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技術 高強度鋼板およびその製造方法

出願人 JFEスチール株式会社
発明者 川崎由康松田広志横田毅船川義正瀬戸一洋松原行宏
出願日 2015年8月5日 (5年4ヶ月経過) 出願番号 2015-558683
公開日 2017年4月27日 (3年7ヶ月経過) 公開番号 WO2016-021196
状態 特許登録済
技術分野 溶融金属による被覆 薄鋼板の熱処理
主要キーワード マルテンサイト変態開始点 保持過程 下地組 穴直径 疲労限強度 オーステンパー バーヒーター 耐久比
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2017年4月27日)のものです。
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課題・解決手段

所定の成分組成になる鋼スラブを、1100℃以上1300℃以下に加熱し、仕上げ圧延出側温度:800℃以上1000℃以下で熱間圧延したのち、平均巻き取り温度:200℃以上500℃以下で巻き取り熱延鋼板とする熱間圧延工程と、前記熱延鋼板に酸洗処理を施す酸洗処理工程と、前記熱延鋼板を、740℃以上840℃以下の温度で10s以上900s以下保持したのち、5℃/s以上30℃/s以下の平均冷却速度で150℃以上350℃以下の冷却停止温度まで冷却する焼鈍工程と、ついで、前記熱延鋼板を、350℃超550℃以下の温度まで再加熱し、該再加熱温度において10s以上保持する再加熱処理工程と、をそなえる。

概要

背景

近年、衝突時における乗員の安全性確保や車体軽量化による燃費改善を目的として、引張強度(TS)が780MPa以上で、板厚の薄い高強度鋼板自動車構造部材への適用が積極的に進められている。
特に、最近では、980MPa級、1180MPa級のTSを有する極めて強度の高い高強度鋼板の適用も検討されている。

しかしながら、一般的に鋼板高強度化成形性の低下を招くため、高強度と優れた成形性を両立させることは難しく、高強度と優れた成形性を併せ持つ鋼板が望まれている。
また、自動車走行可能な距離(総走行距離)は、自動車構造部材へ適用される鋼板の疲労強度にも依存するため、優れた疲労特性を有する鋼板も望まれている。

このような要望に対し、例えば特許文献1には、「質量%で、C:0.06〜0.6%、Si+Al:0.5〜3%、Mn:0.5〜3%、P:0.15%以下(0%を含まない)、S:0.02%以下(0%を含む)を夫々含有すると共に、焼戻マルテンサイト:全組織に対して面積率で15%以上、フェライト:全組織に対して面積率で5〜60%、残留オーステナイト:全組織に対して体積率で5%以上、更にベイナイト及び/又はマルテンサイトを含有しても良い組織を有し、且つ、前記残留オーステナイトのうち、2%歪を加えることによりマルテンサイトへ変態する残留オーステナイトの割合が20〜50%であることを特徴とする加工性および形状凍結性に優れた高強度鋼板」が開示されている。

また、特許文献2には、「質量%で、C :0.05以上、0.35%以下、Si:0.05%以上、2.0%以下、Mn:0.8%以上、3.0%以下、P :0.0010%以上、0.1%以下、S :0.0005%以上、0.05%以下、N :0.0010%以上、0.010%以下、Al:0.01%以上、2.0%以下、を含有して、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼組成をもち、金属組織はフェライトまたはベイナイトまたは焼戻しマルテンサイト主体とし、残留オーステナイト相を3%以上、30%以下含む鋼板において、前記オーステナイト相フェライト相ベイナイト相およびマルテンサイト相と接する相界面において、前記オーステナイト相中平均C濃度が0.6%以上、1.2%以下であり、前記オーステナイト相の中心濃度Cgcとオーステナイト粒粒界の濃度CgbがCgb/Cgc>1.3を満たす範囲にあるオーステナイト粒が50%以上あることを特徴とする伸びと穴拡げ性に優れた高強度薄鋼板」が開示されている。

特許文献3には、「質量%で、C:0.17%以上0.73%以下、Si:3.0%以下、Mn:0.5%以上3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.07%以下、Al:3.0%以下およびN:0.010%以下を含有し、かつSi+Alが0.7%以上を満足し、残部はFeおよび不可避不純物組成からなり、鋼板組織として、マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以上90%以下、残留オーステナイト量が5%以上50%以下、上部ベイナイト中ベイニティックフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が5%以上であり、前記マルテンサイトのうち25%以上が焼戻しマルテンサイトであり、前記マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率、前記残留オーステナイト量および前記上部ベイナイト中のベイニティックフェライトの鋼板組織全体に対する面積率の合計が65%以上、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以下(0%を含む)を満足し、かつ前記残留オーステナイト中の平均C量が0.70%以上であって、引張強さが980MPa以上であることを特徴とする高強度鋼板」が開示されている。

特許文献4には、「質量%で、C:0.06超〜0.24%、Si≦0.3%、Mn:0.5〜2.0%、P≦0.06%、S≦0.005%、Al≦0.06%、N≦0.006%、Mo:0.05〜0.5%、Ti:0.03〜0.2%、V:0.15超〜1.2%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、C、Ti、Mo、V含有量が0.8≦(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}≦1.5を満足する成分組成を有し、かつフェライト相が面積比率で95%以上であり、平均粒径10nm未満のTi、MoおよびVを含む炭化物分散析出するとともに、該Ti、MoおよびVを含む炭化物は、原子%で表されるTi、Mo、Vが、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす平均組成を有することを特徴とする引張強度が980MPa以上の高降伏比高強度冷延鋼板」が開示されている。

特許文献5には、「C:0.05〜0.3質量%、Si:0.01〜2.5質量%、Mn:0.5〜3.5質量%、P:0.003〜0.100質量%、S:0.02質量%以下、Al:0.010〜1.5質量%を含有し、SiとAlの含有量の合計が0.5〜3.0質量%であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、面積率でフェライトを20%以上、焼戻しマルテンサイトを10〜60%、マルテンサイトを0〜10%を含み、体積率で残留オーステナイトを3〜10%含み、焼戻しマルテンサイトのビッカース硬度(m)とフェライトのビッカース硬度(f)の比(m)/(f)が3.0以下である金属組織を有することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板」が開示されている。

特許文献6には、「質量%で、C :0.06〜0.6%、Si+Al:0.5〜3%、Mn:0.5〜3%、P :0.15%以下(0%を含まない)、S :0.02%以下(0%を含む)を含有し、残部:鉄及び不可避的不純物であり、且つ、組織は、全組織に対する占積率で、焼戻マルテンサイトを15〜60%、フェライトを5〜50%、残留オーステナイトを5%以上、及びアスペクト比が3以下の塊状マルテンサイトを15〜45%含有しており、該塊状マルテンサイト中、平均粒径が5μm以下の微細マルテンサイトの占める占積率は30%以上であることを特徴とする、引張強度が1180MPa以上の超高強度域における伸び、及び耐水素脆化特性に優れた超高強度鋼板」が開示されている。

また、この特許文献6には、上記の超高強度鋼板を製造する方法であって、上記の成分を満足する鋼を、A3点以上1100℃以下の温度に10秒間以上加熱保持した後、30℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以下の温度まで冷却する工程を少なくとも2回包含する工程、及び(A3点−25℃)〜A3点の温度で120〜600秒加熱保持した後、3℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以上Bs点以下の温度まで冷却し、該温度域で1秒間以上保持する工程を包含することを特徴とする超高強度鋼板の製造方法も開示されている。

