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技術 キメラ動物の作製方法

出願人 国立大学法人東京大学ザボードオブトラスティーズオブザレランドスタンフォードジュニアユニバーシティー
発明者 中内啓光正木英樹渡部素生ワイスマンアービン
出願日 2014年1月29日 (6年0ヶ月経過) 出願番号 2014-559722
公開日 2017年1月26日 (3年0ヶ月経過) 公開番号 WO2014-119627
状態 不明
技術分野
  • -
主要キーワード テッシュー 再生センター ビーナス 移植用途 貧栄養培地 系列決定 四角枠 不活性化処理
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2017年1月26日)のものです。
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図面 (18)

課題・解決手段

[課題]本発明は、プライム多能性幹細胞組織幹細胞前駆細胞体細胞若しくは生殖細胞を用いてキメラ動物を作製する方法を提供する。[解決手段]キメラ動物を作製する方法であって、哺乳動物由来のプライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞または生殖細胞を哺乳動物に導入することを含んでなる、方法。

概要

背景

胚盤胞内部細胞塊(ICM)から得られる多能性幹細胞は、キメラ形成能が高いことで知られているが、より発生段階の進んだ(例えば、エピブラスト以降の胚)から得られる多能性幹細胞はキメラ形成能を損なっていると考えられている(非特許文献1〜3)。

概要

[課題]本発明は、プライム型多能性幹細胞、組織幹細胞前駆細胞体細胞若しくは生殖細胞を用いてキメラ動物を作製する方法を提供する。[解決手段]キメラ動物を作製する方法であって、哺乳動物由来のプライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞または生殖細胞を哺乳動物の胚に導入することを含んでなる、方法。

目的

本発明は、プライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞を用いてキメラ動物を作製する方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
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- 件

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請求項1

キメラ動物を作製する方法であって、哺乳動物由来プライム多能性幹細胞組織幹細胞前駆細胞体細胞または生殖細胞哺乳動物に導入することを含んでなる、方法。

請求項2

胚に導入される細胞が、細胞死抑制処理されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

請求項3

胚に導入される細胞が、系列決定済み前駆細胞である、請求項1または2に記載の方法。

請求項4

胚に導入される細胞が、内胚葉系列前駆細胞である、請求項3に記載の方法。

請求項5

胚に導入される細胞が、Sox17発現細胞である、請求項4に記載の方法。

請求項6

胚に導入される細胞が、単一細胞化後にコロニーを形成できる多能性幹細胞である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

請求項7

キメラ動物を作製する方法であって、ヒト多能性幹細胞を哺乳動物の胚に導入することを含んでなり、該細胞が、細胞死抑制処理されていることを特徴とする、方法。

請求項8

哺乳動物由来のプライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞のキメラ形成能を向上させる方法であって、該細胞に対して細胞死抑制処理を行うことを特徴とする、方法。

請求項9

請求項8に記載の方法により得られた細胞。

請求項10

細胞の分化能または細胞の生体内での機能若しくは安全性を評価する方法であって、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法に従ってキメラ動物を作製し(但し、評価対象の細胞を非ヒト哺乳動物の胚へ導入する細胞として用いる)、作製されたキメラ動物中の各組織への該細胞の寄与を調べることにより、細胞の各組織への分化能または細胞の生体内での機能若しくは安全性を評価する、方法。

請求項11

プライム型多能性幹細胞をより未分化な状態にする方法であって、プライム型多能性幹細胞に対して細胞死抑制処理を行なうことを含んでなる、方法。

請求項12

細胞死抑制剤を含んでなる、プライム型多能性幹細胞を対象とした初期化促進剤。

請求項13

イーブ型多能性幹細胞を製造する方法であって、プライム型多能性幹細胞に対して細胞死抑制処理を行なうことを含んでなる、方法。

請求項14

細胞死抑制剤を含んでなる、プライム型多能性幹細胞に対して用いるためのナイーブ型多能性幹細胞の誘導剤

関連出願の参照

0001

本願は、先行する米国仮出願である61/757,910(出願日:2013年1月29日)、および、先行する日本国特許出願である特願2013−239327(出願日:2013年11月19日)の優先権の利益を享受するものであり、これらの開示内容全体引用することにより本明細書の一部とされる。

技術分野

0002

本発明は、エピブラスト以降の発生段階から得られる多能性幹細胞(pluripotent stem cell)などのプライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞前駆細胞体細胞若しくは生殖細胞を用いてキメラ動物を作製する方法に関する。

背景技術

0003

胚盤胞内部細胞塊(ICM)から得られる多能性幹細胞は、キメラ形成能が高いことで知られているが、より発生段階の進んだ胚(例えば、エピブラスト以降の胚)から得られる多能性幹細胞はキメラ形成能を損なっていると考えられている(非特許文献1〜3)。

先行技術

0004

Brons et al., Nature (2007), 448 (7150): 191-195
Tesar et al., Nature (2007), 448(7150): 196-199
Han et al., Cell (2010), 143: 617-627

0005

本発明は、プライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞を用いてキメラ動物を作製する方法を提供する。

0006

本発明者らは、キメラ動物を作製する際の胚導入細胞として、キメラ形成能を有さないと従来考えられていた哺乳動物細胞、例えば、エピブラスト以降の発生段階の多能性幹細胞などのプライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞を用いることができることを見出した。本発明者らはまた、胚導入細胞が細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)された場合には、キメラ形成率が向上することを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。

0007

すなわち、本発明では、以下の発明が提供される。
(1)キメラ動物を作製する方法であって、
哺乳動物由来のプライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞または生殖細胞を哺乳動物の胚に導入することを含んでなる、方法。
(2)胚に導入される細胞が、細胞死抑制処理されたものであることを特徴とする、上記(1)に記載の方法。
(3)胚に導入される細胞が、系列決定済み前駆細胞である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)胚に導入される細胞が、内胚葉系列前駆細胞である、上記(3)に記載の方法。
(5)胚に導入される細胞が、Sox17発現細胞である、上記(4)に記載の方法。
(6)胚に導入される細胞が、単一細胞化後にコロニーを形成できる多能性幹細胞である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(7)キメラ動物を作製する方法であって、
ヒト多能性幹細胞を哺乳動物の胚に導入することを含んでなり、
該細胞が、細胞死抑制処理されていることを特徴とする、方法。

0008

(8)哺乳動物由来のプライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞のキメラ形成能を向上させる方法であって、
該細胞に対して細胞死抑制処理を行うことを特徴とする、方法。
(9)上記(8)に記載の方法により得られた細胞。
(10)細胞の分化能または細胞の生体内での機能若しくは安全性を評価する方法であって、
上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法に従ってキメラ動物を作製し(但し、評価対象の細胞を非ヒト哺乳動物の胚へ導入する細胞として用いる)、作製されたキメラ動物中の各組織への該細胞の寄与を調べることにより、細胞の各組織への分化能または細胞の生体内での機能若しくは安全性を評価する、方法。
(11)プライム型多能性幹細胞をより未分化な状態にする方法であって、
プライム型多能性幹細胞に対して細胞死抑制処理を行なうことを含んでなる、方法。
(12)細胞死抑制剤を含んでなる、プライム型多能性幹細胞を対象とした初期化促進剤。
(13)ナイーブ型多能性幹細胞を製造する方法であって、
プライム型多能性幹細胞に対して細胞死抑制処理を行なうことを含んでなる、方法。
(14)
細胞死抑制剤を含んでなる、プライム型多能性幹細胞に対して用いるためのナイーブ型多能性幹細胞の誘導剤

0009

(15)化合物スクリーニング方法であって、
細胞と化合物を接触させることと、
該細胞を胚導入細胞として用いてキメラ動物を作製し、キメラ動物の体内での該細胞の分布を調べることにより、該細胞のキメラ形成能および/または分化能を評価することと、
評価結果に基づいて細胞のキメラ形成能および/または分化能に正または負の影響を与える化合物を選択することと、
を含んでなる化合物のスクリーニング方法。

図面の簡単な説明

0010

図1は、マウスのエピブラスト幹細胞(以下、「EpiSC」ということがある)にBcl−2をコードする遺伝子を導入する方法の概略を示す図(図1A)、および、導入して得られた胎児または産仔の光学顕微鏡像(図1B、1D、1Fおよび1H)および蛍光顕微鏡像を示す図(図1C、1E、1Gおよび1I)である。図1Bおよび1Cは、Bcl−2を導入しないエピブラスト幹細胞を用いて得られた胎児の顕微鏡像対照)を示し、図1Dおよび1Eは、Bcl−2を導入したエピブラスト幹細胞を用いて得られた胎児の顕微鏡像を示し、図1F〜1Iは、Bcl−2を導入したエピブラスト幹細胞を用いて得られた産仔の内臓の顕微鏡像を示す。図1Jは、2つのEpiSC株のキメラ形成率に対するBcl−2強制発現の効果を示す図である。図中のLvは肝臓、Pcは膵臓、Stは、およびteは精巣を示す。また、図1K〜1Pは、導入したEpiSCの生殖系列への寄与を示す図である。図1K〜1Pは、EpiSC由来の細胞であることを示すDsRedやtdTが、生殖系列の細胞のマーカーであるmouse vasa homolog(Mvh)と共局在していることを示す。
図2は、ラットのエピブラスト幹細胞にBcl−2をコードする遺伝子を導入して得られた胎児の光学顕微鏡像(図2Aおよび2C)および蛍光顕微鏡像(図2Bおよび2D)である。図2Aおよび2Bは、Bcl−2を導入しないエピブラスト幹細胞を用いて得られた胎児の顕微鏡像(対照)を示し、図2Cおよび2Dは、Bcl−2を導入したエピブラスト幹細胞を用いて得られた胎児の顕微鏡像を示す。図2Eは、EpiSCのキメラ形成率に対するBcl−2強制発現の効果を示す図である。図2Dの四角枠は、キメラを形成した胎児の存在を示す。
図3は、Sox17レポーターを導入したマウスES細胞株であるK17−5細胞からのマウスのSox17発現内胚葉系列前駆細胞の取得(図3A)、および、得られたSox17発現内胚葉系列前駆細胞における、多能性幹細胞マーカー(図3B)、外胚葉マーカー(図3C)、中胚葉マーカー(図3D)および内胚葉マーカー(図3E)の発現レベルを示す図である。
図4は、K17−5細胞にBcl−2をコードする遺伝子を導入したのちに分化誘導して得られた内胚葉系列前駆細胞を導入して得られた胎児の光学顕微鏡像(図4Aおよび4C)、および、蛍光顕微鏡像(図4Bおよび4D)を示す図である。図4Aおよび4Bは、Bcl−2をコードする遺伝子を導入しないK17−5細胞を用いて得られた胎児の顕微鏡像(対照)を示し、図4Cおよび4Dは、Bcl−2をコードする遺伝子を導入したK17−5細胞由来細胞を用いて得られた胎児の顕微鏡像を示す。図4Dの矢印は、キメラを形成した部分の存在を示す。
図5は、Bcl−2をコードする遺伝子を導入したK17−5細胞を用いて得られた胎児における、K17−5細胞由来の細胞の局在を示す図である。図5B、4Eおよび4Hは、内胚葉マーカーであるFoxa2陽性細胞の局在を示し、図5C、4Fおよび4Iは、K17−5細胞由来細胞の局在を示す。
図6は、マウスのエピブラスト幹細胞にBcl−xLをコードする遺伝子を導入する方法の概略を示す図(図6A)、および、導入して得られた胎児の光学顕微鏡像(図6Bおよび6C)および蛍光顕微鏡像(図6Dおよび6E)を示す図である。図6Bおよび6Dは、Bcl−xLを導入しないエピブラスト幹細胞を用いて得られた胎児の顕微鏡像(対照)を示し、図6Cおよび6Eは、Bcl−xLを導入したエピブラスト幹細胞を用いて得られた胎児の顕微鏡像を示す。
図7は、Bcl−2を強制発現したEpiSCにおける遺伝子発現プロファイルを、EpiSCおよびES細胞の遺伝子発現プロファイルとクラスター解析した結果である。
図8は、ES細胞、EpiSCおよびBcl−2を強制発現させたEpiSCにおける6つの遺伝子の発現量をより詳細に示す図である。
図9は、Bcl−2を強制発現させたEpiSC株2種類について、CD31の発現をFACSを用いて定量した結果を示す図である。
図10は、Bcl−2を強制発現させたEpiSCのうち、CD31を高発現する細胞(図9の枠内の細胞)を単離し、接着培養した際に、細胞が形成するコロニーの形状を示す図である。
図11は、アポトーシス抑制因子としてXiapやcrmAを細胞に強制発現させて得た細胞のキメラ形成率を示す図である。図11Aは、エピブラスト幹細胞(EpiSC)のキメラ形成率を示し、図11Bは、内胚葉系列前駆細胞のキメラ形成率を示す。図11C〜Fは、内胚葉系列前駆細胞の胚への寄与を示す。図中の矢印は、内胚葉系列前駆細胞の存在を示す。
図12は、単一細胞化後にコロニー形成能を有する多能性幹細胞を胚導入細胞として用いたときのキメラ形成の結果を示す。
図13は、アポトーシス抑制処理をした始原生殖細胞の作製と得られた始原生殖細胞のキメラ形成能を示す図である。図13Bでは、Chimera/TEはレシピエント移植された胚のうちのキメラ率、Chimera/Fetusは解析時に得られた胚のキメラ率を示す。
図14は、ヒト誘導性多能性幹細胞(hiPS細胞)をマウス胚に導入してキメラ形成を観察した結果を示す図である。Bcl−2(+)は、Bcl−2を強制発現したことを示し、Bcl−2(−)は、対照細胞であることを示す。
図15は、マーモセット胚性幹細胞(ES細胞)をマウス胚に導入してキメラ形成を観察した結果を示す図である。Bcl−2(+)は、Bcl−2を強制発現したこと(CおよびD)を示し、対照は、Bcl−2を発現していないこと(AおよびB)を示す。図15EおよびFはそれぞれ、図15CおよびDのアスタリスクで示した胚の拡大写真である。図15Gは、マウス胚にマーモセット細胞が含まれることを示すPCR増幅断片電気泳動図である。

