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技術 転がり軸受、および風力発電用主軸支持装置

出願人 NTN株式会社
発明者 中西雅樹三上英信
出願日 2019年9月26日 (1年4ヶ月経過) 出願番号 2019-174939
公開日 2020年8月6日 (6ヶ月経過) 公開番号 2020-118292
状態 未査定
技術分野 物理蒸着 ころがり軸受 軸受の支持
主要キーワード 左右各列 損傷モード 振幅分布曲線 歪み度 研磨メディア 二乗平均平方根傾斜 局所応力 表面仕上げ加工
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2020年8月6日)のものです。
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図面 (11)

課題

転がり軸受の内・外輪軌道面などに硬質膜を有し、該硬質膜の耐剥離性を向上させ、膜本来の特性を発揮するとともに、相手材に対する攻撃性が抑制された転がり軸受を提供する。

解決手段

転がり軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4とを備え、硬質膜8は、内輪軌道面2aや外輪軌道面3aに直接成膜されるCrとWCとを主体とする下地層と、この上に成膜されるWCとDLCとを主体とする傾斜組成混合層と、この上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、下地層が成膜される面における粗さ曲線算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下である。

概要

背景

硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素無定形炭素、硬質無定形炭素、i−カーボンダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。

このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性固体潤滑性熱伝導性化学安定性耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型工具類耐摩耗性機械部品研磨材摺動部材磁気光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法イオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロンスパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。

従来、転がり軸受軌道輪軌道面や転動体転動面に対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。DLC膜が剥離すると、軸受部材間で金属接触が起こり、該部材が摩耗することで転動面に摩耗粉介入軌道面損傷などに繋がる。このため、転がり軸受の軌道輪の軌道面や転動体の転動面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。

例えば、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図ったものとして、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるDLC層とが、この順に形成されてなる転動装置が提案されている(特許文献1参照)。

また、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図ったものとして、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。

概要

転がり軸受の内・外輪軌道面などに硬質膜を有し、該硬質膜の耐剥離性を向上させ、膜本来の特性を発揮するとともに、相手材に対する攻撃性が抑制された転がり軸受を提供する。転がり軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4とを備え、硬質膜8は、内輪軌道面2aや外輪軌道面3aに直接成膜されるCrとWCとを主体とする下地層と、この上に成膜されるWCとDLCとを主体とする傾斜組成混合層と、この上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、下地層が成膜される面における粗さ曲線算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下である。

目的

本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、例えば転がり軸受の内・外輪軌道面などに形成された際にDLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮するとともに、相手材に対する攻撃性が抑制された転がり軸受の提供を目的とする

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間を転動する複数の転動体とを備え、前記内輪、前記外輪、および前記複数の転動体が鉄系材料からなる転がり軸受であって、硬質膜は、前記内輪軌道面、前記外輪軌道面、および前記転動体の転動面から選ばれる少なくとも一つの面の上に直接成膜されるクロムタングステンカーバイトとを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、前記混合層は、前記下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の前記タングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であり、前記下地層が成膜される面における粗さ曲線算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下であることを特徴とする転がり軸受。

請求項2

前記下地層が成膜される面における粗さ曲線から求められるスキューネスRskが−0.2以下であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。

請求項3

前記表面層は、前記混合層との隣接側に、前記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。

請求項4

前記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼炭素鋼工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の転がり軸受。

請求項5

前記転がり軸受が、風力発電機ブレード取付けられた主軸を支持する軸受であり、該軸受が、前記内輪と前記外輪との間に、前記転動体として軸方向に並んで2列にころを介在させ、前記外輪軌道面を球面状とし、前記ころの外周面を前記外輪軌道面に沿う形状とした複列自動調心ころ軸受であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の転がり軸受。

請求項6

ブレードが取付けられた主軸を、ハウジングに設置された1個または複数の軸受によって支持する風力発電用主軸支持装置であって、前記軸受のうち少なくとも一個が請求項5記載の複列自動調心ころ軸受であり、該複列自動調心ころ軸受において、前記ブレードから遠い方の列の軸受部分を、近い方の軸受部分よりも負荷容量が大きいものとしたことを特徴とする風力発電用主軸支持装置。

技術分野

0001

本発明は、軸受部材である内輪外輪転動体表面にダイヤモンドライクカーボンを含む硬質膜成膜した転がり軸受に関し、特に、高荷重負荷される用途、例えば風力発電機主軸を支持する軸受などに適用される複列自動調心ころ軸受に関する。また、該複列自動調心ころ軸受を備えた風力発電用主軸支持装置に関する。

背景技術

0002

硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素無定形炭素、硬質無定形炭素、i−カーボンダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。