概要

所定の成分組成になる鋼スラブを、1100℃以上1300℃以下に加熱し、仕上げ圧延出側温度:800℃以上1000℃以下で熱間圧延したのち、平均巻き取り温度:200℃以上500℃以下で巻き取り熱延鋼板とする熱間圧延工程と、前記熱延鋼板に酸洗処理を施す酸洗処理工程と、前記熱延鋼板を、740℃以上840℃以下の温度で10s以上900s以下保持したのち、5℃/s以上30℃/s以下の平均冷却速度で150℃以上350℃以下の冷却停止温度まで冷却する焼鈍工程と、ついで、前記熱延鋼板を、350℃超550℃以下の温度まで再加熱し、該再加熱温度において10s以上保持する再加熱処理工程と、をそなえる。

目的

しかしながら、一般的に鋼板の高強度化は成形性の低下を招くため、高強度と優れた成形性を両立させることは難しく、高強度と優れた成形性を併せ持つ鋼板が望まれている

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
1件

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請求項1

質量%で、C:0.10%以上0.35%以下、Si:0.50%以上2.50%以下、Mn:2.00%以上3.50%未満、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下およびN:0.0005%以上0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、1100℃以上1300℃以下に加熱し、仕上げ圧延出側温度:800℃以上1000℃以下で熱間圧延したのち、平均巻き取り温度:200℃以上500℃以下で巻き取り熱延鋼板とする熱間圧延工程と、前記熱延鋼板に酸洗処理を施す酸洗処理工程と、前記熱延鋼板を、740℃以上840℃以下の温度で10s以上900s以下保持したのち、5℃/s以上30℃/s以下の平均冷却速度で150℃以上350℃以下の冷却停止温度まで冷却する焼鈍工程と、ついで、前記熱延鋼板を、350℃超550℃以下の温度まで再加熱し、該再加熱温度において10s以上保持する再加熱処理工程と、をそなえる、高強度鋼板の製造方法。

請求項2

前記焼鈍工程前に、前記熱延鋼板を30%未満の圧下率冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程をさらにそなえ、前記焼鈍工程では、前記冷延鋼板を、740℃以上840℃以下の温度で10s以上900s以下保持し、5℃/s以上30℃/s以下の平均冷却速度で150℃以上350℃以下の冷却停止温度まで冷却し、前記再加熱処理工程では、前記冷延鋼板を、350℃超550℃以下の温度まで再加熱し、該再加熱温度で10s以上保持する、請求項1に記載の高強度鋼板の製造方法。

請求項3

前記再加熱処理工程後に、前記熱延鋼板または前記冷延鋼板に亜鉛めっき処理を施す工程をさらにそなえる、請求項1または2に記載の高強度鋼板の製造方法。

請求項4

前記鋼スラブが、さらに質量%で、Ti:0.005%以上0.100%以下およびB:0.0001%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の高強度鋼板の製造方法。

請求項5

前記鋼スラブが、さらに質量%で、Al:0.01%以上1.00%以下、Nb:0.005%以上0.100%以下、Cr:0.05%以上1.00%以下、Cu:0.05%以上1.00%以下、Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Ta:0.001%以上0.100%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下およびREM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の高強度鋼板の製造方法。

請求項6

質量%で、C:0.10%以上0.35%以下、Si:0.50%以上2.50%以下、Mn:2.00%以上3.50%未満、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下およびN:0.0005%以上0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、面積率フェライトベイニティックフェライトの合計が30%以上75%以下であり、面積率で焼戻しマルテンサイトが5%以上15%以下であり、かつ体積率残留オーステナイトが8%以上である鋼組織を有し、上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が2μm以下であり、上記ベイニティックフェライトの平均自由行程が3μm以下である、高強度鋼板。

請求項7

前記鋼組成が、さらに質量%で、Ti:0.005%以上0.100%以下およびB:0.0001%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項6に記載の高強度鋼板。

請求項8

前記鋼組成が、さらに質量%で、Al:0.01%以上1.00%以下、Nb:0.005%以上0.100%以下、Cr:0.05%以上1.00%以下、Cu:0.05%以上1.00%以下、Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Ta:0.001%以上0.100%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下およびREM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項6または7に記載の高強度鋼板。

技術分野

0001

本発明は、主に自動車構造部材に好適な成形性に優れた高強度鋼板およびその製造方法に関し、特に780MPa以上の引張強度(TS)を有し、延性のみならず伸びフランジ性疲労特性にも優れる高強度鋼板を、高い生産性の下に得ようとするものである。

背景技術

0002

近年、衝突時における乗員の安全性確保や車体軽量化による燃費改善を目的として、引張強度(TS)が780MPa以上で、板厚の薄い高強度鋼板の自動車構造部材への適用が積極的に進められている。
特に、最近では、980MPa級、1180MPa級のTSを有する極めて強度の高い高強度鋼板の適用も検討されている。

0003

しかしながら、一般的に鋼板高強度化は成形性の低下を招くため、高強度と優れた成形性を両立させることは難しく、高強度と優れた成形性を併せ持つ鋼板が望まれている。
また、自動車走行可能な距離(総走行距離)は、自動車構造部材へ適用される鋼板の疲労強度にも依存するため、優れた疲労特性を有する鋼板も望まれている。

0004

このような要望に対し、例えば特許文献1には、「質量%で、C:0.06〜0.6%、Si+Al:0.5〜3%、Mn:0.5〜3%、P:0.15%以下(0%を含まない)、S:0.02%以下(0%を含む)を夫々含有すると共に、焼戻マルテンサイト:全組織に対して面積率で15%以上、フェライト:全組織に対して面積率で5〜60%、残留オーステナイト:全組織に対して体積率で5%以上、更にベイナイト及び/又はマルテンサイトを含有しても良い組織を有し、且つ、前記残留オーステナイトのうち、2%歪を加えることによりマルテンサイトへ変態する残留オーステナイトの割合が20〜50%であることを特徴とする加工性および形状凍結性に優れた高強度鋼板」が開示されている。

0005

また、特許文献2には、「質量%で、C :0.05以上、0.35%以下、Si:0.05%以上、2.0%以下、Mn:0.8%以上、3.0%以下、P :0.0010%以上、0.1%以下、S :0.0005%以上、0.05%以下、N :0.0010%以上、0.010%以下、Al:0.01%以上、2.0%以下、を含有して、残部鉄及び不可避的不純物からなる鋼組成をもち、金属組織はフェライトまたはベイナイトまたは焼戻しマルテンサイト主体とし、残留オーステナイト相を3%以上、30%以下含む鋼板において、前記オーステナイト相フェライト相ベイナイト相およびマルテンサイト相と接する相界面において、前記オーステナイト相中平均C濃度が0.6%以上、1.2%以下であり、前記オーステナイト相の中心濃度Cgcとオーステナイト粒粒界の濃度CgbがCgb/Cgc>1.3を満たす範囲にあるオーステナイト粒が50%以上あることを特徴とする伸びと穴拡げ性に優れた高強度薄鋼板」が開示されている。

0006

特許文献3には、「質量%で、C:0.17%以上0.73%以下、Si:3.0%以下、Mn:0.5%以上3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.07%以下、Al:3.0%以下およびN:0.010%以下を含有し、かつSi+Alが0.7%以上を満足し、残部はFeおよび不可避不純物組成からなり、鋼板組織として、マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以上90%以下、残留オーステナイト量が5%以上50%以下、上部ベイナイト中ベイニティックフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が5%以上であり、前記マルテンサイトのうち25%以上が焼戻しマルテンサイトであり、前記マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率、前記残留オーステナイト量および前記上部ベイナイト中のベイニティックフェライトの鋼板組織全体に対する面積率の合計が65%以上、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以下(0%を含む)を満足し、かつ前記残留オーステナイト中の平均C量が0.70%以上であって、引張強さが980MPa以上であることを特徴とする高強度鋼板」が開示されている。