発明の具体的な説明

0011

本発明の方法では、キメラ動物を作製する際の胚導入細胞として、キメラ形成能を有さないと従来考えられていた哺乳動物細胞、例えば、エピブラスト以降の発生段階の多能性幹細胞などのプライム型の多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞を用いることができる。

0012

本発明の方法では、胚導入細胞は必ずしも細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を受けている必要は無いが、胚導入細胞が細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)されると、キメラ形成率が向上する。本発明の方法ではまた、胚導入細胞が細胞死耐性の細胞(例えば、アポトーシス耐性の細胞)であるときには、該細胞に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)がなされなくてもよく、該細胞に高い効率でキメラを形成させることができる。

0013

本発明では、細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)は、細胞を胚に導入する前に行ってもよく、導入した後に(例えば、細胞を導入して得られた胚を仮親の子宮に移植した後に)行ってもよく、細胞を胚に導入する前および導入した後で行ってもよい。細胞死の抑制(例えば、アポトーシスの抑制)を確実に行う観点では、細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)は、細胞を胚に導入する前および後で行うことが好ましい。

0014

本発明の方法では、細胞は、非ヒト動物胚(例えば、非ヒト哺乳動物の胚または鳥類の胚などの非ヒト脊椎動物胚)、好ましくは、8細胞期、桑実胚期または胚盤胞期の胚に導入することができる。8細胞期の胚または桑実胚に細胞を導入する場合には、例えば、胚の中心付近に細胞を導入することができる。また、胚盤胞期の胚に細胞を導入する場合には、例えば、卵割腔に細胞を導入することができる。桑実胚期までの初期胚であれば、細胞を接触させることにより集合させてもよい。本発明の方法で、細胞を導入する胚としては、脊椎動物由来の胚、例えば、非ヒト哺乳動物由来の胚、例えば、チンパンジーゴリラオランウータンサル、マーモセットおよびボノボなどの非ヒト霊長類由来の胚;ブタ、ラット、マウス、ウシヒツジヤギウマおよびイヌなどの非ヒト哺乳動物由来の胚(例えば、食肉類偶蹄類奇蹄類およびげっ歯類の胚);並びに、ニワトリなどの鳥類の胚が挙げられる。

0015

本明細書では、「キメラ形成能がない細胞」とは、着床前胚に移植した場合にキメラを形成しないか、またはキメラを形成する頻度が著しく低い細胞をいう。

0016

本発明では、「多能性幹細胞(a pluripotent stem cell)」とは、多能性を有する幹細胞を意味し、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)およびエピブラスト幹細胞(EpiSC)などの多能性を有する多能性幹細胞が挙げられる。多能性幹細胞には、例えば、白血病抑制因子(LIF)依存的に多能性を維持することをその特徴の一つとするナイーブ型多能性幹細胞と、繊維芽細胞成長因子2(Fgf2)およびアクチビン依存的に多能性を維持することをその特徴の一つとするプライム型多能性幹細胞(ナイーブ型よりも分化段階が進んでおり、X染色体不活化されている)とが存在する。げっ歯類のES細胞およびiPS細胞は、ナイーブ型多能性幹細胞に分類され、げっ歯類のエピブラスト幹細胞並びにげっ歯類以外の一部のES細胞およびiPS細胞は、プライム型多能性幹細胞に分類される。プライム型多能性幹細胞とナイーブ型多能性幹細胞とは、数々の点で異なる。例えば、コロニー形態において、プライム型多能性幹細胞は主に単層の扁平なコロニーを形成するのに対して、ナイーブ型多能性幹細胞は主に重層のコロニーを形成する。さらに、特異的マーカー遺伝子として、プライム型多能性幹細胞では、BrachyuryおよびFgf5が知られているのに対して、ナイーブ型多能性幹細胞では、CD31、Rex1、Klf4およびNrOb1などが知られている。このように、プライム型多能性幹細胞とナイーブ型多能性幹細胞とは、生化学的特徴および生理学的特徴において異なっている。当業者であれば、プライム型多能性幹細胞を取得すること、および、上記の性質などに基づいてプライム型多能性幹細胞を判別することは容易であろう。

0017

本発明では、「エピブラスト幹細胞」とは、着床後の胚の後期エピブラストから樹立された細胞株、または着床前胚から得られた細胞であってエピブラスト幹細胞に対応する分化段階に至った細胞株をいう。エピブラスト幹細胞は、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)およびアクチビンAの存在下で培養することができ、接着培養を行うと単層で大きなコロニーを形成するという生理学的特徴を示し、雌性細胞においては2つのX染色体のうちの1つが不活性化しているという特徴をさらに示すが、この特徴は、プライム型のES細胞またはiPS細胞が示す特徴と類似している。

0018

本発明では、「プライム型の多能性幹細胞」とは、プライム型のES細胞またはiPS細胞などのプライム型の多能性幹細胞を意味する。本発明では、「多能性幹細胞」としては、特に限定されないが、ヒトおよびサルなどの霊長類の多能性幹細胞、並びに、ブタ、ウシ、ヒツジおよびヤギなどの哺乳類の多能性幹細胞などを挙げることができる。本発明では、多能性幹細胞は、好ましくは、ヒト多能性幹細胞である。プライム型多能性幹細胞のキメラ形成能は、ナイーブ型多能性幹細胞のキメラ形成能に劣る。

0019

本発明では、胚導入細胞としてプライム型多能性幹細胞を用いる場合、細胞死抵抗性の細胞(すなわち、細胞死を起こしにくい多能性幹細胞、例えば、アポトーシス抵抗性の多能性幹細胞(すなわち、アポトーシス能が低い多能性幹細胞))を用いることが好ましい。本発明では、例えば、細胞死抵抗性の細胞(例えば、アポトーシス抵抗性の細胞)はスクリーニングにより得てもよい。細胞死抵抗性のプライム型多能性幹細胞(例えば、アポトーシス抵抗性のプライム型多能性幹細胞)は、細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)をせずに胚導入細胞としてキメラ動物の形成に用いることができる。本発明ではまた、胚導入細胞としてプライム型多能性幹細胞を用いる場合、例えば、単一細胞化後に接着培養においてコロニーを形成できるプライム型多能性幹細胞を用いることもできる。本発明では、単一細胞化後のコロニー形成率は、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上である。従って、単一細胞化した後にコロニー形成率が好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上であるプライム型多能性幹細胞を胚導入細胞として用いてもよい。本発明では、単一細胞化後にコロニーを形成できるプライム型多能性幹細胞は、単一細胞化した後にコロニー形成すること、および/または、その形成率が高いこと(例えば、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上であること)を指標としてスクリーニングすることができる。多能性幹細胞の細胞死抵抗性とコロニー形成能とには関連がある。従って、細胞死抵抗性の細胞は、単一細胞化した後のコロニー形成すること、および/または、その形成率が高いこと(例えば、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上であること)を指標としてスクリーニングして得ることができる。コロニー形成を調べる際には、通常の接着培養の培養条件と同じ条件で細胞を培養することができる。

0020

多能性幹細胞以外の細胞では、アポトーシス抵抗性は、アクチノマイシンDなどのアポトーシス誘導剤存在下で培養することにより検証することができ、例えば、アポトーシス抵抗性の細胞のスクリーニングの指標とすることができる。

0021

多能性幹細胞以外の細胞では、ネクローシスなどの細胞死抵抗性は、ネクローシス誘導剤(例えば、H2O2などの活性酸素誘導)および貧栄養培地での培養などにより検証することができ、例えば、細胞死抵抗性の細胞のスクリーニングの指標とすることができる。

0022

本発明では、「組織幹細胞」とは、全能性(pluripotency)を有さないものの、複数種類の細胞に分化する能力を維持しながら自己複製能をもつ細胞をいい、体性幹細胞または成体幹細胞とも呼ばれることがある。組織幹細胞としては、外胚葉系列幹細胞、中胚葉系列幹細胞および内胚葉系列幹細胞が知られている。例えば、外胚葉系列幹細胞としては、例えば、神経幹細胞が挙げられる。神経幹細胞は、当業者により周知の方法、例えば、Kukekov et al.,Glia 21:399-407,1997に記載の方法により得ることができる。特に限定されないが、例えば、神経幹細胞は、胚の前脳または生後個体の脳室下帯(subventricular zone)から単離した細胞群を、市販されている神経前駆細胞基本培地などを用いて培養することにより得ることができる。得られた細胞が神経幹細胞であるか否かは、特異的マーカー遺伝子の発現、例えば、ネスチン(Nestin)の発現の有無により調べることができる。

0023

本発明では、「前駆細胞」とは、子孫にあたる細胞が発現する特定の分化形質を発現していない未分化な親細胞をいう。前駆細胞は、組織幹細胞とは異なり、自己複製能をもたない。幹細胞がある特定な分化細胞の前駆細胞となることを細胞分化における決定(determination)または拘束(commitment)という。

