策として、当該複合タングステン酸化物微粒子へ機械的な処理を加え、含まれる六方晶へ適宜な歪や変形を付与することに想到したものである。当該適宜な歪や変形を付与された六方晶においては、結晶子構造を構成する原子における電子軌道の重なり状態が変化し、自由電子の量が増加するものと考えられる。
0033
上述した想到に基づき、本発明者らは後述する「[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法」の焼成工程において生成した複合タングステン酸化物の粒子から、複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する際の分散工程において、複合タングステン酸化物の粒子を所定条件下にて粉砕することにより結晶構造へ歪や変形を付与し、自由電子量を増加させて、複合タングステン酸化物微粒子の近赤外線吸収機能をさらに向上させることを研究した。
0034
そして当該研究から、焼成工程を経て生成した複合タングステン酸化物の粒子について、各々の粒子に着目して検討した。すると、当該各々の粒子間において、格子定数も、構成元素組成も、各々ばらつきが生じていることを知見した。
さらなる研究の結果、当該各々の粒子間における格子定数や構成元素組成のばらつきにも拘わらず、最終的に得られる複合タングステン酸化物微粒子において、その格子定数が所定の範囲内にあれば、所望の光学特性を発揮することを知見した。
0035
上述した知見を得た本発明者らは、さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造における格子定数であるa軸とc軸とを測定することによって、当該微粒子の結晶構造の歪や変形の度合いを把握しつつ、当該微粒子が発揮する光学的特性について研究した。
そして当該研究の結果、六方晶の複合タングステン酸化物微粒子において、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下であるとき、当該微粒子は、波長350nm〜600nmの範囲に極大値を有し、波長800nm〜2100nmの範囲に極小値を有する光の透過率を示し、優れた近赤外線吸収効果を発揮する複合タングステン酸化物微粒子であるとの知見を得た。
0036
さらに、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子のa軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下を有する六方晶の複合タングステン酸化物微粒子において、M元素の添加量を示すx/yの値が0.001≦x/y≦1の範囲内にあるとき、好ましくは0.20≦x/y≦0.37の範囲内にあるとき、特に優れた近赤外線吸収効果を発揮することも知見した。
0037
また、複合タングステン酸化物微粒子においては、アモルファス相の体積比率が50%以下の単結晶であることが好ましいことも知見した。
複合タングステン酸化物微粒子が、アモルファス相の体積比率50%以下の単結晶であると、格子定数を上述した所定の範囲内に維持しながら、結晶子径を10nm以上100nm以下とすることができ、優れた光学的特性を発揮することができるものと考えられる。
0038
尚、複合タングステン酸化物微粒子が単結晶であることは、透過型電子顕微鏡等による電子顕微鏡像において、各微粒子内部に結晶粒界が観察されず、一様な格子縞のみが観察されることから確認することができる。また、複合タングステン酸化物微粒子においてアモルファス相の体積比率が50%以下であることは、同じく透過型電子顕微鏡像において、微粒子全体に一様な格子縞が観察され、格子縞が不明瞭な箇所が殆ど観察されないことから確認することができる。
さらに、アモルファス相は各微粒子外周部に存在する場合が多いので、各微粒子外周部に着目することで、アモルファス相の体積比率を算出可能な場合が多い。例えば、真球状の複合タングステン酸化物微粒子において、格子縞が不明瞭なアモルファス相が当該微粒子外周部に層状に存在する場合、その平均粒子径の10%以下の厚さであれば、当該複合タングステン酸化物微粒子におけるアモルファス相の体積比率は、50%以下である。
0039
一方、複合タングステン酸化物微粒子が、複合タングステン酸化物微粒子分散体を構成する樹脂等の固体媒体のマトリックス中で分散している場合、当該分散している複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径から結晶子径を引いた値が、当該平均粒子径の20%以下であれば、当該複合タングステン酸化物微粒子は、アモルファス相の体積比率50%以下の単結晶であると言える。
0040
以上のことから、複合タングステン酸化物微粒子分散体に分散された複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径から結晶子径を引いた値が、当該平均粒子径の値の20%以下になるように、複合タングステン酸化物微粒子の合成工程、粉砕工程、分散工程を、製造設備に応じて適宜調整することが好ましい。
なお、複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造や格子定数の測定は、近赤外線吸収体形成用分散液の溶媒を除去して得られる複合タングステン酸化物微粒子に対し、X線回折法により当該微粒子に含まれる結晶構造を特定し、リートベルト法を用いることにより格子定数としてa軸長およびc軸長を算出することが出来る。
0041
(2)粒子径および結晶子径
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その平均粒子径が100nm以下のものである。そして、より優れた赤外線吸収特性を発揮させる観点から、当該平均粒子径は10nm以上100nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下である。平均粒子径が10nm以上60nm以下の範囲であれば、最も優れた赤外線吸収特性が発揮される。
ここで、平均粒子径とは凝集していない個々の複合タングステン酸化物微粒子がもつ径の値であり、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の粒子径である。
一方、当該平均粒子径は、複合タングステン酸化物微粒子の凝集体の径を含むものではなく、分散粒子径とは異なるものである。
0042
尚、平均粒子径は複合タングステン酸化物微粒子の電子顕微鏡像から算出される。
複合タングステン酸化物微粒子分散体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径は、断面加工で取り出した複合タングステン酸化物微粒子分散体の薄片化試料の透過型電子顕微鏡像から、複合タングステン酸化物微粒子100個の粒子径を、画像処理装置を用いて測定し、その平均値を算出することで求めることが出来る。当該薄片化試料を取り出すための断面加工には、ミクロトーム、クロスセクションポリッシャ、集束イオンビーム(FIB)装置等を用いることが出来る。尚、複合タングステン酸化物微粒子分散体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径とは、マトリックスである固体媒体中で分散している複合タングステン酸化物微粒子の粒子径の平均値である。
0043
また、優れた赤外線吸収特性を発揮させる観点から、複合タングステン酸化物微粒子の結晶子径は10nm以上100nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下である。結晶子径が10nm以上60nm以下の範囲であれば、最も優れた赤外線吸収特性が発揮されるからである。
0044
尚、後述する解砕処理、粉砕処理または分散処理を経た後に得られる複合タングステン酸化物微粒子分散液中に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の格子定数や結晶子径は、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から揮発成分を除去して得られた複合タングステン酸化物微粒子や、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から得られる複合タングステン酸化物微粒子分散体中に含まれる複合タングステン酸化物微粒子においても維持される。
この結果、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液や複合タングステン酸化物微粒子を含む複合タングステン酸化物微粒子分散体においても本発明の効果は発揮される。
0045
(3)複合タングステン酸化物微粒子の組成
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される、複合タングステン酸化物微粒子であることが好ましい。
0046
当該一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物微粒子について説明する。
一般式MxWyOz中のM元素、x、y、zおよびその結晶構造は、複合タングステン酸化物微粒子の自由電子密度と密接な関係があり、近赤外線吸収特性に大きな影響を及ぼす。
0047
一般に、三酸化タングステン(WO3)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外線吸収特性が低い。
ここで本発明者らは、当該タングステン酸化物へ、M元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素)を添加して複合タングステン酸化物とすることで、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効なものとなること、且つ、当該複合タングステン酸化物は化学的に安定な状態を保ち、耐候性に優れた近赤外線吸収材料として有効なものとなることを知見したものである。さらに、M元素は、Cs、Rb、K、Tl,Ba、Inが好ましいこと、なかでも、M元素がCs、Rbであると、当該複合タングステン酸化物が六方晶構造を取り易くなる。この結果、可視光線を透過し、近赤外線を吸収し、熱に変換することから、後述する理由により特に好ましいことも知見したものである。尚、M元素として2種類以上を選択し、その内の1つをCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択し、残りはM元素を構成する1以上の元素から選択した場合にも、六方晶となることがある。
