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課題
解決手段
概要
背景
建産機や自動車などに使用される機械構造部品は、鍛造や切削にて部品形状を付与した後、疲労強度を向上させる目的で浸炭焼入れ焼戻し処理(以下、単に浸炭処理ともいう)が施される。特に、建機用歯車に代表される大型部品においては、数mm程度の浸炭硬化深さが要求される。
上記のような深い硬化深さを得るために、従来は900〜950℃の温度で数十時間の浸炭処理を実施する必要があった。しかしながら、このような長時間処理は製品の生産性を著しく悪化させる点が課題であった。
浸炭処理時間の短縮を図る手法として、浸炭処理を1000℃以上の高温で行う、いわゆる高温浸炭が適用されるケースが増加している。一方、浸炭温度を高温化することでオーステナイト結晶粒の粗大化が生じやすくなる点が課題である。オーステナイト結晶粒が粗大化した鋼材では、粗大化が生じていない鋼材と比較して疲労強度が低下したり、浸炭時の焼入れによって生じる熱歪みが大きくなったりする。
このような背景から、高温浸炭を行っても結晶粒粗大化を防止可能な鋼の提供が要求されている。浸炭時の結晶粒粗大化を防止する手法として、Al、Nb、Tiといった炭化物または窒化物形成元素を添加することでAlN、NbCやTiCといった析出物を鋼中に微細分散させる技術が一般的に用いられている。
例えば、特許文献1ではAlNを活用した鋼において、熱間圧延前にソーキング処理を行うことで熱間加工後のAlN析出量を0.004%以下に抑制するとともに、熱間圧延方向に平行な断面組織のフェライトバンドの発生を抑制し、粗大粒の発生抑制を図った肌焼鋼が開示されている。
また、特許文献2では、Nbを0.01〜0.05%添加した鋼材を分塊圧延する際の加熱温度および加熱時間を規定して粗大なNb析出物の生成を低減することで、結晶粒の粗大化を防止可能な肌焼鋼について開示されている。
さらに、特許文献3では、Tiを0.1〜0.3%添加して鋼中にTi炭化物を微細分散させることで、浸炭中の結晶粒粗大化を抑制可能であり、かつ疲労強度に優れた鋼材が開示されている。
概要
浸炭時の結晶粒の粗大化を確実に抑制可能とする浸炭用鋼を提供する質量%で、C:0.10%以上0.30%以下、Si:0.05%以上0.30%以下、Mn:0.2%以上2.0%以下、P:0.030%以下、S:0.050%以下、Al:0.005%以上0.050%以下、Ti:0.005%以上0.100%以下、O:0.0030%以下およびN:0.0060%以上0.0250%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成と、円相当半径が20nm以下のTi系窒化物を20個/μm2以上含有する組織と、を有する。なし
目的
一方、浸炭温度を高温化することでオーステナイト結晶粒の粗大化が生じやすくなる点が課題である
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 0件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
請求項1
質量%で、C:0.10%以上0.30%以下、Si:0.05%以上0.30%以下、Mn:0.2%以上2.0%以下、P:0.030%以下、S:0.050%以下、Al:0.005%以上0.050%以下、Ti:0.005%以上0.100%以下、O:0.0030%以下およびN:0.0060%以上0.0250%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成と、円相当半径が20nm以下のTi系窒化物を20個/μm2以上含有する組織と、を有する浸炭用鋼。
請求項2
請求項3
前記成分組成は、さらに、質量%で、Sb:0.0010%以上0.0300%以下を含む請求項1または2に記載の浸炭用鋼。
請求項4
前記成分組成は、さらに、質量%で、Cr:1.5%以下、Mo:0.50%以下Ni:2.0%以下、Cu:2.0%以下およびB:0.0050%以下のうちから選ばれる1種以上を含む請求項1から3のいずれかに記載の浸炭用鋼。
請求項5
前記成分組成は、さらに、質量%で、V:0.10%以下およびNb:0.10%以下のうちから選ばれる1種以上を含む請求項1から4のいずれかに記載の浸炭用鋼。
