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課題・解決手段
安価で、活性が高く、環境に優しいリビングラジカル重合触媒を提供することリビングラジカル重合方法のための触媒であって、窒素またはリンから選択される中心元素と、該中心元素に結合した少なくとも1つのハロゲン原子とを含む触媒が提供される。この触媒の存在下で、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーをラジカル重合反応させることにより、分子量分布の狭いポリマーを得ることができ、リビングラジカル重合のコストを劇的に低減することができる。本発明は、触媒の低毒性、低使用量、高溶解性、温和な反応条件、無着色・無臭(成形品の後処理が不要)などの利点を有し、従来のリビングラジカル重合方法に比べて格段に環境に優しく経済性に優れる。
概要
背景
従来から、ビニルモノマーを重合してビニルポリマーを得る方法として、ラジカル重合法が周知であったが、ラジカル重合法は一般に、得られるビニルポリマーの分子量を制御することが困難であるという欠点があった。また、得られるビニルポリマーが、様々な分子量を有する化合物の混合物になってしまい、分子量分布の狭いビニルポリマーを得ることが困難であるという欠点があった。具体的には、反応を制御しても、重量分子平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)として、2〜3程度にまでしか減少させることができなかった。
このような欠点を解消する方法として、1990年頃から、リビングラジカル重合法が開発されている。すなわち、リビングラジカル重合法によれば、分子量を制御することが可能であり、かつ分子量分布の狭いポリマーを得ることが可能である。具体的には、Mw/Mnが2以下のものを容易に得ることが可能であることから、ナノテクノロジーなどの最先端分野に用いられるポリマーを製造する方法として脚光を浴びている。
リビングラジカル重合法に現在用いられる触媒としては、遷移金属錯体系触媒が知られている。
遷移金属錯体系触媒としては、例えば、Cu、Ni、Re、Rh、Ruなどを中心金属とする化合物に配位子を配位させた錯体が使用されている。このような触媒は、例えば、以下の文献に記載されている。
特許文献1(特開2002−249505号公報)は、Cu、Ru、Fe、Niなどを中心金属とする錯体を触媒として使用することを開示する。
なお、特許文献1は、その請求項1において、重合開始剤として、有機ハロゲン化物を用いると記載している。この記載は、ハロゲン化炭化水素がリビングラジカル重合の触媒として作用することを意味するものではない。特許文献1の発明においては、遷移金属を中心金属とする金属錯体が、リビングラジカル重合触媒として使用されている。特許文献1の発明においては、有機ハロゲン化物が、本願明細書中で後述するドーマント種として使用されている。
特許文献2(特開平11−322822号公報)は、ヒドリドレニウム錯体を触媒として使用することを開示する。
なお、特許文献2は、その請求項1において、「ヒドリドレニウム錯体およびハロゲン化炭化水素の組み合わせからなるラジカルリビング重合用触媒」と記載している。この記載は、ハロゲン化炭化水素がリビングラジカル重合の触媒として作用することを意味するものではない。特許文献2の発明においては、ヒドリドレニウム錯体が、リビングラジカル重合触媒として使用されている。特許文献2の発明においては、ハロゲン化炭化水素が、本願明細書中で後述するドーマント種として使用されている。その触媒とドーマント種との組み合わせを特許文献2では触媒と記載しているものであって、ハロゲン化炭化水素がリビングラジカル重合の触媒となることを記載しているのではない。
非特許文献1(Journal of The American Chemical Society 119,674−680(1997))は、4,4’−ジ−(5−ノニル)−2,2’−ビピリジンを臭化銅に配位させた化合物を触媒として使用することを開示する。
なお、非特許文献1は、スチレンの重合の際に1−フェニルエチルブロミドを用いたことを記載している。すなわち、特許文献2の発明においては、臭化銅錯体が、リビングラジカル重合触媒として使用され、1−フェニルエチルブロミドが、本願明細書中で後述するドーマント種として使用されている。
しかしながら、このような遷移金属錯体触媒を用いる場合には、使用量として多量の遷移金属錯体触媒が必要であり、反応後に使用された大量の触媒を製品から完全に除去することが容易でないという欠点があった。また不要となった触媒を廃棄する際に環境上の問題が発生し得るという欠点があった。さらに、遷移金属には毒性の高いものが多く、製品中に残存する触媒の毒性が環境上問題となる場合があり、遷移金属を食品包装材、生体・医療材料などに使用することは困難であった。また、反応後に製品から除去された触媒の毒性が環境上問題となる場合もあった。さらに、導電性の遷移金属がポリマーに残存するとそのポリマーに導電性が付与されてしまって、レジストや有機ELなどの電子材料に使用することが困難であるという問題もあった。また、錯体を形成させないと反応液に溶解しないため、配位子となる化合物を用いなければならず、このために、コストが高くなり、かつ、使用される触媒の総重量がさらに多くなってしまうという問題もあった。さらに、配位子は、通常、高価であり、あるいは煩雑な合成を要するという問題もあった。また、重合反応に高温(例えば、110℃以上)が必要であるという欠点があった(例えば、上記非特許文献1では、110℃において重合を行っている)。
なお、触媒を用いる必要がないリビングラジカル重合方法も公知である。例えば、ニトロキシル系、およびジチオエステル系の方法が知られている。しかし、これらの方法においては、特殊な保護基をポリマー成長鎖に導入する必要があり、この保護基が非常に高価であるという欠点がある。また、重合反応に高温(例えば、110℃以上)が必要であるという欠点がある。さらに、生成するポリマーが好ましくない性能を有しやすいという欠点がある。すなわち、生成するポリマーがその高分子本来の色と異なる色に着色されたものになりやすく、また、生成するポリマーが臭気を有するものになりやすいという欠点がある。
他方、非特許文献2(Polymer Preprints 2005, 46(2), 245−246)および特許文献3(特開2007−92014号公報)は、Ge、Snなどを中心金属とする錯体を触媒として使用することを開示する。
非特許文献1に記載されていた銅錯体触媒では、ポリマー1kgを重合する際に必要とされる触媒の費用がおよそ数千円になっていた。これに対して、ゲルマニウム触媒においては、約千円程度にまで費用が低減されるので、非特許文献2の発明は、触媒の費用を顕著に低減させるものであった。しかしながら、リビングラジカル重合を汎用樹脂製品等に応用するためには、さらなる低コストの触媒が求められていた。
一般に、遷移金属、あるいは遷移金属元素の化合物が、各種化学反応の触媒として好ましいことが知られている。例えば、J.D.LEE 「無機化学」(東京化学同人、1982年4月15日第1版発行)311頁は、「多くの遷移金属とその化合物は触媒作用をもつ。…ある場合には、遷移金属はいろいろな原子価をとり、不安定な中間体化合物をつくることがあり、また他の場合には、遷移金属は良好な反応面を提供しこれらが触媒作用として働くのである」と記載している。すなわち、不安定な様々な中間体化合物を形成できるなどの遷移金属に特有の性質が、触媒の機能には欠かせないことが当業者に広く理解されていたのである。
そして上述した非特許文献2に記載されたGe、Sn、Sbは遷移金属ではないが、周期表の第4周期および第5周期に位置する元素であって、大きい原子番号を有し、多数の電子および多数の電子軌道を有する。従って、Ge、Sn、Sbにおいては、これらの原子が多数の電子および多数の電子軌道を有することが、触媒として有利に作用していることが推測される。
このような従来技術の各種触媒に関する技術常識によれば、周期表の第2周期および第3周期に位置する典型元素は少数の電子および電子軌道しか有さず、触媒化合物に用いることは不利であり、これらの典型元素を用いた化合物に触媒作用は期待できないと考えられていた。
特開2002−249505号公報
特開平11−322822号公報
特開2007−92014号公報
Journal of The American Chemical Society 119,674−680(1997)
Polymer Preprints 2005, 46(2), 245−246, 「Germanium− and Tin−Catalyzed Living Radical Polymerizations of Styrene」、American Chemical Society, Division of Polymer Chemistry
概要
安価で、活性が高く、環境に優しいリビングラジカル重合触媒を提供することリビングラジカル重合方法のための触媒であって、窒素またはリンから選択される中心元素と、該中心元素に結合した少なくとも1つのハロゲン原子とを含む触媒が提供される。この触媒の存在下で、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーをラジカル重合反応させることにより、分子量分布の狭いポリマーを得ることができ、リビングラジカル重合のコストを劇的に低減することができる。本発明は、触媒の低毒性、低使用量、高溶解性、温和な反応条件、無着色・無臭(成形品の後処理が不要)などの利点を有し、従来のリビングラジカル重合方法に比べて格段に環境に優しく経済性に優れる。
目的
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、リビングラジカル重合のための高い活性を有する触媒およびこの触媒を用いた重合法を提供することを目的とする。
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 3件
- 牽制数
- 4件
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請求項1
請求項2
請求項1に記載の触媒であって、前記中心元素が3価もしくは5価のリンまたは3価の窒素である、触媒。
請求項3
請求項1または2に記載の触媒であって、以下の一般式(Ia)の化合物からなる、触媒:ここで、R1はアルキル、アルキルカルボキシル、ハロアルキル、水酸基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ、アルキルカルボニル、アリールまたは置換アリールであり、ここで、2つのR1が結合して、1つのMと一緒になって環状構造を形成してもよく、nは0〜4×hの整数であり、Mは中心元素であって、窒素またはリンであり、hは1以上の整数であり、hが2以上の整数である場合、R1、X1、Zは、それぞれ独立して、複数のMの原子のいずれに結合していてもよく、X1はハロゲンであり、Zは酸素、窒素または硫黄であって、Mに結合しており、ZとMとの間の結合:は二重結合または三重結合であり、mは1〜5×hの整数であり、kは0〜2×hの整数である。
請求項4
請求項5
請求項3または4に記載の触媒であって、X1はヨウ素である、触媒。
請求項6
請求項3〜5のいずれか1項に記載の触媒であって、nは0であり、mは2〜5×hの整数である、触媒。
請求項7
請求項3〜6のいずれか1項に記載の触媒であって、Mはリンであり、以下の一般式(Ib)で示される触媒:ここで、R1はアルキル、アルコキシ、アリールまたは置換アリールであり、nは0〜4×hの整数であり、hは1〜4の整数であり、hが2以上の整数である場合、R1、X1、Zは、それぞれ独立して、複数のMの原子のいずれに結合していてもよく、X1はハロゲンであり、Zは酸素または窒素であって、Pに結合しており、ZとMとの間の結合:は二重結合または三重結合であり、mは1〜5×hの整数であり、kは0〜2×hの整数である。
請求項8
請求項1〜7のいずれか1項に記載の触媒であって、以下の一般式(Ic)で示される触媒:R1nPX1m(=O)k(Ic)ここで、R1はアルコキシ、アリールまたは置換アリールであり、nは0〜2の整数であり、X1はハロゲンであり、mは1〜3の整数であり、kは0〜1の整数である。
請求項9
請求項3〜6のいずれか1項に記載の触媒であって、nは0〜3であり、Mは窒素であり、hは1であり、mは1〜3であり、kが0であり、2つのR1が結合してMと一緒になって環を形成してもよい、触媒。
請求項10
請求項3〜6および9のいずれか1項に記載の触媒であって、R1はアルキルカルボニルであり、nは2であり、Mは窒素であり、hは1であり、mは1であり、kは0であり、2つのR1がMと一緒になって環を形成する、触媒。
請求項11
リビングラジカル重合を行う工程を包含する重合方法であって、該リビングラジカル重合工程が、請求項1〜10のいずれか1項に記載の触媒の存在下で行われる、方法。
請求項12
請求項13
請求項11または12に記載の方法であって、反応温度が、20℃〜100℃である、方法。
請求項14
リビングラジカル重合を行う方法であって、ラジカル開始剤から生じたラジカルと、触媒前駆体化合物とを反応させて活性化ラジカルを生じさせる工程、および該活性化ラジカルを用いて、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーを重合してポリマーを得る工程を含み、ここで、該前駆体化合物が、窒素またはリンから選択される少なくとも1つの中心元素と、該中心元素に結合した少なくとも1つの水素原子とを含み、ただし、該中心元素にはハロゲン原子が結合しておらず、該ラジカル開始剤から生じたラジカルは、該前駆体化合物から水素原子を引き抜いて、該活性化ラジカルを生じさせ、そして該活性化ラジカルは、該モノマーの重合反応のリビングラジカル触媒として作用する、方法。
請求項15
請求項14に記載の方法であって、前記中心元素が5価のリンである、方法。
請求項16
請求項14または15に記載の方法であって、前記触媒前駆体化合物がホスファイトである、方法。
請求項17
請求項18
リビングラジカル重合法における触媒の使用であって、該触媒が、請求項1〜6のいずれか1項に記載の触媒であり、ここで、該重合法が、該触媒の存在下でリビングラジカル反応を行う工程を包含する、使用。
請求項19
請求項11〜17のいずれか1項に記載の方法であって、前記リビングラジカル重合反応において炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物が使用され、該有機ハロゲン化物から与えられるハロゲンが成長鎖の保護基として使用される、方法。
請求項20
請求項19に記載の方法であって、前記有機ハロゲン化物中のハロゲンが結合している炭素に、2つまたは3つの炭素が結合している、方法。
技術分野
背景技術
0002
従来から、ビニルモノマーを重合してビニルポリマーを得る方法として、ラジカル重合法が周知であったが、ラジカル重合法は一般に、得られるビニルポリマーの分子量を制御することが困難であるという欠点があった。また、得られるビニルポリマーが、様々な分子量を有する化合物の混合物になってしまい、分子量分布の狭いビニルポリマーを得ることが困難であるという欠点があった。具体的には、反応を制御しても、重量分子平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)として、2〜3程度にまでしか減少させることができなかった。
0003
このような欠点を解消する方法として、1990年頃から、リビングラジカル重合法が開発されている。すなわち、リビングラジカル重合法によれば、分子量を制御することが可能であり、かつ分子量分布の狭いポリマーを得ることが可能である。具体的には、Mw/Mnが2以下のものを容易に得ることが可能であることから、ナノテクノロジーなどの最先端分野に用いられるポリマーを製造する方法として脚光を浴びている。
0006
特許文献1(特開2002−249505号公報)は、Cu、Ru、Fe、Niなどを中心金属とする錯体を触媒として使用することを開示する。
0007
なお、特許文献1は、その請求項1において、重合開始剤として、有機ハロゲン化物を用いると記載している。この記載は、ハロゲン化炭化水素がリビングラジカル重合の触媒として作用することを意味するものではない。特許文献1の発明においては、遷移金属を中心金属とする金属錯体が、リビングラジカル重合触媒として使用されている。特許文献1の発明においては、有機ハロゲン化物が、本願明細書中で後述するドーマント種として使用されている。
0009
なお、特許文献2は、その請求項1において、「ヒドリドレニウム錯体およびハロゲン化炭化水素の組み合わせからなるラジカルリビング重合用触媒」と記載している。この記載は、ハロゲン化炭化水素がリビングラジカル重合の触媒として作用することを意味するものではない。特許文献2の発明においては、ヒドリドレニウム錯体が、リビングラジカル重合触媒として使用されている。特許文献2の発明においては、ハロゲン化炭化水素が、本願明細書中で後述するドーマント種として使用されている。その触媒とドーマント種との組み合わせを特許文献2では触媒と記載しているものであって、ハロゲン化炭化水素がリビングラジカル重合の触媒となることを記載しているのではない。
