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技術 4層構造を利用した展開制御可能な薬剤徐放シート

出願人 国立大学法人東北大学
発明者 梶弘和佐藤悠人永井展裕阿部俊明
出願日 2019年3月28日 (1年10ヶ月経過) 出願番号 2019-062317
公開日 2020年10月1日 (4ヶ月経過) 公開番号 2020-156968
状態 未査定
技術分野 媒体導出入付与装置 化合物または医薬の治療活性 眼耳の治療、感覚置換 医薬品製剤
主要キーワード 棒状器具 局面形状 デバイス側面 狭小領域 直線的形状 ガード層 さく薬 多層シート構造
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2020年10月1日)のものです。
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図面 (20)

課題

注射器を用いることで、低侵襲体内送達を可能とするドラッグデリバリーデバイスを提供する。

解決手段

薬剤長期徐放するための、薬剤の放出を制御するための放出制御層、薬剤を保持するための薬剤層、薬剤が放出制御層側と反対側から放出させるのを防ぐためのガード層及びシートの曲がり方を制御するための展開層の4層構造を有するシート型薬剤徐デバイスであって、各層はポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDM)とトリエチレングリコールジメタクリレートTEGDM)の混合物でできており、PEGDMの体積比(%)であるPT比で表した場合の混合比が以下のとおりである、シート型薬剤徐放デバイス:放出制御層:P10〜P30、薬剤層:P20〜P55、ガード層:P0〜P20、及び展開層:P80〜P100。

概要

背景

1983年にヒトインスリン製剤Humulin(登録商標)が上市されて以来、様々なバイオ医薬品遺伝子組み換え技術を用いて開発されてきた。バイオ医薬品の登場によって従来では治療が困難であった疾患に対して有効な治療が可能となった。加齢黄斑変性をはじめとする難治性網膜疾患もバイオ医薬品によって有効な治療が可能となった疾患である。しかし、バイオ医薬品には未だ投与上の課題が存在している。タンパク質製剤分子量が非常に大きく、消化管で分解されてしまうために経口投与できない。拡散医薬品の場合は血中では30分程度で酵素分解されてしまう。バイオ医薬品の投与上の課題を解決することは非常に重要である。糖尿病などの慢性疾患や長期療養を必要とする疾患、消耗の激しい疾患において患者への侵襲が激しい治療を継続することは社会的にみて「人間らしい生活」を実現しない。そのため、医学社会学的観点からQOL(Quality of Life)の向上が求められている。これら様々な要因から薬剤を効率的に患部送達でき、長期間使用可能なドラッグデリバリーシステム(DDS)が注目を集めている。

抗VEGF抗体の登場によって難治性網膜疾患の治療技術は大きく進歩を遂げた。網膜疾患に対して種々の方法で薬剤が投与されている。例えば、臨床利用されている眼内注射では、高い薬の移行率がメリットであるが、頻繁に注射をしなければならないことや感染症リスクもあり、患者への負担が大きいことがデメリットになっている。そのため、眼球上に留置するタイプの薬剤送達デバイスを用いた方法が注目されている。経強膜DDSデバイス局所性制御性を持った薬の送達が可能で、感染症リスクが低いこともメリットになっている。したがって、長期間の治療に適していると言えるが、一方で移植の際の切開縫合といった操作がデメリットとしてあげられる。これまでに、数々のDDS手法が開発されてきたが(特許文献1〜4を参照)、送達のためには、切開、縫合を要しており、低侵襲な体内送達という面で改善の余地があった。

概要

注射器を用いることで、低侵襲な体内送達を可能とするドラッグデリバリーデバイスを提供する。薬剤を長期徐放するための、薬剤の放出を制御するための放出制御層、薬剤を保持するための薬剤層、薬剤が放出制御層側と反対側から放出させるのを防ぐためのガード層及びシートの曲がり方を制御するための展開層の4層構造を有するシート型薬剤徐デバイスであって、各層はポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDM)とトリエチレングリコールジメタクリレートTEGDM)の混合物でできており、PEGDMの体積比(%)であるPT比で表した場合の混合比が以下のとおりである、シート型薬剤徐放デバイス:放出制御層:P10〜P30、薬剤層:P20〜P55、ガード層:P0〜P20、及び展開層:P80〜P100。

目的

本発明は、注射器を用いることで、低侵襲な体内送達を可能とするDDSデバイスの提供を目的とする

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

薬剤長期徐放するための、薬剤の放出を制御するための放出制御層、薬剤を保持するための薬剤層、薬剤が放出制御層側と反対側から放出されるのを防ぐためのガード層及びシートの曲がり方を制御するための展開層の4層構造を有するシート型薬剤徐デバイスであって、各層はポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDM)とトリエチレングリコールジメタクリレートTEGDM)の混合物でできており、PEGDMの体積比(%)であるPT比で表した場合の混合比が以下のとおりである、シート型薬剤徐放デバイス:放出制御層:P10〜P30薬剤層:P20〜P55、ガード層:P0〜P20、及び展開層:P80〜P100。

請求項2

丸めて細管中に挿入し、該細管を通して射出により生体内送達し得る、請求項1記載のシート型薬剤徐放デバイス。

請求項3

体内に送達後に自己展開し、治療対象となる患部の局面に密着し得る、請求項1又は2に記載のシート型薬剤徐放デバイス。

請求項4

各層の厚さが以下のとおりであり、トータルの厚さが30〜140μmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシート型薬剤徐放デバイス:放出制御層:5〜10μm、薬剤層:10〜100μm、ガード層:5〜10μm、及び展開層:10〜20μm。

請求項5

薬剤層に眼病疾患治療用薬剤を含み眼病治療用薬剤持続的に投与するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート型薬剤徐放デバイス。

請求項6

脈絡膜より上で結膜より下の部分すなわち強膜下、強膜内、強膜上、結膜下又は脈絡膜上である強膜に送達され、自己展開により、曲率半径が強膜に密着するように制御される、請求項5記載のシート型薬剤徐放デバイス。

請求項7

眼病疾患が、網膜色素変性症加齢黄斑変性症白内障緑内障黄斑網膜上皮形成症、中心性網脈絡膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈分岐閉塞症糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、網膜剥離、及び黄斑円孔からなる群から選択される、請求項5又は6に記載のシート型薬剤徐放デバイス。

技術分野

0001

本発明は、薬物送達デバイスの分野に関する。具体的には多層シート構造を有し内部に治療又は予防用薬剤を含み、生体内に埋め込むことが可能な薬物徐デバイスに関する。

背景技術

0002

1983年にヒトインスリン製剤Humulin(登録商標)が上市されて以来、様々なバイオ医薬品遺伝子組み換え技術を用いて開発されてきた。バイオ医薬品の登場によって従来では治療が困難であった疾患に対して有効な治療が可能となった。加齢黄斑変性をはじめとする難治性網膜疾患もバイオ医薬品によって有効な治療が可能となった疾患である。しかし、バイオ医薬品には未だ投与上の課題が存在している。タンパク質製剤分子量が非常に大きく、消化管で分解されてしまうために経口投与できない。拡散医薬品の場合は血中では30分程度で酵素分解されてしまう。バイオ医薬品の投与上の課題を解決することは非常に重要である。糖尿病などの慢性疾患や長期療養を必要とする疾患、消耗の激しい疾患において患者への侵襲が激しい治療を継続することは社会的にみて「人間らしい生活」を実現しない。そのため、医学社会学的観点からQOL(Quality of Life)の向上が求められている。これら様々な要因から薬剤を効率的に患部送達でき、長期間使用可能なドラッグデリバリーシステム(DDS)が注目を集めている。

0003

抗VEGF抗体の登場によって難治性網膜疾患の治療技術は大きく進歩を遂げた。網膜疾患に対して種々の方法で薬剤が投与されている。例えば、臨床利用されている眼内注射では、高い薬の移行率がメリットであるが、頻繁に注射をしなければならないことや感染症リスクもあり、患者への負担が大きいことがデメリットになっている。そのため、眼球上に留置するタイプの薬剤送達デバイスを用いた方法が注目されている。経強膜DDSデバイス局所性制御性を持った薬の送達が可能で、感染症リスクが低いこともメリットになっている。したがって、長期間の治療に適していると言えるが、一方で移植の際の切開縫合といった操作がデメリットとしてあげられる。これまでに、数々のDDS手法が開発されてきたが(特許文献1〜4を参照)、送達のためには、切開、縫合を要しており、低侵襲な体内送達という面で改善の余地があった。

先行技術

0004

国際公開第WO2011/021594号
特開2015-093869号公報
特開2017-086313号公報
国際公開第WO2018/143481号

発明が解決しようとする課題

0005

本発明は、注射器を用いることで、低侵襲な体内送達を可能とするDDSデバイスの提供を目的とする。

課題を解決するための手段

0006

本発明者らは、点眼よりもバイオアベイラビリティが高く、眼球自体を切開する必要のない経強膜DDSに着目した。また、従来のデバイスよりも低侵襲な体内送達を実現するために注射針による体内送達を採用した。

0007

本発明者らは、多層構造シート形状にすることで低分子薬品の徐放を可能にし、かつ、デバイス自体の曲率半径を制御することができるDDSデバイスを開発し、本発明を完成させるに至った。

0008

すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]薬剤を長期徐放するための、薬剤の放出を制御するための放出制御層、薬剤を保持するための薬剤層、薬剤が放出制御層側と反対側から放出されるのを防ぐためのガード層及びシートの曲がり方を制御するための展開層の4層構造を有するシート型薬剤徐放デバイスであって、各層はポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDM)とトリエチレングリコールジメタクリレートTEGDM)の混合物でできており、PEGDMの体積比(%)であるPT比で表した場合の混合比が以下のとおりである、シート型薬剤徐放デバイス:
放出制御層:P10〜P30
薬剤層:P20〜P55、
ガード層:P0〜P20、及び
展開層:P80〜P100。
[2] 丸めて細管中に挿入し、細管を通して射出により生体内に送達し得る、[1]のシート型薬剤徐放デバイス。
[3]体内に送達後に自己展開し、治療対象となる患部の局面に密着し得る、[1]又は[2]のシート型薬剤徐放デバイス。
[4] 各層の厚さが以下のとおりであり、トータルの厚さが30〜140μmである、[1]〜[3]のいずれかのシート型薬剤徐放デバイス:
放出制御層:5〜10μm、
薬剤層:10〜100μm、
ガード層:5〜10μm、及び
展開層:10〜20μm。
[5] 薬剤層に眼病疾患治療用薬剤を含み眼病治療用薬剤持続的に投与するための、[1]〜[4]のいずれかのシート型薬剤徐放デバイス。
[6]脈絡膜より上で結膜より下の部分すなわち強膜下、強膜内、強膜上、結膜下又は脈絡膜上である強膜に送達され、自己展開により、曲率半径が強膜に密着するように制御される、[5]のシート型薬剤徐放デバイス。
[7] 眼病疾患が、網膜色素変性症加齢黄斑変性症白内障緑内障黄斑網膜上皮形成症、中心性網脈絡膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈分岐閉塞症糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、網膜剥離、及び黄斑円孔からなる群から選択される、[5]又は[6]のシート型薬剤徐放デバイス。

発明の効果

0009

本発明のシート型デバイスは、初期バーストを抑制した片面徐放、曲率の制御、注射器によるインジェクションが可能であり、薬剤の長期にわたっての徐放を可能にする。特に注射器によりインジェクションにより低侵襲な薬剤の送達を可能にする。