0048
ここで、M元素の添加量を示すxの値についての本発明者らの知見を説明する。
x/yの値が0.001以上であれば、十分な量の自由電子が生成され目的とする近赤外線吸収特性を得ることが出来る。そして、M元素の添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収特性も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下であれば、複合タングステン微粒子に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
0049
次に、酸素量の制御を示すzの値についての本発明者らの知見を説明する。
一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物微粒子において、z/yの値は、2.0≦z/y≦3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0であり、さらに好ましくは2.6≦z/y≦3.0、最も好ましくは2.7≦z/y≦3.0である。このz/yの値が2.0以上であれば、当該複合タングステン酸化物中に目的以外であるWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので、有効な赤外線吸収材料として適用できるためである。一方、このz/yの値が3.0以下であれば、当該タングステン酸化物中に必要とされる量の自由電子が生成され、効率よい赤外線吸収材料となる。
0050
(4)複合タングステン酸化物微粒子の表面被覆膜
複合タングステン酸化物微粒子の耐候性を向上させるために、複合タングステン酸化物微粒子の表面の少なくとも一部をケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムから選択される1種類以上の元素を含む表面被覆膜により、被覆することも好ましい。これらの表面被覆膜は基本的に透明であり、添加することで複合タングステン酸化物微粒子の可視光透過率を低下させることがないため、繊維の意匠性を損なうことがない。被覆方法は特に限定されないが、当該複合タングステン酸化物料微粒子を分散した溶液中へ、上記元素を含む金属のアルコキシドを添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。この場合、前記表面被覆膜は酸素原子を含有するが、当該表面被覆膜が酸化物で構成されていることが好ましい。
0051
(5)まとめ
以上、詳細に説明した、複合タングステン酸化物微粒子の格子定数や平均粒子径、結晶子径は、所定の合成条件によって制御可能である。具体的には、後述する熱プラズマ法や固相反応法などにおいて、当該微粒子が生成される際の温度(焼成温度)、生成時間(焼成時間)、生成雰囲気(焼成雰囲気)、前駆体原料の形態、生成後のアニール処理、不純物元素のドープなどの合成条件の適宜な設定によって制御可能である。
0052
[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の合成方法について説明する。
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の合成方法としては、熱プラズマ中にタングステン化合物の出発原料を投入する熱プラズマ法や、タングステン化合物出発原料を還元性ガス雰囲気中で熱処理する固相反応法が挙げられる。熱プラズマ法や固相反応法で合成された複合タングステン酸化物微粒子は、分散処理または粉砕・分散処理される。
以下、(1)熱プラズマ法、(2)固相反応法、(3)合成された複合タングステン酸化物微粒子、の順に説明する。
0053
(1)熱プラズマ法
熱プラズマ法について(i)熱プラズマ法に用いる原料、(ii)熱プラズマ法とその条件、の順に説明する。
0054
(i)熱プラズマ法に用いる原料
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を熱プラズマ法で合成する際には、タングステン化合物と、M元素化合物との混合粉体を原料として用いることができる。
タングステン化合物としては、タングステン酸(H2WO4)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
0055
また、M元素化合物としては、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
上述したタングステン化合物と上述したM元素化合物とを含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.0、2.0≦z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる、そして、当該混合粉体は、熱プラズマ法の原料とすることが出来る。
0056
また、当該混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下にて、1段階目の焼成によって得られる複合タングステン酸化物を得る際における熱プラズマ法の原料とすることも出来る。他にも、1段階目で不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成し、当該1段階目の焼成物を、2段階目にて不活性ガス雰囲気下で焼成する、という2段階の焼成によって得られる複合タングステン酸化物を、熱プラズマ法の原料とすることも出来る。
0057
(ii)熱プラズマ法とその条件
本発明で用いる熱プラズマとして、例えば、直流アークプラズマ、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、低周波交流プラズマ、のいずれか、または、これらのプラズマの重畳したもの、または、直流プラズマに磁場を印加した電気的な方法により生成するプラズマ、大出力レーザーの照射により生成するプラズマ、大出力電子ビームやイオンビームにより生成するプラズマ、が適用出来る。尤も、いずれの熱プラズマを用いるにしても、10000〜15000Kの高温部を有する熱プラズマであり、特に、微粒子の生成時間を制御できるプラズマであることが好ましい。
0058
当該高温部を有する熱プラズマ中に供給された原料は、当該高温部において瞬時に蒸発する。そして、当該蒸発した原料は、プラズマ尾炎部に至る過程で凝縮し、プラズマ火炎外で急冷凝固されて、複合タングステン酸化物微粒子を生成する。
0059
高周波プラズマ反応装置を用いる場合を例として、図1を参照しながら合成方法について説明する。
先ず、真空排気装置により、水冷石英二重管内と反応容器6内とで構成される反応系内を、約0.1Pa(約0.001Torr)まで真空引きする。反応系内を真空引きした後、今度は、当該反応系内をアルゴンガスで満たし、1気圧のアルゴンガス流通系とする。
その後、反応容器内にプラズマガスとして、アルゴンガス、アルゴンとヘリウムの混合ガス(Ar−He混合ガス)、またはアルゴンと窒素の混合ガス(Ar−N2混合ガス)から選択されるいずれかのガスを、プラズマガス供給ノズル4から30〜45L/minの流量で導入する。一方、プラズマ領域のすぐ外側に流すシースガスとしてAr−He混合ガスを、シースガス供給ノズル3から60〜70L/minの流量で導入する。
そして、高周波コイル2に交流電流をかけて、高周波電磁場(周波数4MHz)により熱プラズマ1を発生させる。このとき、高周波電力は30〜40kWとする。
0060
さらに、粉末供給ノズル5より、上記合成方法で得たM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、または、複合タングステン酸化物を、ガス供給装置から供給する6〜98L/minのアルゴンガスをキャリアガスとして、供給速度25〜50g/minの割合で,熱プラズマ中に導入して所定時間反応を行う。反応後、生成した複合タングステン酸化物微粒子は、吸引管7を通過してフィルター8に堆積するので、これを回収する。
キャリアガス流量と原料供給速度は、微粒子の生成時間に大きく影響する。そこで、キャリアガス流量を6L/min以上9L/min以下とし、原料供給速度を25〜50g/minとするのが好ましい。
0061
また、プラズマガス流量を30L/min以上45L/min以下、シースガス流量を60L/min以上70L/min以下とすることが好ましい。プラズマガスは10000〜15000Kの高温部を有する熱プラズマ領域を保つ機能があり、シースガスは反応容器内における石英トーチの内壁面を冷やし、石英トーチの溶融を防止する機能がある。それと同時に、プラズマガスとシースガスはプラズマ領域の形状に影響を及ぼすため、それらのガスの流量はプラズマ領域の形状制御に重要なパラメータとなる。プラズマガスとシースガス流量を上げるほどプラズマ領域の形状がガスの流れ方向に延び、プラズマ尾炎部の温度勾配が緩やかなるので、生成される微粒子の生成時間を長くし、結晶性の良い微粒子を生成できるようになる。
0062
熱プラズマ法で合成し得られる複合タングステン酸化物において、その結晶子径が200nmを超える場合や、熱プラズマ法で合成し得られる複合タングステン酸化物から得られる複合タングステン酸化物微粒子分散液中の複合タングステン酸化物の分散粒子径が200nmを超える場合は、後述する、粉砕・分散処理を行うことができる。熱プラズマ法で複合タングステン酸化物を合成する場合は、そのプラズマ条件や、その後の粉砕・分散処理条件を適宜選択して、複合タングステン酸化物の粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長を付与出来る粉砕条件(微粒子化条件)を定めることにより、本発明の効果が発揮される。
0063
(2)固相反応法
固相反応法について(i)固相反応法に用いる原料、(ii)固相反応法における焼成とその条件、の順に説明する。
0064
(i)固相反応法に用いる原料
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を固相反応法で合成する際には、原料としてタングステン化合物およびM元素化合物を用いる。
タングステン化合物は、タングステン酸(H2WO4)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後、溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、より好ましい実施形態である一般式MxWyOz(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択される1種類以上の元素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子の原料の合成に用いるM元素化合物には、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