0010
非特許文献1(Journal of The American Chemical Society 119,674−680(1997))は、4,4’−ジ−(5−ノニル)−2,2’−ビピリジンを臭化銅に配位させた化合物を触媒として使用することを開示する。
0011
なお、非特許文献1は、スチレンの重合の際に1−フェニルエチルブロミドを用いたことを記載している。すなわち、特許文献2の発明においては、臭化銅錯体が、リビングラジカル重合触媒として使用され、1−フェニルエチルブロミドが、本願明細書中で後述するドーマント種として使用されている。
0012
しかしながら、このような遷移金属錯体触媒を用いる場合には、使用量として多量の遷移金属錯体触媒が必要であり、反応後に使用された大量の触媒を製品から完全に除去することが容易でないという欠点があった。また不要となった触媒を廃棄する際に環境上の問題が発生し得るという欠点があった。さらに、遷移金属には毒性の高いものが多く、製品中に残存する触媒の毒性が環境上問題となる場合があり、遷移金属を食品包装材、生体・医療材料などに使用することは困難であった。また、反応後に製品から除去された触媒の毒性が環境上問題となる場合もあった。さらに、導電性の遷移金属がポリマーに残存するとそのポリマーに導電性が付与されてしまって、レジストや有機ELなどの電子材料に使用することが困難であるという問題もあった。また、錯体を形成させないと反応液に溶解しないため、配位子となる化合物を用いなければならず、このために、コストが高くなり、かつ、使用される触媒の総重量がさらに多くなってしまうという問題もあった。さらに、配位子は、通常、高価であり、あるいは煩雑な合成を要するという問題もあった。また、重合反応に高温(例えば、110℃以上)が必要であるという欠点があった(例えば、上記非特許文献1では、110℃において重合を行っている)。
0013
なお、触媒を用いる必要がないリビングラジカル重合方法も公知である。例えば、ニトロキシル系、およびジチオエステル系の方法が知られている。しかし、これらの方法においては、特殊な保護基をポリマー成長鎖に導入する必要があり、この保護基が非常に高価であるという欠点がある。また、重合反応に高温(例えば、110℃以上)が必要であるという欠点がある。さらに、生成するポリマーが好ましくない性能を有しやすいという欠点がある。すなわち、生成するポリマーがその高分子本来の色と異なる色に着色されたものになりやすく、また、生成するポリマーが臭気を有するものになりやすいという欠点がある。
0014
他方、非特許文献2(Polymer Preprints 2005, 46(2), 245−246)および特許文献3(特開2007−92014号公報)は、Ge、Snなどを中心金属とする錯体を触媒として使用することを開示する。
0015
非特許文献1に記載されていた銅錯体触媒では、ポリマー1kgを重合する際に必要とされる触媒の費用がおよそ数千円になっていた。これに対して、ゲルマニウム触媒においては、約千円程度にまで費用が低減されるので、非特許文献2の発明は、触媒の費用を顕著に低減させるものであった。しかしながら、リビングラジカル重合を汎用樹脂製品等に応用するためには、さらなる低コストの触媒が求められていた。
0016
一般に、遷移金属、あるいは遷移金属元素の化合物が、各種化学反応の触媒として好ましいことが知られている。例えば、J.D.LEE 「無機化学」(東京化学同人、1982年4月15日第1版発行)311頁は、「多くの遷移金属とその化合物は触媒作用をもつ。…ある場合には、遷移金属はいろいろな原子価をとり、不安定な中間体化合物をつくることがあり、また他の場合には、遷移金属は良好な反応面を提供しこれらが触媒作用として働くのである」と記載している。すなわち、不安定な様々な中間体化合物を形成できるなどの遷移金属に特有の性質が、触媒の機能には欠かせないことが当業者に広く理解されていたのである。
0017
そして上述した非特許文献2に記載されたGe、Sn、Sbは遷移金属ではないが、周期表の第4周期および第5周期に位置する元素であって、大きい原子番号を有し、多数の電子および多数の電子軌道を有する。従って、Ge、Sn、Sbにおいては、これらの原子が多数の電子および多数の電子軌道を有することが、触媒として有利に作用していることが推測される。
0018
このような従来技術の各種触媒に関する技術常識によれば、周期表の第2周期および第3周期に位置する典型元素は少数の電子および電子軌道しか有さず、触媒化合物に用いることは不利であり、これらの典型元素を用いた化合物に触媒作用は期待できないと考えられていた。
特開2002−249505号公報
特開平11−322822号公報
特開2007−92014号公報
Journal of The American Chemical Society 119,674−680(1997)
Polymer Preprints 2005, 46(2), 245−246, 「Germanium− and Tin−Catalyzed Living Radical Polymerizations of Styrene」、American Chemical Society, Division of Polymer Chemistry
発明が解決しようとする課題
0019
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、リビングラジカル重合のための高い活性を有する触媒およびこの触媒を用いた重合法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0020
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果として、本発明を完成させた。すなわち、本発明によれば、以下の触媒および重合方法が提供され、そのことにより上記課題が解決される。
0021
(1)リビングラジカル重合法のための触媒であって、窒素またはリンから選択される少なくとも1つの中心元素と、該中心元素に結合した少なくとも1つのハロゲン原子とを含む化合物からなる、触媒。
0022
(2) 上記項1に記載の触媒であって、前記中心元素が3価もしくは5価のリンまたは3価の窒素である、触媒。
0023
(3) 上記項1または2に記載の触媒であって、以下の一般式(Ia)の化合物からなる、触媒:
0024
ここで、R1はアルキル、アルキルカルボキシル、ハロアルキル、水酸基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ、アルキルカルボニル、アリールまたは置換アリールであり、
ここで、2つのR1が結合して、1つのMと一緒になって環状構造を形成してもよく、
nは0〜4×hの整数であり、
Mは中心元素であって、窒素またはリンであり、
hは1以上の整数であり、
hが2以上の整数である場合、R1、X1、Zは、それぞれ独立して、複数のMの原子のいずれに結合していてもよく
X1はハロゲンであり、
Zは酸素、窒素または硫黄であって、Mに結合しており、
ZとMとの間の結合:
0027
(5) 上記項3または4に記載の触媒であって、X1はヨウ素である、触媒。
0028
(6) 上記項3〜5のいずれか1項に記載の触媒であって、nは0であり、mは2〜5×hの整数である、触媒。
0029
(7) 上記項3〜6のいずれか1項に記載の触媒であって、Mはリンであり、以下の一般式(Ib)で示される触媒:
0030
ここで、R1はアルキル、アルコキシ、アリールまたは置換アリールであり、
nは0〜4×hの整数であり、
hは1〜4の整数であり、
hが2以上の整数である場合、R1、X1、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、複数のMの原子のいずれに結合していてもよく、
X1はハロゲンであり、
Zは酸素または窒素であって、Pに結合しており、
ZとMとの間の結合:
0031
は二重結合または三重結合であり、
mは1〜5×hの整数であり、
kは0〜2×hの整数である。
0032
(8) 上記項1〜7のいずれか1項に記載の触媒であって、以下の一般式(Ic)で示される触媒:
R1nPX1m(=O)k (Ic)
ここで、R1はアルコキシ、アリールまたは置換アリールであり、
nは0〜2の整数であり、
X1はハロゲンであり、
mは1〜3の整数であり、
kは0〜1の整数である。
0033
(9) 上記項3〜6のいずれか1項に記載の触媒であって、nは0〜3であり、Mは窒素であり、hは1であり、mは1〜3であり、kが0であり、2つのR1が結合してMと一緒になって環を形成してもよい、触媒。
0034
(10) 上記項3〜6および9のいずれか1項に記載の触媒であって、R1はアルキルカルボニルであり、nは2であり、Mは窒素であり、hは1であり、mは1であり、kは0であり、2つのR1がMと一緒になって環を形成する、触媒。
0035
(11)リビングラジカル重合を行う工程を包含する重合方法であって、該リビングラジカル重合工程が、上記項1〜10のいずれかに記載の触媒の存在下で行われる、方法。
0037
(13) 上記項11または12に記載の方法であって、反応温度が、20℃〜100℃である、方法。
0038
(14)リビングラジカル重合を行う方法であって、
ラジカル開始剤から生じたラジカルと、触媒前駆体化合物とを反応させて活性化ラジカルを生じさせる工程、および
該活性化ラジカルを用いて、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーを重合してポリマーを得る工程を含み、
ここで、該前駆体化合物が、窒素またはリンから選択される少なくとも1つの中心元素と、該中心元素に結合した少なくとも1つの水素原子とを含み、ただし、該中心元素にはハロゲン原子が結合しておらず、
該ラジカル開始剤から生じたラジカルは、該前駆体化合物から水素原子を引き抜いて、該活性化ラジカルを生じさせ、そして
該活性化ラジカルは、該モノマーの重合反応のリビングラジカル触媒として作用する、方法。
0039
(15) 上記項14に記載の方法であって、前記中心元素が5価のリンである、方法。
0040
(16) 上記項14または15に記載の方法であって、前記触媒前駆体化合物がホスファイトである、方法。
0042
(18)
リビングラジカル重合法における触媒の使用であって、該触媒が、上記項1〜6のいずれか1項に記載の触媒であり、ここで、該重合法が、該触媒の存在下でリビングラジカル反応を行う工程を包含する、使用。
0043
(19) 上記項11〜17のいずれか1項に記載の方法であって、前記リビングラジカル重合反応において炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物が使用され、該有機ハロゲン化物から与えられるハロゲンが成長鎖の保護基として使用される、方法。
0044
(20)
上記項19に記載の方法であって、前記有機ハロゲン化物中のハロゲンが結合している炭素に、2つまたは3つの炭素が結合している、方法。
0045
本発明によれば、さらに、以下の方法が提供される。
0046
(21)リビングラジカル重合を行う方法であって、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物および上記項1に記載の触媒の存在下で、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーをラジカル重合反応させる工程を包含する、方法。
0047
(22) 上記項21に記載の方法であって、前記炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物が、以下の一般式(II)を有する化合物であり:
CR2R3R4X2 (II)
ここで、R2およびR3は、独立して、ハロゲン、水素またはアルキルであり、R4はハロゲン、水素、アルキル、アリールまたはシアノであり、X2はハロゲンである
そして前記ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーが以下から選択される、方法:
(メタ)アクリル酸エステルモノマー、芳香族不飽和モノマー(スチレン系モノマー)、カルボニル基含有不飽和モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド系モノマー、ジエン系モノマー、ビニルエステルモノマー、N−ビニルモノマー、(メタ)アクリル酸モノマー、ハロゲン化ビニルモノマー、および1−オレフィンモノマー。
発明の効果
0048
本発明によれば、高い活性を有するリビングラジカル重合のための触媒およびそれを用いた重合方法が提供される。この触媒は、低毒性であるという利点を有する。この触媒は、反応液に高溶解性であるという利点を有し、そのため、配位子を添加して錯体とする必要もない。この触媒は、高い活性を有するため、重合反応に高温(例えば、110℃以上)を必要とすることもなく、そして触媒の使用量を低減することができる。また、ポリマー成長鎖を反応中に保護するために高価な特殊な保護基を必要とすることもない。さらに、本発明の方法により得られたポリマーから得られる成形品は、成形時に着色したり臭いがついたりすることが実質的にないという利点を有する。
0049
このように、本発明によれば、従来法に比べて格段に環境に優しく経済性に優れるリビングラジカル重合法が実現された。
図面の簡単な説明
0050
スチレン重合(スチレン/PE−I/DCP/PI3(100℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。表1のentry 2(PI3、2mM)の値を示す。
スチレン重合(スチレン/PE−I/DCP/PI3(100℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。この図においては、触媒としてPI3(2mM)を用いた結果が示されている。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
スチレン重合(スチレン/PE−I/DCP/R2PH(=O)(100℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。黒丸は表2のentry 1の値を示す。白丸は表2のentry 3の値を示す。黒四角は表2のentry 5の値を示す。白四角は表2のentry 6の値を示す。
スチレン重合(スチレン/PE−I/DCP/R2PH(=O)(100℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
スチレン重合(スチレン/PE−I/DCP/NIS(100℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。表3のentry 1の値を示す。
スチレン重合(スチレン/PE−I/DCP/NIS(100℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
MMA重合(MMA/CP−I/AIBN/PI3(70℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。表4のentry 3の値を示す。
MMA重合(MMA/CP−I/AIBN/PI3(70℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
MMA重合(MMA/CP−I/BPO/R2PH(=O)(70℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。表5のentry 1の値を示す。
MMA重合(MMA/CP−I/BPO/R2PH(=O)(70℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
MMA重合(MMA/CP−I/AIBN/NIS(80℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。黒丸は表6のentry 1の値を示す。白丸は表6のentry 2の値を示す。
MMA重合(MMA/CP−I/AIBN/NIS(80℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
GMA重合(GMA/CP−I/AIBN/NIS(80℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。黒丸は表7のentry 1の値を示す。白丸は表7のentry 2の値を示す。
GMA重合(GMA/CP−I/AIBN/NIS(80℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
BzMA重合(BzMA/CP−I/AIBN/NIS(80℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。表9のentry 2の値を示す。
