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技術 伸線加工性に優れた高炭素鋼線材とその製造方法

出願人 新日鐵住金株式会社
発明者 真鍋敏之多田達誠平上大輔磯新佐原進
出願日 2015年3月6日 (5年9ヶ月経過) 出願番号 2015-537034
公開日 2017年4月6日 (3年8ヶ月経過) 公開番号 WO2015-133614
状態 特許登録済
技術分野 鋼の加工熱処理 熱処理
主要キーワード 弾性ひずみ X線回折法 低強度化 圧延線 最大カウント数 鋼片圧延 耐食性向上元素 セメンタイト分率
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2017年4月6日)のものです。
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図面 (2)

課題・解決手段

本発明は、実製造において安定的に良好な伸線加工特性を有する線材と、該線材の製造方法を提供する。前記線材は、成分組成が、質量%で、C:0.7〜1.2%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0%以下を含有し、N:0.005ppm以下であり、残部はFe及び不可避不純物からなり、線材断面内で80%以上がベイナイト組織で、残部組織が非ベイナイト組織であり、かつ、前記線材断面の組織中のフェライト相の(211)結晶面の半価幅が0.6°以下であり、更に、引張強度TS(MPa)と絞りRA(%)が、それぞれ、下記式(1)及び下記式(2)を満足し、断面内の硬度分布標準偏差ビッカース硬度(Hv)で6未満であることを特徴とする。 TS≦580+700×[C] ・・・(1) RA≧100−46×[C]−18×[Mn]−10×[Cr] ・・・(2)

概要

背景

線材二次加工には、主に、引抜き加工活用され、一般に、ステルモアや鉛パテンティング熱処理されたパーライト鋼が用いられる。特に、STC(Steel Cord)の極細線細径ロープでは、所定の線径まで細径化するために中間パテンティングを施したり、圧延線径を細径化して、伸線加工ひずみを減らす等の工程で製造されている。

一方で、伸線加工ひずみそのものを向上させる工夫として、低強度のパーライト組織ベイナイト組織を活用することが知られている。

これらの組織は、線材の初期強度や伸線加工による昇抗張力が低く抑えられており、引抜加工時引抜力の低減、及び、加工発熱量の制御の観点から、加工原単位材質面での優位性が期待され、二段変態によるベイナイト線材の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。

しかし、ベイナイト線に関しては、組織率をコントロールする熱処理について開示されているものの、安定的に低強度化するための組織因子は明確にされていない。

概要

本発明は、実製造において安定的に良好な伸線加工特性を有する線材と、該線材の製造方法を提供する。前記線材は、成分組成が、質量%で、C:0.7〜1.2%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0%以下を含有し、N:0.005ppm以下であり、残部はFe及び不可避不純物からなり、線材断面内で80%以上がベイナイト組織で、残部組織が非ベイナイト組織であり、かつ、前記線材断面の組織中のフェライト相の(211)結晶面の半価幅が0.6°以下であり、更に、引張強度TS(MPa)と絞りRA(%)が、それぞれ、下記式(1)及び下記式(2)を満足し、断面内の硬度分布標準偏差ビッカース硬度(Hv)で6未満であることを特徴とする。 TS≦580+700×[C] ・・・(1) RA≧100−46×[C]−18×[Mn]−10×[Cr] ・・・(2)

目的

本発明は、上記事情に着目してなされたもので、実製造において安定的に良好な伸線加工特性を有する線材と、該線材の製造方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
1件
牽制数
1件

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請求項1

成分組成が、質量%で、C:0.7〜1.2%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0%以下を含有し、N:0.005%以下であり、残部はFe及び不可避不純物からなり、線材断面内で80%以上がベイナイト組織で、残部組織が非ベイナイト組織であり、かつ、前記線材断面の組織中のフェライト相の(211)結晶面の半価幅が0.6°以下であり、更に、引張強度TS(MPa)と絞りRA(%)が、それぞれ、下記式(1)及び下記式(2)を満足し、断面内の硬度分布標準偏差ビッカース硬度(Hv)で6未満であることを特徴とする伸線加工性に優れた線材。TS≦580+700×[C]・・・(1)RA≧100−46×[C]−18×[Mn]−10×[Cr]・・・(2)ここで、[C]、[Mn]、及び、[Cr]は、それぞれ、C、Mn、及び、Crの質量%を示す。