0065
また、Si、Al、Zrから選ばれる1種以上の不純物元素を含有する化合物(本発明において「不純物元素化合物」と記載する場合がある。)を、原料として含んでもよい。当該不純物元素化合物は、後の焼成工程において複合タングステン化合物と反応せず、複合タングステン酸化物の結晶成長を抑制して、結晶の粗大化を防ぐ働きをするものである。不純物元素を含む化合物は、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましく、粒径が500nm以下のコロイダルシリカやコロイダルアルミナが特に好ましい。
0066
上記タングステン化合物と、上記M元素化合物を含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。不純物元素化合物を原料として含有させる場合は、不純物元素化合物が0.5質量%以下になるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる。
0067
(ii)固相反応法における焼成とその条件
当該湿式混合で合成したM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下、1段階で焼成する。焼成温度は複合タングステン酸化物微粒子が結晶化し始める温度に近いことが好ましく、具体的には焼成温度が1000℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましく、800℃以下500℃以上の温度範囲がさらに好ましい。
0068
還元性ガスは特に限定されないがH2が好ましい。また、還元性ガスとしてH2を用いる場合、その濃度は焼成温度と出発原料の物量に応じて適宜選択すれば良く特に限定されない。例えば、20容量%以下、好ましくは10容量%以下、より好ましくは7容量%以下である。還元性ガスの濃度が20容量%以下であれば、急速な還元により日射吸収機能を有しないWO2が生成するのを回避できるからである。このとき、この焼成条件の制御により、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長を所定の値に設定することが出来る。
尤も、当該複合タングステン酸化物微粒子の合成において、前記タングステン化合物に替えて、三酸化タングステンを用いても良い。
0069
(3)合成された複合タングステン酸化物微粒子
熱プラズマ法や固相反応法による合成法で得られた複合タングステン酸化物微粒子を用いて、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散液を作製した場合、当該分散液に含有されている微粒子の分散粒子径が200nmを超える場合は、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程において、粉砕・分散処理すればよい。そして、粉砕・分散処理を経て得られた複合タングステン酸化物微粒子の粒子径、結晶子径、格子定数のa軸長やc軸長の値が本発明の範囲を実現できていれば、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子やその分散液から得られる複合タングステン酸化物微粒子分散体は、優れた近赤外線吸収特性を実現できるのである。
0070
上述したように、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、その平均粒子径が100nm以下のものである。しかし、「[b]複合タングステン酸化物微粒子の合成方法」に示す方法で得られた複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径が100nmを超えた場合は、粉砕・分散処理して微粒化し、複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程(粉砕・分散処理工程)と、製造された複合タングステン酸化物微粒子分散液を乾燥処理して揮発成分(ほとんどが溶媒)を除去することで、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を合成することができる。
0071
乾燥処理の設備としては、加熱および/または減圧が可能で、当該微粒子の混合や回収がし易いという観点から、大気乾燥機、万能混合機、リボン式混合機、真空流動乾燥機、振動流動乾燥機、凍結乾燥機、リボコーン、ロータリーキルン、噴霧乾燥機、パルコン乾燥機、等が好ましいが、これらに限定されない。
0072
[c]複合タングステン酸化物微粒子分散液
上述した工程で得られた複合タングステン酸化物微粒子を、各種の繊維へ含有させて後述する近赤外線吸収繊維を製造する為に用いる複合タングステン酸化物微粒子分散液について説明する。
複合タングステン酸化物微粒子分散液は、前記合成方法で得られた複合タングステン酸化物微粒子と、水、有機溶媒、液状樹脂、プラスチック用の液状可塑剤、高分子単量体またはこれらの混合物から選択される混合スラリーの液状媒体、および適量の分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を、媒体攪拌ミルで粉砕、分散させたものである。
そして、当該溶媒中における当該微粒子の分散状態が良好で、その分散粒子径が1〜200nmであることを特徴とする。また、該複合タングステン酸化物微粒子分散液に含有されている複合タングステン酸化物微粒子の含有量が、0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液について、(1)用いられる溶媒、(2)用いられる分散剤、(3)粉砕・分散方法、(4)分散粒子径、(5)バインダー、その他の添加剤、の順に説明する。
0073
(1)用いられる溶媒
複合タングステン酸化物微粒子分散液に用いられる液状溶媒は特に限定されるものではなく、複合タングステン酸化物微粒子分散液の塗布条件、塗布環境、および、適宜添加される無機バインダーや樹脂バインダーなどに合わせて適宜選択すればよい。例えば、液状溶媒は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、媒体樹脂用の液状可塑剤、高分子単量体、または、これらの混合物などである。
0074
ここで、有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3−メチル−メトキシ−プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどが使用可能である。そして、これらの有機溶媒中でも、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n−ブチルなどが好ましい。
0075
油脂としては、植物油脂または植物由来油脂が好ましい。植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油が用いられる。植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などが用いられる。また、市販の石油系溶剤も油脂として用いることができ、アイソパーE、エクソールHexane、エクソールHeptane、エクソールE、エクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(以上、エクソンモービル製)等を挙げることができる。
0076
ここで、液状可塑剤としては、例えば一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤や、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられ、いずれも室温で液状であるものが好ましい。なかでも、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
0077
多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物が挙げられる。また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、前記一塩基性有機とのエステル化合物等も挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−オクタネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステルが好適である。トリエチレングリコールの脂肪酸エステルが望ましい。
0078
また、高分子単量体とは重合等により高分子を形成する単量体であるが、本発明で用いる好ましい高分子単量体としては、メチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体やスチレン樹脂単量体などが挙げられる。
0079
以上、説明した液状溶媒は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、必要に応じて、これらの液状溶媒へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
0080
(2)用いられる分散剤
さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液中における複合タングステン酸化物微粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒子径の粗大化を回避するために、各種の分散剤、界面活性剤、カップリング剤などの添加も好ましい。当該分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基は、複合タングステン酸化物微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、赤外線吸収膜中においても本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を均一に分散させる効果を持つ。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤がさらに望ましい。
