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課題
解決手段
本発明に係る混粒率評価方法は、超音波探触子1から被評価材Pに超音波を入射させ、第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2を取得する底面エコー検出工程と、第1底面エコー信号の周波数スペクトルSB1を算出すると共に第2底面エコー信号の周波数スペクトルSB2を算出する周波数スペクトル算出工程と、第1底面エコー信号の周波数スペクトルと、第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比SB1/SB2を算出する周波数スペクトル比算出工程と、周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量Sを算出する特徴量算出工程と、特徴量の大きさに基づき、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を評価する混粒率評価工程とを含む。
概要
背景
鋼管等の金属材料から形成された被評価材中に、部分的に粒径の大きな(粒度番号の小さな)金属組織の結晶粒が存在する混粒が生じると、靱性等の機械的特性が低下したり、選択的に腐食することによって耐食性が低下する場合がある。また、金属材料が耐熱鋼の場合、混粒の比率(混粒率)が大きいと、不均一なクリープ変形が生じて、クリープ破断延性及びクリープ疲労特性が低下し、目標とするクリープ破断絞りを確保できない。
このため、金属材料から形成された被評価材の品質評価・品質保証として、被評価材中の金属組織の平均結晶粒度(又は平均結晶粒径)だけではなく、混粒の有無や混粒率を評価することが重要である。
従来、混粒の評価は、JIS G 0551に規定されているように、被評価材を切断し、その切断面の金属組織を顕微鏡で撮像した断面画像に基づき行われていた。
なお、「混粒」とは、1視野内において、最大頻度をもつ粒度番号の粒からおおむね3以上異なった粒度番号の粒が偏在し、これらの粒が約20%以上の面積を占める状態にあるものをいうのが一般的である。ただし、本明細書では、最大頻度をもつ粒度番号の粒からおおむね3以上異なった粒度番号(3以上小さな粒度番号)の粒(粗粒)が8%以上の面積を占める状態にあるものを「混粒」と定義している。
また、本明細書における「混粒率」とは、最大頻度をもつ粒度番号の粒からおおむね3以上異なった粒度番号(3以上小さな粒度番号)の粒(粗粒)が占める面積率を意味する。
しかしながら、上記の評価方法では、被評価材を切断する必要があるため、被評価材の全長について評価できないという問題がある。また、被評価材の端部を切断すれば、全数の評価は可能であるものの、非常に手間を要するという問題がある。
被評価材の金属組織の結晶粒に関する全長・全数の評価を可能にする方法として、例えば、特許文献1に記載の超音波を用いた方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、平均結晶粒径を測定する方法であるため、混粒率を適切に評価できないという問題がある。
概要
金属材料から形成された被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を、被評価材の全長・全数について評価可能な方法を提供する。本発明に係る混粒率評価方法は、超音波探触子1から被評価材Pに超音波を入射させ、第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2を取得する底面エコー検出工程と、第1底面エコー信号の周波数スペクトルSB1を算出すると共に第2底面エコー信号の周波数スペクトルSB2を算出する周波数スペクトル算出工程と、第1底面エコー信号の周波数スペクトルと、第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比SB1/SB2を算出する周波数スペクトル比算出工程と、周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量Sを算出する特徴量算出工程と、特徴量の大きさに基づき、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を評価する混粒率評価工程とを含む。
目的
本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、金属材料から形成された被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を、被評価材の全長・全数について評価可能な方法を提供することを課題とする。
効果
実績
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請求項1
超音波を用いて金属材料から形成された被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を評価する方法であって、超音波探触子から前記被評価材に超音波を入射させ、前記超音波探触子で第1底面エコー及び第2底面エコーを検出して、第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号を取得する底面エコー検出工程と、前記第1底面エコー信号を周波数解析することで第1底面エコー信号の周波数スペクトルを算出すると共に、前記第2底面エコー信号を周波数解析することで第2底面エコー信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出工程と、前記第1底面エコー信号の周波数スペクトルと、前記第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比を算出する周波数スペクトル比算出工程と、前記周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量を算出する特徴量算出工程と、前記特徴量の大きさに基づき、前記被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を評価する混粒率評価工程と、を含むことを特徴とする金属組織の結晶粒の混粒率評価方法。
