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課題
超低降伏比(降伏比80%未満)を安定して確保でき、かつ強度と靭性を兼ね備えた超低降伏比高張力厚鋼板およびその製造方法を提供する。
解決手段
質量%で、C :0.08%超、0.20%以下、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.015%以下、S:0.0050%以下、Al:0.005〜0.10%、およびN:0.0015〜0.0065%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含み、セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれており、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が50.0%以上、95.0%未満であり、島状マルテンサイトの面積分率が5〜20%であり、島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満であり、セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下であり、かつセメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満であるミクロ組織を有する、超低降伏比高張力厚鋼板。
概要
背景
近年、建築構造物の高層化、大スパン化に伴い、使用される鋼材の厚肉化、高強度化が要望され、鋼構造物の安全性の観点からは、高い許容応力を有するとともに、降伏比(=引張強さに対する降伏強さの比)を低減することが要求されている。
降伏比を低減すると、降伏点以上の応力が付加されても破壊までに許容される応力が大きくなり、また、一様伸びが大きくなるため、塑性変形能に優れた鋼材となる。そのため、従来よりも降伏比を低減できれば、より変形能に優れた鋼材が得られる。
従来、低降伏比高張力厚鋼板の製造プロセスとしては、フェライト+オーステナイト2相域への再加熱焼入れ後、焼き戻しを行う多段熱処理が一般的である。しかしながら、前記多段熱処理によって得られる厚鋼板のミクロ組織は、主相としてのフェライト相に硬質第2相としてのベイナイトまたはマルテンサイトが分散したものであるため、フェライト相の体積分率によっては、980MPa超の引張強さを安定して達成することが困難である。また、焼き戻し工程によって降伏点が上昇してしまい、高強度鋼ほど低降伏比を安定的に得ることが困難である。
特許文献1には、熱間圧延後の鋼板を焼入れした後、再度フェライト+オーステナイトの2相域まで加熱して焼入れを行うことにより、高強度化と降伏比(YR):85%以下の低降伏比化を達成することが記載されている。
特許文献2には、圧延後、直ちに焼入れする直接焼入れ法により、焼入れ後のミクロ組織をベイナイト相あるいはマルテンサイト相とした後、再度フェライト+オーステナイトの2相域まで加熱して焼ならしを行うことにより、高強度化と低降伏比化を達成することが記載されている。
特許文献3には、圧延後、一定時間経過し、フェライトを析出させた後、焼入れを行う直接焼入れ法により、フェライト相+マルテンサイト相の2相組織とし、高強度化と低降伏比化を達成することが記載されている。
概要
超低降伏比(降伏比80%未満)を安定して確保でき、かつ強度と靭性を兼ね備えた超低降伏比高張力厚鋼板およびその製造方法を提供する。質量%で、C :0.08%超、0.20%以下、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.015%以下、S:0.0050%以下、Al:0.005〜0.10%、およびN:0.0015〜0.0065%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含み、セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれており、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が50.0%以上、95.0%未満であり、島状マルテンサイトの面積分率が5〜20%であり、島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満であり、セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下であり、かつセメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満であるミクロ組織を有する、超低降伏比高張力厚鋼板。なし
目的
効果
実績
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請求項1
質量%で、C:0.08%超、0.20%以下、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.015%以下、S:0.0050%以下、Al:0.005〜0.10%、およびN:0.0015〜0.0065%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含み、セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれており、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が70.0%以上、95.0%未満であり、ベイナイトおよびマルテンサイトの平均円相当径が50μm未満であり、島状マルテンサイトの面積分率が2〜10%であり、島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満であり、セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下であり、かつセメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満であるミクロ組織を有する、超低降伏比高張力厚鋼板。
請求項2
前記成分組成が、質量%で、Ti:0.004〜0.03%、Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:1.0%以下、B:0.0050%以下、Nb:0.1%以下、およびV:0.2%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。
請求項3
