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技術 幹細胞の培養方法

出願人 国立研究開発法人理化学研究所
発明者 笹井芳樹綿谷崇史永樂元次
出願日 2009年6月5日 (9年8ヶ月経過) 出願番号 2010-515950
公開日 2011年11月4日 (7年3ヶ月経過) 公開番号 WO2009-148170
状態 拒絶査定
技術分野 微生物、その培養処理 酵素、微生物を含む測定、試験
主要キーワード スライス組 タイムウインドウ 分散浮遊 時間的制御 誘導源 スライド培養 形態解析 オシレーション
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2011年11月4日)のものです。
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図面 (20)

課題・解決手段

本発明は、均一な幹細胞凝集体を迅速に形成させる工程を含むことで、幹細胞の無血清培地中での効率的な浮遊培養を可能にし、幹細胞の選択的神経分化誘導法大脳皮質神経ネットワーク試験管内で形成する方法、および脳組織立体構造を試験管内で産生する方法を提供し、また、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸及びインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地において多能性幹細胞浮遊凝集体として培養すること、及び培養物から視床下部ニューロン前駆細胞を単離することを含む、視床下部ニューロンの前駆細胞の製造方法を提供する。

概要

背景

これまでに本発明者らの報告非特許文献1−3、特許文献1及び2)を含め、ES細胞等の多能性幹細胞から神経分化誘導を行う培養法はいくつか知られており、ES細胞由来神経細胞(例、ドーパミン神経細胞など)は神経難病への再生医療である細胞移植治療移植細胞ソースとして大きな期待を寄せられている。そのためには、脳の中に存在する病気に関連する神経細胞を正確に産生する必要があるが、脳の中には非常に多くの種類の神経細胞が存在するため、未だ効率の良い試験管分化成功していない神経細胞や脳組織も多い。

大脳、特に大脳皮質高次脳機能中枢であり、その障害重篤運動、精神、認知障害をもたらす。例えば、アルツハイマー病脳梗塞てんかん運動ニューロン疾患ALS)などが挙げられる。大脳障害の治療のためには、これまでにも病因研究、創薬研究、細胞移植治療研究などが進められているが、こうした研究のためにヒトの大脳組織を得ることは非常に難しい。また胚性幹細胞からの皮質前駆細胞への分化誘導が最近可能になった(非特許文献4参照)ものの、それらの前駆細胞からの特定の大脳皮質ニューロンへの選択的な分化誘導を制御することは困難であった。

本発明者らはこれまで動物及びヒトのES細胞等の多能性幹細胞から神経分化誘導を行う方法として、無血清培地での分散浮遊培養(SFEB法)が有効であることを示した(非特許文献3、4及び特許文献1を参照)。この方法では、前脳、特に大脳や神経網膜の神経細胞や感覚細胞の分化誘導が効率よく行える。また、Wntなどの増殖因子培地への添加で、小脳などの脳幹部組織の分化誘導にも成功した。
しかしながらマウス胚性幹細胞を用いた解析によると、SFEB法を適用した場合、3割程度の細胞が大脳神経細胞に分化したものの、残りの過半の細胞はそれ以外の種類の神経細胞の混雑物であった。また分化誘導した大脳神経細胞のうち、大脳皮質細胞はさらにその4割程度であり、その誘導効率は良好なものではなかった。さらにSFEB法などの従来法で誘導された大脳組織のうち大半のものは、明確な皮質組織の形態を示さず、乱雑な細胞塊になることが殆どであった。また従来のSFEB法では、中枢神経系の最も吻側から発生する吻側部の間脳、特に視床下部の組織の分化誘導をES細胞から効率よく行うことができなかった。

概要

本発明は、均一な幹細胞凝集体を迅速に形成させる工程を含むことで、幹細胞の無血清培地中での効率的な浮遊培養を可能にし、幹細胞の選択的神経分化誘導法、大脳皮質神経ネットワークを試験管内で形成する方法、および脳組織の立体構造を試験管内で産生する方法を提供し、また、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸及びインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地において多能性幹細胞を浮遊凝集体として培養すること、及び培養物から視床下部ニューロンの前駆細胞を単離することを含む、視床下部ニューロンの前駆細胞の製造方法を提供する。

目的

本発明の目的は、ES細胞等の多能性幹細胞の分化誘導、特に大脳皮質組織への分化誘導、または間脳、特に視床下部のニューロンの選択的分化誘導を可能とする、実用性の高い方法を開発することである

効果

実績

技術文献被引用数
2件
牽制数
7件

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請求項1

無血清培地中で均一な幹細胞凝集体を形成させる工程を含む、幹細胞の分化誘導法。

請求項2

幹細胞の凝集体形成の時間が12時間以内である、請求項1に記載の方法。

請求項3

さらに無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。

請求項4

浮遊培養を60時間〜350時間行うことを特徴とする、請求項3に記載の方法。

請求項5

さらにNodalシグナル阻害剤および/またはWntシグナル阻害剤の存在下で無血清培地中で培養する工程を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

請求項6

さらにNotchシグナル阻害剤の存在下で無血清培地中で培養する工程を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

請求項7

さらに分泌型パターン形成因子の存在下で無血清培地中で培養する工程を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

請求項8

神経系細胞への分化誘導法である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

請求項9

大脳前駆細胞への分化誘導法である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

請求項10

大脳皮質前駆細胞への分化誘導法である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

請求項11

大脳皮質神経細胞への分化誘導法である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

請求項12

層特異的ニューロンへの選択的な分化誘導法である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。

請求項13

無血清培地が、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸及びインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地である、請求項3記載の方法。

請求項14

無血清培地が亜セレン酸またはその塩を含有する、請求項13記載の方法。

請求項15

無血清培地がShhシグナル促進剤を含有する、請求項13記載の方法。

請求項16

無血清培地がShhシグナル促進剤を実質的に含有しない、請求項13記載の方法。

請求項17

得られ得る前駆細胞が腹側視床下部ニューロンの前駆細胞である、請求項15記載の方法。

請求項18

得られ得る前駆細胞が背側視床下部ニューロンの前駆細胞である、請求項16記載の方法。

請求項19

少なくとも7日間培養する、請求項13記載の方法。

請求項20

無血清培地が、PI3K阻害剤及びAkt阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの阻害剤並びにインシュリン類を含有し、且つNodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤及びレチノイン酸を実質的に含有しない無血清培地である、請求項3記載の方法。

請求項21

無血清培地が、ROCK阻害剤を更に含有する、請求項20記載の方法。

請求項22

請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法により得られる、細胞培養物

請求項23

無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程および無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養する工程を含む、脳組織立体構造試験管内で産生する方法。

請求項24

脳組織が、大脳皮質組織である、請求項23に記載の方法。

請求項25

無血清培地が細胞外マトリクス成分を含有することを特徴とする、請求項23に記載の方法。

請求項26

請求項23〜25のいずれか一項に記載の方法により得られる、培養産物

請求項27

無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程および無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養する工程を含む、大脳皮質神経ネットワークを試験管内で形成する方法。

請求項28

請求項27に記載の方法により得られる、培養産物。

請求項29

請求項22に記載の細胞培養物、請求項26に記載の培養産物または請求項28に記載の培養産物を用いることを特徴とする、被検物質スクリーニング方法

技術分野

0001

本発明は、幹細胞培養方法に関する。詳細には、幹細胞の凝集体培養を行う際に、迅速な再凝集と3次元浮遊培養を組み合わせることを特徴とする、幹細胞の分化誘導方法、当該方法により得られる細胞培養物などに関する。

背景技術

0002

これまでに本発明者らの報告非特許文献1−3、特許文献1及び2)を含め、ES細胞等の多能性幹細胞から神経分化誘導を行う培養法はいくつか知られており、ES細胞由来神経細胞(例、ドーパミン神経細胞など)は神経難病への再生医療である細胞移植治療移植細胞ソースとして大きな期待を寄せられている。そのためには、脳の中に存在する病気に関連する神経細胞を正確に産生する必要があるが、脳の中には非常に多くの種類の神経細胞が存在するため、未だ効率の良い試験管分化成功していない神経細胞や脳組織も多い。

0003

大脳、特に大脳皮質高次脳機能中枢であり、その障害重篤運動、精神、認知障害をもたらす。例えば、アルツハイマー病脳梗塞てんかん運動ニューロン疾患ALS)などが挙げられる。大脳障害の治療のためには、これまでにも病因研究、創薬研究、細胞移植治療研究などが進められているが、こうした研究のためにヒトの大脳組織を得ることは非常に難しい。また胚性幹細胞からの皮質前駆細胞への分化誘導が最近可能になった(非特許文献4参照)ものの、それらの前駆細胞からの特定の大脳皮質ニューロンへの選択的な分化誘導を制御することは困難であった。

0004

本発明者らはこれまで動物及びヒトのES細胞等の多能性幹細胞から神経分化誘導を行う方法として、無血清培地での分散浮遊培養(SFEB法)が有効であることを示した(非特許文献3、4及び特許文献1を参照)。この方法では、前脳、特に大脳や神経網膜の神経細胞や感覚細胞の分化誘導が効率よく行える。また、Wntなどの増殖因子培地への添加で、小脳などの脳幹部組織の分化誘導にも成功した。
しかしながらマウス胚性幹細胞を用いた解析によると、SFEB法を適用した場合、3割程度の細胞が大脳神経細胞に分化したものの、残りの過半の細胞はそれ以外の種類の神経細胞の混雑物であった。また分化誘導した大脳神経細胞のうち、大脳皮質細胞はさらにその4割程度であり、その誘導効率は良好なものではなかった。さらにSFEB法などの従来法で誘導された大脳組織のうち大半のものは、明確な皮質組織の形態を示さず、乱雑な細胞塊になることが殆どであった。また従来のSFEB法では、中枢神経系の最も吻側から発生する吻側部の間脳、特に視床下部の組織の分化誘導をES細胞から効率よく行うことができなかった。

0005

WO2005/123902パンフレット
特開2008−99662号公報

先行技術

0006

Watanabe,K.,Ueno,M.,Kamiya,D.,Nishiyama,A.,Matsumura,M.,Wataya,T.,Takahashi,J.B.,Nishikawa,S.,Nishikawa,S.−i.,Muguruma,K.and Sasai,Y.(2007)A ROCKinhibitor permits survival of dissociated human embryonic stem cells.Nature Biotechnology 25,681−686
Su,H.−L.,Muguruma,K.,Kengaku,M.,Matsuo−Takasaki,M.,Watanabe,K.,and Sasai,Y.(2006)Generation of Cerebellar Neuron Precursors from Embryonic Stem Cells.Developmental Biology 290,287−296
Ikeda,H.,Watanabe,K.,Mizuseki,K.,Haraguchi,T.,Miyoshi,H.,Kamiya,D.,Honda,Y.,Sasai,N.,Yoshimura,N.,Takahashi,M.and Sasai,Y.(2005)Generation of Rx+/Pax6+ neural retinal precursors from embryonic stem cells.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102,11331−11336
Watanabe,K.,Kamiya,D.,Nishiyama,A.,Katayama,T.,Nozaki,S.,Kawasaki,H.,Mizuseki,K.,Watanabe,Y.,and Sasai,Y.(2005)Directed differentiation of telencephalic precursors from embryonic stem cells.Nature Neurosci.8,288−296

発明が解決しようとする課題

0007

本発明の目的は、ES細胞等の多能性幹細胞の分化誘導、特に大脳皮質組織への分化誘導、または間脳、特に視床下部のニューロンの選択的分化誘導を可能とする、実用性の高い方法を開発することである。

課題を解決するための手段

0008

本発明者らは、SFEB法によれば大脳神経細胞、特に大脳皮質細胞が低効率でしか分化誘導できなかった理由として、神経組織では前駆細胞の間は神経上皮と呼ばれる上皮構造を持っており、この形成が大脳皮質の効率的な分化と組織発生に必須であるので、大脳皮質細胞への分化誘導にも上皮様構造の形成が必須であるとの仮説をもとに、血清非存在下において胚性幹細胞の分化誘導条件を鋭意検討した。その結果本発明者らは、無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を形成させることで、ES細胞から神経細胞、特に大脳皮質細胞を高効率で分化誘導できることを見出した。

0009

さらに本発明では、それまで視床下部を含む吻側部の間脳組織のES細胞からの分化誘導が困難であった理由が、無血清培地に含まれる阻害物質の為であることを解明し、それを回避する培養法を開発することで、視床下部の神経細胞の効率的な分化誘導に成功した。無血清培地では、一般に血清の代替としていくつかの増殖因子(Wnt、TGFβ、BMP、レチノイン酸、FGF、lipid−richアルブミンなど)を添加することが多い。しかし、視床下部を含む吻側部の間脳組織の分化には、これらの増殖因子はいずれも阻害的に働くことが判った。しかも、最も頻繁に無血清培地に添加されるインシュリンも強く視床下部を含む吻側部の間脳組織の分化を阻害すること、また、その阻害はインシュリンの下流シグナルであるAktという細胞内酵素リン酸化酵素)の活性化が原因であることを解明した。

0010

これらの知見を利用して、インシュリンを含まない化学合成培地でマウスES細胞の分化誘導を行うことで、視床下部の前駆細胞を分化させ、それを更に成熟させることで、バゾプレシン産生細胞などの視床下部の内分泌系ニューロンを分化させることが可能となった。さらに、ヒトES細胞の分化培養では、インシュリンを除いた培地では生存が悪いが、インシュリンを含む化学合成培地にAkt阻害剤を併用することで、視床下部神経組織を分化誘導することが可能となった。

0011

発明者らはさらに本発見に基づいて鋭意検討し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の通りである:

0012

[1]無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を形成させる工程を含む、幹細胞の分化誘導法。
[2] さらに無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養する工程を含む、上記[1]に記載の方法。
[3] 幹細胞が多能性幹細胞である、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 幹細胞が胚性幹細胞である、上記[3]に記載の方法。
[5] 浮遊培養を60時間〜350時間行うことを特徴とする、上記[2]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6] さらにNodalシグナル阻害剤および/またはWntシグナル阻害剤の存在下で培養する工程を含む、上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] Nodalシグナル阻害剤が、Lefty−1である、上記[6]に記載の方法。
[8] Wntシグナル阻害剤が、Dkk1である、上記[6]に記載の方法。
[9] さらにNotchシグナル阻害剤の存在下で培養する工程を含む、上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10] Notchシグナル阻害剤が、DAPTである、上記[9]に記載の方法。
[11] さらに分泌型パターン形成因子の存在下で培養する工程を含む、上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法。
[12]神経系細胞への分化誘導法である、上記[1]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13]大脳前駆細胞への分化誘導法である、上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法。
[14]大脳皮質前駆細胞への分化誘導法である、上記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法。
[15]大脳皮質神経細胞への分化誘導法である、上記[1]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[16] 層特異的ニューロンへの選択的な分化誘導法である、上記[1]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[17]カハール・レチウス細胞への分化誘導法である、上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法。
[18]尾側大脳皮質神経細胞の分化誘導法である、上記[1]〜[5]および[8]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[19] Fgfシグナル阻害剤の存在下で培養することを特徴とする、上記[18]に記載の方法。
[20] Fgfシグナル阻害剤が、Fgf受容体阻害剤である、上記[19]に記載の方法。
[21]吻側大脳皮質神経細胞への分化誘導法である、上記[1]〜[5]および[8]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[22] 吻側大脳皮質神経細胞が、嗅球ニューロンである、上記[21]に記載の方法。
[23] Fgfシグナル促進剤の存在下で培養することを特徴とする、上記[21]または[22]に記載の方法。
[24] Fgfシグナル促進剤が、Fgfまたはそのアゴニストである、上記[23]に記載の方法。
[25]海馬神経細胞への分化誘導法である、上記[1]〜[5]および[8]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[26] Wntの存在下またはBMPの存在下、あるいはその両方で培養することを特徴とする、上記[23]に記載の方法。
[27]大脳基底核神経細胞への分化誘導法である、上記[1]〜[5]および[8]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[28] Shhシグナル促進剤の存在下で培養することを特徴とする、上記[27]に記載の方法。
[29] Shhシグナル促進剤が、Shhである、上記[28]に記載の方法。
[30] Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸及びインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地において多能性幹細胞を浮遊凝集体として培養すること、及び培養物から視床下部ニューロンの前駆細胞を単離することを含む、視床下部ニューロンの前駆細胞の製造方法。
[31] 無血清培地が、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸及びインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地である、上記[2]記載の方法。
[32] 無血清培地が亜セレン酸またはその塩を含有する、上記[30]または[31]記載の方法。
[33] 無血清培地がShhシグナル促進剤を含有する、上記[30]または[31]記載の方法。
[34] 無血清培地がShhシグナル促進剤を実質的に含有しない、上記[30]または[31]記載の方法。
[35] 得られ得る前駆細胞が腹側視床下部ニューロンの前駆細胞である、上記[33]記載の方法。
[36] 得られ得る前駆細胞が、内腹側核ニューロン、A12型ドーパミンニューロン弓状核ニューロン又はオレキシン陽性ニューロンへの分化能を有する、上記[33]記載の方法。
[37] 得られ得る前駆細胞が背側視床下部ニューロンの前駆細胞である、上記[34]記載の方法。
[38] 得られ得る前駆細胞がバゾプレシン産生内分泌細胞への分化能を有する、上記[34]記載の方法。
[39] 少なくとも7日間培養する、上記[30]または[31]記載の方法。
[40] PI3K阻害剤及びAkt阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの阻害剤並びにインシュリン類を含有し、且つNodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤及びレチノイン酸を実質的に含有しない無血清培地において多能性幹細胞を浮遊凝集体として培養すること、及び培養物から視床下部ニューロンの前駆細胞を単離することを含む、視床下部ニューロンの前駆細胞の製造方法。
[41] 無血清培地が、PI3K阻害剤及びAkt阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの阻害剤並びにインシュリン類を含有し、且つNodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤及びレチノイン酸を実質的に含有しない無血清培地である、上記[2]記載の方法。
[42]
無血清培地が、ROCK阻害剤を更に含有する、上記[40]または[41]記載の方法。
[43]
多能性幹細胞が霊長類の多能性幹細胞である、上記[40]または[41]記載の方法。
[44] 上記[1]〜[43]のいずれか一項に記載の方法により得られる、細胞培養物。
[45] 無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程を含む、脳組織の立体構造を試験管内で産生する方法。
[46] 脳組織が、大脳皮質組織である、上記[45]に記載の方法。
[47] 大脳皮質組織が層形成を伴うことを特徴とする、上記[46]に記載の方法。
[48] 無血清培地が細胞外マトリクス成分を含有することを特徴とする、上記[45]に記載の方法。
[49] 上記[45]〜[48]のいずれか一項に記載の方法により得られる、培養産物
[50] 無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程を含む、大脳皮質神経ネットワークを試験管内で形成する方法。
[51] 大脳皮質神経ネットワークが、同期した自発発火を伴うことを特徴とする、上記[50]に記載の方法。
[52] 上記[50]または[51]に記載の方法により得られる、培養産物。
[53] 上記[44]に記載の細胞培養物、上記[49]に記載の培養産物または上記[52]に記載の培養産物を用いることを特徴とする、被検物質スクリーニング方法

発明の効果

0013

本発明によれば、幹細胞を大脳皮質前駆細胞に効率的に分化誘導することができる。また本発明の方法は、従来の分化誘導法では困難であった神経系細胞、特に大脳皮質細胞の効率的な分化誘導をも可能とする。従って、本発明の方法は大脳組織に異常がある疾患に対する細胞治療の応用という観点から特に有用である。

0014

本発明の方法によれば、選択的に層特異的なニューロンを分化誘導することができる。また大脳皮質細胞のみならず、海馬神経細胞や、大脳基底核神経細胞などといった、その他の前脳神経細胞をも効率良く分化誘導することも可能である。

0015

また本発明の方法を用いれば、ES細胞等の多能性幹細胞から間脳、特に視床下部のニューロンやその前駆細胞を効率よく製造することが出来る。視床下部は中枢性尿崩症など内分泌異常、摂食障害拒食症過食症)、睡眠障害などの医学的に重要な疾患の責任部位であり、ES細胞などの多能性幹細胞からそれらの組織を試験管内で産生できれば、再生医療のみならず、内分泌異常、摂食障害、睡眠障害などに対する創薬や安全性試験に役立つことが期待される。

0016

本発明の方法によれば、大脳皮質神経ネットワークを試験管内で形成することができるので、本発明の方法を適用することにより、シナプス機能促進剤やてんかんの治療薬などの創薬、毒性試験を有効に行うことができる点で有用である。

0017

さらに本発明は、層構造を有する大脳皮質組織の立体構造を試験管内で産生することも可能である。従って本発明の方法は、再生医療の分野や上述の医薬等の創薬、毒性試験などに有用な「組織材料」を提供することができる点でも極めて有用である。

0018

本発明はさらに、誘導源として動物由来細胞を使用することなく幹細胞を分化誘導でき、幹細胞の培養により得られる細胞の移植同種移植リスクレベルまで軽減できるため有用である。

図面の簡単な説明

0019

図1は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、上皮様構造を有する均一な神経細胞に分化することを示す図である。
図2は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳皮質前駆細胞を経て大脳特異的なニューロンへ分化することを示す図である。
図3−1は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳ニューロンによる神経ネットワークを形成することを示す図である。
図3−2は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳ニューロンによる神経ネットワークを形成することを示す図である。
図4は、SFEBq法により得られる大脳ニューロンが、生体大脳組織へ組み込まれることを示す図である。
図5は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳皮質前駆細胞を経て大脳皮質層特異的なニューロンへ分化することを示す図である。
図6は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳皮質前駆細胞を経て特定の層特異的な大脳皮質ニューロンへ分化することを示す図である。
図7−1は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳皮質前駆細胞を経て部位特異的な大脳皮質ニューロンへ分化することを示す図である。
図7−2は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳皮質前駆細胞を経て部位特異的な大脳皮質ニューロンへ分化することを示す図である。
図8は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳皮質の初期形成を試験管内で自己組織化的模倣できることを示す図である。
図9は、SFEBq法により得られるヒトES細胞の凝集体が、大脳皮質ニューロンへ分化することを示す図である。
図10は、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が、大脳基底核神経細胞へ分化することを示す図である。
図11は、SFEBq法により得られるヒトES細胞の凝集体が、前方または後方の大脳皮質ニューロンへ分化することを示す図である。
図12は、浮遊培養段階において細胞外マトリクス成分(Matrigel)を培地に添加すると、SFEBq法により得られるES細胞の凝集体が胎仔脳胞に類似した構造を形成し、その構造が培養開始10日後までも保持されることを示す図である。
SFEBq培養したRx−EGFP細胞における、示されたマーカー遺伝子発現についてのqPCR解析の結果を示す図である。
SFEBq/gfCDM培養したRx−GFPES細胞に対するインシュリン及びIGF−Iの影響の用量応答解析の結果を示す図である。分化培養の開始時から、示された濃度でインシュリン又はIGF−Iと共に細胞を培養し、Rx−GFP+細胞の割合を7日目にFACS解析した。コントロール(インシュリンを含まないgfCDM)のRx−GFP+割合を1.0とし、相対的な比として示す。
Rx−GFP+の割合に対するインシュリンの影響を示すtime−window解析の結果を示す図である(7日目にFACS)。インシュリン(7μg/ml)を、左側のバーに示したとおり、除去(上のグラフ)又は添加(下のグラフ)した。SFEBq/gfCDM培養物のRx−GFP+の割合に対するインシュリンの存在下でのRx−GFP+の割合の比(横列1;1.0とする)を、グラフの右側に示す。
示されたマーカー遺伝子の発現に対するインシュリンの影響を示す図である。
インシュリンシグナル伝達経路に関する阻害剤の、インシュリン(7μg/ml)有り又は無しのgfCDM中でSFEBq培養したES細胞に対する影響を示す図である。コントロール(gfCDM+インシュリン、DMSOを含む)に対する統計的有意性はDunnette検定によって評価した。*、P<0.05;**、P<0.01。
視床下部ニューロンの前駆細胞からのバゾプレシン産生内分泌細胞の生成を示す図である。(左)gfCDM培養したGFP+凝集塊において見られたNP II+ニューロン。(右)高K+刺激の際のAVP放出の解析。馴化培地中のAVP濃度をRIAで測定した。

発明を実施するための最良の形態

0020

本発明は、無血清培地中で均一な幹細胞の凝集塊を形成させる工程を含む、幹細胞の分化培養法を提供する。本発明はまた、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸等の増殖因子並びにインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地において多能性幹細胞を浮遊凝集体として培養すること、及び培養物から視床下部ニューロンの前駆細胞を単離することを含む、視床下部ニューロンの前駆細胞の製造方法を提供する。
以下、本発明の詳細を説明する。

0021

(1)幹細胞
「幹細胞」とは、細胞分裂を経ても同じ分化能を維持することができる細胞のことをいう。幹細胞の例としては、受精卵あるいはクローン胚由来多能性を有する胚性幹細胞(ES細胞)、生体内の組織中に存在する体性幹細胞や多能性幹細胞、各組織の基になる肝幹細胞皮膚幹細胞生殖幹細胞、生殖幹細胞由来の多能性幹細胞、体細胞由来核初期化によって得られる多能性幹細胞などが挙げられる。

0022

なかでも「多能性幹細胞」とは、インビトロにおいて培養することが可能で、かつ、胎盤を除く生体を構成するすべての細胞(三胚葉外胚葉中胚葉内胚葉)由来の組織)に分化しうる能力(分化万能性(pluripotency))を有する幹細胞をいい、胚性幹細胞もこれに含まれる。「多能性幹細胞」は、受精卵、クローン胚、生殖幹細胞、組織内幹細胞から得られる。また、体細胞数種類の遺伝子を導入することにより、胚性幹細胞に似た分化万能性を人工的に持たせた細胞(人工多能性幹細胞ともいう)も含む。多能性幹細胞は、自体公知の方法で作成することが可能である。例えば、Cell 131(5)pp.861−872や、Cell 126(4)pp.663−676に記載の方法などが挙げられる。

0023

幹細胞としては、例えば温血動物、好ましくは哺乳動物に由来する細胞を使用できる。哺乳動物としては、例えば、マウスラットハムスターモルモット等のげっ歯類ウサギ等の実験動物ブタウシヤギウマヒツジ等の家畜イヌネコ等のペット、ヒト、サルオランウータンチンパンジーなどの霊長類を挙げることが出来る。
具体的に本発明の方法で用いられる幹細胞としては、例えば、着床以前の初期胚を培養することによって樹立した哺乳動物等の胚性幹細胞(以下、「胚性幹細胞I」と省略)、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立した胚性幹細胞(以下、「胚性幹細胞II」と省略)、体細胞へ数種類の転写因子を導入することにより樹立した誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)、および胚性幹細胞I、胚性幹細胞II又はiPS細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変した多能性幹細胞(以下、「改変多能性幹細胞」と省略)が挙げられる。

0024

より具体的には、胚性幹細胞Iとしては、初期胚を構成する内部細胞塊より樹立された胚性幹細胞、始原生殖細胞から樹立されたEG細胞、着床以前の初期胚の多分化能を有する細胞集団(例えば、原始外胚葉)から単離した細胞、あるいはその細胞を培養することによって得られる細胞などが挙げられる。
胚性幹細胞Iは、着床以前の初期胚を、文献(Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994))に記載された方法に従って培養することにより調製することができる。

0025

胚性幹細胞IIは、例えば、Wilmutら(Nature 385,810(1997))、Cibelliら(Science,280,1256(1998))、入谷明ら(蛋白質核酸酵素,44,892(1999))、Baguisiら(Nature Biotechnology,17,456(1999))、Wakayamaら(Nature,394,369(1998);Nature Genetics,22,127(1999);Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,14984(1999))、RideoutIIIら(Nature Genetics,24,109(2000))等によって報告された方法を用いることにより、例えば以下のように作製することができる。