請求項2
前記所定の周波数帯域は、前記被評価材と同種の金属材料から形成され、前記超音波探触子から超音波を入射させる表面が滑らかである混粒材についての前記周波数スペクトル比と、前記被評価材と同種の金属材料から形成され、前記超音波探触子から超音波を入射させる表面に凹凸がある細粒材についての前記周波数スペクトル比と、前記被評価材と同種の金属材料から形成され、前記超音波探触子から超音波を入射させる表面が滑らかである細粒材についての前記周波数スペクトル比とを算出し、これらの前記周波数スペクトル比を用いて、前記混粒材と前記細粒材とを識別可能な前記特徴量が得られるように予め決定される、ことを特徴とする請求項1に記載の金属組織の結晶粒の混粒率評価方法。
請求項3
前記特徴量は、前記周波数スペクトル比における前記所定の周波数帯域の強度積分値、又は、前記周波数スペクトル比における前記所定の周波数帯域のピーク強度である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属組織の結晶粒の混粒率評価方法。
請求項4
前記被評価材と同種の金属材料から形成され、金属組織の結晶粒の混粒率が異なる複数のサンプル材に対して、前記底面エコー検出工程、前記周波数スペクトル算出工程、前記周波数スペクトル比算出工程及び前記特徴量算出工程を実行することで、前記複数のサンプル材についての前記特徴量を算出する第1準備工程と、前記複数のサンプル材において、前記超音波探触子から入射した超音波が伝搬する部位の断面画像を撮像し、該断面画像に基づき、前記複数のサンプル材の金属組織の結晶粒の混粒率を算出する第2準備工程と、前記第1準備工程で算出した前記複数のサンプル材についての前記特徴量と、前記第2準備工程で算出した前記複数のサンプル材の金属組織の結晶粒の混粒率とに基づき、前記特徴量と前記混粒率との対応関係を算出する第3準備工程と、を更に含み、前記被評価材について実行する前記混粒率評価工程において、前記被評価材について前記特徴量算出工程で算出した前記特徴量と、前記第3準備工程で算出した前記対応関係とに基づき、前記被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を算出する、ことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の金属組織の結晶粒の混粒率評価方法。
請求項5
請求項6
技術分野
背景技術
0002
鋼管等の金属材料から形成された被評価材中に、部分的に粒径の大きな(粒度番号の小さな)金属組織の結晶粒が存在する混粒が生じると、靱性等の機械的特性が低下したり、選択的に腐食することによって耐食性が低下する場合がある。また、金属材料が耐熱鋼の場合、混粒の比率(混粒率)が大きいと、不均一なクリープ変形が生じて、クリープ破断延性及びクリープ疲労特性が低下し、目標とするクリープ破断絞りを確保できない。
0003
このため、金属材料から形成された被評価材の品質評価・品質保証として、被評価材中の金属組織の平均結晶粒度(又は平均結晶粒径)だけではなく、混粒の有無や混粒率を評価することが重要である。
従来、混粒の評価は、JIS G 0551に規定されているように、被評価材を切断し、その切断面の金属組織を顕微鏡で撮像した断面画像に基づき行われていた。
なお、「混粒」とは、1視野内において、最大頻度をもつ粒度番号の粒からおおむね3以上異なった粒度番号の粒が偏在し、これらの粒が約20%以上の面積を占める状態にあるものをいうのが一般的である。ただし、本明細書では、最大頻度をもつ粒度番号の粒からおおむね3以上異なった粒度番号(3以上小さな粒度番号)の粒(粗粒)が8%以上の面積を占める状態にあるものを「混粒」と定義している。
また、本明細書における「混粒率」とは、最大頻度をもつ粒度番号の粒からおおむね3以上異なった粒度番号(3以上小さな粒度番号)の粒(粗粒)が占める面積率を意味する。
0004
しかしながら、上記の評価方法では、被評価材を切断する必要があるため、被評価材の全長について評価できないという問題がある。また、被評価材の端部を切断すれば、全数の評価は可能であるものの、非常に手間を要するという問題がある。
0005
被評価材の金属組織の結晶粒に関する全長・全数の評価を可能にする方法として、例えば、特許文献1に記載の超音波を用いた方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、平均結晶粒径を測定する方法であるため、混粒率を適切に評価できないという問題がある。
先行技術
0006
特開平8−43363号公報
発明が解決しようとする課題
0007
本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、金属材料から形成された被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を、被評価材の全長・全数について評価可能な方法を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
0008
前記課題を解決するため、本発明者らは、特許文献1と同様に、超音波を用いた方法を検討した。
一般的に、被評価材の金属組織の結晶粒の粒径が大きくなると、被評価材中を伝搬する超音波の減衰が大きくなることが知られている。具体的には、被評価材が混粒材(混粒が生じている被評価材)である場合、超音波の伝搬経路中に存在する粗粒での散乱減衰により、底面エコー(超音波の入射面と反対側の面で反射したエコー)の強度が低下することが知られている。
0009
図6は、超音波探触子で底面エコーを検出して得られる底面エコー信号を周波数解析することで算出される周波数スペクトルの一例を模式的に示す図である。図6(a)は、被評価材が混粒材であり、被評価材の表面(超音波探触子から被評価材への超音波の入射面)が滑らかである場合に算出される周波数スペクトルを、図6(b)は、被評価材が細粒材(混粒が生じていない被評価材)である場合に算出される周波数スペクトルを示す。図6(b)において、実線で示す周波数スペクトルは、被評価材の表面が滑らかである場合に算出される周波数スペクトルであり、破線で示す周波数スペクトルは、被評価材の表面に凹凸がある場合に算出される周波数スペクトルを示す。
