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課題
解決手段
毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程と、形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程と、を含むことを特徴とする、毒性タンパク質の活性を阻害するペプチドのスクリーニング方法。毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程と、形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程と、毒性タンパク質を単離する工程と、を含むことを特徴とする、毒性タンパク質の製造方法。
概要
背景
従来より、目的タンパク質をコードする遺伝子を細菌、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞等の宿主細胞に導入し、目的タンパク質を発現させるタンパク質発現系が知られており、タンパク質の構造解析や機能解析に利用されている。しかしながら、かかる発現系を用いて毒性タンパク質を発現させると、宿主細胞に対する毒性のため、形質転換体が十分量あるいは全く得られず、タンパク質合成を行うことが困難である場合があった。
タンパク質発現系を利用した毒性タンパク質の発現方法としては、これまでにいくつかの手法が提案されている。まず、毒性タンパク質の発現誘導前の基底発現を抑制し、その毒性を低減させる手法が知られており、具体的には、培地へのアラビノース添加の有無により、大腸菌内でのベクターのコピー数を制御し、大腸菌内にて毒性タンパク質の発現誘導前の基底発現を抑制する方法(非特許文献1)、タンパク質発現に使用されるT7RNAポリメラーゼに対する阻害作用を持つT7リゾチームを微量発現する大腸菌株を使用して、毒性タンパク質の発現誘導前の基底発現を抑制する方法(非特許文献2)等が報告されている。また、毒性に対して抵抗性を有する大腸菌株を利用する方法(非特許文献3)が報告されている。しかしながら、これらの方法は、強い毒性を有するタンパク質には適用できない。また、無細胞合成系を用いる方法(特許文献1)も報告されているが、研究試薬を用いる合成ゆえに収量あたりの費用がかさみ、大量生産には向かない。さらに、宿主細胞の生物種を変更することで、元の宿主細胞で発生した毒性を回避できる可能性もあるが、適切な宿主細胞の選抜に時間を要し、また煩雑である。よって、工業生産という観点から、大腸菌等の大量培養が可能な宿主細胞を用いて簡便に大量生産を行う技術の開発が望まれている。
一方、タンパク質の阻害剤開発においては、標的タンパク質に阻害能を示す化合物を、莫大な数の化合物ライブラリーよりスクリーニングする方法が知られている。しかしながら、標的タンパク質の単離、精製を必要とし、ライブラリーの構築や維持のための多額の資金や、スクリーニングのための多くのマンパワーをも要する。また、標的タンパク質に結合するペプチドを探索するファージディスプレイ法等(非特許文献4)も知られているが、標的タンパク質に結合する分子は取得できるものの、阻害能を有することまでは保証されず、別途阻害能を評価する必要がある。よって、タンパク質の阻害剤を簡便に効率よく探索できる方法が望まれている。
ピエリシン−1(Pierisin−1)は、モンシロチョウのさなぎより見出された、全長約98kDaのタンパク質である。触媒ドメインであるN末端ドメイン、自己阻害ペプチド、及び細胞膜上の糖脂質との結合を担うC末端ドメインからなり、NAD+を補酵素として、DNAのグアノシンをADPリボシル化し、細胞をアポトーシスへと導く酵素である(非特許文献5、6)。特筆すべきは、その細胞傷害活性の高さである。モンシロチョウのさなぎより精製したピエリシン−1は、各種培養細胞に対し、細胞種により幅はあるものの、強いものではIC50値がfMオーダーという非常に強力な細胞傷害活性を示す(非特許文献5)。そのため、ピエリシン−1は、抗がん剤のシードとして非常に魅力的な素材である。
概要
毒性タンパク質の活性を阻害するペプチドのスクリーニング方法及び毒性タンパク質の製造方法の提供。毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程と、形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程と、を含むことを特徴とする、毒性タンパク質の活性を阻害するペプチドのスクリーニング方法。毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程と、形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程と、毒性タンパク質を単離する工程と、を含むことを特徴とする、毒性タンパク質の製造方法。なし
目的
よって、工業生産という観点から、大腸菌等の大量培養が可能な宿主細胞を用いて簡便に大量生産を行う技術の開発が望まれている
効果
実績
- 技術文献被引用数
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請求項1
毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程と、形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程と、を含むことを特徴とする、毒性タンパク質の活性を阻害するペプチドのスクリーニング方法。
請求項2
前記宿主細胞が大腸菌である請求項1に記載のスクリーニング方法。
請求項3
前記ペプチドの長さが3〜50アミノ酸である請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
請求項4
前記ペプチドが少なくとも2つのシステインを含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
請求項5
毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程と、形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程と、毒性タンパク質を単離する工程と、を含むことを特徴とする、毒性タンパク質の製造方法。
請求項6
前記宿主細胞が大腸菌である請求項5に記載の製造方法。
請求項7
前記ペプチドの長さが3〜50アミノ酸である請求項5又は6に記載の製造方法。
請求項8
前記ペプチドが少なくとも2つのシステインを含むものである請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
