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課題
解決手段
概要
背景
従来、研削盤等の軸を回転可能に支承する軸受金において、耐焼付き性を向上させるために、スズ系合金であるホワイトメタルの被膜を軸受金母材の内周部に粉末プラズマ溶射によって形成する方法が知られている(例えば、特許文献1、2等参照。)。
ところが、上述した従来技術では、溶射密度が低いため、仕上げ厚さに対して数倍の溶射厚さが必要であり、数十層を積層するために多くの工数を要し、材料歩留まりも低いという問題がある。また、粉末プラズマ溶射では材料の母材への密着強度が弱いため、母材にフラックスの塗布やショットブラスト等の下処理が必要である。
一方、金属の被膜を形成する別の方法として、レーザクラッド工法が知られている(例えば、特許文献3等参照。)。レーザクラッド工法によれば、密度の高い金属の被膜(レーザクラッド層)を効率的に形成できるという利点がある。
概要
融点が500℃以下である金属のレーザクラッド層を、ビードのダレ発生を防止しつつ効率的に形成可能なレーザクラッド層形成方法及びレーザクラッド装置を提供する。レーザクラッド層形成方法は、母材W周面におけるレーザクラッド層の形成予定部を、各々が周方向に90度以下となる複数の領域に区画する区画工程S1と、母材Wを軸方向が水平となるように保持し、複数の領域のうち一領域内の母材W周面の法線方向が、鉛直上向きを基準に所定角度範囲内となるように母材Wを位相決めする位相決め工程S3と、母材Wが位相決めされた状態で、一領域に対して粉末を供給しつつ粉末にレーザ光を照射し、粉末を溶融させてビードを造形する造形工程S4と、を有し、各領域に対して位相決め工程S3と造形工程S4とを繰り返し、形成予定部の全体にビードを造形することによりレーザクラッド層を形成する。
目的
本発明は、融点が500℃以下である金属のレーザクラッド層を、ビードのダレ発生を防止しつつ効率的に形成可能なレーザクラッド層形成方法及びレーザクラッド装置を提供する
効果
実績
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この技術が所属する分野
請求項1
母材の中心軸周りの周面に対して融点が500℃以下である金属の粉末を供給しつつ前記粉末にレーザ照射部よりレーザ光を照射し、溶融した前記粉末により前記母材の周面上に前記点金属のレーザクラッド層を形成する方法であって、前記母材周面における前記レーザクラッド層の形成予定部を、各々が周方向に90度以下となる複数の領域に区画する区画工程と、前記母材を軸方向が水平となるように保持し、前記複数の領域のうち一領域内の前記母材周面の法線方向が、鉛直上向きを基準に所定角度範囲内となるように前記母材を位相決めする位相決め工程と、前記母材が位相決めされた状態で、前記一領域に対して前記粉末を供給しつつ前記粉末にレーザ光を照射し、前記粉末を溶融させてビードを造形する造形工程と、を有し、前記各領域に対して前記位相決め工程と前記造形工程とを繰り返し、前記形成予定部の全体に前記ビードを造形することにより前記レーザクラッド層を形成する、レーザクラッド層形成方法。
請求項2
複数回の前記造形工程のうち何れか1回以上の前記造形工程の後、前記ビードを冷却するための冷却工程を有する、請求項1に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項3
前記冷却工程は、前記位相決め工程と前記造形工程とを複数回繰り返した後に行う、請求項2に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項4
前記区画工程は、前記形成予定部を前記ビードの幅毎に前記各領域に区画し、前記位相決め工程は、前記母材を前記ビードの幅に対応する位相分だけ回転させて位相決めを行い、前記造形工程は、前記母材と前記レーザ照射部とを相対的に軸方向移動させることにより前記母材周面に前記ビードを軸方向直線状に造形する、請求項1乃至3の何れか一項に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項5
