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課題・解決手段

本発明は、HER2陽性癌等の癌に対する薬物療法の効果を予測可能指標を提供する。より具体的には、本発明は、以下(1)及び(2)を含む、癌に対する薬物療法の効果の予測方法を提供する:(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基メチル化率解析すること;並びに(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果を予測すること。

概要

背景

従来、癌の治療法として、薬物療法外科的手術などが行われている。例えば、日本乳癌学会のガイドラインでは、遠隔転移のない乳癌患者治療に際して原則全例外科的手術を行うことが推奨されている。しかし、外科的手術、特に乳房全摘手術は、乳癌治癒の可能性は高いものの、患者にとって乳房喪失の苦しみは大きい。よって、術前薬物療法が奏効した症例にまで全例外科的手術を適用する必要があるか、という点につき議論がある。

ところで、癌等の疾患の指標(例、診断マーカー、疾患のリスク評価マーカー)としては、例えば、特定の遺伝子又はタンパク質発現の有無又はその量の変化、特定の代謝産物の有無又はその量の変化、遺伝的多型(例、SNP、ハプロタイプ)、転座ゲノムDNAのメチル化の有無又はその程度が知られている。このような指標として、例えば、HER2陽性乳癌におけるゲノムDNAメチル化の解析が行われ、HER2陽性乳癌の挙動に関連し得るメチル化サイトが複数見出されている(非特許文献1)。

概要

本発明は、HER2陽性癌等の癌に対する薬物療法の効果を予測可能な指標を提供する。より具体的には、本発明は、以下(1)及び(2)を含む、癌に対する薬物療法の効果の予測方法を提供する:(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基メチル化率を解析すること;並びに(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果を予測すること。

目的

本発明は、HER2陽性癌等の癌に対する薬物療法の効果を予測可能な指標を提供する

効果

実績

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請求項1

以下(1)及び(2)を含む、癌に対する薬物療法の効果の予測方法:(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基メチル化率解析すること;並びに(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果を予測すること。

請求項2

ヒト被験体から採取されたサンプルは、血液、体液組織、及び細胞からなる群より選択された1又は2以上のサンプルである、請求項1に記載の方法。

請求項3

CpGサイトは、転写開始点を基準にして、56位から94位の間に標準的に存在するCpGサイトである、請求項1又は2に記載の方法。

請求項4

CpGサイトは、転写開始点を基準にして92位及び93位に標準的に存在するCpGサイトである、請求項3に記載の方法。

請求項5

癌はHER2陽性癌である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

請求項6

癌は乳癌である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

請求項7

サンプルにおいて、エストロゲンレセプター発現を測定することをさらに含む、請求項6に記載の方法。

請求項8

薬物療法は、HER2阻害剤による治療である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

請求項9

HER2阻害剤は抗体である、請求項8に記載の方法。

請求項10

抗体はトラスツズマブである、請求項9に記載の方法。

請求項11

解析が、亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、及びナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の手段を用いて行われる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。

請求項12

解析が、バイサルファイトシーケンシング法、バイサルファイト・パイロシーケンシング法、メチル化特異的PCR法、制限酵素ランドマークゲノムスキャニング(RLGS)法、単一ヌクレオチドプライマー伸長(SNuPE)法、CpGアイランドマイクロアレイ法メチライト法、COBRA法、質量分析マスアレイ)法、メチル化特異的制限酵素の使用、高解像度融解解析(HRM)法、ナノポア解析法、ICONプローブ法、メチル化特異的MLPA法、又はイムノアッセイにより行われる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。

請求項13

HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化を解析する解析手段を含む、癌に対する薬物療法の効果の診断キット

請求項14

CpGサイトは、転写開始点を基準にして、56位から94位の間に標準的に存在するCpGサイトである、請求項13に記載の診断キット。

請求項15

CpGサイトは、転写開始点を基準にして92及び93位に標準的に存在するCpGサイトである、請求項14に記載の診断キット。

請求項16

解析手段が、亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ、制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、及びナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の手段である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の診断キット。

請求項17

以下(1)〜(4)を含む、癌に対する薬物療法:(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率を解析すること;並びに(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果を予測すること;(3)癌に対する薬物療法の効果があると予測されたヒトを選択すること;並びに(4)選択されたヒトに薬物療法を行うこと。

請求項18

以下(1)及び(2)を含む、癌に対する治療の選択方法:(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率を解析すること;並びに(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する治療を選択すること。

技術分野

0001

本発明は、癌に対する薬物療法の効果の予測方法に関する。

背景技術

0002

従来、癌の治療法として、薬物療法や外科的手術などが行われている。例えば、日本乳癌学会のガイドラインでは、遠隔転移のない乳癌患者治療に際して原則全例外科的手術を行うことが推奨されている。しかし、外科的手術、特に乳房全摘手術は、乳癌治癒の可能性は高いものの、患者にとって乳房喪失の苦しみは大きい。よって、術前薬物療法が奏効した症例にまで全例外科的手術を適用する必要があるか、という点につき議論がある。

