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技術 アルファ線核医学治療剤の安全性評価方法およびスクリーニング方法

出願人 国立大学法人大阪大学
発明者 矢野恒夫深瀬浩一福田光宏
出願日 2019年3月7日 (1年5ヶ月経過) 出願番号 2019-041946
公開日 2020年4月16日 (3ヶ月経過) 公開番号 2020-060544
状態 未査定
技術分野 生物学的材料の調査,分析 特有な方法による材料の調査、分析
主要キーワード 特許切れ 効果線 ルネサンス 光子線 炭素線 集積部位 輸送計算 治療判定
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重要な関連分野

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図面 (1)

課題

アルファ線核医学治療剤安全性評価手法、スクリーニング方法、及びこれらの方法を用いたアルファ線核医学治療剤の非臨床段階から臨床段階へ移行するトランスレーシナルリサーチ方法の提供。

解決手段

アルファ線放出核種としてアスタチン211、アクチニウム225を用いた、アルファ線核医学治療剤投与後の第1時点、および第2時点において、血液学的検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行うことを特徴とする前記非臨床安全性評価方法。

概要

背景

分子標的抗がん剤の登場によって、がん治療著効率の向上が図られたが、未だに、難治性進行がんでは有効な治療法が求められている。がんにまつわるシグナル伝達経路上の分子ターゲットとするアプローチは、分子標的薬と呼ばれ、がん細胞提示する抗原に反応する抗体によるアプローチとともに、現在のがん治療薬の主流となっている。しかし、これまで見出されてきたがん/腫瘍抗原をターゲットとする抗体だけでは、がんに対して高い細胞障害作用が得られなかったこと、とくに固形がんでは多くのがん抗原が抗体医薬品のターゲットにはなり得ていないと指摘されている。その大きな要因として固形がんでは抗体が腫瘍細胞の内部まで到達できずに効果が限定的なため、十分ながん抑制作用が得られないことがその大きな要因と考えられている。

このようながん抗原であっても強い細胞障害性を持つ薬物を抗体に結合させることにより、強力な細胞障害作用が発揮される可能性がある。抗体薬物複合体(Antibody−Drug−Conjugate:ADC)と呼ばれるアプローチであり、最新の免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする癌免疫のアプローチと並んで、画期的な創薬アプローチと考えられている。アルファ線核医学治療Targeted Alpha Therapy (TAT)では、アルファ線放出核種を細胞障害性薬物として用い、抗体等の標的化分子と結合させることで、がん細胞等を選択的に殺傷することで疾患を治療する。ADCは腫瘍細胞に取り込まれた後、抗体と薬物をリソソーム内酵素により切断する必要があるが、アルファ線放出核種の物理学的半減期が短いことから抗体とアルファ線放出核種は自然に解裂するので、ADCのような人工的に切断する余分な分子設計は不要である。アルファ線核医学治療の利用により、飛躍的に治療効果を向上させることが期待されている。

一方、1990年から2000年初頭に承認された抗体医薬特許切れを迎えて、これら抗体のバイオ後続品(バイオシミラー)がRI核医学治療剤としてより強力な治療剤として提供されようとしている。具体的には、bevacizumab、rituximab、trastuzumabといった3つのベータ線放射核医学治療剤が開発中である。また、数多くの抗体抗がん剤の開発される中で効果不十分により開発中止に至った抗体抗がん剤の再活用(re−positioning)として、RI核医学治療剤が注目されている。例えば、抗体薬としては一旦開発中止に至った抗体のうち、8種の抗体が米国NIHの資金援助を受けてベータ線放射核医学治療剤としての臨床試験が進行中である。

これら従来実用化されてきた、ベータ線を放出する131I、90Y等のRIを用いたベータ線核医学治療として、131Iによる甲状腺癌治療、90Y及び131I標識抗体による非ホジキンリンパ腫治療が行われてきたが、ベータ線放出核種は腫瘍細胞のDNA一重鎖破壊するのみであり、細胞によるDNA修復のために腫瘍死滅には至りにくいという欠点を有していた。

これに対して、アルファ線放出核種を用いるアルファ線核医学治療では、極めて強い線エネルギーが付与され腫瘍細胞のDNA二重鎖が破壊され腫瘍細胞を死滅に至らせることができる。当該アルファ線放出核種と高効率ターゲティング技術を組み合わせることにより、がん細胞を選択的に攻撃し、治療効果が高く副作用の少ない療法を提供することができる。例えば、アルファ線放出核種として、アクチニウム225AcとProstate Specific Membrane Antigen(PSMA)を標的化分子として組み合わせたアクチニウム225Ac−PSMAによる前立腺がん治療は、劇的な治療効果を示し非常に注目されている(非特許文献1、2)。また、アルファ線放出核種としてアスタチン211Atを用い、これにより標識した低分子リガンドあるいは抗体や抗体フラグメントの研究も進められている(非特許文献3)。

アルファ線放出核種のアスタチン211Atあるいはアクチニウム225Acを結合して、その強いDNA障害性を付与することにより抗腫瘍活性の増強を図る、抗がん剤のルネサンスとも言える新しいビジネス領域が予期されており、利用可能な化合物構造多様性を考慮すると、多様ながんの治療に対応できるものと期待されている。これまでに蓄積された非臨床・臨床の膨大なデータを有効に活用することで、難治性の進行がんに有効な抗がん剤を成功に導ければ、多くのがん患者の命を救うことが可能となるだけではなく莫大収益を生み出すことが期待されている。

これらアルファ線核医学治療剤の実用化において重要なプロセスの1つが、一般医薬品の開発と同様に、ヒトを治療対象とする臨床試験を行う前の、動物を用いた非臨床薬理試験系、及び薬物動態試験系を利用した、薬剤の安全性の評価である。

このような医薬品の安全性評価試験基準に関して、厚生労働省から「医薬品の臨床試験および承認申請の非臨床安全性試験」としてICH M3(R2)(薬食審査0219−4、平成22年2月19日)の他、特定の種類の薬剤について、例えば「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価」(薬食審査0604−1、平成22年6月4日)としてICH S9、「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床安全性評価」(薬食審査0323−1、平成24年3月23日)としてICH S6(R1)がそれぞれ発出されている。

このような非臨床安全性評価は、1)ヒトに適用する際の安全な初回投与量とその後の増量計画を設定すること、2)毒性の標的となる恐れのある臓器を特定し、その毒性が可逆的なものであるか検討を行うこと、3)臨床でのモニタリングを実施する際の安全性の評価項目見出すこと、を目的としており(前掲「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床安全性評価」を参照)、医薬品開発において重要な役割を担っている。

現在、アルファ線核医学治療の抗がん作用メカニズムとして、(1)DNA二重鎖切断、(2)酸化ストレス、(3)生物学的バイスタンダー効果、そして、(4)アブスコパル効果と呼ばれる免疫作用が想定されている(表3)。
表3RI核医学治療の抗がん作用のメカニズム

アクチニウム225Ac標識あるいはアスタチン211At標識した薬剤等を用いたアルファ線核医学治療では、従来、(1)DNA二重鎖切断による直接作用の寄与が大きいと考えられていた。しかし、抗がん作用は比較的長期間に及ぶデータが得られていることから、上記作用メカニズムのうち、(3)生物学的バイスタンダー効果や(4)アブスコパル効果と呼ばれる免疫作用の寄与が大きいのではないかとも考えられている。薬剤の有効性と安全性は密接に関連しており、安全性評価に当たっては、(3)や(4)による遅延型の毒性発現にも注意払う必要性が示唆されている。