0024

本発明では、「系列決定済み前駆細胞」とは、外胚葉系列、中胚葉系列または内胚葉系列に分化運命が決定された前駆細胞をいう。外胚葉系列の系列決定済み前駆細胞(外胚葉系列前駆細胞)は、外胚葉由来の細胞の前駆細胞であり、例えば、神経前駆細胞が挙げられる。中胚葉系列の系列決定済み前駆細胞(中胚葉系列前駆細胞)は、中胚葉由来の細胞の前駆細胞であり、例えば、造血幹/前駆細胞および血管内皮前駆細胞が挙げられる。内胚葉系列の系列決定済み前駆細胞(内胚葉系列前駆細胞)は、内胚葉由来の細胞の前駆細胞であり、例えば、Sox17発現内胚葉系列前駆細胞が挙げられる。また、生殖細胞の系列決定済み前駆細胞は、始原生殖細胞が挙げられる。これらの系列決定済み前駆細胞は、発生段階においては決定された系列以外の系列の細胞には分化しない。例えば、一度、内胚葉系列に分化運命が決定されると、初期化または脱分化しない限り生体内では内胚葉由来の細胞以外には分化しない。本発明では、系列決定済み前駆細胞を導入すると、導入された前駆細胞は決定された運命に従って分化するため、決定された系列以外の組織または臓器には寄与しない。系列決定済み前駆細胞を胚に導入する利点の一つは、系列決定済み前駆細胞を用いることにより、望まない臓器(例えば、脳、神経および生殖系列等)への寄与を抑えたキメラ動物の作製が可能となることである。本発明では、系列決定済み前駆細胞としては、ヒトおよびサルなどの霊長類、ブタ、ウシ、ヒツジおよびヤギなどの哺乳動物、並びにマウスおよびラットなどのげっ歯類由来の系列決定済み前駆細胞が挙げられる。

0025

外胚葉系列前駆細胞は、例えば、当業者により周知の方法、特に限定されないが、例えば、神経前駆細胞であれば、大脳皮質から神経球を単離し、市販されている神経前駆細胞基本培地などを用いて培養することにより得ることができる。得られた細胞が外胚葉系列前駆細胞であるか否かは、外胚葉マーカーの発現、例えば、Pax6および/またはOlig2の発現の有無により調べることができる。

0026

中胚葉系列幹細胞または中胚葉系列前駆細胞としては、例えば、造血幹/前駆細胞が挙げられる。造血幹/前駆細胞は、当業者により周知の方法、特に限定されないが、例えば、マウス成体骨髄または胎仔肝臓中の血球細胞のうち抗体染色によりGr−1、Mac−1、Ter119、CD4、CD8、B220、IL−7R、CD41、CD48抗体により染色されず、かつ、CD150抗体に染色される細胞としてFACS等を用いて選別することができる。

0027

内胚葉系列前駆細胞は、例えば、当業者により周知の方法、例えば、ES細胞をアクチビンA存在下(例えば、10μg/mL)で培養することにより得ることができる。得られた細胞が内胚葉系列前駆細胞であるか否かは、内胚葉マーカーの発現、特に限定されないが、例えば、Sox17、Eomes、Gata4および/またはFoxa2の発現の有無により調べることができる。

0028

本発明では、「体細胞」とは、生殖細胞以外のすべての細胞をいう。

0029

本発明では、「生殖細胞」とは、生殖を担うために特殊化した一倍体の細胞およびその母細胞並びに始原生殖細胞をいう。具体的には、生殖細胞としては、精子および卵子およびこれらの母細胞並びに始原生殖細胞が挙げられる。始原生殖細胞は、特に限定されないが、例えば、胚の性腺より単離する方法またはES細胞やiPS細胞または他の多能性幹細胞から分化誘導する方法で得られることが知られている。例えば、マウスの始原生殖細胞は、特に限定されないが、例えば、摘出した性腺をトリプシン溶液などで解離したのち、SSEA1抗体およびCD61抗体の両方で染色される細胞としてFACS等で選別することで単離することができる。例えば、マウスの始原生殖細胞は、特に限定されないが、例えば、Hayashiら(Hayashi et al., Cell (2012), 146(4) 519-532)により報告された方法によりマウスES細胞から分化させて得ることができる。得られた細胞が始原生殖細胞であるか否かは、特異的マーカーの発現、特に限定されないが、例えば、Blimp1、Stellaの発現の有無により調べることができる。

0030

本発明では、胚と、胚に導入される細胞の種は、同種の関係であってもよいし、異種の関係であってもよい(例えば、引用することにより本願明細書の一部とされるWO2010/087459)。本発明では、胚と胚導入細胞の種の組み合わせとしては、マウスとラットとの組み合わせが挙げられ、マウスとラット間では胚盤胞補完によるキメラ動物の作製にも成功している(引用することにより本願明細書の一部とされるWO2010/021390およびWO2010/087459)。マウス−ラット間の遺伝的な距離は、ヒト−ブタ間の遺伝的距離に相当する。従って、マウス−ラット間での異種間キメラ動物の作製が成功するということは、それよりも遺伝的な距離の近い種間であれば十分に異種間キメラ動物を作製することができることを意味する。

0031

また、本願実施例4Bおよび4Cによれば、マウスとヒトまたはマウスとマーモセット間でキメラ動物を作製することに成功している。従って、仮にげっ歯類と霊長類との組合せであったとしてもキメラ動物を形成させることは可能である。そして、げっ歯類と霊長類との相違と比べて小さな相違を有すると考えられる種間では異種間でキメラ動物を作製することができる。これらのことから、本発明で用いられ得る胚と胚導入細胞の異種間の組み合わせとしては、マウス−ラット以外では、例えば、非ヒト哺乳動物同士の組み合わせ、鳥類同士の組み合わせ、ヒトと非ヒト霊長類動物との組み合わせ、ヒトとニワトリの組み合わせ、ヒトとブタとの組み合わせ、ヒトとウシとの組み合わせ、ヒトとヤギとの組み合わせ、ヒトとヒツジとの組み合わせ、非ヒト霊長類動物同士の組み合わせ、非ヒト霊長類動物とブタ、ウシまたはヒツジとの組み合わせ、ウシとブタ、ヒツジ、ヤギ若しくはウマとの組み合わせ、または、ブタとヒツジ、ヤギ若しくはウマとの組み合わせなどを挙げることができる。また、ヒトと、食肉類、偶蹄類または奇蹄類のいずれかに属する動物との組み合わせとしてもよいし、同じ属、類または科に属する動物同士の組み合わせとしてもよいであろう。マウスとラットは染色体数が異なるが、マウス−ラット間ではキメラ動物の作製が可能であることから、染色体数が異なっていたとしても、キメラ動物の作製の可能性が否定されるものではない。

0032

細胞死は、細胞の死を意味する。細胞死は、プログラムされた細胞死(アポトーシス)、オートファジーおよびネクローシスに大別される。

0033

細胞死抑制作用を有する化合物とは、細胞死を抑制し得るあらゆる化合物を意味し、細胞死阻害剤が挙げられる。本発明で用いられる細胞死阻害剤としては、例えば、アポトーシス阻害剤オートファジー阻害剤およびネクローシス阻害剤が挙げられ、細胞死を抑制するために適宜用いることができる。

0034

本発明で用いられるアポトーシス阻害剤としては、細胞のアポトーシスを抑制し得る限り限定されないが、例えば、カスパーゼ阻害剤およびBcl−2系のプロアポトーシス因子の阻害剤などが挙げられ、様々なアポトーシス阻害剤が市販されており、細胞のアポトーシスを抑制するために適宜用いることができる。

0035

本発明で用いられるオートファジー阻害剤としては、PI3K阻害剤、p38阻害剤、ERK阻害剤およびJNK阻害剤などが挙げられ、細胞のオートファジーを抑制するために用いることができる。

0036

本発明で用いられるネクローシス阻害剤としては、ネクロスタチン−1などのRIP1〜3阻害剤(RIP:受容体相互作用タンパク質)および2−(1H−インドール−3−イル)−3−ペンチルアミノマレイミドIM−54)などの活性酸素阻害剤が挙げられ、細胞のネクローシスまたはネクロトーシスを抑制するために用いることができる。

0037

本発明で発現誘導の対象となる抗アポトーシス因子としては、特に限定されないが、例えば、FLIP、Mcl−1、Xiap、crmA、Bcl−2およびBcl−xLなどが挙げられ、Xiap、crmA、Bcl−2またはBcl−xLが好ましく用いられ得る。これらの因子の発現誘導の手段としては、直接的な手段、特に限定されないが、例えば、標的遺伝子発現ベクターの細胞への導入、細胞質へのmRNA若しくはタンパク質若しくはその機能的なフラグメントの導入、または、miRNA等のノンコーディングRNAを介した標的因子の発現誘導などが考えられる。これらの因子の発現誘導の手段としてはまた、間接的な手段、特に限定されないが、例えば、間接的に抗アポトーシス作用をもたらす、アポトーシス抑制因子の発現量および/または活性を高める因子、若しくは、抗アポトーシス因子のアゴニストの発現を高める発現ベクターの細胞への導入、細胞質へのmRNA若しくはタンパク質若しくはその機能的なフラグメントの導入、または、miRNA等のノンコーディングRNAを介した発現誘導などの方法で発現誘導することが考えられる。細胞の癌化などへの影響を考慮すると、発現誘導は一時的なものであることが好ましい。また、細胞のゲノムに傷を付けにくい方法を採用することが好ましい。一時的な発現誘導を可能とし、かつ、細胞ゲノムへの損傷を防ぐ目的では、アデノウイルスベクターを用いた方法およびプラスミドを用いた方法など様々なものを用いることができる。本明細書では、機能的なフラグメントとは、抗アポトーシス機能を保持したフラグメントを意味する。上記抗アポトーシス因子およびこれらの発現誘導手段は、アポトーシス抑制剤として用いることができる。なお、本明細書では、記載の都合上、種によらず、ヒトのBCL2もマウスのBcl2も同じくBcl−2と表記する。

0038

本発明で発現抑制の標的となるアポトーシス因子としては、例えば、Smac/Diablo、アポトーシス誘導因子AIF)、HtrA2、Bad、Bim、Bax、p53、カスパーゼ1、2、3、4、5、6、7、8、9および10(例えば、カスパーゼ2、3、6、7、8、9および10、好ましくはカスパーゼ3、6および7)、Fasリガンド(FasL)、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)並びにFoxO1が挙げられる。発現抑制は、直接的な手段、特に限定されないが、例えば、siRNA、shRNAおよびmiRNAなどのノンコーディングRNAを介した標的因子の発現抑制などの当業者に周知の方法を用いて行うことができる。発現抑制はまた、間接的な手段、特に限定されないが、例えば、間接的にアポトーシス作用をもたらす、アポトーシス促進因子の発現量および/または活性を高める因子の発現および/または活性を低下させるために、miRNA等のノンコーディングRNAを介した標的因子の発現抑制などの方法で増加させることが考えられる。また、アポトーシス促進因子のアンタゴニストを用いてアポトーシスを抑制する方法も考えられる。上記アポトーシス因子およびこれらの発現抑制手段は、アポトーシス抑制剤として用いることができる。

0039

siRNAとは、RNA干渉(RNAi)を誘導することができる二本鎖RNA核酸)、特に限定されないが、20〜30bp、例えば、21bp、22bp、23bp、25bpまたは27bpからなる二本鎖RNAであって、標的遺伝子の配列と相同な配列を有する二本鎖RNAである。このような二本鎖RNAは、当業者であれば、周知の方法を用いて、ノックダウンする標的遺伝子の遺伝子配列を元に設計し製造することができる。siRNAは、DNAとRNAとのハイブリッドとしてもよく、例えば、siRNA中のUとTに置き換えてもよい。

0040

shRNAとは、生体内でダイサー(Dicer)により分解を受けてsiRNAを生成することができるRNAである。shRNAは、二本鎖ステムヘアピンループを含むステムループ構造を有する。このヘアピンループ部分の配列は特に限定されないが、5〜12塩基の配列とすることができる(Kawasaki H. et. al., Nucleic Acid Res. (2003) 31: 700-707、Paddison P. J. et. al., Genes and Dev. (2002) 16: 948-958、Lee N. S., Nat. Biotech. (2002) 20: 500-505およびSui G., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. (2002) 99: 5515-5520)。このようなshRNAは、当業者に周知の方法によりノックダウンする標的遺伝子の遺伝子配列を元に設計し製造することができる。

0041

本発明では、胚導入細胞に対して細胞死(例えば、アポトーシス)を抑制することにより、プライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞を胚導入細胞として用いて高効率でキメラ動物を作製することができる。

