図面 (/)
課題
解決手段
C:0.030質量%以下、Si:1.0質量%以下、Mn:0.1〜0.5質量%、Ni:0.7質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.010質量%以下、Cr:17.5〜25.0質量%、Mo:0.3〜2.5質量%、Cu:0.5質量%以下、N:0.030質量%以下、Al:0.15質量%以下、TiおよびNbの少なくとも1種を合計で8(C質量%+N質量%)以上0.7質量%以下で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼を素地とし、素地の上に不働態皮膜が形成された表面を有し、不働態皮膜組成がCr質量%/(Fe質量%+Cr質量%+Mn質量%+Si質量%):0.40〜0.70を満たし表面粗さがRa:0.3〜2.0μmかつRz:2.0〜10.0μmを満たす。
概要
背景
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は数ある燃料電池の中で最も発電効率が高く、簡易的な改質を行うことで幅広いガスを燃料として用いる事が出来ることから、家庭用燃料電池として広く用いられており、今後は業務用などへの用途拡大が期待される。
SOFCは作動温度が約700℃以上であり、発電を行うホットモジュールユニットの内部は最も高温になるため、ホットモジュールを構成する金属材料は高い耐酸化性および高温強度が必要とされる。また、SOFCのセルを構成するセラミックと熱膨張差が大きい場合、加熱冷却時の熱応力によるセラミックの破壊を招くため、熱膨張係数の大きなオーステナイト系ステンレス鋼はホットモジュールを構成する金属材料には使用できないため、高耐熱フェライト系ステンレス鋼が広く用いられる。
しかし、ステンレス鋼は表面に形成するCr酸化物がバリアとして母材と酸素の反応を遮断するため高い耐酸化性を有するが、600℃以上の高温環境においてCr酸化物は一定の蒸気圧を有して蒸発を生じる。SOFCでは、蒸発したCrは発電を担うセルスタック空気極において還元され蓄積し、発電効率の低下を招くため、Cr酸化物が表面に形成されるステンレス鋼をそのままホットモジュール内部の部品に適用することは望ましくない。
特許文献1〜5には、高温の酸化雰囲気下で使用することのできるフェライト系ステンレス鋼が提案されている。特許文献1に記載のフェライト系ステンレス鋼は、素材にAlを添加することで、高温環境で素材表面にAl酸化物を形成し、耐酸化性およびCr蒸発抑制を両立した高耐熱フェライト系ステンレス鋼である。
概要
高温環境における良好なコーティング密着性および母材の耐酸化性に優れた低コストのフェライト系ステンレス鋼を提供する。C:0.030質量%以下、Si:1.0質量%以下、Mn:0.1〜0.5質量%、Ni:0.7質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.010質量%以下、Cr:17.5〜25.0質量%、Mo:0.3〜2.5質量%、Cu:0.5質量%以下、N:0.030質量%以下、Al:0.15質量%以下、TiおよびNbの少なくとも1種を合計で8(C質量%+N質量%)以上0.7質量%以下で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼を素地とし、素地の上に不働態皮膜が形成された表面を有し、不働態皮膜組成がCr質量%/(Fe質量%+Cr質量%+Mn質量%+Si質量%):0.40〜0.70を満たし表面粗さがRa:0.3〜2.0μmかつRz:2.0〜10.0μmを満たす。なし
目的
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、比較的に低コストで製造できる高温集電部材用等の材料として、高温環境における良好なコーティング密着性および母材の耐酸化性に優れたコーティング下地としてのフェライト系ステンレス鋼およびコーティングを施した高温環境で用いられる集電部材を提供する
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 0件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
請求項1
