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課題
解決手段
概要
背景
概要
切削加工の繰り返しによる切削抵抗の経時変化があっても、切削加工ごとに切削条件を試行錯誤することなく、切削精度を確保することができる切削装置及びその切削制御方法を提供する。制御部41は、被加工物Wに工具21の刃先部25を押し当てて切削加工する場合における先端部の撓み量を、予め設定された目標撓み量とするための目標切削動力を設定する。また、制御部41は、切削加工が行われるごとに測定された切削動力のピーク値と前記目標切削動力とに基づいて、次回の切削動力のピーク値が目標切削動力となるように、取り代の設定値を調整する。制御部41は、この調整された設定値に基づいて、工具21による切削加工時の押し当て動作を制御する。
目的
本発明は、切削加工の繰り返しによる切削抵抗の経時変化があっても、切削加工ごとに切削条件を試行錯誤することなく、切削精度を確保することができる切削装置及びその切削制御方法を提供する
効果
実績
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請求項1
刃物台から突出した工具の先端部に刃先部が設けられ、前記刃先部が前記工具の突出方向と交差する方向へ向いており、前記刃先部が被加工物に押し当てられることにより前記被加工物を切削加工する切削装置であって、前記工具を前記被加工物に押し当てて切削加工する場合における前記先端部の撓み量を、予め設定された目標撓み量とするための目標切削動力を設定する目標切削動力設定手段と、前記工具を用いて切削加工が行われるごとに測定された切削動力のピーク値と前記目標切削動力とに基づいて、次回の切削動力のピーク値が前記目標切削動力となるように、取り代及び送り量のうち少なくとも一方の設定を調整する調整手段と、前記調整手段により調整された設定値に基づいて、前記工具による切削加工時の押し当て動作を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする切削装置。
請求項2
前記目標切削動力設定手段は、前記目標撓み量を、背分力F(N)と撓み量μ(mm)との関係を前記工具について示す関係式(1)「μ=kF」(kは係数)に代入して求めた目標背分力を、背分力Fと切削動力P(KW)との関係を示す関係式(2)「F=α×60,000×P/V」(αは背分力換算係数、V(m/min)は切削速度)に代入して目標切削動力を算出することを特徴とする請求項1に記載の切削装置。
請求項3
前記関係式(1)の係数kは、前記刃物台に設置された前記工具の前記先端部に切削加工時の背分力を想定した力を加え、その時の撓み量を測定することにより求められることを特徴とする請求項2に記載の切削装置。
請求項4
刃物台から突出した工具の先端部に刃先部が設けられ、前記刃先部が前記工具の突出方向と交差する方向へ向いており、前記刃先部が被加工物に押し当てられることにより前記被加工物を切削加工する切削装置の切削制御方法であって、前記刃物台に設置された前記工具の前記先端部に切削加工時の背分力を想定した力を加え、その時の前記先端部の撓み量を測定することにより、背分力F(N)と撓み量μ(mm)との関係を前記工具について示す関係式(1)「μ=kF」(kは係数)を求め、予め設定された目標撓み量を前記関係式(1)に代入して目標背分力を求め、前記目標背分力を、背分力Fと切削動力P(KW)との関係を示す関係式(2)「F=α×60,000×P/V」(αは背分力換算係数、V(m/min)は切削速度)に代入して目標切削動力を算出し、前記工具を用いて切削加工が行われるごとに測定された切削動力のピーク値と前記目標切削動力の値とに基づいて、次回の切削動力のピーク値が前記目標切削動力の値となるように、取り代及び送り量のうち少なくとも一方の設定を調整し、その調整された設定値に基づいて、前記工具による切削加工時の押し当て動作を制御することを特徴とする切削制御方法。
請求項5
技術分野
背景技術
0002