0003

このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性固体潤滑性熱伝導性化学安定性耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型工具類耐摩耗性機械部品研磨材摺動部材磁気光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法イオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロンスパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。

0004

従来、転がり軸受の軌道輪軌道面や転動体の転動面に対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。DLC膜が剥離すると、軸受部材間で金属接触が起こり、該部材が摩耗することで転動面に摩耗粉介入軌道面損傷などに繋がる。このため、転がり軸受の軌道輪の軌道面や転動体の転動面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。

0005

例えば、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図ったものとして、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるDLC層とが、この順に形成されてなる転動装置が提案されている(特許文献1参照)。

0006

また、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図ったものとして、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。

先行技術

0007

特許第4178826号公報
特許第3961739号公報

発明が解決しようとする課題

0008

しかしながら、転がり滑り運動において発生する高い接触面圧下では被膜耐剥離性の確保(フレーキングの防止)は容易でなく、特に滑り摩擦により被膜に対して強いせん断力が発生し得るような潤滑運転条件においては被膜の耐剥離性の確保はより困難となる。DLC膜の適用が検討される摺動面は、潤滑状態が悪く、滑りを伴うといった状況であることが多く、一般的な転がり軸受における運転状況より厳しい場合が多い。

0009

また、軸受においては軌道面のみでなく外周面や端面における摩耗やシール溝での摺動抵抗などが問題となる場合もあり、軌道面以外へのDLC処理も軸受の耐久性および機能性向上に有効な手段である。

0010

また、DLC膜は硬質な被膜であり、接触する相手材に対してアブレシブ摩耗などの摩耗を発生させるおそれがある。特に、高荷重下、転がり滑り摩擦が生じる条件下で使用される場合、DLC膜による相手材への攻撃性が増大するおそれがある。

0011

本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、例えば転がり軸受の内・外輪軌道面などに形成された際にDLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮するとともに、相手材に対する攻撃性が抑制された転がり軸受の提供を目的とする。また、上記転がり軸受を適用した風力発電用主軸支持装置の提供を目的とする。

課題を解決するための手段

0012

本発明の転がり軸受は、外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周に外輪軌道面を有する外輪と、上記内輪軌道面と上記外輪軌道面との間を転動する複数の転動体とを備え、上記内輪、上記外輪、および上記複数の転動体が鉄系材料からなる転がり軸受であって、硬質膜は、上記内輪軌道面、上記外輪軌道面、および上記転動体の転動面から選ばれる少なくとも一つの面の上に直接成膜されるクロムとタングステンカーバイトとを主体とする下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイトとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、上記混合層は、上記下地層側から上記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の上記タングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該混合層中の上記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であり、上記下地層が成膜される面における粗さ曲線算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下であることを特徴とする。

0013

上記下地層が成膜される面における粗さ曲線から求められるスキューネスRskが−0.2以下であることを特徴とする。

0014

上記下地層が成膜される面における粗さ曲線から求められる最大山高さRpが0.4μm以下であることを特徴とする。

0015

上記表面層は、上記混合層との隣接側に、上記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする。

0016

上記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼炭素鋼工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする。

0017

上記転がり軸受が、風力発電機のブレード取付けられた主軸を支持する軸受であり、該軸受が、上記内輪と上記外輪との間に、上記転動体として軸方向に並んで2列にころを介在させ、上記外輪軌道面を球面状とし、上記ころの外周面を上記外輪軌道面に沿う形状とした複列自動調心ころ軸受であることを特徴とする。

0018

本発明の風力発電用主軸支持装置は、ブレードが取付けられた主軸を、ハウジングに設置された1個または複数の軸受によって支持する風力発電用主軸支持装置であって、上記軸受のうち少なくとも一個が上記複列自動調心ころ軸受であり、該複列自動調心ころ軸受において、上記ブレードから遠い方の列の軸受部分を、近い方の軸受部分よりも負荷容量が大きいものとしたことを特徴とする。

発明の効果

0019

本発明の転がり軸受は、内輪、外輪、および複数の転動体が鉄系材料からなり、内輪軌道面、外輪軌道面、および転動体の転動面から選ばれる少なくとも一つの面に、DLCを含む所定の膜構造を有する硬質膜が成膜されてなる。混合層に用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。さらに、WCとDLCとの混合層を傾斜組成とすることで、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっている。

0020

また、内輪軌道面、外輪軌道面、および転動体の転動面から選ばれる少なくとも一つの面の上に直接成膜される下地層は、Crを含むので鉄系材料と相性がよく、WやSiと比較して密着性に優れる。これに加えて、該下地層が成膜される面(基材表面)の表面粗さを示す粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下であるので、粗さが十分に小さく、また粗さ突起が先鋭にならず、突起接触による応力集中が軽減される。結果として硬質膜自体の耐剥離性に優れ、相手材に対する攻撃性を抑制できる。

