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技術 転がり軸受、車輪支持装置、および風力発電用主軸支持装置

出願人 NTN株式会社
発明者 中西雅樹三上英信
出願日 2019年2月27日 (2年1ヶ月経過) 出願番号 2019-034126
公開日 2020年3月26日 (1年0ヶ月経過) 公開番号 2020-046068
状態 未査定
技術分野 物理蒸着 ころがり軸受 炭素・炭素化合物
主要キーワード 左右各列 小径リング 大径リング 盛り上がり高 表層形成 各軸受部材 切削効果 黒鉛ターゲット
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2020年3月26日)のものです。
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図面 (16)

課題

荷重または潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下や異物混入した条件下で他部材と接触する場合でも、DLC膜耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮させることで、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる転がり軸受を提供する。

解決手段

深溝玉軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4と、転動体4を保持する保持器5を備え、内輪軌道面2a等に硬質膜8が成膜されてなり、硬質膜8が他の軸受部材転がり接触および滑り接触するものであり、この硬質膜8は、下地層と、この上に成膜されるWCとDLCとを主体とする傾斜組成混合層と、この上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、表面層のISO14577法により測定される押し込み硬さが9〜22GPaである。

概要

背景

硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素無定形炭素、硬質無定形炭素、i−カーボンダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。

このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性固体潤滑性熱伝導性化学安定性耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型工具類耐摩耗性機械部品研磨材摺動部材磁気光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法イオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロンスパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。

従来、転がり軸受軌道輪軌道面や、転動体転動面、保持器摺接面などに対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。このため、転がり軸受における上記各面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。

例えば、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図ったものとして、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるDLC層とが、この順に形成されてなる転動装置が提案されている(特許文献1参照)。

また、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図ったものとして、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。

例えば、転がり軸受は、自動車懸架装置に対して車輪を回転自在に支持するための車輪支持装置などに適用される。後輪駆動型車両における前輪の如き非駆動輪を支持する車輪支持装置においては、ステアリングナックルに設けられたアクスルナックルスピンドル)上に2個の転がり軸受を取付け、その転がり軸受によって回転自在に支持されたアクスルハブ外径面にフランジを設け、このフランジに設けられたスタッドボルトと、これにねじ係合されるナットによってブレーキ装置ブレーキドラムおよび車輪のホイールディスクを取付けるようにしている。また、ステアリングナックルに設けられたフランジにバックプレートを取付け、そのバックプレートによってブレーキドラムに制動力を付与する制動機構を支持するようにしている。上記のような車輪支持装置においては、アクスルハブを回転自在に支持する転がり軸受として、負荷容量の大きい剛性の高い円すいころ軸受が用いられる。この円すいころ軸受は、アクスルとアクスルハブ間に充填されたグリースによって潤滑される。

車輪支持装置に用いられる転がり軸受は、高速、高荷重という過酷な使用条件のため、特に、円すいころの大径側の端面と鍔部の端面とで滑り運動するため、グリースの潤滑油膜破断しやすくなる。潤滑油膜が破断すると金属接触が起こり、発熱摩擦摩耗が増大する不具合が発生する。そのため、高速、高荷重下での潤滑性および耐荷重性を向上させ、潤滑油膜破断による金属接触を防止する必要があり、極圧剤含有グリースを使用して、その不具合を軽減している。

従来、高速下で、高荷重のかかる車輪支持装置の例として、ニッケル、テルルセレン、銅、鉄の中から選択される金属を含む有機金属化合物グリース全量に対して、20重量%以下含まれることを特徴とするグリースを封入した鉄道車両用軸受が知られている(特許文献3参照)。

しかしながら、ころ軸受の使用条件がdN値10万以上という高速条件下での潤滑など過酷になるにつれて、従来のグリースではころ軸受の使用が困難になるなどの問題がある。車輪支持装置用こ軸受は、内、外輪の軌道面と転動体である「ころ」との間に転がり摩擦が、鍔部と「ころ」との間に滑り摩擦が発生する。転がり摩擦に比べると滑り摩擦は大きいので、使用条件が過酷になると鍔部の焼付きが生じやすくなる。そのためグリースの交換作業等が頻繁になりメンテナンスフリー化を達成できないという問題がある。

概要

高荷重または潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下や異物混入した条件下で他部材と接触する場合でも、DLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮させることで、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる転がり軸受を提供する。深溝玉軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4と、転動体4を保持する保持器5を備え、内輪軌道面2a等に硬質膜8が成膜されてなり、硬質膜8が他の軸受部材転がり接触および滑り接触するものであり、この硬質膜8は、下地層と、この上に成膜されるWCとDLCとを主体とする傾斜組成混合層と、この上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、表面層のISO14577法により測定される押し込み硬さが9〜22GPaである。

目的

本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高荷重または潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下や異物が混入した条件下で他部材と接触する場合でも、DLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮させることで、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる転がり軸受の提供を目的とする

効果

実績

技術文献被引用数
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牽制数
0件

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請求項1

外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間を転動する複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器とを備え、前記内輪、前記外輪、前記複数の転動体、および前記保持器が鉄系材料からなる転がり軸受であって、硬質膜は、前記内輪、前記外輪、前記転動体、および前記保持器から選ばれる少なくとも一つの軸受部材の表面に直接成膜される下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイトダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、該硬質膜が他の軸受部材と転がり接触および滑り接触するものであり、前記表面層のISO14577法により測定される押し込み硬さが9〜22GPaであり、前記混合層は、前記下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の前記タングステンカーバイトの含有率が小さくなり、該混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であることを特徴とする転がり軸受。

請求項2

前記表面層の押し込み硬さが10〜15GPaであることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。

請求項3

前記表面層は、前記混合層との隣接側に、前記表面層の押し込み硬さよりも小さい押し込み硬さの傾斜層部分を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の転がり軸受。

請求項4

前記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼炭素鋼工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の転がり軸受。

請求項5

前記下地層が、クロムとタングステンカーバイトとを主体とする層であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の転がり軸受。

請求項6

アクスル外径面上に取付けられた転がり軸受を備え、該転がり軸受によって車輪と共に回転する回転部材を回転自在に支持する車輪支持装置であって、前記転がり軸受が、請求項1から請求項5までの転がり軸受であることを特徴とする車輪支持装置。

請求項7

前記転がり軸受が、円すいころ軸受であり、該円すいころ軸受は、前記転動体である円すいころの大径側の端面と、前記内輪に形成された大鍔の端面とが転がり接触および滑り接触する軸受であり、前記円すいころの大径側の端面および前記内輪の大鍔の端面の少なくとも一方に前記硬質膜が形成されていることを特徴とする請求項6記載の車輪支持装置。

請求項8

前記転がり軸受が、風力発電機ブレードが取付けられた主軸を支持する軸受であり、該軸受が、前記内輪と前記外輪との間に、前記転動体として軸方向に並んで2列にころを介在させ、前記外輪軌道面を球面状とし、前記ころの外周面を前記外輪軌道面に沿う形状とした複列自動調心ころ軸受であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の転がり軸受。