0003

ところで、癌等の疾患の指標(例、診断マーカー、疾患のリスク評価マーカー)としては、例えば、特定の遺伝子又はタンパク質発現の有無又はその量の変化、特定の代謝産物の有無又はその量の変化、遺伝的多型(例、SNP、ハプロタイプ)、転座ゲノムDNAのメチル化の有無又はその程度が知られている。このような指標として、例えば、HER2陽性乳癌におけるゲノムDNAメチル化の解析が行われ、HER2陽性乳癌の挙動に関連し得るメチル化サイトが複数見出されている(非特許文献1)。

先行技術

0004

Oncology 2015;88:pp.377−384

発明が解決しようとする課題

0005

しかしながら、HER2陽性癌等の癌症例のうち、術前薬物療法で治癒可能な症例を予測できる指標については、明らかにされていなかった。

0006

本発明は、HER2陽性癌等の癌に対する薬物療法の効果を予測可能な指標を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0007

本発明者らは、鋭意検討した結果、癌に対する薬物療法の効果を予測可能な指標として、HSD17B4遺伝子の非コーディング領域における特定のCpGサイトメチル化率を利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。

0008

すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕以下(1)及び(2)を含む、癌に対する薬物療法の効果の予測方法:
(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率を解析すること;並びに
(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果を予測すること。
〔2〕ヒト被験体から採取されたサンプルは、血液、体液組織、及び細胞からなる群より選択された1又は2以上のサンプルである、〔1〕に記載の方法。
〔3〕CpGサイトは、転写開始点を基準にして、56位から94位の間に標準的に存在するCpGサイトである、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕CpGサイトは、転写開始点を基準にして92位及び93位に標準的に存在するCpGサイトである、〔3〕に記載の方法。
〔5〕癌はHER2陽性癌である、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕癌は乳癌である、〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の方法。
〔7〕サンプルにおいて、エストロゲンレセプターの発現を測定することをさらに含む、〔6〕に記載の方法。
〔8〕薬物療法は、HER2阻害剤による治療である、〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の方法。
〔9〕HER2阻害剤は抗体である、〔8〕に記載の方法。
〔10〕抗体はトラスツズマブである、〔9〕に記載の方法。
〔11〕解析が、亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、及びナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の手段を用いて行われる、〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の方法。
〔12〕解析が、バイサルファイトシーケンシング法、バイサルファイト・パイロシーケンシング法、メチル化特異的PCR法、制限酵素ランドマーク・ゲノム・スキャニング(RLGS)法、単一ヌクレオチドプライマー伸長(SNuPE)法、CpGアイランドマイクロアレイ法メチライト法、COBRA法、質量分析マスアレイ)法、メチル化特異的制限酵素の使用、高解像度融解解析(HRM)法、ナノポア解析法、ICONプローブ法、メチル化特異的MLPA法、又はイムノアッセイにより行われる、〔1〕〜〔11〕のいずれか一項に記載の方法。
〔13〕HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化を解析する解析手段を含む、癌に対する薬物療法の効果の診断キット
〔14〕CpGサイトは、転写開始点を基準にして、56位から94位の間に標準的に存在するCpGサイトである、〔13〕に記載の診断キット。
〔15〕CpGサイトは、転写開始点を基準にして92及び93位に標準的に存在するCpGサイトである、〔14〕に記載の診断キット。
〔16〕解析手段が、亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ、制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、及びナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の手段である、〔13〕〜〔15〕のいずれか一項に記載の診断キット。
〔17〕以下(1)〜(4)を含む、癌に対する薬物療法:
(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率を解析すること;並びに
(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果を予測すること;
(3)癌に対する薬物療法の効果があると予測されたヒトを選択すること;並びに
(4)選択されたヒトに薬物療法を行うこと。
〔18〕以下(1)及び(2)を含む、癌に対する治療の選択方法
(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率を解析すること;並びに
(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する治療を選択すること。

発明の効果

0009

本発明の予測方法は、例えば、HER2陽性癌等の癌の患者に対する外科的手術の要否及び薬物療法の選択の判断における指標として有用である。
本発明のキットは、例えば、本発明の予測方法の簡便な実施に有用である。
本発明の薬物療法は、抗癌剤による効果的な治療に有用である。

図面の簡単な説明

0010

図1は、HSD17B4遺伝子の転写開始点近傍の構造を示す図である。転写開始点のgを1位として、5つのCpGサイト(#1〜#5)を含む56〜94位のヌクレオチド残基からなるヌクレオチド配列パイロシーケンス法で読み込んだ。
図2は、病理学的完全奏効(pCR)22例及びpCR以外45例における、HSD17B4遺伝子の#1のCpGサイトのメチル化率を示す図である。
図3は、奏効例49例及び非奏効例18例における、HSD17B4遺伝子の#1のCpGサイトのメチル化率を示す図である。

0011

本発明は、癌に対する薬物療法の効果の予測方法を提供する。

0012

癌は、任意の癌である。癌としては、例えば、乳癌(例、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌)、卵巣癌子宮癌(例、子宮内膜癌子宮頚癌)、肺癌(例、扁平上皮がん腺がんおよび大細胞がん等の非小細胞癌、ならびに小細胞癌)、消化器系癌(例、胃癌小腸癌、大腸癌直腸癌)、膵臓癌腎臓癌肝臓癌胸腺癌脾臓癌、甲状腺癌副腎癌、前立腺癌膀胱癌骨癌皮膚癌脳腫瘍肉腫黒色腫芽細胞腫(例、神経芽細胞腫)、腺癌扁平細胞癌、固形癌上皮性癌中皮腫が挙げられるが、乳癌が好ましい。また、癌としては、例えば、HER2陽性癌、EGFR陽性癌、c−MET陽性癌、ALK陽性癌、PDGFR陽性癌、c−KIT陽性癌が挙げられるが、HER2陽性癌が好ましい。特に好ましくは、癌はHER2陽性乳癌である。