請求項9
請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたピエリシン−1。
請求項10
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドよりなる群から選択される1以上を有効成分として含有するピエリシン−1の毒性阻害剤。
請求項11
毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリー。
技術分野
背景技術
0002
従来より、目的タンパク質をコードする遺伝子を細菌、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞等の宿主細胞に導入し、目的タンパク質を発現させるタンパク質発現系が知られており、タンパク質の構造解析や機能解析に利用されている。しかしながら、かかる発現系を用いて毒性タンパク質を発現させると、宿主細胞に対する毒性のため、形質転換体が十分量あるいは全く得られず、タンパク質合成を行うことが困難である場合があった。
0003
タンパク質発現系を利用した毒性タンパク質の発現方法としては、これまでにいくつかの手法が提案されている。まず、毒性タンパク質の発現誘導前の基底発現を抑制し、その毒性を低減させる手法が知られており、具体的には、培地へのアラビノース添加の有無により、大腸菌内でのベクターのコピー数を制御し、大腸菌内にて毒性タンパク質の発現誘導前の基底発現を抑制する方法(非特許文献1)、タンパク質発現に使用されるT7RNAポリメラーゼに対する阻害作用を持つT7リゾチームを微量発現する大腸菌株を使用して、毒性タンパク質の発現誘導前の基底発現を抑制する方法(非特許文献2)等が報告されている。また、毒性に対して抵抗性を有する大腸菌株を利用する方法(非特許文献3)が報告されている。しかしながら、これらの方法は、強い毒性を有するタンパク質には適用できない。また、無細胞合成系を用いる方法(特許文献1)も報告されているが、研究試薬を用いる合成ゆえに収量あたりの費用がかさみ、大量生産には向かない。さらに、宿主細胞の生物種を変更することで、元の宿主細胞で発生した毒性を回避できる可能性もあるが、適切な宿主細胞の選抜に時間を要し、また煩雑である。よって、工業生産という観点から、大腸菌等の大量培養が可能な宿主細胞を用いて簡便に大量生産を行う技術の開発が望まれている。
0004
一方、タンパク質の阻害剤開発においては、標的タンパク質に阻害能を示す化合物を、莫大な数の化合物ライブラリーよりスクリーニングする方法が知られている。しかしながら、標的タンパク質の単離、精製を必要とし、ライブラリーの構築や維持のための多額の資金や、スクリーニングのための多くのマンパワーをも要する。また、標的タンパク質に結合するペプチドを探索するファージディスプレイ法等(非特許文献4)も知られているが、標的タンパク質に結合する分子は取得できるものの、阻害能を有することまでは保証されず、別途阻害能を評価する必要がある。よって、タンパク質の阻害剤を簡便に効率よく探索できる方法が望まれている。
0005
ピエリシン−1(Pierisin−1)は、モンシロチョウのさなぎより見出された、全長約98kDaのタンパク質である。触媒ドメインであるN末端ドメイン、自己阻害ペプチド、及び細胞膜上の糖脂質との結合を担うC末端ドメインからなり、NAD+を補酵素として、DNAのグアノシンをADPリボシル化し、細胞をアポトーシスへと導く酵素である(非特許文献5、6)。特筆すべきは、その細胞傷害活性の高さである。モンシロチョウのさなぎより精製したピエリシン−1は、各種培養細胞に対し、細胞種により幅はあるものの、強いものではIC50値がfMオーダーという非常に強力な細胞傷害活性を示す(非特許文献5)。そのため、ピエリシン−1は、抗がん剤のシードとして非常に魅力的な素材である。
先行技術
0007
Mesa-Pereira B. et al. Sci Rep. 2017, 7(1): 3069
Studier F.W. J. Mol. Biol. 1991, 219(1): 37-44
Dumon-Seignovert L. et al. Protein Expr Purif. 2004, 37(1): 203-206
伊藤祐二他,生物物理2008, 48(5): 294-298
Kono T et al. Cancer Lett. 1999; 137(1): 75-81
Watanabe M et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1999; 96(19): 10608-10613
発明が解決しようとする課題
0008
毒性タンパク質を宿主細胞にて発現させるには、毒性タンパク質の活性を阻害した状態で発現させる必要があると考えられた。よって、本発明の課題は、毒性タンパク質の活性を阻害する物質をスクリーニングするとともに、該物質を利用して毒性タンパク質を製造する方法を提供することにある。
課題を解決するための手段
0009
そこで本発明者らは、上記課題に鑑み、毒性タンパク質であるピエリシン−1と、ピエリシン−1の活性を阻害し得る物質としてペプチドに注目し、阻害ペプチドを探索するとともに、該阻害ペプチドを利用して宿主細胞にてピエリシン−1を発現させるべく、鋭意検討を行った。その結果、ピエリシン−1、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換し、形質転換された宿主細胞を培養したところ、コロニーが得られること、該コロニーにてピエリシン−1が発現していること、該コロニーを形成する細胞に導入されたベクター中のペプチドがピエリシン−1の毒性を阻害するペプチドとして機能することを見出し、本発明を完成した。
0010
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔11〕を提供するものである。
〔1〕毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程と、
形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程と、
を含むことを特徴とする、毒性タンパク質の活性を阻害するペプチドのスクリーニング方法。
〔2〕前記宿主細胞が大腸菌である〔1〕のスクリーニング方法。
〔3〕前記ペプチドの長さが3〜50アミノ酸である〔1〕又は〔2〕のスクリーニング方法。
〔4〕前記ペプチドが少なくとも2つのシステインを含むものである〔1〕〜〔3〕のスクリーニング方法。
〔5〕毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程と、