図面の簡単な説明

0010

PT比とポリマーの薬物透過性の関係(図1A)及びPT比とポリマーの膨潤率の関係(図1B)を示す図である。
層構造シートの概略を示す図である。
多層構造シート内における薬物透過の概要を示す図である。左はデバイスの初期状態を示し、右はデバイス内で薬物透過が進行した状態を示す。
4層構造シートの作製手順を示す図である。
作製した4層構造シート型デバイス(図5A)及びインジェクター装填した4層構造シート型デバイスを示す図である。
PEGDM-TEGDMポリマーの曲げ試験の結果を示す図である。図6AはP100、P80、P60、P40、P20及びP0の応力-ひずみ曲線を示し、図6BはPT比と曲げ弾性率の関係を示す図である。
PEGDM-TEGDMポリマーの圧縮試験を示す図である。図7AはP100、P80、P60、P40、P20及びP0の応力-ひずみ曲線を示し、図7BはPT比と曲げ弾性率の関係を示す図である。
3層構造シート型デバイスの断面観察図である。(a)は明視野図、(b)は蛍光視野図を示す。
4層構造シート型デバイスの断面観察図である。
量子ドットを用いた4層構造シートの断面観察図である。(a)は明視野図、(b)は蛍光視野図を示す。
Rhodamineを用いた4層構造シートの断面観察図である。(a)は明視野図、(b)は蛍光視野図を示す。
3層構造シート型デバイスの共焦点顕微鏡による断面蛍光観察図である。
膨潤率の差による曲げの例を示す図である。
3層構造シートの薬剤層の厚さと膨潤後曲率半径の関係を示す図である。
3層構造シートの膨潤後の様子を示す図である。
4層構造シートの展開層厚と膨潤後曲率半径の関係を示す図である。
4層構造シートの膨潤後の挙動を示す図である。図17Aは展開層厚と膨潤後の曲率半径の関係を示し、図17Bは膨潤前後のDDSシートを示し、図17Cは膨潤挙動静止するまでの時間を示す。
P80P20P0P100シートのインジェクション操作方法を示す図である。
P20P40P0P100シートのインジェクション操作方法を示す図である。
膜透過試験機を用いた薬剤徐放の方向性評価の試験系を示す図である。
1層及び3層構造シート型デバイスからのFluoresceinの徐放を示す図である。
薬剤徐放特性とDDSデバイスの層数の関係を示す図である。
膜透過試験機を用いた片面徐放評価の結果を示す図である。
EDV及びCPAの薬剤徐放試験の結果を示す図である。
TMの薬剤徐放試験の結果を示す図である。
CLTの薬剤徐放試験の結果を示す図である。
CYAの薬剤徐放試験の結果を示す図である。
DDSデバイスの移植手術の方法を示す図である。(a)はDDSデバイスのインジェクションの様子を示し、(b)はインジェクションの概要を示す。
経強膜薬剤徐放試験の方法を示す図である。(a)は使用したDDSデバイスを示し、(b)は移植後の眼球の様子を示し、(c)は蛍光濃度の測定場所を示す。
ウサギ結膜下にインジェクションされたDDSデバイスを示す図である。(a)はニードル穿孔した穴からデバイスをインジェクションする様子を示し、(b)は移植後の様子を示し、(c)は移植後の蛍光写真を示す。
摘出した眼球とDDSデバイスを示す図である。(a)は2週間で摘出した眼球を示し、(b)は4週間で摘出した眼球を示し、(c)は2週間で摘出したデバイスの蛍光写真を示し、(d)は4週間で摘出したデバイスの蛍光写真を示し、(e)は2週間で摘出した強膜の蛍光写真を示し、(f)は4週間で摘出した強膜の蛍光写真を示す。
眼球組織移行した薬剤の蛍光濃度を示す図である。

0011

以下、本発明を詳細に説明する。

0012

1.薬剤の片面徐放のためのシート型デバイス
本発明は、薬剤の片面徐放のためのシート型薬剤徐放デバイスである。
本発明のシート型デバイスは、4層構造であること、及びμm厚の薄いシート形状であることを特徴とする。

0013

本発明のデバイスは、4層構造の各層の特性を変えることにより、薬の出方の制御や、シートの曲がり具合の制御が可能となる。4層は薬剤を放出する側から、放出制御層、薬剤層、ガード層及び展開層と呼び、それぞれ独自の役割を有している。すなわち、放出制御層は薬の出方を制御する層であり、薬剤層は治療のために薬剤を保持して含む層であり、ガード層は治療のターゲットと反対の方向に薬が出るのを防ぐ層であり、展開層はシートの曲がり具合を調整する層である。後記のように、ガード層及び展開層が片面徐放に貢献している。また、展開層があることで曲率半径が安定し、器具に挟んでもデバイスが壊れないようになっている。

0014

各層はポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDM:Poly(ethylene glycol) dimethacrylate、分子量750)とトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDM:Tri(ethylene glycol) dimethacrylate、分子量286.3)の2種類の材料の混合物でできており、これらの2種類の材料の混合比率を変えることでそれぞれの層に異なる役割を与えている。長い鎖を有するPEGDMは大きな網目を作り、膨潤が大きくより開放的なポリマーネットワークを形成するので薬剤の透過性が高くなるという特徴があり、短い鎖を有するTEGDMは小さな網目を作り、膨潤が小さく薬剤の透過性が低いという特徴がある。それぞれの材料がこのような特徴を有するため、これらの材料の比率を変えることで、薬剤放出の制御や、シートの曲がり具合の制御をすることができる。

0015

本発明において、PEGDMとTEGDMの比率(体積比)をPT比と呼ぶ。PT比はシート状の層を作製する際のプレポリマー溶液中のPEGDMとTEGDMの体積比である。例えば、PEGDMとTEGDMの混合比率をPEGDMの比率を優先してP○○のように表す(○○は数値)。例えば、P100はPEGDM100(V/V)%、TEGDM0(V/V)0%であることを示し、P60はPEGDM60(V/V)%、TEGDM40(V/V)%であることを示し、P40はPEGDM40(V/V)%、TEGDM60(V/V)%であることを示し、P0はPEGDM0(V/V)%、TEGDM100(V/V)%であることを示す。PEGDMの比率が高いほどより柔らかい材質になる。

0016

また、4層構造のデバイスを薄いシート形状にすることで、注射器に挿入し、患部にインジェクションすることができる。インジェクションされたシート型デバイスは膨潤によって、眼球等の患部の局面形状適合するような曲率まで展開することができる。薬剤は、本発明の4層構造のシート型デバイスの薬剤層に含ませることにより、シート型デバイスの放出制御層側からのみ放出され、放出速度は制御され薬剤は徐放される。放出制御層側からのみ徐放されることを片面徐放という。

0017

このように、本発明のシート型デバイスは、インジェクションにより患部に送達され、患部の局面形状に適合するような曲率まで展開し、患部に密着する。その後、デバイスが初期バーストすることなく、内部に含まれる薬剤の患部に密着した側からの片面徐放を可能にする。すなわち、本発明の4層構造のシート型デバイスは、初期バーストを抑制した片面徐放、曲率の制御、及び注射器のインジェクションが可能である。

0018

このようなことを可能にするため、本発明のシート型デバイスは以下の特性を有する。

0019

(1) 本発明の4層シート型デバイスは、患部の局面形状に適合した曲率半径を有する形に変形し、患部に密着し得るシート展開性を有する。すなわち、体内送達後に自己展開し得る。

0020

本発明のシート型デバイスは、送達後に自己展開により、適切な曲率半径をとり、患部に密着し得る。

0021

本発明のシート型デバイスの機械的特性として、ヤング率及び膨潤率が挙げられ、PT比が高くなるほどヤング率はリニアに低下し、PT比が高くなるほど、膨潤率が大きくなる。シート型デバイスの各層のPT比を変更することにより、ヤング率及び膨潤率を変えることができる。ヤング率及び膨潤率はシート型デバイスの曲がり具合に関わり、デバイスが曲がって変形する速度が速くなるほど、薬剤を放出しようとする患部の局面形状に適合した形に変形し、患部に密着し得るので好ましい。本発明の曲がって変形するシート型デバイスを自己展開型シート型デバイスという。展開層の厚さやPT比を変えることでシート型デバイスの曲がり具合、すなわちシート展開性を制御することができる。展開層が厚くなるとシート型デバイスの曲げ応力が大きくなり、デバイスの変形速度が大きくなる。シート型デバイスを4層構造にすることによって、シート型デバイスは放出制御層を内側に向けて曲がることが可能になる。

0022

シート型デバイスが展開したときに、患部の曲面に密着するためには、シート型デバイスが膨潤し変形し、静止したときの曲率半径が重要であり、シート型デバイスの各層のPT比や厚みを変えることにより、曲率半径を制御することができる。

0023

例えば、眼疾患用薬剤徐放用のシート型デバイスを強膜に送達し留置する場合、強膜の曲率半径が約12.7mmであり、角膜の曲率半径が約7.75mmであることを考慮すると、好ましい最終曲率半径は5mm程度である。また、展開層の厚さが厚くなるにつれて曲げモーメントが大きくなる。すなわち、曲げ応力が大きくなるので、シート自体の膨潤スピードが速まり、均衡を取る位置までの変形が早く終わり、展開性が良好になる。

0024

(2) 本発明の4層構造のシート型デバイスは注射器を用いたインジェクションにより患部に送達することができる。

0025

本発明のシート型デバイスは、注射器で患部にインジェクション(注入、射出)して用いる。シートの展開性が大きいほど、曲げやすくなり、インジェクションに適した曲がり具合に制御することが可能になる。インジェクションは、シート型デバイスを丸めてピンセット等を用いてインジェクターの注射針等の細管に挿入することにより装填し、シート型デバイスを装填したインジェクターの注射針を患部に近づけ、シート型デバイスをインジェクションにより患部に送達する。注射針のような細管にデバイスを挿入するため、本発明のシート型デバイスは、曲率半径の小さい曲げに対して耐えうる柔軟性と薄さが必要である。また、患部でインジェクションされたシート型デバイスは、水分を吸収し膨潤し、膨潤によりゆっくり開き始め、数十秒〜数分で平らに開きシート状になり、最終的に患部に対して薬剤が放出される面を向ける形で患部の曲面に密着する。このようにインジェクションしたシート型デバイスが患部の曲面に密着するためには、シート型デバイスがインジェクション後に展開する必要があり、上記のシート展開性が重要である。この場合、本発明のシート型デバイスを挿入できる細管のサイズは、限定されないが、18〜30G程度である。
細管からのインジェクションによる送達は、低侵襲な体内送達を可能にする。

0026

(3) 本発明の4層構造のシート型デバイスは、内部に含む薬剤の片面徐放を可能にする。

0027

4層構造のシート型デバイスの薬剤層及び放出制御層により徐放性を制御することができる。すなわち、薬剤層と放出制御層のPT比及び厚さにより徐放性を制御することができ、目的に合わせた徐放期間を設定することができる。また、ガード層の存在は、放出制御層の反対側からの薬剤の放出を抑制し、薬剤徐放に方向性を付けることできる。このため、患部に接触した片面からのみ薬剤が放出される片面徐放を可能にする。さらに、ガード層側に展開層が加わることでガード層から漏れる薬が放出されるまでの時間を長くし、反対側からの放出を抑制することができる。また、薬剤を含むシート型デバイスが初期バーストを起こして壊れてしまうと徐放を達成することができなくなる。初期バーストの起こしやすさは、デバイスの層の数により変わり、層数が多くなるにつれて初期バーストが抑えられる。本発明の4層構造のシート型デバイスは、初期バーストを起こしにくく、薬剤放出速度が遅くなってより長期にわたって薬を放出できる。放出制御層がP20の場合、P80の場合よりも初期バーストを抑制することができる。さらに、本発明のシート型デバイスにおいては、薬剤は放出制御層から放出され、放出制御層を患部に密着させることにより、患部に接触した片面からのみ薬剤が放出される。反対側のガード層側では薬剤の放出が抑えられる。初期バーストの抑制、薬剤徐放速度の低下、及び片面徐徐放により、ターゲットとなる患部以外に薬剤が放出されるのを防ぐことができる。

0028

上記のような特性を有し得る本発明の4層構造のシート型デバイスにおいて、放出制御層、薬剤層、ガード層及び展開層のPT比、厚さ及び大きさは以下のとおりである。

0029

放出制御層のPT比は、P10〜P30、好ましくはP15〜P25、さらに好ましくはP20である。放出制御層の厚さは、3〜15μm、好ましくは3〜10μm、さらに好ましくは5〜10μmである。