請求項6
前記成分組成は、さらに、質量%で、Ca:0.0050%以下、Zr:0.0050%以下、Pb:0.0050%以下およびBi:0.0050%以下のうちから選ばれる1種以上を含む請求項1から5のいずれかに記載の浸炭用鋼。
請求項7
技術分野
0001
本発明は、建産機や自動車分野で用いられる機械構造用部品に供する、特に高温浸炭時の結晶粒粗大化抑制能に優れた浸炭用鋼およびその製造方法に関する。本発明の浸炭用鋼が用いられる部品として、建産機分野では、例えば、走行減速機のギア(プラネタリーギアおよびサンギア等の歯車)、大型減速機のギア、油圧ポンプのバルブプレート、ボールねじのナット、サイクロン減速機の曲線板およびピン、並びに、直動軸受けのブロック等が挙げられ、同様に、自動車分野では、各種軸受、エンジンのピストンピン、カムシャフトおよびタイミングギア、変速機の歯車類(ミッシングギア、リングギア、サンギアおよびプラネリタギア等)、並びに、駆動系のデフベベルギア、トリポート、インナおよびボール等が挙げられる。また、建産機や自動車分野以外では、電気機器分野の風力発電機用の軸受や減速ギア等である。
背景技術
0002
建産機や自動車などに使用される機械構造部品は、鍛造や切削にて部品形状を付与した後、疲労強度を向上させる目的で浸炭焼入れ焼戻し処理(以下、単に浸炭処理ともいう)が施される。特に、建機用歯車に代表される大型部品においては、数mm程度の浸炭硬化深さが要求される。
0003
上記のような深い硬化深さを得るために、従来は900〜950℃の温度で数十時間の浸炭処理を実施する必要があった。しかしながら、このような長時間処理は製品の生産性を著しく悪化させる点が課題であった。
0004
浸炭処理時間の短縮を図る手法として、浸炭処理を1000℃以上の高温で行う、いわゆる高温浸炭が適用されるケースが増加している。一方、浸炭温度を高温化することでオーステナイト結晶粒の粗大化が生じやすくなる点が課題である。オーステナイト結晶粒が粗大化した鋼材では、粗大化が生じていない鋼材と比較して疲労強度が低下したり、浸炭時の焼入れによって生じる熱歪みが大きくなったりする。
0005
このような背景から、高温浸炭を行っても結晶粒粗大化を防止可能な鋼の提供が要求されている。浸炭時の結晶粒粗大化を防止する手法として、Al、Nb、Tiといった炭化物または窒化物形成元素を添加することでAlN、NbCやTiCといった析出物を鋼中に微細分散させる技術が一般的に用いられている。
0006
例えば、特許文献1ではAlNを活用した鋼において、熱間圧延前にソーキング処理を行うことで熱間加工後のAlN析出量を0.004%以下に抑制するとともに、熱間圧延方向に平行な断面組織のフェライトバンドの発生を抑制し、粗大粒の発生抑制を図った肌焼鋼が開示されている。
0007
また、特許文献2では、Nbを0.01〜0.05%添加した鋼材を分塊圧延する際の加熱温度および加熱時間を規定して粗大なNb析出物の生成を低減することで、結晶粒の粗大化を防止可能な肌焼鋼について開示されている。
0008
さらに、特許文献3では、Tiを0.1〜0.3%添加して鋼中にTi炭化物を微細分散させることで、浸炭中の結晶粒粗大化を抑制可能であり、かつ疲労強度に優れた鋼材が開示されている。
先行技術
0009
特開2001-234284号公報
特開2010-222634号公報
特許第3469443号公報
発明が解決しようとする課題
0010
しかしながら、特許文献1や2に記載のように、AlNやNbC析出物を使用する場合、これらの析出物は高温浸炭温度で凝集・粗大化が顕著となることから、結晶粒粗大化を抑制することが不可能である。また、特許文献3に記載のようにTiC析出物を使用する場合は、TiC析出物が高温浸炭温度でも安定に存在可能であるため結晶粒粗大化を抑制可能である。一方、0.1%以上という多量のTiを添加する必要があるため、材料コストの上昇を招くばかりでなく、硬質のTiC析出物が多量に存在することで鋼材の被削性が悪化するという課題もあった。
0011
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたものであり、浸炭時の結晶粒の粗大化を確実に抑制可能とする浸炭用鋼およびその製造方法について提案することを目的とする。