前記成分組成が、質量%で、Ca:0.005%以下、REM:0.02%以下、およびMg:0.005%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1または2に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。
請求項4
引張強さが980MPaを超え、降伏比が80%未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。
請求項5
質量%で、C:0.08%超、0.20%以下、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.015%以下、S:0.0050%以下、Al:0.005〜0.10%、およびN:0.0015〜0.0065%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする熱間圧延工程と、前記熱間圧延後の前記厚鋼板を900℃以上、1000℃以下の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持し、400℃以下の冷却停止温度まで冷却する第一再加熱工程と、前記第一再加熱工程後の前記厚鋼板をAc1点+80℃以上、Ac3点未満の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持する第二再加熱工程と、前記第二再加熱工程後の前記厚鋼板を、板厚1/4位置における平均冷却速度:1〜200℃/sで、200℃以上、ベイナイト変態開始温度未満である加速冷却停止温度まで加速冷却し、次いで空冷する冷却工程とを有する、超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
請求項6
前記成分組成が、質量%で、Ti:0.004〜0.03%、Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Cr:2.0%以下、Mo:1.0%以下、B:0.0050%以下、Nb:0.1%以下、およびV:0.2%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項5に記載の超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
請求項7
前記成分組成が、質量%で、Ca:0.005%以下、REM:0.02%以下、およびMg:0.005%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項5または6に記載の超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
技術分野
0001
本発明は、超低降伏比高張力厚鋼板に関し、特に、従来よりも降伏比が低く、変形性能に優れた建築用として好適な超低降伏比高張力厚鋼板に関する。また、本発明は、前記超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法に関する。
背景技術
0002
近年、建築構造物の高層化、大スパン化に伴い、使用される鋼材の厚肉化、高強度化が要望され、鋼構造物の安全性の観点からは、高い許容応力を有するとともに、降伏比(=引張強さに対する降伏強さの比)を低減することが要求されている。
0003
降伏比を低減すると、降伏点以上の応力が付加されても破壊までに許容される応力が大きくなり、また、一様伸びが大きくなるため、塑性変形能に優れた鋼材となる。そのため、従来よりも降伏比を低減できれば、より変形能に優れた鋼材が得られる。
0004
従来、低降伏比高張力厚鋼板の製造プロセスとしては、フェライト+オーステナイト2相域への再加熱焼入れ後、焼き戻しを行う多段熱処理が一般的である。しかしながら、前記多段熱処理によって得られる厚鋼板のミクロ組織は、主相としてのフェライト相に硬質第2相としてのベイナイトまたはマルテンサイトが分散したものであるため、フェライト相の体積分率によっては、980MPa超の引張強さを安定して達成することが困難である。また、焼き戻し工程によって降伏点が上昇してしまい、高強度鋼ほど低降伏比を安定的に得ることが困難である。
0005
特許文献1には、熱間圧延後の鋼板を焼入れした後、再度フェライト+オーステナイトの2相域まで加熱して焼入れを行うことにより、高強度化と降伏比(YR):85%以下の低降伏比化を達成することが記載されている。
0006
特許文献2には、圧延後、直ちに焼入れする直接焼入れ法により、焼入れ後のミクロ組織をベイナイト相あるいはマルテンサイト相とした後、再度フェライト+オーステナイトの2相域まで加熱して焼ならしを行うことにより、高強度化と低降伏比化を達成することが記載されている。
0007
特許文献3には、圧延後、一定時間経過し、フェライトを析出させた後、焼入れを行う直接焼入れ法により、フェライト相+マルテンサイト相の2相組織とし、高強度化と低降伏比化を達成することが記載されている。
先行技術
0008
特開平06−248337号公報
特開平05−230530号公報
特開平07−097626号公報
発明が解決しようとする課題
0009
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、降伏比の低減に有効な硬質相が焼き戻しで分解されてしまい、超低降伏比と高い引張強度を安定して得ることが難しい。特許文献2、3に記載された技術では鋼板の急速加熱が必要であり、熱処理操業の負荷が大きく、特に厚肉材の製造が難しい。また、優れた靱性を得ることが難しい。
課題を解決するための手段
0011
本発明者らは、上記課題を達成するために、鋭意研究を行い、以下の知見を得た。
0012
(1)従来プロセスでは、2相域加熱焼入れ後、最終工程として靱性改善を目的とした焼き戻し処理が行われる。その結果、低降伏比化に有効な島状マルテンサイト(MA)が分解してしまい、降伏強さ(YP)の上昇を抑制できる可動転位が減少し、超低降伏比化を達成することができない。
0013
(2)従来の焼入れ、焼戻し工程に代えて、2相域加熱後、200℃以上、ベイナイト変態開始温度(Bs点)未満で焼入れを停止し、次いで空冷することにより、MAを含む自己焼戻しベイナイトおよび自己焼戻しマルテンサイトを母相とする組織が得られる。
0014
(3)さらに、熱延後2相域加熱前に、900〜1000℃の加熱を行うことにより、超低降伏比を維持したまま、強度と靭性をさらに向上させることができる。そしてその結果、高強度と超低降伏比を兼ね備えた厚鋼板を製造することができる。
0015
本発明は、上記知見を元に、さらに検討を加えて完成されたものである。本発明の要旨は次のとおりである。
