図面 (/)

技術 DNAが編集された真核細胞を製造する方法、および当該方法に用いられるキット

出願人 国立大学法人大阪大学
発明者 真下知士竹田潤二森坂広行吉見一人
出願日 2018年6月8日 (1年3ヶ月経過) 出願番号 2018-554598
公開日 2019年6月27日 (2ヶ月経過) 公開番号 WO2018-225858
状態 特許登録済
技術分野 突然変異または遺伝子工学 植物の育種及び培養による繁殖 動物の育種及び生殖細胞操作による繁殖 微生物、その培養処理
主要キーワード 製造委託 医療用水 カプセル被膜 カバレッジデータ インターフェアラ カバレッジ率 オプティマイズ シュワネラ
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2019年6月27日)のものです。
また、この項目は機械的に抽出しているため、正しく解析できていない場合があります

図面 (20)

課題・解決手段

真核細胞においてCRISPR−Cas3システム確立することに成功した。

概要

背景

細菌、古細菌は、外来から侵入しようとするファージなどの生物を特異的に認識し、排除する適応免疫機構を有している。CRISPR−Casシステムと呼ばれるこのシステムは、まず、外来生物ゲノム情報自己ゲノムに取り込む(アダプテーション)。そして、再度同じ外来生物が侵入しようとする際に、自己ゲノムに取り込まれた情報とゲノム配列相補性を利用して外来ゲノムを切断し、排除する(インターフェアランス)。

最近になって、上記のCRISPR−Casシステムを、「DNA編集用道具」として用いた、ゲノム編集(DNA編集)技術が開発されるようになってきた(非特許文献1)。

CRISPR−Casシステムは、DNAを切断する過程で働くエフェクターが、複数のCasからなる「クラス1」と、単一のCasからなる「クラス2」とに大別される。とりわけ、クラス1のCRISPR−Casシステムとしては、Cas3およびカスケード複合体(カスケードとcrRNAとの複合体を意味する。以下同様。)が関与する「タイプI」が広く知られており、クラス2のCRISPR−Casシステムとしては、Cas9が関与する「タイプII」が広く知られている(以下、CRISPR−Casシステムに関して、「クラス1タイプI」および「クラス2タイプII」をそれぞれ単に「タイプI」および「タイプII」と称することもある。)。そして、これまでのDNA編集技術において広範に用いられていたのは、Cas9が関与するクラス2のCRISPR−Casシステムである(以下、「CRISPR−Cas9システム」と呼ぶこともある。)。例えば、非特許文献1は、Cas9を用いてDNAを切断する、クラス2のCRISPR−Casシステムを報告している。

一方、Cas3およびカスケード複合体を用いてDNAを切断する、クラス1のCRISPR−Casシステム(以下、「CRISPR−Cas3システム」と呼ぶこともある。)については、多くの努力にも拘らず、真核細胞においてゲノム編集の成功例の報告はなされていない。例えば、非特許文献2および3では、単に、CRISPR−Cas3システムを用いることにより、無細胞系で標的DNAが完全に分解されたことや、特定の大腸菌株を選択的に除去することができたことを報告しているが、これらはゲノム編集の成功を意味するものではなく、また、真核細胞では何ら実証されていない。また、特許文献1においては、CRISPR−Cas3システムが、Cas3のヘリカーゼ活性エキソヌクレアーゼ活性により、大腸菌において標的DNAを分解してしまうことから(実施例5、図6)、真核細胞においては、Cas3に代えて、FokIヌクレアーゼを用いてゲノム編集を行うことを提案している(実施例7、図7、図11)。また、特許文献2では、CRISPR−Cas3システムは、大腸菌において標的DNAを分解してしまうことから(図4)、cas3を欠失させたり、不活性化されたCas3(Cas3’とCas3’’)を使用することで、プログラム化可能な遺伝子抑制に再目的化することを提案している(例えば、実施例15、請求項4(e))。

概要

真核細胞においてCRISPR−Cas3システムを確立することに成功した。

目的

本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、真核細胞においてCRISPR−Cas3システムを確立することにある

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

この技術が所属する分野

ライセンス契約や譲渡などの可能性がある特許掲載中! 開放特許随時追加・更新中 詳しくはこちら

請求項1

DNAが編集された真核細胞を製造する方法であって、真核細胞にCRISPR−Cas3システムを導入することを含み、CRISPR−Cas3システムが以下の(A)〜(C)を含む方法。(A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および(C)crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター

請求項2

DNAが編集された動物(ただしヒトを除く)または植物を製造する方法であって、動物(ただしヒトを除く)または植物にCRISPR−Cas3システムを導入することを含み、CRISPR−Cas3システムが以下の(A)〜(C)を含む方法。(A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、(B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および(C)crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター

請求項3

真核細胞にCRISPR−Cas3システムを導入した後に、カスケードタンパク質を構成するタンパク質によりcrRNAが切断される工程を含む、請求項1または2に記載の方法。

請求項4

crRNAがプレcrRNAである、請求項1または2に記載の方法。

請求項5

Cas3タンパク質および/またはカスケードタンパク質に核移行シグナルが付加されている、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

請求項6

核移行シグナルがバイパルタイト核移行シグナルである、請求項5に記載の方法。

請求項7

以下の(A)および(B)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。(A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および(B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター

請求項8

crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド含む発現ベクターをさらに含む、請求項7に記載のキット。

請求項9

crRNAがプレcrRNAである、請求項8に記載のキット。

請求項10

Cas3タンパク質および/またはカスケードタンパク質に核移行シグナルが付加されている、請求項7〜9のいずれかに記載のキット。

請求項11

核移行シグナルがバイパルタイト核移行シグナルである、請求項10に記載のキット。

技術分野

0001

本発明は、DNAが編集された真核細胞動物、および植物を製造する方法、ならびに当該方法に用いられるキットに関する。

背景技術

0002

細菌、古細菌は、外来から侵入しようとするファージなどの生物を特異的に認識し、排除する適応免疫機構を有している。CRISPR−Casシステムと呼ばれるこのシステムは、まず、外来生物ゲノム情報自己ゲノムに取り込む(アダプテーション)。そして、再度同じ外来生物が侵入しようとする際に、自己ゲノムに取り込まれた情報とゲノム配列相補性を利用して外来ゲノムを切断し、排除する(インターフェアランス)。

0003

最近になって、上記のCRISPR−Casシステムを、「DNA編集用道具」として用いた、ゲノム編集(DNA編集)技術が開発されるようになってきた(非特許文献1)。

0004

CRISPR−Casシステムは、DNAを切断する過程で働くエフェクターが、複数のCasからなる「クラス1」と、単一のCasからなる「クラス2」とに大別される。とりわけ、クラス1のCRISPR−Casシステムとしては、Cas3およびカスケード複合体(カスケードとcrRNAとの複合体を意味する。以下同様。)が関与する「タイプI」が広く知られており、クラス2のCRISPR−Casシステムとしては、Cas9が関与する「タイプII」が広く知られている(以下、CRISPR−Casシステムに関して、「クラス1タイプI」および「クラス2タイプII」をそれぞれ単に「タイプI」および「タイプII」と称することもある。)。そして、これまでのDNA編集技術において広範に用いられていたのは、Cas9が関与するクラス2のCRISPR−Casシステムである(以下、「CRISPR−Cas9システム」と呼ぶこともある。)。例えば、非特許文献1は、Cas9を用いてDNAを切断する、クラス2のCRISPR−Casシステムを報告している。

0005

一方、Cas3およびカスケード複合体を用いてDNAを切断する、クラス1のCRISPR−Casシステム(以下、「CRISPR−Cas3システム」と呼ぶこともある。)については、多くの努力にも拘らず、真核細胞においてゲノム編集の成功例の報告はなされていない。例えば、非特許文献2および3では、単に、CRISPR−Cas3システムを用いることにより、無細胞系で標的DNAが完全に分解されたことや、特定の大腸菌株を選択的に除去することができたことを報告しているが、これらはゲノム編集の成功を意味するものではなく、また、真核細胞では何ら実証されていない。また、特許文献1においては、CRISPR−Cas3システムが、Cas3のヘリカーゼ活性エキソヌクレアーゼ活性により、大腸菌において標的DNAを分解してしまうことから(実施例5、図6)、真核細胞においては、Cas3に代えて、FokIヌクレアーゼを用いてゲノム編集を行うことを提案している(実施例7、図7図11)。また、特許文献2では、CRISPR−Cas3システムは、大腸菌において標的DNAを分解してしまうことから(図4)、cas3を欠失させたり、不活性化されたCas3(Cas3’とCas3’’)を使用することで、プログラム化可能な遺伝子抑制に再目的化することを提案している(例えば、実施例15、請求項4(e))。

0006

特表2015−503535号公報
特表2017−512481号公報

先行技術

0007

Jinek M et al. (2012) A Programmable Dual−RNA Guided DNA Endonuclease in Adaptive Bacterial Immunity, Science, Vol.337 (Issue 6096), pp.816−821
Mulepati S & Bailey S (2013) In Vitro Reconstitution of an Escherichia coli RNA−guided Immune System Reveals Unidirectional,ATP−dependent Degradation of DNA Target, Journal of Biological Chemistry, Vol.288 (No.31), pp.22184−22192
Ahmed A. Gomaa et al. (2014) Programmable Reomoval of Bacterial Strains by Use of Genome Targeting CRISPR−Cas Systems, mbio. asm. org, Volume 5, Issue 1, e00928−13

発明が解決しようとする課題

0008

本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、真核細胞においてCRISPR−Cas3システムを確立することにある。

課題を解決するための手段

0009

本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、遂に、真核細胞においてCRISPR−Cas3システムを確立することに成功した。最も広く利用されているCRISPR−Cas9システムは、様々な真核細胞においてゲノム編集に成功しているが、このシステムでは、通常、crRNAとして成熟crRNAが用いられている。しかしながら、驚くべきことに、CRISPR−Cas3システムでは、成熟crRNAを用いた場合には、真核細胞においてゲノム編集が困難であり、通常、システムの構成要素としては用いられないプレcrRNAを用いることで初めて、効率的なゲノム編集が可能であった。すなわち、CRISPR−Cas3システムを真核細胞で機能させるためには、カスケードを構成するタンパク質によるcrRNAの切断が重要であることが判明した。このプレcrRNAを用いたCRISPR−Cas3システムは、タイプI−Eのシステムのみならず、タイプI−FおよびタイプI−Gのシステムにも広く適用することが可能であった。また、Cas3に核移行シグナル、特に、バイパルタイト核移行シグナルを付加することにより、真核細胞におけるCRISPR−Cas3システムのゲノム編集効率をさらに向上させることができた。また、本発明者は、CRISPR−Cas3システムによれば、CRISPR−Cas9システムと異なり、PAM配列を含むか、その上流域において、大きな欠失をもたらすことが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。

0010

すなわち、本発明は、真核細胞におけるCRISPR−Cas3システムに関し、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。

0011

[1]DNAが編集された真核細胞を製造する方法であって、真核細胞にCRISPR−Cas3システムを導入することを含み、CRISPR−Cas3システムが以下の(A)〜(C)を含む方法。

0012

(A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
(B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(C)crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
[2]DNAが編集された動物(ただしヒトを除く)または植物を製造する方法であって、動物(ただしヒトを除く)または植物にCRISPR−Cas3システムを導入することを含み、CRISPR−Cas3システムが以下の(A)〜(C)を含む方法。

0013

(A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(C)crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
[3]真核細胞にCRISPR−Cas3システムを導入した後に、カスケードタンパク質を構成するタンパク質によりcrRNAが切断される工程を含む、[1]または[2]に記載の方法。

0014

[4]crRNAがプレcrRNAである、[1]または[2]に記載の方法。

0015

[5]Cas3タンパク質および/またはカスケードタンパク質に核移行シグナルが付加されている、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。

0016

[6]核移行シグナルがバイパルタイト核移行シグナルである、[5]に記載の方法。

0017

[7]以下の(A)および(B)を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法に用いるためのキット。

0018

(A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
[8]crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド含む発現ベクターをさらに含む、[7]に記載のキット。

