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技術 新規成熟心筋細胞マーカー

出願人 国立大学法人京都大学
発明者 吉田善紀舟越俊介
出願日 2015年12月24日 (5年5ヶ月経過) 出願番号 2016-566449
公開日 2017年10月5日 (3年8ヶ月経過) 公開番号 WO2016-104614
状態 特許登録済
技術分野 酵素、微生物を含む測定、試験 微生物、その培養処理
主要キーワード 基礎呼吸 バルクデータ 形態解析 温度応答性ポリマー 心筋細胞集団 酸素消費速度 培養器材 核初期化物質
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2017年10月5日)のものです。
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図面 (8)

課題・解決手段

心筋細胞に特異的な新規マーカー、CORINNCAM1、CRYAB、HBEGF、DMDATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つのマーカーを用いることにより、心筋細胞を含有する細胞集団から当該心筋細胞を抽出する。

概要

背景

心筋細胞を用いた薬剤毒性試験心疾患モデル研究を行うためには、生体内の心筋細胞を十分に模倣した成熟心筋細胞を大量に集める必要がある。心筋細胞は、出生と同時にその分裂能喪失し、その再生が極めて困難であるという性質を有するため、大量の心筋細胞を得るために、多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導する研究が多数行われてきた(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3)。

しかし、ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞は一般的に胎児性心筋細胞に類似した未成熟な段階に留まり、成人心筋細胞と比べてイオンチャネル機能が不十分であると言われている。従って、イオンチャンネルに関する薬物毒性治療薬スクリーニングするためには、成熟した心筋細胞を用いて行う必要がある。

上記のとおりこれまで多能性幹細胞から心筋細胞を誘導する様々な方法が報告されているが、成熟な心筋細胞のみからなる心筋細胞を誘導できることが提示されてはおらず、未成熟な心筋細胞が含有される恐れは否定できない。
一方、分化誘導された細胞が心筋細胞であるか否かを見極めるための指標として、これまで複数のマーカー遺伝子が同定されてきた。例えば、心筋細胞に対する表面マーカーとして、CD166(ALCM)(非特許文献4)、N-cadherin(特許文献3または非特許文献5)、VCAM1(特許文献4)などが報告されているが、成熟心筋細胞に特異的なマーカー遺伝子については報告がなされていない。

概要

心筋細胞に特異的な新規マーカー、CORINNCAM1、CRYAB、HBEGF、DMDATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つのマーカーを用いることにより、心筋細胞を含有する細胞集団から当該心筋細胞を抽出する。

目的

本発明の目的は、心筋細胞を含有する細胞集団から当該心筋細胞を抽出することである

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
1件

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請求項1

CORINNCAM1、CRYAB、HBEGF、DMDATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つのマーカー陽性であることを指標として、心筋細胞を含有する細胞集団から成熟心筋細胞を抽出する工程を含む、心筋細胞の製造方法。

請求項2

前記マーカーが、CORINである、請求項1に記載の方法。

請求項3

心筋細胞を含有する細胞集団に含まれる細胞のうち、前記マーカーの発現量が上位50%以内の細胞が成熟心筋細胞として抽出される、請求項1または2に記載の方法。

請求項4

心筋細胞を含有する細胞集団に含まれる細胞のうち、前記マーカーの発現量が上位33%以内の細胞が成熟心筋細胞として抽出される、請求項3に記載の方法。

請求項5

前記心筋細胞がヒト心筋細胞である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。

請求項6

前記心筋細胞を含有する細胞集団が、多能性幹細胞から分化誘導された心筋細胞を含有する細胞集団である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。

請求項7

前記多能性幹細胞が、ES細胞またはiPS細胞である、請求項6に記載の方法。

請求項8

前記心筋細胞への分化誘導が、胚様体を形成する工程を含む、請求項6または7に記載の方法。

請求項9

前記心筋細胞への分化誘導が、サイトカインを含有する培地で胚様体を培養する工程を含む、請求項8に記載の方法。

請求項10

前記サイトカインが、アクチビンA、BMP4、bFGF、VEGFおよびWnt阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つのサイトカインである、請求項9に記載の方法。

請求項11

前記心筋細胞への分化誘導が、下記の工程を含む、請求項10に記載の方法。(1)多能性幹細胞から胚様体を形成する工程、(2)(1)の工程で得られた胚様体をアクチビンA、BMP4およびbFGFを含有する培養液中で培養する工程、(3)(2)の工程で得られた胚様体を解離する工程、(4)(3)の工程で得られた細胞をVEGFおよびWnt阻害剤を含有する培養液中で培養して胚様体に再凝集させる工程、および(5)(4)の工程で得られた胚様体をVEGFおよびbFGFを含有する培養液中で培養する工程。

請求項12

前記Wnt阻害剤が、IWP-3またはIWP-4である、請求項11に記載の方法。

請求項13

前記心筋細胞への分化誘導の工程(5)において、乳酸を含み、グルコースを含まない培養液中で培養する期間を含む、請求項11または12に記載の方法。

請求項14

薬剤候補物質心毒性試験する方法であって、(A)請求項1から13のいずれか1項に記載の方法により作製された成熟心筋細胞と候補物質とを接触させる工程、および(B)前記工程(A)の接触後に心筋細胞が正常な機能を維持した場合、当該候補物質を心毒性を有さない薬剤として同定する工程を含む、方法。

請求項15

前記心筋細胞の正常な機能が、電気生理学的に正常な機能である、請求項14に記載の方法。

請求項16

CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つを検出する試薬を含む、成熟心筋細胞抽出キット

請求項17

CORINを検出する試薬を含む、請求項16に記載のキット

請求項18

前記心筋細胞がヒト心筋細胞である、請求項16または17に記載のキット。

請求項19

下記の工程(1)〜(5)によって多能性幹細胞から心筋細胞を含有する細胞集団を得ること、および得られた細胞群からCORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つのマーカーが陽性であることを指標として心筋細胞を含有する細胞集団から成熟心筋細胞を抽出することを含む、心筋細胞の製造方法。(1)多能性幹細胞から胚様体を形成する工程、(2)(1)の工程で得られた胚様体をアクチビンA、BMP4およびbFGFを含有する培養液中で培養する工程、(3)(2)の工程で得られた胚様体を解離する工程、(4)(3)の工程で得られた細胞をVEGFおよびWnt阻害剤を含有する培養液中で培養して胚様体に再凝集させる工程、および(5)(4)の工程で得られた胚様体をVEGFおよびbFGFを含有する培養液中で培養する工程。

技術分野

0001

本発明は、新規心筋細胞マーカーを用いた心筋細胞の製造方法に関する。本発明はまた、当該方法により作製された心筋細胞を用いた、薬剤の毒性を試験する方法に関する。さらに本発明は、当該心筋細胞マーカーを検出する試薬を含む心筋細胞抽出キットに関する。