請求項2

前記成分組成が、更に、質量%で、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:0.1%以下、V:0.1%以下、Mo:0.5%以下、Ti:0.05%以下、Nb:0.1%以下、Al:0.1%以下、Ca:0.05%以下、及び、B:0.005%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の伸線加工性に優れた線材。

請求項3

請求項1又は2に記載の成分組成の鋼片を、線材に熱間圧延した後、850〜1050℃でコイル状に巻き取り、次いで、300〜475℃の溶融塩又は溶融鉛に浸漬し、ベイナイト変態を完了させてベイナイト分率を80%以上とし、次いで、550〜650℃の溶融塩又は溶融鉛に1秒以上浸漬することを特徴とする請求項1又は2に記載の伸線加工性に優れた線材の製造方法。

請求項4

請求項1又は2に記載の成分組成の線材を、850℃以上に加熱し、次いで、300〜475℃のサンド、溶融塩、又は、溶融鉛に浸漬してパテンティング処理を行い、線材断面内で80%以上のベイナイト組織とし、その後、サンド、溶融塩、溶融鉛、通電、又は、誘導加熱により、550〜650℃で1秒以上加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の伸線加工性に優れた線材の製造方法。

技術分野

0001

本発明は、最終パテンティング又はオイルテンパー前に1次伸線を要する高炭素鋼線材、又は、ACSR(Aluminum Conductor Steel Reinforced)、ロープ向け高炭素鋼線材とその製造方法に関する。

背景技術

0002

線材二次加工には、主に、引抜き加工活用され、一般に、ステルモアや鉛パテンティング熱処理されたパーライト鋼が用いられる。特に、STC(Steel Cord)の極細線細径のロープでは、所定の線径まで細径化するために中間パテンティングを施したり、圧延線径を細径化して、伸線加工ひずみを減らす等の工程で製造されている。

0003

一方で、伸線加工ひずみそのものを向上させる工夫として、低強度のパーライト組織ベイナイト組織を活用することが知られている。

0004

これらの組織は、線材の初期強度や伸線加工による昇抗張力が低く抑えられており、引抜加工時引抜力の低減、及び、加工発熱量の制御の観点から、加工原単位材質面での優位性が期待され、二段変態によるベイナイト線材の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。

0005

しかし、ベイナイト線に関しては、組織率をコントロールする熱処理について開示されているものの、安定的に低強度化するための組織因子は明確にされていない。

先行技術

0006

特開平06−330240号公報
特開平06−73502号公報
特開平06−73501号公報

発明が解決しようとする課題

0007

本発明は、上記事情に着目してなされたもので、実製造において安定的に良好な伸線加工特性を有する線材と、該線材の製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0008

特許文献1〜3に開示された発明はいずれも、350℃〜500℃に一定時間以内保持することにより過冷オーステナイト組織から、一部ベイナイト変態を開始させた後、温度を上昇させて完全にベイナイト変態が終了するまで保定することによってセメンタイト析出の粗いベイナイト組織を生成している。すなわち、特許文献1〜3に開示された発明はいずれも、2段熱処理中に上部ベイナイト組織を軟質化することを特徴としており、1段目熱処理によるベイナイト変態の完了を指向していない。

0009

本発明者らは、ベイナイト線で良好な伸線加工特性を得るため、二段冷却での軟質化機構を検討し、(i)1段目熱処理でベイナイト変態が完了するまで保定することによって、ベイナイト分率上がり且つベイナイト組織内のセメンタイトの均一分散ができること、(ii)初期組織が硬質なベイナイト組織単一でも、二段冷却での加熱による焼鈍効果によって、目的とする線材強度に合わせ込めること、及び、(iii)非ベイナイト組織の影響を受けずに伸線加工硬化率を低下させることができる組織分率を知見し、本発明を完成するに至った。