前記母材は筒状部材であり、その内周面に前記形成予定部が設定され、前記位相決め工程は、前記内周面において区画された前記一領域が鉛直最下方となるように前記母材を位相決めする、請求項1乃至4の何れか一項に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項6
前記母材は筒状又は柱状部材であり、その外周面に前記形成予定部が設定され、前記位相決め工程は、前記外周面において区画された前記一領域が鉛直最上方となるように前記母材を位相決めする、請求項1乃至4の何れか一項に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項7
前記ビードが周面に造形された前記母材を再加熱する再加熱工程を有する、請求項1乃至6の何れか一項に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項8
前記造形工程は、前記レーザ照射部における前記レーザ光の出力を可変する、請求項1乃至7の何れか一項に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項9
前記造形工程において、前記母材を常時冷却する、請求項1乃至8の何れか一項に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項10
前記金属は、スズ系合金である、請求項1乃至9の何れか一項に記載のレーザクラッド層形成方法。
請求項11
融点が500℃以下である金属の粉末を供給しつつ前記粉末にレーザ光を照射するレーザ照射部と、母材の軸方向が水平となるように保持しつつ、前記母材を中心軸周りに回転させる回転機構と、前記レーザ照射部と前記母材とを相対的に軸方向移動させる移動機構と、前記回転機構を介して、前記母材周面における前記レーザクラッド層の形成予定部を、各々が周方向に90度以下となるように区画された複数の領域のうち一領域内の前記母材周面の法線方向が、鉛直上向きを基準に所定角度範囲内となるように前記母材を位相決めする動作と、前記レーザ照射部及び前記移動機構とを介して、前記母材が位相決めされた状態で、前記一領域に対して前記レーザ照射部より前記粉末を供給しつつ前記粉末にレーザ光を照射し、前記粉末を溶融させてビードを造形する動作とを繰り返すように制御する制御部と、を備える、レーザクラッド層形成装置。
技術分野
背景技術
0002
従来、研削盤等の軸を回転可能に支承する軸受金において、耐焼付き性を向上させるために、スズ系合金であるホワイトメタルの被膜を軸受金母材の内周部に粉末プラズマ溶射によって形成する方法が知られている(例えば、特許文献1、2等参照。)。
0003
ところが、上述した従来技術では、溶射密度が低いため、仕上げ厚さに対して数倍の溶射厚さが必要であり、数十層を積層するために多くの工数を要し、材料歩留まりも低いという問題がある。また、粉末プラズマ溶射では材料の母材への密着強度が弱いため、母材にフラックスの塗布やショットブラスト等の下処理が必要である。
0004
一方、金属の被膜を形成する別の方法として、レーザクラッド工法が知られている(例えば、特許文献3等参照。)。レーザクラッド工法によれば、密度の高い金属の被膜(レーザクラッド層)を効率的に形成できるという利点がある。
先行技術
0005
特開2001−335914号公報
特開2008−190656号公報
特開平9−66379号公報
発明が解決しようとする課題
0006
しかしながら、母材の中心軸周りの周面にホワイトメタルなどの低融点金属(例えば融点が500℃以下の金属や合金)のレーザクラッド層を形成する場合、融点が低いために凝固に時間がかかり、レーザ照射によって熱を持った母材を傾けるとビードのダレが発生して品質低下を招き易くなるという問題がある。
0007
本発明は、融点が500℃以下である金属のレーザクラッド層を、ビードのダレ発生を防止しつつ効率的に形成可能なレーザクラッド層形成方法及びレーザクラッド装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0008