形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程と、
毒性タンパク質を単離する工程と、
を含むことを特徴とする、毒性タンパク質の製造方法。
〔6〕前記宿主細胞が大腸菌である〔5〕の製造方法。
〔7〕前記ペプチドの長さが3〜50アミノ酸である〔5〕又は〔6〕の製造方法。
〔8〕前記ペプチドが少なくとも2つのシステインを含むものである〔5〕〜〔7〕の製造方法。
〔9〕〔5〕〜〔8〕の製造方法により製造されたピエリシン−1。
〔10〕配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドよりなる群から選択される1以上を有効成分として含有するピエリシン−1の毒性阻害剤。
〔11〕毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリー。
発明の効果
0011
本発明の方法によれば、毒性のため従来の宿主細胞を用いるタンパク質発現系での発現が困難であった毒性タンパク質について、その活性を阻害するペプチドを宿主細胞内で簡便に効率よくスクリーニングできるとともに、該毒性タンパク質を発現させ、大量生産することができる。本発明の方法は、毒性タンパク質の発現が困難なために、阻害剤スクリーニングを行うことができず、創薬研究が実施困難な毒性タンパク質に対して、タンパク質の発現と阻害剤の取得を同時に行うことができる系として非常に有用である。
図面の簡単な説明
0012
取得したコロニーを用いたwestern blottingによるタンパク質発現を示す図である。コントロールは、無細胞合成系にて合成したピエリシン−1のN末端ドメイン(1−233残基)である。
フォワードプライマーを用いたシーケンス解析結果の図である。実線で囲んだ部分がピエリシン−1の配列、破線で囲んだ部分がプロテアーゼ認識配列、二重線で囲んだ部分がペプチド配列である。
リバースプライマーを用いたシーケンス解析結果の図である。実線で囲んだ部分がピエリシン−1の配列、破線で囲んだ部分がプロテアーゼ認識配列、二重線で囲んだ部分がペプチド配列である。
取得したコロニーを用いたwestern blottingによるタンパク質発現を示す図である。コントロールは、無細胞合成系にて合成したピエリシン−1のN末端ドメイン(1−233残基)である。
リバースプライマーを用いたシーケンス解析結果の図である。実線で囲んだ部分がピエリシン−1の配列、破線で囲んだ部分がプロテアーゼ認識配列、二重線で囲んだ部分がペプチド配列である。
リバースプライマーを用いたシーケンス解析結果の図である。実線で囲んだ部分がピエリシン−1の配列、破線で囲んだ部分がプロテアーゼ認識配列、二重線で囲んだ部分がペプチド配列である。
0013
本明細書において、アミノ酸配列及び塩基配列の同一性(相同性)は、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX(ゼネティックス社製)を用いたLipman−Pearson法(Lipman, D. J. and Pearson,W. R. 1985. Rapid and sensitive protein similarity searches. Science227:1435-1441)によるホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いることができる。パラメーターとしては、Unit Size to compare=2、Pick up Location=5とし、結果を%表示させて行う。
0014
また、遺伝子とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAを包含する趣旨であり、またその長さに何ら制限されるものではない。また、ポリヌクレオチドとしては、RNA、DNAを例示でき、DNAは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAを包含する。
0015
本発明の方法は、毒性タンパク質の活性を阻害するペプチドのスクリーニング方法であるという側面と、毒性タンパク質の製造方法であるという側面を有し、毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子が組み込まれたベクターを含むベクターライブラリーで宿主細胞を形質転換する工程(第一の工程)と、形質転換された前記宿主細胞を培養してコロニーを得る工程(第二の工程)とを含む。毒性タンパク質の製造方法においては、さらに、毒性タンパク質を単離する工程(第三の工程)を含む。
0016
本発明の方法では、毒性タンパク質及び任意のペプチドを宿主細胞に導入して同時に発現させる。該任意のペプチドが毒性タンパク質の活性を阻害する機能を有している場合には、宿主細胞中で活性が阻害された状態の毒性タンパク質が発現されるため、形質転換体のコロニーが得られる。一方、該任意のペプチドがかかる機能を有していない場合には、宿主細胞中で毒性タンパク質が活性を保持したまま発現される結果、宿主細胞が死滅し、コロニーは得られない。すなわち、本発明の方法では、宿主細胞の生死判定に基づき、毒性タンパク質に対し阻害活性を示すペプチドを取得できるとともに、宿主細胞中で毒性タンパク質を発現させることができる。ここで、「任意のペプチドが毒性タンパク質の活性を阻害する」とは、該任意のペプチドが該毒性タンパク質と相互作用し、該毒性タンパク質の活性を低下又は消失させることをいう。
0017
本発明の方法の第一の工程は、毒性タンパク質及び任意のペプチド、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドという2又は3のコンポーネントからなる融合タンパク質をコードする遺伝子を含むコンストラクトを作製し、該コンストラクトをタンパク質発現用のベクターに組み込み、得られた任意のペプチドの配列が異なる複数のベクターを含むベクターライブラリーを用いて宿主細胞を形質転換する工程である。
0018
本発明において、毒性タンパク質とは、該毒性タンパク質を宿主細胞で発現させた場合に、何らかの形で、宿主細胞に病理的な変化をもたらし、直接的な細胞の殺傷害にとどまらず、DNAの切断や塩基の二量体の形成、染色体の切断、細胞分裂装置の損傷、各種酵素活性の低下等といった、細胞の構造や機能上の損傷をもたらすタンパク質をいう。毒性タンパク質としては、特に限定されないが、例えば、プロテアーゼやヌクレアーゼ等の宿主細胞の生命活動の維持に必須の成分の分解酵素、コリシン等のバクテリオシン、ジフテリア毒素等のタンパク質性毒素等が挙げられる。また、毒性を保持する限り、毒性タンパク質の触媒ドメイン等の部分タンパク質も包含される。本発明の方法では、毒性タンパク質の活性を阻害するペプチドをスクリーニングする観点から、毒性タンパク質の活性を阻害する自己阻害ペプチドを有する毒性タンパク質が好ましく、この場合、自己阻害ペプチドよりも強力に活性を阻害するペプチドをスクリーニングすることも可能である。
