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技術 生物材料用透明化試薬、システム及びその利用

出願人 国立研究開発法人理化学研究所
発明者 宮脇敦史濱裕
出願日 2016年1月20日 (5年3ヶ月経過) 出願番号 2016-570685
公開日 2017年10月26日 (3年6ヶ月経過) 公開番号 WO2016-117614
状態 特許登録済
技術分野 サンプリング、試料調製 生物学的材料の調査,分析
主要キーワード ブロックサンプル シクロデキストリン骨格 超分解 表面突起物 複合方式 プロジェクション画像 同一模様 蛍光発光画像
関連する未来課題
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図面 (20)

課題・解決手段

本発明に係る生物材料透明化試薬は、尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種化合物と、ソルビトールと、5(w/v)%濃度以下の界面活性剤とを含む、溶液である。

概要

背景

光学顕微鏡を用いて生物材料深部を観察する際には、透明化試薬を用いた処理(透明化処理)が必要となる。

透明化試薬及び透明化処理方法としては、例えば、特許文献1及び非特許文献1に記載のAnn-Shyn ChiangによるFocus Clear(商品名)溶液、或いは非特許文献2に記載のHans-Ulrich Dodtらのtissue clearing methodが代表的なものとして知られている。これらは何れも、組織を透明化することで、組織中に存在する、蛍光物質で標識された構造を観察する目的で使用される。

これらの方法は、透明化処理の有効成分等として有機溶剤が必須であるため生物材料に用いることは難しく、また、透明化処理の対象となる生物材料の収縮を引き起こし得るという問題があった。

これらの問題を鑑み、尿素を含む水溶性試薬を用いた透明化技術(Scale)が開発された。Scaleによって、生物材料を透明化して3次元的に生物材料の構造を観察する技術の礎が確立された。(特許文献2、非特許文献3)。

例えば、Scaleの開示の後には、フルクトースを含む溶液によって屈折率を調整し、生物材料を透明化する技術(SeeDB)が開示された(特許文献3、非特許文献4)。SeeDB法は、処理の間に生じる生物材料の変性を最小限に抑えることが目的であり、光学顕微鏡での観察の結果、膜構造軸索といった生物材料の形状が保たれていることが示された。しかし、観察対象の屈折率が非常に高くなり、観察のパフォーマンスを十分に発揮するには、2光子顕微鏡および高屈折率に最適なレンズを用いる必要がある。

非特許文献5には、電気泳動装置を用いた物理化学的な方法によって透明化を行う技術(CLARITY)が開示されている。CLARITYは、アクリルアミドポリマーを用いて固めた脳組織を、電気泳動装置を用いて物理化学的に処理して脂質成分を除去し、脳組織を2週間で透明化する。しかし、専用デバイスが必要であり、工程も煩雑という問題がある。また、電気泳動は時間に応じて発熱するため、生物材料中のタンパク質熱変性を防ぐことが難しい。

加えて、CLARITYは高濃度(4%)のイオン性界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)によって組織から脂質を溶出させることで脂質膜による光散乱を除き透明化を行うことから、細胞形質膜分泌小胞などの構造や、脂質膜中に浮遊しているタンパクなどを大きく損なうことになる。

このように、尿素を用いた透明化技術のScaleに続いて、生物材料の透明化技術が様々に開発されているが、Scaleのみが有する利点が顕在している。

例えば、高屈折率に最適なレンズおよび2光子顕微鏡という汎用性に乏しい装置を必要とするSeeDBの問題、また専用デバイスの必要性と生物材料の熱変性というCLARITYにおける問題は、Scaleには存在しない。ところで、従来のScaleでは工程が非常に簡便という利点があるが、生物材料の原形を保ちつつ、さらに迅速に透明度光透過性)を上げることが求められていた。

最近では、Scale技術と同じく尿素による透明化を基本として、アミノアルコールおよび非イオン性界面活性剤をさらに含む透明化試薬で生物材料を処理したことで透明度に優れた透明化を達成する技術(CUBIC)も開発されている(非特許文献6)。

概要

本発明に係る生物材料用透明化試薬は、尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種化合物と、ソルビトールと、5(w/v)%濃度以下の界面活性剤とを含む、溶液である。

目的

本願発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、有効成分として尿素又は尿素誘導体とソルビトールとの組合せによる相乗効果を利用した、新規な生物材料用透明化試薬、及びその利用を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種化合物と、ソルビトールと、5(w/v)%濃度以下の界面活性剤とを含む、溶液である、生物材料透明化試薬

請求項2

上記化合物として尿素を含む、溶液である、請求項1に記載の生物材料用透明化試薬。

請求項3

ソルビトールを15(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含む、請求項1又は2に記載の生物材料用透明化試薬。

請求項4

尿素を1.0M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で含む、請求項1から3の何れか一項に記載の生物材料用透明化試薬。

請求項5

界面活性剤が非イオン性の界面活性剤である、請求項4に記載の生物材料用透明化試薬。

請求項6

上記非イオン性の界面活性剤が、TritonX(登録商標)、Tween(登録商標)、及びNP-40(商品名)からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項5に記載の生物材料用透明化試薬。

請求項7

グリセロールを含む、請求項1から6の何れか一項に記載の生物材料用透明化試薬。

請求項8

シクロデキストリン類を含む、請求項1から7の何れか一項に記載の生物材料用透明化試薬。

請求項9

多細胞動物由来組織又は器官、或いはヒトを除く多細胞動物を透明化するものである、請求項1から8の何れか一項に記載の生物材料用透明化試薬。

請求項10

請求項1から9の何れか一項に記載の生物材料用透明化試薬と、単離された生物材料とを含んでなり、当該生物材料を透明化するために生物材料の内部に生物材料用透明化試薬が浸潤している、生物材料透明化処理システム

請求項11

請求項1から9の何れか一項に記載の生物材料用透明化試薬を、単離された生物材料中に浸潤して、当該生物材料を透明化する工程を含む、生物材料の透明化方法。

請求項12

請求項1から9の何れか一項に記載の生物材料用透明化試薬を含む、生物材料用透明化処理キット

請求項13

含まれているソルビトールの濃度が異なる上記生物材料用透明化試薬を複数種備えている、請求項12に記載の生物材料用透明化処理キット。

請求項14

A)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を3M以上で5M以下の範囲内の濃度で、ソルビトールを30(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度でそれぞれ含む生物材料透明化試薬、及び、B)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を5M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で、ソルビトールを20(w/v)%以上で40(w/v)%以下の範囲内の濃度でそれぞれ含む生物材料透明化試薬、からなる群から選択される1以上の生物材料透明化試薬を含む、請求項12又は13に記載の生物材料用透明化処理キット。

請求項15

ソルビトールを含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含み、かつ尿素を除く水溶液を透明化工程の前処理液としてさらに含む、請求項13又は14に記載の生物材料用透明化処理キット。

技術分野

0001

本発明は、生物材料用の透明化試薬、及びその利用に関する。

背景技術

0002

光学顕微鏡を用いて生物材料の深部を観察する際には、透明化試薬を用いた処理(透明化処理)が必要となる。

0003

透明化試薬及び透明化処理方法としては、例えば、特許文献1及び非特許文献1に記載のAnn-Shyn ChiangによるFocus Clear(商品名)溶液、或いは非特許文献2に記載のHans-Ulrich Dodtらのtissue clearing methodが代表的なものとして知られている。これらは何れも、組織を透明化することで、組織中に存在する、蛍光物質で標識された構造を観察する目的で使用される。

0004

これらの方法は、透明化処理の有効成分等として有機溶剤が必須であるため生物材料に用いることは難しく、また、透明化処理の対象となる生物材料の収縮を引き起こし得るという問題があった。

0005

これらの問題を鑑み、尿素を含む水溶性試薬を用いた透明化技術(Scale)が開発された。Scaleによって、生物材料を透明化して3次元的に生物材料の構造を観察する技術の礎が確立された。(特許文献2、非特許文献3)。

0006

例えば、Scaleの開示の後には、フルクトースを含む溶液によって屈折率を調整し、生物材料を透明化する技術(SeeDB)が開示された(特許文献3、非特許文献4)。SeeDB法は、処理の間に生じる生物材料の変性を最小限に抑えることが目的であり、光学顕微鏡での観察の結果、膜構造軸索といった生物材料の形状が保たれていることが示された。しかし、観察対象の屈折率が非常に高くなり、観察のパフォーマンスを十分に発揮するには、2光子顕微鏡および高屈折率に最適なレンズを用いる必要がある。

0007

非特許文献5には、電気泳動装置を用いた物理化学的な方法によって透明化を行う技術(CLARITY)が開示されている。CLARITYは、アクリルアミドポリマーを用いて固めた脳組織を、電気泳動装置を用いて物理化学的に処理して脂質成分を除去し、脳組織を2週間で透明化する。しかし、専用デバイスが必要であり、工程も煩雑という問題がある。また、電気泳動は時間に応じて発熱するため、生物材料中のタンパク質熱変性を防ぐことが難しい。

0008

加えて、CLARITYは高濃度(4%)のイオン性界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)によって組織から脂質を溶出させることで脂質膜による光散乱を除き透明化を行うことから、細胞形質膜分泌小胞などの構造や、脂質膜中に浮遊しているタンパクなどを大きく損なうことになる。

0009

このように、尿素を用いた透明化技術のScaleに続いて、生物材料の透明化技術が様々に開発されているが、Scaleのみが有する利点が顕在している。

0010

例えば、高屈折率に最適なレンズおよび2光子顕微鏡という汎用性に乏しい装置を必要とするSeeDBの問題、また専用デバイスの必要性と生物材料の熱変性というCLARITYにおける問題は、Scaleには存在しない。ところで、従来のScaleでは工程が非常に簡便という利点があるが、生物材料の原形を保ちつつ、さらに迅速に透明度光透過性)を上げることが求められていた。

0011

最近では、Scale技術と同じく尿素による透明化を基本として、アミノアルコールおよび非イオン性界面活性剤をさらに含む透明化試薬で生物材料を処理したことで透明度に優れた透明化を達成する技術(CUBIC)も開発されている(非特許文献6)。

0012

米国特許第6472216号公報(特許日2002年10月29日)
国際公開公報WO2011/111876(公開日2011年9月15日)
国際公開公報WO2013/191274(公開日2013年12月27日)

先行技術

0013

Ann-Shyn Chiang et al.: InsectNMDAreceptors mediate juvenile hormone biosynthesis. PNAS 99(1), 37-42 (2002).
Hans-Ulrich Dodt et al.: Ultramicroscopy: three-dimensional visualization of neuronal networks in the whole mouse brain. Nature Methods4 (4), 331-336 (2007).
Hama et al.: Scale: a chemical approach for fluorescence imaging and reconstruction of transparent mouse brain. Nat Neuroscience 14(11), 1481-8(2011).
Ke et al.: SeeDB: a simple and morphology-preserving opticalclearing agent for neuronal circuit reconstruction. Nat Neuroscience 16(8), 1154-61(2013).
Chung et al.: Structural and molecular interrogation of intact biological systems. Nature 497(7449), 332-7(2013).
Susaki et al.: Whole-brain imaging with single-cell resolution using chemical cocktails and computational analysis. Cell 157(3), 726-39(2014).

発明が解決しようとする課題

0014

これまで、生物材料の透明化に際して、生物材料の原形を保つことと、透明度(光透過性)を上げる時間を短縮することとは、相反する課題であり、同時には達成できなかった。

0015

例えば、WO2012/147965に開示された技術(Scale B4)では、生物材料の透明度を上げることに要する時間の短縮が可能である。しかし、透明化処理の有効成分である尿素等の浸潤を急速に進めることに比重を置くと高濃度の尿素で処理するため、生物材料の膨張(変形)を招来してしまう。

0016

WO2011/111876に開示された技術(Scale U2)では、生物材料の膨張を有効に抑えられるが、透明度を上げる時間を短縮する効果は得られていない。

0017

このように、生物材料の原形を保つことと、透明度(光透過性)を上げる時間の短縮の両立は達成されていない。

0018

CUBICは透明度を上げる時間が短縮されているが、高濃度に含まれる非イオン性界面活性剤の影響によって細胞組織の構造が破壊されている虞があった。また、アミノアルコールを含むCUBICの溶液のpHが11.4であることから、強いアルカリによって膜を構成するタンパク質の変性や喪失が生じ、細胞を構成する膜の正常な微細構造の保持が為されていない可能性が高い。実際、本発明者らが電子顕微鏡を用いて微細構造を観察した結果、CUBICで処理された生物材料の細胞では組織形状の深刻な破壊が起こっていることを発見した。この知見より、本発明者らは、CUBICにおける透明化処理の時間短縮という効果は、生物材料が変性して細胞の微細構造が崩れたことによって透明化試薬が浸潤しやすくなった結果であることに気付いた。

0019

従って、これまで、生物材料の原形を保つうえで生物材料中の細胞の微細構造のレベルでも形状を大きく変化させずに、かつ迅速に透明化を行うことが出来る透明化試薬は提供されていない。

0020

本願発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、有効成分として尿素又は尿素誘導体ソルビトールとの組合せによる相乗効果を利用した、新規な生物材料用透明化試薬、及びその利用を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0021

上記の課題を解決するために、本願発明者らは鋭意検討を行なった。まず、生物材料中に浸潤した際に透明度が向上する有効成分の検討を行ったところ、単独の使用では実質的に効果が見いだされなかったソルビトールが、尿素又は尿素誘導体と組合わせ使用されることで、透明度を上げる顕著な効果を奏することを見出した。また、ソルビトールは生物材料を収縮させるため、ソルビトールと尿素を組み合わせることで、Scale A2やScale U2の問題である生物材料の膨張を防ぐ効果が得られた。さらに、当該透明化試薬で蛍光タンパク質発現した生物材料を透明化した場合に、既存の透明化試薬と比べて蛍光タンパク質の蛍光消失が少なく、蛍光タンパク質を用いた生物材料の観察にも適していることが分かった。

0022

次いで、透明度を上げる時間をさらに短縮する効果を得る方法として、生物材料の微細構造を崩すことなく透明化試薬を効率的に浸潤させるために、生物材料を一度収縮させる処理を行ったあと収縮作用を除いた後の応力によって体積復元する際に透明化試薬を浸潤させるという着想を得た。このことにより、タンパク質の変成や細胞微細構造の破壊を起こす化学的処理を施すことなく透明化試薬を効率的に浸潤させることが可能となった。

0023

上より、本願発明を想到するに至った。

0024

すなわち、本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を備えてなる。

0025

尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種化合物と、ソルビトールと、5(w/v)%濃度以下の界面活性剤とを含む、溶液である、生物材料用透明化試薬。