BzMA重合(BzMA/CP−I/AIBN/NIS(80℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
VAc重合(VAc/EA−I/AIBN/PI3(70℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。表13のentry 1の値を示す。
VAc重合(VAc/EA−I/AIBN/PI3(70℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
MMA重合(MMA/I2/AIBN/(EtO)2PH(=O)(80℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。表24のentry 1の値を示す。
MMA重合(MMA/I2/AIBN/(EtO)2PH(=O)(80℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
MMA重合(MMA/I2/AIBN/NIS(80℃))におけるモノマー濃度の時間変化を示す。表25のentry 1の値を示す。
MMA重合(MMA/I2/AIBN/NIS(80℃))におけるMnおよびMw/Mn対Conversion(重合率)のプロットを示す。Mnでは、Theoretical lineと記載された理論値と整合する結果が得られている。
本発明の概念を示す模式図であり、本発明のリビングラジカル重合の鍵となる反応を示す。この図においては、触媒のラジカルがA・で示され、そのラジカルにヨウ素が結合した化合物がAと黒丸との結合した図として示されている。この触媒は、従来技術に比べて桁違いに安価であり、超高活性であるため極めて少ない触媒量で使用することが可能であり、触媒を製造する際に精製が不要であるかあるいは精製が必要な場合であってもその精製は容易であり、低毒性であるために人体および環境に対する安全性が高いという特徴を有する。
発明を実施するための最良の形態
0051
以下、本発明を詳細に説明する。
0052
(一般的用語)
以下に本明細書において特に使用される用語を説明する。
0053
本明細書において「アルキル」とは、鎖状または環状の脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいう。鎖状の場合は、一般にCkH2k+1−で表される(ここで、kは正の整数である)。鎖状のアルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルキルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
0054
本明細書において「低級アルキル」とは、炭素数の比較的少ないアルキル基を意味する。好ましくは、C1〜10アルキルであり、より好ましくは、C1〜5アルキルであり、さらに好ましくは、C1〜3アルキルである。具体例としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどである。
0055
本明細書において「アルコキシ」とは、上記アルキル基に酸素原子が結合した基をいう。すなわち、上記アルキル基をR−と表した場合にRO−で表される基をいう。鎖状のアルコキシは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルコキシは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルコキシの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
0056
本明細書において「低級アルコキシ」とは、炭素数の比較的少ないアルコキシ基を意味する。好ましくは、C1〜10アルコキシであり、より好ましくは、C1〜5アルコキシであり、さらに好ましくは、C1〜3アルコキシである。具体例としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プトキシ、イソプロポキシなどである。
0057
本明細書において「アルキルカルボキシル」とは、上記アルキル基にカルボキシル基が結合した基をいう。すなわち、上記アルキル基をR−と表した場合にRCOO−で表される基をいう。鎖状のアルキルカルボキシルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキルカルボキシルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルキルカルボキシルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
0058
本明細書において「低級アルキルカルボキシル」とは、炭素数の比較的少ないアルキルカルボキシル基を意味する。好ましくは、C1〜10であり、より好ましくは、C1〜5であり、さらに好ましくは、C1〜3である。
0059
本明細書において「アルキルカルボニル」とは、上記アルキル基にカルボニル基が結合した基をいう。すなわち、上記アルキル基をR−と表した場合にRCO−で表される基をいう。鎖状のアルキルカルボニルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキルカルボニルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルキルカルボニルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
0060
本明細書において「低級アルキルカルボニル」とは、炭素数の比較的少ないアルキルカルボニル基を意味する。好ましくは、C1〜10であり、より好ましくは、C1〜5であり、さらに好ましくは、C1〜3である。
0061
本明細書において「ハロアルキル」とは、上記アルキル基の水素がハロゲンで置換された基をいう。鎖状のハロアルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のハロアルキルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。ハロアルキルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。ハロアルキルにおいては、そのすべての水素がハロゲンに置換されていてもよく、一部の水素のみが置換されていてもよい。
0062
本明細書において「低級ハロアルキル」とは、炭素数の比較的少ないハロアルキル基を意味する。好ましくは、C1〜10であり、より好ましくは、C1〜5であり、さらに好ましくは、C1〜3である。好ましい低級ハロアルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基などが挙げられる。
0064
本明細書において「ハロゲン化置換アルキル」とは、アルキル基の水素がハロゲンに置換され、かつアルキル基の別の水素が別の置換基に置換された基を意味する。当該別の置換基としては、例えば、アリールまたはシアノなどが挙げられる。
0065
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいう。アリールを構成する芳香族炭化水素の環の数は、1つであってもよく、2つ以上であっても良い。好ましくは、1〜3である。分子内芳香族炭化水素の環が複数存在する場合、それらの複数の環は縮合していてもよく、縮合していなくてもよい。具体的には、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ビフェニルなどである。
0066
本明細書において「置換アリール」とは、アリールに置換基が結合して生ずる基をいう。
0068
本明細書において「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において連鎖移動反応および停止反応が実質的に起こらず、単量体が反応しつくした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。
0069
リビングラジカル重合の特徴としては、モノマーと重合開始剤の濃度比を調節することにより任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができること、また、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いこと、ブロック共重合体へ応用できること、などが挙げられる。なお、リビングラジカル重合は「LRP」と略される場合もある。
0070
本明細書において「中心元素」とは、触媒となる化合物を構成する原子のうち、ハロゲン原子と結合して主に触媒作用を担う原子を意味する。従来技術において使用される「中心金属」との用語と同じ意味であるが、本発明において用いられる窒素およびリンは一般には金属に分類されないから、誤解を避けるために、従来技術における用語「中心金属」の代わりに、「中心元素」との用語を用いる。
0071
以下、本発明について詳細に説明する。
0072
(触媒)
本発明においては、リビングラジカル重合法のための触媒として、中心元素が窒素またはリンである化合物を用いる。
0073
本発明において、触媒とは、ドーマント種の一種である使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と組み合わせて使用することができる。触媒は、リビングラジカル重合の際に、この有機ハロゲン化物からハロゲンを引き抜いて、ラジカルを生成させる。従って、本発明において、触媒は、ドーマント種として使用される化合物の、生長反応を抑制している基をはずして活性種に変換し生長反応をコントロールする。なお、ドーマント種は有機ハロゲンに限定されない。
0074
なお、特許文献2は、その請求項1において、ヒドリドレニウム錯体およびハロゲン化炭化水素の組み合わせがラジカルリビング重合用触媒であると記載しているが、特許文献2に記載されたハロゲン化炭化水素はリビングラジカル重合の触媒ではなく、ドーマント種に該当するものであるから、特許文献2に記載されたハロゲン化炭化水素は触媒とは区別される。
0075
触媒化合物は、少なくとも1つの中心元素を有する。1つの好ましい実施形態では、1つの中心元素を有するが、2つ以上の中心元素を有しても良い。
0076
中心元素は、窒素またはリンから、ポリマーの用途などに応じて選択される。例えば、ポリマー中に導電性物質が残存することが望ましくない用途(例えば、レジストや有機ELなどの電子材料)に用いられるポリマーの場合には、導電性を有さない触媒を用いることが好ましい。
0077
また、窒素またはリンは、一般に、人体への毒性および環境への影響においても有利である。このため、導電性物質の残存が許容される用途であっても、窒素またはリンを有する触媒を用いることは、従来技術における遷移金属錯体触媒などに比べて著しく有利である。
0078
さらに、本発明の触媒は、少ない使用量で触媒作用を行うことができるという特徴があるから、上述したように、人体への毒性および環境への影響が少ない材料を、少ない量で使用することが可能になり、従来の触媒に比べて、非常に有利である。
0079
(触媒中のハロゲン原子)
上記触媒の化合物中には、少なくとも1つのハロゲン原子が中心元素に結合している。上記触媒の化合物が2つ以上の中心元素を有する場合、それぞれの中心元素に対して少なくとも1つのハロゲン原子が結合している。このハロゲン原子は、好ましくは、塩素、臭素またはヨウ素である。より好ましくは、ヨウ素である。ハロゲン原子は1分子中に2原子以上存在してもよい。例えば、2原子、3原子、または4原子存在してもよく、それ以上存在してもよい。好ましくは、2〜4個である。ハロゲン原子が1分子中に2原子以上存在する場合、その複数のハロゲン原子は同一であってもよく、異なる種類であってもよい。
0081
このような基は、有機基であってもよく、無機基であってもよい。有機基としては、アリール、置換アリール、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基など)、エステル基(脂肪族カルボン酸エステルなど)、アルキルカルボニル基(メチルカルボニル基など)、ハロアルキル基(トリフルオロメチル基など)などが挙げられる。
0082
また、無機基としては、水酸基、アミノ基、シアノ基などが挙げられる。
0083
置換アリールにおいてアリールに結合する置換基としては、例えば、アルキルまたはアルキルオキシなどが挙げられる。このようなアルキルとしては、低級アルキルが好ましく、より好ましくは、C1〜C5アルキルであり、さらに好ましくは、C1〜C3アルキルであり、特に好ましくは、メチルである。アルキルオキシにおけるアルキルとしては、低級アルキルが好ましく、より好ましくは、C1〜C5アルキルであり、さらに好ましくは、C1〜C3アルキルであり、特に好ましくは、メチルである。すなわち、1つの実施形態において、中心元素に結合する有機基は、フェニル、低級アルキルフェニルまたは低級アルキルオキシフェニルである。
0084
上記有機基および無機基の数は特に限定されないが、好ましくは、3以下であり、より好ましくは、1である。
0085
なお、置換アリールにおける当該置換基の数は、特に限定されないが、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2であり、さらに好ましくは、1である。
0086
置換アリールにおける当該置換基の位置は、任意に選択される。アリールがフェニルである場合(すなわち、置換アリールが置換フェニルである場合)、置換基の位置は中心元素に対してオルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。好ましくは、パラの位置である。
0087
1つの実施形態において、以下の一般式(Ia)の化合物を触媒として使用することができる。
0088
ここで、R1はアルキル、アルキルカルボキシル、アルキルカルボニル、ハロアルキル、水酸基、アミノ基、シアノ基、アルコキシ、アリールまたは置換アリールであり、好ましくは、アルキル、アルコキシ、アリールまたは置換アリールである。
0089
ここで、2つのR1が結合して、1つのMと一緒になって環状構造を形成してもよい。
0090
nは0〜4×hの整数である。例えば、hが1の場合には、nは0〜4であり、hが2の場合には、nは0〜8である。好ましくは、0〜2×hである。nが2〜4×hの整数の場合、すべてのR1がそれぞれ異なってもよく、そのうちの2つ以上のR1が同一であってもよい。すべてのR1が同一であってもよい。
0091
Mは中心元素であって、窒素またはリンであり、
hは1以上の整数である。実用的には、1つの実施形態では、hは10以下である。好ましくは6以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは4以下であり、いっそう好ましくは3以下である。特に好ましくは2以下である。最も好ましくは1である。hが大き過ぎる場合には、化合物の合成が困難になる場合がある。hが2の具体例としては、後述する2つのリン原子が結合した構造(−P=P−)を有する化合物などが挙げられる。hが3以上の具体例としては、(−P=P−P=P−)などが挙げられる。
0092
hが2以上の整数である場合には、好ましくは、該複数の原子「M」はすべて同一の元素である。
0093
hが2以上の整数である場合には、好ましくは、該複数の原子「M」は単結合、二重結合または三重結合により連結されている。
0094
hが2以上の整数である場合、置換基R1、ハロゲンX1、Zは、それぞれ独立して、複数のMの原子のいずれに結合していてもよい。
0095
hが2である場合、2つの「M」の原子が結合した構造とすることができる。例えば、「−M−M−」、「−M=M−」、「−M≡M−」の構造とすることができる。例えば、中心元素がリンである場合、2つのリン原子が結合した構造(−P=P−)とすることができる。
0096
hが2である場合、置換基R1、ハロゲンX1およびZは、それぞれ独立して、2つの原子「M」のいずれに結合していてもよい。
0097
hが3以上である場合、h個の原子「M」は、直鎖状に連結されていてもよく、分岐鎖状に連結されていてもよい。環状であってもよい。
0098
また、一般式(Ia)において、X1はハロゲンであり、
Zは酸素、窒素または硫黄であって、Mに結合しており、
ZとMとの間の結合:
0099
は二重結合または三重結合である。二重結合または三重結合が好ましい。Zが酸素または硫黄である場合には、二重結合が好ましい。Zが窒素である場合には、三重結合が好ましい。
0100
mは1〜5×hの整数である。例えば、hが1の場合には、mは1〜5であり、hが2の場合には、nは1〜10である。好ましくは、2〜5×hである。mが2の場合、2つのX1が異なってもよく、同じであってもよい。mが3の場合、すべてのX1が同一であってもよく、2種類のハロゲンから構成されてもよく、3種類のハロゲンから構成されてもよい。mが4の場合、すべてのX1が同一であってもよく、2種類のハロゲンから構成されてもよく、3種類のハロゲンから構成されてもよく、4種類のハロゲンから構成されてもよい。mが5の場合、すべてのX1が同一であってもよく、2種類のハロゲンから構成されてもよく、3種類のハロゲンから構成されてもよく、4種類のハロゲンから構成されてもよく、5種類のハロゲンから構成されてもよい。mが2〜5の場合には、すべてのX1が同一であることが好ましい。