0026

哺乳類動物細胞の核を摘出後初期化(核を再び発生を繰り返すことができるような状態に戻す操作)し、除核した哺乳動物の未受精卵注入する方法を用いて発生を開始させ、発生を開始したを培養することによって、他の体細胞の核を有し、かつ正常な発生を開始した卵が得られる。

0027

体細胞の核を初期化する方法としては複数の方法が知られている。例えば、核を提供する側の細胞を培養している培地を、5〜30%、好ましくは10%の仔ウシ胎児血清を含む培地(例えば、M2培地)から3〜10日、好ましくは5日間、0〜1%、より好ましくは0.5%の仔ウシ胎児血清を含む貧栄養培地に変えて培養することで細胞周期休止期状態(G0期もしくはG1期)に誘導することで初期化することができる。

0028

また、同種の哺乳動物の除核した未受精卵に、核を提供する側の細胞の核を注入し、数時間、好ましくは約1〜6時間培養することで初期化することができる。

0029

初期化された核は除核された未受精卵中で発生を開始することが可能となる。初期化された核を除核された未受精卵中で発生を開始させる方法としては複数の方法が知られている。細胞周期を休止期状態(G0期もしくはG1期)に誘導し初期化した核を、電気融合法などによって同種の哺乳動物の除核した未受精卵に移植することで卵子を活性化し発生を開始させることができる。

0030

同種の哺乳動物の除核した未受精卵に核を注入することで初期化した核を、再度マイクロマニピュレーターを用いた方法などによって同種の哺乳動物の除核した未受精卵に移植し、卵子活性化物質(例えば、ストロンチウムなど)で刺激後、細胞分裂の阻害物質(例えば、サイトカラシンBなど)で処理し第二極体の放出を抑制することで発生を開始させることができる。この方法は、哺乳動物が、例えばマウスなどの場合に好適である。

0031

いったん発生を開始した卵が得られれば、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994);Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993);バイオマニュアルシリーズジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,土社(1995)等に記載の公知の方法を用い、胚性幹細胞を取得することができる。

0032

iPS細胞は、体細胞(例えば線維芽細胞皮膚細胞等)にOct3/4、Sox2及びKlf4(必要に応じて更にc−Myc又はn−Myc)を導入することにより製造することが出来る(Cell,126:p.663−676,2006;Nature,448:p.313−317,2007;Nat Biotechnol,26:p.101−106,2008;Cell 131:861−872,2007)。

0033

改変多能性幹細胞は、例えば、相同組換え技術を用いることにより作製できる。改変多能性幹細胞の作製に際して改変される染色体上の遺伝子としては、例えば、組織適合性抗原の遺伝子、神経系細胞の障害に基づく疾患関連遺伝子などがあげられる。染色体上の標的遺伝子の改変は、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1994);Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993);バイオマニュアルシリーズ8ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社(1995)等に記載の方法を用い、行うことができる。

0034

具体的には、例えば、改変する標的遺伝子(例えば、組織適合性抗原の遺伝子や疾患関連遺伝子など)のゲノム遺伝子を単離し、単離したゲノム遺伝子を用いて標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターを作製する。作製したターゲットベクターを幹細胞に導入し、標的遺伝子とターゲットベクターの間で相同組換えを起こした細胞を選択することにより、染色体上の遺伝子を改変した幹細胞を作製することができる。

0035

標的遺伝子のゲノム遺伝子を単離する方法としては、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)やCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987−1997)等に記載された公知の方法があげられる。また、ゲノムDNAライブラリースクリーニングシステム(Genome Systems製)やUniversal GenomeWalkerTM Kits(CLONTECH製)などを用いることにより、標的遺伝子のゲノム遺伝子を単離することができる。

0036

標的遺伝子を相同組換えするためのターゲットベクターの作製、及び相同組換え体の効率的な選別は、Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press(1993);バイオマニュアルシリーズ8ジーンターゲッティング,ES細胞を用いた変異マウスの作製,羊土社(1995)等に記載の方法にしたがって作製することができる。なお、ターゲットベクターは、リプレースメント型、インサーション型いずれでも用いることができ、また、選別方法としては、ポジティブ選択プロモーター選択、ネガティブ選択ポリA選択などの方法を用いることができる。

0037

選別した細胞株の中から目的とする相同組換え体を選択する方法としては、ゲノムDNAに対するサザンハイブリダイゼーション法PCR法等があげられる。

0038

また、幹細胞は、所定の機関より入手でき、また、市販品を購入することもできる。例えば、ヒト胚性幹細胞であるKhES−1、KhES−2及びKhES−3は、京都大学再生医科学研究所より入手可能である。マウス胚性幹細胞の例としては、EB5細胞などが挙げられる。

0039

幹細胞は、自体公知の方法により維持培養できる。例えば、幹細胞は、ウシ胎児血清FCS)、KnockoutTM Serum Replacement(KSR)、LIFを添加した無フィーダー細胞による培養により維持できる。

0040

(2)本発明の方法で分化誘導可能な神経系細胞
本発明の方法により、幹細胞、好ましくは胚性幹細胞などの多能性幹細胞の分化細胞を得ることができる。本発明の方法により幹細胞から分化誘導される細胞は特に限定されず、内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、外胚葉系細胞のいずれであってもよいが、好ましくは外胚葉系細胞、より好ましくは神経系細胞である。本発明の方法により得られた細胞がいずれの細胞であるかは、自体公知の方法、例えば細胞マーカーの発現により確認できる。

0041

神経系細胞マーカーとしては、例えば、NCAM、TuJ1、チロシン水酸化酵素(TH)、セロトニンネスチンMAP2、MAP2ab、NeuN、GABAグルタメート、ChAT、Sox1、Bf1、Emx1、VGluT1、Pax、Nkx、Gsh、Telencephalin、GluR1、CamKII、Ctip2、Tbr1、Reelin、Tbr1、Brn2などが挙げられるが、これらに限定されない。以下、本発明の方法により分化誘導可能な外胚葉系細胞の例として、神経系細胞について詳述する。

0042

本発明の方法により得られる神経系細胞としては、例えば、神経幹細胞、神経細胞、神経管の細胞、神経堤の細胞などが挙げられる。

0043

(2−1)神経幹細胞
神経幹細胞とは、神経細胞、アストロサイト(astrocyte)およびオリゴデンドロサイト(oligodendrocyte)に分化しうる能力を有し、かつ自己複製能力を有する細胞をいい、脳内において神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトを供給する機能を有している。
神経幹細胞であることを確認する方法としては、実際に脳に移植してその分化能を確認する方法、インビトロで神経幹細胞を神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに分化誘導させて確認する方法などが挙げられる(Mol.Cell.Neuroscience,8,389(1997);Science,283,534(1999))。また、このような機能を有した神経幹細胞は、神経前駆細胞での発現が確認されているマーカーである細胞骨格蛋白質ネスチンを認識する抗ネスチン抗体で染色可能である(Science,276,66(1997))。従って、抗ネスチン抗体で染色することにより神経幹細胞を確認することもできる。

0044

(2−2)神経細胞
神経細胞(neuron)とは、他の神経細胞あるいは刺激受容細胞からの刺激を受け別の神経細胞、筋あるいは腺細胞に刺激を伝える機能を有する細胞をいう。神経細胞は、神経細胞が産生する神経伝達物質の違いにより分類でき、例えば、分泌する神経伝達物質などの違いで分類されている。これらの神経伝達物質で分類される神経細胞としては、例えば、ドパミン分泌神経細胞、アセチルコリン分泌神経細胞、セロトニン分泌神経細胞、ノルアドレナリン分泌神経細胞、アドレナリン分泌神経細胞、グルタミン酸分泌神経細胞などがあげられる。ドパミン分泌神経細胞、ノルアドレナリン分泌神経細胞、アドレナリン分泌神経細胞を総称してカテコールアミン分泌神経細胞と呼ぶ。

0045

あるいは、本発明の方法により得られる神経細胞、特に大脳神経細胞は、細胞マーカーにより特徴付けることができる。本発明の方法により得られる神経細胞は、高頻度、例えば約80%以上、好ましくは約80〜90%の頻度で、Sox1陽性である。また、本発明の方法により得られる神経細胞は、後述する大脳神経細胞マーカーが陽性であることがより好ましい。

0046

別の観点では、神経細胞は、神経細胞が存在する部位の違いにより分類できる。これらの存在部位で分類される神経細胞としては、例えば、前脳神経細胞、中脳神経細胞、小脳神経細胞後脳神経細胞、脊髄神経細胞などが挙げられる。本発明の方法はこれら任意の神経細胞を分化誘導できるが、なかでも、前脳神経細胞、好ましくは大脳神経細胞、より好ましくは大脳皮質神経細胞(大脳背側細胞)を効率的に分化誘導できる。また本発明の方法は、好ましくはカハール・レチウス細胞、海馬神経細胞をも効率的に分化誘導することができる。以下、前脳神経細胞について詳述する。

0047

(2−2−1)前脳神経細胞
本発明の方法によれば、神経細胞として前脳神経細胞、好ましくは大脳神経細胞をより効率的に分化誘導できる。前脳神経細胞とは、前脳組織(即ち、大脳及び間脳から構成される組織)に存在する神経細胞、あるいは前脳組織に存在する神経細胞への分化が決定付けられている前駆細胞(例、大脳前駆細胞)をいう。

0048

前脳神経細胞は、大脳(終脳)神経細胞、間脳神経細胞(例えば、視床細胞、視床下部細胞など)に分類できる。大脳神経細胞はさらに、背側細胞(例えば、大脳皮質細胞、カハール・レチウス細胞、海馬神経細胞など)、腹側細胞(例えば、大脳基底核細胞など)に分類できる。
本発明の方法により得られた細胞が前脳神経細胞であるか否かは、自体公知の方法、例えば、前脳神経細胞マーカーの発現により確認できる。前脳神経細胞マーカーとしては、Otx1(前脳)、Bf1(大脳)、Emx1(大脳背側)、Gsh2及びNkx2.1(大脳腹側)などが挙げられる。

0049

本発明の一つの局面によれば、本発明の方法は、大脳神経細胞のなかでも、背側大脳神経細胞を効率的に分化誘導でき、また逆に、腹側大脳神経細胞への分化を抑制することができる。背側大脳神経細胞とは、背側大脳組織に存在する神経細胞、あるいは背側大脳組織に存在する神経細胞への分化が決定付けられている前駆細胞(例、大脳皮質前駆細胞)をいう。背側大脳組織としては、例えば、大脳皮質が挙げられる。
本発明の方法により得られた細胞が背側大脳神経細胞であるか否かは、自体公知の方法、例えば、背側大脳神経マーカーの発現により確認できる。背側大脳神経細胞マーカーとしては、例えば、大脳皮質神経細胞マーカー(例えば、Pax6、Emx1、Tbr1)が挙げられる。

0050

また本発明のもう一つの局面では、本発明の方法は、大脳神経細胞のなかでも、腹側大脳神経細胞を効率的に分化誘導でき、また逆に、背側大脳神経細胞への分化を抑制することができる。腹側大脳神経細胞とは、腹側大脳組織に存在する神経細胞、あるいは腹側大脳組織に存在する神経細胞への分化が決定付けられている前駆細胞(例、大脳基底核前駆細胞)をいう。腹側大脳組織としては、例えば、大脳基底核が挙げられる。
本発明の方法により得られた細胞が腹側大脳神経細胞であるか否かは、自体公知の方法、例えば、腹側大脳神経細胞マーカーの発現により確認できる。腹側大脳神経細胞マーカーとしては、例えば、大脳基底核神経細胞マーカー(例えば、Gsh2、Mash1、Nkx2.1、Noz1)が挙げられる。

0051

あるいは別の観点では、本発明の方法により得られる前脳神経細胞(特に、大脳神経細胞)は、細胞マーカーにより特徴付けることができる。本発明の方法により得られる前脳神経細胞は、高頻度、例えば約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上の頻度で、Bf1陽性(以下、「Bf1+」と記載する)である。従来のSDIA法では、約1%の頻度でしか、胚性幹細胞からBf1+細胞を分化誘導できなかったし、またSFEB法であっても10%程度でしか胚性幹細胞からBf1+細胞を分化誘導できなかったが、本発明の方法により、高頻度でBf1+細胞を得ることが可能となった。

0052

本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約20%以上、好ましくは約20〜80%、より好ましくは約20〜50%の細胞が、Gsh陽性であり得る。また、本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約5%以上、好ましくは約5〜50%、より好ましくは約5〜20%の細胞が、Nkx2.1陽性であり得る。さらに、本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約10%以上、好ましくは約10〜90%、より好ましくは約10〜50%の細胞が、Pax陽性であり得る。
また、本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上の細胞が、Emx1陽性であり得る。さらに、本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、例えば約50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上の細胞が、VGluT1陽性であり得る。また、本発明の方法により得られるBf1+細胞のうち、いくつかの細胞において、Telencephalin、GluR1、CamKII、Ctip2、Tbr1の発現も観察されうる。

0053

(3)無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を形成させる工程
本発明は、無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を形成させる工程を含む、幹細胞の分化誘導法を提供する。

0054

「均一な幹細胞の凝集体を形成させる」とは、幹細胞を集合させて幹細胞の凝集体を形成させて培養させる(凝集体培養)際に、「一定の数の分散した幹細胞を迅速に凝集」させることで質的に均一な幹細胞の凝集体を形成することをいう。さらに、特に「細胞を迅速に凝集」させることによって、幹細胞から派生する細胞の上皮化を促進させることをいう。すなわち本明細書中、「細胞を迅速に凝集」させるとは、幹細胞を均一に凝集させることによって産生される細胞の上皮様構造を再現性よく形成させることをいう。