発明の効果

0026

本発明は、尿素又は尿素誘導体とソルビトールとの組合せを用いた生物材料用透明化試薬であって、生物材料の原形を大きく変化させずに、迅速に透明度を向上させることが出来る透明化試薬、及びその利用を提供することが出来るという効果を奏する。

図面の簡単な説明

0027

図1は、光学的透明化、及び、シグナル/構造保存に関するScaleSの性能を示す。(a)は、ScaleS(左)、又はPBS(右)によって処理した後のマウスの脳半球全体(10週齢)を示し、模様のついた背景と共に撮影された(2.5mm平方罫線を引かれたグラフ用紙写真をもとにした図である。(b,c)は、10週齢のYFP−Hマウス(b)と10週齢のChR2−YFPマウス(c)の脳半球を、ScaleS(左)又はPBS(右)によって処理し、透過度(T:transmission)及びYFP蛍光(FL)の保持性を比べた図である。タンパク質漏出は組織固定の程度によって異なるため、用いる動物毎に異なる場合がある。ここでは、同一マウスの脳の左半球右半球とを使用することによって、ScaleSとPBSとの正確な比較を行った。A:(前頭部)、P:(後頭部)。スケールバー:2.5mm。透明化のためのインキュベーション時間は、サンプルのサイズに応じて最適化した。透過画像は、(a)と同一模様の背景使用下によって得た。(d−h)は、ScaleS処理後に当該処理前の状態に復元したサンプルに対する、TEM観察の結果を示す。YFP−Hマウス(10週齢)の脳半球全体を4%PFAによって固定し、ScaleSによって完全に透明化した。透明サンプルを一晩かけてイメージング実験に供するという前提のもと、マウンティング溶液(ScaleS4)内37℃で14時間インキュベートした。次いで、この透明サンプルをPBSで洗浄することによって、ScaleSで処理する前の状態に戻した(復元)。その後1mmの立方体復元サンプルから取り出し、超薄切片作製のために使用した。(d)は皮質層II/IIIの錐体ニューロンの二つの細胞体における顕微鏡写真を示す図である。(e)は、(d)中のボックスに対応する、拡大された顕微鏡写真の図である。(f)は、(e)中のボックスに対応している、拡大された顕微鏡写真の図である。対称性シナプスが、塗り潰していない矢頭によって示されている。(g,h)は、ニューロピル内の二か所((d)中に示すボックス)に存在する興奮性非対称性シナプスの図である。塗り潰された矢頭はシナプス後肥厚部を示している。Denは樹状突起AH軸索小丘AISは軸索起始部、ATは軸索終末を示す。スケールバーは、(e)は3μm、(f)(f‘)(g)(h)は200nm。
図2は、Aβアミロイドーシス可視化するために、老齢APノックインマウスAppNL−F/NL−F(20月齢)の脳左半球に、AbScaleを適用した結果を示す。脳半球の最大サイズは長さ6mm、幅4mm、高さが4mmである。(a)は三重免疫組織化学ダイアグラムを示す。脳半球全体に対するプレカット(切断前)染色は、抗−Aβモノクローナル抗体(Alexa488-6E10,シアン色で表示)と抗−NeuN モノクローナル抗体(Cy5-A60,マゼンタ色で表示)とを用いて行った。脳切除部分に対するポストカット(切断後)染色は、抗-NeuNポリクローナル抗体(Cy3−αNeuN, 黄色で表示)を用いて行った。解り易さをきたすため、海馬細胞層を強調して示している;この細胞層は、プレカット染色後はマゼンタ色に、その後、ポストカット染色後は黄色とマゼンタ色の混合色に表示されている。(b−d)は、以下の色に染色された蛍光発光画像を示す図である。(b)はCy3−βNeuN(黄色で表示)で染色されたポストカットで、(c)はCy5−A60(マゼンタ色で表示)で染色されたプレカットで、(d)はAlexa488-6E10 (シアン色で表示)で染色されたプレカットである。Cy5−A60がNeuNのC末端に反応する一方で、Cy3−αNeuNはタンパク質全体に反応する。ゆえに二つの抗体の間で競合は起こらない。(c)に示されているように、各ニューロン細胞核の蛍光シグナル強度は、脳表面および正中面からの距離に関わらず、セクション内でほぼ同一であり、これにより、脳半球内へCy5-A60が効率的に浸透していることが示唆される。(e)は(b)と(c)とを合成した画像である。(f)は(c)と(d)とを合成した画像である。(g,h)は(f)の高倍率画像を示す。SCX:体性感覚皮質。全てのスケールバーは1mmを示している。
図3は、Aβの3D可視化として、ChemScaleとAbScaleの複合方式を適用した結果を示す。(a,b)は、18月齢(a)と9月齢(b)のAppNL−F/NL−Fマウスの脳半球全体中におけるAβ斑を3D可視化した図である。脳半球は、PP-BTA-1(赤)とAlexa488-6E10 (緑)とで染色されている。透明化された脳半球の外側面と、中央平面に向けたボリュームレンダリング画像を観察するために、10×対物レンズを備えたOlympus FV1000 システムを使用した。(a)の図から鑑みれば、斑は脳半球全体に散布しているように見えるが、異なった角度(データ表示なし)からの観察によれば斑は主に大脳皮質に存在している。Aは前頭部を、Pは後頭部を示す。(a)中の差し込み図は、典型的な老人斑の高倍率ボリュームレンダリング画像の図である。(c)は20月齢のAppNL−F/NL−Fマウスの大脳皮質内の一部のAβ斑 (Alexa488-6E10, 緑色)と血管(Texas Red lectin, 赤色)の3D可視化を示した図である。その観察には、20×対物レンズを備えたZEISSLightsheet Z.1を使用した。後方と前方からの透視画像が、異なる奥行きと角度で撮った複数の画像から作成されている。
図4は、Aβ斑とミクログリア間の相互作用を3D可視化した図であり、二重色AbScaleを応用した図である。Alexa488-6E10とAlexa546-Iba1(ウサギ抗−Iba1ポリクローナル抗体+Alexa546で標識した抗ウサギIgG抗体)とによって免疫染色された、老齢AppNL−F/NL−Fマウスの脳スライスを材料に3D−IHCを行って全てのデータを得た。6E10陽性Aβ斑とIba1陽性ミクログリアとはそれぞれ緑色と赤色で示されている。(a)は、厚さ2mmの脳スライス内のAβ斑とミクログリアとが、どのように免疫染色され、さらにSPIMシステムでどのように観察・画像化されたかを示す概略ダイアグラムである。Aβ斑とミクログリアとはそれぞれ緑色の斑点と赤色の点で示されている。青緑色とオレンジ色の矢印はそれぞれSPIMシステムの照明光と検出の方向を示している。実際の観察領域四角で囲んでいる。XYZ座標対象物に対して定義されている。(b−i)は、20月齢のAppNL−F/NL−Fマウスを使用したデータである。(b,c)は、観察領域から生成した2つのボリュームレンダリング画像である((b)xy面;(c)xz面;(a)のxyz面参照)。(d)は観察領域内に検出された37個のAβ斑とミクログリアの高倍率ボリュームレンダリング画像である。(e)は、斑を中心に、3D空間上で測定された距離を示す図である。斑の縁から、それぞれのミクログリア中心部への、自動計算された距離(黄色の矢印)を表す。(f−h)は、異なるミクログリア相互作用を示す二つのAβ斑を示す図である。(h)は二つの斑の、斑の縁からミクログリア中心までの距離を示したヒストグラム図である。グラフには、活性化されたミクログリア(ピンク色)の数と、休眠状態のミクログリア(スミレ色)の数とが示されている。(i)のヒストグラム図は、37斑すべてについて、斑の縁から近接するミクログリアの中心部への距離を示している。(j−l)は、10月齢のAppNL−F/NL−Fマウスを使用したデータである。(j)は、観察領域から生成したボリュームレンダリング画像を示す図である(xy面)。(k)は観察領域内に検出された27個のAβ斑とミクログリアの高倍率ボリュームレンダリング画像を示す図である。(l)のヒストグラム図は、その27斑すべてについて、斑の縁から近接するミクログリアの中心部への距離を示している。
図5は、AD患者(2人)の死後脳サンプル内に存在するAβ斑とミクログリアとの間の相互作用を、多色AbScaleを使って3D可視化した図である。データはAlexa488-6E10、Alexa546-Iba1および Cy5-C60を用いた3D−IHCによって得られた。(a−c)は、84女性認識番号♯1617)のサンプルから得たデータである。(a)は観察領域から得られたボリュームレンダリング画像(XZ面)を示す。この領域には11個の有芯斑が見られ、そのうち3つはミクログリアと関連し、8つはミクログリアから独立している(図19参照)。さらに(b)は、独立した2つの斑((a)に§および†と示されている)を強調した高倍率ボリュームレンダリング画像(xy面)を示している。一方(c)は、ミクログリアと関連した斑のうち1つ((a)に「縦方向++」と示されている)を強調する高倍率ボリュームレンダリング(xy面)を示している。(d−i)は、82才男性(認識番号#1523)のサンプルから得たデータである。(d)は観察領域から生成したボリュームレンダリング画像(xz面)を示す図である。(e)は、様々な部位と厚さのz−スタック画像(2次元プロジェクション画像)を作るために、110枚のxy画像から構成される観察領域の3D再構成をどのように体系的に再スライスしたかを描いたダイアグラムである。z−スタックされた幾つかのxy画像によって、大量の明るい物体(細胞内の6E10シグナル)に対して比較的大きく不明瞭な物体(拡散斑)が見られる。(f)は、画像番号28−33のxy画像から成るz−スタック画像を示し、一団となったミクログリアと空間的に相互作用する拡散斑の存在を示す図である。(g)は、画像番号53−63のxy画像から成るz−スタック画像を示し、ミクログリアと強く相互作用する拡散斑の存在を示す図である。こうした体系的な再スライスによって、(d)に示す観察領域内に全26個の拡散斑があることが明らかになった。図19を参照。(h、i)は、(f、g)にそれぞれ示された拡散斑を強調するボリュームレンダリング画像である。スケールバー:f、gでは100μm。VR:ボリュームレンダリング。Zst:z−スタック化
図6は、ScaleSQ方式、すなわち、脳スライスに適応すべきScaleS方式の迅速版を示す。顕微鏡観察のためのマウントは何れも、ScaleS4(0)を用いて室温で2時間以下の処理によって行った。(a−f)はScaleSQ(0)を用いて処理した結果を示した図である。(a−c)は、8週齢のYFP−Hマウスの1mmの厚さにスライスした脳を、37℃でScaleSQ(0)内において、(a)0時間(b)1時間(c)2時間インキュベーションした後の透過画像を示している。(d)はScaleSQ(0)で処理された脳スライスの蛍光画像を示す図である。(e)は皮質領内((d)中の、白い四角の囲み線によって示されている)の、YFP発現神経細胞の3Dレンダリングを示している。723個のSPIM画像を得て、3D再構成(白線で囲った領域)を行った。青色の矢印は照明光の方向、緑色の矢印は蛍光検出の方向を示す。(f)は、ScaleSQ(0)処理後に当該処理前の状態に復元したマウスの脳サンプル内にある興奮性シナプスを、EMによって観察した結果を示す図である。(g−l)はScaleSQ(5)用いて処理した結果を示した図である。(g−i)は、8週齢のYFP−Hマウスの1mm厚の脳スライスを、(a)0時間、(b)1時間、(c)2時間、37℃でScaleSQ(5)内でインキュベーションした後の透過画像を示す図である。(j)は、ScaleSQ(5)で処理された脳スライスの蛍光発光画像を示す図である。(k)は皮質領内((j)中の白い四角の囲み線によって示されている)のYFP発現神経細胞の3Dレンダリングを示している。3D再構成(白線で囲まれた領域)を作るために、769個のSPIM画像を得た。(l)は、ScaleSQ(5)処理の後、PBSで置換することによって当該処理前の状態に復元したマウスの脳サンプル内において、EMによって観察される、興奮性シナプスを示した図である。(e,k)内の青色及び緑色の矢印は、それぞれ照明光の方向と蛍光検出の方向とを示す。ATは軸索終末を、Denは樹状突起を示す(f,l)。塗り潰された矢頭はシナプス後肥厚を示している。(d)、(j)のスケールバーは2.5mm、(f)、(l)のスケールバーは200nmを示している。更なる詳細情報は、図20に示されている。
ソルビトールを含む生物材料用透明化試薬と、エリスリトールを含む比較用の試薬による、マウス大脳半球の透明化を比較した図である。
実施例で用いた試薬の組成を示す図である。
(a)はScaleA2処理のプロトコールの一例を示す図である。このプロトコールに関して、米国公開特許2013-0045503号も参照することができる。(b)はScaleS処理のプロトコールの一例を示す図である。ScaleS処理に用いる溶液の組成は、図8に示す。初めにScaleS0溶液でのインキュベーションという極めて簡単な処理によって、生物材料(特に固定した生物材料)の物質透過性を大きく向上させる。次いで、透過性が向上した生物材料を、順次、ScaleS1溶液、ScaleS2溶液、およびScaleS3溶液でインキュベーションする。最後に、生物材料をPBSで洗浄することによって(deScaling)、生物材料を元の状態に回復させ、次いで、観察前にScaleS4溶液でインキュベーションする。ScaleS4溶液はマウント用溶液としても用いる。各段階のインキュベーションは4℃程度の低温で行うこともできるが、図示したようにより高温(例えば37℃)で行うことによって、透明化処理がより加速する効果が得られる。インキュベーションは、温度制御が可能なオービタルシイカーで行う。
図10は、AbScaleのプロトコールの一例を示す図である。なお、図中に示すScaleB4(0)は、8M濃度尿素水溶液である。
図11は、ChemScaleのプロトコールの一例を示す図である。なお、図中に示すScaleB4(0)の組成は、図10と同じである。
図12は、ScaleS処理を行った場合の生物材料の体積変化を示す図であり、(A)は、体積変動処理開始前(0時間)と処理後(72時間)とで比較したグラフであり(コントロールはPBS処理)、(B)は、ScaleS処理、ScaleA2処理、PBS処理(コントロール)を行った後の生物材料の外観を示す。
図13は、二種類のマウス由来試料を用いた実験において、CUBICに基づく処理がYFP蛍光に与える悪影響を示す図である。PBS処理(コントロール)よりも、CUBICに基づく処理が、YFP蛍光の減弱をもたらしている。
図14は、ScaleS処理(左側)及びCUBIC処理(右側)後に元の状態に復元した切片における免疫組織化学を示す。C57BL6/J野生型マウス(10週齢)から得た脳サンプルを二つの半球に分割した。右半球及び左半球はそれぞれScaleS処理及びCUBIC処理によって透明化された後に、PBSで洗浄することによって元の状態に復元された。20%スクロース/PBS中で凍結保護をした後に、復元した脳サンプルをOCTコンパウンド中に包埋した。クライオスタットを用いて50μm厚の状断を切り出した。得られた切片を、0.1(wt/vol)%トリトンX-100/1%のブロッキング試薬(ロッシュ)/PBS中にて、1時間、透過処理ブロッキング処理した。その後、フリーフローティング免疫組織化学により処理した。使用した二次抗体は、Alexa Fluor546にコンジュゲートしたウサギIgGに対するヤギ抗体(Molecular Probes)、Alexa Fluor546にコンジュゲートしたマウスIgGに対するヤギ抗体(Molecular Probes)、Alexa Fluor488にコンジュゲートしたウサギIgGに対するヤギ抗体(Molecular Probes)である。DGは歯状回を、GCLは顆粒細胞層を、MF苔状線維を、SGZは顆粒細胞下帯を、SOは上昇層を、SRは放線状層を示す。スケールバーは100μmである。
ScaleS処理(左側)及びCUBIC処理(右側)後に元の状態に復元した脳サンプルのTEM観察の結果を示す。C57BL6/Jマウス(9週齢)の全脳を、4%PFAで固定した。固定した脳から、海馬を含むスライス(1mm厚)を調製し、半分に分割した。左半分は、図9のbの手法に従い、ScaleS処理によって透明化した。右半分はCUBICによって透明化したが、スライスの厚みを考慮して、CUBIC試薬1によるインキュベーションの時間を半分にした。二つの透明化した試料を、PBS(−)で、4℃で12時間、洗浄することによって元の状態に復元した。二つの復元したスライスから超薄切片を調製し、1200EX-II(JEOL)を用いたTEM観察に供した。
図15に示す結果と同様にして、ScaleS処理(左側)及びCUBIC処理(右側)後に元の状態に復元した脳サンプルのTEM観察の結果を示す別の図である。
図17は、多色イメージング実験に用いた光学的要素を示す図である。Alexa488、Alexa546、Cy3、Cy5及びPP−BTA−1の励起スペクトル点線)及び発光スペクトル実線)をノーマライズし、対応する図2図3図4図5と同じ色で示している。(a)は、立体顕微鏡での観察を示す(図2に対応)。励起フィルタ及びエミッションフィルタ透過特性(立体顕微鏡用)は、ボックスで囲んで示している。(b)、(c)、(d)は、共焦点顕微鏡での観察(図3a、図3bに対応)、及びSPIMでの観察(図3c、図4、及び図5)を示す。図中で、レーザーラインは矢印で示している。エミッションフィルタの透過特性は、緑及び赤のボックスで示している。
図18は、活性化されたミクログリアおよび静止しているミクログリアの、斑の端部までの距離の分布を、個々の斑について示す棒グラフである。図の左側は、20か月齢のAPPNL−F/NL−Fマウス脳領域における37の斑。図の右側は、10か月齢のAPPNL−F/NL−Fマウス脳領域における27の斑。それらの近傍(<21μm)における任意の活性化されたミクログリアによって会合されていない退化した斑の番号を、薄い色の写字体によって表した。他の斑(おそらく急性または亜急性)の番号を赤で表した。近くで隣あっているミクログリアおよび離れて隣あっているミクログリアを区別可能なように、グラフ内にある縦の点線は、21μmに位置している。
図19は、アルツハイマー患者死後の脳サンプルにおける2つの免疫シグナル(6E10(緑)およびA60(青))の三次元再構築を示す図である。各サンプルについて、ミクログリアとの会合のありおよびなしにおける、有芯斑および拡散斑を、カウントし、その体積を測定した。また、すべてのサンプルを、ミクログリア細胞について免疫染色した。#1617および#1523についての6E10シグナル(緑)およびIbalシグナル(赤)を、それぞれ図5(a)および図5(b)に示している。
図20は、ScaleSQ(0)(a−h)およびScaleSQ(5)(i−p)での処理の結果を示す図である。(a−h)は、37℃のScaleSQ(0)におけるインキュベーションの前(a)、0時間後(b)、1時間後(c)、および2時間後(d、e)における、8週齢のYFP−Hマウスから作製した1mm厚の脳切片の蛍光画像(a、e)および透過画像(b−d)である。(f−h)は、ScaleSQ(0)処理から復元した脳サンプルのTEM観察の結果である。超薄切片を、図1のときと同様にして、作製し、画像化した。(f)は、神経細胞体が写っている顕微鏡観察結果を示す図である。(g)は、興奮性の非対称シナプスを示している(f)における囲みに対応する拡大顕微鏡像を示す図である。(h)は、有髄軸索を示している(f)における囲みに対応する拡大顕微鏡像を示す図である。(i−m)は、37℃のScaleSQ(5)におけるインキュベーションの前(i)、0時間後(j)、1時間後(k)、および2時間後(l、m)における、8週齢のYFP−Hマウスから作製した1mm厚の脳切片の蛍光画像(i、m)および透過画像(j−l)を示す。(n−p)は、ScaleSQ(5)から復元させた脳サンプルのTEM観察の結果を示す。超薄切片を、図1のときと同様にして、作製し、画像化した。(n)は、神経細胞体が写っている顕微鏡像を示す図である。(o)は、興奮性の非対称シナプスを示している(n)における囲みに対応する拡大顕微鏡像を示す図である。(p)は、有髄軸索を示している(n)における囲みに対応する拡大顕微鏡像を示す図である。矢頭は、肥厚化したシナプス後性密集度を示している。Den:樹状突起、AT:軸索終末、My:ミエリン、スケールバー:(a−e、i−m)5mm、(f、n)4μm、(g、h、o、p)200μm。
図21は、ScaleSS20及びScaleSS40で処理したYFP−Hマウスの脳半球について、光透過性、YFP蛍光のシグナル強度および体積変動を調べた結果を示す図である。(a−c)は、光透過性、YFP蛍光のシグナル強度および体積変動についてグラフで表した図である。(d‐e)はScaleSS20及びScaleSS40による透明化の結果を示した写真をもとにした図である。(d)は顕微鏡写真をもとにした図であり、(d)の蛍光画像を(e)で示す。(L):左半球、(R):右半球。
図22は、YFP−Hマウスの全脳をScaleSS40で処理し、模様のついた背景と共に撮影された写真をもとにした図である。