0019

[9]crRNAがプレcrRNAである、[8]に記載のキット。

0020

[10]Cas3タンパク質および/またはカスケードタンパク質に核移行シグナルが付加されている、[7]〜[9]のいずれかに記載のキット。

0021

[11]核移行シグナルがバイパルタイト核移行シグナルである、[10]に記載のキット。

0022

なお、本明細書において、用語「ポリヌクレオチド」とはヌクレオチド重合体を意図し、用語「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と同義で使用される。ポリヌクレオチドは、DNAの形態(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)でも存在しうるし、RNA(例えば、mRNA)の形態でも存在しうる。また、用語「タンパク質」は、「ペプチド」または「ポリペプチド」と同義で使用される。

発明の効果

0023

本発明のCRISPR−Cas3システムを用いることにより、真核細胞においてDNAを編集することが可能となった。

図面の簡単な説明

0024

外因性のDNAに対する切断活性を測定したSSアッセイの結果である。
CCR5遺伝子中における標的配列の位置を表す概略図である。
CRISPR−Cas3システムにより、塩基配列の一部を欠失したCCR5遺伝子(クローン1)を表す図である。
CRISPR−Cas3システムにより、塩基配列の一部を欠失したCCR5遺伝子(クローン2)を表す図である。
CRISPR−Cas3システムにより、塩基配列の一部を欠失したCCR5遺伝子(クローン3)を表す図である。
るCRISPR−Cas3システムにより、塩基配列の一部を欠失したCCR5遺伝子(クローン4)を表す図である。
(a)は、カスケードプラスミドの構造を表す模式図である。(b)は、Cas3プラスミドの構造を表す模式図である。(c)は、プレcrRNAプラスミドの構造を表す模式図である。(d)は、レポーターベクター(標的配列を含む)の構造を表す模式図である。
EMX1遺伝子中における標的配列の位置を表す概略図である。
CRISPR−Cas3システムにより、塩基配列の一部を欠失したEMX1遺伝子(クローン1)を表す図である。
CRISPR−Cas3システムにより、塩基配列の他の一部を欠失したEMX1遺伝子(クローン2)を表す図である。
bpNLSを付加したCas3/カスケードプラスミドの構造を表す模式図である。
カスケード(2A)プラスミドの構造を表す模式図である。
外因性のDNAに対する切断活性を測定したSSAアッセイの結果である。
本実施例に用いたプレcrRNA(LRSRおよびRSR)と成熟crRNAの構造を示す図である。図中のアンダーラインは、5’ハンドル(Cas5ハンドル)を、二重アンダーラインは、3’ハンドル(Cas6ハンドル)を示す。
プレcrRNA(LRSRおよびRSR)と成熟crRNAを用いてSSAアッセイを行った結果を表す図である。
1つのNLSまたは2つのNLS(bpNLS)をCas3/カスケード遺伝子の発現のためにプラスミドに用いてSSAアッセイを行った結果を表す図である。
CRISPR−Cas3システムのDNA切断活性へのPAM配列の効果を表す図である。
CRISPR−Cas3システムのDNA切断活性に対するスペーサーの単一ミスマッチの効果を表す図である。
HDヌクレアーゼドメイン(H74A)、SFヘリケースドメインモチーフ1(K320A)、モチーフ3(S483/T485A)でのCas3の変異の効果を表す図である。
タイプI−E、タイプI−F、およびタイプI−GのCRISPR−Cas3システムのDNA切断活性の比較を表す図である。
PCR産物のTAクローニングサンプルのシークエンスにより検出したCRISPR−Cas3システムによる欠失の大きさを表す図である。
TAクローン(n=49)の大量処理シークエンスにより検出したCRISPR−Cas3システムによる欠失の位置を表す図である。
標的にしたEMX1遺伝子座の周囲1000kb以上のマイクロアレイベースキャプチャーシークエンスを利用して、CRISPR−Cas3システムによる欠失サイズごとの検出した数を表す図である。
標的にしたCCR5遺伝子座の周囲1000kb以上のマイクロアレイベースのキャプチャーシークエンスを利用して、CRISPR−Cas3システムによる欠失サイズごとの検出した数を表す図である。

0025

[1]DNAが編集された真核細胞、動物、植物を製造する方法
本発明の方法は、真核細胞にCRISPR−Cas3システムを導入することを含み、CRISPR−Cas3システムが以下の(A)〜(C)を含む方法である。

0026

(A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(C)crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
クラス1のCRISPR−Casシステムは、タイプIおよびタイプIIIに分類され、さらに、タイプIは、カスケードを構成するタンパク質(以下、単に「カスケード」または「カスケードタンパク質」と称する。)の種類によって、タイプI−A、タイプI−B、タイプI−C、タイプI−D、タイプI−E、およびタイプI−Fの6種類、並びにタイプI−BのサブタイプであるタイプI−Gに分類される(例えば、[van der Oost J et al. (2014) Unravelling the structural and mechanistic basis of CRISPR−Cas systems, Nature Reviews Microbiologym, Vol.12 (No.7), pp.479−492]、[Jackson RN et al. (2014) Fitting CRISPR−associated Cas3 into the Helicase Family Tree, Current Opinion in Structural Biology, Vol.24, pp.106−114]を参照)。

0027

タイプIのCRISPR−Casシステムは、Cas3(ヌクレアーゼ活性およびヘリカーゼ活性を有するタンパク質)、カスケードおよびcrRNAが協同することにより、DNAを切断する機能を有する。ヌクレアーゼとしてCas3を用いることから、本発明において「CRISPR−Cas3システム」と称する。

0028

本発明のCRISPR−Cas3システムを用いることにより、例えば、次の利点が得られる。

0029

まず、CRISPR−Cas3システムで使用されるcrRNAは、一般的には、32〜37塩基の標的配列を認識する(Ming Li et al.,Nucleic AcidsRes. 2017 May 5; 45(8): 4642−4654)。これに対して、CRISPR−Cas9システムで使用されるcrRNAは、一般に18〜24塩基の標的配列を認識する。このため、CRISPR−Cas3システムは、CRISPR−Cas9システムよりも、より正確に標的配列を認識できると考えられる。

0030

また、クラス2のタイプIIのシステムであるCRISPR−Cas9システムのPAM配列は、標的配列の3’側に隣接する「NGG(Nは任意の塩基)」である。また、クラス2のタイプVのシステムであるCRISPR−Cpf1システムのPAM配列は、標的配列の5’側に隣接する「AA」である。これに対して、本発明のCRISPR−Cas3システムのPAM配列は、標的配列の5’側に隣接する「AAG」またはそれに類似した塩基配列(例えば、「AGG」、「GAG」、「TAC」、「ATG」、「TAG」等)である(図12)。したがって、本発明のCRISPR−Cas3システムを用いれば、従来法では認識できなかった領域を、DNA編集の対象にできると考えられる。

0031

さらに、CRISPR−Cas3システムは、上記クラス2のCRISPR−Casシステムと異なり、複数箇所にDNA切断を生じさせる。このため、本発明のCRISPR−Cas3システムを用いれば、百〜数千塩基、場合によりそれ以上の広範な欠失変異を生じさせることができる(図3、6、16〜18)。この機能により、長いゲノム領域ノックアウトしたり、長いDNAをノックインしたりすることに利用できると考えられる。ノックインを行う場合には、通常、ドナーDNAが用いられ、当該ドナーDNAも、本発明のCRISPR−Cas3システムを構成する分子となる。

0032

なお、本明細書において、単に「Cas3」と記載した場合は、「Cas3タンパク質」を意味するものとする。カスケードタンパク質についても同様である。

0033

本発明のCRISPR−Cas3システムは、タイプIの6種類のサブタイプのすべてを包含する。すなわち、CRISPR−Cas3システムを構成するタンパク質は、サブタイプにより、若干その構成などが異なる場合がある(例えば、カスケードを構成するタンパク質が異なる)が、本発明は、これらのタンパク質の全てを包含する。実際、本実施例において、タイプI−Eのみならず、タイプ1−GやタイプI−Fのシステムにおいても、ゲノム編集が可能であることが判明した(図15)。

0034

タイプIのCRISPR−Cas3システムの中でも一般的であるタイプI−EのCRISPR−Cas3システムは、crRNAがCas3およびカスケード(Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6、およびCas7)と協同することにより、DNAを切断する。

0035

タイプI−Aのシステムでは、カスケードとしてCas8a1、Csa5(Cas11)、Cas5、Cas6、およびCas7を構成要素とし、タイプI−Bでは、カスケードとしてCas8b1、Cas5、Cas6、およびCas7を構成要素とし、タイプI−Cでは、カスケードとしてCas8c、Cas5、およびCas7を構成要素とし、タイプI−Dでは、カスケードとしてCas10d、Csc1(Cas5)、Cas6、およびCsc2(Cas7)を構成要素とし、タイプI−Fでは、カスケードとしてCsy1(Cas8f)、Csy2(Cas5)、Cas6、およびCsy3(Cas7)を構成要素とし、タイプI−Gのシステムでは、カスケードとしてCst1(Cas8a1)、Cas5、Cas6、およびCst2(Cas7)を構成要素とする。本発明においては、Cas3およびカスケードを総称して「Casタンパク質群」と称する。

0036

以下、タイプI−EのCRISPR−Cas3システムを代表例として説明するが、その他のタイプのCRISPR−Cas3システムについては、システムを構成するカスケードを、適宜、読み替えればよい。

0037

−Casタンパク質群−
本発明のCRISPR−Cas3システムにおいて、Casタンパク質群は、タンパク質の形態で、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチドの形態で、あるいは、当該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターの形態で、真核細胞に導入することができる。Casタンパク質群をタンパク質の形態で真核細胞に導入する場合には、各タンパク質の量等を適宜調製することが可能であり、ハンドリングの観点で優れている。また、細胞内での切断効率等を考慮して、Casタンパク質群の複合体を先に形成させた後に、真核細胞へ導入することもできる。

0038

本発明においては、Casタンパク質群に、核移行シグナルを付加することが好ましい。核移行シグナルは、Casタンパク質群のN末端側および/またはC末端側(各Casタンパク質群をコードするポリヌクレオチドの5’末端側および/または3’末端側)に付加され得る。このように、Casタンパク質群に核移行シグナルを付加することにより、細胞内で核への局在が促進され、その結果、DNAの編集が効率的に行われるという利点を有する。

0039

上記の核移行シグナルは、数個から数十個の塩基性アミノ酸からなるペプチド配列であり、タンパク質を核内へ移行させるものであれば、その配列は特段限定されない。このような核移行シグナルの具体例は、例えば[Wu J et al. (2009) The Intracellular Mobility of Nuclear Import Receptors andNLS Cargoes, Biophysical journal , Vol.96 (Issue 9), pp.3840−3849]に記載されており、当該技術分野で通常使用される任意の核移行シグナルが、本発明において使用され得る。

0040

核移行シグナルは、例えば、PKKKRKV(配列番号52)(塩基配列CCCAAGAAGAAGCGGAAGGTG(配列番号53)によりコード)であり得る。上記核移行シグナルを用いる場合、例えば、Casタンパク質群をコードする各ポリヌクレオチドの5’末端側に、配列番号53の塩基配列からなるポリヌクレオチドを配置することが好ましい。また、核移行シグナルは、例えば、KRTADGSEFESPKKKRKVE(配列番号54)(塩基配列AAGCGGACTGCTGATGGCAGTGAATTTGAGTCCCCAAAGAAGAAGAGAAAGGTGGAA(配列番号55)によりコード)であり得る。上記核移行シグナルを用いる場合、例えば、Casタンパク質群をコードする各ポリヌクレオチドの両端に、配列番号55の塩基配列からなるポリヌクレオチドを配置すること(すなわち、「バイパルタイト核移行シグナル(bpNLS)」を用いること)が好ましい。

0041

このような改変は、後述のプレcrRNAの利用と相俟って、本発明のCRISPR−Cas3システムを真核細胞内で効率的に発現および機能させる上で重要である。

0042

本発明に用いられるCasタンパク質群の一つの好ましい態様は、以下である。
Cas3;配列番号1または配列番号7で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質
Cse1(Cas8);配列番号2または配列番号8で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質
Cse2(Cas11);配列番号3または配列番号9で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質
Cas5;配列番号4または配列番号10で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質
Cas6;配列番号5または配列番号11で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質
Cas7;配列番号6または配列番号12で示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質
上記Casタンパク質群は、(1)野生型大腸菌のCas3、Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6、Cas7のN末端に、核移行シグナルとしてPKKKRKV(配列番号52)を付加したタンパク質、または(2)野生型大腸菌のCas3、Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6、Cas7のN末端およびC末端に、核移行シグナルとしてKRTADGSEFESPKKKRKVE(配列番号54)を付加したタンパク質である。このようなアミノ酸配列のタンパク質とすることにより、上記Casタンパク質群を真核細胞の核内へ移行させることができる。このようにして核内に移行した上記Casタンパク質群は、標的のDNAを切断する。また、CRISPAR−Cas9システムでは困難であると考えられている、強固な構造を有するDNA領域ヘテロクロマチンなど)においても、標的のDNAの編集が可能となる。