0007

特許文献4には、「質量%で、C:0.06超〜0.24%、Si≦0.3%、Mn:0.5〜2.0%、P≦0.06%、S≦0.005%、Al≦0.06%、N≦0.006%、Mo:0.05〜0.5%、Ti:0.03〜0.2%、V:0.15超〜1.2%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、C、Ti、Mo、V含有量が0.8≦(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}≦1.5を満足する成分組成を有し、かつフェライト相が面積比率で95%以上であり、平均粒径10nm未満のTi、MoおよびVを含む炭化物分散析出するとともに、該Ti、MoおよびVを含む炭化物は、原子%で表されるTi、Mo、Vが、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす平均組成を有することを特徴とする引張強度が980MPa以上の高降伏比高強度冷延鋼板」が開示されている。

0008

特許文献5には、「C:0.05〜0.3質量%、Si:0.01〜2.5質量%、Mn:0.5〜3.5質量%、P:0.003〜0.100質量%、S:0.02質量%以下、Al:0.010〜1.5質量%を含有し、SiとAlの含有量の合計が0.5〜3.0質量%であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、面積率でフェライトを20%以上、焼戻しマルテンサイトを10〜60%、マルテンサイトを0〜10%を含み、体積率で残留オーステナイトを3〜10%含み、焼戻しマルテンサイトのビッカース硬度(m)とフェライトのビッカース硬度(f)の比(m)/(f)が3.0以下である金属組織を有することを特徴とする加工性に優れた高強度鋼板」が開示されている。

0009

特許文献6には、「質量%で、C :0.06〜0.6%、Si+Al:0.5〜3%、Mn:0.5〜3%、P :0.15%以下(0%を含まない)、S :0.02%以下(0%を含む)を含有し、残部:鉄及び不可避的不純物であり、且つ、組織は、全組織に対する占積率で、焼戻マルテンサイトを15〜60%、フェライトを5〜50%、残留オーステナイトを5%以上、及びアスペクト比が3以下の塊状マルテンサイトを15〜45%含有しており、該塊状マルテンサイト中、平均粒径が5μm以下の微細マルテンサイトの占める占積率は30%以上であることを特徴とする、引張強度が1180MPa以上の超高強度域における伸び、及び耐水素脆化特性に優れた超高強度鋼板」が開示されている。

0010

また、この特許文献6には、上記の超高強度鋼板を製造する方法であって、上記の成分を満足する鋼を、A3点以上1100℃以下の温度に10秒間以上加熱保持した後、30℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以下の温度まで冷却する工程を少なくとも2回包含する工程、及び(A3点−25℃)〜A3点の温度で120〜600秒加熱保持した後、3℃/s以上の平均冷却速度で、Ms点以上Bs点以下の温度まで冷却し、該温度域で1秒間以上保持する工程を包含することを特徴とする超高強度鋼板の製造方法も開示されている。

先行技術

0011

特開2004−218025号公報
特開2011−195956号公報
特開2010−90475号公報
特開2008−174802号公報
特開2010−275627号公報
特許第4268079号公報

発明が解決しようとする課題

0012

しかしながら、特許文献1に記載の高強度鋼板では、加工性および形状凍結性に優れることを、特許文献2に記載の高強度薄鋼板では、伸びと穴拡げ性に優れることを、特許文献3に記載の高強度鋼板では、加工性のなかでも、とりわけ延性と伸びフランジ性に優れることを開示している。しかし、疲労特性については、いずれの鋼板でも考慮されていない。

0013

特許文献4に記載の高降伏比高強度冷延鋼板では、高価な元素であるMo、Vを用いているため、コスト高であるのみならず、伸び(EL)が19%程度と低い。

0014

特許文献5に記載の高強度鋼板では、例えば980MPa以上のTSで、TS×ELが24000MPa・%程度を示していて、汎用材と比較すれば高位ではあるものの、最近の鋼板に対する要求に応えるにはまだまだ不十分である。

0015

また、特許文献6に記載の超高強度鋼板は、その製造工程において、少なくとも3回の焼鈍処理を施すことが必要となるため、実機製造における生産性が低い。

0016

本発明は、かかる事情に鑑み、フェライトとオーステナイト2相域での1回の焼鈍処理で、フェライトとベイニティックフェライト、残留オーステナイトを適正量含む微細な組織を造り込み、さらに焼鈍処理後再加熱処理で適正量の焼き戻しマルテンサイトを含む組織とすることにより、780MPa以上の引張強度(TS)を有し、延性のみならず伸びフランジ性や疲労特性にも優れる高強度鋼板を、高い生産性の下で製造することができる方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の製造方法により製造される高強度鋼板を提供することを目的とする。
なお、ここでいう高強度鋼板は、表面に亜鉛めっき処理を施した高強度亜鉛めっき鋼板も含むものとする。

0017

また、本発明に従い得られる鋼板において、目標とする特性は以下の通りである。
・引張強度(TS)
780MPa以上
・延性
TS780MPa級:EL≧34%
TS980MPa級:EL≧27%
TS1180MPa級:EL≧23%
・強度と延性のバランス
TS×EL≧27000MPa・%
・伸びフランジ性
TS780MPa級:λ≧40%
TS980MPa級:λ≧30%
TS1180MPa級:λ≧20%
ここで、限界穴広げ率λ(%)={(Df−D0)/D0}×100であり、Dfは亀裂発生時の穴径(mm)、D0は初期穴径(mm)である。
・疲労特性
疲労限強度≧400MPaでかつ耐久比≧0.40
ここで、耐久比とは、疲労限強度を引張強度で除した値である。

課題を解決するための手段

0018

さて、発明者らは、780MPa以上のTSを有し、延性のみならず伸びフランジ性や疲労特性にも優れる鋼板を、高い生産性の下、製造すべく鋭意検討を重ねたところ、以下のことを見出した。

0019

(1)780MPa以上の引張強度(TS)を有し、延性のみならず伸びフランジ性や疲労特性にも優れる鋼板を得るには、成分組成を適正に調製した上で、フェライトとベイニティックフェライト、残留オーステナイトを適正量含み、さらには、残留オーステナイトとベイニティックフェライトを微細に分散させた組織を造り込むことが重要である。
(2)また、このような組織を造り込むには、焼鈍処理条件を適正に制御するとともに、焼鈍処理前の鋼板組織をマルテンサイト単相組織ベイナイト単相組織、またはマルテンサイトとベイナイトが混在した組織を主体とすることが重要である。
ここで、別途の焼鈍処理を行なうことなく、かような焼鈍処理前の鋼板組織を得るには、適正なスラブ加熱を行うとともに、熱間圧延条件の適正化、特に熱間圧延後の平均巻き取り温度(CT)を低温化することが重要である。
(3)さらに、熱間圧延後に冷間圧延を施す場合には、圧下率を低くすることにより、熱延鋼板において得られる、マルテンサイト単相組織、ベイナイト単相組織、またはマルテンサイトとベイナイトが混在した組織を主体とした組織を破壊させずに、なるべく残存させることが重要である。
(4)加えて、伸びフランジ性の向上には、焼戻しマルテンサイトが適正量含まれる組織とすることが重要であり、そのためには、焼鈍後の冷却停止温度を低下させた上で、適正な条件で再加熱処理を施すことが重要である。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたものである。

0020

すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.10%以上0.35%以下、Si:0.50%以上2.50%以下、Mn:2.00%以上3.50%未満、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下およびN:0.0005%以上0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、
1100℃以上1300℃以下に加熱し、仕上げ圧延出側温度:800℃以上1000℃以下で熱間圧延したのち、平均巻き取り温度:200℃以上500℃以下で巻き取り、熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板に酸洗処理を施す酸洗処理工程と、
前記熱延鋼板を、740℃以上840℃以下の温度で10s以上900s以下保持したのち、5℃/s以上30℃/s以下の平均冷却速度で150℃以上350℃以下の冷却停止温度まで冷却する焼鈍工程と、ついで、
前記熱延鋼板を、350℃超550℃以下の温度まで再加熱し、該再加熱温度において10s以上保持する再加熱処理工程と、をそなえる、高強度鋼板の製造方法。