0028

以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。

0029

〔1.生物材料用透明化試薬〕
(生物材料用透明化試薬の有効成分)
本発明にかかる一の態様における「生物材料用透明化試薬」は、必須の有効成分として「尿素」を含む、溶液である。

0030

本発明にかかる他の態様における「生物材料用透明化試薬」は、必須の有効成分として「尿素誘導体」を含む、溶液である。

0031

上記尿素誘導体の種類は特に限定されないが具体的には例えば、各種のウレイン、又は、下記の一般式(1)に示す化合物である。なお、一般式(1)に示す化合物には一部のウレインが含まれる。本発明にかかる生物材料用透明化試薬は、尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含んでいればよいが、これらの中で尿素を含むことがより好ましい。

0032

一般式(1)に示す尿素誘導体において、R1、R2、R3、R4は、互いに独立に水素原子(但し、R1〜R4の全てが水素原子の場合は尿素自体に相当するので除かれる)、ハロゲン原子、又は炭化水素基であり、炭化水素基を構成する炭素原子複数個ある場合には当該炭素原子の一部が、窒素原子酸素原子硫黄原子等のヘテロ原子により置換されていてもよい。炭化水素基としては、鎖状炭化水素基、及び環状炭化水素基が含まれる。

0033

上記鎖状炭化水素基として、例えば、鎖状アルキル基鎖状アルケニル基、及び鎖状アルキニル基等が例示される。鎖状炭化水素基を構成する炭素数は特に限定されないが、例えば、6以下の直鎖状又は分岐状のものが挙げられ、好ましくは炭素数が1〜3のアルキル基である。鎖状炭化水素基は、例えば、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。鎖状アルキル基の例としては、メチル基エチル基プロピル基イソプロピル基ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。

0034

上記環状炭化水素基として、例えば、シクロアルキル基、及びシクロアルケニル基等が例示される。環状炭化水素基は、例えばハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、等の、炭素数が3以上で、好ましくは6以下のものが挙げられる。シクロアルケニル基の例としては、シクロヘキセニル基等の、炭素数が3以上で、好ましくは6以下のものが挙げられる。

0035

上記ハロゲン原子としては、フッ素原子塩素原子臭素原子ヨウ素原子等が挙げられる。

0036

また、一般式(1)に示す尿素誘導体のより好ましい具体例は、以下の1)〜2)に示す通りである。
1)R1〜R4より選択される任意の3つの基が水素原子であり、残りの1つの基がハロゲン原子、又は炭素数1〜6以下の鎖状炭化水素基である。より好ましくは残りの1つの基が、炭素数1〜3、又は炭素数が1〜2のアルキル基である。
2)R1〜R4より選択される任意の2つの基が水素原子であり、残りの2つの基が互いに独立にハロゲン原子、又は炭素数1〜6以下の鎖状炭化水素基である。より好ましくは残りの2つの基が何れも、炭素数1〜3、又は炭素数が1〜2のアルキル基である。なお、水素原子となる2つの基の一方はR1、R2の何れかから選ばれ、他方はR3、R4の何れかから選ばれることがより好ましい。

0037

尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の上記化合物の含有量は、生物材料の透明化の効果を奏する限り特に限定されないが、1.0M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で含むことが好ましい。当該化合物の濃度は、より好ましくは1.5M以上で8.0M以下の範囲内であり、さらに好ましくは1.8M以上で6.0M以下の範囲内である。当該化合物の濃度は、一例では、3M以上で5M以下の範囲内でありえる。なお、「尿素及び尿素誘導体」の含有量の上限は、使用する溶媒に対する尿素の溶解度により決定される。対象とする生物材料の種類にも依存するが、例えば、「生物材料用透明化試薬」における尿素及び尿素誘導体の含有量が比較的少ない場合には処理時間を長くし、尿素及び尿素誘導体の含有量が比較的多い場合には処理時間を短くすることで必要な透明化処理を行うことができる。

0038

(ソルビトール)
本発明にかかる「生物材料用透明化試薬」は、尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物の他に、必須の有効成分として「ソルビトール」を含む。「生物材料用透明化試薬」は、ソルビトールを、15(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましい。ソルビトールの濃度はより好ましくは、18(w/v)%以上で48(w/v)%以下の範囲内である。ソルビトールの濃度は、一例では、30(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内でありえる。本発明にかかる「生物材料用透明化試薬」において、ソルビトールがこれらの濃度範囲の場合、尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の上記化合物の濃度は好ましくは1.0M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で含むことが好ましい。当該化合物の濃度は、より好ましくは1.5M以上の範囲内であり、さらに好ましくは1.5M以上で8.0M以下の範囲内であり、特に好ましくは1.8M以上で6.0M以下の範囲内である。当該化合物の濃度は、一例では、3M以上で5M以下の範囲内でありえる。ソルビトールの濃度と、尿素等の濃度とがいずれも上記範囲内にある場合は、特に、透明化処理の時間短縮と生物材料の変形抑制の効果とが両立する。

0039

(有効成分として尿素又は尿素誘導体と、ソルビトールとを用いる利点)
尿素又は尿素誘導体と、ソルビトールとを組合わせて用いる利点として、透明化処理の有効成分として尿素又は尿素誘導体のみを用いる場合と比較して、生物材料の原形を大きく変化させずに、迅速に透明度を上げることが出来る点が挙げられる。ソルビトールは、尿素又は尿素誘導体と組み合わせずに使用した場合、実質的に効果が見いだされなかった。しかし、尿素又は尿素誘導体と組み合わせて使用した場合、生物材料の原形を大きく変化させずに、迅速に透明化を行うことが出来るという効果を同時に示す。その結果、生物材料が、例えば、極めて脆弱な組織(等)であったとしてもその損傷及び変形を抑制しつつ迅速に透明化処理を行いうる。また、これまで透明化が難しいとされてきた老齢の生物由来生体試料に対しても損傷及び変形を抑制しつつ迅速に透明化処理を行いうる。

0040

また、尿素、尿素誘導体、及びソルビトールに共通して次のことが言える。毒性が極めて低く、特に尿素、及びソルビトールに関しては生体由来の成分である。そのため、本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は蛍光タンパク質へのダメージ、及びその蛍光の消失が少なく、蛍光タンパク質を用いた生物材料の観察にも適用しうるものとなる。3)極めて安価で入手容易でもあり、かつ取扱い性に優れるため、極めて低コストかつ簡単な手順で透明化処理を行いうるものとなる。

0041

また、上記の利点に加えて、従来の生物材料用透明化試薬と比較して、光散乱性が高い不透明な生物材料の透明性を格段に向上させることができ、超深部組織に存在する種々の蛍光タンパク質および蛍光物質の観察が可能となる。特に脳組織では、これまで深部観察バリアーであった白質層を透明化することが可能となり、白質層より深部に位置する領域(例えば脳梁)の観察が可能となる。本発明の試薬による透明化処理は可逆的である。具体的には、透明化処理後の生物材料を平衡塩類溶液に浸漬するのみで、透明化処理前の状態に戻すことが可能である。透明化処理の前後においてタンパク質等の抗原性も実質的に変化せずに保存されるため、通常の組織染色、及び免疫染色の手法を用いた分析が可能である。

0042

グリセロール
本発明にかかる「生物材料用透明化試薬」は、必要に応じて「グリセロール」を含む。グリセロールの含有量は特に限定されないが、2.5(w/v)%以上で35.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、3.0(w/v)%以上で30.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、5.0(w/v)%以上で25.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが特に好ましい。なお、単位(w/v)%とは、「生物材料用透明化試薬」の体積(v(ミリリットル))に対する、使用するグリセロールの重量(w(グラム))の百分率である。

0043

グリセロールは免疫応答による拒絶が比較的低く、かつ網内系によるトラップが比較的生じ難く肝臓並びに腎臓等に蓄積する虞が比較的低い。そのため、生物材料としての生体に上記「生物材料用透明化試薬」を適用し易いという利点がある。さらに、グリセロールは比較的安価であるという利点もある。

0044

(界面活性剤)
本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、必要に応じて界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は、生物組織への本試薬の侵入を緩やかに向上させるという理由から、非イオン性の界面活性剤が好ましい。非イオン性の界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテートポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の脂肪酸系;ポリビニルアルコール等の高級アルコール系;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェノール系の界面活性剤が挙げられる。具体的には、例えば、TritonX−100、及びTritonX-140等のTritonX(登録商標シリーズ;Tween−20、Tween-40、Tween-60、及びTween-80等のTween(登録商標)シリーズ;NP-40(商
品名);からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。界面活性剤は、必要に応じて、二種以上を混合して使用することもできる。