課題を解決するための手段
0012
本発明は、上記の課題を解決するため、TiCより更に高温まで安定に存在するTi系窒化物の利用に着目した。すなわち、TiおよびN添加量を調整することにより、Ti系窒化物を鋼中に微細かつ多量に分散させ、高温浸炭時の結晶粒粗大化抑制能を付与したものである。
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
0013
1.質量%で、
C:0.10%以上0.30%以下、
Si:0.05%以上0.30%以下、
Mn:0.2%以上2.0%以下、
P:0.030%以下、
S:0.050%以下、
Al:0.005%以上0.050%以下、
Ti:0.005%以上0.100%以下、
O:0.0030%以下および
N:0.0060%以上0.0250%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成と、円相当半径が20nm以下のTi系窒化物を20個/μm2以上含有する組織と、を有する浸炭用鋼。
0014
2.前記成分組成は、鋼中のTi含有量(質量%)およびN含有量(質量%)をそれぞれ[Ti]および[N]で表すとき、[Ti]および[N]の比[Ti]/[N]が3.4以下である前記1に記載の浸炭用鋼。
0015
3.前記成分組成は、さらに、質量%で、
Sb:0.0010%以上0.0300%以下
を含む前記1または2に記載の浸炭用鋼。
0016
4.前記成分組成は、さらに、質量%で、
Cr:1.5%以下、
Mo:0.50%以下
Ni:2.0%以下
Cu:2.0%以下
B:0.0050%以下
のうちから選ばれる1種以上を含む前記1から3のいずれかに記載の浸炭用鋼。
0017
5.前記成分組成は、さらに、質量%で、
V:0.10%以下および
Nb:0.10%以下
のうちから選ばれる1種以上を含む前記1から4のいずれかに記載の浸炭用鋼。
0018
6.前記成分組成は、さらに、質量%で、
Ca:0.0050%以下、
Zr:0.0050%以下、
Pb:0.0050%以下および
Bi:0.0050%以下
のうちから選ばれる1種以上を含む前記1から5のいずれかに記載の浸炭用鋼。
発明の効果
0020
本発明では、微細なTi系窒化物を利用することにより、特に高温の浸炭処理を施した際の結晶粒粗大化を抑制することができる。また、Ti系窒化物はTi炭化物より高温まで安定に存在し、析出物の凝集・粗大化を生じにくいため、Ti炭化物を利用する場合と比較してTiの添加量は少なくて済む。したがって、従来Ti炭化物を利用する場合に課題であった、材料コストや鋼材の製造性を改善することが可能になる。
図面の簡単な説明
0021
浸炭処理の条件を示す図である。
回転曲げ疲労試験片を示す図である。
0022
以下、本発明の浸炭用鋼を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について、成分毎に順に説明する。なお、以下に示す%表示は、特に断らない限り質量%を意味する。
C:0.10%以上0.30%以下
Cは、鋼材の強度を確保するために必要な元素であり、0.10%未満の添加では強度が不足する。一方、過剰な添加は鋼材の硬度を上昇させて被削性を悪化させるとともに、浸炭処理後の部品の芯部の靭性を低下させることから、C量は0.30%以下にする必要がある。以上の理由から、C量の下限は0.10%および上限は0.30%とする。好ましくは0.15%以上0.25%以下、さらに好ましくは0.17%以上0.23%以下である。
0023
Si:0.05%以上0.30%以下
Siは、鋼の精錬時に脱酸剤として用いられる元素であり、そのためには0.05%以上の添加が必要である。一方、過剰な添加は固溶強化によってフェライト相の硬度を上昇させ、鋼材の加工性や被削性を悪化させるため、Si量は0.30%以下とする必要がある。以上より、Si量の下限は0.05%、上限は0.30%とする。好ましくは0.10%以上0.28%以下の範囲である。
0024
Mn:0.2%以上2.0%以下