0016
1.質量%で、
C :0.08%超、0.20%以下、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.5〜3.0%、
P :0.015%以下、
S :0.0050%以下、
Al:0.005〜0.10%、および
N :0.0015〜0.0065%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含み、
セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれており、
ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が70.0%以上、95.0%未満であり、
ベイナイトおよびマルテンサイトの平均円相当径が50μm未満であり、
島状マルテンサイトの面積分率が2〜10%であり、
島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満であり、
セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下であり、かつ
セメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満であるミクロ組織を有する、超低降伏比高張力厚鋼板。
0017
2.前記成分組成が、質量%で、
Ti:0.004〜0.03%、
Cu:1.0%以下、
Ni:3.0%以下、
Cr:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
B :0.0050%以下、
Nb:0.1%以下、および
V :0.2%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。
0018
3.前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.005%以下、
REM:0.02%以下、および
Mg:0.005%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1または2に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。
0019
4.引張強さが980MPaを超え、降伏比が80%未満である、上記1〜3のいずれか一項に記載の超低降伏比高張力厚鋼板。
0020
5.質量%で、
C :0.08%超、0.20%以下、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.5〜3.0%、
P :0.015%以下、
S :0.0050%以下、
Al:0.005〜0.10%、および
N :0.0015〜0.0065%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延後の前記厚鋼板を900℃以上、1000℃以下の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持し、400℃以下の冷却停止温度まで冷却する第一再加熱工程と、
前記第一再加熱工程後の前記厚鋼板をAc1点+80℃以上、Ac3点未満の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持する第二再加熱工程と、
前記第二再加熱工程後の前記厚鋼板を、板厚1/4位置における平均冷却速度:1〜200℃/sで、200℃以上、ベイナイト変態開始温度未満である加速冷却停止温度まで加速冷却し、次いで空冷する冷却工程とを有する、超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
0021
6.前記成分組成が、質量%で、
Ti:0.004〜0.03%、
Cu:1.0%以下、
Ni:3.0%以下、
Cr:2.0%以下、
Mo:1.0%以下、
B :0.0050%以下、
Nb:0.1%以下、および
V :0.2%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記5に記載の超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
0022
7.前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.005%以下、
REM:0.02%以下、および
Mg:0.005%以下からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記5または6に記載の超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法。
発明の効果
0023
本発明によれば、超低降伏比(降伏比80%未満)を安定して確保でき、かつ強度と靭性を兼ね備えた超低降伏比高張力厚鋼板を得ることができる。また、本発明によれば、板厚によらず、前記超低降伏比高張力厚鋼板を安定して製造することができる。そのため、本発明は、鋼構造物の大型化、耐震性の向上、に大きく寄与し、産業上格段の効果を奏する。
0024
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な一実施態様を示すものであり、本発明は、以下の説明によって何ら限定されるものではない。
0025
[成分組成]
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板、および超低降伏比高張力厚鋼板の製造に用いる鋼素材は、上述した成分組成を有する必要がある。以下、前記成分組成に含まれる各成分について説明する。なお、特に断らない限り、各成分の含有量を表す「%」は、「質量%」を意味する。
0026
C:0.08%超、0.20%以下
Cは、鋼の強度を増加させ、構造用鋼材として必要な強度を確保する効果を有する元素である。前記効果を得るために、C含有量を0.08%超とする。C含有量は、0.10%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.20%を超えると、島状マルテンサイトやセメンタイトの生成が促進され、母材の靭性が低下する。そのため、C含有量を0.20%以下とする。C含有量は、0.15%以下とすることが好ましい。
0027
Si:0.01〜0.50%
Siは、脱酸剤として機能するとともに、母材強度を高める効果を有する元素である。前記効果を得るために、Si含有量を0.01%以上とする。一方、Si含有量が0.50%を超えると、島状マルテンサイトの生成が促進され、靭性や溶接性の低下が顕在化する。そのため、Si含有量を0.50%以下とする。Si含有量は0.35%以下とすることが好ましい。
