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課題・解決手段
概要
背景
エアロゲルおよびキセロゲルをはじめとする低密度ゲル体は、空孔率が高く、その名称に示されているように低密度の固相のゲル体である。低密度ゲル体は、特徴的な特性、例えば、小さい比重、大きい比表面積、小さい熱伝導率(高い断熱性)を示す。これらの優れた特性により、低密度ゲル体には、例えば、断熱材、遮音材、担持体、吸着体等の種々の用途への応用が期待される。しかし、従来の低密度ゲル体は、低密度であるが故に上記優れた特性を示す一方で、低密度であるが故に脆い(機械的特性が低い)。この脆さと、当該脆さが故に低密度ゲル体の製造にあたって高コストの超臨界乾燥が必須とされていることが、種々の用途への低密度ゲル体の実用化の障害となっている。より具体的な例として、シリカエアロゲルは、一般に、小さい比重、小さい熱伝導率および高い光学的透明性を示す。これらの特徴は、複層ガラスの中間層(断熱層)としての用途に有利である。しかし、シリカエアロゲルの低い機械的特性が、当該用途への実用化の障害となっている。
シリカベースの低密度ゲル体について、機械的特性の向上が試みられている。試みの一例では、ゾル−ゲル法による低密度ゲル体の製造において、メチルトリメトキシシラン等の3官能性ケイ素化合物と、ジメチルジメトキシシラン等の2官能性ケイ素化合物との混合物を原料化合物として採用している。この方法では、3官能性ケイ素化合物に由来するポリシルセスキオキサンの3次元ネットワークと、2官能性ケイ素化合物に由来する、当該3次元ネットワークに比べて相対的に柔軟な線状のポリシロキサン鎖(シロキサン結合の分岐を有さないポリシロキサン鎖)とが混在した構造を有する骨格が形成され、これにより、低密度ゲル体の機械的特性の向上が図られる。特許文献1〜3には、上記方法により形成された低密度ゲル体が開示されている。
概要
本開示の低密度ゲル体は、ポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格を有し、前記骨格においてポリシロキサン鎖と有機重合鎖とが、ポリシロキサン鎖のケイ素原子を結合点として、双方の前記鎖上の複数の位置にて共有結合により互いに結合されている。有機重合鎖は、脂肪族炭化水素鎖であってもよい。ポリシロキサン鎖は、ポリオルガノシロキサン鎖であってもよい。本開示の低密度ゲル体は、曲げ柔軟性を含む機械的特性が向上した新規な低密度ゲル体である。
目的
本発明は、
ポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格を有し、
前記骨格において前記ポリシロキサン鎖と前記有機重合鎖とが、前記ポリシロキサン鎖のケイ素原子を結合点として、双方の前記鎖上の複数の位置にて共有結合により互いに結合されている低密度ゲル体、
を提供する
効果
実績
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請求項1
ポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格を有し、前記骨格において前記ポリシロキサン鎖と前記有機重合鎖とが、前記ポリシロキサン鎖のケイ素原子を結合点として、双方の前記鎖上の複数の位置にて共有結合により互いに結合されている低密度ゲル体。
請求項2
前記ポリシロキサン鎖がポリオルガノシロキサン鎖である請求項1に記載の低密度ゲル体。
請求項3
請求項4
前記オルガノ基がメチル基である請求項3に記載の低密度ゲル体。
請求項5
前記有機重合鎖が脂肪族炭化水素鎖である請求項1〜4のいずれかに記載の低密度ゲル体。
請求項6
請求項7
前記有機重合鎖の重合度が2〜10000である請求項1〜6のいずれかに記載の低密度ゲル体。
請求項8
前記ポリシロキサン鎖と前記有機重合鎖とが、前記有機重合鎖が有する特定の繰り返し単位において互いに結合されている請求項1〜7のいずれかに記載の低密度ゲル体。
請求項9
請求項10
熱伝導率が20mW/(m・K)以下である請求項1〜9のいずれかに記載の低密度ゲル体。
請求項11
繰り返し単位Aを有する有機前駆鎖を含み、前記繰り返し単位Aが、加水分解性の官能基が2つ以上結合したケイ素原子を側鎖に有する溶液系において、ゾル−ゲル法により、前記繰り返し単位Aの側鎖に位置する前記官能基の加水分解反応と、前記ケイ素原子を有する前記側鎖間の重縮合反応と、を進行させて、前記有機前駆鎖の主鎖を含む有機重合鎖と、当該有機重合鎖における前記側鎖が結合していた複数の位置にて共有結合により前記有機重合鎖に結合された、前記ケイ素原子を含むポリシロキサン鎖と、を形成し、前記ポリシロキサン鎖および前記有機重合鎖に富む骨格相と、前記溶液系の溶媒に富む溶液相と、から構成される湿潤ゲルを形成する、ゲル化工程と;前記湿潤ゲルを乾燥させて、前記骨格相を骨格とし、前記溶液相を細孔として、互いに結合された前記ポリシロキサン鎖および前記有機重合鎖を含む前記骨格と、前記細孔と、を有する低密度ゲル体を得る乾燥工程と;を含む、低密度ゲル体の製造方法。
請求項12
前記加水分解性の官能基が2つ以上結合したケイ素原子を有するとともに、重合性基をさらに有するケイ素化合物に対して、前記重合性基による重合を進行させて、前記ケイ素化合物に由来する前記繰り返し単位Aを有する前記有機前駆鎖を形成する前駆体形成工程をさらに含む、請求項11に記載の低密度ゲル体の製造方法。
請求項13
請求項14
前記前駆体形成工程と前記ゲル化工程とを連続して実施する請求項12または13に記載の低密度ゲル体の製造方法。
請求項15
前記ケイ素原子にオルガノ基が結合しており、前記ポリシロキサン鎖としてポリオルガノシロキサン鎖を形成する、請求項11〜14のいずれかに記載の低密度ゲル体の製造方法。
請求項16
前記オルガノ基が炭素数1〜4のアルキル基である請求項15に記載の低密度ゲル体の製造方法。
請求項17
前記有機重合鎖が脂肪族炭化水素鎖である請求項11〜16のいずれかに記載の低密度ゲル体の製造方法。
請求項18
前記溶液系が塩基性触媒をさらに含む請求項11〜17のいずれかに記載の低密度ゲル体の製造方法。
請求項19
請求項20
前記加水分解性の官能基が炭素数1〜4のアルコキシ基である請求項11〜19のいずれかに記載の低密度ゲル体の製造方法。
請求項21
前記有機前駆鎖における前記繰り返し単位Aの重合度が2〜10000である請求項11〜20のいずれかに記載の低密度ゲル体の製造方法。
技術分野
背景技術
0002
エアロゲルおよびキセロゲルをはじめとする低密度ゲル体は、空孔率が高く、その名称に示されているように低密度の固相のゲル体である。低密度ゲル体は、特徴的な特性、例えば、小さい比重、大きい比表面積、小さい熱伝導率(高い断熱性)を示す。これらの優れた特性により、低密度ゲル体には、例えば、断熱材、遮音材、担持体、吸着体等の種々の用途への応用が期待される。しかし、従来の低密度ゲル体は、低密度であるが故に上記優れた特性を示す一方で、低密度であるが故に脆い(機械的特性が低い)。この脆さと、当該脆さが故に低密度ゲル体の製造にあたって高コストの超臨界乾燥が必須とされていることが、種々の用途への低密度ゲル体の実用化の障害となっている。より具体的な例として、シリカエアロゲルは、一般に、小さい比重、小さい熱伝導率および高い光学的透明性を示す。これらの特徴は、複層ガラスの中間層(断熱層)としての用途に有利である。しかし、シリカエアロゲルの低い機械的特性が、当該用途への実用化の障害となっている。
0003
シリカベースの低密度ゲル体について、機械的特性の向上が試みられている。試みの一例では、ゾル−ゲル法による低密度ゲル体の製造において、メチルトリメトキシシラン等の3官能性ケイ素化合物と、ジメチルジメトキシシラン等の2官能性ケイ素化合物との混合物を原料化合物として採用している。この方法では、3官能性ケイ素化合物に由来するポリシルセスキオキサンの3次元ネットワークと、2官能性ケイ素化合物に由来する、当該3次元ネットワークに比べて相対的に柔軟な線状のポリシロキサン鎖(シロキサン結合の分岐を有さないポリシロキサン鎖)とが混在した構造を有する骨格が形成され、これにより、低密度ゲル体の機械的特性の向上が図られる。特許文献1〜3には、上記方法により形成された低密度ゲル体が開示されている。
先行技術
発明が解決しようとする課題
0005
低密度ゲル体の機械的特性として、一方向への圧縮力に対する強度、柔軟性および復元性等(以下、「圧縮柔軟性」と記載する)がある。低密度ゲル体の圧縮柔軟性は、特許文献1〜3にも開示がある。本発明者らの検討によれば、低密度ゲル体の実用化に要求される機械的特性として、圧縮柔軟性の高さに加えて、低密度ゲル体を曲げようとする力に対する強度、柔軟性および復元性等(以下、「曲げ柔軟性」と記載する)の高さも重要である。しかし、従来の低密度ゲル体では、曲げ柔軟性について全く考慮されていない。従来の低密度ゲル体は、当該ゲル体を曲げようとする力によって容易に破壊されるか、あるいは、ある程度の曲げ柔軟性を有するゲル体においても、その程度は未だ不十分である。
0006
本発明の目的は、曲げ柔軟性を含む機械的特性が向上した新規な低密度ゲル体とその製造方法の提供にある。
課題を解決するための手段
0007
本発明は、
ポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格を有し、
前記骨格において前記ポリシロキサン鎖と前記有機重合鎖とが、前記ポリシロキサン鎖のケイ素原子を結合点として、双方の前記鎖上の複数の位置にて共有結合により互いに結合されている低密度ゲル体、
を提供する。
0008
別の側面において、本発明は、
繰り返し単位Aを有する有機前駆鎖を含み、前記繰り返し単位Aが、加水分解性の官能基が2つ以上結合したケイ素原子を側鎖に有する溶液系において、
ゾル−ゲル法により、前記繰り返し単位Aの側鎖に位置する前記官能基の加水分解反応と、前記ケイ素原子を有する前記側鎖間の重縮合反応と、を進行させて、
前記有機前駆鎖の主鎖を含む有機重合鎖と、当該有機重合鎖における前記側鎖が結合していた複数の位置にて共有結合により前記有機重合鎖に結合された、前記ケイ素原子を含むポリシロキサン鎖と、を形成し、前記ポリシロキサン鎖および前記有機重合鎖に富む骨格相と、前記溶液系の溶媒に富む溶液相と、から構成される湿潤ゲルを形成する、ゲル化工程と;
前記湿潤ゲルを乾燥させて、前記骨格相を骨格とし、前記溶液相を細孔として、互いに結合された前記ポリシロキサン鎖および前記有機重合鎖を含む前記骨格と、前記細孔と、を有する低密度ゲル体を得る乾燥工程と;
を含む、低密度ゲル体の製造方法、
を提供する。
発明の効果
0009
本発明によれば、曲げ柔軟性を含む機械的特性が向上した新規な低密度ゲル体とその製造方法とが達成される。
図面の簡単な説明
0010
図1は、本開示の低密度ゲル体の骨格における分子構造の一例を示す模式図である。
図2は、実施例において実施した、2官能性ケイ素化合物から低密度ゲル体を作製するステップを模式的に示す図である。
図3は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲルおよびキセロゲル)に対するフーリエ変換赤外分光分析(FTIR)の評価結果を示す図である。
図4は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲルおよびキセロゲル)に対する固相29Si−核磁気共鳴(NMR)の評価結果を示す図である。
図5Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の外観を示す図である。
図5Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲルおよびキセロゲル)の外観を示す図である。
図6は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察像を示す図である。
図7Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の窒素吸着/脱着等温線の評価結果を示す図である。
図7Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の細孔分布の評価結果を示す図である。
図8は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲルおよびキセロゲル)が水に浮かぶ状態を示す図である。
図9は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲルおよびキセロゲル)の表面における水の接触状態および接触角を示す図である。
図10は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の熱重量分析(TG−DTA)による熱安定性の評価結果を示す図である。
図11は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の窒素吸着/脱着等温線の評価結果を示す図である。
図12は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の断面のSEMによる観察像を示す図である。
図13は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の細孔分布の評価結果を示す図である。