0010

本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は次のとおりである。

0011

(1)成分組成が、質量%で、C:0.7〜1.2%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0%以下を含有し、N:0.005%以下であり、残部はFe及び不可避不純物から成り、線材断面内で80%以上がベイナイト組織で、残部組織が非ベイナイト組織であり、かつ、線材断面の組織中のフェライト相の(211)結晶面の半価幅が0.6°以下であり、更に、引張強度TS(MPa)と絞りRA(%)が、それぞれ、下記式(1)及び下記式(2)を満足し、断面内の硬度分布標準偏差ビッカース硬度(Hv)で6未満であることを特徴とする伸線加工性に優れた線材。
TS≦580+700×[C] ・・・(1)
RA≧100−46×[C]−18×[Mn]−10×[Cr] ・・・(2)
ここで、[C]、[Mn]、及び、[Cr]は、それぞれ、C、Mn、及び、Crの質量%を示す。

0012

(2)前記成分組成が、更に、質量%で、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:0.1%以下、V:0.1%以下、Mo:0.5%以下、Ti:0.05%以下、Nb:0.1%以下、Al:0.1%以下、Ca:0.05%以下、及び、B:0.005%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載の伸線加工性に優れた線材。

0013

(3)前記(1)又は(2)に記載の成分組成の鋼片を、線材に熱間圧延した後、850〜1050℃でコイル状に巻き取り、次いで、300〜475℃の溶融塩又は溶融鉛に浸漬し、ベイナイト変態を完了させてベイナイト分率を80%以上とし、次いで、550〜650℃の溶融塩又は溶融鉛に1秒以上浸漬することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の伸線加工性に優れた線材の製造方法。

0014

(4)前記(1)又は(2)に記載の成分組成の線材を、850℃以上に加熱し、次いで、300〜475℃のサンド、溶融塩、又は、溶融鉛に浸漬してパテンティング処理を行い、線材断面内で80%以上のベイナイト組織とし、その後、サンド、溶融塩、溶融鉛、通電、又は、誘導加熱により、550〜650℃で1秒以上加熱することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の伸線加工性に優れた線材の製造方法。

発明の効果

0015

本発明によれば、ベイナイトの軟質化機構と、加工硬化率を低減することが可能な組織分率に係る知見に基づいて、伸線加工特性に優れた線材を提供することができる。

図面の簡単な説明

0016

引張強度TS(MPa)とC量(質量%)の関係の一例を示す図である。

0017

以下、本発明について説明する。

0018

本発明の伸線加工性に優れた線材(以下「本発明線材」ということがある。)は、成分組成が、質量%で、C:0.7〜1.2%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0%以下を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなり、線材断面内で80%以上がベイナイト組織で、残部組織が非ベイナイト組織であり、かつ、前記線材断面の組織中のフェライト相の(211)結晶面の半価幅が0.6°以下であり、更に、引張強度TS(MPa)と絞りRA(%)が下記式(1)及び(2)を満足し、線材断面内の硬度分布において、その標準偏差がビッカース硬度(Hv)で6未満であることを特徴とする。
尚、前記線材断面とは、線材の長さ方向に垂直な断面をいう。

0019

TS≦580+700×[C] ・・・(1)
RA≧100−46×[C]−18×[Mn]−10×[Cr] ・・・(2)
ここで、[C]、[Mn]、及び、[Cr]は、それぞれ、C、Mn、及び、Crの質量%を示す。

0020

まず、本発明線材の成分組成の限定理由について説明する。以下、%は質量%を意味する。

0021

C:0.7〜1.2%
Cは、ベイナイト組織のセメンタイト分率と数密度、及び、転位密度を増加させて強度を高める元素である。0.7%未満では、熱処理時のフェライト変態により、ベイナイト分率の確保が困難となるので、0.7%以上とする。好ましくは0.9%以上である。一方、1.2%を超えると、初析セメンタイトが析出し、伸線加工性が悪化するので、1.2%以下とする。好ましくは1.0%以下である。

