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課題
解決手段
概要
背景
風力発電装置の主軸軸受では、自動調心ころ軸受が用いられることが多い。風力発電装置の主軸軸受とされる自動調心ころ軸受では、ブレードやロータヘッドの自重によるラジアル荷重の他に、風力によるアキシアル荷重が作用する。この場合に、複列のうちの一方の列のころは略ラジアル荷重だけを受けるのに対して、他方の列のころはラジアル荷重とアキシアル荷重の両方を受ける。このため、アキシアル荷重を受ける列のころは、ラジアル荷重だけを受ける列のころと比べて接触面圧が大きくなり、ころの転動面および外輪の軌道面の表面損傷や摩耗が生じ易く、転がり寿命が短い。この寿命の短い列のころの転がり寿命により、軸受全体の実質寿命が決定される。
その対策として、一般的には、高粘度潤滑剤を使用することで、油膜形成能力を向上させている。しかし、高粘度潤滑剤は希薄潤滑が難しく、潤滑剤の保守に手間がかかる。 このような課題を解消するものとして、ころの転動面にDLC皮膜を施すことが提案されている(例えば特許文献1)。DLCは、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon )の略称である。
概要
風力発電装置の主軸の支持に用いられて、軸受軌道面の摩耗が抑制され、かつDLC皮膜の耐剥離性に優れ、より一層の長寿命化がれる自動調心ころ軸受を提供する。風力発電装置の主軸を支持する自動調心ころ軸受である。内輪2と、外輪3と、2列のころ4,5と、保持器10L、10Rとを備える。ころ4,5が、外周面に多層構造のDLC皮膜を有する。DLC皮膜の膜厚は2.0μm以上であり、好ましくは5.0μm以下である。ころ4,5の母材の外表面の面粗さが、Ra≦0.3、かつRΔq≦0.05である。多層構造のDLC皮膜における各層の膜硬さは、段階的に外層側の層が高くなる。
目的
この発明は、上記課題を解消するものであり、風力発電装置の主軸の支持に用いられて、軸受軌道面の摩耗が抑制され、かつDLC皮膜の耐剥離性に優れ、より一層の長寿命化が図れる自動調心ころ軸受を提供する
効果
実績
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請求項1
風力発電装置の主軸を支持する自動調心ころ軸受であって、内輪と、外輪と、これら内輪と外輪の軌道面間に介在する2列のころと、前記各列のころを保持する保持器とを備え、前記外輪の軌道面が両列部分に続く球面状であり、前記ころの外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状であり、前記ころが、外周面に多層構造のDLC皮膜を有し、このDLC皮膜の膜厚が2.0μm以上であり、前記ころの母材の外表面の面粗さが、Ra≦0.3、かつRΔq≦0.05であり、前記多層構造のDLC皮膜における各層の膜硬さは、段階的に外層側の層が高くなる、自動調心ころ軸受。
請求項2
請求項1に記載の自動調心ころ軸受において、前記保持器が、環状部と、この環状部の周方向複数箇所から軸方向に延びる複数の柱部とでくし形に形成され、前記柱部の前記ポケットを構成する面であるポケット面が円筒面であって、前記柱部に対して前記円筒面の中心が、前記柱部の先端側が保持器中心側に近づくように傾斜し、前記各柱部の先端の外径面に、最先端に至るに従って保持器内径側に下がるテーパー形状部が形成された、自動調心ころ軸受。
請求項3
請求項2に記載の自動調心ころ軸受において、前記保持器の外径が前記ころの並びのピッチ円直径PCDに対して、PCD×102〜105%、前記保持器の内径が前記ピッチ円直径PCDに対して、PCD×95〜98%、前記柱部の前記ポケットを構成する部分の長さがころ長さの65%以下である、自動調心ころ軸受。
請求項4
請求項2または請求項3に記載の自動調心ころ軸受において、前記保持器の前記柱部の前記テーパー形状部は、前記ころの最大径となる前記保持器の角度である最大径角の位置、またはこの位置よりも柱部先端側から始まる自動調心ころ軸受。
請求項5
請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の自動調心ころ軸受において、前記保持器における前記各柱部を保持器半径方向の外方から中心側に見た柱部幅が、前記柱部の最先端で最も狭くなる風力発電装置主軸用の自動調心ころ軸受。
技術分野