請求項9

前記内輪は、該内輪の外周面において前記2列のころ間に設けられ、各列のころの軸方向内側の端面と滑り接触する中鍔と、前記内輪の外周面の両端にそれぞれ設けられ、各列のころの軸方向外側の端面と滑り接触する小鍔とを備え、前記各列のころのうち、少なくとも一方の列のころの外周面に前記硬質膜が形成されていることを特徴とする請求項8記載の転がり軸受。

請求項10

ブレードが取付けられた主軸を、ハウジングに設置された1個または複数の軸受によって支持する風力発電用主軸支持装置であって、前記軸受のうち少なくとも一個が請求項8または請求項9記載の複列自動調心ころ軸受であり、該複列自動調心ころ軸受において、前記ブレードから遠い方の列の軸受部分を、近い方の軸受部分よりも負荷容量が大きいものとしたことを特徴とする風力発電用主軸支持装置。

技術分野

0001

本発明は、軸受部材である内輪外輪転動体保持器表面にダイヤモンドライクカーボンを含む硬質膜成膜した転がり軸受に関する。また、該転がり軸受を適用した車輪支持装置風力発電用主軸支持装置に関する。

背景技術

0002

硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素無定形炭素、硬質無定形炭素、i−カーボンダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。

0003

このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性固体潤滑性熱伝導性化学安定性耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型工具類耐摩耗性機械部品研磨材摺動部材磁気光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法イオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロンスパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。

0004

従来、転がり軸受の軌道輪軌道面や、転動体の転動面、保持器の摺接面などに対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。このため、転がり軸受における上記各面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。

0005

例えば、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図ったものとして、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるDLC層とが、この順に形成されてなる転動装置が提案されている(特許文献1参照)。

0006

また、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図ったものとして、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成した転がり軸受が提案されている(特許文献2参照)。

0007

例えば、転がり軸受は、自動車懸架装置に対して車輪を回転自在に支持するための車輪支持装置などに適用される。後輪駆動型車両における前輪の如き非駆動輪を支持する車輪支持装置においては、ステアリングナックルに設けられたアクスルナックルスピンドル)上に2個の転がり軸受を取付け、その転がり軸受によって回転自在に支持されたアクスルハブ外径面にフランジを設け、このフランジに設けられたスタッドボルトと、これにねじ係合されるナットによってブレーキ装置ブレーキドラムおよび車輪のホイールディスクを取付けるようにしている。また、ステアリングナックルに設けられたフランジにバックプレートを取付け、そのバックプレートによってブレーキドラムに制動力を付与する制動機構を支持するようにしている。上記のような車輪支持装置においては、アクスルハブを回転自在に支持する転がり軸受として、負荷容量の大きい剛性の高い円すいころ軸受が用いられる。この円すいころ軸受は、アクスルとアクスルハブ間に充填されたグリースによって潤滑される。

0008

車輪支持装置に用いられる転がり軸受は、高速、高荷重という過酷な使用条件のため、特に、円すいころの大径側の端面と鍔部の端面とで滑り運動するため、グリースの潤滑油膜破断しやすくなる。潤滑油膜が破断すると金属接触が起こり、発熱摩擦摩耗が増大する不具合が発生する。そのため、高速、高荷重下での潤滑性および耐荷重性を向上させ、潤滑油膜破断による金属接触を防止する必要があり、極圧剤含有グリースを使用して、その不具合を軽減している。

0009

従来、高速下で、高荷重のかかる車輪支持装置の例として、ニッケル、テルルセレン、銅、鉄の中から選択される金属を含む有機金属化合物グリース全量に対して、20重量%以下含まれることを特徴とするグリースを封入した鉄道車両用軸受が知られている(特許文献3参照)。

0010

しかしながら、ころ軸受の使用条件がdN値10万以上という高速条件下での潤滑など過酷になるにつれて、従来のグリースではころ軸受の使用が困難になるなどの問題がある。車輪支持装置用こ軸受は、内、外輪の軌道面と転動体である「ころ」との間に転がり摩擦が、鍔部と「ころ」との間に滑り摩擦が発生する。転がり摩擦に比べると滑り摩擦は大きいので、使用条件が過酷になると鍔部の焼付きが生じやすくなる。そのためグリースの交換作業等が頻繁になりメンテナンスフリー化を達成できないという問題がある。

先行技術

0011

特許第4178826号公報
特許第3961739号公報
特開平10−17884号公報

発明が解決しようとする課題

0012

転がり滑り運動において発生する高い接触面圧下ではフレーキングの防止は容易でなく、特に滑り摩擦により強いせん断力が発生し得るような潤滑・運転条件においてはより困難となる。DLC膜の適用が検討される摺動面は、潤滑状態が悪く、滑りを伴うといった状況であることが多く、一般的な転がり軸受における運転状況より厳しい場合が多い。また、異物混入した状態で使用されることがあるため、その状態での焼き付き、摩耗などを抑制する必要があるが、異物が噛み込んだ際の局所的な高面圧および母材の変形に対しての耐剥離性の確保はさらに困難である。

0013

上記した特許文献1、2の技術は、硬質膜の剥離防止などを図ったものであるが、得られた転がり軸受について、使用条件に応じた要求特性満足させるべく、DLC膜を適用する際の膜構造成膜条件には更なる改善の余地がある。

0014

本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高荷重または潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下や異物が混入した条件下で他部材と接触する場合でも、DLC膜の耐剥離性を向上させ、DLC膜本来の特性を発揮させることで、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる転がり軸受の提供を目的とする。また、上記転がり軸受を適用した車輪支持装置および風力発電用主軸支持装置の提供を目的とする。

課題を解決するための手段

0015

外周に内輪軌道面を有する内輪と、内周外輪軌道面を有する外輪と、上記内輪軌道面と上記外輪軌道面との間を転動する複数の転動体と、上記転動体を保持する保持器とを備え、上記内輪、上記外輪、上記複数の転動体、および上記保持器が鉄系材料からなる転がり軸受であって、硬質膜は、上記内輪、上記外輪、上記転動体、および上記保持器から選ばれる少なくとも一つの軸受部材の表面に直接成膜される下地層と、該下地層の上に成膜されるタングステンカーバイト(以下、WCと記す)とDLCとを主体とする混合層と、該混合層の上に成膜されるDLCを主体とする表面層とからなる構造の膜であり、該硬質膜が他の軸受部材と転がり接触および滑り接触するものであり、上記表面層のISO14577法により測定される押し込み硬さが9〜22GPaであり、上記混合層は、上記下地層側から上記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の上記WCの含有率が小さくなり、該混合層中の上記DLCの含有率が高くなる層であることを特徴とする。

0016

上記表面層の押し込み硬さが10〜15GPaであることを特徴とする。

0017

上記表面層は、上記混合層との隣接側に、上記表面層の押し込み硬さよりも小さい押し込み硬さの傾斜層部分を有することを特徴とする。

0018

上記鉄系材料が、高炭素クロム軸受鋼炭素鋼工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼であることを特徴とする。

