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課題・解決手段
概要
背景
乳房炎は、乳腺組織の炎症であり、その原因の多くが、黄色ブドウ球菌、大腸菌、レンサ球菌、緑膿菌などの細菌の感染によるものである。特に、牛における乳房炎は、以下に述べるように酪農家にとって重大な問題である。
乳房炎は、臨床型乳房炎と潜在性乳房炎(非臨床型乳房炎ともいう)に大別されている。臨床型乳房炎は、乳房が赤く腫れ、発熱し、痛みを伴う、或いは乳汁中にブツが混入するなど肉眼的な異常が認められるのに対し、潜在性乳房炎は、臨床型乳房炎のような異常が見られずに乳腺に炎症が起きる。発生割合は、潜在性乳房炎がはるかに多く、搾乳牛の約25〜50%が罹患しているといわれている。
牛の乳房炎の発症に関しては、発症前に乳房炎を予防することや、乳房炎を発症した牛の治療として十分な対策がとられていないのが現状であり、乳業産業での大きな課題となっている。日本国の2009年度家畜共済統計に報告されている疾病病類別事故頭数では、約141万頭の30%が泌尿器病であり、この9割程度が乳房炎である。また、死廃病類別事故頭数においても、約16万頭の9%が泌尿器病であることから、2009年度だけで、乳房炎発症は約42万頭、廃棄頭数は1.5万頭に上る。さらに、乳房炎を発症した場合には、乳質や乳量が減少するため、経済的損失は計り知れない。そのため、抗生物質の投与による治療が行われるが、完治しない場合も多くあり、隔離以外の方法がないのが現状である。仮に、抗生物質投薬を行って完治したとしても、投薬中の乳の出荷が行えず、乳房炎による経済的な損失は、日本国では、概算で約1千億円といわれている。また、直接的な経済損失以外にも、乳房炎感染牛の治療にかかわる労働負担や薬代も無視できない。さらに、乳房炎を一度発症した乳牛は、それ以降の出産後の授乳期に乳房炎を発症する確率が非常に高いことや、乳房炎を発症した乳牛は、発情が遅れることなど副次的な悪影響が考えられる。そのため、乳業産業において、乳房炎予防や有効な治療手段が求められていることに加え、乳房炎の予防や再発抑制技術の確立が急務となっている。
これまで、牛などの反芻動物の乳房炎の予防や治療のために種々の提案がされてきた。それらの提案された予防剤または治療剤のなかで、とりわけ、乳房炎の予防や治療のために微生物を利用する例がいくつか報告されている。
例えば、特許文献1には、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)に属する微生物の培養物から得られる培養組成物を有効成分として含有することを特徴とする牛の乳房炎の予防または治療用組成物が開示されている。
特許文献2には、パン酵母生菌またはその含有物を有効成分とすることを特徴とする家畜乳房炎予防治療組成物が開示されている。
その他の例として、乳牛への生菌剤の使用について、例えばナトキン−L(乳酸菌および枯草菌)、宮入菌粉末(酪酸菌)、ビオスリー(乳酸菌、糖化菌および酪酸菌)、ボバクチン(乳酸菌および酪酸菌)が単純性下痢予防・治療に用いられている(非特許文献1)。この文献の表2には、乳房炎の発生率が生菌剤使用によって減少したことが記載されているが、その生菌剤が何であるかが示されていない。因みに、この文献の表1に列挙された生菌剤のなかで、現状の乳牛への生菌剤投与は、「ビオスリー」が80〜90%使用されていることから、おそらく表2で使用された生菌剤は「ビオスリー」であると推定される。また、バイオトップ(枯草菌)を含む生菌剤が、鼓張症の発生が激減し、食欲増進および被毛光沢などの効果のほかに、サルモネラ菌を排出する牛の頭数が減少していることなどの効果が知られている(非特許文献2)。
さらに、バチルス・ズブチルスの生菌体を反芻動物の飼料利用効率改善剤として使用することが、この出願と同じ出願人によって教示されている(特許文献3)。この文献での利用効率改善は、消化吸収効率の改善であり、これにより、乳牛の乳量や乳質も改善される。また、バチルス・ズブチルスC−3102株をビタミン、ミネラル、アミノ酸等と混合してなる飼料添加物もまた、この出願と同じ出願人によって教示されている(特許文献4)。さらにまた、バチルス・ズブチルスを、反芻動物等の動物の腸内の病原性細菌の増殖を低下させるために使用することが特許文献5に記載されている。しかし、特許文献3、4および5には、バチルス・ズブチルスが牛の乳房炎の予防や治療のために有用であることは記載されていない。
概要
この発明は、反芻動物、特に乳牛、の乳房炎を予防または治療するための物質または方法に関するものであり、具体的には、以下の性質、すなわち、牛においてCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2を増加または維持させることができる、を有するバチルス属細菌を有効成分として含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎の予防または治療剤、飼料添加物、飼料、あるいは医薬組成物を提供する。
目的
本発明の目的は、牛の乳房炎を予防および/または治療するための、剤または医薬組成物或いは方法を提供する
効果
実績
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請求項1
下記の(1)の性質:(1)牛においてCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2を増加または維持させることができる、を有するバチルス属細菌を有効成分として含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎の予防または治療剤。
請求項2
前記バチルス属細菌が、下記の(2)の性質をさらに有する、請求項1に記載の予防または治療剤。(2)ビフィズス菌増殖活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERMBP−1096)のビフィズス菌増殖活性を1としたとき、0.8より高い
請求項3
前記バチルス属細菌が、下記の(3)の性質を有する、請求項1または2に記載の予防または治療剤。(3)プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERMBP−1096)のプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性をともに1としたとき、0.7より高い
請求項4
前記バチルス属細菌が、下記の(4)の性質を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の予防または治療剤。(4)1×105個以上/日/頭の用量で牛に経口投与したとき、乳房炎を予防または治療することができる
請求項5
前記反芻動物が牛である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
請求項6
請求項7
前記バチルス属細菌が、バチルス・ズブチルス細菌である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
請求項8
前記バチルス・ズブチルス細菌が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERMBP−1096)、あるいは、前記性質(1)、前記性質(1)および(2)、前記性質(1)および(3)、前記性質(1)〜(3)、前記性質(1)および(4)、前記性質(1)、(3)および(4)、または前記性質(1)〜(4)を有する、C−3102株の変異株である、請求項7に記載の予防または治療剤。
請求項9
請求項1〜8のいずれか1項に記載の予防または治療剤を有効成分として含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎を予防または治療するための飼料添加物。
請求項10
請求項11
請求項12
反芻動物の乳房炎を予防または治療するための有効量の請求項9または10に記載の飼料添加物を、反芻動物用の飼料に添加することを含むことを特徴とする、反芻動物用の飼料において、反芻動物の乳房炎の予防または治療効果を強化するための方法。
請求項13
下記の(1)の性質:(1)牛においてCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2を増加または維持させることができる、を有する、有効成分としてのバチルス属細菌を、製薬上許容可能な担体とともに含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎を予防または治療するための医薬組成物。
請求項14