後記実施例では、毒性タンパク質として、モンシロチョウのさなぎより単離されたピエリシン−1、具体的には配列番号4のアミノ酸配列の1〜233位で示されるアミノ酸配列からなるピエリシン−1のN末端触媒ドメイン、を用いているが、毒性タンパク質はこれに限定されるものではない。ピエリシン−1は、DNAのグアノシンをADPリボシル化し、細胞をアポトーシスへと導く酵素である。ピエリシン−1は、細胞傷害活性が高いことが知られており、例えば、従来の遺伝子組換え技術により大腸菌を形質転換して合成させようとしても、大腸菌が死滅するため形質転換体を取得できず、タンパク質合成を行うことができなかった。本発明の方法によると、ピエリシン−1の活性を阻害するペプチドをスクリーニングでき、かつピエリシン−1の製造が可能となる。
0019
本発明において、プロテアーゼ認識配列とは、配列特異的にタンパク質を切断するプロテアーゼの認識配列をいう。プロテアーゼとしては、タンパク質の構造が安定である温度範囲(例えば4〜37℃)及びpH範囲(例えばpH5.5〜9.0)で活性を示すプロテアーゼが好ましい。かかるプロテアーゼとして市販の酵素を使用してもよく、例えば、7アミノ酸からなる配列ENLYFQG(配列番号6)又はENLYFQS(配列番号7)を認識し、QとG又はSの間を切断するTEVプロテアーゼ(Applied Biological Materials Inc.製)、8アミノ酸からなる配列LEVLFQGP(配列番号8)を認識し、QとGの間を切断するHRV3Cプロテアーゼ(タカラバイオ株式会社製)等が例示される。
0020
本発明において、任意のペプチドとは、任意のアミノ酸配列からなる、毒性タンパク質の活性を阻害するペプチドの候補となるペプチドである。ペプチドの長さは、特に限定されないが、通常3〜50アミノ酸であり、5〜40アミノ酸が好ましく、8〜30アミノ酸がより好ましく、10〜20アミノ酸が特に好ましい。ペプチドを構成するアミノ酸配列は、特に限定されず、ペプチドの配列長が15アミノ酸であると仮定すると、理論上、2015種類の任意のアミノ酸配列が可能である。このようなペプチドのうち、還元環境の違いをいかしてペプチドのフォールディングを変化させる観点から、システイン(Cys)を2つ以上含むペプチドが好ましく、CysとCysの間隔が3アミノ酸以上8アミノ酸以下あいているペプチドがより好ましく、1、7、13及び17番目のアミノ酸がCysであるペプチドがさらに好ましい。
0021
毒性タンパク質及び任意のペプチド、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドという2又は3のコンポーネントからなる融合タンパク質をコードする遺伝子を含むコンストラクトは、通常の遺伝子工学的手法により作製すればよく、例えば、毒性タンパク質をコードする塩基配列及び任意のペプチドをコードする塩基配列、又は毒性タンパク質をコードする塩基配列、プロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列、及び任意のペプチドをコードする塩基配列の情報をもとにフォワードプライマー及びリバースプライマーを設計し、毒性タンパク質を産生する生物のDNAを鋳型として常法のPCR法にて容易に得ることができる。
ここで、毒性タンパク質をコードする塩基配列及び任意のペプチドをコードする塩基配列、又は毒性タンパク質をコードする塩基配列、プロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列、及び任意のペプチドをコードする塩基配列は、発現可能に連結されていることを必要とする。「発現可能に連結されている」とは、これらの塩基配列を含むコンストラクトが、適切なプロモーターを含むベクターに挿入され、該ベクターが適切な宿主細胞に導入された場合に、毒性タンパク質及び任意のペプチドを含む融合タンパク質、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドを含む融合タンパク質が生産されることをいう。また、「連結」とは、上記の2又は3の塩基配列が直接結合している場合も、他の塩基配列を介して結合している場合も含む概念である。各塩基配列の連結順は、プロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列を含む場合に、該配列が毒性タンパク質をコードする塩基配列及び任意のペプチドをコードする塩基配列に挟まれるように配置されている限り、特に制限されない。コンストラクト作製時には、連結順に応じて、フォワードプライマー及びリバースプライマーを適宜設計すればよい。
以下に、該コンストラクトのより具体的な作製方法の一例について説明するが、該コンストラクトの作製方法は、なんらこれに限定されるものではない。
0022
毒性タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、該毒性タンパク質を産生する生物のDNAのシーケンス情報、既知のデータベースの塩基配列情報等を参考に得ればよい。毒性タンパク質をコードする遺伝子としては、上記で得られる塩基配列からなる遺伝子の他、該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、挿入、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つ毒性を有するタンパク質をコードする遺伝子、該塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つ毒性を有するタンパク質をコードする遺伝子も包含される。ここで、1若しくは数個とは、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個をいう。
0023
プロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列は、使用するプロテアーゼの認識配列を構成するアミノ酸配列を塩基配列に変換して得ればよい。アミノ酸配列を塩基配列に変換する際には、形質転換に用いる宿主細胞におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。
0024
任意のペプチドをコードする塩基配列は、ペプチド長に対応する数の塩基からなる任意の塩基配列であり、塩基の種類は限定されない。任意のペプチド中にCysを含む場合は、相当する位置の塩基配列がCysをコードするコドンの配列となるようにすればよい。