0021

上記構造により、該硬質膜は、例えば、内・外輪軌道面や転動体の転動面に形成されながら耐剥離性に優れ、DLC本来の特性を発揮できる。この結果、本発明の転がり軸受は、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れ、苛酷な潤滑状態でも軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。

0022

本発明の風力発電用主軸支持装置は、ブレードが取付けられた主軸を少なくとも本発明の転がり軸受で支持するので、高荷重または潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下であっても硬質膜の耐剥離性に優れ、相手材に対する攻撃性を抑制できる。また、軸受が長寿命となり、メンテナンスフリー化にも寄与する。また、該軸受が、内輪と外輪との間に、軸方向に並んで2列にころを介在させた複列自動調心ころ軸受であり、2列のころのうち一方の列のころに、より大きなスラスト荷重がかかる風力発電機主軸用軸受特有使用状態に適している。

図面の簡単な説明

0023

本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。
本発明の転がり軸受の他の例を示す断面図である。
硬質膜の構造を示す模式断面図である。
風力発電用主軸支持装置を含む風力発電機全体の模式図である。
風力発電用主軸支持装置を示す図である。
本発明に係る複列自動調心ころ軸受の模式断面図である。
従来の風力発電機における主軸支持用の軸受を示す図である。
UBMS法の成膜原理を示す模式図である。
UBMS装置の模式図である。
円筒試験機の模試図である。

0024

DLC膜などの硬質膜は膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件の影響を受け大きく異なり、その結果、耐剥離性にも大きな影響を及ぼす。また、耐剥離性は硬質膜が成膜される基材表面の粗さによっても変化する。また、DLC膜は硬質な被膜であり、相手材に対してアブレシブ摩耗などの形態で摩耗を発生させやすい。摩耗のメカニズムには微小な粗さ突起における局所応力集中が関与しており、鋼同士では問題にならないような接触状態でも硬質なDLCが介在する場合には、より繊細な粗さ管理が必要とされる。本発明者らは、粗さパラメータが異なる基材を用いて高荷重下、転がり滑り摩擦が生じる条件下で検証を重ねた結果、軸受部材の表面に形成する硬質膜について、その膜構造を限定するとともに、基材表面の粗さ曲線の算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根傾斜RΔq(および歪度Rsk)を所定範囲内とすることで、相手攻撃性の抑制および耐剥離性の向上が図れることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。

0025

本発明の転がり軸受を図1および図2に基づいて説明する。図1は、内・外輪軌道面に後述の硬質膜を形成した転がり軸受(深溝玉軸受)の断面図を、図2は転動体の転動面に硬質膜を形成した転がり軸受(深溝玉軸受)の断面図をそれぞれ示す。転がり軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4とを備える。転動体4は保持器5により一定間隔で保持されている。シール部材6により、内・外輪の軸方向両端開口部がシールされ、軸受空間グリース7が封入されている。グリース7としては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。

0026

例えば図1(a)の転がり軸受では、内輪2の外周面(内輪軌道面2aを含む)に硬質膜8が形成されており、図1(b)の転がり軸受では、外輪3の内周面(外輪軌道面3aを含む)に硬質膜8が形成されているが、適用用途に応じて内輪、外輪または転動体の少なくとも1面に硬質膜が形成してあればよい。

0027

また、図2の転がり軸受では、転動体4の転動面に硬質膜8が形成されている。図2の転がり軸受は深溝玉軸受であることから、転動体4は玉であり、その転動面は球面全体である。図に示した態様以外の転がり軸受として、円筒ころ軸受円錐ころ軸受を用いる際に、該硬質膜8をその転動体に形成する場合は、少なくとも転動面(円筒外周など)に形成してあればよい。

0028

図1および図2に示すように、深溝玉軸受の内輪軌道面2aは、転動体4である玉を案内するため、軸方向断面が円弧溝状である円曲面である。同様に、外輪軌道面3aも、軸方向断面が円弧溝状である円曲面である。この円弧溝の曲率半径は、一般的に鋼球径をdwとすると、0.51〜0.54dw程度である。また、図に示した態様以外の転がり軸受として、円筒ころ軸受や円錐ころ軸受を用いる場合では、これらの軸受のころを案内するため、内輪軌道面および外輪軌道面は、少なくとも円周方向で曲面となる。その他、自動調心ころ軸受などの場合、転動体としてたる型ころを用いるので、内輪軌道面および外輪軌道面は、円周方向に加えて、軸方向についても曲面となる。本発明の転がり軸受は、内輪軌道面および外輪軌道面が、以上のいずれの形状であってもよい。