前記バチルス属細菌が、下記の(2)の性質をさらに有する、請求項13に記載の予防または治療するための医薬組成物。(2)ビフィズス菌増殖活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERMBP−1096)のビフィズス菌増殖活性を1としたとき、0.8より高い
請求項15
前記バチルス属細菌が、下記の(3)の性質を有する、請求項13または14に記載の予防または治療するための医薬組成物。(3)プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERMBP−1096)のプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性をともに1としたとき、0.7より高い
請求項16
前記バチルス属細菌が、下記の(4)の性質を有する請求項13〜15のいずれか1項に記載の予防または治療するための医薬組成物。(4)1×105個以上/日/頭の用量で牛に経口投与したとき、乳房炎を予防または治療することができる
請求項17
前記反芻動物が牛である、請求項13〜16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
請求項18
請求項19
前記性質(4)における前記経口投与が、牛の分娩1か月前から分娩後3か月までの期間行われる、請求項16〜18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
請求項20
前記バチルス属細菌が、バチルス・ズブチルス細菌である、請求項13〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
請求項21
前記バチルス・ズブチルス細菌が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERMBP−1096)、あるいは、前記性質(1)、前記性質(1)及び(2)、前記性質(1)および(3)、前記性質(1)〜(3)、前記性質(1)および(4)、前記性質(1)、(3)および(4)、または前記性質(1)〜(4)を有する、C−3102株の変異株である、請求項20に記載の医薬組成物。
請求項22
乳房炎治療用抗生物質がさらに含まれる、請求項13〜21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
請求項23
請求項1〜8のいずれか1項に記載の予防または治療剤、請求項9もしくは10に記載の飼料添加物、請求項11に記載の飼料、あるいは、請求項13〜22のいずれか1項に記載の医薬組成物を、それを必要とする反芻動物に投与または給与することを含む、反芻動物において乳房炎を予防または治療する方法。
請求項24
乳房炎治療用抗生物質を必要に応じて投与することをさらに含む、請求項23に記載の方法。
技術分野
0001
本発明は、特定の性質を有するバチルス属細菌を有効成分として含むことを特徴とする、牛などの反芻動物の乳房炎の予防または治療のための、予防または治療剤、飼料添加物、飼料あるいは医薬組成物に関する。
背景技術
0002
乳房炎は、乳腺組織の炎症であり、その原因の多くが、黄色ブドウ球菌、大腸菌、レンサ球菌、緑膿菌などの細菌の感染によるものである。特に、牛における乳房炎は、以下に述べるように酪農家にとって重大な問題である。
0003
乳房炎は、臨床型乳房炎と潜在性乳房炎(非臨床型乳房炎ともいう)に大別されている。臨床型乳房炎は、乳房が赤く腫れ、発熱し、痛みを伴う、或いは乳汁中にブツが混入するなど肉眼的な異常が認められるのに対し、潜在性乳房炎は、臨床型乳房炎のような異常が見られずに乳腺に炎症が起きる。発生割合は、潜在性乳房炎がはるかに多く、搾乳牛の約25〜50%が罹患しているといわれている。
0004
牛の乳房炎の発症に関しては、発症前に乳房炎を予防することや、乳房炎を発症した牛の治療として十分な対策がとられていないのが現状であり、乳業産業での大きな課題となっている。日本国の2009年度家畜共済統計に報告されている疾病病類別事故頭数では、約141万頭の30%が泌尿器病であり、この9割程度が乳房炎である。また、死廃病類別事故頭数においても、約16万頭の9%が泌尿器病であることから、2009年度だけで、乳房炎発症は約42万頭、廃棄頭数は1.5万頭に上る。さらに、乳房炎を発症した場合には、乳質や乳量が減少するため、経済的損失は計り知れない。そのため、抗生物質の投与による治療が行われるが、完治しない場合も多くあり、隔離以外の方法がないのが現状である。仮に、抗生物質投薬を行って完治したとしても、投薬中の乳の出荷が行えず、乳房炎による経済的な損失は、日本国では、概算で約1千億円といわれている。また、直接的な経済損失以外にも、乳房炎感染牛の治療にかかわる労働負担や薬代も無視できない。さらに、乳房炎を一度発症した乳牛は、それ以降の出産後の授乳期に乳房炎を発症する確率が非常に高いことや、乳房炎を発症した乳牛は、発情が遅れることなど副次的な悪影響が考えられる。そのため、乳業産業において、乳房炎予防や有効な治療手段が求められていることに加え、乳房炎の予防や再発抑制技術の確立が急務となっている。
0005
これまで、牛などの反芻動物の乳房炎の予防や治療のために種々の提案がされてきた。それらの提案された予防剤または治療剤のなかで、とりわけ、乳房炎の予防や治療のために微生物を利用する例がいくつか報告されている。
0006
例えば、特許文献1には、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)に属する微生物の培養物から得られる培養組成物を有効成分として含有することを特徴とする牛の乳房炎の予防または治療用組成物が開示されている。
0008
その他の例として、乳牛への生菌剤の使用について、例えばナトキン−L(乳酸菌および枯草菌)、宮入菌粉末(酪酸菌)、ビオスリー(乳酸菌、糖化菌および酪酸菌)、ボバクチン(乳酸菌および酪酸菌)が単純性下痢予防・治療に用いられている(非特許文献1)。この文献の表2には、乳房炎の発生率が生菌剤使用によって減少したことが記載されているが、その生菌剤が何であるかが示されていない。因みに、この文献の表1に列挙された生菌剤のなかで、現状の乳牛への生菌剤投与は、「ビオスリー」が80〜90%使用されていることから、おそらく表2で使用された生菌剤は「ビオスリー」であると推定される。また、バイオトップ(枯草菌)を含む生菌剤が、鼓張症の発生が激減し、食欲増進および被毛光沢などの効果のほかに、サルモネラ菌を排出する牛の頭数が減少していることなどの効果が知られている(非特許文献2)。
0009
さらに、バチルス・ズブチルスの生菌体を反芻動物の飼料利用効率改善剤として使用することが、この出願と同じ出願人によって教示されている(特許文献3)。この文献での利用効率改善は、消化吸収効率の改善であり、これにより、乳牛の乳量や乳質も改善される。また、バチルス・ズブチルスC−3102株をビタミン、ミネラル、アミノ酸等と混合してなる飼料添加物もまた、この出願と同じ出願人によって教示されている(特許文献4)。さらにまた、バチルス・ズブチルスを、反芻動物等の動物の腸内の病原性細菌の増殖を低下させるために使用することが特許文献5に記載されている。しかし、特許文献3、4および5には、バチルス・ズブチルスが牛の乳房炎の予防や治療のために有用であることは記載されていない。
先行技術
発明が解決しようとする課題
0012
上記の背景技術の中で述べたように、牛の乳房炎の予防や有効な治療手段が乳業産業において強く求められている。
0013
したがって、本発明の目的は、牛の乳房炎を予防および/または治療するための、剤または医薬組成物或いは方法を提供することである。
課題を解決するための手段
0014
本発明者らは、今回、特定のバチルス属細菌が、牛、とりわけ乳牛への給与(あるいは、投与または摂取)により乳房炎予防効果を発揮すること、さらには、発症後の乳房炎の治療効果を高めることを見出した。
0015
したがって、本発明は、以下の特徴を包含する。
0016
[1]下記の(1)の性質:
(1)牛においてCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2を増加または維持させることができる、
を有するバチルス属細菌を有効成分として含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎の予防または治療剤。
0017
[2]前記バチルス属細菌が、下記の(2)の性質をさらに有する、[1]に記載の予防または治療剤。
(2)ビフィズス菌増殖活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のビフィズス菌増殖活性を1としたとき、0.8より高い
0018
