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課題
解決手段
概要
背景
酪酸は短鎖脂肪酸の一種であり、ヒトや動物の生体内においては、腸内に生息する酪酸産生菌により生成されている。近年の研究において、酪酸は、抗炎症作用や大腸癌予防作用などの様々な生理作用を有することや、酪酸により各種疾患を予防もしくは改善しうることが報告されている。
このことから、酪酸を疾患の予防・治療や健康増進に利用することが試みられている。一方で、酪酸は強烈な悪臭を放つ物質であるため、酪酸自体を医薬品や食品に添加するなどして用いることは難しい。そこで、ヒトや動物の腸内において酪酸の量を増加させる取り組みが行われており、例えば、特許文献1には、D−マンニトールまたはD−ソルビトールを有効成分とする腸内酪酸濃度上昇作用を有する食品組成物が、特許文献2には、バチルス・ズブチリス菌体を有効成分とする腸内酪酸産生菌増加剤が、それぞれ開示されている。
概要
腸内の酪酸を効果的に増加させることができる腸内酪酸増加剤、腸内酪酸増加用食品組成物、酪酸産生菌増殖剤、酪酸産生菌増殖用食品組成物、腸内酪酸の増加方法、酪酸産生菌の増殖方法、ならびに、これを用いる腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防方法、およびこれら疾患の治療または予防用医薬品を製造するための1−ケストースの使用を提供する。 1−ケストースを有効成分とする腸内酪酸増加剤および酪酸産生菌増殖剤。本発明によれば、副作用や安全性をほとんど懸念することなく、簡便かつ効果的に、ヒトや動物の腸内の酪酸を増加させることができる。また、本発明によれば、ヒトや動物の腸内の酪酸を増加させることにより、腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の予防ないし治療をすることができる。
目的
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、腸内の酪酸を効果的に増加させることができる腸内酪酸増加剤、腸内酪酸増加用食品組成物、酪酸産生菌増殖剤、酪酸産生菌増殖用食品組成物、腸内酪酸の増加方法、酪酸産生菌の増殖方法、ならびに、これを用いる腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防方法、およびこれら疾患の治療または予防用医薬品を製造するための1−ケストースの使用を提供する
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 1件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
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請求項1
請求項2
請求項3
請求項4
1−ケストースを有効成分とする腸内酪酸増加用食品組成物。
請求項5
請求項6
1−ケストースを有効成分とする酪酸産生菌増殖用食品組成物。
請求項7
ヒトまたは動物に1−ケストースを摂取させることにより前記ヒトまたは動物の腸内における酪酸の量または濃度を増加させる工程を有する、腸内酪酸の増加方法。
請求項8
ヒトまたは動物に1−ケストースを摂取させることにより前記ヒトまたは動物の腸内における酪酸産生菌の数を増加させる工程を有する、酪酸産生菌の増殖方法。
請求項9
酪酸産生菌を含む培地に1−ケストースを添加して培養する工程を有する、酪酸産生菌の増殖方法。
請求項10
腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌もしくは肥満を罹患している、または、罹患する可能性があるヒトもしくは動物に、1−ケストースを摂取させることにより、前記ヒトもしくは動物の腸内における酪酸の量もしくは濃度または酪酸産生菌の数を増加させる工程を有する、腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防方法。
請求項11
腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防用医薬品を製造するための1−ケストースの使用。
技術分野
0001
本発明は、腸内酪酸増加剤、腸内酪酸増加用食品組成物、酪酸産生菌増殖剤、酪酸産生菌増殖用食品組成物、腸内酪酸の増加方法、酪酸産生菌の増殖方法、ならびに、腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防方法、および、これら疾患の治療または予防用医薬品を製造するための1−ケストースの使用に関する。
背景技術
0002
