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技術 耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼およびその製造方法

出願人 日立金属株式会社
発明者 福丸大志郎福丸麻里子菅野隆一朗中津英司
出願日 2011年9月29日 (9年3ヶ月経過) 出願番号 2012-550755
公開日 2014年6月5日 (6年6ヶ月経過) 公開番号 WO2012-090562
状態 特許登録済
技術分野 磁性鉄合金の熱処理 物品の熱処理
主要キーワード 耐発錆性 鏡面仕上げ性 磨き性 焼入れ焼戻し熱処理 研磨仕上 微細ピット 金型製品 プラスチック成形用金型
関連する未来課題
重要な関連分野

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課題・解決手段

金型用鋼としての基本特性満足した上で、さらに優れた耐発錆性熱伝導性両立した金型用鋼およびその製造方法を提供する。 質量%で、C:0.07〜0.15%、Si:0超〜0.8%未満、Mn:0超〜1.5%未満、P:0.05%未満、S:0.06%未満、Ni:0超〜0.9%未満、Cr:2.9〜4.9%、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0超〜0.8%未満、V:0超〜0.15%未満、Cu:0.25〜1.8%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼であって、硬さが30〜42HRCの金型用鋼である。不可避的不純物であるAlは0.1%未満、Nは0.06%未満、Oは0.005%未満に規制することが好ましい。前記の硬さは、焼入れと、530℃以上の焼戻しによって、得ることができる。

概要

背景

従来、特にプラスチック成形に用いられる金型用鋼には、主に、
(1)鏡面仕上げ性が良く、ピンホールやその他微細ピット発生傾向が小さいこと、
(2)シボ加工性が良いこと、
(3)強度、耐摩耗性靭性が良いこと、
(4)被切削性が良いこと、
(5)耐食性耐発錆性が良いこと、
(6)熱伝導性が良いこと、
などが要求される。

なかでも、耐発錆性と熱伝導性の向上は、最近の金型用鋼にとって重要な要求特性となっている。つまり、生産の合間やメンテナンスといった金型未使用時には、結露によって金型表面に錆が発生する問題がある。金型表面に錆が発生すると、再度の使用を開始する際には磨き等の錆を落とす工程が必須となり、生産性低下要因となる。よって、金型用鋼には耐発錆性の向上が多く求められている。また、金型用鋼の熱伝導性の向上は、加熱と冷却を繰り返すプラスチック成形において、その熱サイクルを短縮して生産性を上げるための重要な改善特性である。

プラスチック成形に用いられる金型用鋼としては、質量%(以下、%と表記)で、C:0.075〜0.15%、Si:1.0%以下、Mn:1〜3%、Cr:2〜5%、Ni:1〜4%(但し、Mn+Cr+Ni≧6)、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0.1〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.02%以下、残部Feおよび不純物でなる合金鋼が提案されている(特許文献1)。
また、C:0.10〜0.25%、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、Ni:0.60〜1.50%、Cr:1.00超〜2.50%、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):1.00%以下、V:0.03〜0.15%、Cu:0.50〜2.00%、S:0.05%以下を含有し、Alは0.10%以下、Nは0.06%以下、Oは0.005%以下に規制され、残部はFeおよび不可避的不純物組成でなる金型用鋼が提案されている(特許文献2)。

概要

金型用鋼としての基本特性満足した上で、さらに優れた耐発錆性と熱伝導性を両立した金型用鋼およびその製造方法を提供する。 質量%で、C:0.07〜0.15%、Si:0超〜0.8%未満、Mn:0超〜1.5%未満、P:0.05%未満、S:0.06%未満、Ni:0超〜0.9%未満、Cr:2.9〜4.9%、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0超〜0.8%未満、V:0超〜0.15%未満、Cu:0.25〜1.8%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼であって、硬さが30〜42HRCの金型用鋼である。不可避的不純物であるAlは0.1%未満、Nは0.06%未満、Oは0.005%未満に規制することが好ましい。前記の硬さは、焼入れと、530℃以上の焼戻しによって、得ることができる。

