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技術 MDCK細胞の培養方法

出願人 一般財団法人阪大微生物病研究会
発明者 魚谷多恵桑原宗一郎
出願日 2017年3月28日 (2年3ヶ月経過) 出願番号 2018-508095
公開日 2019年4月11日 (3ヶ月経過) 公開番号 WO2017-170592
状態 未査定
技術分野 微生物、その培養処理
主要キーワード 拡張倍率 多孔チューブ 工場規模 拡張率 生産スケール コッカー オートアナライザー ダービー
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2019年4月11日)のものです。
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図面 (7)

課題・解決手段

本発明は、マイクロキャリアを用いて培養する際の拡張倍率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞及び当該MDCK細胞の培養方法、当該MDCK細胞の培養方法を用いてウイルスを増殖する方法、及びマイクロキャリアを用いて培養する際の拡張倍率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞に関する。

概要

背景

近年、医薬生産再生医療等の様々な分野において、細胞組織微生物等を効率良く大量に培養することが求められている。特に、バイオ医薬品や再生医療の実用化のためには、細胞の大量培養技術の確立が重要である。細胞の大量培養は、モノクローナル抗体組換え蛋白質膜蛋白質ウイルス等の生産スケールへの移行を可能とし、バイオ医薬品等の実用化を大きく推進させるものと期待される。

接着性を有する細胞の大量培養技術としては、マイクロキャリア培養法が知られている。マイクロキャリア培養法は、培養容器内に細胞、培養液及び細胞の接着足場となるマイクロキャリアを導入し、培養液を間欠的に撹拌して、浮遊した細胞及びマイクロキャリアを接触させることにより、細胞をマイクロキャリアの表面に接着させる方法である。この方法により、細胞はマイクロキャリアの表面上で増殖する。マイクロキャリアは、体積比に対し、細胞が接着及び増殖するための非常に大きな表面積を提供することが可能であり、細胞の大量培養に適している。

細胞の大量培養技術を利用する分野のひとつとして、ワクチン製造が挙げられる。ワクチン製造では対象となるウイルスに対して感受性を示す宿主細胞を選択した後、培養して得られた大量の細胞にウイルスを感染させ、ウイルスを増殖させてワクチンを製造する。ワクチンの実用化のためには大量のウイルスが必要となるため、ウイルスを感染させる細胞を大量に用意する必要がある。

インフルエンザは毎年世界中で流行する感染症であり、パンデミックの恐れもあるため、大量にインフルエンザワクチンを確保することが必要とされている。インフルエンザワクチンの製造には、発育鶏卵を利用してインフルエンザウイルスを増殖させる方法が用いられてきた。発育鶏卵を利用した製造方法は原料調達品質管理ハードルが高いことから、培養細胞でインフルエンザウイルスを増殖させて製造する方法が実用化されつつある。しかしながら、培養細胞ではウイルスの増殖性が悪く、迅速かつ十分な量のワクチン供給に制約が生じることについて問題視されている。そこで大量かつ迅速にワクチン生産を行うことができるシステム構築が急務となっている。

インフルエンザワクチンの製造は、インフルエンザウイルスのシードウイルスを分離又は作出する段階、シードウイルスを増殖させるための発育鶏卵や培養細胞を必要量用意する段階、及び得られたシードウイルスを発育鶏卵や培養細胞等を用いて増殖させる段階で構成される。培養細胞は、各々の段階において用いることができる。インフルエンザワクチンの製造に用いられる伝統的な培養細胞として、マディンダービーイヌ腎臓由来細胞(以下、MDCK細胞)やアフリカミドリザル腎由来細胞(以下、Vero細胞)等が挙げられる。Vero細胞は、1962年にアフリカミドリザル(Cercopithecus aethiops)の腎臓上皮細胞から分離及び樹立され、ポリオウイルス日本脳炎ウイルス等の感染症に対するヒト用ワクチンの製造に20年以上前から使用されてきた。Vero細胞は、広範囲のウイルスに対する感受性を持ち、インフルエンザウイルスの増殖にも用いられている。MDCK細胞は1958年に正常な雄のコッカースパエルの腎臓から樹立された細胞であり、1968年にGaushらによってインフルエンザウイルスに対する感受性が明らかにされてきた。MDCK細胞の培養液にトリプシングルコースビタミン等を添加することにより、インフルエンザウイルスに対する感受性が高まることが、各種インフルエンザウイルスの分離に利用されてきた。

インフルエンザウイルスを増殖させる段階に用いるMDCK細胞について、開発が試みられている。例えば、特許文献1には、MDCK細胞株ATCCCCL−34)を無血清培地馴化させ、懸濁(浮遊)培養が可能なMDCK−33016株を樹立したことが開示されている。また、特許文献2及び特許文献3には、低温適合性インフルエンザウイルスを複製することが可能なPTA−7909株及びPTA−7910株を、MDCK細胞株(ATCC CCL−34)からクローニングしたことが開示されている。一方で、ウイルスに感染したMDCK細胞はウイルス増殖を抑制するインターフェロンを産生するため、インターフェロンを産生しないVero細胞と比べ、ウイルスが増殖しにくいという性質も有する。

マイクロキャリアは細胞の大量培養に利用されているが、マイクロキャリアを用いたMDCK細胞の大量培養方法が確立されているとはいい難い。MDCK細胞がマイクロキャリア上において高い増殖効率を示すためには、細胞とマイクロキャリアの強い接着力が要求される。しかしながら、培養槽スケールアップする際に細胞継代を繰り返すことにより、細胞とマイクロキャリアの接着力が弱まることが課題となっている。さらに、マイクロキャリアを用いてMDCK細胞を培養する際は撹拌を伴うため、細胞が撹拌翼や培養槽壁等と頻繁に接触することで、細胞が物理的ストレスを受けると考えられる。これにより、マイクロキャリアを用いたMDCK細胞の大量培養時に、細胞の増殖効率の低下が問題となっている。

細胞を大量培養する際、一般的にウシウマ等の動物由来血清を添加した培地が用いられる。血清ホルモン成長因子等の供給源となり、また培養操作による物理的ストレスの軽減に役立つ。マイクロキャリアを用いて細胞を培養する場合、培養の効率化に伴う細胞の大量増殖により、多量のホルモンや成長因子等の供給が要求される。しかし、血清の使用は安全性や工場規模での生産への適応性に対する懸念がある。そのため、マイクロキャリアを用いた細胞培養において、無血清培地で増殖可能な細胞が求められている。

概要

本発明は、マイクロキャリアを用いて培養する際の拡張倍率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞及び当該MDCK細胞の培養方法、当該MDCK細胞の培養方法を用いてウイルスを増殖する方法、及びマイクロキャリアを用いて培養する際の拡張倍率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞に関する。

