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技術 TSLP遺伝子発現抑制用、IL−33遺伝子発現抑制用、又はフィラグリン産生促進用組成物

出願人 国立大学法人愛媛大学
発明者 山田晴義武藤潤佐山浩二
出願日 2019年10月31日 (1年10ヶ月経過) 出願番号 2019-199175
公開日 2021年5月6日 (3ヶ月経過) 公開番号 2021-070661
状態 未査定
技術分野 化粧料 化合物または医薬の治療活性 他の有機化合物及び無機化合物含有医薬
主要キーワード 油溶性溶媒 トレハロース誘導体 プラスチック製フィルム トランズウェル 体積百分率 凝集物質 急性腎障害 糖質誘導体
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (6)

課題

本発明は、新たなTSLP遺伝子発現抑制用組成物IL−33遺伝子発現抑制用組成物、又はフィラグリン産生促進用組成物の提供に関する。

解決手段

トレハロース又はその誘導体を有効成分として含有する組成物で対象を処置又は処理する。

概要

背景

胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)は、胸腺、皮膚、腸、扁桃上皮細胞肺線維芽細胞、間質性細胞等が発現するサイトカインである(非特許文献1)。これらの細胞では、炎症を惹起する刺激応答して、TSLPが産生されることが知られている。TSLPは、樹状細胞マスト細胞等の活性化を通じて、アレルギー性炎症応答を引き起こすことが知られている。

例えば、アトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能異常や掻破によって、上皮細胞でTSLPが誘導される。そしてTSLPはTh2リンパ球を介して炎症を誘導するだけでなく、TRPAを介して掻痒を誘導し、バリア機能をさらに悪化させる要因となる。そのため、TSLPは、アトピー性皮膚炎をはじめとする炎症性皮膚疾患において、薬剤ターゲットの一つとして注目されている(非特許文献2)。

その他にも、喘息等の慢性炎症にTSLPが関与することが知られている。

インターロイキン−33(IL−33)は、炎症に関連するインターロイキン−1ファミリーに属するサイトカインである。IL−33は、上皮細胞や血管内皮細胞恒常的に発現しており、感染、物理的又は化学的ストレス等によって細胞外に放出される。放出されたIL−33は、その受容体を発現する免疫系細胞を介してアレルギー性の炎症応答を引き起こすことが知られている。

例えば、IL−33は、アトピー性皮膚炎の病変部Th2細胞の遊走を通じて、アトピー性皮膚炎の発症に関わることが知られている(非特許文献2)。

そのほかにも、乾癬、喘息、関節リウマチ全身性硬化症潰瘍性大腸炎クローン病多発性硬化症強直性脊椎炎肝繊維症等の炎症性疾患にIL−33が関与することが示唆されている。

炎症性皮膚疾患や喘息等の炎症にはステロイド製剤が用いられる。ステロイド製剤はIL−33による炎症を抑制する。しかし、ステロイド製剤の継続使用では、表皮のバリア機能の低下や、ステロイド抵抗性が生じることが知られている。また、TSLPとIL−33の両方の発現量の増加が、重症の喘息においてステロイド抵抗性に関与することも知られている(非特許文献3)。そこで、ステロイドとは別の、TSLP又はIL−33の発現を抑制する薬剤が望まれていた。

その一方で、皮膚の炎症においては、炎症を抑える他に、表皮のバリア機能を改善して、皮膚の乾燥や外部から皮膚内への刺激因子侵入を防ぐことも重要である。表皮のバリア機能に関わる代表的なタンパク質の一つがフィラグリンである。フィラグリンは、表皮の顆粒細胞で産生される塩基性タンパク質である。ヒトにおいては、フィラグリンは分子量約400kDaのプロフィラグリンとして産生された後、プロフィラグリンの脱リン酸化プロテアーゼによる分解を経て、37kDaのフィラグリンモノマーとなる。フィラグリンモノマーはケラチンフィラメント同士を凝集させる線維凝集物質として働く。さらに、角層外層部では、フィラグリンは分解されて、アミノ酸ウロカニン酸糖を含む天然保湿因子(NMF)となる。

従って、炎症性皮膚疾患等の改善のために、フィラグリンの産生を促進することも重要な課題の一つであった。

概要

本発明は、新たなTSLP遺伝子発現抑制用組成物、IL−33遺伝子発現抑制用組成物、又はフィラグリン産生促進用組成物の提供に関する。トレハロース又はその誘導体を有効成分として含有する組成物で対象を処置又は処理する。

目的

そこで、ステロイドとは別の、TSLP又はIL−33の発現を抑制する薬剤が望まれていた

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

トレハロース及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有する、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP遺伝子発現抑制用、IL−33遺伝子発現抑制用、又はフィラグリン産生促進用である、組成物

請求項2

TSLP関連状態、IL−33関連状態、又は皮膚バリア機能低下状態を改善又は予防するための、請求項1に記載の組成物。

請求項3

トレハロース及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有する、炎症性皮膚疾患瘢痕、又は皮膚のひび割れ若しくはあかぎれ、を改善又は予防するための医薬組成物

技術分野

0001

本発明は、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP遺伝子発現抑制用組成物IL−33遺伝子発現抑制用組成物、又はフィラグリン産生促進用組成物に関する。

背景技術

0002

胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)は、胸腺、皮膚、腸、扁桃上皮細胞肺線維芽細胞、間質性細胞等が発現するサイトカインである(非特許文献1)。これらの細胞では、炎症を惹起する刺激応答して、TSLPが産生されることが知られている。TSLPは、樹状細胞マスト細胞等の活性化を通じて、アレルギー性炎症応答を引き起こすことが知られている。