図14Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の一軸圧縮試験における応力−歪み曲線(S−S曲線)を示す図である。
図14Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の一軸圧縮試験におけるS−S曲線を示す図である。
図15Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の3点曲げ試験におけるS−S曲線を示す図である。
図15Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の3点曲げ試験におけるS−S曲線を示す図である。
図16Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の一軸圧縮試験時の圧縮および復元の状態を示す図である。
図16Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の3点曲げ試験時の曲げおよび復元の状態を示す図である。
図17Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)を手によって大きく曲げたときの曲げおよび復元の状態を示す図である。
図17Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)を手によって大きく曲げたときの曲げおよび復元の状態を示す図である。
図18Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の窒素吸着/脱着等温線の評価結果を示す図である。
図18Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の細孔分布の評価結果を示す図である。
図19は、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の断面のSEM観察像を示す図である。
図20は、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の外観を示す図である。
図21は、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の外観を示す図である。
図22Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の一軸圧縮試験におけるS−S曲線を示す図である。
図22Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の一軸圧縮試験におけるS−S曲線を示す図である。
図23は、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の3点曲げ試験におけるS−S曲線を示す図である。
図24Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の一軸圧縮試験時の圧縮および復元の状態を示す図である。
図24Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)の3点曲げ試験時の曲げおよび復元の状態を示す図である。
図25は、実施例で作製した低密度ゲル体(エアロゲル)を手によって大きく曲げたときの曲げおよび復元の状態を示す図である。
図26Aは、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の断面のSEM観察像を示す図である。
図26Bは、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の断面のSEM観察像を示す図である。
図26Cは、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の断面のSEM観察像を示す図である。
図27は、実施例で作製した低密度ゲル体(キセロゲル)の3点曲げ試験におけるS−S曲線を示す図である。
0011
本明細書では、IUPACによる提唱に基づき、孔径(細孔径)が50nm超の細孔をマクロ孔、孔径が2nm以上50nm以下の細孔をメソ孔と称する。なお、孔径が2nm未満の細孔は、一般に、ミクロ孔と称される。細孔の孔径および平均孔径は、予想される孔径および平均孔径の大きさに基づいて選択される一般的な細孔分布測定、例えば、マクロ孔について水銀圧入法による細孔分布測定、メソ孔について窒素ガス吸着法による細孔分布測定により、求めることができる。
0012
[低密度ゲル体]
本開示の低密度ゲル体は、骨格(framework)と細孔(空孔)とを有する固相のゲル体である。骨格および細孔は、いずれも3次元の網目構造を有する連続相であり、互いに入り組んでゲル体の内部に分布している。骨格は、細孔の壁面を構成する。
0013
低密度ゲル体の密度(比重)は、例えば、0.5g/cm3以下であり、0.4g/cm3以下、0.35g/cm2以下、0.3g/cm2以下、さらには0.25g/cm2以下であってもよい。密度の下限は限定されないが、例えば、0.05g/cm2以上である。低密度ゲル体の密度は、0.16〜0.31g/cm2であってもよい。
0014
本開示の低密度ゲル体は、ポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格を有する。ポリシロキサン鎖は、2以上のシロキサン結合(−Si−O−)が連続した鎖である。ポリシロキサン鎖は、当該鎖を構成するケイ素(Si)原子を起点とするシロキサン結合の分岐を有していてもよいし、有していなくてもよい。シロキサン結合が連続したポリシロキサン鎖の構造単位について、Q単位(1つのケイ素原子を起点として2つの上記分岐を有する単位)、T単位(1つのケイ素原子を起点として1つの上記分岐を有する単位)、およびD単位(上記分岐を有さない単位)との表記が当業者によく知られている。本開示の低密度ゲル体が有する骨格においてポリシロキサン鎖と有機重合鎖とは、ポリシロキサン鎖のSi原子を結合点(ポリシロキサン鎖側の結合点)として、双方の鎖上の複数の位置にて共有結合により互いに結合されている。この共有結合にSi原子の結合の手が1つ使用されるため、当該骨格が含むポリシロキサン鎖は、複数のT単位および/またはD単位を必ず含む。ポリシロキサン鎖は、T単位および/またはD単位からなりうるし、D単位からなりうる。D単位からなるポリシロキサン鎖は、上記シロキサン結合の分岐を有さない線状のポリシロキサン鎖である。ポリシロキサン鎖は、Q単位をさらに含んでいてもよい。T単位および/またはQ単位を含むポリシロキサン鎖は、上記分岐に基づくシロキサン結合の3次元的な分子ネットワークを形成しうる。骨格が含むポリシロキサン鎖が有する単位の種類および各単位の含有率は、例えば、後述の製造方法における有機前駆鎖の構成、より具体的には、有機前駆鎖における繰り返し単位Aの種類および含有率、ならびに前駆体形成工程において有機前駆鎖の形成に用いるケイ素化合物の種類および含有率等により、制御できる。本開示の低密度ゲル体が有する骨格は、含まれる構造単位の種類および/または含有率が互いに異なる複数のポリシロキサン鎖を含んでいてもよい。
0015
本開示の低密度ゲル体が有する骨格が含むポリシロキサン鎖は、ポリオルガノシロキサン鎖であってもよい。ポリオルガノシロキサン鎖は、当該鎖を構成するSi原子に、1つのSi原子あたり少なくとも1つの、典型的には1つの、オルガノ基が結合した構造単位を有する。オルガノ基は非重合性の有機基であって、典型的には1価の基である。オルガノ基は、Si原子を分岐点としてポリシロキサン鎖から分岐した末端基を構成する。オルガノ基が結合した構造単位は、D単位である。D単位である当該構造単位は、Si原子の残る1つの結合の手を介して、有機重合鎖と上記共有結合を形成しうる。ポリオルガノシロキサン鎖は、D単位からなる鎖でありうる。
0016
有機重合鎖は、有機の重合性基の重合により形成される鎖である。有機重合鎖は、当該重合性基を有する有機単量体の重合により形成される重合体の主鎖を含んでいてもよいし、当該重合体の主鎖であってもよい。有機重合鎖は、Si原子を含んでいてもいなくてもよいが、典型的にはSi原子を含まない。
0017
図1に、本開示の低密度ゲル体の骨格における分子構造の一例を示す。図1の例に示す骨格は、ポリシロキサン鎖としてポリオルガノシロキサン鎖を含む。当該骨格に含まれるポリオルガノシロキサン鎖の一種は、オルガノ基としてメチル基(−CH3基)が結合したD単位からなる線状の鎖である。当該骨格においてポリシロキサン鎖(図1の例においては、ポリオルガノシロキサン鎖)2と有機重合鎖1とは、ポリシロキサン鎖2のSi原子をポリシロキサン鎖2側の結合点として、双方の鎖1,2上の複数の位置にて、共有結合により互いに結合されている。図1に示す例において結合点であるSi原子は、ポリシロキサン鎖2の末端以外の場所に複数存在している。ポリシロキサン鎖2の末端のSi原子も有機重合鎖1との結合点でありうる。図1には、有機重合鎖1との結合点である、ポリシロキサン鎖2の末端のSi原子も示されている。当該骨格には、直鎖状のポリシロキサン鎖2だけではなく、環状のポリシロキサン鎖2aも存在している。水酸基(−OH基)が結合した、ポリシロキサン鎖2の末端に位置するSi原子が存在する。ポリシロキサン鎖2と有機重合鎖1とは、有機重合鎖1が有する繰り返し単位3ごとに互いに結合されている。また、ポリシロキサン鎖2と有機重合鎖1とは、ポリシロキサン鎖2のD単位が有するSi原子の結合の手を介して互いに結合されている。ポリシロキサン鎖2と有機重合鎖1とは、互いに絡み合いながら、それぞれ3次元方向に延びる複合分子ネットワークを構成している。
0018
本開示の低密度ゲル体の骨格における分子構造は、複数のポリシロキサン鎖2のネットワークを有機重合鎖1が複数の上記結合点において架橋した構造ととらえることもできる。また、本開示の低密度ゲル体の骨格における分子構造は、有機重合鎖1と、有機重合鎖1におけるSi原子を有する複数の側鎖、例えば、有機重合鎖1の特定の繰り返し単位3ごとに存在する側鎖、の重合鎖であるポリシロキサン鎖2とを含む構造ととらえることもできる。この観点においてポリシロキサン鎖2は、1つの有機重合鎖1内の重合鎖でも、2以上の有機重合鎖1間の重合鎖でもありうる。
0019
図1からも明らかであるように、本開示の低密度ゲル体の骨格は、ポリシルセスキオキサン鎖および線状のポリオルガノシロキサン鎖により構成される従来の有機−無機ハイブリッドゲルの骨格、あるいは、シリカにナノファイバーを混合した低密度ゲル体の骨格とは全く異なっている。
0020
ポリシロキサン鎖2および有機重合鎖1を含む上述した骨格を有する本開示の低密度ゲル体は、低密度ゲル体特有の低い密度を有しながらも、曲げ柔軟性を含む高い機械的特性を有する。より具体的には、本開示の低密度ゲル体は、当該ゲル体を一方向に圧縮しようとする力(圧縮力)に対する高い強度(破壊強度)、柔軟性および復元性等を有するとともに、当該ゲル体を曲げようとする力(曲げの力)に対する高い強度(破壊強度)、柔軟性および復元性等を有する。このような高い機械的特性は、ポリシロキサン鎖、特に3次元の分子ネットワーク構造を持つポリシロキサン鎖、に比べて相対的に柔軟である有機重合鎖1と、ポリシロキサン鎖2とが複数の位置にて共有結合により互いに結合されていることによって、圧縮力および曲げの力に対する高い強度、柔軟性および復元性が生じること、に基づく。
0021
また、ポリオルガノシロキサン鎖、特にD単位を含むポリオルガノシロキサン鎖、を骨格が含む場合、以下の理由(1)および(2)により、曲げの力に対するより高い強度、柔軟性および復元性が期待される。
(1)Si原子に結合したオルガノ基をポリシロキサン鎖2が有すると、ポリシロキサン鎖2から分岐した末端基であるオルガノ基と、当該基に隣接するポリシロキサン鎖2および有機重合鎖1との間に立体的な分子間の反発力が生じることにより、上記圧縮および曲げからの復元力が強く生じる。
(2)D単位を含むポリシロキサン鎖2、特にD単位からなるポリシロキサン鎖2、の分子構造が、ポリシルセスキオキサン鎖等の3次元分子ネットワークよりも柔軟である。
0022
本開示の低密度ゲル体は、例えば、以下の機械的特性を有しうる。
0023
弾性率(ヤング率)は、例えば0.5MPa以上であり、低密度ゲル体の構成によっては、1MPa以上、さらには5MPa以上でありうる。弾性率の上限は限定されないが、例えば、50MPa以下である。弾性率は、一方向への圧縮(一軸圧縮)による応力−歪み曲線(S−S曲線)の測定により求めることができる。
0024
圧縮力に対する強度は、一軸圧縮によるS−S曲線の測定により求めた最大破壊強度(破壊による破断点が当該曲線上に生じるまでに到達した最大強度)にして、例えば1MPa以上であり、低密度ゲル体の構成によっては、10MPa以上、さらには20MPa以上でありうる。当該強度の上限は限定されないが、例えば、500MPa以下である。
0025
