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課題
解決手段
概要
背景
携帯電話のカメラレンズ部には、オートフォーカスカメラモジュールと呼ばれる電子機器部品が使用される。携帯電話のカメラのオートフォーカス機能は、オートフォーカスカメラモジュールに使用される材料のばね力により、レンズを一定方向に動かすとともに、周囲に巻かれたコイルに電流を流すことで発生する電磁力により、レンズを材料のばね力が働く方向とは反対方向へ動かす。このような機構でカメラレンズが駆動してオートフォーカス機能が発揮される(例えば、特許文献1、2)。
したがって、オートフォーカスカメラモジュールのばね材に使用される銅合金箔には、電磁力による材料変形に耐えるほどのばね強度が必要になる。ばね強度が低いと、電磁力による変位に材料が耐えることができず、永久変形(へたり)が発生し電磁力を除荷したあと初期の位置に戻らない。へたりが生じると、一定の電流を流したとき、レンズが所望の位置に移動できずオートフォーカス機能が発揮されない。
オートフォーカスカメラモジュールには、箔厚0.1mm以下で、1100MPa以上の引張強さまたは0.2%耐力を有するCu−Ni−Sn系銅合金箔が使用されてきた。しかし、近年のコストダウン要求により、Cu−Ni−Sn系銅合金箔より比較的材料価格が安いチタン銅箔が使用されるようになり、その需要は増加しつつある。
一方で、チタン銅箔の強度はCu−Ni−Sn系銅合金箔より低く、へたりが生じる問題があるため、その高強度化が望まれている。
チタン銅の強度を高める手段としては、たとえば特許文献3、4に記載されたものがある。特許文献3には、チタン銅の製造工程を溶体化処理、亜時効処理、冷間圧延、時効処理とし、溶体化処理後の熱処理を二段階に分けることにより、スピノーダル分解によるTi濃度の幅(濃淡)を大きくさせ、強度と曲げ加工性のバランスを向上させる方法が記載されている。また、特許文献4ではチタン銅の製造工程を溶体化処理、予備時効処理、時効処理、仕上圧延、歪取焼鈍とすることで、同様にTi濃度のゆらぎを大きくすることが有効と記載されている。
その他、チタン銅の強度を更に改善する技術としては、特許文献5〜8に記載されたもの等がある。特許文献5では最終再結晶焼鈍にて平均結晶粒径を調整し、その後、冷間圧延、時効処理を順次行う方法が記載されている。特許文献6では固溶化処理後に、冷間圧延、時効処理、冷間圧延を順次行う方法が記載されている。特許文献7では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、750〜1000℃の温度域で5秒〜5分間保持する溶体化処理を行い、次いで、圧延率0〜50%の冷間圧延、300〜550℃の時効処理、及び圧延率0〜30%の仕上げ冷間圧延を順次行うことにより板面における{420}結晶面のX線回折強度を調整する方法が記載されている。特許文献8では、第一溶体化処理、中間圧延、最終の溶体化処理、焼鈍、最終の冷間圧延、及び時効処理を所定の条件で順次行うことにより圧延面における{220}結晶面のX線回折強度の半価幅を調整する方法が記載されている。
また、組織制御に着目した技術として、特許文献9では、Tiを0.5mass%以上3.5mass%以下の範囲内で含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有するチタン銅において冷間または温間で圧延率90%超えの仕上げ圧延、時効処理を行うことにより、時効処理後にラメラー状組織が形成され、強度と導電率のバランスを向上させる方法が記載されている。
さらに、強度を高くすることに加え、へたりの発生を抑制するため、特許文献10では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、溶体化処理、圧下率55%以上の冷間圧延、200〜450℃の時効処理、圧下率35%以上の冷間圧延を順次に行い、銅合金箔の表面粗さを制御することが記載されている。また、特許文献11では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、溶体化処理、圧下率55%以上の冷間圧延、200〜450℃の時効処理、圧下率50%以上の冷間圧延、必要に応じて歪取り焼鈍を順次に行い、溶体化処理後の冷間圧延の圧下率を制御することで、I(220)/I(311)を制御することが記載されている。特許文献10及び特許文献11に記載のチタン銅箔においては、圧延方向に平行な方向での0.2%耐力について1100MPa以上が達成可能であると記載されている。
また、特許文献12では、800〜1000℃で厚み5〜20mmまで熱間圧延した後、加工度30〜99%の冷間圧延を行い、400〜500℃の平均昇温速度を1〜50℃/秒として500〜650℃の温度帯に5〜80秒間保持することにより軟化度0.25〜0.75の予備焼鈍を施し、圧下率7〜50%の冷間圧延を行い、次いで、700〜900℃で5〜300秒間の溶体化処理、及び、350〜550℃で2〜20時間の時効処理を行うことにより、ヤング率を小さくすることが記載されている。
更に、特許文献13では、熱間圧延、冷間圧延を行った後、700〜1000℃で5秒間〜30分間の溶体化処理、圧下率95%以上の冷間圧延を順次行い、その後、15℃/h以下の速度で昇温し、200〜400℃の範囲で1〜20時間保持し、150℃まで15℃/h以下の速度で冷却する時効処理を行うことでへたりを改善する方法が記載されている。特許文献13に記載のチタン銅箔には、圧延方向に平行な方向及び直角方向での0.2%耐力が共に1200MPa以上であり、且つ、圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値について共に800MPa以上が達成可能であると記載されている。
概要
ばねとして用いた際の所要の高い強度を有するとともに、エッチング性が良好であり、へたりが小さく、オートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に用いることのできるチタン銅箔を提供する。本発明のチタン銅箔は、Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な断面をSTEM−EDXで厚み方向に沿って分析して得られるTi濃度曲線において、Ti濃度がTi濃度曲線におけるTi濃度の平均値未満である低濃度Ti層と、Ti濃度がTi濃度曲線におけるTi濃度の平均値以上である高濃度Ti層とが、厚み方向に交互に存在し、明細書中で定義されるHH及びHLについて、1.0質量%≦HH≦30質量%かつHH/HL≧1.1を満たす。