0029

本発明の転がり軸受1において、硬質膜8の成膜対象となる軸受部材である内輪2、外輪3、および転動体4は、鉄系材料からなる。鉄系材料としては、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材などを使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。

0030

これらの軸受部材において、硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、硬質膜(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。

0031

硬質膜が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、硬質膜(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。

0032

本発明において、硬質膜が形成される面、つまり下地層が成膜される面は、算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、かつ、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下である。Raは、好ましくは0.2μm以下である。また、硬質膜が形成される面は鏡面加工された面であってもよい。Raの下限は、特に限定されず、例えば0.005μm以上である。なお、鏡面加工は生産性製造コストにおいて不利となるため、製造上の観点からは、Raが0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。RΔqは、好ましくは0.03以下であり、より好ましくは0.02以下である。算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根傾斜RΔqは、JIS B 0601に準拠して算出される数値であり、接触式または非接触式の表面粗さ計などを用いて測定される。具体的な測定条件としては、測定長さ4mm、カットオフ0.8mmである。基材表面の二乗平均平方根傾斜RΔqを0.05以下とすることで、粗さ曲線におけるピークが緩やかになり、突起の曲率半径が大きくなり局所面圧が低減できる。また、成膜時においては粗さによるミクロなレベル電界集中も抑制でき、局所的な膜厚および硬度の変化を防ぐことができ、ひいては硬質膜の耐剥離性を向上できる。

0033

下地層が成膜される面の粗さ曲線から求められる最大山高さRpは0.4μm以下であることが好ましい。最大山高さRpは、JIS B 0601に準拠して算出される。粗さ曲線から求められる最大山高さRpと算術平均粗さRaの関係は、1≦Rp/Ra≦2となることが好ましく、1.2≦Rp/Ra≦2となることがより好ましい。

0034

また、下地層が成膜される面の粗さ曲線から求められるスキューネスRskは負であることが好ましい。Rskは、歪み度指標であり、−0.2以下であることがより好ましい。スキューネスRskは、平均線を中心にして振幅分布曲線上下対称性を定量的に表したもの、つまり表面粗さの平均線に対する偏りを示す指標である。スキューネスRskは、JIS B 0601に準拠して算出される。スキューネスRskが負であることは、粗さ形状が下に凸(谷)ということを意味し、表面に平坦部が多くある状態となる。結果として凸部が少なく突起部による応力集中を起こしにくい表面であると言える。また粗さを軽減する手法にバレル研磨など研磨メディアとの衝突により表面突起を除去する方法があるが、加工条件によっては新たに突起を形成してしまいRskが正に転じる可能性があり注意が必要である。

0035

本発明における硬質膜の構造を図3に基づいて説明する。図3は、図1(a)の場合における硬質膜8の構造を示す模式断面図である。図3に示すように、該硬質膜8は、(1)内輪2の内輪軌道面2a上に直接成膜されるCrとWCとを主体とする下地層8aと、(2)下地層8aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層8bと、(3)混合層8bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層8cとからなる3層構造を有する。ここで、混合層8bは、下地層8a側から表面層8c側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、かつ、該混合層中のDLCの含有率が高くなる層である。本発明では、硬質膜の膜構造を上記のような3層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。

0036

下地層8aは、Crを含むので超硬合金材料や鉄系材料からなる基材との相性がよく、W、Ti、Si、Alなどを用いる場合と比較して基材との密着性に優れる。また、下地層8aに用いるWCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。また、下地層8aは、内輪2側から混合層8b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成とすることが好ましい。これにより、内輪2と混合層8bとの両面での密着性に優れる。

0037

混合層8bは、下地層と表面層との間に介在する中間層となる。混合層8bに用いるWCは、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。混合層8bが、下地層8a側から表面層8c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、下地層8aと表面層8cとの両面での密着性に優れる。また、該混合層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっており、該混合層内での破損などを防止できる。さらに、表面層8c側ではDLC含有率が高められているので、表面層8cと混合層8bとの密着性に優れる。混合層8bは、非粘着性の高いDLCをWCによって下地層8a側にアンカー効果で結合させる層である。

0038

表面層8cは、DLCを主体とする膜である。表面層8cにおいて、混合層8bとの隣接側に、混合層8b側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分8dを有することが好ましい。これは、混合層8bと表面層8cとでバイアス電圧が異なる場合、バイアス電圧の急激な変化を避けるためにバイアス電圧を連続的または段階的に変化させる(上げる)ことで得られる部分である。傾斜層部分8dは、このようにバイアス電圧を変化させることで、結果として上記のように硬度が傾斜する。硬度が連続的または段階的に上昇するのは、DLC構造におけるグラファイト構造(sp2)とダイヤモンド構造(sp3)との構成比率が、バイアス電圧の上昇により後者に偏っていくためである。これにより、混合層と表面層との急激な硬度差がなくなり、混合層8bと表面層8cとの密着性がさらに優れる。