0055

均一な幹細胞の凝集体の形成は、「細胞を迅速に凝集」させることで均一な幹細胞の凝集体が形成され、幹細胞から産生される細胞の上皮様構造を再現性よく形成することができる限りどのような方法を採用してもよく、このような方法としては、例えば、ウェルの小さなプレート96穴プレート)やマイクロポアなどを用いて小さいスペースに細胞を閉じ込める方法、小さな遠心チューブを用いて短時間遠心することで細胞を凝集させる方法などが挙げられる。

0056

凝集体の形成時に用いられる培養器は、「細胞を迅速に凝集」させることで均一な幹細胞の凝集体形成が可能なものであれば特に限定されず、当業者であれば適宜決定することが可能である。このような培養器としては、例えば、フラスコ組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレートマイクロウェルプレート、マイクロポア、マルチプレートマルチウェルプレートチャンバースライドシャーレチューブトレイ培養バックローラーボトルが挙げられる。そしてこれらの培養器は、均一な凝集体を形成させる観点から、細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)されていないものを使用できる。

0057

凝集体の形成時に用いられる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、GlasgowMEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地ハム培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。

0058

凝集体の形成時に用いられる無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味する。本発明においては、上述したようなものである限り特に限定されない。しかしながら、調製の煩雑さを回避するという観点からは、かかる無血清培地として、市販のKSRを適量(例えば、1−20%)添加した無血清培地(GMEM又はdMEM、0.1mM2−メルカプトエタノール、0.1mM非必須アミノ酸Mix、1mMピルビン酸ナトリウム)を使用できる。

0059

また無血清培地は、血清代替物を含有していてもよい。血清代替物は、例えば、アルブミン、トランスフェリン脂肪酸コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。かかる血清代替物は、例えば、WO98/30679記載の方法により調製できる。また、本発明の方法をより簡便に実施するために、血清代替物は市販のものを利用できる。かかる市販の血清代替物としては、例えば、Chemically−defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutamax(Gibco社製)が挙げられる。

0060

また、浮遊培養で用いる無血清培地は、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸緩衝剤無機塩類等を含有できる。

0061

凝集体形成時の幹細胞の濃度は、幹細胞の凝集塊をより均一に、効率的に形成させるように当業者であれば適宜設定することができる。凝集体形成時の幹細胞の濃度は、幹細胞の均一な凝集体を形成可能な濃度である限り特に限定されないが、例えば96穴マイクロウェルプレートを用いる場合、1ウェルあたり約1×103〜約5×103細胞、好ましくは約2×103〜約4×103細胞となるように調製した液を添加し、プレートを静置して凝集体を形成させる。

0062

また凝集体形成時の培養温度CO2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。

0063

凝集体形成までの時間は、細胞を迅速に凝集させることができる限り、用いる幹細胞によって適宜決定可能であるが、均一な凝集体を形成するために出来る限り早く行われることが望ましい。従来、このような凝集体形成は2日間ほどの時間をかけて行なわれるが(例えば、Watanabe,K.ら、Nature Neurosci.8,288−296、Schuldiner M,Benvenisty N. Factors controlling human embryonic stem cell differentiation.MethodsEnzymol.2003;365:446−461を参照のこと)、本発明ではこの時間を短くすることにより、目的の神経細胞等の効率よい分化誘導をもたらすことが可能となった。例えばマウス胚性幹細胞の場合、好ましくは12時間以内、より好ましくは6時間以内に凝集体を形成させることが望ましい。一方ヒト胚性幹細胞の場合は、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内に凝集体を形成させることが望ましい。この時間を超えると、均一な幹細胞の凝集体が形成できず、後の分化効率が著しく低下する原因となり得る。この凝集体形成までの時間は、細胞を凝集させる用具や、遠心条件などを調整することで当業者であれば適宜調節することが可能である。

0064

幹細胞の凝集体が「均一に」形成されたことや、凝集体を形成する各細胞において上皮様構造が形成されたことは、凝集塊のサイズおよび細胞数巨視的形態、組織染色解析による微視的形態およびその均一性、分化および未分化マーカーの発現およびその均一性、分化マーカーの発現制御およびその同期性、分化効率の凝集体間の再現性などに基づき、当業者であれば判断することが可能である。

0065

均一な幹細胞の凝集体の形成として具体的には、例えば胚性幹細胞の維持培養後、分散処理した胚性幹細胞を適切な培地(例えば、GlasgowMEM培地に10%のKSR、0.1mM非必須アミノ酸溶液、2mMグルタミン、1mMピルビン酸および0.1mM2−メルカプトエタノールを添加した培地。必要に応じて後述する因子などを適量含んでいてもよい。)に懸濁し、細胞非接着性のU底96穴培養プレートに、1ウェルあたり3×103細胞になるように150μLの上記培地に浮遊させ、凝集体を速やかに形成させる方法が挙げられる。

0066

(4)無血清培地中で均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養する工程
本工程は、(3)で形成した均一な幹細胞の凝集体を浮遊培養することで、幹細胞を分化誘導する工程である。
均一な幹細胞の凝集体を「浮遊培養する」または「浮遊凝集体(凝集塊ともいう)として培養する」とは、上記(3)で得られた集合し均一な凝集体を形成した幹細胞群を、培養培地中において、細胞培養器に対して非接着性の条件下で培養することをいう(本明細書中、上記(3)の工程と(4)の工程とをあわせて、「SFEBq法」と記載する場合がある)。幹細胞を浮遊培養する場合、浮遊凝集体の形成をより容易にするため、並びに/あるいは、効率的な分化誘導(例えば、神経系細胞等の外胚葉系細胞への分化誘導)のために、フィーダー細胞の非存在下で培養を行うのが好ましい。

0067

上記(3)で得られた凝集体の浮遊培養で用いられる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、GlasgowMEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地など、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。また特に断りの無い限り、(3)記載の工程で用いた培地をそのまま浮遊培養に用いても構わない。

0068

上記凝集体を浮遊培養する場合、培地としては無血清培地が用いられる。ここで、無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。

0069

浮遊培養で用いられる無血清培地は、例えば、血清代替物を含有するものであり得る。血清代替物は、例えば、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。かかる血清代替物は、例えば、WO98/30679記載の方法により調製できる。また、本発明の方法をより簡便に実施するために、血清代替物は市販のものを利用できる。かかる市販の血清代替物としては、例えば、knockout Serum Replacement(KSR)、Chemically−defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutamax(Gibco社製)が挙げられる。

0070

また、本発明の方法で用いられる無血清培地は、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を含有できる。例えば、2−メルカプトエタノールは、胚性幹細胞の培養に適する濃度で使用される限り特に限定されないが、例えば約0.05〜1.0mM、好ましくは約0.1〜0.5mM、より好ましくは約0.2mMの濃度で使用できる。

0071

浮遊培養に用いられる無血清培地は、上述したようなものである限り特に限定されない。しかしながら、調製の煩雑さを回避するという観点からは、かかる無血清培地として、市販のKSRを適量(例えば、1−20%)添加した無血清培地(GMEM又はdMEM、0.1mM2−メルカプトエタノール、0.1mM非必須アミノ酸Mix、1mMピルビン酸ナトリウム)を使用できる。

0072

浮遊培養で用いられる培養器は、細胞の浮遊培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。

0073

凝集体を浮遊培養する場合、培養器は細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)されていないものを使用できる。

0074

凝集体の浮遊培養における培養温度、CO2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。また本工程の時間は特に限定されないが、通常48時間以上である。

0075

浮遊培養後、凝集体をそのまま、あるいは分散処理(例えば、トリプシンEDTA処理)し、細胞を接着条件下でさらに培養することもできる(以下、必要に応じて「接着培養」と記載する)。なお接着培養する場合、細胞接着性の培養器、例えば、細胞外マトリクス等(例えば、ポリ−D−リジンラミニンフィブロネクチン)によりコーティング処理された培養器を使用することが好ましい。また、接着培養における培養温度、CO2濃度等の培養条件は、当業者であれば容易に決定できる。

0076

浮遊培養及び接着培養では、既知分化誘導物質を併用できる。例えば、胚性幹細胞から神経系細胞を分化誘導する場合には、既知の神経系細胞への分化誘導物質を併用できる。このような分化誘導物質としては、例えば、NGF(Biochem.Biophys.Res.Commun.,199,552(1994))、レチノイン酸(Dev.Biol.,168,342(1995);J.Neurosci.,16,1056(1996))、BMP阻害因子(Nature,376,333−336(1995))、IGF(Genes&Development,15,3023−8(2003))などが挙げられる。

0077

上述した浮遊培養法、及び浮遊培養と接着培養との組合せ法によれば、培養期間等を適宜設定することで、胚性幹細胞から外胚葉系細胞等の分化細胞を得ることができる。しかしながら、後述する方法論を適宜さらに組合せることで、神経系細胞をより効率的に分化誘導することができる。

0078

(5)神経系細胞の分化誘導
神経系細胞として前脳神経細胞の分化誘導を例に挙げ、より好適な、(3)で得られる幹細胞の均一な凝集体(以下、「本発明の凝集体」と記載する場合がある)の浮遊培養を行うために組合せるべき本発明の方法論を以下に詳述する。すなわち本発明のSFEBq法において、以下の方法論を組み合わせることで、選択的に前脳神経細胞を得ることが可能となる。

0079

(5−1)前脳神経細胞の分化誘導
前脳神経細胞は、上述した本発明の浮遊培養により、又は必要に応じて上述した浮遊培養と接着培養との組合せにより、幹細胞から分化誘導することができる。好ましくは、前脳神経細胞の分化効率の向上・安定化等の観点から、以下に述べる方法論を併用できる。

0080

(5−1−1)パターン形成因子
本発明の凝集体の浮遊培養は、パターン形成因子の存在下で行うことができる。パターン形成因子とは、幹細胞または前駆細胞に働いて多様な分化の方向性を制御する物質であり、このようなパターン形成因子としては、分泌型パターン形成因子が挙げられる。分泌型パターン形成因子としては、分化制御に関わる細胞内シグナルを活性化あるいは抑制する活性物質である限り特に限定されないが、例えば、FGF、BMP、Wnt、Nodal、Notch、Shhなどが挙げられる。
分泌型パターン形成因子を適用した前脳神経細胞への分化誘導については、例えば、以下の方法論を適用できる。

0081

(A)Nodalシグナルの阻害およびWntシグナルの阻害
一つの方法論は、Nodalシグナル阻害剤および/またはWntシグナル阻害剤の存在下における、本発明の凝集体の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に大脳神経細胞)への分化効率を向上・安定化させる場合に有用である。また、Nodalシグナル阻害剤、Wntシグナル阻害剤の併用により、さらに著しい効果が期待できる。

0082

Nodalシグナル阻害剤は、Nodalにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。Nodalシグナル阻害剤としては、例えば、Lefty−A、Lefty−B、Lefty−1、Lefty−2、可溶型Nodal受容体、Nodal抗体、Nodal受容体阻害剤が挙げられるが、なかでも、Lefty−AまたはLefty−1が好ましい。

0083

本発明の凝集体の浮遊培養に用いられるNodalシグナル阻害剤の濃度は、本発明の凝集体の神経分化促進、あるいは上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばLeftyについては約0.1〜100μg/ml、好ましくは約0.5〜50μg/ml、より好ましくは約1.0〜10μg/ml、最も好ましくは約5μg/mlであり得る。

0084

Nodalシグナル阻害剤は、幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、培養数日後(例えば、培養10日以内の時期)に培地に添加してもよい。好ましくは、Nodalシグナル阻害剤は、培養5日以内の時期に培地に添加される。

0085

Wntシグナル阻害剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。Wntシグナル阻害剤としては、例えば、Dkk1、Cerberus蛋白、Wnt受容体阻害剤、可溶型Wnt受容体、Wnt抗体、カゼインキナーゼ阻害剤ドミナントネガティブWnt蛋白が挙げられるが、なかでも、Dkk1又はCerberus蛋白が好ましい。

0086

本発明の凝集体の浮遊培養に用いられるWntシグナル阻害剤の濃度は、本発明の凝集体の神経分化促進、あるいは上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばDkk1については約0.05〜20μg/ml、好ましくは約0.1〜10μg/ml、より好ましくは約0.5〜5.0μg/ml、最も好ましくは約1μg/mlであり得る。

0087

Wntシグナル阻害剤は、幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、培養数日後(例えば、培養10日以内の時期)に培地に添加してもよい。好ましくは、Wntシグナル阻害剤は、培養5日以内の時期に培地に添加される。なお、本発明の凝集体の浮遊培養は、Nodalシグナル阻害剤及び/又はWntシグナル阻害剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、これら培養条件を切り替えることも可能である。

0088

また別の方法論は、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地、あるいはNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤が実質的に不活化された無血清培地における、本発明の凝集体の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に大脳神経細胞)への分化を促進する場合に有用である。

0089

Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地とは、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を全く含有しない無血清培地、あるいは本発明の凝集体の形成、及び/又は当該凝集体の培養(例えば、分化誘導を目的とする培養)に不利な影響を与えない程度の量のNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を含有する無血清培地をいう。

0090

Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地は、例えば、培地成分としてのNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤の未添加、またはNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤含有培地からのNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤の除去処理により調製できる。

0091

また、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤が実質的に不活化された無血清培地とは、Nodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤含有無血清培地に対するNodalシグナル阻害剤及び/又はWntシグナル阻害剤の添加により、本発明の凝集体の形成、及び/又は当該凝集体の培養に不利な影響を与えない程度にまでNodalシグナル促進剤及び/又はWntシグナル促進剤の活性が喪失した無血清培地をいう。

0092

Nodalシグナル促進剤は、Nodalにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Nodalシグナル促進剤としては、例えば、Nodal、TGFβファミリーに属する蛋白(例えば、アクチビン)、Smad蛋白、活性型Nodal受容体が挙げられる。

0093

Wntシグナル促進剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Wntシグナル促進剤としては、例えば、Wntファミリーに属する蛋白(例えば、Wnt1〜16)、GSK3阻害剤、Wnt受容体、Li+イオンが挙げられる。