目的

このように、熱伝導性と耐発錆性は相反する特性であることから、これらの特性を高いレベル兼備した金型用鋼の提供が望まれていた

効果

実績

技術文献被引用数
2件
牽制数
1件

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請求項1

質量%で、C:0.07〜0.15%、Si:0超〜0.8%未満、Mn:0超〜1.5%未満、P:0.05%未満、S:0.06%未満、Ni:0超〜0.9%未満、Cr:2.9〜4.9%、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0超〜0.8%未満、V:0超〜0.15%未満、Cu:0.25〜1.8%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼であって、硬さが30〜42HRCであることを特徴とする耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼

請求項2

鋼の組成は、質量%による下記の式1および式2による値がそれぞれ100以上を満たすことを特徴とする請求項1に記載の耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼。式1:85−60.1×[C%]−115×[S%]+0.1×[Ni%]+7.17×[Cr%]+2.44×[(Mo+1/2W)%]式2:140+30.9×[C%]−17.8×[Si%]−10.5×[Mn%]−12.4×[Ni%]−3.68×[Cr%]−1.26×[(Mo+1/2W)%]−3.68[Cu%]ここで、[]括弧内は各元素含有量(質量%)を示す。

請求項3

不可避的不純物であるAlは0.1%未満、Nは0.06%未満、Oは0.005%未満に規制することを特徴とする請求項1または2に記載の耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼。

請求項4

質量%で、C:0.07〜0.15%、Si:0超〜0.8%未満、Mn:0超〜1.5%未満、P:0.05%未満、S:0.06%未満、Ni:0超〜0.9%未満、Cr:2.9〜4.9%、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0超〜0.8%未満、V:0超〜0.15%未満、Cu:0.25〜1.8%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼を、焼入れと、530℃以上の温度による焼戻しによって、硬さを30〜42HRCに調整することを特徴とする耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼の製造方法。

請求項5

鋼の組成は、質量%による下記の式1および式2による値がそれぞれ100以上を満たすことを特徴とする請求項4に記載の耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼の製造方法。式1:85−60.1×[C%]−115×[S%]+0.1×[Ni%]+7.17×[Cr%]+2.44×[(Mo+1/2W)%]式2:140+30.9×[C%]−17.8×[Si%]−10.5×[Mn%]−12.4×[Ni%]−3.68×[Cr%]−1.26×[(Mo+1/2W)%]−3.68[Cu%]ここで、[]括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す。

請求項6

不可避的不純物であるAlは0.1%未満、Nは0.06%未満、Oは0.005%未満に規制することを特徴とする請求項4または5に記載の耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼の製造方法。

技術分野

0001

本発明は、優れた耐発錆性熱伝導性兼備し、主としてプラスチック成形用途に最適な金型用鋼およびその製造方法に関するものである。

背景技術

0002

従来、特にプラスチック成形に用いられる金型用鋼には、主に、
(1)鏡面仕上げ性が良く、ピンホールやその他微細ピット発生傾向が小さいこと、
(2)シボ加工性が良いこと、
(3)強度、耐摩耗性靭性が良いこと、
(4)被切削性が良いこと、
(5)耐食性、耐発錆性が良いこと、
(6)熱伝導性が良いこと、
などが要求される。

0003

なかでも、耐発錆性と熱伝導性の向上は、最近の金型用鋼にとって重要な要求特性となっている。つまり、生産の合間やメンテナンスといった金型未使用時には、結露によって金型表面に錆が発生する問題がある。金型表面に錆が発生すると、再度の使用を開始する際には磨き等の錆を落とす工程が必須となり、生産性低下要因となる。よって、金型用鋼には耐発錆性の向上が多く求められている。また、金型用鋼の熱伝導性の向上は、加熱と冷却を繰り返すプラスチック成形において、その熱サイクルを短縮して生産性を上げるための重要な改善特性である。