C:0.030質量%以下、Si:1.0質量%以下、Mn:0.1〜0.5質量%、Ni:0.7質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.010質量%以下、Cr:17.5〜25.0質量%、Mo:0.3〜2.5質量%、Cu:0.5質量%以下、N:0.030質量%以下、Al:0.15質量%以下、TiおよびNbの少なくとも1種を合計で8(C質量%+N質量%)以上0.7質量%以下で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼を素地とし、前記素地の上に不働態皮膜が形成された表面を有しており、不働態皮膜組成がCr質量%/(Fe質量%+Cr質量%+Mn質量%+Si質量%):0.40〜0.70を満たし、表面粗さがRa:0.3〜2.0μmかつRz:2.0〜10.0μmを満たすコーティング密着性に優れる高耐熱フェライト系ステンレス鋼。
請求項2
V、WおよびCoの少なくとも1種を合計で1.0質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
請求項3
REMおよびCaの少なくとも1種を合計で0.10質量%以下含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼。
請求項4
請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼がコーティングを施された集電部材。
技術分野
0001
本発明は、コーティング下地としてのフェライト系ステンレス鋼および集電部材に関する。
背景技術
0002
固体酸化物型燃料電池(SOFC)は数ある燃料電池の中で最も発電効率が高く、簡易的な改質を行うことで幅広いガスを燃料として用いる事が出来ることから、家庭用燃料電池として広く用いられており、今後は業務用などへの用途拡大が期待される。
0003
SOFCは作動温度が約700℃以上であり、発電を行うホットモジュールユニットの内部は最も高温になるため、ホットモジュールを構成する金属材料は高い耐酸化性および高温強度が必要とされる。また、SOFCのセルを構成するセラミックと熱膨張差が大きい場合、加熱冷却時の熱応力によるセラミックの破壊を招くため、熱膨張係数の大きなオーステナイト系ステンレス鋼はホットモジュールを構成する金属材料には使用できないため、高耐熱フェライト系ステンレス鋼が広く用いられる。
0004
しかし、ステンレス鋼は表面に形成するCr酸化物がバリアとして母材と酸素の反応を遮断するため高い耐酸化性を有するが、600℃以上の高温環境においてCr酸化物は一定の蒸気圧を有して蒸発を生じる。SOFCでは、蒸発したCrは発電を担うセルスタック空気極において還元され蓄積し、発電効率の低下を招くため、Cr酸化物が表面に形成されるステンレス鋼をそのままホットモジュール内部の部品に適用することは望ましくない。
0005
特許文献1〜5には、高温の酸化雰囲気下で使用することのできるフェライト系ステンレス鋼が提案されている。特許文献1に記載のフェライト系ステンレス鋼は、素材にAlを添加することで、高温環境で素材表面にAl酸化物を形成し、耐酸化性およびCr蒸発抑制を両立した高耐熱フェライト系ステンレス鋼である。
先行技術
0006
特許5780716号公報
特開2003−293170号公報
特許5808017号公報
特開2017−179522号公報
特許5576146号公報
発明が解決しようとする課題
0007
ホットモジュールを構成する部品の中で、インターコネクタの名称で呼ばれる、発電を担うセルスタックに接触し、電気を取出す集電部材は、前述の耐酸化性、熱膨張性、耐Cr蒸発性に加えて導電性、特に接触抵抗が低いことが求められる。しかしながら、特許文献1に記載される高耐熱フェライト系ステンレス鋼は、表面に形成する緻密なAl酸化皮膜が絶縁性を有するため接触抵抗が高く、集電部材には適さない。したがって、ステンレス鋼表面に、特許文献2に記載されるAgなど導電性に優れたコーティングを施すことが知られている。また、特許文献3に記載されるCo、Ag、Co三層のコーティングを施すことで、優れた耐熱性および耐Cr蒸発を有しつつ、導電性に優れるコーティングが知られている。
0008