0003

例えば、アトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能異常や掻破によって、上皮細胞でTSLPが誘導される。そしてTSLPはTh2リンパ球を介して炎症を誘導するだけでなく、TRPAを介して掻痒を誘導し、バリア機能をさらに悪化させる要因となる。そのため、TSLPは、アトピー性皮膚炎をはじめとする炎症性皮膚疾患において、薬剤ターゲットの一つとして注目されている(非特許文献2)。

0004

その他にも、喘息等の慢性炎症にTSLPが関与することが知られている。

0005

インターロイキン−33(IL−33)は、炎症に関連するインターロイキン−1ファミリーに属するサイトカインである。IL−33は、上皮細胞や血管内皮細胞恒常的に発現しており、感染、物理的又は化学的ストレス等によって細胞外に放出される。放出されたIL−33は、その受容体を発現する免疫系細胞を介してアレルギー性の炎症応答を引き起こすことが知られている。

0006

例えば、IL−33は、アトピー性皮膚炎の病変部Th2細胞の遊走を通じて、アトピー性皮膚炎の発症に関わることが知られている(非特許文献2)。

0007

そのほかにも、乾癬、喘息、関節リウマチ全身性硬化症潰瘍性大腸炎クローン病多発性硬化症強直性脊椎炎肝繊維症等の炎症性疾患にIL−33が関与することが示唆されている。

0008

炎症性皮膚疾患や喘息等の炎症にはステロイド製剤が用いられる。ステロイド製剤はIL−33による炎症を抑制する。しかし、ステロイド製剤の継続使用では、表皮のバリア機能の低下や、ステロイド抵抗性が生じることが知られている。また、TSLPとIL−33の両方の発現量の増加が、重症の喘息においてステロイド抵抗性に関与することも知られている(非特許文献3)。そこで、ステロイドとは別の、TSLP又はIL−33の発現を抑制する薬剤が望まれていた。

0009

その一方で、皮膚の炎症においては、炎症を抑える他に、表皮のバリア機能を改善して、皮膚の乾燥や外部から皮膚内への刺激因子侵入を防ぐことも重要である。表皮のバリア機能に関わる代表的なタンパク質の一つがフィラグリンである。フィラグリンは、表皮の顆粒細胞で産生される塩基性タンパク質である。ヒトにおいては、フィラグリンは分子量約400kDaのプロフィラグリンとして産生された後、プロフィラグリンの脱リン酸化プロテアーゼによる分解を経て、37kDaのフィラグリンモノマーとなる。フィラグリンモノマーはケラチンフィラメント同士を凝集させる線維凝集物質として働く。さらに、角層外層部では、フィラグリンは分解されて、アミノ酸ウロカニン酸糖を含む天然保湿因子(NMF)となる。

0010

従って、炎症性皮膚疾患等の改善のために、フィラグリンの産生を促進することも重要な課題の一つであった。

先行技術

0011

Pandey et al., Nature Immunology(2000), Vol.1, No.1, 59-64
「アトピー性皮膚炎ガイドライン2018」日本皮膚科学雑誌、2018年、第128巻、第12号、p. 2431-2502
Kabata et al., Nature Communications (2013), Vol.4, Article number 2675

発明が解決しようとする課題

0012

本発明は、新たなTSLP遺伝子発現抑制用組成物、IL−33遺伝子発現抑制用組成物、又はフィラグリン産生促進用組成物の提供に関する。

課題を解決するための手段

0013

本発明者らは、鋭意検討を行った結果、トレハロース又はその誘導体で対象を処置又は処理することにより、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)遺伝子及びIL−33遺伝子の発現が抑制されることを見出した。
また、本発明者らは、トレハロース又はその誘導体で対象を処置又は処理することにより、フィラグリンの産生が促進されることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。

0014

本発明は、トレハロース又はその誘導体を含有する、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)遺伝子発現抑制用、IL−33遺伝子発現抑制用、又はフィラグリン産生促進用である、組成物に関する。
また、本発明は、トレハロース又はその誘導体を有効成分として含有する、炎症性皮膚疾患、瘢痕、又は皮膚のひび割れ若しくはあかぎれ、を改善又は予防するための医薬組成物に関する。

発明の効果

0015

本発明の組成物により、細胞におけるTSLP遺伝子及びIL−33遺伝子の発現が抑制される。従って、本発明の組成物は、TSLP関連状態又はIL−33関連状態の改善又は予防に有用である。
また本発明の組成物により、細胞におけるフィラグリンの産生が促進される。さらに産生されたフィラグリンの一部は分解して天然保湿因子(NMF)となる。従って、本発明の組成物は、皮膚バリア機能低下状態の改善又は予防に有用である。

0016

本発明の構成の医薬組成物は、炎症性皮膚疾患、瘢痕、又は皮膚のひび割れ若しくはあかぎれを改善又は予防する。従って、本発明の医薬組成物は、これら皮膚の状態の処置に有用である。

図面の簡単な説明

0017

試験例1において、トレハロースを0mg/mL(vehicle)、30mg/mL(Treha 30)、又は100mg/mL(Treha 100)含有する培地で48時間インキュベートした後のヒト正常皮膚上皮細胞における(A)TSLP遺伝子、(B)IL−33遺伝子及び(C)フィラグリン遺伝子mRNA量を比較したグラフである。縦軸トレハロース濃度が0mg/mLの培地で48時間培養したときのmRNA量を1として相対値化したmRNA量を表す。各群のサンプル数は3である。エラーバー標準誤差、***はp<0.001を表す。ここで、検定一元配置分散分析を行ったうえでTukeyの多重比較を用いた。
試験例2において、トレハロースを0mg/mL含有するクリームビヒクル)又はトレハロースを100mg/mL含有するクリーム、ヘパリン類似物質を30mg/mL含有するクリームを塗布し、37℃で1週間インキュベートして得られた三次元培養皮膚横断切片の、ヘマトキシリンエオジンHE染色像及び抗フィラグリン抗体染色像である。
試験例3において、瘢痕の症例である(A)症例1及び(B)症例3の経過を表す写真である。
試験例3で、乳児湿疹の症例である症例7の経過を表す写真である。
試験例3で、ひび割れの症例である症例9の経過を表す写真である。