圧縮力に対する柔軟性および復元性について、本開示の低密度ゲル体は、例えば、圧縮率50%の一軸圧縮に対する復元性を有し、低密度ゲル体の構成によっては、圧縮率60%、70%、さらには80%の一軸圧縮に対する復元性を有する。なお、本明細書における「一軸圧縮に対する復元性」とは、評価対象物をある一定の方向に一軸圧縮したときのS−S曲線(当該曲線の「歪み」は圧縮率とすることができる)上で破壊による破断点が生じないとともに、圧縮力を取り除いたときに歪みを回復できる特性を意味する。ただし、歪みを100%回復できる(圧縮する前の初期状態にまで完全に回復できる)必要はない。破断点が生じない限り、圧縮力を取り除いたときに圧縮(圧縮率)が残った状態であってもよく、最終的に低密度ゲル体に残った圧縮率(%)を100%から引いた値を、評価対象物の復元率(%)とすることができる。復元率も低密度ゲル体の圧縮柔軟性の指標となり、復元率が高いほど低密度ゲル体の圧縮柔軟性が高い。
0026
本開示の低密度ゲル体では、圧縮率50%の一軸圧縮に対する復元率が、例えば80%以上、低密度ゲル体の構成によっては、85%以上、90%以上、さらには95%以上でありうる。また、低密度ゲル体の構成によっては、圧縮率60%、70%、さらには80%の一軸圧縮に対する復元率において同様の数値範囲をとりうる。
0027
本開示の低密度ゲル体では、当該ゲル体の構成によっては、上記一軸圧縮試験を複数回繰り返し実施した(圧縮力の印加および解放を1サイクルとして、複数の印加および解放サイクルを実施した)ときにも、上記弾性率、強度、復元性および復元率から選ばれる少なくとも1つの特性を示しうる。サイクル回数は、例えば10回であり、20回、40回、50回、70回、90回、さらには100回でありうる。
0028
曲げの力に対する強度は、3点曲げ試験による応力−歪み曲線(S−S曲線)の測定により求めた最大破壊強度(破壊による破断点が当該曲線上に生じるまでに到達した最大強度)にして、例えば0.01MPa以上であり、低密度ゲル体の構成によっては、0.1MPa以上、さらには0.2MPa以上でありうる。当該強度の上限は限定されないが、例えば、10MPa以下である。
0029
曲げの力に対する柔軟性および復元性について、本開示の低密度ゲル体は、実施例に後述する3点曲げ試験において、歪み量に相当する荷重点の変位量にして10mmの曲げに対する復元性を有し、低密度ゲル体の構成によっては、上記変位量にして12mm、15mm、17mm、さらには20mmの曲げに対する復元性を有する。なお、本明細書における「曲げに対する復元性」とは、3点曲げ試験によるS−S曲線上で破壊による破断点が生じないとともに、曲げの力を取り除いたときに歪みを回復できる特性を意味する。ただし、歪みを100%回復できる(曲げの力を加える前の初期状態にまで完全に回復できる)必要はない。破断点が生じない限り、曲げの力を取り除いたときに変位量が残った状態であってもよく、低密度ゲル体に加えた最大変位量に対する、最終的に低密度ゲル体に残った変位量の比率(%)を100%から引いた値を、評価対象物の復元率(%)とすることができる。復元率も低密度ゲル体の曲げ柔軟性の指標となり、復元率が高いほど低密度ゲル体の曲げ柔軟性が高い。
0030
本開示の低密度ゲル体では、実施例に後述する3点曲げ試験において、歪み量に相当する荷重点の変位量にして10mmの曲げに対する復元率が、例えば80%以上、低密度ゲル体の構成によっては、85%以上、90%以上、さらには95%以上でありうる。また、低密度ゲル体の構成によっては、上記変位量にして12mm、15mm、17mm、さらには20mmの曲げに対する復元率において同様の数値範囲をとりうる。
0031
本開示の低密度ゲル体では、当該ゲル体の構成によっては、上記3点曲げ試験を複数回繰り返し実施した(荷重点への荷重の印加および解放を1サイクルとして、複数の印加および解放サイクルを実施した)ときにも、上記弾性率、強度、復元性および復元率から選ばれる少なくとも1つの特性を示しうる。サイクル回数は、例えば10回であり、20回、40回、50回、70回、90回、さらには100回でありうる。
0032
本開示の低密度ゲル体は、当該ゲル体の構成によっては、10〜30mmの曲率半径を有する軸、例えば、10〜30mmの直径を有する円柱、に対して、例えば90°以上、120°以上、150°以上、180°以上、210°以上、240°以上、270°以上、さらには360°以上の巻付けが可能である。このような巻き付け可能な低密度ゲル体は、従来、存在しない。
0033
本開示の低密度ゲル体は、ポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格を有するとともに、上述した機械的特性の少なくとも1つ、特に、曲げの力に対する機械的特性の少なくとも1つ、を有する低密度ゲル体であってもよい。
0034
本開示の低密度ゲル体は、エアロゲルまたはキセロゲルであってもよい。なお、エアロゲルおよびキセロゲルの名称の相違は、湿潤ゲルから固相の低密度ゲル体を形成する際の乾燥手法の相違に由来する。超臨界乾燥により形成した固相の低密度ゲル体をエアロゲルと、常圧乾燥により形成した固相の低密度ゲル体をキセロゲルと、一般に称する。本開示の低密度ゲル体は高い機械的特性を有しており、すなわち常圧乾燥が可能であるため、キセロゲルでありうる。もちろん、さらに別の乾燥手法、例えば凍結乾燥法、により形成した他の名称、例えばクライオゲル、の低密度ゲル体であってもよい。
0035
有機重合鎖1の具体的な構成は限定されない。曲げ柔軟性を含む機械的特性がより向上することから、有機重合鎖1は、好ましくは脂肪族炭化水素鎖である。脂肪族炭化水素鎖は、炭素原子および水素原子以外にも、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含んでいてもよい。
0036
有機重合鎖1は、ポリシロキサン鎖2のSi原子と結合した原子(ポリシロキサン鎖2との有機重合鎖1側の結合点となる原子)を有する特定の繰り返し単位Bを有していてもよい。なお、当該原子は、繰り返し単位Bの側鎖(有機重合鎖1の側鎖)に位置していても、繰り返し単位Bの主鎖(有機重合鎖1の主鎖)に位置していてもよい。繰り返し単位Bは、例えば、以下の式(2)に示す単位である。
0037
0038
式(2)のR4は、水素原子、分岐を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、水酸基またはハロゲン原子である。アルキル基は、例えば、炭素数1〜4のアルキル基であり、メチル基、エチル基であってもよく、メチル基であってもよい。ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子である。フェニル基が有しうる置換基は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;水酸基;カルボキシ基である。R4は、水素原子またはメチル基であってもよい。
0039
R5およびR6は、互いに独立して、水素原子、分岐を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、水酸基、ハロゲン原子、N,N−ジメチルアミド基、N−イソプロピルアミド基、カルボキシル基、またはカルボキシルエステル基(−COOR7)である。アルキル基、ハロゲン原子、およびフェニル基が有しうる置換基の例は、R4の説明で上述したものと同じである。R5およびR6は、互いに独立して、水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシルエステル基であってもよい。R7は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基であり、メチル基またはエチル基であってもよい。
0040
R4〜R6の組み合わせの一例では、R4〜R6は、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。
0041
式(2)における連結部Lは、例えば、環状であってもよく、分岐を有していてもよい炭素数1〜10のアルキレン基;置換基を有していてもよいフェニレン基;アミド基;エステル基;エーテル基;またはこれらの組み合わせである。フェニレン基が有しうる置換基は、R4の説明において上述した、フェニル基が有しうる置換基と同じである。エステル基は、例えば、−COOR7で示されるカルボキシエステル基である。連結部Lは、メチレン基、エチレン基、プロピレンエステル基であってもよい。ただし、式(2)において、連結部Lは存在しなくてもよい。有機重合鎖1が式(2)に示す繰り返し単位Bを有する場合、Lが存在するときは側鎖に位置するLが、Lが存在しないときは主鎖の炭素原子C*が、ポリシロキサン鎖2のケイ素原子との結合を形成しうる(有機重合鎖1側の結合点となりうる)。
0043
R4が水素原子以外の基であり、R5およびR6が水素原子である場合、式(2)の繰り返し単位は、ビニリデン単量体単位である。このとき、有機重合鎖1は、連結部Lを含んでいてもよいビニリデン重合鎖でありうる。
0044
R4〜R6のいずれか一つの基がメチル基であり、残る2つの基が水素原子である場合、式(2)の繰り返し単位は、アリル単量体単位である。このとき、有機重合鎖1は、連結部Lを含んでいてもよいアリル重合鎖でありうる。また、R4〜R6が水素原子であり、連結部Lがメチレン基である場合にも、式(2)の繰り返し単位はアリル構造、より具体的には、主鎖のC−C*構造を含むアリル構造、を有するアリル単量体単位である。当該アリル単量体単位の一例は、アリル単量体単位、アリルメチル単量体単位である。このとき、有機重合鎖1はアリル重合鎖でありうる。
0045
R4が水素原子またはメチル基であり、R5が水素原子であり、R6がカルボキシル基またはカルボキシルエステル基(−COOR7)である場合、式(2)の繰り返し単位は、(メタ)アクリル単量体単位である。このとき、有機重合鎖1は、連結部Lを含んでいてもよい(メタ)アクリル重合鎖でありうる。また、連結部Lが炭素原子C*に結合したカルボキシエステル基を有する場合、例えば、連結部Lが(メタ)アクリロキシプロピル基である場合、にも、式(2)の繰り返し単位は(メタ)アクリル構造、より具体的に、主鎖のC−C*構造を含む(メタ)アクリル構造、を有する(メタ)アクリル単量体単位である。当該(メタ)アクリル単量体単位の一例は、(メタ)アクリロキシプロピル単量体単位、(メタ)アクリロキシプロピルメチル単量体単位である。このとき、有機重合鎖1は(メタ)アクリル重合鎖でありうる。
0046
すなわち、有機重合鎖1は、ビニル重合鎖、ビニリデン重合鎖、アリル重合鎖、または(メタ)アクリル重合鎖でありうる。
0047
有機重合鎖1が繰り返し単位Bを有する場合、繰り返し単位Bにおいて、ポリシロキサン鎖2と有機重合鎖1とが互いに結合されていてもよい。図1に示す例では、繰り返し単位3は繰り返し単位Bであり、繰り返し単位3においてこのような結合がなされている。ただし、本開示の低密度ゲル体の骨格では、必ずしも全ての繰り返し単位Bにおいて、有機重合鎖1とポリシロキサン鎖2とが結合されていなくてもよい。
0048
有機重合鎖1は、ポリビニルメチルジメトキシシラン(PVMDMS)の主鎖であってもよい。また、有機重合鎖1は、ポリビニルポリメチルシロキサン(PVPMS)の「ポリビニル部分」であってもよい。PVPMSは、PVMDMSにおける加水分解性の基であるメトキシ基の加水分解反応、およびSi原子を含むPVMDMSの側鎖間の重縮合反応を経て得られた物質である。このため、PVPMSは、ビニル重合鎖である有機重合鎖1と、側鎖間の重縮合反応を経て形成されたポリシロキサン鎖2とを有する。PVPMSにおける有機重合鎖1とポリシロキサン鎖2とは、ポリシロキサン鎖2のSi原子を結合点として、双方の鎖上の複数の位置にて共有結合により互いに結合されている状態にある。このとき、本開示の低密度ゲル体は、PVPMSにより骨格が構成されるPVPMS低密度ゲル体でありうる。同様に、本開示の低密度ゲル体は、有機重合鎖1とポリシロキサン鎖2とが共有結合により結合されていることから、有機重合鎖1の名称(上記例では、ポリビニル)と、ポリシロキサン鎖2の名称(上記例では、ポリメチルシロキサン)とを組み合わせた名称を有する重合体により骨格が構成された低密度ゲル体であってもよい。
0049
なお、PVPMSの有機重合鎖1の繰り返し単位は、式(2)に示す繰り返し単位(ただし、R4〜R6は水素原子であり、連結部Lは存在しない)である。また、PVPMSのポリシロキサン鎖2は、オルガノ基としてメチル基を有し、かつ、D単位により構成されるポリオルガノシロキサン鎖である。
0050
有機重合鎖1の重合度(有機重合鎖1における繰り返し単位の数であって、繰り返し単位Bの数であってもよい)は、例えば2〜10000であり、10〜1000、20〜100、40〜80であってもよい。有機重合鎖1の重合度がこれらの範囲にある場合、曲げ柔軟性を含む低密度ゲル体の高い機械的特性をより確実に得ることができる。有機重合鎖1の重合度が過度に大きくなると、低密度ゲル体の密度が上昇する傾向にあり、場合によっては低密度ゲル体特有の低い密度を保てなくなることがある。有機重合鎖1の重合度が過度に小さくなると、曲げ柔軟性を含む高い機械的特性が得られなくなることがある。
0051
有機重合鎖1の重量平均分子量Mwは、例えば100〜100000であり、1000〜20000、3000〜10000であってもよい。有機重合鎖1のMwがこれらの範囲にある場合、曲げ柔軟性を含む低密度ゲル体の高い機械的特性をより確実に得ることができる。有機重合鎖1のMwが過度に大きくなると、低密度ゲル体の密度が上昇する傾向にあり、場合によっては低密度ゲル体特有の低い密度を保てなくなることがある。有機重合鎖1のMwが過度に小さくなると、曲げ柔軟性を含む高い機械的特性が得られなくなることがある。
0053