0045

これら界面活性剤は、尿素の、生物材料に対する浸透性を高め、透明化処理の効率を向上させうる。特に、脳組織の白質層、脊髄末梢神経線維束等、のように、透明化処理が比較的困難な生物材料の透明化を行う場合には、「生物材料用透明化試薬」は界面活性剤を含むことが好ましい。

0046

なお、上記界面活性剤は、尿素に対するのと同様に、生物材料に対する尿素誘導体の浸透性を高めうる。

0047

界面活性剤を使用する場合、生体材料中の細胞の微細構造の変性を防ぐため、その含有量は5.0(w/v)%以下の濃度に抑える必要がある。界面活性剤の5.0(w/v)%以下の濃度であれば特に限定されないが、0.025(w/v)%以上で2.5(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、0.05(w/v)%以上で0.5(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、0.05(w/v)%以上で0.2(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが特に好ましい。なお、単位(w/v)%とは、「生物材料用透明化試薬」の体積(v(ミリリットル))に対する、使用する界面活性剤の重量(w(グラム))の百分率である。

0048

(水溶性の高分子化合物
本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、必要に応じて水溶性の高分子化合物をさらに含んでいてもよい。ここで、高分子化合物とは、分子量が例えば5万〜6万程度以上の大きさであって、細胞内に実質的に侵入しないものである。また、高分子化合物は、生物材料の変性等を引き起こさないものが好ましい。水溶性の高分子化合物として、具体的には、例えば、架橋型スクロース高分子物質ポリエチレングリコールポリビニルピロリドン、又はパーコール(商品名。コロイド状シリカをポリビニルピロリドン皮膜被覆した高分子物質)等が挙げられる。架橋型スクロース高分子物質として、具体的には例えば、フィコール(Ficoll)PM70(商品名))のような、スクロースをエピクロルヒドリン架橋(共重合)した重量平均分子量約7万の高分子物質等が挙げられる。

0049

これら水溶性の高分子化合物は、尿素及び尿素誘導体とは異なり細胞内に浸入することがなく、また水溶性であるから、細胞内外浸透圧差の調整に寄与すると考えられる。そのため、透明化処理の対象となる生物材料の原型維持に寄与し、とりわけ、生物材料の膨張の防止に寄与する。特に限定されないが、本発明に係る「生物材料用透明化試薬」の浸透圧が比較的高い場合には、当該試薬はこれら水溶性の高分子化合物を含むことが好ましい。

0050

「水溶性の高分子化合物」を使用する場合、その含有量は特に限定されないが、2.5(w/v)%以上で40.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましい。また、生物材料の膨張抑制効果と透明化処理後の屈折率とのバランスという観点では、上記含有量は、5.0(w/v)%以上で25.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、10.0(w/v)%以上で20.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、10.0(w/v)%以上で15.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが特に好ましい。なお、単位(w/v)%とは、「生物材料用透明化試薬」の体積(v(ミリリットル))に対する、使用する「水溶性の高分子化合物」の重量(w(グラム))の百分率である。

0051

(その他の成分1)
本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、必要に応じて、カルボキシビニルポリマーヒドロキシプロピルメチルセルロースプロピレングリコール、ならびにマクロゴールから選択される少なくとも一種の化合物を「乾燥抑制成分」として含むことができる。乾燥抑制成分は、透明化処理の対象となる生物材料の乾燥を防止する。とりわけ、透明化処理後に光学顕微鏡による観察に供されるまでの時間が比較的長い場合、或いは、光学顕微鏡による長時間観察に供される場合には、本発明の試薬は、上記の乾燥抑制成分を含むことが好ましい。なお、上記したグリセロールは乾燥抑制作用も有する。

0052

上記「乾燥抑制成分」を使用する場合、その含有量は特に限定されないが、0(w/v)%を超え10.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、1.0(w/v)%以上で7.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、2.5(w/v)%以上で5.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが特に好ましい。なお、単位(w/v)%とは、「生物材料用透明化試薬」の体積(v(ミリリットル))に対する、使用する「乾燥抑制成分」の重量(w(グラム))の百分率である。

0053

(その他の成分2)
本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、必要に応じて、ソルビトールを除く糖および糖アルコールからなる群に含まれる化合物を「透明度向上成分」としてさらに含むことができる。ソルビトールを除く糖および糖アルコールからなる群に含まれる化合物としては、エリスリトール、フルクトース、グリセロール、マンニトール、スクロース、およびキシリトールが挙げられるがこれらに限定されない。透明度向上成分は、単独で使用する場合に本発明の生物材料用透明化試薬の必須の有効成分としてのソルビトールと代替するには透明化処理の性能が劣る。しかしながら、透明度向上成分は、尿素又は尿素誘導体とソルビトールと共に使用されることで、透明化処理の対象となる生物材料の透明度を「透明度向上成分」を使用しない場合と比較してさらに向上させることに寄与する。

0054

上記「透明度向上成分」を使用する場合、その含有量は特に限定されないが、0(w/v)%を超え50.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、10.0(w/v)%以上で45.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、20.0(w/v)%以上で40.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが特に好ましい。なお、単位(w/v)%とは、「生物材料用透明化試薬」の体積(v(ミリリットル))に対する、使用する「透明度向上成分」の重量(w(グラム))の百分率である。

0055

また、本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、上述した「尿素及び/又は尿素誘導体」、「界面活性剤」及び「水溶性の高分子化合物」以外に、例えば、pH調整剤、及び浸透圧調整剤等の添加剤を必要に応じて含んでいてもよい。

0056

また、本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、必要に応じて、シクロデキストリン類、及び/又は、N−アセチル−L−ヒドロキシプロリン等からなる群より選択される、コラーゲン結合性を有する化合物、をさらに含んでいてもよい。シクロデキストリン類とは、複数個のグルコースが環状結合して形成されたシクロデキストリン骨格を有する化合物の総称であり、より具体的には例えば、α−シクロデキストリン及びその誘導体、β−シクロデキストリン及びその誘導体(例えば、メチル−β−シクロデキストリン等)、並びに、γ−シクロデキストリン及びその誘導体、等が挙げられる。生物材料用透明化試薬におけるシクロデキストリンの含有量は特に限定されないが、例えば、1mM以上で5mM以下の範囲内の濃度で含まれることが好ましい。また、生物材料用透明化試薬における、コラーゲンと結合性を有する上記化合物の含有量は特に限定されないが、1mM以上で3mM以下の範囲内の濃度で含まれることが好ましい。シクロデキストリン類、及び/又は、コラーゲンと結合性を有する化合物、をさらに含有することによって、生物材料に対する試薬の浸透性が格段に向上する。

0057

(溶媒)
本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、尿素が可溶な溶媒を含む溶液である。溶媒の種類は、尿素が可溶な限り特に限定されないが、水を主溶媒として用いることが好ましく、水のみを溶媒として用いることが特に好ましい。なお、本発明において、「水を主溶媒として用いる」とは、使用される全溶媒に占める水の体積の割合が他の溶媒と比較して最も多いことを指し、好ましくは使用される全溶媒の体積の合計の50%を超え100%以下の量の水を用いることを指す。また、水を主溶媒として用いて調製された「生物材料用透明化試薬」を、水溶液としての「生物材料用透明化試薬」と称する。

0058

なお、水を主溶媒として用いた場合には、例えば、固定化した標本にはジメチルスルホキシドDMSO)を水と混合し用いてもよい。例えば固定化した標本にDMSOを混合して用いれば、生物材料に対する試薬の浸透性の向上、及び角質表面を有する組織の透明化処理促進等の効果が期待される。なお、ジメチルスルホキシドの使用量は特に限定されないが、溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内であることが特に好ましい。

0059

溶媒として水を用いる主な利点は、以下の通りである。1)本発明に係る「生物材料用透明化試薬」の有効成分である尿素及びソルビトールは水への溶解性に優れているため、生物材料用透明化試薬の調製が容易かつ低コストとなる。2)有機溶剤を主溶媒として用いる場合と比較して、透明化処理時に処理対象となる生物材料の脱水を伴わない。そのため、生物材料が収縮するという問題を抑制可能となる。3)有機溶剤を主溶媒として用いる場合と比較して、蛍光タンパク質に損傷を与える可能性が著しく低減される。そのため、透明化処理を受けた生物材料を、蛍光タンパク質を用いて観察可能となる。4)固定化された材料に限定されず、生材料の透明化処理に適用可能となる。5)後述するように透明化処理が可逆的となり、透明化処理後の生体試料を必要に応じて透明化処理前の状態に戻すことができる。6)有機溶剤を主溶剤として用いる場合と比較して、取り扱いの安全性がより高くなる。

0060

また、本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、透明化処理の対象となる生物材料に好適なpHの維持が可能な緩衝液であってもよい。「生物材料用透明化試薬」のpHは特に限定されないが、6.0〜9.0の範囲内であることが好ましく、6.5〜8.5の範囲内であることがより好ましく、6.8〜8.0の範囲内であることがより好ましい。本発明に係る「生物材料用透明化試薬」は、透明化処理の対象となる生物材料の変形をさらに抑制し、かつ生物材料内に尿素が充分に浸透する程度に、その浸透圧が調整されていてもよい。

0061

なお、尿素誘導体に関しても、尿素と同様の上記溶媒を用いることができる。

0062

(対象となる生物材料)
本発明の「生物材料用透明化試薬」を用いた透明化処理の対象となる生物材料の種類は特に限定されないが、植物由来の材料又は動物由来の材料が好ましく、魚類両生類爬虫類鳥類又は哺乳類哺乳動物)等の動物由来の材料がより好ましく、哺乳動物由来の材料が特に好ましい。また、哺乳動物の種類は特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモットマーモセット等のヒトを除く霊長類、等の実験動物イヌネコフェレット等の愛玩動物ペット);ブタウシウマ等の家畜;ヒト;が挙げられる。

0063

また、生物材料は、個体そのものであってもよく(生きているヒト個体そのものは除く)、多細胞生物の個体から取得した器官、組織、或いは細胞であってもよい。本発明の「生物材料用透明化試薬」は優れた透明化処理能力を有するので、生物材料が、多細胞動物由来の組織又は器官(例えば、脳全体又はその一部)、或いはヒトを除く多細胞動物の個体(例えば、胚等)そのものであっても透明化処理を適用可能である。本発明の「生物材料透明化試薬」は、生物材料の変形を抑制する効果が極めて大きいため、脆弱な生物材料の透明化に特に好適である。ここで脆弱な生物材料とは、植物細胞幼芽カルス、発生初期段階動物胚幹細胞初代培養細胞株化細胞を特殊な培養環境で3次元的に生育させた塊(spheroid, neurosphere, cell aggregatesなど) 等が挙げられる。

0064

また、上記の生物材料は、顕微鏡観察用に固定化(fixed)処理された材料であってもよく、固定化されていない材料であってもよい。なお、固定化された材料を用いる場合には、固定化処理後に、例えばPBS溶液あるいは20(v/w)%ショ糖−PBS溶液に、充分に(例えば、24時間以上)浸漬する処理を行うことが好ましい。さらに、当該材料をOCTcompoundに包埋して液体窒素凍結後、PBS中で解凍し、4(v/w)%PFA(パラホルムアルデヒド)−PBS液で再度固定する処理を行うことが好ましい。

0065

上記生物材料は、具体的には例えば、蛍光性化学物質注入した生体組織、蛍光性化学物質で染色を行った生体組織、蛍光タンパク質を発現した細胞を移植した生体組織、または蛍光タンパク質を発現した遺伝子改変動物の生体組織等であってもよい。

0066

(生物材料用透明化試薬の特に好適な組成の一例)
本発明にかかる「生物材料用透明化試薬」の特に好適な組成の例示は以下の通りである。
・生物材料用透明化試薬(1):
水に、尿素を1.5M以上で8.0M以下の範囲内の濃度で含み、かつ、ソルビトールを15(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含んでなる水溶液。さらにグリセロールを含む場合は、2.5(w/v)%以上で35.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、3.0(w/v)%以上で30.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、5.0(w/v)%以上で15.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがさらに好ましい。ジメチルスルホキシドを含む場合は、溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内であることが特に好ましい。
・生物材料用透明化試薬(2):
水に、尿素を3M以上で8M以下の範囲内の濃度で含み、かつ、ソルビトールを15(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含んでなる水溶液。グリセロールは、2.5(w/v)%以上で35.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、3.0(w/v)%以上で30.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、5.0(w/v)%以上で15.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがさらに好ましい。ジメチルスルホキシドを含む場合は、溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内であることが特に好ましい。
・生物材料用透明化試薬(3):
水に、尿素を2M以上で4M以下の範囲内の濃度で含み、ソルビトールを15(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含んでなる水溶液。さらにグリセロールを含む場合は、2.5(w/v)%以上で35.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、3.0(w/v)%以上で30.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、5.0(w/v)%以上で15.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがさらに好ましい。ジメチルスルホキシドを含む場合は、溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内であることが特に好ましい。
・生物材料用透明化試薬(4):
水に、尿素を3M以上で5M以下の範囲内の濃度で含み、ソルビトールを30(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含んでなる水溶液。グリセロールを含む場合は、2.5(w/v)%以上で35.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、3.0(w/v)%以上で30.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、5.0(w/v)%以上で15.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがさらに好ましい。ジメチルスルホキシドを含む場合は、溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内であることが特に好ましい。
・生物材料用透明化試薬(5):
水に、尿素を1.5M以上で4.0M以下の範囲内の濃度で含み、ソルビトールを40(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含んでなる水溶液。グリセロールを含む場合は、20(w/v)%以上で35(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、22.5(w/v)%以上で30.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましい。ジメチルスルホキシドを含む場合は、溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内であることが特に好ましい。
・生物材料用透明化試薬(6):
水に、尿素を5.0M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で含み、ソルビトールを15(w/v)%以上で40(w/v)%以下の範囲内の濃度で含んでなる水溶液。グリセロールを含む場合は、20(w/v)%以上で35(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、22.5(w/v)%以上で30.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましい。ジメチルスルホキシドを含む場合は、溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内であることが特に好ましい。
・生物材料用透明化試薬(7):
水に、尿素を3M以上で5M以下の範囲内の濃度で含み、ソルビトールを35(w/v)%以上で45(w/v)%以下の範囲内の濃度で含んでなる水溶液。グリセロールを含む場合は、20(w/v)%以上で35(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、22.5(w/v)%以上で30.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましい。ジメチルスルホキシドを含む場合は、溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内であることが特に好ましい。