概要

アルファ線核医学治療剤の安全性評価手法、スクリーニング方法、及びこれらの方法を用いたアルファ線核医学治療剤の非臨床段階から臨床段階へ移行するトランスレーシナルリサーチ方法の提供。アルファ線放出核種としてアスタチン211、アクチニウム225を用いた、アルファ線核医学治療剤投与後の第1時点、および第2時点において、血液学的検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行うことを特徴とする前記非臨床安全性評価方法。なし

目的

当該アルファ線放出核種と高効率ターゲティング技術を組み合わせることにより、がん細胞を選択的に攻撃し、治療効果が高く副作用の少ない療法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

アルファ線核医学治療剤の非臨床安全性評価方法であって、前記アルファ線核医学治療剤投与後の第1時点、および第2時点において、血液学的検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行うことを特徴とする前記非臨床安全性評価方法。

請求項2

前記第1時点が、前記アルファ線核医学治療剤投与の翌日である、請求項1に記載の非臨床安全性評価方法。

請求項3

前記アルファ線核医学治療剤の核種アスタチン211Atであり、前記第2時点が投与の14日後である、請求項1または2に記載の非臨床安全性評価方法。

請求項4

前記アルファ線核医学治療剤の核種がアクチニウム225Acであり、前記第2時点が投与の1ヶ月後である、請求項1または2に記載の非臨床安全性評価方法。

請求項5

前記病理組織学的検査が、甲状腺肝臓または腎臓について行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法。

請求項6

前記アルファ線核医学治療剤投与量が、相補する放射性診断薬を用いたPETあるいはSPECTイメージングにより薬剤分布事前に決定されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法。

請求項7

前記薬剤分布のイメージングが、アルファ線放出核種が崩壊する際にアルファ線とともに生じる放射線撮影することで行われる、請求項6に記載の非臨床安全性評価方法。

請求項8

さらに、前記アルファ線核医学治療剤の生体内定性を検査することを含む、請求項6または7に記載の非臨床安全性評価方法。

請求項9

さらに、前記アルファ線核医学治療剤の比放射能または標識率を検査することを含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法。

請求項10

請求項1〜9のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法を用いて、安全性の高いアルファ線核医学治療剤をスクリーニングする方法。

請求項11

請求項10に記載のスクリーニング方法を用いてアルファ線核医学治療剤を非臨床段階から臨床段階へ移行するトランスレーシナルリサーチ方法。

請求項12

PHITS−SMモデルを用いたシミュレーション工程を包含する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法、請求項10に記載のスクリーニング方法または、請求項11に記載のトランスレーショナル・リサーチ方法。

技術分野

0001

本発明は、アルファ線核医学治療剤安全性評価手法、スクリーニング方法、及びこれらの方法を用いたアルファ線核医学治療剤を非臨床段階から臨床段階へ移行するトランスレーシナルリサーチ方法に関する。
なお、本発明は、国立研究開発人科学技術振興機構産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラムにおける成果である。

背景技術

0002

分子標的抗がん剤の登場によって、がん治療著効率の向上が図られたが、未だに、難治性進行がんでは有効な治療法が求められている。がんにまつわるシグナル伝達経路上の分子ターゲットとするアプローチは、分子標的薬と呼ばれ、がん細胞提示する抗原に反応する抗体によるアプローチとともに、現在のがん治療薬の主流となっている。しかし、これまで見出されてきたがん/腫瘍抗原をターゲットとする抗体だけでは、がんに対して高い細胞障害作用が得られなかったこと、とくに固形がんでは多くのがん抗原が抗体医薬品のターゲットにはなり得ていないと指摘されている。その大きな要因として固形がんでは抗体が腫瘍細胞の内部まで到達できずに効果が限定的なため、十分ながん抑制作用が得られないことがその大きな要因と考えられている。

0003

このようながん抗原であっても強い細胞障害性を持つ薬物を抗体に結合させることにより、強力な細胞障害作用が発揮される可能性がある。抗体薬物複合体(Antibody−Drug−Conjugate:ADC)と呼ばれるアプローチであり、最新の免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする癌免疫のアプローチと並んで、画期的な創薬アプローチと考えられている。アルファ線核医学治療Targeted Alpha Therapy (TAT)では、アルファ線放出核種を細胞障害性薬物として用い、抗体等の標的化分子と結合させることで、がん細胞等を選択的に殺傷することで疾患を治療する。ADCは腫瘍細胞に取り込まれた後、抗体と薬物をリソソーム内酵素により切断する必要があるが、アルファ線放出核種の物理学的半減期が短いことから抗体とアルファ線放出核種は自然に解裂するので、ADCのような人工的に切断する余分な分子設計は不要である。アルファ線核医学治療の利用により、飛躍的に治療効果を向上させることが期待されている。

0004

一方、1990年から2000年初頭に承認された抗体医薬特許切れを迎えて、これら抗体のバイオ後続品(バイオシミラー)がRI核医学治療剤としてより強力な治療剤として提供されようとしている。具体的には、bevacizumab、rituximab、trastuzumabといった3つのベータ線放射核医学治療剤が開発中である。また、数多くの抗体抗がん剤の開発される中で効果不十分により開発中止に至った抗体抗がん剤の再活用(re−positioning)として、RI核医学治療剤が注目されている。例えば、抗体薬としては一旦開発中止に至った抗体のうち、8種の抗体が米国NIHの資金援助を受けてベータ線放射核医学治療剤としての臨床試験が進行中である。

0005

これら従来実用化されてきた、ベータ線を放出する131I、90Y等のRIを用いたベータ線核医学治療として、131Iによる甲状腺癌治療、90Y及び131I標識抗体による非ホジキンリンパ腫治療が行われてきたが、ベータ線放出核種は腫瘍細胞のDNA一重鎖破壊するのみであり、細胞によるDNA修復のために腫瘍死滅には至りにくいという欠点を有していた。

0006

これに対して、アルファ線放出核種を用いるアルファ線核医学治療では、極めて強い線エネルギーが付与され腫瘍細胞のDNA二重鎖が破壊され腫瘍細胞を死滅に至らせることができる。当該アルファ線放出核種と高効率ターゲティング技術を組み合わせることにより、がん細胞を選択的に攻撃し、治療効果が高く副作用の少ない療法を提供することができる。例えば、アルファ線放出核種として、アクチニウム225AcとProstate Specific Membrane Antigen(PSMA)を標的化分子として組み合わせたアクチニウム225Ac−PSMAによる前立腺がん治療は、劇的な治療効果を示し非常に注目されている(非特許文献1、2)。また、アルファ線放出核種としてアスタチン211Atを用い、これにより標識した低分子リガンドあるいは抗体や抗体フラグメントの研究も進められている(非特許文献3)。

0007

アルファ線放出核種のアスタチン211Atあるいはアクチニウム225Acを結合して、その強いDNA障害性を付与することにより抗腫瘍活性の増強を図る、抗がん剤のルネサンスとも言える新しいビジネス領域が予期されており、利用可能な化合物構造多様性を考慮すると、多様ながんの治療に対応できるものと期待されている。これまでに蓄積された非臨床・臨床の膨大なデータを有効に活用することで、難治性の進行がんに有効な抗がん剤を成功に導ければ、多くのがん患者の命を救うことが可能となるだけではなく莫大収益を生み出すことが期待されている。

0008

これらアルファ線核医学治療剤の実用化において重要なプロセスの1つが、一般医薬品の開発と同様に、ヒトを治療対象とする臨床試験を行う前の、動物を用いた非臨床薬理試験系、及び薬物動態試験系を利用した、薬剤の安全性の評価である。

0009

このような医薬品の安全性評価試験基準に関して、厚生労働省から「医薬品の臨床試験および承認申請の非臨床安全性試験」としてICH M3(R2)(薬食審査0219−4、平成22年2月19日)の他、特定の種類の薬剤について、例えば「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価」(薬食審査0604−1、平成22年6月4日)としてICH S9、「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床安全性評価」(薬食審査0323−1、平成24年3月23日)としてICH S6(R1)がそれぞれ発出されている。