有機重合鎖1は、ポリシロキサン鎖2のSi原子と結合した原子を有さない繰り返し単位Cをさらに有しうる。より具体的には、有機重合鎖1は、ポリシロキサン鎖2のSi原子と結合した原子を有する繰り返し単位、例えば繰り返し単位B、と、繰り返し単位Cとの共重合鎖であってもよい。繰り返し単位Cは、ポリシロキサン鎖2のSi原子と結合した原子を有する繰り返し単位、例えば繰り返し単位B、と共重合可能な単位である。
0054
繰り返し単位Cは、例えば、エチレン単位、プロピレン単位、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、(メタ)アクリル酸単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、塩化ビニレン単位、スチレン単位である。
0055
有機重合鎖1が繰り返し単位Cをさらに有する場合、有機重合鎖1における繰り返し単位Cの含有率は、有機重合鎖1が有する全ての繰り返し単位の数に対する割合にして、例えば50%以下であり、20%以下、10%以下であってもよい。繰り返し単位Cの割合が過度に大きくなると、有機重合鎖1とポリシロキサン鎖2との結合の程度が減少して、曲げ柔軟性を含む高い機械的特性が得られなくなることがある。
0056
低密度ゲル体の骨格に含まれる有機重合鎖1の組成は、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR)、ラマン分光法、1H−核磁気共鳴(NMR)および13C−NMR等の各種の分析手法により当該骨格を分析することで評価できる。また、有機重合鎖1の重合度は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)等の各種の分析手法により当該骨格を分析することで評価できる。
0057
ポリシロキサン鎖2の重合度、すなわち、当該鎖に含まれるシロキサン結合(−Si−O−)の数、は限定されないが、例えば2〜10000であり、2〜1000、10〜1000であってもよい。
0058
D単位からなるポリシロキサン鎖2は、基本的には、線状の鎖である。D単位と、T単位および/またはQ単位とが混在するポリシロキサン鎖2は、D単位が連続する部分において線状の鎖であり、T単位および/またはQ単位を分岐点とする3次元的な分子ネットワークを形成しうる。
0059
ポリオルガノシロキサン鎖であるポリシロキサン鎖2のケイ素原子に結合しているオルガノ基は、例えば、アルキル基、ヒドリド基、アミノプロピル基、メルカプトプロピル基であり、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
0060
骨格における有機重合鎖1とポリシロキサン鎖2との含有比率は限定されないが、ポリシロキサン鎖2が有するSi原子の数に対する、有機重合鎖1におけるポリシロキサン鎖2のSi原子と結合した原子を有する繰り返し単位、例えば繰り返し単位B、の数の比により表して、例えば1〜10であり、1〜3であってもよい。
0062
本開示の低密度ゲル体の骨格径は、例えば100nm以下であり、50nm以下、30nm以下、さらには20nm以下であってもよい。骨格径の下限は限定されず、例えば1nm以上であり、5nm以上であってもよい。なお、骨格径は、骨格が延びる方向に垂直な断面の径(例えば、当該断面の面積に等しい仮想の円の直径)である。骨格径は、例えば、電子顕微鏡による低密度ゲル体の観察により求めることができる。本開示の低密度ゲル体の平均骨格径は、例えば1〜100nmであり、5〜50nm、5〜20nmであってもよい。電子顕微鏡の観察により平均骨格径を求める場合、評価対象物である低密度ゲル体の骨格の任意の場所に対して少なくとも10点の評価ポイントを設け、各評価ポイントにおいて評価した値の平均値を、当該低密度ゲル体の平均骨格径とすることができる。
0063
本開示の低密度ゲル体における細孔径は、例えば500nm以下であり、100nm以下、60nm以下、50nm以下、さらには20nm以下であってもよい。細孔径の下限は限定されず、例えば5nm以上であり、10nm以上であってもよい。細孔径は、例えば、電子顕微鏡による低密度ゲル体の観察および/または窒素吸着法による細孔分布測定により求めることができる。本開示の低密度ゲル体の平均細孔径は、例えば5〜500nmであり、10〜100nm、20〜60nmであってもよい。電子顕微鏡の観察により平均細孔径を求める場合、評価対象物である低密度ゲル体における任意かつ少なくとも10の細孔の径を評価し、その平均値を、当該低密度ゲル体の平均細孔径とすることができる。
0064
本開示の低密度ゲル体は、マクロ孔を有さない低密度ゲル体であってもよい。例えば、後述する製造方法において、マクロ孔が形成されうるマクロ相分離の発生を抑制する製造条件とすることにより、マクロ孔を有さない本開示の低密度ゲル体を製造できる。なお、本発明者らの検討によれば、ゾル−ゲル法によるシリカベースの低密度ゲル体の製造において、3官能性ケイ素化合物と2官能性ケイ素化合物との混合物を原料化合物として使用する従来の方法では、可視光を散乱するサイズの大きなマクロ孔が形成されるマクロ相分離が生じて、シリカエアロゲルが本来示しうる高い光学的透明性が失われる傾向がある。本開示の低密度ゲル体がマクロ孔を有さない低密度ゲル体でありうることは、高い光学的透明性をより確実に示しうる点で、従来の方法により得た低密度ゲル体よりも有利である。
0065
本開示の低密度ゲル体の空孔率は、レーザー共焦点顕微鏡による測定値にして、例えば50%以上であり、60%以上、70%以上、さらには80%以上であってもよい。空孔率の上限は限定されないが、例えば99%以下である。
0066
本開示の低密度ゲル体は、その構成によっては、曲げ柔軟性を含む高い機械的特性を有するとともに、以下に示す各特性から選ばれる少なくとも1つの特性をさらに有しうる。これは、本開示の低密度ゲル体が、例えば、機械的特性を向上させるためのポリマーまたは低分子化合物を単純に混合したゲル体とは異なり、上記分子構造による、より均質な構造を有しうることに基づくと考えられる。上記少なくとも1つの特性をさらに有する低密度ゲル体は、例えば、後述する製造方法において製造条件を制御することにより製造可能である。
0067
また、本開示の低密度ゲル体は、ポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格を有するとともに、上述した機械的特性の少なくとも1つ、特に、曲げの力に対する機械的特性の少なくとも1つ、と、以下に示す各特性から選ばれる少なくとも1つの特性とを有する低密度ゲル体であってもよい。
0068
・比表面積(SSA)
本開示の低密度ゲル体は、大きな比表面積(SSA)を有しうる。SSAは、例えば500m2/g以上であり、低密度ゲル体の構成によっては、600m2/g以上、さらには700m2/g以上でありうる。SSAの上限は限定されず、例えば1500m2/g以下であり、1000m2/g以下でありうる。SSAは、700〜1000m2/g、800〜1000m2/g、さらには900〜1000m2/gでありうる。なお、大きなSSAを有する低密度ゲル体は、例えば、吸着剤、触媒の用途に有利である。
0069
・全細孔容積
本開示の低密度ゲル体は、大きな全細孔容積を有しうる。全細孔容積は、例えば2cm3/g以上であり、低密度ゲル体の構成によっては、2.5cm3/g以上、3cm3/g以上、3.5cm3/g以上、さらには4cm3/g以上でありうる。全細孔容積の上限は限定されず、例えば8cm3/g以下である。なお、大きな全細孔容積を有する低密度ゲル体は、例えば、断熱材、触媒の用途に有利である。
0070
・光学的透明性
本開示の低密度ゲル体は、高い可視光透過率(波長550nmの光に対する透過率)を有しうる。可視光透過率は、厚さ2mmのシートとしたときに、当該厚さ方向における透過率にして、例えば60%以上であり、低密度ゲル体の構成によっては、70%以上、80%以上、85%以上、さらには90%以上でありうる。可視光透過率の上限は限定されず、例えば95%以下である。なお、高い可視光透過率を有する低密度ゲル体は、例えば、透光性断熱材、光触媒担体、チェレンコフ光検出器の用途に有利である。透光性断熱材は、例えば、複層ガラスの中間層(断熱層)として使用できる。
0071
・熱伝導率
本開示の低密度ゲル体は、小さな熱伝導率を有しうる。
0072
多孔質体の熱伝導率(λtotal)は、主に、固体伝導率(λs)、ガス伝導率(λg)および放射伝導率(λr)の3つの成分により構成され、λtotalは、式λtotal=λs+λg+λrにより表される。本開示の低密度ゲル体は、例えば0.5g/cm3以下の低い密度を有するとともに、細孔と、典型的にはナノ粒子の凝集により形成された骨格との均一性が高い3次元の網目構造を有していることから、λsは低いと考えられる。
0073
λgは、以下の式により示される。
λg=φ×λg0/(1+2βLmfpP0/[P・D])
上記式のφは空孔率であり、λg0は非対流自由気体分子の熱伝導率(mW/(m・K))、βは細孔内のガスに特有の定数、Lmfpはガス分子の平均自由行程(nm)、P0は参照ガスの圧力(Pa)、Pはガスの圧力(Pa)、Dは多孔体における平均細孔径(nm)である。本開示の低密度ゲル体における平均細孔径は、例えば60nm以下、好ましくは50nm未満であり、環境中の主要な分子の平均自由行程(70nm程度)よりも小さいため、λgは抑制される。λtotalへの室温におけるλrの寄与はほとんどない。したがって、本開示の低密度ゲル体は、非常に小さな熱伝導率(λtotal)を示しうる。
0074
本開示の低密度ゲル体の熱伝導率は、例えば25mW/(m・K)以下であり、低密度ゲル体の構成によっては、20mW/(m・K)以下、さらには18mW/(m・K)以下でありうる。熱伝導率の下限は限定されず、例えば10mW/(m・K)以上である。なお、小さな熱伝導率を有する低密度ゲル体は、例えば、断熱材の用途に有利である。
0075
・撥水性
本開示の低密度ゲル体は、表面の高い撥水性を有しうる。本開示の低密度ゲル体では、表面における水の接触角を、例えば120°以上、低密度ゲル体の構成によっては、130°以上、140°以上、さらには150°以上とすることができる。150°以上の接触角となる撥水性は、一般に、超撥水性と呼ばれる。すなわち、本開示の低密度ゲル体は、表面の超撥水性を有しうる。なお、表面の高い撥水性を有する低密度ゲル体は、例えば、断熱材、防汚材料の用途に有利である。
0076
本開示の低密度ゲル体はポリシロキサン鎖2を有するが、例えばポリシロキサン鎖2がD単位を含む、特にD単位からなる場合に、−OH基の含有量(水酸基密度)の低い低密度ゲル体でありうる。低い水酸基密度は、低密度ゲル体の高い撥水性に寄与する。また、当該ゲル体を製造する際の湿潤ゲルの乾燥時に、骨格の不可逆的な収縮を抑制でき、これにより、低い密度、大きなSSA、大きな全細孔容積、高い光学的透明性、および小さな熱伝導率から選ばれる少なくとも1つの特性をより確実に得ることができる。水酸基密度の低い低密度ゲル体は、例えば、後述する製造方法において、ゾル−ゲル法による湿潤ゲルの形成条件を制御することにより、具体的には、重縮合反応を促進させる反応条件を採用することにより製造可能である。また、−OH基と反応する改質剤による改質処理によっても製造可能である。
0077
本開示の低密度ゲル体における−OH基の含有量(水酸基密度)は、例えば5/nm2以下であり、低密度ゲル体の構成によっては、3/nm2以下、2/nm2以下、さらには1/nm2以下であってもよい。水酸基の含有量の下限は、例えば0.1/nm2以上であり、0.2/nm2以上であってもよい。低密度ゲル体における水酸基密度は、例えば、固体NMR法または熱分析法により評価できる。
0078
本開示の低密度ゲル体の形状は限定されない。高い機械的特性を有することにより、本開示の低密度ゲル体は様々な形状をとることができる。本開示の低密度ゲル体の形状は、例えば、粒子、シート、または直方体およびディスクのようなバルク(塊状)である。すなわち、本開示の低密度ゲル体は、シートおよびバルク等のモノリス体であってもよい。モノリス体である低密度ゲル体は、高い機械的特性を有することと相まって、従来の粒子状の低密度ゲル体に比べて取り扱いが容易である。また、粒子を凝集および成形することで特定の形状とした低密度ゲル体に比べて、特性の均一度を向上できる。さらに、高い機械的特性を有することにより、大きなサイズのモノリス体、例えば大面積のシートや厚さの大きなシートとすることもできるとともに、常圧乾燥による乾燥手法を採用できることと相まって、本開示の低密度ゲル体の工業的な製造を視野に入れることができる。
0080
本開示の低密度ゲル体の用途は限定されない。低い密度(すなわち軽量)、高い機械的特性、低い熱伝導率、高い可視光透過率等の種々の特性に基づき、任意の用途に使用できる。具体的な用途は、例えば、断熱材、吸着剤、触媒、触媒担体、チェレンコフ光検出器である。また、シート状の低密度ゲル体は、例えば、複層ガラスの中間層(断熱層)に使用できる。
0081
高い曲げ柔軟性を有する本開示の低密度ゲル体は、当該特性に基づく用途に使用可能である。具体的な用途は、例えば、本開示の低密度ゲル体が破断することなく管体等に巻き付け可能でありうることに基づく、冷媒または熱媒の輸送パイプに巻き付けて使用される断熱材である。
0082
圧縮力および曲げの力に対する高い復元性を有する本開示の低密度ゲル体は、これらの力による変形が繰り返し印加される用途に対する使用を視野に入れることができる。