背景技術
0002
風力発電装置の主軸軸受では、自動調心ころ軸受が用いられることが多い。風力発電装置の主軸軸受とされる自動調心ころ軸受では、ブレードやロータヘッドの自重によるラジアル荷重の他に、風力によるアキシアル荷重が作用する。この場合に、複列のうちの一方の列のころは略ラジアル荷重だけを受けるのに対して、他方の列のころはラジアル荷重とアキシアル荷重の両方を受ける。このため、アキシアル荷重を受ける列のころは、ラジアル荷重だけを受ける列のころと比べて接触面圧が大きくなり、ころの転動面および外輪の軌道面の表面損傷や摩耗が生じ易く、転がり寿命が短い。この寿命の短い列のころの転がり寿命により、軸受全体の実質寿命が決定される。
0003
その対策として、一般的には、高粘度潤滑剤を使用することで、油膜形成能力を向上させている。しかし、高粘度潤滑剤は希薄潤滑が難しく、潤滑剤の保守に手間がかかる。 このような課題を解消するものとして、ころの転動面にDLC皮膜を施すことが提案されている(例えば特許文献1)。DLCは、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon )の略称である。
先行技術
0004
特開2017−180832号公報
発明が解決しようとする課題
0005
特許文献1に記載の発明は、ころにDLC皮膜が施されることで、軌道面の摩耗が抑制され、軸受寿命が向上する。
しかし、単層のDLC皮膜は、皮膜の剥離の課題があり、さらなる軸受寿命の向上が望まれる。
0006
この発明は、上記課題を解消するものであり、風力発電装置の主軸の支持に用いられて、軸受軌道面の摩耗が抑制され、かつDLC皮膜の耐剥離性に優れ、より一層の長寿命化が図れる自動調心ころ軸受を提供することである。
課題を解決するための手段
0007
この発明の自動調心ころ軸受は、風力発電装置の主軸を支持する自動調心ころ軸受であって、
内輪と、外輪と、これら内輪と外輪の軌道面間に介在する2列のころと、前記各列のころを保持する保持器とを備え、前記外輪の軌道面が両列部分に続く球面状であり、前記ころの外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状であり、
前記ころが、外周面に多層構造のDLC皮膜を有し、
このDLC皮膜の膜厚が2.0μm以上であり、
前記ころの母材の外表面の面粗さが、
Ra≦0.3、かつRΔq≦0.05
であり、
前記多層構造のDLC皮膜における各層の膜硬さは、段階的に外層側の層が高くなる。
0008
この構成によると、ころの外周面にDLC皮膜を施したため、耐摩耗性が向上する。また、高粘度潤滑剤を使用しなくてもよく、希薄潤滑が可能で、潤滑剤の保守が容易である。DLC皮膜は多層構造とし、各層の膜硬さを、段階的に外層側の層が高くなるようにしたため、最外層側の膜硬さを高めて耐摩耗性をより一層向上させながら、母材に接する最内側層が比較的に軟質にできて、母材との高い密着性を得ることができる。そのため、耐剥離性に優れたものとなる。DLC皮膜の膜厚は薄過ぎると耐摩耗性および機械的強度を十分に得ることが難しいが、2.0μm以上であることで耐摩耗性および機械的強度に優れた膜となる。なお、DLC皮膜は、5.0μmを超えると剥離し易くなる恐れがあるため、5.0μm以下であることが好ましい。
またDLC皮膜を施す外周面の粗さの値を、算術平均粗さRaで0.3Ra以下、二乗平均平方根傾斜RΔqで0.05以下としたため、相手材となる内外輪の軌道面への攻撃性が緩和できる。
0009
この発明の自動調心ころ軸受において、前記保持器が、環状部と、この環状部の周方向複数箇所から軸方向に延びる複数の柱部とでくし形に形成され、前記柱部の前記ポケットを構成する面であるポケット面が円筒面であって、前記柱部に対して前記円筒面の中心が、前記柱部の先端側が保持器中心側に近づくように傾斜し、
前記各柱部の先端の外径面に、最先端に至るに従って保持器内径側に下がるテーパー形状部が形成されていてもよい。
0010
この構成の場合、柱部のポケット面が円筒面であるため、ころの確実な保持が行える。柱部のポケット面となる円筒面の中心は、柱部が延びる方向に対して先端側が内径側へ傾斜しているため、前記テーパー形状部がなければ、柱部を保持器半径方向の外方から保持器中心側に見た柱部幅が、前記柱部の最先端で最も広くなる。そのため、この広くなった柱部先端の外径部で阻害されてポケット内へのころの組み込みが行い難く、またその広い柱部先端の外径部が、強度や機能的に良い影響を持たない無駄部分となる。