目的
一方で、チタン銅箔の強度はCu−Ni−Sn系銅合金箔より低く、へたりが生じる問題があるため、その高強度化が望まれている
効果
実績
- 技術文献被引用数
- 0件
- 牽制数
- 0件
この技術が所属する分野
(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
請求項1
Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な断面をSTEM−EDXで厚み方向に沿って分析して得られるTi濃度曲線において、Ti濃度がTi濃度曲線におけるTi濃度の平均値未満である低濃度Ti層と、Ti濃度がTi濃度曲線におけるTi濃度の平均値以上である高濃度Ti層とが、厚み方向に交互に存在し、明細書中で定義されるHH及びHLについて、1.0質量%≦HH≦30質量%かつHH/HL≧1.1を満たすチタン銅箔。
請求項2
請求項3
圧延方向に平行な方向の引張強さが1100MPa以上である請求項1又は2に記載のチタン銅箔。
請求項4
請求項5
請求項1〜4の何れか一項に記載のチタン銅箔を備えた伸銅品。
請求項6
請求項1〜4の何れか一項に記載のチタン銅箔を備えた電子機器部品。
請求項7
オートフォーカスカメラモジュールである請求項6に記載の電子機器部品。
請求項8
技術分野
0001
本発明は、チタン銅箔、伸銅品、電子機器部品及びオートフォーカスカメラモジュールに関し、特にオートフォーカスカメラモジュール等の導電性ばね材として好適に用いることができるチタン銅箔、伸銅品、電子機器部品及びオートフォーカスカメラモジュールに関するものである。
背景技術
0002
携帯電話のカメラレンズ部には、オートフォーカスカメラモジュールと呼ばれる電子機器部品が使用される。携帯電話のカメラのオートフォーカス機能は、オートフォーカスカメラモジュールに使用される材料のばね力により、レンズを一定方向に動かすとともに、周囲に巻かれたコイルに電流を流すことで発生する電磁力により、レンズを材料のばね力が働く方向とは反対方向へ動かす。このような機構でカメラレンズが駆動してオートフォーカス機能が発揮される(例えば、特許文献1、2)。
0003
したがって、オートフォーカスカメラモジュールのばね材に使用される銅合金箔には、電磁力による材料変形に耐えるほどのばね強度が必要になる。ばね強度が低いと、電磁力による変位に材料が耐えることができず、永久変形(へたり)が発生し電磁力を除荷したあと初期の位置に戻らない。へたりが生じると、一定の電流を流したとき、レンズが所望の位置に移動できずオートフォーカス機能が発揮されない。
0004
オートフォーカスカメラモジュールには、箔厚0.1mm以下で、1100MPa以上の引張強さまたは0.2%耐力を有するCu−Ni−Sn系銅合金箔が使用されてきた。しかし、近年のコストダウン要求により、Cu−Ni−Sn系銅合金箔より比較的材料価格が安いチタン銅箔が使用されるようになり、その需要は増加しつつある。
0005
一方で、チタン銅箔の強度はCu−Ni−Sn系銅合金箔より低く、へたりが生じる問題があるため、その高強度化が望まれている。
0006
チタン銅の強度を高める手段としては、たとえば特許文献3、4に記載されたものがある。特許文献3には、チタン銅の製造工程を溶体化処理、亜時効処理、冷間圧延、時効処理とし、溶体化処理後の熱処理を二段階に分けることにより、スピノーダル分解によるTi濃度の幅(濃淡)を大きくさせ、強度と曲げ加工性のバランスを向上させる方法が記載されている。また、特許文献4ではチタン銅の製造工程を溶体化処理、予備時効処理、時効処理、仕上圧延、歪取焼鈍とすることで、同様にTi濃度のゆらぎを大きくすることが有効と記載されている。
0007
その他、チタン銅の強度を更に改善する技術としては、特許文献5〜8に記載されたもの等がある。特許文献5では最終再結晶焼鈍にて平均結晶粒径を調整し、その後、冷間圧延、時効処理を順次行う方法が記載されている。特許文献6では固溶化処理後に、冷間圧延、時効処理、冷間圧延を順次行う方法が記載されている。特許文献7では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、750〜1000℃の温度域で5秒〜5分間保持する溶体化処理を行い、次いで、圧延率0〜50%の冷間圧延、300〜550℃の時効処理、及び圧延率0〜30%の仕上げ冷間圧延を順次行うことにより板面における{420}結晶面のX線回折強度を調整する方法が記載されている。特許文献8では、第一溶体化処理、中間圧延、最終の溶体化処理、焼鈍、最終の冷間圧延、及び時効処理を所定の条件で順次行うことにより圧延面における{220}結晶面のX線回折強度の半価幅を調整する方法が記載されている。
0008
また、組織制御に着目した技術として、特許文献9では、Tiを0.5mass%以上3.5mass%以下の範囲内で含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有するチタン銅において冷間または温間で圧延率90%超えの仕上げ圧延、時効処理を行うことにより、時効処理後にラメラー状組織が形成され、強度と導電率のバランスを向上させる方法が記載されている。
0009
さらに、強度を高くすることに加え、へたりの発生を抑制するため、特許文献10では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、溶体化処理、圧下率55%以上の冷間圧延、200〜450℃の時効処理、圧下率35%以上の冷間圧延を順次に行い、銅合金箔の表面粗さを制御することが記載されている。また、特許文献11では、熱間圧延及び冷間圧延を行った後、溶体化処理、圧下率55%以上の冷間圧延、200〜450℃の時効処理、圧下率50%以上の冷間圧延、必要に応じて歪取り焼鈍を順次に行い、溶体化処理後の冷間圧延の圧下率を制御することで、I(220)/I(311)を制御することが記載されている。特許文献10及び特許文献11に記載のチタン銅箔においては、圧延方向に平行な方向での0.2%耐力について1100MPa以上が達成可能であると記載されている。