酪酸は短鎖脂肪酸の一種であり、ヒトや動物の生体内においては、腸内に生息する酪酸産生菌により生成されている。近年の研究において、酪酸は、抗炎症作用や大腸癌予防作用などの様々な生理作用を有することや、酪酸により各種疾患を予防もしくは改善しうることが報告されている。
0003
このことから、酪酸を疾患の予防・治療や健康増進に利用することが試みられている。一方で、酪酸は強烈な悪臭を放つ物質であるため、酪酸自体を医薬品や食品に添加するなどして用いることは難しい。そこで、ヒトや動物の腸内において酪酸の量を増加させる取り組みが行われており、例えば、特許文献1には、D−マンニトールまたはD−ソルビトールを有効成分とする腸内酪酸濃度上昇作用を有する食品組成物が、特許文献2には、バチルス・ズブチリス菌体を有効成分とする腸内酪酸産生菌増加剤が、それぞれ開示されている。
先行技術
0004
特開2004−49093号公報
特開2013−147469号公報
発明が解決しようとする課題
0005
しかしながら、腸内の酪酸を効果的に増加させることができる物質や方法は未だ十分に提供されておらず、そのような物質や方法の開発が求められていた。本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、腸内の酪酸を効果的に増加させることができる腸内酪酸増加剤、腸内酪酸増加用食品組成物、酪酸産生菌増殖剤、酪酸産生菌増殖用食品組成物、腸内酪酸の増加方法、酪酸産生菌の増殖方法、ならびに、これを用いる腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防方法、およびこれら疾患の治療または予防用医薬品を製造するための1−ケストースの使用を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0006
本発明者らは、鋭意研究の結果、1−ケストースが、腸内の酪酸の量や濃度を増加させること、ならびに腸内の酪酸産生菌の数を増加させることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
0007
(1)本発明に係る腸内酪酸増加剤は、1−ケストースを有効成分とする。
0008
(2)本発明に係る腸内酪酸増加剤は、1日あたり0.04g/kg体重以上の1−ケストースがヒトまたは動物に対して摂取されるように用いられることが好ましい。
0009
(3)本発明に係る腸内酪酸増加剤は、腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の予防または治療に用いることができる。
0010
(4)本発明に係る腸内酪酸増加用食品組成物は、1−ケストースを有効成分とする。
0011
(5)本発明に係る酪酸産生菌増殖剤は、1−ケストースを有効成分とする。
0012
(6)本発明に係る酪酸産生菌増殖用食品組成物は、1−ケストースを有効成分とする。
0013
(7)本発明に係る腸内酪酸の増加方法は、ヒトまたは動物に1−ケストースを摂取させることにより前記ヒトまたは動物の腸内における酪酸の量または濃度を増加させる工程を有する。
0014
(8)本発明に係る酪酸産生菌の増殖方法の第1の態様は、ヒトまたは動物に1−ケストースを摂取させることにより前記ヒトまたは動物の腸内における酪酸産生菌の数を増加させる工程を有する。
0015
(9)本発明に係る酪酸産生菌の増殖方法の第2の態様は、酪酸産生菌を含む培地に1−ケストースを添加して培養する工程を有する。
0016
(10)本発明に係る腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防方法は、腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌もしくは肥満を罹患している、または、罹患する可能性があるヒトもしくは動物に、1−ケストースを摂取させることにより、前記ヒトもしくは動物の腸内における酪酸の量もしくは濃度または酪酸産生菌の数を増加させる工程を有する。
0017
(11)本発明に係る1−ケストースの使用は、腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防用医薬品を製造するための1−ケストースの使用である。
発明の効果
0018
1−ケストースは、オリゴ糖の一種であり、タマネギやニンニク、大麦、ライ麦などの野菜や穀物にも含まれていて、古来より食経験を有する物質である。また、1−ケストースは、変異原性試験、急性毒性試験、亜慢性毒性試験および慢性毒性試験のいずれにおいても毒性が認められていない。これらのことから、1−ケストースの安全性は極めて高いといえる(食品と開発、Vol.49、No.12、第9頁、2014年)。また、1−ケストースは、水溶性が高く、砂糖に似た良好な甘味質を有するため、そのまま、あるいは甘味料等として、日常的に簡便に摂取することができるほか、様々な食品や医薬品等に容易に配合することができる。