片持ち支持された工具を被加工物の回転軸方向に送りつつ、回転軸方向と直交する方向に切り込んで被加工物を切削加工する切削装置(旋盤)では、片持ち支持された工具の撓みが切削精度に影響することが知られている。これは、長尺状をなす被加工物が片持ち支持され、その被加工物の外周を切削加工する場合も同様である。そのため、被加工物の撓みを許容範囲内に維持すべく、被加工物の剛性に関する理論式を用いて、切削加工中に、逐次、切込み量(取り代)を調整するようにした技術が提案されている(特許文献1参照)。この技術を、工具の側が片持ち支持された場合に適用し、工具の撓みを許容範囲内に調整することも考え得る。
先行技術
0003
特開2006−231420号公報
発明が解決しようとする課題
0004
ところで、切削加工を繰り返し実施することにより、工具の刃先部先端が摩耗し、切削抵抗が変化する等の経時変化が生じる。ところが、上記技術は、切削加工の繰り返しによる切削抵抗の経時変化が考慮されない。そのため、結局のところ、切削加工ごとに切込み量や送り量等の切削条件の設定を試行錯誤しなければ、切削精度を確保することができないという問題がある。
0005
そこで、本発明は、切削加工の繰り返しによる切削抵抗の経時変化があっても、切削加工ごとに切削条件を試行錯誤することなく、切削精度を確保することができる切削装置及びその切削制御方法を提供することを主たる目的とする。
課題を解決するための手段
0006
上記課題を解決すべく、第1の発明では、
刃物台から突出した工具の先端部に刃先部が設けられ、前記刃先部が前記工具の突出方向と交差する方向へ向いており、前記刃先部が被加工物に押し当てられることにより前記被加工物を切削加工する切削装置であって、
前記工具を前記被加工物に押し当てて切削加工する場合における前記先端部の撓み量を、予め設定された目標撓み量とするための目標切削動力を設定する目標切削動力設定手段と、
前記工具を用いて切削加工が行われるごとに測定された切削動力のピーク値と前記目標切削動力とに基づいて、次回の切削動力のピーク値が前記目標切削動力となるように、取り代及び送り量のうち少なくとも一方の設定を調整する調整手段と、
前記調整手段により調整された設定値に基づいて、前記工具による切削加工時の押し当て動作を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
0007
第2の発明の切削装置では、
前記目標切削動力設定手段は、前記目標撓み量を、背分力F(N)と撓み量μ(mm)との関係を前記工具について示す関係式(1)「μ=kF」(kは係数)に代入して求めた目標背分力を、背分力Fと切削動力P(KW)との関係を示す関係式(2)「F=α×60,000×P/V」(αは背分力換算係数、V(m/min)は切削速度)に代入して目標切削動力を算出することを特徴とする。
0008
第3の発明の切削装置では、
前記関係式(1)の係数kは、前記刃物台に設置された前記工具の前記先端部に切削加工時の背分力を想定した力を加え、その時の撓み量を測定することにより求められることを特徴とする。
0009
第4の発明では、
刃物台から突出した工具の先端部に刃先部が設けられ、前記刃先部が前記工具の突出方向と交差する方向へ向いており、前記刃先部が被加工物に押し当てられることにより前記被加工物を切削加工する切削装置の切削制御方法であって、
前記刃物台に設置された前記工具の前記先端部に切削加工時の背分力を想定した力を加え、その時の前記先端部の撓み量を測定することにより、背分力F(N)と撓み量μ(mm)との関係を前記工具について示す関係式(1)「μ=kF」(kは係数)を求め、
予め設定された目標撓み量を前記関係式(1)に代入して目標背分力を求め、
前記目標背分力を、背分力Fと切削動力P(KW)との関係を示す関係式(2)「F=α×60,000×P/V」(αは背分力換算係数、V(m/min)は切削速度)に代入して目標切削動力を算出し、
前記工具を用いて切削加工が行われるごとに測定された切削動力のピーク値と前記目標切削動力の値とに基づいて、次回の切削動力のピーク値が前記目標切削動力の値となるように、取り代及び送り量のうち少なくとも一方の設定を調整し、
その調整された設定値に基づいて、前記工具による切削加工時の押し当て動作を制御することを特徴とする。
0010
第5の発明の切削制御方法では、