0013

癌に対する薬物療法としては、例えば、抗癌剤による治療が挙げられる。抗癌剤としては、例えば、微小管阻害剤抗がん抗生物質トポイソメラーゼ阻害剤プラチナ製剤、アルキル化剤が挙げられる。抗癌剤はまた、分子標的薬であってもよい。このような分子標的薬としては、例えば、HER2阻害剤、EGFR阻害剤(例、ゲフィチニブラパチニブエルロチニブセツキシマブ)、c−MET阻害剤(例、PHA−665752、SU11274、XL−880)、ALK阻害剤(例、WHI−P154、TAE684、PF−2341066)、PDGFR阻害剤(例、イマチニブ、デサチニブ、ヴァラチニブ)、c−KIT阻害剤(例、スニチニブマシチニブ、モテサニブ)が挙げられる。

0014

好ましくは、癌に対する薬物療法は、HER2阻害剤による治療である。HER2は、上皮成長因子(EGFR)と同じファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼである。HER2は、細胞外ドメイン膜貫通ドメイン及びチロシンキナーゼ活性を有する細胞内ドメイン一本鎖で連結した構造を有する(例、Coussensら、Science,1985,Vol.230,No.4730,pp.1132−1139、及びGenebankアクセッション番号:NP_001005862.1を参照)。HER2阻害剤としては、例えば、抗体(例、トラスツズマブ、ペルツヅマブ)、低分子有機化合物(例、ラパチニブ、ネラチニブ、アファチニブ等のHER2チロシンキナーゼ阻害剤)、薬物結合抗体(例、T−DM1)が挙げられる。

0015

癌に対する薬物療法においては、複数の抗癌剤を併用することができる。併用される複数の抗癌剤としては、例えば、上述した2以上の抗癌剤の組み合わせ、及び上述した1以上の抗癌剤と他の抗癌剤との組み合わせが挙げられる。他の抗癌剤としては、例えば、タキサン系抗癌剤(例、パクリタキセル)等の微小管阻害剤、アントラサイクリン系(例、アドリアシン)、アロマターゼ阻害剤(例、レトロゾール)が挙げられる。

0016

癌に対する薬物療法としては、上記の既知の抗癌剤に加えて、HSD17B4遺伝子の発現を抑制または促進し得る医薬、特に発現を抑制し得る医薬、並びにHSD17B4遺伝子の特に非コーディング領域をメチル化し得る医薬の使用等が挙げられる。

0017

本発明の方法は、以下(1)及び(2)を含む:
(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率を解析すること;並びに
(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果を予測すること。

0018

工程(1)において、サンプルとしては、血液、体液、組織、及び細胞からなる群より選択された1又は2以上のサンプルを使用することができるが、上述した癌に対応する組織サンプルを好適に使用できる。本発明では、このような癌組織サンプルに含まれるゲノムDNAにおいて、特定のCpGサイトが解析される。ゲノムDNAは、癌組織サンプルから、任意の方法により適宜抽出することができる。癌組織サンプルとしては、例えば、針生検等の生検により採取されたものを用いることができる。癌組織サンプルは、予備処理に付されてもよい。このような予備処理としては、例えば、抽出、細胞固定、組織固定、組織薄片化、細胞解離処理、加熱、凍結冷蔵液状化が挙げられる。

0019

癌組織サンプルは、通常、癌細胞と正常細胞(非癌細胞)を含む細胞集団のサンプルである。したがって、純粋な癌細胞集団のゲノムDNAのメチル化率を実測するため、癌組織サンプルから癌細胞集団を選別して回収してもよい。このような回収を可能にする好ましい方法の例は、レーザーマイクロダイセクション(LMD)法である。LMD法によれば、組織切片に含まれる癌細胞集団をレーザー(例、赤外線レーザー紫外線レーザー)で切り出すことにより、回収することができる。LMD法は、例えば、LMD6500/7000(Leica)、PALM MicroBeam(ZEISS)等の装置を用いて行うことができる。また、このような回収を可能にする他の方法としては、例えば、癌細胞マーカー(例、タンパク質マーカー)及び必要に応じて標識(例、蛍光標識)を利用して癌細胞を選別できる任意の方法(例、FACS)が挙げられる。

