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技術 会合物形成剤

出願人 株式会社林原
発明者 奥和之久保田倫夫福田恵温三宅俊雄
出願日 2001年9月17日 (20年5ヶ月経過) 出願番号 2002-529232
公開日 2004年1月29日 (18年0ヶ月経過) 公開番号 WO2002-024832
状態 特許登録済
技術分野 化粧料 抗酸化剤,安定剤組成物 有機低分子化合物及びその製造 医薬品製剤 糖類化合物 食用油脂
主要キーワード ネジ栓 農林水産物 グリセリン重合体 アルコール類化合物 会合部分 ジカルボン酸型 過酸化物化 高温乾燥条件下
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2004年1月29日)のものです。
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課題・解決手段

この発明は、不飽和化合物ラジカル化の抑制をとおして、ラジカル反応による不飽和化合物の化学的変化を抑制する手段の提供を課題とし、この課題を、トレハロースを有効成分として含んでなるトレハロースと不飽和化合物との会合物形成剤を提供することにより解決するものである。

概要

背景

概要

この発明は、不飽和化合物ラジカル化の抑制をとおして、ラジカル反応による不飽和化合物の化学的変化を抑制する手段の提供を課題とし、この課題を、トレハロースを有効成分として含んでなるトレハロースと不飽和化合物との会合物形成剤を提供することにより解決するものである。

目的

この課題を解決するための手段として、現在のところ、いずれの分野においても最も汎用されている手段は、一般にラジカルスカベンジャーと呼ばれる物質、すなわち、既に存在しているラジカルと反応してそれ自体が化学的に変化することによりラジカルの反応性消去ないしは抑制する物質を製品中又はその原料中に添加することである

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
2件

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請求項1

トレハロースを有効成分として含んでなるトレハロースと不飽和化合物との会合物形成剤

請求項2

不飽和化合物安定剤としての請求の範囲第1項に記載の会合物形成剤。

請求項3

不飽和化合物における不飽和結合に与る炭素原子に結合している水素原子及び/又はその炭素原子に隣接する炭素原子に結合している水素原子の自由度拘束剤としての請求の範囲第1項又は第2項に記載の会合物形成剤。

請求項4

不飽和化合物のラジカル化抑制剤としての請求の範囲第1項、第2項又は第3項に記載の会合物形成剤。

請求項5

不飽和化合物の分散状態の安定剤としての請求の範囲第1項乃至第4項のいずれかに記載の会合物形成剤。

請求項6

脂肪酸類アルコール類単純脂質類、複合脂質類、テルペン類合成高分子類、若しくはビニル類のいずれかに属する不飽和化合物とトレハロースとの会合物形成剤としての請求の範囲第1項乃至第5項のいずれかに記載の会合物形成剤。

請求項7

抗酸化剤乳化剤界面活性剤及び溶剤から選ばれる1種又は2種以上をさらに含んでなる請求の範囲第1項乃至第6項のいずれかに記載の会合物形成剤。

請求項8

請求の範囲第1項乃至第7項のいずれかに記載の会合物形成剤に含まれるトレハロースを不飽和化合物に接触させることを特徴とする、トレハロースと不飽和化合物との会合物の形成方法

請求項9

不飽和化合物における不飽和結合に与る炭素原子に結合している水素原子及び/又はその炭素原子に隣接する炭素原子に結合している水素原子の自由度を拘束する請求の範囲第8項に記載の会合物の形成方法。

請求項10

不飽和化合物のラジカル化を抑制する請求の範囲第8項又は第9項に記載の会合物の形成方法。

請求項11

不飽和化合物の分散状態を安定化する請求の範囲第8項、第9項又は第10項に記載の会合物の形成方法。

請求項12

食品化粧品医薬品若しくは、それらの材料に含有されている不飽和化合物に、請求の範囲第1項乃至第6項のいずれかに記載の会合物形成剤に含まれるトレハロースを接触させる請求の範囲第8項乃至第11項のいずれかに記載の会合物の形成方法。