0010
また、特許文献12では、800〜1000℃で厚み5〜20mmまで熱間圧延した後、加工度30〜99%の冷間圧延を行い、400〜500℃の平均昇温速度を1〜50℃/秒として500〜650℃の温度帯に5〜80秒間保持することにより軟化度0.25〜0.75の予備焼鈍を施し、圧下率7〜50%の冷間圧延を行い、次いで、700〜900℃で5〜300秒間の溶体化処理、及び、350〜550℃で2〜20時間の時効処理を行うことにより、ヤング率を小さくすることが記載されている。
0011
更に、特許文献13では、熱間圧延、冷間圧延を行った後、700〜1000℃で5秒間〜30分間の溶体化処理、圧下率95%以上の冷間圧延を順次行い、その後、15℃/h以下の速度で昇温し、200〜400℃の範囲で1〜20時間保持し、150℃まで15℃/h以下の速度で冷却する時効処理を行うことでへたりを改善する方法が記載されている。特許文献13に記載のチタン銅箔には、圧延方向に平行な方向及び直角方向での0.2%耐力が共に1200MPa以上であり、且つ、圧延方向に平行な方向及び直角な方向でのばね限界値について共に800MPa以上が達成可能であると記載されている。
先行技術
0012
特開2004−280031号公報
特開2009−115895号公報
特開2015−098622号公報
特開2015−127438号公報
特開2002−356726号公報
特開2004−091871号公報
特開2010−126777号公報
特開2011−208243号公報
特開2014−173145号公報
特開2014−037613号公報
特開2014−080670号公報
特開2014−074193号公報
特開2016−050341号公報
発明が解決しようとする課題
0013
しかし、特許文献3、4では、チタン銅の強度及び曲げ加工性の向上を主たる目的としており、へたりの問題については着目されていない。
0014
特許文献5〜8の明細書中に記載された実施例及び比較例の中には、1100MPa以上の0.2%耐力をもつチタン銅も幾つか見受けられる。しかしながら、特許文献5〜8で提案された従来技術では、材料に荷重を加え変形させたのち荷重を除去すると、へたりが生じるため、単に高強度であるだけではオートフォーカスカメラモジュール等の導電性ばね材として使用できないことが分かった。
0015
また、特許文献9では、ラメラー組織によって強度が増加するとの記載があるが、より高い強度が必要とされるオートフォーカスカメラモジュール等の用途では材料が破断してしまうため、ばね材として機能しなくなるという問題がある。したがって、強度とへたりの抑制の両立の観点からは不適切である。
0016
特許文献10〜12では、へたりの発生を抑制する方法を記載している。しかしながら、箔厚が比較的薄いものについては、特許文献10〜12の提案技術では、その効果が所期するほどには発揮されないことが分かった。すなわち、特許文献10〜12の提案技術では、箔厚がある程度厚いものには大きな効果が発揮されるものの、箔厚が薄いものには、箔厚が厚いものから予測されるほどの十分な効果が発揮されないことが分かった。
0017
特許文献13では、強度が高く、へたりが小さいチタン銅箔に関する記載があるが、エッチング性には着目していない。
0018
更に、近年はイメージセンサの高画素化など、カメラの高機能化に伴ってレンズの枚数が増加傾向にあるため、カメラモジュールが落下した際、材料に塑性変形を与えるような強い力が加わる。したがって、従来以上にへたりが生じにくいことが求められている。また、オートフォーカスモジュールに使用する際には、エッチング加工によってばね材が形成されるため、上記に加えてエッチング性(エッチング時の回路直線性)も重要な特性の一つとなる。
0019
以上の背景より、近年のカメラモジュールにおいては、へたりが生じないことが重要であり、それに加えて良好なエッチング性(エッチングにおける回路直線性)が要求されることから、上記のチタン銅箔は改善の余地がある。
0020
本発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、一実施形態において、ばねとして用いた際の所要の高い強度を有し、エッチング性が良好であると共に、へたりが小さい、チタン銅箔を提供することを目的とする。また、本発明は更に別の一実施形態において、そのようなチタン銅箔を備えた伸銅品を提供することを目的とする。また、本発明は更に別の一実施形態において、そのようなチタン銅箔を備えた電子機器部品を提供することを目的とする。また、本発明は更に別の一実施形態において、そのようなチタン銅箔を備えたオートフォーカスカメラモジュールを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0021
本発明者は、へたりに及ぼす金属組織の影響を調査した結果、金属組織における所定の微細な層状組織がへたりの抑制だけでなく、エッチング性及び低サイクル疲労特性の改善に有効であることを見出した。また、このようなCuとTiの微細な層状組織は、鋳造時の凝固速度の調整と熱間圧延後の温間圧延により得られることを見出した。
0022
このような知見の下、本発明は一側面において、Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な断面をSTEM−EDXで厚み方向に沿って分析して得られるTi濃度曲線において、Ti濃度がTi濃度曲線におけるTi濃度の平均値未満である低濃度Ti層と、Ti濃度がTi濃度曲線におけるTi濃度の平均値以上である高濃度Ti層とが、厚み方向に交互に存在し、明細書中で定義されるHH及びHLについて、1.0質量%≦HH≦30質量%かつHH/HL≧1.1を満たすチタン銅箔である。
0024
本発明に係るチタン銅箔の一実施形態においては、圧延方向に平行な方向の引張強さが1100MPa以上である。
0026
また、本発明の別の一側面においては、上記の何れかのチタン銅箔を備えた伸銅品である。
0027
また、本発明の別の一側面においては、上記の何れかのチタン銅箔を備えた電子機器部品である。
0028
本発明に係る電子機器部品の一実施形態においては、オートフォーカスカメラモジュールである。
0029