0019
したがって、本発明によれば、副作用や安全性をほとんど懸念することなく、簡便かつ効果的に、ヒトや動物の腸内の酪酸を増加させることができる。また、本発明によれば、ヒトや動物の腸内の酪酸を増加させることにより、腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の予防ないし治療をすることができる。
図面の簡単な説明
0020
0〜1.34g/kg体重の摂取量で1−ケストースを摂取させたラット(A〜E群)の、盲腸内容物における短鎖脂肪酸(酢酸、イソ吉草酸および吉草酸)の濃度および量を示す表である。
0〜1.34g/kg体重の摂取量で1−ケストースを摂取させたラット(A〜E群)の、盲腸内容物における短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸およびイソ酪酸)の濃度および量を示す棒グラフである。
0〜1.34g/kg体重の摂取量で1−ケストースを摂取させたラット(A〜E群)の、盲腸内容物における短鎖脂肪酸(酢酸、イソ吉草酸および吉草酸)の濃度および量を示す棒グラフである。
(I)は、1−ケストースを摂取させていないラット(A群)および摂取させたラット(E群)について、盲腸内容物における各種微生物の16S rDNAコピー数の平均値、標準偏差および有意差を示す表である。(II)は、当該16S rDNAコピー数の平均値および標準偏差を示す棒グラフである。
0021
以下、本発明に係る腸内酪酸増加剤、腸内酪酸増加用食品組成物、酪酸産生菌増殖剤、酪酸産生菌増殖用食品組成物、腸内酪酸の増加方法、酪酸産生菌の増殖方法、ならびに、腸内炎症、脂肪肝、糖尿病、大腸癌または肥満の治療または予防方法、および、これら疾患の治療または予防用医薬品を製造するための1−ケストースの使用について詳細に説明する。
0022
「酪酸(butyric acid)」は、ブタン酸(butanoic acid) またはn−ブタン酸 (n−butyric acid)とも呼ばれる直鎖カルボン酸であり、その分子式は C4H8O2、示性式は CH3(CH2)2COOHである。酪酸は、ヒトや動物の腸内においては、常在する酪酸産生菌により産生されることが知られている。
0023
ここで、本発明において、「酪酸産生菌」とは、酪酸を産生する微生物をいう。係る微生物として、具体的には、例えば、Eubacterium HaliiやButyrivibrio crossotus、Coprococcus eutactus、Coprococcus catus、Clostridium symbiosum、Roseburia cecicolaなどのクロストリジウムクラスター14aに含まれる細菌、Clostridium innocuumやEubacterium tortuosum、Eubacterium cylindroidesなどのクロストリジウム クラスター16に含まれる細菌、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)やEubacterium moniliforme、Clostridium acetobutylicumなどのクロストリジウム クラスター1に含まれる細菌、Clostridium sporosphaeroidesやEubacterium sp.A2−207などのクロストリジウム クラスター4に含まれる細菌、Eubacterium barkeriやEubacterium limosumなどのクロストリジウム クラスター15に含まれる細菌などを挙げることができる。
0024
「1−ケストース」は、1分子のグルコースと2分子のフルクトースからなる三糖類のオリゴ糖である。1−ケストースは、スクロースを基質として、特開昭58−201980号公報に開示されているような酵素による酵素反応を行うことにより得ることができる。具体的には、まず、β−フルクトフラノシダーゼをスクロース溶液に添加し、37℃〜50℃で20時間程度静置することにより酵素反応を行って、1−ケストース含有反応液を得る。この1−ケストース含有反応液を、特開2000−232878号公報で開示されているようなクロマト分離法に供することよって、1−ケストースと他の糖(ブドウ糖、果糖、ショ糖、4糖以上のオリゴ糖)とを分離して精製し、高純度1−ケストース溶液を得る。続いて、この高純度1−ケストース溶液を濃縮した後、特公平6−70075号公報に開示されているような結晶化法で結晶化することにより、1−ケストースを結晶として得ることができる。
0025