目的

マイクロキャリアは、体積比に対し、細胞が接着及び増殖するための非常に大きな表面積を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

マイクロキャリアを用いて培養する際の拡張倍率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞培養方法

請求項2

クローン化MDCK細胞が、20%以下の細胞浮遊率を示す、請求項1に記載のクローン化MDCK細胞の培養方法。

請求項3

クローン化MDCK細胞の拡張倍率が、クローン化MDCK細胞を2.0×104細胞/cm2以下の細胞播種密度播種して培養した場合のものである、請求項1に記載のクローン化MDCK細胞の培養方法。

請求項4

クローン化MDCK細胞の拡張倍率が、クローン化MDCK細胞を48時間以上培養した場合のものである、請求項1又は3に記載のクローン化MDCK細胞の培養方法。

請求項5

クローン化MDCK細胞が、MDCK細胞集団無血清培地馴化させた後にクローン化された細胞である、請求項1〜4のいずれか1に記載のMDCK細胞の培養方法。

請求項6

受託番号NITEBP−02014にて特定されるMDCK細胞を、マイクロキャリアを用いて培養することを含む、MDCK細胞の培養方法。

請求項7

請求項1〜5のいずれか1に記載のMDCK細胞の培養方法を用いて、ウイルスを増殖する方法。

請求項8

MDCK細胞に、ウイルスを感染させた後、インキュベートを行うことを含む、請求項7に記載のウイルスを増殖する方法。

請求項9

ウイルスが、インフルエンザウイルスである、請求項7又は8に記載のウイルスを増殖する方法。

請求項10

マイクロキャリアを用いて培養する際の拡張倍率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞。

請求項11

クローン化MDCK細胞の拡張倍率が、クローン化MDCK細胞を2.0×104細胞/cm2以下の細胞播種密度で播種して培養した場合のものである、請求項10に記載のクローン化MDCK細胞。

請求項12

クローン化MDCK細胞の拡張倍率が、クローン化MDCK細胞を48時間以上培養した場合のものである、請求項10又は11に記載のクローン化MDCK細胞。

請求項13

クローン化MDCK細胞が、MDCK細胞集団を無血清培地に馴化させた後にクローン化された細胞である、請求項10〜12のいずれか1に記載のクローン化MDCK細胞。

技術分野

0001

本発明は、マイクロキャリアを用いたMDCK細胞培養方法及びマイクロキャリア培養に適したMDCK細胞に関する。また本発明は、マイクロキャリアを用いてMDCK細胞を培養することによる、ウイルス増殖方法にも関する。

0002

本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願、特願2016−65251号優先権を請求する。

背景技術

0003

近年、医薬生産再生医療等の様々な分野において、細胞組織微生物等を効率良く大量に培養することが求められている。特に、バイオ医薬品や再生医療の実用化のためには、細胞の大量培養技術の確立が重要である。細胞の大量培養は、モノクローナル抗体組換え蛋白質膜蛋白質、ウイルス等の生産スケールへの移行を可能とし、バイオ医薬品等の実用化を大きく推進させるものと期待される。

0004

接着性を有する細胞の大量培養技術としては、マイクロキャリア培養法が知られている。マイクロキャリア培養法は、培養容器内に細胞、培養液及び細胞の接着足場となるマイクロキャリアを導入し、培養液を間欠的に撹拌して、浮遊した細胞及びマイクロキャリアを接触させることにより、細胞をマイクロキャリアの表面に接着させる方法である。この方法により、細胞はマイクロキャリアの表面上で増殖する。マイクロキャリアは、体積比に対し、細胞が接着及び増殖するための非常に大きな表面積を提供することが可能であり、細胞の大量培養に適している。

0005

細胞の大量培養技術を利用する分野のひとつとして、ワクチン製造が挙げられる。ワクチン製造では対象となるウイルスに対して感受性を示す宿主細胞を選択した後、培養して得られた大量の細胞にウイルスを感染させ、ウイルスを増殖させてワクチンを製造する。ワクチンの実用化のためには大量のウイルスが必要となるため、ウイルスを感染させる細胞を大量に用意する必要がある。

0006

インフルエンザは毎年世界中で流行する感染症であり、パンデミックの恐れもあるため、大量にインフルエンザワクチンを確保することが必要とされている。インフルエンザワクチンの製造には、発育鶏卵を利用してインフルエンザウイルスを増殖させる方法が用いられてきた。発育鶏卵を利用した製造方法は原料調達品質管理ハードルが高いことから、培養細胞でインフルエンザウイルスを増殖させて製造する方法が実用化されつつある。しかしながら、培養細胞ではウイルスの増殖性が悪く、迅速かつ十分な量のワクチン供給に制約が生じることについて問題視されている。そこで大量かつ迅速にワクチン生産を行うことができるシステム構築が急務となっている。

0007

インフルエンザワクチンの製造は、インフルエンザウイルスのシードウイルスを分離又は作出する段階、シードウイルスを増殖させるための発育鶏卵や培養細胞を必要量用意する段階、及び得られたシードウイルスを発育鶏卵や培養細胞等を用いて増殖させる段階で構成される。培養細胞は、各々の段階において用いることができる。インフルエンザワクチンの製造に用いられる伝統的な培養細胞として、マディンダービーイヌ腎臓由来細胞(以下、MDCK細胞)やアフリカミドリザル腎由来細胞(以下、Vero細胞)等が挙げられる。Vero細胞は、1962年にアフリカミドリザル(Cercopithecus aethiops)の腎臓上皮細胞から分離及び樹立され、ポリオウイルス日本脳炎ウイルス等の感染症に対するヒト用ワクチンの製造に20年以上前から使用されてきた。Vero細胞は、広範囲のウイルスに対する感受性を持ち、インフルエンザウイルスの増殖にも用いられている。MDCK細胞は1958年に正常な雄のコッカースパエルの腎臓から樹立された細胞であり、1968年にGaushらによってインフルエンザウイルスに対する感受性が明らかにされてきた。MDCK細胞の培養液にトリプシングルコースビタミン等を添加することにより、インフルエンザウイルスに対する感受性が高まることが、各種インフルエンザウイルスの分離に利用されてきた。

0008

インフルエンザウイルスを増殖させる段階に用いるMDCK細胞について、開発が試みられている。例えば、特許文献1には、MDCK細胞株ATCCCCL−34)を無血清培地馴化させ、懸濁(浮遊)培養が可能なMDCK−33016株を樹立したことが開示されている。また、特許文献2及び特許文献3には、低温適合性インフルエンザウイルスを複製することが可能なPTA−7909株及びPTA−7910株を、MDCK細胞株(ATCC CCL−34)からクローニングしたことが開示されている。一方で、ウイルスに感染したMDCK細胞はウイルス増殖を抑制するインターフェロンを産生するため、インターフェロンを産生しないVero細胞と比べ、ウイルスが増殖しにくいという性質も有する。