0020

本発明において解析されるCpGサイトは、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイトである。特に、転写開始点を基準にして56位から94位の間に標準的に存在するCpGサイトが好ましく、HSD17B4遺伝子の転写開始点を基準にして92及び93位に標準的に存在するCpGサイトがより好ましい(図1のcg15896301を参照)。なお、本明細書において「転写開始点」は、GRCh37(Genome Reference Consortium human build 37)およびHg19(UCSC human genome 19)に基づいて決定するものとする。このようなCpGサイトは、図1に示される配列番号1のヌクレオチド配列(転写開始点から−10位のヌクレオチド残基から開始されるヌクレオチド配列)では102及び103番目のヌクレオチド残基の位置に存在し、HSD17B4遺伝子における転写開始点の周辺ヌクレオチド配列を記載した配列番号2のヌクレオチド配列では1092及び1093番目のヌクレオチド残基の位置に存在する。勿論、ヒト被験体間でゲノムDNAの変異(例、DNAの欠失、挿入、置換)が存在することがあるので、上記位置、及び上記配列番号のヌクレオチド配列は、異なることがある。例えば、HSD17B4遺伝子の転写開始点と上記CpGサイトとの間に1個のヌクレオチド残基の挿入又は欠失であるSNP(一塩基多型)が存在する場合、上記位置は1つ異なる。また、ゲノムDNAに変異が存在する場合、上記配列番号のヌクレオチド配列は異なる。したがって、上記位置、及び上記配列番号のヌクレオチド配列は、参照上の便宜のための「標準的」なものである。あるいは、本発明において解析されるCpGサイトは、HSD17B4遺伝子の転写開始点下流の非コーディング領域中に存在するcagcggct(例、配列番号1のヌクレオチド配列における99〜106番目のヌクレオチド残基、又は配列番号2のヌクレオチド配列における1089〜1096番目のヌクレオチド残基)中のCG部分と定義することもできる(5’側のcag部分及び3’側のgct部分が変異していない場合)。当業者であれば、ゲノムDNAの変異が認められるヒト被験体について、ゲノムDNAの変異を考慮して、上記位置に存在するCpGサイトに相当するCpGサイトを適宜決定することができる。

0021

本発明において解析されるメチル化は、シトシン残基の5位のメチル化である。

0022

メチル化率の解析は、当該分野において公知である任意の方法により行うことができる。例えば、解析は、亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ、制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、及びナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の解析手段を用いて行うことができる。

0023

亜硫酸水素塩〔バイサルファイト(bisulfite)〕は、非メチル化シトシンウラシルに変換する一方で、メチル化シトシンをウラシルに変換しない。よって、重亜硫酸水素塩は、このような性質のため、メチル化シトシンの解析では他の解析手段と組み合わせて汎用されている。

0024

1以上のプライマー(例、1〜3個のプライマー)は、シークエンシング用プライマー、若しくは遺伝子増幅用プライマー(例、PCRプライマー)、又はその組み合わせである。プライマーは、目的のCpGサイトを解析できるように適宜設計することができる。例えば、プライマーは、目的のCpGサイトの下流領域(例、配列番号2のヌクレオチド配列における1094〜2001番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域)にアニールするように、又は目的のCpGサイトを含む遺伝子領域増幅するため、目的のCpGサイトの上流領域(例、配列番号2のヌクレオチド配列における1〜1091番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域)及び下流領域(例、配列番号2のヌクレオチド配列における1094〜2001番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域)においてセンス鎖及びアンチセンス鎖がアニールするように設計することができる。

0025

1以上の核酸プローブ(例、1〜3個の核酸プローブ)は、目的のCpGサイトを含む領域(例、配列番号1のヌクレオチド配列における1〜120番目のヌクレオチド残基からなる部分中の目的のCpGサイトを含む部分)又はその上流領域(例、配列番号2のヌクレオチド配列における1〜1091番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域)若しくは下流領域(例、配列番号2のヌクレオチド配列における1094〜2001番目のヌクレオチド残基からなる部分中の任意の領域)にハイブリダイズするように設計することができる。核酸プローブは、遊離の形態、又は固相に固定された形態において用いることができる。固相としては、例えば、粒子(例、磁性粒子);アレイ、メンブレン(例、ニトロセルロース膜ろ紙)、カラム等の支持体;及びプレート(例、マルチウェルプレート)、チューブ等の容器が挙げられる。固相の材料としては、例えば、ガラスプラスチック、及び金属が挙げられる。核酸プローブはまた、抗メチル化シトシン抗体を用いるメチル化シトシンの解析において詳述したような核酸プローブであってもよい。

0026

制限酵素は、メチル化特異的又は非特異的制限酵素であり、上述したような亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブと適宜組み合わせて用いることができる。

0027

具体的には、上述したような解析手段を用いる解析方法としては、例えば、バイサルファイトシーケンシング法、バイサルファイト・パイロシーケンシング法、メチル化特異的PCR法、制限酵素ランドマーク・ゲノム・スキャニング(RLGS)法、単一ヌクレオチド・プライマー伸長(SNuPE)法、CpGアイランド・マイクロアレイ法、メチライト法、COBRA法、質量分析(マスアレイ)法、メチル化特異的制限酵素の使用、高解像度融解解析(HRM)法、ナノポア解析法、ICONプローブ法、メチル化特異的MLPA法が挙げられる。これらの方法は、当該分野において周知である(例、特開2012−090555号公報、特開2014−036672号公報、特表2010−538638号公報、再表2009/136501号公報)。