請求項13

不飽和化合物とトレハロースとの会合物。

請求項14

会合部分が不飽和化合物における不飽和結合の部位及び/又はその近傍の部位である請求の範囲第13項に記載の会合物。

請求項15

請求の範囲第13項又は第14項に記載の会合物を含んでなる組成物

技術分野
この発明は、新規不飽和化合物会合物形成剤、より詳細には、トレハロースを有効成分として含んでなるトレハロースと不飽和化合物との会合物形成剤に関するものである。
背景技術
油脂、染料合成高分子をはじめとして、有機化合物主体とする製品がその保存中に異臭の発生、退色、硬化などの品質劣化を起こすことはよく知られている。このような劣化をもたらす主要な反応は有機化合物が無触媒下におこす化学反応である。有機化合物が無触媒下でこのような化学反応を起こす度合いは、一般にその不安定性の度合いによって決まり、有機化合物の不安定性を決める主要な要因のひとつはラジカル化のし易さである。つまり、ラジカル化し易い有機化合物ほど上記のような品質劣化、すなわち化学的変化を起こしやすいといえる。そして、ラジカル化のし易さは、分子内に不飽和結合が存在するか否か、ならびに、その存在様式と密接に関連しているといわれている。有機化合物のラジカルが何らかの原因で一旦生成すると、該ラジカルとその近傍に存在する他の未反応の分子や分子状酸素との間で多様な反応が連鎖的に進行し、上記のような変化に至ることとなる。
有機化合物のラジカル化は、光照射や加温など日常的に起こり得る環境条件によって容易に誘発されるため、ラジカルにより連鎖的に進行する反応(以下、「ラジカル反応」という。)による製品の化学的変化は、食品分野化粧品分野医薬品分野、化学工業品分野などの多岐にわたる分野で起こり得る問題である。このため、ラジカル反応を抑制・阻害することは、特定の分野に限らず、製品の品質を保持する上で極めて重要な課題のひとつである。この課題を解決するための手段として、現在のところ、いずれの分野においても最も汎用されている手段は、一般にラジカルスカベンジャーと呼ばれる物質、すなわち、既に存在しているラジカルと反応してそれ自体が化学的に変化することによりラジカルの反応性消去ないしは抑制する物質を製品中又はその原料中に添加することである。
しかしながら、ラジカルスカベンジャーを製品に添加してラジカル反応を抑制するという、食品分野をはじめとする諸種の分野で現在一般的に実施されている製品の品質保持のための手段は、生成したラジカルによるラジカル反応の進行を抑えることを主眼とするものであるために、幾分かのラジカル反応の進行は避けられないという課題があることを本発明者等は見出した。しかも、その作用原理から想定されるとおり、ラジカルスカベンジャーによるラジカル反応の抑制効果は際限なく持続するものではないという課題があることをも本発明者等は見出した。しかしながら、ラジカルスカベンジャーを用いる現行の手段が抱えるこれらの課題は未だかつて着目されたことがなく、当然のことながら、その課題の解決方法が検討されたこともない。
以上のとおり、この発明は、ラジカルスカベンジャーの利用によって製品の品質保持を計るという現在一般的に実施されている方法とは全く着想を異にし、ラジカル反応の始発段階である目的物質のラジカル化を抑制することによって、ラジカル反応により変質しうる物質の根本的な安定化を計るという、本発明者等による独自の着想に基づいて掲げられた全く新規な課題を解決しようというものである。
発明の開示
本発明者等は長年にわたりトレハロースの製造方法とその利用について様々な観点から研究を進めてきた。その成果のひとつとして、トレハロースが、食品などに含まれる脂肪酸類の分解を抑制し、また、脂肪酸類を含む食品などの組成物における揮発性アルデヒド類の生成を抑制する作用を有することを見出し、この知見に基づいて、食品や皮膚外用剤などの諸分野で有用なトレハロースの用途発明を完成し、特願平11−248071号明細書等に開示した。しかしながらこの発明が完成された時点においては、トレハロースが脂肪酸類の分解を抑制し、揮発性アルデヒド類の生成を抑制するメカニズムの詳細については全く明らかにされていなかった。
その後、本発明者等はトレハロースによる上記の作用の発現機構解明することを目的として鋭意研究を重ねた。その結果、1,4−ペンタジエン構造(化学式−CH=CH−CH2−CH=CH−で表される。)を有する不飽和脂肪酸(以下、「1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸」という場合がある。)であるリノール酸がラジカル反応により化学的に変化する場合、その初期反応の産物として共役ジエン(化学式−CH=CH−CH=CH−で表される構造を有する分子。)を生成するところ、リノール酸が変化するこの系にトレハロースを添加すると、その添加量依存的に共役ジエンの生成量が顕著に抑制されるという現象が観察された。このことから、本発明者等は、トレハロースが、少なくとも1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸に対しては、それが起こすラジカル反応の初期段階、特に、ラジカル化の段階を抑制する能力を有している可能性があることに想到した。
そこで本発明者等は、先ず、リノール酸ならびに、これと同じく1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸であるリノレン酸について、それぞれのラジカル化に与えるトレハロース添加の影響を調べた。その結果、トレハロースは、これらのラジカル化を他の糖質に比べて極めて顕著に抑制することを確認した。一方、比較のためにスクロースを用いて同様の実験を行ったところ、スクロースにはこのようなラジカル化抑制作用は認められなかった。
1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸は、その分子内に、2個の不飽和結合間に介在する反応性に富んだメチレン基(化学式−CH2−で表される。一般に活性型メチレン基ともいわれる。)を有し、この活性型メチレン基の水素が比較的容易に引抜きを受けるという性質があり、該脂肪酸のラジカル化は主としてこの水素の引抜き反応によるものといわれている。一方、1,4−ペンタジエン型以外のオレイン酸などの不飽和脂肪酸は、活性型メチレン基を有していないことから、そのラジカル化の様式は1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸の場合とは異なり、例えば、不飽和結合に与る炭素原子に結合している水素原子の引抜きが関わると考えられる。このことから、トレハロースによる不飽和脂肪酸のラジカル化抑制という作用は、1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸に対して特異的なものであって、幅広い対象に対しては有効でない可能性に懸念がもたれた。
そこで本発明者等は、次に、トレハロースによる1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸のラジカル化抑制作用の分子機構探る一助として、核磁器共鳴吸収法により、該不飽和脂肪酸における個々の水素原子の自由度を、トレハロースが共存する場合としない場合とで比較した。その結果、トレハロースが共存すると、該不飽和脂肪酸における活性型メチレン基水素の自由度を拘束する、すなわち、活性型メチレン水素の自由度を拘束するような様式でトレハロースと該不飽和脂肪酸は直接的に会合することが判明し、この会合が該不飽和脂肪酸のラジカル化抑制の要因であると結論づけられる一方、さらに、この会合状態においてトレハロースは、活性型メチレン基水素の近傍に位置する、不飽和結合に与る炭素に結合している水素の自由度をも拘束することが判明した。この結果より、トレハロースによるラジカル化抑制作用は、1,4−ペンタジエン型に限らず、他の型の不飽和脂肪酸に対しても発揮されるものであることが強く示唆された。
上記の予想の裏づけを得るために、次に本発明者等は、1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸以外の不飽和脂肪酸であるオレイン酸を用いて、また、比較の対象としてスクロースを用いて上記に準じて実験を行った。その結果、予想されたとおり、トレハロースは、オレイン酸における不飽和結合に与る炭素ならびにその炭素に隣接する炭素に結合している水素の自由度を拘束するような様式で、オレイン酸とも直接的に会合することが確認された。一方、スクロースの場合にはこのような会合を示すようなオレイン酸の水素原子の自由度の拘束は認められなかった。さらに、トレハロースとの会合状態にあるオレイン酸が、未会合のオレイン酸に比べて顕著にラジカルを生成し難くなっていることを示す実験結果も得られた。以上の結果から、トレハロースによるラジカル化抑制作用は、分子内の不飽和結合若しくはその近傍の部位にトレハロースが会合することによって発揮されるものであり、したがって、トレハロースは、対象とする分子における不飽和結合の数や存在様式には限定されず、また、全体としての分子の形状も特定のものに限定されず、炭素−炭素間不飽和結合を有する化合物、すなわち、不飽和化合物全般に対してそのラジカル化抑制に有効であるという結論に達した。
以上の結論を得た本発明者等は、さらに、トレハロースとの会合による不飽和化合物の性質の変化を、上記の不飽和脂肪酸をモデルに用いて種々検討した。その結果、トレハロースと会合した不飽和脂肪酸は、本来的にそれ自体では分散し難い水などの溶媒中において極めて安定して分散状態が保たれるという現象が見られた。以上のことから、トレハロースには、不飽和化合物と会合することによって、不飽和化合物のラジカル化ならびにそれに引き続くラジカル反応による変質を抑制するのみならず、その分散状態を安定に維持するという作用をも有することが判明した。この発明は、本発明者等による以上の独自の研究成果に基づいて完成されたものである。
以上のとおり、この発明は、トレハロースが不飽和化合物における不飽和結合の部位及び/又はその近傍の部位で不飽和化合物と会合するという本発明者等による独自の知見に基づいて、トレハロースを有効成分として含んでなるトレハロースと不飽和化合物との会合物形成剤とその用途を提供することにより上記の課題を解決するものである。
発明を実施する最良の形態
この発明は、トレハロースを有効成分として含んでなるトレハロースと不飽和化合物との会合物形成剤に関するものである。この発明でいうトレハロースとは、2分子のグルコース還元性基どうしでα,α結合してなる二糖を意味する。この発明で用いるトレハロースは、後述する不飽和化合物の1種又は2種以上と会合物を形成し得るものである限り、純度、存在形態、性状調製方法は特定のものに限定されない。