0019

上記下地層が、CrとWCとを主体とする層であることを特徴とする。

0020

本発明の車輪支持装置は、アクスルの外径面上に取付けられた転がり軸受を備え、該転がり軸受によって車輪と共に回転する回転部材を回転自在に支持する車輪支持装置であって、上記転がり軸受が、本発明の転がり軸受であることを特徴とする。

0021

上記転がり軸受が、円すいころ軸受であり、該円すいころ軸受は、上記転動体である円すいころの大径側の端面と、上記内輪に形成された大鍔の端面とが転がり接触および滑り接触する軸受であり、上記円すいころの大径側の端面および上記内輪の大鍔の端面の少なくとも一方に上記硬質膜が形成されていることを特徴とする。

0022

上記転がり軸受が、風力発電機ブレードが取付けられた主軸を支持する軸受であり、該軸受が、上記内輪と上記外輪との間に、上記転動体として軸方向に並んで2列にころを介在させ、上記外輪軌道面を球面状とし、上記ころの外周面を上記外輪軌道面に沿う形状とした複列自動調心ころ軸受であることを特徴とする。

0023

上記内輪は、該内輪の外周面において上記2列のころ間に設けられ、各列のころの軸方向内側の端面と滑り接触する中鍔と、上記内輪の外周面の両端にそれぞれ設けられ、各列のころの軸方向外側の端面と滑り接触する小鍔とを備え、上記各列のころのうち、少なくとも一方の列のころの外周面に上記硬質膜が形成されていることを特徴とする。

0024

本発明の風力発電用主軸支持装置は、ブレードが取付けられた主軸を、ハウジングに設置された1個または複数の軸受によって支持する風力発電用主軸支持装置であって、上記軸受のうち少なくとも一個が上記複列自動調心ころ軸受であり、該複列自動調心ころ軸受において、上記ブレードから遠い方の列の軸受部分を、近い方の軸受部分よりも負荷容量が大きいものとしたことを特徴とする。

発明の効果

0025

本発明の転がり軸受は、内輪、外輪、転動体、および保持器から選ばれる少なくとも一つの軸受部材の表面に、DLCを含む所定の膜構造の硬質膜を有するとともに、該硬質膜が他の軸受部材と転がり接触および滑り接触する条件で使用される軸受である。中間層がWCとDLCの混合層(WC/DLC)であり、傾斜組成とされているので、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。これに加えて、上記表面層は、押し込み硬さが9〜22GPaであるので、特に高荷重または潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下や、異物が混入した条件下で他部材と接触する場合でも硬質膜の耐焼き付き性に優れる。

0026

上記構造により、該硬質膜は、例えば、転動体の転動面に形成されながら耐剥離性に優れ、DLC本来の特性を発揮できる。その結果、転がり軸受は、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れ、無潤滑状態を含む苛酷な潤滑状態や、異物混入潤滑環境下でも摺動面などの損傷が少なく長寿命となる。

0027

本発明の車輪支持装置は、アクスルの外径面上に取付けられた転がり軸受として本発明の転がり軸受を備えるので、摺動面の耐摩擦摩耗性に優れ、長期耐久性に優れる。

0028

本発明の風力発電用主軸支持装置は、ブレードが取付けられた主軸を少なくとも本発明の転がり軸受で支持するので、高荷重または潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下であっても硬質膜の耐剥離性に優れ、軸受の長寿命となり、メンテナンスフリー化にも寄与する。また、該軸受が、内輪と外輪との間に、軸方向に並んで2列にころを介在させた複列自動調心ころ軸受であり、2列のころのうち、少なくとも一方の列のころの外周面に硬質膜が形成されているので、2列のころのうち一方の列のころに、より大きなスラスト荷重がかかる風力発電機主軸用軸受特有使用状態に適している。

図面の簡単な説明

0029

本発明の転がり軸受の一例を示す断面図である。
本発明の転がり軸受の他の例を示す断面図である。
硬質膜の構造を示す模式断面図である。
車輪支持装置の一例を示す断面図である。
本発明の円すいころ軸受の一例を示す切欠き斜視図である。
本発明の円すいころ軸受の別例を示す切欠き斜視図である。
風力発電用主軸支持装置を含む風力発電機全体の模式図である。
風力発電用主軸支持装置を示す図である。
本発明の複列自動調心ころ軸受の模式断面図である。
従来の風力発電機における主軸支持用の軸受を示す図である。
UBMS法の成膜原理を示す模式図である。
UBMS装置の模式図である。
往復動滑り試験機の概要を示す図である。
円筒試験機の模式図である。
圧痕盛り上がり高さの測定例を示す図である。

0030

DLC膜などの硬質膜は膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件の影響により大きく異なり、その結果、耐剥離性にも大きな影響を及ぼす。また、耐剥離性は硬質膜が使用される条件によっても変化する。本発明者らは、往復動滑り試験などにより、例えば潤滑状態が悪く(境界潤滑下)、滑り接触する条件下で検証を重ねた結果、転がり軸受の表面に形成する硬質膜について、その膜構造を限定するとともに、特に硬質膜表面層の押し込み硬さを所定範囲内とすることで、該条件下での耐剥離性の向上が図れることを見出した。さらに、この硬質膜は、軸受の実使用条件である、異物が混入した潤滑条件下でも耐剥離性に優れ、異物により形成された圧痕による軌道面損傷を抑制できることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。

0031

本発明の転がり軸受を図1および図2に基づいて説明する。図1は、内・外輪軌道面に後述の硬質膜を形成した深溝玉軸受の断面図を、図2は転動体の転動面に硬質膜を形成した深溝玉軸受の断面図をそれぞれ示す。深溝玉軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体4とを備える。転動体4は保持器5により一定間隔で保持されている。シール部材6により、内・外輪の軸方向両端開口部がシールされ、軸受空間にグリース7が封入されている。グリース7としては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。

0032

例えば図1(a)の転がり軸受では、内輪2の外周面(内輪軌道面2aを含む)に硬質膜8が形成されており、図1(b)の転がり軸受では、外輪3の内周面(外輪軌道面3aを含む)に硬質膜8が形成されているが、適用用途に応じて内輪、外輪、転動体、および転動体の少なくとも1面に硬質膜が形成してあればよい。

0033

また、図2の転がり軸受では、転動体4の転動面に硬質膜8が形成されている。図2の転がり軸受は深溝玉軸受であることから、転動体4は玉であり、その転動面は球面全体である。図に示した態様以外の転がり軸受として、円筒ころ軸受や円すいころ軸受を用いる際に、該硬質膜8をその転動体に形成する場合は、少なくとも転動面(円筒外周など)に形成してあればよい。特に、車輪支持装置に用いられる円すいころ軸受や、風力発電用主軸支持装置に用いられる複列自動調心ころ軸受については後述する。