0094

(B)Notchシグナルの阻害
一つの方法論は、Notchシグナル阻害剤の存在下における、本発明の凝集体の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に大脳神経細胞)への分化効率を向上・安定化させる場合に有用である。

0095

Notchシグナル阻害剤は、Notchにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。Notchシグナル阻害剤としては、例えば、DAPT、DBZ、MDL28170などが挙げられるが、なかでも、DAPTが好ましい。

0096

本発明の凝集体の浮遊培養に用いられるNotchシグナル阻害剤の濃度は、本発明の凝集体の神経分化促進、あるいは上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばDAPTの場合は、約0.1〜1000μM、好ましくは約0.5〜500μM、より好ましくは約1〜100μM、最も好ましくは約10μMであり得る。

0097

Notchシグナル阻害剤は、幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、培養数日後(例えば、培養10日以内の時期)に培地に添加してもよい。好ましくは、Notchシグナル阻害剤は、培養5日以内の時期に培地に添加される。一方で、後述するように、Notchシグナル阻害剤を特定の任意の時期に培地に添加することによって、特定の層特異的ニューロンを選択的に分化誘導することも可能である。

0098

また別の方法論は、Notchシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地、あるいはNotchシグナル促進剤が実質的に不活化された無血清培地における、本発明の凝集体の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に大脳神経細胞)への分化を促進する場合に有用である。

0099

Notchシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地とは、Notchシグナル促進剤を全く含有しない無血清培地、あるいは本発明の凝集体の形成、及び/又は当該凝集体の培養(例えば、分化誘導を目的とする培養)に不利な影響を与えない程度の量のNotchシグナル促進剤を含有する無血清培地をいう。Notchシグナル促進剤を実質的に含有しない無血清培地は、例えば、培地成分としてのNotchシグナル促進剤の未添加、またはNotchシグナル促進剤含有培地からのNotchシグナル促進剤の除去処理により調製できる。

0100

(C)Fgfシグナルの促進または阻害
さらに別の方法論は、Fgfシグナル促進剤の存在下における、本発明の凝集体の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、腹側大脳神経細胞や腹側大脳皮質神経細胞への分化を促進する場合、背側大脳神経細胞や背側大脳皮質神経細胞への分化を抑制する場合に有用である。またかかる方法論は、吻側大脳神経細胞や吻側大脳皮質神経細胞への分化を促進する場合、尾側大脳神経細胞や尾側大脳皮質神経細胞への分化を抑制する場合にも有用である。

0101

Fgfシグナル促進剤は、Fgfにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Fgfシグナル促進剤としては、好ましくは、FGF(例、Fgf8、Fgf2など)、Fgfアゴニスト、Fgf受容体アゴニストペプチドが挙げられる。Fgfアゴニストとしては、自体公知のFgfアゴニストであれば特に限定されない。またFgf受容体アゴニストペプチドとしては、自体公知のFgf受容体アゴニストペプチドであれば特に限定されない。

0102

本発明の凝集体の浮遊培養に用いられるFgfシグナル促進剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばFfg8の場合、約0.1〜1000ng/ml、好ましくは約0.5〜500ng/nl、より好ましくは約1〜100ng/ml、最も好ましくは約10〜100ng/mlであり得る。

0103

Fgfシグナル促進剤は、本発明の凝集体の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、浮遊培養2日後以降、好ましくは浮遊培養4日後以降などに培地に添加してもよい。なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Fgfシグナル促進剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。

0104

また別の方法論は、Fgfシグナル阻害剤の存在下における、本発明の凝集体の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、背側大脳神経細胞や背側大脳皮質神経細胞への分化を促進する場合、腹側大脳神経細胞や腹側大脳皮質神経細胞への分化を抑制する場合に有用である。またかかる方法論は、尾側大脳神経細胞や尾側大脳皮質神経細胞への分化を促進する場合、吻側大脳神経細胞や吻側大脳皮質神経細胞への分化を抑制する場合にも有用である。

0105

Fgfシグナル阻害剤は、Fgfにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Fgfシグナル阻害剤としては、例えば、Fgfシグナル促進剤に対する抗体、Fgfシグナル促進剤のドミナントネガティブ変異体、可溶型Fgf受容体、Fgf受容体阻害剤が挙げられるが、なかでも、Fgf抗体、Fgfドミナントネガティブ変異体、Fgf受容体阻害剤が好ましい。

0106

浮遊培養に用いられるFgfシグナル阻害剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えば可溶型Fgf受容体の場合、約1〜1000ng/ml、好ましくは約5〜500ng/ml、より好ましくは約10〜100ng/ml、最も好ましくは約20〜100ng/mlであり得る。

0107

Fgfシグナル阻害剤は、本発明の凝集体の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、浮遊培養2日後以降、好ましくは浮遊培養4日後以降などに培地に添加してもよい。なお、本発明の凝集体の浮遊培養は、Fgfシグナル阻害剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。

0108

(D)BMPシグナルの促進およびWntシグナルの促進
一つの方法論は、BMPシグナル促進剤またはWntシグナル促進剤、あるいはその両方の存在下における、本発明の凝集体の浮遊培養である。かかる方法論は、例えば、前脳神経細胞(特に大脳神経細胞)、好ましくは背側大脳神経細胞や尾側大脳神経細胞、より好ましくは海馬神経細胞への分化を促進する場合に有用である。また、吻側大脳神経細胞への分化を抑制する場合に有用である。腹側大脳神経細胞は必ずしも抑制しない。

0109

BMPシグナル促進剤は、BMPにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。BMPシグナル促進剤としては、例えば、BMPファミリーに属する蛋白(例えば、BMP2、BMP4、BMP7、GDF)、BMP受容体、Smad蛋白が挙げられる。好ましくはBMP4である。

0110

浮遊培養に用いられるBMPシグナル促進剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばBMP4の場合、約0.05〜500ng/ml、好ましくは約0.1〜100ng/ml、より好ましくは約0.1〜5ng/ml、最も好ましくは約0.2〜2ng/mlであり得る。

0111

BMPシグナル促進剤は、本発明の凝集体の培養開始時に既に培地に添加されていてもよく、また浮遊培養2日後以降、好ましくは浮遊培養4日後以降に培地に添加してもよい。なお、本発明の凝集体の浮遊培養は、BMPシグナル促進剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。

0112

Wntシグナル促進剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Wntシグナル促進剤としては、例えば、Wntファミリーに属する蛋白(例えば、Wnt3a)、GSK3阻害剤、Wnt受容体、Li+イオンなどが挙げられるが、なかでもWnt3aが好ましい。
本発明の凝集体の浮遊培養後に用いられるWntシグナル促進剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度である限り限定されないが、例えば、Wnt3aについては約0.1〜500ng/ml、好ましくは約1.0〜100ng/ml、より好ましくは約5.0〜50ng/ml、最も好ましくは約50ng/mlであり得る。
Wntシグナル促進剤は、本発明の凝集体の培養開始時に既に培地に添加されてもよく、接着培養直後から数日後(例えば、浮遊培養開始4日以降、または浮遊培養10日以内の期間)に培地に添加してもよい。好ましくは、Wntシグナル促進剤は、浮遊培養5日以内の時期に培地に添加される。

0113

(E)Shhシグナルの促進
さらに別の方法論は、Shhシグナル促進剤の存在下における本発明の凝集体の浮遊培養である。かかる方法論は大脳神経細胞、好ましくは大脳基底核神経細胞への分化を促進する場合に有用であるところ、大脳基底核腹側部神経細胞への分化を促進する場合にも有用であるし、また大脳基底核背側部神経細胞への分化を促進する場合にも有用である。
詳細には後述するように、培地に添加するShhシグナル促進剤の濃度を変えることで、幹細胞を選択的に背側部、腹側部の大脳基底核神経細胞へとそれぞれ分化誘導することができる。

0114

Shhシグナル促進剤は、Shhにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Shhシグナル促進剤としては、例えば、Hedgehogファミリーに属する蛋白(例えば、Shh)、Shh受容体、Shh受容体アゴニストが挙げられるが、なかでも、Shhが好ましい。

0115

浮遊培養に用いられるShhシグナル促進剤の濃度は、上記有用性を達成可能であるような濃度であり得る。かかる濃度は、例えばShhの場合、約1.0〜1000nM、好ましくは約1.0〜500nM、より好ましくは約2〜500nM、最も好ましくは約3〜300nMであり得る。
ここでSFEBq法を適用した培養において、大脳基底核背側部神経細胞へと分化誘導させる場合は、例えば約0.5〜20nM、好ましくは約2〜10nMのShhシグナル促進剤の濃度で培養することが望ましい。一方、SFEBq法を適用した培養において、大脳基底核腹側部神経細胞へと分化誘導させる場合は、例えば約10〜300nM、好ましくは約20〜100nMのShhシグナル促進剤の濃度で培養することが望ましい。

0116

Shhシグナル促進剤は、胚性幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、例えば浮遊培養2日後以降、好ましくは浮遊培養4日後以降に培地に添加できる。なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Shhシグナル促進剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。

0117

また別の方法論は、Shhシグナル阻害剤の存在下における、胚性幹細胞の浮遊培養である。Shhシグナル促進剤の添加により、胚性幹細胞の腹側前脳神経細胞への分化が促進されること、胚性幹細胞の背側前脳神経細胞への分化が抑制されること等が予想される。従って、Shhシグナル阻害剤を用いれば、腹側前脳神経細胞分化の抑制、背側前脳神経細胞分化の促進等の効果が期待できると考えられる。
Shhシグナル阻害剤は、Shhにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Shhシグナル阻害剤としては、例えば、Shhシグナル促進剤に対する抗体、Shhシグナル促進剤のドミナントネガティブ変異体、可溶型Shh受容体、Shh受容体アンタゴニストが挙げられるが、なかでも、Shh抗体、Shhドミナントネガティブ変異体が好ましい。
なお、胚性幹細胞の浮遊培養は、Shhシグナル阻害剤の非存在下で行うことも勿論可能である。また、浮遊培養の途中に、この培養条件を切り替えることも可能である。

0118

(5−1−2)接着培養
また別の方法論は、SFEBq法の後に接着培養を行うことである。凝集塊をそのまま、あるいは分散処理(例えば、トリプシン/EDTA処理)後に、細胞を接着培養に供することができる。なお、接着培養では、細胞接着性の培養器、例えば、細胞外マトリクス等(例えば、ポリ−D−リジン、ラミニン、フィブロネクチン)によりコーティング処理された培養器を使用することが好ましい。接着培養は、例えば1日以上、好ましくは1〜14日、より好ましくは2〜5日行うことができる。
本発明のSFEBq法で得られた幹細胞の均一な凝集体は、上記コーティング処理された培養器上においても、浮遊培養した場合と同様に、良好に分化誘導される。

0119

(5−1−3)まとめ
上述した各種方法論は、前脳神経細胞、あるいは特定の前脳神経細胞(例えば、大脳神経細胞、腹側大脳神経細胞、背側大脳神経細胞、吻側大脳神経細胞、尾側大脳神経細胞、大脳基底核背側神経細胞、大脳基底核腹側神経細胞など)を効率的に得るために適宜組合せることができる。
また同一の効果を奏する方法論を組合せることで、より優れた効果が期待できる。

0120

(6)大脳皮質層特異的ニューロンへの選択的分化誘導
上述したとおり、大脳皮質神経細胞は、上述した本発明の凝集体の浮遊培養(SFEBq法)により幹細胞から分化誘導することができるところ、大脳皮質層特異的ニューロンを選択的に分化誘導する観点から、以下に述べる方法論を併用することが好ましい。ここで、「大脳皮質」とは大脳の表面に広がる神経細胞の灰白質の層であり、神経細胞が規則正しい6層構造をなして整然と並んでいる。本明細書における「大脳皮質層特異的ニューロン」とは、6つの層をそれぞれ構成する特異的な大脳皮質神経細胞のことをいう。

0121

(6−1)浮遊培養の時間的制御
一つの方法論は、本発明の凝集体の浮遊培養を60時間〜350時間行うことを特徴とする方法である。かかる方法論によれば、例えば一般的な神経分化を経て、幹細胞を大脳皮質の層構造特異的な細胞に分化させることができる。

0122

すなわち本発明のSFEBq法によれば、大脳前駆細胞への分化誘導を経て、上記時間範囲内において、発生過程での大脳皮質層特異的ニューロンの発生順(Shen et al,Nature Neurosci.,9,743−751(2006)参照)と一致した順番で各層特異的ニューロンが誘導される。
具体的には、まず大脳第1層特異的なReelin陽性細胞(カハール・レチウス細胞)が誘導され、次いで第6層特異的なTbr1陽性細胞が誘導される。さらに、第5層特異的なCrip2陽性細胞が誘導され、次いで第2−3層特異的なBrn2陽性細胞が誘導される。

0123

(6−2)Notchシグナルによる制御
また別の方法論は、本発明のSFEBq法において、Notchシグナル阻害剤を任意の時期に培地に添加することによって、特定の層特異的ニューロンを選択的に分化誘導することである。かかる方法論によれば、幹細胞を、大脳皮質の層構造特異的な細胞に分化させることができる。

0124

Notchシグナル阻害剤の種類、浮遊培養中の濃度については、前記(5−1−1)の(B)で記載したとおりである。

0125

Notchシグナル阻害剤は、適切な時期に培地に添加することにより、大脳皮質層特異的ニューロンを分化誘導することができる。例えばマウスES細胞にSFEBq法を適用した場合、9日間(約216時間)の培養後にDAPT処理を行った細胞は、大脳第1層特異的なReelin陽性細胞(カハール・レチウス細胞)に誘導される。一方で12日間(約288時間)の培養後にDAPT処理を行った細胞は、第5層特異的なCrip2陽性細胞に誘導される。

