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課題・解決手段
概要
背景
現在、悪性腫瘍の診断は、肉眼観察、X線、CT(Computed Tomography)または超音波等による画像情報に基づく予備的判断が行われ、病理組織標本を用いた組織構造を顕微鏡的に観察することによって最終的に判断される。しかし、これらの情報に基づく診断は、医師の判断基準に基づいて行われるため少なからず誤診が生じる可能性があり、場合によっては致命的な医療事故につながる虞もある。そこで、誤診の可能性を小さくするために、さらに被疑組織内の遺伝子の異常、腫瘍マーカーの有無に関する情報を加えて、総合的に判断されるようになってきている。
腫瘍マーカーは、近年研究が盛んであり、腫瘍に関連する抗原、酵素、特定のタンパク質、代謝産物、腫瘍遺伝子、腫瘍遺伝子生産物及び腫瘍抑制遺伝子などを指し、例えば、癌胎児性抗原CEA、糖タンパク質CA19-9、CA125、前立腺特異抗原PSA、甲状腺で産生されるペプチドホルモンであるカルシトニンなどが一部の癌で腫瘍マーカーとして癌診断に活用されている。検出の対象となる腫瘍マーカーには体液性(血液、リンパ液、尿等)マーカーが多く、その検出は公知の手段によって実施することができる。例えば、免疫学的検出法は、抗原抗体反応を利用して腫瘍マーカーの検出を行うもので、一般に検出精度が優れているばかりでなく、迅速、簡便かつ経済的な検出法である。また、近年、表面プラズモン共鳴現象を応用し、共鳴角度変化をリアルタイムでとらえることにより、抗体および抗原の生体分子間の反応および結合量の測定および速度論解析をすることができる表面プラズモン共鳴装置(SPR(surface plasmon resonance)装置)が様々な研究および検査等で利用されており、腫瘍マーカーの検査にも応用されている。これらの方法は、抗体を担体に固相化することによって、安価かつ大量に被験試料を処理できるという大きな利点を有する。
ところで、近年、腫瘍研究分野において、エクソソームが新しい研究の潮流となりつつある。エクソソームは、様々な細胞から分泌される、リン脂質二重膜に覆われた直径50〜150nm程度の細胞外小胞である。エクソソームは、エクソソームを分泌する細胞と同じ分子(タンパク質、RNA、脂質等)をエクソソーム表面およびエクソソーム内に保持している。従って、エクソソームが保持する分子を腫瘍マーカーとして検出することができれば、新たな腫瘍の診断方法として確立することができるため注目されている。しかし、通常、エクソソームが保持する分子を検出する際は、エクソソームの膜構造を破壊し、抽出された分子を直接検出する(非特許文献1,2)ため、手間がかかるという課題があった。
概要
本発明はエクソソーム表面分子に対する結合性分子が固相化された担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックおよび洗浄すること、ならびに該担体とエクソソームを含む被験試料の接触前にカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と被験試料を混合することを特徴とする、該エクソソーム表面分子を特定する方法を提供する。
目的
本発明は、エクソソームの膜構造を破壊せずに、エクソソーム表面分子を特定する方法を提供する
効果
実績
- 技術文献被引用数
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この技術が所属する分野
(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
請求項1
エクソソーム表面分子に対する結合性分子が固相化された担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックおよび洗浄すること、ならびに該担体とエクソソームを含む被験試料の接触前にカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と被験試料を混合することを特徴とする、該エクソソーム表面分子を特定する方法。
請求項2
以下の工程を含む、エクソソーム表面分子を特定する方法:(1)エクソソーム表面分子に対する結合性分子が固相化された担体表面をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックする工程、(2)該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液で洗浄する工程、(3)エクソソームを含む被験試料とカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液の混合物を該担体に接触させる工程、(4)該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液で洗浄する工程、および(5)該エクソソーム表面分子と該結合性分子の結合を検出する工程。
請求項3
該エクソソーム表面分子と該結合性分子の結合が免疫学的方法または表面プラズモン共鳴法によって検出される、請求項1または2に記載の方法。
請求項4
請求項5
請求項6
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法を実施するためのエクソソーム表面分子の特定装置。
技術分野
0001
本発明は、担体に固相化された結合性分子に対するエクソソーム表面分子の特異的結合を保証し、かつ該担体への該エクソソームの非特異的結合を抑制することによって、該エクソソーム表面分子を特定する方法に関する。
背景技術
0002
