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課題
解決手段
概要
背景
シキミ酸は、植物が芳香族化合物を生合成するための反応経路における重要な中間体であり、多くの植物に含まれる。また、シキミ酸は、インフルエンザ治療薬タミフル(登録商標)の出発原料としても用いられる。インフルエンザ治療薬タミフルの製造には、スターアニス(「八角」とも称される)から単離されたシキミ酸が用いられている。シキミ酸はまた、p−ヒドロキシ安息香酸やフェノール等の有用化学物質に化学的に変換可能であり、それらの合成原料としても有望である。
シキミ酸の生産方法としては、植物バイオマス原料からの抽出、分離精製によるシキミ酸の製造方法が知られている(特許文献1)。しかし、植物からの抽出、精製方法は、煩雑であり、収率が低く、また原料が天然物であるため、安定供給や大量供給が困難といった問題がある。また、特許文献2には、発現可能な制御配列下に、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼをコードするDNAにより形質転換されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換体、及び当該形質転換体を用いて、還元条件下の反応液中に糖類の代謝速度を向上させて有機化合物を蓄積し、該反応液より有機化合物を回収することを特徴とする有機化合物の製造方法が記載されている。特許文献2には、当該方法により製造され得る有機化合物が多数列挙されており、そのなかの一つとしてシキミ酸も挙げられている。しかし、特許文献2の実施例等には、シキミ酸を製造する方法について具体的な開示はされていない。また、当該方法では、シキミ酸は宿主体内に蓄積することになり、そのため、シキミ酸を回収するためには当該宿主を破砕した上で分離精製という工程を経て得ることが必要なため煩雑であり、この点は特許文献1に記載の植物バイオマス原料からの抽出、分離精製と同様となる。また宿主の破砕を要するため、製造の都度に宿主の培養を最初からやり直す必要があり、非効率である。
また、特許文献3には、受託番号FERM BP−6722で特定されるシトロバクター・フロインディの特殊な変異株がシキミ酸を分泌する能力を有すること、及び当該変異株を用いたシキミ酸の製造方法が記載されている。しかし、当該方法は非常に特殊な変異株を使用する必要がある。また、特許文献3には、シキミ酸を分泌する能力をもたらする遺伝因子(表現型)が具体的に特定されていない。かかる状況の下、シキミ酸を生物学的に生産する新たな方法の開発が熱望されている。
概要
微生物を用いて簡便にシキミ酸を生産することができる新たな方法を提供すること。下記(A)及び(B)の一方又は両方の要件を満たす遺伝子が、当該遺伝子が発現するように組み込まれた微生物を培養して、当該微生物にシキミ酸を生成させる工程を含む、シキミ酸の生産方法:(A)特定の塩基配列又はこれと90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子、(B)特定のアミノ酸配列又はこれと70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。なし
目的
本発明は、微生物を用いて簡便にシキミ酸を生産することができる新たな方法を提供する
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 0件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
請求項1
下記(A)及び(B)の一方又は両方の要件を満たす遺伝子が、当該遺伝子が発現するように組み込まれた微生物を培養して、当該微生物にシキミ酸を生成させる工程を含む、シキミ酸の生産方法:(A)配列番号1で表される塩基配列又はこれと90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
請求項2
前記微生物が、前記遺伝子と、フュージョンパートナーをコードする遺伝子とを発現するように組み込んだ微生物であり、フュージョンパートナーをコードする遺伝子の終止コドンを構成するヌクレオチドの一部が前記遺伝子の開始コドンの一部となるように連結されて微生物に導入されている、請求項1に記載の方法。
請求項3
前記培養工程で得られたシキミ酸を回収する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
請求項4
前記微生物がバクテリアである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
請求項5
下記(A)及び(B)の一方又は両方の条件を満たす遺伝子を発現するように組み込んだ形質転換体:(A)配列番号1で表される塩基配列又はこれと90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