0042

本発明の方法によれば、細胞を導入して得られた胚を非ヒト仮親動物の母胎中で発生させて胎児または産仔を得ることをさらに含んでいてもよい。キメラ哺乳動物の作製は、一般的には、哺乳動物のES細胞などのキメラ形成能を有する細胞を、哺乳動物の胚に導入すること、得られた胚を仮親動物の子宮に移植すること、および仮親動物からキメラの産仔を得ることを含んでなる。本発明では、非ヒト仮親動物は、細胞を導入する胚と同種であり得る。

0043

本発明は、細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)をしたプライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞は、キメラ動物の作製を高効率化できる点で有用である。

0044

遺伝子改変動物の作製においては、高いキメラ形成能を有する多能性幹細胞が求められるが、本発明は、高いキメラ形成能を有するプライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞を提供するものである。従って、本発明によれば、例えば、プライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞若しくは生殖細胞(ここで、組織幹細胞および前駆細胞は、生殖細胞に分化し得る細胞である)に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うことを特徴とする、非ヒト遺伝子改変動物を作製する方法が提供される。本発明の遺伝子改変動物を作製する方法では、本発明のキメラ動物を作製する方法において、胚に導入する細胞として遺伝子改変された細胞を用いることができる。

0045

遺伝子改変動物を作製する方法としては、例えば、ノックアウトマウストランスジェニックマウスなどの遺伝子改変動物を作製する方法が周知である。遺伝子改変動物では、遺伝子改変された多能性幹細胞(例えば、遺伝子改変されたES細胞)を胚盤胞の卵割腔に導入し、仮親の子宮に移植してキメラ動物である産仔を得る。ノックアウト動物を得る場合には、キメラ動物を得た後は、野生型動物と交配させて、キメラ動物からさらに遺伝子改変されたゲノムをヘテロで有する産仔を得る、あるいは、得られたヘテロの産仔同士をさらに掛け合わせて遺伝子改変されたゲノムをホモで有する産仔を得るのが一般的であろう。本発明の方法でも、プライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、若しくは生殖細胞(ここで、組織幹細胞および前駆細胞は、生殖細胞に分化し得る細胞である)を遺伝子改変し、得られた遺伝子改変された細胞を非ヒト動物(例えば、げっ歯類以外の非ヒト哺乳動物または鳥類などの脊椎動物)の胚(8細胞期、桑実胚期または胚盤胞期の胚)に導入して、胚を仮親の子宮に戻すことによりキメラ動物を作製することができる。キメラ動物中では、導入したプライム型多能性幹細胞は生殖系列に寄与していたことから、本発明によれば、げっ歯類以外の哺乳動物においてプライム型多能性幹細胞を胚導入細胞として用いて遺伝子改変動物を得ることができる。遺伝子改変動物の作製においては、好ましくは、導入される細胞と胚との関係は同種である。得られた遺伝子改変された細胞は、胚に導入される前および/または後に細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うことができる。また、本発明においては系列決定した前駆細胞を細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)の有無に関わらず、元々の発生運命に従ったままキメラ動物に寄与させることができることが示された。また、系列決定した前駆細胞を細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)することにより、キメラ形成率が飛躍的に向上した。この原理を始原生殖細胞や始原生殖細胞から生じる生殖系列細胞に適用することで、効率的に遺伝子改変動物を作製することができる。より具体的には多能性幹細胞から誘導した始原生殖細胞(生殖細胞)または胚から採取した始原生殖細胞(生殖細胞)に遺伝子改変を行い、得られた細胞に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)をした後に胚に移植すれば、遺伝子改変細胞由来の生殖細胞を効率的に得ることができる。移植を受ける胚に生殖細胞を欠損する変異体を用いれば、さらに効率的に遺伝子改変細胞由来の生殖細胞が得られる。ニワトリに代表される鳥類においては多能性幹細胞移植によりキメラ動物は作製できるが、胚導入細胞が生殖系列に寄与しにくいことが知られており、特に鳥類の遺伝子改変動物の作製において、本発明の方法は有利である。

0046

キメラ形成能を有する細胞は、胚盤胞補完を利用した臓器の再生に用いることができる(引用することにより本出願の一部とされるWO2008/102602およびWO2010/021390)。従って、本発明によれば、目的臓器を製造する方法であって、a)プライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞を調製する工程;b)非ヒト哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に、該細胞を移植する工程;c)該受精卵を非ヒト仮親哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得る工程;およびd)該産仔個体から、目的臓器を取得する工程を含み、非ヒト哺乳動物は、発生段階において、製造する臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト哺乳動物である方法が提供される。ここで、細胞および製造される臓器は、該非ヒト哺乳動物とは異なる個体の異個体哺乳動物由来であり得る。本発明の一つの実施態様では、細胞を導入する胚は、発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト動物(例えば、非ヒト哺乳動物、げっ歯類以外の非ヒト哺乳動物または鳥類などの脊椎動物)の胚であり、導入される細胞は、該非ヒト動物とは異個体の動物(例えば、非ヒト哺乳動物、げっ歯類以外の哺乳動物または鳥類などの脊椎動物)の細胞である。細胞は、細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)することにより、キメラ形成率を飛躍的に向上させる。このようにすることで、非ヒト哺乳動物またはげ歯類以外の非ヒト哺乳動物において、細胞を導入する胚で発生しない目的臓器が、導入した細胞により補完されたキメラ動物を極めて高効率に得ることができる。従って、本発明の方法は、細胞に対して細胞死抑制処理する工程をさらに含んでいてもよい。導入する細胞と胚とは、同種の関係であっても、異種の関係であってもよい。移植医療に臓器を用いるという観点では、導入する細胞と胚とは、異種の関係であることが好ましく、導入される細胞は、ヒト由来の細胞であることが好ましい。

0047

本発明ではまた、胚盤胞補完により作製したキメラ哺乳動物から目的臓器を回収することができる。従って、本発明によれば、本発明の方法によりキメラ哺乳動物を作製し、得られたキメラ哺乳動物から目的臓器を回収することにより、目的臓器を製造する方法が提供される。得られた目的臓器は、例えば、移植用途に用いることができる。

0048

通常、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分欠陥原因遺伝子をホモで有するノックアウト動物は、生存困難であり、産仔を得ることができない。従って、このような動物は、通常は、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子をヘテロで有し、生存可能な動物同士を掛け合わせることにより得ることとなる。この場合、メンデルの法則によれば、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子をホモで有する動物は、生存可能な動物同士を掛け合わせて得られる産仔のうち理論上25%の確率でしか得られない。しかし、引用することにより本出願の一部とされるWO2009/104794では、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子をホモで有する動物を胚盤胞補完により生殖可能年齢まで成長させる方法が開発されている。この方法によれば、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子をホモで有する非ヒト動物同士(例えば、ノックアウト非ヒト哺乳動物)の交配により、次世代では生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子をホモで有する産仔を理論上100%の確率で得ることが可能である。従って、この方法によれば、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子をホモで有する哺乳動物(ファウンダー哺乳動物)を得ることができる。

0049

キメラ形成能を有する細胞は、上記の胚盤胞補完を利用したファウンダー哺乳動物の作製に用いることができる。従って、本発明によれば、ファウンダー哺乳動物を製造する方法であって、a)プライム型多能性幹細胞、または、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞若しくは生殖細胞を調製する工程;b)非ヒト哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に、該細胞を移植する工程;c)該受精卵を非ヒト仮親哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得る工程;およびd)該産仔個体を生殖可能年齢にまで成長させる工程を含み、非ヒト哺乳動物は、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子を有する非ヒト哺乳動物である方法が提供される。ここで、細胞および製造される臓器は、該非ヒト哺乳動物とは異なる個体の異個体哺乳動物由来であり得る。本発明の一つの実施態様では、細胞を導入する胚は、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子を有する非ヒト動物(例えば、非ヒト哺乳動物、げっ歯類以外の非ヒト哺乳動物または鳥類などの脊椎動物)由来の胚であり、導入される細胞は、該非ヒト哺乳動物とは異個体の哺乳動物(例えば、非ヒト哺乳動物、げっ歯類以外の哺乳動物または鳥類などの脊椎動物)の細胞である。細胞は、細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)することにより、キメラ形成率を飛躍的に向上させる。従って、本発明の方法は、細胞に対して細胞死抑制処理する工程をさらに含んでいてもよい。細胞を導入する胚と細胞とは、同種であっても異種であってもよいが、単にファウンダーを生殖可能年齢まで生存させる観点では、同種であることが好ましい。本発明では、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥は、導入された細胞によって補完される。

0050

本発明では、胚に導入する細胞として特定の臓器または身体部分にしか寄与しない組織幹細胞、系列決定済み前駆細胞、体細胞または生殖細胞を用いると、特定の臓器または身体部分のみがキメラである、非ヒトキメラ動物を作製することができる。例えば、異種間キメラ動物を作製する場合には、胚導入細胞は、特定の臓器または身体部分、特に限定されないが、例えば、脳や生殖系列に寄与しないものを用いることが好ましい場合がある。そのため、本発明では、胚導入細胞の特定の臓器または身体部分への寄与を制限するために、胚導入細胞として、特定の臓器または身体部分に寄与しない細胞、例えば、特定の臓器または身体部分に寄与しない組織幹細胞、系列決定済み前駆細胞、体細胞または生殖細胞を用いることができる。また、胚導入細胞として、特定の臓器または身体部分にしか寄与しない細胞、例えば、特定の臓器または身体部分にしか寄与しない組織幹細胞、系列決定済み前駆細胞、体細胞または生殖細胞を用いることにより、特定の組織または臓器のみがキメラであるキメラ動物を作製することもできる。別の観点からは、組織幹細胞、系列決定済み前駆細胞、体細胞または生殖細胞は、通常、分化運命が定まっており、全身に寄与することはないと考えられている。従って、組織幹細胞、系列決定済み前駆細胞、体細胞または生殖細胞を用いると、特定の臓器または身体部分のみがキメラであるキメラ動物を作製することができる。ここで、特定の臓器または身体部分とは、1つまたは複数の臓器または身体部分であってもよい。後述するように、細胞を導入する胚が、発生段階において臓器の発生が生じない異常を有する哺乳動物の胚である場合、または、生存し得ないか生存困難となる臓器または身体部分の欠陥の原因遺伝子を含んでなる非ヒト動物の胚である場合には、その欠陥を補うことのできる細胞(例えば、該臓器または身体部分に分化し得る細胞)を用いることが好ましい。上述のように、胚導入細胞が細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)された細胞である場合には、細胞はその分化運命を維持したままそのキメラ形成率を飛躍的に向上させる。従って、本発明のある態様では、胚導入細胞は細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)された細胞または細胞死抵抗性の細胞(例えば、アポトーシス抵抗性の細胞)である。

0051

本発明では、「臓器」とは、動物の内臓を構成する器官をいう。臓器としては、特に限定されないが、例えば、心臓腎臓、膵臓、胸腺脾臓、肝臓、小脳小腸結腸および膀胱などが挙げられ、本発明で補完することができる。臓器は、例えば、膵臓、腎臓または胸腺とすることができる。

0052

本発明では、「身体部分」とは、身体のいずれかの部分をいう。身体部分としては、血管、血液、リンパ球、骨および毛髪などが挙げられ、本発明で補完することができる。身体部分は、例えば、リンパ球または毛髪とすることができる。本明細書では、組織も身体部分に含まれる。

0053

本発明では、「該非ヒト動物とは異個体の動物の細胞」とは、非ヒト動物の胚が有する異常または欠陥を補完できる細胞をいい、例えば、野生型の細胞および蛍光タンパク質等を発現する細胞などが挙げられる。

0054

細胞死(例えば、アポトーシス)を抑制することで細胞はキメラ形成能を向上させた。従って、本発明によれば、プライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞または生殖細胞のキメラ形成能を向上させる方法であって、該細胞に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うことを特徴とする方法が提供される。