0004

プラスチック成形に用いられる金型用鋼としては、質量%(以下、%と表記)で、C:0.075〜0.15%、Si:1.0%以下、Mn:1〜3%、Cr:2〜5%、Ni:1〜4%(但し、Mn+Cr+Ni≧6)、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0.1〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.02%以下、残部Feおよび不純物でなる合金鋼が提案されている(特許文献1)。
また、C:0.10〜0.25%、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、Ni:0.60〜1.50%、Cr:1.00超〜2.50%、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):1.00%以下、V:0.03〜0.15%、Cu:0.50〜2.00%、S:0.05%以下を含有し、Alは0.10%以下、Nは0.06%以下、Oは0.005%以下に規制され、残部はFeおよび不可避的不純物組成でなる金型用鋼が提案されている(特許文献2)。

先行技術

0005

特表2001−505617号公報
特開2007−146278号公報

発明が解決しようとする課題

0006

2〜5%のCrを含む特許文献1の金型用鋼は、耐発錆性に優れるものである。しかし、熱伝導率が低いことから、成形条件によっては熱サイクル時間が増加して、生産性を下げる懸念があった。一方、Crが2.5%以下である特許文献2の金型用鋼は、高い熱伝導率を有し、熱サイクル時間の短縮が可能である。しかし、特許文献1の金型用鋼に比して、耐発錆性の向上に余地があるものである。このように、熱伝導性と耐発錆性は相反する特性であることから、これらの特性を高いレベルで兼備した金型用鋼の提供が望まれていた。

0007

本発明の目的は、優れた熱伝導性と耐発錆性を兼備した金型用鋼と、この金型用鋼を得るのに好ましい製造方法を提供することである。

課題を解決するための手段

0008

本発明者は、金型用鋼の成分組成について見直した。その結果、従来の金型用鋼を構成していた多くの元素種であっても、それらは耐発錆性と熱伝導性に対して相互かつ複雑に作用していることを確認した。そして、上記の両特性を兼備させることを目的として、多くの元素種の中でも特に影響度の大きい因子を抽出すると共に、これらの含有量の間には最適な関係があることも突きとめたことで、本発明に到達した。

0009

すなわち、本発明は、質量%で、C:0.07〜0.15%、Si:0超〜0.8%未満、Mn:0超〜1.5%未満、P:0.05%未満、S:0.06%未満、Ni:0超〜0.9%未満、Cr:2.9〜4.9%、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0超〜0.8%未満、V:0超〜0.15%未満、Cu:0.25〜1.8%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼であって、硬さが30〜42HRCであることを特徴とする耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼である。不可避的不純物であるAlは0.1%未満、Nは0.06%未満、Oは0.005%未満に規制することが好ましい。

0010

また、本発明は、質量%で、C:0.07〜0.15%、Si:0超〜0.8%未満、Mn:0超〜1.5%未満、P:0.05%未満、S:0.06%未満、Ni:0超〜0.9%未満、Cr:2.9〜4.9%、MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0超〜0.8%未満、V:0超〜0.15%未満、Cu:0.25〜1.8%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成の鋼を、焼入れと、530℃以上の温度による焼戻しによって、硬さを30〜42HRCに調整することを特徴とする耐発錆性および熱伝導性に優れた金型用鋼の製造方法である。不可避的不純物であるAlは0.1%未満、Nは0.06%未満、Oは0.005%未満に規制することが好ましい。

0011

そして好ましくは、上記の鋼の組成が、質量%による下記の式1および式2による値でそれぞれ100以上を満たす金型用鋼およびその製造方法である。
式1:85−60.1×[C%]−115×[S%]+0.1×[Ni%]+7.17×[Cr%]+2.44×[(Mo+1/2W)%]
式2:140+30.9×[C%]−17.8×[Si%]−10.5×[Mn%]−12.4×[Ni%]−3.68×[Cr%]−1.26×[(Mo+1/2W)%]−3.68[Cu%]
ここで、[]括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す。