0030

薬剤層のPT比は、P15〜P55、好ましくはP20〜P55、さらに好ましくはP30〜P50、さらに好ましくはP35〜P45、さらに好ましくはP40である。薬剤層の厚さは、8〜150μm、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは10〜50μm、さらに好ましくは10〜25μm、さらに好ましくは10〜20μm、さらに好ましくは15〜20μmである。薬剤層のPT比がP60以上の場合、徐放性が低くなる。

0031

ガード層のPT比は、P0〜P20、好ましくはP0〜P10、さらに好ましくはP0である。ガード層の厚さは、3〜15μm、好ましくは3〜10μm、さらに好ましくは5〜10μmである。

0032

展開層のPT比は、P80〜P100、好ましくはP90〜P100、さらに好ましくはP100である。展開層の厚さは、5〜15μm、好ましくは7.5〜12.5μm、さらに好ましくは10〜20μmである。

0033

例えば、放出制御層がP20、薬剤層がP40、ガード層がP0、展開層がP100の、P20P40P0P100で表される4層構造のシート型デバイスを好適に用いることができる。

0034

本発明の4層構造のシート型デバイスのトータルの厚さは、30〜200μm、好ましくは30〜140μm、さらに好ましくは40〜150μm、さらに好ましくは40〜120μmである。

0035

シート型デバイスの上面から見た形状は限定されず、略矩形平板状、略円状形状を有していてもよい。略円状の場合、略円形の上面及び下面の直径は3〜数十mm、好ましくは3〜50mm、さらに好ましくは5〜30mmである。平板状の場合、略矩形の上面及び下面の一片の長さは、3〜数十mm、好ましくは3〜50mm、さらに好ましくは5〜30mmである。上面及び下面の面積は、例えば、約5mm2〜2000mm2程度である。

0036

上記の大きさは一例であり、移植部位や治療目的に応じた薬剤含有量に応じてデバイスの大きさを適宜設計することができる。

0037

2.シート型デバイスの作製方法
本発明の4層構造のシート型デバイスは以下の方法で作製できる。
シート作製に使うプレポリマー溶液にはPEGDM、TEGDM及び光重合開始剤を用いてUVを照射することにより硬化させる。光重合剤としては、使用する光源波長により、公知の光重合開始剤を適宣選択して使用することができる。例えば、2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン、4’-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジエトキシアセトフェノンベンジルメチルケタール、ベンジル-β-メトキシエチルアセタールベンゾイン(2-フェニル-2-ヒドロキシアセトフェノン)、ベンゾインアルキルエーテル等を挙げることができる。例えば、2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンであるイルガキュア(登録商標)2959を用いればよい。光硬化に用いるUV光の強度は、10〜200mW/cm2程度であり、照射は10〜1000秒間、好ましくは30〜90秒間程度行なえばよい。この際、PEGDM及びTEGDMを混合するときのPT比(体積比)を調整することにより徐放性を制御することができる。

0038

薬剤層を形成させるためのPEGDM及びTEGDM溶液には、使用する薬剤を溶解させる。溶解させる薬剤濃度は、薬剤により適宜決めればよい。最初に薬剤層の溶液をスライドガラス上の型に垂らし、ガラス等で挟んでUV照射をすることで薬剤層を硬化させて作製する。

0039

続いて、放出制御層、ガード層のPEGDM及びTEGDM溶液をスピンコートさせて薄く広げ、薬剤層を挟み込み、UV照射して3層シートを作る。ここで、スピンコートとは基材高速回転させ遠心力を利用して薄膜を形成させることをいう。最後に展開層のPEGDM及びTEGDM溶液を垂らしてUV照射することにより、4層シート型のデバイスを作製すればよい。

0040

3.シート型デバイスの使用方法
本発明の4層構造のシート型デバイスは以下の方法で使用する。
本発明の4層構造のシート型デバイスをピンセット等により丸めて注射器の注射針内に挿入する。注射器の注射針を治療しようとする患部に近づけるか、あるいは接触させ、シート型デバイスを注射針から押出し、患部に送達させる。シート型デバイスに水が浸入すると、デバイスは膨潤し、変形し、患部の局面に適合した曲率で変形が停止し、片面を患部に密着させた形で患部に留置される。さらに、デバイスに水が浸入すると、シート型デバイスの薬剤層に含まれる薬剤は大きい網目を有する放出制御層を通って放出される。小さい網目を有するガード層側からは薬剤は放出されにくいので、片面徐放が可能になる。

0041

例えば、本発明のシート型デバイスを用いることにより、0.01〜100mgの薬剤が少なくとも2週間、好ましくは少なくとも1ヶ月、さらに好ましくは少なくとも3ヶ月、さらに好ましくは少なくとも6ヶ月、さらに好ましくは少なくとも1年、さらに好ましくは少なくとも2年、さらに好ましくは少なくとも3年、さらに好ましくは少なくとも4年、さらに好ましくは少なくとも5年にわたって投与される。

0042

薬剤の投与量、投与期間は、徐放デバイス中に含ませる薬剤の量、薬剤を内包させるPEGDMとTEGDMの混合物の混合比、シート型デバイスのPEGDMとTEGDMの混合物の混合比、シート型デバイスの形状等により制御することができる。特に、シート型デバイスのPEGDMとTEGDMの混合物の混合比を調節し、シート型デバイスからの薬剤放出性を制御することにより、投与量、投与期間を制御することが可能になる。また、眼病等の疾患の種類や重篤度に応じて、投与量、投与期間を適宜設定すればよい。

0043

本発明の対象疾患は特に限定されないが、体内に持続的な薬剤投与が望まれる疾患、特に局所的に持続的な投与が望まれる疾患が挙げられる。このような疾患として、癌、炎症性疾患変性疾患等が挙げられる。例えば、眼病が挙げられ、眼病として例えば、遺伝子や環境因子などの多因子関与する網膜色素変性、加齢黄斑変性、緑内障などと、網膜動脈閉塞症、網膜静脈分岐閉塞症、糖尿病網膜症などの網膜血管病変、さらにぶどう膜炎などの脈絡膜・網膜・硝子体に炎症や障害が及ぶ疾患が挙げられる。網膜色素変性症は、網膜神経細胞原因不明進行性に障害される疾患であり、難病特定疾患)に指定されている。網膜色素変性症は、進行性に視細胞変性する眼病であり、さまざまな遺伝子異常、炎症、免疫反応などによって視細胞がアポトーシス細胞死)などを起こす。加齢黄斑変性は、加齢に伴って黄斑部に新生血管などが出現する眼病であり、網膜外側の脈絡膜から新生血管が発生し、血液が漏れ出し、網膜が障害される特定疾患である。緑内障は特徴的な視神経乳頭変化と視野異常を呈する進行性の病気である。かつては眼圧が高いことが原因と考えられていたが、眼圧が正常範囲であっても緑内障に罹患している患者が多いことが確認され、視神経乳頭の脆弱性も緑内障の原因として考えられている。しかし眼圧は緑内障進行の最大のリスクファクターであり、緑内障治療の基本は薬剤によって眼圧を下げることで視野障害の進行を止めるという方法がとられる。最近日本では失明原因の1位となっている。その他、治療に抵抗性の網膜動脈閉塞症、網膜静脈分枝閉塞症、糖尿病網膜症、ぶどう膜炎等も対象となる。

0044

本発明のシート型デバイスを用いる薬剤の徐放において、上記眼病等の疾患の治療又は予防のために用いられる薬剤として、血管新生を抑制する薬剤、神経細胞成長を促進する薬剤、神経細胞を保護する薬剤、ステロイド剤緑内障治療薬抗炎症剤抗真菌剤抗癌剤等が挙げられる。さらに、血管新生抑制剤としてはバソヒビンなど、神経細胞成長促進剤としては、BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)など、ステロイド剤としては、ベタメサゾンハイドロコルチゾンなどが挙げられる。緑内障治療薬としては、主に眼圧下降を主眼とした薬剤である、プロスタグランジン関連薬(ラタノプロストトラボプロストタフルプロスト、ウノプロストンなど)、交感神経遮断薬マレイン酸チモロールゲルチモロール塩酸カルテオロール塩酸ベタキソロール塩酸レボブノロールニプラジロール塩酸ブナゾシンなど)、炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド塩酸塩ブリンゾラミドなど)、エダラボンなどが挙げられる。また、副作用で使用が難しかったクロトリマゾールを使用することもできる。

0045

薬剤は、薬学的に許容される担体賦形剤滑沢剤結合剤崩壊剤コーティング剤等を含んでいてもよい。賦形剤としては、乳糖ブドウ糖コーンスターチソルビット結晶セルロース等が挙げられ、滑沢剤としては、タルクステアリン酸マグネシウム、硬化植物油等が挙げられ、結合剤としては、ジメチルセルロースポリビニルアルコールポリビニルエーテルメチルセルロースエチルセルロースアラビアゴムヒドロキシプロピルセルロースポリビニルピロリドン等が挙げられ、崩壊剤としては、デンプンアルギン酸ナトリウムゼラチン末、炭酸カルシウムクエン酸カルシウムデキストリン等が挙げられる。また、薬剤が液剤の場合、緩衝液生理食塩水等を含んでいてもよい。

0046

本発明のDDSとしての薬剤を含むシート型デバイスは、体内にインプラントとして挿入する。挿入は疾患部位の近傍が好ましい。例えば、眼病治療用DDSの場合、眼球の後ろ寄りの強膜にインプラントとして挿入する。ここでいう強膜とは、脈絡膜より上で結膜より下の部分、すなわち、強膜下、強膜内、強膜上、結膜下、脈絡膜上をいう。本発明のシート型デバイスは結膜下の狭い空間でも開き、眼球の局面に適した形状で密着させることができる。この際、薬剤が放出される放出制御層を眼球側に接触するようにインジェクションする。このようにインジェクションすることにより、放出制御層から放出された薬剤は他の部分に拡散することなく、強膜を通して眼内部に到達する。すなわち、本発明の癌疾患用DDSは、経強膜DDSとして利用することができる。

0047

本発明のシート型デバイスのインジェクションには硝子体手術等の手術を必要とせず、安全かつ簡便にインジェクションすることができる。すなわち、本発明のDDSは、非侵襲性のDDSである。

0048

本発明は、本発明の4層構造を有するシート型デバイスを、被験体の患部に送達し、患部において治療用薬剤を徐放させ、被験体の疾患を治療する方法も包含する。被験体の患部へのシート型デバイスの送達は、シート型デバイスを曲げて注射針等の細管に挿入して、注射筒などを利用しえデバイスを患部に射出することにより達成する。

0049

被験体は、ヒト又は非ヒト動物である。疾患は限定されないが、例えば上記の眼疾患を含む。

0050

本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。

0051

[実施例1]薬剤徐放デバイスの作製と力学的特性
1 Poly (ethylene glycol) dimethacrylate (PEGDM) -Triethylene glycol dimethacrylate (TEGDM)デバイス
1-1展開性
ナノ薄膜マイクロ薄膜形状制御は、水からの粘性抵抗浮力ファンデルワールス力など様々な要因によって困難であると言える。そこで形状制御のために考えられるのが曲げモーメント及び、断面2次モーメントである。例えば、曲げモーメントが大きければシートは曲がりやすく小さければ曲がりにくい。断面2次モーメントが大きければシートは曲がりにくく、小さければ曲がりやすいと言える。曲げモーメントはシートのひずみに影響され、断面2次モーメントにはシートの厚さが大きく作用する。本実施例においては、PEGDMとTEGDMの膨潤率の差を利用してひずみを生じさせ、曲げモーメントをかけることで曲率半径の制御を試みた。