現在、悪性腫瘍の診断は、肉眼観察、X線、CT(Computed Tomography)または超音波等による画像情報に基づく予備的判断が行われ、病理組織標本を用いた組織構造を顕微鏡的に観察することによって最終的に判断される。しかし、これらの情報に基づく診断は、医師の判断基準に基づいて行われるため少なからず誤診が生じる可能性があり、場合によっては致命的な医療事故につながる虞もある。そこで、誤診の可能性を小さくするために、さらに被疑組織内の遺伝子の異常、腫瘍マーカーの有無に関する情報を加えて、総合的に判断されるようになってきている。
0003
腫瘍マーカーは、近年研究が盛んであり、腫瘍に関連する抗原、酵素、特定のタンパク質、代謝産物、腫瘍遺伝子、腫瘍遺伝子生産物及び腫瘍抑制遺伝子などを指し、例えば、癌胎児性抗原CEA、糖タンパク質CA19-9、CA125、前立腺特異抗原PSA、甲状腺で産生されるペプチドホルモンであるカルシトニンなどが一部の癌で腫瘍マーカーとして癌診断に活用されている。検出の対象となる腫瘍マーカーには体液性(血液、リンパ液、尿等)マーカーが多く、その検出は公知の手段によって実施することができる。例えば、免疫学的検出法は、抗原抗体反応を利用して腫瘍マーカーの検出を行うもので、一般に検出精度が優れているばかりでなく、迅速、簡便かつ経済的な検出法である。また、近年、表面プラズモン共鳴現象を応用し、共鳴角度変化をリアルタイムでとらえることにより、抗体および抗原の生体分子間の反応および結合量の測定および速度論解析をすることができる表面プラズモン共鳴装置(SPR(surface plasmon resonance)装置)が様々な研究および検査等で利用されており、腫瘍マーカーの検査にも応用されている。これらの方法は、抗体を担体に固相化することによって、安価かつ大量に被験試料を処理できるという大きな利点を有する。
0004
ところで、近年、腫瘍研究分野において、エクソソームが新しい研究の潮流となりつつある。エクソソームは、様々な細胞から分泌される、リン脂質二重膜に覆われた直径50〜150nm程度の細胞外小胞である。エクソソームは、エクソソームを分泌する細胞と同じ分子(タンパク質、RNA、脂質等)をエクソソーム表面およびエクソソーム内に保持している。従って、エクソソームが保持する分子を腫瘍マーカーとして検出することができれば、新たな腫瘍の診断方法として確立することができるため注目されている。しかし、通常、エクソソームが保持する分子を検出する際は、エクソソームの膜構造を破壊し、抽出された分子を直接検出する(非特許文献1,2)ため、手間がかかるという課題があった。
0005
Jenjaroenpun P et al., PeerJ. Nov 5;1:e201, 2013
先行技術
0006
El-Andaloussi S et al., Nat Protoc, 7(12), 2112-26, 2012
発明が解決しようとする課題
0007
本発明は、エクソソームの膜構造を破壊せずに、エクソソーム表面分子を特定する方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0008
本発明者らは、エクソソームの膜構造を破壊せずに、エクソソーム表面分子を特定するために、抗体(抗c-kit抗体または陰性抗体)をバイオチップ上にスポットして固相化した後、チップ表面をBSAでブロックし、c-kitを表面分子として保持することが予め判明しているエクソソームをチップに接触させ、SPR装置を用いて両抗体の反射率を確認した。その結果、両抗体の反射率は、接触前に比べてほとんど変化しなかった。さらに、抗体が固相化された部分以外のBSAによってブロックされたチップ表面部分の反射率は大きく変化した。本結果について、本発明者らは、BSAが脂質結合タンパク質であるため、表面にリン脂質を有するエクソソームが非特異的にBSAに結合してしまったこと、および接触させたエクソソームの大部分はチップ表面に非特異的に結合したためエクソソームは抗体へ結合できなかったことに起因すると推測した。そこで本発明者らは、担体表面へのエクソソームの非特異的結合を抑制しつつ、抗体へのエクソソーム表面分子の特異的結合を保証する方法を模索すべく鋭意研究を行った。本発明者らは、上記抗体をバイオチップ上にスポットして固相化した後、チップをBSAに代わりカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックし、洗浄操作に用いる洗浄液もPBSに代わりカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液を使用した。その結果、抗体が固相化された部分以外のカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液によってブロックされたチップ表面部分の反射率の上昇が確認できなくなった。さらに、抗c-kit抗体の反射率の上昇を確認できた一方、陰性抗体の反射率の上昇を確認できなくなった。これらの事実から、カゼインを用いることによって、該担体表面に対するエクソソームの非特異的結合を抑制しつつ、かつ抗体へのエクソソームの特異的結合を保証できることを見出し、本発明を完成した。
0009
すなわち、本発明は、
[1]エクソソーム表面分子に対する結合性分子が固相化された担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックおよび洗浄すること、ならびに該担体とエクソソームを含む被験試料の接触前にカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と被験試料を混合することを特徴とする、該エクソソーム表面分子を特定する方法;
[2]以下の工程を含む、エクソソーム表面分子を特定する方法:
(1)エクソソーム表面分子に対する結合性分子が固相化された担体表面をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックする工程、