0083
本開示の低密度ゲル体は、例えば、以下に示す製造方法により形成できる。本開示の低密度ゲル体は、以下の製造方法により得た低密度ゲル体であってもよい。
0084
[低密度ゲル体の製造方法]
本開示の製造方法は、以下のゲル化工程および乾燥工程を含む。
0085
ゲル化工程では、
繰り返し単位Aを有する有機前駆鎖(繰り返し単位Aは、加水分解性の官能基Dが2つ以上結合したSi原子を側鎖に有する)を含む溶液系において、ゾル−ゲル法により、繰り返し単位Aの側鎖に位置する官能基Dの加水分解反応と、Si原子を有する上記側鎖間の重縮合反応とを進行させて、
有機前駆鎖の主鎖を含む有機重合鎖と、当該有機重合鎖における上記側鎖が結合していた複数の位置にて共有結合により上記有機重合鎖に結合された、上記Si原子を含むポリシロキサン鎖と、を形成し、当該ポリシロキサン鎖および有機重合鎖に富む骨格相と、溶液系の溶媒に富む溶液相と、から構成される湿潤ゲルを形成する。
0086
乾燥工程では、
ゲル化工程を経て形成された湿潤ゲルを乾燥させて、
上記骨格相を骨格とし、上記溶液相を細孔として、互いに結合されたポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格と、細孔と、を有する低密度ゲル体を得る。
0087
この製造方法により、本開示の低密度ゲル体を形成できる。
0088
(ゲル化工程)
有機前駆鎖は繰り返し単位Aを有する。繰り返し単位Aは、Si原子を側鎖に有する。Si原子には、加水分解性の官能基Dが2以上結合している。有機前駆鎖の主鎖は、ゲル化工程により、湿潤ゲルの骨格相に含まれる有機重合鎖となる。なお、繰り返し単位Aの側鎖に、主鎖とSi原子とを連結する連結部が存在する場合、当該連結部は、ゲル化工程後に有機重合鎖に含まれるとする。連結部は、例えば、式(1)および(2)の連結部Lである。また、この有機重合鎖は、乾燥工程を経て、低密度ゲル体の骨格に含まれる有機重合鎖1となる。有機前駆鎖の側鎖に位置するSi原子および官能基Dは、ゲル化工程において実施されるゾル−ゲル法による加水分解反応および重縮合反応を経て、湿潤ゲルの骨格相に含まれるポリシロキサン鎖に変化する。このポリシロキサン鎖は、乾燥工程を経て、低密度ゲル体の骨格に含まれるポリシロキサン鎖2となる。有機重合鎖と、ゲル化工程によりポリシロキサン鎖を構成するSi原子とは、有機前駆鎖の主鎖と側鎖の関係にあるため、ゲル化工程後の湿潤ゲルの骨格相および低密度ゲル体の骨格に含まれる有機重合鎖とポリシロキサン鎖とは、上記Si原子を結合点として、双方の前記鎖上の複数の位置にて共有結合により互いに結合されている状態をとる。双方の鎖の結合の状態は、本開示の低密度ゲル体の説明において上述した状態でありうる。
0090
繰り返し単位Aが側鎖に有する上記Si原子には、オルガノ基がさらに結合していてもよい。この場合、Si原子に結合しているオルガノ基の数は、1つであってもよい。また、この場合、ゲル化工程では、ポリシロキサン鎖としてポリオルガノシロキサン鎖が形成される。オルガノ基は、本開示の低密度ゲル体の説明において上述したとおりである。
0091
繰り返し単位Aは、ゲル化工程後の有機重合鎖が脂肪族炭化水素鎖となる単位であってもよい。脂肪族炭化水素鎖は、炭素原子および水素原子以外にも、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含んでいてもよい。脂肪族炭化水素鎖は、ビニル重合鎖、ビニリデン重合鎖、アリル重合鎖、または(メタ)アクリル重合鎖であってもよい。
0092
繰り返し単位Aは、例えば、以下の式(1)に示す単位である。
0093
0094
式(1)のR1は官能基Dまたはオルガノ基であって、より具体的には、炭素数1〜4のアルコキシ基または炭素数1〜4のアルキル基であってもよく、メトキシ基、エトキシ基、メチル基であってもよい。R2およびR3は官能基Dであって、より具体的には、互いに独立して、炭素数1〜4のアルコキシ基であってもよく、メトキシ基またはエトキシ基であってもよい。
0095
R4〜R6および連結部Lは、上述した式(2)のR4〜R6および連結部Lと同じである。連結部Lが存在しない場合、当該箇所は単結合であり、側鎖のSi原子は、繰り返し単位Aの主鎖の炭素原子に結合している。
0096
R4〜R6が水素原子である場合、式(1)の繰り返し単位Aは、ビニル単量体単位である。このとき、ゲル化工程により、連結部Lを含みうるビニル重合鎖である有機重合鎖が形成されうる。
0097
R4が水素原子以外の基であり、R5およびR6が水素原子である場合、式(1)の繰り返し単位Aは、ビニリデン単量体単位である。このとき、ゲル化工程により、連結部Lを含みうるビニリデン重合鎖である有機重合鎖が形成されうる。
0098
R4〜R6のいずれか一つの基がメチル基であり、残る2つの基が水素原子である場合、式(1)の繰り返し単位Aは、アリル単量体単位である。このとき、ゲル化工程により、連結部Lを含みうるアリル重合鎖である有機重合鎖が形成されうる。また、R4〜R6が水素原子であり、連結部Lがメチレン基である場合にも、式(1)の繰り返し単位Aはアリル単量体単位である。当該アリル単量体単位の一例は、アリルメチルジメトキシシラン単位、アリルメチルジエトキシシラン単位、アリルトリメトキシシラン単位、アリルトリエトキシシラン単位である。
0099
R4が水素原子であり、R5が水素原子またはメチル基であり、R6がカルボキシル基またはカルボキシルエステル基(−COOR7)である場合、式(1)の繰り返し単位Aは、(メタ)アクリル単量体単位である。このとき、ゲル化工程により、連結部Lを含みうる(メタ)アクリル重合鎖である有機重合鎖が形成されうる。また、主鎖の炭素原子に結合したカルボキシエステル基を連結部Lが有する場合、例えば、連結部Lが(メタ)アクリロキシプロピル基である場合、にも、式(1)の繰り返し単位Aは(メタ)アクリル単量体単位である。当該(メタ)アクリル単量体単位の一例は、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン単位、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン単位、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン単位、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン単位である。
0100
具体的な有機前駆鎖は、例えば、ポリビニルメチルジメトキシシラン(PVMDMS)、ポリビニルメチルジエトキシシラン、ポリアリルメチルジメトキシシラン、ポリアリルメチルジエトキシシラン、ポリ(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ポリ(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ポリp−スチリルメチルジメトキシシラン、ポリp−スチリルメチルジエトキシシラン、ポリビニルトリメトキシシラン、ポリビニルトリエトキシシラン、ポリアリルトリメトキシシラン、ポリアリルトリエトキシシラン、ポリ(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ポリ(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ポリp−スチリルトリメトキシシラン、ポリp−スチリルトリエトキシシランである。
0101
有機前駆鎖における繰り返し単位Aの重合度は、本開示の低密度ゲル体の説明において上述した、有機重合鎖の重合度と同じ範囲をとりうる。すなわち、有機前駆鎖における繰り返し単位Aの重合度は、例えば2〜10000であり、10〜1000、20〜100、40〜80であってもよい。
0102
有機前駆鎖の重量平均分子量Mwは、例えば100〜100000であり、1000〜20000、3000〜10000であってもよい。
0103
有機前駆鎖は、繰り返し単位A以外の単位を有していてもよい。繰り返し単位A以外の単位は、例えば、本開示の低密度ゲル体の説明において上述した繰り返し単位Cである。有機前駆鎖が繰り返し単位Cをさらに有する場合、有機前駆鎖における繰り返し単位Cの含有率は、本開示の低密度ゲル体の説明において上述した、有機重合鎖1における繰り返し単位Cの含有率と同様でありうる。
0104
溶液系における有機前駆鎖の含有率は、例えば1〜60質量%であり、5〜50質量%、10〜40質量%であってもよい。
0105
溶液系の溶媒は、有機前駆鎖に対する上記加水分解反応および重縮合反応の進行が可能である限り、限定されない。溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ベンジルアルコール、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等であり、これらの混合溶媒であってもよい。溶媒は、好ましくは、水、ベンジルアルコールおよびこれらの混合溶媒である。溶媒は、極性溶媒であってもよいし、極性溶媒とともに非極性溶媒を含んでいてもよい。溶液系は水系であってもよい。
0106
溶液系は、上記加水分解反応および重縮合反応を促進させるための触媒を含んでいてもよい。触媒は限定されない。触媒は酸触媒であっても塩基性触媒であってもよいが、塩基性触媒の使用により、上記加水分解反応および重縮合反応をより促進できる。この観点からは、溶液系は塩基性触媒をさらに含みうる。なお、酸触媒および塩基性触媒は、それぞれ、水素イオンおよび水酸化物イオンを放出することで溶液のpHを変化させ、加水分解反応および重縮合反応を促進する触媒を意味する。
0107
酸触媒は、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸等の有機酸であり、加水分解反応および重縮合反応のより安定的な進行が可能であることから、好ましくは、無機酸である。塩基性触媒は、例えば、水酸化第4級アンモニウム、第4級アンモニウム塩、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、尿素であり、加水分解反応および重縮合反応のより安定的な進行が可能であるとともに、これらの反応をより促進できることから、好ましくは、水酸化第4級アンモニウムである。水酸化第4級アンモニウムは、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドである。第4級アンモニウム塩は、例えば、炭酸ビス(テトラメチルアンモニウム)カーボネート(TMACO)、炭酸ビス(テトラエチルアンモニウム)カーボネート、炭酸ビス(テトラプロピルアンモニウム)カーボネートである。塩基性触媒は、TMAOH、TMACOが好ましい。TMAOHは、TMACOに比べて塩基度が高い。
0108
溶液系における触媒の含有率は、例えば0.1〜30質量%であり、0.5〜20質量%、1〜10質量%であってもよい。
0109
本開示の低密度ゲル体が得られる限り、溶液系は他の物質を含みうる。
0110
他の物質は、例えば、相分離抑制剤である。相分離抑制剤は、湿潤ゲル形成時における骨格相と溶液相とのマクロ相分離を抑制する作用を有する。相分離抑制剤は、例えば、極性溶媒と、基本的に疎水性である重縮合反応組成物との双方に対する親和性を有する物質であり、より具体的な例は、炭素数2以上のハロゲン化第4級アンモニウム塩、およびブロックコポリマーである。相分離抑制剤は、n−ヘキサデシルトリメチルクロリド、n−ヘキサデシルトリメチルブロミド、ポリエチレンオキシド−block−ポリプロピレンオキシド−block−ポリエチレンオキシド、炭素数2以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルであってもよい。
0111
他の物質の別の例は、ゲル化工程において、有機前駆鎖の繰り返し単位Aにおける側鎖のSi原子との間で、ゾル−ゲル法による加水分解反応および重縮合反応の進行が可能なケイ素化合物である。当該ケイ素化合物は、例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランである。
0112
ゾル−ゲル法における加水分解反応および重縮合反応は連続して進行する。反応温度は、例えば0〜120℃であり、60〜100℃であってもよい。反応時間は、反応系の組成により異なるが、例えば1〜120時間であり、1〜72時間であってもよい。
0113
ゲル化工程では、重縮合反応の反応率を向上させることを目的として、熟成期間を設けてもよい。熟成期間を設けることにより、ポリシロキサン鎖におけるSi原子に結合した−OH基の量(水酸基密度)を低減できる。湿潤ゲルが含む−OH基の量を減らすことにより、乾燥工程において常圧乾燥を選択した場合における−OH基間の反応が抑制され、低密度ゲル体の不可逆的な収縮を抑制できる。また、湿潤ゲルが含む−OH基の量を減らすことにより、最終的に得られる低密度ゲル体の表面の疎水性を向上できる。表面の疎水性は水の接触角により評価できる。熟成温度は、例えば0〜120℃であり、60〜100℃であってもよい。熟成時間は、例えば24〜120時間であり、48〜72時間であってもよい。
0114