0025
フォワードプライマーは、毒性タンパク質をコードする遺伝子の5’末端の開始コドンを含む塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを好適に用いることができる。一方、リバースプライマーは、任意のペプチドをコードする塩基配列と相補的な配列及び毒性タンパク質をコードする遺伝子の3’末端の終止コドンを除く塩基配列と相補的な配列、又は任意のペプチドをコードする塩基配列と相補的な配列、プロテアーゼ認識配列をコードする塩基配列と相補的な配列、及び毒性タンパク質をコードする遺伝子の3’末端の終止コドンを除く塩基配列と相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドを好適に用いることができる。リバースプライマーにおける任意のペプチドをコードする塩基配列と相補的な塩基配列としては、該塩基配列よりPCRにて増幅されるDNA断片が可能な塩基配列の混合物となるよう、該塩基配列を構成する各塩基がアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)及びシトシン(C)の混合物であるNであることが好ましい。あるいは、任意のペプチドをコードする塩基配列と相補的な塩基配列として、終止コドンの発生確率を下げるため、コドンNNKの相補鎖であるMNNという塩基配列を繰り返してもよい。また、コンストラクトのベクターへの組み込みを容易にするために、プライマーの5’末端側に制限酵素切断のための配列を付加することもできる。これらのプライマーとしては、化学合成したものを用いればよい。プライマーの長さは、特に限定されないが、鋳型とアニールする長さが、10〜50個の連続した塩基であることが好ましく、15〜35個の連続した塩基であることがより好ましい。
0026
毒性タンパク質及び任意のペプチド、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドという2又は3のコンポーネントからなる融合タンパク質をコードする遺伝子を含むコンストラクトは、上述のフォワードプライマーとリバースプライマーを1セットにし、毒性タンパク質を産生する生物のDNA等を鋳型としてPCR反応を行うことで、得ることができる。かくしてPCRにより得られるコンストラクトは、任意のペプチドの配列が異なる様々なコンストラクトの混合物である。なお、PCRの条件は、プライマー長、増幅断片長、用いるポリメラーゼの種類等を考慮して、適宜決定すればよい。
0027
本発明において、ベクターとしては、宿主細胞中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられるが、操作性の観点から、プラスミドベクターが好ましい。ベクターの構築に用いられるベクターDNAは、広く普及した入手の容易なものが好適に用いられ、例えば、pUC19(タカラバイオ株式会社製)、pTV118N(タカラバイオ株式会社製)、pGEX(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)、pET160(Invitrogen製)、pDEST(Invitrogen製)、pET−coco−2(Merck Millipore製)等が挙げられる。
0028
上記ベクターは、DNAの複製開始領域又は複製起点を含むDNA領域を含み得る。あるいは、上記ベクターにおいては、本発明の毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子の上流に、プロモーター領域、ターミネーター領域、又はシグナル領域等の制御配列が作動可能に連結されていてもよい。ここで、遺伝子と制御配列が「作動可能に連結されている」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域による制御の下に発現し得るように配置されていることをいう。
上記プロモーター領域、ターミネーター領域、シグナル領域等の制御配列の種類は、特に限定されず、導入する宿主に応じて、通常使用される制御配列を適宜選択して用いることができる。
あるいは、上記ベクターにおいては、本発明の毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子に、毒性タンパク質の単離を容易にするためのタグ配列が作動可能に連結されていてもよい。かかるタグ配列としては、特に限定されないが、例えば、Hisタグ、GSTタグ、GFPタグ、HAタグ等が挙げられる。
あるいは、上記ベクターには、該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコール等の薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。あるいは、宿主に栄養要求性株を使用する場合、要求される栄養の合成酵素をコードする遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。またあるいは、生育のために特定の代謝を必須とする選択培地を用いる場合、該代謝の関連遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。
0029
かかるベクターへの毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子を含むコンストラクトの導入は、通常のDNA組換え技術により行うことができる。例えば、ベクター及びコンストラクトを適当な制限酵素で切断し、ライゲーションすればよい。かくして得られるコンストラクトを含むベクターは、毒性タンパク質及び任意のペプチドをコードする遺伝子、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列、及び任意のペプチドをコードする遺伝子を発現でき、かつ任意のペプチドの配列がそれぞれ異なるベクターの混合物、すなわちベクターライブラリー(ランダムベクターライブラリー)である。
0030
本発明において、宿主細胞とは、外来遺伝子を発現できる細胞であればよい。宿主細胞としては、大腸菌、枯草菌等の細菌、酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞等が挙げられ、これらのうち、低コストで、増殖が速く、発現のコントロールが容易である観点から大腸菌が好ましい。また、宿主細胞としては、形質転換後の生死判定を容易にする観点から、毒性タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞に導入した場合に、該宿主細胞の生命活動が一部又は完全に阻害される細胞が好ましい。