(2)該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液で洗浄する工程、
(3)エクソソームを含む被験試料とカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液の混合物を該担体に接触させる工程、
(4)該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液で洗浄する工程、および
(5)該エクソソーム表面分子と該結合性分子の結合を検出する工程;
[3]該エクソソーム表面分子と該結合性分子の結合が免疫学的方法または表面プラズモン共鳴法によって検出される、[1]または[2]に記載の方法;
[4]該結合性分子が抗体、細胞接着因子、レクチンまたはアプタマーである、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の方法;
[5]カゼインまたはカゼイン分解物を含む、表面プラズモン共鳴法によるエクソソーム表面分子の特定用移動相;
[6][1]〜[4]のいずれか1つに記載の方法を実施するためのエクソソーム表面分子の特定装置;
を提供する。
発明の効果
0010
エクソソーム表面分子に対する結合性分子を担体に固相化した後、担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックし、洗浄操作に用いる緩衝液もカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液を用いること、ならびに該担体とエクソソームを含む被験試料の接触前にカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と被験試料を混合することによって、該担体表面に対するエクソソームの非特異的結合を抑制しつつ、かつ結合性分子へのエクソソームの特異的結合を保証することが可能になり、その結果、エクソソーム表面分子を特定することができる。
図面の簡単な説明
0011
マイクロアレイ型SPRi装置((株)堀場製作所:OpenPlex)の構成を示す図である。
マイクロアレイ型SPRi装置((株)堀場製作所:OpenPlex)に付属したFlow-cellを示す図である。
マイクロアレイ型SPRi装置((株)堀場製作所:OpenPlex)専用のバイオチップ((株)堀場製作所:CS-HD)を示す図である。網掛け部は抗体またはレクチンが固相化された部分を示す。6角形枠は図2におけるGasketが接触する場所を示す。
バイオチップに固相化された抗c-kit抗体とエクソソーム表面のc-kitの結合による反射率の変化を示す図である(従来法)。A:抗c-kit抗体の反射率変化を示している。反射率の変化は、抗c-kit抗体の反射率とヤギIgGの反射率の差分を示す。B:SPRイメージは、エクソソーム送液から600秒後の画像を示す。
バイオチップに固相化された抗c-kit抗体とエクソソーム表面のc-kitの結合による反射率の変化を示す図である(新規固相化法)。A:抗c-kit抗体の反射率変化を示している。反射率の変化は、抗c-kit抗体の反射率とヤギIgGの反射率の差分を示す。B:SPRイメージは、エクソソーム送液から600秒後の画像を示す。
バイオチップに固相化された各レクチンまたは各抗体とエクソソーム表面の糖鎖または表面抗原との特異的な結合の検出を示す図である。各写真は、各レクチン(ConA; Concanavalin A、SBA; Soybean Agglutinin、MAM; Maackia amurensis、LF; Lectin, Fucose specific from Aspergillus oryzae、SSA; Lectin, sialic acid specific from Sambucus sieboldiana、AAL; Aleuria aurantia Lectin、UEA-I; Ulex Europaeus Agglutinin I,Lotus; Lotus Tetragonolobus Lectin)、各抗体(CD9、CD63、CD81、Mouse IgG’s)におけるSPRイメージを示す。SPRイメージは、希釈エクソソーム送液から約1500秒後の画像を示す。
0012
本発明は、エクソソーム表面分子に対する結合性分子が固相化された担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックおよび洗浄すること、ならびに該担体とエクソソームを含む被験試料の接触前にカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と被験試料を混合することを特徴とする、該エクソソーム表面分子を特定する方法(以下、本発明の特定方法と記載する場合もある)を提供する。
0013
本発明の特定方法において、エクソソームとは、細胞から分泌される、リン脂質二重膜に包まれた細胞外小胞である。細胞は、動物細胞、植物細胞、微生物細胞等特に限られない。動物細胞の中には哺乳動物細胞を含み、哺乳動物細胞としては、以下に制限されるものではないが、例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例:マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞、癌細胞もしくは培養細胞などが挙げられる。
0014
本発明の特定方法において、エクソソーム表面分子(以下、単に表面分子と記載する場合もある)としては、タンパク質、糖鎖、脂質などが挙げられる。