ゲル化工程では、加水分解反応および重縮合反応を経て形成された湿潤ゲルに対して、−OH基の量を減らす改質処理を実施してもよい。当該処理は、例えば、−OH基と結合する改質剤を湿潤ゲルと接触させることにより実施できる。改質剤は、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシランである。HMDSを用いた場合、−OH基は−O−Si(CH3)3基に変換される。処理は、改質剤を含む溶液を、塗布、噴霧、浸漬等の手法により湿潤ゲルと接触させて実施できる。処理温度は、例えば0〜100℃であり、処理時間は、例えば1〜48時間である。
0115
有機前駆鎖の形成方法は限定されない。有機前駆鎖は、例えば、2以上の官能基Dが結合したSi原子を有するとともに、重合性基をさらに有するケイ素化合物に対して重合性基による重合を進行させて形成できる。すなわち、本開示の製造方法は、ゲル化工程および乾燥工程に加えて、ゲル化工程の前に、2以上の官能基Dが結合したSi原子を有するとともに、重合性基をさらに有するケイ素化合物に対して重合性基による重合を進行させて、当該ケイ素化合物に由来する繰り返し単位Aを有する有機前駆鎖を形成する前駆体形成工程をさらに含んでいてもよい。
0116
重合性基は限定されず、例えば、当該重合性基の重合により脂肪族炭化水素鎖が形成される基である。より具体的に、重合性基は、ビニル基、ビニリデン基、アリル基、および(メタ)アクリル基から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
0117
ケイ素化合物は、例えば、以下の式(3)に示す化合物である。
0118
0119
式(3)のR1〜R6およびLは、式(1)のR1〜R6およびLと同じである。
0120
具体的なケイ素化合物は、例えば、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、p−スチリルメチルジメトキシシラン、p−スチリルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシランである。
0121
ケイ素化合物は、オルガノ基と2つの官能基Dとが結合したSi原子を有するとともに、重合性基をさらに有していてもよい。このケイ素化合物は、2官能性ケイ素化合物である。
0122
前駆体形成工程におけるケイ素化合物の重合法は、重合性基の種類により選択でき、例えばラジカル重合を選択できる。
0123
ラジカル重合は、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の任意の重合法により実施できる。溶液重合または塊状重合を選択することにより、前駆体形成工程とゲル化工程とを連続して実施することも可能である。双方の工程を連続して実施できることは、本開示の低密度ゲル体の工業的な製造に有利である。また、これまでの説明および後述の実施例により明らかであるように、本開示の製造方法では、単一のケイ素化合物、例えば2官能性ケイ素化合物、を出発物質として低密度ゲル体を得ることも可能である。この点も、本開示の低密度ゲル体の工業的な製造に有利である。
0125
ラジカル開始剤は限定されず、パーオキシド系、アゾ系、レドックス系であってもよい。パーオキシド系の重合開始剤は、例えば、ジ−tert−ブチルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシドである。
0126
重合系における重合開始剤の含有量は、例えば0.1〜10質量%であり、1〜10質量%であってもよい。
0127
ラジカル重合を溶液重合により実施する場合、重合系の溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミドおよびこれらの混合溶媒である。前駆体形成工程の重合系における溶媒と、ゲル化工程の溶液系における溶媒とは同一であってもよい。
0128
重合温度は、例えば0〜250℃であり、100〜200℃であってもよい。重合時間は、例えば1〜72時間であり、12〜48時間であってもよい。
0129
乾燥工程を経て得られる低密度ゲル体の特性を、ゲル化工程の条件により制御することが可能である。ゲル化工程の条件の制御の例を示す。
0130
・前駆体形成工程とゲル化工程とを連続して実施する場合、前駆体形成工程における重合率を上げ、未反応で残留するケイ素化合物の量を低減させることにより、ゲル化工程におけるゲル化の均一度を向上できるとともに、マクロ相分離の発生を抑制できる。ゲル化の均一度向上および/またはマクロ相分離の抑制により、例えば、低密度ゲル体の可視光透過率が向上し、比表面積(SSA)が増加し、細孔径および骨格径が減少する傾向を示す。前駆体形成工程におけるケイ素化合物の重合率は、例えば、重合時間、重合温度、重合開始剤の種類、および重合系における重合開始剤の含有率等の制御により向上できる。なお、本開示の低密度ゲル体では、ゲル化の均一度の向上により、骨格を構成するナノ粒子のサイズが縮小する結果生じるレイリー散乱によって、若干の青みを有する透明な色調が現れることがある。
0131
・ゲル化工程に触媒を使用する場合、触媒の塩基度を上げることにより、重縮合反応をより速く進行させることができ、これにより、ゲル化工程におけるマクロ相分離の発生を抑制できる。また、熟成期間を設ける場合、触媒の塩基度が高いほど、重縮合反応の反応率を向上でき、湿潤ゲルおよび低密度ゲル体における−OH基の残留量を低減できる。マクロ相分離の抑制および−OH基の量の低減による効果は上述のとおりである。
0132
・ゲル化工程の溶液系における有機前駆鎖の含有率を小さくすることにより、最終的に得られる低密度ゲル体の比表面積(SSA)を大きくし、かさ密度を下げることができる。ただし、この場合、低密度ゲル体の細孔径、細孔径分布および骨格径が大きくなる傾向を示すとともに、これにより可視光透過率が低下する傾向を示す。換言すれば、溶液系における有機前駆鎖の含有率を大きくすることにより、低密度ゲル体の細孔径、細孔径分布および骨格径を小さくすることができ、例えば、当該ゲル体の可視光透過率を向上できる。
0133
・熟成期間を設けること、および湿潤ゲルに対して−OH基の量を減らす改質処理を行うことによる効果は上述のとおりである。
0134
(乾燥工程)
乾燥工程では、ゲル化工程を経て形成された湿潤ゲルを乾燥させて、湿潤ゲルの骨格相を骨格とし、溶液相を細孔として、低密度ゲル体を得る。
0135
湿潤ゲルの乾燥には、低密度ゲル体を得るための公知の乾燥方法を適用できる。乾燥方法は、例えば、超臨界乾燥、常圧乾燥、凍結乾燥である。なお、一般に、湿潤ゲルを超臨界乾燥して得た低密度ゲル体をエアロゲル、常圧乾燥して得た低密度ゲル体をキセロゲル、凍結乾燥して得た低密度ゲル体をクライオゲルと称する。
0136
超臨界乾燥には、超臨界状態にある流体として、例えば、二酸化炭素流体、メタノール流体、水流体を使用できる。実施が容易であることから、二酸化炭素流体の使用が好ましい。超臨界乾燥を行う前に、湿潤ゲルの溶媒置換を行ってもよい。
0137
本開示の低密度ゲル体は高い機械的特性を有するため、常圧乾燥によってキセロゲルとすることができる。常圧乾燥の温度は限定されず、例えば20〜80℃であり、40〜60℃であってもよい。常圧乾燥を行う前に、ゲルに含まれる溶媒をより低沸点の溶媒に置換する溶媒置換を行ってもよい。これにより、常圧乾燥をより確実に実施できる。
0138
ゲル化工程および乾燥工程は連続して実施できる。
0139
本開示の製造方法は、上記低密度ゲル体が得られる限り、これまで説明した以外の任意の工程を含むことができる。当該工程は、例えば洗浄工程である。
0140
上述した説明から明らかであるように、本開示の製造方法では、形成する低密度ゲル体の形状の自由度を高くできる。このため本開示の製造方法では、フィルムに限られることなく、より形状の自由度が高い成形体として低密度ゲル体を形成できる。成形体は、例えば、モノリス体でありうる。また、形成された低密度ゲル体についても、その高い機械的特性に基づき、切断、切削などの機械的加工によって形状を比較的容易に変化させることができる。
0141
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
0142
[化合物名]
本実施例において、化合物名および重合体名として以下の略語を使用する。
VMDMS:ビニルメチルジメトキシシラン
DTBP:ジ−tert−ブチルパーオキシド
PVMDMS:ポリビニルメチルジメトキシシラン
BzOH:ベンジルアルコール
TMAOH:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド
TMACO:ビス(テトラメチルアンモニウム)カーボネート
PVPMS:ポリビニルポリメチルシロキサン
HMDS:ヘキサメチルジシロキサン
0143
[材料の準備]
蒸留水は、林純薬工業製のものを準備した。DTBPは、東京化成工業製のものを準備した。VMDMS、TMAOH(濃度25質量%の水溶液)およびHMDSは、シグマアルドリッチ製のものを準備した。BzOH、2−プロパノールおよびn−ヘキサンは、キシダ化学製のものを準備した。TMACO(濃度25質量%の水溶液)は、TMAOHと二酸化炭素とを反応させて得た。具体的に、10mLのTMAOHに過剰の二酸化炭素をバブリングして、TMAOHの二酸化炭素との反応(テトラメチルアンモニウムバイカーボネート(TMABC)を形成する反応)を完全に進行させた。次に、得られたTMABCと10mLのTMAOHとを混合して、TMACOを得た。
0144
[作製したPVMDMSの評価方法]
実施例で作製したPVMDMSの各特性は、以下のように評価した。
0145
<重量平均分子量Mwおよび分子量分布Mw/Mn>
PVMDMSのMwおよびMw/Mn(Mn:数平均分子量)は、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により評価した。GPCシステムにはShodex製GPC104を、カラムにはShodex製LF604を、展開溶媒にはクロロホルムをそれぞれ使用した。
0146
<重合率>
PVMDMSのVMDMSからの重合率(conversion)は、1H−NMR測定により評価した。NMR装置にはブルカー製、Avance IIIを使用し、基準周波数を400MHzとした。
0147
[作製した低密度ゲル体の評価方法]
実施例で作製した低密度ゲル体の各特性は、以下のように評価した。
0149
<全細孔容積>
低密度ゲル体の全細孔容積は、上記求めたかさ密度および真密度より算出した。
0153
<吸着/脱着等温線、比表面積および細孔径分布>
低密度ゲル体の吸着/脱着等温線、比表面積(SSA)および細孔径分布は、窒素吸着分析法により評価した。評価装置には、マイクロトラック・ベル製BELSORP-miniを用いた。窒素吸着/脱着測定の前に、サンプルを真空下、120℃でおよそ6時間脱気した。SSAは、ブルナウワー−エメット−テラー(BET)法を用いて吸着枝より求めた。細孔径分布は、バレット−ジョイナー−ハレンダ(BJH)法を用いて吸着枝より求めた。
0154
<一軸圧縮試験および3点曲げ試験>
低密度ゲル体に対する一軸圧縮試験および3点曲げ試験は、圧縮・引張試験機(島津製作所製、EZGraph)により実施した。
0155
一軸圧縮試験について、サンプルの形状は直径10〜13mm、高さ5〜10mmの円柱とした。当該試験における圧縮軸の方向は、円柱の高さ方向とした。サンプルの圧縮時にサンプルの上面に均一に圧力が加わるように、当該上面を完全に覆う圧縮板を用いた。圧縮速度は0.5mm/分とした。
0156
3点曲げ試験について、サンプルの形状は幅10mm、長さ50mm、厚さ1mmの直方体とした。支点間距離は25mmとした。サンプルの長さ方向の中央部が支点間の中央に位置するように、支点上にサンプルを戴置した。当該中央部を荷重点として、先端半径0.3mmの圧子を荷重点に押し当てて3点曲げ試験を実施した。試験速度は0.5mm/分とした。
0159
<29Si−NMR>
低密度ゲル体に対する29Si−NMRは、交差分極マジック角スピニング(CP−MAS)法により実施した。NMR装置にブルカー製、Avence III 800USを用い、静磁場は18.8Tとした。プローブは4mmとし、MAS回転周波数は、外部参照物質としてヘキサメチルシクロトリシロキサンを用いて12kHzにセットした。
0160
<熱伝導率>
低密度ゲル体の室温における熱伝導率は、熱流量計(ネッチ製、HFM436 Lambda)を用いて、常温および常圧環境下で評価した。サンプルは、幅10mm、長さ10mm、厚さ1mmの直方体とした。
0161
[低密度ゲル体の作製]
本実施例では、2官能性ケイ素化合物としてVMDMSを用い、VMDMSから有機前駆鎖であるPVMDMSを形成して、図2に示す工程により、PVPMS低密度ゲル体を作製した。PVMDMSの繰り返し単位Aは、図2の符号4により示される単位である。
0162
<VMDMSからのPVMDMSの重合>
VMDMS、および反応開始剤として重合系における含有率を1または5モル%に調整したDTBPを熱水反応装置に収容した。次に、反応器内の気体をアルゴンガスにより置換した後、反応器を密閉した。次に、反応器を120℃に昇温して、予め定めておいた反応時間(6、12、24、48または72時間)保持することで、VMDMSのラジカル塊状重合を進行させた。反応時間の経過後、室温で自然冷却し、主成分としてPVMDMSを含む透明かつ粘調の液体を得た。
0163
<低密度ゲル体の作製>