0067

上記何れの生物材料用透明化試薬(1)〜(7)においても、TritonX−100等の非イオン性の界面活性剤を、0.025(w/v)%以上で5(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、0.05(w/v)%以上で0.5(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、0.05(w/v)%以上で0.2(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが特に好ましい。

0068

また、上記何れの生物材料用透明化試薬(1)〜(7)において、スクロース等の透明度向上成分を含む場合は、10.0(w/v)%以上で50.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、20.0(w/v)%以上で40.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましい。

0069

また、上記何れの生物材料用透明化試薬(1)〜(7)においても、シクロデキストリン類、及び/又は、N−アセチル−L−ヒドロキシプロリン等からなる群より選択される、コラーゲンと結合性を有する化合物、をさらに含んでいてもよい。シクロデキストリンは1mM以上で5mM以下の範囲内の濃度で含まれることが好ましい。また、コラーゲンと結合性を有する上記化合物は、1mM以上で3mM以下の範囲内の濃度で含まれることが好ましい。コラーゲンと結合性を有する化合物、及び/又は、シクロデキストリン類を含む生物材料用透明化試薬は、白質を含む生物材料の透明化に特に好適であり、中でも脊髄の透明化に特に好適である。

0070

なお、尿素に代えて尿素誘導体(又は尿素と尿素誘導体との混合物)を用いる場合には、上記した尿素と同じ濃度で尿素誘導体等を用いて、生物材料用透明化試薬(1)〜(7)を調製すればよい。

0071

(生物材料用透明化試薬の調製)
本発明にかかる「生物材料用透明化試薬」の調製方法は、「尿素及び/又は尿素誘導体」、「ソルビトール」、並びに、必要に応じて用いる「グリセロール」、「界面活性剤」、「水溶性の高分子化合物」、「乾燥抑制成分」、及び「透明度向上成分」等を、溶媒中に溶解することで調製される。溶媒中に溶解、又は混合する手順は特に限定されない。

0072

〔2.生物材料用透明化試薬を用いた透明化処理法の一例〕
(透明化処理工程)
本発明にかかる「生物材料用透明化試薬」を用いた生物材料の透明化処理方法は、上記の「生物材料」に対して「生物材料用透明化試薬」を浸潤させる工程(透明化処理工程)を含む方法である。より具体的には、透明化処理用容器内で、上記の「生物材料」に対して「生物材料用透明化試薬」を浸潤させる。

0073

上記の透明化処理工程において、透明化処理用の容器内に「生物材料用透明化試薬」と「生物材料」とを格納する順序は特に限定されないが、まず「生物材料用透明化試薬」を格納し、次いで「生物材料」を格納する(すなわち、生物材料用透明化試薬に生物材料を投入する)ことが好ましい。

0074

上記の透明化処理工程を行う処理温度は特に限定されないが、15℃以上で45℃以下の範囲内であることが好ましい。また、透明化処理を行う合計処理時間は、特に限定されないが、2時間以上で120時間以下の範囲内であることが好ましい。また、透明化処理を行う圧力は特に限定されない。

0075

透明化処理工程は、複数種類の、本発明に係る生物材料透明化試薬を用いて、段階的に行うことも出来る。例えば、1)透明化処理工程をn回(nは2以上の整数)に分けて行う場合、回を追うごとに、ソルビトールの濃度がより高い生物材料透明化試薬を用いると、ソルビトールが効率的に生物材料に浸潤する上で好ましい。

0076

或いは、2)透明化処理工程をn回(nは3以上の整数)に分けて行う場合、少なくとも1回目とn回目とは、グリセロールを含む生物材料透明化試薬を用い、かつ2回目〜(n−1)回目の間の少なくとも1回でグリセロールを含まない生物材料透明化試薬を用いるようにしてもよい。この場合、1回目から(n−1)回目の間は、回を追うごとに、ソルビトールの含有量がより多くかつ尿素が前回の処理工程の含有量以下の生物材料透明化試薬を用いると、尿素による生物材料の膨張が徐々に収まるという点で好ましい。ただし、n回目においては、尿素を3M以上で5M以下の範囲内の濃度で含み、ソルビトールを30(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含んでなる生物材料透明化試薬で処理することが好ましい。

0077

また、3)透明化処理工程をn回(nは2以上の整数)に分けて行う場合、1回目を尿素を1.5M以上で4.0M以下の範囲内の濃度で含み、ソルビトールを40(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含んでなる生物材料透明化試薬で処理し、その後は1回目の処理の生物材料透明化試薬よりも尿素の濃度が高く、かつソルビトールの濃度が低い生物材料透明化試薬で処理してもよい。この場合、1回目の処理工程において生物材料が強く収縮されるため、当該処理後における収縮作用の低下によって体積が復元する際に1回目以降の生物材料透明化試薬を浸潤しやすい状態となる。なお、nが3以上の場合、n回目においては、尿素を3M以上で5M以下の範囲内の濃度で含み、ソルビトールを30(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含んでなる生物材料透明化試薬で処理することが好ましい。

0078

以上のいずれの場合においても、各透明化処理工程の間に、一度PBSで処理する工程を加えると、生物材料の原形を保つうえで好ましい。

0079

上記の透明化処理工程で用いた、透明化処理された生物材料を格納した処理容器は、後述する観察工程に供されるまで、例えば、室温又は低温環境下で保存してもよい(透明化試料保存工程)。

0080

前処理工程
必要に応じて、透明化処理を円滑に行う目的で、透明化処理工程の前に、前処理液を用いて生物材料を前処理してもよい。前処理液は、ソルビトールを含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含み、かつ尿素や上述の尿素誘導体を含まない水溶液を用いることが好ましい。好ましくは、例えば、生物材料に含まれるコレステロールの量を低減する成分、及び/又は、生物材料に含まれるコラーゲンの量を低減する成分を含んでいる。前処理液の組成の詳細は、後述の〔3.生物材料用透明化処理キット〕の欄において説明する。

0081

上記の前処理工程を行う処理温度は特に限定されないが、15℃以上で45℃以下の範囲内であることが好ましい。また、前処理を行う合計処理時間は、特に限定されないが、1時間以上で120時間以下の範囲内であることが好ましく、2時間以上で48時間以下の範囲内であることがより好ましい。また、前処理を行う圧力は特に限定されない。

0082

前処理工程を通じて、生物材料に含まれるコレステロールの量、及び/又は、コラーゲンの量を低減することによって、透明化処理工程における生物材料用透明化試薬の浸透性が格段に向上する。その結果として、例えば、液体窒素等を用いた凍結と室温での解凍プロセスを経ていない生物材料等に対しても、速やかに生物材料用透明化試薬が浸透する効果が得られる。

0083

(透明化処理された生物材料の観察工程)
透明化処理された生物材料は、次いで、例えば、光学顕微鏡による観察工程に供される。観察工程に供される生物材料は、必要に応じて、上記透明化処理工程の事前に、又は透明化処理工程後で観察工程前に、染色或いはマーキング等の可視化処理工程が施されてもよい。

0084

例えば、可視化処理工程に蛍光タンパク質を用いる場合には、透明化処理工程の事前に、生きた生物材料に対して蛍光タンパク質遺伝子を導入して、蛍光タンパク質を発現させる。

0085

また、可視化処理工程として、蛍光性化学物質(蛍光タンパク質は除く)の生物材料への注入、又は蛍光性化学物質を用いた生物材料の染色を行う場合には、上記透明化処理工程の事前に行うことが好ましいが、上記透明化処理工程後に行うこともできる。さらに、可視化処理工程として、蛍光性化学物質以外の化学物質を用いた染色を行うこともできる。

0086

観察工程は、あらゆる種類の光学顕微鏡を用いて行うことができる。例えば、観察工程は、3次元超分解顕微鏡技術(例えば、STED、3D PALM、FPALM、3D STORM、及びSIM)を適用して行うこともできる。また、観察工程は、多光子励起型(一般的には2光子励起型)の光学顕微鏡技術を適用して行うこともできるが、透明化処理に伴う生物材料の膨張が抑制されているので、一光励起型の光学顕微鏡技術でも充分な観察が可能である。

0087

なお、本発明において、透明化(処理)とは、処理前の生物材料と処理後の生物材料とを比較して、処理後の方が光(特に可視光)の透過度が向上することを一つの指標とするものである。

0088

〔2A.その他の応用〕
(生物材料用透明化試薬の成分の除去工程)
本発明に係る「生物材料用透明化試薬」を用いた透明化処理は可逆的である。そのため、透明化処理された生物材料は、例えば、平衡塩類溶液に浸漬することにより、生物材料用透明化試薬の成分を取り除き、透明化処理前の状態に戻すことが可能である。ここで、平衡塩類溶液とは、具体的には例えば、PBS、HBSSなどリン酸塩によって緩衝液化された平衡塩類溶液;トリス塩酸塩によって緩衝液化された平衡塩類溶液(TBS);人工脳脊髄液(ACSF);MEM,DMEM, 及びHam’s F-12などの細胞培養用基礎培地;等が挙げられる。

0089

上記「生物材料用透明化試薬」を用いた場合、透明化処理の前後において、或いは、透明化処理後に透明化処理前の状態に戻す場合において、生物材料に含まれるタンパク質等の変性等を招来しない。そのため、生物材料に含まれるタンパク質等の抗原性も変化せずに保存される。そのため、例えば、生物材料を透明化処理して光学顕微鏡による観察を行った後に、当該生物材料を透明化処理前の状態に戻して汎用の組織染色、又は免疫染色の手法を用いた詳細分析を行うことなども可能となる。

0090

すなわち、本発明の他の観点は、上記「生物材料用透明化試薬」を用いた透明化処理により透明化した生物材料に対して、平衡塩類溶液を浸潤することにより上記生物材料を透明化処理前の状態に戻す工程、を含む生物材料の復元方法である。

0091

(観察工程に供される生物材料の可視化処理工程の一例)
なお、本発明に係る生物材料用透明化試薬を用いて透明化処理を行っているか最中か、行った後の生物材料に対して、免疫染色の手法を用いて可視化処理を行う場合には、特に限定されないが、例えば、国際公開公報WO2014/010633A1に記載の抗体組成物及び免疫方法を採用することが好ましい。国際公開公報WO2014/010633A1の内容は全て、参照によって、本明細書の一部として組み込まれる。

0092

なお、国際公開公報WO2014/010633A1に記載の通り、上記の抗体組成物とは、尿素及び尿素誘導体からなる群より選択される少なくとも一種の化合物と抗体とを含む溶液であり、当該化合物は0.1M以上で1.0M未満の範囲内の濃度で含まれるものである。抗体組成物において、上記化合物は、0.2M以上で0.5M以下の範囲内の濃度で含まれることが好ましい。また、抗体組成物は、界面活性剤を含むことが好ましく、非イオン性の界面活性剤を含むことがより好ましい。界面活性剤を含む場合、0.025(w/v)%以上で0.2(w/v)%以下の範囲内の濃度で含まれることが好ましい。

0093

国際公開公報WO2014/010633A1に係る抗体組成物を用いた免疫染色及び観察方法の概略フローの一例を示すと、以下の通りである。なお、以下の何れの工程も、公知の免疫染色方法と同様の条件で実施することができる。
工程1):免疫染色用の試料(生物材料)の調製工程。
工程2):必要に応じて行われる、1)で調製した免疫染色用の試料に対する抗原賦活化処理工程。当該工程は、例えば、加熱処理、又はタンパク質分解処理等の処理を行うことで実施する。
工程3):必要に応じて行われる、バックグラウンドノイズを抑えるための処理工程。当該工程は、例えば、不要なRNAの混入を防止するためのRNA分解処理、又は、血清スキムミルク等のブロッキング処理試薬を用いたブロッキング処理を行うことで実施する。
工程4):上記1)〜3)の工程を経た免疫染色用の試料と、免疫染色用の一次抗体を含む抗体組成物との抗原抗体反応処理工程。なお、抗原抗体反応処理工程におけるインキュベーションの条件は抗体の性能や試料のサイズ等に応じて決定すればよいが、例えば、6時間〜5日間、好ましくは2日〜3日間振とうをすることで行う。また、インキュベーションの温度は例えば4℃前後であることが好ましい。抗体組成物における上記一次抗体の濃度は、具体的には例えば、4μg/mL以上で40μg/mL以下の範囲内の濃度である。工程5):上記4)の工程を経た免疫染色用の試料を洗浄する洗浄工程。洗浄工程は、例えば、尿素及び尿素誘導体(誘導体の定義は本明細書中で共通)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を0.1M以上で1M未満の範囲内の濃度で含む溶液を用いて試料をリンスする。この溶液の使用量は特に限定されないが、例えば、9〜15ml/0.3g試料、好ましくは約12ml/0.3g試料程度の量である。洗浄工程の温度、及び時間は特に限定されないが、好ましくは室温で、1時間程度振とうによるリンスを行なう。
工程6):必要に応じて行われる、免疫染色用の二次以上の抗体を含む抗体組成物と、上記5)の工程を経た免疫染色用の試料との抗原抗体反応処理工程。なお、抗原抗体反応処理工程におけるインキュベーションの条件は抗体の性能や試料のサイズ等に応じて決定すればよいが、例えば、6時間〜5日間、好ましくは2日〜3日間振とうをすることで行う。また、インキュベーションの温度は例えば4℃前後であることが好ましい。抗体組成物における上記二次以上の抗体の濃度は、具体的には例えば、1μg/mL以上で10μg/mL以下の範囲内の濃度である。
工程7):上記6)の工程を経た免疫染色用の試料を洗浄する洗浄工程。より具体的には、上記工程5)と同様に行う。
工程8):必要に応じて行われる、上記1)〜7)の工程を経た免疫染色用の試料において抗原抗体反応の結果を可視化する工程。例えば、上記一次抗体、又は二次以上の抗体が、アルカリホスファターゼなどの酵素で標識されている場合は、試料を当該酵素の基質中で反応させ、生成した色素沈着させて可視化する。また、上記一次抗体、又は二次以上の抗体が、フルオレセインローダミン等の蛍光色素標識化されている場合は、後述する工程9)において直接蛍光顕微鏡で可視化しながら観察する。
工程9):上記1)〜8)の工程を経て免疫染色された免疫染色用の試料を、光学顕微鏡で観察する観察工程。