0010

このような非臨床安全性評価は、1)ヒトに適用する際の安全な初回投与量とその後の増量計画を設定すること、2)毒性の標的となる恐れのある臓器を特定し、その毒性が可逆的なものであるか検討を行うこと、3)臨床でのモニタリングを実施する際の安全性の評価項目見出すこと、を目的としており(前掲「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床安全性評価」を参照)、医薬品開発において重要な役割を担っている。

0011

現在、アルファ線核医学治療の抗がん作用メカニズムとして、(1)DNA二重鎖切断、(2)酸化ストレス、(3)生物学的バイスタンダー効果、そして、(4)アブスコパル効果と呼ばれる免疫作用が想定されている(表3)。
表3RI核医学治療の抗がん作用のメカニズム

アクチニウム225Ac標識あるいはアスタチン211At標識した薬剤等を用いたアルファ線核医学治療では、従来、(1)DNA二重鎖切断による直接作用の寄与が大きいと考えられていた。しかし、抗がん作用は比較的長期間に及ぶデータが得られていることから、上記作用メカニズムのうち、(3)生物学的バイスタンダー効果や(4)アブスコパル効果と呼ばれる免疫作用の寄与が大きいのではないかとも考えられている。薬剤の有効性と安全性は密接に関連しており、安全性評価に当たっては、(3)や(4)による遅延型の毒性発現にも注意払う必要性が示唆されている。

先行技術

0012

J. Nuclear Medicine,2016,Vol.57,No.12,pp.1941−1944.
J Nuclear Med.2018,pp.1−16.
PHARM TECH JAPAN,2017,Vol.33,No.9,pp.95−107

発明が解決しようとする課題

0013

従来、放射性医薬品について安全性試験を行う際には、放射線標識される被験物質を各RIに対応する安定同位体で標識したうえで動物に投与し毒性を評価している。例えば、ポジトロン放出核種で標識したPET薬剤ガンマ線放出核種で標識したSPECT薬剤といった放射性医薬品にはマイクロドーズ(MD)・早期探索的臨床試験ガイダンス適応され得る(厚生労働省医薬食品局審査管理課長マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス、薬食審査発第0603001号、平成20年6月3日、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス、薬食審査発0219第4号、平成22年2月19日)、その安全性試験では、げっ歯類マウスあるいはラット)を用いる拡張単回投与毒性試験によって毒性学的評価を実施しているが、当該試験においては、PET核種やSPECT核種に代わり安定同位体で標識した被験物質が用いられている。

0014

このように、安定同位体が存在する核種であれば、非放射性の安定同位体を用いた被験物質を大量に合成したうえで、RI規制のない一般の安全性試験施設において毒性試験を実施することができる。

0015

ところが、アルファ線核医学治療に用いるアクチニウムおよびアスタチンには安定同位体が存在しないことから、上記従来放射性医薬品の安全性試験において用いられてきた手法を採用することができないという問題点があった。

0016

また、臓器微細構造や細胞レベルの大きさを持つミクロなターゲットに対する線量(ミクロ線量)の定量的な評価もある程度可能となりつつあるものの(Physics Medicine Biology,2012,vol.57, no.10,pp.3207−3222、Physics Medicine Biology,2012,vol.57,no.13,pp.4403−4424等)、ミクロ線量は平均値だけでなくその分散が重要となるため、確率密度関数表現する必要があり、従来の方法をそのまま医療現場に導入することは困難であった。したがって、ミクロ線量の確率密度分布から細胞生存率、腫瘍制御確率(TCP)、正常組織障害確率(NTCP)等の生物影響を推定し、それと等価な影響を与える光子線量(生物学的線量若しくは光子効果線量と呼ぶ。単位はGyE)に変換する手法を開発することが求められていた。なお、現在のアルファ線核医学治療でも、GyE単位で線量を評価しているが、これは、吸収線量に経験的な生物学的効果比(Relative Biological Effectiveness:RBE)を乗じたものであり(主にRBE5)、マイクロドジメトリーに基づく量ではない。

0017

ミクロ線量から生物学的線量を導出する方法として、炭素線治療において利用されているLocal Effect Model(LEM)(Radiat. Environ. Biophys.,1997,vol.36,no.1,pp.59−66)およびMicrodosimetric Kinetic Model(MKM)(Phys.Med.Biol.,2010,Vol.55,no.22,pp.6721−6737)が知られている。しかしながら、これら炭素線治療において利用される方法では、アルファ線核医学治療で重要となる、細胞または細胞核レベルでのミクロ線量の分散は考慮されていない。

課題を解決するための手段

0018

上記課題の解決について、鋭意研究を進めた結果、本発明者らはまず、アルファ線核医学治療剤の安全性を検討するにあたって、アルファ線放出核種の物理学的半減期が重要な考慮因子であることを見出した。

0019

また、アルファ線核医学治療剤の生体内局在の確認について、適切な相補イメージング薬剤が利用できないアルファ線核医学治療剤についても、当該核種が壊変時にアルファ線とともに放出する特異的な放射線を検出することを利用し、これらを検出することで放射性物質の局在を明らかにすることができる。当該技術を利用し、生体内での放射性元素標識薬剤やその標識分解物標的組織やその他正常臓器にどのように分布するのかを安全性評価に利用し得ることを見出した。

0020

さらに、正常組織不可逆的な有害事象の起こらない投与量を推定するためには、非臨床安全性評価において、実験動物組織変化病理学的評価することも重要と考えられた。たとえば、超大型加速器による225Acの核種製造では長半減期の227Acの混入が避けられない(PHARM TECH JAPAN, 2017, Vol.33,No.9,pp.95−107)。不純物227Acの安全性評価に対する影響を知る上でも、病理組織学的検査および薬物動態・ドジメトリーを動物モデルに組み込むことは重要である。

0021

これらの検討を経た結果、本発明者らはアルファ線放出核種による放射線安全性を評価するとともに、病理組織学的評価を包含することで安全性に優れた放射性薬剤を選択(スクリーニング)することを特徴とする新しい安全性評価方法を提供するに至った。当該安全性評価方法では、薬剤投与後の第1時点、および第2時点において、血液学的検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行うことを主要な特徴としている。

0022

すなわち、本発明は一態様において以下のものを提供する。

0023

項目1]
アルファ線核医学治療剤の非臨床安全性評価方法であって、前記アルファ線核医学治療剤投与後の第1時点、および第2時点において、血液学的検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行うことを特徴とする前記非臨床安全性評価方法。

0024

[項目2]
前記第1時点が、前記アルファ線核医学治療剤投与の翌日である、項目1に記載の非臨床安全性評価方法。

0025

[項目3]
前記アルファ線核医学治療剤の核種がアスタチン211Atであり、前記第2時点が投与の14日後である、項目1または2に記載の非臨床安全性評価方法。

0026

[項目4]
前記アルファ線核医学治療剤の核種がアクチニウム225Acであり、前記第2時点が投与の1ヶ月後である、項目1または2に記載の非臨床安全性評価方法。

0027

[項目5]
前記病理組織学的検査が、甲状腺肝臓または腎臓について行われる、項目1〜4のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法。

0028

[項目6]
前記アルファ線核医学治療剤投与量が、相補する放射性診断薬を用いたPETあるいはSPECTイメージングにより薬剤分布事前に決定されている、項目1〜5のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法。

0029

[項目7]
前記薬剤分布のイメージングが、アルファ線放出核種が崩壊する際にアルファ線とともに生じる放射線を撮影することで行われる、項目6に記載の非臨床安全性評価方法。