0028
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、鋼の強度を増加させる効果を有する元素である。母材の引張強さを確保するためには、Mn含有量を0.5%以上とする必要がある。Mn含有量は0.8%以上とすることが好ましい。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、島状マルテンサイトが過剰に生成し、母材の靭性が著しく劣化する。そのため、Mn含有量は3.0%以下とする。Mn含有量は2.8%以下とすることが好ましい。
0029
P:0.015%以下
Pは、母材の低温靭性を劣化させる元素であり、できるだけ低減することが望ましい。そのため、母材靭性向上のためにはPを低減することが望ましい。よって、P含有量は0.015%以下とする。
0030
S:0.0050%以下
Sは、母材の低温靭性を劣化させる元素であり、できるだけ低減することが望ましい。S含有量が0.0050%を超えて含有すると、前記低温靭性の劣化が顕著となるため、S含有量は0.0050%以下とする。
0031
Al:0.005〜0.10%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、高張力鋼の溶鋼脱酸プロセスにおいて、もっとも汎用的に使われる。また、Alは、鋼中のNをAlNとして固定し、母材の靭性向上に寄与する。前記効果を得るために、Al含有量を0.005%以上とする。Al含有量は、0.010%以上とすることが好ましい。一方、Al含有量が0.10%を超えると、母材の靭性が低下する。そのため、Al含有量は0.10%以下とする。Al含有量は0.07%以下とすることが好ましい。
0032
N:0.0015〜0.0065%
Nは、AlやTiと結合して炭窒化物を析出形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制して母材靱性を向上させる。その効果を得るために、N含有量は0.0015%以上とする。N含有量は、0.0030%以上とすることが好ましい。一方、N含有量が0.0065%を超えると、固溶N量の増加により、母材および溶接部靭性が著しく低下する。そのため、N含有量は0.0065%以下とする。N含有量は0.0060%以下とすることが好ましい。
0033
本発明の一実施形態において、超低降伏比高張力厚鋼板は、上記の元素と、残部のFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するものとすることができる。
0034
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成が、任意に、Ti、Cu、Ni、Cr、Mo、B、Nb、およびVからなる群より選択される1または2以上をさらに含有することができる。
0035
Ti:0.004〜0.030%
Tiは、Nとの親和力が強く、凝固時にTiNとして析出する。高温でも安定なTiNのピンニング効果により、溶接熱影響部でのオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することで、溶接熱影響部の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Tiを添加する場合、Ti含有量を0.004%以上とする。Ti含有量は0.006%以上とすることが好ましい。一方、Ti含有量が0.030%を超えると、TiN粒子が粗大化し、オーステナイト粒の粗大化抑制効果が飽和する。そのため、Ti含有量は0.030%以下とする。Ti含有量は0.025%以下とすることが好ましい。
0036
Cu:1.0%以下
Cuは、高靭性を保ちつつ強度を増加させることが可能な元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Cu含有量が1.0%を超えると熱間脆性を生じて鋼板の表面性状が劣化する。そのため、Cuを含有する場合、Cu含有量は1.0%以下とする。Cu含有量は0.7%以下とすることが好ましい。一方、Cu含有量の下限は特に限定されないが、前記効果を十分に得るためには、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすることがより好ましく、0.20%以上とすることがさらに好ましい。
0037
Ni:3.0%以下
Niは、Cuと同様、高靭性を保ちつつ強度を増加させることが可能な元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Ni含有量が3.0%を超えると、添加効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利になる。そのため、Niを含有する場合、Ni含有量を3.0%以下とする。Ni含有量は1.7%以下とすることが好ましい。一方、Ni含有量の下限は特に限定されないが、前記効果を十分に得るためには、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすることがより好ましく、0.20%以上とすることがさらに好ましい。
0038
Cr:2.0%以下
Crは、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Cr含有量が2.0%を超えると靭性が劣化するため、Crを含有する場合、Cr含有量を2.0%以下とする。一方、Cr含有量の下限は特に限定されないが、Crによる強度向上効果を十分に得るという観点からは、Cr含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
0039
Mo:1.0%以下
Moは、Crと同様、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Mo含有量が1.0%を超えると靭性が劣化するため、Moを含有する場合、Mo含有量を1.0%以下とする。一方、Mo含有量の下限は特に限定されないが、Moによる強度向上効果を十分に得るという観点からは、Mo含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
0040
B:0.0050%以下