0052

1-2薬剤徐放の動作原理
本実施例では、高分子シート型デバイスの材料としてPoly(ethylene glycol) dimethacrylate (PEGDM、Mw 750)、Tri(ethylene glycol) dimethacrylate (TEGDM、Mw 286.32)を用いた。PEGDMとTEGDMの比率(以下PT比と呼称し、PEGDMの比率に合わせて、例えばPEGDM100%=P100として表記する)を変えて光重合させることで、シート内の薬剤透過性を制御することができる[N.Nagai et al., Acta Biomater., vol. 10, no.2, pp.680-687, 2014]。PEGDMの比率が大きくなると透過性が高くなり、TEGDMの比率が大きくなると透過性が低くなる(図1A)。図1において、P100はPEGDM100%であることを示し、P40はPEGDM40%、TEGDM60%であることを示す。すなわちPT比を調整することで薬剤徐放を制御することができる。これはPT比を変えることでポリマーの膨潤率が変化するためで、TEGDMの短い鎖で作られたポリマーは膨潤が小さく薬剤の透過性が低い。一方でPEGDMの長い鎖は膨張が大きくより開放的なポリマーネットワークを形成するので薬剤の透過性が高くなる(図1B)。

0053

本実施例では、初期バーストを抑制しデバイス片面からの薬剤徐放を達成するために、まず薬を含んだ薬剤層を作製し、次に徐放に一方向性を付与するため薬剤透過を防ぐガード層(P0)を設けた。次に薬剤放出を制御するための放出制御層を設け、3層構造のシート型デバイスを作製した。最後に、膨潤が大きくシートの曲率半径を制御する展開層を設けて4層構造シートを作製した(図2)。4層構造シートにおいての薬剤の放出挙動イメージ図3に示す。薬剤は、薬剤層自体の透過性から放出速度を抑制されながら放出される。ガード層側では薬剤は比較的あまり透過せず薬剤層側に残り、薬剤は放出制御層側からより多く放出される。厳密には、薬剤層の側面部からの漏れも考えられるが、デバイス側面部の面積はデバイス底面部の面積の100〜1000分の1程度であることと、作製過程において側面部は放出制御層とガード層、及び展開層の溶液が漏れることによって僅かにコーティングされていることから、側面部からの薬剤放出は無視できるものと考える。

0054

1-3実験
1-3-1試薬
Poly (ethylene glycol) dimethacrylate (PEGDM、Mw 750、SIGMA-ALDRICH)、Triethylene glycol dimethacrylate (TEGDM、Mw 286.32、和光純薬)、Fluorescein (free acid) (Mw 332.31、SIGMA-ALDRICH)、Rhodamine 6G (Mw 479.01、SIGMA-ALDRICH)、IRGACURE 2959 (Mw 224.3、BASFジャパン)、なお、ダルペッコリン緩衝生理食塩水(D-PBS)は今後特に断りのない場合はD-PBS(-)(pH7.4;2.68 mM KCL、1.47 mM KH2PO4、136.9 mM NaCl、8.06 mM Na2HPO4)を使用した。

0055

1-3-2薬剤徐放デバイスの作製
PEGDMとTEGDMを主材料とするシート型薬剤徐放デバイスを光重合反応によって作製した[N.Nagai et al., Acta Biomater., vol. 10, no.2, pp.680-687, 2014]。本実験で作製したのは、3層構造シート、及び4層構造シートである。実験用途毎にデバイスサイズ蛍光試薬は変更している。作製手順の概要図は図4に示す。

0056

<デバイス各層のプレポリマー溶液の作製手順>
(1) PEGDMを常温液体になるまで融解させる。時間が掛かる場合はDigital water bath(アズワンThermal Robo TR-4AR)を用いて融解させた。
(2) PEGDMにイルガキュア2959を5mg/mLとなるように溶解させた。
(3)TEGDMにイルガキュア2959を5mg/mLとなるように溶解させた。
(4) P0、20、40、60、80、100となるような比率でPEGDM溶液とTEGDM溶液を混合した。
(5)薬剤層には乳鉢で十分に磨り潰した蛍光試薬を懸濁した。

0057

<3層構造シートの作製手順>
(1)スライドガラス上に目的のデバイスサイズに合わせてカットしたスペーサーを載せた。
(2) PEGDM溶液、TEGDM溶液、蛍光試薬Fluoresceinを混合した溶液をスペーサー内滴下した。
(3) 更にシラン化処理を行ったスライドガラスを用いてスペーサーを挟み込み、クリップでスライドガラスの両端を押さえた。なお、シラン化処理はスライドガラスをプラズマモディファイヤー(ヤマト科学PM100)を用いて5分間プラズマ処理を施した後に、1H,1H,2H,2H-Perfluorooctyltrichlorosilaneを用いて気相中で行った。
(4)UV露光機(HAMAMATSU LIGHTNINGCUREスポット光源LC8)を用い、強度80%の設定で60秒間薬剤層をUV架橋した。
(5)シラン化したスライドガラスを剥がした後、スライドガラスから薬剤層を剥がした。
(6)ガード層、及び、放出制御層の溶液をスライドガラス上に滴下し、チップで薄く広げた。
(7) (6)で溶液を広げたガラスをスピンコーター(アクティブspincoater ACT220II)を用いて、最大回転速度1000rpm、加速時間10秒、最大速度回転時間15秒に設定してスピンコートした。
(8) スピンコート済のスライドガラスで薬剤層を挟み込み、クリップでスライドガラスを押さえた。
(9) UV露光機を用い、強度80%の設定で放出層側、ガード層側共に60秒間UV架橋した。
(10) ガード層側のスライドガラスを剥がした後、デバイスをスライドガラスから剥がした。

0058

<4層構造シートの作製手順>
(1) 3層構造シート前項の手順で作製した。最後にデバイスをガラスから剥がさないままにした。
(2)ガード層側の上に展開層のプレポリマー溶液を滴下した。展開層の作製には場合に分けて、spincoat(1000rpm、加速10s、最高速15s)、スペーサーなしspincoatなし、任意の厚さのスペーサーなどを試行した。
(3)シラン化したガラスでデバイスを挟み込み、クリップで両端を押さえた。
(4)UV露光機(HAMAMATSU LIGHTNINGCUREスポット光源LC8)を用い、強度80%の設定で60秒間薬剤層をUV架橋した。
(5) シラン化したスライドガラスを剥がした後、スライドガラスからデバイスを剥がした。

0059

1-3-3力学的特性
(i)膨潤率
膨潤率に関しては、N.Nagai et al., Acta Biomater., vol. 10, no.2, pp.680-687, 2014の記載を参考にした(図1B)。PT比の違うサンプルを板状に作製し、乾燥させた。乾燥したサンプルの質量を測り、その後、数時間水に浸して完全に膨潤させた。完全に膨潤したサンプルの質量を測り、乾燥時の質量で膨潤時の質量を割った比率を算出した。この質量比を、体積比としても扱うこととみなし、膨潤率としてグラフにした(図1B)。実施例2にて後述する曲率半径の式での要素として各辺の長さに膨潤率を掛ける時には、膨潤率の3乗根を各辺に掛けた。

0060

(ii)曲げ弾性率
PEGDM-TEGDMのポリマーの曲げ弾性率を調べた。サンプルはP0、P20、P40、P60、P80、P100をそれぞれn=5として用意した。サイズは22mm×22mm×1mmである。測定は縦型電動計測スタンド(EMX-1000N、IMADA)及び標準タイプデジタルフォースゲージ(ZTS-200N、IMADA)を用いて圧縮試験を行った。曲げ速度は1.0mm/minとして、得られた曲げ荷重-たわみ曲線から式(1)に基づいて曲げ弾性率Eを算出した。なお、Fは曲げ荷重で、Lは支点間距離、bは試験片幅、hは試験片厚さ、sはたわみである。ここでの支点間距離は18.25mmとした。また、変化量ΔF/Δsは曲げ荷重-たわみ曲線の弾性変化域の接線より任意の2点を取って求めた。

0061

0062

(iii)圧縮弾性率
PEGDM-TEGDMのポリマーのヤング率を調べた。サンプルはP0、P20、P40、P60、P80、P100をそれぞれn=5として用意した。サイズは22mm×22mm×1mmである。測定は縦型電動計測スタンド(EMX-1000N、IMADA)及び標準タイプデジタルフォースゲージ(ZTS-200N、IMADA)を用いて圧縮試験を行った。圧縮速度は1.0mm/minとし、得られた応力-ひずみ曲線から式(2)に基づきひずみ5%でのヤング率Eを算出した。なお、σは応力、εはひずみを表す。

0063

0064

1-3-4顕微鏡観察
(i)電子顕微鏡
作製したデバイスが多層構造になっているか確認するために、電子顕微鏡(オリンパス、Inverted Microscope IX71S1F-3)による観察を行った。

0065

サンプル(1)は薬剤層にFluoresceinを10mg/mL、放出制御層とガード層にRhodamine 6Gを10mg/mLで含有させ、直径8mm、薬剤層のスペーサー厚11μmで作製した。各層のPT比は放出制御層(P80)、薬剤層(P20)、ガード層(P0)とした。

0066

サンプル(2)は放出制御層とガード層にRhodamine 6Gを5mg/mLで含有させ、直径8mm薬剤層のスペーサー厚11μm、展開層の作製条件:スペーサーなし、spincoatなしで作製した。各層のPT比は放出制御層(P80)、薬剤層(P20)、ガード層(P0)、展開層(P100)である。また、展開層には明視野での印とするために一面に油性黒マジックで色を塗った。作製したデバイスをおよそ0.5mm幅切り取り、ピンセットで挟んで断面を顕微鏡で観察した。

0067

サンプル(3)は蛍光試薬は用いず、各層に量子ドット(CdSeS/ZnS alloyed quantum dots kit)を混合させた。1層目(放出制御層)に発光波長665nm、2層目(薬剤層)に発光波長490nm、3層目(ガード層)に発光波長630nm、4層目(展開層)に発光波長575nmの量子ドットを用いた。濃度は250μg/mLとした。サンプルは直径8mm、薬剤層のスペーサー厚11μm、展開層の作製条件:スペーサーなしで作製した。各層のPT比は1層目から順にP20P40P0P100であった。

0068

サンプル(4)は放出制御層とガード層にRhodamine 6Gを5mg/mLで含有させ、直径8mm、薬剤層のスペーサー厚11μm、展開層の作製条件:スペーサーなし、spincoatなしで作製した。各層のPT比は放出制御層(P20)、薬剤層(P40)、ガード層(P0)、展開層(P100)であった。

0069

それぞれのサンプルはOCTコンパウンドで満たした後に-30℃で凍結させ、クリオスタットを用いて凍結切片を作製して断面の蛍光観察を行った。

0070

(ii)共焦点顕微鏡
作製したデバイスが多層構造になっているか確認するために、共焦点顕微鏡(Leica、TCSSP8 STED)による観察を行った。サンプルは薬剤層にFluoresceinを5mg/mL、放出制御層とガード層にRhodamine 6Gを5mg/mLで含有させ、直径13.1mm、薬剤層のスペーサー厚11μmで作製した。各層のPT比は放出制御層(P80)、薬剤層(P20)、ガード層(P0)とした。サンプルはスライドガラスとカバーガラスで挟んで観察した。

0071

1-3-5薄膜の厚さ
段差計を用いて各層のパラメータ毎の厚さを測定した。1サンプルに対して5回程度計測場所を変えて厚さを測り、平均値を出して厚さとした。

0072

1-3-6統計解析
データは全て平均値±標準偏差記述する。有意差検定は2群間の場合はStudent’s-T検定を用いた。エクセルを用いて行い、p<0.05の時に有意な差が存在するとした。