0094

上記概略フローにおいて、工程4)を行い工程6)を行わない場合は、工程4)で用いる抗体組成物が、国際公開公報WO2014/010633A1に係る抗体組成物である。工程4)も工程6)も行う場合は、工程4)及び6)で用いる抗体組成物のうち少なくとも一方が、国際公開公報WO2014/010633A1に係る抗体組成物であり、両方が国際公開公報WO2014/010633A1に係る抗体組成物であることが好ましい。

0095

〔3.生物材料用透明化処理キット〕
(生物材料用透明化処理キット)
本発明にかかる「生物材料用透明化処理キット」は、上記の「生物材料用透明化試薬」を少なくとも一種類備える。生物材料用透明化処理キットは、上記の生物材料用透明化試薬を複数種類含んでいてもよい。生物材料用透明化試薬が複数種類含まれている場合には、例えば、含有成分及び/又はその含有量が互いに異なるものが含まれていてもよい。例えば、以下の1)〜7)から選択される少なくとも一つの条件を満たす、透明化試薬の組合わせが挙げられ、典型的には以下の1)の条件を満たす透明化試薬の組合わせが挙げられる。
1)ソルビトールの含有量が互いに異なる、
2)グリセロールを含むか否かや、グリセロールを含む場合にその含有量が、互いに異なる、
3)尿素又は尿素誘導体の含有量が互いに異なる、
4)界面活性剤を含むか否かや、界面活性剤を含む場合にその含有量が、互いに異なる、5)ジメチルスルホキシド(DMSO)を含むか否かや、ジメチルスルホキシドを含む場合にその含有量が、互いに異なる、
6)シクロデキストリン類を含むか否かや、シクロデキストリン類を含む場合にその含有量が、互いに異なる、
7)N−アセチル−L−ヒドロキシプロリン等からなる群より選択される、コラーゲンと結合性を有する化合物を含むか否かや、当該化合物を含む場合にその含有量が、互いに異なる。

0096

「生物材料用透明化処理キット」は、好ましくは、A)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を3M以上で5M以下の範囲内の濃度で、ソルビトールを30(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度でそれぞれ含む生物材料透明化試薬、及び、B)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を5M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で、ソルビトールを20(w/v)%以上で40(w/v)%以下の範囲内の濃度でそれぞれ含む生物材料透明化試薬、からなる群から選択される1以上の生物材料透明化試薬を含むキットであり、より好ましくは、A1)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を3M以上で5M以下の範囲内の濃度で、ソルビトールを35(w/v)%以上で45(w/v)%以下の範囲内の濃度でそれぞれ含む生物材料透明化試薬、及び、B)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を5M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で、ソルビトールを20(w/v)%以上で40(w/v)%以下の範囲内の濃度でそれぞれ含む生物材料透明化試薬、からなる群から選択される1以上の生物材料透明化試薬を含むキットである。

0097

「生物材料用透明化処理キット」は、さらに、上記の透明化処理工程で用いる「処理容器」、「生物材料把持器具ピンセット等)」、透明化処理後の生物材料を透明化処理前の状態に戻す「平衡塩類溶液」、「前処理液」、生物材料の可視化処理工程で用いる「免疫染色用の抗体」、生物材料の可視化処理工程で用いる「蛍光性化学物質」、及び「キットの取扱説明書」から選択される少なくとも一つを備えていてもよい。なお、キットの取扱説明書には、例えは、上記〔2.生物材料用透明化試薬を用いた透明化処理法の一例〕欄に記載したような、透明化処理方法の手順等が記載されている。

0098

上記の前処理液は、透明化処理を円滑に行う目的で、透明化処理の前に生物材料を処理する液である。前処理液は、尿素が除かれた水溶液であって、ソルビトールを含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含む水溶液を用いることが好ましい。前処理液は、より好ましくは、例えば、生物材料に含まれるコレステロールの量を低減する成分、及び/又は、生物材料に含まれるコラーゲンの量を低減する成分を含んでいる。コレステロールの量を低減する成分としては、例えば、シクロデキストリン類が挙げられ、より具体的には例えば、α−シクロデキストリン及びその誘導体、β−シクロデキストリン及びその誘導体(例えば、メチル−β−シクロデキストリン等)、並びに、γ−シクロデキストリン及びその誘導体、等が挙げられる。前処理液におけるシクロデキストリン類の含有量は特に限定されないが、1mM以上で5mM以下の範囲内の濃度で含まれることが好ましい。また、コラーゲンの量を低減する成分としては、例えば、N−アセチル−L−ヒドロキシプロリン等からなる群より選択される少なくとも一種の化合物が挙げられる。コラーゲンと結合性を有する上記化合物は、1mM以上で3mM以下の範囲内の濃度で含まれることが好ましい。

0099

前処理液は、生物材料に含まれるコレステロールの量を低減する成分、及び/又は、生物材料に含まれるコラーゲンの量を低減する成分の他に、必要に応じて、本発明に係る生物材料用透明化試薬に含まれる各種成分を、生物材料用透明化試薬と同じ含有量で含んでいてもよい。中でも、ソルビトールは、前処理液に含まれることが好ましく、15(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、15(w/v)%以上で25(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがより好ましく、17(w/v)%以上で23(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがさらに好ましい。グリセロールも、前処理液に含まれることが好ましい成分であり、2.5(w/v)%以上で35.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが好ましく、2.5(w/v)%以上で15.0(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことがさらに好ましく、2.5(w/v)%以上で7.5(w/v)%以下の範囲内の濃度で含むことが特に好ましい。ジメチルスルホキシドを含む場合、前処理液中の溶媒全体を100体積%として、0.5(v/v)%以上で35.0(v/v)%以下の範囲内の濃度であることが好ましく、1.0(v/v)%以上で27.5(v/v)%以下の範囲内の濃度であることがより好ましく、1.5(v/v)%以上で25.0(v/v)%以下の範囲内の濃度であることが特に好ましい。なお、前処理液の溶媒は、本発明に係る生物材料用透明化試薬と同様に、水を主溶媒として用いてなるものが好ましい。

0100

〔4.生物材料用透明化処理キット〕
(生物材料透明化処理システム)
本発明に係る生物材料透明化処理システムは、本発明に係る「生物材料用透明化試薬」と、単離された上記「生物材料」とを含んでなり、この「生物材料」を透明化するために当該「生物材料」の内部に「生物材料用透明化試薬」が浸潤したものである。すなわち、当該処理システムとは、例えば、透明化処理の途中段階にある生物材料を含む処理システム、又は、透明化処理が完了した生物材料を含む処理システムを包含する概念である。

0101

〔5.その他〕
本発明は、例えば、以下の何れかの構成を備えるものであってもよい。
(1)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物と、ソルビトールと、5(w/v)%濃度以下の界面活性剤とを含む、溶液である、生物材料用透明化試薬、
(2)上記化合物として尿素を含む、溶液である、上記(1)に記載の生物材料用透明化試薬、
(3)ソルビトールを15(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度で含む、上記(1)又は(2)に記載の生物材料用透明化試薬、
(4)尿素を1.0M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で含む、上記(1)から(3)の何れか一に記載の生物材料用透明化試薬、
(5)界面活性剤が非イオン性の界面活性剤である、上記(4)に記載の生物材料用透明化試薬、
(6)上記非イオン性の界面活性剤が、TritonX(登録商標)、Tween(登録商標)、及びNP-40(商品名)からなる群より選択される少なくとも一種である、上記(5)に記載の生物材料用透明化試薬、
(7)グリセロールを含む、上記(1)から(6)の何れか一に記載の生物材料用透明化試薬、
(8)シクロデキストリン類を含む、上記(1)から(7)の何れか一に記載の生物材料用透明化試薬、
(9)多細胞動物由来の組織又は器官、或いはヒトを除く多細胞動物を透明化するものである、上記(1)から(8)の何れか一に記載の生物材料用透明化試薬、
(10)上記(1)から(9)の何れか一に記載の生物材料用透明化試薬と、単離された生物材料とを含んでなり、当該生物材料を透明化するために生物材料の内部に生物材料用透明化試薬が浸潤している、生物材料透明化処理システム、
(11)上記(1)から(9)の何れか一に記載の生物材料用透明化試薬を、単離された生物材料中に浸潤して、当該生物材料を透明化する工程を含む、生物材料の透明化方法、(12)上記(1)から(9)の何れか一に記載の生物材料用透明化試薬を含む、生物材料用透明化処理キット、
(13)含まれているソルビトールの濃度が異なる上記生物材料用透明化試薬を複数種備えている、上記(12)に記載の生物材料用透明化処理キット、
(14) A)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を3M以上で5M以下の範囲内の濃度で、ソルビトールを30(w/v)%以上で50(w/v)%以下の範囲内の濃度でそれぞれ含む生物材料透明化試薬、及び、B)尿素及び尿素誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を5M以上で9.5M以下の範囲内の濃度で、ソルビトールを20(w/v)%以上で40(w/v)%以下の範囲内の濃度でそれぞれ含む生物材料透明化試薬、からなる群から選択される1以上の生物材料透明化試薬を含む、上記(12)又は(13)に記載の生物材料用透明化処理キット、
(15)ソルビトールを含み、さらにグリセロール及び/又はジメチルスルホキシドを含み、かつ尿素を除く(尿素を含まない)水溶液を透明化工程の前処理液としてさらに含む、上記(13)又は(14)に記載の生物材料用透明化処理キット。

0102

本発明について、以下の実施例、及び比較例等に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。

0103

〔実験の方法〕
=ScaleS溶液=
ScaleS溶液の調製のために以下の試薬を購入した:尿素結晶(Wako pure chemicalindustries)、トリトンX−100(Wako pure chemical industries)、D(−)−ソルビトール(Wako pure chemical industries)、メチル−β−シクロデキストリン(Tokyo Chemicals)、γ−シクロデキストリン(Wako pure chemical industries)、N−アセチル−L−ヒドロキシプロリン(Kyowa Hakko Bio)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)(Wako pure chemical industries)、グリセロール(Sigma)、及びトリトンX−100(Nacalai Tesque)。これらの試薬はそれぞれ水に溶解するか、水に加えて(図8を参照)、よく混合するまで撹拌した(なお、ScaleS4、ScaleS4(0)、ScaleSQ(0)、及びScaleSQ(5)の調製においては、電子レンジ加熱を行った。)。ScaleS0の製造に際して、リン酸緩衝生理的食塩水ストック溶液(10×PBS(−))を用いた。溶液に含まれる各成分の最終濃度は、混合して得られた当該溶液を水で希釈することによって調整した。なお、ScaleS4(0)は、トリトンX−100を含んでいないことを除いてScaleS4と同じ組成を有する溶液である。また、実施例および比較例において、特に言及がない限り、ソルビトールの濃度の単位は(w/v)%であり、グリセロールの濃度の単位は(w/v)%であり、スクロースの濃度の単位は(w/v)%であり、N−アセチル−L−ヒドロキシプロリンの濃度の単位は(w/v)%であり、DMSOの濃度の単位は(v/v)%であり、トリトンX−100の濃度の単位は(w/v)%である。

0104

=ScaleS溶液を用いた透明化処理=
マウスの脳半球を透明化する場合の現時点での最適なプロトコールは以下の通りである。

0105

はじめに、20%のソルビトール、5%のグリセロール、1mMのメチル−β−シクロデキストリン、1mMのγ−シクロデキストリン、1%のN−アセチル−L−ヒドロキシプロリン及び3%のDMSOを含むScaleS0溶液中で、12時間、インキュベーションをすることでサンプルの透過性を向上させた(第一工程)。

0106

次に、上記第一工程を経たサンプルを、順次、ScaleS1、ScaleS2、及びScaleS3中でインキュベーションした(第二工程)。

0107

次に、第二工程を経たサンプルをPBSで、6時間、洗浄することによって、サンプルをPBSで置換して処理前の状態に復元させた(deScale処理:第三工程)。

0108

次に、観察前の工程として、第三工程を経たサンプルをScaleS4中で12時間インキュベーションした。ScaleS4はマウント用の媒体としても用いた。

0109

上記のプロトコールにおいて、インキュベーションの温度は何れも37℃であり、PBSでの洗浄のみが4℃である。インキュベーションは基本的に、温度管理が可能なオービタル振とう機を用いて行った(70〜80rpm/分)。

0110

=AbScale用の抗体=
以下の抗体を用いた。Alexa488−6E10は、Alexa Fluor488にコンジュゲートされた、アミロイドβに対するマウスモノクローナル抗体であり、Covance社より購入した(SIG-39347)。Cy5−A60は、NeuNに対するマウスモノクローナル抗体(A60)(Millipore, MAB377)を、Cy5二官能性ダイ(GE Healthcare, PA25500)で処理して得た。Cy3−aNeuNは、Cy3にコンジュゲートされた、NeuNに対するウサギポリクローナル抗体であり、Milliporeより購入した(ABN78C3)。Iba1に対するウサギポリクローナル抗体、及び、Alexa Fluor 546にコンジュゲートされた、ウサギIgGに対するヤギポリクローナル抗体はそれぞれ、Wako pure chemical industriesと、Molecular Probesとから購入した。
これらの抗体は、抗体濃度が5μg/mLになるように抗体処理溶液(AbScale solution:図10参照)に対して混合してAbScale処理に利用した。なお、抗体処理溶液の組成は、0.33M尿素、0.1%(w/v)のトリトンX−100及び×1倍のPBSからなる水溶液である。リンス溶液(AbScale rinse solution:図10参照)の組成は、2.5%BSA、0.05% (wt/vol) Tween-20 及び× 0.1倍のPBSからなる水溶液である。

0111

=サンプルの調製(マウス)=
成体マウス及び老齢マウス(8−80週齢)を、ペントバルビタール(ソムノペンチル)で充分に麻酔し、4%PFA/PBS(−)を用いて経心腔灌流を行った。全脳を摘出し、4℃で10時間又は3日間、4%PFA/PBS(−)中で、後固定を行った。次いで、全脳から得た半球と、海馬を含むスライスとを、ScaleSで直接に透明化する(clear)か、AbScale処理又はChemScale処理を行った後に透明化した。動物の実験手法及び飼育条件は、該当機関動物実験に関する委員会による承認を受け、承認を受けた内容に従って行った。

0112

=サンプルの調製(ヒト)=
フィラデルフィア大学から提供された、アルツハイマー病患者(60から80歳)の凍結した死後脳(前頭皮質から側頭葉)のブロックを解凍し、4℃で8時間、4%PFA/PBS(−)中で固定した。それぞれのブロックから、一辺3−4mmのキューブを切り出し、Alexa488−6E10(希釈率1:200)、Cy5−A60(希釈率1:200)、及びウサギ抗−Iba1ポリクローナル抗体(希釈率:1:200)を用いて、AbScale処理を施した。この試料はさらに、Alexa Fluor 546にコンジュゲートされた、ヤギ抗−ウサギIgGポリクローナル抗体(希釈率1:500)と反応させた。