0022

Si:0.1〜1.5%
Siは、脱酸元素であり、また、フェライトを固溶強化する元素である。0.1%未満では、亜鉛めっき時の合金層の生成が安定しないので、0.1%以上とする。好ましくは0.4%以上である。一方、1.5%を超えると、加熱時の脱炭が促進され、メカニカルデスケーリング性が悪化し、ベイナイト変態時の炭化物析出遅延するので、1.5%以下とする。好ましくは1.2%以下である。

0023

Mn:1.0%以下
Mnは、脱酸元素であり、また、焼入れ性向上る元素である。熱処理時のフェライトの生成を抑制するが、1.0%を超えると、変態が遅延して未変態組織が生成する可能性があるので、1.0%以下とする。好ましくは0.7%以下である。下限は特に限定しないが、ベイナイトの組織率の増加の点で、0.2%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましい。

0024

本発明線材は、上記元素の他、Cr、Ni、Cu、V、Mo、Ti、Nb、Al、Ca、及び、Bの1種又は2種以上を、本発明線材の特性を阻害しない範囲で、適宜の量を含有してもよい。

0025

Cr:1.0%以下
Crは、焼入れ性向上元素であり、熱処理時のフェライト変態、パーライト変態を抑制する作用をなす元素である。1.0%を超えると、変態終了時間が長くなるほか、メカニカルデスケーリング性が悪化するので、1.0%以下とする。好ましくは0.7%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.05%以上が好ましい。

0026

Ni:1.0%以下
Niは、焼入れ性向上元素であり、フェライト変態を抑制して、ベイナイトの組織率を高める元素である。1.0%を超えると、変態終了時間が長くなるので、1.0%以下とする。好ましくは0.7%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.05%以上が好ましい。

0027

Cu:0.1%以下
Cuは、耐食性向上元素である。0.1%を超えると、Sと反応してオーステナイト粒界中にCuSが偏析して、線材製造過程鋼塊や線材などに傷が発生する原因となるので、0.1%以下とする。好ましくは0.07%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.01%以上が好ましい。

0028

V:0.1%以下
Vは、固溶状態で、フェライト変態を遅延させる作用をなす元素である。0.1%を超えると、オーステナイト中で窒化物を形成し、焼入れ性を低下させ、変態後の昇温時に炭化物が析出しワイヤ靱性が低下するので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.01%以上が好ましい。

0029

Mo:0.5%以下
Moは、焼入れ性を向上させ、フェライト変態、パーライト変態を抑制し、ベイナイトの組織率を向上させる元素である。0.5%を超えると、変態終了時間が長くなるほか、変態後の昇温時に炭化物が生成し二次硬化が起きるので、0.5%以下とする。好ましくは0.3%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.1%以上が好ましい。

0030

Ti:0.05%以下
Tiは、γ粒径微細にし、その後に形成される組織を微細化して、延性の向上に寄与する元素である。0.05%を超えると、添加効果が飽和するので、0.05%以下とする。好ましくは0.02%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.005%以上が好ましい。

0031

Nb:0.1%以下
Nbは、焼入れ性向上元素であり、また、窒化物がピニング粒子として作用して、熱処理時の変態時間や粒径制御に寄与する元素である。0.1%を超えると、変態終了時間が長くなるので、0.1%以下とする。好ましくは0.07%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.005%以上が好ましい。

0032

Al:0.1%以下
Alは、脱酸元素として有効な元素である。0.1%を超えると、硬質介在物が生成し、伸線加工性が低下するので、0.1%以下とする。好ましくは0.07%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.02%以上が好ましい。

0033

Ca:0.05%以下
Caは、脱酸元素であり、また、鋼中介在物形態制御に有効な元素である。0.05%を超えると、粗大介在物が生成するので、上限を0.05%以下とする。好ましくは0.02%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.001%以上が好ましい。

0034

B:0.005%以下
Bは、固溶B状態粒界に偏析して、フェライト生成を抑制する元素である。0.005%を超えると、粒界にM23(C、B)6が析出し、伸線性が低下するので、0.005%以下とする。好ましくは0.002%以下である。下限は0%を含むが、添加効果を確実に得る点で、0.0003%以上が好ましい。