タンパク質としては、例えば、膜タンパク質(内在性膜タンパク質、表在性膜タンパク質)が挙げられる。膜タンパク質の中でも内在性膜タンパク質が好ましく、その中でも膜貫通タンパク質がより好ましい。膜貫通タンパク質としてはテトラスパニン、細胞接着因子、免疫グロブリンスーパーファミリーなどが挙げられる。テトラスパニンとしては、例えば、CD9、CD63、CD81などが挙げられる。細胞接着因子としては、例えばインテグリンが挙げられる。インテグリンは、α鎖とβ鎖の2つのサブユニットからなるヘテロダイマーであれば特に制限はなく、例えば、インテグリンα1β1、α2β1、α3β1、α6β1、α7β1、α6β4、α10β1、α11β1、αLβ2、αMβ2、αXβ2、αDβ2、α5β1、αVβ1、αVβ3、αVβ5、αVβ6、αVβ8、αIIbβ3、α4β1、α4β7、α9β1、αDβ2、αLβ2、αMβ2、αXβ2、αEβ7などが挙げられる。免疫グロブリンスーパーファミリーとしては、例えば、CD19、EWI-2などが挙げられる。
糖鎖としては、例えば、N-グリコシド結合糖鎖、O-グリコシド結合糖鎖などが挙げられる。
脂質としては、例えば、リン脂質、スフィンゴミエリン、コレステロール、セラミド、脂質ラフト、糖脂質などが挙げられる。糖脂質としては、例えば、スフィンゴ糖脂質などが挙げられる。
0015
本発明の特定方法において、上記の表面分子に対する結合性分子(以下、単に結合性分子と記載する場合もある)は、該表面分子を特異的に認識し、結合できる分子であれば、特に制限はないが、例えば、タンパク質、核酸が挙げられる。
タンパク質としては、例えば、抗体、細胞接着因子(例えば、インテグリン)、レクチンなどが挙げられる。
核酸としては、例えば、アプタマーなどが挙げられる。
0016
本発明の特定方法において、抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体をともに包含する。また、当該抗体は、あらゆる哺乳動物由来の抗体を包含するものであってよく、さらに、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEのいずれの免疫グロブリンクラスに属するものであってもよいが、好ましくはIgGである。当該抗体は目的の表面分子に結合する市販の抗体や研究機関に保存されている抗体を使用してもよい。あるいは、当業者であれば、従来公知の方法に従って、抗体を作製することができる。
また、抗体には、前記のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体に加えて、これらの抗体の断片が含まれる。抗体の断片とは、前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはFab、Fab’、F(ab’)2、scAb、scFv、またはscFv-Fc等を包含する。
0017
本発明の特定方法において、細胞接着因子はエクソソーム表面分子として記載したものと同様であってよい。
0018
本発明の特定方法において、レクチンは、抗体以外の、細胞または複合糖質を凝集する性質を有する、糖結合性のタンパク質または糖タンパク質であれば、特に制限されない。
本発明の抑制方法において、表面分子に結合するレクチンとしては、例えば、SBA(Soybean Agglutinin)、LCA(Lens culinaris Agglutinin)、AAL(Aleuria aurantia Lectin)、UEA(Ulex europaeus Agglutinin)、PNA(Peanut Agglutinin)、WGA(Wheat Germ Agglutinin)、Con A(Concanavalin A)などが挙げられる。
0019
本発明の特定方法において、アプタマーは、エクソソーム表面分子に対する結合活性を有する核酸分子をいう。アプタマーは、RNA、DNA、修飾核酸又はそれらの混合物であり得る。アプタマーはまた、直鎖状又は環状の形態であり得る。
アプタマーがRNAである場合、安定性、薬物送達性等を高めるため、各ヌクレオチドの糖残基(例、リボース)が修飾されたものであってもよい。糖残基において修飾される部位としては、例えば、糖残基の2’位、3’位及び/又は4’位のヒドロキシル基を他の原子に置き換えたものなどが挙げられる。修飾の種類としては、例えば、フルオロ化、アルコキシ化、O−アリル化、S−アルキル化、S−アリル化、アミノ化が挙げられる。
また糖残基については、2’位及び4’位で架橋構造を形成したBNA:Bridged nucleic acid(LNA:Linked nucleic acid)とすることもできる。
0020
本発明の特定方法において、結合性分子は担体に固相化される。結合性分子の固相化は、上記結合性分子を緩衝液で適当な濃度に調整し、担体にスポットし、静置することによって実施することができる。固相化する際の結合性分子の濃度は適宜決定してよいが、例えば、1 mg/mlでよい。静置する時間は適宜決定してよいが、例えば、8から16時間でよい。
0021
本発明の特定方法で使用される担体は、免疫学的方法または表面プラズモン共鳴法で使用されうる担体であれば特に制限はないが、例えば、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、ガラス、金属薄膜、ニトロセルロース膜等が挙げられる。
0022