背景技術

0002

心筋細胞を用いた薬剤の毒性試験心疾患モデル研究を行うためには、生体内の心筋細胞を十分に模倣した成熟心筋細胞を大量に集める必要がある。心筋細胞は、出生と同時にその分裂能喪失し、その再生が極めて困難であるという性質を有するため、大量の心筋細胞を得るために、多能性幹細胞から心筋細胞を分化誘導する研究が多数行われてきた(特許文献1、特許文献2、非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3)。

0003

しかし、ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞は一般的に胎児性心筋細胞に類似した未成熟な段階に留まり、成人心筋細胞と比べてイオンチャネル機能が不十分であると言われている。従って、イオンチャンネルに関する薬物毒性治療薬スクリーニングするためには、成熟した心筋細胞を用いて行う必要がある。

0004

上記のとおりこれまで多能性幹細胞から心筋細胞を誘導する様々な方法が報告されているが、成熟な心筋細胞のみからなる心筋細胞を誘導できることが提示されてはおらず、未成熟な心筋細胞が含有される恐れは否定できない。
一方、分化誘導された細胞が心筋細胞であるか否かを見極めるための指標として、これまで複数のマーカー遺伝子が同定されてきた。例えば、心筋細胞に対する表面マーカーとして、CD166(ALCM)(非特許文献4)、N-cadherin(特許文献3または非特許文献5)、VCAM1(特許文献4)などが報告されているが、成熟心筋細胞に特異的なマーカー遺伝子については報告がなされていない。

0005

WO2007/002136
WO2009/118928
特開2010-158206
WO2012/133954

先行技術

0006

Yan P, et al, Biochem Biophys Res Commun. 379:115-20 (2009)
Laflamme MA, et al, Nat Biotechnol, 25:1015-1024 (2007)
Yang L et al, Nature, 453:524-528 (2008)
Rust W, et al, Regen Med. 4, 225-37 (2009)
Honda M, et al, Biochem Biophys Res Commun. 29, 351, 877-82 (2006)

発明が解決しようとする課題

0007

本発明の目的は、心筋細胞を含有する細胞集団から当該心筋細胞を抽出することである。したがって、本発明の課題は、心筋細胞に特異的なマーカーを提供することである。

課題を解決するための手段

0008

本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、CORINNCAM1 (Neural cell adhesion molecule 1)、CRYAB (crystallin, alpha B)、HBEGF (heparin binding-epidermal growth factor-like growth factor)、DMD(dystrophin)、ATPIF1 (ATPase inhibitory factor 1)、CAV2 (Caveolin-2)、ITGAV (Integrin alpha-V)、DCBLD2 (discoidin, CUB and LCCL domain containing 2)、CLIC4 (Chloride intracellular channel 4)、BMPR2 (Bone morphogenetic protein receptor type II)、CTSB (cathepsin B)、TMEM123 (transmembrane protein 123)、USP14 (Ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase 14)およびMIR761のうちの少なくとも一つが陽性であることを指標として、心筋細胞を含む細胞集団から高率で心筋細胞が得られることを見出した。当該知見に基づき、本発明者らは、CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つが陽性であることを指標として用いることで心筋細胞を単離精製することに成功し、本発明を完成するに至った。

0009

すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つのマーカーが陽性であることを指標として、心筋細胞を含有する細胞集団から成熟心筋細胞を抽出する工程を含む、心筋細胞の製造方法。
[2]前記マーカーが、CORINである、[1]に記載の方法。
[3]心筋細胞を含有する細胞集団に含まれる細胞のうち、前記マーカーの発現量が上位50%以内である細胞が成熟心筋細胞として抽出される、[1]または[2]に記載の方法。
[4]心筋細胞を含有する細胞集団に含まれる細胞のうち、前記マーカーの発現量が上位33%以内の細胞が成熟心筋細胞として抽出される、[3]に記載の方法。
[5]前記心筋細胞がヒト心筋細胞である、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記心筋細胞を含有する細胞集団が、多能性幹細胞から分化誘導された心筋細胞を含有する細胞集団である、[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記多能性幹細胞が、ES細胞またはiPS細胞である、[6]に記載の方法。
[8]前記心筋細胞への分化誘導が、胚様体を形成する工程を含む、[6]または[7]に記載の方法。
[9]前記心筋細胞への分化誘導が、サイトカインを含有する培地で胚様体を培養する工程を含む、[8]に記載の方法。
[10]前記サイトカインが、アクチビンA、BMP4(bone morphogenetic protein 4)、bFGF (basicfibroblast growth factor)、VEGF (vascular endothelial growth factor)およびWnt阻害剤からなる群から選択される少なくとも一つのサイトカインである、[9]に記載の方法。
[11]前記心筋細胞への分化誘導が、下記の工程を含む、[10]に記載の方法。
(1)多能性幹細胞から胚様体を形成する工程、
(2)(1)の工程で得られた胚様体をアクチビンA、BMP4およびbFGFを含有する培養液中で培養する工程、
(3)(2)の工程で得られた胚様体を解離する工程、
(4)(3)の工程で得られた細胞をVEGFおよびWnt阻害剤を含有する培養液中で培養して胚様体に再凝集させる工程、および
(5)(4)の工程で得られた胚様体をVEGFおよびbFGFを含有する培養液中で培養する工程。
[12]前記Wnt阻害剤が、IWP-3またはIWP-4である、[11]に記載の方法。
[13]前記心筋細胞への分化誘導の工程(5)において、乳酸を含み、グルコースを含まない培養液中で培養する期間を含む、[11]または[12]に記載の方法。
[14]薬剤候補物質心毒性を試験する方法であって、
(A)[1]から[13]のいずれかに記載の方法により作製された成熟心筋細胞と候補物質とを接触させる工程、および
(B)前記工程(A)の接触後に心筋細胞が正常な機能を維持した場合、当該候補物質を心毒性を有さない薬剤として同定する工程
を含む、方法。
[15]前記心筋細胞の正常な機能が、電気生理学的に正常な機能である、[14]に記載の方法。
[16]CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つを検出する試薬を含む、成熟心筋細胞抽出キット。
[17]CORINを検出する試薬を含む、[16]に記載のキット
[18]前記心筋細胞がヒト心筋細胞である、[16]または[17]に記載のキット。
[19]下記の工程(1)〜(5)によって多能性幹細胞から心筋細胞を含有する細胞集団を得ること、および得られた細胞群からCORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つのマーカーが陽性であることを指標として心筋細胞を含有する細胞集団から成熟心筋細胞を抽出することを含む、心筋細胞の製造方法。
(1)多能性幹細胞から胚様体を形成する工程、
(2)(1)の工程で得られた胚様体をアクチビンA、BMP4およびbFGFを含有する培養液中で培養する工程、
(3)(2)の工程で得られた胚様体を解離する工程、
(4)(3)の工程で得られた細胞をVEGFおよびWnt阻害剤を含有する培養液中で培養して胚様体に再凝集させる工程、および
(5)(4)の工程で得られた胚様体をVEGFおよびbFGFを含有する培養液中で培養する工程。