0126

(7)視床下部ニューロンへの選択的分化誘導
また本発明は、間脳、特に視床下部ニューロンの前駆細胞、またはそこからさらに分化成熟した視床下部ニューロンを幹細胞から分化誘導する方法を提供する。この場合、上記SFEBq法に適用する無血清培地が、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸等の増殖因子並びにインシュリン類を実質的に含有しないことが望ましい。これらの増殖因子並びにインシュリン類を実質的に含有しないことを条件に、任意の動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。
浮遊培養で用いる無血清培地は、視床下部ニューロンの前駆細胞への選択的分化を促進するため亜セレン酸またはその塩を含むことが好ましい。亜セレン酸の塩としては、亜セレン酸ナトリウムが好ましい。亜セレン酸またはその塩の濃度は、通常約1〜100μg/ml、好ましくは約10〜50μg/mlである。

0127

亜セレン酸またはその塩は、多能性幹細胞の培養開始時に培地に添加しておいてもよいが、例えば浮遊培養開始2日後以降に培地に添加できる。

0128

浮遊培養で用いる無血清培地は、視床下部ニューロンの前駆細胞への選択的分化を促進するためShhシグナル促進剤を含んでいてもよい。Shhシグナル促進剤は、Shhにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Shhシグナル促進剤としては、例えば、Hedgehogファミリーに属するタンパク質(例えば、Shh、Shh−N)、Shh受容体、Shh受容体アゴニスト(例、Purmorphamine(2−(1−Naphthoxy)−6−(4−morpholinoanilino)−9−cyclohexylpurine))が挙げられるが、なかでも、Shh、Shh−N、Purmorphamineが好ましい。

0129

浮遊培養に用いられるShhシグナル促進剤の濃度は、視床下部ニューロンの前駆細胞への選択的分化を達成可能であるような濃度であり得る。このような濃度は、例えばShh−Nの場合、約0.5〜500nM、好ましくは約3〜300nMであり、Purmorphamineの場合、約0.02〜20nM、好ましくは約0.1〜5nMであり得る。

0130

Shhシグナル促進剤は、多能性幹細胞の培養開始時に培地に添加しておいてもよいが、例えば浮遊培養開始2日後以降、好ましくは浮遊培養開始4日後以降に培地に添加できる。

0131

浮遊培養に用いる培地(本明細書中で「分化培地」と呼ぶ)は、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸等の増殖因子並びにインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地である。

0132

「増殖因子及びインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地」とは、増殖因子及びインシュリン類を全く含有しない無血清培地、あるいは視床下部ニューロンの前駆細胞への選択的分化に不利な影響を与えない程度の量の増殖因子及び/又はインシュリン類を含有する無血清培地をいう。このような無血清培地は、例えば、培地成分としての増殖因子及びインシュリン類の未添加、またはNodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸及びインシュリン類を含有する培地からのこれらの因子の除去処理により調製できる。

0133

或いは、増殖因子及びインシュリン類を実質的に含有しない無血清培地は、増殖因子及びインシュリン類が実質的に不活化された無血清培地であり得、この培地は、増殖因子及びインシュリン類含有無血清培地に対する増殖因子シグナル阻害剤及び/又はインシュリンシグナル阻害剤の添加により、視床下部ニューロンの前駆細胞の選択的分化に不利な影響を与えない程度にまで増殖因子及びインシュリン類の活性が喪失した無血清培地をいう。

0134

本明細書中で「増殖因子を実質的に含有しない培地」という場合の「増殖因子」とは、無血清培地での細胞培養において、血清代替物として一般に添加される因子であって、ES細胞からの視床下部ニューロンの前駆細胞の選択的分化を阻害/抑制する作用を有する任意の因子を意味する。具体的には、この「増殖因子」としては、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸等を挙げることができる。好ましくは、「増殖因子を実質的に含有しない培地」は、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤及びレチノイン酸からなる群より選択される少なくとも1つの増殖因子を実質的に含有しない培地であり、最も好ましくは、これら全ての因子を実質的に含有しない培地である。また、lipid−richアルブミンも「増殖因子」に含まれ、本発明において使用される培地は好ましくはlipid−richアルブミンを含有しない培地である。

0135

Nodalシグナル促進剤としては、例えば、Nodal、TGFβファミリーに属するタンパク質(例えば、アクチビン)、Smadタンパク質、活性型Nodal受容体が挙げられる。好ましくは、無血清培地への混入が所望されないNodalシグナル促進剤は、Nodalである。

0136

Wntシグナル促進剤としては、例えば、Wntファミリーに属するタンパク質(例えば、Wnt1〜16)、GSK3阻害剤、Wnt受容体、Li+イオンが挙げられる。好ましくは、無血清培地への混入が所望されないWntシグナル促進剤は、Wnt3aである。

0137

FGFシグナル促進剤としては、例えば、FGFファミリーに属するタンパク質(例えば、FGF1〜23)が挙げられる。好ましくは、無血清培地への混入が所望されないFGFシグナル促進剤は、FGF8bである。

0138

BMPシグナル促進剤としては、例えば、BMPファミリーに属するタンパク質(例えば、BMP2、BMP4、BMP7、GDF)、BMP受容体、Smadタンパク質が挙げられる。好ましくは、無血清培地への混入が所望されないBMPシグナル促進剤は、BMP7である。

0139

本明細書中で使用する場合、「インシュリン類」とは、インシュリンシグナルを促進する化合物を意味する。インシュリンシグナル促進剤とは、インシュリン類によるシグナルの伝達に対して促進的に作用するものである限り特に限定されず、インシュリンシグナル伝達経路のどの段階で作用するものであってもよい(インシュリンの上流または下流に対して作用する因子、インシュリンのアゴニスト、類似物質など)。

0140

インシュリン類には、インシュリン及びインシュリンの類似物質(アナログ)が含まれる。インシュリンの類似物質とは、インシュリン様の作用(本明細書中では、多能性幹細胞からの、間脳、特に視床下部、具体的には吻側視床下部の神経細胞(ニューロン)、またはそれらの前駆細胞の選択的分化を阻害/抑制する作用をいう)を有する任意の物質をいい、例えば、IGF−I等が挙げられる。

0141

上記無血清培地を得るための増殖因子及びインシュリン類含有培地からの増殖因子及びインシュリン類の除去処理には、例えば、上記増殖因子(例えば、Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸、lipid−richアルブミンなど)及びインシュリン類に対する抗体を用いることができる。また、増殖因子及びインシュリン類の不活化は、増殖因子シグナル阻害剤及びインシュリンシグナル阻害剤の添加によって実施され得る。このような阻害剤は、増殖因子又はインシュリンによるシグナル伝達経路の上流又は下流を阻害する任意の物質であり得、例えば、増殖因子/インシュリンに対する抗体、増殖因子/インシュリンの可溶型受容体、増殖因子/インシュリン受容体に対する抗体、増殖因子/インシュリンのアンタゴニストなどが挙げられる。これらの物質は、所望の効果(視床下部ニューロンの前駆細胞への選択的分化)を得るのに適した量で培地に添加される。

0142

Nodalシグナル阻害剤は、Nodalにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。Nodalシグナル阻害剤としては、例えば、SB431542(Sigma)、Lefty−A、Lefty−B、Lefty−1、Lefty−2、可溶型Nodal受容体、Nodal抗体、Nodal受容体阻害剤が挙げられるが、なかでも、SB431542(4−(5−benzo[1,3]dioxol−5−yl−4−pyridin−2−yl−1H−imidazol−2−yl)−benzamide)が好ましい。

0143

Wntシグナル阻害剤は、Wntにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。Wntシグナル阻害剤としては、例えば、Dkk1、Cerberusタンパク質、Wnt受容体阻害剤、可溶型Wnt受容体、Wnt抗体、カゼインキナーゼ阻害剤、ドミナントネガティブWntタンパク質が挙げられるが、なかでも、Dkk1が好ましい。

0144

FGFシグナル阻害剤は、FGFにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。FGFシグナル阻害剤としては、例えば、抗FGF抗体、可溶型FGF受容体、FGF受容体阻害剤(例えば、Su5402)が挙げられる。

0145

BMPシグナル阻害剤は、BMPにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。BMPシグナル阻害剤としては、例えば、BMPRFc(R&D)、抗BMP抗体、可溶型BMP受容体、BMP受容体阻害剤が挙げられるが、なかでもBMPRFcが好ましい。

0146

レチノイン酸(RA)阻害剤は、RAにより媒介されるシグナル伝達を抑制し得るものである限り特に限定されない。RA阻害剤としては、例えば、抗RA抗体、可溶型RA受容体、RA受容体阻害剤が挙げられる。

0147

浮遊培養に用いられる上記各シグナル阻害剤の濃度は、視床下部ニューロンの前駆細胞への選択的分化を達成可能であるような濃度であり得る。例えば、SB431542について、このような濃度は、約0.1〜100nM、好ましくは約5〜30nMである。Dkk1については、約10〜1000ng/ml、好ましくは約100〜1000ng/mlである。また、BMPRFcについては、約0.1〜10μg/ml、好ましくは約0.5〜3μg/mlである。

0148

上記各シグナル阻害剤は、多能性幹細胞の培養開始時に培地に添加しておくことが最も好ましいが、場合により、培養数日後に培地に添加することも考えられる。

0149

インシュリンの細胞内シグナル伝達には、大きく分けて2つの経路(MAPK経路とPI3K−Akt経路)が関与しているが、本発明の浮遊培養で使用されるインシュリンシグナル阻害剤としては、インシュリンシグナル伝達経路の下流因子であるPI3Kの阻害剤、そしてさらに下流の因子であるAktの阻害剤が挙げられる(MAPK阻害剤PD98059は、視床下部ニューロンの前駆細胞への分化に対するインシュリンの阻害作用拮抗しなかった(実施例15))。本発明において使用され得るPI3K阻害剤としては、LY294002(2−(4−morpholinyl)−8−phenyl−1(4H)−benzopyran−4−one hydrochloride)(Cayman Chemical)、Wortmannin(FERMENTEK)などが挙げられるが、好ましくはLY294002である。本発明において使用され得るAkt阻害剤としては、Akt inhibitor I〜X(Calbiochem)などが挙げられるが、好ましくはAkt inhibitor VIII(1,3−Dihydro−1−(1−((4−(6−phenyl−1H−imidazo[4,5−g]quinoxalin−7−yl)phenyl)methyl)−4−piperidinyl)−2H−benzimidazol−2−one)である。

0150

インシュリンシグナルが阻害され、視床下部ニューロンの前駆細胞の選択的分化が達成される限り、浮遊培養においては、上記PI3K阻害剤又はAkt阻害剤から選択される阻害剤を単独で用いてもよく、あるいはPI3K阻害剤とAkt阻害剤とを併用してもよい。各阻害剤から2種以上を選択して併用することもできる。

0151

浮遊培養に用いられるPI3K阻害剤/Akt阻害剤の濃度は、視床下部ニューロンの前駆細胞への選択的分化を達成可能であるような濃度であり得る。例えば、LY294002について、このような濃度は、約0.5〜30μM、好ましくは約2〜10μMである。Akt inhibitor VIIIについては、約0.1〜10μM、好ましくは約0.5〜5μMである。

0152

PI3K阻害剤/Akt阻害剤は、多能性幹細胞の培養開始時に培地に添加しておくことが最も好ましいが、げっ歯類(例えばマウス)多能性細胞の分化の場合は少なくとも培養6日目まで(好ましくは少なくとも培養2日目までに添加する)の時期に、霊長類(例えばヒト)多能性細胞の分化の場合は少なくとも培養24日目まで(好ましくは少なくとも培養9日目までに添加する)の時期には、分化培地に添加すべきである。

0153

好ましい態様において、本発明で使用される分化培地は、上述の増殖因子もインシュリン類も含有しない、化学的に規定された(Chemically defined)培地(growth factor−free CDM;gfCDMと呼ぶ)である(以下の実施例13を参照のこと)。このgfCDM培地は、以前に報告されたCDM培地(Mol.Cell.Biol.15:141−151(1995))を改変したものである。
内因性の増殖因子/インシュリンの作用を抑制するため、このようなgfCDM培地あるいは他の培地に増殖因子阻害剤/インシュリン阻害剤をさらに添加してもよい。

0154

別の好ましい態様において、本発明で使用される分化培地は、PI3K阻害剤及びAkt阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの阻害剤並びにインシュリン類を含有し、且つインシュリン以外の上述の増殖因子(Nodalシグナル促進剤、Wntシグナル促進剤、FGFシグナル促進剤、BMPシグナル促進剤、レチノイン酸等)を実質的に含有しない無血清培地である。例えば、以下の実施例19に示されるように、霊長類の多能性幹細胞の分化誘導においては、インシュリンを含有しない培地により浮遊培養を行うと、細胞が死滅して増殖しにくい場合がある。このような細胞死を回避するために、細胞増殖亢進させるためのインシュリン添加を実施し、同時にインシュリンの分化誘導阻害効果に拮抗するインシュリンシグナル阻害剤(例、PI3K阻害剤/Akt阻害剤)を添加することが好ましい。この場合、分化培地に含まれるインシュリン類の濃度は、多能性幹細胞の増殖を促進し得る濃度である。例えば、インシュリンについてこのような濃度は、通常約0.02〜40μg/ml、好ましくは約0.1〜10μg/mlである。PI3K阻害剤及びAkt阻害剤の濃度範囲は上述の通りである。

0155

また、分散浮遊培養時の細胞死を抑制するために、インシュリン添加に加えて、ROCK阻害剤(Y−27632((+)−(R)−trans−4−(1−aminoethyl)−N−(4−pyridyl)cyclohexanecarboxamide dihydrochloride);渡辺ら、Nature Biotechnology 2007)を培養開始時から添加することが好ましい。浮遊培養に用いられるROCK阻害剤の濃度は、分散浮遊培養時の細胞死を抑制し得る濃度である。例えば、Y−27632について、このような濃度は、通常約0.1〜200μM、好ましくは約2〜50μMである。