前記目標撓み量は、切削加工が連続切削である場合は、許容される公差からその「1/N」(Nは2以上の自然数)に設定し、切削加工が断続切削である場合は、許容される真円度からその「1/N」(Nは2以上の自然数)に設定することを特徴とする。
発明の効果
0011
第1の発明によれば、予め設定された目標撓み量となる切削動力が目標切削動力として設定される。工具を用いて切削加工を行うごとに切削動力が測定され、そのピーク値と目標切削動力とに基づいて、次回の切削動力のピーク値が目標切削動力となるように、取り代や送り量が調整される。これにより、切削加工の繰り返しによる切削抵抗の経時変化があっても、切削加工ごとに取り代や送り量の切削条件を試行錯誤することなく、切削精度を確保することができる。
0012
第2の発明によれば、背分力Fと撓み量μとの関係を工具について示す関係式(1)や背分力Fと切削動力P(KW)との関係を示す関係式(2)に基づいて、目標切削動力を好適に算出できる。
0013
第3の発明によれば、関係式(1)における係数kは、切削加工に使用する工具が刃物台に設置された状態で、工具の刃先部に切削加工時の背分力Fを想定した力を加え、その時の撓み量μを測定することにより求められている。そのため、関係式(1)における係数kは、切削加工を実行しようとするその工具を有する工具側部品の固有値として求められている。切削加工時における工具の撓みは、工具を保持する側の剛性の影響も受けるため、それを考慮して目標切削動力が設定される。これにより、切削精度をさらに高めることができる。
0014
第4の発明の制御方法によれば、第1の発明や第2の発明における切削装置によって得られる効果と同様に、切削加工の繰り返しによる切削抵抗の経時変化があっても、切削加工ごとに取り代や送り量の切削条件を試行錯誤することなく、切削精度を確保することができる。
0015
連続切削では、切削加工中、工具の撓みが常時生じ、切削加工が繰り返されるたびに撓みも恒常的なものとなり、被加工物の切削加工部分における公差に影響を与える。また、断続切削では、切削加工時に工具の揺動が生じるため、被加工物を切削する場合に、その真円度に影響を及ぼす。断続切削が繰り返されれば工具の揺動量も変化し、真円度に影響を及ぼす。この点、第5の発明によれば、連続切削の場合は公差を基準に目標撓み量を設定し、断続切削の場合は真円度を基準に目標撓み量を設定することで、撓みによる公差への影響や揺動による真円度への影響を低減できる。
図面の簡単な説明
0016
切削装置の制御システムを示すブロック図。
工具に関する撓み量の測定を行う様子を説明する説明図。
撓み量の測定により得られた力‐撓み線図を示すグラフ。
切削装置の切削制御処理を示すフローチャート。
工具が撓む様子を示す概略図であり、(a)は連続切削を行う場合を示し、(b)は断続切削を行う場合を示している。
実施例
0017
以下、本発明を具体化した一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
0018
図1に示すように、切削装置10は旋盤装置であり、工具側ユニット11と、被加工物側ユニット12と、制御コントローラ13とを備えている。工具側ユニット11では、工具21(バイト)を保持し、切削加工のために当該工具21を移動させる。被加工物側ユニット12は被加工物Wを保持し、切削加工時に被加工物Wを回転させる。制御コントローラ13は、工具側ユニット11や被加工物側ユニット12の動作を制御する。なお、本実施形態では、被加工物Wは鋳物により形成された円筒状部品を想定し、その内周面を切削加工する場合を例とする。
0019
工具側ユニット11は、工具21(バイト)と、工具ホルダ22と、刃物台23とを有している。工具21は長尺状をなすシャンク24を備え、シャンク24の先端部には刃先部25(チップ)が設けられている。刃先部25は、シャンク24の軸方向と交差する方向へ向いている。工具ホルダ22は、工具21の基端部を保持し、それにより、工具21は工具ホルダ22によって片持ち支持されている。刃物台23には、工具ホルダ22が取り付けられている。刃物台23は、往復台や送り装置等の刃物台駆動部26と連絡されている。刃物台駆動部26により、刃物台23は、被加工物Wの回転軸方向(Z軸方向)に往復移動したり、当該回転軸方向と直交する切込み方向(X軸方向)へ移動したりする。
0020