0010
前述のように、被評価材が混粒材である場合、被評価材の表面が滑らかであっても底面エコー信号の強度が低下する。なお、図6(a)に示すように、混粒材における底面エコー信号の強度低下は、低周波領域よりも高周波領域(図6(a)に示す破線Aで囲った領域)で大きくなる傾向がある。
一方、図6(b)に示すように、被評価材が細粒材である場合、被評価材の表面が滑らかであれば、混粒材の場合に比べて、底面エコー信号の強度低下は少ない(図6(b)の実線で示す周波数スペクトル参照)。
したがい、被評価材の表面が滑らかであれば、底面エコー信号の強度の大小や、底面エコー信号の周波数スペクトルにおける高周波成分と低周波成分との比率の大小等によって、混粒材を細粒材と区別することができ、ひいては混粒率を評価できる可能性がある。
0011
しかしながら、底面エコーの強度は、結晶粒による散乱減衰に加え、被評価材の表面状態による伝達損失の影響も受けて変化する。被評価材の表面状態による伝達損失としては、例えば、被評価材が管である場合のストレートナーマーク(管の矯正時に管の表面に発生する螺旋状の凹部)による伝達損失が挙げられる。また、本発明者らの検討したところによれば、被評価材の表面に凹凸(例えば、管をストレートナーで矯正する際に、ストレートナーのロールが管の表面に押圧されることで発生する螺旋状の凹凸)が生じている場合の伝達損失も、粗粒による散乱減衰と同様に、低周波領域よりも高周波領域で大きくなる場合がある。
このため、図6(b)に示すように、被評価材が細粒材である場合にも、被評価材の表面に凹凸があれば、混粒材の場合と同様の周波数スペクトル(図6(b)の破線で示す周波数スペクトル)になる可能性がある。
したがい、底面エコー信号の周波数スペクトルのピーク強度の大小や、底面エコー信号の周波数スペクトルにおける高周波成分と低周波成分との比率の大小等によっては、混粒材を細粒材と精度良く識別したり、混粒率を評価できない場合がある。
なお、超音波の入射面での伝達損失は、被評価材の表面状態のみならず、被評価材が管である場合には、管の偏芯や偏肉によっても生じ得る。
0012
このため、本発明者らは、底面エコーの強度に対する伝達損失の影響を除去するために、鋭意検討を行った。まず、本発明者らは、第1底面エコー(超音波探触子が表面エコー(超音波の入射面で反射したエコー)を受信してから最初に受信する底面エコー)を受信することで超音波探触子から出力される第1底面エコー信号を周波数解析して第1底面エコー信号の周波数スペクトルを算出すると共に、第2底面エコー(超音波探触子が表面エコーを受信してから2回目に受信する底面エコー)を受信することで超音波探触子から出力される第2底面エコー信号を周波数解析して第2底面エコー信号の周波数スペクトルを算出し、これら第1底面エコー信号の周波数スペクトル及び第2底面エコー信号の周波数スペクトルを用いることに着眼した。そして、本発明者らは、第1底面エコー信号の周波数スペクトルと第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比を算出した場合、この周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量と、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率とが、比較的良好な相関関係を有し、超音波の入射面での伝達損失の影響を低減できることを見出した。
0013
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、超音波を用いて金属材料から形成された被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を評価する方法であって、以下の各工程を含むことを特徴とする金属組織の結晶粒の混粒率評価方法を提供する。
(1)底面エコー検出工程:超音波探触子から前記被評価材に超音波を入射させ、前記超音波探触子で第1底面エコー及び第2底面エコーを検出して、第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号を取得する。
(2)周波数スペクトル算出工程:前記第1底面エコー信号を周波数解析することで第1底面エコー信号の周波数スペクトルを算出すると共に、前記第2底面エコー信号を周波数解析することで第2底面エコー信号の周波数スペクトルを算出する。
(3)周波数スペクトル比算出工程:前記第1底面エコー信号の周波数スペクトルと、前記第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比を算出する。
(4)特徴量算出工程:前記周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量を算出する。
(5)混粒率評価工程:前記特徴量の大きさに基づき、前記被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を評価する。
0014
本発明に係る混粒率評価方法によれば、超音波探触子を被評価材に対して相対的に移動させることで、被評価材の全長・全数の評価が可能であり、被評価材を切断する必要がない。なお、被評価材の端部近傍には、超音波を用いた評価において原理的に発生する未評価領域が存在する。本明細書に記載の「被評価材の全長」は、このような超音波を用いた評価において不可避的に発生する未評価領域は除く意味である。
また、本発明に係る混粒率評価方法によれば、底面エコー検出工程、周波数スペクトル算出工程、周波数スペクトル比算出工程及び特徴量算出工程を実行することで、第1底面エコー信号の周波数スペクトルと第2底面エコー信号の周波数スペクトルとの比である周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量が算出される。前述のように、周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の特徴量と、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率とは、比較的良好な相関関係を有し、超音波の入射面での伝達損失の影響を低減できるため、混粒率評価工程において、特徴量の大きさに基づき、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を評価することが可能である。