発明の効果

0012

本発明であれば、従来個々の金型用鋼でしか達成できなかった優れた耐発錆性と熱伝導性を、高い再現性を持って同時に実現することができる。よって、金型の技術向上にとって有効な技術となる。

0013

本発明の特徴は、金型用鋼の構成元素として、耐発錆性および熱伝導性に大きな影響を及ぼす元素種を特定できたところにある。すなわち、C、S、Ni、Cr、Mo、Wは耐発錆性に大きな影響を及ぼし、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Cuは熱伝導性に大きな影響を及ぼす元素種である。この特定によって、優れた耐発錆性を有する特許文献1に記載の金型用鋼に対しては、C、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、W、Cu量を見直すことで、熱伝導性の向上が達成できる。また、優れた熱伝導性を有する特許文献2に記載の金型用鋼に対しては、C、S、Ni、Cr、Mo、Wの含有量を見直すことで、耐発錆性の向上が達成できる。

0014

そして、本発明の更なる特徴は、上記の特定できた元素種の、耐発錆性および熱伝導性のそれぞれに与える影響度をも定量化できたところにある。この影響度の定量化によって、調整の目標とすべき金型用鋼の最適な成分組成はより明確となることから、耐発錆性と熱伝導性の一層の向上が達成できる。以下、構成要件ごとに説明する。

0015

・C:0.07〜0.15%
Cは、焼入性を高め、かつ焼戻しにおいては、Cr、Mo(W)、V炭化物析出による組織強化をもたらす元素であって、後述する30〜42HRCの焼入れ焼戻し硬さを維持するために必要な、基本的添加元素である。そして、切削加工時などに発生する加工歪を抑制するためには、鋼中の残留応力を低減しておくことが望ましく、このためには上記の焼戻し温度は高くできることが必要である。そこで、本発明鋼では、例えば530℃以上の焼戻しでも30HRC以上の硬さを安定して達成できるだけの、十分なC量を添加することが重要である。

0016

しかし、添加量の増加に伴っては、Cr炭化物の形成によって基地中の固溶Crが減少すると、耐発錆性が低下するため、本発明では0.15%以下とする。一方、固溶Crは金型用鋼の熱伝導率を下げる大きな要因となることから、Cr炭化物を形成するCは、少なすぎると金型用鋼の熱伝導性を劣化する。そして、必要な硬さも得られなくなるため、0.07%以上とする。好ましくは、0.08%以上および/または0.13%以下である。より好ましくは、0.1%以上および/または0.12%以下である。0.1%以下が、更に好ましい。

0017

・Si:0超〜0.8%未満
Siは、例えばプラスチック成形時の被成形材から発生するガス等、金型使用時の雰囲気に対する耐食性を高める元素である。しかし、多すぎると金型用鋼の有する熱伝導率が著しく低下し、熱伝導性が劣化する。また、Siを低減すると機械的特性の異方性が軽減され、縞状偏析も低減されて、優れた鏡面加工性が得られる。よって、本発明では0.8%未満とする。好ましくは、0.1%以上および/または0.6%以下である。より好ましくは、0.15%以上および/または0.5%以下である。更に好ましくは、0.2%以上である。0.25%以上が、特に好ましい。

0018

・Mn:0超〜1.5%未満
Mnは、焼入性を高め、またフェライトの生成を抑制し、適度の焼入れ焼戻し硬さを付与する元素である。しかし、多すぎると熱伝導性を著しく損なうだけでなく、後述のSと結合して非金属介在物MnSを生成して、錆やピンホール発生の要因ともなる。また基地の粘さを上げて被切削性を低下させるので、1.5%未満とする。好ましくは、0.1%以上および/または1.0%以下である。より好ましくは、0.2%以上および/または0.8%以下である。0.3%以上が、更に好ましい。