0113

イメージセグメンテーション
AbScale処理された脳サンプルのイメージデータは、SPIMsystem (Lightsheet Z.1 及びZENソフトウェア, ZEISS)により取得し、TIFFフォーマットで保存した。標的対象、すなわちミクログリア(Alexa546−Iba1のシグナル)及びアミロイドβ斑(Alexa488−6E10のシグナル)を大量に抽出するため、半自動イメージセグメンテーション法を確立した。この方法は、手動による、対象物の割り当てをまず行い、それぞれの細胞又は斑は手動で完全にマスクした。バイナリマスクデータは、ImageJソフトウェア(64bit, version10.7)を用いて作製した。その後、標的とする画像は、Otsu法に従い自動的にセグメンテーションされた。多段的なシグナル及び背景レベルの変化のために、この方法は、マスク領域それぞれにおける画像セグメンテーションの最適なしきい値を選択する上で非常に役に立つ。イメージのセグメンテーションに関わる全てのプロセスは、C++言語及びOpenCVライブラリで記載されたカスタムメイドプログラムを用いて実行した。最終的にこの画像は、粗いメディアンフィルタ(radius 2.0)を適用することで、鮮明なものとした。

0114

=距離の測定=
市販のソフトウェアVolocity version 6.3 (PerkinElmer)を上記バイナリマスクデータのセットに適用して、各ミクログリア細胞の中心から最も近位なアミロイドβ斑(表面及び中心の両方)までの距離測定を行った。C++言語で記載されたカスタムメイドのプログ
ラムと市販のソフトウェア(Igor Pro version 6.3.4.1)とを用いて、アミロイドβ斑の表面から50μm以内に位置するミクログリアの数を数え、当該ミクログリアの数をプロットした。

0115

=イメージの再スライス化=
完全な三次元のデータセットから、様々な、二次元のスタック化したイメージ群をつくり出すため、発明者らは再スライス実行プログラムを開発した。このプログラムは、全ての番号のxy像平面をシステム的統合して、z方向にスタック化された、異なる厚みを持つ像群の配列を提供する。このプログラムは、三次元再構成データを再スライス化して、x方向又はy方向にスタック化された像群を作成するためにも用いることができる。このプログラムはC++ 言語で記載された。

0116

〔実験の結果〕
(1)ソルビトールおよび尿素の組み合わせ
発明者らは、まず、エリスリトール、フルクトース、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、スクロース、およびキシリトールを含む、糖および糖アルコールからなる群に含まれる化合物から、尿素と組み合わせて用いることで、固定化された脳サンプルを透明化できるものをスクリーニングした。その結果、ソルビトールが、尿素と組み合わせることによって、最も効果的にマウスの大脳皮質を透明にすることが明らかになった。

0117

尿素とソルビトールとを組合せて用いることで、サンプルの本来の体積を保ったまま透明化を達成することが可能である。その理由は必ずしも明らかではないが、一つの理由としては、尿素及びソルビトールの両方が組織を透明化する能力を有するが、尿素は水和(組織の膨張)を起こし、一方でソルビトールは脱水(組織の縮小)を起こすためであると推定される。また、組織の脱水を起こすことを期待して、ソルビトールに加えグリセロールを使用した。ソルビトールが親水性であるのに対し、グリセロールは両親媒性であり、それゆえ、グリセロールを加えることによって脳内の親油性の領域での作用がより一層向上した。

0118

本発明者らはソルビトールの添加が全体の性能にとって重大であることを発見し、そのためソルビトールを含有する尿素をベースとした透明化溶液をScaleSと命名した。ソルビトールを含有する溶液を組み合わせることにより、本発明者らは成体の(高齢の)哺乳類の脳のためのScaleSのプロトコル考案することを試みた。現時点において最適なプロトコルは、固定化された脳サンプルを、PBSベースのScaleS0からScaleS4までの複数の溶液で培養するものである(図9のb)。全てのScaleS溶液の製法図8に示す。平衡に達した後、ScaleS4においてサンプルは実質的に透明になり(図1のa)、またその体積も本来の100%に近い値に収束した(図12の(A))。従来技術の生物材料用透明化試薬のScaleA2(Hama et al., Nat Neuroscience 14(11), 1481-8(2011))で処理した場合に比べ、生物材料の原形を保つ効果が顕著に認められた(図12の(A)、図12の(B))。なお、ScaleA2の処理工程の概略は、図9のaに示す。

0119

(2)ScaleSのシグナルおよび構造保存の大きな能力
CUBICは、尿素、アミルアルコール、およびトリトンX−100の混合物を使用する、近年考案された方法である。当該方法は15%のトリトンX−100を含有する試薬(CUBIC試薬1)においておよそ7日間サンプルを培養することを伴う。トリトンX−100の高い濃度のため、CUBICは強い透明化能力を特徴とし、それゆえサンプルに簡単な処置を施して1光子励起顕微鏡、例えばライトシート顕微鏡(LSFM)もしくは選択的平面照明顕微鏡(SPIM)による迅速な全脳イメージングが可能になる。同じ理由から、しかしながら、CUBICはシグナルおよび構造の保存を保証しない。

0120

対照的に、本実施例では、ScaleS法はトリトンX−100の濃度を全ての手順において低濃度(例えば0.2%未満)に制限している(図8)。そのようにトリトンX−100の濃度が低ければ生物学的な構造に対し有害な影響を及ぼさないであろうと期待される。それゆえ、Scaleの技術は、包括的3D再構成の後、シナプス等の特定の微細構造を光学顕微鏡および電子顕微鏡の両方のスケールで可視化することを可能にする。この技術はFP(蛍光タンパク質)シグナルの適切な保存をも保証する。本発明者らはScaleSの透明化および保存の能力を試験した。YFP−Hマウス(20週齢)の固定化された脳を2つの半球に分割した。左の脳半球をScaleSにより透明化し、右の能半球をPBSにより透明化した。2つの脳半球を比較する目的で、透過およびYFP蛍光のためにイメージングした。(図1のb)。ScaleSで処理された脳半球は実質的に透明になり、PBS処理されたものより強いYFP蛍光を示した;蛍光の観察に透明化は明らかに有益であった。ChR2−YFPマウスから調製した脳半球からも同様の結果が得られた(図1のc)。対照的に、CUBICで処理されたサンプルはPBSで処理されたサンプルよりも弱いYFP蛍光を示した(図13)。CUBICによる蛍光の減弱は、組換えYFPを用いた消失実験で明らかになったように、部分的にはCUBIC試薬1によるYFPの消失のためである。CUBIC試薬1は強いアルカリ性(pH11.3)のため、処理中にYFPの不可逆的な変性を起こす。注意すべきは、しかしながら、蛍光の減弱はYFPの漏出によっても引き起こされるということである。これはCUBIC試薬1が、サンプルからのYFPの漏出を引き起こすと考えられるトリトンX−100を15%含有するためと考えられる。

0121

本発明者は以前に、ScaleA2処理の可逆性を、遡及的2D−IHCによって示した。この可逆性は、ScaleSおよびCUBICに対しても試験した(図14)。ScaleSで処理されたサンプル、及び、CUBICで処理されたサンプルから得られた薄片において、MAP2およびGFAP等の細胞骨格タンパク質は十分に免疫局在化された。しかし、ScaleSで処理されたサンプルおよびCUBICで処理されたサンプル間で、シナプスタンパク質に実質的な違いが認められた。ScaleS処理が前シナプスおよび後シナプスタンパク質の免疫染色、さらに幼若な神経の細胞膜表面に存在するマーカー分子の免疫染色を保存していたのに対し、CUBIC処理は免疫染色の強度および/もしくは特異性を弱めていた。

0122

加えて、シナプスの超微細構造が、比較のため電子顕微鏡で検査された。4%PFAによる固定化の後、脳半球をScaleS処理によって透明化し、続いてPBSで置換することによってScaleSの成分を脳半球から取り除き(deScaling)、透明化処理前の状態に戻した(復元)。その後、透明化処理前の状態に戻したサンプルから1mmの立方体を調製し、透過型電子顕微鏡TEM)による観察のための超薄切片を調製した。観察により、近接する2層のV錐体ニューロンの細胞体を含む、比較的広い視野が得られた(図1のd)。膜統合性はよく保存されているため、ニューロンのうちの1つ(左側)における細胞内小器官は、核から樹状突起(Den)や軸索小丘(AH)等の細胞表面突起物までの細胞内小器官を観察することができた。そのため、神経細胞内の器官と関連のある超微細構造を調査することができる。例えば軸索起始部(AIS)を拡大したとき、細胞表面に高電子密度の領域を発見した(図1のe)。さらなる拡大(図1のf)により、軸索終末(AT)の変形す小胞の存在によって、その領域が対称性シナプスを示すことが明らかになった。その位置および超微細構造はそのシナプスが抑制シナプスかつ軸索間シナプスであることを示す。対照的に、AT内に透明かつ丸い小胞を伴う非対称性(おそらくは興奮性)シナプスは、多くの場合神経線維網領域と同定される(図1のg、h)。同様にCUBICサンプルからも超薄切片を調製した。CUBIC試薬1の高濃度(15%)のトリトンX−100から予想されたとおり、神経細胞の形質膜以外にも、ミトコンドリア、樹状突起、ミエリン鞘といった各種の微細構造が著しく破壊された超薄切片がTEMイメージに観察された(図15図16)。

0123

(3)定量的3次元(免疫)組織化学
本発明者らは、以前に、尿素を主成分とする透明化処理試薬によって透明化処理したサンプルを、PBSで置換することによって尿素等の成分をサンプルから取り除く(deScaled)ことにより、当該サンプルが抗体等の巨大分子を透過することを発見している。この特徴を利用するため、本発明者らは数ミリ厚の脳サンプル内の構造を完全に免疫染色する、AbScaleと呼ばれる方法を考案済である(図10)。

0124

次いで、本発明者らはAbScaleをアルツハイマー病(AD)モデルの高齢マウスの脳に適用した。Aβ斑の空間的分布を明らかにするため、Aβの1〜16番アミノ酸と反応するマウスモノクローナル抗体(mAb)である6E10を使用した。この抗体は分子標的療法に使用されている。例えば6E10の体内への注射は、脳のAβを低下させるために考案された。この実験には、市販されている蛍光6E10(Alexa488−6E10)を使用した。しかしながら6E10はいくつかのAβ前駆体、例えばAPPおよびCTF−βと反応するため、Alexa488−6E10のシグナルがニューロン内で観測されることが起こり得る。そのため本発明者らはAβ42を過剰に生産する、新たなADモデルマウス(AppNL−F)を使用した。ニューロンの細胞核に関連するAlexa488−6E10のシグナルの位置を調査するため、本発明者らはマウス抗NeuNmAb(A60)をCy5に結合させたもの(A60−Cy5)の併用を試みた。

0125

AbScale溶液において、20月齢のAppNL−F/NL/Fマウスから得られた固定化された脳半球(6×4×4mm)を、Alexa488−6E10およびCy5−A60の両方と反応させた(切断前染色)。20%スクロース溶液で処理した後、OCTコンパウンドに埋め込み、冠状面で50μmの厚さの切片を切り出した(図2のa)。海馬を含む切片をスライドガラスに載せ、ウサギ抗NeuNポリクローナル抗体およびCy3と結合したヤギ抗ウサギIgG抗体と反応させた(切断後染色)。その後、立体顕微鏡によるCy3(図2のb)、Cy5(図2のc)、およびAlexa488(図2のd)の3つの蛍光イメージを得た(図17のa:図2に対応)。まずCy3−αNeuN(切断後染色)およびCy5−A60のイメージを比較し、Cy5−A60の脳半球全体内における拡散性を評価した。Cy5シグナルは脳半球表面からの深さに関わりなく実際に強力であり、Cy3シグナルと完全に一致していた(図2のe)。この結果はCy5−A60モノクローナル抗体が脳半球内に効率よく浸透することを示唆し、およびCy5−A60を用いたAbScaleの妥当性を示す。次に、Cy5−A60イメージを他の切断前染色のAlexa488−6E10イメージと比較した(図2のf)。Cy5標識されたニューロン細胞核が欠けている領域に、Alexa488で標識されたAβ斑の位置が定められ(図2のg、h)、このことは、Aβ斑は細胞外に存在することを示す。Alexa488で標識されたAβ斑は主に皮質において、より少なくは視床において発見された(図2のf);同じAβの分布パターンが、20月齢のAppNL−F/NL−Fマウスから得られた冠状面切片における2D−IHCにより観察された。それゆえAlexa488の浸透力は4mm以下の脳サンプル内に存在する全てのAβ斑を蛍光標識するのに十分であると結論付けられた。

0126

(4)Aβアミロイド可視化のためのChemScaleおよびAbScale
独自のScale法を構築する間に、本発明者らは固定化された脳サンプルがScaleA2および/もしくはScaleB4による透明化処理中にもしくはその後に、よく蛍光物質を透過することを発見した。以前の研究において本発明者らはScaleA2処理した脳ブロックを4’6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いて核対比染色することに成功した。このChemScale(図11)と呼ばれる方法は、一般に大きなサンプルにも適用可能である。

0127

本発明者らは多色のイメージングを目的として、ChemScaleをAbScaleと併用した。本発明者らは、Alexa488−6E10、およびAβの集合体に対し強い親和性を示すベンゾチアゾール類縁体であって、その色がAlexa488−6E10の色と区別できるPP−BTA−1を用いてAβ斑のモニターを試みた(図17のb:図3のaおよび図3のbに対応)。この併用の手法が、18月齢のAppNL−F/NL−Fマウスから採取された脳半球に適用された。本発明者らはまず皮質全体に散在する、蛍光標識されたAβ斑の全体像を得た(図3のa)。PP−BTA−1は、脳アミロイド症と呼ばれる、大脳の血管へのアミロイド沈着を、Alexa488−6E10よりも強く強調した。その後、本発明者らは個々のAβ斑に注目した。典型的な蛍光沈着の詳細な3D再構成により、以前に報告された、Alexa488−6E10で染色されたAβ斑を反映する、丸い中空の形態が明らかになった(図3のa中の差し込み図)。対照的に、PP−BTA−1の強い蛍光は、Aβ斑の中心部に認められた。これらの結果は、Alexa488−6E10およびPP−BTA−1を使用しての染色およびイメージングの深度は、脳半球全体を網羅するAβアミロイドの可視化に十分であることを示す。次に9月齢のAppNL−F/NL−Fマウスの脳半球を同一の手法で染色およびイメージングしたが、まばらな標識のみが認められた(図3のb)。