0034

図1および図2に示すように、深溝玉軸受の内輪軌道面2aは、転動体4である玉を案内するため、軸方向断面が円弧溝状である円曲面である。同様に、外輪軌道面3aも、軸方向断面が円弧溝状である円曲面である。この円弧溝の曲率半径は、一般的に鋼球径をdwとすると、0.51〜0.54dw程度である。また、図に示した態様以外の転がり軸受として、円筒ころ軸受や円錐ころ軸受を用いる場合では、これらの軸受のころを案内するため、内輪軌道面および外輪軌道面は、少なくとも円周方向で曲面となる。その他、自動調心ころ軸受などの場合、転動体としてたる型ころを用いるので、内輪軌道面および外輪軌道面は、円周方向に加えて、軸方向についても曲面となる。本発明の転がり軸受は、内輪軌道面および外輪軌道面が、以上のいずれの形状であってもよい。

0035

本発明の深溝玉軸受1において、硬質膜8の成膜対象となる軸受部材である内輪2、外輪3、転動体4、および保持器5は鉄系材料からなる。鉄系材料としては、軸受部材として一般的に用いられる任意の鋼材などを使用でき、例えば、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などが挙げられる。

0036

これらの軸受部材において、硬質膜が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、硬質膜(下地層)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。

0037

上記硬質膜が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、硬質膜(下地層)との密着性をさらに向上させるために好ましい。

0038

上記硬質膜が形成される面の表面粗さRaは、0.05μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.05μmをこえると、粗さの突起先端に硬質膜が形成され難くなり、局所的に膜厚が小さくなる。

0039

本発明における硬質膜の構造を図3に基づいて説明する。図3は、図1(a)の場合における硬質膜8の構造を示す模式断面図である。図3に示すように、該硬質膜8は、(1)内輪2の内輪軌道面2a上に直接成膜される下地層8aと、(2)下地層8aの上に成膜されるWCとDLCとを主体とする混合層8bと、(3)混合層8bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層8cとからなる3層構造を有する。本発明では、硬質膜の膜構造を上記のような3層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。

0040

下地層8aは、基材となる各軸受部材の表面に直接成膜される下地層である。材質や構造は、基材との密着性を確保できるものであれば特に限定されず、例えば材質としてCr、W、Ti、Siなどが使用できる。これらの中でも、基材となる軸受部材(例えば高炭素クロム軸受鋼)との密着性に優れることから、Crを含むことが好ましい。

0041

また、下地層8aは、混合層8bとの密着性も考慮して、CrとWCとを主体とする層であることが好ましい。WCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。特に、内輪2側から混合層8b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成とすることが好ましい。これにより、内輪2と混合層8bとの両面での密着性に優れる。

0042

混合層8bは、下地層と表面層との間に介在する中間層となる。混合層8bに用いるWCは、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。混合層8bが、下地層8a側から表面層8c側に向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さく、かつ、該混合層中のDLCの含有率が高くなる傾斜組成であるので、下地層8aと表面層8cとの両面での密着性に優れる。また、該混合層内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっており、該混合層内での破損などを防止できる。さらに、表面層8c側ではDLC含有率が高められているので、表面層8cと混合層8bとの密着性に優れる。

0043

混合層8bは、非粘着性の高いDLCをWCによって下地層8a側にアンカー効果で結合させる層である。

0044

表面層8cは、DLCを主体とする膜である。表面層8cにおいて、混合層8bとの隣接側に、緩和層部分8dを有することが好ましい。これは、混合層8bと表面層8cとで成膜条件パラメータ炭化水素系ガス導入量真空度バイアス電圧)が異なる場合、これらパラメータの急激な変化を避けるために、該パラメータの少なくとも1つを連続的または段階的に変化させることで得られる緩和層部分である。より詳細には、混合層8bの最表層形成時の成膜条件パラメータを始点とし、表面層8cの最終的な成膜条件パラメータを終点として、各パラメータをこの範囲内で連続的または段階的に変化させる。これにより、混合層8bと表面層8cとの急激な物性(硬度・弾性率等)の差がなくなり、混合層8bと表面層8cとの密着性がさらに優れる。なお、バイアス電圧を連続的または段階的に上昇させることで、DLC構造におけるグラファイト構造(sp2)とダイヤモンド構造(sp3)との構成比率が後者に偏っていき、硬度が傾斜(上昇)する。

0045

後述の実施例に示すように、無潤滑状態で他部材と滑り接触する場合において硬質膜の耐剥離性を向上させるには、硬質膜の表面層の表面硬さを所定範囲にすることが重要となる。また、異物が混入した潤滑状態で他部材と転がり滑り接触する場合においても該硬質膜の表面層の表面硬さが重要となる。本発明の転がり軸受において、硬質膜の表面層のISO14577法により測定される押し込み硬さは9〜22GPaであり、好ましくは10〜21GPaであり、より好ましくは10〜15GPaであり、さらに好ましくは10〜13GPaである。また、表面層8cが緩和層部分8dを有する構成では、表面層8cの押し込み硬さに比べて、緩和層の押し込み硬さは小さくなっており、該緩和層の押し込み硬さは、例えば9〜22GPaである。なお、緩和層は、混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなっている。

0046

硬質膜8の膜厚(3層の合計)は0.5〜3.0μmとすることが好ましい。膜厚が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣る場合があり、3.0μmをこえると剥離し易くなる。さらに、該硬質膜8の膜厚に占める表面層8cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、混合層8bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化するおそれがある。

0047

硬質膜8を以上のような組成の下地層8a、混合層8b、表面層8cからなる3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。

0048

本発明の転がり軸受において、以上のような構造・物性の硬質膜を形成することで、使用時に滑り接触の負荷を受けた場合でも、該膜の摩耗や剥離を防止でき、苛酷な潤滑状態でも軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。また、異物が混入した潤滑条件下においても、異物により形成された圧痕による軌道面損傷を抑制できるため長寿命となる。また、グリースを封入した転がり軸受において、軌道輪などの損傷により金属新生面露出すると、触媒作用によりグリース劣化を促進させるが、本発明の転がり軸受では、硬質膜により金属接触による軌道面や転動面の損傷を防止できるので、このグリース劣化も防止できる。

0049

本発明の転がり軸受を車輪支持装置に適用した例を図4に基づいて説明する。図4は本発明の車輪支持装置の断面図である。図4に示すように、ステアリングナックル11にはフランジ12と、アクスル13とが設けられ、そのアクスル13の外径面上に取付けた一対の円すいころ軸受14a、14bによって回転部材としてのアクスルハブ15が回転自在に支持されている。アクスルハブ15は、外径面にフランジ16を有し、そのフランジ16に設けたスタッドボルト17と、そのスタッドボルト17にねじ係合したナット18によってブレーキ装置のブレーキドラム19、および車輪のホイールディスク20が取付けられている。21はホイールディスク20の外径面に取付けられたリムを示し、そのリム上にタイヤが取付けられる。図4においては、円すいころ軸受14a、14bが車輪支持装置に相当する。

0050

上記ステアリングナックル11のフランジ12にはスタッドボルト17、ナット18の締付けによってブレーキ装置のバックプレート22が取付けられている。バックプレート22にはブレーキドラム19に制動力を付与する制動機構が支持されるが、図では省略してある。