しかし、前記のように保持器内径側に下がるテーパー形状部を形成することで、ころの組み込みを阻害する無駄部分が省かれて、ころの組み込み性が向上し、かつ保持器の軽量化が得られる。ころの組み込み性が向上するため、組み込み時に保持器を大きく変形させる必要がなく、保持器の変形による形状の崩れが防止される。
0011
この構成の場合に、前記保持器の外径が前記ピッチ円直径PCDに対して、
PCD×102〜105%、
前記保持器の内径が前記ピッチ円直径PCDに対して、
PCD×95〜98%、
前記柱部の前記ポケットを構成する部分の長さがころ長さの65%以下、
であることが好ましい。
0012
柱部のポケット構成部分の長さがころ長さの65%以下であると、前記テーパー形状部を形成しない従来品に比べ保持器の性能が劣らぬよう、保持器が主にころを抱えている位置(ころ最大径位置)のポケット面を確保しつつ、保持器容積が最小となる設計とできる。その場合、保持器外径はPCD×102〜105%、環状部の内径はPCD×95〜98%となる。
0013
前記保持器の前記柱部の前記テーパー形状部は、前記ころの最大径となる前記保持器の角度である最大径角の位置、またはこの位置よりも柱部先端側から始まる形状であることが、より好ましい。
前記テーパー形状部が、最大径角の位置またはこの位置よりも柱部先端側から始まる形状であると、前記テーパー形状部が設けられていても、ころの保持性が確保される。
0014
前記保持器に前記テーパー形状部を設ける場合に、前記各柱部を保持器半径方向の外方から中心側に見た柱部幅が、前記柱部の最先端で最も狭くなる形状であることが好ましい。 柱部が最先端で最も幅狭となることで、ころの組み込み性が向上する。
発明の効果
0015
この発明の自動調心ころ軸受は、風力発電装置の主軸を支持する自動調心ころ軸受であって、
内輪と、外輪と、これら内輪と外輪の軌道面間に介在する2列のころと、前記各列のころを保持する保持器とを備え、前記外輪の軌道面が両列部分に続く球面状であり、前記ころの外周面が前記外輪の軌道面に沿う断面形状であり、
前記ころが、外周面に多層構造のDLC皮膜を有し、
このDLC皮膜の膜厚が2.0μm以上であり、
前記ころの母材の外表面の面粗さが、
Ra≦0.3、かつRΔq≦0.05
であり、
前記多層構造のDLC皮膜における各層の膜硬さは、段階的に外層側の層が高くなる
ため、
風力発電装置の主軸の支持に用いられて、軸受軌道面の摩耗が抑制され、かつDLC皮膜の耐剥離性に優れ、より一層の長寿命化が得られる。
図面の簡単な説明
0016
この発明の第1の実施形態にかかる自動調心ころ軸受の断面図である。
非対称ころの説明図である。
同自動調心ころ軸受における保持器の傾斜角を示す断面図である。
同の自動調心ころ軸受におけるころ表層のDLC皮膜の構成を示す模式断面図である。
同自動調心ころ軸受に用いられる保持器の一例を示す斜視図である。
同保持器の部分拡大破断平面図である。
同保持器のポケットところの関係を示す断面図である。
同保持器の部分断面図である。
同保持器の部分拡大平面図である。
同保持器の柱部の断面図である。
同保持器の部分斜視図である。
同保持器の変形例の部分斜視図である。
他の実施形態に係る自動調心ころ軸受の断面図である。
風力発電装置の主軸支持装置の一例の一部を切り欠いて表した斜視図である。
同主軸支持装置の破断側面図である。
実施例
0017
この発明の第1の実施形態に係る複列の自動調心ころ軸受1(以下、単に「軸受1」と称する場合がある。)を図1〜図11と共に説明する。この自動調心ころ軸受1は、内輪2と外輪3との間に軸受幅方向(軸心方向)に並ぶ左右2列のころ4,5が介在させてある。外輪3の軌道面3aは球面状であり、左右各列のころ4,5は外周面が外輪3の軌道面3aに沿う断面形状である。言い換えると、ころ4,5の外周面は、外輪3の軌道面3aに沿った円弧を中心線C1,C2回りに回転させた回転体形状の曲面である。内輪2には、左右各列のころ4,5の外周面に沿う断面形状の複列の軌道面2a,2bが形成されている。内輪2の外周面の両端には、小つば6,7がそれぞれ設けられている。内輪2の外周面の中央部、すなわち左列のころ4と右列のころ5間に、中つば8が設けられている。この実施形態は、左右列対称の自動調心ころ軸受1に適用した例であり、左右列の接触角θ1,θ2は互いに同じである。なお、この明細書における用語「左」,「右」は、軸受のアキシアル方向における相対的な位置関係を便宜上示すための用語に過ぎない。この明細書において、「左」,「右」は、理解を容易にするため、各図における左右と一致させている。