0128

ChemScaleのサブタイプとして、本発明者らは以前に血管構造の3D再構成のためにマウスの血管を赤の蛍光で標識した。同一の手法で、麻酔をかけたAppNL−F/NL−Fマウス(20月齢)に、経心的に、テキサスレッドで標識したレクチン潅流した。後に続く固定化の後、左脳半球をAlexa488−6E10を用いてAbScale処理し、SPIMシステムによりイメージングした(図17のc:図3のcに対応)。大脳皮質に位置する四角柱の3D再構成により全てのAβ斑は血管に直接接触しているか、血管の近くに位置していることが示された(図3のc)。

0129

(5)高齢のマウスおよびヒトの脳におけるミクログリア−Aβ斑の結合
多くの2次元断面での研究により、アルツハイマー病(AD)の患者およびモデルにおいて、Aβ斑の周囲に位置するミクログリア細胞の数が増えることが示されている。しかしながら、目立たない細胞集団のイメージングおよび遺伝的特徴定量的測定は、3次元空間において実施されなければならないと本発明者等は考えている。

0130

どのようにしてミクログリアの活性化がアミロイドーシスに伴うのかに関して全体的な視点を得るため、本発明者らは20月齢のAppNL−F/NL−Fマウスから得られた2mm厚の大脳皮質スライスに対し2色のAbScale法を適用した(図4のa)。スライスは、Alexa488−6E10と、Aβ斑およびミクログリアを免疫染色するための、ウサギ抗Ibalポリクローナル抗体+Alexa546とコンジュゲートした抗ウサギIgG抗体とで反応し、その後、光学的に透明化した。体性感覚皮質および海馬CA1を含む領域(図4のaの立方体)を2mm厚のスライスを通じてSPIMシステムにより観察することができた(図17のd:図4に対応)。6E−10陽性の斑に加え、Ibal陽性の通常の大きさおよび形状のミクログリアが明瞭に可視化された。それらの3D再構成は観察された領域内まで延長され、2つの透視図(xyおよびxz平面)が作成された(それぞれ図4のb、c)。後者はz軸に沿った蛍光の分布を示し、またそれゆえに抗体の浸透の効率を示す。最も深い領域においてもシグナルの減弱は無いので、抗体は両方の表面から効率良く浸透したと結論付けられる。次に発明者らは、37個の、充分に分離されているAβ斑を含む皮質領域を選択した(図4のd)。また、Aβ斑の近傍(60μmより近く)に位置する120個のミクログリアを発見した。画像の分割の後、個々の斑の大きさと形、並びに、斑およびミクログリア両方の位置(重心)を決定した。本発明者らは、3次元空間において各ミクログリアの中心から最も近い斑の縁までの距離を自動的に測定する自作のアルゴリズムを使用した(図5のe)。休眠状態および活性化されたミクログリアはそれぞれ樹状およびアメーバ状の形状をしており、それらの3次元空間における形状を特徴づけるのは容易であるため、各区分のミクログリア細胞の休眠活性化状態の判断を行うことができた。斑からの距離が近いことに加え、活性化されたミクログリアの形態的特徴は、老人斑の重症度の情報に成り得る。例えば、本発明者らは、近接する2つの、ほぼ同じ大きさの斑を発見したが(図4のf)、ミクログリアとの空間的位置関係は異なっていた(図4のg)。1つは9つのミクログリアと直接接触もしくは近接しており、急性の神経炎の状態を示していた(図4のh、#2)。もう1つの斑はどのミクログリアとも近接しておらず、離れた隣のミクログリアはほぼ全て休眠状態であった(図4のh、#1);それゆえこの斑は陳旧性と示された。2つのAβ斑のヒストグラムは、活性状態および休息状態のミクログリアから斑の縁までの距離の分散を示している(図4のh下)。37個の全ての斑において、近接する120のミクログリアが同じ方法で分析された(図4のi)。活性化されたミクログリアも、休眠状態のミクログリアも、斑までの距離は比較的長く、102個のミクログリアは斑の縁から遠い(21μmより遠い)位置にあり、18個の細胞のみが斑から非常に近い位置(21μmより近い)に近接していた。個々の斑のヒストグラムは図18のaに示す。本発明者らはどの活性化されたミクログリアとも近接していない(21μmより近い)斑を陳旧性の斑と定義した。37個のうち25個の斑(68%)が“陳旧性”であった。

0131

10月齢のAppNL−F/NL−Fマウスから調製されたスライスを用いて同一の解析を行った。(図4のj);斑の多い領域において107個のミクログリアが27個の斑の近傍に発見された(図4のk)。27個の斑のヒストグラムは、最も近くの斑までの距離は、幅広い分散となっていることを示していた(図4のl)。個々の斑のヒストグラムも同様に示される(図18のb)。上記の定義によると、興味深いことに、27個のうち2つ(7.4%)の斑のみが“陳旧性”と分類された。早期の段階においては20月齢と比べ大幅に少ないAβ斑しか発見されないものの、より多い割合の斑が急性神経炎の状態を示していた。

0132

次いで、本発明者らはアルツハイマー患者の検死脳サンプルにおいて、同様に2色AbScaleの手法を用いて、ミクログリアと斑との関係を3Dで可視化した。重要なこととして、細胞外のAβ斑と細胞内のAlexa488−6E10シグナルとを区別するため、ニューロンの細胞核を同定するCy5−A60を追加的に使用した。3D再構成により9人の患者の脳ブロックが2つのグループに分類された;3つのサンプルには密度の濃い核を有する斑(有芯斑)が存在し(図19左:cored plaques(+))、他の6個のサンプルには存在しなかった(図19右:cored plaques(−))。例えば前者のグループのうちの1つのサンプル(#1617)において、11個の、核を有する斑がはっきりと観察されたが、Ibal陽性ミクログリアの集団はその斑の豊富な領域では観察されなかった(図5のa)。さらなる透視図の調査により、ほとんどの核のある斑はミクログリアから孤立していること(図5のb)、およびミクログリアと関連したものはほとんどないこと(図5のc)が明らかとなった。後者のグループのサンプル(#1523)においては対照的に、明瞭な核を有する斑は観察されず、相当量のミクログリアの集団が3D透視図において観察された(図5のd)。一連のxy図の調査中に、各ミクログリアの集団が“拡散斑”と近接していることを発見した。このタイプの斑は周りの細胞内のAβ蓄積物と比較してぼやけており、ボリュームレイキャスティングの画像データを定義できなかった(図5のd)。このようないくつかのxy図にわたる可能性のある隠れた構造を発見するために、2〜12枚のxy画像を含む、z軸に沿って合成された画像の完全なセットを構成するプログラムを使用した(図5のe)。拡散斑は、いくつかのz軸に沿って合成された画像において明瞭になった(図5のf、g)。その後立方体上の領域を、拡散斑がミクログリアと関連しているか否かを調査するために使用した(それぞれ図5のhおよびi)。ブロックサンプル(#1523)において、全部で26個の拡散斑が同定され、そのうち22個がミクログリアと相互作用を持つことが判明した。このようなミクログリアの拡散斑との関連は、他の患者のサンプルにおいてもしばしば観察される(図19)。光学的スライスはぼやけた図を分割するための最初の最適化として実際に有効である。この再スライスの手法は機械的な分割を伴わないため、異なる大きさの構造の同定が可能である。興味深いことに、拡散斑は核のある斑を含むサンプルにはほとんど観察されず(図19左)、拡散斑が核のある斑の前駆体であるという見方を支持している。

0133

(6)ScaleSQ:脳スライスの適用可能な迅速なScale
高齢のマウスの全脳を迅速に透明化するのは容易ではない一方、本発明者らは、数多くの研究者が全脳の使用よりも脳スライスの使用に興味を持っていることに気付いた。特に、現在立体解析学に関わっている者は透明な脳スライス(1〜2mm)から十分に利益を得るだろう。すると、問題は脳スライスに特異的な迅速な透明化を考案することが可能かということになる。

0134

もう1つの興味深い問題は、尿素の水和作用打ち消すソルビトールの存在下における、尿素の濃度を上げることのできる限界である。本発明者らは、尿素を9.1Mでかつソルビトールを22.5%で含む溶液が、成体マウスの数mm厚の脳スライスを迅速に透明化する力を持つことを発見した。注目すべきことに、この溶液はトリトンX−100を含有せず、ScaleSQ(0)と命名された。8週齢のYFP−Hマウスの1mm厚の脳サンプルはScaleSQ(0)中で37℃、1〜2時間の培養で明らかに透明になった(図6のa−c)。この手法がYFP蛍光を完全に保存することを確かめるため、本発明者らは透明化された半球(図6のd)およびコントロールの半球(図20)のYFP蛍光を比較した。透明化された半球をScaleS4(0)(図8)で2時間培養し、SPIMシステムを利用する、迅速な3Dイメージング実験に使用した。皮質の一部(図6のdの白いボックス)におけるYFPを発現しているニューロン(図6のe)の3D再構成は1分以内に完成した。ScaleSQ(0)溶液は超微細構造をよく保存することを期待されている。実際には、本発明者らはEM観察(図6のf)を行うことにより、復元されたサンプルの膜統合性を評価した。

0135

ScaleSQ(0)により明白な透明性を得られた(図6のa−c)にもかかわらず、SPIMイメージングにより、スライス標本内部に不透明性を示す部分があることが明らかになった。透明化されたスライスの透明度を上げるため、ScaleSQ(0)にさまざまな濃度でトリトンX−100を加えた。本発明者らはFP蛍光を充分に保存可能なトリトンX−100の濃度の上限を5%と決定した。ScaleSQ(5)(図8)は1mm厚のスライスをYFP蛍光のロスを全く起こさずに透明化することができる(図6のg−1)。透明化されたサンプルはYFP発現ニューロンのSPIMイメージングには非常に適しているが(図6のk)、超微細構造の保存性は、トリトンX−100の濃度の影響により、好ましくない状態であった(図6のi)。

0136

(7)ScaleSS:さらに透明度が向上したScaleS
ScaleS4溶液よりもさらに透明化の透明度(光透過性)を向上させた生物材料用透明化試薬(ScaleSS)を評価するために、ScaleSS20(組成:4M尿素
、40%ソルビトール、20%スクロース、20%DMSO、0.2%Triton X−100)及びScaleSS40(組成:3.56M尿素、35.56%ソルビトール、35.56%スクロース、17.78%DMSO、0.18%Triton X−100)を調製した。ScaleSS20及びScaleSS40を用いることによる透明度の向上を検証するため、透明化処理の対象として17週齢のYFP−Hマウスをペントバルビタール(ソムノペンチル)で充分に麻酔し、4%PFA/PBS(−)を用いて経心腔的灌流を行った後、全脳を摘出して4℃で3日間、4%PFA/PBS(−)中で、後固定を行ったものを準備した。固定化された全脳を、〔実験の方法〕欄の「=ScaleS溶液を用いた透明化処理=」において上述した第一工程から第三工程まで処理した後、観察前の工程として第三工程を経たサンプルをScaleS4中で189日間インキュベーションした。189日間のインキュベーションの翌日に全脳を右半球と左半球に分割し、右半球はScaleSS20又はScaleSS40中で1日間インキュベーションして透明化処理を施した。一方、左半球は透明度の比較のために再びScaleS4中で1日間インキュベーションした。

0137

ScaleSS20、ScaleSS40又はScaleS4で透明化処理された脳半球について、透過性(図中のPermeability)、YFP蛍光のシグナル強度(図中のFluorescence)および体積変動(図中のExpansion(Area))を比較した(図21)。その結果、ScaleSS20又はScaleSS40で処理することで透過性と蛍光のシグナル強度とがより向上する一方、体積変動にはScaleS4と同じく影響がないことが示された。

0138

次に、全脳をScaleSS40で処理した場合の透明度を評価するために、YFP−Hマウス(17週齢)の全脳を4%PFAによって固定し、上述の第一工程から第三工程まで処理した後、観察前の工程として第三工程を経たサンプルをScaleS4中で59日間インキュベーションしたものを準備した。この全脳サンプルをScaleS4から取り出した状態(in air)とScaleS4に浸した状態(in liquid)で観察し(図22上段でS4D25と示す)、その後にさらに、ScaleSS40で2日間インキュベーションし、ScaleSS40から取り出した状態(in air)とScaleSS40に浸した状態(in liquid)とで観察した。その結果、ScaleSS40で2日間インキュベーションすることで透過性が向上していることが確認された(図22)。
以上の結果より、ScaleSSの組成によって光透過性がより一層向上することが明らかとなった。

0139

<比較例1>
神経系のニューロンに蛍光タンパク質YFPを発現したトランスジェニックマウス(YFP−H line:米国Harvard大学 Joshua Sanes教授より供与されたもの。[参考文献] Feng et al. Neuron, 28: 41-51, 2000)を用いて、灌流によるマウスの全身固定と、生物材料(大脳)の摘出及び固定を行った。固定の方法は、室温において、ペリスタポンプまたは注射筒を用いて、左心室より、固定液(4(w/v)%パラホルムアルデヒド/PBS, pH7.5〜8.0)を灌流して動物の全身を完全に固定した。次いで、全身を完全に固定した上記動物の頭蓋骨を除去して、生物材料としての臓器(例えば脳全体)を注意深く摘出した。そして、摘出した臓器を氷冷固定液(4(w/v)% パラホルムアルデヒド/PBS, pH7.5〜8.0)に8時間〜12時間、4℃の環境下で浸漬した。

0140

なお、大脳は摘出後に、左半球と右半球とに分割して固定をしている。

0141

そして、得られた2つの大脳半球の一方を、以下に組成を示す生物材料用透明化試薬に、室温で4日間浸漬した。また、大脳半球の他方を、以下に組成を示す比較用の試薬に、室温で4日間浸漬した。結果を図7に示す。なお、図7中で左側にある大脳半球が、比較用の試薬で処理されたものであり、右側にある大脳半球が、生物材料用透明化試薬で処理されたものである。比較用の試薬では、大脳半球の透明化が実質的に生じていなかった。

0142

以上の比較により、尿素とソルビトールの組合せにおいて、透明化が向上することが示された。
生物材料用透明化試薬の組成:
40%(w/v)ソルビトール、2M尿素、10%(w/v)グリセロール、及び0.2%(w/v)TritonX-100が水中に含まれた水溶液。
比較用の試薬の組成:
40%(w/v)エリスリトール、2M尿素、10%(w/v)グリセロール、及び0.2%(w/v)TritonX-100が水中に含まれた水溶液。

実施例

0143

本発明は上述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。

0144

本発明は、光学観察に用いる生物材料を調製するための生物材料用透明化試薬、及びその利用を提供することが出来る。

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