[3]前記バチルス属細菌が、下記の(3)の性質を有する、[1]または[2]に記載の予防または治療剤。
(3)プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性をともに1としたとき、0.7より高い
0019
[4]前記バチルス属細菌が、下記の(4)の性質を有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の予防または治療剤。
(4)1×105個以上/日/頭の用量で牛に経口投与したとき、乳房炎を予防または治療することができる
0020
[5]前記反芻動物が牛である、[1]〜[4]のいずれかに記載の予防または治療剤。
0022
[7]前記バチルス属細菌が、バチルス・ズブチルス細菌である、[1]〜[6]のいずれかに記載の予防または治療剤。
0023
[8]前記バチルス・ズブチルス細菌が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)、あるいは、前記性質(1)、前記性質(1)および(2)、前記性質(1)および(3)、前記性質(1)〜(3)、前記性質(1)および(4)、前記性質(1)、(3)および(4)、または前記性質(1)〜(4)を有する、C−3102株の変異株である、[7]に記載の予防または治療剤。
0024
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の予防または治療剤を有効成分として含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎を予防または治療するための飼料添加物。
0025
[10]乳房炎治療用抗生物質をさらに含む、[9]に記載の飼料添加物。
0026
[11]反芻動物の乳房炎を予防または治療するための有効量の[9]または[10]に記載の飼料添加物を含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎の予防または治療効果が強化された飼料。
0027
[12]反芻動物の乳房炎を予防または治療するための有効量の[9]または[10]に記載の飼料添加物を、反芻動物用の飼料に添加することを含むことを特徴とする、反芻動物用の飼料において、反芻動物の乳房炎の予防または治療効果を強化するための方法。
0028
[13]下記の(1)の性質:
(1)牛においてCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2を増加または維持させることができる、
を有する、有効成分としてのバチルス属細菌を、製薬上許容可能な担体とともに含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎を予防または治療するための医薬組成物。
0029
[14]前記バチルス属細菌が、下記の(2)の性質をさらに有する、[13]に記載の予防または治療するための医薬組成物。
(2)ビフィズス菌増殖活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のビフィズス菌増殖活性を1としたとき、0.8より高い
0030
[15]前記バチルス属細菌が、下記の(3)の性質を有する、[13]または[14]に記載の予防または治療するための医薬組成物。
(3)プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性をともに1としたとき、0.7より高い
0031
[16]前記バチルス属細菌が、下記の(4)の性質を有する[13]〜[15]のいずれかに記載の予防または治療するための医薬組成物。
(4)1×105個以上/日/頭の用量で牛に経口投与したとき、乳房炎を予防または治療することができる
0032
[17]前記反芻動物が牛である、[13]〜[16]のいずれかに記載の医薬組成物。
0033
[18]前記牛が、正常乳牛、乳房炎発症の可能性のある乳牛、乳房炎発症中の乳牛、または乳房炎発症歴のある乳牛である、[13]〜[17]のいずれかに記載の医薬組成物。
0034
[19]前記性質(4)における前記経口投与が、牛の分娩1か月前から分娩後3か月までの期間行われる、[16]〜[18]のいずれかに記載の医薬組成物。
0035
[20]前記バチルス属細菌が、バチルス・ズブチルス細菌である、[13]〜[19]のいずれかに記載の医薬組成物。
0036
[21]前記バチルス・ズブチルス細菌が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)、あるいは、前記性質(1)、前記性質(1)及び(2)、前記性質(1)および(3)、前記性質(1)〜(3)、前記性質(1)および(4)、前記性質(1)、(3)および(4)、または前記性質(1)〜(4)を有する、C−3102株の変異株である、[20]に記載の医薬組成物。
0037
[22]乳房炎治療用抗生物質がさらに含まれる、[13]〜[21]のいずれかに記載の医薬組成物。
0038
[23][1]〜[8]のいずれかに記載の予防または治療剤、[9]もしくは[10]に記載の飼料添加物、[11]に記載の飼料、あるいは、[13]〜[22]のいずれかに記載の医薬組成物を、それを必要とする反芻動物に投与または給与することを含む、反芻動物において乳房炎を予防または治療する方法。
0039
[24]乳房炎治療用抗生物質を必要に応じて投与することをさらに含む、[23]に記載の方法。
発明の効果
0040
本発明は、反芻動物、好ましくは牛、より好ましくは乳牛、における乳房炎の予防または治療において予防および治療効果の高い特定の性質をもつバチルス属細菌を提供する。乳房炎既往歴のある乳牛は、抗生物質治療により症状が改善した後であっても、その後の出産を経るごとに乳房炎を発症する確率が非常に高いことが知られているが、本発明の予防または治療剤は、分娩約1か月前から経口投与または給与することによって、その後の乳房炎の発症を有効に抑制し、多くの場合、完全に発症のない状態にすることができるという、予想外の有効性を発揮する。
図面の簡単な説明
0041
この図は、本発明で有効成分として使用するバチスル・ズブチルス細菌が乳房炎を改善する効果との相関性を示す、牛のCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の増加を立証する図である。Aは、第1象限(右上)のゲート1内に検出されるCD11c陽性CD172a陽性の血中樹状細胞ゲート2(乳房炎改善の場合、CD172aおよびCD11cの発現強度がともに高くなる)およびゲート3(ゲート2細胞と比べてCD172aの発現強度が低い)のおおよその位置または範囲を模式的に示す。Bは、慢性乳房炎牛(対照)のCD11c+CD172a+血中樹状細胞の二色フローサイトメトリー解析(dual color flow cytometric analysis)結果を示し、Cは、本発明の予防・治療剤が投与された、試験区の乳牛(牛番号23:分娩9日目(左)および牛番号15:分娩8日目(右))のCD11c+CD172a+血中樹状細胞の二色フローサイトメトリー分析結果を示す。Dは、バチスル・ズブチルス細菌非投与の対照乳牛(牛番号94:分娩8日目(左)および牛番号902:分娩10日目(右))のCD11c+CD172a+血中樹状細胞の二色フローサイトメトリー分析結果を示す。
0042
以下において、本発明をさらに詳細に説明する。
0043
1.予防または治療剤
本発明は、以下で説明する特定の性質を有するバチルス属細菌、好ましくはバチルス・ズブチルス細菌を有効成分として含む、反芻動物の乳房炎の予防または治療剤を提供する。
0044
以下に、乳房炎、バチルス属細菌および予防剤について説明する。
0045
[1]乳房炎
本明細書で使用する乳房炎は、反芻動物、好ましくは牛、さらに好ましくは乳牛の乳房炎であり、この疾患には、臨床型乳房炎と潜在性乳房炎(非臨床型乳房炎ともいう)が含まれる。上記の背景技術の項で説明したように、臨床型乳房炎は、乳房が赤く腫れ、発熱し、痛みを伴う、或いは乳汁中にブツが混入するなど、肉眼的な異常が認められるのに対し、潜在性乳房炎は、臨床型乳房炎のような異常が見られずに乳腺に炎症が起きる。発生割合は、潜在性乳房炎がはるかに多く、搾乳牛の約25〜50%が罹患しているといわれている。臨床型乳房炎は、抗生物質による投薬治療で完治しやすいが、一方、潜在性乳房炎は難治性であって有効な治療法がないため感染動物の隔離などの対策を講じるしか手段がない。
0046
特に上記の乳房炎、とりわけ潜在性乳房炎を発症した乳牛は、乳泌量や乳質の低下を起こし、また抗生物質などの化学療法剤を使用した場合には乳を出荷できないため、経済的な損失が大きい。
0047