本発明で用いるトレハロースは種々の方法で調製することができる。経済性を問題にするのであれば、例えば、同じ特許出願人による、特開平7−143876号公報、特開平7−213283号公報、特開平7−322883号公報、特開平7−298880号公報、特開平8−66187号公報、特開平8−66188号公報、特開平8−336388号公報及び特開平8−84586号公報に開示された非還元性糖質生成酵素及びトレハロース遊離酵素澱粉部分加水分解物に作用させる方法が好適である。この方法によるときには、廉価な材料である澱粉から、トレハロースが好収量で得られる。ちなみに、斯かる方法により調製された市販品としては、例えば、含水結晶トレハロース商品名『化粧品用トレハロース』、固形重量当りの含水結晶トレハロース含量99%以上、株式会社林原商事販売)、含水結晶トレハロース(商品名『トレハ』、固形分重量当りのトレハロース含量98%以上、株式会社林原商事販売)、トレハロース含有シロップ(商品名『トレハスター』、固形分重量当りのトレハロース含量28%以上、株式会社林原商事販売)がある。なお、トレハロースは、マルトースに、例えば、特開平7−170977号公報、特開平8−263号公報、特開平8−149980号公報のいずれかに記載されたマルトース・トレハロース変換酵素を作用させるか、あるいは、公知のマルトース・ホスホリラーゼ及びトレハロース・ホスホリラーゼを組合せて作用させることによっても得ることができる。また、上記で例示したようなトレハロースの含水結晶を、例えば、70℃乃至160℃の範囲の温度で常圧乾燥又は減圧乾燥、より望ましくは、80℃乃至100℃の範囲の温度で減圧乾燥するか、あるいは、水分10%未満の高濃度トレハロース高含有溶液を助晶にとり、種晶共存下で50乃至160℃、望ましくは80乃至140℃の範囲で攪拌しつつ無水結晶トレハロースを含有するマスキットを製造し、これを比較的高温乾燥条件下で、例えば、ブロク粉砕、流動造粒噴霧乾燥などの方法で晶出粉末化することによりトレハロースの無水物を調製することもできる。以上のようにして得られるトレハロースはいずれもこの発明に有利に利用することができる。
この発明でいう不飽和化合物とは、炭素鎖に、炭素−炭素間の不飽和結合(以下、単に「不飽和結合」という。)すなわち、二重結合又は三重結合を有する炭化水素、ならびに斯かる炭化水素における水素原子を他の元素や基などで置換した誘導体を意味する。この発明の会合物形成剤(以下、「当該会合物形成剤」という場合がある。)の有効成分であるトレハロースは、このように定義される化合物のいずれとも会合して所期の機能を発揮するけれども、二重結合のみを有する不飽和化合物と三重結合のみを有する不飽和化合物の間でトレハロースとの会合の度合い比較すると、二重結合のみを有する不飽和化合物とより顕著に会合するので、当該会合物形成剤の対象としては二重結合を含む不飽和化合物が比較的望ましい。この発明の会合物形成剤の対象としては、詳細には、脂肪酸類、アルコール類単純脂質類、複合脂質類、テルペン類、合成高分子類、若しくはビニル類のいずれかに属する不飽和化合物が挙げられる。
この発明でいう脂肪酸類とは、カルボキシル基を1又は2個有し、分岐構造環状構造及び/又はヒドロキシル基を有することある鎖式化合物ならびにその塩を総称するものである。この発明の会合物形成剤の対象となり得る脂肪酸類は、その分子内に不飽和結合を含む炭素数が通常3以上のもの(すなわち不飽和脂肪酸)であり、具体的には、オレイン酸、パルミトレイン酸ネルボン酸、ツズ酸、トウハク酸、バクセン酸などのモノエン型脂肪酸(二重結合を1個有する)、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸エイコサペンタエン酸ドコサペンタエン酸ドコサヘキサエン酸プロスタグランジントロンボキサンロイコトリエンなどのポリエン型脂肪酸(二重結合を2個以上有する)、リリン酸キシメニン酸エリトロゲン酸、クレペニン酸、マイコマシンなどのアセチレン型脂肪酸(三重結合を1個以上有する)、ムコン酸などのポリエンジカルボン酸型脂肪酸(2個以上の二重結合と2個のカルボキシル基を有する)などが挙げられる。
この発明でいうアルコール類とは、鎖式炭化水素の水素原子を水酸基で置換した化合物を総称するものであり、水酸基を1個有する1価アルコールと、水酸基を2個以上有する多価アルコールとを含む。この発明の会合物形成剤の対象となり得るアルコール類はその分子内に不飽和結合を含み炭素数が通常2以上のものであり、具体的例としては、オレイルアルコールが挙げられる。
この発明でいう単純脂質類とは、構成原子が炭素原子、水素原子及び酸素原子からなり、分子中に脂肪酸類化合物に相当する炭化水素鎖を有する有機化合物を総称するものであり、代表的なものとしては、脂肪酸類化合物とアルコール類化合物との脱水縮合物エステル)ならびにその相当物が挙げられる。この発明の会合物形成剤の対象となり得る単純脂質類は、その分子内に不飽和結合を含むものであり、上記エステルの具体的としては、アルコール部分が1価アルコールであるオレイン酸デシル及びオレイン酸オクチルドデシル、アルコール部分がプロピレングリコールであるジオレイン酸プロピレングリコール、アルコール部分がグリセロールであり、脂肪酸部分が上記に例示したような不飽和脂肪酸であって、1分子中に1個、2個又は3個の脂肪酸部分を含むモノアシルグリセロールジアシルグリセロールならびにトリアシルグリセロール(以上3種をまとめて中性脂肪ともいう)、アルコール部分がグリセリン重合体であり、脂肪酸部分が上記に例示したような不飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、アルコール部分がショ糖である(ショ糖脂肪酸エステル)、ショ糖モノオレアート、ショ糖モノリノラート及びショ糖ジオレアートなどが挙げられる。なお、通常「油脂」と呼ばれるものはトリアシルグリセロールを主体とする油溶性物質を含む組成物であり、また、油脂はさらに、常温液体の「脂肪油」と常温で個体の「脂肪」とに分類されており、これらは通常不飽和化合物を含むので、当然ながらこの発明の対象となり得る。
この発明でいう複合脂質類とは、上記で定義した単純脂質類と同じく分子中に脂肪酸類化合物に相当する炭化水素鎖を有する一方、構成原子として炭素原子、水素原子及び酸素原子に加えて、リン原子窒素原子などを含む有機化合物を総称するものである。複合糖脂質類は一般に、グリセロリン脂質グリセロ糖脂質スフィンゴリン脂質スフィンゴ糖脂質の4種に大別され、さらにこの発明においてはこれらの誘導体や部分分解物、例えば、セラミドなども複合脂質類に含まれるものとする。この発明の会合物形成剤の対象となり得る複合脂質類は、その分子内に不飽和結合を含むものである。当該会合物形成剤の対象となり得るグリセロリン脂質としては、より詳細には、レシチンホスファチジルコリン)、ホスファチジルエタノールアミンホスファチジルイノシトールなどが、グリセロ糖脂質としては、より詳細には、分子内に1個又は2個以上のグルコシル基ガラクトシル基などの糖残基を有するジアシルグリセロールなどが、スフィンゴリン脂質としては、より詳細には、スフィンゴミエリンなどが、スフィンゴ糖脂質としては、セレブロシドなどがそれぞれ挙げられる。
この発明でいうテルペン類とは、化学式CH2=C(CH3)CH=CH2で表されるイソプレン構成単位とする有機化合物を総称するものあり、鎖状構造を有するものと環状構造を有するものがある。また、この発明においては、イソプレン構造を部分的に含む複合テルペンもテルペン類に含まれるものとする。このように定義されるテルペン類は、通常、分子内に不飽和結合を有するので、いずれもこの発明の会合物形成剤の対象となり得る。具体例としては、モノテルペンジテルペントリテルペンスクアレンテトラテルペンカロテノイドなどのほか、α−カロテンβ−カロテンアスタキサンチンカンタキサンチンアブシジン酸ビタミンAビタミンEなどの複合テルペンが挙げられる。
この発明でいう合成高分子類は有機化学的に合成された高分子物質を総称するものであり、合成ゴム熱硬化性樹脂熱可塑性樹脂に大別される。この発明の会合物形成剤の対象となり得る合成高分子類は、その分子内に不飽和結合を有するものである。合成ゴムの多くは不飽和結合を有しているのでこの発明のより有効な対象となり、具体的には、イソプレンゴムブタジエンゴムスチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴムニトリル−イソプレンゴムなどが挙げられる。また、熱硬化性樹脂の例としては不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
この発明でいうビニル類とは、化学式CH2=CH−で表されるビニル基、化学式CH2=C=で表されるビニリデン基若しくは化学式−CH=CH−で表されるビニレン基を有する有機化合物を総称するものである。この発明の会合物形成剤の対象となり得るビニル類としては、具体的には、エチレンプロピレンブチレンイソブチレンなどのオレフィン炭化水素ブタジエン、イソプレンなどのポリエン炭化水素、酢酸ビニルラウリン酸ビニルなどの酸ビニルエステルアクリル酸メチルアクリル酸エチルなどのアクリル酸エステルメタクリル酸メチルメタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステルラウリルビニルエーテルなどのビニルエーテルのほか、塩化ビニル塩化ビニリデン、スチレン、アクリロニトリルアクリルアミドマレイン酸ビタミンDビタミンK、さらには、同じ特許出願人による特願平11−343211号明細書に開示されたスチリル色素、同じ特許出願人による特願2000−31773号明細書に開示されたインドレニンペンタメチンシアニン色素、同じ特許出願人による特願2000−41001号明細書に開示されたトリメチンシアニン色素、同じ特許出願人による特願2000−46570号明細書に開示されたトリメチンシアニン色素、同じ特許出願人による特願2000−143035号明細書に開示されたジメチン系スチリル色素、同じ特許出願人による特願2000−203873号明細書に開示されたスチリル色素、同じ特許出願人による特願2000−275764号明細書に開示された非対称型インドレニン系ペンタメチンシアニン色素、同じ特許出願人による国際特許出願PCT/JP00/02349号明細書に開示された非対称型トリメチン系シアニン色素、化粧品原料基準(日本公定書協会編、『化粧品原料基準 第二版注解 I』、1984年、薬事日報社発行)に収載されている感光素101号(別名プラトニン)、感光素201号(別名ピオニン)、感光素301号(別名タカナール)、感光素401号(別名ルミキス)などが挙げられる。
トレハロースは、以上に例示したような不飽和化合物における不飽和結合の部位及び/又はその近傍の部位で不飽和化合物と直接的に会合する。トレハロースと不飽和化合物との会合物の形成は、例えば、後記実施例に詳述するように、核磁気共鳴吸収法を利用した方法により確認することができる。以下、その概略を述べる。静磁場中にある磁気モーメントをもつ粒子振動磁場又は電磁波を印加したとき、その粒子は共鳴現象を起こす(磁気共鳴)。このうち、原子核スピンが示す核スピン共鳴を特に核磁気共鳴(NMR)という。この核磁気共鳴に伴う電磁波の吸収を観測する方法が核磁気共鳴吸収法(この手法を単に「NMR」と呼ぶこともある。)である。一方、所定の外部磁場のもとで熱平衡状態にある粒子の磁気モーメント系に対して、外部磁場を急に変更すると、系が新しい熱平衡に達するまでに時間的おくれが生じる。これを磁気緩和という。磁気緩和にかかる時間、すなわち緩和時間は、核磁気共鳴吸収法で得られた吸収曲線と密接に関連しているので、その吸収曲線を解析することにより緩和時間を求めることができる。緩和時間はその原子の自由度を示す指標として捉えることができ、緩和時間が長いほど自由度が高いと判断できる。この原理に基づいて、不飽和化合物における全ての水素原子の緩和時間を、適宜の溶媒中でトレハロースが共存する場合としない場合について求め、両者を比較すると、不飽和結合に与る炭素原子ならびにそれに隣接する炭素原子に結合している水素原子の緩和時間が、トレハロースの共存によって顕著に短縮されることが確認できる。この結果は、トレハロースと不飽和化合物が共存すると、トレハロースが不飽和化合物における不飽和結合の部位及び/又はその近傍の部位で、その部位にある水素原子の自由度を拘束するような様式で、両者が会合物を形成することを意味している。