一方で、上述のコーティングは下地となるステンレス鋼の酸化を完全に抑制することは困難であり、高温環境ではステンレス鋼は酸化進行する。ステンレス鋼の酸化の進行は酸化皮膜の成長を招き、前述の導電性低下や皮膜成長によるコーティング剥離を招くため、ステンレス鋼にも優れた耐酸化性やコーティング密着性が求められる。さらに今後はSOFCの長寿命化に伴って、長期的なコーティング密着性および母材の耐酸化性を有するSOFC集電部材向けのコーティング下地耐熱ステンレス鋼が求められる。しかしながら、上述の特許文献2および3では、コーティング材の種類に関しては検討されているが、コーティング下地としての最適なステンレス鋼については明確になっていない。
0009
特許文献4に記載のフェライト系ステンレス鋼のSUS447J1(Cr:30質量%,Mo:2質量%)は優れた耐熱性を有するが、高いCrおよびMo含有量を有するため、コストが課題となる。また、特許文献5に記載のフェライト系ステンレス鋼は、Cr酸化物層と母材の間にNb酸化物、Ti酸化物およびAl酸化物が混在した酸化物層を形成するため、優れた導電性および高耐熱性を有すること示されているが、コーティング密着性に優れるステンレス鋼に関しては明確になっていない。
0010
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、比較的に低コストで製造できる高温集電部材用等の材料として、高温環境における良好なコーティング密着性および母材の耐酸化性に優れたコーティング下地としてのフェライト系ステンレス鋼およびコーティングを施した高温環境で用いられる集電部材を提供することを主目的とする。
課題を解決するための手段
0011
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討し、フェライト系ステンレス鋼の合金成分および鋼板表面の成分ならびに表面粗さを制御することにより、高温環境におけるコーティング密着性および耐酸化性を良好に確保できることを見出し、本発明に至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
0012
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、C:0.030質量%以下、Si:1.0質量%以下、Mn:0.1〜0.5質量%、Ni:0.7質量%以下、P:0.05質量%以下、S:0.010質量%以下、Cr:17.5〜25.0質量%、Mo:0.3〜2.5質量%、Cu:0.5質量%以下、N:0.030質量%以下、Al:0.15質量%以下、TiおよびNbの少なくとも1種を合計で8(C質量%+N質量%)以上0.7質量%以下で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼を素地とし、前記素地の上に不働態皮膜が形成された表面を有しており、不働態皮膜組成がCr質量%/(Fe質量%+Cr質量%+Mn質量%+Si質量%):0.40〜0.70を満たし、表面粗さがRa:0.3〜2.0μmかつRz:2.0〜10.0μmを満たすことを要旨とする。
0013
こうした本発明のフェライト系ステンレス鋼において、V、WおよびCoの少なくとも1種を合計で1.0質量%以下含有するものとしてもよい。
0014
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼において、REMおよびCaの少なくとも1種を合計で0.10質量%以下含有するものとしてもよい。
0015
本発明の集電部材は、上述した各態様のいずれかの本発明のフェライト系ステンレス鋼がコーティングされて形成されたことを要旨とする。
発明の効果
0016
本発明によれば、所定の範囲に規定された合金組成において、不働態皮膜組成がCr質量%/(Fe質量%+Cr質量%+Mn質量%+Si質量%)≧0.40で、表面粗さがRa:0.3〜2.0μmかつRz:2.0〜10.0μmを満たすため、高温環境において良好な耐酸化性を確保出来るだけでなく、良好な耐コーティング剥離性を確保出来る。
図面の簡単な説明
0018
本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
0019