本発明の予防または治療剤は、臨床型乳房炎だけでなく潜在性乳房炎にも有効である。潜在性乳房炎の予防および治療のために有効な療法は、これまで報告がないため、本発明の予防または治療剤等は酪農(乳業)産業上重要である。
0048
本明細書で使用される「反芻動物」には、牛、山羊、羊などの家畜動物が含まれる。特に乳汁を分泌生産する反芻動物、例えば牛、山羊などが好ましい。好ましい牛は、乳牛(例えば、ホルスタイン種、ジャージー種、ガーンジー種、エアーシャー種、ケリー種、ディリー・ショートホーン種、レッド・デーニシュ種、シンメンタール種など)、とりわけ正常乳牛、乳房炎発症の可能性のある乳牛、乳房炎発症中の乳牛、または乳房炎発症歴のある乳牛である。本発明の予防剤は、とりわけ正常乳牛、乳房炎発症の可能性のある乳牛または乳房炎発症歴のある正常乳牛に有効であり、乳房炎発症中の乳牛においては治療剤として使用することができる。
0049
[2]バチルス属細菌
本発明の予防または治療剤は、下記の性質(1)および、場合により、(2):
(1)牛においてCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2を増加または維持させることができる、
(2)ビフィズス菌増殖活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のビフィズス菌増殖活性を1としたとき、0.8より高い、
を有するバチルス属細菌を有効成分とする。
0050
上記の(1)および、場合により、(2)の性質を有するバチルス属細菌はいずれであっても本発明の予防または治療剤の有効成分として使用可能である。
0051
上記の性質(1)について、CD11c+CD172a+血中樹状細胞は、抗原提示細胞であり血液中を移動し局所免疫調節を行う、CD11c陽性およびCD172a陽性の細胞である。この細胞は、末梢血から、リンホライト−Hを使用する比重遠心(2300rpm, 30分)によりリンパ球集団を回収し、さらに単球、B細胞およびT細胞を分離したのち、磁気ビーズ結合抗CD11c抗体および磁気ビーズ結合抗CD172a抗体と、MACS分離カラムとを使用する磁気分離細胞システム(MACS法)によってCD11c陽性およびCD172a陽性の細胞として分離し、さらに二色フローサイトメトリー法でCD11c+CD172a+血中樹状細胞を解析することができる。CD11c+CD172a+血中樹状細胞は、図1Aの第1象限のゲート1内に示される2つの特徴的な細胞集団(ゲート2およびゲート3)からなり、これらの細胞集団のうち特にゲート2が、本発明のバチルス・ズブチルス細菌の投与によって、乳房炎を発症するまたは回復していない牛では減少し、回復したまたは発症のない牛では増加するという知見が認められたことから、CD11c+CD172a+血中樹状細胞が乳房炎の発症の有無または回復の有無と相関性があることが初めて見出された。
0052
上記の知見から、乳房炎の発症リスクが高い時期(分娩後3か月以内の時期、とりわけ、分娩後約1か月以内)に、乳房炎の原因となる細菌などに曝された場合に、CD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2が、増加することで乳房炎を予防していることが考えられる。すなわち、本発明の予防・治療剤により、投与対象のCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2は、環境(例えば、細菌への接触、傷害の状況など)によって高められる。逆に言えば、乳房炎を発症している牛については、この期間のCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2を高めることができていない。つまり、本明細書中のバチルス・ズブチルスなどのバチルス属細菌の性質の1つである「CD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2を増加または維持させることができる」とは、対象動物の血中の総樹状細胞におけるCD11c+CD172a+樹状細胞ゲート2の割合を、上記の乳房炎の発症リスクが高い時期における乳房炎発症時の割合より、増加させる、または、高く維持させる、それによって乳房炎の発症を予防するのに適した免疫環境を整えることを意味する。
0053
上記の性質(2)について、本発明で使用可能なバチルス・ズブチルスはまた、ビフィズス菌増殖活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のビフィズス菌増殖活性を1としたとき、0.8より高い、好ましくは0.9より高い、さらに好ましくは1以上であるという特徴を有している。ビフィズス菌増殖活性は免疫力増強に関連する側面を有しており、樹状細胞増殖活性との関連は今までに報告されていないが、バチルス・ズブチルスC−3102株のビフィズス菌増殖活性に対して同等(80%程度)以上の能力を有していれば、樹状細胞増殖活性を通じて乳房炎予防または治療効果を有することが期待される。
0054
本発明で使用可能なバチルス属細菌はさらに、以下の(3)および/または(4)の性質を有することができる。
(3)プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性をともに1としたとき、0.7より高い
(4) 1×105個以上/日/頭の用量で牛に経口投与したとき、乳房炎を予防または治療することができる
0055
上記の性質(3)について、本発明で使用可能なバチルス属細菌は、1×106個以上/日/頭、好ましくは1×107個以上/日/頭、より好ましくは1×108個以上/日/頭、さらに好ましくは1×109個以上/日/頭、最も好ましくは6×109個以上/日/頭の用量で牛に経口投与した場合、乳房炎を予防または改善することができるという特徴を有する。ここで、上記の用量は、1頭あたり1日に動物が摂取するバチルス属細菌の生菌細胞数であり、動物への摂取は、1回〜複数回、例えば2〜4回、に分けて行うことができる。また、経口投与は、通常、牛の分娩1か月前から分娩後3か月までの期間行われ、末梢血中のCD11c+CD172a+血中樹状細胞、特に図1に示されるゲート2の増加を指標とすることで、或いは獣医師による診断所見に基づく判定によって、乳房炎からの回復、改善の有無を確認することができる。
0056
上記の性質(4)について、プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性をともに1としたとき、0.7より高い、好ましくは0.8より高い、さらに好ましくは0.9より高い、最も好ましくは1以上という性質を有することができる。プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性は、例えば後述の実施例に記載のような方法によって測定しうる。生菌剤として知られるバチルス属細菌のなかでも、バチルス・ズブチルス、例えばバチルス・ズブチルスC−3102株は高いプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性を有している(後述表3参照)。
0057
上記の性質(1)および、場合により、(2)を有するバチルス属細菌として、バチルス・ズブチルス細菌、バチルス・リケニフォルミス細菌、バチルス・アミロリキファシエンス細菌などを挙げることができ、具体的には、例えば、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)、上記の性質(1)、上記の性質(1)および(2)、上記の性質(1)および(3)、上記の性質(1)〜(3)、上記の性質(1)および(4)、上記の性質(1)、(3)および(4)、または上記の性質(1)〜(4)を有する該C−3102株の変異株、バチルス・ズブチルスタイプストレインなどを例示することができる。好ましいバチルス属細菌は、上記のバチルス・ズブチルスC−3102株および上記の該C−3102株の変異株である。
0058
バチルス・ズブチルスC−3102菌株は、1985年12月25日に、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1つくばセンター中央第6(郵便番号305−8566)[寄託時;日本国茨城県筑波郡谷田部町東1丁目1番地3(郵便番号305)]の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託番号微工研菌寄第8584号として国内寄託し、1986年6月 28日に、同機関にて寄託番号FERM BP−1096(移管時;微工研条寄第1096号)として国際寄託に移管された(特開昭62−232343号公報)。該C−3102菌株はまた、「カルスポリン」(登録商標)の商品名で、本出願人によって市販されている。
0059