Bは、焼入れ性を向上させることにより、鋼の強度を向上させる作用を有する元素である。しかしB含有量が0.0050%を超えると、焼入れ性が過度に高くなり、母材の靭性および延性が低下する。そのため、Bを含有する場合、B含有量を0.0050%以下とする。B含有量は0.0020%以下とすることが好ましい。一方、B含有量の下限は特に限定されないが、Bの添加効果を十分に得るという観点からは、B含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
0041
Nb:0.1%以下
Nbは、Cr、Moと同様、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、Nb含有量が0.1%を超えると母材靭性が劣化するため、Nbを含有する場合、Nb含有量を0.1%以下とする。一方、Nb含有量の下限は特に限定されないが、Nbによる強度向上効果を十分に得るという観点からは、Nb含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
0042
V:0.2%以下
Vは、Cr、Mo、Nbと同様、鋼の強度向上に寄与する元素であり、所望する強度に応じて任意に含有できる。しかし、V含有量が0.2%を超えると靭性が劣化するため、Vを含有する場合、V含有量を0.2%以下とする。一方、V含有量の下限は特に限定されないが、Vによる強度向上効果を十分に得るという観点からは、V含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
0043
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成が、任意に、Ca、REM、およびMgからなる群より選択される1または2以上をさらに含有することができる。
0044
Ca:0.005%以下
Caは、結晶粒を微細化することによって靭性を向上させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に含有できる。しかし、Ca含有量が0.005%を超えると、添加効果が飽和するため、Caを含有する場合、Ca含有量を0.005%以下とする。一方、Ca含有量の下限は特に限定されないが、Caによる靭性向上効果を十分に得るという観点からは、Ca含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
0045
REM:0.02%以下
REM(希土類金属)は、Caと同様に靭性向上効果を有しており、所望する特性に応じて任意に含有できる。しかし、REM含有量が0.02%を超えると、添加効果が飽和するため、REMを含有する場合、REM含有量を0.02%以下とする。一方、REM含有量の下限は特に限定されないが、REMによる靭性向上効果を十分に得るという観点からは、REM含有量を0.002%以上とすることが好ましい。
0046
Mg:0.005%以下
Mgは、Caと同様に結晶粒を微細化することによって靭性を向上させる効果を有する元素であり、所望する特性に応じて任意に含有できる。しかし、Mg含有量が0.005%を超えると、添加効果が飽和するため、Mgを含有する場合、Mg含有量を0.005%以下とする。一方、Mg含有量の下限は特に限定されないが、Mgによる靭性向上効果を十分に得るという観点からは、Mg含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
0047
[ミクロ組織]
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板は、下記(1)〜(7)の条件をすべて満たすミクロ組織を有する。
(1)島状マルテンサイトを含むベイナイト、マルテンサイト、およびセメンタイトを含む。
(2)セメンタイトは、ベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中に含まれている。
(3)ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率が70.0%以上、95.0%未満である。
(4)ベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径が50μm未満である。
(5)島状マルテンサイトの平均円相当径が5.0μm未満である。
(6)島状マルテンサイトの面積分率が2〜10%である。
(7)セメンタイトの平均円相当径が0.5μm未満である。
(8)セメンタイトの面積分率が0.5%超、5%以下である。
0048
以下、ミクロ組織を上記の範囲に限定する理由について説明する。なお、以下の説明における「面積分率」とは、特に断らない限り、ミクロ組織全体に対する面積分率を指すものとする。また、上記ミクロ組織は、鋼板の板厚1/4位置におけるミクロ組織を指すものとする。
0049
B+Mの合計面積分率:70.0%以上、95.0%未満
ベイナイト(B)とマルテンサイト(M)の合計面積分率が70.0%に満たないと、十分な強度を得ることができない。そのため、強度確保の観点から、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率を70.0%以上とする。一方、前記合計面積分率が95.0%以上ではフェライトなどの軟質相の割合が少なくなり、かつ島状マルテンサイトの面積分率も低下するため、超低降伏比の達成が困難となる。そのため、前記合計面積分率を95.0%未満とする。なお、本明細書においては、ミクロ組織の50.0%以上を占めるベイナイトおよびマルテンサイトを合わせて「母相」という場合がある。
0050
なお、本発明のミクロ組織においては、ベイナイトに島状マルテンサイトが内包されている。しかし、前記合計面積分率には前記島状マルテンサイトの面積分率は含めないものとする。同様に、本発明ではベイナイトおよびマルテンサイトの一方または両方の組織中にはセメンタイトが内包されているが、前記合計面積分率には前記セメンタイトの面積分率は含めないものとする。ベイナイトとマルテンサイトの合計面積分率は、実施例に記載の方法で測定することができる。
0051
ベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径:50μm未満
所望の強度と靭性を得るためには、上記ミクロ組織におけるベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径を50μm未満とする必要がある。そのため、ベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径を50μm未満、好ましくは30μm以下とする。一方、前記平均円相当径は、小さければ小さいほどよいため、下限はとくに限定されない。しかし、前記平均円相当径を過度に小さくしようとすると、熱処理に要する時間が増加し、生産性が低下する。そのため、生産性という観点からは、前記平均円相当径を、例えば、20μm以上とすることが好ましい。