0035

N:0.005%以下
窒素(N)は、AlやTiといった窒化物形成元素と結合して鋼材中析出物を形成し、オーステナイト粒界のピンニング粒子として作用する。また、固溶元素として存在するNは、引張試験時の絞り値を低下させる。尚、N量が0.005%を超えると、オーステナイト粒界が微細となり、目的とするベイナイト組織が得られ難くなる上、線材の絞り値が低下するため、その上限値を0.005%とする。

0036

次に、本発明線材の組織について説明する。

0037

本発明線材の組織は、線材断面内にて、面積率で80%以上がベイナイト組織で、残部が非ベイナイト組織であり、かつ、前記線材断面の組織中のフェライト相の(211)結晶面の半価幅が0.6°以下であることを特徴とする。

0038

ベイナイトの組織率を上げるためには、加熱オーステナイト状態から、できる限りフェライト変態やパーライト変態(いずれも拡散変態)を抑制して、所定の温度まで冷却する必要がある。しかし、線径が太く、焼入れ性の低い合金成分の場合、組織の作り込みが困難となり、実製造で、非ベイナイトの組織率を0%とするのは困難である。

0039

そこで、本発明者らは、非ベイナイト組織が全体の線材や伸線加工後のワイヤの強度に影響を及ぼさない範囲を、鋭意検討した。その結果、非ベイナイト組織が20%未満であれば、全体の線材や伸線加工後のワイヤの強度に影響を及ぼさないことを見いだした。この知見に基づいて、線材断面内にて、ベイナイト組織は80%以上と規定した。

0040

ベイナイト組織の分率は、線材の長さ方向に垂直な断面を観察面として試料採取し、観察面を研磨ナイターエッチング、必要に応じてレペラーエッチングし、光学顕微鏡或いは電子顕微鏡、又はX線回折法で観察することによって得ることができる。光学顕微鏡或いは電子顕微鏡によって得られたミクロ組織写真を白と黒に二値化することにより画像解析を行い、ベイナイトの面積率を求めることができる。なお、組織分率は、鋼板の任意の位置から採取したサンプルについて、板厚方向の1/4部を1000倍で300×300μmの範囲を撮影し、撮影視野は3箇所以上として上記の手法により測定しても良い。ベイナイト組織と非ベイナイト組織とは、EBSD(Electron Backscatter Diffraction)で得られた電子回折パターン結晶方位測定データをKAM法(Kernel Average Misorientation)で解析することで判別しても良い。

0041

ベイナイト組織は、粒状セメンタイトの炭化物とフェライト相からなる。本発明線材のベイナイト組織の分率は、後述する巻き取り工程後の加熱及び冷却からなるベイナイト変態工程によって実質的に定められる。
更に、ベイナイト変態完了後の線材を加熱する後述の熱処理工程を行うことによって、線材断面の組織中のフェライト相の(211)結晶面の半価幅が低下し、半価幅0.6°以下で良好な伸線加工性を有する線材強度が得られることを、本発明者らは見いだした。

0042

なお、半価幅は、X線回折によって測定される、ある結晶面の回折ピークにおいて、ピーク高さの半分の位置における角度の幅を意味する。パーライト組織は多くの弾性ひずみを含むため、生成段階での半価幅が高くなるとともに、加熱を行ってもベイナイトほど半価幅が低下し難い。そのため、パーライト分率が高い程、半価幅が高くなるため、生成した組織の評価指標として好適である。

0043

線材断面の組織中のフェライト相の(211)結晶面は、当該線材断面の組織中の粒状セメンタイトの炭化物の分散状態及びパーライト含有率にも密接に関連する。従って、半価幅は、線材のベイナイト分率、ベイナイト組織中の粒状セメンタイトの炭化物の分散状態及びパーライトの含有率の大小を判定するパラメータになる。実際、半価幅は、ベイナイト分率の増加に伴って減少する傾向を有する。また、半値幅は、セメンタイトの分散状態の均一性に伴って減少し、非ベイナイト組織であるパーライトの含有率の増加に伴って増加し、線材の強度の低下に伴って減少する傾向を有する。