また、1−ケストースは市販のフラクトオリゴ糖に含まれているため、これをそのまま、あるいは、フラクトオリゴ糖から上述の方法により1−ケストースを分離精製して用いてもよい。すなわち、本発明の1−ケストースとして、1−ケストースを含有するオリゴ糖などの1−ケストース含有組成物を用いてもよい。1−ケストース含有組成物を用いる場合、1−ケストースの純度は80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。なお、本発明において、1−ケストースの「純度」とは、糖の総量を100%とした場合の、1−ケストースの質量%をいう。
0026
1−ケストースは、ヒトや動物に摂取させることにより用いる。1−ケストースの摂取量(投与量)としては、例えば、1日あたり0.04g/kg体重以上を挙げることができる。係る摂取量は、1日1回に限らず、複数回に分割して摂取してもよい。後述する実施例1に示すように、当該摂取量であれば、腸内の酪酸の濃度や量を顕著に増加させることができる。
0027
1−ケストースは、ヒトや動物の腸内において、酪酸の量や濃度を増加させる機能を発揮する。また、1−ケストースは、ヒトや動物の腸内において、酪酸産生菌の数を増加させる機能を発揮する。このことから、ヒトや動物に摂取させる方法としては、その腸内に到達させる方法であればよい。そのような方法として、具体的には、1−ケストースを、そのまま、あるいは飲食物や医薬品の形態で、ヒトまたは動物に経口摂取させる方法を挙げることができる。その他、1−ケストースを肛門から直接あるいは挿入したチューブを経由して投与する方法、1−ケストースを経腸栄養剤に添加して、これを、胃や小腸などの消化管に挿入したチューブを経由して経腸栄養法により投与する方法などを挙げることができる。
0028
一方、1−ケストースは、in vitroにおいて、酪酸産生菌を増殖させるために用いることもできる。この場合は、酪酸産生菌を含む培地に1−ケストースを添加して、当該酪酸産生菌に適した所定の培養条件により培養する方法を挙げることができる。具体的には、例えば、酪酸産生菌としてクロストリジウム・ブチリカムを用いる場合は、炭素源として1−ケストースを2重量%、窒素源としてアミノ酸液を2重量%、および、炭酸カルシウムを0.75重量%含む培地にクロストリジウム・ブチリカムを接種し、35〜37℃で16〜24時間嫌気培養する方法を挙げることができる。
0029
酪酸は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)によって誘導した潰瘍性大腸炎モデルラットにおいて、腸内への注入により有意な炎症修復作用が確認されている。また、同モデルラットにおいて、酪酸産生菌であるクロストリジウム・ブチリカムM588芽胞製剤の経口投与により、顕著な炎症軽減効果も確認されている。さらに、ヒトの潰瘍性大腸炎に対しても、酪酸注入療法が行われている(腸内細菌学雑誌、第19巻第1号、第1−8頁、2005年;第2頁右欄、Fig4−1および4−2など)。
従って、1−ケストースをヒトや動物に摂取させて、腸内の酪酸の濃度や量、あるいは酪酸産生菌の数を増加させることにより、腸内炎症を予防または治療することができる。また、1−ケストースは、腸内炎症の治療または予防用医薬品を製造するために使用することができる。
0030
ここで、本発明において、「腸内炎症」とは、腸管において炎症が生じている状態をいい、疾患に至っている状態も含む。腸内炎症から至る疾患としては、炎症性腸疾患が挙げられる。炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎とクローン病とを指すとして、狭義に解釈する立場と、腸管のあらゆる炎症性疾患を指すとして、広義に解釈する立場とがある(最新内科学大系〈プログレス8〉、消化器疾患、pp320、1997年、中山書店)。本発明において炎症性腸疾患という場合は、後者の、腸管におけるあらゆる炎症性疾患を意味する。本発明の剤は、腸内炎症のうち、特に、アレルギーを除くものの予防または治療に好適に用いることができる。
0031
また、酪酸は、ラットにおいて、1日あたり0.02g/kg体重の経口投与で、高脂肪食の摂取による肝臓の脂肪変性および炎症を抑制し、血液中のAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、コレステロール、LDL(低密度リポタンパク質)、中性脂肪および空腹時血糖の値、ならびにインスリン抵抗性指数(HOMA−IR)を正常化することが示されている(G.Mattace Raso et al.、PLoS ONE、vol.8、no.7、e68626、2013年;Abstract、Resultなど)。従って、1−ケストースをヒトや動物に摂取させて、腸内の酪酸の濃度や量、あるいは酪酸産生菌の数を増加させることにより、脂肪肝を予防または治療することができる。また、1−ケストースは、脂肪肝の治療または予防用医薬品を製造するために使用することができる。