本発明に係るレーザクラッド層形成方法は、母材の中心軸周りの周面に対して融点が500℃以下である金属の粉末を供給しつつ前記粉末にレーザ照射部よりレーザ光を照射し、溶融した粉末により前記母材の周面上に前記点金属のレーザクラッド層を形成する方法である。
0009
そして、本発明に係るレーザクラッド層形成方法は、前記母材周面における前記レーザクラッド層の形成予定部を、各々が周方向に90度以下となる複数の領域に区画する区画工程と、前記母材を軸方向が水平となるように保持し、前記複数の領域のうち一領域内の前記母材周面の法線方向が、鉛直上向きを基準に所定角度範囲内となるように前記母材を位相決めする位相決め工程と、前記母材が位相決めされた状態で、前記一領域に対して前記粉末を供給しつつ前記粉末にレーザ光を照射し、前記粉末を溶融させてビードを造形する造形工程と、を有し、前記各領域に対して前記位相決め工程と前記造形工程とを繰り返し、前記形成予定部の全体に前記ビードを造形することにより前記レーザクラッド層を形成する。
0010
この方法によれば、母材周面の一領域を水平に近い状態とする位相決めと、その一領域で融点が500℃以下である金属の粉末へのレーザ光照射によるビードの造形とを繰り返すことにより、ビードのダレを防止しつつ効率的にレーザクラッド層を形成することができるという効果を奏する。
0011
本発明に係るレーザクラッド装置は、融点が500℃以下である金属の粉末を供給しつつ前記粉末にレーザ光を照射するレーザ照射部と、母材の軸方向が水平となるように保持しつつ、前記母材を中心軸周りに回転させる回転機構と、前記レーザ照射部と前記母材とを相対的に軸方向移動させる移動機構と、前記回転機構を介して、前記母材周面における前記レーザクラッド層の形成予定部を、各々が周方向に90度以下となるように区画された複数の領域のうち一領域内の前記母材周面の法線方向が、鉛直上向きを基準に所定角度範囲内となるように前記母材を位相決めする動作と、前記レーザ照射部及び前記移動機構とを介して、前記母材が位相決めされた状態で、前記一領域に対して前記レーザ照射部より前記粉末を供給しつつ前記粉末にレーザ光を照射し、前記粉末を溶融させてビードを造形する動作とを繰り返すように制御する制御部と、を備える。
0012
この構成によれば、母材周面の一領域を水平に近い状態とする位相決めと、その一領域で融点が500℃以下である金属の粉末へのレーザ光照射によるビードの造形とを繰り返すことにより、ビードのダレを防止しつつ効率的にレーザクラッド層を形成することができるという効果を奏する。
図面の簡単な説明
0013
第1実施形態に係るレーザクラッド装置の構成及び母材との位置関係を示す全体構成図である。
第1実施形態に係るレーザクラッド装置のレーザトーチ先端部を拡大して示す側面図である。
第1実施形態に係るレーザクラッド層形成方法の全体の流れを示すフローチャートである。
第1実施形態において母材の内周面にビードを造形する様子を模式的に示す斜視図である。
第1実施形態の変形例において母材の内周面にビードを造形する様子を模式的に示す斜視図である。
第2実施形態に係るレーザクラッド装置の構成及び母材との位置関係を示す全体構成図である。
第2実施形態において母材の外周面にビードを造形する様子を模式的に示す斜視図である。
その他の変形例に係るレーザクラッド装置の構成及び母材との位置関係を示す全体構成図である。
実施例
0014
以下、本発明のレーザクラッド層形成方法及びレーザクラッド装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(1.第1実施形態)
(1−1.レーザクラッド装置1の全体構成)
第1実施形態のレーザクラッド装置1の構成について、図1を参照しつつ説明する。図1は、第1実施形態に係るレーザクラッド装置1の構成及び母材Wとの位置関係を示す全体構成図である。図2は、レーザクラッド装置1のレーザトーチ30先端部を拡大して示す側面図である。
0015