0055

細胞死(例えば、アポトーシス)を抑制することで細胞がキメラ形成能を向上させる理由は以下のように考察される。すなわち、特に着床前などの発生初期において胚の発生段階と導入される細胞の発生段階または発生運命が時間的空間的に大きく異なる場合(例えば、胚盤胞にエピブラスト幹細胞を導入する場合)には、細胞はキメラ動物に寄与することが困難である。しかし、細胞に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うと、細胞はキメラ動物に寄与しやすくなる。このことから、導入された細胞は、発生段階の異なる胚に導入されると細胞死(例えば、アポトーシス)を起こし死滅してしまい、そのためにキメラ動物に寄与することができなかった可能性が考えられる。また、細胞死(例えば、アポトーシス)を抑制すると、胚の発生段階と細胞の発生段階が同調するまで死滅することなく生存することが可能になると考えられ、これがキメラ形成能を失った細胞からキメラ動物を作製することが可能になった理由であると考えられる。例えば、系列決定済み前駆細胞を用いた場合では、この細胞と発生段階が一致するまで胚が発生し、発生段階が同調するまで細胞を生存させることができたために、系列決定済み前駆細胞がそれ以降は胚の中で発生分化することができたと考えられる。

0056

本発明では、アポトーシス抑制処理を行ったエピブラスト幹細胞(EpiSC)は、生殖細胞への分化能を示した。従って、本発明によれば、プライム型多能性幹細胞に生殖細胞への分化能を付与または向上させる方法であって、該多能性幹細胞に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うことを特徴とする方法が提供される。

0057

本発明ではまた、アポトーシス抑制処理を行ったEpiSCは、通常のEpiSCとは異なる遺伝子発現パターンを示す一方で、ナイーブ型ES細胞に類似した遺伝子発現パターンを示した。特に、エピブラスト幹細胞は、該細胞に対してアポトーシス抑制処理を行うことにより、ナイーブ型多能性幹細胞の遺伝子発現パターンを示すようになった。また、コロニーの形態も、プライム型ではなくナイーブ型多能性幹細胞の形態へと変化した。このことから、本発明では、細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うことにより、プライム型多能性幹細胞をナイーブ型多能性幹細胞に変化させる(変換する)ことができたと考えられる。本発明ではまた、得られたナイーブ型多能性幹細胞は、CD31陽性細胞であった。従って、本発明は、アポトーシス抑制処理を行なった多能性幹細胞からCD31陽性細胞を分画することをさらに含んでなってもよい。このようにすることで、キメラ形成能を向上させた多能性幹細胞集団からその一部を構成するナイーブ型多能性幹細胞を効果的に回収することができる。CD31陽性細胞の分画は、当業者に周知の方法により(例えば、セルソーターと抗CD31抗体などを用いて)行なうことができる。

0058

上述のように、本発明では、アポトーシス抑制処理を行うことにより、プライム型多能性幹細胞をより未分化な状態にすることができた。従って、本発明によれば、哺乳類のプライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞または生殖細胞に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うことにより、該細胞をより未分化な状態にする方法が提供される。本発明の一つの態様では、より未分化な状態にする細胞は、哺乳類のプライム型多能性幹細胞である。

0059

また、本発明のある態様によれば、プライム型多能性幹細胞(例えば、げっ歯類のエピブラスト幹細胞などのプライム型多能性幹細胞またはげっ歯類以外の哺乳類のプライム型多能性幹細胞)に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うことを特徴とする、該プライム型多能性幹細胞からナイーブ型多能性幹細胞を作製する方法およびこの方法により作製されたナイーブ型多能性幹細胞が提供される。細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)は、例えば、細胞が接着培養中に形成するコロニーの形態がナイーブ型多能性幹細胞様になるまで行うことができる。プライム型多能性幹細胞がナイーブ型多能性幹細胞になったかどうかは、生化学的特徴および/または生理学的特徴の変化を確認することにより判別することができる。

0060

また、本発明のある態様によれば、プライム型多能性幹細胞から接着培養において細胞が重層したコロニーを形成できる多能性幹細胞を作製する方法であって、プライム型多能性幹細胞(例えば、げっ歯類のエピブラスト幹細胞などのプライム型多能性幹細胞またはげっ歯類以外の哺乳類のプライム型多能性幹細胞)に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行うことを特徴とする方法、および、この方法により作製された多能性幹細胞が提供される。細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)は、例えば、細胞が接着培養中に形成するコロニーの形態が、細胞が重層してなる形態になるまで行うことができる。

0061

本発明では、プライム型多能性幹細胞の初期化促進剤であって、細胞死抑制剤(例えば、アポトーシス抑制剤、ネクローシス抑制剤またはオートファジー抑制剤)を含んでなる、初期化促進剤が提供される。本明細書では、「初期化促進剤」とは、プライム型多能性幹細胞の完全な初期化状態(ナイーブ状態またはグランド状態)への移行を促進する作用剤を意味する。本明細書では、「初期化促進剤」は、必ずしも完全な初期化状態を達成させる作用剤を意味しない。本発明の初期化促進剤は、プライム型多能性幹細胞をより未分化な状態にするための薬剤である。本発明の初期化促進剤は、場合によっては、プライム型多能性幹細胞を未分化な状態にしてナイーブ型多能性幹細胞を生み出すことができる。従って、本発明では、プライム型多能性幹細胞に対して用いるためのナイーブ型多能性幹細胞の誘導剤が提供される。本発明では、細胞死抑制剤としては、上記の通り、細胞の細胞死を抑制し得るあらゆる化合物を用い得る。

0062

本発明は、プライム型多能性幹細胞の初期化促進剤を製造するための細胞死抑制剤(例えば、アポトーシス抑制剤、ネクローシス抑制剤またはオートファジー抑制剤)の使用に関する。本発明はまた、プライム型多能性幹細胞に対して用いるためのナイーブ型多能性幹細胞の誘導剤を製造するための細胞死抑制剤(例えば、アポトーシス抑制剤、ネクローシス抑制剤またはオートファジー抑制剤)の使用に関する。本発明はまた、プライム型多能性幹細胞からナイーブ型幹細胞を製造するための細胞死抑制剤(例えば、アポトーシス抑制剤、ネクローシス抑制剤またはオートファジー抑制剤)の使用に関する。

0063

本発明では、キメラ形成能を有さない細胞またはキメラ形成能力を有さないと考えられてきたを胚導入細胞として用いてキメラ動物を作製することができる。キメラ形成能を有さない細胞を胚導入細胞として用いてキメラ動物を作製し、キメラ動物の体内でどのような組織に分化したかを調べることにより、胚導入細胞として用いた細胞の分化能を評価することができる。従って、本発明によれば、細胞の分化能を評価する方法であって、本発明の方法に従ってキメラ哺乳動物を作製し(但し、評価対象の細胞を非ヒト哺乳動物の胚へ導入する細胞として用いる)、作製された哺乳動物キメラ中の各組織への該細胞の寄与を調べることにより、細胞の各組織への分化能を評価する方法が提供される。胚導入細胞のキメラ哺乳動物内での分布を確認するためには、胚導入細胞は、特に限定されないが、標識されていることが好ましい。標識は、胚と胚導入細胞とを識別できるものであれば特に限定されないが、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質(CFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、ビーナス、DsRed、tdTomatoおよびこれらの改変体などの蛍光タンパク質、並びに、ルシフェラーゼなどの発光タンパク質とすることができる。例えば、胚導入細胞にこれらの蛍光タンパク質またはその改変体を強制発現させておくことで、得られたキメラ動物内での胚導入細胞に由来する細胞の分布を容易に解析することができる。分化能を評価する際には、胚導入細胞または胚を胚に導入する前に化合物処理してもよい。化合物処理の有無による分化能の変化を調べることにより、該化合物が細胞の分化能に与える影響を調べることが可能である。分化能を評価する際にはまた、胚導入細胞に特定の遺伝子を発現誘導させ、または、特定の遺伝子を発現抑制し、該遺伝子が胚導入細胞の分化に与える影響を評価してもよい。また、培養下で多能性幹細胞から作製された各種細胞は、その機能性と安全性の評価(例えば、正常な機能を有するか、細胞の癌化等のおそれがないか等の評価)を行っておくことが望ましい。本発明では、そのような細胞を胚導入細胞として用いることで、細胞の生体内での機能若しくは安全性を評価することができる。従って、本発明によれば、細胞の各組織への分化能に加えて、細胞の生体内での機能若しくは安全性を評価する方法が提供される。

0064

また、本発明の上記評価方法は、化合物のスクリーニングに用いることができる。従って、本発明によれば、細胞のキメラ形成能および/または分化能を増強または低下させる化合物のスクリーニング方法であって、
細胞と化合物を接触させることと、
該細胞を胚導入細胞として用いてキメラ動物を作製し、キメラ動物の体内での該細胞の分布を調べることにより、該細胞のキメラ形成能および/または分化能を評価することと、
評価結果に基づいて細胞のキメラ形成能および/または分化能に正の影響または負の影響を与える化合物を選択することと、
を含んでなる化合物のスクリーニング方法が提供される。

0065

本発明のスクリーニング方法は、細胞の分化誘導作用を有する化合物、細胞をより未分化な状態にする作用を有する化合物、細胞の分化運命決定作用を有する化合物などのスクリーニングに用いることができる。キメラ形成能および/または分化能の評価においては、臓器毎または組織毎に細胞のキメラ動物への寄与を調べてもよい。

0066

本発明のキメラ動物の製造方法では、プライム型多能性幹細胞、組織幹細胞、前駆細胞、体細胞または生殖細胞を胚に導入し、かつ、場合によっては該細胞に対して細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)を行ってもよいが、これ以外は通常のキメラ哺乳動物を作製する方法に従って実施することができる。具体的には、キメラ哺乳動物は、キメラ形成能を有する細胞を、同種異個体または異種個体の胚に導入し(例えばマイクロマニピュレーション技術を用いて導入することができる)、その後、細胞が導入された胚を偽妊娠した仮親の子宮に移植して発生させることにより作製することができる。キメラ動物は出産により産仔として得ることができる。キメラ動物は産仔を成長させて成体として得ることもできる。

0067

本発明では、ヒトiPS細胞をアポトーシス抑制処理することによってそのキメラ形成能を向上させることができた。従って、本発明によれば、ヒト多能性幹細胞のキメラ形成能を向上させる方法であって、ヒト多能性幹細胞に対して細胞死抑制処理を行なうことを含んでなる方法が提供される。本発明によればまた、キメラ動物を作製する方法であって、ヒト多能性幹細胞を哺乳動物の胚に導入することを含んでなり、該細胞が細胞死抑制処理されていることを特徴とする方法が提供される。ヒト多能性幹細胞としては、ヒトES細胞およびiPS細胞が挙げられ、本発明で用いることができる。本発明では、iPS細胞がキメラ形成能の高いもの(例えば、平均よりも高いもの)から選択されることにより、キメラ形成率をさらに向上させ得る。

0068

実施例1A:エピブラスト幹細胞を用いたキメラマウスの作製
本実施例では、マウスエピブラスト幹細胞(EpiSC)を用いてキメラマウスの作製を試みた。

0069

まず、実施例で用いるEpiSC株(メインポピュレーション)は、Tesar et al., Nature (2007), 448(7150): 196-199に記載の方法に基づいて作製した。すなわち、細胞は、マウスのエピブラストを切り裂いて得た細胞をトリプシンEDTA溶液で解離させた後に、フィーダー細胞として増殖不活性化処理したマウス胎児繊維芽細胞(MEF)を播種したMEFコートプレートに播種し、次いで増殖したコロニーをクローン化してEpiSC株を樹立した。