0043

本発明に用いられるCasタンパク質群の各タンパク質の他の一つの態様は、上記Casタンパク質群の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質である。本発明に用いられるCasタンパク質群の各タンパク質の他の一つの態様は、上記Casタンパク質群の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質である。上記の各タンパク質は、Casタンパク質群を構成する他のタンパク質と複合体を形成したときにDNA切断活性を有するものである。なお、「配列同一性」、「ストリンジェントな条件」などの用語の意味は後述する。

0044

−Casタンパク質群をコードするポリヌクレオチド−
タイプI−EのCRISPR−Casシステムを構成する野生型のタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、真核細胞内で効率的に発現するように改変を施したポリヌクレオチドを含む。すなわち、Casタンパク質群をコードし、改変が施されたポリヌクレオチドを用いることができる。ポリヌクレオチドの改変の一つの好ましい態様は、真核細胞内での発現に適した塩基配列への改変であり、例えば、真核細胞内で発現するようにコドンを最適化することである。

0045

本発明に用いられるCasタンパク質群をコードするポリヌクレオチドの一つの好ましい態様は、以下である。
Cas3;配列番号1または配列番号7で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
Cse1(Cas8);配列番号2または配列番号8で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
Cse2(Cas11);配列番号3または配列番号9で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
Cas5;配列番号4または配列番号10で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
Cas6;配列番号5または配列番号11で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
Cas7;配列番号6または配列番号12で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
これらは、大腸菌の野生型Casタンパク質群をコードする塩基配列(Cas3;配列番号13、Cse1(Cas8);配列番号14、Cse2(Cas11);配列番号15、Cas5;配列番号16、Cas6;配列番号17、Cas7;配列番号18)を、人工的に改変することにより、哺乳動物細胞において発現および機能できるようにしたポリヌクレオチドである。

0046

上記のポリヌクレオチドの人工的な改変は、真核細胞内での発現に適した塩基配列に改変し、かつ、核移行シグナルを付加することである。塩基配列の改変および核移行シグナルの付加については、上記した通りである。これにより、より十分なCasタンパク質群の発現量の上昇、ならびに機能の増大が期待できる。

0047

本発明に用いられるCasタンパク質群をコードするポリヌクレオチドの他の一つの態様は、上記Casタンパク質群の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる、野生型のCasタンパク質群をコードする塩基配列を改変したポリヌクレオチドである。これら各ポリヌクレオチドから発現したタンパク質は、Casタンパク質群を構成する他のポリヌクレオチドから発現したタンパク質と複合体を形成したときにDNA切断活性を有するものである。

0048

塩基配列の配列同一性は、塩基配列全体(またはCse3の機能に必要な部分をコードしている領域)において、少なくともは90%以上、より好ましくは95%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)でありうる。塩基配列の同一性は、BLASTNなどのプログラムを利用して、決定することができる([AltschulSF(1990) Basic local alignment search tool, Journal of Molecular Biology, Vol.215 (Issue 3), pp.403−410]を参照)。BLASTNによって塩基配列を解析する場合のパラメーターの一例としては、score=100、wordlength=12の設定が挙げられる。BLASTNによる解析を行うための具体的な手法は、当業者に知られている。比較対象の塩基配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(ギャップなど)を許容してもよい。

0049

また、「DNA切断活性を有する」とは、ポリヌクレオチド鎖を少なくとも1箇所において切断できることを意図する。

0050

本発明のCRISPR−Cas3システムは、標的配列を特異的に認識してDNAを切断することが好ましい。CRISPR−Cas3システムが標的配列を特異的に認識しているか否かは、例えば、実施例A−1に説明されているdual−Luciferaseアッセイによって知ることができる。

0051

本発明に用いられるCasタンパク質群をコードするポリヌクレオチドの他の一つの態様は、上記Casタンパク質群の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドである。これら各ポリヌクレオチドから発現したタンパク質は、Casタンパク質群を構成する他のポリヌクレオチドから発現したタンパク質と複合体を形成したときにDNA切断活性を有するものである。

0052

ここで「ストリンジェントな条件」とは、2本のポリヌクレオチド鎖が、塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドを形成するが、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドは形成しない条件をいう。「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、換言すれば、配列同一性が高い核酸同士(例えば完全にマッチしたハイブリッド)の融解温度Tm値)から15℃低い温度、好ましくは10℃低い温度、より好ましくは5℃低い温度までの温度範囲において、ハイブリダイズできる条件ともいえる。

0053

ストリンジェントな条件の一例を示すと、以下の通りである。まず、0.25M Na2HPO4、7%SDS、1mMEDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液(pH7.2)中、60〜68℃(好ましくは65℃、より好ましくは68℃)にて、16〜24時間、2種類のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる。その後、20mM Na2HPO4、1% SDS、1mM EDTAからなる緩衝液(pH7.2)中、60〜68℃(好ましくは65℃、より好ましくは68℃)にて、15分間の洗浄を2回行う。

0054

他の例としては、以下の方法が挙げられる。まず、25%ホルムアミド(より厳しい条件では50%ホルムアミド)、4×SSC(塩化ナトリウムクエン酸ナトリウム)、50mM Hepes(pH7.0)、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃にて、一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することにより、2種類のポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行う。

0055

次に、次の条件のいずれかで洗浄を行う。通常の条件;1×SSCおよび0.1% SDSを洗浄液として、37℃程度で洗浄。厳しい条件;.5×SSCおよび0.1% SDS洗浄液として、42℃程度で洗浄。さらに厳しい条件;0.2×SSCおよび0.1% SDSを洗浄液として、65℃程度で洗浄。

0056

このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。なお、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは、単なる例示に過ぎない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上述の要素、または他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することができる。このことは、例えば、[Joseph Sambrook & David W. Russell, Molecular cloning: a laboratory manual 3rd Ed., New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001]などに記載されている。

0057

−Casタンパク質群をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター−
本発明においては、Casタンパク質群を発現させるための発現ベクターを利用することができる。発現ベクターは、基材ベクターとして、一般的に使用される種々のベクターを用いることができ、導入される細胞または導入方法に応じて適宜選択されうる。具体的には、プラスミド、ファージ、コスミドなどを用いることができる。ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。

0058

上述した発現ベクターの例としては、ファージベクタープラスミドベクターウイルスベクターレトロウイルスベクター染色体ベクター、エピソームベクターおよびウイルス由来ベクター(細菌プラスミド、バクテリオファージ酵母エピソームなど)、酵母染色体エレメントおよびウイルスバキュロウイルスパポバウイルスワクシニアウイルスアデノウイルストリポックスウイルス仮性狂犬病ウイルスヘルペスウイルスレンチウイルスレトロウイルスなど)、および、それらの組み合わせに由来するベクター(コスミド、ファージミドなど)を挙げられる。

0059

発現ベクターは、さらに、転写開始および転写終結のための部位を含んでおり、かつ、転写領域中にリボソーム結合部位を含んでいることが好ましい。ベクター中の成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチドの始めに転写開始コドンAUGを含み、そして終わりに適切に位置される終止コドンを含むことになる。

0060

本発明において、Casタンパク質群を発現させるための発現ベクターは、プロモーター配列を含んでいてよい。上記プロモーター配列は、宿主となる真核細胞の種類に応じて適宜選択すればよい。また、発現ベクターは、DNAからの転写を亢進させるための配列、例えば、エンハンサー配列を含んでいてよい。エンハンサーとしては、例えば、SV40エンハンサー(これは、複製起点の下流の100〜270bpに配置される)、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の下流に配置されるポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。また、発現ベクターは、転写されたRNAを安定化させるための配列、例えば、ポリ付加配列ポリアデニル化配列、polyA)を含んでいてよい。ポリA付加配列の例としては、成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、ウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、ヒト成長ホルモン遺伝子由来ポリA付加配列、SV40ウイルス由来ポリA付加配列、ヒトまたはウサギのβグロビン遺伝子由来のポリA付加配列が挙げられる。

0061

同一のベクター内に組み込まれるCasタンパク質群をコードするポリヌクレオチドの数は、発現ベクターを導入した宿主細胞内でCRISPR−Casシステムの機能を発揮しうる限りにおいて、特に限定されない。例えば、Casタンパク質群をコードするポリヌクレオチドを1種類の(同一の)ベクターに搭載するという設計が可能であり、また、さらに、各Casタンパク質群をコードするポリヌクレオチドの全てまたは一部を別々のベクターに搭載するという設計も可能である。例えば、カスケードタンパク質をコードするポリヌクレオチドを1種類の(同一の)ベクターに搭載し、Cas3をコードするポリヌクレオチドを別のベクターに搭載するという設計が可能である。好ましくは、発現効率等の観点から、各Casタンパク質群をコードするポリヌクレオチドを別々の6種類のベクターに搭載する方法が用いられる。

0062

その他、発現量を調節するなどの目的のために、同一のベクター中に、同じタンパク質をコードするポリヌクレオチドを複数搭載してもよい。例えば、Cas3をコードするのポリヌクレオチドを1種類の(同一の)ベクター内の2箇所に配置するという設計が可能である。

0063

また、Casタンパク質群をコードする複数の塩基配列を含んでおり、当該複数の塩基配列の間には、細胞内のプロテアーゼにより切断されるアミノ酸配列(2Aペプチドなど)をコードする塩基配列が挿入されている発現ベクターを用いてもよい(例えば、図8のベクターの構造を参照)。このような塩基配列を有するポリヌクレオチドが転写・翻訳されると、細胞内で一つに連結されたポリペプチド鎖が発現する。その後、細胞内プロテアーゼの作用により、Casタンパク質群が分離され、個別のタンパク質となった後に複合体を形成し、機能する。これにより、細胞内で発現するCasタンパク質群の量比を調整することができる。例えば、「Cas3をコードする塩基配列とCse1(Cas8)をコードする塩基配列とを1つずつ含む発現ベクター」からは、Cas3とCse1(Cas8)とが、等量発現することが予測される。また、一種類の発現ベクターで複数のCasタンパク質群を発現させることが可能であるため、ハンドリング性に優れる点で有利である。一方、DNA切断活性の高さの観点からは、通常、Casタンパク質群を各々異なる発現ベクターにより発現させる態様の方が優れている。

0064

本発明に用いられる発現ベクターは、公知の手法によって作製することができる。このような手法としては、ベクターを作製用のキットに付属する実施マニュアルに記載の手法に加え、種々の手引書に記載の手法が挙げられる。例えば、[Joseph Sambrook & David W. Russell, Molecular cloning: a laboratory manual 3rd Ed., New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001]は、包括的な手引書である。

0065

−crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター−
本発明のCRISPR−Cas3システムは、ゲノム編集を行うDNAへの標的化のために、crRNA、crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む。

0066

crRNAは、CRISPR−Casシステムの一部を形成するRNAであり、標的配列と相補的な塩基配列を有する。本発明のCRISPR−Cas3システムは、crRNAにより、標的配列を特異的に認識してその配列を切断することを可能とする。CRISPR−Cas9システムを代表とするCRISPR−Casシステムにおいては、これまでcRNAとして、通常、成熟crRNAが用いられてきた。しかしながら、CRISPR−Cas3システムを真核細胞で機能させる場合においては、その理由は明らかではないが、成熟crRNAの利用は適さないことが明らかとなった。そして、驚くべきことに、成熟crRNAに代えて、プレcrRNAを利用することにより、真核細胞において高効率でゲノム編集を行うことが可能であることが判明した。この事実は、成熟crRNAとプレcrRNAとの対比実験から明らかである(図10)。従って、本発明のcrRNAとしては、プレcrRNAを用いることが特に好ましい。