0081
このような分散剤には、
日本ルーブリゾール社製、SOLSPERSE(登録商標)(以下同じ)3000、5000、9000、11200、12000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、71000、76500、J180、J200、M387等;
SOLPLUS(登録商標)(以下同じ)D510、D520、D530、D540、DP310、K500、L300、L400、R700等;
ビックケミー・ジャパン社製、Disperbyk(登録商標)(以下同じ)−101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、191、192、2000、2001、2009、2020、2025、2050、2070、2095、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164;
Anti−Terra(登録商標)(以下同じ)−U、203、204等;
BYK(登録商標)(以下同じ)−P104、P104S、P105、P9050、P9051、P9060、P9065、P9080、051、052、053、054、055、057、063、065、066N、067A、077、088、141、220S、300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、340、345、346、347、348、350、354、355、358N、361N、370、375、377、378、380N、381、392、410、425、430、1752、4510、6919、9076、9077、W909、W935、W940、W961、W966、W969、W972、W980、W985、W995、W996、W9010、Dynwet800、Siclean3700、UV3500、UV3510、UV3570等;
エフカアディデブズ社製、EFKA(登録商標)(以下同じ)2020、2025、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4046、4047、4060、4080、7462、4020、4050、4055、4300、4310、4320、4400、4401、4402、4403、4300、4320、4330、4340、5066、5220、6220、6225、6230、6700、6780、6782、8503;
BASFジャパン社製、JONCRYL(登録商標)(以下同じ)67、678、586、611、680、682、690、819、−JDX5050等;
大塚化学社製、TERPLUS(登録商標)(以下同じ) MD1000、D 1180、D 1130等;
味の素ファインテクノ社製、アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB−711、PB−821、PB−822等;
楠本化成社製、ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1751N、1831、1850、1860、1934、DA−400N、DA−703−50、DA−325、DA−375、DA−550、DA−705、DA−725、DA−1401、DA−7301、DN−900、NS−5210、NVI−8514L等;
東亞合成社製、アルフォン(登録商標)(以下同じ)UC−3000、UF−5022、UG−4010、UG−4035、UG−4070等;が挙げられる。
0082
(3)粉砕・分散方法
複合タングステン酸化物微粒子の分散液への分散方法は、当該微粒子を分散液中において、凝集させることなく均一に分散できる方法であれば特に限定されない。当該粉砕・分散方法として、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。その中でも、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いる、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルで粉砕、分散させることは、所望とする分散粒子径に要する時間が短いことから好ましい。
媒体攪拌ミルを用いた粉砕・分散処理によって、複合タングステン酸化物微粒子の分散液中への分散と同時に、複合タングステン酸化物微粒子同士の衝突や媒体メディアの該微粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、複合タングステン酸化物微粒子をより微粒子化して分散させることができる(即ち、粉砕・分散処理される。)。
0083
このとき、微粒子化され分散した複合タングステン酸化物微粒子において、優れた赤外線吸収特性が発揮される観点より、格子定数は、a軸が7.3850Å以上7.4186Å以下、c軸が7.5600Å以上7.6240Å以下となり、結晶子径は、好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは10nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下となるように、粉砕・分散処理条件を調整する。
0084
複合タングステン酸化物微粒子を可塑剤へ分散させる際、所望により、さらに120℃以下の沸点を有する有機溶剤を添加することも好ましい構成である。
120℃以下の沸点を有する有機溶剤として、具体的にはトルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、エタノールが挙げられる。尤も、沸点が120℃以下で近赤外線吸収機能を発揮する微粒子を均一に分散可能なものであれば、任意に選択できる。但し、当該有機溶剤を添加した場合は、分散完了後に乾燥処理を実施し、複合タングステン酸化物微粒子分散体の一例として後述する近赤外線吸収用中間膜中に残留する有機溶剤を5質量%以下とすることが好ましい。近赤外線吸収用中間膜の残留溶媒が5質量%以下であれば、後述する赤外線吸収合わせ構造体において気泡が発生せず、外観や光学特性が良好に保たれるからである。
0085
(4)分散粒子径
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液中における、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、200nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、分散粒子径が200nm以下10nm以上である。これは、複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径が10〜200nmであれば、幾何学散乱またはミー散乱によって波長380nm〜780nmの可視光線領域の光を散乱することがないので、曇り(ヘイズ)が減少し、可視光透過率の増加を図ることが出来るからである。さらに、レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。そこで、分散粒子径が200nm以下となると散乱光は非常に少なくなり、結果的に衣料等繊維資材において複合タングステン酸化物微粒子に起因する着色が生じ難くなり好ましい。
0086
ここで、複合タングステン酸化物微粒子分散液中における、当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径について簡単に説明する。当該分散粒子径とは、溶媒中に分散している複合タングステン酸化物微粒子の単体粒子や、当該複合タングステン酸化物微粒子が凝集した凝集粒子の粒子径を意味するものであり、市販されている種々の粒度分布計で測定することができる。例えば、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液のサンプルを採取し、当該サンプルを、動的光散乱法を原理とした大塚電子(株)製ELS−8000を用いて測定することができる。
0087
また、前記の合成方法で得られる複合タングステン酸化物微粒子の含有量が0.01質量%以上80質量%以下である複合タングステン酸化物微粒子分散液は、液安定性に優れる。適切な液状媒体や、分散剤、カップリング剤、界面活性剤を選択した場合は、温度40℃の恒温槽に入れたときでも6ヶ月以上分散液のゲル化や粒子の沈降が発生せず、分散粒子径を1〜200nmの範囲に維持できる。
尚、複合タングステン酸化物微粒子分散液の分散粒子径と、近赤外線吸収繊維を構成する糸等に分散された複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径とが異なる場合がある。これは、複合タングステン酸化物微粒子分散液中では複合タングステン酸化物微粒子が凝集している場合がある為である。そして、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液を用いて、近赤外線吸収繊維を構成する糸等が製造・加工される際に、複合タングステン酸化物微粒子の凝集が解されるからである。ただし、複合タングステン酸化物微粒子分散液の分散粒子径が小さいほど、近赤外線吸収繊維の分散粒子径も小さくなる傾向にあるため、複合タングステン酸化物微粒子分散液の分散粒子径を制御することは後工程で得られる近赤外線吸収繊維の特性を制御する上で重要となる。
0088
また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を含有する複合タングステン酸化物微粒子分散体は近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。当該複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合は、800nm以下の分散粒子径を有していることがさらに好ましい。これは、分散粒子径が800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に吸収することが無く、淡い青色系が着色するものの可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
尚、上述した複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径とは、複合タングステン酸化物微粒子の凝集体の径を含む概念であり、上述した本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の粒子径とは異なる概念である。