請求項6
請求項5に記載の形質転換体であって、シキミ酸の分泌能を有する、形質転換体。
請求項7
請求項5又は6に記載の形質転換体であって、前記遺伝子と、フュージョンパートナーをコードする遺伝子とを発現するように組み込まれた形質転換体であり、フュージョンパートナーをコードする遺伝子の終止コドンを構成するヌクレオチドの一部が前記遺伝子の開始コドンの一部となるように連結されている、形質転換体。
請求項8
バクテリアである請求項5〜7のいずれか1項に記載の形質転換体。
技術分野
背景技術
0002
シキミ酸は、植物が芳香族化合物を生合成するための反応経路における重要な中間体であり、多くの植物に含まれる。また、シキミ酸は、インフルエンザ治療薬タミフル(登録商標)の出発原料としても用いられる。インフルエンザ治療薬タミフルの製造には、スターアニス(「八角」とも称される)から単離されたシキミ酸が用いられている。シキミ酸はまた、p−ヒドロキシ安息香酸やフェノール等の有用化学物質に化学的に変換可能であり、それらの合成原料としても有望である。
0003
シキミ酸の生産方法としては、植物バイオマス原料からの抽出、分離精製によるシキミ酸の製造方法が知られている(特許文献1)。しかし、植物からの抽出、精製方法は、煩雑であり、収率が低く、また原料が天然物であるため、安定供給や大量供給が困難といった問題がある。また、特許文献2には、発現可能な制御配列下に、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼをコードするDNAにより形質転換されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換体、及び当該形質転換体を用いて、還元条件下の反応液中に糖類の代謝速度を向上させて有機化合物を蓄積し、該反応液より有機化合物を回収することを特徴とする有機化合物の製造方法が記載されている。特許文献2には、当該方法により製造され得る有機化合物が多数列挙されており、そのなかの一つとしてシキミ酸も挙げられている。しかし、特許文献2の実施例等には、シキミ酸を製造する方法について具体的な開示はされていない。また、当該方法では、シキミ酸は宿主体内に蓄積することになり、そのため、シキミ酸を回収するためには当該宿主を破砕した上で分離精製という工程を経て得ることが必要なため煩雑であり、この点は特許文献1に記載の植物バイオマス原料からの抽出、分離精製と同様となる。また宿主の破砕を要するため、製造の都度に宿主の培養を最初からやり直す必要があり、非効率である。
0004
また、特許文献3には、受託番号FERM BP−6722で特定されるシトロバクター・フロインディの特殊な変異株がシキミ酸を分泌する能力を有すること、及び当該変異株を用いたシキミ酸の製造方法が記載されている。しかし、当該方法は非常に特殊な変異株を使用する必要がある。また、特許文献3には、シキミ酸を分泌する能力をもたらする遺伝因子(表現型)が具体的に特定されていない。かかる状況の下、シキミ酸を生物学的に生産する新たな方法の開発が熱望されている。
0005
特開2012−188374
特開2011−229544
特開2000−78967
先行技術
0006
J Mol Biol. 2015 Feb 27;427(4):943-54
発明が解決しようとする課題
0007
本発明は、微生物を用いて簡便にシキミ酸を生産することができる新たな方法を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
0008
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、多種多様な遺伝子のうちシキミ酸を効率的に排出する輸送体をコードしているものを特定し、かかる遺伝子を用いることにより上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、上記新たな知見に基づくものである。
0009
従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.下記(A)及び(B)の一方又は両方の要件を満たす遺伝子が、当該遺伝子が発現するように組み込まれた微生物を培養して、当該微生物にシキミ酸を生成させる工程を含む、シキミ酸の生産方法:
(A)配列番号1で表される塩基配列又はこれと90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子
(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
0010