0018
左右各列のころ4,5は、それぞれ保持器10L,10Rにより保持されている。左列用の保持器10Lは、円環部11から複数の柱部12が左側に延び、これら柱部12間のポケットに左列のころ4が保持される。右列用の保持器10Rは、円環部11から複数の柱部12が右側に延び、これら柱部12間のポケットに右列のころ5が保持される。
0019
図2に誇張して示すように、左右各列のころ4,5は、いずれも最大径D1max,D2maxの位置M1,M2がころ長さの中央A1,A2から外れた非対称ころである。左列のころ4の最大径D1maxの位置はころ長さの中央A1よりも右側にあり、右列のころ5の最大径D2maxの位置はころ長さの中央A2よりも左側にある。このような非対称ころからなる左右各列のころ4,5は、誘起スラスト荷重が発生する。この誘起スラスト荷重を受けるために、内輪2の前記中つば8が設けられる。非対称ころ4,5と中つば8の組合せは、ころ4,5を内輪2、外輪3、および中つば8の3箇所で案内するので、案内精度が良い。
0020
図3は、保持器10Rの傾斜角などを示す。図の右側の保持器10Rについて説明するが、この実施形態は、左右列対称の自動調心ころ軸受1に適用した例である、左側の保持器10Lは右側の保持器10Rと同様であり、重複する説明を省略する。同図の保持器10Rの柱部12は、軸受中心軸心Oと平行に延びているが、図13の例のように、柱部12は先端側が内径側に傾斜していてもよい。
図3において、保持器10Rは、傾斜角β2が、ころ5の最大径を成す位置の傾斜角度であるころ最大径角α2に対して、次式、
0≦β2≦α2
で示される関係となっている。このように保持器傾斜角度β2を設定し、保持器10Rのポケット面12aがころ5の最大径位置を抱えるようにしている。また、保持器10Rの柱部12の先端の外径面には、後に説明するようにテーパ部13が設けられている。
なお、前記「保持器10Rの傾斜角β2」は、例えば、保持器10Rの柱部12におけるポケット面12aが円筒面である場合、その円筒面の中心線C2が保持器軸心(軸受中心軸心O)に対して成す角度が保持器傾斜角β2である。前記「保持器傾斜角β2」は、保持器10Rの外径面の傾斜角度、または保持器10Rの内径面の傾斜角度であってもよい。
0021
各列のころ4,5は、図4に右列のころ5の表層部の断面を模式的に示すように、外周面に多層構造(3層以上)のDLC皮膜9を有している。内輪2および外輪3の各軌道面2a,2b,3aについても、ころ4,5と同様にDLC皮膜9を施してもよいが、ここではころ4,5のDLC皮膜9について説明する。このDLC皮膜9の膜厚は、2.0μm以上である。DLC皮膜9は、この実施形態では、ころ4,5の母材側から順に、下地層9a、混合層9b、および表面層9cの3層とされている。
前記ころ4,5の母材の外表面の面粗さは、算術粗さRa、および二乗平均平方根傾斜RΔqで、 Ra≦0.3、かつRΔq≦0.05
である。
前記多層構造のDLC皮膜9における各層9a,9b,9cの膜硬さは、段階的に外層側の層が高くなる。
0022
ころ4,5の外周面にDLC皮膜処理することで耐摩耗性が向上する。DLC皮膜9を施すと、耐摩耗性が向上する反面、耐剥離性を確保する必要がある。これを、次の構成とすることで改善している。DLC皮膜9は、母材との密着性に優れる多層構造を採用する。膜厚は2.0μm以上が望ましい。またDLC皮膜9を施す外周面の粗さの値を、算術平均粗Raで0.3Ra以下、二乗平均平方根傾斜RΔqで0.05以下とすることで、相手材(内輪2および外輪3の軌道面2a,2b,3a)への攻撃性が緩和できる。さらに、DLC皮膜9の膜硬さは、多層構造で段階的に硬度を高めることで、高い密着性を得ることができる。
0023
ころ4,5等の材質と、前記DLC皮膜9とにつき、具体的に説明する。ころ4,5、内輪2、および外輪3は、鉄系材料からなる。鉄系材料としては、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材などを使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。