0156

本発明の方法においては、浮遊培養に用いる培地中のShhシグナル促進剤の有無により、得られ得る視床下部ニューロン前駆細胞の分化能が異なる。

0157

Shhシグナル促進剤を含有する培地中で多能性幹細胞の浮遊培養を行うと、内腹側核ニューロン、A12型ドーパミンニューロン、弓状核ニューロン又はオレキシン陽性ニューロンへの分化能を有する、腹側視床下部ニューロンの前駆細胞が選択的に誘導される。Shhシグナル促進剤としては、Shh、Shh−N、Purmorphamineが好ましい。

0158

浮遊培養に用いられるShhシグナル促進剤の濃度は、腹側視床下部ニューロン前駆細胞への選択的分化を達成可能であるような濃度であり得る。このような濃度は、例えばShh−Nの場合、約1〜1000nM、好ましくは約10〜100nMであり、Purmorphamineの場合、約0.05〜50nM、好ましくは約0.1〜10nMであり得る。

0159

Shhシグナル促進剤は、多能性幹細胞の培養開始時に培地に添加しておいてもよいが、例えば浮遊培養開始2日後以降、好ましくは浮遊培養開始4日後以降に培地に添加できる。必要に応じて、Shhシグナル促進剤の有無を浮遊培養の途中で切り替えてもよい。

0160

一方、Shhシグナル促進剤を実質的に含有しない培地中で多能性幹細胞の浮遊培養を行うと、バゾプレシン産生内分泌細胞への分化能を有する、背側視床下部ニューロンの前駆細胞が選択的に誘導される。

0161

Shhシグナル促進剤を実質的に含有しない培地中での浮遊培養は、Shhシグナル阻害剤の存在下に行なってもよい。Shhシグナル阻害剤の使用により、腹側視床下部ニューロン分化の抑制、背側視床下部ニューロン分化の促進等の効果が期待できる。

0162

Shhシグナル阻害剤は、Shhにより媒介されるシグナル伝達を増強し得るものである限り特に限定されない。Shhシグナル阻害剤としては、例えば、Shhシグナル促進剤に対する抗体、Shhシグナル促進剤のドミナントネガティブ変異体、可溶型Shh受容体、Shh受容体アンタゴニストが挙げられる。Shhシグナル阻害剤としては、例えば、Cyclopamine(11−Deoxojervine)等が挙げられる。必要に応じて、Shhシグナル阻害剤の有無を浮遊培養の途中で切り替えてもよい。

0163

多能性肝細胞の浮遊培養に用いる培養器は、細胞の浮遊培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。

0164

多能性幹細胞を浮遊培養する場合、培養器は細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)されていないものを使用できる。

0165

培養開始時の多能性幹細胞の濃度は、多能性幹細胞の浮遊凝集体をより効率的に形成させるように適宜設定できる。培養開始時の多能性幹細胞の濃度は、多能性幹細胞の浮遊凝集体を形成可能な濃度である限り特に限定されないが、例えば、約1×104〜約5×105細胞/ml、好ましくは約3×104〜約1×105細胞/mlであり得る。

0166

多能性肝細胞の浮遊培養における培養温度、CO2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。

0167

具体的には、多能性肝細胞の浮遊培養としては、例えば、多能性幹細胞の維持培養後、分散処理した多能性幹細胞を適切な培地に懸濁し、細胞非接着性の培養器に、1×104〜5×106細胞/mlの細胞濃度播種し、例えば、少なくとも5日間(好ましくは7日間以上)37℃で5%の二酸化炭素通気したCO2インキュベーターにて培養する方法が挙げられる。

0168

例えば、多能性肝細胞の浮遊培養は、非接着性の96穴培養プレートに、1ウェル当たり約2500〜約5000細胞(例えば、約3000細胞)となるよう、150μlの分化培地に浮遊させることにより実施する。

0169

浮遊培養の培養物から、視床下部ニューロンの前駆細胞を単離することにより、視床下部ニューロンの前駆細胞を得ることができる。「培養物」とは、細胞を培養することにより得られる結果物をいい、細胞、培地、場合によっては細胞分泌性成分等が含まれる。「単離」とは目的とする細胞以外の成分(細胞、タンパク質、培地等)を除去することを意味する。

0170

浮遊培養後、視床下部ニューロンの前駆細胞を含む凝集塊をそのまま、あるいは分散処理(例えば、トリプシン/EDTA処理)し、次いで細胞を接着条件下でさらに培養できる(以下、必要に応じて「接着培養」と省略)。なお、接着培養では、細胞接着性の培養器、例えば、細胞外マトリクス等(例えば、ポリDリジン、ラミニン、フィブロネクチン)によりコーティング処理された培養器を使用することが好ましい。また、接着培養における培養温度、CO2濃度等の培養条件は、当業者であれば容易に決定できる。

0171

接着培養において使用する培地は、視床下部ニューロンの前駆細胞を意図した細胞へと分化させることが可能である限り、他のいずれの物質を含んでもよい。この培地は、浮遊培養においては排除されていた「増殖因子」又は「インシュリン」などを必要に応じて含有していてもよく、血清代替物、並びに脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を含有していてよい。血清代替物は、例えば、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール又は3’チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得、市販の血清代替物としては、例えば、knockout Serum Replacement(KSR)、Chemically−defined Lipid concentrated(Gibco社製)、Glutamax(Gibco社製)が挙げられる。

0172

また、接着培養において使用する培地は、必要に応じて更に種々の添加物(N2添加物、B27添加物等)を含有することができる。

0173

接着培養では、既知の分化誘導物質を使用することができる。視床下部ニューロンの前駆細胞からさらに特定の視床下部ニューロン(背側視床下部ニューロン、腹側視床下部ニューロン等)を分化誘導する場合に使用され得る分化誘導物質としては、毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)等が挙げられる。分化誘導物質は、目的とする成熟細胞の種類に依存して適宜選択することが可能である。また、添加時の濃度も、用いる物質及び目的細胞の種類などに応じて適宜設定できる。例えば、CNTFを使用して背側視床下部ニューロン又は腹側視床下部ニューロンを誘導する場合の適切な濃度は、通常1〜200ng/ml、好ましくは、2〜50ng/mlである。BDNFを使用して、腹側視床下部ニューロン(内腹側核ニューロン、A12型ドーパミンニューロン、弓状核ニューロン、オレキシン陽性ニューロン等)を誘導する場合の適切な濃度は、通常1〜1000ng/ml、好ましくは、10〜200ng/mlである。

0174

分化誘導物質は、接着培養開始時に既に培地に添加されてもよく、接着培養直後から数日後に培地に添加してもよい。

0175

上述した浮遊培養法、及び浮遊培養と接着培養との組合せ法によれば、培養期間等を適宜設定することで、多能性幹細胞から視床下部ニューロンの前駆細胞を得ることができ、そこからさらに分化成熟した視床下部ニューロンを得ることもできる。

0176

上記浮遊培養法、及び浮遊培養と接着培養との組合せ法により得られた細胞は、マーカー遺伝子の発現の有無、又は神経内分泌細胞の場合には分泌タンパク質ホルモン)の培地への放出若しくは細胞内におけるその前駆タンパク質の蓄積等を指標とし、必要に応じてそれらを組み合わせることにより、いずれの細胞に分化したかを確認することができる。また、細胞の形態を観察することによって、得られた細胞を特定することもできる。更に、このようなマーカー発現パターンや細胞の形態に基づき、所望の特定の細胞を単離することもできる。

0177

このようなマーカー遺伝子としては、例えば、N−cadherin(神経細胞)、Rx(視床下部及び網膜の前駆細胞)、nestin(視床下部ニューロンの前駆細胞では発現されるが網膜前駆細胞では発現されない)、Sox1(視床下部神経上皮で発現され、網膜では発現されない)、BF1(終脳前駆細胞)、Nkx2.1(腹側)、PAX6(背側)、Foxb1(尾側視床下部中の乳頭体ニューロン)、SF1(有糸分裂後のVMH前駆細胞)、Otp(背側視床下部)、GluT2、TH、AgRP、NPY、Orexin、Otx2(前−中脳マーカー)、Six3(吻側前脳)、Vax1、Irx3(尾側間脳及びそれより尾側の脳組織)、En2(典型的に中脳)及びHoxb9(尾側CNS)などの公知のマーカーが利用可能であるが、これらに限定されない。これらのマーカー遺伝子の発現の有無を適宜組み合わせることにより、得られた細胞の正体を特定することができる。

0178

マーカー遺伝子の発現は、定量PCRを、例えば、製造者の指示に従って7500 Fast Real−Time PCR System(Applied Biosystems)で実施し、GAPDH発現によってデータを正規化することにより解析する。定量PCRの方法は当業者に公知である。或いは、目的とするマーカー遺伝子が、マーカー遺伝子産物とGFPなどとの融合タンパク質として発現されるように、細胞を操作してもよい(ノックイン)。マーカー遺伝子産物に対して特異的な抗体を用いて、タンパク質の発現を検出することができる。

0179

視床下部が分泌するホルモンとしては、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)、GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)、GIH(成長ホルモン抑制ホルモン)、GnRH(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン)、PRF(プロラクチン放出因子)、PIF(プロラクチン抑制因子)、TRH甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)、SSソマトスタチン)、バゾプレシン(ADH抗利尿ホルモン)、オキシトシンなどが挙げられる。これらのホルモンの産生/分泌を指標として、本発明の方法で得られた細胞の性状を確認する。

0180

例えば、アルギニン−バゾプレシン(AVP)産生ニューロンは、形態的には、大きな丸型又は卵形細胞体長軸方向に20−30μm)、長い軸索及び少数樹状突起を有している。このニューロンは、Neurophysin II(NP II)を細胞内に蓄積しており、高カリウム刺激により培地中にAVPを放出する。
これらのタンパク質の検出は、免疫染色又はラジオミュノアセイにより実施することができる。また、その他のホルモン産生ニューロンについても、産生されるホルモン等に特異的な抗体等を用いて、同様のアッセイが可能である。このような方法は当業者に公知である。

0181

(8)細胞培養物、及び医薬としての使用
本発明はまた、本発明の方法により得られる細胞培養物を提供する。本発明の細胞培養物は、例えば、幹細胞の浮遊凝集体、浮遊凝集体を分散処理した細胞、分散処理細胞の培養により得られる細胞などであり得る。また、本発明は、かかる細胞培養物より被験体投与し得る程度に単離・精製された均質な細胞、例えば、大脳神経細胞、視床下部ニューロン等の前脳神経細胞を提供する。

0182

本発明の方法により得られた細胞は、神経系細胞、例えば前脳神経細胞、感覚器系細胞の障害に基づく疾患の治療薬、又はその他の原因による細胞損傷状態において当該細胞を補充するためなどに用いることができる。神経系細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、パーキンソン病脊髄小脳変性症ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、てんかん、脳外傷脊髄損傷運動神経疾患、神経変性疾患網膜色素変性症加齢黄斑変性症内耳性難聴多発性硬化症筋萎縮性側索硬化症神経毒物の障害に起因する疾患などが挙げられる。具体的には、前脳神経細胞、特に終脳神経細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、脳外傷が挙げられる。

0183

間脳は視床及び視床下部の総称である。視床下部は自律神経の中枢であり、またホルモンを分泌して下垂体の機能を調節し、体温摂食飲水循環系などの調節に関与する。従って、本発明の方法により得られた細胞は、間脳、特に視床下部の細胞障害(細胞の損傷、機能不全など)に起因する疾患の治療薬として用いることができ、また、脳外科手術後(例えば、脳腫瘍摘出後)などに失われた細胞を補充するために用いることもできる。
本発明の方法で得られた細胞を移植することにより治療/緩和され得る疾患としては、内分泌異常(例えば、中枢性尿崩症、フレーリッヒ症候群、視床下部性下垂体機能低下症、視床下部症候群)、摂食障害(拒食症/過食症)、睡眠障害、日内リズム障害などが挙げられる。

0184

また、本発明の方法により得られた細胞、例えば、神経系細胞を、当該細胞の障害に基づく疾患の治療薬として用いる場合、当該細胞の純度を高めた後に被験体に移植することが好ましい。

0185

細胞の純度を高める方法は、公知となっている細胞分離精製の方法であればいずれも用いることができるが、例えば、フローサイトメーターを用いる方法(例えば、Antibodies−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、Monoclonal Antibodies:principles and practice,Third Edition,Acad.Press(1993)、Int.Immunol.,10,275(1998)参照)、パニング法(例えば、Monoclonal Antibodies:principles and practice,Third Edition,Acad.Press(1993)、Antibody Engineering,A Practical Approach,IRL Pressat Oxford University Press(1996)、J.Immunol.,141,2797(1988)参照)、ショ糖濃度密度差を利用する細胞分画法(例えば、組織培養の技術(第三版),書店(1996)参照)が挙げられる。

0186

本発明の細胞の純度を高める方法は、上述のような幹細胞を分化誘導して得られた細胞、例えば神経系細胞を、抗癌剤を含む培地中で培養する工程を含む。これにより、未分化な状態の細胞を除去することができ、より純度の高い分化細胞を得ることが可能で、医薬としてより好適となる。即ち、抗癌剤で処理することにより、目的とする分化細胞以外の細胞、例えば未分化な細胞を除去することができる。

0187

ここで、抗癌剤としては、マイトマイシンC5−フルオロウラシルアドリアマイシンアラCまたはメトトレキセートなどが挙げられる。これら抗癌剤は、分化誘導した細胞よりも未分化な状態の細胞に、より細胞毒性を示す濃度で用いることが好ましい。具体的には、上述した培養方法に準じて、これら抗癌剤を用いた培養を行い、至適濃度を決定することができ、例えば、これら抗癌剤を生体に用いる日本薬局方記載の濃度の100分の1〜1倍の濃度で含む培地を用い、5%の二酸化炭素を通気したCO2インキュベーターで、37℃で数時間、好ましくは2時間培養する方法を挙げることできる。

0188

ここで使用する培地としては、分化誘導した細胞を培養することが可能な培地であればいかなるものも用いることができる。具体的には、上述の培地等を挙げることができる。

0189

また、移植医療においては、組織適合性抗原の違いによる拒絶がしばしば問題となるが、体細胞の核を核移植した幹細胞、又は染色体上の遺伝子を改変した幹細胞を用いることで当該問題を克服できる。