項2.前記微生物が、前記遺伝子と、フュージョンパートナーをコードする遺伝子とを発現するように組み込んだ微生物であり、フュージョンパートナーをコードする遺伝子の終止コドンを構成するヌクレオチドの一部が前記遺伝子の開始コドンの一部となるように連結されて微生物に導入されている、項1に記載の方法。
0011
項3.前記培養工程で得られたシキミ酸を回収する工程をさらに含む、項1又は2に記載の方法。
0012
項4.前記微生物がバクテリアである項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
0013
項5.下記(A)及び(B)の一方又は両方の条件を満たす遺伝子を発現するように組み込んだ形質転換体:
(A)配列番号1で表される塩基配列又はこれと90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子
(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
0014
項6.項5に記載の形質転換体であって、シキミ酸の分泌能を有する、形質転換体。
0015
項7.項5又は6に記載の形質転換体であって、前記遺伝子と、フュージョンパートナーをコードする遺伝子とを発現するように組み込まれた形質転換体であり、フュージョンパートナーをコードする遺伝子の終止コドンを構成するヌクレオチドの一部が前記遺伝子の開始コドンの一部となるように連結されている、形質転換体。
0016
項8.バクテリアである項5〜7のいずれか1項に記載の形質転換体。
発明の効果
0017
本発明は、微生物を用いて簡便にシキミ酸を生産することができる新たな方法を提供する。
図面の簡単な説明
0018
図1[A]:配列番号1の具体的な塩基配列を示す。図1[B]:配列番号2の具体的なアミノ酸配列を示す。
図1[A]:配列番号8の具体的な塩基配列を示す。図1[B]:配列番号9の具体的なアミノ酸を示す。
図1[A]:配列番号12の具体的な塩基配列を示す。図1[B]:配列番号13の具体的なアミノ酸を示す。
実施例の結果を示す。
実施例の結果を示す。
0019
本発明において、用語「遺伝子」には、特に言及しない限り、タンパク質、tRNA、rRNA等の一次構造を規定している構造遺伝子だけでなく、プロモーター、オペレーター等の特定の制御機能を有する核酸上の領域も包含される。従って、本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。また、「構造遺伝子」には、元のDNA配列にサイレント変異が施されたサイレントDNAも包含される。また、本発明においては、遺伝子発現に干渉するsiRNA等の核酸分子も「遺伝子」に包含される。本発明においては、そうでないことを明示しない限り、用語「遺伝子」は、上記説明と矛盾しない範囲で、用語「核酸」と置き換えることができる。
0020
本明細書中において、「核酸」は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドと同義であって、DNA、RNA、DNA−RNAハイブリッドのいずれであってもよい。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する核酸分子といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する核酸分子(またはヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチド)も包括的に意味するものとする。また、これらの核酸分子は環状でも直鎖状であってもよく、また合成及び生物由来のいずれであってもよい。
0021
本発明において、用語「タンパク質(タンパク)」及び「ペプチド」は、特に言及しない限り、オリゴペプチド及びポリペプチドを含む意味で用いられる。また、本明細書において、「タンパク質」及び「ペプチド」は、特に言及しない限り、糖鎖などによって修飾されているタンパク質及び非修飾のタンパク質の両方を包含するものとする。このことは、タンパク質であることが明記されていないタンパク質についても同様である。
0022
本明細書中において、「膜タンパク質」は、特に言及しない限り、細胞膜に局在する形で発現し、所定の化合物の細胞内外の輸送能を有するタンパク質を含む意味で用いられる。また、「膜タンパク質」は、所定の化合物の細胞内外の輸送に関わる膜輸送体タンパク質、細胞膜に局在し、所定の化合物への触媒と細胞内外の輸送に関わる合成酵素タンパク質、または細胞膜において機能するタンパク質分泌装置と呼ばれる、細胞内外のタンパク質の輸送に関わる複数のタンパク質による構成される複合体を含むものとする。膜輸送体タンパク質はさらにエクスポータータンパク質、インポータータンパク質を含むものとする。
0023
形質転換体
本発明は、下記(A)及び(B)の一方又は両方の条件を満たす遺伝子を発現するように組み込んだ形質転換体を提供する:
(A)配列番号1で表される塩基配列又はこれと90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子
(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
0024
本発明における上記要件(A)に規定されている配列番号1は、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)のある膜タンパク質をコードする核酸の塩基配列を示す。配列番号1の具体的な塩基配列を図1[A]に示す。上記要件(A)において、配列番号1で表される塩基配列又はこれと95%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子が好ましく;配列番号1で表される塩基配列又はこれと97%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子がより好ましく;配列番号1で表される塩基配列又はこれと99%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子がより好ましい。要件(A)を満たす遺伝子としては、下記要件(B)で示される配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又はこれと機能的等価物をコードするものが好ましい。また、「配列番号1で表される塩基配列を有する遺伝子」には、いわゆるサイレント変異のように、配列番号1とは塩基配列が異なるものの、コードするアミノ酸配列が同一であるような塩基配列を有する遺伝子も包含される。
0025
本発明における上記要件(B)に規定されている配列番号2は、コリネバクテリウムグルタミカムのある膜タンパク質のアミン酸配列を示す。配列番号2の具体的なアミノ酸配列を図1[B]に示す。上記要件(B)において、配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子が好ましく;配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと85%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するpポリペプチドをコードする遺伝子がより好ましく;配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子がより好ましく;配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子がより好ましく;配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと97%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子がより好ましく;配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子がより好ましい。要件(A)を満たす遺伝子としては、下記要件(B)で示される配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又はこれと機能的等価物をコードするものが好ましい。上記要件(B)において、配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと機能的等価物が好ましい。
0026
本発明においては、前記「(A)及び(B)の一方又は両方の条件を満たす遺伝子」を、遺伝子Xと示すこともある。本発明者らは、エクスポータータンパク質の機能が示唆されている多種多様に存在する遺伝子のうち、上記遺伝子Xを微生物に導入した場合に、シキミ酸の細胞外への分泌が非常に高くなることを見出した。
0027
上記遺伝子Xを得る方法は特に限定されないが、例えば、後述の実施例のように、所定の微生物のゲノムDNAを鋳型にし、適当なプライマーを用いたPCRにより、膜輸送体候補タンパク質をコードする遺伝子を増幅することにより得ることができる。膜タンパク質としてどの微生物に由来するものを用いるかは特に限定されないが、例えば、「遺伝子を導入する微生物」として後述する微生物等が挙げられる。当該膜タンパク質を元々有する微生物と当該膜タンパク質の遺伝子を導入する微生物とは異なる種類のものでも同一種でもよい。
0028
これらの遺伝子Xを導入する微生物としては、特に限定されないが、本発明においては、真核生物、原核生物のうち、原核生物が好ましい。原核生物としては、例えば、大腸菌、放線菌(Corynebacterium属、Streptomyces属、Propionibacterium属等)、乳酸菌(Lactobacillus、Streptococcus属等)、枯草菌(Bacillus属等)等のバクテリア(真正細菌)が挙げられ、大腸菌、放線菌等が好ましい。Corynebacterium属としては、Corynebacterium glutamicum、Corymebacterium ammoniagenes、Corynebacterium lactofermentum、Corynebacterium efficiens等が挙げられる。