したがい、本発明に係る混粒率評価方法によれば、金属材料から形成された被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を、被評価材の全長・全数について評価可能である。
なお、本発明に係る混粒率評価方法において、「混粒率を評価する」とは、特徴量と一対一対応の混粒率の値を算出する場合に限らず、混粒率が所定値以上の値であると算出する場合も含む概念である。また、混粒率の値を直接算出することなく、特徴量が大きいため(したがって、混粒率も大きくなると考えられるため)、混粒率に関して被評価材が不良であると判定する場合も含む概念である。
0015
具体的には、本発明に係る混粒率評価方法の底面エコー検出工程では、例えば、時間幅が互いに同一に設定された各ゲート(エコー信号を検出するためのゲート)によって第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号が取得される。これにより、取得された第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号をA/D変換した場合、横軸が時間についての同じ数のサンプリング点で、縦軸が各サンプリグ点の信号強度で表わされる第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号の信号波形(デジタル信号波形)が得られることになる。
また、本発明に係る混粒率評価方法の周波数スペクトル算出工程では、例えば、第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号の信号波形に高速フーリエ変換(FFT)を施すことで、横軸が周波数についての同じ数のサンプリング点で、縦軸が各サンプリング点の強度(スペクトル強度)で表される第1底面エコー信号及び第2底面エコー信号の周波数スペクトルが算出されることになる。
また、本発明に係る混粒率評価方法の周波数スペクトル比算出工程では、例えば、第1底面エコー信号の周波数スペクトルを構成する各サンプリング点の強度を、第2底面エコー信号の周波数スペクトルを構成し、第1底面エコー信号の周波数スペクトルを構成する各サンプリング点に対応する各サンプリング点の強度で除算することで、横軸が周波数についてのサンプリング点で、縦軸が各サンプリング点の強度の比(第1底面エコー信号のスペクトル強度/第2底面エコー信号のスペクトル強度)で表される周波数スペクトル比が算出されることになる。
さらに、本発明に係る混粒率評価方法の特徴量算出工程では、例えば、周波数スペクトル比の横軸に表された全周波数帯域のうち、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率と比較的良好な相関関係を有し、超音波の入射面での伝達損失の影響を低減できる一部の周波数帯域の特徴量が算出されることになる。
0016
好ましくは、前記所定の周波数帯域は、前記被評価材と同種の金属材料から形成され、前記超音波探触子から超音波を入射させる表面が滑らかである混粒材についての前記周波数スペクトル比(以下、適宜、「第1周波数スペクトル比」という)と、前記被評価材と同種の金属材料から形成され、前記超音波探触子から超音波を入射させる表面に凹凸がある細粒材についての前記周波数スペクトル比(以下、適宜、「第2周波数スペクトル比」という)と、前記被評価材と同種の金属材料から形成され、前記超音波探触子から超音波を入射させる表面が滑らかである細粒材についての前記周波数スペクトル比(以下、適宜、「第3周波数スペクトル比」という)とを算出し、これらの前記周波数スペクトル比(第1〜第3周波数スペクトル比)を用いて、前記混粒材と前記細粒材とを識別可能な前記特徴量が得られるように予め決定される。
0017
上記の好ましい方法によれば、第1〜第3周波数スペクトル比を用いて、混粒材と細粒材(表面に凹凸がある細粒材及び表面が滑らかである細粒材)とを識別可能な特徴量が得られるように、所定の周波数帯域が予め決定される。したがい、このようにして決定された周波数帯域を特徴量算出工程で用いることで、被評価材の表面の凹凸に起因した超音波の入射面での伝達損失の影響が低減され、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を精度良く評価可能である。
なお、上記の好ましい方法において、「混粒材」とは、混粒が生じている材を意味し、「細粒材」とは、混粒が生じていない材を意味する。また、「表面に凹凸がある」とは、
凹凸が無い部位の表面粗さよりも大きな高低差を有して視認可能な部位(凹凸)が表面に存在することを意味する。より具体的には、20μm程度以上の高低差を有する凹凸が表面に存在することを意味する。「表面が滑らかである」とは、表面に上記の部位(凹凸)が存在しないことを意味する。
また、上記の好ましい方法において、「表面が滑らかである混粒材」、「表面に凹凸がある細粒材」及び「表面が滑らかである細粒材」とは、以下の(a)〜(c)の何れの場合をも含む概念である。
(a)実際に上記3種類の材がある場合。
(b)材は1個であるが、この1個の材中に、表面が滑らかで混粒が生じている領域、表面に凹凸があり混粒が生じていない領域、及び表面が滑らかで混粒が生じていない領域が存在する場合。
(c)上記(a)の場合と上記(b)の場合とが組み合わさっている場合(例えば、混粒材と細粒材とが別個に存在するが、1個の細粒材中に、表面に凹凸がある領域と、表面が滑らかである領域とが存在する場合)。
0018
好ましくは、前記特徴量は、前記周波数スペクトル比における前記所定の周波数帯域の強度積分値、又は、前記周波数スペクトル比における前記所定の周波数帯域のピーク強度である。
0019
本発明者らの知見によれば、周波数スペクトル比における所定の周波数帯域の強度積分値やピーク強度は、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率と良好な相関関係(正の相関関係)を有するため、これらを特徴量として用いることで、被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を精度良く評価可能である。