0190

また、体細胞の核を核移植した幹細胞を用いて分化誘導することで、体細胞を提供した個体の細胞、例えば、神経系細胞、感覚器系細胞を得ることができる。このような個体の細胞は、その細胞自身が移植医療として有効のみならず、既存の薬物がその個体に有効か否かを判断する診断材料としても有用である。さらに、分化誘導した細胞を長期に培養することで酸化ストレス老化に対する感受性の判定が可能であり、他の個体由来の細胞と機能や寿命を比較することで神経変性疾患等の疾患に対する個体のリスクを評価することができ、それら評価データは将来の発病率が高いと診断される疾患の効果的な予防法を提供するために有用である。

0191

本発明の方法により幹細胞から分化誘導された細胞、例えば神経系細胞は、自体公知の方法により患者疾患部位に移植できる(例えば、Nature Neuroscience,2,1137(1999)参照)。

0192

(9)大脳神経ネットワークの形成
本発明は、(3)の工程を含む、大脳皮質神経ネットワークを試験管内で形成する方法を提供する。この方法によれば、SFEBq法により得られた細胞凝集体が乱雑な細胞塊になることなく、その中に大脳皮質神経ネットワークを形成することができる。

0193

試験管内の細胞凝集体において本発明の大脳皮質神経ネットワークが構築されたことは、例えばカルシウム放出を指標としたイメージング解析により確認することができる。ここで「試験管内」とは、単に生体内で無い(インビトロ)ことを示す。
また本発明の方法によって形成される大脳皮質神経ネットワークにおいては、多くの細胞で周囲の細胞と同調した、または同調しないCa2+上昇(カルシウムオシレーション)が繰り返し観察される。このように、本発明の方法で形成される大脳皮質神経ネットワークは、好ましくは同期した自発発火を伴うものであり、ここで「発火」とは、神経細胞の脱分極による興奮性活動のことをいい、「自発発火」とは、それが自発的に起こることをいう。すなわち本発明の方法で形成される大脳皮質神経ネットワークは、ある面で生体組織と類似した神経活動を起こしうる。

0194

本発明によれば、本発明の方法により得られた培養産物、具体的には上記大脳神経ネットワークを構築している細胞凝集体が提供される。当該培養産物(細胞凝集体)は、生体における神経ネットワークと極めて類似した神経ネットワークを構築しているので、神経系細胞、例えば前脳神経細胞の障害に基づく疾患の治療薬のスクリーニング、その他の原因による細胞損傷状態における治療薬のスクリーニング、またはそれらの毒性試験などに用いることができる。ここで神経系細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、てんかん、脳外傷、脊髄損傷、運動神経疾患、神経変性疾患、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、内耳性難聴、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、神経毒物の障害に起因する疾患などが挙げられる。具体的には、前脳神経細胞、特に大脳神経細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、脳外傷が挙げられる。

0195

また当該培養産物(細胞凝集体)は、神経系細胞、例えば前脳神経細胞の障害に基づく疾患の治療薬、その他の原因による細胞損傷状態における治療薬などとして用いることもできる。

0196

(10)大脳皮質組織構造の形成
本発明は、(3)の工程を含む、脳組織の立体構造を試験管内で形成する方法を提供する。この方法によれば、SFEBq法により得られた細胞凝集体が乱雑な細胞塊になることなく、その中に脳組織の立体構造を形成することができる。より好ましくは、初期の大脳原基で認められる大脳皮質層と同様の順序で、自己組織化が進む大脳皮質の組織形成初期過程を模倣することが可能である。

0197

試験管内の細胞凝集体において脳組織の立体構造が構築されたことは、例えばPax6、Tbr1等の層特異的神経細胞マーカーの発現、光学あるいは電子顕微鏡による形態解析、GFP導入細胞ライブイメージングなどにより確認することができる。ここで「試験管内」とは、上記と同様の意味を示す。また脳組織としては特に限定されず、脳を構成する組織のあらゆる構造を形成し得るが、好ましくは大脳組織であり、より好ましくは大脳皮質組織である。

0198

本発明によれば、本発明の方法により得られた培養産物、具体的には脳組織の立体構造を構築している細胞凝集体が提供される(以下、(9)で得られる大脳神経ネットワークを形成する細胞凝集体、(10)で得られる脳組織の立体構造を構築している細胞凝集体、および(11)で得られる胎仔脳胞に類似した組織学的特徴を持つ構造を有する細胞凝集体をまとめて、「本発明の培養産物」と記載する)。本発明の培養産物は、大脳皮質の組織形成の初期過程と極めて類似した脳組織を構築しているので、神経系細胞、例えば前脳神経細胞の障害に基づく疾患の治療薬のスクリーニング、その他の原因による細胞損傷状態における治療薬のスクリーニング、またはそれらの毒性試験などに用いることができる。ここで神経系細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、てんかん、脳外傷、脊髄損傷、運動神経疾患、神経変性疾患、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、内耳性難聴、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、神経毒物の障害に起因する疾患などが挙げられる。具体的には、前脳神経細胞、特に終脳神経細胞の障害に基づく疾患としては、例えば、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、虚血性脳疾患(例えば、脳卒中)、脳外傷が挙げられる。

0199

また本発明の培養産物は、神経系細胞、例えば前脳神経細胞の障害に基づく疾患の治療薬、その他の原因による細胞損傷状態における治療薬などとして用いることもできる。

0200

(11)大脳皮質組織の上皮構造形成の促進
上記浮遊培養において培地中に細胞外マトリクス成分を添加することにより、無添加の場合よりも長期間にわたって大脳皮質組織の上皮構造が安定に維持され、胎仔脳胞に類似した組織学的特徴を持つ構造が得られる。
胎仔脳胞との類似性は、以下の特徴を指標として判断することができる:1)radial glia細胞の高い密度、2)ラミニン陽性の連続した基底膜の保持、3)radial glia細胞の基底膜接着部に見られるend foot構造。radial gliaは、BLBPをマーカーとして検出することができる。

0201

「細胞外マトリクス成分」とは、細胞外マトリクス中に通常見出される各種成分をいう。本発明の方法では、基底膜成分を用いることが好ましい。基底膜の主成分としては、例えばIV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンエンクチンが挙げられる。
培地に添加する細胞外マトリクス成分としては市販のものが利用でき、例えば、Matrigel(BD Bioscience)、ヒト型ラミニン(シグマ)などが挙げられる。
Matrigelは、Engelbreth Holm Swarn(EHS)マウス肉腫由来の基底膜調製物である。Matrigelの主成分はIV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンであるが、これらに加えてTGF−β、線維芽細胞増殖因子(FGF)、組織プラスミノゲン活性化因子、EHS腫瘍天然に産生する増殖因子が含まれる。
Matrigelのgrowth factor reduced製品は、通常のMatrigelよりも増殖因子の濃度が低く、その標準的な濃度はEGFが<0.5ng/ml、NGFが<0.2ng/ml、PDGFが<5pg/ml、IGF−1が5ng/ml、TGF−βが1.7ng/mlである。本発明の方法では、growth factor reduced製品の使用が好ましい。

0202

浮遊培養で培地に添加する細胞外マトリクス成分の濃度は、大脳皮質組織の上皮構造が安定に維持される限り特に限定されず、Martigelを用いる場合には培養液の1/500-1/20の容量、さらに好ましくは1/100の容積で添加することが好ましい。細胞外マトリクス成分は幹細胞の培養開始時に既に培地に添加されていてもよいが、好ましくは、浮遊培養開始後数日以内の時期(例えば、浮遊培養開始1日後)に培地に添加される。

0203

(12)スクリーニング方法
本発明は、本発明の細胞培養物または本発明の培養産物を用いることを特徴とする、被検物質のスクリーニング方法を提供する。特に本発明の培養産物は、生体における神経ネットワークと極めて類似した神経ネットワークを構築しており、また大脳皮質の組織形成の初期過程と極めて類似した脳組織を構築しているので、神経系細胞、例えば前脳神経細胞の障害に基づく疾患の治療薬のスクリーニング、その他の原因による細胞損傷状態における治療薬のスクリーニング、またはそれらの毒性試験、さらには神経系疾患の新たな治療方法の開発などに適用することができる。

0204

ここで「被検物質」としては、例えば神経系疾患の治療薬として有効性を確認したい物質や、その他の疾患の治療薬であって脳神経への影響(例えば、毒性)を確認することが必要な物質が挙げられる。当該物質は、低分子化合物高分子化合物、タンパク質、遺伝子(DNA、RNAなど)、ウイルスなど、どのようなものであってもよい。このような物質は、当業者が適宜選択することができる。

0205

以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示を示すものにすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。

0206

実施例1:SFEBq法による高効率の大脳皮質前駆細胞への分化誘導
(方法)
マウスES細胞(E14由来)のEB5細胞または、E14由来の細胞株で神経分化レポーターとして大脳神経マーカーBf1遺伝子に改変GFP(green fluorescent protein)であるVenus遺伝子を相同組替えにてノックインした細胞(以下「Bf1/Venus−mES細胞」と記載する)を、文献(渡辺ら、Nature Neuroscience,2005)記載の通りに培養し、実験に用いた。
培地にはG−MEM培地(Invitrogen)に1%牛胎児血清、10%KSR(Knockout Serum Replacement;Invitrogen)、2mMグルタミン、0.1mM非必須アミノ酸、1mMピルビン酸、0.1mM2−メルカプトエタノールおよび2000U/ml LIFを添加したものを用いた。浮遊培養による神経分化誘導には、0.25% trypsin−EDTA(Invitrogen)を用いてES細胞を単一分散し、非細胞接着性の96穴培養プレート(スミロンスフェロイドプレート,住友ベークライト社)の1ウェルあたり3×103細胞になるように150μlの分化培地に浮遊させ、凝集塊を速やかに形成させた後、37℃、5%CO2で7日間インキュベーションした(SFEBq法;図1A)。
その際の分化培地には、G−MEM培地に10%KSR、2mM glutamine、1mM pyruvate、0.1mM nonessential amino acids、0.1mM 2−ME、250 μg/ml recombinant human Dkk−1、1 μg/ml recombinant human Lefty−1を添加した無血清培地(渡辺ら、Nature Neuroscience,2005参照)を用いた。
凝集塊を6cmの非接着性プラスチックシャーレ(3.5mlの分化培地)に回収し、さらに3日間浮遊培養を継続したのち(計10日間)、蛍光免疫染色法分化状態を解析した。結果を図1に示す。

0207

(結果)
免疫染色解析の結果、分化培養開始後10日の凝集塊の細胞のうち約7割の細胞が大脳特異的マーカーBf1を発現していた。また、Bf1陽性細胞のうち9割の細胞が大脳皮質特異的マーカーEmx1を発現していた。Bf1/Venus−mES細胞を分化させたものをVenus−GFPの発現で解析した場合も、約7割の細胞が陽性であり、その大半がEmx1を発現していた(図1A)。このように、SFEBq法は上記の分化培地を用いた場合、高効率で大脳皮質細胞(前駆細胞)を分化誘導することが可能である。なお、10cm培養ディッシュを用いて、緩徐にES細胞の凝集塊を形成させる既存の方法(渡辺ら、Nature Neuroscience,2005)では、Bf1陽性細胞は3割にとどまり、そのうち大脳皮質マーカーEmx1陽性となるのは4割未満であった。また凝集体が極性を持った上皮様構造を有していることは、N−カドヘリン、CD−133、ラミニンなどの発現(図1B〜G)や、電子顕微鏡によるタイトジャンクション図1H、括弧)やアドレンスジャンクション(図1I、括弧)などの形態観察ロゼットの形成(図1J、図1K、点線はロゼットを示す)、極性マーカーの発現(図1L〜O、点線はロゼットを示し、星印内腔を示す)などにより確認した。
このように、SFEBq法は従来法に比して、より高効率に大脳、とりわけ大脳皮質へのES細胞の分化を促進する。

0208

実施例2:SFEBq法により誘導された大脳皮質前駆細胞からの大脳ニューロンの試験管内産生
(方法)
実施例1に記載の方法で培養を継続し、12日間分化培養した凝集塊を酵素的に分散させ(スミロンNeural Tissue Dissociationキット)、poly−D−リジン/ラミニン/フィブロネクチンでコートした培養プレートの上に5×104cells/cm2で播種し、DMEM/F12培地に1×N2 supplementと10ng/ml FGF2を添加した培地で2日間培養した。その後、B27 supplementを添加したNeurobasal培地+50ng/ml BDNF+50ng/mlNT3でさらに6日間培養した。分化したニューロンの性状を蛍光抗体法で解析した。結果を図2に示す。

0209

(結果)
試験管内の細胞のほとんどがTuJ1陽性のニューロンとなっており、そのうち8割が大脳皮質特異的なマーカーであるEmx1陽性で、グルタミン酸作動性ニューロン(大脳皮質に豊富に存在)のマーカーであるVGluT1陽性であった(図2A〜B)。また、大脳ニューロンに特徴的な複数の神経マーカー(Telencephalin、GluR1、CamKII、Ctip2、Tbr1など)の発現も観察された(図2C〜F)。
このように、SFEBq法により誘導された大脳皮質前駆細胞からの大脳特異的なニューロンへの分化が確認された。

0210

実施例3:SFEBq法により産生された大脳ニューロンによる神経ネットワークの形成(方法)
SFEBq法により産生された大脳ニューロンの活動とネットワーク形成を確認するために、fluo4−AMを用いたCa++イメージング法による解析を行った。観察方法は、文献(Ikegaya et al,2005,Neurosci.Res.,52,132−138)に記載した通りである。
実施例1に記載の方法で、18日間培養したマウスES細胞由来の凝集塊をTranswell culture insert(Corning)上で、N2 supplementしたDMEM/F12培地を用いてさらに7日間培養した(図3A)。Ca++イメージングは人工脳脊髄液を用いて、室温で行った。結果を図3に示す。

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