0018

本明細書において、「改善」とは、疾患、症状、健康状態若しくは審美的状態の治癒好転若しくは緩和、又は、疾患、症状、健康状態若しくは審美的状態の悪化の防止若しくは遅延、あるいは、疾患若しくは症状の進行の逆転、防止若しくは遅延を表す。
本明細書において、「予防」とは、疾患若しくは症状の発症の防止、又は疾患若しくは症状の発症のリスクを低下させることを表す。

0019

本明細書において、「対象」とは、本発明の組成物又は医薬組成物によって処理又は処置される、個体、器官組織又は細胞を表す。

0020

本明細書において、「瘢痕」(Scar)とは、身体の任意の組織の損傷又は疾患の部位に生じた線維性組織を表す。瘢痕には肥厚性瘢痕及びケロイド包含される。

0021

本明細書において、「トレハロース」とは、2つのα−グルコースが1,1−グリコシド結合した二糖類であり、α,α−トレハロースとも呼ばれる。本明細書のトレハロースは無水物、二水和物等の水和物を包含する。

0022

本明細書において、「トレハロース誘導体」とは、トレハロースの糖質誘導体であり、分子内にα,α−トレハロース構造に1個以上の糖モノマー縮合した糖質である。トレハロース誘導体の具体例としては、特に限定されないが、例えば、特開平7−143876号公報、特開平8−73504号公報、特許第3182679号公報、特開2000−228980号公報などに記載される、α−マルトシルα−グルコシド、α−イソマルトシルα−グルコシドなどのモノグルコシルα,α−トレハロース;α−マルトトリオシルα−グルコシド(別名α−マルトシルα,α−トレハロース)、α−マルトシルα−マルトシド、α−イソマルトシルα−マルトシド、α−イソマルトシルα−イソマルトシドなどのジ−グルコシルα,α−トレハロース;α−マルトテトラオシルα−グルコシド(別名α−マルトトリオシルα,α−トレハロース)、α−マルトシルα−マルトトリオシド、α−パノシルα−マルトシドなどのトリ−グルコシルα,α−トレハロース;α−マルトペンタオシルα−グルコシド(別名α−マルトテトラオシルα,α−トレハロース)、α−マルトトリオシルα−マルトトリオシド、α−パノシルα−マルトトリオシドなどのテトラ−グルコシルα,α−トレハロースなど、グルコース重合度が3〜6のα,α−トレハロースの糖質誘導体が挙げられる。
トレハロース又はその誘導体の由来製法は特に限定されず、天然物由来であっても化学合成された物であってもよいが、リポ多糖LPS)その他の細胞毒性をもたらす物質含有量が、細胞増殖を妨げない量以下であることが好ましい。
本明細書において、「トレハロース換算量」とは、トレハロース及びその誘導体から、水和水及びトレハロース以外の糖部分を差し引いた、トレハロース部分に相当する質量を表す。

0023

本明細書において、含有量の単位「質量%」は、「g/100g」と同義である。
本明細書において、「v/v%」は、体積百分率を表し、「mL/100mL」と同義である。

0024

[TSLP遺伝子発現抑制用、IL−33遺伝子発現抑制用、又はフィラグリン産生促進用である、組成物]
本発明の組成物は、トレハロース及びトレハロース誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有することを特徴とする。
トレハロース又はトレハロース誘導体は、下記の実施例で示されるように、TSLP遺伝子の発現抑制効果、IL−33遺伝子の発現抑制効果、及びフィラグリンの産生促進効果を有する。

0025

(用途)
本発明の組成物は、TSLPの発現量増加が関与する生理的状態である、TSLP関連状態の改善に有用である。TSLP関連状態としては、特に限定されないが、例えば、炎症性皮膚疾患、瘢痕、アレルギー性結膜炎アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患COPD)、好酸球性食道炎等が挙げられる。

0026

本発明の組成物は、IL−33の発現量増加が関与する生理的状態である、IL−33関連状態の改善に有用である。IL−33関連状態としては、特に限定されないが、例えば、炎症性皮膚疾患、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、クローン病、アナフィラキシーショック天疱瘡類天疱瘡強皮症、強直性脊椎炎、肝線維症肺線維症急性腎障害血管炎、癌等が挙げられる。

0027

本明細書において、炎症性皮膚疾患としては、特に限定されないが、国際疾病分類であるICD−10に例示される、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎おむつ皮膚炎アレルギー性接触皮膚炎刺激性接触皮膚炎医薬品の接触等による皮膚炎を含む)、詳細不明の接触皮膚炎剥脱性皮膚炎摂取物質による皮膚炎、慢性単純性苔癬及び痒疹掻痒症、又はその他の皮膚炎が挙げられる。

0028

本発明の組成物は、フィラグリンの分解によって生じる天然保湿因子(NMF)の産生を促進するのにも有用である。さらに、本発明の組成物は、フィラグリン産生促進効果とNMF産生促進効果を通じて、皮膚バリア機能の低下を抑制する用途にも有用である。皮膚バリア機能の低下に起因する状態としては、特に限定されないが、例えばアトピー性皮膚炎等の炎症性皮膚疾患、ひび割れ、あかぎれ等が挙げられる。