これらの軸受部材において、DLC皮膜9が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、DLC皮膜9(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。
0024
ころ4,5のDLC皮膜9が形成される面において、皮膜膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、母材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、DLC皮膜9(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。
0025
ころ4,5のDLC皮膜9が形成される面、つまり下地層9aが成膜される面である母材表面は、算術平均粗さRaが0.1〜0.3μmであり、かつ、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下である。RΔqは、好ましくは0.03以下であり、より好ましくは0.02以下である。算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根傾斜RΔqは、JISB0601に準拠して算出される数値であり、接触式または非接触式の表面粗さ計などを用いて測定される。具体的な測定条件としては、測定長さ4mm、カットオフ0.8mmである。母材表面の二乗平均平方根傾斜RΔqを0.05以下とすることで、粗さ曲線におけるピークが緩やかになり、突起の曲率半径が大きくなり局所面圧が低減できる。また、成膜時においては粗さによるミクロなレベルの電界集中も抑制でき、局所的な膜厚および硬度の変化を防ぐことができ、ひいては硬質膜の耐剥離性を向上できる。
0026
母材表面の粗さ曲線から求められる最大山高さRpは0.4μm以下であることが好ましい。最大山高さRpは、JISB0601に準拠して算出される。粗さ曲線から求められる最大山高さRpと算術平均粗さRaの関係は、1≦Rp/Ra≦2となることが好ましく、1.2≦Rp/Ra≦2となることがより好ましい。
0027
また、母材表面の粗さ曲線から求められるスキューネスRskは負であることが好ましい。Rskは、歪み度の指標であり、−0.2以下であることがより好ましい。スキューネスRskは、平均線を中心にして振幅分布曲線の上下対称性を定量的に表したもの、つまり表面粗さの平均線に対する偏りを示す指標である。スキューネスRskは、JISB0601に準拠して算出される。スキューネスRskが負であることは、粗さ形状が下に凸(谷)ということを意味し、表面に平坦部が多くある状態となる。結果として凸部が少なく突起部による応力集中を起こしにくい表面であると言える。また粗さを軽減する手法にバレル研磨など研磨メディアとの衝突により表面突起を除去する方法があるが、加工条件によっては新たに突起を形成してしまいRskが正に転じる可能性があり注意が必要である。
0028
図4は、DLC皮膜9の構造を示す模式断面図である。同図に示すように、DLC皮膜9は、(1)ころ4,5の表面上に直接成膜されるCrとWCとを主体とする下地層9aと、(2)下地層9aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層9bと、(3)混合層9bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層9cとからなる3層構造を有する。ここで、混合層9bは、下地層9a側から表面層9c側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、かつ、該混合層中のDLCの含有率が高くなる層である。この実施形態では、DLC皮膜9の膜構造を上記のような3層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。
0029
下地層9aは、Crを含むので超硬合金材料や鉄系材料からなる母材との相性がよく、W、Ti、Si、Alなどを用いる場合と比較して母材との密着性に優れる。また、下地層9aに用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。また、下地層9aは、ころ表面側から混合層9b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成とすることが好ましい。これにより、ころ表面と混合層9bとの両面での密着性に優れる。