レーザクラッド装置1は、母材Wの周面に融点が500℃以下である金属のレーザクラッド層を形成する装置である。本実施形態では、融点が500℃以下である金属として、スズ系金属のレーザクラッド層を形成する例を用いて説明する。スズ系金属とは、スズ(Sn)、及びスズを主成分とするスズ合金である。スズ合金としては、例えば、スズとともに、銅(Cu)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、ビスマス等の金属を組成とするものを挙げることができる。本実施形態では、スズ系金属の一例としてホワイトメタルを用いることとする。ホワイトメタルは、JIS5401に記載されるスズ系合金であり、スズを主成分とし、アンチモンや銅などを含有する合金である。母材Wは、円筒状部材であって、内径部W1を有する。本実施形態においては、母材Wとして、クロムモリブデン鋼(SCM鋼)等の鉄系金属材料からなり、研削盤等の軸を回転可能に支承する軸受金を例に挙げる。ただし、母材Wは、軸受金に限られるものではない。
0016
レーザクラッド装置1は、図1に示すように、レーザ光照射機構10と、回転機構50と、制御部60とを備えて構成される。レーザ光照射機構10は、レーザ発振器20と、レーザトーチ30と、移動機構40とを備えて構成される。
0017
レーザ発振器20は、レーザトーチ30基端側の外周面に取り付けられて、レーザ光Lをレーザトーチ30の径方向内側へ出射する。本実施形態では、レーザ光の出力を一定とするが、レーザ発振器20を制御することによりレーザ光の出力を可変とすることも可能である。レーザトーチ30は、本発明のレーザ照射部を構成するものであって、円筒状の本体31と、本体31の内部に配設される光学系32と、粉末供給部33とを備えている。本体31の先端近傍における下側の側面に出射口31aが形成されている。
0018
光学系32は、第1反射部32aと、第1集光部32bと、第2集光部32cと、第2反射部32dとを備えている。第1反射部32aは、レーザトーチ30基端側の内部に配置され、レーザ発振器20から出射された径方向のレーザ光Lを軸方向先端側へ反射する。第1集光部32b、第2集光部32cは、レーザ光集光用の凸レンズであって、本体31内部に第1反射部32aで反射されたレーザ光Lの光軸に沿って順に配置され、レーザ光Lを集光して第2反射部32dへ導く。
0019
第2反射部32dは、出射口31aを臨む本体31先端近傍の内部に配置され、第1集光部32b、第2集光部32cで集光されたレーザ光Lを斜め下向きに反射させる。例えば、レーザ光Lは、図2に示すように、第2反射部32dへ入射したレーザ光Lを本体31軸線方向に対して下向きの角度θL方向へ反射し、出射口31aを通して母材Wに照射される。角度θLは、例えば、120°に設定してもよい。
0020
粉末供給部33は、出射口31aの基端側近傍に配置され、不活性シールドガスの吹き出しに伴って、ホワイトメタルの粉末を母材Wのレーザ光照射面に供給する。使用するホワイトメタルの粉末の粒径は、例えば、50〜100μm程度である。粉末供給部33は、例えば、図2に示すように、ホワイトメタルの粉末を本体31軸線方向に対して下向きの角度θP方向へ供給する。角度θPは、例えば、150°に設定してもよい。
0021
移動機構40は、レーザトーチ30と母材Wとを相対的に軸方向移動させる機構である。移動機構40は、レーザトーチ30を把持して軸方向に水平移動させることが可能な公知の機構、例えばロボットアームによって構成することができる。
0022
回転機構50は、母材Wの軸方向が水平となるように保持しつつ、母材Wを中心軸C周りに回転させる機構である。回転機構50は、例えば、母材Wの軸方向端部を把持するチャックと、チャックを中心軸C周りに回転させるサーボモータとを備えて構成される。
0023
制御部60は、図示しないCPUと、ROM、RAM等を備えたコンピュータであって、レーザ光照射機構10の各部及び回転機構50の動作を制御することにより、レーザクラッド層形成方法の各工程を実行する。
0024
(1−2.レーザクラッド層形成方法)
次に、レーザクラッド装置1を用いたレーザクラッド層形成方法について、図3及び図4を参照しつつ説明する。図3は、レーザクラッド層形成方法の流れを示すフローチャートであり、図4は、母材Wの内周面にレーザクラッド層形成方法を施す様子を模式的に示す説明図であり、母材Wの一部を斜視にて示している。本実施形態のレーザクラッド層形成方法は、母材Wの中心軸C周りの内周面に対し、レーザトーチ30を介して融点が500℃以下の金属であるホワイトメタルの粉末を供給しつつレーザ光を照射し、溶融した粉末により母材Wの内周面上にホワイトメタルのレーザクラッド層を形成する方法であり、制御部60によって実行される。