0029
上記微生物に、遺伝子Xを導入する方法としては、導入する遺伝子Xとして前述のものを用いる以外、自体公知の方法に従い行うことができる。例えば、遺伝子Xを組み込んだベクターを構築し、当該ベクターの存在下で上記微生物をインキュベートすることにより行うことができる。
0030
本発明の実施形態において、形質転換体には、上記遺伝子Xに加え、フュージョンパートナーをコードする遺伝子が組み込まれていることが好ましい。
0031
本発明において、フュージョンパートナーとは、発現させるタンパク質のN末端側に結合させるタンパク質で、膜タンパク質のmRNAの安定化や膜タンパク質の細胞膜上での発現量の向上といった効果を発揮するもので(非特許文献1)、発現させるタンパク質を精製する際にも利用される。代表的なものにはmstX、ybeLなどがある。尚、非特許文献1には、フュージョンパートナーであるmstX、ybeLをProW、MscL、LacY、GltPといった膜タンパク質に連結してin vivoで発現させたことが記載されている。しかし、非特許文献1には、発現させた膜タンパク質が有用物質生産代謝系と共同して機能し、物質生産の効率化に寄与するかどうかの検討結果に関する開示はない。本発明において、mstXとは、Genbank accession No.YP_003097778.1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又は当該アミノ酸配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(典型的には上記ポリペプチドとの機能的等価物)を示す。また、本発明において、ybeLとは、Genbank accession No.NP_415176.1に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又は当該アミノ酸配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(典型的には上記ポリペプチドとの機能的等価物)を示す。
0032
本実施形態において、上記微生物に、フュージョンパートナーをコードする遺伝子と、遺伝子Xとを導入する方法としては、導入する遺伝子としてフュージョンパートナーをコードする遺伝子及び遺伝子Xを用いる以外、自体公知の方法に従い行うことができる。例えば、フュージョンパートナーをコードする遺伝性及び遺伝子Xを組み込んだベクターを構築し、当該ベクターの存在下で上記微生物をインキュベートすることにより行うことができる。本発明においては、フュージョンパートナーをコードする遺伝子と、前記遺伝子XとがポリシストロニックmRNAの翻訳により発現するように連結された遺伝子として前記微生物に組み込まれていることが好ましい。また、フュージョンパートナーをコードする遺伝子と、前記遺伝子Xとが融合タンパク質として発現するように連結された遺伝子として前記微生物に組み込まれていることも好ましい。これらの好ましい実施形態において、前記連結された遺伝子において、前記フュージョンパートナーをコードする遺伝子の終止コドンを構成するヌクレオチドの一部が前記遺伝子Xの開始コドンの一部となるように連結されていることがさらに好ましい。上記微生物には、シキミ酸を発現するか又はシキミ酸の発現を促進する遺伝子をさらに導入してもよい。また、前記微生物(好ましくは大腸菌)には、当該微生物のレアコドンに対応するtRNAをコードする遺伝子がさらに組み込まれていることが、tRNAレパートリーの拡充の観点から好ましい。本発明の形質転換体はシキミ酸を細胞外に分泌することができる。従って、本発明の形質転換体はシキミ酸の生産に非常に有用である。
0033
シキミ酸の生産方法
別の実施形態において、本発明は、下記(A)及び(B)の一方又は両方の要件を満たす遺伝子が、当該遺伝子が発現するように組み込まれた微生物を培養して、当該微生物にシキミ酸を生成させる工程を含む、シキミ酸の生産方法を提供する:
(A)配列番号1で表される塩基配列又はこれと90%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子
(B)配列番号2で表されるアミノ酸配列又はこれと70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
0034
本発明は、前記遺伝子Xが組み込まれた微生物を培養して、当該微生物にシキミ酸を生成させる工程を含む。