0009

マイクロキャリアは細胞の大量培養に利用されているが、マイクロキャリアを用いたMDCK細胞の大量培養方法が確立されているとはいい難い。MDCK細胞がマイクロキャリア上において高い増殖効率を示すためには、細胞とマイクロキャリアの強い接着力が要求される。しかしながら、培養槽スケールアップする際に細胞継代を繰り返すことにより、細胞とマイクロキャリアの接着力が弱まることが課題となっている。さらに、マイクロキャリアを用いてMDCK細胞を培養する際は撹拌を伴うため、細胞が撹拌翼や培養槽壁等と頻繁に接触することで、細胞が物理的ストレスを受けると考えられる。これにより、マイクロキャリアを用いたMDCK細胞の大量培養時に、細胞の増殖効率の低下が問題となっている。

0010

細胞を大量培養する際、一般的にウシウマ等の動物由来血清を添加した培地が用いられる。血清ホルモン成長因子等の供給源となり、また培養操作による物理的ストレスの軽減に役立つ。マイクロキャリアを用いて細胞を培養する場合、培養の効率化に伴う細胞の大量増殖により、多量のホルモンや成長因子等の供給が要求される。しかし、血清の使用は安全性や工場規模での生産への適応性に対する懸念がある。そのため、マイクロキャリアを用いた細胞培養において、無血清培地で増殖可能な細胞が求められている。

先行技術

0011

国際公開WO1997/037000
国際公開WO2008/105931
国際公開WO2010/036760

発明が解決しようとする課題

0012

本発明は、マイクロキャリアを用いた培養に適するMDCK細胞及び当該MDCK細胞の培養方法を提供することを課題とする。

課題を解決するための手段

0013

本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、無血清培地における高い細胞増殖能のみではなく、マイクロキャリアへ強い接着力を有するMDCK細胞及び当該細胞を用いた培養方法がマイクロキャリアを用いた培養に適することを見出した。更に当該細胞は無血清培地での培養において、マイクロキャリア上で高い拡張倍率を有することを見出し、本発明を完成した。

0014

本発明は、すなわち以下よりなる。
1.マイクロキャリアを用いて培養する際の拡張倍率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞の培養方法。
2.クローン化MDCK細胞が、20%以下の細胞浮遊率を示す、前項1に記載のクローン化MDCK細胞の培養方法。
3.クローン化MDCK細胞の拡張倍率が、クローン化MDCK細胞を2.0×104細胞/cm2以下の細胞播種密度播種して培養した場合のものである、前項1に記載のクローン化MDCK細胞の培養方法。
4.クローン化MDCK細胞の拡張倍率が、クローン化MDCK細胞を48時間以上培養した場合のものである、前項1又は3に記載のクローン化MDCK細胞の培養方法。
5.クローン化MDCK細胞が、MDCK細胞集団を無血清培地に馴化させた後にクローン化された細胞である、前項1〜4のいずれか1に記載のMDCK細胞の培養方法。
6.受託番号NITEBP−02014にて特定されるMDCK細胞を、マイクロキャリアを用いて培養することを含む、MDCK細胞の培養方法。
7.前項1〜5のいずれか1に記載のMDCK細胞の培養方法を用いて、ウイルスを増殖する方法。
8.MDCK細胞に、ウイルスを感染させた後、インキュベートを行うことを含む、前項7に記載のウイルスを増殖する方法。
9.ウイルスが、インフルエンザウイルスである、前項7又は8に記載のウイルスを増殖する方法。
10.マイクロキャリアを用いて培養する際の拡張倍率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞。
11.クローン化MDCK細胞の拡張倍率が、クローン化MDCK細胞を2.0×104細胞/cm2以下の細胞播種密度で播種して培養した場合のものである、前項10に記載のクローン化MDCK細胞。
12.クローン化MDCK細胞の拡張倍率が、クローン化MDCK細胞を48時間以上培養した場合のものである、前項10又は11に記載のクローン化MDCK細胞。
13.クローン化MDCK細胞が、MDCK細胞集団を無血清培地に馴化させた後にクローン化された細胞である、前項10〜12のいずれか1に記載のクローン化MDCK細胞。

発明の効果

0015

本発明のMDCK細胞及びマイクロキャリアによる当該細胞の培養方法によれば、無血清培地での培養においても低い播種密度からMDCK細胞を効率よく増殖させることが可能となる。

図面の簡単な説明

0016

細胞株A、B及びPre Cloning Cellによるインフルエンザウイルス増殖性を確認した結果を示す図である。(実施例1)
マイクロキャリアを用いて細胞株A、B及びPre Cloning Cellを培養した際の細胞増殖能を確認した結果を示す図である。(実施例2)
マイクロキャリアを用いて細胞株A、B及びPre Cloning Cellを培養した際の培養液中の培地成分量及び代謝産物量を確認した結果を示す図である。(実施例2)
マイクロキャリアを用いて細胞株A、B及びPre Cloning Cellを培養した際の培養液中の浮遊全細胞密度及び細胞浮遊率を確認した結果を示す図である。(実施例2)
マイクロキャリアを用いて細胞株A及びPre Cloning Cellを培養した際の拡張倍率を確認した結果を示す図である。(実施例3)

0017

MDCK細胞は、1958年に正常な雄のコッカースパニエルの腎臓から樹立された動物細胞であり、種々の用途に用いられている。1968年にGaushらによってインフルエンザウイルスに対する感受性が明らかにされており、インフルエンザウイルスの増殖や複製にも用いられている。

0018

本発明のクローン化MDCK細胞は、MDCK細胞集団を無血清培地に馴化させた後にシングルセルクローン化を行った細胞である。本発明のクローン化MDCK細胞には、クローン化された細胞を増殖及び/又は継代することにより得られた細胞も含む。通常、シングルセルクローン化されていない細胞は、様々な性質を持つ複数の細胞を含む細胞集団として存在している。本明細書において、MDCK細胞集団とはシングルセルクローン化されていない細胞を意味する。MDCK細胞集団としては、いかなるものを用いてもよく、細胞バンクから入手したMDCK細胞集団を用いてもよい。例えば、ATCCCCL−34にて特定される細胞を用いることができる。