0051

アクスルハブ15を回転自在に支持する上記一対の円すいころ軸受14a、14bは、アクスルハブ15内に封入されたグリースによって潤滑される。その円すいころ軸受14bから外部にグリースが漏洩したり、外部から泥水が浸入するのを防止するため、アクスルハブ15の外側端面に円すいころ軸受14bを覆うようにしてグリースキャップ23が取付けられている。

0052

本発明の車輪支持装置の円すいころ軸受の一例について図5により説明する。図5は円すいころ軸受の一例を示す一部切り欠き斜視図である。円すいころ軸受14は、外周面にテーパ状の内輪軌道面25aを有する内輪25と、内周面にテーパ状の外輪軌道面24aを有する外輪24と、内輪軌道面25aと外輪軌道面24aとの間を転動する複数の円すいころ27と、各円すいころ27をポケット部で転動自在に保持する保持器26とを備えている。保持器26は、大径リング部と小径リング部とを複数の柱部で連結してなり、柱部同士の間のポケット部に円すいころ27を収納している。内輪25において、大径側端部に大鍔25c、小径側端部に小鍔25bがそれぞれ一体形成されている。円すいころ軸受における内輪は、テーパ状の内輪軌道面を有することから軸方向に見て小径側と大径側とがあり、「小鍔」は小径側端部に設けられた鍔であり、「大鍔」は大径側端部に設けられた鍔である。

0053

上記構成において、円すいころ27の転動面(テーパ面)27aは、内輪軌道面25aと外輪軌道面24aとの間で転がり摩擦を受け、円すいころ27の小径側の端面(小端面)27bは、小鍔25bの内側端面との間で滑り摩擦を受け、円すいころ27の大径側の端面(大端面)27cは、大鍔25cの内側端面との間で滑り摩擦を受ける。また、円すいころ27と保持器26との間でも転がり摩擦や滑り摩擦が発生する。例えば、円すいころ27の小端面27bは、ポケット部を形成する小径リングの端面との間で滑り摩擦を受け、円すいころ27の大端面27cは、ポケット部を形成する大径リングの端面との間で滑り摩擦を受ける。これらの摩擦を低減するために上記グリースが封入されている。グリースとしては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。

0054

円すいころ軸受14の使用時には、円すいころ27が大径側に押圧されることで、大鍔25cと円すいころ27とが滑り接触する部分の負担が特に大きいため、この部分が損傷しやすく軸受寿命に影響する。

0055

本発明の車輪支持装置は、該装置内の部材間で(特に、境界潤滑条件下で)滑り接触する表面に所定範囲の押し込み硬さを有する硬質膜が形成されていることを特徴とする。そのため、潤滑状態が悪い条件下で他部材と滑り接触する場合でも該硬質膜の耐剥離性に優れる。また、車輪支持装置用の軸受として使用される場合、軸受内に外部から異物が混入するおそれがあるところ、上記硬質膜が形成されているので、異物が混入した状態でも耐剥離性に優れる。また、軸受転走面に形成された圧痕の盛り上がりが硬質膜による切削効果により除去されるため、圧痕起点剥離耐性に優れる。上記硬質膜の低摩擦性および金属接触の防止の効果により円すいころ軸受の鍔部などの耐焼き付き性にも優れる。

0056

上記硬質膜の形成箇所について、図5の円すいころ軸受14では、軸受部材である内輪に硬質膜が設けられている。具体的には、内輪25の鍔部(小鍔25b、大鍔25c)の内側端面に硬質膜28がそれぞれ形成されている。内輪の鍔部に硬質膜を設ける構成では、大鍔における滑り摩擦の方が小鍔における滑り摩擦よりも大きいことを考慮して、少なくとも大鍔の内側端面に硬質膜を設けることが好ましい。なお、内輪軌道面25aに硬質膜28が設けられていてもよい。

0057

また、図6の円すいころ軸受14’では、軸受部材である円すいころに硬質膜が設けられている。具体的には、円すいころ27の軸方向端面である小端面27bおよび大端面27cに硬質膜28がそれぞれ形成されている。上記と同様、滑り摩擦を考慮して、少なくとも円すいころの大端面に硬質膜を設けることが好ましい。なお、円すいころ27の転動面27aにも硬質膜28が設けられていてもよく、その場合は円すいころ27の表面全体に硬質膜が設けられることになる。

0058

また、円すいころ軸受において硬質膜の形成箇所は、図5図6に示す箇所に限定されず、互いに転がり接触および滑り接触する、内輪、外輪、転動体、および保持器から選ばれる少なくとも一つの軸受部材の任意の表面に形成することができる。例えば、円すいころの小端面や大端面と転がり接触および滑り接触する保持器の小径リングの内側端面や大径リングの内側端面に硬質膜を形成してもよい。また、外輪に小鍔および大鍔が形成された円すいころ軸受では、該鍔部の内側端面に硬質膜を形成してもよい。

0059

図4図6では、車輪支持装置における転がり軸受として円すいころ軸受を示したが、軸受部材間で転がり滑り運動が生じる軸受であればよく、円すいころ軸受以外にも、円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受スラスト円筒ころ軸受スラスト円すいころ軸受スラスト針状ころ軸受スラスト自動調心ころ軸受などを用いることができる。例えば、円筒ころ軸受の場合、ころの軸方向両端部と軌道輪の軸方向両端の鍔部とが転がり接触および滑り接触する。

0060

ここで、本発明の転がり軸受が適用される風力発電機について説明する。従来、大型の風力発電機における主軸用軸受には、図10に示すような大型の複列自動調心ころ軸受54が用いられることが多い。主軸53は、ブレード52が取付けられた軸であり、風力を受けることによって回転し、その回転を増速機(図示せず)で増速して発電機を回転させ、発電する。風を受けて発電している際に、ブレード52を支える主軸53は、ブレード52にかかる風力による軸方向荷重軸受スラスト荷重)と、径方向荷重(軸受ラジアル荷重)が負荷される。複列自動調心ころ軸受54は、ラジアル荷重とスラスト荷重を同時に負荷することができ、かつ調心性を持つため、軸受ハウジング51の精度誤差や、取付誤差による主軸53の傾きを吸収でき、かつ運転中の主軸53の撓みを吸収できる。そのため、風力発電用機主軸用軸受に適した軸受であり、利用されている(参考文献:NTN社カタログ「新世代風車用軸受」A65.CAT.No.8404/04/JE、2003年5月1日発行)。

0061

ところで、図10に示すように、風力発電用の主軸を支持する複列自動調心ころ軸受においては、ラジアル荷重に比べてスラスト荷重が大きく、複列のころ57、58のうち、スラスト荷重を受ける列のころ58が、もっぱらラジアル荷重とスラスト荷重を同時に負荷することになる。そのため、転がり疲労寿命が短くなる。また、スラスト荷重が負荷されることから、鍔で滑り運動が起こり摩耗を生じると言う問題があった。加えて、反対側の列では軽負荷となり、ころ57が内外輪55、56の軌道面55a、56aで滑りを生じ、表面損傷や摩耗を生じるという問題がある。そのため、軸受サイズが大きなものを用いることで対処されるが、軽負荷側では余裕が大きくなり過ぎて、不経済である。また、無人で運転されたり、ブレード52が大型となるために高所に設置される風力発電機主軸用軸受では、メンテナンスフリー化が望まれる。