0035
当該工程で用いる培地としては、特に限定されず、上記微生物の培養に用いることができるものを広く使用することができる。例えば、LB培地、M9培地、MRS培地、マルツ培地、ブイヨン培地等が挙げられる。上記培地には、炭素源として、グルコース、でんぷん、可溶性でんぷん、廃糖蜜、コーンスティープリカー等を添加してもよい。膜輸送体候補タンパク質が、インポーター候補タンパク質の場合、所定の化合物を予め培地に添加しておいてもよい。培養温度は特に限定されず、20〜45℃、より好ましくは25〜37℃の範囲で適宜設定できる。培養時間も特に限定されないが、例えば、12〜72時間、より好ましくは24〜48時間の範囲で適宜設定できる。培養は、静置培養でも振盪培養でもよいが、振盪培養が好ましい。
0036
本実施形態で用いる遺伝子Xが組み込まれた微生物についての詳細、具体的には、遺伝子Xの説明(遺伝子Xを得る方法、当該遺伝子Xを導入する方法等)、フュージョンパートナーの定義、微生物等の例示等は、前記「形質転換体」で説明した通りである。
0037
本発明の方法は、上記培養工程で得られた培養液から所定の化合物を回収する工程をさらに含んでいてもよい。培養培地からの所定の化合物の回収方法としては、特に限定されず、自体公知の方法(遠心分離、再結晶、蒸留法、溶媒抽出法、クロマトグラフィー等)を適宜用いることができる。
0038
以下に、本願実施例を用いて本発明の具体的な実施形態を説明するが、本発明は当該実施例に示される実施形態に限定されない。
0039
<実験方法の詳細>
(1)膜蛋白質高発現用ベクタープラスミドの構築(全実施例共通)
(1)−1.pTrc99A_mstX_C8_Hisの作成
プラスミドベクターpTrc99A(Pharmacia Biotech)を制限酵素XbaIとHindIIIで切断処理し、リンカーとTEVプロテアーゼ認識配列、His−tagを有するオリゴDNAにXbaI及びHindIIIの認識配列を5´端及び3´端にそれぞれ付加した配列(CTAGAGGTGGCGGTGGCGGTGGCGGTGGCGAAAACCTGTACTTCCAGG
GTCACCACCACCACCACCATCATCATtaaTAGCT)(配列番号3)をライゲーションにより挿入した(pTrc99A_C8_His)。本配列は、北海道システム・サイエンス株式会社に合成を委託して取得した。
0040
次に、pTrc99A_C8_Hisを制限酵素NcoIとKpnIで切断処理し、クローニングしたmstX遺伝子をライゲーションにより挿入した。mstX遺伝子断片は、LB培地を用いて枯草菌(Bacillus subtilis)を培養後、NucleoSpin Tissue (Takara)を付属のプロトコル通りに用いて、枯草菌(B. subtilis)からゲノムDNAを抽出し、抽出したB. subtilisゲノムDNAを鋳型とし、
forward primer: AGGAAACAGACcatgttttgtacattttttgaaaaacatcaccgg(配列番号4)、および
reverse primer: TAGAGGATCCCCGGGTACCACTCATtctttttctccttcttcagatactg(配列番号5)
をプライマーとして用いて、PCRにより増幅することで得た。In−Fusion HD Cloning Kit (Takara)を付属のプロトコル通りに用いて、前記mstX遺伝子断片をNcoI及びKpnIで処理後、pTrc99A_C8_Hisにライゲーションした(pTrc99A_mstX_C8_His)。
0041
(2)−1.シキミ酸輸送体DNAの単離
培地(ポリペプトン2 g, Yeast extract 0.4 g, MgSO4 7H2O 0.2 g/ 200 ml)を用いてコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を培養し、菌体よりNucleoSpin Tissue (Takara)を付属のプロトコル通りに用いてゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型にして、コリネバクテリウム・グルタミカムのゲノムデータベース(https://www.ncbi.nim.nih.gov)から得た「NCgl2828」全長を増幅できるように設計した
forward primer: GAAAAGAATGAGTGGTACCATGAACTCCATGAGCCAAGC(配列番号6)、および
reverse primer: CACCGCCACCTCTAGAATTGGCGTTGCGGGCAAG(配列番号7)