0073

1-4 結果と考察
1-4-1 作製したデバイス
作製したデバイスを図5Aに示す。このデバイスは自重でたわまない程度に硬い。曲げに対しては、曲率半径0.8mmの曲げを加えた時、薬剤層の厚さがおよそ50μm、30μmの時ではクラックが生じやすかったのに対し、20μmの時では曲げに耐える程度に柔軟になった。このことから、長期薬剤徐放試験以降の実験では薬剤層作製時のスペーサー厚11μmでデバイスを作製した。後記の通り、実測したところ、デバイスのそれぞれの層は表1(デバイス各層の作製条件と膜厚)のような厚さになっていた。前述の硬さからピンセットでのハンドリングが容易に行うことができる。また、インジェクターと呼ばれる注射器のような器具に、丸めたまま装填することが可能である(図5B)。適切なパラメータで作製すれば射出も可能であった。

0074

0075

1-4-2力学的特性
(i)膨潤率
膨潤率の測定結果は、N.Nagai et al., Acta Biomater., vol. 10, no.2, pp.680-687, 2014の記載を参考にした(図1B)。このデータから、PT比が大きくなるにつれて膨潤率も大きくなることが確認できた。

0076

(ii)曲げ弾性率
曲げ試験を行うことで、それぞれのPT比でのPEGDM-TEGDMポリマーの曲げ荷重-曲げたわみ曲線を作製した(図6A)。グラフを見ると、PEGDMの比率が大きくなるほど、同じたわみに対する荷重小さくなるのが分かる。この曲げ荷重-曲げたわみ線図を、MATLAB上でスプライン曲線に変えてノイズを取り除いた。この曲線を2次微分し、値が一定の割合で0になっている領域において元の曲線を線形近似し、傾きを算出した。求めた傾きを式(1)を用いて曲げ弾性率を求めた(図6B)。求めた曲げ弾性率を見ると、PEGDMの比率が高まるにつれ曲げ弾性率が減少しており、リーズナブルな結果を得ることが出来た。結果からPEGDMの比率が高いほどより柔らかい材質になっているものと分かる。

0077

(iii)圧縮弾性率
圧縮試験を行うことで、それぞれのPT比でのPEGDM-TEGDMポリマーの応力-ひずみ曲線を作製した(図7A)。荷重がかかり始めてからグラフが直線的形状に変化するひずみはP100が最も大きく、P40が最も小さかった。この応力-ひずみ線図から5%ひずみ10%ひずみの点を選択して傾きを求め、式(1)から圧縮弾性率を求めた(図7B)。結果はP40が最も圧縮弾性率が高く、P0及びP100のヤング率から予想されるリーズナブルな線形的結果とはならなかった。これは、PEGDMの比率が大きくなるにつれて、物理的にポリマーの長い鎖が多くなり鎖と鎖が絡まりやすくなることや、長い鎖が多くなることでTEGDMの短い鎖が長い鎖に結びつくことなどによって、P40付近で最も密な構造を作っているのではないかと考えられる。あるいは、サンプルが1mmの厚さという厚めなものであることから、中心部の架橋度に差があった可能性もある。この場合、TEGDMはUV架橋がされにくく、PEGDMはUV架橋がされやすいと予想できる。

0078

1-4-3顕微鏡観察
(i)電子顕微鏡
(i-1)サンプル1
3層構造シートのクリオスタットを用いた断面を電子顕微鏡で観察した(図8)。明視野(図8(a))においては薬剤層が赤く見える。これは赤色の粉状薬品であるFluoresceinの粒がダマになって残っているからであると考えられる。図8にも示した通り、Fluoresceinの濃度が高いと肉眼で見てもはっきりと赤く見えた。放出制御層とガード層にはRhodamine 6G、薬剤層にはFluoresceinを含ませている。本実験ではどちらも同じ濃度で含有させたが、Rhodamine 6Gの方がFluoresceinよりも強い蛍光が現れた。そのため、蛍光においては外側2つの層の方が強く光っているように見えた(図8B)。このことから、デバイスが3層構造になっていることが確認できた。デバイスの厚さはおよそ40μm程度に見えた。実測に基づいた予想では3層構造デバイスのサイズは32μm程度なので、予想よりも大きい。これは、放出制御及びガード層と薬剤層の間に黒い空間が見えることから、クリオスタットの際に各層の間にクラックが入ったものと考えられた。あるいは、クリオスタットでサンプルをスライスする際に、斜めに刃を入れたことで実際より大きく切れている可能性がある。Rhodamine 6GとFluoresceinの選択理由は赤の蛍光と緑の蛍光で別々に発光するのを観察する目的があったからだが、本実験ではRhodamine 6Gは赤及び緑の蛍光を示したため、前述のような目的で用いるのは不適切であることが分かった。この場合、緑の励起波長から離れた薬剤を使うのが適切である。また、Fluoresceinのダマは赤の蛍光で光るため、薬剤をよく磨り潰す必要がある。加えて、同じ濃度では蛍光の強さに大きく差が出てしまうことが分かったため今後は蛍光薬剤2種類以上を使う場合では濃度の調整をする必要がある。

0079

(i-2)サンプル2
4層構造シートの断面を顕微鏡で観察した(図9)。Rhodamine 6Gは肉眼で見た時暗いピンク色をしていた。また、顕微鏡観察に使ったサンプルが0.5mmという厚さであることを考慮した。明視野で黒く見える部分はRhodamine 6Gが多く含まれ光が透過されていない放出制御層、ガード層であると考えられた。また、ピンク色に見える部分は作製過程で放出制御層からとガード層からRhodamine 6Gが滲んだ薬剤層であると判断できた。また、1番下にもう1層あるのが見てとれる。これは、表面に塗った油性黒マジックのラインが見える展開層であると考えられた。これらから、デバイスが4層構造になっていることが確認できた。厚さはおよそ40μm程度に見えた。これは、各層の実測値から予想される厚さ40μmに近い値である。この観察方法の他にもクリオスタットを使って作製したサンプルでも観察を行ったが、展開層を確認することができなかった。そこで、本実験では明視野での印として油性黒マジックを使ったが、これによって4層の区別をつけることができた。

0080

(i-3)サンプル3
量子ドット(CdSeS/ZnS alloyed quantum dots kit、Sigma-Aldrich)を用いて蛍光観察をした。放出制御層とガード層には赤い励起光を見せる量子ドット、薬剤層と展開層には青い励起光を見せる量子ドットを250μg/mLの濃度を加えている。図10を見ると(a)明視野では不明瞭ではあるが、(b)蛍光視野では4層構造になっているのが確認できた。但し、量子ドットを混合させたプレポリマー溶液が固形化したり白濁して光重合が不十分な場合も多かったため、最後にサンプル4で再検証した。

0081

(i-4)サンプル4
4層構造デバイスの放出制御層、ガード層に蛍光試薬であるRhodamine 6Gを含ませて断面観察した。Rhodamine 6Gは放出制御層とガード層のみに含ませており、実際に図11(a)明視野、(b)蛍光視野でも確認することができた。明視野ではRhodamine 6G自体の色であるピンク色で見えており、(b)ではオレンジの励起光として観察された。また、明視野ではっきりと展開層、薬剤層を確認することができた。

0082

(ii)共焦点顕微鏡
3層構造シート型デバイスを、共焦点顕微鏡を用いて蛍光観察した。Rhodamine 6Gの蛍光が強く、放出制御層とガード層を確認することができた(図12)。したがって、3層構造になっていることが確認できた。共焦点顕微鏡による蛍光断面図から推測するに、3層構造シートの厚さはおよそ50μm程度に見えたが、これはRhodamine 6Gの蛍光が強いために蛍光飽和を起こし、実際よりも厚めに見えているためと考えられた。

0083

1-4-4段差計の測定結果
作製したデバイスは段差計TENCOR(登録商標) P-10 surface profiler(KLA Tencor)を用いて膜厚を計測した。測定結果は表2(デバイス各層の作製条件と膜厚)のようになった。

0084

0085

2 まとめ
本実施例ではPEGDMとTEGDMを組み合わせた局所徐放性を持つ薬剤徐放デバイスを作製した。
作製したデバイスは湾曲させることができるほど柔軟で、インジェクターに丸めて装填することができた。インジェクション操作についての詳細は実施例2で述べる。また、顕微鏡による断面観察を行った。PEGDM-TEGDMデバイスは実際に放出制御層、薬剤層、ガード層、展開層が確認でき、3層及び4層構造になっていることが確認できた。

0086

[実施例2]薬剤徐放デバイスの展開制御
デバイスの低侵襲な体内送達を実現するために、注射器の針にデバイスを挿入して体内に送達することを想定している。注射針のような細管にデバイスを挿入するためには、曲率半径の小さい曲げに対して耐えうる柔軟性と薄さが必要である。加えて注射針から射出された後に、デバイスが平らに、あるいは患部の曲面に貼りつける程度には広がる必要がある。本実施例では特に後者の射出後のデバイスの展開性について検討した。単純な単層構造のデバイスであれば、デバイスを丸めた後の展開性は、薄膜同士のファンデルワールス力を上回る力で開かせるというシステムを組み込むことで検討できる。しかし、本発明のデバイスは複数構造であり、各層での膨潤率やヤング率が違うため、丸めた後に開いたとしても患部に合う形状になるとは限らない。そこで、膨潤後の多層構造シートの曲率半径理論式を導入することでデバイスの膨潤後曲率半径を予想し、デバイスの設計に利用した。

0087

1膨潤による展開制御の動作原理
展開制御には、PEGDM、TEGDMの膨潤率の差を利用している。前提として図1BのグラフのようにPEGDMの比が大きくなるほど膨潤率が大きくなり、小さくなるほど膨潤率も小さくなることが分かっている。また、膨潤が小さい層が膨潤の大きい層を引っ張るので、膨潤が小さい層に向けてシートに曲げが生じる(図13)。これを考慮し、デバイスを細管に挿入する際、膨潤が大きい層を内側にして巻けば体内送達後膨潤して自己展開するのではないかと考えた。

0088

2実験
2-1試薬
PEGDM-TEGDMデバイス
Poly (ethylene glycol) dimethacrylate (PEGDM、Mw 750、SIGMA-ALDRICH)、Triethylene glycol dimethacrylate (TEGDM、Mw 286.32、和光純薬)、IRGACURE 2959 (Mw 224.3、BASFジャパン)、Hyaluronic Acid Sodium Salt (和光純薬)。なお、ダルペッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)は今後特に断りのない場合はD-PBS(-) (pH7.4; 2.68 mM KCl、1.47 mM KH2PO4、136.9 mM NaCl、8.06 mM Na2HPO4)を使用した。

0089

2-2 3層構造シート型デバイスの曲率半径
比較のため、3層構造シートで実験を行った。

0090

2-2-1曲率半径の理論値
3層構造シートであるので複数構造シートの膨潤後曲率半径の一般式である式(3)のkを3として計算を行った。計算に用いた各層の作製条件は、放出制御層とガード層をspincoat 1000rpm、加速10s、最高速15sで作製するものと仮定し、薬剤層の厚さを変化させてシートの曲率半径の変化を予想した。簡単のためFluoresceinは考慮せず、実際の作製時にも使用しない。計算に用いた圧縮弾性率は表4に示す。
PT比圧縮弾性率標準偏差0250688.7116700.2120322314.0545454.5540346280.9921748.2660151239.6796006.6080111570.2534695.9810067768.6051908.46

0091

0092

0093

2-2-2曲率半径の観察
実際に3層構造シートを作製して膨潤後の挙動を観察した。ここでは、P20P20P0、P80P20P0シートについて述べる。また、P20P40P0シートについては4層構造シートのデータに含め、後述する。シートを直径1.6mmのガラス棒にガード層を外側にして巻き付けた。手で押さえながら水中に入れ、手を放して自己展開挙動を観察した。ここで観察するポイントは、手を放した後の展開と、デバイスが膨潤しきった時の曲がり具合である。デバイスを巻き付けやすくするためにゼラチンでんぷん糊の使用を試したがこれはデバイスの剛性による曲げにくさから効果が発揮されなかった。