0021

2.前記焼鈍工程前に、前記熱延鋼板を30%未満の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程をさらにそなえ、
前記焼鈍工程では、前記冷延鋼板を、740℃以上840℃以下の温度で10s以上900s以下保持し、5℃/s以上30℃/s以下の平均冷却速度で150℃以上350℃以下の冷却停止温度まで冷却し、
前記再加熱処理工程では、前記冷延鋼板を、350℃超550℃以下の温度まで再加熱し、該再加熱温度で10s以上保持する、前記1に記載の高強度鋼板の製造方法。

0022

3.前記再加熱処理工程後に、前記熱延鋼板または前記冷延鋼板に亜鉛めっき処理を施す工程をさらにそなえる、前記1または2に記載の高強度鋼板の製造方法。

0023

4.前記鋼スラブが、さらに質量%で、Ti:0.005%以上0.100%以下およびB:0.0001%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、前記1〜3のいずれかに記載の高強度鋼板の製造方法。

0024

5.前記鋼スラブが、さらに質量%で、Al:0.01%以上1.00%以下、Nb:0.005%以上0.100%以下、Cr:0.05%以上1.00%以下、Cu:0.05%以上1.00%以下、Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Ta:0.001%以上0.100%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下およびREM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、前記1〜4のいずれかに記載の高強度鋼板の製造方法。

0025

6.質量%で、C:0.10%以上0.35%以下、Si:0.50%以上2.50%以下、Mn:2.00%以上3.50%未満、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下およびN:0.0005%以上0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、
面積率でフェライトとベイニティックフェライトの合計が30%以上75%以下であり、面積率で焼戻しマルテンサイトが5%以上15%以下であり、かつ体積率で残留オーステナイトが8%以上である鋼組織を有し、
上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が2μm以下であり、上記ベイニティックフェライトの平均自由行程が3μm以下である、高強度鋼板。

0026

7.前記鋼組成が、さらに質量%で、Ti:0.005%以上0.100%以下およびB:0.0001%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、前記6に記載の高強度鋼板。

0027

8.前記鋼組成が、さらに質量%で、Al:0.01%以上1.00%以下、Nb:0.005%以上0.100%以下、Cr:0.05%以上1.00%以下、Cu:0.05%以上1.00%以下、Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Ta:0.001%以上0.100%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下およびREM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種を含有する、前記6または7に記載の高強度鋼板。

発明の効果

0028

本発明によれば、780MPa以上の引張強度(TS)を有し、延性のみならず伸びフランジ性や疲労特性にも優れる高強度鋼板を高い生産性の下、製造することが可能となる。
また、本発明の製造方法に従って得られた高強度鋼板を、例えば自動車構造部材に適用することにより、車体軽量化による燃費改善を図ることができ、産業的な利用価値は極めて大きい。

0029

以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の製造方法では、所定の成分組成からなる鋼スラブを加熱し、ついで熱間圧延を施す。この際、熱間圧延の平均巻き取り温度(CT)を低温化することにより、熱延板組織をマルテンサイト単相組織、ベイナイト単相組織、またはマルテンサイトとベイナイトが混在した組織を主体とすることが重要である。
また、熱間圧延後に冷間圧延を施す場合には、圧下率を極力低く制御することにより、熱延鋼板において得られる上記の組織を破壊させずになるべく残存させることも重要である。

0030

このようにして、焼鈍処理前の鋼板組織をマルテンサイト単相組織、ベイナイト単相組織、またはマルテンサイトとベイナイトが混在した組織を主体とすることにより、フェライトとオーステナイトの2相域での焼鈍処理を1回とする場合であっても、フェライトとベイニティックフェライト、残留オーステナイトを適正量含み、さらには、残留オーステナイトとベイニティックフェライトを微細に分散させた組織の造り込みが可能となる。
また、焼鈍後の冷却停止温度を350℃以下に低下させ、適正な条件で再加熱処理を施すことで、焼戻しマルテンサイトが適正量含まれる組織とすることができる。
その結果、780MPa以上の引張強度(TS)を有し、延性のみならず伸びフランジ疲労特性にも優れる高強度鋼板を、高い生産性の下、製造することが可能となるのである。

0031

そこで、まず、本発明の製造方法における鋼の成分組成の限定理由を以下に示す。
なお、成分組成における単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。

0032

C:0.10%以上0.35%以下
Cは、鋼を強化するにあたり重要な元素であり、高い固溶強化能を有するとともに、所望量の残留オーステナイトを確保して、延性を向上させるのに必要不可欠な元素である。
ここに、C量が0.10%未満では、必要な量の残留オーステナイトを得ることが困難になる。一方、C量が0.35%を超えると、鋼板の脆化遅れ破壊の懸念が生じる。
従って、C量は0.10%以上0.35%以下、好ましくは0.15%以上0.30%以下、より好ましくは0.18%以上0.26%以下とする。

0033

Si:0.50%以上2.50%以下
Siは、残留オーステナイトが分解して、炭化物が生成することを抑制するのに有効な元素である。また、フェライト中で高い固溶強化能を有するとともに、フェライトからオーステナイトへ固溶Cを排出してフェライトを清浄化し、延性を向上させる性質を有する。さらに、フェライトに固溶したSiは、加工硬化能を向上させ、フェライト自身の延性を高める。こうした効果を得るには、Si量を0.50%以上にする必要がある。一方、Si量が2.50%を超えると、異常組織発達し、延性が低下する。
従って、Si量は0.50%以上2.50%以下、好ましくは0.80%以上2.00%以下、より好ましくは1.20%以上1.80%以下とする。

0034

Mn:2.00%以上3.50%未満
Mnは、強度確保のために有効である。また、焼入れ性を向上させて複合組織化を容易にする。同時に、Mnは、熱間圧延後の冷却過程でのフェライトやパーライトの生成を抑制する作用があり、熱延板組織を低温変態相(ベイナイトもしくはマルテンサイト)主体の組織とするのに有効な元素である。こうした効果を得るには、Mn量を2.00%以上にする必要がある。一方、Mn量を3.50%以上にすると、板厚方向のMn偏析が顕著となり、疲労特性の低下を招く。
従って、Mn量は2.00%以上3.50%未満、好ましくは2.00%以上3.00%以下、より好ましくは2.00%以上2.80%以下とする。

0035

P:0.001%以上0.100%以下
Pは、固溶強化の作用を有し、所望とする強度に応じて添加できる元素である。また、フェライト変態を促進するため、複合組織化にも有効な元素である。こうした効果を得るためには、P量を0.001%以上にする必要がある。一方、P量が0.100%を超えると、溶接性劣化を招くとともに、亜鉛めっきを合金化処理する場合には、合金化速度を低下させて亜鉛めっきの品質を損なわせる。
従って、P量は0.001%以上0.100%以下、好ましくは0.005%以上0.050%以下とする。

0036

S:0.0001%以上0.0200%以下
Sは、粒界に偏析して熱間加工時に鋼を脆化させるとともに、硫化物として存在して局部変形能を低下させる。そのため、その量は0.0200%以下とする必要がある。しかし、生産技術上の制約から、S量は0.0001%以上にする必要がある。
従って、S量は0.0001%以上0.0200%以下、好ましくは0.0001%以上0.0050%以下とする。

0037

N:0.0005%以上0.0100%以下
Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素である。特に、N量が0.0100%を超えると、耐時効性の劣化が顕著となる。その量は少ないほど好ましいが、生産技術上の制約から、N量は0.0005%以上にする必要がある。
従って、N量は0.0005%以上0.0100%以下、好ましくは0.0005%以上0.0070%以下とする。