0025
まず、図3のフローチャートに示すように、ステップ1(以下、S1と略記する。他のステップも同様。)で、区画工程を実行する。区画工程S1は、母材W周面におけるレーザクラッド層の形成予定部を、各々が周方向に90度以下となる複数の領域に区画する工程である。本実施形態では、母材Wの内周面全体を形成予定部とし、レーザクラッド装置1によって造形されるホワイトメタルのビード幅毎に、周方向にN個(Nは正の整数)の領域に区画する。ビード幅は、数mm(例えば5mm)程度である。尚、各領域の区画は、制御部60の内部処理で行われるものであるが、理解を容易とするため、図4では隣接する各領域の境界を破線にて示している。区画工程S1に続いて、S2で、変数nに1を設定する。
0026
次に、S3で、位相決め工程を実行する。位相決め工程S3は、母材Wを軸方向が水平となるように保持し、区画工程S1で区画された複数の領域のうち一領域内の母材W周面の法線方向が、鉛直上向きを基準に所定角度範囲内となるように母材Wを位相決めする工程である。本実施形態では、回転機構50によって母材Wを軸方向が水平となるように保持し、N個の領域のうちビード未造形であるn番目(nは1〜Nの整数)の領域の周方向中央における母材W内周面の法線方向が鉛直上向きとなるように回転させて位相決めする。図4では、n番目の領域の周方向中央を一点鎖線にて示している。
0027
図4に示す状態で、n番目の領域の周方向中央は、母材Wの内周面における鉛直最下方に位置している。つまり、毎回の位相決め工程S3において、各領域の周方向の長さに相当する角度だけ母材Wを回転させ、ビード造形対象であるn番目の領域を鉛直最下方に位相決めする。
0028
次に、S4で、造形工程を実行する。造形工程S4は、母材Wが位相決めされた状態で、一領域に対してホワイトメタルの粉末を供給しつつレーザ光を照射し、粉末を溶融させてビードを造形する工程である。本実施形態では、回転機構50によって母材Wが位相決めされた状態で、移動機構40によりレーザトーチ30を母材Wの軸方向第1端にレーザ光を照射可能な位置に移動させる。続いて、レーザトーチ30の真下に位置するn番目の領域に対して、粉末供給部33よりホワイトメタルの粉末を供給しつつレーザ光を照射し、粉末を溶融させてビードを造形する。詳細には、レーザ光が照射された母材Wが溶融池を形成し、溶融池に粉末が供給されたり、粉末自体にレーザ光があたることで粉末が溶融されビードが造形される。同時に、移動機構40によりレーザトーチ30を母材Wの軸方向第2端に向かって相対的に移動させる。
0029
図4では、n番目の領域に対し、軸方向先端から基端に向かってレーザトーチ30を移動させてビードを造形する様子を示している。また、図4では、母材Wの内周面におけるビード造形済み部分を網掛けで図示している。これにより、母材W内周面のn番目の領域に軸方向直線状に延びるホワイトメタルのビードが造形される。母材Wの回転を停止させて、n番目の領域を水平に近い状態に保持してビードを造形するので、ダレの発生が抑制される。
0030
尚、従来のプラズマ溶射による方法では、1回の溶射で造形されるホワイトメタルの厚みが薄いため、1.5mm〜2mmの肉盛厚さを実現するために80層程度の積層が必要であったが、本実施形態によれば、レーザトーチ30の1回の移動に伴って形成されるビードの厚さが1.5mm〜2mmであるため、必要な肉盛厚さを1層で実現することができる。また、プラズマ溶射による肉盛に比べて、レーザクラッドを用いた本実施形態では肉盛の母材への密着強度が高く、フラックス塗布やショットブラスト等の下処理が不要になるという利点がある。
0031