0094

2-3 4層構造シート型デバイスの曲率半径
3層構造シートの展開能力は不十分であったため、膨潤後のデバイス曲率半径を調整するために展開層(P100)を設けた。展開層は前記の3層構造に付け加える形でガード層の外側に設けた。これにより放出制御層、薬剤層からガード層方向に向けて掛かる曲げモーメントと逆方向に曲げモーメントを掛けることができる。前記の実験結果を踏まえて、薬剤層は柔軟さと徐放性を備えたP40、ガード層は薬を通さないP0、放出制御層は徐放性の高いP20、展開層は膨潤率の最も高いP100とした。

0095

2-3-1曲率半径の理論値
4層構造シートであるので、式(3)のkを4として計算を行った。計算に用いた各層の作製条件は、放出制御層とガード層をspincoat 1000rpm、加速10s、最高速15sで作製するものと仮定し、薬剤層の厚さは作製しやすくインジェクターに装填しやすい厚さに収まるように17.42μmを採用した。最も膨潤率が高く曲率半径に影響しやすい展開層(P100)の厚さを変化させて膨潤後のシートの曲率半径の変化を予想した。簡単のためFluoresceinは考慮せず、実際の作製時にも使用しない。計算に用いた圧縮弾性率は表4に示す。また、前述の実験において薬剤層P20では曲げ弾性率が高いことでシートを曲げる操作が非常に困難であった。そこで、4層構造シートでは薬剤層をP40に固定した。なお、P60以上は徐放性が低いため試行しなかった。

0096

2-3-2曲率半径の実測値
P20P40P0P100シートについて膨潤後に静止した時の曲率半径と静止するまでの時間を実測した。シートは直径6mmの大きさにして展開層の厚さを変えてサンプルを作製した。展開層の種類は、およそ0、5、10、20μmの4種類である。膨潤開始をシートが全て漬かり切った段階とし、静止したタイミングはカメラ撮影した動画を見て判断した。曲率半径はシートを円筒と見立てて中心軸方向から写真撮影して比率から計算した。

0097

2-4 In vitroシートインジェクション
実際にシート型デバイスがインジェクターに装填可能かどうか、射出可能かどうか、射出後に丸まったり壊れたりせず患部に適切な曲率を維持するか確かめた。DDSシートを事前に3 w/Vヒアルロン酸水溶液で湿らせた眼内レンズ挿入器HOYA-IS (HOYA INJECTOR SYSTEM、HOYA株式会社)、に装填し、更に3 w/Vヒアルロン酸水溶液を加えて水中に射出した。事前にインジェクターを湿らせておくのは、挿入時に摩擦でDDSシートが壊れるのを予防するためである。またDDSシートは薬剤を放出させたい側を外側にして丸めた。これにより、射出後は薬剤を放出する側が眼球に接触し、そこを起点に展開をするので射出後のウラオモテの制御が可能である。挿入の際DDSシートは少量のアロンアルファを使って細い棒状器具接着して丸めると確実に装填ができるが、ピンセットでも壁に沿わせる形で問題なく挿入が可能である。

0098

2-4-1 PEGDM-TEGDMデバイス
in vitro での徐放試験において比較的徐放性の高いP20、P40を薬剤層として選択し、P80P20P0P100、P20P40P0P100シートについてシートインジェクションを試行した。DDSシートのサイズは直径6mm程度にし、薬剤層のスペーサーは11μm厚のサランラップを使った。展開層はスペーサー無し、spincoat無しを選択した。外縁部や中心部には目印・区別記号を油性赤ペンで書き込んだ。

0099

3 結果と考察
3-1 3層構造シート型デバイスの曲率半径
3-1-1 曲率半径の理論値
結果を図14に示す。どのグラフも薬剤層の厚さが厚くなるにつれて曲率半径が大きくなることが分かった。しかし、それと同時にどのグラフもどれだけ薬剤層を大きくしても曲率半径が負になることは確実になく、つまり放出制御層が眼球側に向かって曲がることが無い。薬剤層のPT比が大きいほど曲率半径は大きくなった。薬剤層P40では放出制御層のPT比が高いほど丸まった状態で、薬剤層P20の場合では放出制御層のPT比が高いほど広がった状態である。これはPT比が高い方から低い方へ向かって曲げモーメントが働くことによるものである。この実験から、3層構造ではデバイスは放出制御層を外側にして丸まった状態になることが予想された。

0100

3-1-2曲率半径の観察
実際に作製したデバイスは、手を放した後すぐに展開し、膨潤後ガード層を内側にして曲がった(図15)。理論値程度にまで丸まることは無かったが、実際に3層構造シートでは膨潤後に曲がってしまい、徐放デバイスとして不適切であることが分かった。

0101

理論式において各層の厚さを変化させて望ましい曲率半径を探ると、デバイスの全体の厚さが100μm程度になってしまうことも分かった。これは注射針に挿入するのは難しいサイズであり、また、デバイスの断面2次モーメントが大きくなることから更に巻きにくくなることが分かる。したがって、デバイスサイズを比較的小さいままでも望ましい曲率半径を得ることができるようにするため、展開層を設けて4層構造シートについて実験を次項で行った。

0102

3-2 4層構造シート型デバイスの曲率半径
3-2-1 曲率半径の理論値
P20P40P0P100の4層構造デバイスについて膨潤後の曲率半径について理論曲線を立てて挙動を予測した(図16)。4層構造にすることによって、シートは放出制御層を内側に向けて曲がることが可能になり、展開層の厚さを変えることで容易にシートの曲率半径を制御できると予想された。曲率をうまく制御することでシートは薬を出す面を眼球に向けて密着でき、なおかつインジェクターへの挿入時に起こる塑性変形や眼球上の狭小領域で開かないといった事態を解消できる。

0103

3-2-2曲率半径の実測値
薬剤層P40のものについて、徐放性の高いP20を放出制御層として膨潤後曲率半径と膨潤挙動が静止するまでの時間を計測した(図17)。実測値から、展開層を導入することで、実際に、膨潤後のシート曲率半径が制御できることを確認できた(図17A)。半円形ラインはシートが半円の形になる目安であり、負の領域で半円形ラインに近いと眼球に沿いやすい形であると言える。実測値を見ると、展開層がおよそ5〜10μmの厚さの時は適切な曲率半径であると言える。図17Bはシート型デバイスの膨潤前後での写真で、膨潤しきるまでのタイム(変形時間)を測定した(図17C)。結果のグラフから、展開層が厚くなるにつれて膨潤挙動が静止するまでのタイムが短くなっているのが分かる。これは、展開層の厚さが厚くなるにつれて曲げモーメントが大きくなり、つまり曲げ応力が大きくなっているので、シート自体の膨潤挙動スピードが速まり、均衡を取る位置までの変形が早く終わるのではないかと予想している。

0104

3-3 In vitroシートインジェクション
PEGDM-TEGDMデバイス
薬剤層がP20のものは曲げ弾性率が大きいため丸めるのが困難であり壊れやすく、その上、射出できても塑性変形を起こしていることが原因で丸まったままで開かないことが多かった(図18)。そこで比較的曲げ弾性率が低い薬剤層P40のものについて、徐放性の高いP20を放出制御層としてインジェクション操作を試行した(図19)。DDSシートは、インジェクターに容易に装填することができ、押し出すとインジェクターから射出された。射出されたデバイスは徐々に膨潤によって開いていき、最終的には眼球に沿うような形まで曲率半径を変えた。およそ2分程度で膨潤挙動は終了した。これを踏まえて、次章から実験ではP20P40P0P100デバイスを中心として実験を行った。

0105

4 まとめ
薬剤徐放デバイスの展開性について検討した。PEGDM-TEGDMデバイスは薬剤徐放に関係する3層構造だけでは、膨潤率によって生じる曲げモーメントのバランスがとれずどうしてもインジェクション操作や眼球曲面の密着に適切ではない曲率半径になってしまうことが分かった。そこでバランスを取るために4層目として膨潤の大きい展開層を導入した。展開層の厚さを調整することで、デバイスの膨潤後の曲率半径は容易に制御することが可能であると分かった。

0106

[実施例3] In vitro薬剤徐放制御
実施例2で述べたように、長期薬剤徐放を目的とするDDSデバイスにおいては、薬剤徐放特性が非常に重要である。具体的には、初期バーストを抑え、薬剤徐放速度を低下させることや、ターゲット以外に薬剤が放出されるのを防ぐことは、より効率的で安全な長期間治療を実現する上で不可欠な要素である。本実施例では作製したDDSデバイスの薬剤徐放特性を明らかにすることを目的とする。

0107

1実験
作製したデバイスの経時的な薬剤徐放特性を評価するための徐放試験を行った。各徐放試験の方法を下記に示す。全てのサンプルは蛍光マイクロプレートリーダー(GeminiEM、Molecular Device)を用いて計測を行い、事前に作製した検量線より濃度を求めた。なお、計測には96welブラックプレートを用い、200μLのサンプル溶液で計測を行った。

0108

1-1試薬
PEGDM-TEGDMデバイス
Poly (ethylene glycol) dimethacrylate (PEGDM、Mw 750、SIGMA-ALDRICH)、Triethylene glycol dimethacrylate (TEGDM、Mw 286.32、和光純薬)、IRGACURE 2959 (Mw 224.3、BASFジャパン)、Fluorescein (free acid) (Mw 332.31、SIGMA-ALDRICH)、Edaravone (3-Methyl-1-phenyl-5-pyrazolone、174.2g/mol、疎水性、Wako)、Cyclophosphamide Monohydrate (279.1g/mol、親水性、Wako)、Timolol maleate salt (432.49g/mol、親水性、SIGMA-ALDRICH)、Cyclosporine (ネオーラル内用液10%、1202.61g/mol、疎水性、NOVARTIS)、Clotrimazole (344.84g/mol、疎水性、Wako)。なお、ダルペッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)は今後特に断りのない場合はD-PBS(-) (pH7.4; 2.68 mM KCl、1.47 mM KH2PO4、136.9 mM NaCl、8.06 mM Na2HPO4)を使用した。

0109

1-2 PT比の比較
1層構造と3層構造、PT比及び薬剤層と放出制御層の徐放特性の関係を調べるために、サンプルは薬剤層のPEGDM比率が高いもの(P80)と低いもの(P20)の1層構造シート、それにガード層(P0)と放出制御層(P80あるいはP20)をつけたものの計6種類を用意した。薬剤層の作製時のスペーサー厚は50μmとし、薬剤濃度は10mg/mLとした。各サンプルn=5とした。薬剤はFluoresceinを使用した。24wellプレート内にサンプルと共にDPBS(-)を1mL入れ、経時的なDPBSの蛍光強度変化を測定した。なお、測定毎にプレート内のDPBSは交換した。

0110

1-3層数の比較
実施例2にて良い結果の見られたP20P40P0P100シートについて、薬剤層だけのもの(P40)、ガード層をつけたもの(P40P0)、放出制御層をつけたもの(P20P40P0)、展開層をつけたもの(P20P40P0P100)の4種類について薬剤徐放特性を調べた。デバイスサイズは直径6mmで、薬剤層のスペーサー厚は100μm、Fluoresceinの濃度は100mg/mLとした。24wellプレート内にサンプルと共にDPBS(-)を1mL入れ、経時的なDPBSの蛍光強度変化を測定した。なお、測定毎にプレート内のDPBSは交換した。

0111

1-4 片面徐放評価試験
ガード層を設けることによって実際に薬剤徐放に方向性を付けられたか評価するための実験を行った。この実験では、膜透過性試験機を用いて薬剤徐放の方向性についての検討を行った(図20)。直径12mmで作製したデバイスを内円8mm、外円155mmの50μm厚シリコンスペーサーを貼った膜透過性試験機に挟み込み、膜透過性試験機の両側に5mLのDPBS(-)を滴下した。定期的にDPBSを回収し、PBS中のFluorescein濃度を計測した。また、薬剤層作製時のスペーサー厚は11μmで、薬剤濃度は100mg/mLとした。サンプル数は装置の数に合わせ、4つとした。