バチルス・ズブチルスC−3102株の変異株は、例えば、紫外線、X線などの高エネルギー線の照射下での培養、ニトロソグアニジン、N−エチル−N−ニトロソウレア、ニトロソアミンなどの変異原性物質の存在下での培養により突然変異を人工的に誘導し、変異株コロニー単離し、さらに、例えば該変異株のrDNA(通常、菌分類に使用される。)の塩基配列をC−3102株の配列と比較することによって突然変異株であることの検定を行い、ならびに、上記の性質(1)、上記の性質(1)および(2)、上記の性質(1)および(3)、上記の性質(1)〜(3)、上記の性質(1)および(4)、上記の性質(1)、(3)および(4)、または上記の性質(1)〜(4)を有することを確認することによって得ることができる。
0060
本発明で使用可能なバチルス属細菌は、その培養物をそのまま用いることができるが、必要に応じて、遠心分離、濾過等の分離手段により菌体成分を分離または濃縮した後、例えば凍結乾燥、真空熱乾燥、噴霧乾燥などの乾燥法によって乾燥体として得ることができる。バチルス・ズブチルスは、当業者に慣用的な培養条件で培養することができる。
0062
炭素源は、例えば、ソルビトール、グルコース、デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、アミロース、アミロペクチン、プルラン、オリゴ糖、グリセリン、麦芽汁等の糖類が挙げられる。これらの炭素源は、1種または2種以上の混合物で使用できる。
0063
窒素源は、肉エキス、麦芽エキス、酵母エキス、ペプトン、ポリペプトン、タンパク質加水分解物、大豆粉末、乳カゼイン、アミノ酸類、コーンスティープリカー等の有機窒素化合物、並びに/或いは、アンモニア、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどのアンモニウム塩、硝酸ナトリウムなどの硝酸塩、尿素等の無機窒素化合物等が挙げられる。窒素源も、単独あるいは2種以上の混合物で使用できる。
0065
培地として、市販の培地または栄養ブロスを使用してもよい。
0066
培養は、公知の培養条件で行うことができる。培養温度は、通常20〜45℃、好ましくは35〜42℃であり、また、培養に適当な培地の pHは、通常、6.0〜9.0、好ましくは6.5〜8.5であるが、これらの範囲に限定されない。
0067
[3] 予防または治療剤
本発明の予防または治療剤は、上記の性質(1)、上記の性質(1)および(2)、上記の性質(1)および(3)、上記の性質(1)〜(3)、上記の性質(1)および(4)、上記の性質(1)、(3)および(4)、または上記の性質(1)〜(4)を有するバチルス属細菌(生菌体)、好ましくはバチルス・ズブチルス細菌、より好ましくはバチルス・ズブチルスC−3102株またはその変異株を有効成分として含有する。
0068
上記予防剤中のバチルス属細菌の含有量は、乾燥菌体として、通常、0.001〜95.0重量%、例えば0.1〜40重量%であるが、予防剤には、該細菌が、例えば1×105〜6×109個またはそれ以上含有することができる。
0069
予防または治療剤は、経口投与または給与用であり、また固体、半固体または液体の形態であり、固体の場合、粉末、顆粒、丸剤、ペレット、タブレット、カプセルなどの形態であり、半固体の場合、ゲルなどの形態であり、液体の場合、懸濁液などの形態である。該予防または治療剤には、有効成分としての菌体の他に、剤型に処方するための、例えば担体(例えば賦形剤、希釈剤など)、場合により添加剤を含有することができる。
0070
担体として、例えば、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、微結晶セルロース、デンプン、リン酸二カルシウム、精製水、ゼラチン、寒天、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンなどを挙げることができる。
0072
結合剤としては、例えばナトリウムデンプングリコセート、トラガカントゴム、アカシア、ポリビニルピロリドン、コーンスターチ、ゼラチン、粉末セルロース、微結晶セルロース、ソルビトール、デンプン、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニル誘導体とのコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
0073
崩壊剤としては、例えばコーンスターチ、馬鈴薯デンプン、グリコール酸ナトリウムスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルシウムカルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、微結晶セルロース、低級アルキルで置換されたヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化スターチ、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
0074
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、タルク、シリカなどが挙げられる。
0075
滑剤としては、例えば二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリルフマル酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。
0076
界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80などが挙げられる。
0077
その他の成分として、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル、色素(アスタキサンチン、カンタキサンチンなど)、酵素類(例えばアミラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、セルラーゼ、β−グルカナーゼ、リパーゼなど)などが挙げられる。
0078
予防または治療剤中の担体および添加剤の合計含有量は、100%から有効成分(乾燥菌体)の含有率(%)を差し引いた量である。
0079
本発明の予防または治療剤は、反芻動物、好ましくは牛、より好ましくは乳牛において、乳房炎を予防するために、また場合により治療するために、使用されうる。
0080
乳房炎予防については、例えば受胎中の乳牛などの牛に、少なくとも分娩前1か月前から分娩後3か月まで、上記性質を有するバチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌を1日当り1×105〜6×109個またはそれ以上を、乳牛に経口投与または給与させることによって行うことができる。投与または給与する場合、1日に1〜数回に分けて、例えば朝と晩の2回に分けて、全量として該菌を1日当り1×105〜6×109個またはそれ以上を投与することができ、或いは、そのような用量の該予防剤を飼料や飲料などに混合して給与することができる。例えばカルスポリン(登録商標)を給与するのであれば、1日あたりカルスポリン粉末40g(1.5×108 CFU)を、例えば朝20gと晩20gを、飼料に配合して給与することができる。乳牛などの牛については、特に、餌として乾草などの粗飼料や濃厚飼料が給与されることが多く、これらの餌に混ぜることが好ましい。投与対象の牛については、過去に乳房炎発症経験のある牛に投与または給与することで、乳房炎発症が予想される牛の乳房炎発症を顕著に抑制できる。
0081
2.飼料添加物および飼料
本発明はさらに、上記の予防または治療剤を含有する飼料添加物を提供する。
0082
本発明の飼料添加物は、上記の予防または治療剤を、反芻動物の乳房炎を予防するための有効量の上に定義したバチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌を含有するように、飼料添加物を構成する認可された他の任意の成分と混合することによって製造することができる。ここで、バチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌の有効量は、1日当り1×105〜6×109個またはそれ以上の該細菌を、動物が摂取可能な量である。
0083
飼料添加物は、一般に、動物飼料に所望の機能を付与するための物質であり、本発明の場合、該機能は、反芻動物、特に牛、さらに好ましくは乳牛の乳房炎を予防または治療もしくは抑制、軽減するものである。
0084