0030

[項目8]
さらに、前記アルファ線核医学治療剤の生体内安定性を検査することを含む、項目6または7に記載の非臨床安全性評価方法。

0031

[項目9]
さらに、前記アルファ線核医学治療剤の比放射能または標識率を検査することを含む、項目6〜8のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法。

0032

[項目10]
項目1〜9のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法を用いて、安全性の高いアルファ線核医学治療剤をスクリーニングする方法。

0033

[項目11]
項目10に記載のスクリーニング方法を用いてアルファ線核医学治療剤を非臨床段階から臨床段階へ移行するトランスレーショナル・リサーチ方法。
[項目12]
PHITS−SMKモデルを用いたシミュレーション工程を包含する、項目1〜9のいずれか一項に記載の非臨床安全性評価方法、項目10に記載のスクリーニング方法または、項目11に記載のトランスレーショナル・リサーチ方法。

発明の効果

0034

著者らの新しい安全性評価では、薬剤投与後の第1時点および第2時点で、血液学的検査、血液生化学検査に加えて病理組織学的検査を行うことにより、アルファ線放出核種で標識した薬剤の放射線安全性が遅延毒性回復性の観点からも正しく評価することが可能になる。例えば、超大型加速器によるアクチニウム225Acの核種製造では長半減期の227Acの混入が避けられないが、病理組織学的検査および薬物動態・ドジメトリーを動物モデルに組み込むことにより、当該不純物227Acの毒性も適切に評価することが可能となる。

0035

また、放射線の生体に対する影響は臓器・組織によって異なる。細胞分裂頻度の高い造血細胞腸管上皮などは感受性が高い。これは、細胞分裂中の前駆細胞照射によって障害を受けることで、末梢分化細胞の補充が出来なくなり、機能不全をきたすことによる。例えば、γ線照射(8Gy)をうけたラットで、照射4時間後には、直接障害を受けた腸管上皮細胞アポトーシスやp53、p21waf1の発現などが病理組織学的に検出できる(Am J Pathol,1998,Vol.153,pp.899−909)。

0036

ヒトにおける被曝事故例では、16〜25Gyの被曝後15日までは内視鏡的に腸管上皮に目立った異常が認められないものの、その後35日までに上皮消失することが報告されている(J Radiat Res, 2008,Vol.49,pp.55−62)。一方、分化段階の異なる前駆細胞がヒエラルキーを構成している造血細胞の場合、2.4〜3.6Gyの被曝事故後、末梢血では比較的短寿命白血球は照射後速やかに数が減少したが、寿命の長い赤血球数の減少は緩やかであった(Health Phys, 1959,Vol.2,pp.134−138)。このように、組織としての障害の顕在化にかかる時間は、それぞれの組織の特性に応じた差異がみられる。

0037

また、γ線照射(2Gy)をうけたマウスでは、赤血球数や白血球数は非照射群と同等数まで1ヶ月程度で回復するが、分化能の高い造血前駆細胞ほど回復が遅延し、特に多能性の前駆細胞は生涯にわたって細胞増殖シグナル亢進するものの、酸化的ストレス指標が高く、数が回復しないままとなるなど、放射線ばく露によって間接的且つ遷延する障害も生じる(Journal of applied toxicology, 2015,Vol.35,pp.230−240)。更に、上述のような急性の高線量ばく露では、その影響は主に普遍的な遺伝子発現に基づく反応として検知されるが、より低線量のばく露では確率論的となる。

0038

本発明の安全性評価法では、血液学的検査、血液生化学検査の経時的な推移にも留意しつつ、以上のような放射線の生物影響の特性を踏まえて、酸化的ストレス指標なども含めた病理組織学的検査を行うことで、放射線に起因する障害性を評価することができる。

0039

そして、当該安全評価方法を利用することにより、安全性に優れた放射性薬剤を選択(スクリーニング)できるという、技術的な効果が期待できる。

0040

この評価法を適用できると見込まれる具体的な実施例には、腫瘍選択的に発現するトランスポーターあるいは腫瘍細胞上の受容体に親和性をもつ低分子リガンドに選択的に結合させるアスタチン211Atあるいはアクチニウム225Ac標識化合物、腫瘍細胞上の受容体に親和性をもつ抗体あるいは抗体フラグメントに選択的に結合させるアスタチン211Atあるいはアクチニウム225Ac標識化合物が含まれるが、これらに限定されない。その他、甲状腺がんすい臓がん、褐色細胞腫悪性リンパ腫など、難治性の進行がんの治療のためのアルファ線核医学治療剤の開発に適用することができる。

図面の簡単な説明

0041

in vivoでの脱アスタチン化と標識薬剤の量に基づき、放射性元素、標識薬剤やその標識分解物が標的組織や正常臓器に分布するか否かをシミュレーションする方法の概略を示す図である。

0042

以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は単なる例示であり、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。

0043

(定義)
本明細書において、複数の数値の範囲が示された場合、それら複数の範囲の任意の下限値および上限値の組み合わせからなる範囲も同様に意味する。

0044

本明細書において、「アルファ線放出核種」とは、当該核種又はその子孫となる核種が崩壊する際にアルファ線を放出する核種を意味する。当該核種の半減期は特に限定されないが、例えば1時間から1ヶ月の半減期を有する核種を用いることができる。当該放出されるアルファ線のエネルギー量は特に限定されないが、例えば1MeVから100MeVのエネルギーを有するアルファ線を放出する核種を使用することができる。アルファ線放出核種として、例えば、アスタチン211(211At)、鉛212(212Pb)、ラジウム223(223Ra)、アクチニウム225(225Ac)、テルビウム149(149Tb)などが挙げられる。

0045

本明細書において、「アルファ線核医学治療」とは、アルファ線放出核種を患者の標的細胞または組織に選択的に送達し、当該細胞を死滅させることで疾患を治療する治療方法を意味する。アルファ線放出核種を標的細胞または組織に選択的に送達するためには、アルファ線放出核種自体の有する細胞選択性を利用しても良いし、アルファ線放出核種を、細胞選択性を有する他の化合物(標的化分子)と結合させた薬剤を利用してもよい。例えば、アルファ線放出核種を前立腺特異的膜抗原(Prostate Specific Membrane Antigen(PSMA))と結合させることにより、前立腺細胞特異的にアルファ線放出核種を送達することができる。その他、標的化リポソームなど、公知の細胞・組織選択的薬物送達システムを利用することもできる。

0046

本明細書において、「標的化分子」とは、特定の細胞、例えば特定の組織にのみ存在する細胞や、疾患部位でのみ存在する細胞に特異的に結合または取り込まれる分子を意味する。当該標的化分子は、細胞の表面または内部構造に結合しても良いし、細胞の特定の構造に結合することなく、細胞内に滞留してもよい。このような標的化分子として、例えば標的細胞で特異的に発現している受容体のリガンド分子およびその類似体、標的細胞の表面で特異的に発現しているたんぱく質、例えば腫瘍特異的抗原に結合する抗体やトランスポーターなどを使用することができる。

0047

本明細書において、「アルファ線核医学治療剤」とは、アルファ線核医学治療において、患者に投与される化合物を意味する。アルファ線核医学治療剤は、細胞特異性を有するアルファ線放出核種自体であっても良いし、アルファ線放出核種と標的化分子を結合したものでもよい。アルファ線放出核種と標的化分子の結合には、公知の方法を用いることができ、例えば、ホウ素クラスターを介して、アルファ線放出核種と標的化分子を結合させることができる。

0048

本発明において、「非臨床安全性評価」とは、ヒトの疾患治療前提とした薬剤開発において、非ヒト動物に対して薬剤を投与した際の毒性等を検査することにより、当該薬剤をヒトに投与した際の安全性を予測するための評価方法を意味する。一般に、このような非臨床安全性評価は、1)ヒトに適用する際の安全な初回投与量とその後の増量計画を設定すること、2)毒性の標的となる恐れのある臓器を特定し、その毒性が可逆的なものであるか検討を行うこと、3)臨床でのモニタリングを実施する際の安全性の評価項目を見出すこと、を目的としているが、これらに限定されない。