本発明に係る一実施の形態のフェライト系ステンレス鋼は、C(炭素):0.030質量%以下、Si(ケイ素):1.0質量%以下、Mn(マンガン):0.1〜0.5質量%、Ni(ニッケル):0.7質量%以下、P(リン):0.05質量%以下、S(硫黄):0.010質量%以下、Cr(クロム):17.5〜25.0質量%、Mo(モリブデン):0.3〜2.5質量%、Cu(銅):0.5質量%以下、N(窒素):0.030質量%以下、Al(アルミニウム):0.15質量%以下、Ti(チタン)およびNb(ニオブ)の少なくとも1種を合計で8(C質量%+N質量%)以上0.7質量%以下で含有し、残部がFe(鉄)および不可避的不純物からなる合金組成である。
0022
そして、上記合金組成の各元素の含有量の範囲において、前記素地上に不働態皮膜が形成された表面を有しており、不働態皮膜組成がCr質量%/(Fe質量%+Cr質量%+Mn質量%+Si質量%):0.40〜0.70を満足する。
0023
Cは、ステンレス鋼中に不可避的に含まれる元素である。C含有量を低減すると、炭化物の生成が少なくなり、溶接部の耐食性および鋭敏化特性を向上させるため、0.030質量%以下が好ましく、0.025質量%以下がより好ましい。他方、C含有量を低減させる精錬処理の時間が長くなると、製造コストの上昇を招くため、C含有量の下限は、0.005質量%以上で含有してもよい。
0024
Siは、耐スケール剥離性等の耐高温酸化性を向上させる合金成分であり、0.05質量%以上を含有してもよい。他方、Siを過剰に含有させると、鋼板の延性が低下して、加工性の低下や低温靭性の低下を招く。そのため、Siの含有量は、1.0質量%以下が好ましく、より好ましくは、0.7質量%以下である。
0025
Mnは、耐スケール剥離性等の耐高温酸化性の向上に有効な元素であり、0.1質量%以上を含有してもよい。他方、Mnを過剰に含有させると、加工性および溶接性が低下する。さらに、Crの含有量が少ない場合には、Mnの添加によりマルテンサイト相の形成が促進され、溶接部の加工性を低下させる可能性がある。そのため、Mnの含有量は、0.5質量%以下が好ましく、より好ましくは、0.4質量%以下である。
0026
Niは、耐食性の向上および加工性の低下を防止する作用を有する合金成分であり、0.05質量%以上を含有してもよい。他方、Niは、オーステナイト生成元素であって、含有量が過多になると、溶接部の相バランスを損ねる可能性があり、さらにコストを増大させる要因にもなる。そのため、Niの含有量は、0.7質量%以下が好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。
0027
PおよびSは、ステンレス鋼中に不可避的に含まれる元素であり、溶接部の靭性を低下させるため、可能な限り含有量を低減することが好ましい。PおよびSの含有量は、それぞれ0.05質量%以下、0.010質量%以下とし、好ましくは0.04質量%以下、0.005質量%以下とした。
0028
Crは、ステンレス鋼の表面に不働態皮膜を形成する主要な合金元素であり、耐食性、耐熱性の向上をもたらす。耐酸化性を有する均一な不働態皮膜を形成するには、17.5質量%以上を含有することが好ましい。より好ましくは、18.0質量%以上である。他方、Crを過剰に含有させると、機械的性質や靭性の低下を招き、さらにはコストを増大させる要因となる。そのため、Cr含有量は、25.0質量%以下が好ましい。
0029
Moは、Crと同様に、耐熱性レベルを向上させるための有効な元素であり、0.3質量%以上を含有することが好ましい。より好ましくは、0.5質量%以上である。他方、Moを過剰に含有させると、酸化処理時に、局所的に酸化皮膜が形成され、均一な酸化皮膜の形成を阻害する。そのため、Mo含有量は、2.5質量%以下が好ましい。
0030
Cuは、耐食性、特に耐孔食性を向上させる元素であり、0.01質量%以上を含有してもよい。他方、Cuを過多に添加すると、フェライト相を不安定化させる可能性があるとともに、材料コストが必要以上に上昇してしまう。そのため、Cu含有量は、0.50質量%以下が好ましく、より好ましくは0.30質量%以下である。
0031
Nは、Cと同様に、耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性を低下させる元素であるため、含有量を抑えることが好ましいが、過度に低減させると精錬コストが必要以上に上昇してしまう。したがって、Nの含有量は、0.030質量%以下が好ましく、より好ましくは0.025質量%以下とする。
0032