飼料添加物にはさらに、乳房炎治療用の抗生物質を含有させることができる。例えば、「家畜共済薬効別薬価基準表 平成23年度版」には、抗生物質として、乳房炎の原因菌として知られる黄色ブドウ球菌、大腸菌、レンサ球菌、緑膿菌などの菌に有効なセファム系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質などの抗生物質、例えば、エリスロマイシン、オキシテトラサイクリン塩酸塩、ジクロキサシリンナトリウム、セファゾリン、セフロキシムナトリウム、ナフシリンナトリウム、ベンジルペニシリンプロカイン、硫酸ジヒドロストレプトマイシン、硫酸カナマイシン、セファピリンナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、セファロニウムなどの抗生物質の1種または複数種の混合物が挙げられている。
0085
飼料添加物には、有効成分の他に、剤を形成するための、例えば、担体(賦形剤または希釈剤)、添加剤などを含有させることができる。担体や添加剤は、本発明の上記予防または治療剤を製造するために使用される上記例示のものである。飼料添加物は、固体、半固体または液体のいずれの形態を有していてもよく、好ましくは固体形態であり、例えば粉末、顆粒、丸剤、ペレット、タブレット、カプセルなどの形状に製造しうる。
0086
本発明はさらに、乳房炎を予防または治療するための有効量の上記の飼料添加物を、反芻動物用の飼料に添加することを含む、反芻動物用の飼料において、反芻動物の乳房炎の予防または治療効果を強化するための方法を提供する。
0087
従来、牛などの乳房炎の治療のために、「家畜共済薬効別薬価基準表」(日本動物用医薬品協会)に掲載されている乳房炎治療剤が使用されており、主な治療剤として抗生物質が用いられているが、再発を防止するまでに至っていない。本発明の上記予防または治療剤や、それを含有する飼料添加物は、抗生物質治療を補完することができるものである。
0088
本発明の予防・治療剤の上記のような特異な特徴のために、本発明はまた、反芻動物の乳房炎を予防または治療するための有効量の上記飼料添加物を含むことを特徴とする、反芻動物の乳房炎の予防または治療効果が強化された飼料にも関する。
0089
本発明の飼料は、公知の飼料と異なり、反芻動物の乳房炎を予防するための有効量の上記バチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌を含有することを特徴とする。本願出願前の公知の飼料では、バチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌に反芻動物の乳房炎を予防する(または、治療する)作用もしくは効果があるということは認識されていないため、乳房炎の予防用(または、治療用)として販売されていなかった。
0090
飼料には、繊維質中心の粗飼料(例えば、青草、乾牧草、サイレージ稲わら、など)と、澱粉、蛋白質を多く含む濃厚飼料(配合飼料ともいう)(例えばトウモロコシ、大豆、米ぬか、ふすま、大麦、マイロなどの穀類、大豆油かす、菜種油かす、綿実油かすなどの植物油かす、など)が含まれ、これらを適当に配合して、牛などの反芻動物に給与される。その他、ビタミン類(ビタミンA, D3, E, B1, B2, B6, B12, C, K3,イノシトール、ビオチン、パントテン酸、ナイアシン、コリン、葉酸など)、アミノ酸類、食塩、他のミネラル類、などが添加されうる。飼料成分については、例えば、日本標準飼料成分表(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構編)に記載されているものも使用できる。
0091
飼料は、上記バチルス・ズブチルス細菌を、1日当り1×105〜6×109個またはそれ以上の細菌を動物が摂取可能な量で含むことが好ましいため、そのような菌体量となるように、本発明の飼料添加物を飼料に配合しうる。
0092
3.乳房炎の予防または治療のための医薬組成物および方法
本発明はさらに、上記の性質(1)、上記の性質(1)および(2)、上記の性質(1)および(3)、上記の性質(1)〜(3)、上記の性質(1)および(4)、上記の性質(1)、(3)および(4)、または上記の性質(1)〜(4)を有する、有効成分としてのバチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌を、製薬上許容可能な担体とともに含む、反芻動物の乳房炎を予防または治療するための医薬組成物を提供する。
0093
有効成分としてのバチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌は、上記の予防または治療剤の有効成分である細菌と同じであり、上記の性質(1)および、場合により、性質(2)、すなわち、性質(1)として、乳牛などの牛の血中樹状細胞中のCD11c+CD172a+細胞ゲート2を増加させることができる、ならびに、場合により、性質(2)として、ビフィズス菌増殖活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のビフィズス菌増殖活性を1としたとき、0.8より高い、好ましくは0.9より高い、より好ましくは1以上である、を有し、これらの性質を有する、バチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌であれば、本発明の医薬組成物の有効成分として使用可能である。
0094
バチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌はさらに、上記の性質(1)および、場合により、上記の性質(2)に加えて、上記の性質(3)として、プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性が、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)のプロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性をともに1としたとき、0.7より高い、好ましくは0.8より高い、より好ましくは0.9より高い、最も好ましくは1以上という性質、および/または、上記の性質(4)として、1×105〜6×109個またはそれ以上/日/頭の用量で牛に経口投与したとき、乳房炎を予防または治療することができるという性質、を有していてもよい。
0095
本発明では、牛は、例えば、正常乳牛、乳房炎発症の可能性のある乳牛、乳房炎発症歴のある乳牛、または乳房炎発症中の乳牛である。このような乳牛であれば、本発明の組成物により予防または治療が可能になる。さらにまた、実際に乳房炎を発症している牛であれば乳房炎の治療、あるいは、抑制、軽減もしくは改善のために、本発明の組成物を使用することができる。
0096
上記バチルス属細菌の例として、バチルス・ズブチルスC−3102株(国際寄託番号FERM BP−1096)、上記性質を有する該C−3102株の変異体、バチルス・ズブチルスタイプストレインなどが挙げられるが、上記の性質(1)、上記の性質(1)および(2)、上記の性質(1)および(3)、上記の性質(1)〜(3)、上記の性質(1)および(4)、上記の性質(1)、(3)および(4)、または上記の性質(1)〜(4)を有するバチルス属株であればいずれも、本発明で使用可能な細菌である。
0097
本発明の医薬組成物中のバチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌の含有量は、該細菌として例えば1×105〜6×109個またはそれ以上含有することができる。動物に、1日あたり1×105〜6×109個またはそれ以上の用量で投与または摂取させることが好ましいため、該組成物を、1回から複数回(例えば2回〜4回)に分けて経口投与または給与させることができる。
0098
医薬組成物には、場合により、乳房炎治療剤(抗生物質など)を含有させることができる。乳房炎治療剤としては、「家畜共済薬効別薬価基準表」(日本動物用医薬品協会)に掲載されている乳房炎治療剤を用いることができるが、特に、乳房炎の原因菌として知られる黄色ブドウ球菌、大腸菌、レンサ球菌、緑膿菌などの菌に有効なセファム系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、マクロライド系抗生物質などの抗生物質、例えば、上記例示の抗生物質が挙げられる。
0099
本発明の医薬組成物は、固体、半固体または液体の形態であり、固体の場合、粉末、顆粒、丸剤、ペレット、タブレット、カプセルなどの形態であり、半固体の場合、ゲルなどの形態であり、液体の場合、懸濁液などの形態である。該予防剤には、有効成分としての菌体の他に、剤型に処方するための、例えば製薬上許容可能な担体(例えば賦形剤、希釈剤など)、場合により添加剤を含有することができる。
0100