0070

EpiSCは15% Knockout血清代替物(Knockout serum replacement)、1%非必須アミノ酸(non−essential amino acid)、2mMグルタマクス(Glutamax)またはL−グルタミン、0.1mM2−メルカプトエタノール(Life Technologies社製)、および塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)(Peprotech社製)を添加したKnockout D−MEMから構成される培地中で維持した。EpiSCは、完全にコンフルエントになる前に3〜5日おきに継代した。

0071

EpiSCは、tdTomatoという蛍光タンパク質で標識した。具体的には、EpiSCは、CAGプロモーターにより発現されるtdTomato(タカラバイオ)を発現するレンチウイルス発現ベクターを感染させた。その後、注入前にFACS(MoFlo:ベックマンコールター社;Aria:ベクトン・ディキンソン社)を用いてtdTomato発現細胞を単離した。

0072

得られたEpiSC(以後、「EpiSC−tdT」ということがある)は、胚盤胞期の胚にマイクロインジェクションにより導入して、キメラ胚を作製した。具体的には、まず、BDF1(C57BL6/N;DBA1 F1)またはICR系統マウスの胚をMedium2(ミリポア社製)で培養して、8細胞期または桑実胚期とした。得られた胚をKSOM培地(ミリポア社製)中に移動し、24時間培養して胚盤胞期まで発生させた。胚に注入するEpiSCは、トリプシン処理して単一細胞にまで解離し、培地で懸濁した。顕微鏡下で、ピエゾに基づくマイクロマニピュレータを用いて透明体に穴を空け、帯下の空間に胚当り約10個のEpiSCを注入して、キメラ胚を作製した。

0073

注入後、胚を割球になるまでKSOM培地中で培養し、その後、偽妊娠のレシピエントICRメスマウスの子宮に移植した。

0074

胚は、移植10日後(正常に発生した胚では胎生期12.5日(E12.5)に対応する)に回収した。胚は、蛍光顕微鏡下で確認したところ、tdTomatoのシグナルは観察されなかった(図1Bおよび1C)。すなわち、このEpiSC−tdT株は、キメラを形成することができなかった。この結果は、従来の報告(例えば、Tesar et al., Nature (2007), 448(7150): 196-199)と整合する結果である。

0075

実施例2A:Bcl−2を強制発現させたEpiSCを用いたキメラマウスの作製
そこで、発明者らは、様々な因子を検討したところ、抗アポトーシス因子として知られるBcl−2遺伝子を導入したEpiSCは、キメラ形成能を有することを見出した。

0076

Bcl−2遺伝子としてはヒトBCL−2遺伝子(Genbank Accession No.BC027258.1)またはマウスBcl−2遺伝子(Genbank Accession No.BC095964.1)を用いた。Bcl−2遺伝子は、Tet−on all−in−one誘導性レンチウイルスベクター(AiLV;Yamaguchiら、2012)を用いてEpiSC−tdTに導入した。具体的には、Tet−on AiLVは、テトラサイクリン(tet)応答エレメントおよびリバーステトラサイクリン制御性トランス活性化因子(reverse tet transactivator(rtTA))を用いて構築した(図1A)。この系では、テトラサイクリンやその誘導体であるドキシサイクリンの添加により、細胞内でBcl−2を発現させることができる。なお、ウイルスインテグレートした細胞としていない細胞とを見分けるために、このTet−on AiLVには、ヒトユビキチンC(Ubc)プロモーターにより駆動されるrtTAにEGFPを発現可能に導入した。

0077

Tet−on−Bcl−2が導入されたEpiSC−tdT(EpiSC−tdT−TRE−Bcl−2)は、EGFPの蛍光強度を指標としてFACSにより単離した。胚盤胞に注入する24〜48時間前から、細胞を培地中で1μg/mLドキシサイクリンで処理し、Bcl−2の発現を誘導した。

0078

マイクロマニピュレータを用いて得られたEpiSC−tdT−TRE−Bcl−2をマウス胚盤胞に注入し、胚は、上述の通りにレシピエントマウスの子宮に移植した。レシピエントマウスは、胚の移植後1週間は、2mg/mLのドキシサイクリン水を与えた。E12.5にて胚を回収し、蛍光顕微鏡下で胚を観察した。すると、EpiSC−tdT−TRE−Bcl−2に由来する細胞は、胎児の全身に寄与していた(図1Dおよび1E)。すなわち、Bcl−2を強制発現させたEpiSCを胚導入細胞として用いることにより高効率のキメラ動物の作製が可能となった。

0079

このようにして得られたキメラマウスは、正常に発生し、出生した。出生後9日でマウスを解剖して観察したところ、導入したEpiSCは、観察されたすべての組織(肺、膵臓、胃、生殖系列(精巣)およびその他の臓器など)に寄与していた(図1F、1G、1Hおよび1I)。さらに、生殖系列への細胞の寄与を明確にするために、組織切片を生殖細胞のマーカーであるmouse vasa homolog(Mvh)との局在を確認したところ、組織切片上で、導入EpiSCとMvh発現細胞とが共局在を示した(図1K〜1P)。共局在は、以下のように観察した。まず、E12.5でキメラマウス胚から生殖腺を摘出し、10%パラホルムアルデヒド溶液中で2時間固定したのち、30%スクロース溶液中に一晩置いた。その後、生殖腺をO.C.T.コンパウンドテッシューテック社)に包埋したのち、凍結ブロックを作成した。凍結ブロックからクリオスタットLEICA社 CM3050S)で7μm厚の凍結切片を作成した。凍結切片に生殖細胞のマーカーであるmouse Vasa homolog(Mvh)に対する抗体(Abcam社 #13840)を一次抗体、Alexa647コンジュゲート抗ウサギIgG抗体二次抗体とした蛍光免疫染色を行い、蛍光顕微鏡(KEYENCE社 BZ−9000)にて観察した。観察の結果、EpiSC−A−TRE−BCL2細胞を移植して作製されたキメラマウス由来の生殖腺において(図1K〜M)、DsRed陽性移植細胞の一部が、Mvhを発現していた(図1Lおよび1M中の矢印)。また、EpiSC−B−TRE−BCL2細胞を移植して作製されたキメラマウス由来の生殖腺においても(図1N〜1P)、tdTomato陽性の移植細胞の一部が、Mvhを発現していた(図1Oおよび1P中の矢印)。この結果から、移植されたエピブラスト幹細胞株が生殖細胞を形成できることが示された。

0080

また、EpiSC−tdTの代わりに、EB3DR由来のEpiSC(EpiSC−A−Bcl2)やBDF−1由来のEpiSC(EpiSC−B−Bcl2)を用いてキメラマウスを作製した場合でも、キメラ形成能を確認することができ、キメラ形成率はそれぞれ、約25%および約60%であった(図1J)。このように、EpiSCは、Bcl−2を導入して強制発現させることで、キメラ形成能を向上させることができた。なお、EB3DR由来のEpiSC(EpiSC−A)とは、EB3DRES細胞に由来し、CAG発現ユニットの制御下にDsRed−T4遺伝子が連結された遺伝子を有するEpiSCである。EB3DRマウスES細胞株は丹羽博士理化学研究所 発生・再生センター)より供与を受けた。EB3DRをマウス胚に移植して作製したキメラエピブラスト胚よりEpiSCを樹立したのち、FACSを用いてDsRed発現細胞を単離した。これにtet−on−BCL2発現ベクターを導入し、Bcl−2発現細胞(EpiSC−A−TRE−Bcl−2)を調製した。

0081

マウスEpiSCの代わりに本実施例に記載の通りにBcl−2を強制発現するラットEpiSC(BLK−RT2−EpiSC−BCL2)をマウス胚盤胞に導入して異種間キメラが作製できるかを検証したところ、ラットEpiSCを胚導入細胞として用い、かつ、異種であるマウスの胚に導入しても、キメラを作製するができた(図2DおよびE)。ラットBLK−RT2−EpiSCは、Rosa26プロモーターによってtdTomatoを発現するBLK−RT2ラットES細胞(Kobayashi et al., 2012)をマウス胚盤胞胚に移植して作製した異種間キメラエピブラスト胚から実施例1Aと同様にEpiSCを樹立し、tdTomato発現細胞をFACSで選別することで得られた。これに実施例1Aと同様にtet−on−BCL2遺伝子を導入した(BLK−RT2−EpiSC−BCL2)。ラットにおいても、異種間キメラにおいても、BCL2遺伝子の発現によってキメラ形成が可能になった。

0082

本実施例で用いたBcl−2遺伝子としては、ヒト由来の遺伝子を用いたが、マウスおよびラットの中で正常に機能させることができた。従って、EpiSCにキメラ形成能を付与するには、同種由来のBcl−2遺伝子を用いる必要が無いことが明らかとなった。マウス由来のBcl−2遺伝子を導入した場合でも同様の結果であった(データ非掲載)。さらに、Bcl−2を強制発現するEpiSCは、異種間キメラ動物の作製に胚導入細胞として用いることができることも明らかとなった。

0083

実施例3A:内胚葉系列前駆細胞を用いたキメラマウスの作製
本実施例では、EpiSCよりもさらに分化した内胚葉系列前駆細胞であっても、Bcl−2遺伝子の強制発現によりキメラ動物の作製に利用できるかを検証した。

0084

細胞を内胚葉系列の細胞に代える以外は実施例1Aと同じ方法により、Bcl−2遺伝子を強制発現する内胚葉系列前駆細胞を得た。内胚葉系列前駆細胞を得るために、内在性のSox17遺伝子座にヒトCD25がノックインされ、Sox17が発現するとヒトCD25も同時に発現するように改変されたK17−5マウスESC株(Yasunagaら、2005)を用いた。この細胞株を用いると、ヒトCD25の発現を指標としてSox17の発現を評価することができ、それにより、内胚葉系列前駆細胞を簡便に単離することができる。

0085

まず、K17−5マウスESC株にK17−5細胞に実施例1Aに記載の通りにBcl−2遺伝子を発現するTet−on AiLVを感染させ、FACSを用いてEGFP発現細胞を単離して、Bcl−2遺伝子が組み込まれたK17−5−TRE−Bcl−2細胞を得た。次に、EGFPシグナルを高めるために、細胞にさらにCAGプロモーターに連結したEGFP発現レンチウイルスベクターを感染させ、より強いEGFPシグナルを伴う細胞(K17−5−TRE−Bcl−2−GFP)をFACSによって単離した。得られた細胞を増殖させた後、0.1%ウシ血清アルブミン(Life Technologies社製)および10μg/mLのアクチビンA(Peprotech社製)を添加したS−cloneSF−O3培地(EIDIA社製)中でコラーゲンIVコートプレート(IWAKI社製)に播種した。K17−5−TRE−Bcl−2−GFPは、分化培養5日後からSox17の発現を開始した(図3A)。内胚葉系列前駆細胞は、分化培養6日目に、EGFPを発現する細胞の中からヒトCD25発現細胞をソーティングすることにより単離して得た。

0086

得られた内胚葉系列前駆細胞は、Taqman Mouse Stem Cell Pluripotency Array(Life Technologies社製)を用いて製造者マニュアルに従って解析し、結果をEB3DRマウス胚性幹細胞(EB3DR mESC)およびEB3DR由来EpiSCと比較し、ES細胞の値で標準化した。その結果、K17−5−TRE−Bcl−2−GFP由来のヒトCD25陽性細胞(すなわち、Sox17を発現する細胞)は、多能性マーカー(Oct4、Sox2、Rex1)の発現は見られず、また、神経分化マーカー(Pax6およびOlig2)および中胚葉マーカーの発現も見られなかった(図3B〜2D)。しかしながら、K17−5−TRE−Bcl−2−GFP由来のCD25陽性細胞は、内胚葉マーカーを強く発現していた(図3E)。これらの結果から、K17−5−TRE−Bcl−2−GFP由来のヒトCD25陽性細胞は、多能性幹細胞ではなく、内胚葉系列前駆細胞であることが確かめられた。