0020
好ましくは、本発明に係る混粒率評価方法は、前記被評価材と同種の金属材料から形成され、金属組織の結晶粒の混粒率が異なる複数のサンプル材に対して、前記底面エコー検出工程、前記周波数スペクトル算出工程、前記周波数スペクトル比算出工程及び前記特徴量算出工程を実行することで、前記複数のサンプル材についての前記特徴量を算出する第1準備工程と、前記複数のサンプル材において、前記超音波探触子から入射した超音波が伝搬する部位の断面画像を撮像し、該断面画像に基づき、前記複数のサンプル材の金属組織の結晶粒の混粒率を算出する第2準備工程と、前記第1準備工程で算出した前記複数のサンプル材についての前記特徴量と、前記第2準備工程で算出した前記複数のサンプル材の金属組織の結晶粒の混粒率とに基づき、前記特徴量と前記混粒率との対応関係を算出する第3準備工程と、を更に含み、前記被評価材について実行する前記混粒率評価工程において、前記被評価材について前記特徴量算出工程で算出した前記特徴量と、前記第3準備工程で算出した前記対応関係とに基づき、前記被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を算出する。
0021
上記の好ましい方法によれば、第1準備工程〜第3準備工程を実行することで、特徴量と混粒率との対応関係が算出される。このため、この対応関係を用いれば、被評価材について実行する混粒率評価工程において、混粒率の値を直接算出することが可能である。
なお、上記の好ましい方法において、「混粒率が異なる複数のサンプル材」とは、以下の(a)〜(c)の何れの場合をも含む概念である。
(a)実際にサンプル材が複数個あって、各サンプル材の混粒率が異なる場合。
(b)サンプル材は1個であるが、この1個のサンプル材中に混粒率の異なる領域が複数存在する場合。
(c)上記(a)の場合と上記(b)の場合とが組み合わさっている場合。
また、上記の好ましい方法の第2準備工程において、「断面画像に基づき、・・・(中略)・・・混粒率を算出する」とは、従来(JIS G 0551等)と同様に、断面画像を検査員が目視して算出する場合の他、断面画像に2値化等の画像処理を施すことで、混粒率を自動的に算出する場合を含む概念である。
0022
本発明者らの知見によれば、本発明に係る混粒率評価方法において、最大頻度をもつ粒(細粒)の粒径が30μm程度であり、混粒率を評価したい粒(粗粒)の粒径が100〜200μm程度である場合には、前記超音波探触子の発振周波数が10〜15MHz(送信波の中心周波数が10〜15MHz)であり、前記所定の周波数帯域が8〜12MHzであることが好ましい。
0023
本発明に係る混粒率評価方法を適用する被評価材は、金属材料から形成される限りにおいて特に限定されるものではないが、好ましくは、管に適用される。
すなわち、本発明に係る混粒率評価方法において、好ましくは、前記被評価材は管であり、前記底面エコー検出工程において、前記超音波探触子を前記被評価材の周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させながら、前記被評価材に超音波を入射させる。
0024
上記の好ましい方法によれば、被評価材である管の金属組織の結晶粒の混粒率を、被評価材の全周・全長・全数について評価可能である。
発明の効果
0025
本発明に係る金属組織の結晶粒の混粒率評価方法によれば、金属材料から形成された被評価材の金属組織の結晶粒の混粒率を、被評価材の全長・全数について評価可能である。
図面の簡単な説明
0026
本発明の一実施形態に係る混粒率評価方法を実施するための装置構成を概略的に示す模式図(鋼管の長手方向から見た図)である。
本発明の一実施形態に係る混粒率評価方法に含まれる各工程を示すフロー図である。
図2に示す特徴量算出工程S4を説明する図である。
図2に示す第2準備工程S02で撮像した断面画像の例を示す。
図2に示す第3準備工程S03で算出した対応関係の例を示す。
超音波探触子で底面エコーを検出して得られる底面エコー信号を周波数解析することで算出される周波数スペクトルの一例を模式的に示す図である。
実施例
0027
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る金属組織の結晶粒の混粒率評価方法(以下、適宜、単に「混粒率評価方法」という)について、被評価材が鋼管である場合を例に挙げて説明する。
0028
図1は、本発明の一実施形態に係る混粒率評価方法を実施するための装置構成を概略的に示す模式図(鋼管Pの長手方向から見た図)である。
図1に示すように、本実施形態に係る混粒率評価方法を実施するための評価装置100は、超音波探触子1と、超音波探触子1に接続された制御・信号処理手段2とを備えている。また、評価装置100は、超音波探触子1を被評価材である鋼管Pの周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させるための機構部(図示せず)も備えている。
0029
超音波探触子1は、鋼管Pの外面に対向配置されている。本実施形態の超音波探触子1としては、例えば、単一の振動子を具備し、発振周波数が10MHz(送信波の中心周波数が10MHzで周波数範囲が5〜15MHz)の垂直探触子を用いている。
ただし、本発明で用いることのできる超音波探触子1はこれに限るものではない。例えば、最大頻度をもつ粒(細粒)の粒径が30μm程度であり、混粒を評価したい粒(粗粒)の粒径が100〜200μm程度である場合には、発振周波数が10〜15MHz(送信波の中心周波数が10〜15MHz)の超音波探触子を用いることが好ましい。
0030
制御・信号処理手段2は、超音波探触子1から超音波を送信させるためのパルス信号を供給するパルサーや、エコーを受信した超音波探触子1から出力されるエコー信号を増幅するレシーバや、レシーバで増幅されたエコー信号をA/D変換するA/D変換器など、超音波の送受信を制御する機能を果たす部分と、後述のように、A/D変換されたエコー信号に基づき周波数スペクトルを算出したり、周波数スペクトル比を算出したり、特徴量を算出したり、混粒率を評価するなど、各種の信号処理を実行する機能を果たす部分とを備えている。