0019

・P:0.05%未満
Pは、多すぎると熱間加工性や靭性を低下させる元素である。よって、本発明では、0.05%未満とする。好ましくは、0.03%以下である。

0020

・S:0.06%未満
Sは、非金属介在物のMnSとして存在させることで、被切削性の向上に大きな効果がある。しかし、多量のMnSの存在は、機械的特性、特に靭性の異方性を助長するなど、金型自体の性能を低下させる要因となる。そして、MnSは錆やピンホール発生の起点ともなり、これは本発明鋼にとっての重要な特性である耐発錆性や研磨仕上性を大きく劣化させる。よって、Sは添加する場合であっても、0.06%未満に限定する。0.035%以下が好ましい。なお、好ましい下限は0.005%以上である。

0021

・Ni:0超〜0.9%未満
Niも、本発明鋼の焼入れ性を高め、またフェライトの生成を抑制する。そして、本発明鋼の耐発錆性を向上する元素である。しかし、多すぎると熱伝導率を低下するだけでなく、基地の粘さを上げて被切削性も低下させる。よって、Niは0.9%未満とする。好ましくは、0.1%以上および/または0.6%以下である。より好ましくは0.15%以上であり、更に好ましくは0.2%以上である。

0022

・Cr:2.9〜4.9%
Crは、焼戻し処理によって微細炭化物を析出、凝集させ、本発明鋼の強度を高める元素である。そして一方では、基地に固溶することで、本発明鋼の耐発錆性を高める元素である。更に窒化処理を行う場合には、窒化層の硬さを高める効果も有する。しかし、多すぎると、上記の固溶Cr量が増加して、熱伝導率を著しく低下させるだけでなく,軟化抵抗も低下させる。よって、本発明のCrは2.9〜4.9%とする。好ましくは、3.5%以上および/または4.8%以下である。3.8%以上が、更に好ましい。

0023

・MoとWは単独または複合で(Mo+1/2W):0超〜0.8%未満
Mo、Wは、焼戻し処理時に微細炭化物を析出、凝集させて、本発明鋼の強度を向上する。また、焼戻し時の軟化抵抗を大きくする。そしてCrと同様に、基地に固溶することで、本発明鋼の耐発錆性を高める元素であることから、単独または複合で含有する元素である。更に、MoやWの一部は、金型表面の酸化皮膜中に一部固溶することで、金型使用中の、例えばプラスチックから発生する腐食性ガスに対しての耐食性を向上する作用効果も有する。しかし多すぎると、被切削性の低下を招く。そして、上記の固溶量が増加すると、熱伝導率を著しく低下させる。よって、本発明では、MoとWは(Mo+1/2W)の関係式で定義される単独または複合量で0.8%未満とした。好ましくは、0.1%以上および/または0.6%以下である。更に好ましくは、0.3%以上および/または0.5%以下である。

0024

・V:0超〜0.15%未満
Vは、焼戻し軟化抵抗を高めるとともに、結晶粒の粗大化を抑制して、靭性の向上に寄与する。また、硬質の炭化物を微細に形成して、耐摩耗性を向上させる効果がある。しかし、多すぎると被切削性の低下を招くので0.15%未満とした。好ましくは、0.03%以上および/または0.10%以下である。より好ましくは、0.05%以上であり、更に好ましくは、0.07%以上である。

0025

・Cu:0.25〜1.8%
Cuは、焼戻し処理時にFe−Cu固溶体を析出、凝集させ、本発明鋼の強度を向上する元素である。しかし多すぎると、著しく熱間加工性を低下させる。そして、熱伝導率も低下して、本発明鋼の熱伝導性が劣化する。よって、本発明のCuは0.25〜1.8%とする。好ましくは、0.4%以上および/または1.5%以下である。より好ましくは、0.7%以上であり、更に好ましくは、1.0%以上である。