0049

本発明において、「血液学的検査」とは、主に赤血球RBC)、白血球(WBC)、血小板PLT)などの数や、ヘモグロビン濃度Hb)、ヘマトクリットHt)などの血液の物理的構成を測定する検査を意味し、白血球の5分類好中球リンパ球単球好酸球好塩基球)の割合の測定なども含むことがある。血液学的検査の具体的内容やその検査基準(正常又は異常の判断基準)等は、治療対象の疾患および投与する薬剤に応じて、当業者が適宜選択・設定することができる。

0050

本発明において、「血液生化学検査」とは、血液中化学物質の量、状態等を調べることにより、それぞれの臓器の機能異常を調べる検査を意味する。血液生化学検査の具体的内容やその検査基準(正常又は機能異常の判断基準)等は、治療対象の疾患および投与する薬剤に応じて、当業者が適宜選択・設定することができる。例えば、肝臓の機能障害を起こす疾患については、総たんぱく質(Tp)、アルブミン(Alb)、コリンエステラーゼ(ChE)、乳酸脱水素酵素LDH)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素GOT)、アラニンアミノ基転移酵素(GPT)、γ−GTPグルタミルトランスフェラーゼ)、アルカリホスファターゼ(ALP)、総ビリルビン(T.B)、アミラーゼAMY)等の量を測定することができる。

0051

本発明において、「病理組織学的検査」とは、薬剤を投与した被験動物から得た臓器、組織、細胞などを対象に肉眼顕微鏡等を用いて行う検査を意味する。典型的には、「医薬品の臨床試験および承認申請の非臨床安全性試験」(薬食審査0219−4、平成22年2月19日)に規定される拡張型単回投与毒性試験に準じた検査を行う。病理組織学的検査の具体的内容やその検査基準(正常又は異常の判断基準)等は、治療対象の疾患および投与する薬剤に応じて、当業者が適宜選択することができる。

0052

病理組織学的検査を行う際には、肉眼による検査、光学顕微鏡を用いた検査、電子顕微鏡を用いた検査等を適宜組み合わせて行うことができ、被験動物から得た臓器、組織、細胞は、各検査にあわせて適宜固定、染色等の処理を受けることがある。これらの処理は、公知の情報に基づいて当業者が適切に行うことができる

0053

本発明において、「トランスレーショナル・リサーチ」とは、非臨床段階から臨床段階へ移行するアルファ線核医学治療の候補薬剤が有効性・安全性・品質に関わるすべての研究を意味する。

0054

本発明において、「マイクロドジメトリー」とは、Small Scale Dosimetry(Microdosimetryと呼ぶ)のことであり、アルファ線放出核種の飛程が短いことや、その線エネルギー付与(Local Energy Transfer:LET)の高さに起因して、局所での吸収線量が高いことによって、アルファ線放出核種のドジメトリーは細胞レベルの小スケールで実施しなければならないからである。このような、マイクロスケールである細胞を対象に臨床用量を導くことを、「マイクロドジメトリー」と呼ぶ。
このようなマイクロドジメトリーは、ベータ線放出核種を用いる従来のボクセルタイプのドジメトリーであるMacroscopic Whole−Organ Dosimetryとは大きく異なり、マイクロドジメトリーを実施するには質的な向上を要する。詳細は米国核医学会のMIRD委員会発行するMIRD Monograph: Radiobiology and Dosimetry for Radiopharmaceutical Therapy with Alpha−Particle Emittersにも記載されているが、特に以下の点が問題となる。

0055

第一に、アルファ線放出核種の飛程は、核種によって異なるものの、おおよそ100μm以下程度となる。これに対して、体細胞の大きさは、例えば平滑筋細胞では100μm程度であり、それ以外の細胞も細胞種によって異なるものの、10〜100μm程度となる。したがって、アルファ線放出核種の飛程は、細胞2〜3個分程度しかなく、標的である腫瘍細胞の二重鎖DNAの近傍にアルファ線核医学治療薬剤を送達する必要がある。同時に、標的細胞以外への集積や、標的細胞近傍の細胞に対しての効果も評価する必要がある。

0056

また、アルファ線放出核種はベータ線放出核種に比して、投与対象に与えるエネルギーが大きく、例えば、ベータ線177Lu‐PSMA−617の投与線量が数GBqであるのに対して、アルファ線225Ac‐PSMA−617の投与線量は、数MBqであり、その投与線量は1/1000である。すなわち、アルファ線核医学治療剤の投与量は極めて少量であるために、組織中で不均一に分布すると考えられる。

0057

以上のアルファ線核医学治療剤特有性質のために、吸収フラクションの用量平均化技術による従来のマクロドジメトリー手法は、比較的飛程の長いベータ線やガンマ線放出核種には適合すると考えられるものの、飛程の短いアルファ線核医学治療剤に適用すると、個々の細胞や腫瘍のドジメトリーが不正確となる。アルファ線核医学治療において、腫瘍への治療用量を正確に求めるためには、その核種が効果を発揮するであろう時間に、どのような体内分布をしているのかという問題を、臓器レベルにとどまらず、細胞レベルにおける分布について確認する必要がある。

0058

また、毒性を考慮するためには、腎臓や骨髄などのモデルを構築したうえで、エネルギー付与確率変動も計算し、シミュレーションによって、細胞に与える効果を計算する。このシミュレーションの精度を検証するため動物実験により検証を行い、より高い精度が得られるようになった後に、ヒトに対して外挿するという方法をとることができる(図1参照)。

0059

より具体的には、飛程が短いアルファ線では、細胞の周辺に存在する核種がアルファ線を放出したとしても、DNA二重鎖にヒットしなければ、大きな効果は得られない。したがって、臓器ごとの吸収線量から効果を見積もるよりも、核種ごとにエネルギー付与の確率的変動を考慮して用量を決定する必要がある。この確率的変動に寄与する因子としては、例えば、細胞一つに対して核種が存在する位置が含まれる。例えば、核種が細胞膜上、細胞質あるいは核内に存在するのかで、与える効果が大きく異なる。単純に投与量から核種が細胞のどの位置に存在するのかを導くことは難しいため、臓器モデルを構築し、核種の位置と近傍の細胞へ与える影響をシミュレーションにより計算することが有効である。より具体的には、細胞のそれぞれの微小構造からアルファ線が放射され、ターゲットに効果を与える確率をコンパートメント値という係数として算出し、分布した核種に当該係数を乗じて用量の推定を行う。

0060

アルファ線核医学治療に用いることのできるマイクロドジメトリーとして、Johns Hopkins大学のグループにより提案されているシミュレーションを用いて、MIRDのS−valueに基づいた吸収フラクション・ドジメトリー法をアルファ線核種に適用させる方法を利用することができる(Physics Medicine Biology.,2012,Vol.57,no.13,pp.4403−4424)。
また、後述のPHITS−SMKモデルを用いたマイクロドジメトリーも利用することができる。

0061

(本発明の安全性評価方法)
本発明のアルファ線核医学治療剤の安全性評価方法では、アルファ線核医学治療剤を被験動物に投与した後の第1時点、および第2時点において、血液学的検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行う。

0062

アルファ線核医学治療剤を被験動物に投与する際には、使用する薬剤および対象疾患に合わせて各種投与経路を用いることができ、例えば、経口投与腹腔内、筋肉内、または静脈内注入経皮投与等を用いることができる。