0028

解析はまた、抗メチル化シトシン抗体を用いて行うことができる。抗メチル化シトシン抗体を用いるメチル化シトシンの解析は、当該分野において周知である(例、WO2015/025862;WO2015/025863;WO2015/025864;WO2016/052368;特開2012−230019号公報;DNA Research 13,37−42(2006);Anal.Chem. 2012,84,7533−7538)。抗メチル化シトシン抗体は、上述したような1または2以上の解析手段と組み合わされて用いられてもよい。具体的には、このような解析手段を用いる方法としては、例えば、抗メチル化シトシン抗体、及び異種核酸プローブ(例、ノーマルRNAプローブ、修飾RNAプローブ)を組み合わせて用いる方法(例、WO2015/025862);抗メチル化シトシン抗体、並びに固相プローブ及び捕捉プローブを組み合わせて用いる方法(例、WO2015/025863);抗メチル化シトシン抗体、並びに吸収剤ポリヌクレオチド及び捕捉プローブを組み合わせて用いる方法(例、WO2015/025864);抗メチル化シトシン抗体、及び修飾核酸塩基対合性異種核酸プローブを組み合わせて用いる方法(例、WO2016/052368)が挙げられる。抗メチル化シトシン抗体と組み合わせて用いられる核酸プローブは、本発明において解析される上記CpGサイトを含むDNA鎖ハイブリダイズして、当該DNA鎖と核酸プローブからなる二本鎖構造部分が形成されたときに、CpGサイト中のメチルシトシン残基が核酸プローブと不対部分を形成するように(換言すれば、相補的に結合しないように)、設計されてもよい(例、WO2015/025862)。したがって、核酸プローブは、不対部分に対応するヌクレオチド残基として、メチルシトシン残基と相補的に結合し得るグアニン残基以外のヌクレオチド残基(例、シトシン残基、チミン残基アデニン残基、ウラシル残基)を有していてもよい。あるいは、核酸プローブは、このような不対部分が形成されないように設計されてもよい(例、WO2016/052368)。

0029

抗メチル化シトシン抗体を用いる方法は、当該分野において公知である任意の免疫学的方法により行うことができる。具体的には、このような方法としては、例えば、酵素免疫測定法EIA)(例、CLEIA、ELISA)、蛍光免疫測定法化学発光免疫測定法電気化学発光免疫測定法、凝集法、免疫染色、フローサイトメトリー法バイオレイヤー干渉法、In SituPLA法、化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモニアス・アッセイラインブロット法ウエスタンブロット法が挙げられる。

0030

本発明において解析されるメチル化率は、癌細胞における上記CpG中のシトシン残基のメチル化の割合である。メチル化率の測定は、当該分野において周知である(例、特開2012−090555号公報、特開2014−036672号公報、特表2010−538638号公報、再表2009/136501号公報)。

0031

一実施形態では、メチル化率は、癌組織サンプルから癌細胞を選別せずに解析される。癌組織サンプルは、通常、癌細胞と正常細胞を含む。このような癌組織サンプルにおいてメチル化率を解析した場合、癌細胞のメチル化率は、癌組織サンプルにおける癌細胞率〔癌細胞/(癌細胞+正常細胞)〕で実測メチル化率を補正することにより算出することができる。癌組織サンプルにおける癌細胞率は、当該分野における任意の方法により得ることができる。例えば、癌細胞率は、検鏡試験、又は癌細胞及び/若しくは正常細胞マーカー(例、タンパク質マーカー)並びに標識(例、蛍光標識)を用いる方法により得ることができる。あるいは、このような癌組織サンプルにおいてメチル化率を解析した場合、メチル化率は、癌組織サンプルにおける正常細胞存在率〔正常細胞/(癌細胞+正常細胞)〕及び正常細胞のメチル化率を考慮してさらに補正されてもよい。

0032

別の実施形態では、メチル化率は、癌組織サンプルから癌細胞を選別した後に解析される。この場合、メチル化率として、実測メチル化率をそのまま利用してもよい。癌組織サンプルからの癌細胞の選別は、上述したような方法により行うことができる。

0033

工程(2)において、解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果が予測される。解析されたメチル化率は、基準値と比較するための指標として利用される。癌に対する薬物療法が有効である被験体群(有効群)は、癌に対する薬物療法が有効でない被験体群(非有効群)に比し、上記CpGサイトのメチル化率が有意に高い。したがって、本発明の方法によれば、上記CpGサイトのメチル化率が基準値以上のとき、被験体は、癌に対する薬物療法が有効である可能性が高い、及び/又は癌に対する薬物療法が有効でない可能性が低いと予測することができる。また、上記CpGサイトのメチル化率が基準値未満のとき、被験体は、癌に対する薬物療法が有効である可能性が低い、及び/又は癌に対する薬物療法が有効でない可能性が高いと予測することができる。

0034

有効群及び非有効群の設定は、有効性の基準を適切に定義することにより行うことができる。例えば、有効性は、病理学的完全奏効(Pathological Complete Response:pCR)、又は奏効(Response)を基準に設定されてもよい。病理学的完全奏効及び奏効の詳細については、実施例を参照のこと。

0035

上記基準値としては、例えば、有効群及び非有効群を鑑別し得るように適切に設定されたカットオフ値を利用することができる。カットオフ値は、その値を基準として疾患の判定をした場合に、高い診断感度有病正診率)及び高い診断特異度無病正診率)の両方を満たす値である。

0036

診断感度(又は単に感度)は、特定状態を有する被験体のうち、正しく診断される被験体の割合である。特定状態を有する全ての被験体について「陽性」の結果が得られる場合、感度は100%である。