0089
この粒子による散乱の低減を重視するとき、つまり、複合タングステン酸化物微粒子を含有した本発明に係る近赤外線吸収繊維およびこれを用いた繊維製品における染色性等の意匠性を重視すると、分散粒子径は好ましくは200nm以下、より好ましくは10nm以上200nm以下が良く、さらに好ましくは10nm以上100nm以下である。当該理由は、分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、当該微粒子は、透明性を保持したまま近赤外線の効率良い吸収を行なうことできるからである。即ち、分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に比例するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を含有する近赤外線吸収成分は、近赤外線領域、特に、波長900〜2200nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。そのため、当該微粒子の分散粒子径を200nmよりも小さくすれば透明性を確保することができるが、当該透明性を重視する場合には、分散粒子径を150nm以下、さらに好ましくは100nm以下とする。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が10nm以上あれば工業的な製造は容易である。
また、上記分散粒子径が200nm以下であれば後の紡糸や延伸などの繊維化工程時でフィルターへの目塞がりや糸切れ等の可紡性を回避できる。また、たとえ紡糸を行なうことができても、延伸工程で糸切れ等の問題が生じ、しかも、紡糸原料中に粒子が均一に混合、分散しにくくなる場合もあるので、当該観点からも分散粒子径は200nm以下であることが好ましい。
0090
さらに、当該微粒子を、適宜な媒体中または媒体表面に分散させて製造した近赤外線吸収膜は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法及び化学気相法(CVD法)などの真空成膜法等の乾式法で作製した膜やCVD法やスプレー法で作製した膜と比較して、光の干渉効果を用いずとも、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率良く吸収し、同時に可視光領域の光を透過させることを知見したものである。
0091
(5)バインダー、その他の添加剤
当該複合タングステン酸化物微粒子分散液には、適宜、樹脂バインダーから選ばれる1種以上を含有させることができる。当該複合タングステン酸化物微粒子分散液に含有させる樹脂バインダーの種類は特に限定されるものではないが、樹脂バインダーとしては、近赤外線吸収繊維の原料ポリマーもちろん、原料ポリマーとの相溶等を考慮してアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが適用できる。
0092
また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子分散体の近赤外線吸収特性を向上させるために、本発明に係る分散液へ一般式XBm(但し、Xはアルカリ土類元素、またはイットリウムを含む希土類元素から選ばれた金属元素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物、ATOおよびITO等の近赤外線吸収微粒子を、所望に応じて適宜添加することも好ましい構成である。なお、このときの添加割合は、所望とする近赤外線吸収特性に応じて適宜選択すればよい。
0093
また、複合タングステン酸化物微粒子分散体の色調を調整する為に、カーボンブラックや弁柄等の公知の無機顔料や公知の有機顔料も添加できる。
複合タングステン酸化物微粒子分散液には、公知の紫外線吸収剤や有機物の公知の赤外線吸収材やリン系の着色防止剤を添加してもよい。
更には、遠赤外線を放射する能力を有する微粒子を添加してもよい。例えば、ZrO2、SiO2、TiO2、Al2O3、MnO2、MgO、Fe2O3、CuO等の金属酸化物、ZrC、SiC、TiC等の炭化物、ZrN、Si3N4、AlN等の窒化物等を挙げることができる。
0094
[2]近赤外線吸収繊維
本発明に係る近赤外線吸収繊維について説明する。
近赤外線吸収繊維は、上記の合成方法で得られた複合タングステン酸化物微粒子を適宜な媒体中に分散させて、当該分散物を繊維の表面および/または内部に含有させたものである。
そして、複合タングステン酸化物微粒子の含有量が、繊維の固形分に対して0.001質量%以上80質量%以下であることを特徴とする。
以下、本発明に係る近赤外線吸収繊維について、(1)用いられる繊維、(2)繊維中への複合タングステン酸化物微粒子分散方法、(3)添加剤、(4)本発明に係る近赤外線吸収繊維、の順に説明する。
0095
(1)用いられる繊維
本発明に使用される繊維は、用途に応じて各種選択可能であり、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維、または、これらの混紡、合糸、混繊等による混合糸のいずれを使用してもかまわない。さらに、複合タングステン酸化物微粒子を簡便な方法で繊維内に含有させることや、保温持続性を考慮すると、合成繊維が好ましい。
0096
本発明に使用される合成繊維は、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維等が挙げられる。
0097
例えば、ポリアミド系繊維として、ナイロン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン610、ナイロン612、芳香族ナイロン、アラミド等が挙げられる。
また例えば、アクリル系繊維として、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体、モダクリル等が挙げられる。
また例えば、ポリエステル系繊維として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
また例えば、ポリオレフィン系繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等が挙げられる。
また例えば、ポリビニルアルコール系繊維として、ビニロン等が挙げられる。
また例えば、ポリ塩化ビニリデン系繊維として、ビニリデン等が挙げられる。
また例えば、ポリ塩化ビニル系繊維として、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
また例えば、ポリエーテルエステル系繊維として、レクセ、サクセス等が挙げられる。
本発明に使用される繊維が半合成繊維である場合は、例えば、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、塩化ゴム、塩酸ゴム等が挙げられる。
また例えば、セルロース系繊維として、アセテート、トリアセテート、酸化アセテート等が挙げられる。
また例えば、タンパク質繊維として、プロミックス等が挙げられる。
本発明に使用される繊維が天然繊維である場合は、例えば、植物繊維、動物繊維、鉱物繊維等が挙げられる。
また例えば、植物繊維としては、綿、カポック、亜麻、大麻、黄麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻、羅布麻、やし、いぐさ、麦わら等が挙げられる。
また例えば、動物繊維として、羊毛、やぎ毛、モヘヤ、カシミヤ、アルパカ、アンゴラ、キャメル、ビキューナ等のウール、シルク、ダウン、フェザー等が挙げられる。
また例えば、鉱物繊維として、石綿、アスベスト等が挙げられる。
本発明に使用される繊維が再生繊維である場合は、例えば、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維等が挙げられる。
また例えば、セルロース系繊維として、レーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラ、ポリノジック、銅アンモニアレーヨン等が挙げられる。
また例えば、タンパク質系繊維として、カゼイン繊維、落花生タンパク繊維、とうもろこしタンパク繊維、大豆タンパク繊維、再生絹糸等が挙げられる。
本発明に使用される繊維が無機繊維である場合は、例えば、金属繊維、炭素繊維、けい酸塩繊維等が挙げられる。
また例えば、金属繊維として、金属繊維、金糸、銀糸、耐熱合金繊維等が挙げられる。
また例えば、けい酸塩繊維として、ガラス繊維、鉱さい繊維、岩石繊維等が挙げられる。
0098
本発明に係る繊維の断面形状は、特に限定されないが、例えば、円形、三角形、中空状、偏平状、Y型、星型、芯鞘型等が挙げられる。繊維の表面および/または内部への微粒子の含有は、種々の形状で可能であり、例えば、芯鞘型の場合、微粒子を繊維の芯部に含有しても、鞘部に含有してもかまわない。また、本発明の繊維の形状は、フィラメント(長繊維)であっても、ステープル(短繊維)であってもかまわない。
0099
(2)繊維中への複合タングステン酸化物微粒子分散方法
本発明に用いられる繊維の表面および/または内部へ、複合タングステン酸化物微粒子を均一に含有させる方法は特に限定されない。例えば、(a)合成繊維の原料ポリマーへ、複合タングステン酸化物微粒子を直接混合して紡糸する方法、(b)あらかじめ原料ポリマーの一部へ前記複合タングステン酸化物微粒子を高濃度に含有せしめたマスターバッチを製造し、これを紡糸時に所定の濃度に希釈調整してから紡糸する方法、(c)前記複合タングステン酸化物微粒子を、あらかじめ原料モノマーまたはオリゴマー溶液中に均一に分散させておき、この分散溶液を用いて目的とする原料ポリマーを合成すると同時に、当該複合タングステン酸化物微粒子を均一に原料ポリマー中に分散せしめた後、紡糸する方法、(d)あらかじめ紡糸して得られた繊維の表面へ、前記複合タングステン酸化物微粒子を、結合剤などを用いて付着させる方法などが挙げられる。
以上説明した、本発明に使用される繊維へ複合タングステン酸化物微粒子を均一に含有させる(a)〜(d)の各方法について、具体的な例を挙げ説明する。
0100
(a)の方法