0063

本発明の安全性評価方法において、病理組織学的検査の対象は特に限定されないが、好ましくは、薬剤の吸収および分布に係わる臓器(甲状腺および胃など)、代謝および排泄に関わる主要臓器(肝臓、腎臓など)について病理組織学的検査を行う。

0064

本発明の安全性評価方法において各種検査を行う薬剤投与後の第1時点は特に限定されないが、例えば、投与後6時間、8時間、12時間、18時間、24時間、32時間、36時間、42時間もしくは48時間後、または1日、2日、3日後である。

0065

本発明の安全性評価方法において各種検査を行う薬剤投与後の第2時点は特に限定されないが、例えば、投与後1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、もしくは8週間、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月後である。当該第2時点の検査は、被験薬剤の遅延毒性や被験動物の回復性を評価し得るように設定される。当該設定に当たっては、下記に述べる各種事項調査、検討することができる

0066

(薬剤初回投与量)
アルファ線放出核種の安全性を評価するに当たって重要な考慮要素は投与量である。アルファ線放出核種はベータ線に比べ、線エネルギー付与(LET)が大きく、また飛程が短いという特徴を有している。それゆえアルファ線核医学治療剤の投与量はベータ線放出核種の90Yや177Luに比べ極めて少なくなる。

0067

また、アルファ線核医学治療剤の投与量の決定に当たって重要な考慮因子はアルファ線半減期である。すなわち、アルファ線核種の崩壊様式は核種によって異なり、in vivoジェネレーターと言われる多段階の崩壊を示し、複数回のアルファ線放出を繰り返すものが知られている(PHARM TECH JAPAN, 2017,Vol.33,No.9,pp.95−107)。例えば225Acは安定な209Biに崩壊する間に4回のアルファ線放出と2回のベータ線放出を起こす。225Acは半減期が10日と長く、最初のアルファ線放出からは短時間でアルファ線放出が連続して起こるため、半減期を考慮すると、225Ac標識薬剤は抗体のように血中滞留性が長く、集積に時間を要する薬剤であっても、標的部位以外での被曝は小さくなる。

0068

すなわち、比較的長い半減期を有する225Acを利用するアルファ線核医学治療剤では、生体内標的部位に取り込ませた後、同部位で複数回アルファ線放出をするようにすることで高い腫瘍殺傷効果が得られる。また、標的腫瘍細胞に取り込まれ、そこで安定に存在するようなキレーターに結合した225Acは、血中滞留性が短くても問題はない。

0069

これに対して211Atの場合、半減期が7時間で1回のアルファ線放出により安定な207Pbとなる。すなわち、アルファ線放出が完了するまでの時間は225Acよりも大幅に短く、早期に標的部位に取り込まれる必要があるため、211Atを利用するアルファ線核医学治療剤では、血中滞留性は225Acよりも短い方が好ましい。

0070

このようなアルファ線半減期の相違に基づくと、225Acは細胞傷害性が大きいために投与量は211Atよりも少なくても効果を発揮する一方、細胞傷害性の大きい225Acは1回の投与量を少なくし、次の投与までの間隔を空けて正常細胞の回復を図ることになる。211Atは細胞傷害性が小さく、半減期が短いため、225Acに比べ正常細胞の回復が早く、腫瘍細胞への効果も小さいことから、短期間で繰り返し投与する方が良いと考えられる。これらの投与量の設定の際には、正常組織に有害事象が起こらない量を初回投与し、腫瘍に対する縮小効果を評価してその後の投与回数などを決める必要がある。

0071

本発明の安全性評価における薬剤投与量は、上記を検討の上決定される。

0072

(薬剤分布のイメージング)
アルファ線核医学治療剤の初回投与量およびその後の増量計画に関しては、アルファ線核種を相補する放射性イメージング薬剤(PETあるいはSPECT薬剤)が利用できる場合は、当該相補イメージング薬剤を用いて正常臓器への分布や腫瘍縮小効果を確認して投与量を検討する。また利用し得るバイオマーカーがあればそれを治療効果の判断基準にすることができる。

0073

例えば標的化薬剤としてPSMAを用いる場合であれば、1,4,7,10−tetraazacyclododecane−N,N′,N′′,N′′′−tetraacetic acid (DOTA)という金属キレーターを用いた225Ac−DOTA−PSMAを治療薬剤として用い、これに相補するイメージング薬剤として68Ga−DOTA−PSMAまたは18F標識PSMAを利用し、PET画像診断による集積や正常臓器への集積等を評価して初回投与量を決めることが可能である。またバイオマーカーとしてはProstate Specific Antigen (PSA)を用いることができる。

0074

225Ac−DOTA−PSMAと68Ga−DOTA−PSMA、18F標識PSMAでは正確な薬物動態が異なる可能性がある。しかし全身腫瘍サイズ判定には68Ga−DOTA−PSMAや18F標識PSMAは充分な力を発揮し、治療判定マーカーと成りうる。これらの検討を非臨床段階から行い、腫瘍サイズと投与量による縮小効果、薬剤臓器分布を評価し、正常組織へ有害事象が起こらない線量を予測し初回投与量などの設定を検討する。非臨床段階で様々なケースを予測し、臨床段階に反映できるようデータを蓄積する。

0075

一方、アルファ線放出核種として211Atを使用する場合では相補するイメージング薬剤として123Iが使用可能であるものの、211Atを結合する薬剤と123Iを結合する薬剤では、後述のように薬剤の安定性が全く異なる可能性があるため、その点を考慮して初回投与量などの設定を検討しなければならない。腫瘍の大きさ、血管の豊富さ、腫瘍を構成する細胞の感受性、腫瘍組織不均一性によっても投与量は変化し得る。

0076

投与したアルファ線核医学治療剤から放出されるアルファ線は飛程が短いため、一般に全身からのアルファ線を撮像して放射性物質の局在を評価することは困難である。しかし、211Atは壊変時に特性X線を出すので、非臨床段階では組織を取り出し、切片にして、それをiQID camera (アルファcamera)と呼ばれる特殊なカメラで撮像することにより細胞レベルで放射性物質の局在を明らかにする研究が報告されている(Med Phys.2015.Vol.42,No.7,pp.4094−4105、J Nucl Med.2010,Vol.51,No.10,pp.1616−1623、Scientific Reports,8,DOI:10.1038/s41598−018−21500−z,3194,Feb.16,2018)。当該技術を利用することで放射性物質の臓器分布を正確に評価することができる。また225Acは壊変時に娘核種の221Frから218keV、213Biから440keVのγ線が放出されるので、それを検出することで放射性物質の局在を明らかにする研究が報告されている(Cancer Res.2009,Vol.69,No.23,pp.8941‐8948)。当該技術を用いることで、非臨床段階で詳細な細胞レベルまでの局在を解析することができる。

0077

(アルファ線核医学治療剤の安定性)
アルファ線はベータ線と比べ飛程が短いため、腫瘍周囲に存在する正常組織への傷害が抑えられるという利点がある。またアルファ線核医学治療剤は標的組織には高濃度の標識薬剤を集積させ、正常組織を低い濃度にすることで有害事象を減らせる。しかし標的分子が正常組織にも発現するか、もしくは非特異的に薬剤もしくはその分解物や放射性元素が集積する組織には傷害が起こる可能性を考慮する必要がある。例えば211Atでは同族ヨウ素に性質が類似するため、元素そのままの性質では正常組織である甲状腺、胃、脾臓にも集積することが報告されている(J Nucl Med.2018,doi: 10.2967/jnumed.116.186338)。非臨床段階において集積する可能性の高い臓器を特定することは重要である。放射性薬剤の分布を考慮する際には標識する元素と薬剤の2つに分けて考える必要がある。アルファ線放出核種の標識薬剤ではその安定性が重要な因子となる。すなわち、標識化薬剤の臓器集積のみを評価しても、その薬剤と放射性元素が安定的に結合していない可能性があるので分布の評価を誤る可能性がある。