0019

MDCK細胞集団は特定の培地に馴化させることにより、当該培地にて安定的に培養することが可能となる。動物細胞の培養には一般的にウシやウマ等の動物由来血清を添加した培地が用いられる。血清はホルモンや成長因子の供給源となり、また培養操作による物理的ストレスの軽減にも役立つ。しかし、血清の使用には多くの問題も生じる。ひとつは、安全性に対する懸念である。動物由来の血清を介して、ウイルスや細菌、マイコプラズマ牛海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy :BSE)で問題となった異常プリオン等が混入する危険性がある。もうひとつは、工業規模での生産への適応性に対する懸念である。血清はロット間で質や組成が異なる。このようなロット差は細胞増殖に影響を及ぼす。また、工業規模での生産では大量の血清が必要となるが、血清は非常に高価で、供給も安定していない。以上のことから、動物細胞を工業規模で培養するためには血清を含まない培地を用いることが望まれる。本発明では、無血清培地にて安定的に培養可能なMDCK細胞のクローン化MDCK細胞株を効率的に選出するために、シングルセルクローニングの前に細胞集団を無血清培地に馴化させた。無血清培地での増殖に適応した細胞集団のみからシングルセルクローニングを行うことにより、無血清培地で増殖可能なクローン化MDCK細胞株だけを選択的に取得することが可能となった。シングルセルクローニングの際の無血清培地には、成長因子や微量元素が含まれていてもよい。培地に含まれる成長因子は細胞増殖シグナルを放出させる。馴化工程における培地中の成長因子の種類は、細胞の形質に影響を与えるものと考えられる。馴化工程では、MDCK細胞集団に含まれる細胞同士が互いに影響を与え合いながら、無血清培地にて増殖可能な細胞へと改変される。本発明では、シングルセルクローン化の前にMDCK細胞集団を無血清培地に馴化させることにより、無血清培地中で効率よく増殖可能な細胞を選出することができたものと考えられる。

0020

無血清培地に馴化させたMDCK細胞集団を得た後、シングルセルクローン化を行う。シングルセルクローン化では、まず、MDCK細胞1個毎に分離する。分離する手法としては、限界希釈法を用いることができる。分離されたクローン化MDCK細胞株をさらにコンフルエントになるまで無血清培地で培養し、継代を行い、十分な細胞量を得る。その後、クローン化MDCK細胞株について性質を評価し、好適な性質を持つクローン化MDCK細胞株を得ることができる。クローン化MDCK細胞株は、細胞増殖能、播種密度、拡張倍率、ウイルスへの感受性等について評価を行い、高い細胞増殖能を持ち、複数の型のインフルエンザウイルスに感受性を持ち、更にマイクロキャリアへ強い接着力を有することを特徴とするクローン化MDCK細胞株を選出することができる。細胞増殖能、ウイルス感受性及びマイクロキャリアへの強い接着力を共に併せ持つ細胞を選出することは困難であったが、本発明者らの鋭意検討により、上述のクローニング方法によって当該細胞を選出できることを見出した。なお、細胞増殖能等の具体的な評価手段としては後述する実施例に記載の手法を用いることができる。

0021

本発明の培養方法は、マイクロキャリアへの接着力(付着力)が強い細胞を用いることを特徴とする。細胞のマイクロキャリアへの接着力は、マイクロキャリアを含む培養液中で細胞を培養した場合の細胞浮遊率で表すことができる。本発明の培養方法では、細胞浮遊率が20%以下、好ましくは15%以下、更に好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下を示すクローン化MDCK細胞を用いることを特徴とする。細胞浮遊率とは、マイクロキャリア存在下でMDCK細胞を一定時間培養した後の浮遊細胞密度を播種細胞密度で割った値であり、細胞浮遊率が低いほど、マイクロキャリアへの接着力が高いことを示す。本発明のクローン化MDCK細胞の細胞浮遊率は、培養時間が48時間以下、好ましくは24時間以下、好ましくは6時間以下、更に好ましくは1.5時間以下、特に好ましくは0.5時間以下経過した時点のものである。より具体的には、0.5時間経過した時点で細胞浮遊率が20%以下、又は1.5時間経過した時点で細胞浮遊率が5%以下を示すクローン化MDCK細胞を用いることが好ましい。なお細胞浮遊率は、細胞の播種密度によって大きく変わることはないと推測される。

0022

本発明の培養方法は、拡張倍率が4.5以上、好ましくは6.5以上、更に好ましくは8.5以上を示すクローン化MDCK細胞を用いることを特徴とする。拡張倍率とは、細胞を一定時間培養した後の細胞密度を、播種した細胞密度で割った値であり、増殖のしやすさを表す指標となるものである。本発明のクローン化MDCK細胞の拡張倍率は、マイクロキャリアにより培養された際のものであり、培養時間が48時間以上、好ましくは60時間以上、更に好ましくは72時間以上、また、144時間以下、好ましくは120時間以下、更に好ましくは96時間以下経過した時点のものである。また本発明における拡張倍率は、2.0×104細胞/cm2以下、好ましくは1.6×104細胞/cm2以下、好ましくは1.3×104細胞/cm2以下、更に好ましくは1.0×104細胞/cm2以下の播種密度、また0.1×104細胞/cm2以上、好ましくは0.2×104細胞/cm2以上、更に好ましくは0.3×104細胞/cm2以上、特に好ましくは0.6×104細胞/cm2以上の播種密度で播種された場合のものである。例えば、後述する実施例3に記載の方法を用いて細胞を培養し、拡張倍率を確認することができる。本発明の培養方法においては、低い播種密度であっても、速やかに細胞を増殖させることができ、スケールアップの時間とコストが節約できるという利点がある。また本発明の培養方法によれば、細胞が対数増殖期に移るまでに時間の節約が可能となる。より具体的には、0.6×104細胞/cm2以上、かつ2.0×104細胞/cm2以下の播種密度で播種された場合に、細胞を播種した後、72〜96時間培養を行った時点で、細胞拡張率が4.5以上を示すクローン化MDCK細胞を用いることが好ましい。

0023

本発明におけるクローン化MDCK細胞は、上記細胞浮遊率及び/又は拡張倍率を有するものであればよく、特に限定されない。上記クローニング方法により選出した細胞を増殖及び/又は継代して得られた細胞も、本発明のクローン化MDCK細胞に含まれる。細胞の継代は公知の手法により行うことができる。マイクロキャリアによる細胞培養後は、細胞が増殖した結果、マイクロキャリア表面上に密集して接着していることとなる。継代では、密集して接着している細胞を、新しいマイクロキャリア表面上へ移動させる。例えば、トリプシンやコラゲナーゼといったプロテアーゼを用いて細胞をマイクロキャリアから取り出し、次にこれらの細胞を洗浄等行い、マイクロキャリアを含む培地中へ希釈することにより行うことができる。