発明の効果

0010

本発明により、生体内に存在する心筋細胞により酷似した成熟心筋細胞を提供することができるので、より精度の高い薬剤の毒性試験や心疾患モデル研究において有用である。

図面の簡単な説明

0011

図1は、心筋細胞の成熟度について、CORINの発現量が高い細胞と低い細胞を比較した結果を示す。(A)は、心筋細胞への分化誘導後30日目の細胞群を、GFPおよびCORINにより選別したFACS解析の結果を示す。(B)は、心筋細胞マーカー(MYH7、MYL2、MYL7、TCAP、SCN5AおよびRYR2)の相対的な発現量を比較した結果を示す。図中「High」は、GFPおよびCORINのいずれの発現量も高い細胞群を示し、「Low」は、GFPの発現量は高いが、CORINの発現量が低い細胞群を示す。
図2は、心筋細胞の機能について、電気生理学的な方法により試験した結果を示す。(A)は、心筋細胞への分化誘導後30日目の心筋細胞群について、CORINの発現量が高い細胞と低い細胞を電気生理学的に比較した結果を示す。(B)は、(A)と同様の細胞群について、静止膜電位を比較した結果を示す。(C)は、(A)と同様の細胞群について、ピーク電圧を比較した結果を示す。(D)は、(A)と同様の細胞群について、振幅を比較した結果を示す。
図3は、心筋細胞の成熟度について、CORINの発現量が高い細胞と低い細胞を比較した結果を示す。(A)は、心筋細胞への分化誘導後30日目の細胞群の形態を示す写真。23日から27日まで、グルコース無し、乳酸有りの条件下に置き、非心筋細胞細胞死を誘導した。(B)は、心筋細胞への分化誘導後30日目の細胞群を、既知の心筋細胞マーカー(TNT)により選別したFACS解析の結果を示す。(C)は、(B)において選別された心筋細胞マーカー(TNT)が陽性である細胞群を、CORINにより選別したFACS解析の結果を示す。(D)は、心筋細胞マーカー(MYH7、MYL2、MYL7、TCAP、SCN5AおよびRYR2)の相対的な発現量を比較した結果を示す。図中「High」は、既知の心筋細胞マーカー(TNT)およびCORINのいずれの発現量も高い細胞群を示し、「Low」は、既知の心筋細胞マーカー(TNT)の発現量は高いが、CORINの発現量が低い細胞群を示す。
図4は、CORIN-High群とCORIN-Low群における細胞サイズを示す顕微鏡写真(a)および細胞サイズの比較結果を示すグラフ(b)を示す。(a)において、赤はactininを示し、青はHoechst33342を示し、スケールバーは20μmを示す。(b)において、値は平均値±SDであり、「**」はunpaired t-testでp<0.01であったことを示す。
図5は、CORIN-High群(左)とCORIN-Low群(右)における心筋サルコメア構造を示す電子顕微鏡写真である。
図6は、図5の電子顕微鏡写真のデータから決定されたCORIN-High群(左)とCORIN-Low群(右)におけるサルコメアの幅の比較を示すグラフである。値は平均値±SDであり、「**」はunpaired t-testでp<0.01であったことを示す。
図7は、CORIN-High群(黒)とCORIN-Low群(グレー)におけるミトコンドリア呼吸の評価を示す図である。(a)は、ミトコンドリア機能阻害剤(Oligo:オリゴマイシンFCCP:carbonyl cyanide-4-phenylhydrazone、A/R:antimycine + rotenone)を用いた酸素消費速度OCR)の時間変化を示すグラフであり、データは平均値±SDで示した。(b)は(a)のデータから算出された基礎呼吸予備呼吸能、プロトンリーク、ATP産生関連呼吸の値を示すグラフである。値は平均値±SDであり、「*」、「**」はそれぞれunpaired t-testでp<0.05、p<0.001であったことを示す。

0012

本発明を以下に詳細に説明する。

0013

本発明は、上記のとおり、CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つが陽性であることを指標として、心筋細胞を含有する細胞集団から心筋細胞を抽出する工程を含む心筋細胞の製造方法、当該方法により作製された心筋細胞を用いた薬剤の毒性を試験する方法、および当該心筋細胞マーカーを検出する試薬を含む心筋細胞抽出キットに関する。

0014

本発明において、「心筋細胞」とは、少なくとも心筋トロポニン(cTNT)、αMHC(α myosin heavy chain)およびMYH6から成る群から選択される少なくとも一つのマーカー遺伝子を発現している細胞を意味する。cTNTは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000364が例示され、マウスの場合、NM_001130174が例示される。αMHCは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_002471が例示され、マウスの場合、NM_001164171が例示される。MYH6は、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_002471が例示され、マウスの場合、NM_001164171が例示される。

0015

本発明において、「成熟心筋細胞」とは、生体内に存在する成人心筋細胞とより機能的および形態的に近似した心筋細胞を意味する。すなわち、本発明における成熟心筋細胞は、未成熟な段階にある胎児性心筋細胞よりもイオンチャネル機能が十分に発達した心筋細胞であり、例えば、静止膜電位、ピーク電圧、振幅などがより成人心筋細胞に近似した細胞である。本発明における成熟心筋細胞は、例えば、静止膜電位が−55mV以下、好ましくは−60mV以下、より好ましくは−65mV以下であり、ピーク電圧が15mV以上、好ましくは20mV以上、より好ましくは25mV以上であり、振幅が70mV以上、好ましくは80mV以上、より好ましくは90mV以上であることによって特徴づけられる。
また、「成熟心筋細胞」はMYH7、MYL2、MYL7、TCAP、SCN5AおよびRYR2から選択される1以上のマーカーの発現によって特徴づけられる。

0016

本発明における新規成熟心筋細胞マーカーについて、コードする遺伝子の配列を下記の表1に例示する。ただし、各マーカーの配列は下記の配列には限定されず、抽出対象の細胞で発現しているものであればよい。

0017

本発明における新規成熟心筋細胞マーカーを用いて成熟心筋細胞を抽出する際には、各マーカータンパク質が発現していることを指標にしてもよいし、上記各マーカータンパク質をコードする遺伝子が発現(mRNAが発現)していることを指標にしてもよい。なお、上記各遺伝子について、選択的スプライシングによるアイソフォームが存在する場合、そのアイソフォームも、各遺伝子の範囲に包含される。

0018

本発明において、「心筋細胞を含有する細胞集団」とは、成熟心筋細胞を含有している細胞の集合体であれば、その由来は特に問わない。例えば、任意の方法で得られた末梢血心臓骨髄組織脂肪組織骨格筋組織羊膜組織胎盤組織臍帯血などに含まれる細胞集団であってもよいし、また、多能性幹細胞から分化誘導された心筋細胞を含有する細胞集団であってもよい。