0067

本発明に用いるプレcrRNAは、典型的には、「リーダー配列リピート配列スペーサー配列−リピート配列(LRSR構造)」または「リピート配列−スペーサー配列−リピート配列(RSR構造)」の構造を有する。リーダー配列は、ATリッチな配列で、プレcrRNAを発現させるプロモーターとして機能する。リピート配列は、スペーサー配列を介して反復している配列であり、スペーサー配列は、標的DNAに相補的な配列として本発明において設計する配列である(本来は、アダプテーションの過程において取り込まれた、外来DNA由来の配列である)。プレcrRNAは、カスケードを構成するタンパク質(例えば、タイプI−A、B、D〜EではCas6、タイプI−CではCas5)により切断されると成熟crRNAとなる。

0068

典型的には、リーダー配列の鎖長は、86塩基、リピート配列の鎖長は、29塩基である。スペーサー配列の鎖長は、例えば、10〜60塩基、好ましくは20〜50塩基、より好ましくは25〜40塩基、典型的には32〜37塩基である。従って、本発明において用いられるプレcrRNAの鎖長は、LRSR構造の場合、例えば、154〜204塩基、好ましくは164〜194塩基、より好ましくは169〜184塩基、典型的には、176〜181塩基である。また、RSR構造の場合、例えば、68〜118塩基、好ましくは78〜108塩基、より好ましくは83〜98塩基、典型的には、90〜95塩基である。

0069

本発明のCRISPR−Cas3システムを真核細胞において機能させるためには、プレcrRNAのリピート配列が、カスケードを構成するタンパク質により切断される過程が重要であると考えられる。従って、上記リピート配列は、このような切断が生じる限り、上記鎖長より短くても、長くてもよいことは、理解されたい。すなわち、プレcrRNAは、後述の成熟crRNAの両端に、カスケードを構成するタンパク質による切断に十分な配列が付加されたcrRNAと言うことができる。本発明の方法の好ましい態様は、このように、CRISPR−Cas3システムを真核細胞に導入した後に、カスケードを構成するタンパク質によりcrRNAが切断される工程を含む。

0070

一方、プレcrRNAが切断されて生成する成熟crRNAは、「5’ハンドル配列−スペーサー配列−3’ハンドル配列」の構造を有する。典型的には、5’ハンドル配列は、リピート配列の22〜29番目の8塩基からなりCas5にホールドされる。また、典型的には、3’ハンドル配列は、リピート配列の1〜21番目の21塩基からなり、6〜21番目の塩基でステムループ構造を形成して、Cas6にホールドされる。従って、成熟crRNAの鎖長は、通常、61〜66塩基である。但し、CRISPR−Cas3システムのタイプによっては、3’ハンドル配列をもたない成熟crRNAもあることから、この場合には、鎖長は、21塩基短くなる。

0071

なお、RNAの配列は、DNAの編集を所望する標的配列に応じて適宜設計すればよい。また、RNAの合成は、当該分野で既知の任意の方法を用いて行うことができる。

0072

−真核細胞−
本発明における「真核細胞」としては、例えば、動物細胞植物細胞藻細胞真菌細胞が挙げられる。また動物細胞としては、例えば、哺乳動物細胞の他、魚類鳥類爬虫類両生類昆虫類の細胞が挙げられる。

0073

「動物細胞」には、例えば、動物の個体を構成している細胞、動物から摘出された器官組織を構成する細胞、動物の組織に由来する培養細胞などが含まれる。具体的には、例えば、卵母細胞や精子などの生殖細胞;各段階の胚細胞(例えば、1細胞期胚、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚、桑実期胚など);誘導多能性(iPS)細胞や胚性幹(ES)細胞などの幹細胞線維芽細胞造血細胞ニューロン筋細胞骨細胞肝細胞膵臓細胞、脳細胞、腎細胞などの体細胞などが挙げられる。ゲノム編集動物の作成に用いられる卵母細胞としては、受精前及び受精後の卵母細胞を利用することができるが、好ましくは受精後の卵母細胞、すなわち受精卵である。特に好ましくは、受精卵は前核期胚のものである。卵母細胞は、凍結保存されたものを解凍して用いることができる。

0074

本発明において「哺乳動物」とは、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を包含する概念である。非ヒト哺乳動物の例としては、ウシイノシシブタヒツジヤギなどの偶蹄類ウマなどの奇蹄類マウスラットモルモットハムスターリスなどの齧歯類、ウサギなどのウサギ目イヌネコフェレットなどの食肉類などが挙げられる。上述の非ヒト哺乳動物は、家畜またはコンパニオンアニマル愛玩動物)であってもよく、野生動物であってもよい。

0075

「植物細胞」としては、例えば、穀物類油料作物飼料作物果物野菜類の細胞が挙げられる。「植物細胞」には、例えば、植物の個体を構成している細胞、植物から分離した器官や組織を構成する細胞、植物の組織に由来する培養細胞などが含まれる。植物の器官や組織としては、例えば、葉、茎頂生長点)、根、塊茎カルスなどが挙げられる。植物の例としては、イネ、トウモロコシバナナピーナツヒマワリトマトアブラナタバココムギオオムギジャガイモダイズワタカーネーションなどが挙げられ、その繁殖材料(例えば、種子、塊根、塊茎など)も含まれる。

0076

−DNAの編集−
本発明において、「真核細胞のDNAを編集する」とは、真核細胞のDNAの編集をインビボで行う工程であってもよく、インビトロで行う工程であってもよい。また、「DNAを編集する」とは、以下の類型に例示される操作(その組み合わせを含む)を意図する。

0077

なお、本明細書において、上記の文脈で用いられるDNAは、細胞核内に存在するDNAのみならず、ミトコンドリアDNAなどの細胞核以外に存在するDNA、および外来性のDNAをも包含する。
1.標的部位におけるDNA鎖を切断する。
2.標的部位におけるDNA鎖の塩基を欠失させる。
3.標的部位におけるDNA鎖に塩基を挿入する。
4.標的部位におけるDNA鎖の塩基を置換する。
5.標的部位におけるDNA鎖の塩基を修飾する。
6.標的部位におけるDNA(遺伝子)の転写を調節する。

0078

本発明のCRISPR−Cas3システムの一つの態様においては、DNA切断を導入する以外の方法で、標的DNAを修飾する酵素活性を有するタンパク質を利用する。この態様は、例えば、Cas3あるいはカスケードを所望の酵素活性を有する異種タンパク質と融合し、キメラタンパク質とすることにより達成することができる。従って、本発明における「Cas3」および「カスケード」には、このような融合タンパク質も含まれる。融合するタンパク質の酵素活性としては、例えば、デアミナーゼ活性(例えば、シチジンデアミナーゼ活性アデノシンデアミナーゼ活性)、メチルトランスフェラーゼ活性脱メチル化酵素活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、ジスムターゼ活性アルキル化活性、脱プリン活性、酸化活性ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性トランスポサーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性リガーゼ活性光回復酵素活性、およびグリコシラーゼ活性が含まれるが、これらに制限されない。この場合、必ずしも、Cas3のヌクレアーゼ活性やヘリカーゼ活性は必要がないことから、Cas3としては、これら活性の一部もしくは全部を欠失させた変異体(例えば、DドメインH74Aの変異体(dnCas3)、SF2ドメインモチーフ1のK320Nの変異体(dhCas3)、およびSF2ドメインモチーフ3のS483A/T485Aのダブルの変異体(dh2Cas3))を利用することができる。例えば、Cas3のヌクレアーゼ活性の一部または全部を消失させた変異体とデアミナーゼとの融合タンパク質を本発明のCRISPR−Cas3システムの構成要素とすることにより、標的部位における大きな欠失を生じさせることなく、塩基を置換することにより、精密なゲノム編集が可能となる。CRISPR−Casシステムへのデアミナーゼの適用の手法は公知であり(Nishida K. et al., Targeted nucleotide editing using hybrid prokaryotic and vertebrate adaptive immune systems, Science,DOI: 10.1126/science.aaf8729,(2016))、それを本発明のCRISPR−Cas3システムに応用すればよい。

0079

本発明のCRISPR−Cas3システムの他の態様においては、DNA切断せずに、本システムの結合部位における遺伝子の転写を調節する。この態様は、例えば、Cas3あるいはカスケードを所望の転写調節タンパク質と融合し、キメラタンパク質とすることにより達成することができる。従って、本発明における「Cas3」および「カスケード」には、このような融合タンパク質も含まれる。転写調節タンパク質としては、例えば、光誘導性転写制御因子、小分子/薬剤反応性転写制御因子、転写因子転写抑制因子などが挙げられるが、これらに制限されない。この場合、必ずしも、Cas3のヌクレアーゼ活性やヘリカーゼ活性は必要がないことから、Cas3としては、これら活性の一部もしくは全部を欠失させた変異体(例えば、DドメインH74Aの変異体(dnCas3)、SF2ドメインモチーフ1のK320Nの変異体(dhCas3)、およびSF2ドメインモチーフ3のS483A/T485Aのダブルの変異体(dh2Cas3))を利用することができる。CRISPR−Casシステムへの転写調節タンパク質の適用の手法は、当業者に公知である。

0080

また、本発明のCRISPR−Cas3システムにおいて、例えば、Cas3のヌクレアーゼ活性の一部もしくは全部を欠失させた変異体を利用する場合、他のヌクレアーゼ活性を有するタンパク質をCas3またはカスケードと融合してもよい。このような態様も、本発明に含まれる。

0081

なお、本発明のCRISPR−Cas3システムにおいて、Cas3のヌクレアーゼ活性の一部もしくは全部を欠失させた変異体を利用し、DNAの編集において、他のタンパク質の活性を利用する場合には、本明細書における「DNAの切断活性」は、適宜、当該他のタンパク質が有する各種活性に読み替えるものとする。

0082

また、DNAの編集は、個体内の特定の細胞に含まれるDNAに対して行われるものであってもよい。このようなDNAの編集は、例えば、動植物の個体を構成する細胞のうち、特定の細胞を標的として行うことができる。

0083

本発明のCRISPR−Cas3システムを構成する分子をポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターの形態で真核細胞に導入する方法は、特に限定されない。例えば、電気穿孔法リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法カチオン性脂質媒介トランスフェクションエレクトロポレーション形質導入、ウイルベクターを用いた感染などの方法が挙げられる。このような方法は、「Leonard G. Daviset al., Basic methodsin molecular biology, New York: Elsevier, 1986」など、多くの標準研究室マニュアルに記載されている。

0084

本発明のCRISPR−Cas3システムを分子をタンパク質の形態で真核細胞に導入する方法は、特に限定されない。例えば、エレクトロポレーション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、マイクロインジェクションなどが挙げられる。

0085

本発明によるDNAの編集は、様々な分野に応用することができる。応用には、例えば、遺伝子治療品種改良トランスジェニック動物または細胞の作製、有用物質生産生命科学研究などが含まれる。

0086

細胞から非ヒト個体を作製する方法としては、公知の方法を利用することができる。動物において細胞から非ヒト個体を作製する場合、通常、生殖細胞又は多能性幹細胞が利用される。例えば、本発明のCRISPR−Cas3システムを構成する分子を卵母細胞に導入し、得られた卵母細胞を次いで、偽妊娠状態にした雌非ヒト哺乳動物子宮移植し、その後産仔を得る。移植は1細胞期胚、2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚、又は桑実期胚の受精卵にて行うことができる。卵母細胞は必要に応じて、移植されるまで適当な条件下にて培養することができる。卵母細胞の移植及び培養は従来公知の手法に基づいて行うことができる(Nagy A. et al.,Manipulating the Mouse Embryo.Cold Spring Harbour,New York:Cold Spring Harbour Laboratory Press, 2003)。得られた非ヒト個体からは、所望のDNAが編集された子孫やクローンを得ることもできる。

0087

また、植物においては、古くから、その体細胞が分化全能性を有していることが知られており、様々な植物において、植物細胞から植物体再生する方法が確立されている。従って、例えば、本発明のCRISPR−Cas3システムを構成する分子を植物細胞に導入し、得られた植物細胞から植物体を再生することにより、所望のDNAがノックインされた植物体を得ることができる。得られた植物体からは、所望のDNAが編集された子孫、クローン、または繁殖材料を得ることもできる。組織培養により植物の組織を再分化させて個体を得る方法としては、本技術分野において確立された方法を利用することができる(形質転換プロトコール[植物編] 田部井豊・編化学同人 pp.340−347(2012))。