0112

1-5 実薬を用いた徐放試験
これまでの実験ではモデル薬剤としてFluoresceinを使っていたが、実際の病気に効果のある実薬を使用して薬剤徐放特性を調べた。デバイスの作製条件は全て同じで、直径6mm、薬剤層のスペーサー厚100μm、100mg/mL(シクロスポリンのみ溶媒の関係で10mg/mL)である。使用した薬はEdaravone (3-Methyl-1-phenyl-5-pyrazolone、174.2g/mol、疎水性、Wako)、Cyclophosphamide Monohydrate (279.1g/mol、親水性、Wako)、Timolol maleate salt (432.49g/mol、親水性、SIGMA-ALDRICH)、Cyclosporine (ネオーラル内用液10%、1202.61g/mol、疎水性、NOVARTIS)、Clotrimazole (344.84g/mol、疎水性、Wako)を使用した。24wellプレート内にサンプルと共にDPBS(-)(CyclosporineにはPEG-DPBS 50%溶液)を1mL入れ、経時的な薬剤濃度の変化をクロマトグラフィーで測定した。なお、測定毎にプレート内のDPBS(あるいはPEG-DPBS50%溶液)は交換した。

0113

2統計解析
データは全て平均値+標準偏差で記述した。有意差検定は2群間の場合はStudent’s-T検定を用いた。エクセルを用いて行い、p < 0.05の時に有意な差が存在するとした。

0114

3 結果と考察
3-1 PT比の比較
初めに、薬剤層にFluoresceinを含ませて薬剤徐放試験を行った。本実験では、次の3点がデバイスの薬剤徐放特性にどう影響するかを確認した。(1)1層構造シートと3層構造シートの構造差、(2)薬剤層のPT比の違い、及び(3)放出制御層のPT比の違いの3点である。まず(1)を確認すると、薬剤層P20の場合とP80の場合両方において、1層構造シートに対して3層構造シートが徐放期間が延長されていることが分かった。また、Day1付近までの初期薬剤放出挙動を比較しても、1層構造シートに比べ3層構造シートが初期バーストを抑制できていることが分かった。これはガード層によって徐放方向が制御され、加えて放出制御層によって薬剤放出が抑えられていることによるものだと考えられる。ガード層の効果の検証は次項で行っている。また、放出制御層の効果は(3)で検証する。次に(2)について確認する。薬剤層のPT比の差による影響は、まず1層構造シートにおいては、薬剤徐放期間に大きく影響が見られた。初期バーストではあまり変化は見られなかった。PEGDMの比率が低いほど薬剤徐放期間が延長されていることが分かった。次に3層構造シートで見ると、薬剤層P80では初期バーストに対して3層構造と1層構造の差はあまり見られなかったが、薬剤層P20では、差が顕著に見られた。薬剤層のPEGDM比を低く設定することで、3層構造時の初期バースト抑制率は大きく向上するということが分かった。あるいは、薬剤層に含有させたFluoresceinの濃度が高かったために、3層構造で抑制できる薬剤放出許容量を超えてしまったために、薬剤層P80では差が見られなかった可能性があげられる。これを踏まえると、薬剤層のPEGDM比を低く設定した場合は薬剤を比較的多く含有させることができるが、薬剤層のPEGDM比を高く設定した場合は薬剤を比較的少なめにしか含有させることができないものと考えられる。これは後にデバイスの剛性を踏まえて薬剤層のPT比を変える上で考慮すべきポイントである。但し、実施例2においては薬剤層P20のもので統一して実験を行っている。最後に(3)について確認する。薬剤P20、P80のデバイスで共に放出制御層P20の方がP80の場合よりも初期バーストを抑制することができていた。また、薬剤層P80の場合、放出制御層P20の方が徐放期間が延長されているのが分かる。薬剤層P20の場合は2017年2月20日現在の段階で徐放が継続しているため徐放終了時点の比較は出来ないが、グラフの勾配から放出制御層P80のデバイスの方が早く徐放が終わることが予想される。これらから、放出制御層のPEGDM比が小さいほど初期バーストが抑えられ、徐放期間が延長されるものと考えられる。ここでグラフを総合的に薬剤放出濃度の点で見てみると、放出が終了しているデバイスでは5〜10μg/mL程度の差があるのが分かる。これは初期バースト時の計測で蛍光飽和が起こり多少の誤差が生じたものと考えられる。または、デバイス作製段階でFluoresceinのダマが出来ていたことが疑われる。顕微鏡観察でも述べたが、FluoresceinはPEGDM、TEGDMに溶けにくくダマになりやすいため、事前に薬剤を擦り潰す、あるいは溶けやすくする必要がある。薬剤放出量の誤差については今後も改善の余地があるものと考えられる。図21に示したようにPEGDMの比率が低くなるほど薬剤透過性が低くなることを確認することができた。これは原理で述べたようにPEGDMとTEGDMの膨潤差によるものである。徐放期間に着目すると、薬剤層P20の3層構造デバイスは3カ月程度の徐放が確認され、特にP20P20P0デバイスはその線形的な徐放形態から更に徐放が継続されるものと予想される。一方、薬剤層P80の3層構造デバイスの場合は、P80P80P0デバイスは10日程度、P20P80P0デバイスは50日程度で薬剤放出を終えている。これらのことから、薬剤層、放出制御層のPT比を調整することで目的に合わせた徐放期間を設定することができると分かる。

0115

3-2層数の比較
P20P40P0P100シートについて、薬剤層だけのもの(P40)、ガード層をつけたもの(P40P0)、放出制御層をつけたもの(P20P40P0)、展開層をつけたもの(P20P40P0P100)の4種類について薬剤徐放特性を調べた(図22)。グラフから、層数が多くなるにつれて初期バーストが抑えられ、薬剤放出速度が遅くなってより長期にわたって薬を放出できていることが分かる。P40シートは10日時点で初期バーストにより含有量の8割の薬が放出され、徐々になだらかになって40日程度で完全に徐放しきった。P40P0シートでは片面の初期バーストが抑えられ、P40に比べて8割程度の速度で薬を放出した。途中からなだらかになり、70日程度で完全に徐放しきった。P20P40P0シートでは徐放速度はP40の5割程度に抑えられ、100日程度で完全に徐放しきった。P20P40P0P100ではP40に比べて放出速度は3割程度に抑えられており、更に3層構造シートよりも線型的で緩やかな徐放が確認できた。100日程度で完全に徐放が終了した。

0116

当初の予想では、薬剤徐放に大きく作用するのは3層構造までであり、展開層はP100で薬を透過しやすく徐放に影響があまりないものと考えており、したがって3層構造シートと4層構造シートはあまり違いが無いものと考えていた。しかし、結果のグラフから見るに、3層構造よりも4層構造の方が大幅に徐放性が高まっている。これは恐らく、ガード層側に10μm程度の展開層が加わることでガード層から漏れる薬が放出するまでのタイムロスができていることが理由の1つとして考えられる。また、展開層の作製工程で、シートの側面部がコーティングされていることも考えられる。したがって、側面部とガード層側からの漏れが抑えられることで、3層構造よりも徐放性が高まり、P40に対して3割程度の放出速度になったものと考えられる。また、単純に4層構造の作製工程でUV照射が1回分多いため、シート全体のUV架橋度が高まったことも理由に挙げられる。

0117

3-3 片面徐放評価試験
ガラス器具にDDSデバイスを挟んで放出制御層側とガード層側(展開層側)において放出された薬の濃度を測定し、片面にターゲティングした徐放が出来ているか確認した(図23)。グラフから、ガード層は放出制御層側に比べて有意に薬剤放出が抑えられていることが確認できた。またガード層側は直線的な薬剤放出が見られ、少なくとも60日程度経過してもガード層や展開層にクラックが生じていないことが確認できる。ガラス器具で挟んだ状態でクラックが生じないことが確認できたため、眼球上の狭小領域にこのDDSデバイスを移植しても長期間クラックが生じることなく薬剤徐放ができることが予想できる。図22の結果を踏まえると、ガード層及び展開層が片面徐放に貢献していることが分かる。また、展開層があることで曲率半径が安定し、器具に挟んでもデバイスが壊れないようになっていると考えられる。

0118

3-4 実薬を用いた徐放試験
EDV(Edaravone)、CPA(Cyclophosphamide)、TM(Timolol)、CYA(Cyclosporine)、CLT(Clotrimazole)についてP20P40P0P100デバイスを用いて徐放試験を行った。

0119

まず、EDV、CPAについて徐放試験を行った(図24)。CPAは1日目で初期バーストにより完全に薬剤を放出しきってしまった。これはCPA自体が親水性であるため、デバイスに水分が含まれた時点で薬が溶けきってしまったことが分かる。このことから、PEGDM-TEGDMデバイスは低分子の親水性薬剤相性が悪いことが予想される。また、EDVは比較的初期バーストが抑えられていたが、3日程度で殆どの薬剤を放出してしまった。初期バーストが抑えられていたのは、EDV自体が疎水性であることに起因していると予想できる。また、それでも3日程度で放出しきってしまったのは、薬剤の分子量がTEGDMの分子量より小さく、高分子の網目を通過しやすいためではないかと考えられる。EDVがCPAよりも大きな濃度で算出されてしまったのは、薬剤がP40プレポリマー溶液に対して難溶であり、想定した濃度よりも高濃度でデバイスが作製された可能性がある。

0120

続いて、TM、CLT、CYAについて徐放試験を行った(図25、26及び27)。前述の実験と同じく、親水性薬剤は放出が速く、疎水性薬剤は放出が遅いことが確認できる。TMは親水性薬剤であり、初期バーストにより1日程度で9割の薬剤が放出され、5日程度で横ばいになっていた。一方、疎水性薬剤であるCLT、CYAは初期バーストが抑えられていた。CYAは分子量が大きいため、想定される放出量の1/70程度に留まった。CLTは初期バーストが抑えられ、40日に亘って線型的な徐放が確認された。CLTは疎水性で尚且つTEGDMより分子量が大きく、PEGDMより分子量が小さいため、試した実薬の中でFluoresceinと最も近い薬剤と言える。CLTのグラフは7〜20日付近で徐放速度が落ちているように見えるが、これは計測期間が空いたことで薬剤飽和を起こしている可能性が原因として考えられる。CLTは2日程度ごとにサンプリングするのが適切ではないかと考えている。

0121

4 まとめ
薬剤徐放デバイスの薬剤徐放特性を調べた。PEGDM-TEGDMデバイスは、PT比、層数、片面徐放評価、実薬の4種類の観点から調べた。薬剤層、及び放出制御層のPT比を下げることで徐放速度を下げることができる。また、1層よりも2層、3層、4層と層数を重ねるごとに初期バーストがより抑制され、徐放速度が低下した。片面徐放評価試験では、ガード層側が有意に放出制御層側より薬の出方が抑えられていることが分かった。実薬についての検討では、Fluoresceinのように疎水性で分子量がTEGDMより大きくPEGDMより小さいCLTが優れた徐放性を見せた。したがって適切な薬剤を選ぶことで徐放性を高めることができる。

0122

[実施例4]ウサギ眼球に対する経強膜薬剤送達試験
実施例3では高分子の比率を調整することで薬剤放出を制御する4層構造デバイスについて、in vitro系での薬剤徐放動態を確認した。本実施例では動物を用いたin vivo系での試験を行った。本実施例ではウサギ強膜上に対するデバイスのインジェクションによる移植操作、ウサギ強膜上に留置したDDSデバイスからの網膜への薬剤送達について検討を行った。