トレハロースと不飽和化合物が上記のように会合すると、不飽和化合物の安定化の安定化が達成される。この発明でいう不飽和化合物の安定化とは、通常、不飽和化合物のラジカル化の抑制を意味し、このラジカル化の抑制は、通常、トレハロースとの会合物を形成したし飽和化合物において、その不飽和化合物の不飽和結合に与る炭素原子に結合している水素原子及び/又はその炭素原子に隣接する炭素原子に結合している水素原子の自由度が拘束されることにより達成されるものである。そして、このように安定化された不飽和化合物においては、不飽和化合物のラジカル化によって未反応の不飽和化合物に惹き起こされる諸種の化学的変化、例えば、過酸化物化ヒドロキシル化、分解、変色、退色、硬化、発臭発熱燃焼発火重合等が顕著に抑制されることとなる。なお、ここでいうラジカル化は特定の原因に限定されるものではない。例えば、不飽和化合物は一般に、無触媒下で光照射や加温などにより、また、金属触媒等の適宜の触媒の作用により、さらにまた、活性酸素等の他のラジカルの作用によりラジカル化することが知られているけれども、トレハロースはこれらのいずれをも顕著に抑制する。さらに、トレハロースのこのような作用故に、不飽和化合物のラジカル化によって開始される反応と有機化学的にみて同種の反応、例えば、微生物酵素の作用による、不飽和化合物からの水素原子の引抜きを経由する反応を顕著に抑制するという作用をも当該会合物形成剤は発揮することとなる。また、対象とする不飽和化合物の種類や溶剤の種類にもよるけれども、不飽和化合物がトレハロースと会合すると、溶媒中での不飽和化合物の分散状態がより安定して保持される場合がある。この現象は、対象とする不飽和化合物が水に対して不溶若しくは難溶であって溶剤が水である場合比較的顕著に発揮される。すなわち、斯かる性質の不飽和化合物を、例えば、水中油型エマルジョン油中水型エマルジョンの状態に分散しようとする場合、その系にトレハロースを共存させると、その分散状態をより安定して保持することができる。以上のことから、この発明の会合物形成剤は、不飽和化合物安定剤、不飽和化合物における不飽和結合に与る炭素原子に結合している水素原子及び/又はその炭素原子に隣接する炭素原子に結合している水素原子の自由度拘束剤、不飽和化合物のラジカル化抑制剤、不飽和化合物の分散状態の安定剤などとして、下記に詳述する諸種の分野で有利に利用することができる。
この発明の会合物形成剤は以上のような作用を有するトレハロースを有効成分として含んでなり、さらに、トレハロースによる上記の作用を妨げない範囲で、他の成分、例えば、抗酸化剤乳化剤界面活性剤及び溶剤などを含有せしめてもよい。この発明で利用できる抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸及びその塩、アスコルビン酸ステアリン酸エステルや糖転移アスコルビン酸などのアスコルビン酸誘導体エチレンジアミン四酢酸及びその塩などのキレート剤クエン酸及びその塩、酢酸トコフェロールジブチルヒドロキシトルエントコフェロールパルミチン酸及びその塩、パルミチン酸アスコルビルピロ亜硫酸ナトリウムブチルヒドロキシアニソール没食子酸プロピル茶カテキンヒドロキノンアンモニアなどが挙げられる。
この発明で利用できる乳化剤ないしは界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステルポリオキシエチレン脂肪酸エステル、親油型モノステアリン酸グリセリン自己乳化型モノステアリン酸グリセリン、トリオタントリメチロールプロパン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどのエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル、レシチンなどのグリセロリン脂質をはじめとするリン脂質などが挙げられる。
この発明で利用できる溶剤としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類エステル類グリコールエーテル類エーテル類炭化水素類などが挙げられる。なお、以上のような、必要に応じて利用される成分が不飽和化合物である場合、トレハロースの作用によってその安定性が高まり、各成分による所期の機能がより持続するという利点もある。以上のように構成される当該会合物形成剤は、利用分野にもよるけれども、トレハロースを総重量当たり、通常、1重量%乃至100重量%、望ましくは、20重量%乃至99.9重量%含んでなり、水溶液シラップ、懸濁液及び乳化液などの液状、粉末顆粒及びブロック状などの固体状クリーム及びペーストなどの半固体状ゲル状若しくはこれらが混合された状態で提供される。
この発明の会合物形成剤を用いてトレハロースと不飽和化合物との会合物を形成するには、当該会合物形成剤に含まれるトレハロースが対象とする不飽和化合物と接触するように、当該会合物形成剤を、対象とする不飽和化合物ないしは不飽和化合物を含有する組成物又は農林水産物を含む物品に添加、混合、溶解、散布噴霧被覆などし、さらに必要に応じて、撹拌振盪、加温などすればよい。なお、対象とする不飽和化合物が水に対して不溶若しくは難溶である場合、当該会合物形成剤として、界面活性剤又は乳化剤をさらに含むものや、トレハロースが溶解し得る有機溶剤をさらに含むものを利用するのが好適である。トレハロースが溶解し得る有機溶剤としては、低級アルコール類、例えば、炭素数が通常5以下、望ましくは3以下である1価又は2価アルコールが好適である。当該会合物形成剤を用いてトレハロースと不飽和化合物との会合物を形成させる際の当該会合物形成剤の使用量は不飽和化合物の種類や存在形態により異なるけれども、対象が比較的低分子の化合物、通常、分子量2000以下、望ましくは、分子量1500以下の化合物である場合には、対象に対するトレハロースのモル比として示すと、通常、等量以上、望ましくは、1.5倍量乃至20倍量、さらに望ましくは、2倍量乃至10倍量が好適である。以上のようにしてトレハロースと接触した不飽和化合物は、トレハロースとの会合物を形成することとなる。
上記で述べたような作用を発揮するこの発明の会合物形成剤ならびに当該会合物形成剤を用いる会合物の形成方法は、不飽和化合物又は不飽和化合物を含む組成物ないしは物品を原料、添加物、製品などとして扱う分野であって、かつ、不飽和化合物の化学的変化の回避が求められる諸種の分野、例えば、食品分野(飲料分野を含む)、農林水産分野、化粧品分野、医薬品分野、日用品分野、化学工業分野、染料分野、塗料分野、建材分野香料分野化学薬品分野、合成繊維分野、色素分野、感光色素分野、光記録媒体分野ならびに、これらの分野で利用される原料又は添加物の製造分野など、極めて多岐にわたる分野において有用である。当該会合物形成剤は、そこに含まれるトレハロースと対象とする不飽和化合物とが接触するように利用される限り、対象とする不飽和化合物は単離・精製した状態であっても、また、他の成分との組成物の形態にあっても、両者は会合物を形成し、所期の機能が発揮される。したがって、いずれの分野で利用する場合にも、当該会合物形成剤は、対象とする不飽和化合物ならびに当該不飽和化合物の組成存在状態案して、原料の段階から製品の段階に至るまでの適宜の工程で利用することができ、斯くして製造される製品は、そのままの状態でトレハロースを含まない通常の製品と同様に用いることができる。
また、トレハロースと接触させることにより形成させたトレハロースと不飽和化合物との会合物はそれ自体で、例えば、単離された状態で、安定性が改善され、かつ、その本来の機能を発揮する不飽和化合物製品として利用することもできる。当該会合物の単離に利用できる方法としては、例えば、抽出、濾過濃縮遠心分離透析分別沈澱結晶化、疎水性クロマトグラフィーゲル濾過クロマトグラフィーアフィニティークロマトグラフィーなどが挙げられる。斯くして単離される当該会合物は、当該会合物形成剤を利用しうる上述したような諸種の分野において、トレハロースと会合していない通常の不飽和化合物製品と同様にして、最終製品製造原料又は添加物などとして利用でき、また、トレハロースと不飽和化合物との会合状態ならびにその会合による不飽和化合物の安定化の機構をさらに詳細に調べるための研究用試薬としても利用できる。
以下、実施例Aに基づいてトレハロースとの会合による不飽和化合物の安定化を、また、実施例Bに基づいてこの発明の会合物形成剤の応用例をより詳細に説明する。
実施例A:トレハロースとの会合による不飽和化合物の安定化
〈実施例A−1:トレハロースと不飽和化合物との会合物の形成〉
不飽和化合物として、オレイン酸(18:1(9);最初の数字は炭素数を、次の数字は不飽和結合の数を、括弧内の数字は、カルボキシル基炭素を1として各炭素原子に順に番号を付した際の、不飽和結合に与るカルボキシル基側の炭素原子の番号を示す。以下同様に示す。)、リノール酸(18:2(9、12))、α−リノレン酸(18:3(9,12,15))(以下、単に「リノレン酸」という。)を、飽和化合物としてステアリン酸(18)を準備した(いずれも試薬級)。これらのいずれか10mgを0.9mlの重メタノール重水素化率99.8%)に溶解させた。この不飽和化合物溶液及び飽和化合物溶液のそれぞれに、別途準備しておいた、トレハロース(含水結晶、試薬級)又はスクロース(無水結晶、試薬級)を濃度250mg/mlで含む重水(重水素化率99.9%)溶液又は糖質を含まない重水を0.1mlと、内部標準物質としてのトリメチルシランを0.1mlとを加え、試験溶液とした。試験溶液0.6mlをNMR用ガラス管に移しNMRによる分析に供した。
NMR分析には、分析装置『JNM−AL300型』(日本電子株式会社製)を用い、観測核をプロトンに設定し、観測共鳴周波数を300.4MHzとした。上記試験溶液を含む管を本装置にセットし、本装置に添付された操作マニュアルに記載された反転回復法にしたがって操作して、本条件下での、試料溶液中の不飽和化合物ならびに飽和化合物における個々の水素原子のスピン−格子緩和時間(以下、単に「緩和時間」という。)を求めた。分析結果として得た各ピーク化学シフト)の帰属は、『DHA高度精製抽出技術開発事業研究報告』、1997年、財団法人日本水産油脂協会発行、63頁、に記載されたデータに基づいて行った。また、分析結果に基づいて、帰属された水素原子(プロトン)の緩和時間を求めた。以上の分析による、水素原子の帰属と各水素原子の緩和時間を表1乃至表4にまとめて示した。