0037

診断特異度(又は単に特異度)は、特定状態を有しない被験体のうち、正しく診断される被験体の割合である。特定状態を有しない全ての被験体について「陰性」の結果が得られる場合、特異度は100%である。

0038

カットオフ値の算出方法は、本分野において周知である。例えば、有効群及び非有効群において上記CpGサイトのメチル化率を解析し、任意のメチル化率における有効群と非有効群との診断感度及び診断特異度を求め、これらの値に基づいて、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成する。そして、診断感度及び診断特異度が最大となるようなメチル化率を求め、その値をカットオフ値とすることができる。また、任意のメチル化率における診断効率(全症例数に対する、有病正診症例と無病正診症例の合計数の割合)を求め、最も高い診断効率が算出されるメチル化率をカットオフ値とすることもできる。あるいは、癌に対する薬物療法が本来有効でない被験体が、癌に対する薬物療法が有効である(偽陽性)と誤って予測されること(ひいては、外科的治療実施時期遅延して病状が悪化すること)を極力排除する観点から、診断特異度をより重視してカットオフ値を決定してもよい。

0039

本発明の方法は、癌組織サンプルにおいて、癌の性質に関連する他のマーカーを測定することをさらに含んでいてもよい。他のマーカーとしては、例えば、特定の遺伝子、non−coding RNA又はタンパク質の発現の有無又はその量の変化、特定の代謝産物(例、リン酸化タンパク質等の修飾タンパク質)の有無又はその量の変化、遺伝的多型(例、SNP、ハプロタイプ)、転座、ゲノムDNAのメチル化又はその程度、が挙げられる。本発明の方法は、他の癌マーカーをさらに測定することにより、診断の特異度を向上させることができる。例えば、乳癌では、病理診断においてエストロゲンレセプターが陰性である場合に、さらに診断の特異度を上げられることが確認されている(実施例)。なお、本明細書において、エストロゲンレセプターとは、特に記載のない限りERαを指すものとする。エストロゲンレセプターの発現の有無を検査する方法については、特に制限はないが、通常用いられる酵素抗体法(LSAB)を好適に使用できる。

0040

本発明はまた、癌に対する薬物療法の効果の診断キットを提供する。

0041

本発明の診断キットは、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト、より好ましくは転写開始点を基準にして56位から94位の間に標準的に存在するCpGサイト、さらに好ましくはHSD17B4遺伝子の転写開始点を基準にして92及び93位に存在するCpGサイト中のシトシン残基のメチル化の解析手段を含む。このような解析手段としては、例えば、上述したような、亜硫酸水素塩、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ、制限酵素、抗メチル化シトシン抗体、及びナノポアからなる群より選ばれる1または2以上の手段が挙げられる。本発明の診断キットは、上述したような解析方法の実施のために用いることができる。

0042

好ましくは、本発明の診断キットは、上記CpGサイトの特異的な解析を可能にする手段と、メチル化シトシンの解析を可能にする手段(例、亜硫酸水素塩、抗メチル化シトシン抗体、又はメチル化特異的制限酵素)との組み合わせを含む。上記CpGサイトの特異的な解析を可能にする手段としては、例えば、1以上のプライマー、1以上の核酸プローブ、制限酵素、ナノポアが挙げられるが、1以上のプライマー、又は1以上の核酸プローブが好ましい。核酸プローブは、固相に固定されていてもよい。メチル化シトシンの解析を可能にする手段としては、例えば、亜硫酸水素塩、シーケンシング用プライマー、抗メチル化シトシン抗体、メチル化特異的制限酵素、ICONプローブ法が挙げられるが、亜硫酸水素塩又は抗メチル化シトシン抗体が好ましい。

0043

本発明の診断キットは、上記解析手段に加え、補助的な手段を含んでいてもよい。このような補助的な手段としては、例えば、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)、緩衝液安定化剤酵素(例、DNAポリメラーゼスルフリラーゼアピラーゼ)、標識物質、及び酵素の基質が挙げられる。

0044

本発明の診断キットはまた、抗メチル化シトシン抗体を含む場合、例えば、2次抗体(例、抗IgG抗体)、2次抗体の検出試薬をさらに含んでいてもよい。

0045

本発明の診断キットはさらに、生体サンプルを採取し得る器具をさらに含んでいてもよい。生体サンプルを採取し得る器具は、被験体から生体サンプルを入手可能である限り特に限定されないが、例えば、生検針等の生検器具が挙げられる。

0046

実施例で使用したバイサルファイト・パイロシーケンシングでは、上記CpGサイトの特異的な解析を可能にする手段として、(a)一対のPCRプライマー及び(b)シーケンシングプライマーが用いられ、メチル化シトシンの解析を可能にする手段として、(c)DNAポリメラーゼ、(d)スルフリラーゼ、(e)ルシフェラーゼ及びルシフェリン、(f)アピラーゼ、(g)dNTP、(h)亜硫酸水素塩が用いられている。したがって、本発明の診断キットは、上記CpGサイトに対するバイサルファイト・パイロシーケンシング用キットである場合、例えば上記(a)〜(h)の構成要素を含んでいてもよい。