0030
混合層9bは、下地層と表面層との間に介在する中間層となる。混合層9bに用いるWCは、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。混合層9bが、下地層9a側から表面層9c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、下地層9aと表面層9cとの両面での密着性に優れる。また、該混合層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっており、該混合層内での破損などを防止できる。さらに、表面層9c側ではDLC含有率が高められているので、表面層9cと混合層9bとの密着性に優れる。混合層9bは、非粘着性の高いDLCをWCによって下地層9a側にアンカー効果で結合させる層である。
0031
表面層9cは、DLCを主体とする膜である。表面層9cにおいて、混合層9bとの隣接側に、混合層9b側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分9dを有することが好ましい。これは、混合層9bと表面層9cとでバイアス電圧が異なる場合、バイアス電圧の急激な変化を避けるためにバイアス電圧を連続的または段階的に変化させる(上げる)ことで得られる部分である。傾斜層部分9dは、このようにバイアス電圧を変化させることで、結果として上記のように硬度が傾斜する。硬度が連続的または段階的に上昇するのは、DLC構造におけるグラファイト構造(sp2)とダイヤモンド構造(sp3)との構成比率が、バイアス電圧の上昇により後者に偏っていくためである。これにより、混合層と表面層との急激な硬度差がなくなり、混合層9bと表面層9cとの密着性がさらに優れる。
0032
DLC皮膜9の膜厚(3層の合計)は2.0μm〜5.0μmとすることが好ましい。膜厚が2.0μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣る場合があり、5.0μmをこえると剥離し易くなる。さらに、該DLC皮膜9の膜厚に占める表面層9cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、混合層9bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化するおそれがある。
0033
DLC皮膜9を以上のような組成の下地層9a、混合層9b、表面層9cとの3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。
0034
図5〜図12は、前記リア側の保持器10Rの構成例を示す。フロント側の保持器10L(図1)は、これら図5〜図12と共に説明する事項については、リア側の保持器10Rと同様であり、説明を省略する。
0035
図5において、保持器10Rの柱部12は、長さ方向の各部が同一の基本断面形状(図14に想像線で示す形状)の棒状の部分から、円筒面状のポケット面12aが除去され、かつ先端にテーパー形状部13が設けられた形状とされている。前記基本断面形状は、それぞれ円筒面の一部を成す外周面12bおよび内周面12cと、半径方向に延びる両側の平面状の側面12dとでなる形状である。ポケット面12aを成す円筒面の直径は、ころ5の最大径よりも僅かに大きな径とされている。ポケット面12aは、前記中心線C2(図1、図3)を中心とする円筒面である。前記中心線C2は、図10に示すように、柱部12が延びる方向に対して、柱部先端側が内径側に近づくように傾斜している。
0036
図6に示す保持器10Rの外径Do、内径Di、柱部長さLは、次のように最適化されている。
保持器10Rの環状部11の外径Doは、ころ5の配列のピッチ円直径PCDよりも大きく、環状部11の内径Diはピッチ円直径PCD(図3)よりも小さい。
環状部11の外径Doは、例えば、PCD×102〜105%、である。
環状部11の内径Diは、例えば、PCD×95〜98%、である。
柱部12の長さL、詳しくは柱部12のポケット7を構成する部分の長さLは、ころ長さL2(図2、図3)の65%以下とされている。
0037