0088

[2]CRISPR−Cas3システムに用いられるキット
本発明のCRISPR−Cas3システムに用いられるキットは、以下の(A)および(B)を含む。

0089

(A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および
(B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
さらに、crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド含む発現ベクターを含んでもよい。

0090

本発明のキットの構成要素は、全てまたは一部が混合された態様であってもよく、各々が独立している態様であってもよい。

0091

本発明のキットは、例えば、医薬品、食品畜産水産、工業、バイオ工学、生命科学研究などの分野に利用できる。

0092

以下、本発明のキットについて、医薬品(薬剤)を想定して説明する。なお、上記キットを畜産、バイオ工学、生命科学研究などの分野で用いる場合には、以下の説明を、当該分野の技術常識に基づいて適宜置き換えることにより実施できる。

0093

本発明のCRISPR−Cas3システムを用いて、ヒトを含む動物細胞のDNAを編集するための医薬品は、常法により調製されうる。より具体的には、上記本発明のCRISPR−Cas3システムを構成する分子を、例えば、医薬品添加物調合することによって調製されうる。

0094

ここで「医薬品添加物」とは、医薬品に含まれる有効成分以外の物質を意図する。医薬品添加物は、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、有用性を高めるなどの目的のために、医薬品に含まれる物質である。一例において、上記医薬品添加物は、賦形剤結合剤崩壊剤滑沢剤流動化剤固形防止剤)、着色剤カプセル被膜コーティング剤可塑剤矯味剤甘味剤着香剤溶剤溶解補助剤乳化剤懸濁化剤粘着剤)、粘稠剤、pH調整剤酸性化剤アルカリ化剤緩衝剤)、湿潤剤可溶化剤)、抗菌性保存剤キレート剤坐剤基材、軟膏基剤硬化剤軟化剤医療用水噴射剤、安定剤、保存剤、でありうる。これらの医薬品添加物は、意図された剤型および投与経路、ならびに標準的な薬学的慣行に従って、当業者によって容易に選択されうる。

0095

また、本発明のCRISPR−Cas3システムを利用して動物細胞のDNAを編集するための医薬品は、さらなる有効成分を含んでいてよい。上記さらなる有効成分としては、特に限定されず、当業者により適宜設計することができる。

0096

以上に説明した有効成分および医薬品添加物の具体例は、例えば、米国食品医薬品局FDA)、欧州医薬品(EMA)、日本国厚生労働省などが策定している基準により、知ることができる。

0097

医薬品を所望の細胞に送達する方法としては、例えば、該細胞を標的とするウイルスベクター(アデノウイルスベクターアデノ随伴ウイルスベクターレンチウイルスベクターセンダイウイルスベクター等)、該細胞を特異的に認識する抗体などを用いた方法が挙げられる。医薬品は、目的に応じて任意の剤型を取りうる。また上記医薬品は、医師または医療従事者により、適宜処方される。

0098

本発明のキットは、さらに、使用説明書を備えていることが好ましい。

0099

以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。

0100

A.真核細胞におけるCRISPR−Cas3システムの確立
〔材料と方法〕
[1]標的配列を含むレポーターベクターの作製
標的配列は、ヒトCCR5遺伝子由来の配列(配列番号19)、および大腸菌のCRISPRのスペーサー配列(配列番号22)とした。

0101

標的配列をベクターに挿入するために、ヒトCCR5遺伝子由来の標的配列(配列番号19)を含む合成ポリヌクレオチド(配列番号20)、および上記標的配列(配列番号19)に相補的な配列を含む合成ポリヌクレオチド(配列番号21)を用意した。同様に、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列由来の標的配列(配列番号22)を含む合成ポリヌクレオチド(配列番号23)、および上記標的配列(配列番号22)に相補的な配列を含む合成ポリヌクレオチド(配列番号24)を用意した。上記の合成ポリヌクレオチドは、全て北海道システム・サイエンス株式会社から入手した。

0102

上記のポリヌクレオチドを、[Sakuma T et al. (2013) Efficient TALEN construction and evaluation methodsfor human cell and animal applications, Genes to Cells, Vol.18 (Issue 4), pp.315−326]に記載の方法により、レポーターベクターに挿入した。概略を示すと以下の通りである。まず、互いに相補的な配列を有するポリヌクレオチド(配列番号20のポリヌクレオチドおよび配列番号21のポリヌクレオチド;配列番号23のポリヌクレオチドおよび配列番号24のポリヌクレオチド)を、95℃にて5分間加熱し、その後室温まで冷却して、ハイブリダイズさせた。上記の工程には、ブロクインキュベーター(BI−515A、アステック社)を用いた。次に、ハイブリダイズさせて二本鎖構造を形成したポリヌクレオチドを、基材ベクターに挿入し、レポーターベクターとした。

0103

作製したレポーターベクターの配列を、配列番号31(ヒトCCR5遺伝子由来の標的配列を含むレポーターベクター)および配列番号32(大腸菌のCRISPRのスペーサー配列由来の標的配列を含むレポーターベクター)に示す。また、レポーターベクターの構造を、図4の(d)に示す。

0104

[2]Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6、Cas7およびcrRNA発現ベクターの作製
インサート増幅および調製]
Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6およびCas7をコードする、改変された塩基配列を有するポリヌクレオチド(それぞれ、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5および配列番号6)については、まず、配列番号2−配列番号3−配列番号6−配列番号4−配列番号5の順に連結されたポリヌクレオチド(Cse1(Cas8)−Cse2(Cas11)−Cas7−Cas5−Cas6の順に、それぞれをコードする塩基配列が連結されたポリヌクレオチド)を、ジェンスクリプト社に製造委託し、入手した。Cse1(Cas8)−Cse2(Cas11)−Cas7−Cas5−Cas6の各タンパク質をコードする塩基配列間は、2Aペプチド(アミノ酸配列:GSGATNFSLLQAGDVEENPGP(配列番号58))で連結した。

0105

なお、2Aペプチドをコードする塩基配列は、それぞれのCasタンパク質連結部によって若干異なり、以下の通りであった。Cse1(Cas8)とCse2(Cas11)との間における配列:GGAAGCGGAGCAACCAACTTCAGCCTGCTGAAGCAGGCCGGCGATGTGGAGGAGAATCCAGGCCCC(配列番号59)。Cse2(Cas11)とCas7との間における配列:GGCTCCGGCGCCACCAATTTTTCTCTGCTGAAGCAGGCAGGCGATGTGGAGGAGAACCCAGGACCT(配列番号60)。Cas7とCas5との間における配列:GGATCTGGAGCCACCAATTTCAGCCTGCTGAAGCAAGCAGGCGACGTGGAAGAAAACCCAGGACCA(配列番号61)。Cas5とCas6との間における配列:GGATCTGGGGCTACTAATTTTTCTCTGCTGAAGCAAGCCGGCGACGTGGAAGAGAATCCAGGACCG(配列番号62)。

0106

次いで、下表のPCR条件(プライマーおよびタイムコース)にて、各ポリヌクレオチドを増幅した。PCRには、2720 Thermal cycler(applied biosystems社)を用いた。

0107

0108

crRNAを発現させるための塩基配列を有するポリヌクレオチドとして、下記の相補的な配列を有するポリヌクレオチドを入手した。
1.ヒトCCR5遺伝子由来の配列に対応するcrRNAを発現させるためのポリヌクレオチド(配列番号25および26、北海道システムサイエンス社より入手)
2.大腸菌のCRISPRのスペーサー配列に対応するcrRNAを発現させるためのポリヌクレオチド(配列番号27および28、北海道システムサイエンス社より入手)
3.ヒトEMX1遺伝子由来の配列に対応するcrRNAを発現させるためのポリヌクレオチド(配列番号29および30、ファスマック社より入手)。

0109

ライゲーションおよび形質転換]
基材プラスミドとして、pPB−CAG−EBNXN(Sanger Centerより供与)を用いた。NEBバッファー中で、基材プラスミド1.6μgと、制限酵素BglII(New England Biolabs社)1μlおよびXhoI(New England Biolabs社)0.5μlとを混合し、37℃にて2時間反応させた。切断された基材プラスミドは、Gel extraction kit(Qiagen社)にて精製した。

0110

このように調製した基材プラスミドおよび上記インサートを、Gibson Assemblyシステムにてライゲーションした。ライゲーションでは、基材プラスミドとインサートとの比率が1:1になるようにし、Gibson Assemblyシステムのプロトコールに従って行った(50℃で25分間、反応液の全容量:8μL)。

0111

次いで、上記で得られたプラスミドの溶液ライゲーション反応液)6μLと、コンピテントセル田研究室作製)とを用いて、通常の方法により、形質転換を行った。

0112

その後、アルカリプレップ法にて、形質転換した大腸菌からプラスミドベクターを精製した。簡潔には、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen社)を用いてプラスミドベクターを回収し、回収したプラスミドベクターをエタノール沈殿法にて精製後、TE緩衝液中で1μg/μLの濃度となるように調製した。

0113

各プラスミドベクターの構造を、図4の(a)〜(c)に示す。また、プレcrRNAの発現ベクターの塩基配列を、配列番号33(ヒトCCR5遺伝子由来の配列に対応するcrRNAを発現させる発現ベクター)、配列番号34(大腸菌のCRISPRのスペーサー配列に対応するcrRNAを発現させる発現ベクター)および配列番号35(ヒトEMX1遺伝子由来の配列に対応するcrRNAを発現させる発現ベクター)に示す。

0114

[3]Cas3発現ベクターの作製
Cas3をコードする、改変された塩基配列を有するポリヌクレオチド(配列番号1)は、Genscript社より入手した。具体的には、上記のポリヌクレオチドが組み込まれているpUC57 vectorを、Genscript社より入手した。

0115

上記のベクターを、制限酵素NotIで切断した。次に、Klenow Fragment(タカラバイオ社)を2U、および2.5mM dNTP Mixture(タカラバイオ社)を1μLを用いて、フラグメント断端平滑化させた。その後、Gel extraction(Qiagen社)を用いて、上記フラグメントを精製した。精製されたフラグメントを、制限酵素XhoIでさらに切断し、Gel extraction(Qiagen社)を用いて精製した。

0116

精製されたフラグメントを、基材プラスミド(pTL2−CAG−IRES−NEO vector、竹田研究室作製)およびライゲーションキット(Mighty Mix、タカラバイオ社)を用いて、ライゲーションした。ライゲーションした。その後、[2]と同じ操作により、形質転換および精製を行った。回収したプラスミドベクターは、TE緩衝液中で1μg/μLの濃度となるように調製した。

0117

[4]BPNLSを含むプラスミドベクターの作製
BPNLSを5’末端および3’末端に連結させた、Cas3、Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6およびCas7発現ベクターを作製した(図7を参照)。

0118

BPNLSを両末端に含む各Casタンパク質群についてのインサートの作製は、Thermo Fisher Scientificに依頼した。上記インサートの具体的な配列は、(AGATCTTAATACGACTCACTATAGGGAGAGCCGCCACCATGGCC:配列番号56)−(配列番号7〜12のいずれか1つ)−(TAATATCCTCGAG:配列番号57)である。配列番号56は、BgIIIによる切断箇所を設けた配列である。配列番号57は、XhoIによる切断箇所を設けた配列である。

0119

上記配列が組み込まれているpMK vectorを、制限酵素BgIIIおよびXhoIで切断し、Gel extraction(Qiagen社)を用いて精製した。精製したフラグメントを、基材プラスミド(pPB−CAG−EBNXN、Sanger Centerより供与)およびライゲーションキット(Mighty Mix、タカラバイオ社)を用いて、ライゲーションした。その後、[2]と同じ操作により、形質転換および精製を行った。回収したプラスミドベクターは、TE緩衝液中で1μg/μLの濃度となるように調製した。