0047

本発明はまた、癌に対する薬物療法を提供する。

0048

本発明の薬物療法は、以下を含む:
(1)ヒト被験体から採取された癌組織サンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率を解析すること;
(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する薬物療法の効果を予測すること;
(3)癌に対する薬物療法の効果があると予測されたヒトを選択すること;並びに
(4)選択されたヒトに薬物療法を行うこと。

0049

本発明の薬物療法における(1)及び(2)は、本発明の予測方法における(1)及び(2)と同様にして行うことができる。

0050

本発明の薬物療法における(3)は、(2)の予測に基づき、癌に対する薬物療法の効果があると予測されたヒトを選択することにより行うことができる。

0051

本発明の薬物療法における(4)では、選択されたヒトに薬物療法が行われる。薬物療法は、上述したような抗癌剤による治療である。例えば、癌がHER2陽性癌である場合、HER2阻害剤による薬物療法が行われる。抗癌剤による治療は、その抗癌剤について採用されている通常の様式で行うことができる。

0052

本発明はまた、以下(1)及び(2)を含む、癌に対する治療を選択する方法を提供する:
(1)ヒト被験体から採取されたサンプルにおいて、HSD17B4遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する1以上のCpGサイト中のシトシン残基のメチル化率を解析すること;並びに
(2)解析されたメチル化率に基づいて、癌に対する治療を選択すること。

0053

本発明の選択方法における(1)は、本発明の予測方法における(1)と同様にして行うことができる。

0054

本発明の選択方法における(2)のメチル化率の解析は、本発明の予測方法における(2)の解析と同様にして行うことができる。(2)で解析されたメチル化率では、既存の抗癌剤(例えば、トラスツズマブ)による薬物療法の効果が見込まれない場合、例えば、他の抗癌剤に変更する、または他の抗癌剤を併用するという選択を行うことができる。また、HSD17B4遺伝子の発現を抑制または促進し得る医薬や、HSD17B4遺伝子の特に非コーディング領域をメチル化し得る医薬の使用を組み合せるという選択も行うことができる。さらには、放射線療法等の他の非外科的療法を組み合せるという選択も行うことができる。このように、本発明の方法では、(2)で解析されたメチル化率に基づいて、治療対象のヒトに対して、より有効な治療方法を選択することを可能とする。

0055

以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。

0056

1.組織サンプル
術前療法の臨床試験登録された67人の患者から、組織サンプルを採取した。この試験におけるすべてのサンプルは、パクリタキセル(80mg/m2・週)とトラスツズマブ(初回投与量4mg/kg、次いで2mg/kg・週)の投与毎週、計12回受けた患者より採取した。患者には乳腺切除術を施し、治療効果を病理学的に判定する。この試験のプロトコールは、国立がん研究センター倫理委員会承認され、UMIN臨床試験登録システムに登録された。すべての患者に対し、書面によるインフォームドコンセントが実施された。

0057

術前療法開始前原発腫瘍の針生検検体を採取した。1人の患者につき、2つのサンプルを取得し、2種類の方法で固定した。1つのサンプルは、中性緩衝ホルマリンで固定した後、薄層をH&E染色し、検鏡試験に供した。もう1つのサンプルは、PAXgene Tissue System (キアゲン社、ドイツ)を用いて固定した後、低融点パラフィン包埋し、10μm厚の薄片10枚からDNA/RNA抽出を実施した。病理学者により、生検試料の検鏡試験における全細胞に対する癌細胞分画割り出し分子解析に十分な数の腫瘍細胞が含まれる生検試料の選別が行われた。また、病理学者により、手術時の試料の解析による治療効果判定が行われた。

0058

本発明において、病理学的完全奏効(Pathological Complete Response:pCR)とは、表1の治療効果判定基準(日本乳癌学会編「臨床・病理乳癌取扱規約」第17版84ページ(2012)金原出版より引用)のGrade3に該当し、かつ、乳管内の癌細胞の遺残も見られない場合を指すものとする。一方、pCRには分類できない場合であっても、表1のGrade2以上の患者については、術前治療の効果が高いと予測することができるため、本明細書においては、これらの患者をpCRとは別に「奏効例」として取り扱うものとする。

0059

0060

67例のHER2陽性乳癌は、浸潤性乳管癌64例、浸潤性小葉癌2例、他の組織型1例に分類された。ホルモンについて、34例(50.7%)はエストロゲンレセプター陽性であり、26例(38.8%)はプロゲステロンレセプター陽性であった。腫瘍分画(組織サンプル中の癌細胞率)が40%以上のサンプルのみを使用した。67例のHER2陽性乳癌患者の詳細な臨床病理学的特性を表2に示す。

0061

0062

2.HSD17B4遺伝子領域のバイサルファイト・パイロシーケンシング
図1にHSD17B4遺伝子の部分的なヌクレオチド配列を示す。HSD17B4遺伝子の転写開始点のgを1位として、5つのCpGサイト(#1〜#5)を含む56〜94位のヌクレオチド残基からなるヌクレオチド配列をパイロシーケンスで読み込んだ。5つのCpGサイトのメチル化率を、以下の手順により測定し、算出した。