0062

これの対処として、本発明の転がり軸受を複列自動調心ころ軸受として、風力発電用主軸支持装置に適用することができる。本発明の転がり軸受を風力発電用主軸支持装置に適用した例を図7および図8に基づいて説明する。図7は本発明の風力発電用主軸支持装置を含む風力発電機全体の模式図であり、図8図7の風力発電用主軸支持装置を示す図である。図7に示すように、風力発電機31は、風車となるブレード32が取付けられた主軸33を、ナセル34内に設置された複列自動調心ころ軸受35(以下、単に軸受35とも言う。)により回転自在に支持し、さらにナセル34内に増速機36および発電機37を設置したものである。増速機36は、主軸33の回転を増速して発電機37の入力軸に伝達するものである。ナセル34は、支持台38上に旋回座軸受47を介して旋回自在に設置され、旋回用モータ39(図8参照)の駆動により、減速機40(図8参照)を介して旋回させられる。ナセル34の旋回は、風向きにブレード32の方向を対向させるために行われる。主軸支持用の軸受35は、図8の例では2個設けられているが、1個であってもよい。

0063

図9は、風力発電機の主軸を支持する複列自動調心ころ軸受35を示す。この軸受35は、一対の軌道輪となる内輪41および外輪42と、これら内外輪41 、42間に介在した複数のころ43とを有する。複数のころは、軸受の軸方向に2列に並んで介在し、図9では、ブレードに近い方の列(左列)のころが43a、ブレードから遠い方の列(右列)のころが43bとなっている。軸受35は、スラスト負荷が可能なラジアル軸受である。軸受35の外輪軌道面42aが球面状とされ、各ころは外周面が外輪軌道面42aに沿う球面形状のころとされている。内輪41は、左右各列のころ43a、43bの外周面に沿う断面形状の複列の内輪軌道面41aが形成されている。内輪41の外周面の両端には、小鍔41b、41cがそれぞれ設けられている。内輪41の外周面の中央部、すなわち左列のころ43aと右列のころ43b間には、中鍔41dが設けられている。ころ43a、43bは、各列毎に保持器44で保持されている。

0064

上記構成において、各ころ43a、43bの外周面は、内輪軌道面41aと外輪軌道面42aとの間で転がり接触する。また、ころ43aの軸方向内側の端面は、中鍔41dの軸方向一方の端面との間で滑り接触し、ころ43aの軸方向外側の端面は、小鍔41bの内側端面との間で滑り接触する。また、ころ43bの軸方向内側の端面は、中鍔41dの軸方向他方の端面との間で滑り接触し、ころ43bの軸方向外側の端面は、小鍔41cの内側端面との間で滑り接触する。これらの摩擦を低減するためにグリースが封入されている。グリースとしては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。

0065

図9において、外輪42は軸受ハウジング45の内径面に嵌合して設置され、内輪41は主軸33の外周に嵌合して主軸33を支持している。軸受ハウジング45は、軸受35の両端を覆う側壁部45aを有し、各側壁部45aと主軸33との間にラビリンスシール等のシール46が構成されている。軸受ハウジング45で密封性が得られるため、軸受35にはシール無しのものが用いられている。軸受35は、本発明の実施形態にかかる風力発電機主軸用軸受となるものである。

0066

上記複列自動調心ころ軸受は、ころと他部材間で(特に、境界潤滑条件下で)転がり滑り接触する表面に所定構造の硬質膜が形成されていることを特徴とする。そのため、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でも該硬質膜の耐剥離性に優れる。また、風力発電機主軸用軸受として使用される場合、軸受内に外部から異物が混入するおそれがあるところ、上記硬質膜が形成されているので、異物が混入した状態でも耐剥離性に優れる。また、軸受転走面に形成された圧痕の盛り上がりが硬質膜による切削効果により除去されるため、圧痕起点剥離耐性に優れる。その結果、硬質膜本来の特性を発揮でき、耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、複列自動調心ころ軸受の金属接触に起因する損傷などを防止できる。

0067

硬質膜の形成箇所について以下に説明する。図9の形態の軸受35では、軸受部材である内輪41の外周面に硬質膜48が形成されている。内輪41の外周面は、軌道面41a、中鍔41dの軸方向両端面、小鍔41bの内側端面、小鍔41cの内側端面を含む。図9の形態では、内輪41の外周面全体に硬質膜48が形成されており、ころ43a、43bと転がり滑り接触しない面にも硬質膜48が形成されている。硬質膜48を形成する内輪41の箇所は、境界潤滑条件下でころと滑り接触する表面に形成されていれば、図9の形態に限らない。例えば、各ころ43a、43bと滑り接触する、中鍔41dの軸方向両端面や、小鍔41bの内側端面、小鍔41cの内側端面のうち、少なくともいずれかの端面に硬質膜を形成してもよい。

0068

また、上述したように、風力発電機主軸用軸受として自動調心ころ軸受では、ブレードから遠い方の列のころ(ころ43b)の方がブレードに近い方の列のころ(ころ43a)に比べて、大きなスラスト荷重を受ける。この場合、ころ43bと滑り接触する箇所では、特に境界潤滑となりやすい。そのため、軸方向に並ぶ2列のころに互いに大きさが異なる荷重が作用することを考慮して、小鍔41b、41cのうち小鍔41cの内側端面にのみ硬質膜を形成してもよい。

0069

上記複列自動調心ころ軸受では、他の軸受部材と境界潤滑(低ラムダ条件)で滑り接触(特に、転がり滑り接触)する条件となる表面に硬質膜を形成している。ころは内外輪との間で転がりつつ滑りも生じている。図9に示す硬質膜は、このような条件下で使用されるものである。また、該硬質膜の形成箇所は、図9に示す箇所に限定されず、上記条件となるような、内輪、外輪、ころ、および保持器から選ばれる少なくとも一つの軸受部材の任意の表面に形成することができる。

0070

図9の形態では、内輪41の外周面に硬質膜48を形成したが、これに代えてまたは加えて、外輪42や、各ころ43a、43bの表面に硬質膜48を形成してもよい。外輪42に硬質膜を形成する構成では、外輪42の内周面(外輪軌道面42aを含む)に硬質膜を形成するとよい。また、各ころ43a、43bの表面に硬質膜を形成する構成では、各ころ43a、43bの両端面に硬質膜を形成してもよい。また、ころにかかる荷重の違いを考慮して、ころ43bの両端面にのみ硬質膜を形成する構成としてもよい。また、各ころ43a、43bの外周面に硬質膜を形成する構成としてもよい。例えば、各列のころのうち、少なくとも一方の列のころの外周面に硬質膜を形成する構成としてもよい。