0120

[5]カスケード(2A)を含むプラスミドベクターの作製
Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas7、Cas5およびCas6が、この順に連結された塩基配列の発現ベクターを作製した。より具体的には、(NLS−Cse1(Cas8):配列番号2)−2A−(NLS−Cse2(Cas11):配列番号3)−2A−(NLS−Cas7:配列番号6)−2A−(NLS−Cas5:配列番号4)−2A−(NLS−Cas6:配列番号5)の順に配置された発現ベクターを作製した(図8参照)。なお、NLSのアミノ酸配列はPKKKRKV(配列番号52)、塩基配列はCCCAAGAAGAAGCGGAAGGTG(配列番号53)である。また、2Aペプチドのアミノ酸配列はGSGATNFSLLKQAGDVEENPGP(配列番号58)である(対応する塩基配列は、それぞれ配列番号59〜62である)。

0121

上述の塩基配列を有するポリペプチドを、GenScriptより入手した。上記配列が組み込まれているpUC57 vectorを、制限酵素EcoRI−HFで切断し、Gel extraction(Qiagen社)を用いて精製した。精製したフラグメントを、基材プラスミド(pTL2−CAG−IRES−Puro vector、竹田研究室作製)およびライゲーションキット(Mighty Mix、タカラバイオ社)を用いて、ライゲーションした。その後、[2]と同じ操作により、形質転換および精製を行った。回収したプラスミドベクターは、TE緩衝液中で1μg/μLの濃度となるように調製した。

0122

〔実施例A−1〕
塩基配列を改変し、核移行シグナルを付加したCas3、Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6およびCas7と、crRNAとをHEK(human embryonic kidney)293T細胞に発現させ、外因性DNAの標的配列の切断活性を評価した。

0123

トランスフェクションに先立ち、HEK293T細胞を10cmディッシュ中で培養した。HEK293T細胞の培養は、EF培地GIBCO社)で、37℃、5%CO2雰囲気下にて行った。EF培地中におけるHEK293T細胞の密度は、3×104/100μLに調製した。

0124

また、上記レポーターベクター100ng;Cas3プラスミド、Cse1(Cas8)プラスミド、Cse2(Cas11)プラスミド、Cas5プラスミド、Cas6プラスミド、Cas7プラスミドおよびcrRNAプラスミド各200ng;pRL−TKベクター(レニラルシフェラーゼを発現可能、Promega社)60ng;ならびに、pBluecscriptII KS(+)ベクター(Agilent Technologies社)300ngを、Opti−MEM(Thermo Fisher Scientific社)25μLに混合した。レポーターベクターとして、CCR5由来の標的配列を有するレポーターベクターを用いた条件が図1の1に相当し、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列を有するレポーターベクターを用いた条件が図1の10に相当する。

0125

Lipofectamine2000(Thermo Fisher Scientific社)1.5μLとOptiMEM(Thermo Fisher Scientific社)25μLとを混合し、室温で5分間インキュベートした。その後、上記のプラスミド+OptiMEM mixtureとLipofectamine2000+OptiMEM mixtureとを混合し、室温で20分間インキュベートした。得られた混合物を、HEK293T細胞を含む上記EF培地1mLと混合し、96ウェルプレート播種した(それぞれのベクターの組み合わせにつき1ウェルずつ、合計12ウェルに播種した)。

0126

37℃、5%CO2雰囲気下にて24時間培養後、Dual−Glo Luciferase assay system(Promega社)のプロトコールに従い、dual−Luciferaseアッセイを行った。ルシフェラーゼおよびレニラルシフェラーゼの測定には、Centro XS3 LB 960(BERTHOLD TECHNOLOGIES社)を用いた。

0127

対照実験として、以下の条件で同様の実験を行った。
1.Cas3プラスミド、Cse1(Cas8)プラスミド、Cse2(Cas11)プラスミド、Cas5プラスミド、Cas6プラスミドまたはCas7プラスミドのいずれか1つの代わりに、同量のpBluecscriptII KS(+)ベクター(Agilent Technologies社)を混合し、発現させた(図1の2〜7)。
2.上記の操作手順で用いたcrRNAプラスミドの代わりに、標的配列とは相補的でないcrRNAを発現させるプラスミドを混合した。すなわち、CCR5遺伝子由来の標的配列に対しては、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列に対応するcrRNAを発現させるプラスミドを混合させ(図1の8)、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列を標的とする場合は、CCR5遺伝子由来の配列に対応するcrRNAを発現させるプラスミドを混合し、発現させた(図1の11)。
3.ネガティブコントロールとして、CCR5由来の標的配列を有するレポーターベクターのみ(図1の9)、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列を有するレポーターベクターのみ(図1の12)を発現させた。

0128

(結果)
dual−Luciferaseアッセイの結果を図1上のグラフに、実験条件図1下の表に示した。図1の(b)中、「CCR5−target」および「spacer−target」は、それぞれ、CCR5由来の標的配列および大腸菌のCRISPRのスペーサー配列を表す。また、「CCR5−crRNA」および「spacer−crRNA」は、それぞれ、上記CCR5−targetと相補的な配列およびspacer−targetと相補的な配列を表す。

0129

図1において、Cas3プラスミド、Cse1(Cas8)プラスミド、Cse2(Cas11)プラスミド、Cas5プラスミド、Cas6プラスミドおよびCas7プラスミドの全てと、標的配列に相補的なcrRNAプラスミドとを導入したシステムは、その他のシステムと比較して、高い切断活性を示した(1と2〜8、10と11とをそれぞれ比較)。したがって、本発明の一実施形態に係る発現ベクターを用いることにより、ヒト細胞中において、Cas3、Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6およびCas7を発現させることが可能であることが分かった。

0130

また、上記発現ベクターをヒト細胞に導入することにより、ヒト細胞中でCas3、カスケードおよびcrRNAの複合体が形成され、標的配列を切断することが示唆された。

0131

さらに、図1において、8と9、および11と12とを比較すると、標的配列と相補的でないcrRNAを発現させたシステムにおいては、切断活性がネガティブコントロールと同等のレベルであった。すなわち、本発明のCRISPR−Cas3システムは、哺乳動物細胞内において、crRNAと相補的な配列を特異的に切断できることが示唆された。

0132

〔実施例A−2〕
実施例A−1と同様の方法を用いて、タイプIのCRISPR−Casシステムによりヒト細胞の内因性DNAを切断できるか否かを評価するための実験を行った。

0133

具体的には、ヒト細胞において塩基配列を改変し、核移行シグナルを付加したCas3、Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6およびCas7と、プレcrRNAとを発現させ、上記細胞の内因性CCR5遺伝子の配列が切断されるか否かを評価した。

0134

実施例A−1と同じHEK239T細胞を、1×105個/ウェルの密度で、24ウェルプレートに播種し、24時間培養した。

0135

Cas3プラスミド1μg、Cse1(Cas8)プラスミド1.3μg、Cse2(Cas11)プラスミド1.3μg、Cas5プラスミド1.1μg、Cas6プラスミド0.8μg、Cas7プラスミド0.3μg、およびcrRNAプラスミド1μgを、Opti−MEM(Thermo Fisher Scientific社)50μLに混合した。次いで、Lipofectamine(登録商標)2000(Thermo Fisher Scientific社)5μL、Opti−MEM(Thermo Fisher Scientific社)50μL、およびEF培地1mLの混合物を、上記のDNA混合物に加えた。その後、得られた混合物1mLを、上記24ウェルプレートに添加した。

0136

37℃、5%CO2雰囲気下にて24時間培養後、EF培地1mLで培地を交換した。トランスフェクションから48時間後(培地交換から24時間後)、細胞を回収し、PBS中で1×104個/5μLの濃度に調整した。

0137

上記細胞を、95℃にて10分間加熱した。次に、プロテイナーゼKを10mg加え、55℃にて70分間インキュベートした。さらに、95℃にて10分間加熱処理をしたものを、PCRの鋳型として用いた。

0138

上記鋳型10μLを、2ステップPCRを35サイクル施すことにより、増幅させた。このとき、PCRのプライマーには、配列番号47および48の配列を有するプライマーを使用した。また、DNAポリメラーゼにはKODFX(東洋紡社)を用い、2ステップPCRの手順はKOD FXに添付のプロトコールに従った。PCRにより増幅された産物は、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社)を用いて精製した。具体的な手順は、上記キットに添付のプロトコールに従った。

0139

rTaq DNA polymerase(東洋紡社)を用いて、得られた精製DNAの3’末端にdAを付加した。上記精製DNAを2%アガロースゲル中で電気泳動させ、約500〜700bpのバンド切り出した後、Gel extraction kit(QIAGEN社)を用いて、切り出したゲルからDNAを抽出、精製した。次に、pGEM−T easy vector Systems(Promega社)を用いてTAクローニングを行い、上記DNAをクローニングした。最後に、アルカリプレップ法によってクローニングされたDNAを抽出し、サンガーシーケンスで解析した。解析には、BigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Thermo Fisher Scientific社)およびApplied Biosystems 3730 DNA Analyzer(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。

0140

本実施例におけるCRISPR−Casシステムの標的となる内因性CCR5遺伝子配列概要を、図2に基づいて説明する。なお図2では、エキソン大文字で、イントロン小文字で表した。

0141

本実施例では、第3染色体短腕(P)21領域に位置する、CCR5遺伝子内の配列を標的とした(図2;配列番号46にCCR5の塩基配列の全長を示す)。具体的には、CCR5遺伝子のエキソン3内の配列を標的配列とした。コントロールとして、Cas9の標的配列も、ほぼ同じ位置に配置した。すなわち、下線部の配列全体がタイプIのCRISPR−Casシステムの標的配列(AAGおよびそれに続く32塩基)であり、二重下線部の配列がCas9の標的配列(CGGおよびそれに先立つ20塩基)である。タイプIのCRISPR−Casシステムの標的配列(AAGおよびそれに続く32塩基)へのガイドを可能とするように、crRNAの配列を設計した。

0142

(結果)
上記実験の結果、元々の塩基配列と比較して、401bpが欠失しているクローン1、341bpが欠失しているクローン2、268bpが欠失しているクローン3、および344bpが欠失しているクローン4が得られた(図3A〜D)。このことより、本発明のCRISPR−Cas3システムによって、ヒト細胞の内因性DNAを欠失できることが示された。すなわち、上記CRISPR−Casシステムによって、ヒト細胞のDNAの編集が可能であることが示唆された。

0143

本実施例では、塩基対を欠失しているクローンが観察された。この事実は、本発明のCRISPR−Cas3システムによれば、複数の箇所でDNA切断が生じることを支持している。

0144

本発明のCRISPR−Cas3システムにより、数百塩基対(268〜401bp)のDNAが欠失した。これは、Cas9を用いたCRISPR−Casシステムにより得られる欠失(通常DNA上の一箇所のみで切断)よりも、広範囲に渡るものであった。

0145

〔実施例A−3〕
実施例A−1と同様の方法を用いて、CRISPR−Cas3システムによりヒト細胞の内因性DNAを切断できるか否かを評価するための、実験を行った。

0146

具体的には、ヒト細胞において塩基配列を改変し、核移行シグナルを付加したCas3、Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6およびCas7と、プレcrRNAとを発現させ、上記細胞の内因性EMX1遺伝子の配列が切断されるか否かを評価した。

0147

実施例A−1と同じHEK293T細胞を、1×105個/ウェルの密度で、24ウェルプレートに播種し、24時間培養した。

0148

Cas3プラスミド500ng、Cse1(Cas8)プラスミド500ng、Cse2(Cas11)プラスミド1μg、Cas5プラスミド1μg、Cas6プラスミド1μg、Cas7プラスミド3μg、およびcrRNAプラスミド500μgを、Opti−MEM(Thermo Fisher Scientific社)50μLに混合した。上記の混合物に、Lipofectamine(登録商標)2000(Thermo Fisher Scientific社)4μL、Opti−MEM(Thermo Fisher Scientific社)50μLを、さらに加えて、混合した。得られた混合物を、室温にて20分間インキュベートした後、上記HEK293T細胞に添加した。

0149

ここで、実施例A−3において用いた、Casタンパク質群の発現ベクターの構造を、図7に示す。図7に示されているように、上記発現ベクターは、Casタンパク質群をコードする配列の前後をBPNLS(bipartite NLS)で挟んだものである([Suzuki K et al.(2016) In vivo genome editing via CRISPR/Cas9 mediated homology−independent targeted integration, Nature, Vol.540 (Issue 7631), pp.144−149]を参照)。BPNLSのアミノ酸配列はKRTADGSEFESPKKKRKVE(配列番号54)、塩基配列はAAGCGGACTGCTGATGGCAGTGAATTTGAGTCCCCAAAGAAGAAGAGAAAGGTGGAA(配列番号55)である。

