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技術 ホットスタンプ成形体

出願人 日本製鉄株式会社
発明者 戸田由梨虻川玄紀前田大介匹田和夫藤中真吾
出願日 2019年8月28日 (1年4ヶ月経過) 出願番号 2019-156101
公開日 2020年3月26日 (9ヶ月経過) 公開番号 2020-045562
状態 未査定
技術分野 型打ち,へら絞り,深絞り 熱処理 特定物品の製造 薄鋼板の熱処理 物品の熱処理
主要キーワード 格子拡散 ビッカース試験 平均断面 断面平均 自動車工業会 X線回折法 ポンチ形状 結晶方位情報
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2020年3月26日)のものです。
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図面 (2)

課題

本発明は、従来技術の課題に鑑み、耐衝突特性を実現するための高い曲げ性及び高い延性耐水素脆化特性両立させ、かつ硬さばらつきを抑えるホットスタンプ成形体を提供する。

解決手段

本発明に係るホットスタンプ成形体は、板厚中央部と、前記板厚中央部の両側又は片側に配置された軟化層とを備え、前記板厚中央部は、500Hv以上800Hv以下の硬さを有し、前記軟化層の表面下の20μmの深さから軟化層の厚さの1/2の深さまでの金属組織が、板厚方向に平行な断面において、15°以上の方位差を持つ粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義したときに、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が8°以上15°以下である結晶粒の合計の面積率が50%以上85%未満であることを特徴とする。

概要

背景

近年、環境保護及び省資源化の観点から自動車車体の軽量化が求められており、そのため、自動車用部材への高強度鋼板の適用が加速している。しかし、鋼板高強度化に伴い成形性は劣化するので、高強度鋼板においては、複雑な形状の部材への成形性が課題となる。

このような課題を解決するため、鋼板をオーステナイト域高温まで加熱した後にプレス成形を実施するホットスタンプの適用が進められている。ホットスタンプは、プレス加工と同時に、金型内において焼入れ処理を実施するので、鋼板のC量に応じた強度を得ることができ、自動車用部材への成形と強度確保両立する技術として注目されている。

しかしながら、プレス焼入れにより製造された従来のホットプレス部品は、板厚全域硬質組織(主にマルテンサイト)で形成されているために、自動車衝突時に曲げ変形が生じると、部品座屈部に最も大きな歪みが入り、鋼板の表層近傍を起点に割れ進展し、最終的に破断に至りやすい。

例えば、プレス焼入れにより製造された従来のハット部材等のホットスタンプ部品は、自動車の衝突時に曲げ変形が生じると、ハット部材が座屈することで変形が局在化し、ハット部材としての耐荷重が低下する。すなわち、ホットスタンプ部品としての部材の最大荷重部材強度だけでなく、座屈の起こりやすさにも影響を受ける。鋼板の延性が高いと、部材として一定形状に成形された状態において変形領域が局在化しにくくなる。すなわち、その部材は座屈しにくい。

また、ホットスタンプ成形体においては、金型との接触の仕方が必ずしも一様ではなく、例えばハット部材の縦壁部などでは冷却速度が低下しやすい。このため鋼板には局所的に硬さが低い領域が形成することがある。局所的な軟化部は衝突時に変形が集中し、割れ発生要因となるため、成形体における硬さのばらつきが小さいこと、すなわち安定的な強度を確保することは、耐衝突特性を確保する上で重要である。

したがってホットスタンプ部品においても延性が重要であるが、一般にマルテンサイトの延性は低い。また、鋼板の表層格子欠陥密度が高いために水素侵入が促進され、耐水素脆化特性に乏しくなることが問題である。このような理由から、プレス焼入れにより製造されたホットプレス部品は、自動車部品への適用部位が限定されていた。