0024

本発明におけるクローン化MDCK細胞は、さらに具体的には、国際寄託の受託番号NITEBP−02014で特定されるMDCK細胞である。かかる細胞は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ足2−5−8 122号室)に、平成27年3月4日に受託番号NITE P−02014として国内寄託された後、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにて、ブダペスト条約に基づく国際寄託に移管請求され、受託番号NITE BP−02014により受領されたものである。受託番号NITE BP−02014で特定されるMDCK細胞は、後述する実施例1に示すとおり、MDCK細胞(ATCCCCL−34由来)を基にして、限界希釈法によりシングルセルクローン化を行なった後、選出されたものである。

0025

本発明の培養方法は、クローン化MDCK細胞を、マイクロキャリアを用いて培養することを含む。マイクロキャリアとは、表面に細胞が接着することで細胞培養することができる微粒子である。マイクロキャリアの表面は、細胞が接着可能な材質であれば特に限定されるものではなく、本発明に用いるマイクロキャリアは特に限定されるものではない。マイクロキャリアの材質としては、デキストランゼラチンコラーゲンポリスチレンポリエチレンポリアクリルアミドガラスセルロース等が挙げられる。マイクロキャリアの材質としては、デキストランが好ましい。マイクロキャリアの形状としては、球状(ビーズ)、円盤状等が挙げられる。マイクロキャリアの形状としては、球状が好ましい。

0026

球状のマイクロキャリアの大きさ(直径)は、例えば約0.01〜1mm、好ましくは約0.05〜0.5mm、より好ましくは約0.1〜0.3mmである。マイクロキャリアは多孔性であってもよい。本発明で用いられる球状のマイクロキャリアとしては、例えば、Cytodex 1(商品名)、Cytodex 3(商品名)、Cytopore(商品名)(以上、GE Healthcare Life Science)等が挙げられる。円盤状のマイクロキャリアとしては、例えば、Cytoline 1(商品名)、Cytoline 2(商品名)(以上、GE Healthcare Life Science)等が挙げられる。多孔性のマイクロキャリアとしては、例えば、Cytopore(商品名)、Cytoline 1(商品名)、Cytoline 2(商品名)(以上、GE Healthcare Life Science)等が挙げられる。その他市販のマイクロキャリアとして、Biosilon(商品名)(NUNC)、Hillex(商品名)(ソロヒル)、Corning(登録商標)マイクロキャリア(コーニング)等が挙げられる。本発明で用いられるマイクロキャリアとしては、特に球状のデキストラン製マイクロキャリアが好ましい。球状のデキストラン製マイクロキャリアとしては、Cytodex 1(商品名)、Cytodex 3(商品名)及びCytopore(商品名)が好ましく、さらにCytodex 1(商品名)及びCytodex 3(商品名)が好ましく、特にCytodex 1(商品名)が好ましい。

0027

本発明の培養方法におけるクローン化MDCK細胞の播種密度は、特に限定されるものではなく、適宜調節が可能である。例えば、2.0×104細胞/cm2以下、好ましくは1.6×104細胞/cm2以下、好ましくは1.3×104細胞/cm2以下、更に好ましくは1.0×104細胞/cm2以下の播種密度でMDCK細胞を播種した場合であっても、細胞を増殖させることが可能である。また0.1×104細胞/cm2以上、好ましくは0.2×104細胞/cm2以上、更に好ましくは0.3×104細胞/cm2以上の播種密度で播種することが望ましい。本明細書における播種密度(細胞/cm2)とは、細胞を播種する際の、培養表面積当たりの細胞密度を意味する。なお培地中の細胞の密度は、公知の手法により確認できるが、例えば、血球計算盤又は自動セルカウンター等を用いた測定方法により確認することができる。本発明はマイクロキャリアを用いて培養を行うことから、MDCK細胞はマイクロキャリアの表面に接着して増殖する。本明細書における播種密度は、細胞を播種する際のマイクロキャリアの表面積当たりの細胞密度である。2.0×104細胞/cm2以下という低い播種密度で培養を行うことにより、培養のために準備する細胞量を少量に抑えることができるため、コストが節約できるという利点がある。

0028

また、本発明のクローン化MDCK細胞を培養するための培地は特に限定されないが、動物由来の血清の添加されていない無血清培地が好ましい。無血清培地はいかなるものを用いてもよいが、例えばイーグルMEM培地(日水製薬)、OptiPROSFM(Thermo Fisher Scientific)、VP−SFM(Thermo Fisher Scientific)、EX−CELLMDCK(SAFCBiosciences)、UltraMDCK(Lonza)、ProVero 1(Lonza)、BalanCD MDCK(Irvine Scientific)等を用いることができる。またマイクロキャリアの密度、撹拌回転数溶存酸素濃度培養温度等の培養条件は細胞が増殖可能なものであればよく、適宜調節可能である。本発明の培養方法においては、撹拌回転数が30〜60 rpm程度でも、細胞がマイクロキャリアに良好に接着し、効率よく増殖することが可能である。

0029

本発明のクローン化MDCK細胞は、MDCK細胞に感染可能なウイルスを増殖させる方法や、MDCK細胞により産生される代謝産物等の物質を生産する方法等に用いることができる。好ましくは本発明のMDCK細胞は、MDCK細胞に感染可能なウイルスを増殖させる方法に用いることができる。MDCK細胞に感染可能なウイルスとしては、MDCK細胞が感受性を示すものであればよく、たとえばオルトミクソウイルスパラミクソウイルスラブドウイルス及びフラビウイルスが挙げられる。その一例としてインフルエンザウイルスの場合を例示して説明を行う。

0030

本発明のクローン化MDCK細胞が感受性を示すインフルエンザウイルスは、特に限定されるものではない。例えば、現在知られているすべての亜型及び将来単離及び同定される亜型も含む。A型インフルエンザウイルスの場合、それらのHA分子及びNA分子の抗原性に基づいて亜型(すなわち16種のHA(H1〜H16)亜型及び9種のNA(N1〜N9)亜型)に分類され、HAの亜型とNAの亜型との組み合わせを含むインフルエンザウイルスが考えられる。B型インフルエンザウイルスの場合、ビクトリア系統山形系統との組み合わせを含むインフルエンザウイルスが考えられる。