0150

上記HEK293T細胞を、37℃、5%CO2雰囲気下にて24時間培養した後、EF培地1mL(1ウェルあたり1mL)と培地を交換した。トランスフェクションから48時間後(培地交換から24時間後)、細胞を回収し、PBS中で1×104個/5μLの濃度に調整した。

0151

上記細胞を、95℃にて10分間加熱した。次に、プロテイナーゼKを10mg加え、55℃にて70分間インキュベートした。さらに、95℃にて10分間加熱処理をしたものを、PCRの鋳型として用いた。

0152

上記鋳型10μLを、3ステップPCRを40サイクル施すことにより、増幅させた。このとき、PCRのプライマーには、配列番号50および51の配列を有するプライマーを使用した。また、DNAポリメラーゼにはHotstartaq(QIAGEN社)を用い、3ステップPCRの手順はHotstartaqに添付のプロトコールに従った。PCRにより増幅された産物は、2%アガロースゲル中で電気泳動させ、約900〜1100bpのバンドを切り出した後、Gel extraction kit(QIAGEN社)を用いて、切り出したゲルからDNAを抽出、精製した。具体的な手順は、上記キットに添付のプロトコールに従った。

0153

次に、pGEM−T easy vector Systems(Promega社)を用いてTAクローニングを行い、上記DNAをクローニングした。最後に、アルカリプレップ法によってクローニングされたDNAを抽出し、サンガーシーケンスで解析した。解析には、BigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Thermo Fisher Scientific社)およびApplied Biosystems 3730 DNA Analyzer(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。

0154

実施例A−3においてCRISPR−Cas3システムの標的となる、内因性EMX1遺伝子配列の概要を、図5に基づいて説明する。なお図5では、エキソンは大文字で、イントロンは小文字で表した。

0155

実施例A−3では、第2染色体短腕(P)13領域に位置する、EMX1遺伝子内の配列を標的とした(図5;配列番号49にEMX1の塩基配列の全長を示す)。具体的には、EMX1遺伝子のエキソン3内の配列を標的配列とした。コントロールとして、Cas9の標的配列も、ほぼ同じ位置に配置した。すなわち、より上流にある下線部の配列がタイプIのCRISPR−Casシステムの標的配列(AAGおよびそれに続く32塩基)であり、より下流にある下線部の配列がCas9の標的配列(TGGおよびそれに先立つ20塩基)である。実施例A−3で用いたcrRNAの配列は、CRISPR−Cas3システムの標的配列(AAGおよびそれに続く32塩基)へのガイドを可能とするように設計されていた。

0156

(結果)
上記実験の結果、元々の塩基配列と比較して、513bpおよび363bpの2箇所が欠失しているクローン1、ならびに694bpが欠失しているクローン2が得られた(図6A、B)。この実験結果からも、本発明のCRISPR−Cas3システムによって、ヒト細胞の内因性DNAを欠失できることが示された。すなわち、上記CRISPR−Cas3システムによって、ヒト細胞のDNAの編集が可能であることが示唆された。

0157

また、二本鎖DNAの2箇所以上において切断が生じていること、および数百塩基対のDNAが欠失することも実施例A−2と同様であった。したがって、実施例A−3の結果は、実施例A−2から得られた示唆を、より強固に支持するものである。

0158

〔実施例A−4〕
塩基配列を改変し、さらにカスケードタンパク質をコードする塩基配列を連結したCRISPR−Cas3システムを、HEK293T細胞に発現させ、外因性DNAの標的配列の切断活性を評価した。

0159

実施例A−4においては、レポーターベクター100ng;Cas3プラスミド、カスケード(2A)プラスミドおよびcrRNAプラスミド各200ng;pRL−TKベクター(レニラルシフェラーゼを発現可能、Promega社)60ng;ならびに、pBluecscriptII KS(+)ベクター(Agilent Technologies社)300ngを、Opti−MEM(Thermo Fisher Scientific社)25μLに混合した。レポーターベクターとして、CCR5由来の標的配列を有するレポーターベクターを用いた条件が図9の(b)の1に相当し、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列を有するレポーターベクターを用いた条件が図9の(b)の6に相当する。

0160

ここで、上記レポーターベクターは、〔製造例〕の[1]で製作した2種類のレポーターベクター(すなわち、図4の(d)に示されている構造のベクター)を用いた。また、上記カスケード(2A)プラスミドは、〔製造例〕の[4]で製作した発現ベクター(すなわち、図8に示されている構造のベクター)を用いた。

0161

上記の発現ベクターを用いた以外は、実施例A−1と同様の手法により、dual−Luciferaseアッセイを行った。

0162

また、対照実験として、以下の条件で同様の実験を行った。
1.Cas3プラスミドおよびカスケード(2A)プラスミドのいずれか一方の代わりに、同量のpBluscriptII KS(+)ベクター(Agilent Technologies社)を混合し、発現させた(図9の2および3)。
2.上記の操作手順で用いたcrRNAプラスミドの代わりに、標的配列とは相補的でないcrRNAを発現させるプラスミドを混合した。すなわち、CCR5遺伝子由来の標的配列に対しては、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列に対応するcrRNAを発現させるプラスミドを混合させ(図9の4)、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列を標的とする場合は、CCR5遺伝子由来の配列に対応するgRNAを発現させるプラスミドを混合し、発現させた(図9の7)。
3.ネガティブコントロールとして、CCR5由来の標的配列を有するレポーターベクターのみ(図9の5)、大腸菌のCRISPRのスペーサー配列を有するレポーターベクターのみ(図9の8)を発現させた。

0163

(結果)
dual−Luciferaseアッセイの結果を図9上のグラフに、実験条件を図9下の表に示した。図9において、「CCR5−target」および「spacer−target」は、それぞれ、CCR5由来の標的配列および大腸菌のCRISPRのスペーサー配列を表す。また、「CCR5−crRNA」および「spacer−crRNA」は、それぞれ、上記CCR5−targetと相補的な配列およびspacer−targetと相補的な配列を表す。

0164

図9に示されているように、Cas3プラスミドおよびカスケード(2A)プラスミドの両方と、標的配列に相補的なcrRNAプラスミドとを導入したシステムは、その他のシステムと比較して、有意に高い切断活性を示した(1と2〜5、6と7〜8とをそれぞれ比較)。これより、カスケードタンパク質をコードする塩基配列を連結して発現させたシステムにおいても、本発明の一実施形態に係るCRISPR−Casシステムによれば、哺乳動物細胞内において、crRNAと相補的な配列を特異的に切断できることが示唆された。

0165

B.真核細胞におけるCRISPR−Cas3システムによるゲノム編集に影響を与える要素などの検証
〔材料と方法〕
[1]Cas遺伝子とcrRNAの構成
bpNLSをそれぞれの5’側および3’側に付加した、大腸菌K−12株由来のCas3とカスケードの構成遺伝子(Cse1, Cse2, Cas5, Cas6, Cas7)を設計し、哺乳動物細胞にコドンオプティマイズ後に遺伝子合成によりクローニングした。これらの遺伝子は、サンガー研究所より寄贈されたpPB−CAG.EBNXNプラスミドのCAGプロモーターの下流にサブクローニングした。H74A(dead nickase; dn)、K320N(dead helicase; dh)、S483AとT485Aの二重変異体(dead helicase ver.2; dh2)といったCas3の変異体は、PrimeSTAR MAXのPCR産物をセルフライゲーションすることで作製した。crRNAの発現プラスミドに関して、U6プロモーター下のスペーサーの位置に2カ所のBbsI制限酵素部位を持っているcrRNAの配列を合成した。全てのcrRNA発現プラスミドは、BbsI制限酵素サイトに、標的配列の32塩基対の二重鎖オリゴを挿入することで作製した。

0166

Cas9−sgRNA発現プラスミドであるpX330−U6−Chimeric_BB−CBh−hSpCas9は、Addgeneから入手した。gRNAを設計するために、ヒトゲノムでのユニークな標的部位を予測するCRISPR web tool、CRISPR design tool、および/またはCRISPRdirectを用いた。標的配列は、Feng Zhang研究所のプロトコルに従って、pX330のsgRNAスキャフォールドにクローニングした。

0167

2カ所のBsaI制限酵素部位を含むSSAレポータープラスミドは、広島大学の山本卓教授より寄贈された。ゲノム領域の標的配列は、BsaIサイトに挿入した。レニラルシフェラーゼベクターとして、pRL−TK(Promega社)を入手した。全てのプラスミドは、PureLink HiPure Plasmid Purification Kit(Thermo Fisher社)を用いて、ミディプレップもしくはマキシプレップ法により準備した。

0168

[2]HEK293T細胞でのDNA切断活性の評価
哺乳動物細胞でDNA切断活性を検出するために、実施例Aと同様に、SSAアッセイを実施した。HEK293T細胞は、10%胎児ウシ血清を加えたhigh−Glucose Dulbecco’s modified Eagle’s medium(Thermo fisher社)で、37℃、5%CO2下で培養した。0.5×104個の細胞を96穴プレートのウェルに播種し、24時間後に、Cas3、Cse1、Cse2、Cas7、Cas5、Cas6、crRNA発現プラスミド(それぞれ100ng)、SSAレポーターベクター(100ng)、レニラルシフェラーゼベクター(60ng)を、lipofectamine2000およびOptiMEM(Life Technologies社)を用いて、わずかに修正したプロトコルに従い、HEK293T細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後に、Dual−Glo luciferase assay system(Promega社)を用い、プロトコルに従って、デュアルルシフェラーゼアッセイを行った。

0169

[3]HEK293T細胞でのインデルの検出
2.5x104個の細胞を24穴プレートのウェルに播種した24時間後に、Cas3、Cse1、Cse2、Cas7、Cas5、Cas6、crRNA発現プラスミド(それぞれ250ng)を、lipofectamine2000とOptiMEM(Life Technologies社)を用い、わずかに修正したプロトコルに従って、HEK293T細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの2日後、Tissue XS kit(Takara−bio社)を用いて、プロトコルに従い、回収した細胞から全DNAを抽出した。標的遺伝子座をGflex (Takara bio社)またはQuick Taq HS DyeMix (TOYOBO社)を用いて増幅し、アガロースゲルで電気泳動した。PCR産物における小さな挿入/欠失変異を検出するために、SURVEYOR Mutation Detection Kit(Integrated DNA Technologies社)をプロトコルに従い用いた。TAクローニングでは、pCR4Blunt−TOPO plasmid vector(Life Technologies社)をプロトコルに従い用いた。シークエンス解析には、BigDye Terminator Cycle Sequencing KitおよびABIPRISM3130 Genetic Analyzer(Life Technologies社)を用いた。

0170

珍しい様々な変異を検出するために、TruSeq Nano DNA Library Prep Kit(Illumina社)を用いてPCR増幅産物のDNAライブラリを調製し、Macrogenの標準手順に従ってMiSeq(2 x 150bp)でアンプリコンシークエンスを行った。それぞれのサンプルのローリード(raw reads)を、BWA−MEMによってヒトゲノムのhg38にマップした。カバレッジデータは、Integrative Genomics Viewer(IGV)で視覚化し、標的領域でのヒストグラムを抽出した。

0171

哺乳動物細胞でのSNP−KIスニップノックイン)を検出するための、mCherry−P2A−EGFPc321C>Gを持ったレポーターHEK293T細胞は、中田慎一郎教授から寄贈頂いた。レポーター細胞は、1μg/mlのピューロマイシンで培養した。500ngのドナープラスミドまたは1本鎖DNAを、CRISPR−Cas3とともに、上記の方法で共導入した。トランスフェクション5日後に全細胞を回収し、AriaIIIu(BD)を用いてFACS解析を行った。GFP陽性細胞ソートし、上記の方法で全DNAを抽出した。ゲノムにおけるSNP交換は、HiDi DNA polymerase(myPOLS Biotec社)を用いたPCR増幅により検出した。