0026

・Al:0.1%未満
不可避的不純物であるAlは、通常、溶製時の脱酸元素として用いられる。そして、硬さを調質後の状態にある本発明鋼においては、その鋼中にAl2O3が多く存在すると鏡面加工性が劣化する。よって、本発明のAlは0.1%未満に規制することが好ましい。より好ましくは0.05%未満である。

0027

・N(窒素):0.06%未満
不可避的不純物であるNは、鋼中に窒化物を形成する元素である。窒化物は過多に形成されると、金型の靭性、被削性および磨き性を著しく劣化する。したがって、鋼中のNは低く規制することが好ましい。よって本発明では、Nを0.06%未満に規定することが好ましい。より好ましくは0.03%未満である。

0028

・O(酸素):0.005%未満
不可避的不純物であるOは、鋼中に酸化物を形成する元素である。過多の酸化物は、冷間での塑性加工性および磨き性を著しく劣化させる要因となる。そして本発明では、特に上記のAl2O3の形成を抑えることが重要である。よって、本発明のOは、上限を0.005%に規制することが好ましい。より好ましくは、0.003%未満である。

0029

・好ましくは、下記の式1および式2による値がそれぞれ100以上を満たす([]括弧内は各元素の含有量(質量%)を示す)。
式1:85−60.1×[C%]−115×[S%]+0.1×[Ni%]+7.17×[Cr%]+2.44×[(Mo+1/2W)%]
式2:140+30.9×[C%]−17.8×[Si%]−10.5×[Mn%]−12.4×[Ni%]−3.68×[Cr%]−1.26×[(Mo+1/2W)%]−3.68[Cu%]
強度や軟化抵抗、被削性等の基本特性満足した上で、さらに本発明の特徴である優れた耐発錆性および熱伝導性を達成するためには、本発明鋼を構成する多くの元素種の含有量を上記の成分範囲内に調整する必要がある。しかし、耐発錆性および熱伝導性に及ぼす影響の度合いは、これら個々の元素で異なる。したがって、基本特性を維持して、さらに優れた耐発錆性と熱伝導性を両立させるには、構成元素種の含有量を相互的に管理することが有効である。

0030

そこで、本発明鋼の構成元素の個々について、その耐発錆性および熱伝導性に対する影響の度合いを調査した。その結果、耐発錆性については、Cr、MoおよびW、Niの順でその向上効果が大きく、逆にS、Cは、この順で該特性を低下させることをつきとめた。また、熱伝導性については、Cの含有による向上効果が大きく、Si、Ni、Mn、Cr、Cu、MoおよびWは、この順で該特性を低下させることをつきとめた。そして、これら元素の含有量を変数としたときの重回帰分析を行ったことで、上記の影響度を適確な相互係数として表すことができた。

0031

すなわち、本発明鋼の耐発錆性にかかる構成元素の影響度は、以下の式1で相互的に表記できる。このとき、該特性の向上元素の係数はプラスで、そして該特性の低下元素の係数はマイナスで表記され、それぞれの絶対値が大きいほど、その影響度は大きい。そして、本発明鋼の場合、式1の値が100以上であることが、耐発錆性の更なる向上に好ましい。さらに好ましくは、該値が105以上である。
式1:85−60.1×[C%]−115×[S%]+0.1×[Ni%]+7.17×[Cr%]+2.44×[(Mo+1/2W)%]

0032

そして、本発明鋼の熱伝導性にかかる構成元素の影響度は、以下の式2で相互的に表記できる。このとき、該特性の向上に働く元素の係数はプラスで、そして該特性の低下に働く元素の係数はマイナスで表記され、それぞれの絶対値が大きいほど、その影響度は大きい。そして、本発明鋼の場合、式2の値が100以上であることが、熱伝導性の更なる向上に好ましい。さらに好ましくは、該値が105以上である。
式2:140+30.9×[C%]−17.8×[Si%]−10.5×[Mn%]−12.4×[Ni%]−3.68×[Cr%]−1.26×[(Mo+1/2W)%]−3.68[Cu%]