例えば、繊維としてポリエステル繊維を用いる場合、熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットへ、「[1]複合タングステン酸化物微粒子[d]複合タングステン酸化物微粒子分散液」にて説明した複合タングステン酸化物微粒子分散液を添加し、ブレンダーで均一に混合した後、溶媒を除去する。当該溶媒を除去した混合物を二軸押出機で溶融混練し、複合タングステン酸化物微粒子を含有するマスターバッチを得る。得られた複合タングステン酸化物微粒子を含有するマスターバッチと、微粒子無添加のポリエチレンテレフタレートよりなるマスターバッチの目的量とを、当該樹脂の溶融温度付近で溶融混合する。そして、当該混合された樹脂を常法にしたがって紡糸する方法である。
0101
(b)の方法
予め調製しておいた複合タングステン酸化物微粒子を含有するマスターバッチを用いる以外は、上述した(a)と同様にして、複合タングステン酸化物微粒子を含有するマスターバッチと、例えば、微粒子無添加のポリエチレンテレフタレートよりなるマスターバッチの目的量とを、樹脂の溶融温度付近で溶融混合する。そして、当該混合された樹脂を常法にしたがって紡糸する方法である。
0102
ここで(b)の方法におけるマスターバッチの製造方法例について、さらに説明する。
当該マスターバッチの製造方法は特に限定されないが、「[1]複合タングステン酸化物微粒子[d]複合タングステン酸化物微粒子分散液」にて説明した複合タングステン酸化物微粒子分散液と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、リボブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等を用いて混合し、混合物を得る。当該混合物を、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機等の混練機を使用して溶剤を除去しながら均一に溶融混合することで、熱可塑性樹脂に微粒子を均一に分散した混合物としてマスターバッチを調製することが出来る。
0103
さらに異なる方法として、「[1]複合タングステン酸化物微粒子[d]複合タングステン酸化物微粒子分散液」にて説明した複合タングステン酸化物微粒子分散液を調製後、当該分散液の溶剤を公知の方法で除去し、乾燥物を得る。得られた乾燥物と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤と、を均一に溶融混合し、熱可塑性樹脂に当該微粒子を均一に分散した混合物を製造することも出来る。
さらに異なる方法として、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の粉末を、直接、熱可塑性樹脂へ添加して均一に溶融混合し、熱可塑性樹脂に当該微粒子を均一に分散した混合物を製造することも出来る。
0104
上述した各方法により得られた、熱可塑性樹脂に複合タングステン酸化物微粒子が均一に分散した混合物を、ペント式一軸もしくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することにより、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を含有するマスターバッチを得ることができる。
0105
(c)の方法
例えば、繊維としてウレタン繊維を用いる場合について説明する。
複合タングステン酸化物微粒子を含有した高分子ジオールと有機ジイソシアネートとを、二軸押出機内で反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを合成した後、ここへ鎖伸長剤を反応させてポリウレタン溶液(原料ポリマー)を製造する。当該ポリウレタン溶液を常法にしたがって紡糸すれば良い。
0106
(d)の方法
例えば、天然繊維の表面に複合タングステン酸化物微粒子を付着させる場合について説明する。
まず、「[1]複合タングステン酸化物微粒子[d]複合タングステン酸化物微粒子分散液」にて説明した複合タングステン酸化物微粒子分散液であって、アクリル・エポキシ・ウレタン・ポリエステルから選ばれた少なくとも1種のバインダー樹脂と、水などの溶媒と、を混合した処理液を調製する。次に、当該調製された処理液に当該天然繊維を浸漬させるか、調製された処理液をパディング、印刷またはスプレー等により当該天然繊維へ含浸させ、乾燥することで、当該天然繊維に複合タングステン酸化物微粒子を付着させれば良い。
尚、当該(d)の方法は、上述した天然繊維の他、半合成繊維、再生繊維、無機繊維、または、これらの混紡、合糸、混繊等のいずれにも適用することができる。
0107
尚、上記複合タングステン酸化物微粒子を当該繊維やその原料となるポリマーに付着、混合させる際には、上述した複合タングステン酸化物微粒子の分散液を、繊維やその原料となるポリマーへ直接混合しても良い。
0108
ここで本発明に係る近赤外線吸収繊維における、複合タングステン酸化物微粒子の含有量について説明する。
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の単位重量あたりの近赤外線吸収能力は非常に高いので、ITOやATOと比較して、4〜10分の1程度の使用量でその効果を発揮する。具体的には、繊維の表面および/または内部に含有される、複合タングステン酸化物微粒子の含有量は、0.001〜80重量%の間であることが好ましい。さらに、複合タングステン酸化物微粒子添加後における繊維の重量や原料コストを考慮した場合は、0.005〜50重量%の間であることが好ましい。複合タングステン酸化物微粒子の含有量が0.001重量%以上であれば、生地が薄くても十分な近赤外線吸収効果を得ることができ、80重量%以下であれば、紡糸工程でフィルターへの目塞がりや糸切れ等による可紡性の低下を回避できる。そして、繊維の物性を保つ観点からは、複合タングステン酸化物微粒子の添加量が少ない方が好ましい。当該観点からは、複合タングステン酸化物微粒子の含有量が50重量%以下であることがさらに好ましい。
0109
(3)添加剤
本発明に係る近赤外線吸収繊維へは、当該繊維の性能を損なわない範囲内で、目的に応じて、酸化防止剤、難燃剤、消臭剤、防虫剤、抗菌剤、紫外線吸収剤等を含有させて使用することができる。
0110
さらに、本発明に係る近赤外線吸収繊維においては、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子に加え、遠赤外線を放射する能力を有する微粒子が当該近赤外線吸収繊維の表面および/または内部に含有されていてもよい。当該遠赤外線を放射する能力を有する微粒子としては、例えば、ZrO2、SiO2、TiO2、Al2O3、MnO2、MgO、Fe2O3、CuO等の金属酸化物、ZrC、SiC、TiC等の炭化物、ZrN、Si3N4、AlN等の窒化物等を挙げることができる。
0111
本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子は、波長0.3〜3μmの太陽光エネルギーを吸収する性質を持っており、特に波長0.9〜2.2μm付近の近赤外線領域を選択的に吸収して、熱に変換または再輻射する。
これに対し、遠赤外線を放射する能力を有する微粒子は、複合タングステン酸化物微粒子が吸収したエネルギーを受け取り、当該エネルギーを中・遠赤外線波長の熱エネルギーに転換、放射する能力を有している。例えば、ZrO2微粒子は、当該受け取ったエネルギーを波長2〜20μmの熱エネルギーに転換して放射する。
従って、当該遠赤外線を放射する能力を有する微粒子が、複合タングステン酸化物微粒子と共に繊維内や表面で共存することにより、複合タングステン酸化物に吸収された太陽光エネルギーが近赤外線吸収繊維内部・表面で効率良く遠赤外線に変換され、より効果的な保温がなされる。
0112
また、当該遠赤外線を放射する微粒子の繊維表面および/または内部中の含有量も、0.001〜80重量%であることが好ましい。0.001重量%以上の使用量であれば生地が薄くても十分な熱エネルギー放射効果を得ることができ、80重量%以下であれば紡糸工程でフィルターへの目塞がりや糸切れ等により可紡性が低下するのを回避することができるからである。
0113
(4)本発明に係る近赤外線吸収繊維
以上説明したように、本発明に係る近赤外線吸収繊維は、近赤外線吸収成分として複合タングステン酸化物微粒子を均一に繊維に含有させ、更には、遠赤外線を放射する微粒子をも均一に繊維に含有させたものである。
当該構成を有することで、本発明に係る近赤外線吸収繊維は、少量の複合タングステン酸化物微粒子の含有で太陽光などからの近赤外線を効率良く吸収し、保温性に優れた近赤外線吸収繊維を提供することを可能とした。また、耐候性が良く透明性に優れ低コストである。さらに、複合タングステン酸化物微粒子の添加量を少なくすることが可能である為、繊維製品自体の意匠性を損なうことがなく、強度や伸度などの繊維の基本的な物性を損なうことも回避できた。
この結果、本発明に係る近赤外線吸収繊維は、保温性を必要とする防寒用衣料、スポーツ用衣料、ストッキング、カーテン等の繊維製品やその他産業用繊維製品等の種々の用途に使用することができる。
0114
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
また、本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造、格子定数、結晶子径の測定には、複合タングステン酸化物微粒子分散液から溶媒を除去して得られる複合タングステン酸化物微粒子を用いた。そして当該複合タングステン酸化物微粒子のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(スペクトリス(株)PANalytical製X’Pert−PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ—2θ法)により測定した。得られたX線回折パターンから当該微粒子に含まれる結晶構造を特定し、さらにリートベルト法を用いて格子定数と結晶子径とを算出した。
0115
[実施例1]
水6.70kgに、炭酸セシウム(Cs2CO3)7.43kgを溶解して溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(H2WO4)34.57kgへ添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥した(WとCsとのモル比が1:0.33相当である。)。当該乾燥物を、N2ガスをキャリアーとした5容量%H2ガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間焼成した、その後、当該供給ガスをN2ガスのみに切り替えて、室温まで降温して複合タングステン酸化物粒子を得た。
0116