0019

本発明において、「成熟心筋細胞の抽出」とは、抽出前と比して成熟心筋細胞の割合を多くすることを意味し、好ましくは、成熟心筋細胞を50%、60%、70%、80%または90%以上含有するよう濃縮させることである。より好ましくは、100%成熟心筋細胞からなる細胞を得ることである。

0020

本発明において、CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14またはMIR761を指標として心筋細胞を含有する細胞集団から成熟心筋細胞を抽出する場合、これらの遺伝子または遺伝子によってコードされるタンパク質は、単独で、またはそれらを任意に組み合わせて使用され得る。CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14またはMIR761を任意で組み合わせて使用する場合、好ましくは、単独で使用する場合と比較して心筋細胞の濃縮率は高められる。とりわけ、NCAM1については、NCAM1単独で用いられるよりも、上記した他の心筋細胞マーカーと組み合わせて使用されることが望ましい。

0021

<多能性幹細胞>
本発明で心筋細胞を含有する細胞集団を得るために使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、以下のものに限定されないが、例えば、胚性(ES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、iPS細胞およびntES細胞である。

0022

(A)胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。

0023

ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後のである胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され (M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された (J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。

0024

ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞フィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basicfibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848; Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147; H. Suemori et al. (2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。

0025

ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1mM2-メルカプトエタノール、0.1mM非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20%KSR及び4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培養液を使用し、37℃、2% CO2/98% 空気の湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる(O. Fumitaka et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:215-224)。また、ES細胞は、3〜4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl2及び20% KSRを含有するPBS中の0.25%トリプシン及び0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。

0026

ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-TimePCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:443-452)。

0027

ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES-1、KhES-2及びKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。

0028

(B)精子幹細胞
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウス作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,土社(東京、日本))。

0029

(C)胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。

0030

(D)人工多能性幹細胞
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、KimJB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720に記載の組み合わせが例示される。

0031

上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標) (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294 等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LTUTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。

0032

初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルスプラスミド人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクターレンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクターセンダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーターエンハンサーリボゾーム結合配列ターミネーターポリアデニル化イトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子アンピシリン耐性遺伝子ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。

0033

また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L, (2010) Cell Stem Cell. 7:618-630)。

0034

iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが含まれる。

0035

培養法の例としては、例えば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。

0036

あるいは、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシンピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009),PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。

0037

上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。

0038

iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。

0039

明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、及び成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、及び株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞造血幹細胞間葉系幹細胞歯髄幹細胞等の組織幹細胞体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球上皮細胞内皮細胞筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞肝細胞胃粘膜細胞、腸細胞脾細胞膵細胞(外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。

0040

本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。得られるiPS細胞がヒトの再生医療用途に使用される場合には、拒絶反応が起こらないという観点から、患者本人またはHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から体細胞を採取することが特に好ましい。ここでHLAの型が「実質的に同一」とは、免疫抑制剤などの使用により、該体細胞由来のiPS細胞から分化誘導することにより得られた細胞を患者に移植した場合に移植細胞生着可能な程度にHLAの型が一致していることをいう。例えば主たるHLA(例えばHLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座)が同一である場合などが挙げられる(以下同じ)。一方、ヒトに投与(移植)しない場合、例えば、候補薬剤の心筋細胞への毒性を試験する方法においては、iPS細胞のソースとなる体細胞の由来は特に制限されない。患者の薬剤感受性副作用の有無を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてiPS細胞を使用する場合には、患者本人または薬剤感受性や副作用と相関する遺伝子多型が同一である他人から体細胞を採取することが望ましい。

0041

(E)核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がntES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B.Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。

0042

<多能性幹細胞から心筋細胞を含む細胞集団を製造する方法>
本発明における心筋細胞を含む細胞集団への分化誘導方法として、例えばLaflamme MAらにより報告された方法により、多能性幹細胞から心筋細胞を製造することができる(Laflamme MA & Murry CE, Nature 2011, Review)。この他にも特に特定されないが、例えば、人工多能性幹細胞を浮遊培養により細胞塊(胚様体)を形成させて心筋細胞を製造する方法、BMPシグナル伝達を抑制する物質の存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2005/033298)、Activin AとBMPを順に添加させて心筋細胞を製造する方法(WO2007/002136)、カノニカルWntシグナル経路活性化を促す物質の存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2007/126077)、人工多能性幹細胞からFlk/KDR陽性細胞を単離し、シクロスポリンAの存在下で心筋細胞を製造する方法(WO2009/118928)などが例示される。

0043

本発明において、多能性幹細胞から心筋細胞を含む細胞集団への分化誘導方法は、特に限定されることはないが、例えば、下記の方法が用いられる。

0044

<多能性幹細胞から胚様体を形成する工程〜工程(1)>
この工程においては、コロニーを形成した多能性幹細胞を解離して単細胞にしたのちに胚様体を形成させることが好ましい。多能性幹細胞を解離させる工程においては、互いに接着して集団を形成している細胞を個々の細胞に解離(分離)させる。多能性幹細胞を解離させる方法としては、例えば、力学的に解離する方法、プロテアーゼ活性コラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えば、Accutase(商標)およびAccumax(商標)など)またはコラゲナーゼ活性のみを有する解離溶液を用いた解離方法が挙げられる。好ましくは、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(特に好ましくは、Accumax)を用いて多能性幹細胞を解離する方法が用いられる。

0045

本発明の方法において、胚様体を形成する方法として、解離した多能性幹細胞を、培養皿の表面を細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲンゼラチンラミニンヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンクチンによるコーティング処理)されていないもの、もしくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)したものを用いて浮遊培養させることが例示される。

0046

<胚様体をアクチビンA、BMP4およびbFGFを含有する培養液中で培養する工程〜工程(2)>
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へアクチビンA、BMP4およびbFGFを添加することにより調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、StemPro34(Invitrogen)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミントランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、1-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン増殖因子、低分子化合物、抗生物質抗酸化剤ピルビン酸緩衝剤無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基礎培地は、トランスフェリン、1-チオールグリセロール、L-グルタミン、アスコルビン酸を含有するStemPro34である。

0047

本工程において用いられるアクチビンAの濃度は1ng/ml〜100ng/mlが好ましく、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、11ng/ml、12ng/ml、13ng/ml、14ng/ml、15ng/ml、16ng/ml、17ng/ml、18ng/ml、19ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/mlおよび100ng/mlが例示される。特に好ましくは、12ng/mlである。

0048

本工程において用いられるBMP4の濃度は1ng/ml〜100ng/mlが好ましく、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、11ng/ml、12ng/ml、13ng/ml、14ng/ml、15ng/ml、16ng/ml、17ng/ml、18ng/ml、19ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/mlおよび100ng/mlが例示される。特に好ましくは、18ng/mlである。

0049

本工程において用いられるbFGFの濃度は1ng/ml〜100ng/mlが好ましく、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、11ng/ml、12ng/ml、13ng/ml、14ng/ml、15ng/ml、16ng/ml、17ng/ml、18ng/ml、19ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/mlおよび100ng/mlが例示される。特に好ましくは、10ng/mlである。