0039

硬質膜8の膜厚(3層の合計)は0.5〜5.0μmとすることが好ましい。膜厚が厚くなると残留圧縮応力の増大により剥離が発生し易くなる傾向があるが、転がり滑り条件などの表層でのせん断応力が大きい場合においては、膜厚が薄くなるほど剥離が発生し易くなる傾向が確認されており、実際の損傷モードに合わせた膜厚設定が必要である。さらに、該硬質膜8の膜厚に占める表面層8cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、混合層8bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化するおそれがある。

0040

硬質膜8を以上のような組成の下地層8a、混合層8b、表面層8cとの3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。

0041

本発明の転がり軸受において、以上のような構造・物性の硬質膜を形成することで、軸受使用時転がり接触などの負荷を受けた場合でも、該膜の摩耗や剥離を防止でき、苛酷な潤滑状態でも軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。また、グリースを封入した転がり軸受において、軌道輪などの損傷により金属新生面露出すると、触媒作用によりグリース劣化を促進させるが、本発明の転がり軸受では、硬質膜により金属接触による軌道面や転動面の損傷を防止できるので、このグリース劣化も防止できる。

0042

ここで、本発明の転がり軸受が適用される風力発電機について説明する。従来、大型の風力発電機における主軸用軸受には、図7に示すような大型の複列自動調心ころ軸受34が用いられることが多い。主軸33は、ブレード32が取付けられた軸であり、風力を受けることによって回転し、その回転を増速機(図示せず)で増速して発電機を回転させ、発電する。風を受けて発電している際に、ブレード32を支える主軸33は、ブレード32にかかる風力による軸方向荷重軸受スラスト荷重)と、径方向荷重(軸受ラジアル荷重)が負荷される。複列自動調心ころ軸受34は、ラジアル荷重とスラスト荷重を同時に負荷することができ、かつ調心性を持つため、軸受ハウジング31の精度誤差や、取付誤差による主軸33の傾きを吸収でき、かつ運転中の主軸33の撓みを吸収できる。そのため、風力発電用機主軸用軸受に適した軸受であり、利用されている(参考文献:NTN社カタログ「新世代風車用軸受」A65.CAT.No.8404/04/JE、2003年5月1日発行)。

0043

ところで、図7に示すように、風力発電用の主軸を支持する複列自動調心ころ軸受においては、ラジアル荷重に比べてスラスト荷重が大きく、複列のころ37、38のうち、スラスト荷重を受ける列のころ38が、もっぱらラジアル荷重とスラスト荷重を同時に負荷することになる。そのため、転がり疲労寿命が短くなる。また、風力発電機においては主軸の回転数が一定でなく、低回転数では油膜厚さの不足境界潤滑となり易い、加えて接触楕円内において差動滑りが発生するため、表面損傷や摩耗を生じやすい。また、スラスト荷重が負荷されることから、鍔で滑り運動が起こり摩耗を生じると言う問題があった。加えて、反対側の列では軽負荷となり、ころ37が内外輪35、36の軌道面35a、36aで滑りを生じ、表面損傷や摩耗を生じるという問題がある。そのため、軸受サイズが大きなものを用いることで対処されるが、軽負荷側では余裕が大きくなり過ぎて、不経済である。また、無人で運転されたり、ブレード32が大型となるために高所に設置される風力発電機主軸用軸受では、メンテナンスフリー化が望まれる。

0044

これの対処として、本発明の転がり軸受を、風力発電用主軸支持装置における複列自動調心ころ軸受に適用することができる。本発明の転がり軸受を風力発電用主軸支持装置に適用した例を図4および図5に基づいて説明する。図4は本発明の風力発電用主軸支持装置を含む風力発電機全体の模式図であり、図5図4の風力発電用主軸支持装置を示す図である。図4に示すように、風力発電機11は、風車となるブレード12が取付けられた主軸13を、ナセル14内に設置された複列自動調心ころ軸受15(以下、単に軸受15とも言う。)により回転自在に支持し、さらにナセル14内に増速機16および発電機17を設置したものである。増速機16は、主軸13の回転を増速して発電機17の入力軸に伝達するものである。ナセル14は、支持台18上に旋回座軸受27を介して旋回自在に設置され、旋回用モータ19(図5参照)の駆動により、減速機20(図5参照)を介して旋回させられる。ナセル14の旋回は、風向きにブレード12の方向を対向させるために行われる。主軸支持用の軸受15は、図5の例では2個設けられているが、1個であってもよい。