上述のように得た液体1mLに、BzOH、蒸留水、および塩基触媒としてTMAOHまたはTMACOを、後述の表2に記載の量、この順に撹拌しながら加えた。全て加え終わった後、さらに5分間撹拌して得られたゾルをガラス製のボトルに移し、ボトルを密閉した状態で、80℃にセットした加熱炉に1時間収容して、ゾル−ゲル反応を進行させた。次に、当該反応により形成された湿潤ゲルを80℃または100℃で4日間熟成した後、60℃の温度下で2−プロパノールによる溶媒置換を2日間実施して、残留化合物を除去した。
0164
その後、湿潤ゲルを超臨界乾燥または常圧乾燥して、PVPMSのエアロゲル(超臨界乾燥)またはキセロゲル(常圧乾燥)を得た。超臨界乾燥は、二酸化炭素流体を用いて80℃、13.5MPaの条件で実施した。常圧乾燥は、HMDSによる改質処理を行わない場合について、湿潤ゲルに対して50℃の温度下でn−ヘキサンによる溶媒置換を3回実施した後(各回8時間)、室温で2日間、続いて80℃で1日間の乾燥条件で実施した。HMDSによる改質処理を行う場合は、湿潤ゲルに対してHMDSによる処理を50℃で2日間実施し、その後、湿潤ゲルに対して50℃の温度下でn−ヘキサンによる溶媒置換を3回実施した後(各回8時間)、室温で2日間、続いて80℃で1日間の乾燥条件で実施した。処理に用いるHMDSの量は、出発物質であるVMDMSに対して体積比で2倍とした。なお、n−ヘキサンの代わりに2−プロパノールを用いて溶媒置換を行った場合においても、同様の結果を得ることができた。
0165
以下の表1に、VMDMSのラジカル重合により得られたPVMDMS(製造例1〜10)の評価結果を示す。
0166
0167
表1に示すように、重合系におけるDTBPの濃度を1モル%に固定したときに、得られたPVMDMSの重合度は、重合時間24、48および72時間について、それぞれ40.5、40.5および45.7であった。また、VMDMSからPVMDMSへの重合率は、それぞれ91%、95%および99%であった。重合時間が長くなるほど、重合度が大きくなるとともに重合率が向上した。
0168
以下の表2および表3に、ゲル化工程により低密度ゲル体を作製する際の出発組成と、得られたPVPMS低密度ゲル体の特性を示す。
0169
なお、本実施例における低密度ゲル体のサンプル名は、以下の規則に従っている。サンプル名の先頭のSおよびAについて、Sは、超臨界乾燥により得られたエアロゲルを、Aは、常圧乾燥により得られたキセロゲルをそれぞれ意味する。2文字目のHは、TMAOHをゲル化工程の触媒に使用して得たゲルを、Cは、TMACOをゲル化工程の触媒に使用して得たゲルをそれぞれ意味する。3文字目の「1」は、VMDMSからPVMDMSを重合する際に使用したDTBPの濃度が1モル%であることを、「5」は当該濃度が5モル%であることをそれぞれ意味する。ハイフンを挟んでこれに続く数字は、VMDMSの重合時間を意味する。再度ハイフンを挟んで続く数字「1」、「2」および「3」は、PVMDMSのケイ素原子に対するBzOHのモル比がそれぞれ4.3、5.0および5.7であることを意味する。サンプルのなかに、さらにMまたは数字「100」が追記されたものがあるが、それぞれ、湿潤ゲルに対するHMDSによる処理を実施したサンプル、および熟成温度を100℃としたサンプルを意味する。数字「100」がサンプル名に含まれていないサンプルの熟成温度は80℃とした。
0170
0171
0172
以下、結果の考察を記載する。
0173
PVMDMS重合時の重合時間が、作製したPVPMS湿潤ゲルおよび低密度ゲル体の構造および特性に影響を与えることが確認された。
0174
図3のFTIRスペクトルに示すように、重合時間が長くなるにつれて、低密度ゲル体に残留するビニル基の量が減少した。なお、FTIRスペクトルにおいて、波数3056cm−1の吸収が=C-H伸縮振動に、波数1600cm−1の吸収がC=C伸縮振動に、波数1406cm−1の吸収が=CH2対称面内変角(はさみ)に(ただし−CH変形と重複している)、波数532cm−1の吸収が=CH変角に、それぞれ対応する。例えば、サンプルSH1−24−1(重合時間24時間)について、FTIRスペクトルにより同定されたビニル基に対応する吸収は非常に弱く、サンプルSH1−48−1(重合時間48時間)ではビニル基の吸収は確認されなかった。また、図4の29Si−NMRによれば、サンプルSH1−24−1について、ビニル基が結合したシリコン(CH2=CH(CH3)SiO2/2)のピークが化学シフト−35ppm近傍に確認されたが、このピークはサンプルSH1−48−1では確認されなかった。この結果は、これら2種類のサンプルにおけるPVMDMSの異なる重合率に対応していた。
0175
重合系において重合されなかった未反応のVMDMSは、ゾル−ゲル反応における加水分解および重縮合プロセスの進行中に環状および鎖状の分子構造を形成する傾向にあり、当該分子構造の形成はゾルの不均一なゲル化につながると考えられた。また、重合系におけるVMDMSの残留量が多い場合、疎水性の重縮合物と極性溶媒との間のマクロ相分離が生じやすくなり、沈殿、あるいは粗いゲルドメインを有する可視光透過率の小さい低密度ゲル体が形成される傾向にあった。一方、PVMDMSの加水分解および重縮合の間、シロキサン縮合物の疎水性によっても同様のマクロ相分離が進行する可能性が考えられるが、ある程度大きな重合度(実施例サンプルでは40超)を有するPVMDMS分子が多数の加水分解可能な基を持つことで高い架橋密度とより均一なゲル化とが促進されたためか、VMDMSの残留に起因するマクロ相分離に比べて、PVMDMS自身の疎水性に起因するマクロ相分離は抑制されたと推定される。
0176
より具体的に、PVMDMSの重合時間を短時間(6または12時間)としたときの湿潤ゲルの可視光透過率が低かったのに対して、重合時間をより長時間(24、48または72時間)としたときの湿潤ゲルの可視光透過率は大きく向上した。これに対応して、PVMDMSの重合時間が6または12時間の低密度ゲル体(サンプルSH1−6−1およびSH1−12−1)が白色不透明または半透明であったのに対し(図5A参照)、当該重合時間が24、48または72時間の低密度ゲル体(サンプルSH1−24−1、SH1−48−1およびSH1−72−1)は、より均一なゲル化により形成された微細なナノ粒子に起因する短波長の光のレイリー散乱による青みがかかった透明であった(図5Aおよび図5B参照)。
0177
表3に示すように、本実施例で作製したPVPMS低密度ゲル体のかさ密度は0.16〜0.31g/cm3の範囲にあり、PVMDMSの重合時間を48および72時間とした低密度ゲル体の可視光透過率は68〜91%の範囲、条件によっては、70〜91%の範囲、さらには80〜91%の範囲にあった。
0178
また、PVMDMSの重合時間がより長くなるほど、低密度ゲル体の比表面積(SSA)が大きくなるとともに、細孔径および骨格径が小さくなる傾向がみられた。具体的に、PVMDMSの重合時間が24、48および72時間の低密度ゲル体のSSAは900m2/gを超え、重合時間がより短い低密度ゲル体のSSA(サンプルSH1−6−1について248m2/g、サンプルSH1−12−1について701m2/g)よりも大きかった。また、平均細孔径は、サンプルSH1−6−1の100nm超から、サンプルSH1−12−1の58.1nm、さらにはサンプルSH1−72−1の28.1nmに減少した。また、サンプルSH1−6−1、SH1−12−1およびSH1−24−1の断面のSEMによる観察像(図6)からも、PVMDMSの重合時間が6時間であるサンプルSH1−6−1が大きな細孔と、大きな粒子の凝集体である骨格とを有していることが確認された。サンプルSH1−6−1のこの構造は、疎水性の重縮合物の架橋度が低下したことに起因するマクロ相分離に基づくと推定される。また、図6から、PVMDMSの重合時間が長くなるほど、低密度ゲル体の細孔径および骨格径が小さくなる傾向を読み取ることができる。この傾向は、図7Aおよび図7Bに示す窒素吸着/脱着等温線評価および細孔分布の評価結果からも確認された。
0179
図3に示すFTIRの評価結果および図4に示す29Si−NMRの評価結果によれば、得られたPVPMS低密度ゲル体の骨格には、VMDMSのケイ素原子に結合したメチル基およびビニル基に由来する、豊富なメチル基およびビニル重合鎖が含まれていることが確認された。一方、当該骨格に含まれる−OH基の量はわずかであった。
0180
FTIRスペクトルにおいて、波数2962cm−1、2920cm−1および2851cm−1の吸収はC−H結合の伸縮振動に、波数1456cm−1および1406cm−1の吸収はC−H結合の変角および変形に、それぞれ対応する。波数1260cm−1および815cm−1近傍の吸収はC−H結合の変形およびSi−C結合の伸縮運動に、それぞれ対応する。これらのC−HおよびSi−C結合は、PVPMS低密度ゲル体における上記メチル基およびビニル重合鎖に基づく。
0181
一方、FTIRスペクトルにおいて、波数3000cm−1から3600cm−1の間にあるブロードかつ弱い吸収は、−OH基の伸縮運動に対応する。当該吸収がブロードかつ弱いことは、低密度ゲル体に含まれる−OH基の量がわずかであることを意味している。また、Si−O−Si結合の伸縮運動に対応する波数1085cm−1近傍および780cm−1近傍に吸収がみられ、これにより、ゲル化工程によるポリオルガノシロキサン鎖の形成が確認された。
0182
図4の29Si−NMRプロファイルにおいて、化学シフト−19ppmに位置する鋭いピークは、(CH2CH)n(CH3)SiO2/2種に対応している。29Si−NMRプロファイルによっても、上記豊富なメチル基、ビニル重合鎖およびポリオルガノシロキサン鎖の存在が確認された。
0183
図8に示すように、実施例で作製した低密度ゲル体(サンプルSH1−48−1およびサンプルAH1−48−1−M)は、少なくとも2か月の間、水面に浮くことが確認された。これは、当該低密度ゲル体が、豊富なメチル基およびわずかな−OH基を含む従来にない構造を有しており、高い疎水性を示すためである。実施例で作製した全ての低密度ゲル体において、表面の水の接触角が120°以上であった。また、PVMDMSの重合時間が短いほど、粗い表面を有する低密度ゲル体が形成されるため、形状効果によって表面の疎水性が高くなる傾向を示した。PVMDMSの重合時間が異なるサンプルについて、表面における水の接触状態を図9に示す。サンプルSH1−6−1は、接触角154°の超撥水性を示した。
0184
図10に、サンプルSH1−48−1について、TG−DTAによる熱安定性の評価結果を示す。図10に示すように、サンプルSH1−48−1は200℃近傍まで安定であった。なお、図10に示すTG−DTAプロファイルにおいて、200℃を超えたあたりの熱流はビニル重合鎖の熱分解に、490℃近傍より始まる2つめの熱流はメチル基の熱分解に、それぞれ対応している。
0185
図11に示すように、実施例で作製した低密度ゲル体は、窒素吸着/脱着等温線評価において、当該低密度ゲル体が有するメソ多孔性の3次元網目構造に対応する、相対圧力0.5〜1.0での毛細管凝縮工程を有するタイプIVの等温線を示した。
0186
図12に、サンプルSH1−48−1、SC1−48−1、SH1−48−2およびSC1−48−2について、断面のSEM観察像を示す。図12に示すように、これらの低密度ゲル体は、凝集したナノ粒子により構成される、ランダムに相互接続された均質な多孔構造を有していた。
0187
ゾル−ゲル反応に用いた塩基触媒であるTMACOおよびTMAOHについて、TMACOの塩基度はTMAOHよりも低い。これは、TMACOがTMAOHと二酸化炭素との反応により得られることからも明らかである。表3および図12に示す結果から、塩基触媒の種類のみが異なる(触媒濃度は同じ)ゾル−ゲル反応では、より塩基度の高いTMAOHを使用した場合に、細孔径および骨格径が小さくなり、可視光透過率が高くなる傾向が確認された。これは、塩基度の高い触媒の使用によって重縮合反応が促進されることに起因すると考えられる。
0188
具体的に、サンプルSH1−48−1の細孔径および粒子径は、それぞれ10〜40nmの範囲および10〜35nmの範囲にあった。一方、サンプルSC1−48−1の細孔径および粒子径は、それぞれ10〜50nmの範囲および15〜50nmの範囲にあり、サンプルSH1−48−1の細孔径および粒子径の方がサンプルSC1−48−1よりも小さかった。そして、表3に示すように、サンプルSH1−48−1はサンプルSC−48−1に比べて高い可視光透過率を示した。
0189
また、塩基度のより高い触媒であるTMAOHを用いることにより、湿潤ゲルの熟成期間における重縮合反応を促進できた。このことは、触媒にTMAOHを用いた場合、熟成期間における体積の減少量(収縮量)が大きいことから確認できる。収縮量が大きいことは、表3に示すように、サンプルSC1−48−1に比べてサンプルSH1−48−1の方が密度が高く、全細孔容積が小さいことからも確認できる。なお、SSAは、双方のサンプルでほぼ同じ(950m2/g程度)であった。
0190
サンプルSH1−48−2およびサンプルSC1−48−2についても、サンプルSH1−48−1およびサンプルSC1−48−1と同様の傾向が確認された。
0191