0050

培養条件について、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、低酸素条件で行われることが望ましい。ここで、低酸素条件とは、大気中の酸素分圧(20%)より低い酸素分圧の条件であり、例えば、1%から15%の間の酸素分圧が挙げられ、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%および1%が例示される。より好ましくは、5%である。CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2〜5%である。

0051

培養期間は、1日以上7日以下が例示され、心筋細胞の樹立効率を考慮すると1日以上5日以下、1.5日以上5日以下、2日以上4日以下が例示される。本発明の培養期間は、例えば、1日、1.5日、2日、2.5日、3日、3.5日、4日、4.5日、5日、5.5日、6日、6.5日、7日などであってもよく、好ましくは、2日であり得る。

0052

<製造工程中の胚様体を解離させる工程〜工程(3)>
本発明において、胚様体を解離する方法は工程(1)で説明したのと同様の方法を用いることができる。

0053

<VEGFおよびWnt阻害剤を含有する培養液中で培養し、再凝集により胚様体を形成する工程〜工程(4)>
本工程の培養においては、工程(1)で説明したのと同様に、表面が細胞接着性を向上させる目的で人工的に処理されていない培養容器、もしくは、人工的に接着を抑制する処理した培養容器を用いて浮遊培養させることが好ましい。

0054

本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へVEGFおよびWnt阻害剤を添加することにより調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、StemPro34(Invitrogen)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、1-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基礎培地は、トランスフェリン、1-チオールグリセロール、L-グルタミン、アスコルビン酸を含有するStemPro34である。

0055

本発明において、Wnt阻害剤とは、Wntの受容体への結合からβカテニン蓄積へと続くシグナル伝達阻害する物質であり、受容体であるFrizzledファミリーへの結合を阻害する物質、またはβカテニンの分解を促進する物質である限り特に限定されず、例えば、DKK1タンパク質(例えば、ヒトの場合、NCBIのアクセッション番号:NM_012242)、スクレロスチン(例えば、ヒトの場合、NCBIのアクセッション番号:NM_025237)、IWR-1(Merck Millipore)、IWP-2(Sigma-Aldrich)、IWP-3(Sigma-Aldrich)、IWP-4(Sigma-Aldrich)、PNU-74654(Sigma-Aldrich)、XAV939(Sigma-Aldrich)およびこれらの誘導体などが例示される。

0056

本工程で使用されるWnt阻害剤は、好ましくは、IWP-3またはIWP-4であり得る。

0057

培養液中におけるIWP-3またはIWP-4などのWnt阻害剤の濃度は、Wntを阻害する濃度であれば特に限定されないが1nM〜50μMが好ましく、例えば、1nM、10nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。より好ましくは、1μMである。

0058

本工程において用いられるVEGFの濃度は1〜100ng/mlが好ましく、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、11ng/ml、12ng/ml、13ng/ml、14ng/ml、15ng/ml、16ng/ml、17ng/ml、18ng/ml、19ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/mlおよび100ng/mlが例示される。より好ましくは、10ng/mlである。

0059

本工程では、さらに、BMP阻害剤および/またはTGFβ阻害剤を基本培地に添加しても良い。
BMP阻害剤としては、Chordin、Noggin、Follistatin、などのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin (すなわち、6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)phenyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo[1,5-a]pyrimidine)、その誘導体(P. B. Yu et al. (2007),Circulation, 116:II_60; P.B. Yu et al. (2008), Nat. Chem. Biol., 4:33-41; J. Hao et al. (2008),PLoS ONE, 3(8):e2904)およびLDN193189(すなわち、4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。
TGFβ阻害剤としては、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、またはALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質が挙げられ、例えば、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、 NPC30345、SD093、 SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、 LY580276 (Lilly Research Laboratories)、A83-01(WO 2009146408) およびこれらの誘導体などが例示される。

0060

培養条件について、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、低酸素条件で行われることが望ましい。ここで、低酸素条件とは、大気中の酸素分圧(20%)より低い酸素分圧の条件であり、例えば、1%から15%の間の酸素分圧が挙げられ、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%および1%が例示される。より好ましくは、5%である。CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2〜5%である。

0061

培養期間は、長期間培養することにより心筋細胞の樹立に影響がでないことから、上限は特に設けられないが、4日以上培養することが好ましい。例えば、4日、5日、6日、7日、8日、9日および10日が挙げられる。より好ましくは、4日培養される。これにより、再凝集により形成された胚様体が心筋細胞に分化する。

0062

<VEGFおよびbFGFを含有する培養液中で培養する工程〜工程(5)>
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地へVEGFおよびbFGFを添加することにより調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)、StemPro34(Invitrogen)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、1-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましい基礎培地は、トランスフェリン、1-チオールグリセロール、L-グルタミン、アスコルビン酸を含有するStemPro34である。

0063

本工程において用いられるVEGFの濃度は1〜100ng/mlが好ましく、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、11ng/ml、12ng/ml、13ng/ml、14ng/ml、15ng/ml、16ng/ml、17ng/ml、18ng/ml、19ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/mlおよび100ng/mlが例示される。より好ましくは、10ng/mlである。

0064

本工程において用いられるbFGFの濃度は1〜100ng/mlが好ましく、1ng/ml、2ng/ml、3ng/ml、4ng/ml、5ng/ml、6ng/ml、7ng/ml、8ng/ml、9ng/ml、10ng/ml、11ng/ml、12ng/ml、13ng/ml、14ng/ml、15ng/ml、16ng/ml、17ng/ml、18ng/ml、19ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/mlおよび100ng/mlが例示される。より好ましくは、5ng/mlである。

0065

培養条件について、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、低酸素条件で行われることが望ましい。ここで、低酸素条件とは、大気中の酸素分圧(20%)より低い酸素分圧の条件であり、例えば、1%から15%の間の酸素分圧が挙げられ、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%および1%が例示される。より好ましくは、5%である。本工程では、工程の途中で酸素分圧を大気中と同等にて行われていても良い。この場合、特に低酸素条件下で行うことにより心筋細胞の誘導効率に変化がないため上限は特に設けないが、低酸素条件下は、工程の初期の5日以上行われることが好ましい。CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2〜5%である。

0066

培養期間は、長期間培養することにより心筋細胞の樹立に影響がでないことから、上限は特に設けられないが、12日以上培養することが好ましい。例えば、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日またはそれ以上が挙げられる。より好ましくは、23日培養される。工程(4)で得られた細胞をさらに工程(5)に従って培養することにより、心筋細胞への分化効率が向上する。