0033

・金型用鋼の硬さは30〜42HRCである。
素材の硬さが低すぎると、金型作製時の鏡面加工性が低下する。そして、金型製品としての耐摩耗性も低下する。一方、素材の硬さが高すぎると、金型作製時の被切削性が低下する。そして、金型製品としての靭性も低下する。よって、本発明の金型用鋼の硬さは30〜42HRCとする。好ましくは、35HRC以上および/または40HRC以下である。本発明の金型用鋼は、焼入れ焼戻し熱処理によって該硬さに調質された後、金型形状に切削加工される、いわゆるプリハードン鋼としての使用が可能である。

0034

そして、本発明鋼は、上記の30HRC以上、さらには35HRC以上の硬さが、530℃以上の高温の焼戻しでも安定して達成できる。540℃以上の焼戻しでも達成が可能である。切削加工時などに発生する加工歪を抑制するためには、鋼中の残留応力を低減できる高温での焼戻しが有利であることは、上記の通りである。本発明の金型用鋼は、優れた耐発錆性と熱伝導性とともに、上記の焼戻し特性も兼ね備えた、最適な成分組成に調整されている。なお、この際の焼入れ温度については、特別の設定は要しない。例えば900℃以上の温度からの焼入れが適用できる。

0035

真空溶解炉で所定の成分組成に調整した10kgの鋼塊を溶製した。成分組成を表1に示す。表1には、本発明による式1、2の値も併記した。従来鋼1、2は、それぞれ特許文献1、2に相当するものである。

0036

0037

次に、これらの鋼塊を1150℃で鍛造して、厚さ30mm×幅30mmの鋼材とし、これを860℃で焼鈍処理した。そして、それぞれの焼鈍処理材から、10mm×10mm×10mmの硬さ評価用と、5mm×8mm×15mmの耐発錆性評価用と、直径10mm×厚さ1mmの熱伝導性評価用の3つの寸法形状鋼片を加工した。そして、これらの鋼片に所定の焼入れ焼戻し処理を行ったものについて、以下の試験を実施した。

0038

(硬さの評価)
10mm×10mm×10mmの鋼片を用いて、これに950℃からのガス冷却による焼入れ処理を行った。そして、焼戻し処理は、鋼中の残留応力を低減するのに有利な高温焼戻しとして、550℃で2時間の条件とした。硬さの結果を表2に示す。本発明鋼は、550℃の焼戻しでも30HRC以上の硬さを達成し、好ましいものでは35HRC以上の硬さを達成した。

0039

0040

(耐発錆性の評価)
5mm×8mm×15mmの鋼片を用いて、これに上記と同様の焼入れ処理を行った。焼戻し処理は、硬さが34〜36HRC(狙い硬さ35HRC)になるように、540℃から580℃の適正温度で2時間の条件とした。そして、この焼戻し処理後の試験片に、温度80℃、湿度90%の雰囲気で24時間の曝露試験を行い、8mm×15mmの表面に発生した錆の面積率(100×錆発生面積(mm2)/試験片の表面積(mm2))を算出した。結果を表3に示す。

0041

(熱伝導性の評価)
直径10mm×厚さ1mmの鋼片を用いて、これに上記と同様の焼入れ処理を行った。焼戻し処理は、上記と同様の、硬さが34〜36HRC(狙い硬さ35HRC)になるように、540℃から580℃の適正温度で2時間の条件とし、耐発錆性の評価用試験片とともに処理した。そして、焼戻し処理後の試験片に対し、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。結果を表3に示す。

0042

0043

表3の結果より、成分組成が最適に調整された本発明鋼1〜6は、従来鋼1、2と比べて優れた耐発錆性と熱伝導率の両立を達成している。そして、式1の値が100以上の本発明鋼3〜6では、錆の発生が確認されなかった。一方、Siが高い比較鋼1、Niが高い比較鋼3は、熱伝導率が大幅に低下している。本発明鋼に近い成分組成を有した比較鋼2であっても、Niが高く、熱伝導率が低い。Crが低い比較鋼3は、耐発錆性も低下している。