上記の問題に対し、ホットプレス部品の変形能を高めて割れを抑制する技術が提案されている。特許文献1では、ホットプレス部品の板厚中央の硬さを400Hv以上とする一方、表層に厚さ20μm以上200μm以下であり硬さ300Hv以下の軟質層を形成することにより、引張強さ1300MPa以上の強度を確保しつつ、自動車衝突時の割れを抑制する技術が開示されている。特許文献2では、板厚表層炭素濃度板厚中心部の炭素濃度の1/5以下に制御することにより、表層の格子欠陥の密度を低減させて耐水素脆性を改善させる技術が開示されている。特許文献3では、板厚中心部をフェライトとマルテンサイトの複合組織とし、表層部分のフェライトの組織分率を高めることにより、表層部が厳しい曲げ変形を受けても応力緩和できる技術が開示されている。

しかしながら、特許文献1および特許文献2では、板厚の表層部を軟質組織とし、板厚の中央部を硬質組織で構成することにより、板厚方向に急激な硬さの勾配が発生してしまうため、曲げ変形を受けた際に、急激な硬さの勾配が発生している軟質組織と硬質組織の境界付近で割れが発生しやすいという課題がある。また、特許文献3では、板厚の表層部を軟質組織とし、板厚の中央部を硬質組織と軟質組織の複合組織とすることで、板厚方向に急激な硬さの勾配を低減させているが、板厚の中央部を複合組織とするため、引張強さの上限が1300MPa程度となってしまい、ホットプレス部品に求められる引張強さ1500MPa以上を確保することは困難である。

概要

本発明は、従来技術の課題に鑑み、耐衝突特性を実現するための高い曲げ性及び高い延性と耐水素脆化特性を両立させ、かつ硬さばらつきを抑えるホットスタンプ成形体を提供する。本発明に係るホットスタンプ成形体は、板厚中央部と、前記板厚中央部の両側又は片側に配置された軟化層とを備え、前記板厚中央部は、500Hv以上800Hv以下の硬さを有し、前記軟化層の表面下の20μmの深さから軟化層の厚さの1/2の深さまでの金属組織が、板厚方向に平行な断面において、15°以上の方位差を持つ粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義したときに、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が8°以上15°以下である結晶粒の合計の面積率が50%以上85%未満であることを特徴とする。なし

目的

本発明は、従来技術の課題に鑑み、耐衝突特性を実現するための高い曲げ性及び高い延性と耐水素脆化特性を両立させ、かつ硬さばらつきを抑えるホットスタンプ成形体を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

板厚中央部と、前記板厚中央部の両側又は片側に配置された軟化層とを備えるホットスタンプ成形体であって、前記板厚中央部は、質量%で、C:0.20%以上、0.70%未満、Si:3.00%未満、Mn:0.20%以上、3.00%未満、P:0.10%以下、S:0.10%以下、sol.Al:0.0002%、以上3.0000%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、500Hv以上800Hv以下の硬さを有し、前記軟化層の表面下の20μmの深さから軟化層の厚さの1/2の深さまでの金属組織が、板厚方向に平行な断面において、15°以上の方位差を持つ粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義したときに、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が8°以上15°以下である結晶粒の合計の面積率が50%以上85%未満であることを特徴とするホットスタンプ成形体。

請求項2

Si含有量が0.50%以下であり、Mn含有量が0.20%以上、1.50%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。

請求項3

Si含有量が0.50%以下であり、Mn含有量が1.50%以上、3.00%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。

請求項4

Si含有量が0.50%超、3.00%未満であり、Mn含有量が0.20%以上、1.50%未満であり、前記板厚中央部が、面積分率で、1.0%以上、5.0%未満の残留オーステナイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。

請求項5

Si含有量が0.50%超、3.00%未満であり、Mn含有量が1.50%以上、3.00%未満であり、前記板厚中央部が、面積分率で、1.0%以上、5.0%未満の残留オーステナイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。

請求項6

前記板厚中央部は、更に、質量%で、Ni:0.01%以上3.00%以下を含有することを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のホットスタンプ成形体。