0067

さらに本発明は、最終的に得られる心筋細胞の純度を高めるために、工程(5)の間に、心筋細胞以外の細胞を除去する工程を含むことができる。本工程は、例えば、特開2013-143968に記載された方法を用いることができるがこれに限定されない。本工程は、心筋細胞と心筋細胞以外との細胞を選別できるような条件下での培養であれば何でも良いが、例えば、心筋細胞以外の細胞が死滅することにより、心筋細胞と心筋細胞以外との細胞を選別できるような条件下での培養であり得る。心筋細胞以外の細胞が死滅する培養条件は、例えば、低糖(例えば糖濃度1%以下、または、糖類を55.60〜111.20μM含有)かつ乳酸を添加した条件下での培養であるが、これに限定されない。好ましくは、無糖かつ乳酸を添加した条件下での培養であり得る。添加される乳酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1〜5 mMの範囲であり、好ましくは、1mMである。無糖かつ乳酸を添加した培養条件は、工程(5)の培養液の成分から糖類を除き、乳酸を添加することにより行われ得る。例えば、工程(5)の培養液に直接乳酸を添加したり、あるいは工程(5)の培養液を、乳酸を添加した新鮮な工程(5)の培養液で置換することにより行われるが、これに限定されない。

0068

心筋細胞以外の細胞を除去する工程の培養期間は、工程(5)の間に、2日以上培養することが好ましい。例えば、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日またはそれ以上が挙げられる。より好ましくは、4日培養される。

0069

心筋細胞以外の細胞を除去する工程の培養開始時期は、工程(5)の開始から10日以上後であることが好ましい。例えば、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日またはそれ以上が挙げられる。より好ましくは、16日目に開始される。

0070

<薬剤反応性試験>
本発明においては、本発明のマーカーを用いて抽出された成熟心筋細胞を用いて、薬剤候補物質が心毒性を有するか否かを調べることができる。心毒性の試験は、当分野における技術常識に基づいて、任意の方法を用いて行うことができる。本発明における試験は、例えば、電気生理学的手法または毒性マーカー遺伝子の発現解析などに基づいて行うことができる。電気生理学的な手法としては、例えば、パッチクランプ試験などが挙げられるがこれらに限定されない。また、毒性マーカー遺伝子の発現解析に用いられる毒性マーカー遺伝子としては、例えば、ABHD2、CCR1、GJA1、NEXN、PSMD7、TGFB2、VIM、ABRA、CD14、GPM6A、NFIB、PUM2、THRAP3、WIPI1、ACTA1、CFD、HAMP、PDK4、PVR、TIAM1、ZNF148、AIFM1、COL15A1、HSPA2、PKN2、RBM3、TIMP1、ZNF23、AK3、COL3A1、HSPH1、PLA2G4A、REG3G、TUBB6、 ASH1L、CREM、IFT20、PLAU、RND1、TXNIP、ATP5J、CSNK2A2、IGFBP5、PLN、RPS6KB1、UBA5、BCAT1、DUSP8、IL6、POSTN SERPINE1 UBXN2A、BGN、EGR1、ITPR2、PPBP、SIK1、UCK2、BSN、FCGR2B、KBTBD10、PPP1R14C、SLC4A3、UCP1、BTG2、FHL1、KBTBD5、PRKAB2、SPP1、VCAN、CCL7、FOSL1、MCM6、PSMA2、TCF4、VEGFAなどが挙げられる。毒性マーカー遺伝子の測定および解析は、例えば、TruSeqターゲットRNA発現解析−Cardiotoxityパネルイルミナ社、Catalog ID:RT-202-1009)を用いて、上記遺伝子群を標的とすることにより行うことができる。

0071

本発明において薬剤候補物質による心毒性とは、薬物誘導性不整脈が例示され、当該不整脈は、頻拍徐脈期外収縮およびQT延長等が例示されるが、本発明の方法において検出される不整脈は、QT延長が好適である。従って、本発明における試験の対象とする心毒性は、薬物誘導性QT延長と言える。QT延長は、カリウムチャンネルの阻害によって引き起こされることから、本発明の方法は、薬剤候補物質による不整脈を引き起こすカリウムチャンネル阻害能を検査する方法とも言える。

0072

本発明において、パッチクランプ試験で得られる成熟心筋細胞の電位変化持続を確認することによってQT延長を確認することができる。本発明において、成熟心筋細胞の電位変化の持続とは、静止膜電位からプラス側へ振れてから、再度静止膜電位へとなる間を意味する。
薬剤候補物質を接触させた成熟心筋細胞において、正常な機能、好ましくは電気生理的に正常な機能が維持された場合に、当該化合物が心毒性を有さない薬剤として同定することができる。一方、例えば、薬剤候補物質を接触させた成熟心筋細胞における電位変化の持続時間と接触させなかった成熟心筋細胞における電位変化の持続時間を比較して、薬剤候補物質を接触させた成熟心筋細胞における電位変化の持続時間が延長した場合に、当該薬剤候補物質は心毒性を有すると判定することができる。

0073

本発明において、薬剤候補物質とは、疾患に対して有効と推定される物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞抽出物細胞培養上清微生物発酵産物、海洋生物由来抽出物植物抽出物精製タンパク質または粗タンパク質ペプチド非ペプチド化合物、合成低分子化合物、天然化合物等が挙げられる。本発明における、薬剤候補物質が対象とする疾患は、心疾患に限定されない。

0074

本発明の薬剤反応性試験において使用される細胞は、単一細胞であってもよく、細胞塊または細胞シートであってもよい。使用される細胞が細胞塊である場合、当該細胞塊は、成熟心筋細胞のみから構成されることが好ましいが、成熟心筋細胞と微量の他の細胞の混合群であってもよい。

0075

本発明において、細胞シートは、上述した本発明の方法により得られた成熟心筋細胞を(メタアクリルアミド化合物、N-(若しくはN,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(特開2010-255001)、又はビニルエーテル誘導体重合させた温度応答性ポリマー被覆した培養器材を用いて培養することによって得ることができる。例えば、当該本培養器材は、UpCellとしてセルシード社より購入することもできる。

0076

<心筋細胞の抽出または検出方法
心筋細胞を含有する細胞集団より心筋細胞の抽出または検出を行うために使用される試薬としては、CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14またはMIR761に特異的親和性を有する試薬であれば何でもよく、抗体、アプタマー、ペプチドまたは特異的に認識する化合物などを用いることができ、好ましくは、抗体もしくはその断片である。
また、これらのマーカーの遺伝子発現を調べる場合は、これらのマーカー遺伝子にハイブリダイズするプライマープローブを使用することができる。

0077

本発明において、抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってよい。これらの抗体は、当業者に周知の技術を用いて作成することが可能である(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987) Publish.John Wiley and Sons.Section 11.12-11.13)。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したCORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14またはMIR761のタンパク質、あるいは部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、上述の免疫された非ヒト動物から得られた脾臓細胞骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987) Publish.John Wiley and Sons.Section 11.4-11.11)。抗体の断片としては、抗体の一部(例えば、Fab断片)または合成抗体断片(例えば、一本鎖Fv断片「ScFv」)が例示される。FabおよびF(ab)2断片などの抗体の断片もまた、遺伝子工学的に周知の方法によって作製することができる。マーカーが膜タンパク質である場合、細胞外ドメインに対する抗体であることが好ましい。例えば、CORINに対する抗体として、WO2006/009241に開示された抗体が例示される。