0032
また、酪酸は、小児糖尿病モデルラットにおいて、1日あたり500mg/kg体重(酪酸ナトリウムの投与量)の腹腔内投与で、β細胞の細胞死を減少させ、β細胞の機能および増殖を改善し、グルコースホメオスタシスを改善することが示されている(S.Khan et al.、Chem.Biol.Interact.、vol.213、第1−12頁、2014年;Abstratctなど)。従って、1−ケストースをヒトや動物に摂取させて、腸内の酪酸の濃度や量、あるいは酪酸産生菌の数を増加させることにより、糖尿病を予防または治療することができる。また、1−ケストースは、糖尿病の治療または予防用医薬品を製造するために使用することができる。
0033
また、酪酸は、ヒト由来大腸癌細胞であるLIM1215において、1mmol/Lの終濃度で培地に添加すると、増殖時間の延長や増殖率の低下をもたらすことが示されている(Whitehead RH et al.、Gut 27、第1457−1463頁、1986年;SUMMARYなど)。さらに、酪酸は、大腸の粘膜上皮細胞の異常な増殖を抑制し、変異細胞の細胞死や分化を促進する、異常なタンパク質の転写を抑制する、大腸癌初期の病変である異常多重クリプト(ACF)の発生を抑制するなどにより、大腸癌の発症を抑制することが報告されている(腸内細菌学雑誌、第16巻第1号、第35−42頁、2002年;第40頁左欄およびTable 5など)。従って、1−ケストースをヒトや動物に摂取させて腸内の酪酸の濃度や量、あるいは酪酸産生菌の数を増加させることにより、大腸癌を予防または治療することができる。また、1−ケストースは、大腸癌の治療または予防用医薬品を製造するために使用することができる。
0034
また、酪酸は、1日あたり5g/kg体重(酪酸ナトリウムの投与量)の経口投与で、高脂肪食により肥満を誘導したマウスにおいては体重および体脂肪率を減少させ、肥満していないマウスにおいては高脂肪食の摂食による体重増加および体脂肪率増加を抑制することが示されている(Zhanguo Gaoら、DIABETES、VOL.58、2009年7月、第1509〜1517頁;FIG.1のEおよびF、ならびにFIG.7のAおよびBなど)。また、同様に、5質量%の酪酸ナトリウムを混合した高脂肪食を摂取させたマウスにおいて、体重の増加および体脂肪率の増加が抑制されることも示されている(Hua V.Linら、PLoS ONE、Vol.7、Issue4、e35240、2012年4月;Fig.1のAなど)。従って、1−ケストースをヒトや動物に摂取させて、腸内の酪酸の濃度や量、あるいは酪酸産生菌の数を増加させることにより、肥満を予防または治療することができる。また、1−ケストースは、肥満の治療または予防用医薬品を製造するために使用することができる。
0036
1−ケストースを含有する医薬品や医薬部外品、サプリメントの剤型は特に限定されず、投与方法に適した剤型を適宜選択することができる。例えば、経口投与の場合には、散剤、錠剤、糖衣剤、カプセル剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、液剤、シロップ剤、ドロップ剤、ドリンク剤等の固形または液状の剤型にすることができる。
0037
上記各剤型の医薬品や医薬部外品、サプリメントは、当業者に公知の方法で製造することができる。例えば、散剤であれば、1−ケストース800gおよび乳糖200gをよく混合した後、90%エタノール300mLを添加して湿潤させる。続いて、湿潤粉末を造粒した後、60℃で16時間通風乾燥し、その後、整粒して、適当な細かさの散剤1000g(1−ケストース含有量800mg/1g)を得ることができる。また、錠剤であれば、1−ケストース300g、粉末還元水飴380g、コメデンプン180gおよびデキストリン100gをよく混合した後、90%エタノール300mLを添加して湿潤させる。続いて、湿潤粉末を押し出し造粒した後、60℃で16時間通風乾燥して顆粒を得る。その後、この顆粒を850μmの篩を用いて整粒し、続いて顆粒470gにショ糖脂肪酸エステル50gを添加して混合した後、ロータリー打錠機(6B−2、菊水製作所製)を用いて打錠し、直径8mm、重量200mgの錠剤5000錠(1−ケストース含有量60mg/1錠)を得ることができる。
0038
本発明の腸内酪酸増加用食品組成物および酪酸産生菌増殖用食品組成物の具体的な態様としては、例えば、飲料、乳製品、食用に供する顆粒、ペースト、調味料、レトルト食品、ベビーフード、発酵食品、保存食、水産加工品、食肉加工品、穀物加工品などの加工食品、食品添加物、健康食品、動物飼料などを挙げることができる。
0039