次に、S5で、nがMの倍数か否かを判定する。但し、Mは1以上且つN以下の整数であり、例えば、母材Wの回転位相30°〜50°に対応する値に設定される。nがMの倍数でない場合(S5:No)、S7へ進む。一方、nがMの倍数である場合(S5:Yes)、S6で、冷却工程を実行する。冷却工程S6では、回転機構50による母材Wの回転及びレーザ光照射機構10によるビード造形を停止し、常温で所定時間に亘って待機する。つまり、位相決め工程S3と造形工程S4とをM回繰り返した後、所定時間の冷却工程を経て、再び、位相決め工程S3と造形工程S4との繰り返しをM回行うことになる。例えば、Mを回転位相40°に対応する値とし、母材Wの内周全体(360°)にビードを造形する間に、5分間の冷却工程を9回実行するようにしてもよい。このように冷却工程S6を実行するのは、ビード造形を続けて行うことによって母材Wが次第に熱を持つことに起因して、ビードのダレが生じ易くなるからである。母材Wの温度を、一旦、冷却工程S6で下げてから、ビード造形を再開することでダレの発生をより効果的に防止することができる。
0032
次に、S7で、変数nに1を加算し、続いてS8で、n≦Nか否かを判定する。n≦Nの場合(S8:Yes)、S3へ戻り、n>Nの場合(S8:No)、全工程を終了する。つまり、1番目からN番目の各領域に対して位相決め工程S3と造形工程S4とを繰り返し、母材W内周面の形成予定部全体にビードを造形することによりレーザクラッド層を形成する。
0033
(1−3.まとめ)
上述したように、本実施形態のレーザクラッド装置1によれば、母材W周面の一領域が水平に近い状態となるように位相決めする位相決め工程S3と、その一領域で金属の粉末にレーザ光を照射してビードを造形する造形工程S4とを繰り返すことにより、ビードのダレを防止しつつ効率的にレーザクラッド層を形成することができるレーザクラッド層形成方法を確実に実施できるという効果を奏する。
0034
また、冷却工程S6でビードを冷却して凝固させた後、次の領域の位相決めとビード造形を行うことで、より確実にビードのダレを防止することができる。特に、位相決め工程S3と造形工程S4とを複数回連続して繰り返すことで効率的にビードを造形することができると共に、冷却工程S6でビードを冷却して凝固させることで、熱を持った母材Wを傾けることによって生じ易いビードのダレをより確実に防止することができる。
0035
特に、本実施形態では、レーザトーチ30を母材Wの内周に挿入配置し、母材Wの回転による位相決めと、レーザトーチ30の軸方向移動との繰り返しにより、ビードのダレを防止しつつ母材Wの内周面全体にレーザクラッド層を効率的に形成することができる。
0036
また、本実施形態では、区画工程S1は、レーザクラッド層の形成予定部をビードの幅毎に各領域に区画し、位相決め工程S3は、母材Wをビードの幅に対応する位相分だけ回転させて位相決めを行い、造形工程S4は、母材Wとレーザトーチ30とを相対的に軸方向移動させることにより母材W内周面にビードを軸方向直線状に造形する。よって、母材Wの回転とレーザトーチ30の軸方向移動との動作の繰り返しで、母材W内周面全体にレーザクラッド層を形成することができる。
0037
(2.第1実施形態の変形例)
次に、第1実施形態の変形例について図5を参照しつつ説明する。図5は、本変形例において母材Wの内周面にビードを造形する様子を模式的に示す斜視図である。上記実施形態では、母材Wの内周面をビード幅で周方向に複数の領域に区画し、各領域において軸方向直線状にビードを造形する例を示したが、本変形例では、母材Wの内周面を周方向に所定角度を有する複数の領域に区画し、各領域においてレーザトーチ30の周方向回動と軸方向移動とを繰り返して矩形波状にビードを造形する。レーザトーチ30の母材Wに対する配置は、上記実施形態と同様、図1に示すとおりである。
0038
区画工程S1では、図5に示すように、母材W内周面におけるレーザクラッド層の形成予定部を周方向に90度以下の所定角度に、1番目からN番目までのN個(Nは正の整数)の領域に区画する。例えば、母材W内周面の周方向全体(360度)を周方向に20度の領域に区画する場合、母材W内周面は1番目から18番目までの18個の領域に区画されることになる。
0039
位相決め工程S3では、回転機構50によって母材Wを軸方向が水平となるように保持し、N個の領域のうちビード未造形であるn番目(nは1〜Nの整数)の領域の周方向中央における母材W内周面の法線方向が鉛直上向きとなるように回転させて位相決めする。この状態で、n番目の領域の周方向中央は、母材Wの内周面における鉛直最下方に位置している。つまり、毎回の位相決め工程S3において、各領域の周方向の長さに相当する角度だけ母材Wを回転させ、ビード造形対象であるn番目の領域を鉛直最下方に位相決めする。