0052
ベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径は、試料としての鋼板にピクリン酸腐食を施した後、光学顕微鏡を用いて倍率200倍で観察を行い、撮影した画像を、画像解析装置を用いて解析することにより求めることができる。
0053
(島状マルテンサイト)
MAの面積分率:2〜10%
島状マルテンサイト(MA)の面積分率が2%未満では、前記のような高強度化と超低降伏比化の効果が得られない。そのため、MAの面積分率を2%以上とする。MAの面積分率は4%以上とすることが好ましい。一方、MAの面積分率が10%を超えると、母材の延性および靭性が劣化する。そのため、MAの面積分率は10%以下とする。MAの面積分率は8%以下とすることが好ましい。
0054
MAの平均円相当径:5.0μm未満
MAの平均円相当径が5.0μm以上であると溶接部の靭性が劣化する。そのため、MAの平均円相当径を5.0μm未満とする。一方、MAの平均円相当径の下限は特に限定されないが、0.5μm以上とすることが好ましい。
0055
なお、MAの面積分率および平均円相当径は、試料としての鋼板にレペラ腐食(Journal of Metals, March, 1980, p.38-39)を施した後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率1000倍で観察を行い、撮影した画像を、画像解析装置を用いて解析することにより求めることができる。
0056
(セメンタイト)
セメンタイトの面積分率:0.5%超、5%以下
本発明では、靭性を確保するために、後述する自己焼戻し処理により母相としてのベイナイトおよびマルテンサイトの少なくとも一方の組織中にセメンタイトを析出させる。セメンタイトの面積分率が0.5%以下である場合、組織が自己焼戻しを受けていないか不十分であることを意味し、靭性を確保できない。そのため、セメンタイトの面積分率を0.5%超とする。一方、セメンタイトの面積分率が5%超である場合、組織が過度の焼戻しを受けたことを意味する。そのような場合、過度の焼戻しによってMAが分解し、稼働転位が減少しているため、所望の超低降伏比が得られない。そのため、セメンタイトの面積分率を5%以下とする。セメンタイトの面積分率は、3%以下とすることが好ましい。
0057
セメンタイトの平均円相当径:0.5μm未満
セメンタイトの平均円相当径が0.5μm以上であると、脆性破壊の起点となりやすく、母材靭性が低下する。そのため、セメンタイトの平均円相当径は0.5μm未満とする。
0058
なお、セメンタイトの面積分率および平均円相当径は、試料としての鋼板にナイタール(硝酸のエタノール溶液)による腐食を施した後、SEMを用いて倍率5000倍で観察を行い、撮影した画像を、画像解析装置を用いて解析することにより求めることができる。
0059
ベイナイト、マルテンサイト、MA、セメンタイトの面積分率が上記条件を満たしていれば、ミクロ組織がフェライトなど他の組織を含有することも許容される。フェライトが存在する場合、該フェライトの面積分率は30%以下とすることが好ましい。
0060
[板厚]
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板の板厚は特に限定されず、任意の厚さとすることができるが、6mm以上とすることが好ましく、12mm以上とすることが好ましい。一方、上限については、100mm以下とすることが好ましい。
0061
[機械的特性]
(降伏強さ)
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板の降伏強さ(YP)は、特に限定されず任意の値とすることができるが、500MPa以上とすることが好ましい。
0062
(引張強さ)
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板の引張強さ(TS)は、特に限定されず任意の値とすることができるが、980MPa超とすることが好ましい。
0063
(降伏比)
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板の降伏比(YR)は、特に限定されず任意の値とすることができるが、80%未満とすることが好ましい。なお、ここで降伏比とは、引張強さ(TS)に対する降伏強さ(YP)の比をパーセンテージで表した値、すなわち、YP/TS×100(%)を指すものとする。
0064
[製造方法]
次に、本発明の一実施形態における超低降伏比高張力厚鋼板の製造方法について説明する。なお、以下の説明においては、特に断らない限り、温度は板厚中央の温度を指すものとする。板厚中央の温度は、放射温度計で測定した鋼板表面温度から、伝熱計算により求めることができる。また、熱間圧延後の冷却条件における温度条件は、板厚1/4位置における温度とし、冷却速度も板厚1/4位置における温度に基づいて算出された平均冷却速度を意味する。
0065
本発明の超低降伏比高張力厚鋼板は、以下の各工程を順次行うことによって製造することができる。
(1)上述した成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする(熱間圧延工程)。
(2)前記熱間圧延後の前記厚鋼板を900℃以上、1000℃以下の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持し、400℃以下の冷却停止温度まで冷却する(第一再加熱工程)。
(3)前記第一再加熱工程後の前記厚鋼板をAc1点+80℃以上、Ac3点未満の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持する(第二再加熱工程)。
(4)前記第二再加熱工程後の厚鋼板を、板厚1/4位置における平均冷却速度:1〜200℃/sで、200℃以上、ベイナイト変態開始温度未満である加速冷却停止温度まで加速冷却し、次いで空冷する(冷却工程)。
0066
以下、各工程について具体的に説明する。
0067
(1)熱間圧延工程
上述した成分組成を有する鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする。前記鋼素材の製造方法は、とくに限定されないが、例えば、上記した組成を有する溶鋼を常法により溶製し、鋳造して製造することができる。前記溶製は、転炉、電気炉、誘導炉等、任意の方法により行うことができる。また、前記鋳造は、生産性の観点から連続鋳造法で行うことが好ましいが、造塊−分解圧延法により行うこともできる。前記鋼素材としては、例えば、鋼スラブを用いることができる。