Mnは、鋼材の焼入性および強度を向上させる元素である。さらに、Sと結合してMnSを形成することにより、鋼材の被削性を向上させるとともに、Ti硫化物の生成を抑制する効果を通して微細なTi系窒化物の数密度を増加させる作用も有する。Mnの添加量が0.2%未満では、鋼材の焼入れ性が不足するとともに、Mnに対して過剰となったSがTiと結合してTi硫化物となり、浸炭処理を施した際の結晶粒粗大化抑制に有効なTi系窒化物を形成するための、Ti量が減少して浸炭処理時の粗粒化を防止できない。また、添加量が2.0%を超えると、鋼材の硬度が高くなりすぎるため、かえって鋼材の被削性に悪影響を及ぼすことになる。以上の理由から、Mn量の下限は0.2%および上限は2.0%とする。好ましくは0.60%以上0.90%以下の範囲である。
0025
P:0.030%以下
Pは、結晶粒界に偏析し易く、鋼材の靱性を低下させる元素である。したがって、P量は0.030%以下に抑制する。好ましくは、0.015%以下とする。なお、下限については特に限定せずとも問題はないが、無駄な低P化は精錬時間の増長や精錬コストを上昇させてしまうため、コストの観点からは0.003%以上とするとよい。
0026
S:0.050%以下
Sは、鋼中のMnと硫化物を形成し、鋼材の被削性を向上させる元素であり、そのためには0.010%以上の添加が好ましい。しかしながら、過剰な添加はTi硫化物の生成を促進させ、結晶粒粗大化抑制に有効なTi系窒化物量が低下する。したがって、S量は0.050%以下、より好ましくは0.030%以下とする。
0027
Al:0.005%以上0.050%以下
Alは、鋼の脱酸剤として用いられる元素であり、そのためには0.005%以上の添加が必要である。一方、0.050%を超えて添加すると、Al酸化物量が増加して鋼材の疲労強度を低下させる場合がある。従って、Al量は0.005%以上0.050%以下、好ましくは0.010%以上0.035%以下とする。
0028
Ti:0.005%以上0.100%以下
Tiは、Nと結合して微細なTi系窒化物を形成する元素であり、高温浸炭時の結晶粒粗大化を防止する上で重要な元素である。Ti量が0.005%未満では、生成するTi系窒化物量が不足して結晶粒粗大化を抑制できない。一方、0.100%超のTiを添加すると、粗大なTi系介在物が生成して鋼材の疲労強度を低下させるとともに、結晶粒粗大化抑制に有効な微細Ti系窒化物の数密度も減少する。このことから、Ti量の範囲は0.005%以上0.100%以下とする。好ましくは、0.02%以上0.05%以下の範囲である。
0029
O:0.0030%以下
Oは、鋼中に不可避的に混入する元素である。O量が多い場合には、粗大な酸化物系介在物が多量に生成し疲労強度や靱性の低下を招くことから、極力低減することが望ましい。したがって、O量は0.0030%以下とした。好ましくは0.0020%以下、さらに好ましくは0.0015%以下とする。なお、下限については特に限定せずとも問題はないが、無駄な低O化は精錬時間の増長や精錬コストを上昇させてしまうため、コストの観点からは0.0005%以上とするとよい。
0030
N:0.0060%以上0.0250%以下
Nは、Tiと結合してTi系窒化物を形成する元素である。N量が0.0060%未満ではTi系窒化物量が不足するため、特に高温の浸炭処理を施した際の結晶粒粗大化を抑制できなくなる。一方、N量が0.0250%より過剰な場合はブローホールを形成し、鋼材の特性が劣化する。したがって、N量は0.0060%以上0.0250%以下の範囲とする。好ましくは0.0060%以上0.0160%以下の範囲である。
以上の基本成分の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
0031
ここで、以上の基本成分において、鋼中のTi含有量およびN含有量の関係を、鋼中のTi含有量(質量%)およびN含有量(質量%)をそれぞれ[Ti]および[N]で表すとき、[Ti]および[N]の比[Ti]/[N]が3.4以下を満足することが好ましい。
すなわち、TiとNが原子比1:1で結合した際の質量比[Ti]/[N]は3.4である。この質量比3.4を上回るTi量およびN量の関係では、N量に対してTi量が不足するために、析出するTi系窒化物の量が少なくなる上、Ti系窒化物の成長が早まるため、浸炭時の結晶粒粗大化が生じやすくなる。従って、後述する円相当半径が20nm以下のTi系窒化物を20個/μm2以上含有する組織に制御するに当たり、[Ti]/[N]を3.4以下とすることが有利である。