0078

結合した細胞を区別、分離するため、当該親和性を有する試薬は、例えば、蛍光標識放射性標識化学発光標識酵素ビオチンストレプトアビジン等の検出可能な物質、またはプロテインAプロテインG、ビーズ磁気ビーズ等の単離抽出を可能とさせる物質と結合または接合されていてもよい。

0079

当該親和性を有する試薬は、間接的に標識してもよい。当業者に公知の様々な方法を使用して行い得るが、例えば、CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14またはMIR761に対する抗体に特異的に結合する予め標識された抗体(二次抗体)を用いる方法が挙げられる。

0080

心筋細胞を検出する方法には、例えば、フローサイトメーター、または単離精製した後、別途細胞を検出する方法(例えば、プロテインチップ)を用いることが含まれる。

0081

心筋細胞を抽出する方法には、当該親和性を有する試薬へ大きな粒子を接合させ沈降させる方法、磁気ビーズを用いて磁性により細胞を選別する方法(例えば、MACS)、蛍光標識を用いて細胞ソーターを用いる方法、または抗体等が固定化された担体(例えば、細胞濃縮カラム)を用いる方法等が例示される。

0082

本発明において、心筋細胞を含有する細胞集団において、CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つのマーカーが陽性である細胞を選択的に収集することで、成熟心筋細胞を抽出することができる。本発明においてマーカーが陽性である細胞を選択的に収集(抽出)することは、マーカーが陽性である細胞を全て収集(抽出)することでもよいが、マーカーの発現量が一定量以上の細胞を収集(抽出)することでもよい。例えば、心筋細胞を含有する細胞集団において、当該マーカーの発現量が上位50%以内の細胞、上位40%以内の細胞、上位33%以内の細胞、上位30%以内の細胞、上位20%以内の細胞、または上位10%以内の細胞を選択的に収集することとすることができる。

0083

本発明において、また、CORIN、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14およびMIR761からなる群から選択される少なくとも一つを検出する試薬を含む、心筋細胞抽出キットを提供する。本発明は、さらに、NCAM1を検出する試薬を含む、心筋細胞抽出キットを提供する。本抽出キットに含まれる検出試薬は、上記したとおりである。本発明における抽出キットは、CORIN、NCAM1、CRYAB、HBEGF、DMD、ATPIF1、CAV2、ITGAV、DCBLD2、CLIC4、BMPR2、CTSB、TMEM123、USP14またはMIR761の検出試薬と共に、当該検出試薬の使用方法を記載した指示書を含むこともできる。

0084

[実施例]
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。

0085

<成熟心筋細胞マーカーの同定>
多能性幹細胞
多能性幹細胞として、次のiPS細胞株、201B7株およびMYH6-GFPレポーターを有する201B7株(以下、MYH6-GFPレポーター株と言う。)を用いて実験を行った。201B7株は、Takahashi K, et al. Cell. 131: 861-72, 2007に記載の方法により作製された。MYH6-GFPレポーター株は、PiggyBacトランスポゾンステム(System Biosciences, Inc.)を用いて、201B7株に、MYH6(myosin heavy chain 6)プロモーターの下流にEGFPカセット作動可能に連結したベクターを導入することにより行われた。201B7株およびMYH6-GFPレポーター株の培養は、従来の方法で行われた (Takahashi K, et al. Cell. 131: 861-72, 2007およびNakagawa M, et al. Nat Biotechnol. 26: 101-6, 2008)。

0086

心筋細胞誘導法
MYH6-GFPレポーター株をCTK solution(ReproCELL)で2分処理後、溶液を除去し、続いてAccumax(Innovative Cell Technologies)で5分処理し、ピペッティングによりシングルセルへと解離した。遠心分離により培地を除去し、得られた細胞を1wellあたり2500 cells/wellにて低接着96wellディッシュ(Corning)へ播種し、1% L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid(sigma)、3.9×10-3%MTG、10μM Rock inhibitorおよび2ng/mL BMP4(R&D)、0.50% Matrigel(Growth Factor Reduced)を添加したSTEMPRO 34中、37℃・5%酸素条件下にて培養して、胚様体(以下、EBと言う。)を形成させた(day0)。

0087

翌日(day1)、1% L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG 、18ng/mL BMP4、10ng/mL bFGFおよび12ng/mL Activin Aを添加したSTEMPRO 34を等量、EBの培養中の96wellプレートに加え、37℃・5%酸素条件にてさらに2日間培養した。

0088

続いて(day3)、得られたEBを自然落下させ培地を除去し、Accumaxを添加し5分処理し、ピペティングによりシングルセルへ解離した。IMDM(invitrogen)を5ml加え、遠心分離により培地を除去し、得られた細胞10000cells/wellを低接着96wellディッシュ(Corning)へ播種し、1%L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG 、10ng/mLVEGFおよび1μM IWP-3を添加したSTEMPRO 34中でEBを形成させ、37℃・5%酸素条件下で、4日間培養した。

0089

続いて(day7)、得られたEBを回収し、1wellあたりのEB数が10個を上回らないように24wellディッシュへと移した。1% L-Glutamine、150μg/mL Transferrin、50μg/mL Ascorbic Acid、3.9×10-3%MTG 、10ng/mLVEGFおよび5ng/mL bFGFを添加したSTEMPRO 34中で、5日間、37℃・5%酸素条件下で培養した。この時、2 日に1度同じ条件の培地に交換した。

0090

続いて(day12)、通常の酸素濃度のインキュベーターに移し、18日間培養した(day30)。この時、2日に1度同じ条件の培地に交換した。

0091

成熟心筋細胞マーカーの同定
上記の心筋細胞誘導法により、MYH6-GFPレポーター株をday9、day21およびday30までそれぞれ分化誘導させた。day9、day21およびday30のそれぞれの細胞と分化誘導前のMYH6-GFPレポーター株について、シングルセルRNA seq解析を行い、それぞれの細胞集団についてそれらを平均したものをバルクデータとした。続いて、下記の4つの基準を元に、すべての基準を満たす遺伝子を同定した。
1.Day 21,30の心筋細胞 > Day 9の心筋細胞、Fold Change (FC) > 2.0
2.Day21,30の心筋細胞 >iPS細胞(MYH6-GFPレポーター株)、FC>5.0
3.成体心臓>胎児心臓、FC > 2.0
4.成体心臓 > 他の組織(肝臓腎臓および脳) 、FC>5.0

0092

その結果、すべての基準を満たす遺伝子として、39個の遺伝子が同定された。それらの遺伝子発現の加重平均(weighted average)を取り、数値化し、成熟指標として定義づけた。

0093

続いて、day21およびday 30の合計46サンプルについて、サンプル毎に成熟指標の高い順(成熟順)に並び替えた。全遺伝子について、成熟指標との相関係数を計算し、表面マーカー遺伝子の中で相関係数が高いものから順に表示した。成熟心筋細胞マーカーとして有用である可能性の高い上位15遺伝子の中から 例示的にCORINを選択し、実施例2以下の実験を行った。