1−ケストースは、各種の飲食品や食品添加物、動物飼料の通常の製造過程で、添加して用いることができる。1−ケストースの甘味度は30で、その味質・物性・加工性はショ糖に近いことから、各種飲食物の製造過程において、砂糖の一部または全部を1−ケストースに置き換えるなどして、砂糖と同様に扱って各種の飲食品や食品添加物、動物飼料を製造することができる。
0040
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。また、本実施例においては、所定の純度で1−ケストースを含有する組成物を、「1−ケストース」という。
0041
<実施例1>1−ケストース摂取時の腸内短鎖脂肪酸量の検討
(1)1−ケストースを経口摂取させたラットの飼育
1−ケストースを0、0.5、1.0、2.5および5質量%となるように配合した飼料を日本クレア社に委託して調製した。飼料の組成を下記に示す。40匹のSDラット(日本エスエルシー社)を8匹ずつ5つの群に分け、A〜E群とした。A群には1−ケストースを配合しない飼料を、B〜E群には1−ケストースを配合した飼料をそれぞれ自由摂取させながら、30日間飼育した。飼育条件は温度23±1℃、明期12時間(8:00〜20:00)および暗期12時間(20:00〜8:00)とした。
0042
《飼料の組成(単位は質量%)》コーンスターチ39.7486、ミルクカゼイン20、アルファ化コーンスターチ13.2、グラニュー糖および/または1−ケストース(純度99質量%;物産フードサイエンス社) 10、精製大豆油7、セルロースパウダー5、ミネラルミックス3.5、ビタミンミックス 1、L−シスチン0.3、重酒石酸コリン0.25、第3ブチルヒドロキノン0.0014。
0043
(2)腸内短鎖脂肪酸量の検討
本実施例1(1)の各群のラットを解剖して盲腸を摘出し、盲腸の内容物を採取して重量を測定した。次に、盲腸内容物における短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酢酸、イソ吉草酸および吉草酸)の濃度を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いて測定した。また、短鎖脂肪酸濃度の測定結果を基に、盲腸内容物における短鎖脂肪酸の量を算出した。続いて、各群毎に短鎖脂肪酸濃度および短鎖脂肪酸量の平均値を算出して、棒グラフに表した。その結果を図1〜図3に示す。
0044
なお、ラットにおける薬物の摂取量は、下記の式1により、ヒト成人における摂取量に換算できることが報告されている(特開2014−526521号公報の段落[0065]、Shannon Reagan−Shawら、TheFASEB Journal、Vol.22、2007年3月、第659〜661頁)。そこで、当該式1により、ラットにおける1日の1−ケストース摂取量を、ヒト成人におけるものに換算した。その結果も、図1に併せて示す。
《式1》ヒト成人における1日の1−ケストース摂取量(g/kg体重)=ラットにおける1日の1−ケストースの摂取量(g/kg体重)×6/37
0045
図1〜図3に示すように、酪酸の濃度は、A群では205.86μg/gであったのに対して、B群では288.09μg/g(A群と比較して約1.4倍の増加)、C群では314.59μg/g(A群と比較して約1.5倍の増加)、D群では754.17μg/g(A群と比較して約3.7倍の増加)、E群では2005.26μg/g(A群と比較して約10倍の増加)であった。また、酪酸の量は、A群では781.14μgであったのに対して、B群では1069.37μg(A群と比較して約1.4倍の増加)、C群では1107.92μg(A群と比較して約1.4倍の増加)、D群では2891.65μg(A群と比較して約3.6倍の増加)、E群では11943.88μg(A群と比較して約14.5倍の増加)であった。すなわち、酪酸の濃度および量は、B〜E群のいずれにおいてもA群と比較して顕著に大きかった。
0046
なお、酢酸の濃度および量も、B、C、DおよびE群ではA群と比較して有意に大きかった。一方、プロピオン酸およびイソ吉草酸の濃度および量は、B、C、DおよびE群ではA群と比較して有意な差は無かった。イソ酪酸および吉草酸の濃度および量は、B、C、DおよびE群ではA群と比較していずれも有意に小さかった。
0047
この結果から、1−ケストースを配合した飼料を摂取させたラットでは、盲腸内の酪酸の濃度および量が増大したことが明かになった。すなわち、1−ケストースをヒトや動物に対して摂取させると、腸内の酪酸が増加することが明かになった。また、1日のケストース摂取量が0.27g/kg体重のラット(B群)において酪酸の濃度および量の顕著な増加が認められたことから、腸内の酪酸を増加させるためには、ヒト成人における1日あたりの1−ケストースの摂取量は、0.04g/kg体重以上が好ましいことが明かになった。
0048