0031

A型インフルエンザウイルスの各亜型は、RNAゲノム変異性が高いため、新しい株が頻繁に生じている。2009年4月にメキシコでの流行が認知された後、世界的に流行したとされるインフルエンザは、新型インフルエンザ、ブタインフルエンザ、パンデミックインフルエンザA(H1N1)、swine flu、A/H1N1 pdm等と呼ばれている。ブタの間で流行していたウイルスが、農場等でブタからヒトに直接感染し、その後ヒトの間で広まったとされる新型インフルエンザは、従前より存在していた季節性のAソ連型インフルエンザ(インフルエンザA型ウイルスH1N1亜型)や、A香型インフルエンザ(インフルエンザA型ウイルスH3N2亜型)とは、区別される。またRNAゲノムの変異性が高いことから、インフルエンザA型ウイルスの同じ亜型の中でも、単離された時期や場所によって、ウイルス株が区別されている。

0032

B型インフルエンザウイルスは、非可逆的抗原変異が続いているが、A型インフルエンザウイルスにおける変異よりも比較的遅く、流行の周期は2年程度である。B型インフルエンザウイルスは1940年ニューヨークにおける中程度の規模のインフルエンザ流行中初めて分離されて以来、たびたび流行を繰り返し、それによる死亡率の上昇も記録されている。ヒトの間でのみ感染が確認されているが、亜型は存在せず、山形系統とビクトリア系統という2つの系統のみが存在する。

0033

本発明において用いられるインフルエンザウイルスは、上述のような生体から分離されたインフルエンザウイルスの他、インフルエンザワクチンに適用可能なように、弱毒化鶏卵増殖適合化、細胞培養増殖適合化、温度感受性表現形質化、粘膜投与適合化等の改変を加えて作出した組換えウイルスであっても良い。また、改変を加えるための手段として、インフルエンザウイルスの抗原部位ポリメラーゼ部位等の8本のRNA分節に変異を導入する方法、リバースジェネティクスにより増殖力の高い株のRNA分節と目的の抗原性を示すRNA分節を組み換える方法、低温継代によって弱毒ウイルスを作成する方法、ウイルス培養系への変異誘発剤を添加することによる方法等の様々な方法が挙げられる。

0034

クローン化MDCK細胞を、マイクロキャリアを含む培養液中に上述した播種密度で播種した後、コンフルエントになるまで培養を行い、その後、新たなマイクロキャリアへと移行することにより、スケールアップを行うことができる。本発明の培養方法におけるクローン化MDCK細胞の培養時間は、スケールアップに適したものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、培養時間は48時間以上、好ましくは60時間以上、更に好ましくは72時間以上、また、144時間以下、好ましくは120時間以下、更に好ましくは96時間以下である。スケールアップの手順は、継代と同様である。

0035

本発明の培養方法において、インフルエンザウイルスをクローン化MDCK細胞に感染させる時期は、特に限定されず、実用上適した時期であればよい。例えば、スケールアップ後、細胞がコンフルエントになった時点で、インフルエンザウイルスを感染させ、その後細胞を一定時間インキュベートすることが好ましい。インキュベートする時間は特に限定されない。インキュベートとは、細胞を一定期間ある条件下に維持することを意味し、インキュベートにより細胞が増殖するかしないかは問わない。インキュベートは細胞を培養するのと同様の条件下で行うこともできるが、好ましくは感染させたウイルスの至適条件下で行う。MDCK細胞に感染させるインフルエンザウイルスは、シードウイルスと呼ばれる。インフルエンザウイルスは、生体から分離された後、又は、何らかの改変を加えられて作出された後、鶏卵や各種細胞を用いて継代されて増殖し、シードウイルスとなる。本発明において用いられるシードウイルスは、鶏卵や各種細胞のいずれで継代されたものであってもよく、特に限定されない。より好ましくは、MDCK細胞によって継代して増殖したシードウイルスを、本発明の培養方法においてクローン化MDCK細胞に感染させて、インフルエンザウイルスを増殖させることが好ましい。

0036

また、本発明の培養方法により増殖されたインフルエンザウイルスは、インフルエンザワクチンの製造に用いられる。インフルエンザウイルスをMDCK細胞から精製する工程については、公知の手法又は今後開発されるいずれの手法を用いてもよい。

0037

本発明の理解を助けるために、以下に実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。

0038

(実施例1)クローン化MDCK細胞の作出及び選出
1.シングルセルクローニング
(1)血清含有培地での培養
ATCCより入手したMDCK細胞(ATCC No. CCL−34、Lot 1166395、継代数53)を解凍し、10%胎仔血清(以下、FCS)を含むイーグルMEM培地(日水製薬)を加えて遠心洗浄した。このペレットに10% FCSを含むイーグルMEM培地を加えて浮遊させたものをT75フラスコ内で培養した。37℃±1℃で5日間培養した細胞を1 mMEDTA−4Naを含むPBS溶液で洗浄した後、トリプシンを添加して細胞を培養器から剥離させた。10% FCSを含むイーグルMEM培地を添加してトリプシンを中和し、T225フラスコに継代した。この細胞を37℃±1℃で4日間培養した後、同様にしてT225フラスコに継代した。37℃±1℃で6日間培養した細胞をトリプシン処理により回収した後、10% FCSを含むイーグルMEM培地を添加してトリプシンを中和した。遠心により細胞を分離し、得られたペレットをセルバンカー2(日本全薬工業)に浮遊させ、液体窒素中で凍結保存した(継代数56)。

0039

(2)ATCC由来MDCK細胞集団の無血清培地への馴化
次いで、(1)にて得た細胞を解凍し、無血清培地OptiPROSFM(Thermo Fisher Scientific)を用いてT75フラスコ内で培養した。37℃±1℃で4日間培養した細胞を1 mMEDTA−4Naを含むPBS溶液で洗浄した後、TrypLESelect(Thermo Fisher Scientific)を添加して培養器から剥離させた。この細胞にOptiPRO SFMを加えて遠心洗浄し、得られたペレットにOptiPRO SFMを加えて浮遊させたものをT75フラスコに移し、37℃±1℃で4日間培養した。この細胞をTrypLE Selectを用いて回収し、遠心洗浄して得られたペレットをセルバンカー2に浮遊させ、−80℃のフリーザーで凍結保存した(継代数58)。

0040

(3)無血清馴化MDCK細胞のシングルセルクローニング
(2)にて得たATCC由来無血清馴化MDCK細胞集団(以下、Pre Cloning Cell)を、限界希釈法によりシングルセルクローニングを行い、細胞増殖性が優れ、形態が均一な細胞株を選出した。クローニングの具体的な手順は以下のとおりである。Pre Cloning Cellを解凍し、無血清培地OptiPROSFMを用いてT25フラスコ内で培養した。37℃±1℃で3日間培養した細胞を1 mMEDTA−4Naを含むPBS溶液で洗浄した後、TrypLESelectを添加して培養器から剥離させた。この細胞にOptiPRO SFMを加えて遠心洗浄し、得られたペレットにOptiPRO SFMを加えて細胞を再浮遊させた。この細胞懸濁液の細胞数計数し、5 cells/mLの細胞懸濁液を調整した。96穴プレートの各ウェルに5 cells/mLの細胞懸濁液を100 μLずつ播種し、1個の細胞のみが播種されたウェルに目印を付けて培養を行った。目印を付けたウェルの細胞がコンフルエントに達した後TrypLE Selectで剥離し、24穴プレートへ継代した。培地中のTrypLE Selectを除去するため、継代翌日にウェル中の培養液を完全に除き、新鮮培地に交換した。同様にして6穴プレート、T75フラスコと継代を重ね、十分な細胞量が得られた時点でクローン化MDCK細胞株を凍結保存した(継代数63)。