0032
また、以上の基本成分に加えて、必要に応じて、Sbを0.0010%以上0.0300%以下の範囲で添加することができる。すなわち、Sbは、粒界への偏析傾向が強く、浸炭処理浸炭処理を施した際に焼入れ性の向上に寄与する、Si、MnおよびCr等の粒界酸化を抑制し、鋼表層における浸炭異常層の発生を低減する効果を通じて鋼材の疲労強度を向上させる元素である。この粒界酸化を抑制する効果を得るには、0.0010%以上の添加が必要である。一方、Sbを過剰に添加してもその効果は飽和する。したがって、Sb量の上限は0.0300%とした。好ましくは、0.0030%〜0.0100%の範囲である。
0033
同様に、必要に応じて、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Cr:1.5%以下、
Mo:0.50%以下
Ni:2.0%以下、
Cu:2.0%以下および
B:0.0050%以下
のうちから選ばれる1種以上
Cr:1.5%以下
Crは、鋼材の焼入れ性を向上させる元素であり、添加することができる。一方で、1.5%を超える過剰な添加は鋼材硬度を上昇させ、鋼材の加工性や被削性が低下する。したがって、Cr量は1.5%以下とすることが望ましい。より好ましくは、0.9%以上1.3%以下の範囲である。
0034
Mo:0.50%以下
Moは、少量の添加で鋼材の焼入れ性を大きく向上させる元素であり、添加することができる。一方で、Moは高価な元素であり、過剰な添加は合金コストの上昇を招く。したがって、Mo量は0.50%以下とするのが望ましい。より好ましくは0.05%以上0.40%以下、さらに好ましくは0.10%以上0.30%以下の範囲である。
0035
Ni:2.0%以下
Niは、鋼材の焼入性および靱性を向上させる有用元素であり、添加することができる。しかしながら、Niは高価な元素であり、過剰な添加は合金コストの上昇を招く。したがって、Niは2.0%以下の添加とする。より好ましくは、0.05%以上1.0%以下とする。
0036
Cu:2.0%以下
Cuは、鋼材の焼入性を向上させる有用元素であり、添加することができる。添加量が2.0%を超えると熱間加工時に割れが発生し易くなり、鋼材の製造性を低下させるため、添加量は2.0%以下とするのが望ましい。より好ましくは、0.05%以上1.0%以下とする。
0037
B:0.0050%以下
Bは、結晶粒界を強化するとともに、少量の添加でも鋼材の焼入れ性を向上させる元素であり、添加することができる。しかしながら、過剰に添加しても焼入れ性の向上効果は飽和するうえ、Nと結合してBNを形成することで浸炭処理時の結晶粒粗大化防止に有効なTi系窒化物量を低下させる。このことから、添加量は0.0050%以下とするのが望ましい。より好ましくは、0.0005%以上0.0030%以下とする。
0038
同様に、必要に応じて、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
V:0.10%以下および
Nb:0.10%以下
のうちから選ばれる1種以上
V:0.10%以下
Vは、鋼中のCやNと結びついて微細な炭窒化物を形成することにより、鋼の強度向上および浸炭処理時の結晶粒粗大化抑制に効果のある元素である。一方、過剰に添加した場合は鋼材の硬度が高くなりすぎて被削性が低下するため、添加量は0.10%以下とするのが望ましい。好ましくは、0.02%以上0.07%以下とする。
0039
Nb:0.10%以下
Nbは、鋼中のCと結びついてNbCを形成し、浸炭処理時の結晶粒粗大化の抑制に寄与する元素である。一方、0.10%を超えて添加しても結晶粒粗大化抑制の効果が飽和するため、Nb添加量は0.10%以下とするのが望ましい。好ましくは、0.02%以上0.05%以下とする。
0040
Ca:0.0050%以下
Caは、介在物を球状化して鋼材の疲労特性を向上させる元素であり、添加することができる。一方、添加量が0.0050%を超えると、介在物が粗大化し、かえって疲労特性が低下するため、Ca添加量は0.0050%以下とするのが望ましい。好ましくは、0.0010%以上0.0030%の範囲とする。
0041
Zr:0.0050%以下