具体的には、制御・信号処理手段2は、例えば、超音波の送受信を制御する機能を果たす部分として、超音波探傷や超音波検査で用いられる従来公知の探傷器を用い、各種の信号処理を実行する機能を果たす部分として、探傷器に電気的に接続され、信号処理を実行するための所定のプログラムがインストールされたコンピュータを用いた構成とされている。
0031
機構部としては、鋼管Pの周方向に沿って超音波探触子1を回転させる機構と、鋼管Pを長手方向に搬送する機構とを備えたものを例示できる。ただし、これに限るものではなく、超音波探触子1の方を鋼管Pの周方向及び軸方向の双方に沿って移動させる機構や、鋼管Pの方を周方向に回転させ長手方向に搬送する機構を採用することも可能である。
0032
以上に説明した構成を有する評価装置100を用いて、本実施形態に係る混粒率評価方法は実施される。
図2は、本実施形態に係る混粒率評価方法に含まれる各工程を示すフロー図である。
図2に示すように、本実施形態に係る混粒率評価方法は、底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3、特徴量算出工程S4及び混粒率評価工程S5を含んでいる。また、本実施形態に係る混粒率評価方法は、好ましい方法として、準備工程S0を含んでいる。以下、底面エコー検出工程S1から順に、各工程について説明する。
0033
<底面エコー検出工程S1>
底面エコー検出工程S1では、超音波探触子1から鋼管Pに超音波を入射させ、超音波探触子1で鋼管Pからのエコーを検出して、超音波探触子1が制御・信号処理手段2に対して検出したエコーの大きさに応じた電気信号であるエコー信号を出力する。制御・信号処理手段2には、第1底面エコー(鋼管Pの内面で反射した底面エコーのうち超音波探触子1が最初に受信する底面エコー)の伝搬距離に応じた第1ゲートと、第2底面エコー(鋼管Pの内面で反射した底面エコーのうち超音波探触子1が2回目に受信する底面エコー)の伝搬距離に応じた第2ゲートとが設定されている。第1ゲート及び第2ゲートは、時間幅が互いに同一に設定されている。これら各ゲートによって第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2が取得される。取得された第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2を制御・信号処理手段2が備えるA/D変換器でA/D変換することで、横軸が時間(伝搬距離)についての同じ数のサンプリング点で、縦軸が各サンプリグ点の信号強度で表わされる第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2の信号波形(デジタル信号波形)が得られる。
0034
なお、本実施形態の底面エコー検出工程S1は、超音波探触子1を鋼管Pの周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させながら、鋼管Pに超音波を入射させることで実行される。これにより、鋼管Pの全周・全長について、第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2を取得可能である。
底面エコー検出工程S1の後に実行する周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3、特徴量算出工程S4及び混粒率評価工程S5は、鋼管Pの全周・全長について底面エコー検出工程S1を先に実行し終えた後(すなわち、鋼管Pの全周・全長についての第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2を先に取得した後)に纏めて実行してもよい。或いは、鋼管Pの一箇所の部位について底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3、特徴量算出工程S4及び混粒率評価工程S5を実行した後、超音波探触子1の相対的な移動に伴う鋼管Pの次の箇所の部位について底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3、特徴量算出工程S4及び混粒率評価工程S5を実行するという動作を、鋼管Pの全周・全長について繰り返すことも可能である。
0035
<周波数スペクトル算出工程S2>
周波数スペクトル算出工程S2では、制御・信号処理手段2が、第1底面エコー信号B1を周波数解析することで第1底面エコー信号の周波数スペクトルSB1を算出すると共に、第2底面エコー信号B2を周波数解析することで第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB2を算出する。
具体的には、制御・信号処理手段2は、第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2の信号波形に高速フーリエ変換(FFT)を施すことで、横軸が周波数についての同じ数のサンプリング点で、縦軸が各サンプリング点の強度(スペクトル強度)で表される第1底面エコー信号B1及び第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB1、SB2を算出する(周波数スペクトルSB1、SB2の波形を得る)。
0036
<周波数スペクトル比算出工程S3>
周波数スペクトル比算出工程S3では、制御・信号処理手段2が、第1底面エコー信号B1の周波数スペクトルSB1と、第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB2との比である周波数スペクトル比SB1/SB2を算出する。
具体的には、制御・信号処理手段2は、第1底面エコー信号B1の周波数スペクトルSB1を構成する各サンプリング点の強度を、第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB2を構成し、第1底面エコー信号B1の周波数スペクトルSB1を構成する各サンプリング点に対応する各サンプリング点の強度で除算することで、横軸が周波数についてのサンプリング点で、縦軸が各サンプリング点の強度の比(第1底面エコー信号B1のスペクトル強度/第2底面エコー信号B2のスペクトル強度)で表される周波数スペクトル比SB1/SB2を算出する(周波数スペクトル比SB1/SB2の波形を得る)。