被加工物側ユニット12は、主軸31と、主軸モータ32とを備えている。主軸31は回転可能に支持された回転軸を有し、回転軸の先端部にはチャック33が設けられている。チャック33により、被加工物Wが、その中心軸線を主軸31と一致させた状態で保持されている。そのため、主軸31は、被加工物Wをその中心軸線を中心として回転可能に保持する。主軸モータ32は、その回転軸が主軸31の回転軸とベルト34で連結されており、主軸モータ32の回転により、主軸31に保持された被加工物Wは、その中心軸線を中心として回転する。回転する被加工物Wの内周面に対し、工具21の刃先部25が押し当てられ、それによって被加工物Wが切削加工される。
0021
制御コントローラ13は、主軸モータ32及び刃物台駆動部26の各動作を制御する制御部41を有している。制御部41は、CPU等を有する周知のマイクロコンピュータを主体に構成され、記憶部42を有している。記憶部42には、切削装置10の制御プログラムが記憶されている。制御部41は、主軸モータ32及び刃物台駆動部26とそれぞれ接続されており、記憶部42に記憶された制御プログラムに基づいて、主軸モータ32や刃物台駆動部26の動作制御を行う。つまり、制御部41は、被加工物Wの切削速度V(m/min)が所定の設定値となるように、主軸モータ32による回転速度を制御したり、工具21による切削加工時の取り代(切込み量)ap(mm)や回転軸方向への送り量f(mm/rev)が所定の設定値となるように、刃物台駆動部26を制御したりする。制御プログラムを実施するにあたって使用されたり、生成されたりする数値やデータは、逐次、記憶部42に記憶される。
0022
また、制御部41には、切削加工を行っている時の切削動力P(KW)が逐次入力されるようになっている。制御部41に入力された切削動力データは、記憶部42に記憶される。1品の被加工物Wに対する切削加工が終了するたびに、制御部41は、制御プログラムに基づいて、終了した切削加工について取得した切削動力データから、次回の切削加工における取り代apや送り量fの設定値を演算し、その設定値を更新する。制御部41は、次回の切削加工時には、更新された設定値となるように、刃物台駆動部26の動作を制御する。
0023
記憶部42には、設定値を更新するために制御部41が演算するための関係式が記憶されている。関係式は、下記式(1)のとおりであり、刃物台23に設置された工具21について、背分力F(N)と工具21の撓み量μ(mm)との関係を示している。
0024
「μ=kF」(kは係数)・・・(1)
上記式(1)の係数kは、図2に示すように、刃物台23に設置された工具21について、最初の切削加工を行う前、つまり、切削加工を一度も実施していない状態で、撓み量μを計測することで求められる。撓み量μの計測作業では、切削加工時の背分力Fを想定し、刃先部25が設けられた先端部に対してその切込み方向(工具21の突出方向と交差する方向)へ力を付与し、その時の工具21の撓み量μを測定する。測定点数は任意(例えば、図3のように5点)であり、測定点数ごとに異なる力F(N)を付与し、その都度、撓み量μ(mm)を測定する。作業者は、付与した力Fの数値と測定された撓み量μの数値とを、制御部41に接続された入力部43を用いて入力する。これらの数値が入力されると、制御部41は、図3に示す力−撓み線図を作成し、これに基づいて式(1)の係数kを求める。
0025
工具21が新しいものに交換されるなど、従前の工具21とは別の工具21が刃物台23に取り付けられて交換されると、係数kも変化する。そのため、工具21が交換されるたびに、交換後の工具21について、最初の切削加工を行う前に、所定の力Fに対する撓み量μの測定作業や数値入力作業を行う。制御部41は、力Fと撓み量μの新たな数値が入力されると、その都度、係数kを求めてそれを記憶部42に記憶し、係数kの値を更新する。そのため、式(1)における係数kは、切削加工を実行しようとするその工具21が使用される場合に、当該工具21を有する工具側ユニット11の固有値として求められている。
0026
次に、切削装置10の制御プログラムにおける切削制御処理について、図4を参照しながら説明する。切削制御処理は、制御部41により実行される。
0027