0101
kは0〜2×hの整数である。例えば、hが1の場合には、kは0〜2であり、hが2の場合には、nは0〜4である。Zが窒素である場合、kは0〜1の整数であることが好ましい。
0102
Mがリンまたは窒素の場合、m+n=3または5であることが好ましい。
0104
また一般式(Ia)において、通常、すべてのR1、X1、ZはMに結合している。
0105
具体例としては、2つの原子Mが結合した構造(−M=M−)である場合、この化合物は、例えば、R1−M=M−X1の構造を有することができる。
0106
1つの実施形態において、以下の一般式(Ib)の化合物を触媒として使用することができる。
0107
ここで、R1はアルキル、アルコキシ、アリールまたは置換アリールであり、好ましくは、アルキル、アルコキシ、アリールまたは置換アリールである。
0108
nは0〜4×hの整数である。例えば、hが1の場合には、nは0〜4であり、hが2の場合には、nは0〜8である。好ましくは、0〜2×hである。nが2〜4×hの整数の場合、すべてのR1がそれぞれ異なってもよく、そのうちの2つ以上のR1が同一であってもよい。すべてのR1が同一であってもよい。
0109
Pは中心元素のリンである。
0110
hは1〜4の整数である。実用的には、1つの実施形態では、hは10以下である。好ましくは6以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは4以下であり、いっそう好ましくは3以下である。特に好ましくは2以下である。最も好ましくは1である。hが大き過ぎる場合には、化合物の合成が困難になる場合がある。hが2の具体例としては、後述する2つのリン原子が結合した構造(−P=P−)を有する化合物などが挙げられる。hが3以上の具体例としては、(−P=P−P=P−)などが挙げられる。
0111
hが2以上の整数である場合には、好ましくは、該複数のリン原子は単結合、二重結合または三重結合により連結されている。
0112
hが2以上の整数である場合、置換基R1、ハロゲンX1、Zは、それぞれ独立して、複数のリン原子のいずれに結合していてもよい。
0113
hが2である場合、2つのリン原子が結合した構造とすることができる。例えば、「−P−P−」、「−P=P−」、「−P≡P−」の構造とすることができる。
0114
hが2である場合、置換基R1、ハロゲンX1、Zは、それぞれ独立して、2つのリン原子のいずれに結合していてもよい。
0115
hが3以上である場合、h個のリン原子は、直鎖状に連結されていてもよく、分岐鎖状に連結されていてもよい。環状であってもよい。
0116
また、一般式(Ib)において、X1はハロゲンである。
0117
Zは酸素または窒素であって、Pに結合しており、
ZとMとの間の結合:
0118
は二重結合または三重結合である。
0119
mは1〜5×hの整数である。例えば、hが1の場合には、mは1〜5であり、hが2の場合には、nは1〜10である。好ましくは、2〜5×hである。mが2の場合、2つのX1が異なってもよく、同じであってもよい。mが3の場合、すべてのX1が同一であってもよく、2種類のハロゲンから構成されてもよく、3種類のハロゲンから構成されてもよい。mが4の場合、すべてのX1が同一であってもよく、2種類のハロゲンから構成されてもよく、3種類のハロゲンから構成されてもよく、4種類のハロゲンから構成されてもよい。mが5の場合、すべてのX1が同一であってもよく、2種類のハロゲンから構成されてもよく、3種類のハロゲンから構成されてもよく、4種類のハロゲンから構成されてもよく、5種類のハロゲンから構成されてもよい。mが2〜5×hの場合には、すべてのX1が同一であることが好ましい。
0120
kは0〜2×hの整数である。例えば、hが1の場合には、kは0〜2であり、hが2の場合には、nは0〜4である。
0121
m+n=3または5であることが好ましい。
0122
一般式(Ib)において、通常、n、h、m、kは、化学式(Ib)の全体の原子価が釣り合うように選択される。
0123
また一般式(Ib)において、通常、すべてのR1、X1、Zはリン(P)に結合している。
0124
具体例としては、2つのリン原子が結合した構造(−P=P−)である場合、この化合物は、例えば、R1−P=P−X1の構造を有することができる。
0125
なお、上記説明においては、便宜上、式(Ia)および式(Ib)を別々に説明したが、本願明細書中の記載は、特に断りがない限り、基本的に式(Ia)および式(Ib)の両方を説明するものである。
0126
1つの好ましい実施形態では、上記一般式(Ic)で表される化合物が使用可能である。
0127
R1nPX1m(=O)k (Ic)
ここで、R1はアルコキシ、アリールまたは置換アリールであり、好ましくはアルコキシまたはアリールであり、より好ましくは低級アルコキシまたはフェニルである。
0128
nは0〜2の整数である。Pが3価である場合には、nは0であることが好ましく、Pが5価である場合には、nは2であることが好ましい。
0129
X1はハロゲンであり、好ましくはヨウ素である。
0130
kは0〜1の整数である。Pが3価である場合には、kは0であることが好ましく、Pが5価である場合には、kは1であることが好ましい。
0131
(リンを中心元素とする触媒化合物)
リンを中心元素とする触媒化合物としては、上記定義に該当する任意の公知の化合物が使用可能である。リンを中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化リン(例えば、3ヨウ化リン、5ヨウ化リン)、ハロゲン化ホスフィン(R12PXまたはR1PX2、例えば、ヨウ化ジフェニルホスフィン(Ph2PI))、ハロゲン化亜リン酸誘導体(R12PX(=O)、R1PX2(=O)、またはPX3(=O)、例えば、ヨウ化亜リン酸ジエチル((C2H5O)2PI(=O))、エチルフェニルホスフィネート(Ph(C2H5O)2PI(=O))、ジフェニルホスフィンオキサイド(Ph2PI(=O)))などが挙げられる。
0132
(窒素を中心元素とする触媒化合物)
窒素を中心元素とする触媒化合物としては、上記定義に該当する任意の公知の化合物が使用可能である。
0133
例えば、上記式Iaにおいて、Mが窒素である化合物を使用することができる。
0134
ここで、nは好ましくは0〜3であり、より好ましくは0〜2である。hは好ましくは1であり、mは好ましくは1〜3である。kは好ましくは0である。
0135
また、上記式Iaにおいて、Mが窒素である場合、2つのR1が結合してMと一緒になって環を形成してもよい。この場合、2つのR1は共にアルキルカルボニル、ビニルカルボニル、あるいはフェニルカルボニルであることが好ましい。
0136
窒素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化窒素(例えば、3ヨウ化窒素)、ハロゲン化アミンあるいはハロゲン化イミド(R12NXまたはR1NX2、例えば、ヨウ化ジフェニルアミン(Ph2NI)や、ヨウ化コハク酸イミド((CH2)2(C=O)2NI))(NIS)、ヨウ化マレイミド((CH)2(C=O)2NI))、ヨウ化フタルイミド(C6H4(C=O)2NI))、あるいはこれらの誘導体(これらに1つあるいは複数の置換基の結合した化合物)などが挙げられる。
0137
(触媒の製造方法)
本発明の触媒として使用される化合物は、その多くは公知化合物であり、試薬販売会社などから市販されているものをそのまま用いることが可能であり、あるいは、公知の方法により合成することが可能である。
0138
触媒として、リンに有機基R1(例えば、アルキル、アルコキシ、アリールまたは置換アリール)が結合したものを用いる場合、このような化合物としては市販されているものを用いることができる。またはこのような化合物は公知の方法により合成することができる。例えば、R12PH(=O)にヨードホルム、ヨウ素(I2)、あるいはN−ヨードコハク酸イミドを反応させる方法により、R12PI(=O)が合成されるなど、リンにハロゲンおよび有機基R1が結合した化合物を合成することができる。あるいは、Chemical Communication 797−798(2001)やSynthetic Communication 33, 3851−3859(2003)に記載された方法により、リンにハロゲンおよび有機基R1が結合した化合物を合成することができる。
0139
触媒として、窒素に有機基R1(例えば、アルキル、アルコキシ、アリール、置換アリール、アルキルカルボニル、ビニルカルボニル、またはフェニルカルボニル)が結合したものを用いる場合、このような化合物としては市販されているものを用いることができる。またはこのような化合物は公知の方法により合成することができる。例えば、R12NHにAg2Oを触媒としてヨウ素を反応させる方法により、R12NIが合成されるなど、窒素にハロゲンおよび有機基R1が結合した化合物を合成することができる。あるいは、Journal of the American Chemical Society 75,3494−3495(1953)に記載された方法により、窒素にハロゲンおよび有機基R1が結合した化合物を合成することができる。
0140
(触媒の使用量)
本発明の触媒は、極めて活性が高く、少量でリビングラジカル重合を触媒することが可能である。以下に、触媒の使用量について説明するが、触媒前駆体を使用する場合の量も触媒の量と同様である。
0141
本発明の方法において、触媒または触媒前駆体として使用される化合物は、理論上溶媒として使用され得る液体の化合物である場合もある。しかし、触媒または触媒前駆体として使用するにあたっては、溶媒としての効果を奏するほど大量に用いる必要はない。したがって、触媒または触媒前駆体の使用量は、いわゆる「溶媒量」(すなわち溶媒としての効果を達成するのに必要な量)よりも少ない量とすることができる。本発明の方法において、触媒または触媒前駆体は、上述した通り、リビングラジカル重合を触媒するのに充分な量で使用されればよく、それ以上に添加する必要はない。
0142
具体的には、例えば、好ましい実施形態では、反応溶液1リットルに対して、触媒使用量を10ミリモル(mM)以下とすることが可能である。さらに好ましい実施形態では、反応溶液1リットルに対して、触媒使用量を5ミリモル以下とすることが可能であり、2ミリモル以下とすることも可能である。さらには、1ミリモル以下とすることも可能であり、0.5ミリモル以下とすることも可能である。重量基準では、触媒使用量を反応溶液のうちの1重量%以下とすることが可能である。好ましい実施形態では、0.75重量%以下とすることが可能であり、また0.70重量%以下とすることも可能であり、さらに好ましい実施形態では、0.5重量%以下とすることが可能であり、0.2重量%以下とすることも可能であり、さらには0.1重量%以下とすることも可能であり、0.05重量%以下とすることも可能である。例えば、リン触媒の場合、0.75重量%以下とすることが可能であり、また0.70重量%以下とすることも可能であり、さらに好ましい実施形態では、0.5重量%以下とすることが可能であり、0.2重量%以下とすることも可能であり、さらには0.1重量%以下とすることも可能であり、0.05重量%以下とすることも可能である。すなわち、溶媒として効果を奏するよりも「格段に」少ない量とすることが可能である。
0143
また、触媒の使用量は、好ましくは、反応溶液1リットルに対して、0.02ミリモル以上であり、より好ましくは、0.1ミリモル以上であり、さらに好ましくは、0.5ミリモル以上である。重量基準では、触媒使用量を反応溶液のうちの0.001重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは、0.005重量%以上であり、さらに好ましくは、0.02重量%以上である。触媒の使用量が少なすぎる場合には、分子量分布は広くなり易い。
0144
1つの実施形態において、本発明のリビングラジカル重合方法においては、リン原子または窒素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物以外のリビングラジカル重合触媒または触媒前駆体化合物(以下、「他種触媒または他種触媒前駆体化合物」)を併用しなくても、充分にリビングラジカル重合を行うことが可能である。しかし、必要に応じて、他種触媒または他種触媒前駆体化合物を併用することも可能である。その場合、リン原子または窒素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物の利点をできるだけ生かすためには、リン原子または窒素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物の使用量を多く、かつ、他種触媒または他種触媒前駆体化合物の使用量を少なくすることが好ましい。そのような場合、他種触媒または他種触媒前駆体化合物の使用量は、リン原子または窒素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物100重量部に対して、100重量部以下とすることが可能であり、50重量部以下とすることも可能であり、20重量部以下、10重量部以下、5重量部以下、2重量部以下、1重量部以下、0.5重量部以下、0.2重量部以下または0.1重量部以下とすることも可能である。
0145
(保護基)
本発明の方法には、リビングラジカル重合の反応途中の成長鎖を保護する保護基を用いる。このような保護基としては、従来からリビングラジカル重合に用いる保護基として公知の各種保護基を用いることが可能である。ここで、保護基としてハロゲンを用いることが好ましい。従来技術に関して上述したとおり、特殊な保護基を用いる場合には、その保護基が非常に高価であることなどの欠点がある。
0146
(有機ハロゲン化物(ドーマント種))
本発明の方法においては、好ましくは、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を反応材料に添加し、この有機ハロゲン化物から成長鎖に与えられるハロゲンを保護基として用いる。このような有機ハロゲン化物は比較的安価であるので、リビングラジカル重合に用いられる保護基のために用いられる公知の他の化合物に比べて有利である。また、必要に応じて、炭素以外の元素にハロゲンが結合したドーマント種を用いることも可能である。
0147
有機ハロゲン化物は、分子中に少なくとも1個の炭素−ハロゲン結合を有してドーマント種として作用するものであればよく特に限定されるものではない。しかし、一般的には有機ハロゲン化物の1分子中にハロゲン原子が1個または2個含まれているものが好ましい。
0148
有機ハロゲン化物のハロゲンが結合した炭素(以下、便宜上、「有機ハロゲン化物の1位炭素」という)が有する水素は、2つ以下であることが好ましく、1つ以下であることがより好ましく、水素を有さないことがさらに好ましい。また、有機ハロゲン化物の1位炭素に結合しているハロゲンの数は、3つ以下であることが好ましく、2つ以下であることがより好ましく、1つであることがさらに好ましい。特に、有機ハロゲン化物の1位炭素に結合しているハロゲンが塩素である場合には、その塩素の数は、3つ以下であることが非常に好ましく、2つ以下であることがいっそう好ましく、1つであることがとりわけ好ましい。
0149
有機ハロゲン化物の1位炭素には、炭素が1つ以上結合していることが好ましく、炭素が2つまたは3つ結合していることが特に好ましい。
0150
有機ハロゲン化物のハロゲン原子は、触媒中のハロゲン原子と同一であってもよく、異なってもよい。異種のハロゲン原子であっても、有機ハロゲン化物と触媒の化合物との間で、互いにハロゲン原子を交換することが可能であるからである。ただし、有機ハロゲン化物のハロゲン原子と、触媒中のハロゲン原子とが同一であれば、有機ハロゲン化物と触媒の化合物との間でのハロゲン原子の交換がより容易であるので、好ましい。
0151
1つの実施形態において、有機ハロゲン化物は、以下の一般式(II)を有する。
0152
CR2R3R4X2 (II)
ここで、R2は、ハロゲン、水素またはアルキルである。好ましくは、水素または低級アルキルである。より好ましくは、水素またはメチルである。
0153
R3は、R2と同一であってもよく、または異なってもよく、ハロゲン、水素またはアルキルである。好ましくは、水素または低級アルキルである。より好ましくは、水素またはメチルである。
0154
R4は、ハロゲン、水素、アルキル、アリールまたはシアノである。好ましくは、アリールまたはシアノである。R4が、ハロゲン、水素またはアルキルである場合、R4はR2またはR3と同一であってもよく、または異なってもよい。
0155