更に、本発明の別の一側面においては、レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備え、前記ばね部材が上記の何れかのチタン銅箔であるオートフォーカスカメラモジュールである。
発明の効果
0030
本発明によれば、エッチング性が良好であると共に、高強度かつへたりの小さいチタン銅箔を得ることができ、これは、オートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に用いることができる。
図面の簡単な説明
0031
本発明に係るチタン銅箔の一実施形態について、圧延方向に平行な断面に対してSTEM−EDX分析を行って得られるTiマッピング図である。
本発明に係るチタン銅箔の一実施形態について、圧延方向に平行な断面に対してSTEM−EDXによる線分析を行って得られる圧延方向に平行な断面の厚み方向のTi濃度曲線を示すグラフの模式図の一例である。
従来のチタン銅の圧延方向に平行な断面に対してSTEM−EDX分析を行って得られるTiマッピング図の一例である。
本発明に係るオートフォーカスカメラモジュールを示す断面図である。
図4のオートフォーカスカメラモジュールの分解斜視図である。
図4のオートフォーカスカメラモジュールの動作を示す断面図である。
へたり量を測定する方法を示す概略図である。
0032
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
0033
[1.チタン銅箔]
本発明に係るチタン銅箔の一実施形態は、Tiを1.5〜5.0質量%で含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、圧延方向に平行な断面をSTEM−EDXで厚み方向に沿って分析して得られるTi濃度曲線において、Ti濃度がTi濃度曲線におけるTi濃度の平均値未満である低濃度Ti層と、Ti濃度がTi濃度曲線におけるTi濃度の平均値以上である高濃度Ti層とが交互に存在し、下記に定義されるHH及びHLについて、1.0質量%≦HH≦30質量%かつHH/HL≧1.1を満たす。なお、本発明において、STEM−EDXとは、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDX)による分析をいう。
0034
(Ti濃度)
本発明に係るチタン銅箔の一実施形態では、Ti濃度を1.5〜5.0質量%とする。チタン銅箔は、溶体化処理によりCuマトリックス中へTiを固溶させ、時効処理により微細な析出物を合金中に分散させることにより、強度及び導電率を上昇させる。
0035
Ti濃度は、析出物が過不足なく析出されて、所望の強度を得るという観点から、1.5質量%以上であり、好ましくは2.5質量%以上であり、より好ましくは2.7質量%以上である。また、Ti濃度は、加工性が良好であるため、圧延の際に材料が割れにくいという観点から、5.0質量%以下であり、好ましくは4.5質量%以下であり、より好ましくは4.3質量%以下である。
0036
(その他の添加元素)
本発明に係るチタン銅箔は、一実施形態において、Ag、B、Co、Fe、Mg、Mn、Mo、Ni、P、Si、Cr及びZrのうち一種以上を総量で1.0質量%以下含有させることにより、強度を更に向上させることができる。但し、これらの元素の合計含有量は0、つまり、これら元素を含まなくてもよい。これらの元素の合計含有量の上限を1.0質量%とする理由については、1.0質量%を超えると、加工性が劣化し、圧延の際に材料が割れやすくなるからである。強度及び加工性のバランスを考慮すると、上記元素の一種以上を総量で0.005〜0.5質量%含有させることが好ましい。なお、本発明においては、上記添加元素を含有しなくても、所望の効果を有する。
0037
また、Agの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。Bの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Coの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。Feの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.25質量%以下である。Mgの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。Mnの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。Moの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.3質量%以下である。Niの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。Pの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。Siの好ましい添加量は0.1質量%以下であり、より好ましい添加量は0.05質量%以下である。Crの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.4質量%以下である。Zrの好ましい添加量は0.5質量%以下であり、より好ましい添加量は0.1質量%以下である。ただし、上記の添加量に限定されない。
0038
(引張強さ)
本発明に係るチタン銅箔の一実施形態では、圧延方向に平行な方向の引張強さが、たとえば1100MPa以上、さらには1200MPa以上を達成することができる。圧延方向に平行な方向での引張強さが1200MPa以上であることは、オートフォーカスカメラモジュールの導電性ばね材として利用する上で望ましい特性である。好ましい実施形態では、圧延方向に平行な方向及び垂直な方向の引張強さはともに1300MPa以上であり、さらに好ましい実施形態ではともに1400MPa以上である。
一方、引張強さの上限値について、本発明が目的とする強度の点では特に制限はないが、手間及びコストを考慮すると、圧延方向に平行な方向及び直角な方向の引張強さは一般には2000MPa以下であり、典型的には1800MPa以下である。
本発明においては、チタン銅箔の圧延方向に平行な方向での引張強さは、JIS Z2241:2011(金属材料引張試験方法)に準拠して測定する。