ここで、切削加工における取り代ap及び送り量fは、予め初期設定値が設定されている。そのうち取り代apの初期設定値については、鋳造後に鋳型から取り出された素形材としての被加工物Wと、その製品図面の寸法との差によって定められている。一般に、切削加工工程では、荒加工と仕上げ加工との2段階、又は、荒加工と中間加工と仕上げ加工との3段階を経る。そのため、被加工物Wとその製品図面の寸法との差が加工段階ごとに分割され、加工段階ごとの取り代apがそれぞれ設定されている。荒加工や中間加工の段階では、切削加工の精度はそれほど要求されないため、本実施形態における切削制御は、主として仕上げ加工時に行われる。
0028
図4に示すように、最初のステップS11にて、目標背分力Fa(N)を算出する。目標背分力Faの算出には、記憶部42に記憶された式(1)が用いられる。目標背分力Faを算出するにあたっては、目標撓み量(許容撓み量)μa(mm)がまず設定される。目標撓み量μaは、被加工物Wにおける切削加工部位の公差又は真円度の「1/N(Nは2以上の自然数)」として設定される。この場合の「N」は、入力部43を用いて作業者によって予め入力されている。
0029
片持ち支持された工具21は、その先端部に設けられた刃先部25が、切削加工中に被加工物Wから背分力Fを受けて撓む。図5(a)に示すように、被加工物Wの内周面を連続的に切削する連続切削の場合、工具21の撓みは切削加工中、常時生じる。このような工具21の撓みが生じると、設定された取り代apで切り込んだとしても、取り代apの精度を確保できず、連続切削の場合には被加工物Wの内周面寸法の精度を悪化させる要因となる。なお、図5(a)では、工具21の撓む様子をわかりやすくするため、撓みが強調されている。
0030
工具21の撓みは、切削加工時だけでなく、切削加工が繰り返されることによっても生じる。工具21の刃先部25は、切削加工のたびに背分力Fを受けることから、切削加工が繰り返されると、徐々に撓みが恒常的なものとなる。そのため、工具21は、非加工時においても撓んだ状態で刃物台23に保持されるようになる。また、切削加工が繰り返されると、刃先部25が摩耗して切削抵抗が増加するため、その切削抵抗の増加によっても工具21の撓み量μに影響を与える。したがって、切削加工が繰り返されることによって生じる工具21の撓みが被加工物Wの内周面寸法の精度を悪化させる大きな要因となる。
0031
図5(b)に示すように、溝部Waが形成された被加工物Wの内周面を断続的に切削する断続切削の場合でも、内周面の切削中に工具21の撓みが生じる。その上、刃先部25が溝部Waに至ると、切削加工中の撓みが解消されて工具21は元の状態に戻る。溝部Waが複数形成された被加工物Wでは、撓みと元の状態への復帰とが繰り返され、工具21が揺動する。工具21の揺動が生じると、設定した取り代apで切り込んだとしても、取り代apの精度を確保できず、断続切削の場合には被加工物Wの内周面の真円度に影響を及ぼす。そして、断続切削の場合でも、上記連続切削の場合と同様、切削加工が繰り返されるとそれが工具21の撓み量μ、ひいては工具21が揺動する量に影響を及ぼし、真円度の精度を悪化させる大きな要因となる。なお、図5(b)でも、工具21の撓む様子をわかりやすくするため、撓みが強調されている。
0032
そこで、前述したように、連続切削の場合は公差の「1/N(Nは2以上の自然数)」を、断続切削の場合は真円度の「1/N(Nは2以上の自然数)」を、許容できる撓み量(揺動量)μとして設定する。設定された撓み量(揺動量)μを目標撓み量μaとし、これを式(1)に代入し、図3に示すように、目標背分力Fa(N)を算出する。目標背分力Faとは、許容される撓み量(揺動量)μの上限値以下に撓み量(揺動量)μを収めるには、背分力Fが最大どの程度の数値となっていることが好ましいかを示すものである。使用する工具21が刃物台23に取り付けられた状態で予め測定された上記式(1)を用いて、当該工具21が使用される場合の工具側ユニット11の固有値として算出する。
0033