X2は、ハロゲンである。好ましくは、塩素、臭素またはヨウ素である。R2〜R4にハロゲンが存在する場合、X2は、そのR2〜R4のハロゲンと同一であってもよく、異なっていてもよい。1つの実施形態では、X2のハロゲンは、触媒化合物に含まれるハロゲンと同じハロゲンとすることができる。しかし、触媒化合物に含まれるハロゲンと異なるハロゲンであってもよい。
0156
上記R2〜R4およびX2は、それぞれ、互いに独立して選択されるが、R2〜R4のうちにハロゲン原子が0または1つ存在すること(すなわち、有機ハロゲン化物として、化合物中に1または2つのハロゲン原子が存在すること)が好ましい。
0157
1つの好ましい実施形態では、有機ハロゲン化物は、ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化置換アルキルである。より好ましくは、ハロゲン化置換アルキルである。ここで、アルキルは2級アルキルであることが好ましく、より好ましくは3級アルキルである。
0158
ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化置換アルキルにおいてアルキルの炭素数は2または3であることが好ましい。従って、有機ハロゲン化物は、さらに好ましくは、ハロゲン化置換エチルまたはハロゲン化置換イソプロピルであるハロゲン化置換アルキルにおける置換基としては、例えば、フェニルまたはシアノなどが挙げられる。
0159
有機ハロゲン化物の好ましい具体例としては、例えば、以下の、CH(CH3)(Ph)I、およびC(CH3)2(CN)Iなどである。
0160
有機ハロゲン化物の別の具体例としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ブロモメチル、ジブロモメタン、ブロモホルム、ブロモエタン、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタン、ブロモトリクロロメタン、ジクロロジブロモメタン、クロロトリブロモメタン、ヨードトリクロロメタン、ジクロロジヨードメタン、ヨードトリブロモメタン、ジブロモジヨードメタン、ブロモトリヨードメタン、ヨードホルム、ジヨードメタン、ヨウ化メチル、塩化イソプロピル、塩化t-ブチル、臭化イソプロピル、臭化t−ブチル、トリヨードエタン、ヨウ化エチル、ジヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化t−ブチル、ブロモジクロロエタン、クロロジブロモエタン、ブロモクロロエタン、ヨードジクロロエタン、クロロジヨードエタン、ジヨードプロパン、クロロヨードプロパン、ヨードジブロモエタン、ブロモヨードプロパン、2−ヨード−2−ポリエチレングリコシルプロパン、2−ヨード−2−アミジノプロパン、2−ヨード−2−シアノブタン、2−ヨード−2−シアノ−4−メチルペンタン、2−ヨード−2−シアノ4−メチル−4−メトキシペンタン、4−ヨード−4−シアノ−ペンタン酸、メチル−2−ヨードイソブチレート、2−ヨード−2−メチルプロパンアミド、2−ヨード−2,4−ジメチルペンタン、2−ヨード−2−シアノブタノール、4−メチルペンタン、シアノ−4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4−メチルペンタン、2−ヨード−2−(2−イミダソリン−2−イル)プロパン、2−ヨード−2−(2−(5−メチル−2−イミダソリン−2−イル)プロパン等が挙げられる。これらのハロゲン化物は単独で用いてもよく、または組合せて用いてもよい。
0161
本発明の方法において、有機ハロゲン化物は、溶媒として使用されるものではないので、溶媒としての効果を奏するほど大量に用いる必要はない。したがって、有機ハロゲン化物の使用量は、いわゆる「溶媒量」(すなわち溶媒としての効果を達成するのに必要な量)よりも少ない量とすることができる。本発明の方法において、有機ハロゲン化物は、上述した通り、成長鎖にハロゲンを保護基として提供するために使用されるので、反応系中の成長鎖に充分な量のハロゲンを提供できれば充分である。具体的には、例えば、本発明の方法における有機ハロゲン化物の使用量は、重合反応系中におけるラジカル重合開始剤1モル当たり0.05モル以上であることが好ましく、より好ましくは0.5モル以上であり、さらに好ましくは1モル以上である。また、重合系中におけるラジカル重合開始剤1モル当たり100モル以下であることが好ましく、より好ましくは30モル以下であり、さらに好ましくは5モル以下である。さらに、ビニル系単量体の1モル当たり0.001モル以上であることが好ましく、より好ましくは0.005モル以上である。また、ビニル系単量体の1モル当たり0.5モル以下であることが好ましく、より好ましくは0.4モル以下であり、さらに好ましくは0.3モル以下であり、特に好ましくは0.2モル以下であり、最も好ましくは0.1モル以下である。さらに、必要に応じて、ビニル系単量体の1モル当たり0.07モル以下、0.05モル以下、0.03モル以下、0.02モル以下もしくは0.01モル以下とすることも可能である。
0162
上記有機ハロゲン化物は、その多くの化合物が公知化合物であり、試薬販売会社などから市販されている試薬などをそのまま用いることが可能である。あるいは、従来公知の合成方法を用いて合成してもよい。
0163
有機ハロゲン化物は、その原料を仕込み、有機ハロゲン化物を重合中にin situで生成させ、それをこの重合法の有機ハロゲン化物として使用することもできる。例えば、アゾビス(イソブチロニトリル)とヨウ素(I2)を原料として仕込み、ヨウ化アルキルであるCP−I(化学式は上記のとおり)を重合中にin situで生成させ、それをこの重合法のヨウ化アルキルとして使用することができる。
0164
有機ハロゲン化物は、無機または有機固体表面や、無機または有機分子表面などの表面に固定化したものを使用することもできる。例えば、シリコン基板表面、高分子膜表面、無機または有機微粒子表面、顔料表面などに固定化した有機ハロゲン化物を使用することができる。固定化には、例えば、化学結合や物理結合などが利用できる。
0165
(モノマー)
本発明の重合方法には、モノマーとして、ラジカル重合性モノマーを用いる。ラジカル重合性モノマーとは、有機ラジカルの存在下にラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するモノマーをいう。このような不飽和結合は二重結合であってもよく、三重結合であってもよい。すなわち、本発明の重合方法には、従来から、リビングラジカル重合を行うことが公知の任意のモノマーを用いることができる。
0166
より具体的には、いわゆるビニルモノマーと呼ばれるモノマーを用いることができる。ビニルモノマーとは、一般式「CH2=CR5R6」で示されるモノマーの総称である。
0167
この一般式においてR5がメチルであり、R6がカルボシキシレートであるモノマーをメタクリレート系モノマーといい、本発明に好適に用いることができる。
0168
メタクリレート系モノマーの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、等が挙げられる。また、メタクリル酸も用いることができる。
0170
アクリレート系モノマーの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、などが挙げられる。また、アクリル酸もしくはメタクリル酸も使用可能である。
0171
上記ビニルモノマーの一般式においてR5が水素であり、R6がフェニルで示されるモノマーはスチレンであり、本発明に好適に使用可能である。R6がフェニルまたはフェニル誘導体で示されるモノマーは、スチレン誘導体といい、本発明に好適に使用可能である。具体的には、o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレン、o−、m−、p−クロロスチレン、o−、m−、p−ヒドロキシスチレン、o−、m−、p−スチレンスルホン酸等が挙げられる。また、R6が芳香族である、ビニルナフタレン等が挙げられる。
上記ビニルモノマーの一般式においてR5が水素であり、R6がアルキルであるモノマーはアルキレンであり、本発明に好適に使用可能である。
0172
本発明には、2つ以上のビニル基を有するモノマーも使用可能である。具体的には、例えば、ジエン系化合物(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、アリル系を2つ有する化合物(例えば、ジアリルフタレートなど)、ジオール化合物のジメタクリレート、ジオール化合物のジアクリレートなどである。
0173
本発明には、上述した以外のビニルモノマーも使用可能である。具体的には、例えば、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニル)、上記以外のスチレン誘導体(例えば、α−メチルスチレン)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン)、N−ビニル化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール)、(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体(例えば、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド)、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、マレイン酸およびその誘導体(例えば、無水マレイン酸)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプロピレン、フッ化ビニル)、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、1−ヘキセン、シクロヘキセン)などである。
0174
これらは単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
0175
上述したモノマーの種類と、本発明の触媒の種類との組み合わせは特に限定されず、任意に選択されたモノマーに対して任意に選択された本発明の触媒を用いることが可能である。ただし、メタクリレート系モノマーについては、芳香環を有する置換基を有する触媒、より具体的にはアリールまたは置換アリールを有する触媒を使用することが、反応性の点で、それ以外の触媒よりも好ましい。
0176
(ラジカル反応開始剤)
本発明のリビングラジカル重合方法においては、必要に応じて、必要量のラジカル反応開始剤を用いる。このようなラジカル反応開始剤としては、ラジカル反応に使用する開始剤として公知の開始剤が使用可能である。例えば、アゾ系のラジカル反応開始剤および過酸化物系のラジカル開始剤などが使用可能である。アゾ系のラジカル反応開始剤の具体例としては、例えば、アゾビス(イソブチロニトリル)が挙げられる。過酸化物としては、有機化酸化物が好ましい。過酸化物系のラジカル開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドが挙げられる。
0177
(過酸化物)
なお、上記触媒前駆体として水素化化合物を用いる実施形態においては、ラジカル反応開始剤としてアゾ系のラジカル反応開始剤を用いることも可能であるが、過酸化物系のラジカル開始剤を用いれば、過酸化物が水素化化合物の水素を引き抜く力が特に強いので好ましい。過酸化物としては、有機化酸化物が好ましい。例えば、中心元素がリンの触媒前駆体を用いる場合には、過酸化物系のラジカル開始剤を用いることが好ましい。
0178
ラジカル開始剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは、反応液1リットルに対して、1ミリモル以上であり、より好ましくは、5ミリモル以上であり、さらに好ましくは、10ミリモル以上である。また、好ましくは、反応液1リットルに対して、500ミリモル以下であり、より好ましくは、100ミリモル以下であり、さらに好ましくは、50ミリモル以下である。
0179
(溶媒)
モノマーなどの反応混合物が反応温度において液体であれば、必ずしも溶媒を用いる必要はない。必要に応じて、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、従来、リビングラジカル重合に用いられていた溶媒をそのまま使用することが可能である。溶媒を用いる場合には、その使用量は重合反応が適切に行われる限り特に限定されないが、モノマー100重量部に対して1重量部以上用いることが好ましく、10重量部以上用いることがより好ましく、50重量部以上用いることがさらに好ましい。溶媒の使用量が少なすぎる場合には、反応溶液の粘度が高くなりすぎる場合がある。また、モノマー100重量部に対して2000重量部以下とすることが好ましく、1000重量部以下とすることがより好ましく、500重量部以下とすることがさらに好ましい。溶媒の使用量が多すぎる場合には、反応溶液のモノマー濃度が薄くなりすぎる場合がある。
0180
モノマーと混ざり合わない溶媒を用いることにより、乳化重合や、分散重合、懸濁重合を行うこともできる。例えば、スチレンやメタクリレートをモノマーとした場合、水を溶媒とするとで、乳化重合や、分散重合、懸濁重合を行うことができる。
0181
(その他の添加剤等)
上述したリビングラジカル重合のための各種材料には、必要に応じて、公知の添加剤等を必要量添加してもよい。そのような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、重合抑制剤などが挙げられる。
0183
1つの実施形態では、原料組成物は、上述した各種原料以外の原料を含まない。例えば、環境問題などの観点から、原料組成物は、遷移金属を含む原料を実質的に含まないことが好ましい。1つの好ましい実施形態では、原料組成物は、開始剤、触媒、触媒前駆体化合物、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマー、溶媒、および炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物以外の原料を実質的に含まない。また、原料組成物は、リビングラジカル重合に無関係な材料(例えば、エピスルフィド化合物など)を実質的に含まないことが好ましい。さらに、リンまたは窒素を中心元素とする触媒または触媒前駆体の利点をできるだけ生かしたい場合には、原料組成物は、リンまたは窒素を中心元素とする触媒および触媒前駆体以外のリビングラジカル重合触媒または触媒前駆体を実質的に含まない組成物とすることが可能である。
0184
1つの実施形態では、原料組成物は、開始剤と、触媒または触媒前駆体と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を含み、さらに溶媒を含んでもよい。
0185
(触媒を含む原料組成物)
触媒化合物を用いる実施形態では、原料組成物は、開始剤と、触媒と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を含む。原料組成物は、これらに加えてさらに溶媒を含んでもよい。
0186
1つの実施形態では、原料組成物は実質的に、開始剤と、触媒と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒とからなる組成物である。ここで、不要な場合には、溶媒は含まれなくてもよい。原料組成物は、例えば、開始剤と、触媒と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒以外にはラジカル重合反応に関与する成分を実質的に含まない組成物である。開始剤と、触媒と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒のみから組成物が構成されてもよい。なお、ここでも、不要な場合には、溶媒は含まれなくてもよい。
0187
(触媒前駆体化合物を含む原料組成物)
触媒前駆体化合物を用いる実施形態では、原料組成物は、過酸化物と、触媒前駆体化合物と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を含む。原料組成物は、これらに加えてさらに溶媒を含んでもよい。
0188
1つの実施形態では、原料組成物は実質的に、過酸化物と、触媒前駆体化合物と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒からなる組成物である。ここで、不要な場合には、溶媒は含まれなくてもよい。例えば、過酸化物と、触媒前駆体化合物と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒以外にはラジカル重合反応に関与する成分を含まない組成物である。過酸化物と、触媒前駆体化合物と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒のみから組成物が構成されてもよい。なお、ここでも、不要な場合には、溶媒は含まれなくてもよい。
0189
(反応温度)