表1乃至表4に示すとおり、不飽和化合物であるオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸において不飽和結合に与る炭素原子ならびにそれに隣接する炭素原子に結合している水素原子は、トレハロースの共存によって、その緩和時間が著しく減少した。一方、飽和化合物であるステアリン酸における水素原子はいずれも、トレハロースの共存によってもその緩和時間は変化しなかった。また、スクロースを用いた場合には、不飽和、飽和に関わらず、このような緩和時間の減少はは全く認められなかった。以上の結果は、トレハロースには、不飽和化合物における不飽和結合に与る炭素原子ならびにそれに隣接する炭素原子に結合している水素原子の自由度を拘束するような様式で、不飽和化合物と直接的に会合する作用があることを示している。
〈実施例A−2:トレハロースによる不飽和化合物のラジカル化の抑制〉
1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸は加熱条件下でラジカル化し、その1,4−ペンタジエン構造が共役ジエン構造に変換される(共役ジエンラジカルの生成)。この反応環境に分子状酸素が存在する場合、その分子状酸素と、生成した共役ジエンラジカルとが速やかに反応して別のラジカル(共役ジエンペルオキシドラジカル)を生成し、さらに引き続いて多種多様なラジカル反応が連鎖的に進行することとなる。一方、この反応環境に分子状酸素が存在しない場合、生成した共役ジエンラジカルはその状態に留まっている。したがって、1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸を分子状酸素非存在下で加熱し、生成した共役ジエンをその共鳴構造に基づいて紫外吸収により測定すれば、該不飽和脂肪酸のラジカル反応の始発反応の進行を定量的に観察することができる。この原理に基づいて以下の操作を行った。
リノール酸(18:2(9,12))又はリノレン酸(18:3(9,12,15))100mgと、エタノール10mlと、予め窒素ガス置換しておいた50mMリン酸緩衝液(pH7.0)10mlとを50ml容ガラスバイアル瓶にとり、これに、0.5%(w/v)、1%(w/v)、5%(w/v)又は10%(w/v)トレハロース水溶液、10%(w/v)スクロース又は脱イオン水のいずれか5mlを加え、バイアル瓶ヘッドスペースを窒素ガス置換した後、ブチルゴム栓で密栓した。これらのバイアル瓶を予め40℃に加熱しておいたオーブンに入れ、遮光下で、14日間保持した(加熱後)。加熱後、バイアル瓶中の混合液0.3mlを採取し、これに80%(v/v)エタノール水5mlを添加し、混合して、233nmにおける吸光度セル幅1cm)を測定した。また、上記と同様にバイアル瓶に各試薬封入した直後の混合液(加熱前)についても同様に吸光度を測定した。常法によりモル吸光係数27000を用いて、吸光度測定値より各混合液に添加したリノール酸又はリノレン酸1g当り共役ジエン量を求めた。結果を表5に示した。