0045

図6は、風力発電機の主軸を支持する複列自動調心ころ軸受15を示す。この軸受15は、一対の軌道輪となる内輪21および外輪22と、これら内外輪21 、22間に介在した複数のころ23とを有する。複数のころは、軸受の軸方向に2列に並んで介在し、図6では、ブレードに近い方の列(左列)のころが23a、ブレードから遠い方の列(右列)のころが23bとなっている。軸受15は、スラスト負荷が可能なラジアル軸受である。軸受15の外輪軌道面22aが球面状とされ、各ころは外周面が外輪軌道面22aに沿う球面形状のころとされている。内輪21は、左右各列のころ23a、23bの外周面に沿う断面形状の複列の内輪軌道面21aが形成されている。内輪21の外周面の両端には、小鍔21b、21cがそれぞれ設けられている。内輪21の外周面の中央部、すなわち左列のころ23aと右列のころ23b間には、中鍔21dが設けられている。ころ23a、23bは、各列毎に保持器24で保持されている。

0046

上記構成において、各ころ23a、23bの外周面は、内輪軌道面21aと外輪軌道面22aとの間で転がり接触する。また、ころ23aの軸方向内側の端面は、中鍔21dの軸方向一方の端面との間で滑り接触し、ころ23aの軸方向外側の端面は、小鍔21bの内側端面との間で滑り接触する。また、ころ23bの軸方向内側の端面は、中鍔21dの軸方向他方の端面との間で滑り接触し、ころ23bの軸方向外側の端面は、小鍔21cの内側端面との間で滑り接触する。これらの摩擦を低減するためにグリースが封入されている。グリースとしては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。

0047

図6において、外輪22は軸受ハウジング25の内径面に嵌合して設置され、内輪21は主軸13の外周に嵌合して主軸13を支持している。軸受ハウジング25は、軸受15の両端を覆う側壁部25aを有し、各側壁部25aと主軸13との間にラビリンスシール等のシール26が構成されている。軸受ハウジング25で密封性が得られるため、軸受15にはシール無しのものが用いられている。軸受15は、本発明の実施形態にかかる風力発電機主軸用軸受となるものである。

0048

上記複列自動調心ころ軸受は、ころと他部材間摺接する(例えば、転がり滑り接触する)表面に上述した硬質膜が形成されている。風力発電機主軸用軸受には高荷重が負荷されるため、硬質膜による耐摩耗性などの向上が期待されるが、その反面、硬質膜による相手攻撃性や剥離性が懸念される。上記複列自動調心ころ軸受の破損形態は摩耗およびピーリングなどの表層剥離であり、外輪負荷域で最もその進行が早い傾向がある。このため、摩耗を抑制したい対象は外輪であるが、DLCは硬質な被膜であるため処理前のころの粗さ状態が不適切である場合、より相手攻撃性が助長され、外輪の摩耗が促進される可能性がある。またDLCが剥離した場合、硬質な剥離片の転動面への噛み込みなどの悪影響があるため、DLCの剥離にも細心の注意を払う必要がある。

0049

本発明者らは、これらの相手攻撃性や剥離には被処理材であるころの表面粗さ突起における応力集中が関係しており、通常用いられる算術平均粗さ(Ra)などに加えて、表面突起の形状に着目した二乗平均平方根傾斜RΔqなどのパラメータの管理が有効であることを見出した。そこで、基材表面の粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜RΔqを所定範囲内とすることで、硬質膜の相手攻撃性の抑制や耐剥離性の向上が図れる。その結果、高荷重下、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でも、硬質膜の耐剥離性に優れ、硬質膜本来の特性を発揮でき、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、複列自動調心ころ軸受の金属接触に起因する損傷などを防止できる。

0050

硬質膜の形成箇所について以下に説明する。図6の形態の軸受15では、軸受部材である内輪21の外周面に硬質膜28が形成されている。内輪21の外周面は、軌道面21a、中鍔21dの軸方向両端面、小鍔21bの内側端面、小鍔21cの内側端面を含む。図6の形態では、内輪21の外周面全体に硬質膜28が形成されており、ころ23a、23bと転がり滑り接触しない面にも硬質膜28が形成されている。内輪21において、硬質膜28を形成する箇所は、図6の形態に限らず、境界潤滑条件下でころと滑り接触する表面に形成されることが好ましい。例えば、各ころ23a、23bと滑り接触する中鍔21dの軸方向両端面、小鍔21bの内側端面、および小鍔21cの内側端面のうち、少なくともいずれかの端面に硬質膜が形成されていてもよい。

0051

また、上述したように、風力発電機主軸用軸受としての自動調心ころ軸受では、ブレードから遠い方の列のころ(ころ23b)の方がブレードに近い方の列のころ(ころ23a)に比べて、大きなスラスト荷重を受ける。この場合、ころ23bと滑り接触する箇所では、特に境界潤滑となりやすい。そのため、軸方向に並ぶ2列のころに互いに大きさが異なる荷重が作用することを考慮して、小鍔21b、21cのうち小鍔21cの内側端面にのみ硬質膜を形成してもよい。