本発明の特定方法は、結合性分子が固相化された担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックおよび洗浄することを特徴とする。カゼインは高度にリン酸化されたセリンが多く含まれたリン酸化タンパク質である。エクソソームを構成する脂質もリン脂質であるため、溶液中や担体上のカゼインとエクソソーム間にクーロン反発が生じる。従って、該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックすることによって、結合性分子が固相化されていない担体表面部分に対するエクソソームの非特異的結合も抑制することができ、同時に、担体に固相化された結合性分子に対するエクソソーム表面分子の特異的結合を保証することができる。カゼインによるブロックは、カゼインまたはカゼイン分解物を、終濃度0.1‐2%、好ましくは1%になるように溶媒で調整した溶液を該担体表面に満たして静置することによって実施することができる。本発明においてカゼイン分解物としては、カゼインの酸分解物質、アルカリ分解物質、加水分解物質が挙げられる。溶媒は、該エクソソーム表面分子と該結合性分子の結合性に影響を与えないものであれば、特に制限されない。そのような溶媒としては、例えば、蒸留水、PBSなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、カゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液を担体表面上に静置する時間、温度は当業者が適宜決定できるが、例えば、10分から2時間、室温で静置することができる。また、該担体の洗浄はカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液によって実施される。洗浄は、該担体が任意の工程を経て、次の工程に移る際に実施され、例えば、該担体がカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックされた時、該担体が被験試料に接触された時に実施される。洗浄は、カゼインまたはカゼイン分解物を、終濃度0.005-2%、好ましくは0.1%になるように溶媒で調整した溶液を該担体表面に満たして静置または流動することによって実施することができる。溶媒は、上記と同様であってよい。また、カゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液を担体表面上に静置または流動する時間、温度、回数は当業者が適宜決定できるが、例えば、10分から2時間、室温、1〜3回で静置または流動することができる。
0023
また、本発明の特定方法は、担体とエクソソームを含む被験試料の接触前にカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と被験試料を混合することを特徴とする。被験試料は、エクソソームを含む試料であれば特に制限なく用いることができる。被験試料は、動物(好ましくは、哺乳動物)における体液(血液、唾液、涙液、尿、汗など)を遠心処理、密度勾配遠心分離、フィルター処理、サイズ排除クロマトグラフィー、超遠心処理等によって調製される。これらの方法を用いることにより、エクソソームの濃度がより高い被験試料を調製することができる。調製された被験試料は、カゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と混合(以下、混合物)される。カゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液は、上記の洗浄に用いるためのカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と同様であってよい。また、該混合物を担体に接触させる際は、担体表面上に接触させる時間、温度、回数は当業者が適宜決定できるが、例えば、10分から2時間、室温、1〜3回で接触させることができる。
0024
本発明の特定方法は、より詳細には、以下の工程を含む。
(1)エクソソーム表面分子に対する結合性分子が固相化された担体表面をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックする工程、
(2)該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液で洗浄する工程、
(3)エクソソームを含む被験試料とカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液の混合物を該担体に接触させる工程、
(4)該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液で洗浄する工程、および
(5)該エクソソーム表面分子と該結合性分子の結合を検出する工程。
0025
上記の工程(1)〜(5)において、エクソソーム、表面分子、結合性分子、カゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液、担体、被験試料、ブロックする方法、洗浄する方法などは、本発明の特定方法に記載したものと同様であってよい。
0026
本発明の特定方法において、表面分子と結合性分子の結合を検出する方法は、特に制限されるものではないが、例えば、免疫学的方法または表面プラズモン共鳴法が挙げられる。
0027
本発明の特定方法において、免疫学的方法は、特に制限されるものではなく、被験試料中の表面分子と結合性分子からなる複合体を化学的または物理的手段により検出する免疫学的方法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。また、必要に応じて既知量の表面分子を含む標準液を用いて作製した標準曲線より表面分子の量の算出を行うこともできる。免疫学的方法としては、ELISAなど、バッチ系、フロー系を問わずに固相表面で抗原抗体反応させる手法であれば良い。
0028
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体と標識剤との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
0029