本発明の方法における反応温度は特に限定されない。好ましくは、10℃以上であり、より好ましくは、20℃以上であり、さらに好ましくは、30℃以上であり、いっそう好ましくは、40℃以上であり、特に好ましくは、50℃以上である。また、好ましくは、130℃以下であり、より好ましくは、120℃以下であり、さらに好ましくは、110℃以下であり、いっそう好ましくは、105℃以下であり、特に好ましくは、100℃以下である。
0190
温度が高すぎる場合には、加熱のための設備等にコストがかかるという欠点がある。温度が室温以下の場合には、冷却のための設備等にコストがかかるという欠点がある。また、室温以下で重合するように反応混合物を調製すると、その反応混合物が室温では不安定で反応してしまうために、反応混合物の保管が困難になるという欠点がある。したがって、上記の、室温より少し高く、かつ過度に高すぎない温度範囲(例えば、50℃から100℃)は、実用的な意味において非常に好適である。
0191
(反応時間)
本発明の方法における反応時間は特に限定されない。好ましくは、15分間以上であり、より好ましくは、30分間以上であり、さらに好ましくは、1時間以上である。また、好ましくは、3日以下であり、より好ましくは、2日以下であり、さらに好ましくは、1日以下である。
0192
反応時間が短すぎる場合には、充分な分子量を得ることが難しい。反応時間が長すぎる場合には、プロセス全体としての効率が悪い。適切な反応時間とすることにより、優れた性能(適度な重合速度と副反応の軽減)が達成され得る。
0194
(前駆体)
本発明の重合方法においては、上述した触媒を直接的に用いて(すなわち、触媒を重合容器に投入して)反応を行ってもよいが、また、触媒を直接用いることなく、触媒の前駆体を用いて反応を行ってもよい。ここで、触媒の前駆体とは、その化合物は反応容器に投入する際の状態では上記触媒の定義に該当しないが、反応容器中において化学変化して触媒として作用できる状態になる化合物をいう。ここで、上記「触媒として作用できる状態になる」とは、好ましくは、前駆体が上記触媒化合物に変換されることである。
0195
上記触媒化合物から重合反応の際に発生する活性化ラジカルと同様の活性化ラジカルを生成させることができる化合物は、前駆体に該当する。例えば、リンの水素化物は前駆体に該当する。すなわち、過酸化物などによりリンの水素化物の水素を引き抜けばリン化合物の活性化ラジカルを発生させることができ、リビングラジカル重合を行うことができる。窒素の水素化物も前駆体に該当する。
0196
従って、本発明の重合方法の1つの実施形態においては、上述した触媒を直接用いて反応を行うことができるが、別の実施形態においては、上述した触媒を直接用いることなく、触媒化合物の前駆体を用いることができる。この場合、重合反応を行う工程の前に前駆体を化学変化させる工程が行われる。この前駆体の化学変化工程は、重合反応を行う容器内で行ってもよく、重合反応容器と別の容器で行っても良い。重合反応を行う容器内で重合反応工程と同時に行うことが全体のプロセスが簡略になる点で有利である。
0197
前駆体の使用量としては、上述した触媒の使用量と同様の量が使用できる。前駆体から得られる活性化ラジカルの量が、上述した量の触媒を使用した場合の活性化ラジカルの量と同様になるようにすることが好ましい。
0198
窒素を中心元素とする触媒の前駆体となる化合物の具体例としては、アミンやイミド(R12NHまたはR1NH2、例えば、ジフェニルアミン(Ph2NH)やコハク酸イミド((CH2)2(C=O)2NH))などが挙げられる。
0199
リンを中心元素とする触媒の前駆体となる化合物の具体例としては、ホスファイト(R12PH(=O)、例えば(EtO)2PH(=O)、(BuO)2PH(=O))、(EtO)PhPH(=O)などが挙げられる。ホスファイトは、ホスホン酸のモノエステルであってもよく、ジエステルであってもよい。ジエステルが好ましい。より好ましくは、ホスホン酸のジアルキルエステルである。
0200
本発明のリビングラジカル重合方法は、単独重合、すなわち、ホモポリマーの製造に応用することが可能であるが、共重合に本発明の方法を用いてコポリマーを製造することも可能である。共重合としては、ランダム共重合であってもよく、ブロック共重合であってもよい。
0201
ブロック共重合体は、2種類以上のブロックが結合した共重合体であってもよく、3種類以上のブロックが結合した共重合体であってもよい。
0202
2種類のブロックからなるブロック共重合の場合、例えば、第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを重合する工程とを包含する方法によりブロック共重合体を得ることができる。この場合、第1のブロックを重合する工程に本発明の方法を用いてもよく、第2のブロックを重合する工程に本発明の方法を用いてもよい。第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを重合する工程の両方に本発明の方法を用いることが好ましい。
0203
より具体的には例えば、第1のブロックを重合した後、得られた第1のポリマーの存在下に、第2のブロックの重合を行うことにより、ブロック共重合体を得ることができる。第1のポリマーは、単離精製した後に、第2のブロックの重合に供することもできるし、第1ポリマーを単離精製せず、第1のポリマーの重合の途中または完結時に、第1の重合に第2のモノマーを添加することにより、ブロックの重合を行うこともできる。
0204
3種類のブロックを有するブロック共重合体を製造する場合も、2種類以上のブロックが結合した共重合体を製造する場合と同様に、それぞれのブロックを重合する工程を行って、所望の共重合体を得ることができる。そして、すべてのブロックの重合において本発明の方法を用いることが好ましい。
0206
リビングラジカル重合法の基本概念はドーマント種(polymer−X)の成長ラジカル(polymer・)への可逆的活性化反応にあり、保護基Xにハロゲンを、活性化の触媒として遷移金属錯体を用いた系は、有用なリビングラジカル重合法の一つである。本発明によれば、窒素化合物またはリン化合物を用いて、高い反応性で、有機ハロゲン化物のハロゲンを引き抜くことが可能であり、ラジカルを可逆的に生成させることができる(スキーム1)。
0207
従来から、一般に、遷移金属はその電子が様々な遷移状態にあり得るため、各種化学反応を触媒する作用に優れることが知られている。このため、リビングラジカル重合の触媒としても、遷移金属が優れていると考えられていた。逆に、典型元素はこのような触媒には不利であると考えられていた。
0208
しかしながら、予期せぬことに、本発明によれば、窒素またはリンを中心元素とする触媒を用いることにより、図12の模式図に示すように、触媒化合物と反応中間体との間でハロゲンを交換しながら、極めて効率よく重合反応が進行する。これは、中心元素とハロゲンとの結合が、反応中間体とのハロゲンの交換を行う上で適切であることによると考えられる。従って、基本的には、この中心元素とハロゲンとの結合を有する化合物であれば、中心元素およびハロゲン以外の置換基を有する化合物であっても、良好にリビングラジカル重合を触媒できると考えられる。
0210
(スキーム1B)
0211
また、前駆体を用いる場合には、上述したメカニズムに基づく反応の前に、あるいはその反応と同時に、前駆体から活性化ラジカルを生じさせる工程が行われる。具体的には例えば、過酸化物からラジカルを発生させ、その過酸化物ラジカルにより前駆体の水素原子を引き抜くことにより、活性化ラジカルを得ることができる。
(スキーム2)
0212
0213
(生成ポリマーの末端に結合するハロゲンの除去)
本発明の方法で得られる生成ポリマーは、末端にハロゲン(例えば、ヨウ素)を有する。このポリマーを製品に使用する際には、必要があれば、末端のハロゲンを除去して、使用することもできる。また、末端のハロゲンを積極的に利用し、これを別の官能基に変換して、新たな機能を引き出すこともできる。末端のハロゲンの反応性は、一般に高く、非常に様々な反応により、その除去や変換ができる。例えば、ハロゲンがヨウ素である場合のポリマー末端の処理方法の例を以下のスキームに示す。これらのスキームに示す反応などにより、ポリマー末端を利用することができる。また、ハロゲンがヨウ素以外である場合についても、同様にポリマー末端を官能基に変換することができる。
0214
(ポリマーの用途)
上述した本発明のリビングラジカル重合方法によれば、分子量分布の狭いポリマーが得られる。例えば、反応材料の配合や反応条件を適切に選択することにより、重合平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.5以下のポリマーを得ることが可能であり、さらに反応材料配合および反応条件を適切に選択することにより、Mw/Mnが1.4以下、1.3以下、1.2以下、さらには1.1以下のポリマーを得ることが可能となる。
0215
本発明のリビングラジカル重合方法により得られるポリマーは、各種用途に使用可能である。例えば、レジスト、接着剤、潤滑剤、塗料、インク、分散剤、包装材、薬剤、パーソナルケア製品(整髪料・化粧品など)エラストマー(自動車材料、工業用品、スポーツ用品、電線被服材、建築資材など)、コーティング(粉体塗装など)などの生産に使用可能である。また、新しい電子・光学・力学・結晶・分離・潤滑・医療材料の創成に利用しうる。
0216
本発明のリビングラジカル重合方法により得られるポリマーは、また、ポリマー中に残存する触媒量が少ないという点においても各種用途に有利に使用可能である。すなわち、従来の遷移金属系の触媒などに比べて触媒量を減らせるため、得られる樹脂の純度が高いものになり、高純度の樹脂が必要とされる用途にも好適に使用できる。触媒残渣は、用途に応じて、生成したポリマーから除去してもよいし、除去しなくともよい。このような各種用途に応じて、ポリマーは成形されたり、溶媒または分散媒に溶解または分散させたりすることがあるが、成形された後のポリマー、あるいは溶解または分散等された後のポリマーも本発明の利点を維持しているものであり、依然として本発明の重合方法で得られたポリマーの範囲に入るものである。
0219
また例えば、メタクリレート(例えば、ジメチルアミノメタクリレートや、2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、メタクリル酸、アクリレート、アクリル酸などの重合体は、接着剤、塗料、インク、顔料分散剤などの用途に使用可能である。
0220
また、本発明の方法で多分岐ポリマーを合成すれば、潤滑剤として有用である。
0221
また、本発明の方法で得られたポリマー(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなど)は、薬剤除放材・医療材料にも有用である。
0222
また、本発明の方法で得られたポリマー(例えば、ジメチルアミノメタクリレートや、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなど)はパーソナルケア製品(例えば、整髪料や化粧品)にも有用である。
0223
また、本発明の方法で得られたポリマー(例えば、アクリレート、メタクリレート、スチレン、ジエンなど)は、エラストマーや、コーティングなどの用途にも有用である。
0226
また、触媒として、導電性を有さない化合物を用いた場合、導電性不純物がポリマー中に残存しないことが必要とされる用途(例えばレジストや有機EL等)においても、好適に使用可能なポリマーが得られる。
0227
本発明の触媒は、その触媒の中心元素が窒素またはリンであるという特徴を有する。ここで、以下に詳述するリンを含む化合物と同様のメカニズムに基づいて、窒素を用いた化合物における触媒作用も同様に奏される。より詳細には、窒素およびリンには、本発明の触媒作用に関与すると考えられる以下の共通点がある。窒素およびリンは、p軌道(あるいはそのs軌道との混成軌道)に位置する電子(ラジカル)が反応に寄与する。d軌道の電子が反応に寄与する遷移金属とは全く異なる。本発明らの研究の結果、窒素およびリンのp軌道に位置するラジカルは、リビングラジカル重合の際にハロゲン化アルキル(ドーマント種)からハロゲンを引き抜く力が極めて高いことがわかった。そして、このp軌道のラジカルは、一般に、遷移金属のラジカルに比べてもドーマント種からハロゲンを引き抜く力が格段に高いことがわかった。従って、このように強力なp軌道ラジカルを生成できる窒素およびリンは、強力な触媒となることができる。
0228
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
0229
以下に、後述する各実施例で使用したモノマー、ハロゲン化アルキル、および触媒を示す。
0230
(用いた化合物)
まず、実施例で用いた主な化合物の構造を以下に記載する。
0231
(モノマー)
0232
0233
(触媒)
0234
(実施例1および比較例1)
[PI3(触媒)を用いたスチレン(St)のバルク重合。]
ハロゲン化アルキルとして、80mMの1−フェニルエチルヨーダイド(PE−I;化学式は上述のとおり)を用いた。触媒として10mMのPI3を用いた。ラジカル開始剤として10mMのジクミルパーオキサイド(DCP)を用いた。これらの材料を1gのスチレンに溶解して上記濃度の反応溶液とした。モノマー濃度は8Mであった。これらの材料の溶解性は良好であり、均一な溶液が形成された。アルゴンにて残存酸素を置換し、この反応溶液を100℃に加熱することにより重合反応を行った。
0235
なお、濃度の「mM」は、モノマー1リットルを基準とするミリモル数を示す。例えば、80mMは、モノマー1リットルに80ミリモルが溶解していることを意味する。濃度の「M」は、モノマー1リットルを基準とするモル数を示す。例えば、8Mは、モノマー1リットルに8モルが溶解していることを意味する。
0236
表1に示すとおりに、反応材料および反応条件を変更しながら、entry 1〜6ならびにentry C1の実験を行った。entry 1〜6の実験が実施例1の実験であり、entry C1の実験が比較例1の実験である。
0237
表1および下記の以下のすべての表(表1〜表28)において、PDIは、Mw/Mnの比を示す。また、Mnは、得られたポリマーの数平均分子量である。Mwは、得られたポリマーの重量平均分子量である。
0238
Mn,theoは、([M]0/[R−I]0) ´(モノマーの分子量)´(重合率)/100 で算出される理論値である。なお、[M]0 および [R−I]0 はそれぞれ、モノマーとヨウ化アルキルの初期濃度を表す。また、convは、モノマーの転化率(重合率)である。
0239
この重合では、DCPの開裂により生じた成長ラジカル(polymer・)が、不活性化剤PI3のヨウ素を引き抜き、活性化ラジカルであるPI2・がin situで(ポリマー−ヨウ素付加体(polymer−I)とともに)生成する。活性化反応はPI2・の作用による。結果を表1(entry 1)に示す。例えば、23hで、重合率は21%となり、MnおよびPDIはそれぞれ1100、1.16であった。分子量分布は制御されたものの、重合は非常に遅かった。そこで、触媒の量を10mMから2mMに減らした。
0240
結果を表1(entry 2)および図1AおよびBに示す。図1Aの縦軸の[M]はモノマー濃度を、[M]0は初期モノマー濃度(重合時間ゼロでのモノマー濃度)を表す。例えば、23hで、重合率は46%と高くなり、MnおよびPDIはそれぞれ4400、1.17であった。Mnは重合率にほぼ比例し、PDIは重合初期から1.2程度と小さく、活性化頻度は十分高いと言える。また、DCP濃度を80mMから160mMに上げることにより(entry 3)、例えば、23hで、重合率は68%と大きく増大し、MnおよびPDIはそれぞれ6200、1.17であった。このように、PDIを制御したまま、重合速度をあげることができた。さらに、触媒の量を2mMから1mM(entry 4)および0.5mM(entry 5)とかなり減らしても、分子量分布は制御された(PDI=1.15−1.25)。0.5mMとの量は、PI3の分子量(約412)を考慮すると、スチレンモノマー溶液中の約0.02重量%に相当する。この量は、後述する非特許文献1に記載された実験例において使用された触媒の量(8.9重量%)に比べて、およそ400分の1である。このように極めて少量でリビングラジカル重合反応を行えることから、触媒の活性が極めて高いことが確認された。また、entry 6に示すように、PE−I濃度を下げることにより、比較的高分子量のポリマーも得られた(Mn=10000)。
0241
比較例1、すなわち、触媒を含まない系では、Mw/Mnは1.55であり、本発明の触媒を用いたスチレンの重合実験結果よりも分子量分布が広かった(entry C1)。分子量分布の制御は触媒の作用によると言える。生成したポリマーのタクティシティから本重合がラジカル重合であることを確認した。
0242
モノマー:スチレン(St)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):1−フェニルエチルヨーダイド(PE−I)
ラジカル開始剤(I):ジクミルパーオキサイド(DCP)