0052

ころは内外輪との間で転がりつつ滑りも生じている。図6に示す硬質膜は、このような条件下で使用されるものである。また、該硬質膜の形成箇所は、図6に示す箇所に限定されず、上記条件となるような、内輪、外輪、およびころから選ばれる少なくとも一つの軸受部材の任意の表面に形成することができる。

0053

図6の形態では、内輪21の外周面に硬質膜28を形成したが、これに代えてまたは加えて、外輪22や、各ころ23a、23bの表面に硬質膜28を形成してもよい。外輪22に硬質膜を形成する構成では、外輪22の内周面(外輪軌道面22aを含む)に硬質膜を形成するとよい。また、各ころ23a、23bの表面に硬質膜を形成する構成では、各ころ23a、23bの両端面に硬質膜を形成してもよい。また、ころにかかる荷重の違いを考慮して、ころ23bの両端面にのみ硬質膜を形成する構成としてもよい。また、各ころ23a、23bの外周面に硬質膜を形成する構成としてもよい。例えば、各列のころのうち、少なくとも一方の列のころの外周面に硬質膜を形成する構成としてもよい。

0054

以下、本発明の硬質膜の成膜工程について説明する。この成膜工程は、下地層8aが成膜される面に対して、表面仕上げ加工をする工程と、下地層8aと混合層8bとを成膜する工程と、表面層8cを、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用して成膜する工程とを含む。硬質膜は、表面仕上げ加工した軸受部材の成膜面に対して、下地層8a、混合層8b、表面層8cをこの順に成膜して得られる。

0055

下地層8aと混合層8bを成膜する工程は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用することが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図8に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材42は、成膜対象の軸受部材である内輪、外輪、または転動体であるが、模式的に平板で示してある。図8に示すように、丸形ターゲット45の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石44a、外側磁石44bが配置され、ターゲット45付近高密度プラズマ49を形成しつつ、磁石44a、44bにより発生する磁力線46の一部46aがバイアス電源41に接続された基材42近傍まで達するようにしたものである。この磁力線46aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材42付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材42付近まで達する磁力線46aに沿って、Arイオン47および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット48をより多く基材42に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)43を成膜できる。

0056

下地層8aを成膜する工程では、ターゲット45としてCrターゲットおよびWCターゲットを併用し、混合層8bを成膜する工程では、ターゲット45としてWCターゲットおよび黒鉛ターゲットを併用する。下地層8aを成膜する工程では、連続的または段階的に、WCターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、Crターゲットに印加する電力下げながら成膜する。これにより混合層8b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる構造の層とできる。

0057

混合層8bを成膜する工程では、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより表面層8c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。

0058

表面層8cを成膜する工程は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用することが好ましい。より詳細には、該工程は、この装置を利用して、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合を1〜10とし、上記装置内の真空度を0.2〜0.8Paとし、炭素供給源から生じる炭素原子を、混合層8b上に堆積させて成膜する工程であることが好ましい。

0059

本発明の転がり軸受に形成する硬質膜として、所定の基材(試験片)に対して硬質膜を形成し、該硬質膜の物性に関して評価した。また2円筒試験機を用いた転がり滑り試験にて相手材摩耗の評価を行った。これらを実施例、比較例として以下に説明する。

0060

硬質膜の評価用に用いた試験片、UBMS装置、スパッタリングガスなどは以下のとおりである。
(1)試験片物性:SUJ2焼き入れ焼き戻し品 750Hv
(2)試験片:研磨された(算術平均粗さRa、二乗平均平方根傾斜RΔq、最大山高さRp、スキューネスRskは表1記載)SUJ2リング(φ40×L12副曲率60)の摺動表面に対して各条件にて硬質膜を成膜したもの
(3)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202
(4)スパッタリングガス:Arガス

0061

下地層の形成条件を以下に説明する。成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCrターゲットとWCターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、CrとWCの組成比を傾斜させ、基材側でCrが多く表面側でWCが多いCr/WC傾斜層を形成した。

0062

混合層の形成条件を以下に説明する。下地層と同様にUBMS法にて成膜した。ここで、該混合層については、炭化水素系ガスであるメタンガスを供給しながら、WCターゲットと黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させ、基材側でWCが多く表面側でDLCが多いWC/DLC傾斜層を形成した。