0031
ベクターライブラリーを用いて宿主細胞を形質転換するには、プロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法、ヒートショック法等の当該分野で通常使用される方法を用いることができる。
0032
本発明の方法の第二の工程は、上記で形質転換した宿主細胞を適切な培地で培養し、導入が適切に行われた形質転換体をマーカー遺伝子の発現等を指標に選択し、生育してきたコロニーを得る工程である。形質転換にはベクターライブラリーを用いるが、1つの宿主細胞に導入されるのは、1種類のベクター、すなわち毒性タンパク質及びある特定の1種の任意のペプチド、又は毒性タンパク質、プロテアーゼ認識配列及びある特定の1種の任意のペプチドを発現するベクターのみである。この任意のペプチドが毒性タンパク質の活性を阻害する機能を有している場合には、合成された毒性タンパク質は不活化され、宿主細胞に対する毒性を示さないため、形質転換体のコロニーが形成される。一方、この任意のペプチドがかかる機能を有していない場合には、合成された毒性タンパク質は活性を示し、その毒性により宿主細胞が死滅し、コロニーは形成されない。すなわち、本工程は、宿主細胞の生死判定に基づき、毒性タンパク質に対し阻害活性を示すペプチドを発現している形質転換体をスクリーニングする工程である。阻害ペプチドの配列は、例えば、生育してきたコロニーを形成する細胞より、常法に従って、DNAを抽出し、該DNAを鋳型として適宜設定したプライマーを用いてDNA断片を増幅し、該DNA断片の塩基配列を読み取り、該塩基配列をアミノ酸配列に変換することで得ることができる。また、本工程は、毒性タンパク質の活性を阻害する機能を有するペプチドを利用して、宿主細胞中で毒性タンパク質を発現させる工程でもある。
0033
本発明の毒性タンパク質の製造方法は、さらに、第三の工程として、毒性タンパク質を単離する工程を含む。本工程は、得られたコロニーを培養し、培養物から発現した毒性タンパク質を単離する工程である。コロニーの培養に使用する培地や培養条件は、宿主細胞の種類にあわせて、当業者が適宜選択することができる。また、本発明の毒性タンパク質の製造方法は、さらに、単離した毒性タンパク質を精製する工程を含んでいてもよい。毒性タンパク質の単離及び/又は精製には、当該分野で一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いればよい。
単離された毒性タンパク質は、ペプチドにより活性が阻害されている状態である。毒性タンパク質にプロテアーゼ認識配列が連結されている場合には、該認識配列を切断するプロテアーゼによりペプチドを切り離すことで、毒性タンパク質の活性体を得ることができる。ペプチドの切断の有無は、SDS−PAGE等で容易に確認することができる。あるいは、ペプチドに少なくとも2つのCysを含んでいる場合には、還元環境の違いに基づき、培養物から毒性タンパク質を単離することで該毒性タンパク質の活性体を得ることができる。これは、細胞内は還元的な環境であるため、Cysを含むペプチドは直鎖構造をとり、該構造により毒性タンパク質の活性を阻害するが、単離後に環境を非還元的にすることで、Cysを含むペプチド内でジスルフィド結合が形成されてペプチドのフォールディングが変化し、ペプチドが毒性タンパク質から解離して阻害能を消失することを利用するものである。
0034
後記実施例に示す通り、本発明の方法によれば、毒性タンパク質であるピエリシン−1、具体的にはピエリシン−1のN末端触媒ドメイン(配列番号4のアミノ酸配列の1〜233位で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)、の活性を阻害するペプチドをスクリーニングできるとともに、宿主細胞にてピエリシン−1を発現させることができる。かかる阻害ペプチドは、CLLMIRCLQFSVCGGSCで表されるアミノ酸配列(配列番号1)、GKNLNRSAPRで表されるアミノ酸配列(配列番号2)、又はGHAEEYDDAAARDSVで表されるアミノ酸配列(配列番号3)からなり、ピエリシン−1の毒性阻害剤の有効成分として有用である。本発明において、ピエリシン−1の毒性阻害剤は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドよりなる群より選択される1種以上が含まれていればよいが、これ以外に、医薬用無毒性担体、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。ピエリシン−1の毒性阻害剤によりピエリシン−1の毒性を阻害するには、該阻害剤をピエリシン−1に接触せしめればよい。該阻害剤の使用量は、ピエリシン−1の使用量に応じて適宜決定すればよいが、例えば、ピエリシン−1の1質量部に対し、阻害ペプチドとして1質量部以上100質量部以下が好ましく、5質量部以上50質量部以下がより好ましい。
0035
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
0036
実施例1
方法
(1)ピエリシン−1を含むDNA断片の作製
ユーロフィンジェノミクス株式会社より購入した、配列番号5の塩基配列からなるピエリシン−1の人工遺伝子をコードしたプラスミドを使用し、下記表1に記載の2種類のプライマーセットを用いてそれぞれPCRを行った。配列番号5の塩基配列は、ピエリシン−1遺伝子について配列最適化を行った配列である。フォワードプライマーは、ピエリシン−1遺伝子の5’末端領域のアンチセンス鎖と相補的な塩基配列を含み、リバースプライマーは、任意のペプチドをコードする塩基配列と相補的な配列、TEVプロテアーゼの認識配列(配列番号6)をコードする塩基配列と相補的な配列、及びピエリシン−1遺伝子の触媒領域の3’末端領域のセンス鎖と相補的な配列を含む。なお、C5×2系リバースプライマーにより付加される任意のペプチド配列は、1、7、13及び17番目のアミノ酸がCysである17アミノ酸からなる配列であり、C6×2系リバースプライマーにより付加される任意のペプチド配列は、1、8、15及び19番目のアミノ酸がCysである19アミノ酸からなる配列である。任意のペプチド配列中の上記特定の位置におけるCys以外のアミノ酸については、終止コドンの発生確率を下げるべくコドンNNKを使用したため、これらリバースプライマーには、NNKの相補鎖であるMNNという塩基配列を含む。該プライマーセットを用いてPCRを行うことにより、ピエリシン−1のN末端触媒ドメインをコードする塩基配列の下流に、TEVプロテアーゼの認識配列をコードする塩基配列と任意のペプチドをコードする塩基配列が発現可能に連結されたDNA断片を増幅した。PCRはKODplus neo(東洋紡株式会社製)を用いて行い、表2の反応溶液組成及び表3の反応条件にて実施した。PCR後、反応溶液を1.5%アガロースゲル(Agarose LO3「TAKARA」、タカラバイオ株式会社製)を用いてアガロースゲル電気泳動を行った。電気泳動後、SYBR Green I Nucleic Acid Gel strain(ロンザジャパン株式会社製)を用いて染色を行い、目的のバンドをゲルから切り出した。切り出したゲルから、QIAquick Gel extraction kit(QIAGEN製)を用いてDNA抽出を行った。