サンドイッチ法においては、担体に固相化された結合性分子に被験試料を反応させ(1次反応)、さらに該表面分子に対する標識二次抗体を反応させ(2次反応)た後、担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、被験試料中の表面分子を特定することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行ってもよいし時間をずらして行ってもよい。
0030
あるいは、表面プラズモン共鳴(SPR)法による免疫センサーを用いて、市販のセンサーチップの表面上に、常法に従って結合性分子を固相化し、これに被験試料を接触させた後、該センサーチップに特定の波長の光を特定の角度から照射し、共鳴角度の変化を指標にして、固相化した結合性分子への表面分子の結合の有無を判定することができる。
0031
さらに、本発明の特定方法では、2つ以上の異なる結合性分子を担体上で異なる配置になるように固相化することによって、各結合性分子がエクソソームに存在する複数の表面分子と相互作用するかどうかを同時に検証することができる。例えば、少なくとも1つのスポットに対して抗体を固相化し、別の少なくとも1つのスポットにレクチンを固相化した担体に、被験試料を接触させて該被験試料中のエクソソームの表面抗原と前記抗体の相互作用、及び糖鎖と前記レクチンの相互作用を検出することもできる。従って、本発明はまた、エクソソームの2つ以上の異なる表面分子に対する2つ以上の異なる結合性分子が互いに異なる配置になるように固相化された担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックおよび洗浄すること、ならびに該担体とエクソソームを含む被験試料の接触前にカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液と被験試料を混合することを特徴とする、該エクソソームの2つ以上の異なる表面分子を特定する方法を提供する。また本発明は、以下の工程を含む、エクソソーム表面分子を特定する方法を提供する。
(1)エクソソームの2つ以上の異なる表面分子に対する2つ以上の異なる結合性分子が互いに異なる配置になるように固相化された担体表面をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液でブロックする工程、
(2)該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液で洗浄する工程、
(3)エクソソームを含む被験試料とカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液の混合物を該担体に接触させる工程、
(4)該担体をカゼイン溶液またはカゼイン分解物溶液で洗浄する工程、および
(5)該エクソソームの2つ以上の異なる表面分子と該2つ以上の異なる結合性分子の結合を検出する工程。
本方法により、例えば、被験試料のエクソソームの2つ以上の異なる表面分子を同時に検出することができるため、被験試料を迅速に診断することができる。具体的にはがんの診断において、エクソソーム表面の糖鎖と表面抗原を同時に検出することができるので、その診断を迅速に行うことができるようになる。
0032
本発明はまた、カゼインまたはカゼイン分解物を含む、表面プラズモン共鳴法によるエクソソーム表面分子の特定用移動相(以下、本発明の移動相と記載する場合もある)を提供する。本発明において移動相とは、本発明の特定方法において、担体の洗浄または被験試料との混合のために使用されるカゼインまたはカゼイン分解物を含む溶液をいう。カゼインまたはカゼイン分解物は、本発明の特定方法に記載したものと同様であってよい。カゼインまたはカゼイン分解物を溶かすための溶媒としては、例えば、蒸留水、PBSなどが挙げられるが、これらに限定されない。
0033
上記移動相として提供されるカゼインまたはカゼイン分解物は、乾燥粉末であってもよいし、蒸留水、PBSに適当な濃度となるように溶解した溶液であってもよい。溶液の場合、約-20℃で保存することができる。
0034
本発明はまた、本発明の特定方法を実施するためのエクソソーム表面分子の特定装置(以下、本発明の装置と記載する場合もある)を提供する。本発明の装置は、マイクロアレイ型SPRi装置およびバイオチップを含む。バイオチップは、プリズムと該プリズムの一側面に成膜される金属から構成されている、プリズムの形状は台形、三角形および円形(半柱形)などが挙げられる。また、プリズムの屈折率は通常1.5〜1.8である。プリズムの一側面に成膜される金属としては、金、銀、銅、アルミニウムなどが挙げられる。また、バイオチップはその表面をスクシンイミドで活性化されたカルボキシ基が固相化されていることが好ましい。また、マイクロアレイ型SPRi装置は、バイオチップ表面へのエクソソームの結合によって誘起されるSPR現象に伴う反射光を検出するセンサーおよび反射光の変化量を反射率(%)として計算し、出力する装置を備える。また、上記マイクロアレイ型SPRi装置は、計算された反射率の変化を色調イメージに変換して出力する装置も備える。本発明の装置は、バイオチップ表面における結合性分子が固相化されていない箇所の色調変化も確認できるため、エクソソームの非特異的結合の有無を確認することができる。
0035
以下において、実施例により本発明をより具体的に説明するが、この発明はこれらに限定されるものではない。
0036
表面プラズモン共鳴(SPR)によるエクソソーム検出バイオセンサーの構築