0063

各試験片では、表面仕上げ加工の条件を変更する等して、算術平均粗さRaや二乗平均平方根傾斜RΔqを変えている。なお、試験片の表面の各種粗さパラメータは表面粗さ測定器テーラーホブソン社製:フォームタリサーフPGI830)で測定した。JIS B 0601に従い、基準長さ0.8mm、区間数5で5回測定した値の平均値を表1に示す。

0064

図9はUBMS装置の模式図である。図9に示すように、円盤50上に配置された基材51に対し、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)52を非平衡な磁場により、基材51近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図8参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材とするリングに、下地層、混合層、表面層をUBMS被膜として成膜している。

0065

実施例1〜7、比較例1〜3
表1に示す基材をアセトン超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS装置に取り付け、上述の形成条件にて下地層および混合層を形成した。その上に、表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。表面層の形成条件は、上記装置における成膜チャンバー内の真空度が0.8Pa、基材に対するバイアス電圧が50V、上記装置内へのメタンガス導入量の割合がArガスの導入量100(体積部)に対して1(体積部)である。結果を表1に併記する。表中の膜厚は、3層(下地層、混合層、表面層)の合計膜厚である。

0066

<2円筒試験機による転がり滑り試験>
得られた試験片について図10に示す2円筒試験機を用いて転がり滑りによる相手材摩耗の試験を行った。この2円筒試験機は、駆動側試験片53と転がり滑り接触する従動側試験片54とを備え、それぞれの試験片(リング)は支持軸受56で支持されており、負荷用バネ57により荷重が負荷されている。また、図中の55は駆動用プーリ、58は非接触回転計である。回転差をつけて滑りを発生させ、相手材側円筒の摩耗深さから相手攻撃性を評価した。具体的な試験条件は以下のとおりである。なお、相手材側円筒の摩耗深さは、表面粗さ測定器(テーラーホブソン社製:フォーム・タリサーフPGI830)を用い、基準面に対する摩耗深さを求めた。
(試験条件)
相手材:研削仕上げ(0.02μmRa)SUJ2リング(φ40×L12副曲率60)
潤滑油:VG320相当油(添加剤含有)フェルトパット給油
最大接触面圧:1.5GPa
回転数:(試験片側)127min−1
(相手材側)126min−1
相対滑り率:0.8%
打ち切り時間:72h

0067

0068

表1に2円筒転がり滑り試験の結果を示す。使用する基材および表面層の成膜条件は同一であり、表面層の硬度は平均値で約23GPaである。硬質膜を成膜する表面の表面粗さを示す粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.3μm以下であり、二乗平均平方根傾斜RΔqが0.05以下である場合(実施例1〜7)は、2円筒転がり滑り試験における相手材摩耗が小さい傾向があり、相手攻撃性が低下している。特に、実施例3は、比較例3と、Ra、Rsk、Rpが同程度であるにもかかわらず、RΔqの違いにより、相手攻撃性が顕著に異なる結果となった。これは、突起の先端半径が鈍化し応力集中が緩和されたためと考えられる。

0069

実施例6は実施例3とRa、RΔqは同程度だが、相手攻撃性が異なる。これはRskが正の値となり上向きの突起が増えたことによると考えられる。また実施例5の結果からRskが小さいほど相手材摩耗が大きいわけではなく、Rskが0以上とならないことが相手攻撃性の抑制に重要であると考えられる。

実施例

0070

上より本願発明では、硬質膜と相手材の接触時における突起部の応力集中を緩和し、相手材摩耗を抑制するため、粗さ曲線の算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根傾斜RΔqを用いて基材表面の状態を規定している。

0071

本発明の転がり軸受は、例えば内・外輪軌道面や転動体の転動面にDLC膜が形成され、苛酷な条件で運転した場合においてもこのDLC膜の耐剥離性に優れ、DLC本体の特性を発揮できるので、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる。また、相手材に対する攻撃性が抑制されている。このため、本発明の転がり軸受は、苛酷な潤滑状態での用途を含め、各種用途に適用可能である。特に、風力発電用主軸支持装置への適用に適している。

0072

1転がり軸受(深溝玉軸受)
2内輪
3外輪
4転動体
5保持器
6シール部材
7グリース
8硬質膜
11風力発電機
12ブレード
13主軸
14ナセル
15複列自動調心ころ軸受(転がり軸受)
16増速機
17発電機
18支持台
19モータ
20減速機
21 内輪
22 外輪
23 ころ
24 保持器
25軸受ハウジング
26シール
27旋回座軸受
28 硬質膜
41バイアス電源
42基材
43 膜(層)
45ターゲット
46磁力線
47 Arイオン
48イオン化されたターゲット
49高密度プラズマ
50円盤
51 基材
52スパッタ蒸発源材料(ターゲット)
53駆動側試験片
54従動側試験片
55駆動用プーリ
56支持軸受
57負荷用バネ
58 非接触回転計

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