0038

以上、基本成分について説明したが、上記の成分に加えて、TiおよびBのうちから選ばれる少なくとも1種をさらに含有させることができる。特に、TiおよびBの両方を適正量含有させることで、熱延板組織をより有利にマルテンサイト単相組織、ベイナイト単相組織、またはマルテンサイトとベイナイトが混在した組織を主体とする組織に造り込むことができる。
Ti:0.005%以上0.100%以下
Tiは、熱間圧延時あるいは焼鈍時に、微細な析出物を形成して強度を向上させる。また、TiはNをTiNとして析出させるため、Bを添加した場合にBNの析出を抑制でき、次に説明するBの効果を有効に発現させる。こうした効果を得るには、Ti量を0.005%以上にする必要がある。一方、Ti量が0.100%を超えると、析出強化過度に働き、延性の低下を招く。
従って、Ti量は0.005%以上0.100%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.010%以上0.080%以下である。

0039

B:0.0001%以上0.0050%以下
Bは、熱間圧延後の冷却過程において、フェライト・パーライト変態を抑制し、熱延板組織を低温変態相(ベイナイト、マルテンサイト)、中でもマルテンサイト主体の組織とする効果を有する。また、Bは、鋼の強化にも有効な元素である。このような効果を得るには、B量を0.0001%以上とすることが必要である。しかしながら、Bは0.0050%を超えて過剰に添加すると、マルテンサイトの量が過大となって、強度上昇による延性の低下の懸念が生じる。
従って、B量は0.0001%以上0.0050%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.0005%以上0.0030%以下である。

0040

Mn量をB量で除した値:2100以下
また、特に、低Mn成分系においては、熱間圧延後の冷却過程において、フェライト・パーライト変態が進行して、熱延板組織がフェライトやパーライトを含む組織となり易い。このため、上記したBの添加効果を十分に発現させるためには、Mn量をB量で除した値を2100以下とすることが好ましく、2000以下とすることがより好ましい。なお、Mn量をB量で除した値の下限は特に限定されないが、300程度が好ましい。

0041

また、上記の成分組成に加えて、Al:0.01%以上1.00%以下、Nb:0.005%以上0.100%以下、Cr:0.05%以上1.00%以下、Cu:0.05%以上1.00%以下、Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Ta:0.001%以上0.100%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下およびREM:0.0005%以上0.0050%以下から選ばれる少なくとも1種の元素を、含有させることができる。

0042

Al:0.01%以上1.00%以下
Alは、フェライトを生成させ、強度と延性のバランスを向上させるのに有効な元素である。こうした効果を得るには、Al量を0.01%以上にする必要がある。一方、Al量が1.00%を超えると、表面性状の劣化を招く。
従って、Alを添加する場合、その含有量は0.01%以上1.00%以下とする。好ましくは0.03%以上0.50%以下とする。

0043

Nb:0.005%以上0.100%以下
Nbは、熱間圧延時あるいは焼鈍時に微細な析出物を形成して強度を上昇させる。こうした効果を得るには、Nb量を0.005%以上にする必要がある。一方、Nb量が0.100%を超えると、成形性が低下する。
従って、Nbを添加する場合、その含有量は0.005%以上0.100%以下とする。

0044

Cr:0.05%以上1.00%以下、Cu:0.05%以上1.00%以下
CrおよびCuは、固溶強化元素としての役割のみならず、焼鈍時の冷却過程において、オーステナイトを安定化し、複合組織化を容易にする。こうした効果を得るには、Cr量およびCu量を、それぞれ0.05%以上にする必要がある。一方、CrおよびCu量がそれぞれ1.00%を超えると、成形性が低下する。
従って、CrおよびCuを添加する場合は、その含有量はそれぞれ0.05%以上1.00%以下とする。

0045

Sb:0.002%以上0.200%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下
SbおよびSnは、鋼板表面の窒化や酸化によって生じる鋼板表層の数十μm程度の領域の脱炭を抑制する観点から、必要に応じて添加することができる。このような窒化や酸化を抑制すれば、鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、強度の確保に有効である。こうした効果を得るには、Sb量およびSn量を、それぞれ0.002%以上にする必要がある。一方で、これらいずれの元素についても、0.200%を超えて過剰に添加すると靭性の低下を招く。
従って、SbおよびSnを添加する場合は、その含有量はそれぞれ0.002%以上0.200%以下とする。

0046

Ta:0.001%以上0.100%以下
Taは、TiやNbと同様に、合金炭化物合金炭窒化物を生成して高強度化に寄与する。加えて、Nb炭化物やNb炭窒化物に一部固溶し、(Nb,Ta)(C,N)のような複合析出物を生成することで析出物の粗大化を著しく抑制し、析出強化による強度への寄与を安定化させる効果があると考えられる。このような析出物安定化の効果は、Taを0.001%以上とすることで得られる。一方、Taは0.100%を超えて過剰に添加しても、析出物安定化効果が飽和する上、合金コストも増加する。
従って、Taを添加する場合には、その含有量は0.001%以上0.100%以下とする。

0047

Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下
Ca、MgおよびREMは、脱酸に用いる元素であるとともに、硫化物の形状を球状化し、局部延性および伸びフランジ性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。このような効果を得るには、それぞれ0.0005%以上添加することが必要である。しかしながら、Ca、MgおよびREMは0.0050%を超えて過剰に添加されると、介在物等の増加を引き起こし、鋼板表面および内部に欠陥などを引き起こす。
従って、Ca、MgおよびREMを添加する場合は、その含有量はそれぞれ0.0005%以上0.0050%以下とする。

0048

なお、上記以外の成分はFeおよび不可避的不純物である。

0049

次に、本発明の製造方法における製造条件について説明する。
本発明の高強度鋼板の製造方法は、上記の成分組成を有する鋼スラブを、1100℃以上1300℃以下に加熱し、仕上げ圧延出側温度:800℃以上1000℃以下で熱間圧延したのち、平均巻き取り温度:200℃以上500℃以下で巻き取り、熱延鋼板とする熱間圧延工程と、熱延鋼板に酸洗処理を施す酸洗処理工程と、必要に応じて熱延鋼板を30%未満の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、熱延鋼板または冷延鋼板を、740℃以上840℃以下の温度で10s以上900s以下保持したのち、5℃/s以上30℃/s以下の平均冷却速度で150℃以上350℃以下の冷却停止温度まで冷却する焼鈍工程と、ついで、熱延鋼板または冷延鋼板を、350℃超550℃以下の温度まで再加熱し、該再加熱温度において10s以上保持する再加熱処理工程と、をそなえるものである。
なお、上記した各工程における仕上げ圧延温度や平均巻き取り温度などの温度は、いずれも、鋼板表面の温度である。また、平均冷却速度も、鋼板表面の温度をもとに算出される。
以下、これらの製造条件の限定理由について、説明する。

0050

鋼スラブの加熱温度:1100℃以上1300℃以下
鋼スラブの加熱段階で存在している析出物は、最終的に得られる鋼板内では粗大な析出物として存在し、強度に寄与しないため、鋳造時に析出したTi、Nb系析出物再溶解させる必要がある。
ここに、鋼スラブの加熱温度が1100℃未満では、炭化物の十分な溶解が困難であり、圧延荷重の増大による熱間圧延時のトラブル発生の危険が増大するなどの問題が生じる。また、スラブ表層気泡、偏析などの欠陥をスケールオフし、鋼板表面の亀裂、凹凸を減少し、平滑な鋼板表面を達成する必要もある。従って、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上にする必要がある。
一方、鋼スラブの加熱温度が1300℃超では、酸化量の増加に伴いスケールロスが増大してしまう。そのため、鋼スラブの加熱温度は1300℃以下にする必要がある。
従って、鋼スラブの加熱温度は1100℃以上1300℃以下とする。好ましくは、1150℃以上1250℃以下である。