表面プラズモン共鳴(SPR)によるエクソソーム検出バイオセンサーは、マイクロアレイ型SPRi装置((株)堀場製作所:OpenPlex)(図1)と装置専用のバイオチップ((株)堀場製作所:CS-HD;スクシンイミドで活性化されたカルボキシ基を固相化したバイオチップ)を用いて構築した。構築したセンサーは、チップ表面へのエクソソームの結合によって誘起されるSPR現象に伴う反射光の変化量を反射率(%)として、3秒毎に測定することができる。同時に、SPRの反射率変化をスポットイメージとして観察することができる。またチップは12 mm×23 mmの表面積があるので、固相化するためのリガンド溶液のスポット径(スポット量)を調整することで多数のスポットを並列できる特徴がある。本実施例で用いたマイクロアレイ型SPRi装置は、エクソソームの検出を行うバイオセンサーを含む計測部、エクソソーム表面分子の特定用移動相を貯留する移動相用ボトル、検出終了後の被験試料を含む廃液を貯留する廃液用ボトル、被験試料や移動相を送液する送液ポンプ、移動相を脱気する脱気装置および被験試料挿入口を備える。
0037
比較例 抗体を結合したバイオチップによるエクソソームの検出(従来法:BSAによるブロッキング)
エクソソームは、マウス骨髄由来肥満細胞放出エクソソームを使用した。該エクソソームはその表面にc-Kitを有することが分かっている。エクソソーム検出には、表面抗原c-Kitに対する抗体(抗c-Kit抗体; R&D systems Inc.,AF1356)および陰性抗体として未感作ヤギ抗体(ヤギ抗体; Abcam Inc., ab37373)を用いた。抗体は、スポッターを用いてチップ表面に10 nLスポットし、16時間静置することで固相化した。ダルベコのPBS(-)(以下、PBSと略記)で洗浄し、1%BSAを溶解したPBSをチップ表面に満たして1時間室温で静置することによって、ブロッキングを実施した。ブロッキングしたチップは、PBSで3回洗浄後、装置に装着した。チップ表面へのバッファーまたはサンプルの接触は、Flow-cell(図2)を介して行った。Flow-cellは、Gasket全体がチップに完全に覆われるような位置(図3)で、チップと接触固定する。また、Flow-cellの平面のうち、Gasketの枠に囲まれた平面は、Gasketの枠の周囲の平面よりも、80 μm凹んでいる。結果的に、Flow-cellと接触したチップは、Flow-cellのGasketの枠に囲まれた平面とチップ表面の間に幅80 μmの空間的隙間が生じる。従って、Flow-cellにFittingを介して連結された片方のポリ塩化ビニルチューブ(内径380 μm)から送液されたバッファー等は、幅80 μmの空間的隙間を満たすことによってチップ表面に接触し、もう片方のポリ塩化ビニルチューブから排出される。チップを装着した装置には、ランニングバッファー(上記移動相を指す)として PBS(バッファーA)を25 μL/分の流速で送液し、チップ表面をコンディショニングした。安定化した時点の反射率を0%として、エクソソームをバッファーAに懸濁して480秒間送液し、その後ただちにバッファーAのみを480秒間送液し、抗体の反射率を継時的に計測した。その結果、抗c-Kit抗体反射率から未感作ヤギ抗体反射率を差し引いた差分からは、エクソソームの抗c-Kit抗体への特異的な結合を検出できなかった(図4A)。SPRイメージからもわかるように、抗c-Kit抗体を固相化した部分は、ほとんど色調が変化せず、抗体が固相化された部分以外のBSAによってブロックされた部分の色調が変化した(図4B)、エクソソームとBSAが結合したことが分かった。このことは、BSAがエクソソームのチップへの非特異結合を抑制できないどころか、非特異的結合を生じさせる原因になることを示している。また、接触させたエクソソームの大部分はチップ表面に非特異的に結合したためエクソソームは抗体へ結合できなかったために、抗c-Kit抗体を固相化した部分はほとんど色調が変化しなかったことを示している。さらに、固相化した抗体濃度が低い場合、抗体が固相化されたスポット内もBSAによってブロックされ、エクソソームを検出する際に、抗体だけではなく、BSAと結合し、その結果、偽陽性、偽陰性を示すことが推測される。従って、抗体を用いたエクソソームの表面分子の検出系を確立するためには、BSAを用いない方法によってエクソソームの非特異結合を抑える必要のあることが分かった。
0038
実施例1 抗体を結合したバイオチップによるエクソソームの検出(新規測定法:カゼインによるブロッキング)
エクソソームは、比較例と同様に、マウス骨髄由来肥満細胞放出エクソソームを使用した。また、エクソソーム検出には、比較例と同様に、表面抗原c-Kitに対する抗体(抗c-Kit抗体; R&D systems Inc.,AF1356) および陰性抗体として未感作ヤギ抗体(ヤギ抗体; Abcam Inc., ab37373)を用いた。バイオチップ作製は、ブロッキング以外、比較例と同様の試薬と方法で実施した。ブロッキングは1%カゼインを溶解したPBSをチップ表面に満たして1時間室温で静置することによって実施した。ブロッキングしたチップは、PBSで3回洗浄後、装置に装着した。チップを装着した装置には、ランニングバッファー(上記移動相を指す)として0.1%カゼインを含む PBS(バッファーB)を25 μL/分の流速で送液し、チップ表面をコンディショニングした。安定化した時点の反射率を0%として、エクソソームをバッファーBに懸濁して480秒間送液し、その後ただちにバッファーBのみを220秒間送液し、抗体反射率を継時的に計測した。その結果、抗c-Kit抗体の反射率は、最大約0.1%まで上昇し、一方で陰性抗体の反射率は上昇しなかった(図5A, B)。結果として、比較例で使用したBSAに比べて、カゼインはエクソソームの表面分子と該表面分子に対する抗体の間の特異的な結合を可能にした。図5Bに示した送液開始から600秒後のSPRイメージにおいても、上記の特異的結合を容易に観察することができた。即ち、c-Kit抗体を固相化した部分では反射率の上昇を伴って色調が変化し、未感作ヤギ抗体を固相化した部分は色調が変化しなかった。また、抗体が固相化された部分以外のBSAによってブロックされたチップ表面部分はほとんど色調が変化しなかった。これらの結果から、1%カゼインによるブロッキングと送液バッファーに付加した0.1%カゼインにより、抗体が固相化された部分以外のチップ表面に対するエクソソームの非特異結合を抑えられ、その結果、エクソソームの表面分子と該表面分子に対する抗体の間の物理的接触の機会が増え、特異的な相互作用を観察できたことが明らかになった。