0039
(低サイクル疲労特性)
低サイクル疲労特性は屈曲試験による破断までの繰り返し回数(屈曲回数)で評価する。本発明に係るチタン銅箔の一実施形態では、屈曲試験での破断までの繰り返し回数が例えば500回、さらに1000回以上を達成することができる。屈曲試験での破断までの繰り返し回数が1000回以上であることはオートフォーカスモジュールの導電性ばね材として利用する上で好ましい特性である。屈曲回数は高ければ高いほど低サイクル疲労特性が良好であり、500回以上であることが好ましく、800回以上であることがより好ましく、1000回以上であることが更に好ましい。なお、低サイクル疲労特性は材料にたわみ(屈曲)を与えた際に破断しない性質を指すことから、必ずしも強度(引張強さや0.2%耐力)が高い材料が低サイクル疲労特性も良好とは限らない。
また、本発明において、屈曲回数の測定は、JIS P8115:2001に従うMIT試験で行う。
0040
(へたり)
へたりは、当該チタン銅箔を所定の大きさとなるように短冊試料を採取し、試料の長手方向の一方の端部を固定し、その固定端から距離Lの位置に、他方の端部の先端をナイフエッジに加工したポンチを押し当て、試料に距離dのたわみを与えた後、ポンチを初期の位置に戻すため除荷する(図7参照。)。上記ポンチを除荷した後、へたり量δを求める。へたり量は、低ければ低いほど耐へたり性が良好であり、0.3以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が更に好ましく、0.01未満がより更に好ましい。なお、試験条件は試料の厚みに応じて、上記Lとdは調整してもよい。
0041
(エッチング性)
エッチング性は、所定のエッチング溶液を用いて、当該チタン銅箔に対してエッチングを行い、所定の大きさの直線回路を形成し、この回路をSTEMで観察する。ここで、最大回路幅と最小回路幅の差が、小さければ小さいほどエッチング性が良好であり、10μm未満が好ましい。
0042
(層状組織)
本発明に係るチタン銅箔の一実施形態は、図1、2に例示するように、圧延方向に平行な断面に対して走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDX)による分析(STEM−EDX分析)を行った場合、圧延方向に平行な断面に、Ti濃度が平均濃度未満である低濃度Ti層と、Ti濃度が平均濃度以上である高濃度Ti層とが、厚み方向(図1では上下方向)に交互に存在する。換言すれば、本発明に係るチタン銅箔は一実施形態において、厚み方向にTi濃度が変化する。すなわち、本発明において、Cu及び高濃度Tiからなる層と、Cu及び低濃度Tiからなる層とが交互に存在する層状組織を有する。
このような層状組織が圧延方向に平行な断面に連続的に安定して存在することにより、たわみに対する抵抗が強化されて永久変形が生じ難くなり、仮に厚みが0.1mm以下の薄い銅箔であっても、へたりを有効に抑制することができると考えられるが、本発明はこのような理論に限定されるものではない。
この「層状組織」とは、低濃度Ti層と高濃度Ti層とが厚み方向に交互に存在する組織であり、それぞれの層が圧延方向に50nm以上連なるものとして定義される。すなわち、圧延方向においては、Ti濃度の変化が小さいといえる。一方、それぞれの層が圧延方向に対する層の長さが50nm未満であるものは斑点組織と定義される。すなわち、圧延方向においては、層状組織と比べTi濃度の変化が大きいといえる。
層状組織を調査する方法として下記に説明する。例えば、上記STEM−EDX分析をする場合、1視野(倍率1,000,000倍、観察視野:140nm×140nm)において、まず厚み方向にライン分析を行い、Ti濃度曲線を得る。続いて当該Ti濃度曲線のTi濃度の内の任意の1点において、厚み方向に垂直な方向(圧延方向)にライン分析を行い、そのTi濃度のばらつきが選択した測定値に対して±5%の範囲内となる、圧延方向の長さを求める。上記の長さ測定を異なる視野で3回行い、長さの平均値が50nm以上である場合には層状組織が存在すると言える。
0043
一方、従来のチタン銅箔は、図3に示すように、圧延方向に平行な断面に、Ti濃度の高い部分と低い部分とが不連続かつ斑点状に分布しており、かつ、厚み方向のTi濃度の複数のピーク値はほぼ均一である。この場合、厚みが薄いものでは、組織が不連続なため、たわみに対する抵抗がそれほど強くなく、弾性限度内での永久変形が生じやすくなるため、へたりが十分に抑制できないと考えられる。
0044
また、当該層状組織を表す指標としては、厚み方向の高濃度Ti層の高さ及び、低濃度Ti層に対する高濃度Ti層の高さの比を規定することができる。
この分析は、STEM−EDX分析により行う。STEM−EDXで圧延方向に平行な断面を厚み方向に線分析すると、Ti濃度の大小により、測定点毎のTi濃度が変化する。本発明においては、1視野(倍率1,000,000倍、観察視野:140nm×140nm)におけるTi濃度を測定し、図2に示すような厚み方向の距離に対するTi濃度曲線を得る。Ti濃度曲線における高濃度Ti層と低濃度Ti層は、JIS B0601に規定される表面性状についての輪郭曲線をTi濃度曲線に置き換えて準用する。すなわち、高濃度Ti層はTi濃度曲線をB(Ti濃度曲線における平均値)によって分断したときにX軸方向に隣り合う二つの交点に挟まれた曲線部分のうち、Ti濃度曲線の平均値又は当該平均値よりTi濃度が大きくなる上側の部分として定義する。また、低濃度Ti層はTi濃度曲線をB(Ti濃度曲線における平均値)によって分断したときにX軸方向に隣り合う二つの交点に挟まれた曲線部分のうち、Ti濃度曲線の平均値よりTi濃度が小さくなる下側の部分として定義する。
0045
(高濃度Ti層の高さ、低濃度Ti層の高さ)
先述したチタン銅箔を得るためには、前記Ti濃度曲線における高濃度Ti層の高さHHを一定以上にすることが重要である。上記の高さHHは、優れた低サイクル疲労特性が発現するという観点から、1.0質量%以上であり、2.0質量%以上とすることが好ましく、3.0質量%以上とすることがより好ましく、4.5質量%以上とすることが更に好ましい。上記の高さHHは、エッチング性を良好にするという観点から、30質量%以下とし、20質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることが更に好ましい。