(実施例2)
[2種類の異なる水素化リン化合物R2PH(=O)(触媒)を用いたスチレン(St)のバルク重合。]
表2(entry 1〜6)に示すとおりに、反応原料および反応条件を変更しながら、スチレンの重合を行った。
0243
実施例1と同様の系で、ただし、PI3に代わり、リンの水素化物R2PH(=O)を触媒の前駆体として使用した(上記スキーム2)。この重合では、DCP(過酸化物)の開裂により、アルコキシラジカルが生成する(上記スキーム2a)。アルコキシラジカルは、R2PH(=O)の水素を引き抜き、活性化ラジカルであるR2P・(=O)が生成する(上記スキーム2b)。このリンラジカルの作用により可逆的活性化が成立する(上記スキーム2c)。
0244
本実施例では触媒として(BuO)2PH(=O)および(EtO)PhPH(=O)をスチレンの重合に用いた。また後述する実施例5では(EtO)2PH(=O)および(iPrO)2PH(=O)をメチルメタクリレート(MMA)の重合に用いた。これらのリンの水素化物は、ヨウ化物(PI3など)に比べて、水や光に対する安定性が高く、重合溶液の調製に際して、より簡便な操作をもたらしうる。そして、極めて安価である。
0245
(BuO)2PH(=O)を用いたスチレンの重合結果を表2ならびに図2AおよびBに示す。触媒を30mM添加した系(表2 entry 1および2と図2AおよびB)では、重合初期からPDI(=1.18)の小さなポリマーを得ることができた。触媒濃度を10mMに減らすと(entry 3と図2AおよびB)、重合初期にはPDIは幾分大きいものの、Mnは重合率にほぼ比例し、重合率が20%を超えるとPDIの小さな(PDI=約1.2)ポリマーを得ることができた。また、触媒の濃度を10mMから5mMに減らしても、PDIは1.3程度と小さかった(entry 4)。次に、EtOPhPH(=O)を用いた(表1(entry 5および6と図2AおよびB)。その活性は(BuO)2PH(=O)より高く、触媒濃度が10 mMにおいてもPDIは重合初期から1.2程度と小さかった(entry 6と図2AおよびB)。以上のように、2種のリンの水素化物を触媒として用いることにより、スチレンの重合の制御に成功した。
0246
モノマー:スチレン(St)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):1−フェニルエチルヨーダイド(PE−I)
ラジカル開始剤(I):ジクミルパーオキサイド(DCP)
(実施例3)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)、2種類の異なるヨウ化アルキルおよび2種類の異なるラジカル開始剤を用いた、2種類の異なる温度におけるスチレン(St)のバルク重合。]
実施例1と同様に、但し、ヨウ化リンPI3(実施例1)の代わりに、窒素ヨウ化物N−ヨードコハク酸イミド(NIS:化学式は上述したとおり)を触媒として用いて、スチレン(St)のバルク重合を行った(表3ならびに図3AおよびB)。NISの重合メカニズムは、PI3(実施例1)の重合メカニズムと同じである。ヨウ化アルキルとしてPE−Iを、ラジカル開始剤として2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)(VR110)を用い、100℃で重合を行ったところ、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表3 entry 1ならびに図3AおよびB)。異なるラジカル開始剤、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)を用い、異なる温度、80℃で重合を行っても、狭い分子量分布が達成された(表3 entry 2)。また、異なるヨウ化アルキル、ヨードホルム(CHI3)と、異なるラジカル開始剤、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)を用いて、異なる温度、80℃で重合を行っても、狭い分子量分布が達成された(表3 entry 3)
0247
モノマー:スチレン(St)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):1−フェニルエチルヨーダイド(PE−I)
ラジカル開始剤(I):ジクミルパーオキサイド(DCP)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
(実施例4および比較例2)
[PI3(触媒)を用いたメチルメタクリレート(MMA)のバルク重合。]
実施例1と同様に、ただし、スチレン(実施例1)の代わりに、ヨウ化リンPI3を触媒として用いて、メチルメタクリレート(MMA)のバルク重合を行った(表4ならびに図4AおよびB)。重合メカニズムは、PI3を用いたスチレン重合(実施例1)のメカニズムと同じである。2−ヨード−2−シアノプロピル(上記CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびPI3を、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用い、70℃にて重合を行った。CP−Iを40mM、AIBNを20mM、触媒を5mM添加した系(entry 1)では、例えば、6hで重合率は63%と、短時間で高重合率に達し、PDIも1.25と小さかった。また、触媒濃度を5mMから3mM(entry 2)および2.5mM(entry 4)、さらには2mM(表4 entry 3ならびに図4AおよびB)という少量にまで減らしても小さなPDI(=1.13〜1.31)を達成することができた。
0248
比較例2(表4 entry C1)、すなわち、触媒を添加しない系では、重合は制御されなかった(PDI=1.90)。このように、PI3を用いてMMAの重合を制御することができた。
0249
ゲルマニウム触媒では、MMAを重合するためには、触媒を合成する必要があるのに対し、実施例4(および5と6)で用いられたリン化合物(あるいは窒素化合物)は市販され、かつ安価であるため、煩雑な合成を必要とせず、この点は有利である。
0250
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
(実施例5)
[2種類の異なるリン水素化化合物R2PH(=O)(触媒)を用いたメチルメタクリレート(MMA)のバルク重合。]
実施例4と同様に、ただし、PI3(実施例4)の代わりに、水素化リン化合物R2PH(=O)を触媒(触媒の前駆体)として用いて、MMAのバルク重合を行った(表5ならびに図5AおよびB)。重合メカニズムは、R2PH(=O)を用いたスチレン重合(実施例2)のメカニズムと同じである。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、および(EtO)2PH(=O)を、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒(前駆体)として用いて、70℃にて重合を行った。20mMの(EtO)2PH(=O)で、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表5 entry 1ならびに図5AおよびB)。低濃度(10mM)の(EtO)2PH(=O)においても、狭い分子量分布が達成された(表5 entry 2)。比較的低い濃度のCP−Iにおいて、比較的高分子量のポリマーが、狭い分子量分布で得られた(表5 entry 3)。別のリン水素化化合物(iPrO)2PH(=O)もまた有効であった(表5 entry 4)。
0251
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):ベンゾイルパーオキサイド(BPO)
(実施例6)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたメチルメタクリレート(MMA)のバルク重合および溶液重合。]
実施例4と同様に、ただし、PI3(実施例4)の代わりに、窒素のヨウ化物、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を触媒として用いて、MMAのバルク重合および溶液重合を行った(表6ならびに図6AおよびB)。重合メカニズムは、PI3(実施例4)のメカニズムと同じである。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびNISを、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用い、80℃で重合を行った。1mMのNISによって、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表6 entry 1ならびに図6AおよびB)。バルク重合(表6 entry 1ならびに図6AおよびB)のみならず、溶液重合(25%アニソール中)も成功した(表6 entry 2ならびに図6AおよびB)。異なるラジカル開始剤、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)も使用できた(表6 entry 3)。CP−I濃度を下げることにより、分子量を、狭い分子量分布を保ちつつ、上げることができた(表6 entry 4)。温度を70℃に下げても、良好な分子量分布の制御が達成された(表6 entry 5)。異なるヨウ化アルキル、ヨードホルム(CHI3)、もまた良好に使用された(表6 entry 6)。
0252
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)
モノマー濃度:8M(バルク中)および6M(25vol%アニソール溶液中)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
(実施例7)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたグリシジルメタクリレート(GMA)のバルク重合および溶液重合。]
窒素のヨウ化物、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を触媒として用いて、実施例6と同様に、ただし、MMA(実施例6)の代わりに、グリシジルメタクリレート(GMA)を用いてバルク重合および溶液重合を行った(表7ならびに図7AおよびB)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、およびNISを、それぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で重合を行った。1mMのNISを用いることにより、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表7、entry 1ならびに図7AおよびB)。25%アニソール中の溶液重合もまた成功した(表7、entry 2ならびに図7AおよびB)。
0253
モノマー:グリシジルメタクリレート(GMA)
モノマー濃度:8M(バルク中)および6M(25vol%アニソール溶液中)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:テトラヒドロフランを溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
0254
(実施例8)
[R2PH(=O)(触媒)を用いたベンジルメタクリレート(BzMA)のバルク重合。]
実施例5と同様に、ただし、水素化リン化合物R2PH(=O)を触媒(触媒の前駆体)として用いて、MMA(実施例5)の代わりにベンジルメタクリレート(BzMA)のバルク重合を行った(表8)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、ラウロイルパーオキサイド(LP)、および(EtO)2PH(=O)を、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤,および触媒(前駆体)として用いて、70℃で重合を行った。20mMの(EtO)2PH(=O)を用いることにより、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表8、entry 1)。
0255
モノマー:ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):ラウロイルパーオキサイド(LP)
MnおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
0256
(実施例9)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたベンジルメタクリレート(BzMA)のバルク重合。]
窒素のヨウ化物、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を触媒として用いて、実施例6と同様に、ただし、MMA(実施例6)の代わりに、ベンジルメタクリレート(BzMA)のバルク重合を行った(表9ならびに図8AおよびB)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびNISをそれぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で行った。2mMのNISを用いることにより、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表9 entry 1)。さらに低い濃度(1mM)のNISにおいても、狭い分子量分布が達成された(表9 entry 2ならびに図8AおよびB)。
0257
モノマー:ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
0258
(実施例10)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いた2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の溶液重合。]
実施例6と同様に、ただし、MMA(実施例6)の代わりに、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の溶液重合を、窒素のヨウ化物、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を触媒として用いて行った(表10)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびNISを、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で重合を行った。溶媒は、メチルエチルケトン(MEK)(35vol%)および1−プロパノール(15vol%)の混合物であった。なお、残り50vol%がモノマー(およびヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒)である。5〜10mMのNISを用いることにより、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表10)。
0259
モノマー:2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)
モノマー濃度:4M(35vol%メチルエチルケトン(MEK)および15vol%1−プロパノール中)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
0260
(実施例11)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(PEGMA)のバルク重合。]
実施例6と同様に、ただし、実施例6におけるMMAの代わりに、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(PEGMA)のバルク重合を、触媒として窒素のヨウ化物、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を用いて行った(表11)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびNISを、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で重合を行った。分子量(246および475)の異なる2種類のPEGMAについて検討したところ、いずれのPEGMAについても、少量の触媒(NIS)(1〜2mM)で、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表11)。
0261
モノマー:ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(PEGMA):分子量(M.W.)=246および475.