0044

次に、本発明線材の機械特性について説明する。

0045

本発明線材は、引張強度TS(MPa)と絞りRA(%)が、それぞれ、下記式(1)及び下記式(2)を満足することを特徴とする。

0046

TS≦580+700×[C] ・・・(1)
RA≧100−46×[C]−18×[Mn]−10×[Cr] ・・・(2)
ここで、[C]、[Mn]、及び、[Cr]は、それぞれ、C、Mn、及び、Crの質量%を示す。

0047

ベイナイト線材の引張強度TS及び絞りRAは、セメンタイト粒子の平均間距離、転位密度、及び、ブロック粒径に依存する。特に、本発明線材では、セメンタイト分率に相当する炭素量に依存する。本発明者らは、ベイナイトの組織率、及び、フェライト相の半価幅の規定範囲内で、引張強度TSと炭素量([C])の関係を調査し、また、絞りRAと“100−46×[C]−18×[Mn]−10×[Cr]”の関係を調査した。

0048

“100−46×[C]−18×[Mn]−10×[Cr]”は、絞りを阻害する代表的な元素の量に、影響係数を乗じ、総合的な影響を評価する指標である。この指標の下限を規定することにより、本発明線材の機械特性を特徴づけることができる。

0049

図1に、引張強度TSと炭素量([C])の関係を調査した結果を示す。引張強度が、上記式(1)を満たしていることが解る。絞りRAについては、上記式(2)を満たせば良好であることを、本発明者らは見いだした。

0050

断面内の硬度分布も、伸線特性に影響する。線材断面内の硬度分布において、その標準偏差がビッカース硬度(Hv)で6未満とすることにより、良好な伸線特性の線材を得られることを見出した。

0051

次に、本発明線材の製造方法について説明する。

0052

本発明線材の製造方法は、本発明線材の成分組成の鋼片を、線材に熱間圧延した後、850〜1050℃でコイル状に巻き取り、次いで、300〜475℃の溶融塩又は溶融鉛に浸漬し、ベイナイト変態を完了させてベイナイト分率を80%以上とし、次いで、550〜650℃の溶融塩又は溶融鉛に15秒以上浸漬することを特徴とする。

0053

本発明線材の成分組成の鋼片を、線材に熱間圧延した後、コイル状に巻き取る際の線材温度は、オーステナイト粒径の調整において重要である。線材の巻取り温度は、鋼種の焼入れ性に応じて変更するが、1050℃を超えると、物理的に端末処理が難しくなるので、1050℃以下とする。好ましくは1000℃以下である。

0054

一方、巻取り温度が850℃未満であると、オーステナイト粒径が細かくなり焼入れ性が低下するとともに、表層部の二相域脱炭が進行するので、850℃以上とする。好ましくは900℃以上である。

0055

また、本発明線材の製造方法は、本発明線材の成分組成の線材を、850℃以上に加熱し、次いで、300〜475℃のサンド、溶融塩、又は、溶融鉛に浸漬してパテンティング処理を行い、線材断面内で80%以上のベイナイト組織とし、その後、サンド、溶融塩、溶融鉛、通電、又は、誘導加熱により、550〜650℃で1秒以上加熱することを特徴とする。

0056

一旦冷却した線材を加熱してベイナイト変態させる場合の加熱温度は、鋼材の焼入れ性に影響する。加熱温度が850℃未満であると、オーステナイト粒径が細かくなり焼入れ性が低下し、ベイナイトの分率が向上せず、表層部の二相域脱炭が進行するので、850℃以上とする。好ましくは900℃以上である。

0057

オーステナイト粒をピニングする粒子を制御するため、合金元素の量に応じて加熱温度を設定するので、加熱温度の上限は特に定めないが、経済性の点から、1150℃以下が好ましい。より好ましくは1100℃以下である。

0058

鋼片の熱間圧延後の線材、又は、一旦冷却した前記線材を再加熱した後の線材を浸漬するサンド、溶融塩、又は、溶融鉛の温度(すなわち、冷媒温度)は、前記線材のベイナイト変態温度及び冷却速度に影響する。冷媒温度が475℃を超えると、冷却速度が低下するとともに、パーライト変態が生じ、線材全断面におけるベイナイト化が困難となるので、475℃以下とする。好ましくは450℃以下である。