0037
0038
0039
0040
(2)ベクター及びDNA断片の制限酵素処理
pETcoco−2ベクター(Merck Millipore製)を用いて発現用ベクターの構築を行った。pETcoco−2ベクターは、形質転換後の大腸菌内におけるコピー数を制御できるタンパク質発現用ベクターである。通常培地にて培養している間はコピー数が大腸菌内で1コピー程度に保たれているが、アラビノースを添加することにより40コピー程度に増加させることができる。
pETcoco−2ベクターと、(1)にて作製したピエリシン−1のC5×2系、C6×2系のDNA断片を、NheI−HF及びHind III HF(ともにニュー・イングランド・バイオラボ・ジャパン株式会社製)を用いて制限酵素処理した。制限酵素処理後、pETcoco−2ベクターは0.8%アガロースゲルを用いて電気泳動を行った後、目的バンドのゲルからの切り出しを行い、QIAquick Gel extraction kitを用いてDNA抽出を行った。抽出したpETcoco−2ベクターは、E.coli alkaline phosphatase(東洋紡株式会社製)を用いて脱リン酸化処理を行い、処理後Nucleospin gDNA Clean−up(タカラバイオ株式会社製)を用いて精製を行った。DNA断片は、制限酵素処理後にNucleospin gDNA Clean−upを用いて精製を行った。
0041
(3)ベクターとDNA断片のライゲーション反応
ライゲーション反応には2種類のライゲーション試薬を用いて反応を行った。
(i)ligation high ver2(東洋紡株式会社製)を用いたライゲーション
(2)にて作製したC5×2系、C6×2系のDNA断片2μLと、(2)にて作製したベクター8μL及びligation high ver 2 10μLを混ぜ、16℃、2時間反応させた。
(ii)ligation convenient kit(ニッポンジーン社)を用いたライゲーション
(2)にて作製したC5×2系、C6×2系のDNA断片2μLと、(2)にて作製したベクター8μL及びligation convenient kit 10μLを混ぜ、16℃、10分反応させた。
0042
(4)大腸菌の形質転換、及び取得したコロニーの培養
タンパク質発現用ホストとして、大腸菌株Tuner(DE3)pLysS(Merck Millipore製)を使用した。Tuner(DE3)pLysSのコンピテントセル200μLに対し、(3)にて作製したライゲーション反応後の溶液1μLを添加し、42℃、45秒によるヒートショック法にて形質転換を行った。形質転換後37℃にてSOC培地による回復培養を行い、2300g、10分にて遠心処理を行い菌体を回収した後、50μg/mLカルベニシリンを含むLB寒天培地にて37℃で一晩培養を行った。培養後に形成されたコロニーを50μg/mL カルベニシリンを含むLB液体培地に植菌し、37℃で一晩培養した。翌日、培養液の一部を用いて16%グリセロールを含む、取得コロニー(菌株)のグリセロールストックを作製し、液体窒素で凍結させた後、−80℃で保存した。
0043
(5)タンパク質の発現誘導
(4)にて作製した菌液を用いてタンパク質の発現を行った。0.2%グルコース及び50μg/mLカルベニシリンを含むLB液体培地に(4)で培養した培養液を用いて植菌を行い、濁度OD600が約1.0になるまで37℃にて振とう培養を行った。OD600が約1.0に達した後、培養液を回収、2300g、10分にて遠心処理を行った。遠心処理後、上清を捨て、10mLの50μg/mL カルベニシリンを含むLB液体培地にペレットを懸濁した後、IPTGを終濃度0.1mM、L−arabinoseを終濃度0.01%になるよう添加し、20℃にて一晩振とう培養を行った。
0044
(6)菌体破砕及び発現解析用サンプルの調製
(5)にて作製した培養液を、2300g、10分にて遠心処理した。上清を捨て、菌体を破砕用buffer(50mM Tris−HCl pH7.5、250mM NaCl、5% glycerol)4mLに懸濁した。懸濁後、超音波を用いた菌体の破砕を行い、破砕液を用いてSDS−PAGE用のサンプル調製を行った。サンプル調製には、Bolt LDS Sample Buffer(4×)及びBolt Sample Reducing Agent(10×)(共にThermo Fisher Scientific K.K.製)を用いた。
0045
(7)Western blottingによる解析
(6)にて調製したサンプルについて、western blottingにてピエリシン−1合成の有無を確認した。SDS−PAGE用のゲルとしてBolt 4−12% Bis−Tris Plusを、泳動用bufferとしてNuPAGE MESSDS Running Buffer(20×)を20倍希釈して使用した(ともにThermo Fisher Scientific K.K.製)。一次抗体として抗ピエリシン−1ウサギ抗体を使用し、二次抗体としてAnti−RabbitIgG,HRP−Linked Whole Ab Donkey(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を使用、発色にAmarshamECLPrime(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を使用した。解析に際して、コントロールとして無細胞合成系にて合成した1−233残基からなるピエリシン−1を使用した。
0046
(8)ピエリシン−1の発現が確認された菌株にて発現しているペプチドの配列解析
(7)にてピエリシン−1の発現が確認できた菌株にて、ピエリシン−1のC末端に付加されているペプチド配列を特定するためにシーケンス解析を行った。