0078

現在、225AcはキレーターであるDOTAへの高効率な標識法も開発され、その標識体の安定性は高いと言われている(J Nucl Med.,2014,Vol.55,No.9,pp.1492‐1498)。ただし225Acの壊変では反跳により娘核種が集積部位から逸脱することがあり、完全に集積部位へ局在し続ける訳ではない点を考慮する必要がある。225Acから生成する娘核種の221Frや213Biの体内動態も参考にするべきであろう。非臨床段階で組織を取りだしアルファ線を放出する放射性物質の局在を明らかにすることで、225Ac、221Fr、213Biの混在した局在が明らかにでき、また218keVのγ線で221Fr、440keVのγ線で213Biの局在を知ることができる。

0079

211Atの場合、標識化合物の不安定さが問題となり得ることが知られている(Nature Communication Scientific Reports,2017,Vol.7,p.2579)。Atの同族であるヨウ素は酸化によって原子価が容易に変化するが、Atはヨウ素よりもさらに酸化されやすい。炭素−At結合は、結合長が長いためその結合エネルギーは低く、生体内あるいは生体外酸化的環境によりAtが酸化されるとその結合エネルギーはさらに低下するために、標識薬剤から脱アスタチン化しやすい。この問題点の解決が、211At標識化薬剤の開発のために望まれている。なおホウ素クラスターにAtを導入することも可能である(Bioconjugate Chem.,2007,Vol.18,No.4,pp.1226‐1240)。At化ホウ素クラスターはかなり安定であるが、ホウ素クラスターが腫瘍ターゲィングに影響しないような薬剤の開発が必要とされる。

0080

(薬物体動態のシミュレーション)
放射性薬剤の安全性評価では放射性薬剤および放射性元素を含む放射性薬剤の分解物、すなわち、すべての放射性物質の体内動態を検討すべきである。放射性薬剤の場合、効果を発揮するのは放射性元素であり、非臨床段階で重要なことは放射性物質の局在を明らかにすることである。標識されていない分解物は投与物質量から詳細な検討は要しないと考えられる。その際にはアルファ線放出核種と相補となるポジトロン核種またはSPECT核種で薬剤を標識し、PETもしくはSPECTを用いることで標識薬剤の体内動態をマクロで評価し参考データを取る。それにより代謝物や排泄経路が明らかになる。しかし前述のとおり、Atは安定同位体が存在しないため、例えば代わりに123Iを用いた標識体でSPECT撮像し体内動態を明らかにしても、その結果が211Atと同等とは限らない。

0081

安定同位体のない核種の場合、アルファ線標識薬剤を動物に投与し、経時的に屠殺しては組織切片を作成し、αカメラというex vivoオートラジオグラフィーイメージングおよびアルファ線を検出する固体飛跡検出用プラスチック(CR−39)を用いて組織中のアルファ線核種の分布を評価することができる(PLOS ONE,https://doi.org/10.1371/journal.pone.0178472,2017年6月28日)。

0082

非臨床段階で、in vivoでの脱アスタチン化と標識薬剤の量を検討し、放射性元素、標識薬剤やその標識分解物が標的組織や正常臓器に分布するかをシミュレーションすることができる(図1)。

0083

正常組織への集積部位と、細胞内取込量などを考慮し、そこで正常組織に不可逆的な有害事象の起こらない投与量を推定することで正常組織への傷害を可逆的にすることが可能となる。また腫瘍のサイズや、腫瘍内の不均一性により周辺組織へのアルファ線の照射量が変化する。正常組織への集積において集積細胞周辺への影響を調べるには臓器レベルでの集積(Macrodosimetry)だけでなく、細胞レベルでの集積を検討(Microdosimetry)することが推奨されている(Comput Math MethodsMed.,2012,Vol.2012,ID153212)。例えばアルファ線の飛程を考慮し、甲状腺の濾胞上皮細胞周辺の影響のある細胞を推定する必要がある。影響はその配置や距離で異なり、また細胞分裂の頻度の高い細胞がより放射線感受性が高くなる。障害を受ける可能性のある臓器・組織・細胞を考える上では細胞レベルでの集積を検討することが重要であると考えられる。これらの検討において、実験動物の組織変化を病理学的評価することは、非臨床段階における安全性評価に重要な知見をもたらす。

0084

このようなアルファ線核医学治療剤の評価に、PHITS−SMKモデルと称される数理モデルを利用することができる。当該数理モデルは、アルファ線核医学治療と同様に細胞レベルでのミクロ線量の分散が重要となるホウ中性子補足療法(BNCT)の治療効果を推定する数理モデルとして開発されたものである。ホウ素中性子補足療法では各細胞の吸収線量はその細胞に取り込まれる薬剤濃度に依存するため、アルファ線核医学治療と同様に、大きな分散を持つのが特徴である。PHITS−SMKモデルは、あらゆる物質中の放射線挙動を解析可能なモンテカルロ放射線輸送計算コードPHITS(J.Nucl. Sci. Technol. 2018,Vol.55,p.684−690)と、上記MKMに細胞核線量の分散の概念を導入したStochastic Microdosimetric Kinetic Model(SMKモデル)(Radiat. Res.,2012,Vol.178,pp.341−356)で構成されている。

0085

具体的には、(1)PHITSを用いて、ホウ素薬剤が細胞核、細胞質、細胞膜、及び細胞外に局在した場合の細胞核線量の確率密度分布を計算し、(2)ホウ素薬剤の細胞部位集積性と細胞間不均一性を入力情報として、任意のホウ素薬剤及び中性子場における細胞核線量の確率密度分布を評価し、(3)評価した確率密度分布をSMKモデルの入力情報として個々の細胞の生存率及びそこから推定される細胞集団の生存率を計算し、(4)計算した生存率と同じ生存率を与える光子線量をSMKモデルで計算し、生物学的線量(光子等効果線量)を評価する。

0086

従来モデルと比較したPHITS−SMKモデルの最大の特徴は、経験的に定められたRBEを用いずに、ホウ素薬剤濃度の細胞部位集積性及び細胞間不均一性から理論的に生物学的線量を評価できる点にある。したがって、PHITS−SMKモデルは、ホウ素薬剤や放射線場の特性が変わっても、普遍的に利用することができ、従来モデルでは困難であった様々な条件に対する包括的な解析が可能となる。

0087

そして、アルファ線放出薬剤濃度の細胞内及び細胞間不均一性に関する情報が得られれば、全く同様の手法でアルファ線核医学治療に対する生物学的線量を評価することが可能となる。

0088

アルファ線核医学治療に用いることのできるマイクロドジメトリーとして、Johns Hopkins大学のグループにより提案された方法も知られている。

0089

PHITS−SMKモデルと、Johns Hopkins大学の提案するするJohns Hopkinsモデルを比較すると、以下の表1のようになる。



本発明では、これらの細胞等の微細構造をターゲットとしたシミュレーション工程を包含するマイクロドジメトリーのいずれか、またはこれらの組み合わせを用いて、正確なドジメトリーを行うことができる。

0090

(アルファ線核医学治療剤の品質)
アルファ線核医学治療剤の安全性を評価するに当たり、更なる重要な考慮因子はアルファ線核医学治療剤の品質である。特に、アルファ線核医学治療剤の有する比放射能、すなわち、物質量あたりの放射能の強さは、アルファ線核医学治療剤の安全性に大きく影響する。物質量をモル数で、放射能をBqで表すと、比放射能はBq/molという単位で表される。放射性医薬品の投与量は薬効に直接関与する放射能で規定されるが、一方で物質量も体内分布に関わる重要な因子であるから、同じ核種、放射能量の薬剤であっても比放射能が異なると、安全性が異なる可能性がある。