0037
<特徴量算出工程S4>
特徴量算出工程S4では、制御・信号処理手段2が、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域の特徴量を算出する。本実施形態では、特徴量として、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域の強度積分値を算出する。
図3は、本実施形態の特徴量算出工程S4を説明する図である。図3(a)は、鋼管Pが混粒材であり且つ鋼管Pの表面(超音波探触子1から鋼管Pへの超音波の入射面)が滑らかである場合の周波数スペクトルSB1及びSB2、周波数スペクトル比SB1/SB2及び強度積分値Sを示す。図3(b)は、鋼管Pが細粒材(混粒が生じていない鋼管)であり且つ鋼管Pの表面に凹凸がある場合の周波数スペクトルSB1及びSB2、周波数スペクトル比SB1/SB2及び強度積分値Sを示す。図3(c)は、鋼管Pが細粒材であり且つ鋼管Pの表面が滑らかである場合の周波数スペクトルSB1及びSB2、周波数スペクトル比SB1/SB2及び強度積分値Sを示す。
0038
図3に示すように、本実施形態の特徴量算出工程S4では、制御・信号処理手段2が、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域の強度の積分値(ハッチングを施した領域の面積)である強度積分値Sを算出する。強度積分値Sは、周波数スペクトル比SB1/SB2を構成する各サンプリング点の強度(スペクトル強度)を所定の周波数帯域に亘って積算した値である。具体的には、図3に示す例では、超音波探触子1として発振周波数が10MHz(送信波の中心周波数が10MHz)の超音波探触子を用いた場合に、所定の周波数帯域として8〜12MHzが制御・信号処理手段2に記憶されており、制御・信号処理手段2は、強度積分値Sとして、周波数スペクトル比SB1/SB2における8〜12MHzの強度積分値を算出する。
なお、所定の周波数帯域は、鋼管Pと同種の金属材料から形成され、超音波探触子1から超音波を入射させる表面が滑らかである混粒材についての周波数スペクトル比SB1/SB2と、鋼管Pと同種の金属材料から形成され、超音波探触子1から超音波を入射させる表面に凹凸がある細粒材についての周波数スペクトル比SB1/SB2と、鋼管Pと同種の金属材料から形成され、超音波探触子1から超音波を入射させる表面が滑らかである細粒材についての周波数スペクトル比SB1/SB2とを算出し、これらの周波数スペクトル比SB1/SB2を用いて、前記混粒材と前記細粒材とを識別可能な強度積分値Sが得られるように予め決定し、制御・信号処理手段2に記憶しておけばよい。
0039
<混粒率評価工程S5>
混粒率評価工程S5では、制御・信号処理手段2が、特徴量(本実施形態では、強度積分値S)の大きさに基づき、鋼管Pの金属組織の結晶粒の混粒率を評価する。混粒率評価工程S5における具体的な評価内容については後述する。
0040
以上に説明した各工程S1〜S5を含む本実施形態に係る混粒率評価方法によれば、機構部によって超音波探触子1を鋼管Pの周方向及び長手方向に沿って相対的に移動させることで、鋼管Pの全周・全長・全数の評価が可能である。超音波を用いる方法であるため、鋼管Pを切断する必要がない。
0041
また、本実施形態に係る混粒率評価方法によれば、底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3及び特徴量算出工程S4を実行することで、周波数スペクトル比SB1/SB2における強度積分値Sが算出される。強度積分値Sと、鋼管Pの金属組織の結晶粒の混粒率とは、比較的良好な相関関係を有し、超音波の入射面での伝達損失の影響を低減可能である。したがい、混粒率評価工程S5において、強度積分値Sの大きさに基づき、鋼管Pの金属組織の結晶粒の混粒率を評価することが可能である。
0042
図3に示すように、鋼管Pが混粒材であり且つ表面が滑らかである場合(図3(a))と、鋼管Pが細粒材であり且つ鋼管Pの表面が滑らかである場合(図3(c))とでは、第1底面エコー信号B1の周波数スペクトルSB1及び第2底面エコー信号B2の周波数スペクトルSB2に顕著な差が生じる。これに対して、鋼管Pが混粒材であり且つ表面が滑らかである場合(図3(a))と、鋼管Pが細粒材であり且つ表面に凹凸がある場合(図3(b))とでは、周波数スペクトルSB1及び周波数スペクトルSB2に顕著な差は生じない。しかしながら、強度積分値Sの大きさには差が生じる。具体的には、図3(a)に示す混粒材の場合には、図3(b)や図3(c)に示す細粒材の場合に比べて、強度積分値Sが大きくなる。このため、強度積分値Sの大きさに基づき、鋼管Pの金属組織の結晶粒の混粒率を評価することが可能である。
0043
なお、鋼管Pが混粒材であり且つ表面に凹凸がある場合(図示省略)には、周波数スペクトル比SB1/SB2が、前記所定の周波数帯域(本実施形態では8〜12MHz)で高い値を示すと共に、それよりも高い周波数帯域、すなわち、図3(b)でピークを示す周波数帯域(本実施形態では13MHz近傍(12〜14MHz))とほぼ同じ周波数帯域で高い値を示す。したがって、この場合も強度積分値Sの大きさに基づき、鋼管Pの混粒率を評価することが可能である。なお、本実施形態において、13MHz近傍に表れる周波数スペクトル比SB1/SB2のピークは、表面の凹凸に起因するものと推測される。
0044
以上のように、本実施形態に係る混粒率評価方法によれば、鋼管Pの金属組織の結晶粒の混粒率を、鋼管Pの全周・全長・全数について評価可能である。
以下、好ましい方法として、本実施形態に係る混粒率評価方法が含んでいる準備工程S0について説明する。
0045
<準備工程S0>
図2に示すように、準備工程S0には、第1準備工程S01、第2準備工程S02及び第3準備工程S03が含まれている。以下、これら各工程S01〜S03について順に説明する。
0046
<第1準備工程S01>