Alは、高温環境においてフェライト系ステンレス鋼表面に緻密な保護性の酸化皮膜を形成して耐酸化性を向上させる合金成分であり、0.01質量%以上を含有することができる。他方、Alを過剰に含有させると、酸化皮膜の導電性が低下するため、Al含有量は、0.15質量%以下が好ましい。
0033
TiおよびNbは、鋭敏化を抑制して耐粒界腐食性を向上させる元素であり、この作用を奏するには、耐粒界腐食性を低下させるCおよびNの含有量との関係から、TiおよびNbを合計で8(C質量%+N質量%)以上含有させる必要がある。一方、TiおよびNbの合計含有量が0.7質量%を超えると、加工性が低下してしまう可能性がある。したがって、TiおよびNbの合計含有量は、8(C質量%+N質量%)以上0.7質量%以下とする。なお、Tiを0.3質量%を超えて含有させると、加工性および表面品質が低下してしまう可能性があり、Nbを0.55質量%を超えて含有させると、加工性および靭性が低下してしまう可能性があるため、Tiの含有量は、0.3質量%以下が好ましく、Nbの含有量は0.55質量%以下が好ましい。
0034
また、必要に応じて、V、WおよびCoを添加することができる。靭性を損なわずに高温強度を向上させる合金成分であり、0.01質量%以上を含有することができる。V、WおよびCoは、これらの合計含有量が1.0質量%を超えると、加工性および靭性が低下してしまう可能性があるとともに、材料コストが必要以上に上昇してしまう。したがってV、WおよびCoの少なくともいずれかを含有する場合には、V、WおよびCoの合計含有量を1.0%質量以下とする。
0035
また、必要に応じて、CaまたはREMを添加することができる。CaまたはREMは、ステンレス鋼中に不可避的に含まれるSおよびPに対して優先的に化合物を形成することで、溶接部の靭性低下を抑制する合金成分であり、それぞれ0.01質量%以上を含有することができる。他方、これらの元素を過多に添加すると、鋼板が硬質化して加工性の低下を招き、また、製造時に表面疵が生じやすくなって製造性を低下させる。そのため、CaまたはREMは、少なくとも1種以上をそれぞれ0.10質量%以下含有させることが好ましい。
0036
(不働態皮膜組成)
本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板は、上述の成分組成を有することに加えて、耐熱性およびコーティング密着性を目的として、不働態皮膜成分を規定した。コーティングはステンレス鋼への酸素拡散を完全に遮断することは出来ない。ステンレス鋼素材と酸素の反応による酸化皮膜の成長は、導電性の低下およびコーティング剥離を招くことから、不働態皮膜のCr濃度を向上させ、不働態皮膜を緻密にすることで酸素拡散を防ぐ手段が有効である。一方で過度のCr濃度の向上は導電性を低下させることから、不働態皮膜組成はCr質量%/(Cr質量%+Fe質量+Mn質量%+Si質量%)が0.40以上かつ0.70以下の範囲が好ましい。不働態皮膜の改質は塩化第二鉄溶液へ浸漬するなど任意の手法が選択できる。
0037
不働態皮膜の分析はGDSにて実施する。GDSにてスパッタリング速度0.5μm/minで分析し、得られたGDSピークの内、Cr強度が最も高くなる点におけるFeおよびCrの値に対して、Cr質量%/(Cr質量%+Fe質量%)とした値を不働態皮膜中のCr含有量とした。
0038
(表面粗さ)
本発明に係るステンレス鋼板は、表面改質により適度な凹凸を有することで、コーティングとの接触面積が増加するとともに、アンカー効果によってコーティング密着性が向上し、剥離抑制に有効である。一方で過剰な凹凸は、凸部と凹部でコーティング厚みの不均一による局部的な酸化を招く。よって、本発明におけるステンレス鋼板表面の表面改質後の表面粗さRaは、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.4〜1.5μmであることがより好ましい。また、表面粗さRzは、2.0〜10.0μmが好ましく、3.0〜10.0であることがより好ましい。表面改質後の表面粗さは、JIS B 0601に準拠し測定されたものであり、例えば接触式の表面粗度計によって測定できる。
0039
以下、本実施例および比較例について説明する。
0040