以下に高濃度Ti層の高さHHと低濃度Ti層の高さHLを求める方法について明記する。図2に示す通り、厚み方向140nmにおいて、前記Ti濃度曲線におけるピークの濃度を高い方から順に5つ選択したA1、A2、A3、A4、A5とし、Ti濃度曲線のそれぞれの谷部における最小濃度を濃度の低い方から順に5つ選択したC1、C2、C3、C4、C5とし、前記Ti濃度曲線の平均Ti濃度をBとした時、高濃度Ti層の高さHHは以下の式(1)で定義され、低濃度Ti層の高さHLは以下の式(2)で定義される。
式(1) HH={(A1−B)+(A2−B)+(A3−B)+(A4−B)+(A5−B)}/5
式(2) HL={(B−C1)+(B−C2)+(B−C3)+(B−C4)+(B−C5)}/5
このようにして、各視野のHHとHLを求め、複数(少なくとも3以上)の異なる視野におけるHHとHLの平均値をHHとHLの測定値とする。
なお、CuとTiの層状組織は圧延方向と平行に発現されることから、上記の線分析は必ず、チタン銅箔の厚み方向に対して行う。
0046
(低濃度Ti層に対する高濃度Ti層の高さの比の定義)
低濃度Ti層に対する高濃度Ti層の高さの比は前記のHH、HLを用いることでHH/HLと定義される。
先述したチタン銅箔を得るためには、上記Ti濃度曲線において、HH/HLを適切に調整する必要がある。
HH/HLが小さいと、良好な低サイクル疲労特性が得られ難くなる。上述の低サイクル疲労特性を得るためには、HH/HLを1.1以上にすることが好ましく、1.2以上にすることがより好ましく、1.3以上にすることが更に好ましい。但し、HH/HLが高すぎることによるデメリットは無いものの、手間やコストを考慮すると一般的には10以下に調整することが好ましく、8以下に調整することがより好ましく、5以下に調整することが更に好ましい。
0047
(チタン銅箔の厚み)
本発明に係るチタン銅箔は一実施形態においては、たとえば厚みが0.1mm以下であり、典型的な実施形態では厚みが0.018mm〜0.08mmであり、より典型的な実施形態では厚みが0.02mm〜0.06mmである。
0048
[2.チタン銅箔の製造方法]
上述したようなチタン銅箔を製造するには、まず溶解炉で電気銅、Ti等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯を鋳型の鋳造空間に供給し、ここでインゴットに鋳造する。チタンの酸化磨耗を防止するため、溶解及び鋳造は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
0049
ここで、先述したチタン銅箔の所定の層状組織を得るため、鋳型の調整及び熱間圧延の後の温間圧延条件を調整することが肝要である。鋳型の調整と温間圧延の条件を調整することにより、層状組織における高濃度Ti層の高さ及び低濃度Ti層に対する高濃度Ti層の高さの比を制御することができる。
鋳型の厚みは特に指定しないが、インゴットの厚みと同程度に調整することが望ましい。鋳型の周壁部分の厚みは、インゴットの厚みと平行な方向に沿って測るものとする。
0050
また、鋳型の周壁部分の材質は、耐火レンガとすることが好適である。従来は、鋳型の周壁部分の材質として鋳鉄または銅を用いていたが、これを耐火レンガに代えることにより、溶湯供給後の冷却速度が遅くなり、インゴットの冷却を遅くすることができる。そして、インゴットの冷却を遅くすることにより、Tiの層状組織を調整することができる。
0051
その後、インゴットに対し、典型的には、熱間圧延、温間圧延、冷間圧延1、溶体化処理、冷間圧延2、時効処理をこの順で実施し、所望の厚み及び特性を有する箔に仕上げる。もちろん、上記方法により、箔だけでなく条の形態に仕上げても良い。
0052
熱間圧延はチタン銅箔の製造方法で行われている慣例的な条件で行えば足り、ここでは特段要求される条件はない。例えば、熱間圧延においては、加工性という観点から、加熱温度を500℃以上とすることが好ましく、700℃以上がより好ましく、900℃以上が更に好ましい。但し、生産効率という観点から、950℃以下が好ましい。
0053
ここで、熱間圧延後に温間圧延を導入することで、層状組織における高濃度Ti層の分布状況を調整する。温間圧延の加熱温度は、良好な低サイクル疲労特性を得るために300〜450℃とすることが好ましく、320〜430℃とすることがより好ましく、350〜420℃とすることが更に好ましい。また、加熱保持時間は、良好な低サイクル疲労特性を得るという観点から、5時間以下であることが好ましく、3時間以下であることがより好ましく、2時間以下であることが更に好ましい。上記の温度を下回ると、高濃度Ti層の高さが高くなりすぎ、エッチング性の低下を招く。また、上記の温度を超えた場合や加熱が長時間になった場合は、良好な低サイクル疲労特性が得られ難くなる。但し、加熱保持時間は、1100MPa以上の引張強さを得るという観点から、1時間以上であることが好ましい。なお、温間圧延における圧延材の終了温度は、温度差によるクラック等を抑制するという観点から、300℃以上であることが好ましい。
また、温間圧延時の圧下率は低濃度Ti層に対する高濃度Ti層の高さの比を調整するために重要であるが、圧下率を高くしすぎると材料が脆くなり、その後の圧延で割れが発生しやすくなる。そのため、本発明においては温間圧延の圧下率は50%未満であり、45%以下であることが好ましく、40%以下とすることがより好ましい。また、圧下率が低すぎるとへたりが発生しやすくなる。そのため、温間圧延の圧下率は5%以上とし、10%以上とすることが好ましく、20%以上とすることがより好ましい。なお、圧下率R(%)は下記式(3)で定義する。
式(3) R={(t0−t)/t0}×100(t0:圧延前の板厚、t:圧延後の板厚)
0054
その後の冷間圧延1の条件はチタン銅箔の製造で行われている慣例的な条件で行えば足り、ここでは特段要求される条件はない。また、溶体化処理についても慣例的な条件で構わないが、例えば700〜1000℃で5秒間〜30分間の条件で行うことができる。
0055
高強度を得るため、溶体化処理の後に冷間圧延2を行うことができる。冷間圧延2の圧下率は90%を超えることが好ましく、95%以上とすることがより一層好ましい。90%以下では、1100MPa以上の引張強さを得るのが困難になる。圧下率の上限は、本発明が目的とする強度の点からは特に制限はないが、工業的に99.8%を超えることはない。