0068
前記鋼素材は、圧延に先立って加熱される。前記加熱は、鋳造などの方法によって得た鋼素材を一旦冷却した後に行ってもよく、また、得られた鋼素材を冷却することなく直接、前記加熱に供することもできる。なお、本発明においては熱間圧延後の再加熱工程および冷却工程において厚鋼板のミクロ組織や特性を制御するため、前記加熱温度は特に限定されず、任意の温度とすることができる。しかし、前記加熱温度が900℃未満であると、鋼素材の変形抵抗が高いため、熱間圧延における圧延機への負荷が増大し、熱間圧延を行うことが困難となる場合がある。そのため、前記加熱温度は900℃以上とすることが好ましい。一方、前記加熱温度が1250℃より高いと、鋼の酸化が顕著となり、酸化によるロスが増大する結果、歩留まりが低下する。そのため、前記加熱温度は1250℃以下とすることが好ましい。
0069
上記加熱の後、加熱された鋼素材を熱間圧延して厚鋼板とする。厚鋼板の最終板厚は特に限定されないが、6mm以上とすることが好ましく、12mm以上とすることがより好ましく、また、100mm以下とすることが好ましい。
0070
熱間圧延が終了した後、後述するように再加熱が行われるが、熱間圧延と再加熱工程との間において、厚鋼板を冷却することもできる。該冷却を行う場合の条件は特に限定されないが、空冷、水冷など、任意の方法で冷却を行うことができる。前記水冷としては、水を用いた任意の冷却方法(例えば、スプレー冷却、ミスト冷却、ラミナー冷却など)を用いることができる。冷却温度は、特に限定されないが、例えば、常温(20℃など)以上、300℃以下とすることができる。
0071
前記熱間圧延工程後の厚鋼板を、再加熱、保持し、加速冷却する。再加熱処理により、熱延鋼板のベイナイトおよびマルテンサイト組織が部分的にオーステナイトへ逆変態するとともに、未変態のベイナイトおよびマルテンサイト組織が焼き戻される。引き続く加速冷却により逆変態したオーステナイトの一部がマルテンサイトとベイナイトに変態する。次いで該加速冷却を200℃以上、ベイナイト変態開始温度(Bs点)未満の温度で停止し、空冷することにより、未変態のオーステナイトを島状マルテンサイトにするとともに加速冷却で新しく生成したベイナイトとマルテンサイトを焼戻すことができる。
0072
(2)第一再加熱工程
前記熱間圧延工程で得られた前記厚鋼板を、900℃以上、1000℃以下の再加熱温度まで再加熱し、前記再加熱温度に10分以上の保持時間の間保持し、次いで、400℃以下の冷却停止温度まで冷却する。前記第一再加熱工程を行うことにより、オーステナイト粒径が小さくなり、最終的に得られる超低降伏比高張力厚鋼板におけるベイナイトとマルテンサイトの平均粒径を所望のサイズにすることができる。そしてその結果、超低降伏比高張力厚鋼板の強度と靭性を向上させることができる。
0073
再加熱温度:900〜1000℃
焼入れ性を確保し、粗大な上部ベイナイトおよびフェライトの生成を防止するために、上記第一再加熱工程における再加熱温度を900℃以上とする。また、最終的に得られる超低降伏比高張力厚鋼板におけるベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径を50μm未満とするために、前記再加熱温度を1000℃以下とする。前記再加熱温度が1000℃超の場合、オーステナイト粒径が粗大化するため、ベイナイトとマルテンサイトの平均粒径も粗大化し、所望のサイズとすることができない。
0074
保持時間:10分以上
厚鋼板を前記再加熱温度まで加熱した後、該再加熱温度に保持する。前記保持における保持時間は、オーステナイト粒径のバラツキを小さくするために、10分以上とする。一方、前記保持時間の上限はとくに限定されないが、過度に長くしても効果が飽和するため、生産性を考慮すると、100分以下とすることが好ましく、60分以下とすることがより好ましい。
0075
上記第一再加熱工程においては、再加熱温度と保持時間を上記の通り制御することできるものであれば、任意の加熱方法を用いることが用いることができる。使用できる加熱方法の一例としては、炉加熱が挙げられる。前記炉加熱には、特に限定されることなく、一般的な熱処理炉を用いることができる。
0076
冷却停止温度:400℃以下
上記第一再加熱工程においては、前記保持の後、前記厚鋼板を冷却する。前記冷却における冷却停止温度は、400℃以下とする。上述した再加熱温度への加熱によって生成したオーステナイトを、400℃以下まで冷却することによって低温変態相とし、高強度、低降伏比を実現することができる。前記冷却停止温度は、300℃以下とすることが好ましく、室温とすることがより好ましい。
0077
前記冷却を行う方法はとくに限定されず、例えば、空冷、水冷など、任意の方法で行うことができる。前記水冷としては、水を用いた任意の冷却方法(例えば、スプレー冷却、ミスト冷却、ラミナー冷却など)を用いることができる。
0078
(3)第二再加熱工程
再加熱温度:Ac1点+80℃以上、Ac3点未満
前記第一再加熱後の厚鋼板を、Ac1点+80℃以上、Ac3点未満の再加熱温度に加熱することで、熱延鋼板の組織の大部分をベイナイト、およびマルテンサイトから逆変態したオーステナイトの混合組織とする。前記再加熱温度がAc1点+80℃未満では、逆変態オーステナイトの量が少なくなり、最終的に得られる厚鋼板において所望のマルテンサイトとベイナイト量が得られない。また、前記再加熱温度がAc3点以上では、ベイナイトおよびマルテンサイトがすべて逆変態してオーステナイトになるため、やはり最終的に得られる厚鋼板において所望のマルテンサイトとベイナイト量が得られない。
0079
なお、Ac1点およびAc3点は下記(1)式および(2)式により求めることができる。
Ac1(℃)=750.8 - 26.6C + 17.6Si - 11.6Mn - 22.9Cu - 23Ni + 24.1Cr + 22.5Mo- 39.7V - 5.7Ti + 232.4Nb - 169.4Al - 894.7B …(1)
Ac3(℃)=937.2 - 436.5C + 56Si - 19.7Mn - 16.3Cu - 26.6Ni - 4.9Cr + 38.1Mo+ 124.8V + 136.3Ti - 19.1Nb + 198.4Al + 3315B …(2)
ただし、上記(1)、(2)式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、当該元素が含有されていない場合は0とする。
0080
保持時間:10分以上