0041

2.スクリーニング
(1)インフルエンザウイルスの増殖性の評価
得られたクローン化MDCK細胞株について、インフルエンザウイルス増殖性を指標としたスクリーニングを実施した。また本実施例では、インフルエンザウイルスのHA価及び感染価の確認は、国立感染症研究所著「インフルエンザ診断マニュアル(第3版、平成26年9月)」の「Part IV」に開示される方法に従って行った。

0042

(1−1)1次スクリーニング
まず、全てのクローン化MDCK細胞株と、Pre Cloning Cellを解凍し、無血清培地OptiPROSFMを用いてT75フラスコ内で培養した(継代数64)。解凍後、増殖したクローン化MDCK細胞株を6穴プレートに播種し、37℃±1℃で培養した後インフルエンザウイルス株をm.o.i=0.0001で感染させた(継代数65)。クローン化MDCK細胞株のウイルス増殖性を評価するため、ウイルス培養上清のHA価を測定した。

0043

(1−2)2次スクリーニング
Pre Cloning Cell以上のHA価を示したクローン化MDCK細胞株(全体の30.2%)について、他のインフルエンザウイルス株の増殖性を評価した。先の試験と同様にして6穴プレートで培養したクローン化MDCK細胞株(継代数65)にウイルスを感染させた後、ウイルス培養上清を用いたHA価測定試験を行い、全てのウイルス株についてPre Cloning Cell以上のHA価を示したクローン化MDCK細胞株を選定した(全体の2.8%)。

0044

(1−3)3次スクリーニング
6穴プレートを用いたスクリーニングにより選定されたクローン化MDCK細胞株について、さらにT75フラスコスケールでのインフルエンザウイルス増殖性を確認した。T75フラスコ内で培養したクローン化MDCK細胞株(継代数65)にA/New Caledonia(H1N1)、A/Hiroshima(H3N2)等のウイルス株をそれぞれm.o.i=0.0001で感染させた。ウイルス培養上清のHA価を確認し、すべてのウイルス株でPre Cloning Cellと同等以上のHA価を示したクローン化MDCK細胞株を選定した(全体の0.6%)。

0045

(1−4)4次スクリーニング
T75フラスコを用いたスクリーニングにより選定されたクローン化MDCK細胞株について、10代以上継代した細胞のインフルエンザウイルス増殖性を確認した。クローン化MDCK細胞株を解凍し、無血清培地OptiPROSFMを用いてT75フラスコ内で継代培養した。継代数77代〜80代となった細胞にA/New Caledonia(H1N1)等のウイルス株をそれぞれm.o.i=0.0001で感染させた。ウイルス培養上清の感染価を測定した結果、いずれのクローン化MDCK細胞株もすべてのウイルス株について7.0 log10TCID50/mL以上の感染価が得られた。

0046

(2)マイクロキャリア上での細胞増殖能の評価
ウイルス増殖性を指標として選定されたクローン化MDCK細胞株について、マイクロキャリア培養への適性を評価した。

0047

(3)クローン化MDCK細胞株の選出
上記の評価結果をもとに、無血清培地で培養可能であり、かつ複数の亜型のインフルエンザウイルスに感受性を持ち、更にマイクロキャリアへ強い接着力を有するATCC由来無血清馴化クローン化MDCK細胞株A(以下、細胞株A)を選出した。マイクロキャリアはCytodex 1(GE Healthcare Life Science)を使用した。一方、マイクロキャリアへの接着力が細胞株Aよりも弱いが、残りの性質は細胞株Aと類似するクローン化MDCK細胞株B(以下、細胞株B)も選出し、比較対象とした。
なお、細胞株Aは、受託番号NITEP−02014により、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に寄託され(受領日:平成27年3月4日)、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにて、ブダペスト条約に基づく国際寄託に移管請求され、受託番号NITE BP−02014により受領された。

0048

(4)選出したクローン化MDCK細胞株のインフルエンザウイルス増殖性
T75フラスコにて細胞株Aを増殖させた。細胞株Aがコンフルエントになった時点で、インフルエンザウイルスを細胞に接種した。細胞の培養条件に関する各パラメーター及びインフルエンザウイルス株の感染時の細胞数に関する各パラメーターは以下の通りである。



接種したウイルス株は、いずれも国立感染症研究所より分与され、MDCK細胞にて5代継代したものであり、それぞれ、A/Ibaraki/N12073/2011(H1N1)pdm09(以下、TA−73)、A/Ibaraki/N12232/2012(H3N2)(以下、TA−232)、B/Ibaraki/N12322/2012(以下、TA−322)、B/Ibaraki/N12336/2012(以下、TA−336)という。接種量はm.o.i=0.001である。培養培地としては、4 mMグルタミン、4.7 g/Lグルコース、20 mM炭酸水素ナトリウム及び0.1×TrypLESelectを添加したイーグルMEM培地を用い、34℃、5% CO2の条件下で培養を行った。ウイルス感染後、培養1日目から3日目までの培養上清をサンプリングし、HA価及び感染価を測定した。HA価は、TA−73、TA−322及びTA−336については0.5%ニワトリ赤血球を用いて室温にて1時間反応、TA−232については1.0%モルモット赤血球を用いて4℃にて1.5時間反応させて測定した。また感染価の単位はlog10TCID50/mLである。

0049

インフルエンザウイルス感染後1〜3日目(1〜3dpi)における、HA価の結果を以下の表2、感染価の結果を以下の表3に示す。またこれらの結果をまとめたグラフ図1に示す。図1中、実線が感染価、破線がHA価である。

0050

0051

0052

HA価及び感染価の推移から、いずれのウイルス株についても、細胞株Aにて増殖させた場合は、他の細胞株にて増殖させた場合よりも高いインフルエンザウイルス増殖性を示す傾向が確認された。