表5に示すとおり、トレハロースを共存させた場合は、1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸からの共役ジエンの生成がその用量に依存して顕著に抑制された。一方、スクロースは、トレハロースが共役ジエンの生成を最も顕著に抑制したのと同濃度で添加した場合にも全く抑制作用を示さなかった。この結果は、トレハロースが、1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸のラジカル反応による変化を、その始発反応、すなわち、1,4−ペンタジエン型不飽和脂肪酸のラジカル化の段階で顕著に抑制する作用を有することを示している。なお、詳細なデータは割愛したけれども、1,4−ペンタジエン型ではない不飽和脂肪酸であるオレイン酸のラジカル化に対するトレハロースならびにスクロース共存の影響を、スピントラップ法を含む常法を組み合わせて調べたところ、同様に、トレハロースによってそのラジカル化が抑制されることを示す結果を得た。
〈実施例A−3:ラジカル反応による不飽和化合物の化学的変化に対するトレハロースの抑制作用〉
リノール酸1.5mgと、SDS2.5mgと、60mMTris−塩酸緩衝液(pH7.0)25mlとをネジ栓付50ml容ガラスバイアル瓶にとり、これに、25%(w/v)トレハロース水溶液、25%(w/v)スクロース水溶液又は脱イオン水のいずれか1.5mlと、脱イオン水0.05mlとを加えた。これに、ラジカル反応開始剤として、2.5mM過酸化水素水0.1mlと2.5mM塩化第二鉄水溶液0.1mlをさらに加えて密栓した。これらのバイアル瓶を予め40℃に加熱しておいたオーブンに入れ、24時間保持して反応させた(反応後)。
反応後の混合液0.5mlを採取し、そのリノール酸量を、メチルエステル化した後ガスクロマトグラフィーに供して求める常法にしたがって測定した。また、上記と同様にバイアル瓶に各試薬を封入した直後の混合液(反応前)についても同様にリノール酸量を測定した。また、測定値に基づいて、反応後におけるリノール酸残存率を求めた。結果を表6に示す。