担体として、例えば、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、微結晶セルロース、デンプン、リン酸二カルシウム、精製水、ゼラチン、寒天、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンなどを挙げることができる。
0101
添加剤には、以下のものに限定されないが、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、充填剤、滑剤、界面活性剤、抗酸化剤、防カビ剤、増粘剤などが含まれうる。添加剤は、以下のものから適宜選択して、組成物に含有されうる。
0102
結合剤としては、例えばナトリウムデンプングリコセート、トラガカントゴム、アカシア、ポリビニルピロリドン、コーンスターチ、ゼラチン、粉末セルロース、微結晶セルロース、ソルビトール、デンプン、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニル誘導体とのコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
0103
崩壊剤としては、例えばコーンスターチ、馬鈴薯デンプン、グリコール酸ナトリウムスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルシウムカルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、微結晶セルロース、低級アルキルで置換されたヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化スターチ、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
0104
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、タルク、シリカなどが挙げられる。
0105
滑剤としては、例えば二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリルフマル酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。
0106
界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80などが挙げられる。
0107
その他の成分として、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル、色素(アスタキサンチン、カンタキサンチンなど)、酵素類(例えばアミラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、セルラーゼ、β−グルカナーゼ、リパーゼなど)などが挙げられる。
0108
本発明はさらに、上記の予防または治療剤、飼料添加物、飼料あるいは医薬組成物を、それを必要とする反芻動物に経口投与または給与することを含む、反芻動物において乳房炎を予防または治療する方法を提供する。
0109
乳房炎予防または治療については、受胎中の乳牛などの反芻動物に、少なくとも分娩前1か月前から分娩後3か月まで、バチルス・ズブチルス細菌などのバチルス属細菌を1日あたり1×105〜1×106個もしくはそれ以上/日/頭、好ましくは1×107個以上/日/頭、より好ましくは1×108個以上/日/頭、さらに好ましくは1×109個以上/日/頭、最も好ましくは6×109個以上の用量で投与することが好ましい。投与形態については、上記のとおり1日に1〜数回に分けて、全量として該生菌を1日当りの上記用量を投与すればよい。医薬組成物の投与に際しては、該組成物を飼料、飲料などの食餌に混合して給与することができる。乳牛などの牛については、特に、餌として乾草や濃厚飼料が給与されることが多く、これらの餌に混ぜることが好ましい。投与対象の牛、特に乳牛については、正常乳牛、乳房炎発症の可能性のある乳牛、または乳房炎発症歴のある乳牛であり、このような乳牛において、乳房炎発症が顕著に抑制できるし、また、乳房炎発症中の乳牛に対して乳房炎を治療もしくは軽減することができる。
0110
また、乳房炎の発症が確認された牛においては、必要であれば従来から治療に用いることができる抗生物質(上記)との併用により、完治率を高めることができるし、また、完治までの期間を短縮することができるだろう。黄色ブドウ球菌、大腸菌、レンサ球菌、緑膿菌などの原因菌に有効な抗生物質を、乳房炎を発症した牛に、静脈内投与、筋肉内投与、経口投与などの方法で投与し、一方で、抗生物質の投与の前、中または後に、本発明の医薬組成物を動物に投与することができる。
0111
上記の予防または治療剤、飼料添加物、または医薬組成物は、動物の飼料または飲料等に混ぜて、動物に投与または給与することが好ましい。
0112
また、用量について、1日あたり1×105〜1×106個もしくはそれ以上/日/頭、好ましくは1×107個以上/日/頭、より好ましくは1×108個以上/日/頭、さらに好ましくは1×109個以上/日/頭、最も好ましくは6×109個以上の生菌用量となるように、動物に投与または給与することが好ましい。
0113
以下に実施例を挙げ、それを参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
0114
[実施例1]
<乳牛での乳房炎の処置>
下記の表1に示した乳房炎発症歴のある試験区の前乳期の乳牛(牛番号23および15)に対し、カルスポリン(登録商標;カルピス(株)、日本)(有効成分:バチルス・ズブチルスC−3102株(FERM BP−1096)1×1010個/g)を、1日あたり6×109個以上の生菌用量を餌に混合し、分娩前1か月前から分娩後3か月まで給与した。えさは、泌乳期は酪農家族マックス(北日本くみあい飼料、日本)・アストロライナー(ビタミン剤:雪印、日本)・圧片トウモロコシ・粗飼料(チモシー、オーツ、デントコーンサイレージ、アルファルファヘイキューブ)、乾乳期は乾乳期用飼料(トランスプロ:雪印、日本)および粗飼料(チモシー、オーツ)を給与させた。一方、同じ表1に示した乳房炎発症歴のある対照区(牛番号94および902)については、飼料にカルスポリンを添加しなかった。
0115
前乳期に乳房炎発症履歴のある乳牛は、今期においても乳房炎発症リスクが高いことが知られている。前乳期とは、前回の分娩後から今期の分娩前1か月までの期間を指しており、本実験に用いたのは、いずれも前乳期に1〜3回の乳房炎発症履歴のある乳牛であり、抗生物質による投薬を6〜23回受けてきた牛である。
0116
表1に結果を示す。試験区(牛番号15および23)ではいずれも、(1)乳房炎の発症がない、(2)抗生物質の投薬がない、(3)樹状細胞分析において試験期間中に総樹状細胞に対するCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の割合が、増減が少なく、対照区と比べて高く維持された、という結果を示した。これに対して、対照区(牛番号94および902)ではいずれも、乳房炎が発症し、抗生物質による治療を受け、また樹状細胞分析においても一時的または慢性的にCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の割合が試験区と比べて低い傾向となった。ここで、CD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の測定結果を図1(C, D)および表2に示す。試験区では、対照区と比べて、総樹状細胞に対するCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の割合が、分娩後8〜10日において明確に増大している。これは、分娩後の乳房炎のリスクが高い時期(特に、分娩後8〜10日)に、乳房炎の原因となる細菌などに曝された場合に、細菌に対抗し得る免疫能を試験区が有していることを示している。すなわち、総樹状細胞に対するCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の増減が少なく、かつ、必要に応じて高くなることは、バチルス・ズブチルスC−3102株の投与により乳房炎の発症を防御する血液中の免疫力が増加または維持されていると考えられる。試験期間中、試験区では乳房炎の発症がみられなかったのに対し、対照区では乳房炎を1回または2回発症し抗生物質治療が施された。分娩後7日前後(最も乳房炎を起こしやすい時期)の試験区でのCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の増大は、本発明の予防・治療剤(有効成分:バチルス・ズブチルスC−3102株)が乳房炎予防のために効果的に作用したことを示す指標となっている。