実施例
0039
実施例2 SPRイメージ法によるヒト血清由来エクソソームの糖鎖および表面抗原同時検出
細胞表面には、細胞膜を形成する脂質以外に膜蛋白質である表面抗原と糖鎖が存在する。表面抗原は、対応したリガンドや外部刺激の受容体として細胞の活性化を担う。また、糖鎖は、細胞がリガンドや外部刺激により分化や成熟した後、その配列が変化し標的分子となることが知られている。たとえば、微生物やウイルスは、特定細胞表面糖鎖を認識し、細胞に感染また侵入する。正常細胞からガン化する過程においては、ガン細胞特異的糖鎖発現や特定糖鎖発現が増加し、これら細胞が放出するエクソソームの表面糖鎖配列も変化する。従って、糖鎖は、微生物、細胞、エクソソーム識別に有用なバイオマーカーとして期待できる。実際に、臨床現場では、バイオマーカーとして表面抗原や糖鎖を使用する。表面抗原は、フローサイトメーターに代表される解析が主流である。しかし、糖鎖解析はその構造が複雑且つ、多くの環境要因に敏感に影響され、短時間での構造変化やDNAシークエンスによる解析ができず、糖鎖の解析方法は煩雑で大変困難である。このため、膜蛋白質である表面抗原と糖鎖解析の同時検出は現在のところなされていない。そこで本実施例では、アナライトとしてヒト検体を想定したヒト精製エクソソームを使用し、糖鎖配列特異的に認識するタンパクであるレクチンまたは表面抗原特異的抗体をリガンドとして用いることで、糖鎖と表面抗原の同時検出を行った。検出を行う手法としては、多検体の同時検出が可能であるSPRi法を用いた。
アナライトとして使用したヒト血清由来エクソソームは、Bio west社のHuman Serum (S4200-100) 10 mlと富士フイルム和光純薬株式会社製のMagCapture エクソソームアイソレーションキットPS (293-77601)を用いて、そのプロトコールに従って精製した。リガンドとして、エクソソーム糖鎖検出は、Concanavalin A (ConA;ナカライテスク株式会社、09446‐94)、Soybean Agglutinin(SBA; J-ケミカル社、J117)、Maackia amurensis(MAM; J-ケミカル社、J110)、Aspergillus oryzae由来精製フコース特異的レクチン(LF;東京化成株式会社、L0169)、Sambucus sieboldiana由来精製シアル酸特異的レクチン(SSA;、J-ケミカル社、J118)、Aleuria aurantia Lectin(AAL; J-ケミカル社、J101‐R)、Ulex europaeus Agglutinin I(UEA-I; J-ケミカル社、J119)、Lotus tetragonolobus Lectin(Lotus; J-ケミカル社、J109)の8種類を使用した。また、エクソソーム表面抗原検出は、テトラスパニン抗体であるCD9抗体(CD9;R&D systems Inc., MAB1880)、CD63抗体(CD63; Santa Cruz Biotechnology, sc-365604)、CD81抗体(CD81; Santa Cruz Biotechnology Inc., sc-166029)の3種類を使用した。陰性コントロールとしてはマウス抗体(MouseIgG’s;Sigma-Aldrich Inc., 18765)を使用した。
前記の各リガンドとエクソソーム間の非特異的結合抑制効果を有する0.1%ゼラチンと前記の各リガンドを混合し、スポッターを用いてチップ表面に10 nLスポットし、16時間静置することで結合した。PBSでチップ表面を洗浄し、1%カゼインでチップ表面に満たして1時間室温で静置し、ブロッキングした。ブロッキングしたチップを、PBSで3回洗浄後、装置に装着した。装置には、ランニングバッファーとして 0.1%カゼインを含んだPBS(バッファーA)を25 μL/分の流速で送液し、チップ表面を平衡化した時点の反射率を0とした。次に、精製エクソソームを10倍希釈になるようにバッファーAで希釈した。希釈したエクソソーム 200 μLを装置に注入後、240秒間送液した。エクソソームとレクチンとの結合速度は遅く、液の流れにより結合が阻害されるため送液を一旦停止し、エクソソーム希釈液をチップ表面に600秒間留めることによって、エクソソームとレクチンを結合および凝集させた。その後、さらにバッファーAのみを240秒間送液し、合計1080秒を結合過程とした。その後、解離過程として、バッファーAのみを480秒間送液し、バイオチップ表面を洗浄した。
その結果、バッファーAに置換された解離過程における約1500秒後のSPRイメージにおいては、陽性レクチンがSBA、MAM、LF、SSA、UEA-I、Lotus、かつ、抗体は、CD63が陽性、Mouse IgG’sは陰性であった(図6)。以上の結果は、精製エクソソーム上には、α-結合フコースとシアル酸含有NまたO型糖鎖、脂質結合型糖鎖が存在し、かつ、表面抗原であるテトラスパニンは、CD63が存在することが同時計測できた。かつ、陰性コントロールのMouse IgG’sが陰性であることから、測定系は成立していた。
0040
本発明の特定方法を用いることによって、エクソソームから悪性腫瘍診断等に用いるための情報を得ることができる。本出願は、日本で出願された特願2017−164879(出願日:平成29年8月29日)および特願2018−133709(出願日:平成30年7月13日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。
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