表6に示すとおり、強制的にラジカル反応を開始させ、進行させる本実施例の条件下において、糖質を共存させていない系ではリノール酸はほぼ完全に消失した。一方、この系にトレハロースが共存すると、リノール酸の消失は顕著に抑制された。この結果は、ラジカル反応を開始させ、進行させる過酷な条件下においても、トレハロースが不飽和化合物のラジカル化を抑制し、そのラジカル化によって惹き起こされる化学的変化を抑制する作用を有することを示している。
上実施例A−1乃至実施例A−3に、スクロースを用いた場合の結果を対比させながら示したとおり、不飽和化合物との会合の形成、不飽和化合物のラジカル化の抑制、ならびに、ラジカル反応による不飽和化合物の化学的変化の抑制は互いによい相関を示した。以上のことは、トレハロースが、不飽和化合物と、その不飽和結合の部位及び/又はその近傍の部位で会合する作用を有し、この会合によって不飽和化合物のラジカル化に関わる水素原子の自由度が拘束され、その結果、不飽和化合物のラジカル化が抑制され、そして、不飽和化合物のラジカル反応による化学的変化が顕著に抑制され、不飽和化合物の安定化が達成されることを明確に示している。なお、実施例A−1に示した結果は、トレハロースが、飽和化合物とは、不飽和化合物に対するような様式では会合しないことも示している。一方、同じ特許出願人による特願平11−248071号明細書には、トレハロースが不飽和脂肪酸・飽和脂肪酸のいずれの分解をも抑制することが示されている。このことから、トレハロースは、不飽和結合及び/又はその近傍への会合とは別の機構で飽和化合物を安定化する作用を併せ持つと考えられる。
参考例:リノール酸と各種糖質との会合物の形成の有無
上記実施例A−1の方法にしたがって、リノール酸とマルトース(含水結晶、試薬級)、ネオトレハロース(含水結晶、試薬級)又はマルチトール(無水結晶、試薬級)とを共存させた際のリノール酸の水素原子の緩和時間をNMRにより調べた。結果を表7に示す。