0117
表2では、個体No.94は、血液採取期間1と2の間及び2と3の間で各1回ずつの2回の乳房炎を発症した。また、個体No.902は、期間2と3の間で1回乳房炎を発症した。本結果では、個体No.902は、分娩後8〜10日にストレスなどの影響で、CD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の割合が減る減少が見られ、乳房炎を発症したものと考えられる。また、個体No.94は、分娩前からCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の割合は低く、その後、(細菌に曝されても)CD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の割合は十分に上がらず、乳房炎を発症したものと考えられる。一方、バチルス・ズブチルスC−3102株投与をした個体(個体No.23及び15)は、個体No.94と同様に分娩前のCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の割合は低かったものの、分娩後8〜10日でCD11c+CD172a+血中樹状細胞ゲート2の割合の上昇が見られ、乳房炎の発症も抑制された。
0118
[実施例2]
<乳房炎の予防または治療に有効なバチルス・ズブチルスの特徴付け>
現在、多くの牛用の生菌剤が知られているが、乳房炎予防または治療効果が具体的に示されているものは知られていない。今回、実際に販売されている生菌剤中の各菌株と本発明の対象菌であるバチルス・ズブチルスC−3102株菌のビフィズス菌増殖活性、プロテアーゼ活性およびアミラーゼ活性を比較した。
0119
(1)菌株について
調整したバチルス菌株については、コロニーの形状の違いを含め、後述の表3に示すB. subtilis 8菌株、B. licheniformis 1菌株、Bacillus sp. 2菌株について調製した。
0120
(2)各菌体の芽胞懸濁液の調製
各々菌株について、TS寒天培地に塗布し37℃で一晩培養した。培地上に形成したコロニーを全てスパーテルでかきとり、80℃に加温した滅菌水に懸濁した。これを3,000rpm室温で10分間遠心分離し、上清を除去した後に80℃に加温した滅菌水に再懸濁した。この操作を2回行った後、5 mlの滅菌水に懸濁したものを各菌株の芽胞懸濁液とした。
0121
(3)分泌プロテアーゼ活性の測定
1%カゼインナトリウムTS寒天培地(1%カゼインナトリウム(和光純薬工業、日本)、3%BBLTrypticase SoyBroth、 2%agar)を用い、この培地に各菌株の芽胞懸濁液(約1×104 CFU/ml)1μlをスポットした。その後、37℃で48時間培養を行い、コロニー周辺のカゼインの分解により生じるハロの大きさを測定した。ハロの大きさは、コロニーの縁からハロの縁までの距離を測定した。実験は3回行い、3回の測定値の平均値と各回のC−3102株I型に対する比活性値の平均値をそれぞれの菌株について算出した。
0122
(4)アミラーゼ活性の測定
1%スターチTS寒天培地(1%でんぷん(和光純薬工業、日本)、3%BBLTrypticase SoyBroth, 2%agar)を用い、この培地に各菌株の芽胞懸濁液(約1×104 CFU/ml)1μlをスポットした。37℃で48時間培養を行ったのちに、培地上にルゴール液(Lugol’s solution stabilized(Merck))2 mlを滴下し未分解のスターチを染色することによりコロニー周辺に生じるハロの大きさを測定した。ハロの大きさは、コロニーの縁からハロの縁までの距離を測定した。実験は3回行い、3回の測定値の平均値と各回のC−3102株I型に対する比活性値の平均値をそれぞれの菌株について算出した。
0123
(5)ビフィズス菌増殖活性
参考文献(Kouya T. et al., J Biosci. Bioeng. 2007; 103: 464−471)に記載されている方法を参考に、以下のとおり行った。TS軟寒天培地(agar 0.75%)上にセルロース混合エステルフィルター(直径90 mm孔径0.2 μm(ADVANTEC))を敷き、フィルター上に芽胞懸濁液(約1×109 CFU/ml)50μlを接種し37℃で24時間培養を行った。培養後、フィルターをはがして培地を回収し、50 mlの遠心管に移して8,000 rpm 15分遠心分離を行った。得られた上清を0.22μmのセルロース混合エステルフィルター(ADVANTEC)でろ過し、ろ液60μlをBifidobacterium adolescentis CP2238を混釈したTPY寒天培地(3%glucose, 0.4% Trypticase peptone, 0.15%Proteose peptone No.3, 0.25%Yeast extract, 0.2% K2HPO4, 0.3%KH2PO4, 0.025%MgCl2・6H2O, 0.025%L−cystein, 0.0005%FeSO4・7H2O, 1.5% agar)上に置いたペーパーディスク(直径10 mm厚手(ADVANTEC))に染み込ませた。これをアネロパック(三菱ガス化学)3枚を入れた嫌気ジャー内で37℃18時間嫌気培養を行い、ペーパーディスク周辺に生じたビフィズス菌増殖円の直径を測定した。実験は2回行い、2回の測定値の平均値と各回のC−3102株I型に対する比活性値の平均値をそれぞれの菌株について算出した。
0124
(6)結果
表3に、試験した菌の測定結果を示す。
0125
表3から、バチルス・ズブチルスC−3102株が、他の菌に比べて全ての性質において平均して高い活性があることが確認された。これらの性質は、牛の消化管内での生残性を高めていることを示し、さらに、消化管内のビフィズス菌増殖を高くすることで、血中の樹状細胞を高めることに貢献していることが推察される。その結果、乳牛が乳頭などに傷害を負った場合であっても、細菌感染を抑制することができ、また、細菌に感染したとしても、乳房乳槽部、乳管、乳腺への感染を抑制することで、乳房炎を予防する。さらに、特定の樹状細胞を高めることで乳房炎を発症した乳牛の治療にも有効に働いているものと推察される。
0126
実際、バチルス・ズブチルスC−3102株では、実施例1に示すように、実際の乳牛において、乳房炎予防または治療効果が得られており、本菌株を基準に、それに類似するまたは同等の高い上記活性を有しているバチルス・ズブチルス菌であれば、樹状細胞ゲート2の増加または維持させる能力を有することが期待でき、C−3102株と同等の効果が期待できる。
実施例
0127
[実施例3]
<乳房炎発症乳牛の治療>
乳房炎発症歴のある泌乳期の乳牛に対し、泌乳期間中に乳房炎が発症した時に、カルスポリン(登録商標;カルピス(株))(有効成分:バチルス・ズブチルスC−3102株(FERM BP−1096)1×1010個/g)を、1日あたり6×109個以上の生菌用量を餌に混合し、発症後一定期間(数日〜1週間)給与した。えさは、泌乳期は酪農家族マックス(北日本くみあい飼料、日本)・アストロライナー(ビタミン剤:雪印)・圧片トウモロコシ・粗飼料(チモシー、オーツ、デントコーンサイレージ、アルファルファヘイキューブ)、乾乳期は乾乳期用飼料(トランスプロ:雪印、日本)および粗飼料(チモシー、オーツ)を給与させた。
0128
本発明によって反芻動物、とりわけ乳牛などの牛の乳房炎の発症を予防または治療することができるため、乳業産業において乳牛の乳房炎発症に起因した経済的損失を大幅に改善することができ産業上の有用性が極めて高いといえる。
寄託菌
0129
「バチルス・ズブチルスC−3102菌株」は、1985年12月25日に、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1つくばセンター中央第6(郵便番号305−8566)[寄託時;日本国茨城県筑波郡谷田部町東1丁目1番地3(郵便番号305)]の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託番号微工研菌寄第8584号として国内寄託し、1986年6月 28日に、同機関にて寄託番号FERM BP−1096(移管時;微工研条寄第1096号)として国際寄託に移管された。この寄託菌株は、現在、独立行政法人製品評価技術基盤機構のNITE特許生物寄託センター(NITE−IPOD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室(郵便番号292−0818)にて保管されている。
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