0071

以下、硬質膜の形成方法について説明する。上記硬質膜は、軸受部材の成膜面に対して、下地層8a、混合層8b、表面層8cをこの順に成膜して得られる。

0072

下地層8aおよび混合層8bの形成は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図11に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材62は、成膜対象の軸受部材である内輪、外輪、転動体、または保持器であるが、模式的に平板で示してある。図11に示すように、丸形ターゲット65の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石64a、外側磁石64bが配置され、ターゲット65付近高密度プラズマ69を形成しつつ、上記磁石64a、64bにより発生する磁力線66の一部66aがバイアス電源61に接続された基材62近傍まで達するようにしたものである。この磁力線66aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材62付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材62付近まで達する磁力線66aに沿って、Arイオン67および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット68をより多く基材62に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)63を成膜できる。

0073

下地層8aがCrとWCとを主体とする層である場合は、ターゲット65としてCrターゲットおよびWCターゲットを併用する。また、混合層8bを形成する際には、(1)WCターゲット、および、(2)黒鉛ターゲットと必要に応じて炭化水素系ガスを用いる。各層の形成毎に、それぞれに用いるターゲットを逐次取り替える。

0074

下地層8aにおいて、上述のようなCrとWCの傾斜組成とする場合は、連続的または段階的に、WCターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、Crターゲットに印加する電力下げながら成膜する。これにより混合層8b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる構造の層とできる。

0075

混合層8bは、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより表面層8c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。

0076

混合層8bの成膜時におけるUBMS装置内(成膜チャンバー内)の真空度は0.2〜1.2Paであることが好ましい。また、基材となる軸受部材に印加するバイアス電圧は20〜100Vであることが好ましい。このような範囲とすることで、耐剥離性の向上が図れる。

0077

表面層8cの形成も、上記のスパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。より詳細には、表面層8cは、この装置を利用して、炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用し、Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合を1〜15とし、炭素供給源から生じる炭素原子を混合層8b上に堆積させて成膜されたものとすることが好ましい。また、併せて、装置内の真空度を0.2〜0.9Paとすることが好ましい。この好適条件について以下に説明する。

0078

炭素供給源として黒鉛ターゲットと炭化水素系ガスとを併用することで、DLC膜の押し込み硬さおよび弾性率を調整できる。炭化水素系ガスとしては、メタンガスアセチレンガスベンゼンなどが使用でき、特に限定されないが、コストおよび取り扱い性の点からメタンガスが好ましい。炭化水素系ガスの導入量の割合を、ArガスのUBMS装置内(成膜チャンバー内)への導入量100(体積部)に対して1〜15(体積部)、好ましくは6〜15、より好ましくは11〜13とすることで、表面層8cの耐摩耗性などを悪化させずに、混合層8bとの密着性の向上が図れる。

0079

UBMS装置内(成膜チャンバー内)の真空度は上記のとおり0.2〜0.9Paであることが好ましい。より好ましくは0.4〜0.9Paであり、さらに好ましくは0.6〜0.9Paである。真空度が0.2Pa未満であると、チャンバー内のArガス量が少ないため、Arプラズマが発生せず、成膜できない場合がある。また、真空度が0.9Paより高いと、逆スパッタ現象が起こり易くなり、耐摩耗性が悪化するおそれがある。

0080

基材となる軸受部材に印加するバイアス電圧は50〜150Vであることが好ましい。なお、基材に対するバイアス電位は、アース電位に対してマイナスとなるように印加しており、例えば、バイアス電圧100Vとは、アース電位に対して基材のバイアス電位が−100Vであることを示す。

0081

本発明の転がり軸受に使用する硬質膜として、所定の基材に対して硬質膜を形成し、該硬質膜の物性に関する評価した。また、往復動滑り試験機および2円筒試験機を用いて耐剥離性などの評価を行なった。

0082

硬質膜の評価用に用いた基材、UBMS装置、およびスパッタリングガスなどは以下のとおりである。
(1)基材物性:SUJ2焼き入れ焼き戻し品 硬さ780Hv
(2)基材:鏡面研磨された(0.02μmRa)SUJ2平板
(3)相手材研削仕上げ(0.7μmRa)SUJ2リング(φ40×L12副曲率60)
(4)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202
(5)スパッタリングガス:Arガス

0083

下地層の形成条件を以下に説明する。成膜チャンバー内を5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCrターゲットとWCターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、CrとWCの組成比を傾斜させ、基材側でCrが多く表面側でWCが多いCr/WC傾斜層を形成した。

0084

混合層の形成条件を以下に説明する。下地層と同様にUBMS法にて成膜した。ここで、該混合層については、炭化水素系ガスであるメタンガスを供給しながら、WCターゲットと黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させ、下地層側でWCが多く表面層側でDLCが多いWC/DLC傾斜層を形成した。

0085

表面層の形成条件は、各表に示すとおりである。

0086

図12はUBMS装置の模式図である。図12に示すように、円盤70上に配置された基材71に対し、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)72を非平衡な磁場により、基材71近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図11参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材とするリングに、下地層、混合層、表面層をUBMS被膜として成膜している。

0087

実施例1〜6、比較例1
表1に示す基材をアセトン超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、これをUBMS装置に取り付け、上述の形成条件にて下地層および混合層を形成した。その上に、表1に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。なお、比較例1の硬質膜は、実施例1〜6の硬質膜と同様の3層の膜構造を有する従来の硬質膜を想定している。表1における「真空度」は上記装置における成膜チャンバー内の真空度である。得られた試験片を用いて下記に示す各試験を行った。結果を表1に併記する。

0088

硬度試験
得られた試験片の押し込み硬さをアジレントテクノロジー社製:ナノインデンタ(G200)を用いて測定した。なお、測定値は表面粗さの影響を受けない深さ(硬さが安定している箇所)の平均値を示しており、各試験片10箇所ずつ測定した。また、得られた押し込み硬さの値から、換算式(ビッカース硬度HV)=押し込み硬さHIT(N/mm2)×0.0945)に基づいて、ビッカース硬度に換算した。

0089

膜厚試験
得られた試験片の硬質膜の膜厚を表面形状・表面粗さ測定器テーラーホブソン社製:フォームタリサーフPGI830)を用いて測定した。膜厚は成膜部の一部にマスキングを施し、非成膜部と成膜部の段差から膜厚を求めた。

0090

<往復動滑り試験>
得られた試験片について図13に示す往復動滑り試験機を用いて、滑りによる耐剥離性の試験を行った。図13に示すように、試験ではまず、ロードセル77および加速度センサ78が取り付けられた台座に硬質膜74が形成された基材73(試験片)を載置する。そして、試験片の硬質膜74に、荷重80が負荷された窒化珪素球75を載せ、下記条件にて窒化珪素球75を水平方向に往復動させる。窒化珪素球75は、加振機79に接続された相手材ホルダ76に保持されている。往復動滑り試験は無潤滑で行い、下記の負荷増加速度で荷重を増加させ、硬質膜の剥離により摩擦係数が増大したときの荷重を限界荷重(N)とした。なお、実施例4では最大荷重を120Nとし、実施例5では最大荷重を100Nとした。具体的な試験条件は以下のとおりである。
(試験条件)
潤滑:無潤滑
球:3/8インチ、窒化珪素球
荷重:30〜80N
負荷増加速度:10N/min
周波数:60Hz
振幅:2mm