0123

1デバイスの選択
動物実験をするにあたって実施例3までの結果も踏まえてデバイス選択について述べる。まず薬剤層について、比較的徐放性の高いP20、P40に絞り、放出制御層とガード層をつけた3層構造シートについて特性を調べた。薬剤層P20のものは、断面2次モーメントの高さや、膨潤率の低さが起因して、注射器に装填するのが困難だったり、膨潤時に患部に合わない曲がり方をしたりすることが多かった。一方、薬剤層P40のものでは、柔軟性を重視すると徐放性に難が出たり、徐放性を重視するとインジェクション操作後の展開が上手くいかなかったりする問題があった。ここで、比較的インジェクション操作がしやすく、徐放性の高いP80P20P0、P20P40P0について、展開層(P100)を設けることで曲率半径の制御を図った。P80P20P0P100デバイスについては、インジェクション後の曲率半径を制御することが理論式から予想できたが、展開層の調整に対する曲率半径の制御の効率が悪く、デバイスのサイズが大きくなってしまうことが予想できる。一方で、P20P40P0P100デバイスは、比較的曲率半径の制御が容易で、インジェクション後の適切な展開も確認ができた。また、薬剤層の増量を試行できる程度の余裕がある。したがって動物実験ではP20P40P0P100デバイスを用いた。デバイスの選択における様々な項目の検討は表5にまとめた。

0124

0125

2実験
2-1試薬
PEGDM-TEGDMデバイス
Poly (ethylene glycol) dimethacrylate (PEGDM、Mw 750、SIGMA-ALDRICH)、Triethylene glycol dimethacrylate (TEGDM、Mw 286.32、和光純薬)、IRGACURE 2959 (Mw 224.3、BASFジャパン)、Fluorescein (free acid) (Mw 332.31、SIGMA-ALDRICH)、Hyaluronic Acid Sodium Salt(和光純薬)。なお、ダルペッコリン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)は今後特に断りのない場合はD-PBS(-) (pH7.4; 2.68 mM KCl、1.47 mM KH2PO4、136.9 mM NaCl、8.06 mM Na2HPO4)を使用した。

0126

2-2ウサギ強膜上へのデバイスの移植
ウサギ眼球は個体差があるものの人間とほぼ同じサイズで直径約23mm程度である。本実験でDDSデバイスを挿入するのは結膜下、強膜上の狭小領域でありDDSデバイスのサイズは事前実験の経験則として直径6mmとした。これより大きいものは、移植場所に収まらないことが多い。実験に使用するDDSデバイスは最終的に注射針を用いて結膜下にインジェクションすることを目的としている。結膜をニードルで2mm程度穿孔し、その穴から事前に3w/Vヒアルロン酸溶液流し込んで空間を拡張した。この操作をすることで、インジェクションの障害になるテノン嚢組織を除けることができる。穿孔した穴にインジェクターを挿し込みヒアルロン酸溶液と共にデバイスを射出した。射出後、綿棒でDDSデバイスが眼球局面に綺麗に沿うように整えた。薬剤層を厚めにしたデバイスについては、簡単のためインジェクターを用いず、結膜を切開して移植を行った。

0127

<ウサギ結膜下へのデバイスの移植手順>
(1) 体重3kgのオスの日本ウサギ(JWウサギ)を塩酸ケタミン(90mg/kg)及びキシラジン塩酸塩(10 mg/kg)を用いて麻酔した。
(2)実体顕微鏡下でニードルを用いて結膜を穿孔した。
(3) 結膜下に3w/Vヒアルロン酸溶液を注射し、インジェクション・シート展開の空間を確保した。
(4)インジェクターにDDSデバイスとヒアルロン酸溶液を入れ、デバイスを前述の穴からインジェクションした。必要であれば綿棒でデバイスが眼球に沿うように整えた。
(5) デバイスの固定は行わず、眼軟膏を塗ってウサギをケージに戻した。
手術法図28に示す。

0128

2-3 In vivoインジェクション
P20P40P0P100デバイスについてウサギ結膜下へのインジェクションを行った。デバイス
の作製条件は、デバイスサイズ直径6mm、薬剤層P40がスペーサー厚11μm、Fluorescein 10mg/mL含有、放出制御層とガード層はspincoat 1000rpm、加速10s、最大速度15s、展開層はスペーサー無し、spincoat無しとした。移植方法は前述の移植手順に準拠する。デバイスはおよそ2週間後に経過観察をした。

0129

2-4眼球内蛍光計測
移植から一定期間経過後に、眼球を摘出し眼球内部のFluorescein濃度を計測することでデバイスから眼球へ移行したFluoresceinの量を評価した。以下に具体的な手順を示す。

0130

<眼球内Fluorescein濃度の測定>
(1)デバイスを移植したウサギに麻酔をした後に安楽死させ、眼球を摘出した。
(2)FAカメラを用いてデバイスが強膜上に留置された状態の明視野及び蛍光写真を撮影した。
(3) デバイスを眼球上から取り除き、再び明視野及び蛍光写真を撮影した。
(4) 眼球前方1/6を切開して前房水、虹彩毛様体水晶体、硝子体に分けた。
(5) 眼球後方5/6を網膜、RPE/脈絡膜、強膜に分けた。
(6) 前房水以外の組織はそれぞれ90 Lの0.1 M NaOH 1 % tritonPBS溶液に浸し、15分程度静置した。
(7) 組織を浸したPBS溶液をソニケーションした。ソニケーション条件は10秒間超音波ON、30秒間OFFを1セットとし、10サイクル行った。
(8) ソニケーションしたPBS溶液に10μLの0.9 M HCl 1 % triton PBS溶液を滴下し、撹拌することで中和した。
(9) 中和したPBS溶液を15、000rpmで10分間遠心分離した。
(10) 前房水、及びそれ以外の組織の上澄み液200μLを回収し、蛍光測定機でFluorescein の蛍光濃度を測定した。その際のバックグラウンドはPlaceboデバイスを移植した反対側の眼球の組織とした。

0131

2-5眼球内部への薬剤徐放試験
PEGDM-TEGDMデバイスについて、経強膜の薬剤移行性を確認した。前述のin vivoインジェクションで作製したデバイスの作製条件を、薬剤層スペーサー厚100μm、薬剤濃度100mg/mLに変更して実験を行った。移植方法は、結膜を切開して縫合で閉じて移植を行った。ウサギは9羽を対象とし、右目にはDDSデバイスを上側、上耳側に計2枚入れ、左目無処置とした。4羽は2週間で眼球摘出し、5羽は4週間で眼球摘出した。摘出後の薬剤測定方法は前述の濃度測定の方法に準拠した。
眼球内部への薬剤徐放試験の方法を図29に示す。

0132

2-6統計解析
データは全て平均値+標準偏差で記述する。

0133

3 結果と考察
3-1 In vivoインジェクション
P20P40P0P100デバイスのウサギ強膜上へのインジェクションを行った(図30)。デバイスは壊れることなく射出され、結膜の穴を通って強膜上に到達した。デバイスは射出とほぼ同時に開き始め、強膜上に到達後膨潤により眼球に沿った曲げを維持した。UVライトを当てて結膜越しにデバイスの状態を確認すると、デバイスが開いて眼球に密着していることが分かった。デバイスは2週間程度留置し、結膜を切開して状態を確かめると、眼球に沿った曲率を維持していた。また、デバイスを除去し、強膜に対してUVライトを当てると、殆ど蛍光が見られなかった。これは、デバイスに含有させた薬の量が少ないため、強膜に移行した薬が代謝でクリアランスされてしまったことによるものだと思われる。これを踏まえ、経強膜薬剤徐放試験においては、薬剤層を100μm厚、薬剤濃度100mg/mLとし、薬剤含有量を50倍程度に向上させて実験を行った。

0134

3-2眼球内部への薬剤徐放試験
2週間の時点で4羽、4週間の時点で5羽から眼球とデバイスを摘出した(図31)。2週間のものより4週間時点のデバイスの方が蛍光試薬の赤みが抜けていた。蛍光視野で確認すると、4週間時点の方では蛍光が弱まっているように見える。デバイスは特に固定をしていなかったが、4間経過しても眼球に密着していた。曲率半径においても、眼球の接着に適切な数値を維持していることが確認できた。また、強膜へ蛍光が移行していることが蛍光画像から確認できる。

0135

続いて、摘出した眼球を組織ごとに分離して蛍光測定した(図32)。まず、デバイスから近い強膜、脈絡膜・RPEでは4週間時点の方が蛍光濃度が明らかに高くなっていた。また、網膜、硝子体となると2週間時点の方が高い値が出ているが、2週間時点ではその先の虹彩・毛様体、前房水に到達できていない。4週間デバイスを留置した場合ではデバイスから最も遠い前房水までFluoresceinが送達できていることが分かった。

0136

脈絡膜、網膜、前房水、虹彩・毛様体に着目して実用性を考える。まず、網膜における実薬エダラボンの有効濃度の例は0〜2.86ng/gである[N.Nagai et al., Investigative Ophthalmology & Visual Science, December 2016, Vol.57, 6527-6538]。また、脈絡膜では1.44〜61.7ng/gである[同上]。本実験では、網膜濃度が2週目で0.91 ng/g、4週目で0.33 ng/g、脈絡膜では4.12 ng/g、4週目で3.76 ng/gと測定された。したがって少なくとも4週間に亘って有効濃度の薬剤を徐放できていたと分かる。網膜や脈絡膜に対して長期間有効濃度で徐放が出来れば、加齢黄斑変性や網膜変性症に対する有効な治療を提示することができる。また、4週間時点で前房水や虹彩・毛様体に薬剤が到達していることで、例えば毛様体付近の組織の異変によって起こされる緑内障などの病気の対策となる可能性が示唆された。

0137

4 まとめ
本実施例では、DDSデバイスのウサギ眼球へのインジェクションによる移植操作の検討と、経強膜薬剤送達における眼内蛍光濃度測定を行った。デバイスはインジェクターから容易に結膜下にインジェクションすることが出来、長期間に亘って眼球曲面に適切な曲率半径を維持した。また、デバイスから長期間に亘って眼球に対する薬剤送達が行われ、脈絡膜・RPE、網膜において病気に対する有効な濃度が確認できた。4週間時点では、デバイスから最も遠い位置にある前房水にまで薬剤が到達しているのを確認できた。

0138

結論
実施例1〜4では、難治性網膜疾患の治療を効果的に行うための薬剤徐放デバイスとして、注射器から低侵襲にインジェクションでき、膨潤による曲率半径の制御が可能な経強膜DDSデバイスの開発を行った。

0139

まず、PEGDMとTEGDMを組み合わせて薬剤徐放デバイスの作製を行い、力学的特性の測定を行った。本デバイスは、PEGDM-TEGDMの比率(PT比)を変えることで、ヤング率や膨潤率を調整することが出来た。続いて薬剤徐放デバイスの曲率半径の制御とインジェクション操作について検討した。膨潤後の多層シートの曲率半径理論式を立式し、シミュレーションを行ったところ、膨潤率の高い展開層を導入した4層構造では容易にデバイスの曲率半径制御が可能であると予想された。実際にin vitroで曲率半径の変化を観察すると展開層の厚さによってデバイスの曲率半径を調整できることが確認できた。また、注射器を用いて水中にインジェクションされたデバイスは、膨潤によって眼球に沿いやすい形状にまで展開した。

0140

次に、作製したデバイスのin vitro薬剤徐放特性を調べた。デバイスはPT比を調整することで薬剤放出を制御することができ、モデル薬剤を90日間に亘って線型的に徐放することが可能である。デバイスの放出制御層側とガード層側での徐放特性を比べたところ、ガード層側では著しく薬の放出が抑えられており、片面だけに標的化した徐放が出来ることを確認した。また、網膜細胞保護の作用を持つ実薬を少なくとも40日間に亘って線型的に徐放可能であることを確認した。

実施例

0141

最後に、デバイスのウサギ強膜への移植操作と経強膜薬剤送達試験を行った。まず、結膜にニードルで小さな穴を開け、注射器を用いてデバイスを結膜下へとインジェクションすることに成功した。デバイスは結膜下の狭小な領域においても膨潤によって押し拡がり、眼球に密着する形状まで展開した。また、移植後2、4週間の時点での眼内組織への薬剤移行を確認した。モデル薬剤は、網膜や毛様体まで到達しており、特に網膜では網膜疾患を抑えるのに十分な濃度の薬剤が確認された。

0142

本発明の4層構造のシート型DDSデバイスは、薬剤の長期間の持続的な投与に利用することができる。

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