(4)にて作製した培養液のうち、グリセロールストック及びタンパク質の発現誘導に使用した分を除く残りの培養液を2300g、10分遠心処理した。上清を捨て、ペレットよりQiaprep spin miniprep kit(QIAGEN製)を用いてプラスミド抽出を行った。得られたプラスミド溶液と表4のシーケンス解析用プライマーを用いてPCRを行った。PCRの反応溶液組成及び反応条件は表2及び表3の条件で実施した(プラスミド溶液の濃度のみ0.26μg/μLとして実施)。反応後、エタノール沈殿を行い、ペレットを乾燥後50μLのTE bufferに溶解し、DNA溶液を作製した。作製したDNA溶液を用いて、BigDye terminator ver3.1 Cycle Sequencing kit(Thermo Fisher scienific K.K.製)及び3500xL genetic analyzer(Thermo Fisher scienific K.K.製)を用いたシーケンシングを行った。解析には、表4に示したフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いた。
0047
0048
結果
(1)形質転換結果
方法(4)の形質転換実験の結果、C5×2系を用いてligation convenient kitを使用した系にて、実験を2回実施し、計3個のコロニーを取得した。また、C6×2系を用いてligation high ver2を使用した系にて、実験を1回実施し、1個のコロニーを取得した。このうち、C5×2系にて取得したコロニーを培養し、方法(5)での実験に使用した。
大腸菌に毒性を示さないタンパク質をコードする遺伝子を本実施例と同様に大腸菌に導入した場合、通常は無数のコロニーを取得することができる。しかしながら、本実施例で取得できたコロニー数は非常に少なかった。ピエリシン−1の細胞傷害活性が非常に高く、かかる活性を阻害するペプチドの配列は限定されていると予想されるところ、任意のペプチドの大半は、ピエリシン−1に対して阻害活性を示さない、または中程度の阻害活性を持つペプチドであり、これらはピエリシン−1の活性を完全に抑えきれないため大腸菌は死滅したが、ピエリシン−1に対して強固に阻害活性を示すペプチドもごく少量存在しており、かかるペプチドにより大腸菌が生存することができ、非常に少量であったもののコロニーを形成できたと考えられる。
このように、本実施例ではピエリシン−1の活性ゆえに取得できたペプチドが非常に少なかったが、このことは一方で本発明の方法の高い選択圧と感度を示していると考えられる。
0049
(2)Western blottingによる発現解析結果
図1にwestern blottingの結果を示した。C5×2系にて取得したコロニーについて、コントロールと同様の強度のバンドを確認することができた。このことから、C5×2系にて取得したコロニー(菌株)はピエリシン−1を発現していることが分かった。なお、取得菌株由来のバンドは、コントロールのバンドより高分子側にシフトしていたが、これは、コントロールのアミノ酸残基数が233であるのに対し、取得菌株では、ピエリシン−1のC末端にプロテアーゼ認識配列とペプチド配列を含む30残基が、N末端にpETcoco−2ベクター由来のHisタグ配列の10残基が付加されているため、アミノ酸残基数が273であることに起因するものと考えられる。
0050
(3)シーケンス解析結果
方法(8)にて実施したシーケンス解析の結果を図2及び3に示した。図2はフォワードプライマーを用いたシーケンス結果を、図3はリバースプライマーを用いたシーケンス結果を示す。図中、実線で囲んだ部分がピエリシン−1の配列、破線で囲んだ部分がプロテアーゼ認識配列、二重線で囲んだ部分がペプチド配列である。シーケンス解析の結果、ピエリシン−1の発現が確認できたコンストラクトは、ピエリシン−1配列、プロテアーゼ認識配列、ペプチド配列を有し、該ペプチドの配列はCLLMIRCLQFSVCGGSC(配列番号1)であることが明らかとなった。従来の方法では大腸菌で発現できなかったピエリシン−1を発現できたことから、該ペプチドがピエリシン−1の毒性を阻害するペプチドであると考えられた。
0051
実施例2
方法
ピエリシン−1を含むDNA断片の作製にあたり、下記表5に記載のプライマーセットを用いた以外は、実施例1の方法(1)〜(7)と同様にして、ピエリシン−1の発現解析を行った。なお、15aaリバースプライマーにより付加される任意のペプチド配列は、15アミノ酸からなるペプチド配列である。また、実施例1の方法(8)と同様にしてペプチドの配列解析を行った。ただし、リバース側からの解析のみ行った。
0052
0053
結果
(1)形質転換結果
方法(4)の形質転換実験の結果、ligation convenient kitを使用した系にて、実験を1回実施し、3個のコロニーを取得した。また、ligation high ver2を使用した系にて、実験を1回実施し、2個のコロニーを取得した。このうちの4個のコロニーを培養し、方法(5)での実験に使用した。
0054
(2)Western blottingによる発現解析結果
図4にwestern blottingの結果を示した。取得した4個のコロニー(菌株)について、ピエリシン−1の発現を確認することができた。このうち、発現が強い菌株2及び4を、方法(8)の配列解析に供した。なお、菌株4由来のバンドは、コントロールのバンドより高分子側にシフトしていたが、これは、コントロールのアミノ酸残基数が233であるのに対し、菌株4では、ピエリシン−1のC末端にプロテアーゼ認識配列とペプチド配列を含む28残基が、N末端にpETcoco−2ベクター由来のHisタグ配列の10残基が付加されているため、アミノ酸残基数が271であることに起因するものと考えられる。一方、菌株2由来のバンドは、コントロールのバンドと菌株4由来のバンドの中間あたりに認められた。よって、ペプチド配列中に終止コドンが生じ、ペプチド配列が想定より短くなったことが予想される。
実施例
0055
(3)シーケンス解析結果
菌株2についてのシーケンス解析の結果を図5に、菌株4についてのシーケンス解析の結果を図6に示した。図中、実線で囲んだ部分がピエリシン−1の配列、破線で囲んだ部分がプロテアーゼ認識配列、二重線で囲んだ部分がペプチド配列である。シーケンス解析の結果、ピエリシン−1の発現が確認できた菌株2及び4は、ともにピエリシン−1配列、プロテアーゼ認識配列、及びペプチド配列を含むコンストラクトを有していることが明らかとなった。菌株2において提示されていたペプチドは、配列中の終止コドンの出現のため、設計よりも5残基少ない10残基のペプチドであり、その配列はGKNLNRSAPR(配列番号2)であった。一方、菌株4では、設計通りの15残基のペプチド配列が付加されており、その配列はGHAEEYDDAAARDSV(配列番号3)であった。従来の方法では大腸菌で発現できなかったピエリシン−1を発現できたことから、該ペプチドがピエリシン−1の毒性を阻害するペプチドであると考えられた。
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