0063

既報(T. Yoshida et al., Int. J. Cancer 128(2011)pp.33−39)の方法にて、ゲノムDNA 1μgを用いた亜硫酸水素ナトリウム修飾を実施した。修飾DNAは、Tris−EDTAバッファー40μLに懸濁し、そのうち2μLを分取してバイサルファイト・パイロシーケンシングに供した。パイロシーケンシングに用いたプライマーは、キアゲン社(PyroMark CpG Assay)より入手した。ビオチン標識したPCR産物を0.2μMパイロシーケンシングプライマーにアニーリングし、PSQ96 パイロシーケンシングシステム(キアゲン社、米国カリフォルニア州)を用いてパイロシーケンシングを実施した。メチル化率は、PSQ Assay Designソフトウェア(キアゲン社)を用いて算出した。

0064

メチル化率は、0(完全にメチル化なし)から1(完全にメチル化された)の範囲のβ値として算出し、これを百分率で表示した。また、メチル化率の測定値は、試料中の癌細胞率を用いて補正した。具体的な補正式は、下記の通りである。補正メチル化率の上限値は100とし、下記式により計算値が100を超えた場合は「補正メチル化率100%」として解析した。
補正メチル化率(%)=100×実測メチル化率(%)/試料中の癌細胞率(%)
ここでいう癌細胞率は、検鏡試験により求めた。

0065

3.統計解析
群間相対頻度有意差は、フィッシャーの直接確率検定を用いて算出した。治療応答症例群と治療不応答症例群との間の補正メチル化率の有意差は、マンホイットニーU検定により評価した。単変量解析において、オッズ比(ORs)及び95%信頼区間(95%CI)を算出した。トラスツズマブと化学療法の併用に対する応答性について、明確な傾向に独立的に関連し得る指標を見出すため、交絡要因を除去した後に多変量ロジスティック回帰分析を行った。統計解析は、すべてPASW statistics ver.18.0.0(SPSS株式会社)を用いて実施した。

0066

4.結果
表3に、pCR群、その他の症例群における、図1中の#1のCpGサイトの補正メチル化率、#1〜#5のCpGサイトの補正メチル化率の平均値について、各群の平均値及び2群間の有意差(P値)を示す。#1のCpGサイトの補正メチル化率も、#1〜#5の補正メチル化率の平均値も、pCR群で有意に高くなることが判明した。特に、図2に示す通り、#1のCpGサイトで、pCR群において、その他の症例群と比して補正メチル化率が顕著に高いことが判明した(P=0.001)。一方で、#1のCpGサイトにおいても、奏効例群(G2a以上)の補正メチル化率は、非奏効例と比して有意に高いとはいえなかった(P=0.176、図3)。

0067

0068

以下、「HSD17B4遺伝子のメチル化」とは、特に記載のない限り、HSD17B4遺伝子の#1のCpGサイトのメチル化を示すものとする。HSD17B4遺伝子のメチル化率のカットオフを50%に設定し、50%以上を「陽性」と判定し、50%未満を「陰性」と判定し、pCRを陽性、その他の症例を陰性とした場合の臨床診断成績を表4に示す。同様に、奏効例を陽性、非奏効例を陰性とした場合の臨床診断成績を表5に示す。pCRを陽性とした場合のメチル化率の臨床診断成績は、感度が77.2%、特異度が84.4%であった。一方、奏効例を陽性とした場合のメチル化率の臨床診断成績は、感度が40.8%、特異度が77.8%であった。

0069

0070

0071

67症例の臨床病理学的特性を、HSD17B4遺伝子のメチル化率の陽性群、陰性群に分けて集計した結果を表5に示す。表6に示す複数の臨床的指標のうち、ホルモンレセプター、特にエストロゲンレセプターの陽性/陰性判定結果が、メチル化率陽性群と陰性群との間の有意差が高く、メチル化率と高い関連性を有していることが示唆された。臨床的腫瘍ステージ(cT)、リンパ節転移ステージ(cN)、臨床病期(cStage)、エストロゲンレセプター(ER)、プロゲステロンレセプター(PgR)、及びKi−67ラべリングインデックス多変量解析より、HSD17B4遺伝子のメチル化は、HER2標的療法への応答性の独立の予測因子であることが示された(表7)。

0072

0073

0074

HER2標的療法への応答性予測の精度(特異度)を高めることを目的として、HSD17B4遺伝子のメチル化率にエストロゲンレセプターの結果を組み合わせて臨床評価を行った。なお、エストロゲンレセプターの検査は、乳癌患者のほぼ全例で公知の方法で実施されるものであり、本実施例の67例についても同様に検査が行われた。HSD17B4遺伝子のメチル化率が陽性で、かつ、エストロゲンレセプターが陰性である症例を「陽性」、その他の症例を「陰性」と判定し、pCRを陽性、その他を陰性とした場合の臨床診断成績を表8に示す。同様に、奏効例を陽性、非奏効例を陰性とした場合の臨床診断成績を表9に示す。pCRを陽性とした場合のメチル化率及びエストロゲンレセプターの組み合わせの臨床診断成績は、感度が59.1%、特異度が91.1%であった。一方、奏効例を陽性とした場合のメチル化率及びエストロゲンレセプターの組み合わせの臨床診断成績は、感度が32.7%、特異度が94.4%であった。なお、表9で「陽性」判定された非奏効例1例は、腫瘍サイズが非常に大きく、術前療法の効果の有無にかかわらず、外科的手術が強く推奨される症例であった。

0075

実施例

0076

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