0056
時効処理の加熱温度は200〜450℃とし、加熱時間は2〜20時間とすることが好ましい。加熱温度が200℃未満である場合や450℃を超える場合は、1100MPa以上の引張強さを得ることが困難になる。加熱時間が2時間未満の場合や20時間を越える場合は、1100MPa以上の引張強さを得ることが困難になる。
0058
[3.用途]
本発明に係るチタン銅箔は、限定的ではないが、スイッチ、コネクタ、ジャック、端子、リレー等の電子機器用部品の材料或いは、伸銅品として好適に使用することができ、とりわけオートフォーカスカメラモジュール等の電子機器部品に使用される導電性ばね材として好適に使用することができる。
0059
オートフォーカスカメラモジュールは一実施形態において、レンズと、このレンズを光軸方向の初期位置に弾性付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力に抗する電磁力を生起して前記レンズを光軸方向へ駆動可能な電磁駆動手段を備える。電磁駆動手段は例示的には、コの字形円筒形状のヨークと、ヨークの内部壁の内側に収容されるコイルと、コイルを囲繞すると共にヨークの外周壁の内側に収容されるマグネットを備えることができる。
0060
図4は、本発明に係るオートフォーカスカメラモジュールの一例を示す断面図であり、図5は、図4のオートフォーカスカメラモジュールの分解斜視図であり、図6は、図4のオートフォーカスカメラモジュールの動作を示す断面図である。
0061
オートフォーカスカメラモジュール1は、コの字形円筒形状のヨーク2と、ヨーク2の外壁に取付けられるマグネット4と、中央位置にレンズ3を備えるキャリア5と、キャリア5に装着されるコイル6と、ヨーク2が装着されるベース7と、ベース7を支えるフレーム8と、キャリア5を上下で支持する2個のばね部材9a、9bと、これらの上下を覆う2個のキャップ10a、10bとを備えている。2個のばね部材9a、9bは同一品であり、同一の位置関係でキャリア5を上下から挟んで支持すると共に、コイル6への給電経路として機能している。コイル6に電流を印加することによってキャリア5は上方に移動する。尚、本明細書においては、上及び下の文言を適宜、使用するが、図4における上下を指し、上はカメラから被写体に向う位置関係を表わす。
0063
キャリア5は底面部を持った円筒形状構造の合成樹脂等による成形品であり、中央位置でレンズを支持し、底面外側上に予め成形されたコイル6が接着されて搭載される。矩形上樹脂成形品のベース7の内周部にヨーク2を嵌合させて組込み、更に樹脂成形品のフレーム8でヨーク2全体を固定する。
0065
ばね部材9bとベース7及びばね部材9aとフレーム8間は接着及び熱カシメ等にて固定され更に、キャップ10bはベース7の底面に取付け、キャップ10aはフレーム8の上部に取付けられ、それぞればね部材9bをベース7とキャップ10b間に、ばね部材9aをフレーム8とキャップ10a間に挟み込み固着している。
0066
コイル6の一方のリード線は、キャリア5の内周面に設けた溝内を通って上に伸ばし、ばね部材9aに半田付けする。他方のリード線はキャリア5の底面に設けた溝内を通って下方に伸ばし、ばね部材9bに半田付けする。
0067
ばね部材9a、9bは、本発明に係るチタン銅箔の板バネである。バネ性を持ち、レンズ3を光軸方向の初期位置に弾性付勢する。同時に、コイル6への給電経路としても作用する。ばね部材9a、9bの外周部の一箇所は外側に突出させて、給電端子として機能させている。
0068
円筒状のマグネット4はラジアル(径)方向に磁化されており、コの字形状ヨーク2の内壁2a、上面部及び外壁2bを経路とした磁路を形成し、マグネット4と内壁2a間のギャップには、コイル6が配置される。
0069
ばね部材9a、9bは同一形状であり、図4及び5に示すように同一の位置関係で取付けているので、キャリア5が上方へ移動したときの軸ズレを抑制することができる。コイル6は、巻線後に加圧成形して製作するので、仕上がり外径の精度が向上し、所定の狭いギャップに容易に配置することができる。キャリア5は、最下位置でベース7に突当り、最上位置でヨーク2に突当るので、上下方向に突当て機構を備えることとなり、脱落することを防いでいる。
0070
図6は、コイル6に電流を印加して、オートフォーカス用にレンズ3を備えたキャリア5を上方に移動させた時の断面図を示している。ばね部材9a、9bの給電端子に電圧が印加されると、コイル6に電流が流れてキャリア5には上方への電磁力が働く。一方、キャリア5には、連結された2個のばね部材9a、9bの復元力が下方に働く。従って、キャリア5の上方への移動距離は電磁力と復元力が釣合った位置となる。これによって、コイル6に印加する電流量によって、キャリア5の移動量を決定することができる。
0071
上側ばね部材9aはキャリア5の上面を支持し、下側ばね部材9bはキャリア5の下面を支持しているので、復元力はキャリア5の上面及び下面で均等に下方に働くこととなり、レンズ3の軸ズレを小さく抑えることができる。
0072
従って、キャリア5の上方への移動に当って、リブ等によるガイドは必要なく、使っていない。ガイドによる摺動摩擦がないので、キャリア5の移動量は、純粋に電磁力と復元力の釣合いで支配されることとなり、円滑で精度良いレンズ3の移動を実現している。これによってレンズブレの少ないオートフォーカスを達成している。
0073
なお、マグネット4は円筒形状として説明したが、これに拘わるものでなく、3乃至4分割してラジアル方向に磁化し、これをヨーク2の外壁2bの内面に貼付けて固着しても良い。
0074
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
0076
<製造条件>
まず、真空溶解炉にて電気銅2.5kgを溶解し、表1及び2に記載の合金組成が得られるよう合金元素を添加した。この溶湯を以下に示す鋳型に鋳込み、厚さ30mm、幅60mm、長さ120mmのインゴットを製造した。このインゴットを、次の工程順で加工し、表1及び2に記載の所定の厚みをもつ製品試料を作製した。
(1)溶解鋳造:鋳造温度は1300℃とし、鋳型は耐火レンガ、鋳鉄から選択し、鋳造時の平均冷却速度を変化させた。冷却速度は速い順に鋳鉄、耐火レンガである。鋳型の厚みは30mmとした。