0029

(対象)
本発明の組成物が対象とする個体又は器官、組織若しくは細胞の由来は、特に限定されないが、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
本発明が対象とする器官又は組織は、好ましくは皮膚であり、より好ましくは皮膚上皮(表皮)である。
本発明の組成物が対象とする細胞は、特に限定されないが、好ましくは上皮細胞、より好ましくは皮膚上皮細胞(表皮細胞)である。ここで、対象となる細胞は、単離された器官又は組織に由来する細胞や単離細胞幹細胞等から分化して得られた細胞、又は個体、器官若しくは組織中に存在する細胞であってもよい。

0030

(用量)
本発明の組成物のトレハロース及びその誘導体の総含有量は、当該組成物の形態、対象、使用目的等によって適宜調整される。
本発明の効果を顕著に奏する観点から、本発明の組成物は、上記の本発明の対象となる細胞に適用されるトレハロース及びその誘導体の総和の濃度が、トレハロース換算量で、10mg/mL以上であり、好ましくは20mg/mL以上、より好ましくは30mg/mL以上、更に好ましくは50mg/mL以上となるように調製される。
また、本発明の組成物は、特に限定されないが、上記の本発明の対象となる細胞に適用されるトレハロース及びその誘導体の総和の濃度が、トレハロース換算量で、例えば300mg/mL以下であり、好ましくは200mg/mL以下、より好ましくは150mg/mL以下、更に好ましくは100mg/mL以下となるように調製される。
本明細書において、特定量の成分が「細胞に適用される」とは、その細胞(組織、器官又は個体中のものを含む)が特定量の成分に曝露されることを表す。

0031

(形態)
本発明の組成物の形態は、特に限定されないが、例えば、医薬品、医薬部外品化粧品食品等である。
また、本発明の組成物は、例えば、細胞培養用品として、コラーゲンゲルコラーゲンスポンジ等の細胞支持体、培地、培地添加用サプリメント血清等;研究用試薬等であり得る。
本発明の組成物の形態は、好ましくは医薬品、医薬部外品又は化粧品である。

0032

本発明の組成物を医薬品、医薬部外品又は化粧品に用いる場合、基剤又は担体保存剤乳化剤着色剤防腐剤界面活性剤紫外線吸収剤酸化防止剤保湿剤、紫外線吸収剤、香料防腐防黴剤体質顔料着色顔料アルコール多価アルコール、水、油剤増粘剤粉体キレート剤酵素動植物エキス類、pH調整剤等の成分のうち、1種単独又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。本発明の組成物が医薬品又は医薬部外品の形態である場合、その具体的な形態は、下記の[医薬組成物]に記載した形態と同じである。

0033

[医薬組成物]
本発明の医薬組成物は、トレハロース及びトレハロース誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
ここで、「医薬組成物」とは、医薬品及び医薬部外品を包含する。
本発明の医薬組成物は、上記の組成物と同じくTSLP遺伝子発現抑制効果、IL−33遺伝子発現抑制効果、及びフィラグリン産生促進効果を有する。

0034

(対象)
本発明の医薬組成物が対象とする個体は、特に限定されないが、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。

0035

(適用症)
本発明の医薬組成物は、上記のTSLP関連状態、IL−33関連状態、又は皮膚バリア機能低下状態の改善に有用である。即ち、本発明の医薬組成物が処置又は予防に用いられ得る具体的な疾患としては、炎症性皮膚疾患、瘢痕、皮膚のひび割れ若しくはあかぎれ、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、好酸球性食道炎、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、クローン病、アナフィラキシーショック、天疱瘡、類点疱瘡、強皮症、強直性脊椎炎、肝線維症、肺線維症、急性腎障害、血管炎、又は癌が挙げられる。中でも、本発明の医薬組成物は、炎症性皮膚疾患、瘢痕又は皮膚のひび割れ若しくはあかぎれの処置又は予防に好適に用いられる。

0036

(用量)
本発明の医薬組成物のトレハロース及びその誘導体の総含有量は、その剤形及び使用目的によって適宜調整され得るが、医薬組成物の全量に対して、トレハロース換算量で、例えば5質量%以上であり、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。
トレハロース及びその誘導体の総含有量は、医薬組成物の全量に対して、トレハロース換算量で、例えば、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下である。

0037

なお、医薬組成物が貼付剤である場合における医薬組成物の全量とは、外用剤のうち、患部に吸収され得る部分の総重量である。即ち、医薬組成物中の支持体ライナー剥離体)、テープ、布等の有効成分を含まない材料を除いた、残部の総重量である。

0038

(剤形)
本発明の医薬組成物の剤型としては、例えば、皮膚外用製剤(例:外用固形剤外用液剤スプレー剤軟膏剤クリーム剤ゲル剤、貼付剤等)、眼科用製剤(例:点眼剤眼軟膏剤等)、経口投与用製剤(例:錠剤カプセル剤顆粒剤散剤経口液剤シロップ剤経口ゼリー剤等)、口腔用製剤(例:口腔用錠剤、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤含嗽剤等)、注射用製剤(例:注射剤等)、透析用製剤(例:透析用剤等)、吸入用製剤(例:吸入剤等)、耳科用製剤(例:点耳剤等)、科用製剤(例:点鼻剤等)、直腸用製剤(例:坐剤、直腸用半固形剤、腸注剤等)、及び用製剤(例:膣錠、膣用坐剤等)等が挙げられる。