0040
造形工程S4では、回転機構50によって母材Wが位相決めされた状態で、移動機構40によりレーザトーチ30を母材W内周面の軸方向第1端にレーザ光を照射可能な位置に移動させる。続いて、レーザトーチ30の真下に位置するn番目の領域に対して、粉末供給部33よりホワイトメタルの粉末を供給しつつレーザ光を照射し、粉末を溶融させてビードを造形する。同時に、移動機構40によりレーザトーチ30を母材Wの周方向時計回りに回動させる。続いて、移動機構40によりレーザトーチ30を母材Wの軸方向基端側へビード幅分だけ相対的に移動させた後、レーザトーチ30を母材Wの周方向反時計回りに回動させる。これらの動作を繰り返すことにより、母材W内周面のn番目の領域が矩形波状に隙間なくビードが造形される。尚、移動機構40をロボットアームで構成することにより、レーザトーチ30の軸方向移動及び軸線周り回動の両動作に対応可能である。
0041
n番目の領域のビード造形が終了すると、S7でnを1加算し、以後nがNに達するまでS3〜S7を繰り返し、母材W内周面全体にホワイトメタルのレーザクラッド層を形成する。本変形例によっても、ビードのダレを防止しつつ母材Wの内周面全体にレーザクラッド層を効率的に形成することができるという上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
0042
(3.第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図6、図7を参照しつつ説明する。図6は、第2実施形態に係るレーザクラッド装置1の構成及び母材Wとの位置関係を示す全体構成図である。図7は、第2実施形態において母材Wの外周面にビードを造形する様子を模式的に示す斜視図である。
0043
第1実施形態では、レーザクラッド層を母材Wの内周面に形成する例を示したが、本変形例では母材Wの外周面にレーザクラッド層を形成する点が異なっている。すなわち、レーザクラッド装置1の構成は第1実施形態と同様であり、レーザトーチ30と母材Wとの位置関係が異なっている。具体的には、上記実施形態では、レーザトーチ30を母材Wの内周に挿入配置して出射口31aを内周面に対向させるようにしたが、本実施形態では、図6に示すように、レーザトーチ30を母材Wの鉛直上方に配置し、出射口31aを外周面に対向させるようにしている。また、レーザクラッド層形成方法における工程の流れは上記実施形態と同様である。上記実施形態と同様の内容については詳細な説明を省略すると共に、同一部材には同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
0044
区画工程S1では、母材W外周面におけるレーザクラッド層の形成予定部をホワイトメタルのビード幅毎に、周方向にN個(Nは正の整数)の領域に区画する。尚、図6では、隣接する各領域の境界を破線にて示している。
0045
位相決め工程S3では、回転機構50によって母材Wを軸方向が水平となるように保持し、N個の領域のうちビード未造形であるn番目(nは1〜Nの整数)の領域の周方向中央における母材W外周面の法線方向が鉛直上向きとなるように回転させて位相決めする。n番目の領域に位相決めした状態で、その周方向中央は母材Wの外周面における鉛直最上方に位置している。つまり、毎回の位相決め工程S3において、各領域の周方向の長さに相当する角度だけ母材Wを回転させ、ビード造形対象であるn番目の領域を鉛直最上方に位相決めする。
0046
造形工程S4では、回転機構50によって母材Wが位相決めされた状態で、移動機構40によりレーザトーチ30を母材Wの軸方向第1端にレーザ光を照射可能な位置に移動させる。続いて、レーザトーチ30の真下に位置するn番目の領域に対して、粉末供給部33よりホワイトメタルの粉末を供給しつつレーザ光を照射し、粉末を溶融させてビードを造形する。同時に、移動機構40によりレーザトーチ30を母材Wの軸方向第2端に向かって相対的に移動させる。これにより、母材W外周面のn番目の領域に軸方向直線状に延びるホワイトメタルのビードが造形される。