Zrは、CやNとの親和力が強い元素であり、微細な炭化物や窒化物を形成して浸炭処理時の結晶粒粗大化抑制に寄与する元素である。しかしながら、Zrは高価な元素であり、過剰な添加は合金コストの上昇を招くため、0.0050%以下の添加が望ましい。好ましくは、 0.0010%以上0.0030%以下とする。
0042
Pb:0.0050%以下
Pbは、鋼材の被削性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。しかしながら、過剰な添加は鋼材の強度を低下させるため、0.0050%以下の添加とすることが望ましい。好ましくは、0.0010%以上0.0030%以下とする。
0043
Bi:0.0050%以下
BiはPb同様、鋼材の被削性を向上させる元素である。しかしながら、過剰な添加は鋼材の強度を低下させるため、0.0050%以下の添加とすることが望ましい。好ましくは、0.0010%以上0.0030%以下とする。
0045
さらに、本発明の浸炭用鋼では、組織におけるTi系窒化物のサイズおよび数密度を規定することが肝要である。
円相当半径が20nm以下のTi系窒化物を20個/μm2以上含有する組織
さて、析出物の体積分率が一定、すなわち析出物形成元素の添加量が一定の条件下では、浸炭用鋼における析出物が微細であるほど、浸炭用鋼を浸炭処理した際の結晶粒の粗大化を抑制する効果が高い。さらに、高温の浸炭処理における温度保持中には、析出物の凝集並びに粗大化が生じ、それに応じて結晶粒の粗大化抑制効果が低下していく。そこで、浸炭処理前の浸炭用鋼の段階にて析出物を微細かつ多量に分散させておくことによって、浸炭処理後においても微細な析出物を残存させる必要がある。
0046
ここで、本発明では、浸炭用鋼に1050℃で20hの条件にて浸炭焼入れ焼戻し処理(浸炭処理)を施した後の、鋼材表面から30μm深さ位置までの領域における旧オーステナイト粒度番号が6番以上であることを、鋼材が優れた浸炭粗粒化抑制能を有することの指標とした。次いで、この指標を満足するための条件を究明したところ、浸炭用鋼の段階にて円相当半径が20nm以下のTi系窒化物を20個/μm2以上含有していれば、高温の浸炭処理を経ても旧オーステナイト粒度番号が6番以上となり、上記した指標を満足できることを見出した。
0047
また、浸炭用鋼において上記したTi系窒化物の粒径分布を得るためには、上記した成分組成の規定に加えて、浸炭用鋼の製造工程における加熱温度が重要であり、以下に述べる条件とする必要がある。
すなわち、鋼塊およびブルーム等の鋼素材を、棒鋼または線材に熱間加工する工程における、最高加熱温度を1150℃以下とする。すなわち、浸炭時の結晶粒粗大化抑制に有効な微細Ti窒化物は、鋼素材を鋳造時の凝固中に析出し、その後の工程、すなわち鋼素材を鋼片に圧延する工程および鋼片を棒鋼や線材へ圧延する工程における、加熱処理によって成長する。上述のとおり、Ti系窒化物が微細であるほど浸炭時の結晶粒粗大化抑制効果が高いことから、前述した熱間加工前の再加熱温度を極力低下させ、該加熱中の析出物成長を可能な限り抑制することが、前記結晶粒粗大化抑制に有効である。したがって、本発明では、鋼塊またはブルームの鋼素材を、棒鋼または線材に熱間加工する工程における最高加熱温度を1150℃以下と規定する。好ましくは、最高加熱温度を1100℃以下とすることが望ましい。
0048
なお、加熱時間は特に限定する必要はないが、Ti系窒化物の成長を抑制する観点および、経済性の観点からは、3時間以下とすることが好ましい。
0050
以下、実施例に従って、本発明の構成および作用効果をより具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
0052
得られた棒鋼の芯部の硬度をビッカース硬さ試験機にて測定した。また、棒鋼の表面から直径の1/4の深さ位置より、疲労特性調査に用いる回転曲げ疲労試験片、および析出物観察・結晶粒度測定に使用する試験片をそれぞれ採取し、後述する高温浸炭処理に供した。
0053
すなわち、棒鋼より採取した各種試験片を真空浸炭炉に入れ、温度1050℃にて均熱・浸炭期並びに拡散期の合計が20hの真空浸炭処理を行った。その後、850℃まで30分で冷却し、850℃で30分の温度保持を行ってから70℃の油中に試験片を入れて急冷し、続けて150℃で2hの焼戻し処理を行った。以上の浸炭処理の条件を図1に示す。
0054