0039

本発明の医薬組成物は、好ましくは外用製剤であり、より好ましくは皮膚外用製剤である。
本発明の医薬組成物が皮膚外用製剤の場合、その剤形は、好ましくは軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、又は貼付剤である。皮膚外用製剤の剤形を以下に示す。

0040

<皮膚外用製剤の剤形>
(1)外用固形剤
外用固形剤は、頭皮を含む皮膚又は爪に、塗布又は散布する固形の製剤であり、外用散剤等が含まれる。外用散剤とは、粉末状の外用固形剤をいう。
(2)外用液剤
外用液剤は、頭皮を含む皮膚又は爪に塗布する液状の製剤であり、リニメント剤ローション剤等が含まれる。リニメント剤とは、皮膚にすり込んで用いる液状又は泥状の外用液剤をいう。ローション剤とは、有効成分を水性の液に溶解又は乳化もしくは微細に分散させた外用液剤をいう。
(3)スプレー剤
スプレー剤は、有効成分を霧状、粉末状、泡沫状、又はペースト状等として皮膚に噴霧する製剤であり、外用エアゾール剤ポンプスプレー剤等が含まれる。
(4)軟膏剤
軟膏剤は、皮膚に塗布する、有効成分を基剤に溶解又は分散させた半固形の製剤であり、油脂性軟膏剤水溶性軟膏剤等が含まれる。
(5)クリーム剤
クリーム剤は、皮膚に塗布する、水中油型又は油中水型に乳化した半固形の製剤であり、油中水型に乳化した親油性の製剤については油性クリーム剤とも呼ばれることもある。
(6)ゲル剤
ゲル剤は、皮膚に塗布するゲル状の製剤であり、水性ゲル剤油性ゲル剤等が含まれる。
(7)貼付剤
貼付剤は、皮膚に貼付する製剤であり、テープ剤パップ剤等が含まれる。貼付剤は、通常、高分子化合物又はこれらの混合物を基剤とし、有効成分を基剤と混和均質として、支持体又はライナー(剥離体)に展延して成形されたものをいう。貼付剤には、必要に応じて、粘着剤吸収促進剤等の添加剤を用いることもできる。テープ剤とは、ほとんど水を含まない基剤を用いる貼付剤をいい、プラスター剤硬膏剤等が含まれる。テープ剤は、通常、樹脂プラスチックゴム等の非水溶性の天然又は合成高分子化合物を基剤とし、有効成分をそのまま、又は有効成分に添加剤を加え、全体を均質とし、布に展延又はプラスチック製フィルム等に展延もしくは封入して成形することにより製造することができる。パップ剤とは、水を含む基剤を用いる貼付剤をいう。

0041

(基剤又は担体)
本発明の医薬組成物は、有効成分である当該物質を、通常、各種の添加剤又は溶媒等の薬学的に許容される基剤又は担体と共に製剤化したうえで、全身的又は局所的に、経口又は非経口の形(例えば、外用)で投与される。
ここで、薬学的に許容される担体とは、一般的に医薬品の製剤に用いられる、有効成分以外の物質を意味する。薬学的に許容される担体は、その製剤の投与量において薬理作用を示さず、無害で、有効成分の治療効果を妨げないものが好ましい。また、薬学的に許容される担体は、有効成分及び製剤の有用性を高める、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、又は使用性を向上させる等の目的で用いることもできる。具体的には、薬事日報社2016年刊医薬品添加物事典2016」(日本医薬品添加剤協会編集)等に記載されているような物質を、適宜目的に応じて選択すればよい。

0042

本発明の医薬組成物が皮膚外用製剤である場合、用いられる基剤又は担体としては、特に限定されないが、例えば、油溶性の基剤又は担体として、ワセリン精製ワセリンパラフィン流動パラフィンラノリン精製ラノリン炭化水素高級アルコール類、植物油動物油等の脂肪油脂肪酸エステル類プラスチベースグリコール類高級脂肪酸等が挙げられる。また、特に限定されないが、水溶性の基材又は担体として、マクロゴール200、マクロゴール400マクロゴール1500、マクロゴール1540、マクロゴール4000マクロゴール20000等のマクロゴール類(ポリエチレングリコール類);濃グリセリンプロピレングリコール等の多価アルコール類ポビドンポリビニルアルコール等の水溶性高分子等が挙げられる。さらに、基剤又は担体としては、特に限定されないが、例えば、水溶性溶媒としてエタノールイソプロピルアルコール、水、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール類等、油溶性溶媒としてセバシン酸ジエチルアジピン酸ジイソプロピル、トリ(カプリルカプリン酸)グリセリン等の液状の油等が挙げられる。
当該皮膚外用製剤には、これらの基剤又は担体から、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。

0043

(その他成分)
本発明の医薬組成物には、必要に応じて、さらに懸濁剤、増粘剤、安定化剤湿潤剤、保存剤、乳化剤、懸濁化剤、pH調整剤等の1種又は2種以上を含有してもよい。

0044

(用法)
本発明の医薬組成物が皮膚外用製剤である場合は、対象の年齢性別等、に応じて適宜変更し得るが、例えば、1日数回(例えば、約1〜5回、好ましくは1〜3回)、適量(例えば、約0.05〜5g)を患部に投与(塗布等)することができる。

0045

本発明の医薬組成物が皮膚外用製剤である場合は、製剤の塗布による10cm2当たりの1回の投与量は、特に限定されないが、例えば、トレハロース換算量で、0.1mg以上、好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上、更に好ましくは10mg以上、更により好ましくは100mg以上であり、5,000mg以下、好ましくは1,000mg以下、より好ましくは500mg以下である。