0051

なお、鋼スラブは、マクロ偏析を防止するため、連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法などにより製造することも可能である。また、鋼スラブを製造した後、一旦室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉装入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。さらに、鋼スラブは通常の条件で粗圧延によりシートバーとされるが、加熱温度を低目にした場合は、熱間圧延時のトラブルを防止する観点から、仕上げ圧延前バーヒーターなどを用いてシートバーを加熱することが好ましい。

0052

熱間圧延の仕上げ圧延出側温度: 800℃以上1000℃以下
加熱後の鋼スラブは、粗圧延および仕上げ圧延により熱間圧延され熱延鋼板となる。このとき、仕上げ圧延出側温度が1000℃を超えると、酸化物スケール)の生成量が急激に増大し、地鉄と酸化物の界面が荒れ酸洗、冷間圧延後の表面品質が劣化する傾向にある。また、酸洗後熱延スケールの取れ残りなどが一部に存在すると、延性に悪影響を及ぼす。さらに、結晶粒径が過度に粗大となり、疲労特性が低下する。
一方、仕上げ圧延出側温度が800℃未満では、圧延荷重が増大し、圧延負荷が大きくなることや、オーステナイトが未再結晶の状態での圧下率が高くなり、異常な集合組織が発達し、結果的に、最終製品における面内異方性が顕著となり、材質均一性が損なわれるだけでなく、延性そのものも低下する。
従って、熱間圧延の仕上げ圧延出側温度を800℃以上1000℃以下にする必要がある。好ましくは820℃以上950℃以下とする。

0053

熱間圧延後の平均巻き取り温度:200℃以上500℃以下
熱間圧延後の平均巻き取り温度は、本発明の製造方法において極めて重要である。
すなわち、熱間圧延後の平均巻き取り温度が500℃を超えると、熱間圧延後の冷却および保持過程において、フェライトやパーライトが生成し、熱延板組織をマルテンサイト単相組織、もしくはベイナイト単相組織、もしくはマルテンサイトとベイナイトが混在した組織を主体とすることが困難となり、焼鈍後に得られる鋼板において、所望の延性および強度と延性のバランスを確保することが難しくなる。一方、熱間圧延後の平均巻き取り温度が200℃未満では、熱延鋼板の形状が悪化し、生産性が低下する。
従って、熱間圧延後の平均巻き取り温度は200℃以上500℃以下にする必要がある。好ましくは300℃以上450℃以下、より好ましくは350℃以上450℃以下である。

0054

なお、熱間圧延時に粗圧延板同士を接合して連続的に仕上げ圧延を行っても良い。また、粗圧延板を一旦巻き取っても構わない。また、熱間圧延時の圧延荷重を低減するために仕上げ圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延を行うことは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。なお、潤滑圧延時の摩擦係数は、0.10以上0.25以下とすることが好ましい。

0055

このようにして製造した熱延鋼板に、酸洗を行う。酸洗は鋼板表面の酸化物の除去が可能であることから、最終製品の高強度鋼板の良好な化成処理性やめっき品質の確保のために重要である。また、一回の酸洗を行っても良いし、複数回に分けて酸洗を行っても良い。

0056

冷間圧延の圧下率:30%未満
また、熱延鋼板に冷間圧延を施し、冷延鋼板とすることも可能である。冷間圧延を施す場合、冷間圧延の圧下率が極めて重要である。
すなわち、圧下率が30%以上の場合には、熱延板組織の低温変態相が破壊され、焼鈍後に得られる鋼板において、フェライトとベイニティックフェライト、残留オーステナイトを適正量含み、さらには、残留オーステナイトとベイニティックフェライトを微細に分散させた組織を造り込むことが困難となり、延性や強度と延性のバランスの確保と良好な疲労特性の確保が難しくなる。
従って、冷間圧延の圧下率は30%未満とする。好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下である。また、冷間圧延の圧下率の下限については特に限定されるものではなく、0%超であればよい。
なお、圧延パス回数、および各パスの圧下率については、特に限定する必要はなく、いずれであっても本発明の効果は発揮される。

0057

焼鈍温度:740℃以上840℃以下
焼鈍温度が740℃未満では、焼鈍中に十分な量のオーステナイトを確保できない。このため、最終的に所望量の残留オーステナイトが確保されず、良好な延性および強度と延性のバランスの確保が困難となる。一方、焼鈍温度が840℃を超えると、オーステナイト単相の温度域になるため、最終的に微細な残留オーステナイトが所望量生成されず、やはり良好な延性および強度と延性のバランスの確保が困難となる。
従って、焼鈍温度は740℃以上840℃以下とする。好ましくは750℃以上830℃以下である。

0058

焼鈍処理の保持時間:10s以上900s以下
焼鈍処理の保持時間が10s未満では、焼鈍中に十分な量のオーステナイトを確保できない。このため、最終的に所望量の残留オーステナイトが確保されず、良好な延性および強度と延性のバランスの確保が困難となる。一方、焼鈍処理の保持時間が900sを超えると、結晶粒の粗大化により、最終的に微細な残留オーステナイトが所望量生成されず、良好な延性および強度と延性のバランスの確保が困難となる。また、生産性も阻害する。
従って、焼鈍処理の保持時間は10s以上900s以下とする。好ましくは30s以上750s以下、より好ましくは60s以上600s以下である。

0059

150℃以上350℃以下の冷却停止温度までの平均冷却速度:5℃/s以上30℃/s以下
150℃以上350℃以下の冷却停止温度までの平均冷却速度が5℃/s未満では、冷却中に多量のフェライトが生成し、所望の強度確保が困難となる。一方で、30℃/sを超えると、過度に低温変態相が生成し、延性が低下する。
従って、150℃以上350℃以下の冷却停止温度までの平均冷却速度は5℃/s以上30℃/s以下とする。好ましくは10℃/s以上30℃/s以下である。
なお、この場合の冷却は、ガス冷却が好ましいが、炉冷ミスト冷却ロール冷却水冷などを用いて組み合わせて行うことが可能である。

0060

また、冷却停止温度が350℃を超える場合、その停止温度マルテンサイト変態開始点(Ms点)より高い温度域となるため、その後の再加熱処理を行っても、焼戻しマルテンサイトが生成されず、最終組織において、硬質フレッシュマルテンサイト焼戻しを受けていないマルテンサイト)が残存することとなり、結果的に、穴広げ性(伸びフランジ性)が低下する。一方、冷却停止温度が150℃未満の場合、多量のオーステナイトがマルテンサイトに変態し、最終的に所望量の残留オーステナイトが確保されず、良好な延性および強度と延性のバランスの確保が困難となる。
従って、冷却停止温度は150℃以上350℃以下とする。好ましくは180℃以上320℃以下である。

0061

再加熱温度:350℃超550℃以下
再加熱温度が550℃を超える場合、残留オーステナイトの分解が生じ、最終的に所望量の残留オーステナイトが確保されず、良好な延性および強度と延性のバランスの確保が困難となる。一方、加熱温度が350℃以下となる場合、所望量の焼戻しマルテンサイトが確保されず、穴広げ性(伸びフランジ性)の確保が困難となる。
従って、再加熱温度は350℃超550℃以下とする。好ましくは370℃以上530℃以下である。

0062

再加熱温度での保持時間:10s以上
再加熱温度での保持時間が10s未満では、オーステナイトへのC濃化が進行する時間が不十分となり、最終的に所望量の残留オーステナイトの確保が困難となる。従って、再加熱温度での保持時間は10s以上とする。
一方、600sを超えて滞留させても、残留オーステナイト量は増加せず、延性の顕著な向上は確認されずに、飽和傾向となる。このため、再加熱温度での保持時間は、600s以下が好ましい。
より好ましくは30s以上500s以下、さらに好ましくは60s以上400s以下である。
なお、保持後の冷却はとくに規定する必要がなく、任意の方法により所望の温度に冷却してよい。