をプライマーとして用いて、PCRにより増幅することでNGgl 2828のDNAを得た(=配列番号1)。pTrc99A_mstX_C8_Hisを制限酵素KpnIとXbaIで処理し、In−Fusion HD Cloning Kit (Takara)を付属のプロトコル通りに用いて配列番号1を融合し、シキミ酸輸送体発現用プラスミドベクターを構築した。このとき、図Xに示すようにmstX遺伝子の終止コドンと各輸送体遺伝子の開始コドンが互いにその一部を共有する状態となっている。
0042
(2)−2.輸送体発現用大腸菌の形質転換
毒性タンパク質の発現に適した大腸菌C43 (DE3)株(Lucigen社)に大腸菌のレアコドンに対応するtRNAを補充するプラスミドpRARE(メルク社)を形質転換した株(C43 (DE3) Rosetta株)を(2)−1で得たシキミ酸輸送体発現用プラスミドベクターの発現宿主とし、実施例株を得た。またコントロールとして、膜輸送体遺伝子をライゲーションしていないpTrc99A_mstX_C8_Hisを前記発現宿主に導入しコントロール株を取得した。
0043
実施例株およびコントロール株を、LB培地を用いて30℃、24 h前培養し、前培養液を得た。50 ml M9最小培地に抗生物質アンピシリン(100 μg/ml)とクロラムフェニコール(30 μg/ml)を添加し、前培養液500 μlを添加し、37℃で振盪培養した。OD660が、おおよそ0.5になった時に、終濃度が1 mM となるようにIPTGを添加し、ひきつづき37℃で、24時間振盪培養した。24時間培養後、9,000 rpm, 15 min遠心し、実施例株培養上清およびコントロール株培養上清を得た。
0044
(2)−3.培養液のLC-MS/MS分析
(2)−2における前培養液、実施例株培養上清およびコントロール株培養上清を0.22 μmのフィルターを用いてろ過した。各ろ液をHPLC-ESI-MS/MS(表1)に供し,シキミ酸の定量を行った。
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さらに、下記に記載の方法により、TOF−MSでも形質転換体により生産されたシキミ酸の定量を行った。2)−2における前培養液、実施例株培養上清およびコントロール株培養上清を0.22 μmのフィルターを用いてろ過した。各ろ液をイオン化のために等量のマトリックス(5mg/mL CHCA(溶媒は70%アセトニトリル、0.1%TFA) ) と混合し、TOF/TOFTM 5800(SCIEX社製)に供した。シキミ酸のピークは、標品を用いて確認(図5上段、Shikimic acid (Std.))し、各ろ液のシキミ酸のピーク強度を比較した(図5)。
0047
また、プライマーとして上記配列番号6及び7で示されるものに代えて下記配列で示されるもの用いてPCR行う以外、上記(2)−1〜(2)−3と同様にして、NCgl2961のDNA(具体的な配列情報は図2に示す)を導入した形質転換体を製造し、そのシキミ酸産生能を評価した:
FW:GAAAAGAATGAGTGGTACCAGCCCGATTCGCTCAAAAAAG(配列番号10)
RV:CACCGCCACCTCTAGATGCGTTTTGCTTTTCAGCACC(配列番号11)。
同様に、プライマーとして上記配列番号6及び7で示されるものに代えて下記配列で示されるもの用いてPCR行う以外、上記(2)−1〜(2)−3と同様にして、NCgl2548のDNA(具体的な配列情報は図3に示す)を導入した形質転換体を製造し、そのシキミ酸産生能を評価した:
FW:GAAAAGAATGAGTGGTACCGAACATTCTCCTGAAGGCAAG(配列番号14)
RV:CACCGCCACCTCTAGATTTCTTCCCTAGATCTTCAAGCTTG(配列番号15)。
実施例
0048
(2)−4.結果
図4及び5に示す。LC-MS/MSでの分析の結果、NCgl 2828の遺伝子を導入した形質転換体の培養上清ではシキミ酸が前培養液、コントロール培養上清ならびにNCgl 2961の遺伝子を導入した形質転換体及びNCgl 2548の遺伝子を導入した形質転換体の培養上清に比べ格段に含まれていることが分かった(図4)。また、またTOF-MSでも同様に、の培養上清ではシキミ酸が前培養液、コントロール培養上清ならびにNCgl 2961の遺伝子を導入した形質転換体及びNCgl 2548の遺伝子を導入した形質転換体の培養上清に比べ格段に含まれていることが分かった(図5)。以上から、配列番号1はシキミ酸輸送体をコードする遺伝子であることが特定され、前記遺伝子を発現させることによりシキミ酸を効率的に産生できることが示された。また、前述のゲノムデータベースでは、NCgl 2961及びNCgl 2548は膜輸送体機能を有しうることが示唆されており、NCgl 2548についてはシキミ酸輸送体であることが示唆されている。従って、NCgl 2828のほうがシキミ酸の産生、分泌を格段に向上させることは、予想外の効果といえる。
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