0046

(他の医薬との組み合わせ)
本発明の医薬組成物は、ステロイド製剤と併用することができる。本発明の医薬組成物は、フィラグリン産生促進を通じて皮膚のバリア機能を改善する。そのため、このような併用は、ステロイド製剤による皮膚のバリア機能の低下を改善する観点から、皮膚疾患、好ましくは皮膚炎症性疾患に対して好適である。
本発明の医薬組成物は、TSLPとIL−33の両方を抑制する。そのため、このような併用は、TSLP及びIL−33の発現量増加によってもたらされるステロイド抵抗性を改善する観点から、喘息又は慢性閉塞性肺疾患、好ましくは重度喘息に対して好適である。

0047

以下に、本発明及び本発明の好ましい実施態様を示す。
<1>
トレハロース及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有する、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)遺伝子発現抑制用、IL−33遺伝子発現抑制用、又はフィラグリン産生促進用である、組成物。
<2>
TSLP関連状態、IL−33関連状態、又は皮膚バリア機能低下状態を改善又は予防するための、<1>に記載の組成物。
<3>
処置又は処理する対象となる細胞に適用されるトレハロース及びその誘導体の総和の濃度が、トレハロース換算量で、10mg/mL以上であって、好ましくは20mg/mL以上、より好ましくは30mg/mL以上、更に好ましくは50mg/mL以上、
300mg/mL以下であって、好ましくは200mg/mL以下、より好ましくは150mg/mL以下、更に好ましくは100mg/mL以下となるように調製された、<1>又は<2>に記載の組成物。
<4>
対象が、哺乳動物、好ましくはヒトの、個体又は器官、組織若しくは細胞である、<1>〜<3>のいずれか1に記載の組成物。
<5>
医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、細胞培養用品、又は研究用試薬である、<1>〜<4>のいずれか1に記載の組成物。
<6>
炎症性皮膚疾患、瘢痕、皮膚のひび割れ若しくはあかぎれ、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、好酸球性食道炎、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、クローン病、アナフィラキシーショック、天疱瘡、類点疱瘡、強皮症、強直性脊椎炎、肝線維症、肺線維症、急性腎障害、血管炎、又は癌を、改善又は予防するための、<1>〜<5>のいずれか1に記載の組成物。
<7>
トレハロース及びその誘導体の総含有量が、組成物の全量に対して、トレハロース換算量で、5質量%以上であり、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、
80質量%以下であり、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下である、<1>〜<6>のいずれか1に記載の組成物。

0048

<8>
トレハロース及びその誘導体からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有する、炎症性皮膚疾患、瘢痕、又は皮膚のひび割れ若しくはあかぎれ、を改善又は予防するための医薬組成物。
<9>
トレハロース及びその誘導体の総含有量が、医薬組成物の全量に対して、トレハロース換算量で、5質量%以上であり、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、
80質量%以下であり、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下である、<8>に記載の医薬組成物。
<10>
皮膚外用製剤であって、好ましくは外用固形剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、又は貼付剤である、<8>又は<9>に記載の医薬組成物。

0049

<11>
胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)遺伝子発現抑制、IL−33遺伝子発現抑制、又はフィラグリン産生促進のための、トレハロース又はその誘導体の使用。
<12>
処置又は処理する対象となる細胞に適用されるトレハロース及びその誘導体の総和の濃度が、トレハロース換算量で、10mg/mL以上であって、好ましくは20mg/mL以上、より好ましくは30mg/mL以上、更に好ましくは50mg/mL以上、
300mg/mL以下であって、好ましくは200mg/mL以下、より好ましくは150mg/mL以下、更に好ましくは100mg/mL以下である、<11>に記載の使用。

0050

<13>
TSLP関連状態、IL−33関連状態、又は皮膚バリア機能低下状態を改善又は予防するために用いるトレハロース又はその誘導体。
<14>
炎症性皮膚疾患、瘢痕、又は皮膚のひび割れ若しくはあかぎれの処置のために用いるトレハロース又はその誘導体。
<15>
上記<13>又は<14>において、使用濃度は、トレハロース換算量で、5質量%以上でり、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、
80質量%以下であり、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下である、トレハロース又はその誘導体。

0051

<16>
胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)遺伝子発現抑制、IL−33遺伝子発現抑制、又はフィラグリン産生促進の方法であって、それを必要とする対象にトレハロース又はその誘導体を有効量で投与することを含む、方法。
<17>
対象となる細胞に適用されるトレハロース及びその誘導体の総和の濃度が、トレハロース換算量で、10mg/mL以上であって、好ましくは20mg/mL以上、より好ましくは30mg/mL以上、更に好ましくは50mg/mL以上、300mg/mL以下であって、好ましくは200mg/mL以下、より好ましくは150mg/mL以下、更に好ましくは100mg/mL以下である、<16>に記載の方法。

0052

<18>
TSLP関連状態、IL−33関連状態、又は皮膚バリア機能低下状態を改善又は予防するための方法であって、それを必要とする対象にトレハロース又はその誘導体を有効量で投与することを含む、方法。
<19>
炎症性皮膚疾患、瘢痕、又は皮膚のひび割れ若しくはあかぎれの処置又は予防のための方法であって、それを必要とする対象にトレハロース又はその誘導体を有効量で投与することを含む、方法。
<20>
製剤の塗布による10cm2当たりの1回の投与量は、トレハロース換算量で、0.1mg以上であって、好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上、更に好ましくは10mg以上、更に好ましくは100mg以上、5,000mg以下であって、好ましくは1,000mg以下、より好ましくは500mg以下、である、<18>又は<19>に記載の方法。
<21>
前記処置又は予防が、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)遺伝子発現抑制、IL−33遺伝子発現抑制、又はフィラグリン産生促進によって行われる、<18>〜<20>のいずれか1に記載の方法。