0047
本実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の効果を奏する。すなわち、レーザトーチ30を母材Wの外周面の鉛直上方に配置し、母材W外周面の一領域が鉛直最上方に位置して水平に近い状態となるように位相決めする位相決め工程S3と、その一領域でホワイトメタルの粉末にレーザ光を照射してビードを造形する造形工程S4とを繰り返すことにより、母材Wの外周面全体にビードのダレを防止しつつ効率的にレーザクラッド層を形成することができるという効果を奏する。
0048
(4.その他の変形例)
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々に変更を施すことが可能である。上記実施形態では、研削盤等の軸を回転可能に支承する軸受金を母材Wとした例を示したが、これには限られず、船舶や自動車のエンジン、タービン、発電機などにおいてすべり軸受で支承する部分の軸受金に適用してもよい。要するに、中心軸周りに周面を有する如何なる母材の加工にも本発明のレーザクラッド層形成方法を適用することが可能である。また、融点が500℃以下である金属としてホワイトメタルを用いてレーザクラッド層を形成する例を示したが、ホワイトメタル以外のスズ系合金でもよく、融点が500℃以下であるスズ系合金以外の金属を用いてもよい。
0049
また、第1実施形態では円筒状の母材Wの内周面に、第2実施形態では円柱状の母材Wの外周面にレーザクラッド層を形成する例を示したが、母材Wの形状やレーザクラッド層を形成する周面はこれらに限られない。筒状の母材における多角形状の内周面をレーザクラッド層の形成対象としてもよいし、多角柱状の母材における外周面を同じく形成対象としてもよい。要するに、母材の中心軸周りの周面をレーザクラッド層の形成対象とすることができる。
0050
また、上記実施形態では、ホワイトメタルのビードが周面に造形された母材Wを常温で冷却する例を示したが、造形工程S4実行後に、母材Wを加熱槽やヒータ等の加熱装置で所定温度(例えば、170℃程度)に再加熱する再加熱工程を設けるようにしてもよい。例えば、図8に示すように、加熱冷却可能な温度調節槽70内に母材W全体を設置して、造形工程S4実行後に、制御部60が温度調節槽70を制御して再加熱工程を実行するようにしてもよい。本変形例によれば、ビードを再加熱工程で時間をかけてゆっくり冷却して組織が形成されるため、レーザクラッド層をより均一で高品質とすることができる。
0051
また、上記実施形態では、位相決め工程S3と造形工程S4とを複数回繰り返した後、冷却工程S6を実行する例を示したが、母材Wを傾けてもビードのダレが発生しない程度に凝固していれば、冷却工程S6を省略してもよい。
0052
また、造形工程S4を常温で実施する例を示したが、冷却槽や冷風機等の冷却装置により母材Wを常温よりも低い温度で常時冷却した状態で造形工程S4を実施するようにしてもよい。例えば、図8に示すように、加熱冷却可能な温度調節槽70内に母材W全体を設置して制御部60の制御により常時冷却するようにしてもよい。本変形例によれば、溶融したホワイトメタルが母材Wの冷却に伴って速やかに凝固するため、ビードのダレをより効果的に防止することができる。また、本変形例では、ビードのダレが発生しない程度に凝固していれば、冷却工程S6を省略してもよい。
0053
また、上記実施形態では、造形工程S4でレーザ光を一定の出力とするのに代えて、レーザ光の出力を可変するようにしてもよい。例えば、レーザ光照射により形成される金属の溶融池をカメラで撮像し、画像に基づいて溶融池の大きさが所定以上であることが検出された場合に、制御部60を介してレーザ発振器20によるレーザ光の出力を小さくする制御を行うことにより、ビードのダレ発生をより効果的に防止することができる。
0054
W…母材、C…中心軸、1…レーザクラッド装置、10…レーザ光照射機構、20…レーザ発振器、30…レーザトーチ(レーザ照射部)、40…移動機構、50…回転機構、60…制御部、70…温度調節槽、S1…区画工程、S3…位相決め工程、S4…造形工程、S6…冷却工程。