高温浸炭処理を施した鋼材の結晶粒度判定は、JIS G 0552に規定された方法に準じて実施し、結晶粒度番号を算出した。
0055
Ti系窒化物の大きさと数密度については、以下のように測定した。棒鋼およびそれを前記条件の高温浸炭処理した後の試験片の各々から抽出レプリカ試料を採取し、透過型電子顕微鏡法(TEM)にて倍率20万倍、30視野を観察した。観察された析出物の組成を、TEM付属のエネルギー分散型X線分光装置(TEM-EDX)にて確認し、TiおよびNが検出された析出物をTi系窒化物と判定して、それらの円相当半径を画像解析により算出した。棒鋼および高温浸炭処理後のサンプルについて、円相当半径20nm以下のTi系窒化物の個数を計数し、観察総面積で除することでTi系窒化物の数密度を算出した。
0056
浸炭処理後の鋼材の疲労特性調査は、小野式回転曲げ疲労試験機を用いて実施した。棒鋼表面から直径の1/4の深さ位置より、図2に示す形状の回転曲げ疲労試験片を採取した後、前述の高温浸炭処理を施して回転曲げ疲労試験に供した。107回を疲労限度として疲労強度を調査した。ここで、400MPa以上の疲労強度を示した鋼を耐疲労性に優れるとした。
0057
0058
0060
本発明に従うNo.17から35の鋼では、棒鋼および浸炭処理後の鋼材の両方に微細なTi系窒化物が高い数密度で存在したことから、浸炭処理後のオーステナイト粒度番号が6番以上の細粒となり、それによって高い疲労強度が得られた。
0061
特に、No.30〜No.35の鋼では、Ti/Nが3.4以下となっていたため、棒鋼中に含まれる微細Ti系窒化物の数密度が高くなっており、浸炭処理後のオーステナイト粒度番号が7番以上の細粒が得られたことから、優れた疲労強度が得られた。
0062
比較鋼であるNo.1およびNo.2の鋼は、Tiを含有していない鋼であり、微細なTi系析出物が存在しないため高温浸炭処理時の結晶粒粗大化を防止できず、結果として疲労強度が低下した。
0063
No.3の鋼は、C量が発明範囲と比較して低く、浸炭処理後の芯部強度が不足したために浸炭処理後の鋼材の疲労強度が低い値となった。No.4鋼は、C量が発明範囲を超えており、棒鋼の硬度が230HV以上となった。
0064
No.5の鋼は、Si量が発明範囲と比較して低く、溶製時の脱酸不足で酸化物系介在物が多く残存したため、浸炭処理後の鋼材の疲労強度が低い値となった。No.6の鋼は、Si量が発明範囲を超えており、棒鋼の硬度が230HV以上となった。
0065
No.7の鋼は、Mn量が発明範囲と比較して低く、Mnに対して過剰に存在するSがTiと結合してTi硫化物となったために、Ti系窒化物の数密度が減少し、浸炭後の結晶粒粗大化、浸炭処理後の鋼材の疲労強度低下を招いた。No.8の鋼は、Mn量が発明範囲を超えており、棒鋼の硬度が230HV以上となった。
0066
No.9の鋼は、S量が発明範囲の上限を超えており、No.7の鋼と同様にTi硫化物が生成してTi系窒化物の数密度が減少し、浸炭後の結晶粒粗大化、浸炭処理後の鋼材の疲労強度低下を招いた。
0067
No.10の鋼は、Al量が発明範囲と比較して低い鋼、No.11の鋼はAl量が発明範囲を超えている鋼である。Al量が少ない場合には脱酸不足で酸化物系介在物が多く残存し、浸炭処理後の鋼材の疲労強度が低い値となった。一方でAl量が過剰な場合には、Al系酸化物量が増加して疲労破壊の起点として作用したため、浸炭処理後の鋼材の疲労強度が低い値となった。
0068
No.12の鋼は、Ti量が発明範囲を超えており、破壊の起点となる粗大なTi系介在物が生成する点、微細なTi系窒化物の数密度が減少して浸炭時に結晶粒が粗大化した点の両方が作用して疲労強度が低下した。
0070
No.14の鋼は、N量が発明範囲を下回っており、微細なTi系窒化物の数密度が低いために浸炭時の結晶粒粗大化を防止できず、疲労強度が低い値となった。
実施例
0071
No.15およびNo.16の鋼は、化学組成は発明範囲内であるが、棒鋼鍛造時の再加熱温度が発明範囲の上限を超えているためにTi系窒化物が凝集・粗大化し、微細なTi系窒化物の数密度が低い。このため、浸炭時に結晶粒粗大化が生じ、浸炭処理後の鋼材の疲労強度も低い値であった。
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