0091

例えば、比放射能が低い場合、その薬剤の中にはアルファ線放出核種で標識されていない薬剤が多く含まれていることを意味し、非標識薬剤が標的分子に対して結合することでアルファ線核医学治療剤と競合阻害を起こすこととなる。つまり標識分子に対し過量の標識薬剤を投与する場合、比放射能が低いと投与量が増えるから相対的に放射性薬剤が標的臓器に集積する量が減り、逆に標的臓器外に分布することになり、正常組織の被曝が増加する。それゆえ比放射能はある程度高い方が良い。非臨床段階から血中に滞留する薬剤の量をモニタリングし、比放射能と投与量と血中滞留薬剤との相関を確認し、最適な投与条件を考える必要がある。

0092

一方、逆に比放射能が高いと放射線量が強く、物質量は少ないことになる。この場合、アルファ線核医学治療剤の放射線分解が起こりやすいという問題が生じる。すなわち比放射能が高いほど標識薬剤は分解しやすくなり、それにより分解物を含んだ薬剤となる。また投与後の分解速度や標的集積性にも変化を生じる。また、容器などへの非特異的吸着により標識薬剤をロスすることになり、扱いが困難になることが懸念されるし、容器へ吸着することで正確な投与が困難なことも想定される。

0093

また、アルファ線核医学治療剤として、アルファ線放出核種と標的化分子が結合した化合物を用いる場合、アルファ線放出核種と標的化分子の結合効率は一般に100%を下回るため、アルファ線放出核種と結合していない未標識の標的化分子が不純物として混入する。これら未標識の標的化分子も競合阻害などの問題を引き起こす。

0094

したがって、安全性評価に際しては、薬剤合成法を充分に検討し、毎回同じ品質(標識率、比放射能等)であることを検査する必要がある。

0095

(アルファ線核医学治療剤のスクリーニング方法)
本発明の安全性評価方法を用いることにより、毒性が低く、安全性に優れたアルファ線核医学治療剤をスクリーニングすることができる。

0096

具体的には、各候補アルファ線核医学治療剤について、本発明の安全性評価方法を適用することにより当該治療剤の安全性を評価することで、より毒性が低く、安全性に優れたアルファ線核医学治療剤をスクリーニングすることができる。各候補アルファ線核医学治療剤間の安全性の比較に際しては、血液学検査による評価、血液生化学検査による評価、病理組織学的検査による評価を総合的に評価する指標を用いることができる。より具体的には、総合的な評価指標として、(1)治療反応性を示す患者を選択し、(2)毒性を避け、(3)血液学的検査のうえ、定量的なイメージングを伴うことで腫瘍バイオプシーとすること、(4)血液生化学検査によってジェネティックエピジェネティックマーカー分析を伴い、質の高い投与量設定を導くこと、(5)病理組織学的検査によって異常所見に対する正しい解釈を導くこと、といった評価を行い、より毒性が低く、安全性に優れたアルファ線核医学治療剤をスクリーニングすることができる。ここで、マイクロドジメトリーは総合的な指標として重要視され、言い換えれば、上記評価指標において、「マイクロドジメトリーは理想的なバイオマーカーになる」といえる。

0097

(アルファ線核医学治療剤を非臨床段階から臨床段階へ移行するトランスレーショナル・リサーチ方法)
本発明の安全性評価方法を用いることにより、候補アルファ線核医学治療剤についての毒性、安全性を正確に評価し、非臨床段階から臨床段階への移行を促進するトランスレーショナル・リサーチ方法を提供することができる。

0098

各候補アルファ線核医学治療剤の毒性、安全性の評価に際しては、上述のアルファ線核医学治療剤のスクリーニング方法と同様に、血液学検査による評価、血液生化学検査による評価、病理組織学的検査による評価を総合的に評価する指標を用いることができる。

0099

より具体的には、一例として、本発明のマイクロドジメトリーおよび薬物体内動態のシミュレーションを利用した安全性評価方法では、(1)相補的な核種を用いた標識薬剤及び放射性元素単独のPETもしくはSPECTによる体内動態解析工程(全身レベルでの局在を評価)、(2)アルファ線標識薬剤を投与した動物組織中の放射性物質の、αカメラや固体飛跡検出用プラスチックなどを用いた局在解析工程(組織レベルでの局在を評価)、(3)アルファ線標識薬剤を投与した動物組織中の病理組織学的検査を行い、炎症の惹起などを確認し、薬剤の有害事象を評価する工程(細胞レベルでの影響を評価)を含み、投与量を増加して工程(1)〜(3)を繰り返すことで毒性を発現する臓器を評価することを含む。更に、(4)上記マイクロドジメトリーを組み込んだシミュレーションを構築し、組織内での分布を細胞レベルで評価し、シミュレーションにより効果や周辺細胞への効果を見積もる工程を含んでもよい。さらに、(5)動物実験によりその安全性評価手法の正確性を検証した後に、ヒトへの外挿を行う工程を含む。

0100

以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。

0101

211At含有アルファ線核医学治療剤の安全性評価
担癌マウスの薬理試験プロトコールにしたがい、1用量の211At含有アルファ線核医学治療剤をマウスに静脈内投与する。投与の翌日に、血液検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行う。血液検査として赤血球・白血球・血小板の数を測定(血算測定)するとともに形態(血液像)を観察し、血液生化学検査として酵素、たんぱく質、脂質などの測定を行うことで、肝臓や腎臓などの臓器の機能評価、障害の程度を把握する。病理組織学的検査として、甲状腺、胃、肝臓、腎臓を検査する。具体的には、採取した臓器や組織から作製した薄切り切片を顕微鏡で細胞・組織の構造や細胞の形態を観察し(細胞診という)、がん細胞の有無の検査を実施する。投与の14日後に、同様の血液検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行う。血液検査として血算測定および血液像を観察し、血液生化学検査として酵素、たんぱく質、脂質の測定のうえ臓器の機能評価・障害の程度を把握し、病理組織学的検査として、甲状腺、胃、肝臓、腎臓を検査する。具体的には、細胞診によってがん細胞の有無の検査を実施する。

0102

そして、予め定められた血液検査、血液生化学検査、及び病理組織学的検査の個別の検査基準(判断基準)に基づいて、各検査において「正常」又は「異常」のいずれかが判定されると、各検査結果に基づいて、211At含有アルファ線核医学治療剤が総合的に安全であるか否かが判定される。この場合、211At含有アルファ線核医学治療剤が総合的に安全であるか否かを判定する方法として、ソフトウェアを用いてもよい。

実施例

0103

225Ac含有アルファ線核医学治療剤の安全性評価
担癌マウスの薬理試験プロトコールにしたがい、1用量の225Ac含有アルファ線核医学治療剤をマウスに静脈内投与する。投与の翌日に、血液検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行う。血液検査として血算測定をするとともに血液像を観察し、血液生化学検査として酵素、たんぱく質、脂質の測定のうえ臓器の機能評価・障害の程度を把握し、病理組織学的検査として、甲状腺、胃、肝臓、腎臓を検査する。具体的には、細胞診によってがん細胞の有無の検査を実施する。投与の1ヶ月後に、同様の血液検査、血液生化学検査および病理組織学的検査を行う。血液検査として血算測定および血液像を観察し、血液生化学検査として酵素、たんぱく質、脂質の測定のうえ臓器の機能評価・障害の程度を把握し、病理組織学的検査として、甲状腺、胃、肝臓、腎臓を検査する。具体的には、細胞診によってがん細胞の有無の検査を実施する。なお、実施例1と同様に、225Ac含有アルファ線核医学治療剤が総合的に安全であるか否かが判定される。また、その判定方法として、ソフトウェアを用いてもよい。

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