<実施例2>1−ケストース摂取時の腸内の微生物量の検討
実施例1(1)のA群およびE群のラットの盲腸内容物について、下記の4種の微生物の量をリアルタイムPCR法により測定した。
1.ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、
2.クロストリジウムクラスター14a(Closrtidium cluster XIVa)およびクロストリジウム クラスター14b(Closrtidium cluster XIVb)(酪酸産生菌群)、
3.ラクトバシラス(Lactobacillus)属、
4.アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)。
0049
具体的には、まず、A群およびE群の盲腸内容物をビーズ式破砕装置「FastPrepFP100A」(MP Biomedical社)に供して破砕処理した。続いて、核酸抽出装置「Magtration(登録商標)System 12GC」およびその専用試薬「MagDEA(登録商標)DNA 200」(プレシジョン・システム・サイエンス社)を用いて、使用書に従ってゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAを鋳型として、上記4種の微生物の16S rDNAに特異的なプライマー、リアルタイムPCR試薬「SYBR(登録商標)Premix Ex Taq II (TliRNaseH Plus)」(Takara社)およびリアルタイムPCR装置「Rotor−Gene Q」 (QIAGEN社)を用いてリアルタイムPCRを行い、盲腸内容物1gあたりの各微生物の16S rDNAコピー数を求めた。当該コピー数は、各群ごとに平均値および標準偏差を算出し、棒グラフに表した。その結果を図4に示す。
0050
なお、各微生物の16S rDNAに特異的なプライマーの配列を以下に示す。
1.ビフィドバクテリウム属
フォワードプライマー;GATTCTGGCTCAGGATGAACGC(配列番号1)
リバースプライマー;CTGATAGGACGCGACCCCAT(配列番号2)
2.クロストリジウムクラスター14aおよび14b(酪酸産生菌群)
フォワードプライマー;GAWGAAGTATYTCGGTATGT(配列番号3)
リバースプライマー;CTACGCWCCCTTTACAC(配列番号4)
3.ラクトバシラス属
フォワードプライマー;CACAATGGACGMAAGTCTGATG(配列番号5)
リバースプライマー;CGCCACTGGTGTTCTTCCAT(配列番号6)
4.アッカーマンシア・ムシニフィラ
フォワードプライマー;CAGCACGTGAAGGTGGGGAC(配列番号7)
リバースプライマー;CCTTGCGGTTGGCTTCAGAT(配列番号8)
0051
また、検量線は、各微生物について下記の配列のうちの一部を組み込んだプラスミドDNAを鋳型として、同条件でリアルタイムPCRを行った結果を基に作製したものを用いた。
1.ビフィドバクテリウム属;B.longum subsp.longum JCM 1217Tの16S rDNA配列(配列番号9)
2.クロストリジウムクラスター14aおよび14b(酪酸産生菌群):Clostridium clostridioforme JCM1291Tの16S rDNA配列(配列番号10)
3.ラクトバシラス属;L.casei JCM 1134Tの16S rDNA配列(配列番号11)
4.アッカーマンシア・ムシニフィラ;A.muciniphilaATCCBAA−835Tの16S rDNA配列(配列番号12)
0052
図4に示すように、盲腸内容物1gあたりのクロストリジウムクラスターXIV(酪酸産生菌群)の16S rDNAコピー数は、A群では5071250000(約0.5E+10)であったのに対して、E群では25287500000(約2.5E+10)であった。すなわち、E群の酪酸産生菌群の16S rDNAコピー数はA群と比較して約5倍の量であり、有意に大きかった。
0053
なお、従来からケストースの摂取により腸内において増加することが知られているビフィドバクテリウム属(例えば、特許第4669235号公報)の16S rDNAコピー数も、E群ではA群と比較して有意に大きかった。一方、ラクトバシラス属およびアッカーマンシア・ムシニフィラの16S rDNAコピー数は、E群とA群とで有意な差は無かった。
実施例
0054
この結果から、1−ケストースを配合した飼料を摂取させたラットでは、盲腸内の酪酸産生菌の数が増大したことが明かになった。すなわち、1−ケストースをヒトや動物に対して摂取させると、腸内の酪酸産生菌が増殖することが明かになった。
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