0094

上位15遺伝子については、下記の表2のとおりである。

0095

CORINを用いた成熟心筋細胞の抽出
実施例1において新規な成熟心筋細胞マーカーとして同定されたCORINが、実際に成熟心筋細胞の抽出に有効であるかについて詳細に調べた。簡潔には、実施例1の心筋細胞誘導法により分化させたday30のMYH6-GFPレポーター株について、既知の心筋細胞マーカーであるMYH6の発現を代替するGFPおよびCORINを指標として、FACSにより解析を行った。FACS解析は、FACS Arial II cell sorter (BD Biosciences)を用いて行った。その結果、GFPおよびCORINのいずれの発現量も高い細胞群(High群)とGFPの発現量は高いが、CORINの発現量が低い細胞群(Low群)を確認した。さらに、High群およびLow群をFACS Arial II cell sorterを用いて選別した(図1(A))。High群は、CORINの発現量が上位33%の細胞とし、Low群は、CORINの発現量が下位33%の細胞として選別した。
得られたHigh群およびLow群について、心筋細胞マーカー(MYH7、MYL2、MYL7、TCAP、SCN5AおよびRYR2)の相対的な発現量を測定することにより、心筋細胞の成熟度を調べた。発現量の測定は、定量的RT-PCRにより行った。簡潔には、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて、細胞からmRNAを単離した。得られた全RNAのうち1μgを鋳型として、Superscript III reverse transcriptase (Invitrogen)を用いて逆転写によりcDNAを合成した。定量的RT-PCR解析は、Power SYBR Green qPCR mastermix (Invitrogen)を用いて、StepOne real-time PCR system (ABI)により測定した。その結果、調べられたいずれの心筋細胞マーカーについても、Low群よりもHigh群において高い発現量を示すことが見出された(図1(B))。これは、High群が相対的に成熟した心筋細胞の細胞群であることを示唆している。

0096

続いて、得られたHigh群およびLow群の電気生理学的な機能を調べるための実験を行った。簡潔には、day30の細胞群を上記と同様にFACSによりHigh群およびLow群に選別し、5日間培養した後、パッチクランプ解析を行った。パッチクランプ解析は、Anna L. Lahti et al., Dis Model Mech., 5:220-230 (2012)およびDjamel Lebeche, et al.,Circulation., 110:3435-3443 (2004)の記載に基づいて、Axopatch 200B amplifier (Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて行った(図2(A))。その結果、Rest potential(静止膜電位)は、Low群よりもHigh群においてよりマイナス側に振れ(図2(B))、ピーク電圧および振幅は、Low群よりもHigh群においてより絶対値の高い数値を示すことが見出された(図2(C)および(D))。静止膜電位は、マイナス側に振れる程、成熟した心筋細胞であることを示し、ピーク電圧および振幅は、プラス側に振れる程、成熟した心筋細胞であることを示しているので、この結果は、High群がより生体内の成熟心筋細胞に近い機能を有していることを示唆している。

0097

CORINを用いた成熟心筋細胞の抽出
実施例1において新規な成熟心筋細胞マーカーとして同定されたCORINが、一部改変を行った心筋細胞誘導法により得られた心筋細胞群から成熟心筋細胞の抽出が可能であるか否かを検討した。当該一部改変とは、簡潔には、実施例1の心筋細胞誘導法のday23-27において、グルコース不含、乳酸添加した培養液中で培養する工程を加えたことである。day30のMYH6-GFPレポーター株を既知の心筋細胞マーカー(TNT)を指標としてFACS解析を行ったところ、94.7%の細胞がTNT陽性であり、心筋細胞へ分化していることが示された(図3(B))。なお、FACS解析は、実施例2と同様にFACS Arial II cell sorter (BD Biosciences)を用いて行った。

0098

続いて、TNT陽性細胞群について、CORINを指標として、FACSにより解析を行った。その結果、CORINの発現量が高い細胞群(CORIN-High群)と、CORINの発現量が低い細胞群(CORIN-Low群)を確認した。さらに、CORIN-High群およびCORIN-Low群をFACS Arial II cell sorterを用いて選別することができた(図3(C))。CORIN-High群は、CORINの発現量が上位33%の細胞とし、CORIN-Low群は、CORINの発現量が下位33%の細胞として選別した。

0099

続いて、CORIN-High群およびCORIN-Low群について、心筋細胞マーカー(MYH7、MYL2、MYL7、TCAP、SCN5AおよびRYR2)の相対的な発現量を測定することにより、心筋細胞の成熟度を調べた。発現量の測定は、RT-PCRにより、上記と同様の方法で行った。その結果、調べられたいずれの心筋細胞マーカーについても、CORIN-Low群よりもCORIN-High群において高い発現量を示すことが見出された(図3(D))。これは、CORIN-High群が相対的に成熟した心筋細胞の細胞群であることを示唆している。

0100

CORINを用いて抽出された成熟心筋細胞の機能解析
形態解析
iPS細胞から分化誘導して30日目の心筋細胞を2次元培養ディッシュに再播種した後、顕微鏡を用いて観察したところ、図4のように、CORIN-High群はCORIN-Low群と比較して大きい細胞サイズを示した。

0101

構造解析
iPS細胞から分化誘導して30日目の心筋細胞をフィブロネクチンコートディッシュに再播種し、その3日後に細胞切片を作製し、透過型電子顕微鏡(H-7650, Hitachi)で解析した結果、図5および6に示すように、CORIN-High群は明確に配列されたサルコメア構造を示し、CORIN-Low群と比較してサルコメアの幅は顕著に長かった。

0102

<機能解析>
ミトコンドリア機能を調べるため、iPS細胞から分化誘導して30日目の心筋細胞(20000個)をフィブロネクチンでコートされたアッセイウェル(Seahorse Bioscience)に播種し、播種3日後、酸素消費速度(OCR)をSeahorse BioscienceのXF24細胞外フラックスアナライザー計測した。その結果、図7に示すように、CORIN-High群は高い酸素消費速度を示し、電子伝達系の活性も高いことが分かった。

実施例

0103

これらの結果から、CORINの高発現を指標として、転写レベルだけでなく、構造的にも、電気生理学的にも、代謝的にも、成熟した心筋細胞を濃縮できることが分かった。

0104

通常、多能性幹細胞からの分化誘導などにより得られる心筋細胞集団には様々な成熟度の細胞が混在して含まれるが、本発明により、そのような細胞集団のうち、生体内に存在する心筋細胞により近い、成熟度の高い心筋細胞を濃縮した細胞群を提供することができる。本発明によって得られる、より均一に精製された成熟心筋細胞群を用いれば、従来よりも精度の高い薬剤の毒性試験や心疾患モデル研究を行うことができるようになり、薬剤開発期間の短縮や新たな疾患標的の探索において有用である。

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