前記テーパー形状部13(図5〜図6、図8〜図10) は、柱部12の先端の外径面に、最先端に至るに従って保持器内径側に下がるように形成されている。テーパー形状部13は、ころ5の最大径角を成す直線a(図8に破線で示す)上であるか、この直線aよりも柱部先端側から始まる。換言すると、テーパー形状部13は、ころ5の中心線C2上の最大径となる位置M (図3) 上、またはこの位置Mよりも柱部先端側から始まる。
0038
柱部12に前記テーパー形状部13が形成され、かつ円筒面状のポケット面12aが柱部12が延びる軸方向に対して傾斜していることで、図9に示すように、柱部12を保持器半径方向の外方から保持器中心側に見た柱部幅は、柱部12の最先端で最も狭くW1となっており、テーパー形状部13が始まる手前の幅W2に対して狭くなっている。また、柱部12の先端面12eの径方向厚さd(図10) が小さくなっている。
0040
この構成の保持器保持器10Rによると、柱部12のポケット面12aが円筒面であるため、ころ5の確実な保持が行える。また、テーパー形状部13を形成したため、ころ5の組み込み性が向上する。
0041
テーパー形状部13ところ5の組み込み性の関係について説明する。柱部12のポケット面12aとなる円筒面の中心線C2は、柱部12が延びる方向に対して先端側が内径側へ傾斜している。そのため、図12の例のように、前記テーパー形状部13(図11参照)がなければ、柱部12を保持器半径方向の外方から保持器中心側に見た柱部幅が、前記柱部の最先端で最も広くなる。そのため、この広くなった柱部12の先端の外径部で阻害されてポケット15内へのころ5の組み込みが行い難く、またその広い柱部12の先端の外径部が、強度や機能的に良い影響を持たない無駄部分となる。
0042
この実施形態では、前記テーパー形状部13を形成したため、柱部先端の周方向幅W1(図9)および径方向厚さd(図10) が共に小さくなっている。そのため、ころ5の組み込み性が向上し、かつ保持器10Rの軽量化が得られる。ころ5の組み込み性が向上するため、組み込み時に保持器10Rを大きく変形させる必要がなく、保持器10Rの変形による形状の崩れが防止される。
0043
テーパー形状部13は、無駄部分を省くように形成するため、ころ5の保持性に影響せず、また軽量化の面からも、テーパー形状部13を形成することが好ましい。
ただし、テーパー形状部13は、長く形成し過ぎると、ころ5の保持性が低下するため、ころ5の最大径となる位置M(図9)上またはこの位置Mよりも柱部先端側から始まるようにしており、そのため、ころ5の保持性が確保される。
また、ころ5の組み込み性からは、テーパー形状部13の先端の径方向厚さd(図10)が薄いほど好ましいが、円筒面からなるポケット面12aは柱部12の先端側からドリル加工で形成するため、先端に平面を残す必要があり、加工に支障のない範囲で薄くすることが好ましい。
0044
なお、上記実施形態は左右対称の自動調心ころ軸受1に適用した例であるが、左右非対称の自動調心ころ軸受、例えば図13に示す実施形態のように、左右列の接触角θ1、θ2が互いに異なる自動調心ころ軸受1に適用してもよい。
0045
図14、図15は、風力発電装置の主軸支持装置の一例を示す。支持台21上に旋回座軸受22(図15)を介してナセル23のケーシング23aが水平旋回自在に設置されている。ナセル23のケーシング23a内には、軸受ハウジング24に設置された主軸支持軸受25を介して主軸26が回転自在に設置され、主軸26のケーシング23a外に突出した部分に、旋回翼となるブレード27が取り付けられている。主軸26の他端は、増速機28に接続され、増速機28の出力軸が発電機29のロータ軸に結合されている。ナセル23は、旋回用モータ30により、減速機31を介して任意の角度に旋回させられる。主軸支持軸受25は、図示の例では2個並べて設置してあるが、1個であってもよい。
0046
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
0047
1…複列自動調心ころ軸受
2…内輪
3…外輪
3a…軌道面
4,5…ころ
6,7…小つば
8…中つば
9…DLC皮膜
9a…下地層
9b…混合層
9c…表面層
10L,10R…柱部
11…環状部
12…柱部
13…テーパー形状部
15…ポケット
26…主軸
A1,A2…ころ長さの中央
D1max,D2max…最大径
L1,L2…ころの長さ
M1,M2…ころの最大径の位置
θ1,θ2…接触角
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