(2)熱間圧延:上記のインゴットをさらに950℃で3時間加熱保持した後、10mmまで圧延した。
(3)温間圧延:上記の熱間圧延材を300〜450℃で2時間加熱保持した後、圧下率に応じて所定の厚みまで圧延した。終了温度はいずれも300℃以上とした。
(4)研削:熱間圧延で生成した酸化スケールをグラインダーで除去した。研削後の厚みは9mmであった。
(5)冷間圧延1:冷間圧延2の圧下率と製品試料の厚みを考慮して、所定の厚みまで圧延した。
(6)溶体化処理:800℃に昇温した電気炉1に試料を装入し、5分間保持した後、試料を水槽に入れて急冷却した。
(7)冷間圧延2:表1及び2に示す圧下率でそれぞれ製品厚みまで圧延した。
(8)時効処理:温度と時間はそれぞれ300℃、2時間とし、Ar雰囲気中で加熱した。
0077
上述したようにして作製した各製品試料について、次の評価を行った。
<1.組織分析>
先述したように、圧延方向に平行な断面に対してSTEM−EDX(走査型透過電子顕微鏡)により観察を行い、それによる画像から層状又は斑点のいずれの組織であるかを判断した。ここで用いたSTEM−EDXは、JEOL社製のJEM−2100Fであり、測定条件は試料傾斜角度0°、加速電圧200kVとした。
また、STEM−EDXで圧延方向に平行な断面を厚み方向に線分析し、厚み方向の距離に対するTi濃度曲線を得た。なお、3つの異なる視野におけるTi濃度を測定し、各視野における、下記式(1)及び(2)に示されるHHとHLを測定し、異なる視野における平均値を測定値とした。
式(1) HH={(A1−B)+(A2−B)+(A3−B)+(A4−B)+(A5−B)}/5
式(2) HL={(B−C1)+(B−C2)+(B−C3)+(B−C4)+(B−C5)}/5
0078
さらに、先述した方法により、STEM−EDXで組織分析を行った。その結果を表1に示す。
0079
<2.引張強さ>
JIS Z2241:2011に基づき、引張試験機を用いて圧延方向と平行な方向の引張強さを測定した。
0080
<3.低サイクル疲労特性>
低サイクル疲労特性は東洋精機製MIT試験機(D型)を用いて評価した。幅3.2mm、長さ110mmの短冊試料を長手方向が圧延平行方向となるように採取し、荷重は250g、曲げ部曲率半径は2mm、左右の曲げ角度は135°、折り曲げ速度は175cpm(回/min)とし、上記以外の条件はJIS P8115:2001に準じて行った。また、それぞれのサンプルについて、破断までの繰り返し回数が1000回以上であったものを「◎」、800回以上1000回未満であったものを「○」、800回未満であったものを「×」として評価した。
0081
<4.へたり>
幅15mm、長さ25mmの短冊試料を長手方向が圧延平行方向となるように採取し、図7のように、試料の片端を固定し、この固定端から距離Lの位置に、先端をナイフエッジに加工したポンチを1mm/分の移動速度で押し当て、試料に距離dのたわみを与えた後、ポンチを初期の位置に戻し除荷した。除荷後、へたり量δを求めた。
試験条件は試料の箔厚が0.05mm以下の場合、L=3mm、d=2mmとし、箔厚が0.05mmより厚い場合、L=5mm、d=4mmとした。また、へたり量は0.01mmの分解能で測定し、へたりが検出されなかった場合は、表1及び2に「<0.01mm」と表記している。
0082
<5.エッチング直線性>
37質量%、ボーメ度40°の塩化第二鉄水溶液を用いて、各サンプル箔に対してエッチングを行い、線幅100μm、長さ150mmの直線回路を形成した。走査型電子顕微鏡(日立製、S−4700)を用いて回路を観察し(観察長さ200μm)、最大回路幅と最小回路幅の差が10μm未満であるものを○、10μm以上であるものを×で評価した。
0083
0084
実施例1〜26によって、エッチング性が良好であると共に、高強度かつへたりの小さいチタン銅箔を得ることができることを確認した。
0085
実施例1〜8、10〜13及び15〜25は温間圧延の温度及び圧下率が適切な範囲を満たしたため、HHが1.0以上かつHH/HLが1.1以上を満たし、低サイクル疲労特性とへたりの抑制を両立した。
0086
実施例9はHHが1.0以上かつHH/HLが1.1以上を満たし、良好な強度が得られ、へたりを抑制することが出来たが、温間圧延の時間がわずかに長かったため、低サイクル疲労特性が低かった。
0087
実施例14は母相のTi濃度がやや低かったため、実施例1〜13及び15〜25と比べると引張強さが若干低く、へたりが若干高かったが、適切な温間圧延を行ったため、HHが1.0以上かつHH/HLが1.1以上を満たし低サイクル疲労特性が良好であった。
0088
実施例26はHHが1.0以上かつHH/HLが1.1以上を満たしたが、冷間圧延2の圧下率が90%以下であったため、良好な強度及び低サイクル疲労特性が得られなかった。
0089
0090
比較例1は温間圧延時の圧下率が低かったため、HH/HLが1.1より小さくなり、へたりが発生した。
0091
比較例2は温間圧延時の圧下率が高かったため、その後の圧延で割れが発生し、サンプルの調製、強度、低サイクル疲労特性及びへたりの測定が出来なかった。
0092
比較例3は温間圧延の温度が低かったため、HHが30質量%を超え、エッチング性が悪化した。
0093
比較例4は温間圧延の温度が高かったため、HHが1.0質量%を下回り、MIT試験で破断した。
0094
比較例5は母相のTi濃度が5質量%を超えたため熱間圧延で割れが発生し、サンプルの調製及び強度、へたりの測定が出来なかった。
0095
比較例6は副成分の合計が1.0質量%を超えたため熱間圧延で割れが発生し、サンプルの調製及び強度、へたりの測定が出来なかった。
0096
比較例7は鋳型が鋳鉄であったため、鋳型の材質に起因してインゴットの冷却が速かったので、組織が斑点状となり、MIT試験で破断した。また、へたりが発生した。
実施例
0097
比較例8は温間圧延を行わなかったため、HHが30質量%を超えかつHH/HLが1.1を下回ったため、エッチング性の悪化を招いた。
0098
1オートフォーカスカメラモジュール
2ヨーク
3レンズ
4マグネット
5キャリア
6コイル
7ベース
8フレーム
9a 上側のばね部材
9b 下側のばね部材
10a、10b キャップ