0087

内胚葉系列前駆細胞を用いたキメラ形成は実施例1Aに記載の通りに行った。対照としては、K17−5−GFP発現細胞を用いた。胚はE9.5にて実施例1Aの記載の通りに分析した。Bcl−2の強制発現の無い対照細胞を用いた実験では、キメラの形成は観察されなかった(図4AおよびB)。これに対して、Bcl−2を強制発現させた内胚葉系列前駆細胞を用いた実験では、キメラの形成が観察された(図4CおよびD)。Bcl−2を強制発現させた内胚葉系列前駆細胞を用いた実験では、キメラ形成率は、3回の繰り返し実験を行ったところ、9〜58%程度であった。Bcl−2の強制発現の無い対照細胞を用いた実験では、キメラ形成率は、0%であった(n=25)。

0088

内胚葉系列前駆細胞由来の細胞の組織内分布をより詳細に解析するために、キメラ胚を固定し、凍結切片を作製して免疫組織化学染色を行った。

0089

切片は、抗Foxa2抗体(Santa Cruz、Sc−6554)を用いて内胚葉系列前駆細胞を染色し、抗GFP抗体(Life Technologies、A11122)を用いて導入された細胞を染色し、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を用いて核を染色して蛍光顕微鏡下で観察した。EGFP陽性細胞はFoxa2陽性内胚葉細胞中またはその付近に見出された(図5A〜I)。また、外胚葉マーカーであるTuj1とは共局在しなかった(データ非掲載)。

0090

この結果から、Bcl−2遺伝子を強制発現した内胚葉系列前駆細胞は、キメラ形成能を有すること、および、その細胞運命(内胚葉系列)を失わずにキメラを形成することが明らかとなった。すなわち、系列決定済みの幹細胞を用いることで、導入する細胞の組織への寄与をその系列に限定することができた。つまり、系列決定済み前駆細胞を用いることにより、望まない臓器への寄与を抑えたキメラ動物の作製が可能となったと言える。

0091

実施例4A:Bcl−xL遺伝子の強制発現の検討
本実施例では、Bcl−2遺伝子以外の遺伝子として、Bcl−2同様に抗アポトーシス機能を有するBcl−xL遺伝子(Genbank Accession No.BC089016)の導入を試みた。

0092

実施例1Aに記載された方法により、tet−on Bcl−xL AiLVベクターを構築し、EpiSCに導入した。実施例1A同様にEGFPの発現を指標としてEpiSC−TRE−Bcl−xL細胞を得た(図6A)。対照としては、CAGプロモーターにEGFPを連結させたEGFP発現レンチウイルスベクターを導入したEpiSCを用いた。細胞をマウス胚盤胞に導入し、実施例1Aの通りにレシピエントマウスの子宮に移植した。E9.5にて胚を回収して蛍光顕微鏡下で観察したところ、Bcl−xLを発現しないEpiSCはキメラを形成しなかったが、Bcl−xLを発現するEpiSCは、完全なキメラを形成していることが明らかとなった(図6B〜6E)。

0093

このことから、アポトーシスを抑制することにより、EpiSCにキメラ形成能を付与することができることが明らかとなった。

0094

哺乳類の多能性幹細胞の発生段階は、齧歯類のEpiSCの発生段階に相当することが知られていることから、本発明により、哺乳類の多能性幹細胞を用いてキメラ動物を効率的に作製する途が切り拓かれたと言える。

0095

このことは、齧歯類のEpiSCや齧歯類以外の哺乳動物のプライム型のES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を用いた場合でも、遺伝子改変動物の作製や胚盤胞補完による効率的な臓器再生(例えば、WO2008/102602)が可能となることを意味する。

0096

実施例5A:アポトーシスを抑制する処理をしたEpiSCの遺伝子発現解析
実施例2A〜4Aでは、アポトーシスを抑制する処理をした細胞は、キメラ形成能を向上させていた。そこで、本実施例では、アポトーシスを抑制する処理をしたEpiSCの遺伝子発現解析を行い、EpiSCおよびES細胞の遺伝子発現と比較した。

0097

実施例2Aに記載される通りに調製したEB3DR−EpiSC−TRE−Bcl−2を1μg/mLのドキシサイクリンで24時間以上処理して、EpiSCにBcl−2を発現させた。

0098

EB3DR−EpiSC、実施例1AにおいてTesar et al., Nature (2007), 448(7150): 196-199により報告されたマウスのEpiSCとESCの遺伝子発現データ(GSE7866)とを元に、実施例1Aで樹立したEpiSC−AおよびEpiSC−A−TRE−BCL2株の遺伝子発現プロファイルを網羅的に比較し、クラスター解析を行った。EB3DR−EpiSC、および3種のマウスES細胞株(mES_ESF58/1、mES_ESF175/1およびmES_ESF122)を比較対照として遺伝子発現プロファイルのクラスター解析を行った。

0099

遺伝子発現プロファイルは、以下のように行った。まず、EpiSC−AまたはEpiSC−A−TRE−BCL2に、ドキシサイクリン処理を行ったもの、ドキシサイクリンを除去後24時間経過したもの、ドキシサイクリンを除去後48時間経過したもの、の各条件の細胞からRNeasy mini kit(QIAGEN社製)により全RNAを抽出した。このRNA 100ngを鋳型とし、Agilent社が推奨する一色法のプロトコルに準じてラベル化cRNAを得た。このcRNAをマイクロアレイチップAgilent−014868 Whole Mouse Genome Microarray 4x44K(Agilent社 G4122F)とハイブリダイゼーションさせ、Agilent DNA microarray scannerでスキャニングを行った。得られたデータはアレイ間ノーマライズを行い、GSE7866と比較できるようにした。解析にはGenespring GX 11.5.1(Agilent社)を用いた。GSE7866のマウスES細胞の遺伝子発現データセット(mES_ESF58/1、mES_ESF175/1、mES_ESF122;図7中mESC−1、mESC−2、mESC−3に対応)とマウスEpiSCの遺伝子発現データセット(EpiSC−5、EpiSC−7_P20、EpiSC−7_P25;図7中mEpiSC−1、mEpiSC−2、mEpiSC−3に対応)との間で発現量に10倍以上の差があった遺伝子群について、GSE7866、EpiSC−A、EpiSC−A−TRE−BCL2の各条件との間でクラスター解析を行った。

0100

その結果、Bcl−2を強制発現するEB3DR−EpiSC−TRE−Bcl−2は、EB3DR−EpiSCとは、異なるクラスターに分類された(図7)。ドキシサイクリン非存在下で培養したEB3DR−EpiSC−TRE−Bcl−2でもBcl−2の発現がリークしており、ドキシサイクリンの存在よりもBCL2導入の影響が大きく、EpiSCの遺伝子発現パターンをES細胞よりに変化させていることがわかった(図7)。

0101

次に、比較する遺伝子を6つに絞り込んで各遺伝子の発現量の詳細を比較した(表1および図8)。

0102

0103

表1および図8に示される通り、Rax1、Fgf5、TおよびGscなどにおいて、Bcl−2を強制発現するEB3DR−EpiSC−TRE−Bcl−2は、EpiSCとES細胞との中間的な値を示した。このことから、EpiSCは、Bcl−2を強制発現したことにより、より未分化な状態へと移行したことが示唆された。

0104

さらに、Bcl−2強制発現後のEpiSCのCD31(PECAM1)の発現を分析した。CD31は、ES細胞では発現するが、EpiSCでは発現が見られないことで知られた細胞表面マーカーである。APCコンジュゲート−ラット−抗マウスCD31抗体(eBioscience社製, 17-0311)を用いてCD31の発現量をFACSにより確認した。その結果、Bcl−2を強制発現させたEpiSC(EpiSC−AおよびB)では2種類ともCD31の発現を高発現する細胞が確認された(図9)。このことから、Bcl−2を強制発現させたEpiSCは生化学的にES細胞の特徴を示すことが明らかとなった。

0105

さらに、APCコンジュゲート−ラット−抗マウスCD31抗体(eBioscience社製, 17-0311)を用いてCD31を発現するEpiSCをFACSにより選別し(図9の枠内)、前述のEpiSCの培地中で接着培養したところ、播種後2日目には細胞質が少なく、さらに、細胞間の境界不明瞭立体的なコロニーを形成した(図10C)。このコロニー形状は、ES細胞が形成するコロニーに特徴的な形状である(図10Aおよび10C)。なお、EpiSCおよびBcl−2を強制発現したにも関わらずCD31陰性のEpiSCは、細胞質が比較的多く、また、扁平なコロニーを形成した(図10BおよびD)。従って、Bcl−2を強制発現させた細胞のうちCD31を高発現する細胞は、生理学的にES細胞の特徴を示すことが明らかとなった。

0106

Bcl−2を強制発現させた細胞のうちCD31を高発現する細胞は、接着培養において細胞が重層したコロニーを形成できる多能性幹細胞に変化したことから、ES細胞(すなわち、ナイーブ型多能性幹細胞)に初期化した可能性がある。

0107

実施例1B:アポトーシス抑制因子の導入によるキメラ動物の作製
上記実施例では、アポトーシス抑制因子として、Bcl−2またはBcl−xLを用いたが、本実施例では、さらにXiapおよびcrmAをアポトーシス抑制因子として細胞に強制発現させ、細胞のキメラ形成能を確認した。

0108

XiapはマウスのXiapを用い、crmAは牛痘ウイルス由来のcrmAを用いた。実施例1に記載された方法により、tet−on Xiap AiLVベクターまたはtet−on crmA AiLVベクターを構築し、それぞれをEpiSCまたは実施例3Aで作製した内胚葉系列前駆細胞に導入した。これらアポトーシス抑制因子の導入の効果を明らかにするため、それぞれの未処理細胞(すなわち、遺伝子導入前のEpiSCまたは内胚葉系列前駆細胞)と比較した。

0109

それぞれのキメラ形成率を確認したところ、結果は、図11AおよびBに示される通りであった。図11AおよびBに示されるように、いずれかのアポトーシス抑制因子を導入した細胞も、キメラ形成能を大きく向上させた。また、未処理細胞は、キメラ形成能を有しないと考えられてきた細胞であったが、意外にもキメラ動物に寄与することができた。また、未処理細胞も、寄与した細胞は、内胚葉系列に限られていた(図11C〜F)。

0110

この結果から、アポトーシス抑制処理が細胞のキメラ形成能を向上させることがさらに確認できた。また、従来キメラ形成能が無いと信じられてきた上記細胞が、アポトーシス抑制処理の有無に関わらず、意外にもキメラ形成能を有することが明らかとなった。さらに、内胚葉系列前駆細胞にBcl−2、Bcl−xLまたはcrmAを強制発現させると、そのキメラ形成能が向上し、内胚葉系列前駆細胞は、その細胞運命を失わずにキメラを形成することが再確認された。

0111

従来、キメラ形成能を有するとされる細胞は極めて限られ、仮に多能性幹細胞であってもキメラ形成能を有しないものが存在することが知られていた。そして、組織幹細胞、組織前駆細胞、体細胞または生殖細胞などの細胞は、多能性幹細胞よりも発生段階が進んでいることから、キメラ形成能を当然有しないと考えられてきた。ところが、今回の実験により、組織前駆細胞であり、かつ、系列決定済み前駆細胞である、内胚葉系列前駆細胞が、割合は低いながらもキメラ形成能を有していることが明らかとなった。

0112

また、キメラ形成能は発生段階が進むにつれて失われるものであることから、内胚葉系列前駆細胞よりも発生段階が早い細胞である、プライム型多能性幹細胞や組織幹細胞もキメラ形成能を有していると考えられる。さらには、体細胞や生殖細胞も、キメラ形成能を有していると考えられる。

0113

実施例2B:細胞死抵抗性のエピブラスト細胞を導入することによるキメラ動物の作製
実施例1Bでは、アポトーシス抑制処理をしない場合でも、割合は低いながら内胚葉系列前駆細胞がキメラに寄与した。エピブラスト幹細胞においても同様の結果が得られるかを確認するため、本実施例では、アポトーシス抑制処理がなされていないエピブラスト幹細胞のキメラ形成能を検証した。