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
0262
(実施例12)
[メタクリル酸(MAA)のR2PH(=O)(触媒)を用いた溶液重合。]
実施例6と同様に、ただし、実施例5におけるMMAの代わりに、メタクリル酸(MAA)の溶液重合を、水素化リン化合物R2PH(=O)を触媒(触媒の前駆体)として用いて、行った(表12)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)および(EtO)2PH(=O)を、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒(前駆体)として用いて、70℃において重合を行った。エタノール(50vol%)を溶媒として用いた。なお、残り50vol%がモノマー(およびヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒)である。10mMの(EtO)2PH(=O)を用いることにより、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表12)。
0263
モノマー:メタクリル酸(MAA)
モノマー濃度:50vol%エタノール中4M
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):ベンゾイルパーオキサイド(BPO)
MnおよびPDI:水を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩(PSSNa)換算分子量と分子量分布指数
(実施例13)
[酢酸ビニル(VAc)のPI3(触媒)を用いたバルク重合。]
実施例4と同様に、ただし、実施例4におけるMMAの代わりに、酢酸ビニル(VAc)のバルク重合を、ヨウ化リンPI3を触媒として用いて行った(表13ならびに図9AおよびB)。エチルヨードアセテート(EA−I:構造式は上述したとおり)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN),およびPI3を、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、70℃で重合を行った。2mMのPI3を用いることにより、狭い分子量分布のポリマーが得られた(表13ならびに図9AおよびB)。
0264
モノマー:酢酸ビニル(VAc)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):エチルヨードアセテート(EA−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
MnおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
0265
(実施例14)
[アクリル酸n-ブチル(BA)とスチレン(St)のPI3(触媒)を用いたバルクランダム共重合。]
実施例1と同様に、ただし、単独重合(実施例1)に代え、アクリル酸n−ブチル(BA)とスチレン(St)のランダム共重合を、PI3を触媒として用いて、バルク(無溶媒)で行った(表14)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、過酸化ジクミル(DCP)、およびPI3を、それぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤、触媒として用い、100℃で重合を行った。1mMのPI3で、分子量分布の狭いポリマーが得られた(表14)。
0266
モノマー:アクリル酸n−ブチル(BA)、スチレン(St)
モノマー濃度:8M(バルク)
ハロゲン化アルキル(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):過酸化ジクミル(DCP)
触媒:PI3
MnおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いたポリスチレン(PSt)換算分子量と分子量分布指数
(実施例15)
[アクリル酸n-ブチル(BA)とスチレン(St)のR2PH(=O)(触媒)を用いたバルクランダム共重合。]
実施例2と同様に、ただし、単独重合(実施例2)に代え、アクリル酸n−ブチル(BA)とスチレン(St)のランダム共重合を、R2PH(=O)を触媒(前駆体)として用いて、バルク(無溶媒)で行った(表15)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、過酸化ジクミル(DCP)、およびPh(EtO)PH(=O)を、それぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤、触媒(前駆体)として用い、100℃で重合を行った。30mMのPh(EtO)PH(=O)で、分子量分布の狭いポリマーが得られた(表15)。
0267
モノマー:アクリル酸n−ブチル(BA)、スチレン(St)
モノマー濃度:8M(バルク)
ハロゲン化アルキル(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):過酸化ジクミル(DCP)
触媒:Ph(EtO)PH(=O)
MnおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いたポリスチレン(PSt)換算分子量と分子量分布指数
(実施例16)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いた2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)のバルクランダム共重合。]
実施例9および10と同様に、ただし、実施例9および10における単独重合の代わりに、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)のバルクランダム共重合を、窒素のヨウ化物、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を触媒として用いて、2種類の異なるモノマー組成において行った(表16)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびNISを、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で重合を行った。1〜2mMのNISを用いることにより、15(HEMA)/85(BzMA)(表16 entry 1)および22(HEMA)/78(BzMA)(表16 entry 2)の両方のモノマー組成において、狭い分子量分布のポリマーが得られた。
0268
モノマー:2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数
(実施例17)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたメタクリル酸(MAA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)のバルクランダム共重合。]
実施例9と同様に、ただし、実施例9における単独重合の代わりに、メタクリル酸(MAA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)のバルクランダム共重合を、窒素のヨウ化物、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を触媒として用いて、2種類の異なるモノマー組成において行った(表17)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびNISを、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で重合を行った。1〜1.5mMのNISを用いて、15(MAA)/85(BzMA)(表17 entry 1)および67(MAA)/33(BzMA)(表17 entry 2)の両方のモノマー組成において、狭い分子量分布のポリマーが得られた。
0269
モノマー:メタクリル酸(MAA)、ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数
(実施例18)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)のバルクランダム共重合。]
実施例9における単独重合の代わりに、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)のバルクランダム共重合を、窒素のヨウ化物、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を触媒として用いて、2種類の異なるモノマー組成において行った(表18)。2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびNISを、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で重合を行った。1〜2mMのNISを用いることにより、15(DMAEMA)/85(BzMA)(表18 entry 1)および18(DMAEMA)/82(BzMA)(表18 entry 2)の両方のモノマー組成について、狭い分子量分布のポリマーが得られた。
0270
モノマー:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数
(実施例19)
[PI3(触媒)を用いたメチルメタクリレート(MMA)およびスチレン(St)のブロック共重合。]
メチルメタクリレート(MMA)およびスチレン(St)のブロック共重合を、ヨウ化リンPI3を触媒として用いて行った(表19)。第一ブロックとして、MMA(8M)のバルク重合を、2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I:80mM)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO:40mM)およびPI3(1mM)を、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用い、80℃で1時間行った。ヘキサン(非溶媒)を用いた再沈殿で精製の後、ポリメチルメタクリレート−ヨーダイド(PMMA−I)(Mn=4100およびPDI=1.12)を得た。次いで、第二ブロックとして、スチレンのバルク重合を、上記のPMMA−I(40mM)、ジクミルパーオキサイド(DCP:40mM)およびPI3(1mM)を、それぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、100℃で24時間行った。その結果、分子量分布の狭いブロックコポリマー(PMMA−b−PSt)(Mn=27000およびPDI=1.25)を得ることに成功した(表19)。なお、ここで、PStはポリスチレンである。
0271
モノマー:スチレン(St)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):ポリメチルメタクリレート−ヨーダイド(PMMA−I)
ラジカル開始剤(I):ジクミルパーオキサイド(DCP)
MnおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリスチレン(PSt)換算分子量と分子量分布指数
(実施例20)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたメチルメタクリレート(MMAおよびベンジルメタクリレート(BzMA)のブロック共重合。]
メチルメタクリレート(MMA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)のブロック共重合を、窒素触媒、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を触媒として用いて行った(表20)。第一ブロックとして、MMA(8M)のバルク重合を、2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I:80mM)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO:40mM)およびNIS(1mM)を、それぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で55分間行った。ヘキサンを用いた再沈殿で精製の後、ポリメチルメタクリレート−ヨーダイド(PMMA−I)(Mn=3900およびPDI=1.14)を得た。次いで、第二ブロックとして、BzMAのバルク重合を、上述のPMMA−I(80mM)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN:20mM)およびNIS(1mM)を、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて80℃で行った。その結果、狭い分子量分布を有するブロックコポリマー(PMMA−b−PBzMA)が得られた(表20)。なお、ここでPBzMAは、ポリベンジルメタクリレートである。
0272
モノマー:ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):ポリメチルメタクリレート−ヨーダイド(PMMA−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数
(実施例21)
[N-ヨードコハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたメチルメタクリレート(MMA)(第一ブロック:単独重合)とメタクリル酸(MAA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)(第二ブロック:ランダム共重合)のブロック共重合。]
メチルメタクリレート(MMA)(第一ブロック(単独重合))とメタクリル酸(MAA)およびベンジルメタクリレート(BzMA)(第二ブロック(ランダム共重合))のブロック共重合を、窒素触媒、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)を用いて行った(表21)。第一のブロックとして、MMA(8M)のバルク重合を、2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I:80mM)、ベンゾイルパーオキサイド(BPO:40mM)およびNIS(1mM)をそれぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で50分間行った。ヘキサンを用いた再沈殿で精製の後、ポリメチルメタクリレート−ヨーダイド(PMMA−I)(Mn=3600およびPDI=1.08)を得た。次いで、第二のブロックとして、MAAおよびBzMAのバルクランダム共重合を、モノマー組成15(MAA)/85(BzMA)(mol/mol)で行った。上記のPMMA−I(80mM)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN:40mM),およびNIS(1mM)を、それぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で重合を行い、ブロックコポリマー(PMMA−ブロック−(PMAA−ランダム−PBzMA))を狭い分子量分布で得た(表21)。なお、ここでPMAAおよびPBzMAは、それぞれ、ポリメタクリル酸およびポリベンジルメタクリレートである。
0273
モノマー:メタクリル酸(MAA)、ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):ポリメチルメタクリレート−ヨーダイド(PMMA−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒:N−ヨードコハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数
(実施例22)
[R2PH(=O)(触媒)を用いたベンジルメタクリレート(BzMA)(第一ブロック)およびN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)(第二ブロック)のDMAEMAの連続添加によるブロック共重合。]
ベンジルメタクリレート(BzMA)およびN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)のブロック共重合を、触媒としての水素化リン化合物R2PH(=O)(触媒の前駆体)を用いて行った(表22)。第一のブロックとして、BzMA(8M)のバルク重合を、2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I:120mM)、ラウロイルパーオキサイド(LP:60mM),および(EtO)2PH(=O)(30mM)を、それぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、70℃で3時間行った。その結果、ポリベンジルメタクリレート−ヨーダイド(PBzMA−I)(Mn=8900およびPDI=1.35)を、モノマー転化率(conversion)89%で得た。次いで、この溶液(PBzMA−Iを単離精製することなく)に、DMAEMA([CP−I]に対して20当量)を連続的に添加し、第二のブロックとしての重合を、70℃で4時間行った。その結果、分子量分布の狭いブロックコポリマー(PBzMA−ブロック−PDMAEMA)(Mn=9400およびPDI=1.35)を、モノマー添加率97%で得た。なお、ここで、PDMAEMAは、ポリ(N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)である(表22)。
0274
モノマー:ベンジルメタクリレート(BzMA)、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
アルキルハライド(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):ラウロイルパーオキサイド(LP)
MnおよびPDI:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数
(実施例23)
[N-ヨウ化コハク酸イミド(NIS)(触媒)を用いたメタクリル酸メチル(MMA)(単独重合:第一ブロック)と、MMAおよびメタクリル酸ベンジル(BzMA)(ランダム共重合:第二ブロック)のブロック共重合:MMAおよびBzMAの連続添加。]
メタクリル酸メチル(MMA)の単独重合を第一ブロックとし、MMAおよびメタクリル酸ベンジル(BzMA)のランダム共重合を第二ブロックとするブロック共重合を、窒素触媒のN−ヨウ化コハク酸イミド(NIS)を用いて行った(表23)。第一ブロックとして、MMA(4M)の溶液重合(アニソール50vol%)を、2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)(40mM)、アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)(1mM)、およびNIS(1mM)を、それぞれ、ヨウ化アルキル、ラジカル開始剤、触媒として用い、80℃で1.5h行った。重合率は54%に達し、Mn=5400、PDI=1.31のポリメタクリル酸メチル−ヨウ素付加体(PMMA−I)が生成した。この溶液に(PMMA−Iを単離精製することなく)、BzMAを添加し、80℃で重合を行った。これにより、第二ブロックとして、MMA(第一ブロック時の未重合モノマー)とBzMAのランダム共重合が生じ、分子量分布の狭いPMMA−ブロック−(PMMA−ランダム−PBzMA)が生成した(表23)。なお、PBzMAはポリメタクリル酸ベンジルを表す。
0275
モノマー:メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ベンジル(BzMA)
モノマー濃度:4M(50vol%アニソール溶液)
ハロゲン化アルキル(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)
ラジカル開始剤(I):アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)
触媒:N−ヨウ化コハク酸イミド(NIS)
MnおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いたポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算分子量と分子量分布指数
(実施例24)
[ハロゲン化アルキルのin situ合成を利用した、メタクリル酸メチル(MMA)のR2PH(=O)(触媒)を用いたバルク単独重合。]
実施例5と同様の系で、ヨウ化アルキルとして単離精製した2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)に代え、その原料となるアゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)とヨウ素(I2)を仕込み化合物として用い、メタクリル酸メチル(MMA)のバルク単独重合を、R2PH(=O)を触媒(前駆体)として用いて80℃で行った(表24ならびに図10AおよびB)。CP−Iの生成過程をスキーム4に示す。AIBNの分解により、2−シアノプロピルラジカル(CP・)が生成する。CP・はI2と反応し、CP−Iを与える。AIBNは、I2との反応が完了した後、その残存分が(成長ラジカルを与える)ラジカル開始剤として作用する。AIBNが(I2と反応しうる)フリーのCP・を与える効率は60%程度であり、AIBNは、I2に比べ過剰に(2当量)添加した。
(スキーム4)
0276
図10AおよびBに示すように、表24(entry 1)に示す条件では、1.5時間、重合が進行しなかった。この間に分解したAIBNはCP−Iの生成に使用され、1.5時間でI2はすべて消費された。その後、このCP−Iと、残存したAIBN、および触媒(前駆体)として用いた(EtO)2PH(=O)を含む重合がスタートし、分子量分布の狭いポリマーが得られた。その分子量は、I2から定量的にCP−Iの生成したとき(40mMのI2から80mMのCP−Iが生成したとき)の理論値とほぼ一致した。I2の濃度を下げることにより、分子量を大きくすることができ(entry 2)、また、AIBNよりも分解の速いアゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V65)を用いることにより、重合をより高速で行うこともできた(entry 3)。また、触媒(前駆体)に(iPrO)2PH(=O)を用いることもできた(entry 4)。
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