0059

一方、冷媒温度が300℃未満では、ベイナイト変態が長時間化するので、300℃以上とする。好ましくは350℃以上である。

0060

本発明は、一旦冷却した前記線材を850℃以上に再加熱した後、前記線材を300〜475℃の温度範囲にて保定して、前記線材組織のベイナイト変態を進行させて、前記線材のベイナイト組織を均一にすることができる。これは、当該炭素量において、ベイナイト組織は主に約300℃〜約500℃の温度において生成するが、ベイナイト組織の大きさは該ベイナイト組織の生成時の温度によって影響するためである。
ベイナイト変態が完了するまで前記線材を300〜475℃の温度範囲にて保定することによって、前記線材のベイナイト組織を均一にすることができる。しかし、長時間保定することは、製造コストの観点において好ましくない。
一方、ベイナイト変態完了前に線材を475℃超に加熱して所定時間以上保持するとベイナイト変態が完了するが、ベイナイト組織は不均一になり、線材断面の硬度分布が不均一になるので好ましくない。
そこで、本発明において、線材断面内の組織のうちベイナイト組織が80%以上になるまで、前記線材を300〜475℃の温度範囲にて保定し、その後、後述するように550〜650℃で1秒以上加熱する。

0061

尚、ベイナイト変態が完了するまでに保定時間、或いは、ベイナイト分率が80%以上になるまでの保定時間は、予め所定の実験条件によって決定しても良い。例えば、線材の組成、溶融塩又は溶融鉛への浸漬処理或いはパテンティング処理による保定時間、前記浸漬処理或いはパテンティング処理時の温度及びベイナイト分率との対応関係を予め調査し、調査結果に基づいて、前記保定時間を決定しても良い。この場合、ベイナイト変態の程度は、実測値に厳密に対応させて判断する必要がある。また、試験が未実施の製造方法であっても、近接する既知製造条件及び当該製造条件におけるベイナイト組織の分率との関係に基づいて内挿或いは外挿を行って、前記未実施の製造方法によって製造された線材のベイナイト組織の分率を予想し、前記保定時間を決定しても良い。或いは、実施しようとする製造条件と同一の製造条件下で試験片を作製し、線材の製造工程途中におけるベイナイト組織の分率を確認しつつ、線材の製造を進めても良い。

0062

ベイナイト変態完了後の線材を加熱する熱処理工程を行う。当該熱処理工程における加熱温度は、ベイナイト線の回復と軟質化に影響する。加熱温度が550℃未満であると、十分な軟質化効果が得られないので、加熱温度は550℃以上とする。好ましくは570℃以上である。650℃を超えると、セメンタイトのオストワルド成長が進行し、線材の延性が低下するので、650℃以下とする。好ましくは630℃以下である。

0063

ベイナイト変態完了後の加熱時間は、加熱温度に応じて調整するが、軟質化を進行させるために1秒以上とする。加熱時間が長すぎると、セメンタイトのオストワルド成長が進行し延性が低下するが、加熱温度の範囲内で適宜調整すればよいので、特に上限は設けない。また、上記加熱温度に到達するまでの時間或いは上記加熱温度に到達するまでの昇温速度は特に限定しない。

0064

なお、加熱は、所定温度のサンド、溶融塩、又は、溶融鉛に浸漬して行うほか、通電、又は、誘導加熱で行ってもよい。

0065

次に、本発明の実施例について説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、本発明は、種々の条件を採用し得るものである。

0066

表1に示す成分組成A〜Oの線材を、表2−1に示す「冷却条件」に示す所定温度にて所定時間保定することによってベイナイト変態を完了させた。ベイナイト変態完了後の線材をそれぞれ、「ベイナイト変態完了後の熱処理条件」に示される所定温度まで加熱して当該所定温度にて所定時間保定する熱処理を施した。熱処理後の線材の引張強度TS(MPa)と絞り(%)を測定した結果、及び、ベイナイト組織率と該ベイナイト組織中のフェライト相の半価幅を測定した結果と、線材断面の硬さの分布を、表2−2に示す。なお、ベイナイトの変態時間は、熱間圧延後の線材を直接的に熱処理する場合、300秒を上限とて適宜変化させ、再加熱後の線材をパテンティング処理する場合、1800秒を上限として適宜変化させた。