続くステップS12では、背分力Fと切削動力Pとの関係を示す次式(2)に基づいて、目標背分力Faとなるための目標切削動力Paを求める。なお、F(N)は背分力、αは背分力換算係数、P(W)は切削動力、V(m/min)は切削速度である。切削背分力換算係数αは、工具21の種類、刃物台23や工具ホルダ22の材質や形状等の各種切削条件によって変わるものであり、所定値が予め設定される。切削速度Vや切削背分力換算係数αは所定の数値に設定されているため、式(2)に目標背分力Faを代入すれば、目標切削動力Paを算出できる。なお、ステップS12は、目標切削動力設定手段に相当する。
0034
「F = α×60,000×P/V」・・・(2)
次のステップS13では、予め設定された取り代ap及び送り量fの初期設定値に基づいて刃物台駆動部26を制御し、初品の被加工物Wに対する切削加工を実施する。
0035
次のステップS14では、次回の切削加工を実施する前に、取り代apや送り量fの再設定を行う。ここで、切削加工における所要電力を示す次式(3)より、切削動力Pは取り代apや送り量fに比例することが知られている。なお、Ks(kgf/mm2)は比切削抵抗、ηは機械効率である。
0036
「P = Ks×V×ap×f/6.120×η」 ・・・(3)
初品の切削加工時に測定された切削動力Pのデータからピーク値を抽出し、そのピーク値が目標切削動力Paとなるように、取り代apや送り量fの設定値を調整する。なお、目標切削電力Paとの比較対象となる切削動力Pの値として、測定された切削動力Pのピーク値が用いられる。これは、上記式(2)より、切削動力Pと背分力Fとは比例関係にあるため、切削動力Pのピーク値では、工具21の刃先部25が最も大きい背分力Fを受けて撓み量(揺動量)μが最も大きくなっているからである。
0037
一般的には、切削動力Pは、初品の切削加工時から目標切削動力Paよりも大きくなっていることが多い。そのため、両差の差に基づいて取り代apや送り量fを調整する場合は、その数値を小さくするように調整する。なお、ステップS14は、調整手段に相当する。
0038
連続切削の場合には、取り代ap及び送り量fのうち少なくとも一方の設定値を調整することが可能である。もっとも、送り量fが小さくなるように調整されると、その分、切削加工に要する時間が余分にかかることになり、加工効率が下がる。そのため、加工効率をできるだけ維持するため、送り量fよりも取り代apが優先して調整される。
0039
断続切削の場合には取り代apの設定値を調整する。断続切削では、工具21の揺動が真円度に影響を与えている以上、送り量fを調整しても工具21の揺動に対してほとんど影響しない。その一方で、取り代apを調整することにより工具21の揺動に影響するため、取り代apのみを調整する。
0040
続くステップS15では、前のステップS14で再設定された取り代ap及び送り量fに基づいて、刃物台駆動部26を制御し、第2品目の切削加工を実施する。これにより、次回の切削加工時の切削動力Pが下げられて工具21の撓みや揺動が少なくなり、切削加工時における工具21の撓みや揺動の範囲が許容される目標撓み量μaに近づけられる。その結果、工具保持側の剛性の影響や切削加工の繰り返しによる刃先部25の切削抵抗の経時変化があっても、切削加工ごとに取り代apや送り量fの切削条件を試行錯誤することなく、切削精度を確保することができる。なお、ステップS15は、制御手段に相当する。
0041
第2品目の切削加工が終了すると、次のステップS16にて、工具21の交換が実施されたか否かが判定され、いまだ交換されていない場合は判定を否定して先のステップS14に戻る。そして、第2品目の切削加工時に測定された切削動力Pのデータからピーク値を抽出し、そのピーク値が目標切削動力Paとなるように、取り代apや送り量fの設定値を再び調整し、再設定する。このような制御を、工具21が交換されるまで繰り返しながら、被加工物Wを繰り返して切削加工する。
0042
工具21が交換された場合には、ステップS16の判定を肯定して、制御処理をいったん終了する。新たな工具21が刃物台23に取り付けられた後には、最初の切削加工を行う前に工具21の撓み量μの測定作業を行い、改めて数値を入力し直し、図3に示すように力−撓み線図を新たに作成し、記憶部42に記憶させる。その上で、再度ステップS11からの制御処理を実施する。
0043