0053

<22>
胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)遺伝子発現抑制用、IL−33遺伝子発現抑制用、又はフィラグリン産生促進用の医薬を製造するための、トレハロース又はその誘導体の使用。
<23>
炎症性皮膚疾患、瘢痕、又は皮膚のひび割れ若しくはあかぎれの処置又は予防用の医薬を製造するための、トレハロース又はその誘導体の使用。

0054

[試験例1.トレハロースの遺伝子発現に対する効果の検証]
下記のように、正常ヒト皮膚上皮細胞を用いて、トレハロースによる遺伝子発現に与える効果をin vitroで検証した。

0055

(方法)
(1)MCDB Type−II培地(特許第3066624号公報の増殖培地2)に対して、6.6g/LHEPES、0.06mM CaCl2、100mg/Lカナマイシン、1.2g/L NaHCO3、0.1μMインスリン、100μMモノエタノールアミン、100μM o−ホスホエタノールアミン、0.5μg/mLヒドロコルチゾン、50mgタンパク質/mLウシ視床下部抽出液(BHE)を含有する培地(pH7.2)を調製した。正常ヒト皮膚上皮細胞(NHK)を、前記培地中で、コンフルエントになるまで37℃で単層培養した。
(2)(1)の培地を、0、30又は100mg/mLのトレハロースを含有する培地に置換して、37℃で48時間インキュベートした。
(3)各条件の細胞を回収し、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてmRNAを抽出した。mRNAからiScriptcDNASynthesis kit(B10-RAD社製)を用いてcDNAを調製した。各処理はそれぞれのマニュアルに従って行った。
(4)(3)で得られたcDNAに対して、TSLP、フィラグリン、及びIL−33遺伝子に対するTaqManPCR用プライマー(Thermo fisher Scientific社製、プライマーコード:Hs00263639-m1(TSLP)、Hs00856927-g1(フィラグリン)、Hs04931857-m1(IL-33))を用いて、定量PCR(qPCR)を行った。反応には、Fast Start Universl Probe Master (Rox)(Roche社製)、StepOnePlue Real time PCR system(Applied Biosystems社製)を用いた。各条件で用いたサンプル数は3であった。

0056

(結果)
qPCRの結果を図1に示す。30mg/mL又は100mg/mLトレハロースで処理した場合、トレハロースなしの対照(vehicle)に比べてTSLP遺伝子及びIL−33遺伝子のmRNA発現量が顕著に減少した。
また、フィラグリン遺伝子については、100mg/mLトレハロース処理によってmRNA発現量が顕著に増加した。30mg/mLトレハロースで処理した場合にも、トレハロースなしの培地で処理した場合に対してフィラグリン遺伝子のmRNAの発現量が5倍程度に増加した。

0057

以上から、トレハロースは皮膚上皮細胞のTSLP遺伝子及びIL−33遺伝子の発現を抑制し、またフィラグリン遺伝子の発現を促進することが明らかとなった。

0058

[試験例2.トレハロースのフィラグリン産生促進効果の検証]
下記のように、皮膚組織のin vitroモデルである三次元培養皮膚に対して、トレハロースを含有するクリーム剤を塗布して、そのフィラグリン産生効果を検証した。

0059

(方法)
<1.三次元培養皮膚の作製>
(1)まず、以下の表1の組成ゲル溶液Iを作製した。

0060

0061

(2)続いて、得られたゲル約1mLをセルカルチャーインサートであるトランズウェルコルコラーゲンコートインサートカタログ番号: 3492、Costar社製;ポアサイズ:3.0μm、表面積:4.67cm2)に注ぎ、インキュベーターに5分以上静置した。5×105個/mLの細胞密度で正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、Cambrex社製)を懸濁した、10v/v%FCS及び1v/v%ABAM(Antibiotics-Antimycotic solution, 100x,ThermoFisher Scientific社製)を含むDMEM5mLを、29mLのゲル溶液Iに加えた。この細胞を含むゲル溶液約3.5mLを上記セルカルチャーインサートに加え、37℃インキュベーターに30分間静置してゲル化した。

0062

(3)次に、上記のNHDFを含むコラーゲンゲル(層状の真皮細胞構造体)を、50μg/mlアスコルビン酸、10v/v%FCS、1v/v%ABAMを含むDMEM培地を用いて5日間前培養した後、コラーゲンゲル表面にMCDB培地に懸濁したヒト正常皮膚上皮細胞を1.28×105個/cm2となるように播種し、セルカルチャーインサートの外液及びインサート内にMCDB Type−II培地(特許第3066624号公報の増殖培地2)とEGMを等量混ぜた培地を加えて、37℃で2日間培養した。なお、EGMの組成は表2のとおりである。

0063

0064

(4)角化培地(CM培地)に交換し、セルカルチャーインサートの多孔質膜が角化培地の気液界面に位置するようにセルカルチャーインサートを配置した。その状態で37℃、7〜14日間気液界面培養することにより分化誘導を行い、三次元培養皮膚を得た。なお、培養開始から2日ごとに培地交換を行った。なお、CM培地の組成は表3のとおりである。

0065

0066

<2.培養皮膚の処置>
(5)塗布用サンプルとして、基剤にVanicream Moisturizing Skin Cream(Vanicream社製)を使用し、基剤のみのクリーム(ビヒクル)、トレハロースを100mg/mL含有するクリーム、及びヘパリン類似物質(Heparinoid)を30mg/mL含有するクリームを調製した。これら3種類のクリーム100mgを、(4)で得られた三次元培養皮膚の表皮上(面積:4.67cm2)に塗布し、(4)と同じ培地で、さらに37℃1週間インキュベートした。