0067

尚、発明例1、2、6〜8、10、12、13及び比較例1〜6のそれぞれの製造には、表1に示す成分組成の鋼片を表2−1に示す条件で熱間圧延して得られた線材が用いられた。また、発明例3〜5、9、11及び比較例7のそれぞれの線材は、表1に示す成分組成の線材を製造後一旦冷却し、前記線材を表2−1に示す加熱温度にて再加熱することを含む製造方法によって製造された。

0068

表1の鋼種Kの組成は、特許文献3の鋼線の組成に対応する。これらの組成を有する線材を、表2−1に示す「冷却条件」の所定温度にて所定時間保持することによって、ベイナイト変態が終了する以前まで、比較例6の線材のベイナイト変態を進行させた。次いで、比較例7の線材を、「ベイナイト変態完了後の熱処理条件」に示される所定温度まで加熱して当該所定温度にて所定時間保定する熱処理を施して、ベイナイト変態を終了させた。

0069

ベイナイト組織率の測定には、電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いた。線材の中心部において300μm×180μm以上の領域を測定し、Kernel Average Misorientation(KAM)法によって、結晶回転が起こっていない領域をベイナイト組織と定義し、ベイナイト分率を算出した。

0070

フェライト相の半価幅には、X線回折装置を用い、X線の線源にはCr管球を用いた。測定面は(211)面とし、最大カウント数が3000以上となる時間測定を行い、その半価幅を測定値とした。

0071

また、発明例1〜13及び比較例1〜7の線材のそれぞれについて鋼種の組成及び熱処理等の製造条件と、ベイナイト組織の分率との対応関係を予め調査した。このような調査結果に基づいて線材の組織のベイナイト変態の進行の程度を判断して、発明例1〜13及び比較例1〜7の線材のベイナイト変態の開始及び完了の判断を行った。

0072

線材断面の硬さの分布は、ビッカース硬さ試験機を用いて、得られた組織の長手方向の断面に対し、1kgfの荷重で100点の打痕を行った。その標準偏差を硬度バラツキとした。

0073

0074

0075

0076

発明例1〜13は、本発明の実施例であり、表2−2に示すように、伸線加工特性に優れたベイナイト線材が得られている。

0077

比較例1においては、鋼片圧延後の巻取温度が低く、巻取時から冷却時にかけて、フェライト変態が進行して、目的のベイナイト組織分率が得られていない。また、引張強度TSも式(1)を満たしていない。

0078

比較例2及び3においては、それぞれ、焼入れ性向上元素のSi及びMnが規定の範囲を超えて、焼入れ性が高くなりすぎたため、冷却1段目での変態が完了しなかった。比較例4においては、冷却1段目の温度が規定の範囲を超えていたために冷却が遅くなり、パーライトが多く生じた結果、目的のベイナイト組織分率が得られなかった。

0079

比較例5においては、冷却2段目の加熱を行わなかったため、半価幅が規定の値を超過し、引張強度TSも式(1)を満たしていない。比較例6においては、Cが規定の範囲を超えており、オーステナイトからの冷却中にセメンタイトが生成し、絞りRAが式(2)を満たしていない。

実施例

0080

比較例6は、ベイナイト変態完了前に線材が加熱されたために、ベイナイト組織が不均一になり、線材断面の硬度分布が不均一であった。そのため、比較例6は、絞りRAが式(2)を満たしておらず線材の延性は低下しており、その伸線加工特性が低くなっている。

0081

前述したように、本発明によれば、ベイナイトの軟質化機構と、加工硬化率を低減することが可能な組織率に係る知見に基づいて、伸線加工特性に優れた線材を提供することができる。よって、本発明は、線材製造産業において利用可能性が高いものである。

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