まず、表1に示す組成のステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板とし、1050℃で焼鈍後酸洗し、熱延焼鈍板を得た。その後、厚さ1.0mmまで冷間圧延し、1000〜1100℃で仕上焼鈍を施し、酸洗を行った。冷延焼鈍後の冷却は、冷却時の熱変形を抑制し、溶接時の形状に起因して溶接条件が不安定になることを回避するため、水冷した銅板でステンレス鋼板を挟み込んで急冷した。この鋼板を、6.0質量%の塩化第二鉄水溶液、70℃に20〜900s浸漬することで表面改質を行った。
0041
鋼板に対してコーティング処理を行った。コーティングの種類はCoめっきもしくはCoめっき上にAgめっきを施したAg−Coめっきである。Coめっきはめっき厚みが1.0μm以上となるよう調整した。また、Ag−Coめっきは前述のCoめっきを施した後に、めっき厚み18.0μm〜21μmとなるよう調整した。このコーティングを施したステンレス鋼板試験片を用いて以下に詳細を示すコーティング密着性、酸化皮膜厚みを評価した。
0042
表1に、上記一実施の形態の条件を満たす本実施例1〜8と上記一実施の形態のいずれかの条件を満たさない比較例9〜15とを示す。
0043
0044
耐コーティング剥離性評価は、以下の手順により実施した。上述の試験片を、電気炉で900℃、100時間大気雰囲気下に保持した後に取出した。光学顕微鏡を用いて、前記試験片の任意の10点における1mm×1mmの範囲を200倍に拡大し観察した場合に測定した膨れ、剥離などの表面欠陥が全体の10%未満である場合、耐コーティング剥離性に優れると判断し、「○」とした。一方で、膨れ、剥離などの表面欠陥が全体の10%以上である場合、コーティング剥離が進行していると判断し、「×」とした。膨れとは、コーティングが素地と密着しておらず、素地に接着している厚み方向における一方の端部から他方の端部までの最大長さが5μm以上のものであり、剥離とは、コーティングが剥がれて素地が露出している部分とする。
0045
耐酸化性評価は、以下の手順により実施した。試験片を電気炉で850℃、24時間大気雰囲気下に保持した後に取出した。板厚方向にフェノール樹脂に埋め込み中央部を切断した後、鏡面になるまで湿式研磨を施した。この試験片について任意の10視野を光学顕微鏡で1000倍に拡大し、酸化皮膜厚みを測定した。10点平均の酸化皮膜の厚みが5μm未満である場合、耐酸化性に優れると判断し、「○」とした。一方で、酸化皮膜の厚みが5μm以上である場合、酸化が進行していると判断し、「×」とした。
0046
表2に、耐コーティング剥離性評価および耐酸化性評価のそれぞれの評価結果を示す。
0047
0048
また、図1に、評価したコーティングステンレス鋼の表面の外観写真を示し、図2に、コーティングステンレス鋼の表面を光学顕微鏡で拡大した写真を示し、図3に、コーティングステンレス鋼の断面を光学顕微鏡で拡大した写真を示す。図1(a),図2(a)および図3(a)の写真は、コーティングに膨れや剥離が生じていない実施例1のコーティングステンレス鋼の写真であり、図1(b)および図2(b)の写真は、コーティングに膨れや剥離が生じている比較例1のコーティングステンレス鋼の写真であり、図3(b)の写真は、比較例12のコーティングステンレス鋼の写真である。
0049
表2に示すように、本実施例である実施例1のコーティングステンレス鋼は、膨れが生じている面積が全体の10%未満であり(図2(a))、酸化皮膜厚みdも5μm未満であった(図3(a))。その他実施例2〜8のいずれも、コーティング密着性および酸化皮膜厚みが全て良好であった。一方で、不働態皮膜組成もしくは表面粗さを満たしていない比較例1のコーティングステンレス鋼は、膨れが生じている面積が全体の10%以上であった(図2(b))。同様に比較例2〜11は、コーティングの膨れ、もしくは剥離の割合が高く、耐コーティング剥離性の基準を満たしていなかった。また、合金組成における元素の含有量の条件を満たしていない比較例12〜14は、コーティングの膨れに加えて、酸化皮膜厚みdも5μm以上の成長が認められた。特に比較例12は100μm以上の過剰な成長が認められた(図3(b))。比較例15は高いCrおよびMoを含有する合金組成によって、酸化皮膜の成長を抑制することで高い耐コーティング剥離性を有している。実施例1〜8は、表面の成分および粗さを制御することにより、比較例15よりもCrおよびMo含有量が低いにも関わらず高い耐コーティング剥離性および耐酸化性が認められた。
実施例
0050
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。