0053

(実施例2)マイクロキャリアを用いたクローン化MDCK細胞株の培養
細胞株Aを、4 mMグルタミンを添加した無血清培地OptiPROSFM(Thermo Fisher Scientific)で培養した。対照細胞としては、細胞株B及びPre Cloning Cellを用いた。細胞は2.3×104 細胞/cm2の播種密度で播種した。マイクロキャリアは、Cytodex 1(GE Healthcare Life Science)を、3.5 g/Lの密度で用いた。培養条件は、培養48時間目までは15rpm、48時間以降は30rpmの撹拌回転数で、pH7.0、温度37.0℃、溶存酸素濃度(DO)3.00ppmであった。通気多孔チューブにより行った。また培養容器としては、3L容量のバイオリアクターを用いた。

0054

培養液中の細胞数は、培養液を一部採取し、マイクロキャリアに接着した細胞をトリプシンを用いて分散させる手法により確認した。細胞数の測定には生死細胞オートアナライザーベックマンコールター)を用いた。また、代謝物の濃度は、バイオプロセス分析機器Cedex Bio(ロシュダイアグスティックス)を用いて確認した。

0055

各細胞株の細胞増殖能を確認した結果を、図2に示す。図2中の実線はマイクロキャリアに接着している細胞の数を示し、破線は培養上清中に浮遊している細胞の数を示す。各細胞株は浮遊した状態では増殖できず、死滅する。細胞株AはPre Cloning Cellや細胞株Bと比較して上清中に浮遊している細胞の数が少ないことから、マイクロキャリアへの接着力が強いことが確認された。
細胞株Aは培養3日目で6.9×104 細胞/cm2まで増殖した。一方細胞株B及びPre Cloning Cellは同程度まで増殖するために4日間要した。
なお培地中に存在する培地成分及び細胞の代謝産物の濃度を図3に示す。

0056

本実施例の培養条件の培養液において、上清に浮遊する細胞数を測定した。播種した細胞のうち、上清に浮遊している細胞の割合を次の計算式にて算出し、細胞浮遊率とした。
(各培養時間における浮遊全細胞密度)÷(播種細胞密度)×100=細胞浮遊率(%)

0057

各細胞株の浮遊全細胞密度を確認した結果を図4、各細胞株の細胞浮遊率を以下の表4に示す。細胞株AはPre Cloning Cellや細胞株Bと比較して細胞浮遊率が低いことから、マイクロキャリアへの接着力が強いことが確認された。また、細胞株Aは培養開始から1.5時間経過した時点で、播種した細胞のほぼすべてがマイクロキャリアに付着していると考えられる。

0058

(実施例3)クローン化MDCK細胞株の拡張倍率の確認
実施例2と同様にして、以下のa〜dの細胞播種密度により細胞株Aを播種し、培養を行った。Pre Cloning Cellを対照として用いた。
a:2.0×104 細胞/cm2 (17.6×104 細胞/mL)
b:1.0×104 細胞/cm2 (8.8×104 細胞/mL)
c:0.6×104 細胞/cm2 (5.3×104 細胞/mL)
d:0.3×104 細胞/cm2 (2.6×104 細胞/mL)
なお、培養容量は400 mLであり、37.0℃、5%CO2存在下、60 rpmにて撹拌培養を行った。マイクロキャリアはCytodex 1を用いた。マイクロキャリアの密度は2.0 g/Lである。

0059

結果を図5に示す。グラフの各点付近の値は、各々の時点の拡張倍率の値を示す。細胞株Aでは、培養開始から約30〜144時間経過した時点の拡張倍率がPre Cloning Cellと比較して高く、効率よく増殖可能であることがわかった。また、細胞株Aでは、細胞播種密度によらず培養開始から約72〜96時間経過した時点の拡張倍率は約4.5以上を示し、Pre Cloning Cellと比較して高い値を示すことがわかった。

0060

(実施例4)クローン化MDCK細胞株のマイクロキャリア間の移行
細胞株Aを以下の条件により、マイクロキャリアからマイクロキャリアに移行させた。また移行後、インフルエンザウイルスを感染させて、ウイルスのHA価及び感染価を実施例1と同様の方法により測定した。

0061

(1)マイクロキャリア間の移行方法
細胞株Aを、無血清培地で、マイクロキャリアとしてCytodex 1を用いて2Lスケールで培養し、増殖させた。その後、培養条件の各制御を停止し、マイクロキャリアを沈降させた。その後培養上清を抜き取り、1mMEDTA−4Naを含むPBS溶液を添加して37℃で30分間洗浄した。マイクロキャリアを再び沈降させた後、細胞洗浄液を抜き取った。トリプシンを添加し、37℃で30分程度処理を行った。トリプシンインヒビターを添加した後、20Lの培養器に細胞及びマイクロキャリアを全量移注した。表5に細胞播種時の播種パラメーターを、表6に細胞培養中の増殖パラメーターを示す。

0062

0063

0064

(2)マイクロキャリア間の移行後のクローン化MDCK細胞株のウイルス感受性
マイクロキャリア間の移行後、MDCK細胞がコンフルエントになった時点で、インフルエンザウイルスを細胞に接種した。接種したウイルス株は、TA−73であり、接種量はm.o.i=0.001である。インフルエンザウイルス接種時のワーキングボリュームは20L、生細胞密度は12.8×104細胞/cm2〜16.0×104細胞/cm2であった。培地は、4 mMグルタミン、3.6 g/Lグルコース、20 mM炭酸水素ナトリウム及び0.1×TrypLESelectを添加したイーグルMEM培地を使用した。ウイルス接種後、撹拌回転数20〜60rpm、pH7.0、温度34.0℃、溶存酸素濃度(DO)3.00ppmの培養条件により培養を行った。ウイルス感染後、培養4日目まで毎日培養上清をサンプリングし、感染価を測定した。このうち、最も高い感染価の値をピーク感染価(log10TCID50/mL)とした。感染価の測定は、実施例1と同様にして行った。

0065

ピーク感染価は、以下の表7に示す通りであった。

実施例

0066

細胞株Aは、マイクロキャリア培養にて高い細胞増殖能を示すことからウイルス培養開始時点に大量の細胞を準備できること、マイクロキャリア移行後も高いウイルス増殖性を示すことがわかった。

0067

以上詳述したように、本発明の培養方法によれば、マイクロキャリアを用いて効率よくMDCK細胞を増殖させることができる。さらに本発明の培養方法を用いることで、ウイルスを効率的に増殖させることができるため、効率的なワクチン製造を可能とすることができ、産業上優れている。ワクチン製造での実用化においては大容量での培養が必須であるが、本発明のMDCK細胞及びマイクロキャリアによる当該細胞の培養方法によれば、マイクロキャリア上での高い拡張倍率及び/又はマイクロキャリアへの高い接着力によりスケールアップのコスト及び時間が節約できるという利点がある。

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