0067

<3.培養皮膚の染色>
(6)(5)で得られた三次元培養皮膚の組織切片を作製した。得られた組織切片を常法によりヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を行った。また、得られた組織切片に、一次抗体として抗フィラグリン抗体(抗FillagrinマウスIgG抗体(AKH1)、Santa Cruz社製、製品番号sc-66192)を用いて、フィラグリン染色を行った。

0068

(結果)
得られたそれぞれの三次元培養皮膚の組織切片の染色像を、図2に示した。フィラグリン染色像に示されるように、100mg/mLトレハロース含有クリームで処理した場合、30mg/mLヘパリン類似物質で処置を行った場合やビヒクルと比べて、フィラグリンの層の厚みが増し、またフィラグリン量が増加していることが分かった。従って、トレハロースが表皮組織のフィラグリン量を増加させることが明らかとなった。

0069

[試験例3.皮膚病変に対する効果の検証(ヒトを対象とした評価)]
以下では、塗布剤として、Gauglitzらの総説(Molecular Medicine, 2011, Vol.17, No.1-2, p.113-125)のSilicone gel sheetingに類似したゲルにトレハロースを添加し、患者に処置を行った例を示す。具体的には、塗布剤として、10%トレハロースジェル(トレハロースを終濃度100mg/mLとなるように、アイティー・オー社製のITOジェルベースに加え、1000rpmの撹拌機で混合したもの)を用いた。当該ジェルは、水、グリセリン、カルボマーポリアクリル酸ナトリウムメチルパラベンプロピルパラベンを含有する。

0070

(1.瘢痕に対する効果の検証)
表4に記載の患者の瘢痕部に、10%トレハロースジェルを、1日1回入浴後に適量(約1〜約10mg/cm2)塗布してもらった。塗布後に患部はラップで覆われ、固定された。処置前及び表4に記載する処置後の各時点の瘢痕の状態を、瘢痕・ケロイド治療研究会が定めるガイドラインであるJSW Scar Scale 2011に従ってスコア化した。処方及びスコア付けは、患者の同意を得て医師が行った。結果を同じ表4に示した。また、症例1及び3の瘢痕の経過を示す写真を図3に示した。トレハロース含有製剤の塗布により、いずれの症例においても、瘢痕の状態が通常よりも速やかに改善していた。

0071

0072

TSLPは、瘢痕組織で発現量が増加し、瘢痕組織への線維芽細胞浸潤を増加させることが示唆されている(Journal of Investigative Dermatology, Vol. 136, No. 2, 507-515 (2016))。試験例1の結果を考慮すると、トレハロースがTSLPの発現を抑制することによって、線維芽細胞が瘢痕組織へ浸潤するのを抑制し、その結果瘢痕組織の線維化を抑制したと推察される。

0073

(2.炎症性皮膚疾患に対する効果の検証)
表5に記載の患者の患部に、10%トレハロースジェルを、各症例で示した回数で、適量(約1〜約10mg/cm2)を単純塗布してもらった。処方及び評価は、患者又は保護者の同意を得て医師が行った。処置後の患部の評価結果を、同じ表5に記載した。また、症例7の経過を示す写真を図4に示した。上記症例の皮膚の炎症は、保湿のみでは回復しないレベルのものであったが、10%トレハロースジェルの塗布により、いずれの症例も症状が顕著に改善していた。

0074

0075

上記結果と試験例1及び2の結果を合わせて考慮すると、トレハロースがTSLP遺伝子及びIL−33遺伝子の発現抑制によって皮膚の炎症を抑えたと推察される。さらに、トレハロースがフィラグリン産生を促進した結果、皮膚バリア機能が改善し、皮膚の乾燥及び刺激因子の侵入による炎症悪化を防いだものと推察される。

0076

(3.表皮の荒れに対する効果の検証)
両手指先に同程度のひび割れが見られた2名(症例8:50代女性、症例9:3男性)を対象とした。症例8では、1日1回(夜)、対象の右親指は上記と同じ10%トレハロースジェルを塗布した後ラップで覆い、対象の左親指は白色ワセリン商品名:プロペト)を塗布した後ラップで覆ってもらった。日中は、両手ともに白色ワセリンを塗布してもらった。症例9では、対象の右手には上記と同じ10%トレハロースジェルを適量塗布した後、白色ワセリンを塗布してもらった。対象の左手には白色ワセリンのみを適量塗布してもらった。これらの塗布は、毎日就寝前1回とした。日中は両手ともに0.3%ヘパリン類似物質油性クリームを塗布してもらった。処方及び評価は、患者又は保護者の同意を得て医師が行った。

0077

その結果、症例8では、処置から2週間後に10%トレハロースジェルで処置をした右手側のひび割れはほとんど見られなかったが、対照の左手側にはひび割れが残っていた。また、症例9では、処置5日後に同様に右手側のひび割れはほぼ閉塞したが、対照の左手側はひび割れが顕著に残っていた(図5)。ワセリンには保湿効果があることから、トレハロースによるひび割れの状態の改善は、保湿以外の効果も寄与しているといえる。

実施例

0078

上記結果に試験例1及び2の結果を合わせて考慮すると、トレハロースのフィラグリン産生促進効果によってバリア機能が改善して皮膚の乾燥が抑えられ、最終的にひび割れの状態が改善したものと推察される。さらに、トレハロースのTSLP遺伝子及びIL−33遺伝子発現の抑制によるひび割れ部分の炎症抑制効果もまた、ひび割れの状態の改善に寄与したものと推察される。

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