0044

成分組成を変化させた以外は、前記の実施例1と同様にして、10kgの鋼塊を溶製した。成分組成を表4に示す。表4には、表1と同様、本発明による式1、2の値も併記した。

0045

0046

次に、これらの鋼塊を、前記の実施例1と同じ条件で鍛造し、焼鈍処理を行った。そして、それぞれの焼鈍処理材から、10mm×10mm×10mmの硬さ評価用と、5mm×8mm×15mmの耐発錆性評価用と、直径10mm×厚さ1mmの熱伝導性評価用の3つの寸法形状の鋼片を加工した。そして、これらの鋼片に所定の焼入れ焼戻し処理を行ったものについて、以下の試験を実施した。

0047

(硬さの評価)
10mm×10mm×10mmの鋼片を用いて、これに実施例1と同じ条件の焼入れ処理を行った。そして、焼戻し処理は、実施例1の550℃で2時間の条件と、580℃で2時間の条件の、2条件を実施した。硬さの結果を表5に示す。なお、表5には、実施例1で評価した本発明鋼2、3、5、6と、比較鋼1〜3、従来鋼1、2の結果も併せて示す。本発明鋼は、550℃の焼戻しに加えて、580℃の焼戻しでも30HRC以上の硬さを達成し、好ましいものでは35HRC以上の硬さを達成した。なお、Vが低めの本発明鋼22は、580℃の焼戻しで硬さが30HRCを下回った。一方、C量の少ない比較鋼4は、550℃、580℃の両方の焼戻しで30HRCを達成しなかった。

0048

0049

(耐発錆性の評価)
5mm×8mm×15mmの鋼片を用いて、これに実施例1の耐発錆性の評価時と同じ条件の焼入れおよび焼戻し処理と、曝露試験を行った。そして、試験前の試験片の質量と、試験後の錆を落とした試験片の質量とを測定して、質量の減少率(100×試験片の減少量(g)/試験前の試験片の質量(g))を算出した。結果を表6に示す。なお、表6には、実施例1で評価した従来鋼2の結果も併記しておく。

0050

(熱伝導性の評価)
直径10mm×厚さ1mmの鋼片を用いて、これに実施例1の熱伝導性の評価時と同じ条件の焼入れおよび焼戻し処理と、熱伝導率の測定をした。結果を表6に示す。なお、表6には、実施例1で評価した従来鋼2の結果も併記しておく。

0051

0052

表6の結果より、本発明鋼7〜22は、優れた耐発錆性と熱伝導率を有しており、これらの両立を達成している。本発明鋼10は、C量が高いが、式1の値が高く、耐発錆性が良好である。一方、Siが高い比較鋼5、6は、熱伝導率が低い。Crが低い比較鋼7は、錆の発生による質量の減少量が多く、耐発錆性が低下している。

0053

アーク溶解炉で表7の成分組成に調整した10tの鋼塊を溶製した。表7には、表1と同様、本発明による式1、2の値も併記した。

0054

0055

次に、これらの鋼塊を鍛伸して、断面積が6500cm2の角材にした。そして、この角材から、5mm×8mm×15mmの耐発錆性評価用と、直径10mm×厚さ1mmの熱伝導性評価用の2つの寸法形状の鋼片を採取して、実施例2と同じ条件による、耐発錆性と熱伝導性の評価を行った。結果は、表8の通りである。

0056

実施例

0057

表8の結果より、本発明鋼23は、優れた耐発錆性と熱伝導率の両立を達成していることがわかる。

0058

本発明鋼は、その金型用としての基本特性も満足していることから、プラスチック成形用金型の他に、ゴム成形用や、小ロット生産に用いる熱間加工用、ダイカスト用などの金型にも適用が可能である。

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