0063

また、上記のようにして得られた鋼板に、溶融亜鉛めっき処理等の亜鉛めっき処理を施すこともできる。
例えば、溶融亜鉛めっき処理を施すときは、前記焼鈍処理を施した鋼板を440℃以上500℃以下の亜鉛めっき浴中に浸漬し、溶融亜鉛めっき処理を施し、その後、ガスワイピング等によって、めっき付着量を調整する。溶融亜鉛めっきはAl量が0.10%以上0.22%以下である亜鉛めっき浴を用いることが好ましい。また、亜鉛めっきの合金化処理を施すときは、溶融亜鉛めっき処理後に、470℃以上600℃以下の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施す。600℃を超える温度で合金化処理を行うと、未変態オーステナイトがパーライトへ変態し、所望の残留オーステナイトの体積率を確保できず、延性が低下する場合がある。したがって、亜鉛めっきの合金化処理を行うときは、470℃以上600℃以下の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施すことが好ましい。また、電気亜鉛めっき処理を施してもよい。

0064

さらに、熱処理後のスキンパス圧延を施す場合、その圧下率は0.1%以上1.0%以下の範囲が好ましい。0.1%未満では効果が小さく、制御も困難であることから、これが良好範囲の下限となる。また、1.0%を超えると、生産性が著しく低下するので、これを良好範囲の上限とする。

0065

なお、スキンパス圧延は、オンラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一度に目的の圧下率のスキンパスを行っても良いし、数回に分けて行っても構わない。その他の製造方法の条件は、特に限定しないが、生産性の観点から、上記の焼鈍、溶融亜鉛めっき、亜鉛めっきの合金化処理などの一連の処理は、溶融亜鉛めっきラインであるCGL(Continuous Galvanizing Line)で行うのが好ましい。溶融亜鉛めっき後は、めっきの目付け量を調整するために、ワイピングが可能である。

0066

次に、本発明の製造方法により製造される鋼板のミクロ組織について説明する。
フェライトとベイニティックフェライトの面積率の合計:30%以上75%以下
本発明の製造方法により製造される高強度鋼板は、延性に富む軟質なフェライトを主体とする組織に、主として延性を担う残留オーステナイト、さらに好ましくは強度を担う少量のマルテンサイトを分散させた複合組織からなる。また、ベイニティックフェライトは、フェライトと残留オーステナイト/マルテンサイトに隣接して生成し、フェライトと残留オーステナイト、さらにはフェライトとマルテンサイトとの硬度差緩和して、穴広げ試験時に発生する亀裂や疲労試験時に発生する疲労亀裂を抑制する。
ここに、十分な延性を確保するため、フェライトとベイニティックフェライトの面積率の合計を30%以上にする必要がある。一方、強度確保のため、フェライトとベイニティックフェライトの面積率の合計を75%以下にする必要がある。より良好な延性を確保するために、フェライトとベイニティックフェライトの面積率の合計は、35%以上70%以下であることが好ましい。
また、ベイニティックフェライトは、上述したように、フェライトと残留オーステナイト/マルテンサイトに隣接して生成し、フェライトと残留オーステナイト、さらにはフェライトとマルテンサイトとの硬度差を緩和して、穴広げ試験時に発生する亀裂や疲労試験時に発生する疲労亀裂を抑制する効果があるため、より良好な穴広げ性と疲労特性の確保に有効である。そのため、ベイニティックフェライトの面積率は5%以上とすることが好ましい。一方、安定的に強度を確保するため、ベイニティックフェライトの面積率は25%以下とすることが好ましい。

0067

なお、ここで言うベイニティックフェライトとは、740℃以上840℃以下の温度での焼鈍後の600℃以下への冷却および保持過程で生成するフェライトであり、通常のフェライトと比較して転位密度の高いフェライトのことである。
また、フェライトの形態としては、アシキュラーフェライトが主体であるが、ポリゴナルフェライト、未再結晶フェライトを含んでも良い。しかし、良好な延性の確保のため、ポリゴナルフェライトの面積率は20%以下、未再結晶フェライトの面積率は5%以下であることが好ましい。なお、ポリゴナルフェライトおよび未再結晶フェライトの面積率はそれぞれ0%であってもよい。

0068

また、フェライトとベイニティックフェライトの面積率は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面(L断面)を研磨後、3vol.%ナイタールで腐食し、板厚1/4位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)について、SEM走査型電子顕微鏡)を用いて2000倍の倍率で10視野観察し、得られた組織画像を用いて、Media Cybernetics社のImage−Proによりフェライトおよびベイニティックフェライトの面積率を10視野分算出し、それらの値を平均して求めることができる。
なお、上記の組織画像において、フェライトおよびベイニティックフェライトは灰色の組織(下地組織)、残留オーステナイトやマルテンサイトは白色の組織を呈している。

0069

さらに、フェライトとベイニティックフェライトの識別は、EBSD(電子線後方散乱回折法)測定により行う。すなわち、粒界角度が15°未満の亜粒界を含む結晶粒(相)をベイニティックフェライトと判断し、その面積率を求めて、ベイニティックフェライトの面積率とする。また、フェライトの面積率は、上記灰色の組織の面積率からベイニティックフェライトの面積率を減じることにより算出することができる。

0070

焼戻しマルテンサイトの面積率:5%以上15%以下
良好な穴広げ性(伸びフランジ性)を確保するため、焼戻しマルテンサイトの面積率は5%以上にする必要がある。より良好な穴広げ性(伸びフランジ性)を確保するために、焼戻しマルテンサイトの面積率は8%以上であることが好ましい。一方、焼戻しマルテンサイトの面積率が15%を超えると、十分な量の残留オーステナイトの確保が困難となる。その結果、良好な延性および強度と延性のバランスの確保が困難となるため、焼戻しマルテンサイトの面積率は15%以下にする必要がある。

0071

ここで、焼戻しマルテンサイトは、マルテンサイト内にセメンタイトもしくは残留オーステナイトを含むかどうかで識別可能である(マルテンサイト内にセメンタイトもしくは残留オーステナイトを含むものが、焼戻しマルテンサイトである)。また、焼戻しマルテンサイトの面積率は、鋼板のL断面を研磨後、3vol.%ナイタールで腐食し、板厚1/4位置について、SEMを用いて2000倍の倍率で10視野観察し、得られた組織画像を用いて、Media Cybernetics社のImage−Proを用いて10視野分算出し、それらの値を平均して求めることができる。

0072

残留オーステナイトの体積率:8%以上
良好な延性および強度と延性のバランスを確保するため、残留オーステナイトの体積率は8%以上にする必要がある。より良好な延性および強度と延性のバランスを確保するには、残留オーステナイトの体積率は10%以上であることが好ましい。なお、残留オーステナイトの体積率の上限は特に限定されるものではないが35%程度である。
また、残留オーステナイトの体積率は、鋼板を板厚方向の1/4面まで研磨し、この板厚1/4面の回折X線強度により求める。入射X線にはMoKα線を使用し、残留オーステナイトの{111}、{200}、{220}、{311}面のピーク積分強度の、フェライトの{110}、{200}、{211}面のピークの積分強度に対する、12通り全ての組み合わせの強度比を求め、これらの平均値を残留オーステナイトの体積率とする。

0073

残留オーステナイトの平均結晶粒径:2μm以下
残留オーステナイトの結晶粒の微細化は、鋼板の延性および疲労特性の向上に寄与する。そのため、良好な延性および疲労特性を確保するには、残留オーステナイトの平均結晶粒径を2μm以下にする必要がある。より良好な延性および疲労特性を確保するには、残留オーステナイトの平均結晶粒径を1.5μm以下とすることが好ましい。また、下限については特に限定されるものではないが、0.1μm程度である。
なお、残留オーステナイトの平均結晶粒径は、TEM透過型電子顕微鏡)を用いて15000倍の倍率で20視野観察し、得られた組織画像を用いて、前記Image−Proにより各々の残留オーステナイト結晶粒面積を求め、円相当直径を算出し、それらの値を平均して求めることができる。