ゲル化工程の溶液系における有機前駆鎖の濃度が相対的に低いサンプルSH1−48−2、SH1−48−3およびSC1−48−2は、当該濃度が相対的に高いサンプルSH1−48−1およびSC1−48−1と同様の900m2/gを超える高いSSAを示した。しかし、サンプルSH1−48−2、SH1−48−3およびSC1−48−2では、図12および図13に示すように、サンプルSH1−48−1およびSC1−48−1に比べて、細孔径がより大きくなるとともに、細孔径分布が拡大し、かつ粒子径の大きな方向に移動する傾向を示した。例えば、サンプルSC1−48−2の細孔径および粒子径は、それぞれ10〜60nmおよび15〜60nmの範囲にあり、サンプルSC1−48−1の細孔径および粒子径の範囲よりも大きかった。また、細孔径が大きくなることで可視光の分散が強くなったため、溶液系における有機前駆鎖の濃度が相対的に低い条件で形成された低密度ゲル体は、当該濃度が相対的に高い条件で形成された低密度ゲル体に比べて可視光透過率が低くなる傾向を示した。例えば、サンプルSH1−48−1の可視光透過率が83.2%であるのに対し、サンプルSH1−48−2の可視光透過率は76.4%、サンプルSH1−48−3の可視光透過率は68.6%であった。また、溶液系における有機前駆鎖の濃度が低くなるほど、低密度ゲル体のかさ密度が低下した。例えば、サンプルSH1−48−1のかさ密度が0.23g/cm3であるのに対し、サンプルSH1−48−2のかさ密度は0.19g/cm3、サンプルSH1−48−3のかさ密度は0.16g/cm3であった。
0192
図14Aおよび図14Bに、作製した低密度ゲル体の一軸圧縮試験におけるS−S曲線を示す。図15Aおよび図15Bに、作製した低密度ゲル体の3点曲げ試験におけるS−S曲線を示す。図14A〜図15Bに示す各サンプルは、圧縮力に対する高い強度、柔軟性および復元性と、曲げの力に対する高い強度、柔軟性および復元性を有していた。例えば、これらのサンプルは、圧縮率80%の圧縮または変位量18〜24mmの曲げを加えても、亀裂等の破壊が生じることなく、圧縮力または曲げの力を取り除くことにより、ほぼ元の形状への復元が可能であった。
0193
また、サンプルSC1−48−1について、一軸圧縮および解放のサイクルを100回繰り返しても、ほぼ元の形状に復元する特性(spring back特性)を有していることが確認された。具体的に、図14Bに示すように、100サイクル後のS−S曲線も実質的に初期のS−S曲線と同じ形を保っていた。
0194
一軸圧縮試験によるS−S曲線より求めたサンプルSH1−48−1およびSC−48−1のヤング率は、それぞれ5.2MPaおよび4.0MPaであった。また、サンプルSH1−48−2およびSC1−48−2の弾性率は、それぞれ3.4MPaおよび3.2MPaであった。サンプルSH1−48−1のポアソン比は約0.1であった。
0195
なお、サンプルSH1−48−2およびSC1−48−2は、サンプルSH1−48−1およびSC1−48−1と同様の圧縮柔軟性および曲げ柔軟性を有していたが、これらのサンプルに比べて弾性が若干低い傾向にあった。具体的に、図14A,14Bに示すように、サンプルSH1−48−2およびSC1−48−2の圧縮後回復率(spring back率)は、一軸圧縮試験における圧縮率が80%のときに、それぞれ87%および93%であった。ただし、圧縮力の解放後、室温で1時間程度放置した後の回復率は、それぞれ95%および99%に増加し、さらに120℃で1時間熱処理することにより、ほぼ元の形状に復元可能であった。これは、圧縮の間、柔軟性を有する骨格が比較的サイズの大きな細孔内に折りたたまれており、圧縮力が取り除かれた直後にこそ、骨格が折りたたまれた状態が保持されるものの、室温での放置の間に折りたたみが次第に解けるとともに、熱処理によって骨格中のメチル基およびビニル重合鎖が反発および緩和してスプリングバックが起き続けるためと推定される。また、サンプルSH1−48−2およびSC1−48−2は、3点曲げ試験において、サンプルSH1−48−1およびSC1−48−1と同様に、変位量18〜24mmの大きな変形後も、ほぼ元の形状への復元が可能であった。
0196
図16Aに、サンプルSH1−48−1について、一軸圧縮試験(圧縮率80%)時の圧縮および復元の状態を示す。図16Bに、サンプルSH1−48−1について、3点曲げ試験(変位量約8mm)時の曲げおよび復元の状態を示す。
0197
さらに、図17Aおよび図17Bに示すように、手によってサンプルSH1−48−2およびSH1−48−3を大きく曲げたところ、亀裂等の損傷が生じることなく曲げることができ、また、曲げの力を取り除くことによってほぼ元の形状に復元可能であった。これらの低密度ゲル体が、非常に高い曲げ特性を有していることが確認された。
0198
図18Aおよび図18Bに、常圧乾燥により得たキセロゲルについて、窒素吸着/脱着等温線評価および細孔分布の評価結果を示す。図19に、同キセロゲルについて、断面のSEMによる観察像を示す。図18A、図18Bおよび図19に示すように、常圧乾燥により得たキセロゲルにおいても、超臨界乾燥により得たエアロゲルと同様の構造および特性が得られることが確認された。
0199
ただし、改質処理なしに80℃で熟成したキセロゲルについて、乾燥方法が異なる以外は同じ条件で作製した対応するエアロゲルに比べて、密度が高くなった。具体的に、サンプルAH1−48−1およびAC1−48−1の密度は、それぞれ0.31g/cm3および0.28g/cm3であった。一方、エアロゲルサンプルSH1−48−1およびSC1−48−1の密度は、それぞれ0.23g/cm3および0.21g/cm3であった。密度に関するこの変化は、常圧乾燥時における一時的な収縮の間に、骨格内で隣接する少量の−OH基間に縮合が生じて、部分的に不可逆な収縮が生じるためと考えられる。このため、表3および図18Bに示すように、サンプルAH1−48−1およびAC1−48−1の細孔径の範囲(10〜40nm)およびSSA(900m2/g未満)は、対応するエアロゲルサンプルSH1−48−1およびSC1−48−1の細孔径およびSSAよりも小さくなった。また、細孔径が小さいほど可視光の散乱が抑制されるため、サンプルAH1−48−1およびAC1−48−1の可視光透過率は、それぞれ90.2%および82.2%であり、乾燥方法が異なる以外は同じ条件で作製した対応するエアロゲルサンプルSH1−48−1およびSC1−48−1よりも高かった。
0200
HMDSによる改質処理を行ったサンプルAH1−48−1−MおよびAC1−48−1−Mの湿潤ゲルでは、常圧乾燥の際に、骨格に働く毛細管力によって一時的な大きな収縮(収縮率約21%)が生じたが、最終的にほぼ元の形状に復元した。これは、これらサンプルの骨格に豊富なメチル基およびビニル重合鎖が存在していること、ならびに−OH基の量がほぼゼロであることによると推定される。
0201
なお、サンプルAH1−48−1−Mについて、図3に示すように、FTIRの吸収スペクトルには、おそらく、濃度の低さとVMDMSに由来する末端のメチル基に対応するピークとの重複とによって、−Si(CH3)3基の吸収ピークが観察されなかった。しかし、図4に示すように、29Si−NMRプロファイルには、−O−Si(CH3)3基のピーク(化学シフト6.5ppm近傍)が確認された。
0202
図5Bに示すように、この改質処理を経ることにより、常圧乾燥時に収縮がほとんど発生じないキセロゲルが得られた。また、図20に示すように、亀裂の発生が抑制された大きなサイズのキセロゲルパネル(キセロゲル自体としては、サンプルAC1−48−1−Mと同じ)が得られた。さらに、このパネルは、溶液系の溶液を数mLから数百mLにスケールアップするだけで形成できた。HMDSにより処理したキセロゲルサンプルAH1−48−1−MおよびAC1−48−1−Mの密度は、それぞれ0.24g/cm3および0.22g/cm3であり、乾燥方法および表面処理の有無のみが異なる以外は作製条件が同じである、対応するエアロゲルと同等であった。
0203
図5Bおよび図21に示すように、常圧乾燥の前の改質処理を行うことなく、熟成の温度を100℃とすることによっても、サンプルAH1−48−1−100のような収縮がほぼ生じていない透明なモノリス体であるキセロゲルが得られた。熟成を80℃で実施したキセロゲルに比べて常圧乾燥時における不可逆な収縮が抑制された理由は、より高温での熟成によって重縮合反応がより促進され、骨格における−OH基の量が低下したためと推定される。このキセロゲルは、改質剤、溶媒および処理時間を消費する改質処理を行うことなく常圧乾燥により得られるため、低コストによる製造が可能であり、実用性が高い。熟成温度を100℃とした常圧乾燥キセロゲルであるサンプルAH1−48−1−100およびAH1−48−2−100は、乾燥方法および熟成温度のみが異なる以外は作製条件が同じである、対応するエアロゲルに匹敵する低い密度(それぞれ0.21g/cm3および0.18g/cm3)を有していた。
0204
図9に示すように、サンプルAH1−48−1−M、AC1−48−1−MおよびAH1−48−1−100の水に対する接触角は、それぞれ127°、133°および132°であった。表3に示すように、これらのサンプルの可視光透過率は、それぞれ87.3%、80.5%および80.6%であった。また、図18Bに示すように、細孔径は、それぞれ10〜40nm、10〜50nmおよび10〜55nmの範囲にあった。さらに、図19に示すように、骨格径は、それぞれ10〜35nm、15〜50nmおよび15〜55nmの範囲にあった。表3に示すように、全細孔容積は、それぞれ3.32、3.70および3.95cm3/gであった。図22Aおよび22Bに示す一軸圧縮試験によるS−S曲線から算出したヤング率は、それぞれ6.6、5.8および7.6MPaであった。なお、これらの特性は、乾燥方法ならびに表面処理の有無または熟成温度のみが異なる以外は作製条件が同じである、対応するエアロゲルが示す特性と同様であった。
0205
これに加えて、キセロゲルサンプルAH1−48−1−M、AC1−48−1−MおよびAH1−48−1−100は、エアロゲルサンプルSH1−48−1およびSC1−48−1に匹敵する優れた機械的特性を有していた。図22A、図22B、図23、図24A、図24Bおよび図25に示すように、これらのサンプルは、高い圧縮柔軟性および曲げ柔軟性を有していた。例えば、これらのサンプルは、亀裂の発生なく80%の圧縮率で圧縮することが可能であり、圧縮力を取り除くことにより、速やかにほぼ元の形状に復元可能であった。また、100サイクルの圧縮および解放後も、ほぼ元の形状に復元可能であり(図22A、図22B参照)、比表面積(SSA)、細孔径および3次元網目構造も保持されていた(図26A〜図26C参照)。なお、図22Aおよび図22Bは、キセロゲルサンプルについて、一軸圧縮試験によるS−S曲線を示す図であり、図23は、キセロゲルサンプルについて、3点曲げ試験によるS−S曲線を示す図である。図24Aおよび図24Bは、サンプルAC1−48−1−Mについて、一軸圧縮試験(圧縮率80%)時の圧縮および復元の状態、および3点曲げ試験(変位量約8mm)時の曲げおよび復元の状態を示す図である。図25は、手によってサンプルAC1−48−1−Mを大きく曲げた際の復元の状態を示す図である。サンプルAC1−48−1−Mは、曲げの力を取り除くことによってほぼ元の形状に復元可能であった。これらの低密度ゲル体が、非常に高い曲げ特性を有していることが確認された。図26A〜26Cは、サンプルAH1−48−1−M、AC1−48−1−MおよびAH1−48−1−100について、100回の一軸圧縮試験サイクル後における断面のSEM観察像を示す図である。
0206
さらに、これらキセロゲルサンプルについて、大きな変位量(17〜20mm)の3点曲げ試験の後も、ほぼ元の形状に復元可能であった。また、図27に示すように、変位量12mmの3点曲げ試験を20サイクル実施後も亀裂が生じることなく、これらのキセロゲルサンプルは非常に高い曲げ柔軟性を示した。エアロゲルおよびキセロゲルを含め、本開示の低密度ゲル体が示すこのような優れた機械的特性は、シリカ、金属酸化物、セルロース、ポリマーまたはカーボンにより構成される従来の低密度ゲル体、およびシリカベースの有機−無機ハイブリッドゲルである従来の低密度ゲル体では達成できない。
0207
表3に示すように、サンプルSH1−48−2、SC1−48−1およびSC1−48−2の室温における熱伝導率は非常に低く、それぞれ15.2mW/(m・K)、16.4mW/(m・K)および16.2mw/(m・K)であった。この熱伝導率の値は、従来のシリアエアロゲルおよびPMSQエアロゲルと同等である。常圧乾燥により得たキセロゲルであるサンプルAC1−48−1−MおよびAH1−48−1−100の室温における熱伝導率は、上記エアロゲルサンプルと同様に低く、それぞれ16.5mW/(m・K)および15.4mW/(m・K)であった。これらの低密度ゲル体は、非常に優れた機械的特性、とりわけ、高い曲げ柔軟性、を有しているにもかかわらず、熱伝導性の上昇が抑制されたゲル体であった。
実施例
0208
本発明は、その意図及び本質的な特徴から逸脱しない限り、他の実施形態に適用しうる。この明細書に開示されている実施形態は、あらゆる点で説明的なものであってこれに限定されない。本発明の範囲は、上記説明ではなく添付したクレームによって示されており、クレームと均等な意味及び範囲にあるすべての変更はそれに含まれる。
0209
本発明の低密度ゲル体は、曲げ柔軟性を含む高い機械的特性という、従来の低密度ゲル体にはない優れた特性を有する。本発明の低密度ゲル体は、この特性に着目した種々の用途への応用が期待される。
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