当該複合タングステン酸化物粒子10質量%と、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、「分散剤a」と記載する。)10質量%と、トルエン80質量%とを秤量し、0.3mmφZrO2ビ−ズを入れたペイントシェーカー(浅田鉄工社製)に装填し、10時間粉砕・分散処理することによって実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を調製した。このとき、当該混合物100質量部に対し、0.3mmφZrO2ビーズを300質量部用いて粉砕・分散処理を行った。
0117
ここで、複合タングステン酸化物微粒子分散液内における複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径を、大塚電子(株)製ELS−8000を用い、レーザーの散乱光の揺らぎを観測し、動的光散乱法(光子相関法)により自己相関関数を求め、キュムラント法で平均粒子径(流体力学的径)を算出したところ70nmであった。尚、粒径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドは、トルエンを用いて測定し、溶媒屈折率は1.50とした。
また、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液から溶媒を除去した後に得られた、複合タングステン酸化物微粒子の格子定数を測定したところ、a軸が7.4071Å、c軸が7.6188Åであった。また、結晶子径は24nmであった。そして、六方晶の結晶構造が確認された。以上の合成条件および測定結果を表1に示す。尚、表1には、後述する実施例2−21に係る合成条件および測定結果についても併せて記載する。
0118
さらに当該複合タングステン酸化物微粒子分散液の光学特性として可視光透過率と近赤外線吸収特性とを、(株)日立製作所製の分光光度計U−4000を用い測定した。測定は、分光光度計の測定用ガラスセルへ、当該複合タングステン酸化物微粒子分散液をトルエンで希釈した液を充填して行った。尚、当該トルエンによる希釈は、希釈後における複合タングステン酸化物微粒子分散液の可視光透過率が70%前後になるように行った。
当該測定において、分光光度計の光の入射方向は測定用ガラスセルに垂直な方向とした。
さらに、当該測定用ガラスセルへ希釈溶媒であるトルエンのみを入れたブランク液においても光の透過率測定し、当該測定結果を光の透過率のベースラインとした。
0119
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液から、スプレードライヤーを用いてトルエンを除去し、実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散粉を得た。
得られた複合タングステン酸化物微粒子分散粉を、熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットに添加し、ブレンダーで均一に混合した後、当該混合物を二軸押出機で溶融混練して押し出し、当該押出されたストランドをペレット状にカットし、近赤外線吸収成分である複合タングステン酸化物微粒子を80重量%含有するマスターバッチを得た。
得られたマスターバッチと、同じ方法で調製した複合タングステン酸化物微粒子を添加していないポリエチレンテレフタレートのマスターバッチとを、重量比1:1で混合し、複合タングステン酸化物微粒子を40重量%含有した実施例1に係る混合マスターバッチを得た。
0120
実施例1に係る混合マスターバッチを溶融紡糸し、続いて延伸を行ない、実施例1に係るポリエステルマルチフィラメント糸を製造した。当該時点における複合タングステン酸化物微粒子の平均粒子径を、透過型電子顕微鏡像を用いた画像処理装置によって算出したところ、25nmであり、上述した結晶子径24nmとほぼ同値であった。
得られたポリエステルマルチフィラメント糸を切断してポリエステルステープルを作製し、これを用いて紡績糸を製造した。そして、この紡績糸を用いて保温性を有する実施例1に係る近赤外線吸収繊維であるニット製品試料を得た(ここで、作製されたニット製品試料の日射反射率は8%となるように調整した。尚、当該ニット製品試料における日射反射率の8%への調整は、後述する実施例および比較例の全てで行った。)。
0121
作製されたニット製品試料の分光特性を、日立製作所製の分光光度計U−4100を用いて波長200〜2100nmの光の透過率および反射率により測定し、JIS A5759:2016に従って日射吸収率を算出した。当該日射吸収率は次式から算出した。
日射吸収率(%)=100%−日射透過率(%)−日射反射率・・・・・(式)
算出された日射吸収率は52.2%であった。ニット製品試料の製造条件および測定結果を表2に示す。尚、表2には、後述する実施例2−21に係る製造条件および測定結果についても併せて記載する。
0122
次に、作製されたニット製品試料の生地裏面の温度上昇効果を、以下のようにして測定した。
20℃、60%RH環境下において、太陽光線近似スペクトルランプ(セリック(株)製ソーラーシミュレータXL−03E50改)を、当該ニット製品の生地から30cmの距離より照射し、一定時間毎(0秒、30秒、60秒、180秒、360秒、600秒)の、当該生地裏面の温度を放射温度計(ミノルタ(株)製HT−11)にて測定した。この測定結果を表3に示す。尚、表3には、後述する実施例2−21に係る測定結果についても併せて記載する。
0123
[実施例2〜11]
実施例1において、タングステン酸と炭酸セシウムとを、もしくは、メタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO3換算で50質量%)と炭酸セシウムとを、WとCsとのモル比が1:0.21〜0.37となるように所定量を秤量した以外は、実施例1と同様に操作した。そして、実施例2〜11に係る複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを用いて、実施例1と同様の操作により、実施例2〜11に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得て、これらの特性を測定した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。実施例2〜11に係る合成条件、製造条件と測定結果とを、表1〜3に示す。
0124
[実施例12]
実施例1にて説明した複合タングステン酸化物微粒子の合成において、N2ガスをキャリアーとした5%H2ガスを供給しながら550℃の温度で9.0時間焼成した以外は、実施例1と同様に操作した。そして、実施例12に係る複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、当該複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを用いて、実施例1と同様の操作により、実施例12に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得て、これらの特性を測価した。尚、複合タングステン酸化物微粒子試料には、六方晶の結晶構造が確認された。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表1〜3に示す。
0125
[実施例13]
熱可塑性樹脂としてナイロン6樹脂ペレットを使用した以外は、実施例1と同様の操作で、複合タングステン酸化物微粒子を30質量%含有したナイロン6のマスターバッチを調製した。当該マスターバッチと、実施例1と同様の操作で調製した複合タングステン酸化物微粒子を添加していないナイロン6のマスターバッチとを、重量比1:1で混合し、複合タングステン酸化物微粒子を15重量%含有した実施例13に係る混合マスターバッチを得た。
実施例13に係る混合マスターバッチを溶融紡糸し、続いて延伸を行ない、実施例13に係る近赤外線吸収繊維であるナイロンマルチフィラメント糸を製造した。得られたマルチフィラメント糸を切断してナイロンステープルを作製し、これを用いて紡績糸を製造した。この紡績糸を用いて保温性を有するナイロン繊維製品試料を製造した。製造した混合マスターバッチとナイロンマルチフィラメント糸とナイロン繊維製品試料とを、実施例1と同様の方法で測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表1〜3に示す。
0126
[実施例14]
熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂ペレットを使用した以外は、実施例1と同様の操作で、複合タングステン酸化物微粒子を50質量%含有したポリアクリロニトリルのマスターバッチを作製した。当該マスターバッチと、実施例1と同様の操作で調製した複合タングステン酸化物微粒子を添加していないポリアクリロニトリルのマスターバッチとを、重量比1:1で混合し、複合タングステン酸化物微粒子を25質量%含有した実施例14に係る混合マスターバッチを得た。
実施例14に係る混合マスターバッチを紡糸し、続いて延伸を行ない、実施例14に係る近赤外線吸収繊維であるアクリルマルチフィラメント糸を製造した。得られたマルチフィラメント糸を切断してアクリルステープルを作製し、これを用いて紡績糸を製造した。この紡績糸を用いて保温性を有するアクリル繊維製品試料を製造した。製造した混合マスターバッチとアクリルマルチフィラメント糸とアクリル繊維製品試料とを、実施例1と同様の方法で測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表1〜3に示す。
0127
[実施例15]
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子を30質量%含有したポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTG2000)と、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートとを反応させて、イソシアネート基末端プレポリマーを調製した。次に、当該プレポリマーへ、鎖伸長剤として、1,4−ブタンジオールと3−メチル−1,5−ペンタンジオールとを反応させて重合を行ない、熱可塑性ポリウレタン溶液を製造した。