前記再加熱温度に保持する保持時間は10分以上とする。保持時間が10分未満では、オーステナイト粒径のバラツキが大きくなるからである。一方、前記保持時間の上限は特に限定されないが、過度に長い時間保持を行うと生産性が低下するため、180分以下とすることが好ましい。
0081
前記再加熱には、再加熱温度と保持時間を上記の通り制御することできるものであれば、任意の加熱方法を用いることができる。加熱方法の一例としては、炉加熱が挙げられる。前記炉加熱には、特に限定されることなく、一般的な熱処理炉を用いることができる。
0082
(4)冷却工程
平均冷却速度:1〜200℃/s
前記再加熱工程の後、板厚1/4位置における平均冷却速度:1〜200℃/sにて加速冷却する。上記加速冷却工程における平均冷却速度が1℃/s未満であると、所望の焼入組織、すなわちベイナイトおよびマルテンサイトが得られず強度が低下する。そのため、前記平均冷却速度は1℃/s以上とする。一方、平均冷却速度が200℃/sより高いと、鋼板内の各位置における温度制御が困難となり、板幅方向や圧延方向に材質のばらつきが出やすくなり、その結果、引張特性などの材質上のばらつきが生じる。そのため、平均冷却速度を200℃/s以下とする。
0083
前記加速冷却の方法は特に限定されないが、空冷、水冷など、任意の方法で冷却を行うことができる。前記水冷としては、水を用いた任意の冷却方法(例えば、スプレー冷却、ミスト冷却、ラミナー冷却など)を用いることができる。
0084
加速冷却停止温度:200℃以上、Bs点未満
200℃以上、Bs点未満の温度で加速冷却を停止して空冷することで、未変態のオーステナイトを島状マルテンサイトに変態させ、ベイナイトおよびマルテンサイトを自己焼き戻しさせる。加速冷却停止温度がBs点以上では、粗大な上部ベイナイトが主体の組織となる。また、焼戻し過剰によりセメンタイトが過剰に生成したり、島状マルテンサイトが生成しても大部分が分解したりしてしまうため、所望の強度・靱性・超低降伏比が得られない。一方、加速冷却停止温度が200℃未満では、ベイナイトおよびマルテンサイトに自己焼戻しが生じず、所望の靭性が得られない。なお、Bs点は下記(3)式により求めることができる。
Bs(℃)=830-270C-90Mn-37Ni-70Cr-83Mo …(3)
ただし、上記(3)式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表し、当該元素が含有されていない場合は0とする。
0085
加速冷却停止後の温度域における冷却条件は厚鋼板の組織等に実質的な影響を与えない。そのため、上記加速冷却停止後の空冷は、特に限定されることなく任意の条件で行うことができるが、一般的には、冷却速度:1℃/s未満で空冷を行うことが好ましい。
0086
(実施例1)
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によって鋼素材としての鋼スラブ(厚さ:250mm)とした。なお、上述した(1)式よって求めたAc1変態点(℃)、(2)式によって求めたAc3変態点(℃)、および(3)式によって求めたBs点を表1に併記する。
0087
前記鋼スラブを1150℃に加熱した後、熱間圧延して厚鋼板とした。前記熱間圧延における圧延終了温度と最終板厚を表2に示す。
0088
次いで、熱間圧延後の厚鋼板を、表2に示した方法で200℃まで冷却した。
0089
次いで、前記厚鋼板に対して、表2に示した条件で第一再加熱、第二再加熱、および加速冷却を施し、加速冷却停止後は空冷した。前記第一再加熱および第二再加熱には熱処理炉を用いた。また、前記空冷における冷却速度は、板厚や加速冷却停止温度にもよるが、0.5〜0.01℃/sであった。
0090
上記のようにして得た厚鋼板のそれぞれについて、ミクロ組織、機械的特性を評価した。前記評価は、以下に述べる方法で行った。
0091
(ミクロ組織)
前記厚鋼板から、板厚1/4位置が観察位置となるように、組織観察用の試験片を採取した。前記試験片を、圧延方向と垂直な断面が観察面となるよう樹脂に埋め、鏡面研磨した。次いで、レペラ腐食を実施した後、倍率1000倍の走査電子顕微鏡で観察して組織の画像を撮影し、島状マルテンサイト組織を同定した。撮影された5視野分の画像を画像解析装置によって解析し、島状マルテンサイト組織の面積分率、平均円相当径を求めた。
0092
次いで、島状マルテンサイト組織観察後の樹脂埋め込み試料を再度鏡面研磨し、ナイタール腐食を実施した後、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡で観察して組織の画像を撮影した。撮影された10視野分の画像を画像解析装置によって解析し、セメンタイト組織の面積分率、平均円相当径を求めた。
0093
次いで、走査型電子顕微鏡の倍率を200倍に変更して組織の画像を撮影した。撮影された5視野分の画像を画像解析装置によって解析し、ベイナイトおよびマルテンサイト、フェライト組織の面積分率を求めた。
0094
ベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径は、以下の手順で測定した。まず、他のミクロ組織観察に用いた試験片を再度鏡面研磨し、次いでピクリン酸腐食を施した後、光学顕微鏡を用いて倍率200倍で観察して組織の画像を撮影した。撮影された5視野分の画像を画像解析装置によって解析し、ベイナイトとマルテンサイトの平均円相当径を求めた。
0095
(機械的特性)
前記厚鋼板の板厚中央(板厚1/2位置)から、JIS4号引張試験片を採取した。前記引張試験片を用い、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施して、厚鋼板の降伏強さ(YP)、引張強さ(TS)、降伏比(YR)を評価した。
0096
また、前記厚鋼板の板厚中央(板厚1/2位置)から、JIS Z 2202の規定に準拠してVノッチ試験片を採取した。前記Vノッチ試験片を用い、JIS Z 2242の規定に準拠して0℃におけるシャルピー衝撃試験を実施し、シャルピー吸収エネルギー(vE0)を求め、靭性を評価した。
0097
得られた評価結果を、表3に示す。なお、引張り強さ(TS)が980MPa超、降伏強さ(YP)が500MPa以上、降伏比(YR)が80%未満、0℃における吸収エネルギー(vE0)が100J以上を合格値とした。
0098
以上の結果から分かるように、本発明の条件を満たす厚鋼板は、いずれも、引張強さ:980MPa超、降伏強さ:500MPa以上、降伏比:80%未満、0℃での吸収エネルギーvE0:100J以上であり、高強度、超低降伏比であるとともに、靭性にも優れていた。一方、本発明の条件を満たさない厚鋼板は、強度、降伏比、および靭性のうち、少なくとも1つの特性が劣っていた。
0099
0100
実施例
0101