0074

ベイニティックフェライトの平均自由行程:3μm以下
ベイニティックフェライトの平均自由行程は極めて重要である。すなわち、ベイニティックフェライトは740℃以上840℃以下の温度域での焼鈍後の600℃以下の冷却および保持過程で生成する。ここで、ベイニティックフェライトは、フェライトと残留オーステナイトに隣接して生成し、フェライトと残留オーステナイトの硬度差を緩和して、疲労亀裂の発生や亀裂伝播を抑制する効果がある。このため、ベイニティックフェライトが密な分散状態、つまり、ベイニティックフェライトの平均自由行程が小さい方が有利である。
ここに、良好な疲労特性を確保するためには、ベイニティックフェライトの平均自由行程を3μm以下とする必要がある。より良好な疲労特性を確保するためには、ベイニティックフェライトの平均自由行程を2.5μm以下とすることが好ましい。また、下限については特に限定されるものではないが、0.5μm程度である。

0075

なお、ベイニティックフェライトの平均自由行程(LBF)は、下式により算出することができる。



LBF:ベイニティックフェライトの平均自由行程(μm)
dBF:ベイニティックフェライトの平均結晶粒径(μm)
f:ベイニティックフェライトの面積率(%)÷100

0076

ここで、ベイニティックフェライトの平均結晶粒径は、EBSD(電子線後方散乱回折法)測定により算出した測定範囲内のベイニティックフェライトの面積を測定範囲内のベイニティックフェライトの結晶粒の個数で除して、結晶粒の平均面積を求め、円相当径を算出することにより求めることができる。

0077

なお、本発明に従うミクロ組織には、フェライトとベイニティックフェライト、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト以外に、マルテンサイト、パーライト、セメンタイト等の炭化物やその他鋼板の組織として公知のものが含まれていてもよく、面積率で15%以下であれば、本発明の効果が損なわれることはない。

0078

表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にて鋼スラブとした。得られた鋼スラブを、表2に示す条件で加熱して熱間圧延後、酸洗処理を施し、表2に示したNo.1、3〜6、8、9、12、14、16〜19、21、24、26、29、31、33、35、37、38、40、42、43、47、50、51、53、56、60では、冷間圧延を施さずに表2に示す条件で焼鈍処理を施して高強度熱延鋼板(HR)を得た。また、表2に示したNo.2、7、10、11、13、15、20、22、23、25、27、28、30、32、34、36、39、41、44〜46、48、49、52、54、55、57〜59、61では、冷間圧延した後に表2に示す条件で焼鈍処理を施して高強度冷延鋼板(CR)を得た。さらに、一部のものについては亜鉛めっき処理を施して、溶融亜鉛めっき鋼板GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)とした。
なお、溶融亜鉛めっき浴はGIでは、Al:0.19質量%含有亜鉛浴を使用し、GAでは、Al:0.14質量%含有亜鉛浴を使用し、浴温は465℃とした。めっき付着量は片面あたり45g/m2(両面めっき)とし、GAは、めっき層中のFe濃度を9質量%以上12質量%以下とした。
なお、表1中のAc1変態点(℃)は、以下の式を用いて求めた。
Ac1変態点(℃)=751−16×(%C)+11×(%Si)−28×(%Mn)−5.5×(%Cu)+13×(%Cr)
ただし、(%X)は、元素Xの鋼中含有量(質量%)を示す。

0079

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0083

かくして得られた高強度熱延鋼板(HR)、高強度冷延鋼板(CR)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)などについて、組織観察引張試験、穴広げ試験および疲労試験を行った。
ここで、引張試験は、引張試験片長手が鋼板の圧延方向と垂直(C方向)になるようにサンプルを採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z 2241(2011年)に準拠して行い、TS(引張強度)およびEL(全伸び)を測定した。
なお、ここでは、TS780MPa級:EL≧34%、TS980MPa級:EL≧27%、TS1180MPa級:EL≧23%でかつ、TS×EL≧27000MPa・%の場合を良好と判断した。

0084

また、穴広げ試験は、JIS Z 2256(2010年)に準拠して行った。上記のようにして得られた各鋼板を100mm×100mmに切断し、クリアランス12%±1%で直径10mmの穴を打ち抜いた。その後、内径75mmのダイスによりしわ押さえ力:8ton(7.845kN)でこれらの鋼板を抑え、その状態で60°円錐ポンチを穴に押し込み、亀裂発生時の穴径(亀裂発生限界における穴直径)を測定した。測定した亀裂発生時の穴径から、次式により限界穴広げ率λ(%)を求め、穴広げ性を評価した。
限界穴広げ率λ(%)={(Df−D0)/D0}×100
ここで、Dfは亀裂発生時の穴径(mm)、D0は初期穴径(mm)である。
なお、ここでは、TS780MPa級:λ≧40%、TS980MPa級:λ≧30%、TS1180MPa級:λ≧20%の場合を良好と判定した。

0085

さらに、疲労試験は、疲労試験片の長手方向が鋼板の圧延方向と垂直になるようにサンプルを採取し、JIS Z 2275(1978年)に準拠し、平面曲げ疲労試験を両振り応力比:−1)、周波数:20Hzの条件で行った。
両振り平面曲げ疲労試験において、107サイクルまで破断が認められなかった応力を測定し、この応力を疲労限強度とした。
なお、疲労限強度を引張強度TSで除した値(耐久比)を算出した。なお、ここでは、疲労限強度≧400MPaでかつ耐久比≧0.40の場合を、疲労特性が良好と判断した。

0086

加えて、鋼板の製造に際し、生産性、さらには熱間圧延および冷間圧延時の通板性、最終の焼鈍後に得られる鋼板(以下、最終焼鈍板ともいう)の表面性状について評価を行った。
ここで、生産性については、
(1)熱延鋼板の形状不良が発生し、
(2)次工程に進むために熱延鋼板の形状矯正が必要であるときや、
(3)焼鈍処理の保持時間が長いとき、
(4)オーステンパー保持時間(焼鈍処理の再加熱温度域での保持時間)が長いとき
などのリードタイムコストに応じて、(1)〜(4)のいずれにも該当しない場合を「高」、(4)にのみ該当する場合を「中」、(1)〜(3)のいずれかに該当する場合を「不良」と判断した。

0087

また、熱間圧延の通板性は、圧延荷重の増大による圧延時のトラブル発生の危険が増大する場合を不良と判断した。
同様に、冷間圧延の通板性も、圧延荷重の増大による圧延時のトラブル発生の危険が増大する場合を不良と判断した。

0088

さらに、最終焼鈍板の表面性状については、スラブ表層の気泡、偏析などの欠陥をスケールオフできず、鋼板表面の亀裂、凹凸が増大し、平滑な鋼板表面が得られない場合を不良と判断した。また、酸化物(スケール)の生成量が急激に増大し、地鉄と酸化物の界面が荒れ、酸洗、冷間圧延後の表面品質が劣化する場合や酸洗後に熱延スケールの取れ残りなどが一部に存在する場合についても、不良と判断した。
なお、組織観察については、前述した方法により行った。
これらの結果を表3および表4に示す。

0089

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0092

実施例

0093

本発明例ではいずれも、TSが780MPa以上であり、延性のみならず穴広げ性(伸びフランジ性)や疲労特性に優れる高強度鋼板が、高い生産性の下、製造できることがわかる。また、本発明例ではいずれも、熱間圧延および冷間圧延の通板性、さらには最終焼鈍板の表面性状にも優れている。
一方、比較例では、引張強度、延性、強度と延性のバランス、穴広げ性(伸びフランジ性)、疲労特性、生産性のいずれか一つ以上が劣っている。

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