第1準備工程S01では、被評価材である鋼管Pと同種の金属材料から形成され、金属組織の結晶粒の混粒率が異なる複数のサンプル材(鋼管)を用意する。この複数のサンプル材には、混粒材(本実施形態では、粗粒が8%以上の面積を占める状態にあるもの)と、細粒材(本実施形態では、粗粒が8%未満の面積を占める状態にあるもの)との双方を含めることが好ましい。そして、複数のサンプル材に対して、底面エコー検出工程S1、周波数スペクトル算出工程S2、周波数スペクトル比算出工程S3及び特徴量算出工程S4を実行する。これにより、複数のサンプル材についての強度積分値Sを算出する。複数のサンプル材について実行する底面エコー検出工程S1〜特徴量算出工程S4の内容については、被評価材である鋼管Pについて前述したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
0047
<第2準備工程S02>
第2準備工程S02では、複数のサンプル材において、超音波探触子1から入射した超音波が伝搬する部位の断面画像を撮像する。そして、この断面画像に基づき、複数のサンプル材の金属組織の結晶粒の混粒率を算出する。
0048
図4は、第2準備工程S02で撮像した断面画像の例を示す。図4(a)は細粒材の断面画像の例を、図4(b)は混粒材の断面画像の例を示す。図4(a)と図4(b)とを比較すれば分かるように、図4(b)に示す混粒材の場合には、断面画像中に周りよりも暗く撮像される粗粒が偏在している。
混粒率は、図4に示すような断面画像を拡大して検査員が目視して算出してもよい。或いは、断面画像におけるサンプル材に相当する画素領域に2値化等の画像処理を施し、所定のしきい値以下の濃度を有する画素領域を粗粒に対応する画素領域として検出することで、混粒率を自動的に算出することも可能である。なお、粗粒に対応する画素領域を検出するための2値化のしきい値は、検査員の目視判定結果と合致するように調整して設定しておけばよい。
0049
なお、超音波探触子1から入射した超音波は、サンプル材の周方向の一部の部位から径方向に伝播する。第1準備工程S01では、上記のような超音波の伝播によって生じる第1底面エコー及び第2底面エコーを用いて、強度積分値Sを算出している。したがい、第2準備工程S02での混粒率の算出に際しては、例えば、図4に示すような断面画像を周方向に沿った所定の角度ピッチで複数の扇形の領域に分割し、分割した領域毎に混粒率を算出することが好ましい。これにより、後述の第3準備工程S03で算出する対応関係の精度を高めることが可能である。
0050
<第3準備工程S03>
第3準備工程S03では、第1準備工程S01で算出した複数のサンプル材についての強度積分値Sと、第2準備工程S02で算出した複数のサンプル材の金属組織の結晶粒の混粒率とに基づき、強度積分値Sと混粒率との対応関係を算出する。
0051
図5は、第3準備工程S03で算出した対応関係の例を示す。図5において「□」でプロットしたデータは混粒材について算出したものであり、「〇」でプロットしたデータは細粒材について算出したものである。
図5に示すように、強度積分値Sと混粒率とは、比較的良好な相関関係(正の相関関係)を有することが分かる。
0052
第3準備工程S03で算出した対応関係は、制御・信号処理手段2に予め記憶される(被評価材である鋼管Pに対して底面エコー検出工程S1を実行する前に記憶される)。そして、前述の被評価材である鋼管Pについて実行する混粒率評価工程S5において、制御・信号処理手段2は、鋼管Pについて特徴量算出工程S4で算出した強度積分値Sと、第3準備工程S03で算出し予め記憶された対応関係とに基づき、鋼管Pの金属組織の結晶粒の混粒率を算出する。
0053
具体的には、例えば、図5に示すデータから、強度積分値Sと混粒率との対応関係を近似直線Lで近似し、この近似直線Lを制御・信号処理手段2に予め記憶しておく。そして、制御・信号処理手段2が、鋼管Pについて特徴量算出工程S4で算出した強度積分値Sと、近似直線Lとに基づき、強度積分値Sと一対一対応の混粒率の値を算出することが考えられる。例えば、図5に示すように、鋼管Pについて特徴量算出工程S4で算出した強度積分値SがS1である場合、混粒率はM1として算出されることになる。
0054
また、例えば、図5に示すデータから、強度積分値Sと混粒率との対応関係として、強度積分値SがTh1以上のときには、混粒率が8%以上であることを制御・信号処理手段2に予め記憶しておく。そして、制御・信号処理手段2が、鋼管Pについて強度積分値算出工程S4で算出した強度積分値SがTh1以上のときには混粒率が8%以上の値であると算出し、強度積分値SがTh1未満のときには混粒率が8%未満の値であると算出することも考えられる。
0055
以上のように、本実施形態に係る混粒率評価方法は、好ましい方法として、第1準備工程S01〜第3準備工程S03を含んでいるため、これらの工程を実行することで、強度積分値Sと混粒率との対応関係が算出される。このため、この対応関係を用いれば、鋼管Pについて実行する混粒率評価工程S5において、混粒率の値を直接算出することが可能である。
0056
なお、制御・信号処理手段2が、混粒率の値を直接算出することなく(この場合には準備工程S0は不要である)、強度積分値Sの値のみを用いて混粒率を評価する態様を採用することも可能である。具体的には、例えば、強度積分値Sが所定のしきい値よりも大きいため(したがって、混粒率も大きくなると考えられるため)、混粒率に関して鋼管Pが不良であると判定することも可能である。
0057
本実施形態では、特徴量として、周波数スペクトル比SB1/SB2における強度積分値Sを算出する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、特徴量として、周波数スペクトル比SB1/SB2における所定の周波数帯域のピーク強度を算出する態様を採用することも可能である。
0058
また、本実施形態では、超音波探触子1として発振周波数が10MHz(送信波の中心周波数が10MHz)の超音波探触子を用いる場合を例に挙げて説明したが、発振周波数が10〜15MHz(送信波の中心周波数が10〜15MHz)の超音波探触子を用いた場合には、図5に示す例と同様に、強度積分値S又はピーク強度と混粒率とが、比較的良好な相関関係(正の相関関係)を有することを確認している。
0059
1・・・超音波探触子
2・・・制御・信号処理手段
100・・・評価装置
B1・・・第1底面エコー信号
B2・・・第2底面エコー信号
SB1、SB2・・・周波数スペクトル
SB1/SB2・・・周波数スペクトル比
S・・・強度積分値(特徴量)
P・・・鋼管(被評価材)