得られた熱可塑性ポリウレタン溶液を紡糸原液として紡糸し、続いて当該紡糸の延伸を行ない、実施例15に係る近赤外線吸収繊維であるポリウレタン弾性繊維を得た。このポリウレタン弾性繊維を用いて保温性を有するウレタン繊維製品試料を製造した。製造したポリウレタン弾性繊維とウレタン繊維製品試料とを、実施例1と同様の方法で測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表1〜3に示す。
0128
[実施例16]
実施例1に係る方法と同様にして複合タングステン酸化物微粒子を得た。その後、得られた微粒子10質量部と、平均粒径65nmのZrO2微粒子15質量部と、トルエン70質量部と、分散剤a15質量部とを混合してスラリーを調製した。このスラリーに対し、実施例1と同様の粉砕分散処理を施し、実施例16に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液を得た。当該複合タングステン酸化物微粒子分散液へ、実施例1と同様の操作を行い、複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、実施例1と同様の操作を行い、実施例16に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを製造して特性を測定した。尚、複合タングステン酸化物微粒子試料には、六方晶の結晶構造が確認された。当該合成条件と製造条件と評価結果とを表1〜3に示す。
0129
[実施例17〜21]
水6.70kgに、炭酸ルビジウム(Rb2CO3)5.56kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(H2WO4)36.44kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例17に係る乾燥物を得た(WとRbとのモル比は、1:0.33相当である。)。
0130
水6.70kgに、炭酸セシウム(Cs2CO3)0.709kgと炭酸ルビジウム(Rb2CO3)5.03kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(H2WO4)36.26kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例18に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.03相当、WとRbとのモル比は、1:0.30相当である。)。
0131
水6.70kgに、炭酸セシウム(Cs2CO3)4.60kgと炭酸ルビジウム(Rb2CO3)2.12kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(H2WO4)35.28kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例19に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.20相当、WとRbとのモル比は、:0.13相当である。)。
0132
水6.70kgに、炭酸セシウム(Cs2CO3)5.71kgと炭酸ルビジウム(Rb2CO3)1.29kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(H2WO4)35.00kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例20に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.25相当、WとRbとのモル比は、1:0.08相当である。)。
0133
水6.70kgに、炭酸セシウム(Cs2CO3)6.79kgと炭酸ルビジウム(Rb2CO3)0.481kgを溶解して、溶液を得た。当該溶液を、タングステン酸(H2WO4)34.73kgに添加して十分撹拌混合した後、撹拌しながら乾燥して、実施例21に係る乾燥物を得た(WとCsとのモル比が1:0.30相当、WとRbとのモル比は、1:0.03相当である。)。
0134
当該実施例17〜21に係る乾燥物を、N2ガスをキャリアーとした5%H2ガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で5.5時間焼成した後、当該供給ガスをN2ガスのみに切り替えて、室温まで降温して、実施例17〜21に係る複合タングステン酸化物粒子を得た。
0135
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子に代えて、実施例17〜21に係る複合タングステン酸化物微粒子を用いた以外は、実施例1と同様に操作して、実施例17〜21に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、実施例1と同様に操作して、実施例17〜21に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得て特性を測定した。尚、いずれの複合タングステン酸化物微粒子試料も、六方晶の結晶構造が確認された。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表1〜3に示す。
0136
[比較例1〜3]
実施例1において、タングステン酸と炭酸セシウムとを、WとCsのモル比が1:0.11(比較例1)、1:0.15(比較例2)、1:0.39(比較例3)となるように所定量秤量した以外は実施例1と同様に操作した。そして、比較例1〜3に係る複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、実施例1と同様に操作して、比較例1〜3に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得て特性を測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表4〜6に示す。
0137
[比較例4、5]
実施例1において、タングステン酸と炭酸セシウムとを、WとCsのモル比が1:0.21(比較例4)、1:0.23(比較例5)となるように所定量秤量し、400℃の温度で5.5時間焼成した以外は実施例1と同様に操作した。そして、比較例4、5に係る複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、実施例1と同様に操作して、比較例4、5に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得て特性を測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表4〜6に示す。
0138
[比較例6]
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の製造において、ペイントシェーカーの回転速度を実施例1の0.8倍にしたことと、100時間粉砕・分散処理したこと以外は、実施例1と同様に操作した。そして、比較例6に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、実施例1と同様に操作して、比較例6に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得て特性を測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表4〜6に示す。
0139
[比較例7]
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子の製造において、N2ガスをキャリアーとした3容量%H2ガスを供給しながら440℃の温度で5.5時間焼成した以外は、実施例1と同様に操作した。そして、比較例7に係る複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、実施例1と同様に操作して、比較例7に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得て特性を測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表4〜6に示す。
0140
[比較例8]
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液の製造において、複合タングステン酸化物微粒子10質量%と、分散剤a10質量%と、トルエン80質量%とを秤量し、10分間の超音波の振動で混合した以外は実施例1と同様にして、比較例8に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得た。即ち、比較例8に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液に含まれる複合タングステン酸化物微粒子は粉砕されていないものである。
比較例8に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料との特性を測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表4〜6に示す。
0141
[比較例9]
実施例1に係る複合タングステン酸化物微粒子の粉砕・分散処理において、ペイントシェーカーの回転速度を実施例1の1.15倍にしたことと、25時間粉砕・分散処理した以外は、実施例1と同様に操作した。そして、比較例9に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液と複合タングステン酸化物微粒子と複合タングステン酸化物微粒子分散粉と混合マスターバッチとを得た。さらに、実施例1と同様に操作して、比較例9に係る近赤外線吸収繊維であるポリエステルマルチフィラメント糸とニット製品試料とを得て特性を測定した。当該合成条件と製造条件と測定結果とを表4〜6に示す。
0142
[まとめ]
実施例1〜21に係る複合タングステン酸化物微粒子を用いて製造された近赤外線吸収繊維であるフィラメント糸は、表2に示すように優れた近赤外線吸収特性を発揮した。また、表3に示すように、当該実施例に係る各繊維製品の生地裏面温度は、表6に示す比較例に係る各繊維製品の生地裏面温度と比較して、平均で7℃以上も高くなり保温性に優れることが判明した。
実施例
0143
0144
1熱プラズマ
2高周波コイル
3シースガス供給ノズル
4プラズマガス供給ノズル
5原料粉末供給ノズル
6反応容器
7吸引管
8 フィルター
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