0172

[4]オフターゲット部位の候補の検出
タイプI−E CRISPRのオフターゲット候補は、ヒトゲノムのhg38において、2つの異なった手順によりGGGenomeを用いて検出した。PAM候補の配列としては、既報(Leenay, R.T, et al. Mol. Cell 62, 137−147(2016)、Jung, et al. Mol. Cell. 2017Jung et al., Cell 170, 35−47(2017))に従い、AAG、ATG、AGG、GAG、TAG、AACを選択した。6の倍数ポジションは標的部位として認識されないことが報告されていたことから(Kunne et al., Molecular Cell 63, 1−13(2016))、最初のアプローチでは、これらを除いた標的配列の32塩基対に対して、よりミスマッチが少ないものを選択した。次のアプローチでは、標的配列のPAM側5’端に完全にマッチしている領域を検出し、高い順にリストした。

0173

[5]オフターゲット解析のディープシークエンス
全ゲノムシークエンスでは、トランスフェクションされたHEK293T細胞からゲノムDNAを抽出し、Covaris sonicatorを使用して切断した。TruSeq DNAPCR−FreeLTLibrary Prep Kit(Illumina社)を用いてDNAライブラリを準備し、タカラバイオの標準手順に従い、HiSeq X(2×150bp)を用いてゲノムシークエンスを行った。それぞれのサンプルのローリード(raw reads)を、BWA−MEMによりヒトゲノムのhg38にマップし、Trimmomatic programによってクリーニングした。ディスコダントリーペア(Discordant read pairs)とスプリットリード(split reads)は、それぞれsamtoolsとLumpy−svによって除外した。同じ染色体での大きい欠失だけを検出するために、Genome Analysis Toolkit programのBadMateFilterを用いて、異なる染色体にマップされたリードペアを除去した。それぞれ100kb領域でのディスコーダントリードペアまたはスプリットリードの総数をBedtoolsでカウントし、ネガティブコントロールとのエラー率を算出した。シークエンス前のオフターゲット候補を豊富にするために、SureSelectXT custom DNA probesをSureDesignによって適度にストリンジェントな条件で設計し、Agilent technologiesが作製した。標的領域は、以下の通り、選択した。標的領域付近のプローブは、PAMの上流800kbと下流200kbをカバーした。CRISPR−Cas3のオフターゲット領域付近では、PAM候補の9kb上流と1kb下流をカバーした。CRISPR−Cas9のオフターゲット領域付近では、PAMの上流、下流それぞれ1kbをカバーした。SureSelectXT reagent kitとcustom probe kitによるDNAライブラリの準備の後、タカラバイオの標準手順に従い、Hiseq 2500(2×150bp)により、ゲノムシークエンスを行った。同一の染色体でのディスコーダントリードペアとスプリットリードは、上記の方法で除外した。それぞれ10kb領域でのディスコーダントリードペアまたはスプリットリードの総数をBedtoolsでカウントし、ネガティブコントロールとのエラー率を算出した。

0174

〔実施例B−1〕DNA切断活性におけるcrRNAと核移行シグナルの種類の影響
実施例Aでは、偶然にも、crRNAとしてプレcrRNA(LRSR;リーダー配列−リピート配列−スペーサー配列−リピート配列)を含むCRISPR−Cas3システムを利用して真核細胞におけるゲノム編集に成功した。ここで、本発明者は、これまで長年に渡ってCRISPR−Cas3システムを利用した真核細胞でのゲノム編集に成功しなかった理由が、crRNAとして成熟crRNAが用いられてきたことにあるのではないかと考えた。そこで、crRNAとして、プレcrRNA(LRSR)の他に、プレcrRNA(RSR;リピート配列−スペーサー配列−リピート配列)と成熟crRNA(5’ハンドル配列−スペーサー配列−3’ハンドル配列)を調製し、実施例Aのレポーターシステムによりゲノム編集効率を検証した(図10A、B)。なお、プレcrRNA(LRSR)、プレcrRNA(RSR)、成熟crRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号:63、64、65に示す。

0175

その結果、成熟crRNAを用いたCRISPR−Cas3システムでは、標的DNAの切断活性が認められなかった。その一方、驚くべきことに、プレcrRNA(LRSR、RSR)を用いた場合には、非常に高い標的DNAの切断活性が認められた。CRISPR−Cas3システムにおけるこの結果は、成熟crRNAを用いることにより高いDNA切断活性が認められるCRISPR−Cas9システムと対照的である。また、この事実は、CRISPR−Cas3システムによって、これまで真核細胞におけるゲノム編集に成功しなかった主たる理由の一つとして、成熟crRNAが用いられてきたことが挙げられることを示唆する。

0176

また、Cas3に付加する核移行シグナルとして、SV40核移行シグナルとバイパルタイト核移行シグナルを用いた検証も行った(図11)。その結果、バイパルタイト核移行シグナルを用いた場合に、より高い標的DNAの切断活性が認められた。

0177

よって、以降の実験では、crRNAとして、プレcrRNA(LRSR)を、核移行シグナルとして、バイパルタイト核移行シグナルを使用した。

0178

〔実施例B−2〕DNA切断活性におけるPAM配列の影響
CRISPR−Cas3システムの標的特異性を確認するために、DNA切断活性における様々なPAM配列の効果を調べた(図12)。SSAアッセイでは、異なったPAM配列によってDNA切断活性は様々な結果となった。5’−AAG PAMが最も高い活性を示し、AGG、GAG、TAC、ATG、TAGも注目すべき活性をみせた。

0179

〔実施例B−3〕DNA切断活性におけるcrRNAとスペーサー配列のミスマッチの影響
大腸菌のカスケードの結晶構造の過去の研究では、crRNAとスペーサーDNAとの間で5塩基区画のヘテロ2本鎖を形成することが示されており、これはCas7エフェクターのサムエレメントにより、6番目のポジション毎に塩基対合破綻することによる(図13)。DNA切断活性でのcrRNAとスペーサー配列のミスマッチの影響を評価した(図1g)。標的として認識されない塩基(ポジション6)を除いて、シード領域(ポジション1−8)でのどの単一ミスマッチでも切断活性は劇的に落ちた。

0180

〔実施例B−4〕DNA切断活性におけるCas3の各ドメインの必要性の検証
Cas3タンパク触媒的特徴のインビトロでの性質決定では、N末端のHDヌクレアーゼドメインがDNA基質の1本鎖領域を切断し、続いて、C末端のSF2ヘリケースドメインが、ATP依存的に、標的DNA上を3’から5‘方向へ進行してほどいていくことが明らかになった。3つのCas3の変異体、すなわち、HDドメインH74Aの変異体(dnCas3)、SF2ドメインモチーフ1のK320Nの変異体(dhCas3)、およびSF2ドメインモチーフ3のS483A/T485Aのダブルの変異体(dh2Cas3)を作製して、Cas3ドメインがDNA切断に必要か否かを検証した(図14)。その結果、3つ全てのCas3タンパクの変異体でDNA切断活性が完全に消失しており、Cas3はHDヌクレアーゼドメインとSF2ヘリケースドメインを通して標的DNAを切断できることが判明した。

0181

〔実施例B−5〕様々なタイプのCRISPR−Cas3システムにおけるDNA切断活性の検証
タイプ1のCRISPR−Cas3システムは高度に多様化している(タイプ1のA〜Gの7種類)。上記実施例では、タイプI−EのCRISPR−Cas3システムにおける真核細胞でのDNA切断活性を検証したが、本実施例では、それ以外のタイプ1のCRISPR−Cas3システム(タイプI−FとタイプI−G)におけるDNA切断活性の検証を行った。具体的には、タイプI−FのシュワネラプトレファシエンスのCas3、Cas5−7、およびタイプI−GのピュロコックスフリオススのCas5−8をコドンオプティマイズしクローニングした(図15)。その結果、DNA切断活性の強さに差異はあるものの、293T細胞を用いたSSAアッセイにおいて、これらのタイプ1のCRISPR−Cas3システムにもDNA切断活性が認められた。

0182

〔実施例B−6〕CRISPR−Cas3システムにより内因性遺伝子に導入された変異の検証
CRISPR−Cas3システムにより内因性遺伝子に導入された変異を、タイプI−Eシステムを利用して検証した。EMX1遺伝子とCCR5遺伝子を標的遺伝子として選択し、プレcrRNA(LRSR)プラスミドを調製した。293T細胞にプレcrRNAと6つのCas(3,5−8,11)エフェクターをコードするプラスミドをリポフェクションした結果、CRISPR−Cas3により数百から数千塩基対の欠失が主に標的領域のスペーサー配列の5’PAMの上流方向で起きたことが明らかとなった(図16)。修復されたジャンクションでの5−10塩基対のマイクロホモロジーが確認でき、アニーリング依存性の修復経路による相補鎖のアニーリングによって起こったのかもしれない。なお、成熟crRNAプラスミドでは、EMX1とCCR5領域でのゲノム編集は見られなかった。

0183

PCR産物のTAクローニングとサンガーシークエンスにより、よりCas3によるゲノム編集を特徴付けるために、96個のTAクローンをピックアップし、シークエンスで野生型のEMX1の配列と比較した(図17)。配列の挿入を確認できた49クローンのうち24クローンで最小596塩基対、最大1447塩基対、平均985塩基対の欠失を認めた(46.3%の効率)。半分のクローン(n=12)でPAMとスペーサーの配列を含んで大きな欠失を作っており、残り半分ではPAMの上流で欠失していた。

0184

EMX1遺伝子の3.8kb、CCR5の9.7kbといったより広域の領域におけるプライマーセットでのPCR増幅産物での次世代シークエンスによりさらなるCas3の特徴付けを行った。また、タイプI−E CRISPRでの標的化のための複数のPAMサイト(AAG、ATG、TTT)を検証した。アンプリコンシークエンスでは、AAGは38.2%、ATGは56.4%であり、TTTの86.4%、EMX1を標的にしたCas9の86.4%と比較してPAMサイトの上流の広範なゲノム領域でのカバレッジ率が大きく減少していた。カバレッジの減少はCCR5領域をターゲットにした場合も同様であった。対照的に、Cas9は標的部位での小挿入、小欠失(インデル)を誘発し、一方でCas3はPAMや標的部位での小インデル変異は全くなかった。これらの結果は、CRISPR−Cas3システムが、ヒト細胞において、標的部位の上流の幅広い領域で欠失を引き起こすことを示唆した。

0185

10kb未満の増幅やより短いPCR断片に有利である強いバイアスといったPCR解析の限界を考え、標的にしたEMX1とCCR5遺伝子座の周囲1000kb以上のマイクロアレイベースのキャプチャーシークエンスを利用した(図18A、B)。EMX1遺伝子座では最大で24kb、CCR5遺伝子座では最大43kbの欠失を認めたが、EMX1での90%、CCR5での95%の変異は10kb未満であった。これらの結果は、CRISPR−Cas3システムが、真核細胞ゲノムでも強力なヌクレアーゼとヘリケースの活性を持ちうることを示唆した。

実施例

0186

なお、CRISPR−Cas9システムで示されるように、非標的ゲノム領域で望ましくないオフターゲット変異を誘発しうるかどうかは、特に臨床適用に関して大きな懸念事項であるが、CRISPR−Cas3システムでは、顕著なオフターゲット効果はみられなかった。

0187

本発明のCRISPR−Cas3システムは、真核細胞のDNAを編集することができるため、ゲノム編集が求められている分野、例えば、医薬、農林水産、工業、生命科学、生命工学、遺伝子治療などの分野に広く利用することができる。

ページトップへ

この技術を出願した法人

この技術を発明した人物

ページトップへ

関連する挑戦したい社会課題

関連する公募課題

該当するデータがありません

ページトップへ

おススメ サービス

おススメ astavisionコンテンツ

新着 最近 公開された関連が強い技術

この 技術と関連性が強い技術

関連性が強い 技術一覧

この 技術と関連性が強い人物

関連性が強い人物一覧

この 技術と関連する社会課題

関連する挑戦したい社会課題一覧

この 技術と関連する公募課題

該当するデータがありません

astavision 新着記事

サイト情報について

本サービスは、国が公開している情報(公開特許公報、特許整理標準化データ等)を元に構成されています。出典元のデータには一部間違いやノイズがあり、情報の正確さについては保証致しかねます。また一時的に、各データの収録範囲や更新周期によって、一部の情報が正しく表示されないことがございます。当サイトの情報を元にした諸問題、不利益等について当方は何ら責任を負いかねることを予めご承知おきのほど宜しくお願い申し上げます。

主たる情報の出典

特許情報…特許整理標準化データ(XML編)、公開特許公報、特許公報、審決公報、Patent Map Guidance System データ