なお、鋳型から取り出した状態の素形材としての被加工物Wに対し、切削加工する取り代apの全体量は、仕上げ段階での取り代apを調整しても変わらない。そのため、仕上げ加工段階における取り代apの設定値を調整した場合、荒加工段階や中間加工段階における取り代apも、併せて調整されることになる。
0044
以上詳述したように、本実施形態における切削装置10及びその切削制御処理によれば、次のような作用効果を得ることができる。
0045
(1)予め設定された目標撓み量μaとなる切削動力Pが、目標切削動力Paとして設定される。工具21を用いて切削加工を行うごとに切削動力Pが測定され、そのピーク値と目標切削動力Paとに基づいて、次回の切削動力Pのピーク値が目標切削動力Paとなるように、取り代apや送り量fが調整される。これにより、切削加工の繰り返しによる刃先部25の経時変化があっても、切削加工ごとに取り代apや送り量fの切削条件を試行錯誤することなく、切削精度を確保することができる。
0046
(2)背分力Fと撓み量μとの関係を示す式(1)に、予め設定された目標撓み量μaを代入し目標背分力Faを求め、当該目標背分力Faを、背分力Fと切削動力Pとの関係を示す式(2)に代入することにより、目標切削動力Paを算出している。これにより、目標切削動力Paを好適に算出できる。
0047
(3)上記式(1)における係数kは、刃物台23に設置された工具21について、最初の切削加工を行う前に、先端部に切削加工時の背分力Fを想定した力を加え、その時の撓み量μを測定することにより求められている。そのため、式(1)における係数kは、切削加工を実行しようとする工具21を備えた工具側ユニット11の固有値として求められている。切削加工時における工具21の撓みは、工具ホルダ22やその周辺部位など、工具保持側の剛性の影響を受けるため、これらを考慮して目標背分力Faが設定される。これにより、切削精度をさらに高めることができる。
0048
(4)取り代apや送り量fの設定値を再設定する場合に、連続切削する場合は取り代apの調整が優先され、断続切削する場合も取り代apの設定が調整される。連続切削においては、送り量fを小さくするように調整する場合、その分、切削加工に要する時間が余分にかかり、加工効率が下がる。そのため、取り代apの設定を調整することで、加工効率を維持することができる。また、断続切削の場合、真円度に影響を与えている工具21の揺動に対してほとんど影響しない送り量fではなく、取り代apを調整することにより、工具21の揺動を低減して真円度の精度を確保することができる。
0049
(5)連続切削である場合は、許容される公差からその「1/N」(Nは2以上の自然数)が目標撓み量μaとして設定され、断続切削である場合は、許容される真円度からその「1/N」(Nは2以上の自然数)が目標撓み量μaとして設定される。連続切削では、切削加工中、工具21の撓みが常時生じ、切削加工が繰り返されるたびに撓みも恒常的なものとなるため、被加工物Wの公差に影響を与える。そこで、公差を基準に目標撓み量μaを設定することで、撓みによる公差への影響を低減できる。また、断続切削では、切削加工時に工具21の揺動が生じるため、円形状をなす被加工物Wの内周面を切削する場合に、その真円度に影響を及ぼし、切削加工が繰り返されればその揺動量にも影響する。そこで、真円度を基準に目標撓み量μaを設定することで、揺動による真円度への影響を低減できる。
0050
なお、本発明は、上記実施形態の切削装置10やその切削制御処理に限らず、例えば次のように実施してもよい。
0051
(a)上記実施の形態では、背分力F(N)と撓み量μ(mm)との関係を示す式(1)の係数kを、最初の切削加工を行う前に、工具21の先端部(刃先部25)に切削加工時の背分力Fを想定した力を加え、その時の撓み量μを測定することにより求めている。これに代えて、工具21の材質や形状、工具ホルダ22等の工具保持側が有する剛性等を考慮して予測される係数kを用いてもよい。
0052
(b)上記実施の形態では、被加工物Wを円筒状部材とし、その内周面全体を切削加工する場合を想定したが、円筒状部材の内周面の一部のみ(中ぐり)を切削加工したり、外面を切削加工したりする場合に適用してもよい。
0053
10…切削装置、21…工具、23…刃物台、41…制御部(目標切削動力設定手段、調整手段、制御手段)。