0091

0092

表1に各層の成膜条件および往復動滑り試験の結果を示す。なお、往復動滑り試験は、実施例および比較例についてそれぞれ2回ずつ試験を実施し、各試験の結果をそれぞれ示した。各実施例と各比較例は、使用する基材および混合層の成膜条件は同一である。表1に示すように、表面層の成膜条件を変化させて表面層の押し込み硬さを変化させた結果、押し込み硬さが9〜22GPaと、従来の硬質膜の押し込み硬さよりも低い範囲で限界荷重が大きい傾向を示した。特に、押し込み硬さが10〜13GPaの場合(実施例1、4、5)では、押し込み硬さが24.5GPaの場合(比較例1)の場合に比べて、限界荷重が顕著に増大した。これにより、本発明の転がり軸受は、潤滑状態が悪く、滑り接触する条件下でも耐剥離性に優れることが分かった。

0093

実施例7〜10、比較例2〜4
表1に示す基材をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、これをUBMS装置に取り付け、上述の形成条件にて下地層および混合層を形成した。その上に、表2に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。なお、比較例4は、硬質膜を形成せずに、基材自体からなる試験片とした。表2における「真空度」は上記装置における成膜チャンバー内の真空度である。得られた試験片を、下記に示す2通りの2円筒試験機を用いた試験に供した。なお、硬度試験および膜厚試験は上述の試験方法で行った。結果を表2に併記する。

0094

<2円筒試験機による耐圧痕性試験>
得られた試験片について図14に示す2円筒試験機を用いて異物混入下での耐剥離性の試験を行なった。この2円筒試験機は、駆動側試験片81と転がり滑り接触する従動側試験片82とを備え、それぞれの試験片(リング)は支持軸受84で支持されており、負荷用バネ85により荷重が負荷されている。また、図中の83は駆動用プーリ、86は非接触回転計である。従動側試験片82のみに硬質膜を形成し、該硬質膜の剥離を助長するために駆動側試験片81と従動側試験片82の間に異物を混入し、運転後の硬質膜の耐剥離性を評価した。具体的な試験条件は以下のとおりである。

0095

リング試験片の転動面内で0.5mm×0.5mmの範囲で明度による2値化を行い剥離部面積を決定し、以下の計算式を用いて計測範囲内での剥離率を算出した。
(計測範囲内での剥離率)=(剥離部面積)/(2値化対象範囲)×100[%]
リング試験片の外周における位置4箇所(0°、90°、180°、270°)でそれぞれ算出した上記計測範囲内での剥離率の平均値を剥離率とした。

0096

(試験条件)
潤滑油:VG56相当油(異物未添加油)またはVG56相当油に以下の異物を混入した油(異物添加油)
給油方式滴下給油
異物:粉末ハイス鋼 KHA30 100〜180μm 、10g/l
油温:40〜50℃
最大接触面圧:2.5GPa
回転数:(試験片側)300 min−1
(相手材側)300 min−1
時間:異物添加油で1h運転後、異物未添加油で負荷回数1×106回まで運転

0097

<2円筒試験機による圧痕除去性試験>
得られた試験片について図14に示す2円筒試験機を用いて圧痕除去性試験を行なった。従動側試験片82のみに硬質膜を形成し、相手材である駆動側試験片81に圧痕を形成した状態で試験を開始し、一定時間ごとに圧痕の盛り上がり部の変化を確認した。初期の圧痕盛り上がり高さ(試験前高さA)の時間変化を評価した。図15に圧痕盛り上がり高さの測定例を示す。駆動側試験片に形成された圧痕の盛り上がり高さは、1.2〜1.4μm程度であった。圧痕の中心を通る母線形状を取得し試験片半径補正した母線最大値を圧痕盛り上がり高さとして計測した。負荷の移動方向に対して盛り上がりの削れ方に差異がみられ、負荷の移動方向の上流側の圧痕盛り上がり高さを採用した。以下の計算式を用い圧痕盛り上がり高さの残存率として評価した。

0098

(圧痕残存率)=(試験後高さB)/(試験前高さA)×100[%]

0099

(試験条件)
潤滑油:VG56相当油(添加剤含有)
給油方式:滴下給油
圧痕形成条件:15kgfロックウェル試験用ダイヤモンド圧子
油温:40〜50℃
最大接触面圧:2.5GPa
回転数:(試験片側)300 min−1
(相手材側)300 min−1
試験サイクル:負荷回数1×106回まで運転

0100

実施例

0101

試験の結果、比較的高硬度の硬質膜(比較例2、3)は、相手材の圧痕盛り上がりを除去する能力が高いものの、異物が混入した条件での耐剥離性が低かった。一方、比較的低硬度の硬質膜(実施例7〜10)は、比較例2、3に比べて、圧痕除去能力は低下したものの、異物混入に対する耐剥離性は大幅に向上した。特に、押し込み硬さが10〜15MPaの実施例7、8では硬質膜の剥離はほとんど見られなかった。これにより、本発明の転がり軸受は、異物が混入した潤滑条件下でも耐剥離性に優れることが分かった。

0102

DLCの適用が検討される摺動面・転動面は潤滑が希薄または滑り速度が速いなど苛酷な潤滑状態であることが多い。特に、異物が混入した潤滑油中での摺動および転動はより苛酷である。本発明の転がり軸受は、例えば、内・外輪軌道面や転動体の転動面にDLC膜が形成され、苛酷な潤滑状態(例えば、潤滑状態が悪く、滑り接触する条件下や異物が混入した潤滑条件下)で運転した場合においてもこのDLC膜の耐剥離性に優れ、DLC本体の特性を発揮できるので、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる。このため、本発明の転がり軸受は、苛酷な潤滑状態での用途を含め、各種用途に適用可能である。特に、車輪支持装置や風力発電用主軸支持装置への適用に適している。

0103

1深溝玉軸受(転がり軸受)
2内輪
3外輪
4転動体
5保持器
6シール部材
7グリース
8硬質膜
11ステアリングナックル
12フランジ
13アクスル
14円すいころ軸受(転がり軸受)
15アクスルハブ(回転部材)
16 フランジ
17スタッドボルト
18ナット
19ブレーキドラム
20ホイールディスク
21リム
22バックプレート
23グリースキャップ
24 外輪
25 内輪
26 保持器
27円すいころ
28 硬質膜
31風力発電機
32ブレード
33主軸
34ナセル
35複列自動調心ころ軸受(転がり軸受)
36増速機
37発電機
38支持台
39モータ
40減速機
41 内輪
42 外輪
43 ころ
44 保持器
45軸受ハウジング
46シール
47旋回座軸受
48 硬質膜

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