表7に示すとおり、リノール酸とマルトース、ネオトレハロース又はマルチトールとを共存させた場合には、いずれも、トレハロースを共存させた場合に見られたようなリノール酸の水素原子の緩和時間の減少は見られなかった。マルトース及びネオトレハロースにおけるこれらの結果は、同じ特許出願人による特願平11−248071号明細書に示されている、マルトース及びネオトレハロースが、トレハロースが示すような脂肪酸類の分解抑制作用を示さないという事実とよく符合している。一方、上記明細書には、マルチトールがトレハロースに匹敵するレベルで不飽和ならびに飽和脂肪酸類の分解を抑制することが示されている。この事実と上記表5の結果を考え併せると、マルチトールによる脂肪酸類の分解抑制作用は、トレハロースとは全く異なる機構で発揮されるものと考えられる。したがって、以上のことから、不飽和化合物に会合し、そのラジカル化を抑制して、不飽和化合物を安定化するというこの発明が開示したトレハロースによる作用は、他の糖質には見られないトレハロースに極めて特徴的なものであるといえる。
〈実施例B−1:会合物形成剤〉
水80重量部に、含水結晶トレハロース(商品名『トレハ』、株式会社林原商事販売)20重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.5重量部、ビタミンE0.1重量部を加え、十分に混合して、液状の会合物形成剤を得た。本品は、それ自体に含まれるグリセリン脂肪酸エステル及びビタミンEを安定に保つのみならず、不飽和化合物の化学的変化の回避が望まれ、不飽和化合部又は不飽和化合物を含む組成物若しくは物品を取り扱う、例えば、食品分野、化粧品分野、医薬品分野、化学工業分野をはじめとする諸種の分野において不飽和化合物のための安定剤や不飽和化合物の分散状態の安定剤などとして有利に利用できる。
〈実施例B−2:会合物形成剤〉
含水結晶トレハロース(商品名『トレハ』、株式会社林原商事販売)を、ジャケット付き回転式真空乾燥機を用いて、温度90℃、気圧−300乃至−350mmHgの条件で、約7時間減圧乾燥した。減圧乾燥後、温度を常温に、気圧を常圧に戻して、乾燥機内のトレハロース粉末回収し、重量当たり無水結晶トレハロースを90%(w/w)以上含む結晶性粉末を得た。この結晶性粉末100重量部と、ブチルヒドロキシトルエン0.01重量部とを十分に混合し、粉末状の会合物形成剤を得た。本品は、不飽和化合物の化学的変化の回避が望まれ、不飽和化合部又は不飽和化合物を含む組成物若しくは物品を取り扱う、例えば、食品分野、化粧品分野、医薬品分野、化学工業分野をはじめとする諸種の分野において不飽和化合物のための安定剤や不飽和化合物の分散状態の安定剤などとして有利に利用できる。
〈実施例B−3:エネルギー補給液状食品
パーム油35重量部、中鎖トリグリセリド30重量部、菜種油15重量部、コーン油17重量部、シソ油3重量を混合して植物性油脂素材を調製した。この植物性油脂素材50重量部、含水結晶トレハロース(商品名『トレハ』、株式会社林原商事販売)20重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.3重量部、ビタミンE0.01重量部及びクエン酸ナトリウム0.02重量部に水を加えて全量を100重量部とした。これを常法により150gずつ缶詰めした。
本品は、エネルギー源として植物性油脂を豊富に含み、かつ、その油脂ならびにそれ以外の成分として含まれる不飽和化合物の安定性がトレハロースによって高められているので、保存安定性に優れたエネルギー補給用食品として有利に利用できる。
〈実施例B−4:粉末油脂
大豆サラダ油160重量部及びレシチン1重量部に水21重量部を室温で混合した後、これに実施例B−2の会合物形成剤160重量部を混合して粉末化し、にかけて粉末油脂を得た。
本品における不飽和化合物はトレハロースによってその安定性が高められている上、諸種の食品素材とともに配合された際に、その配合される食品素材における不飽和化合物の安定化をも達成するので、マヨネーズドレッシングなどの調味材料高カロリー経管栄養剤配合飼料などに有利に利用できる。
〈実施例B−5:可食性フィルム
プルラン(商品名『PF−20』、株式会社林原商事販売)30重量部、水61重量部、及びトレハロース含有シロップ(商品名『トレハスター』、株式会社林原商事販売)8重量部を均一な状態にまで混合して可食性結着剤を得た。この結着剤を固形分濃度15%(w/w)に調整し、この100重量部に対して、カラゲナン1重量部及びレシチン0.1重量部を加えて均一な状態にまで混合し、これを、常法にしたがって、ポリエステルフィルム状に流延し、引取速度3m/minで、厚さ0.03mmのフィルムとし、90℃の熱風で乾燥させて製品とした。
本品は、プルランのみを使用したフィルムとは違って、水系で速溶せず、徐々に溶解、崩壊する可食性フィルムであり、しかも、本品に含まれる不飽和化合物の安定性がトレハロースにより高められているので、保存安定性にも優れているという特長がある。したがって本品は、オブラートなどと同様にして、食品分野や医薬品分野などで有利に利用できる。
〈実施例B−6:皮膚外用クリーム〉
精製水30重量部にプロピレングリコール3重量部と含水結晶トレハロース(商品名『化粧品用トレハロース』、株式会社林原商事販売)3重量部とを加え、70℃にまで加温して水相部を調製した。一方、スクワラン36重量部、還元ラノリン9重量部、ミツロウ6重量部、オレイルアルコール5.5重量部、脂肪酸グリセリン4重量部、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)2重量部、親油型モノステアリン酸グリセリン2重量部と香料ならびに抗酸化剤の適量を70℃の条件下で均一な状態にまで混合し、油相部を調製した。この油相部を上記の水相部に加えて、常法にしたがい予備乳化した後、ホモミキサーで均一に乳化し、冷却して、水中油型の皮膚外用クリームを得た。
本品は皮膚に対して優れた保湿性を発揮する上、その保湿性の主体である油性成分における不飽和化合物の安定性がトレハロースにより高められているので、保存安定性に優れた高品質の皮膚外用剤として有利に利用できる。
〈実施例B−7:皮膚外用ゲル〉
カルボキシビニルポリマー和光純薬工業製、商品名『ハイビスワコー104』)1重量部と1,3−ブチレングリコールに適量の精製水を加えて常法により撹拌分散させた。これに含水結晶トレハロース(商品名『化粧品用トレハロース』、株式会社林原商事販売)1重量部、ポリビニルピロリドン1重量部、感光素101号0.003重量部と、香料ならびに抗酸化剤の適量と、さらに精製水を加えて全量を100重量部とし、pH7.2に調製して皮膚外用ゲルを得た。
本品は、延展性に優れる上、有効成分である感光素101号の安定性がトレハロースによって高められているので、しもやけ肌荒れ等の皮膚疾患治療・予防のための、保存安定性に優れた皮膚外用剤として有利に利用できる。
産業上の利用可能性
以上説明したとおり、この発明は、トレハロースが不飽和化合物と直接的に会合することによって不飽和化合物を安定化するという本発明者等の全く独自の知見に基づくものである。この発明の会合物形成剤は、現在までに一般的に利用されてきたラジカルスカベンジャーによる有機化合物の安定化とは全く作用メカニズムが異なり、目的とする化合物の根本的な安定化につながるものである。この発明による会合物形成剤、会合物の形成方法、ならびにトレハロースと不飽和化合物との会合物の利用分野は、食品分野、農林水産分野、化粧品分野、医薬品分野、日用品分野、化学工業分野、染料分野、塗料分野、建材分野、香料分野、化学薬品分野、合成繊維分野、色素分野、感光色素分野、光記録媒体分野など多岐に及び、産業上の意義は極めて大きい。
この発明は、斯くも顕著な作用効果を奏する発明であり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発明である。

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