0114

実施例1Aと同様の方法でEpiSC−tdTを作製し、維持培養した株(以下、「EpiSC−sub」という)を、アポトーシス抑制処理せずに胚に導入してキメラを形成させた。

0115

具体的には、EpiSC−subを、実施例1に記載された方法でマウスの胚盤胞に導入し、キメラ個体が形成されるか否かを確認した。すると、驚くべきことに割合は低いながらEpiSC−subを導入した胚からは、キメラ動物を得ることができた(図12CおよびD)。キメラ形成率は、約10%であった。

0116

EpiSC−subの細胞死抵抗性を検証した。多能性幹細胞は、単一細胞化すると細胞死を起こして死滅することが知られている(Ohgushi M. et al., Cell Stem Cell, 7: 225-239, 2010)。そこで、EpiSC−subを単一細胞化して、その後、細胞を接着培養し、コロニー形成率を確認した。

0117

具体的にはまず、トリプシンでEpiSC−subおよびmEpiSC−B(対照)をそれぞれ処理して単一細胞化した。その後、セルソーターFACSAria(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、MEFフィーダーでコートした96穴プレートの1穴あたり1細胞を播種した。7−10日間の培養の後に、コロニー形成が認められたウェルの数を数え、コロニー形成率を求めた。その結果、EpiSC−subは高いコロニー形成率を示した(約65%)。この実験により、EpiSC−subは、細胞死抵抗性のEpiSCであることが分かった。一方、EpiSC−AおよびEpiSC−Bでは、単一細胞化後にはコロニー形成能はほとんど見られず、キメラ形成能も示さなかった。

0118

実施例2Bからは、エピブラスト幹細胞には、高いキメラ形成能を有するものが存在することが明らかとなった。また、単一細胞化後にコロニー形成能を有する細胞(すなわち、細胞死抵抗性の細胞)を用いた場合には、アポトーシス抑制処理をしなくてもキメラ形成に寄与することが明らかとなった。また、細胞の細胞死抵抗性を向上させることにより、細胞のキメラ形成能を向上させることができると考えられた。

0119

実施例3B:始原生殖細胞を導入することによるキメラ動物の作製
本実施例では、内胚葉前駆細胞と同様に、始原生殖細胞においても細胞死抑制によってキメラの作製が可能になるかどうかを検証し、さらに導入した始原生殖細胞の生殖細胞への寄与を確認した。

0120

まず、われわれはマウスES細胞に対して、実施例1Aに記載の通りにBcl−2遺伝子を発現するTet−on AiLVを感染させ、BCL2誘導性マウスES細胞を作製した。次に、分化誘導に先立ち、CAGプロモーターに作動可能に連結させたtdTomatoを含むベクター(CAG−tdTomatoベクター)を導入して、細胞を蛍光標識した。その後、正常なES細胞とBCL2誘導性マウスES細胞とをそれぞれ始原生殖細胞様細胞PGCLC)に分化誘導した。PGCLCの分化誘導の条件は、Hayashi et al., Cell, 2011に記載の分化条件とした。これらの細胞は分化誘導に先立ち、CAGプロモーターによってtdTomatoを恒常的に発現するレンチウイルスベクターで標識している。また、分化誘導の後に、SSEA−1およびCD61を共に発現する細胞を始原生殖細胞としてセルソーターで分離した(図13A、破線部)。

0121

このようにして選別された始原生殖細胞はマウス胚盤胞に移植され、胚はレシピエントの子宮に移植された。10日後(胚の発生段階は12.5日胚相当)、胚を解析した。その結果、正常なES細胞から作製された始原生殖細胞様細胞はキメラをほとんど形成しなかったのに対し、Bcl−2を導入した始原生殖細胞は高頻度でキメラを形成した(図13B)。摘出された生殖腺では、Bcl−2を発現させなかった細胞では、キメラ形成は確認されなかったが(図13CおよびD)、Bcl−2を強制発現させた細胞では、移植細胞が高いキメリズムを示した(図13EおよびF)。なお、図13CおよびEは、明視野像である。さらに、生殖腺から凍結切片を作製して蛍光免疫染色法により詳細に移植細胞の局在を検証したところ、生殖細胞のマーカーであるVasa(図13G)とtdTomatoの発現(図13H)は、共染色されることが示された(図13GおよびF中の矢じり)。これにより、Bcl−2の強制発現によって細胞死を抑制した始原生殖細胞様細胞を胚に導入しても、高頻度にキメラ形成が可能になることが示された。また、導入された始原生殖細胞様細胞は、生殖系列の細胞に効果的に寄与した。

0122

実施例4B:アポトーシス抑制処理したヒトiPS細胞を導入することによるキメラ動物の作製
本実施例では、ヒトiPS細胞のキメラ形成能に対する、細胞死抑制処理の効果を検証した。

0123

まず、ヒトiPS細胞は、ヒト末梢血由来細胞にセンダイウィルスを用いて初期化因子を導入して作製した。具体的には、ヒト末梢血比重遠心して得た単核細胞OCT4,SOX2,KLF4,MYCをポリシストロニックに発現するセンダイウィルスを導入し、MEFフィーダーコートプレートに播種したのち、2週間ほど培養を続けて、ヒトiPS細胞を得た。次に、ヒトiPS細胞はコロニーごとに分けて株化したのち、細胞質にsiRNAを導入することでセンダイウィルスベクターを取り除いた。このようにして得られたiPS細胞は、外来性遺伝子を有さない。ヒトiPS細胞は、CAGプロモーターに作動可能に連結されたtdTomatoを恒常的に発現するレンチウイルスベクターにより蛍光標識した。

0124

次に、得られたiPS細胞に、実施例1Aに記載の通りにBcl−2遺伝子を発現するTet−on AiLVを感染させ、ドキシサイクリン依存的にBcl−2を発現するヒトiPS細胞を得た。対照としては、Bcl−2遺伝子を導入していないヒトiPS細胞を用いた。

0125

1μg/mLのドキシサイクリンで10時間以上処理して、ヒトiPS細胞にBcl−2を発現させてから、細胞を胚盤胞期のマウス胚に移植して培養下で胚をエピブラスト期相当の発生段階まで発生させた。対照群の胚には、Bcl−2遺伝子を導入していないヒトiPS細胞を導入した。移植後7日目までの胚中の移植細胞の分布を蛍光顕微鏡により観察した。

0126

その結果、対照群の胚では、iPS細胞は胚中からすぐに消失したが(図14G、H、KおよびL)、Bcl−2を発現させたiPS細胞は、マウス胚の発生段階が進んでも長期間にわたって胚中で生存していた(図14E、F、I、J、MおよびN)。すなわち、ヒトiPS細胞を胚導入細胞として用いた場合でも、細胞をアポトーシス抑制処理することにより細胞はキメラに寄与した。このことは、ヒトiPS細胞が、アポトーシス抑制処理により高いキメラ形成能を得たことを意味する。

0127

実施例4C:アポトーシス抑制処理したマーモセットES細胞を導入することによるキメラ動物の作製
本実施例では、マーモセットES細胞のキメラ形成能に対する、細胞死抑制処理の効果を検証した。

0128

まず、マーモセットからES細胞を常法により取得した(Sasaki et al, 2005, Stem Cells)。次に、ヒトBcl−2遺伝子を実施例1Aに記載の作製方法にならってtet−on AiLVを用いて強制発現させたマーモセットES細胞を作製した(試験群)。マウス胚の細胞と区別するために、マーモセットES細胞は、実施例3Bに記載の方法にならってCAG−tdTomatoベクターを導入して蛍光標識した。対照としては、単にCAG−tdTomatoベクターを導入して蛍光標識したマーモセットES細胞を用いた。

0129

Bcl−2発現マーモセットES細胞は、移植10時間前から最終濃度1μg/mLのドキシサイクリンで処理してBcl−2を発現させた。マーモセットES細胞をマウス胚盤胞に移植してキメラ胚を作製し、得られたキメラ胚をレシピエントマウスの子宮に移植した。その後、試験群および対照のいずれの場合も、解析までレシピエントマウスには2mg/mLのドキシサイクリン水溶液を与えて、Bcl−2の発現を維持させた。移植4日後(マウス胚の発生段階で妊娠6.5日相当)にマウス胚を解析した。

0130

結果は、図15に示される通りであった。図15によれば、Bcl−2を導入しなかった対照ES細胞を導入したマウス胚では、マーモセットES細胞が寄与していることを示す蛍光は観察されなかったが(図15AおよびB)、Bcl−2を強制発現させたマーモセットES細胞では、マーモセットES細胞が胚に寄与し、キメラ胚を形成しているようすが観察された(図15C〜F)。また、Bcl−2を強制発現させたマーモセットES細胞を用いると、キメラ形成率が約58%(3回の実験の平均、n=38)であり、非常に高いキメラ形成率を示した。なお、対照ES細胞を用いるとキメラの形成は観察されなかった(2回の実験の平均、n=31)。さらに、PCR法によりマウス胚中にマーモセット由来の細胞が寄与していることを確認した。具体的には、それぞれのβアクチン遺伝子(ACTB遺伝子)を特異的に増殖するプライマーを設計しPCR法によりキメラが形成されていることを確認した。マウスACTB遺伝子増幅用のプライマーとしては、CAGCTTCTTTGCAGCTCCTTとCTTCTCCATGTCGTCCCAGTを用い、マーモセットACTB遺伝子のプライマーとしてはGGCATCCTGACCCTGAAGTAとAGAGGCGTACAAGGAAAGCAを用いた。すると、図15Gに示されるように、取り出したマウス胚からマーモセットGAPDHの存在が確認され、導入したES細胞が確かにマウス胚中に寄与していることが明らかとなった。

0131

実施例4Bおよび4Cの結果は、ヒトやマーモセットなどのげっ歯類以外の哺乳動物の多能性幹細胞(例えば、ES細胞またはiPS細胞)に対しても、アポトーシス抑制処理がキメラ形成能を向上させる上で有効であることを示すものである。

0132

実施例4Bおよび4Cの結果はまた、ヒトiPS細胞またはマーモセットES細胞をマウスの胚に導入してもキメラ動物が得られたというものである。ヒトまたはマーモセットとマウスとでは、種が大きく異なる点は特に注目されるべき点である。より近縁の種同士で異種間のキメラ動物が得られるであろうことは、当業者であればこの結果に基づき十分に理解できる。

0133

考察
実施例2A〜4A、1Bおよび2Bにおいてキメラ形成能の低い細胞またはキメラ形成能を有しない細胞を用いて、高効率にキメラ動物を作製できるようになった理由としては以下のようなことが考えられる。本実施例の結果を考慮すると、発生過程の細胞は、異なる時間腔得間的環境、例えば、本来の発生運命と異なる領域に置かれた際に細胞死またはアポトーシスを起こしている可能性が示唆される。そのため、本発明で観察された現象は、細胞のアポトーシスを抑制することにより、細胞は胚発生の段階が適合する時期まで生き延びることができるのではないかと考えられる。

0134

実施例3Aおよび3Cによれば、発生段階の進んだ系列決定済み前駆細胞ですらキメラ動物を形成した。このことから、細胞死抑制処理(例えば、アポトーシス抑制処理)により実施例3Aおよび3Cで用いた系列決定済み前駆細胞を許容しうる程度に発生するまで細胞を生存させておくことができれば、細胞は胚の環境中で組織に寄与することができるようになるのではないかと考えられる。

0135

さらに本発明では、プライム型多能性幹細胞であるEpiSCからナイーブ型多能性幹細胞を得ることができた。従って、同様にげっ歯類以外の哺乳動物のプライム型多能性幹細胞からもナイーブ型多能性幹細胞が得られると考えられる。

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