請求項7

前記板厚中央部は、更に、質量%で、Nb:0.010%以上0.150%以下、Ti:0.010%以上0.150%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、B:0.0005%以上0.0100%以下のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載のホットスタンプ成形体。

請求項8

前記軟化層上にめっき層が形成されていることを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項に記載のホットスタンプ成形体。

技術分野

0001

本発明は、強度が必要な自動車構造物構造部材補強部材に使用するホットスタンプ成形体、特に、ホットスタンプ後の強度、耐衝突特性延性耐水素脆化特性に優れ、かつ硬度ばらつきの小さいホットスタンプ成形体に関する。

背景技術

0002

近年、環境保護及び省資源化の観点から自動車車体の軽量化が求められており、そのため、自動車用部材への高強度鋼板の適用が加速している。しかし、鋼板高強度化に伴い成形性は劣化するので、高強度鋼板においては、複雑な形状の部材への成形性が課題となる。

0003

このような課題を解決するため、鋼板をオーステナイト域高温まで加熱した後にプレス成形を実施するホットスタンプの適用が進められている。ホットスタンプは、プレス加工と同時に、金型内において焼入れ処理を実施するので、鋼板のC量に応じた強度を得ることができ、自動車用部材への成形と強度確保両立する技術として注目されている。

0004

しかしながら、プレス焼入れにより製造された従来のホットプレス部品は、板厚全域硬質組織(主にマルテンサイト)で形成されているために、自動車の衝突時に曲げ変形が生じると、部品座屈部に最も大きな歪みが入り、鋼板の表層近傍を起点に割れ進展し、最終的に破断に至りやすい。

0005

例えば、プレス焼入れにより製造された従来のハット部材等のホットスタンプ部品は、自動車の衝突時に曲げ変形が生じると、ハット部材が座屈することで変形が局在化し、ハット部材としての耐荷重が低下する。すなわち、ホットスタンプ部品としての部材の最大荷重部材強度だけでなく、座屈の起こりやすさにも影響を受ける。鋼板の延性が高いと、部材として一定形状に成形された状態において変形領域が局在化しにくくなる。すなわち、その部材は座屈しにくい。

0006

また、ホットスタンプ成形体においては、金型との接触の仕方が必ずしも一様ではなく、例えばハット部材の縦壁部などでは冷却速度が低下しやすい。このため鋼板には局所的に硬さが低い領域が形成することがある。局所的な軟化部は衝突時に変形が集中し、割れ発生要因となるため、成形体における硬さのばらつきが小さいこと、すなわち安定的な強度を確保することは、耐衝突特性を確保する上で重要である。

0007

したがってホットスタンプ部品においても延性が重要であるが、一般にマルテンサイトの延性は低い。また、鋼板の表層格子欠陥密度が高いために水素侵入が促進され、耐水素脆化特性に乏しくなることが問題である。このような理由から、プレス焼入れにより製造されたホットプレス部品は、自動車部品への適用部位が限定されていた。

0008

上記の問題に対し、ホットプレス部品の変形能を高めて割れを抑制する技術が提案されている。特許文献1では、ホットプレス部品の板厚中央の硬さを400Hv以上とする一方、表層に厚さ20μm以上200μm以下であり硬さ300Hv以下の軟質層を形成することにより、引張強さ1300MPa以上の強度を確保しつつ、自動車衝突時の割れを抑制する技術が開示されている。特許文献2では、板厚表層炭素濃度板厚中心部の炭素濃度の1/5以下に制御することにより、表層の格子欠陥の密度を低減させて耐水素脆性を改善させる技術が開示されている。特許文献3では、板厚中心部をフェライトとマルテンサイトの複合組織とし、表層部分のフェライトの組織分率を高めることにより、表層部が厳しい曲げ変形を受けても応力緩和できる技術が開示されている。

0009

しかしながら、特許文献1および特許文献2では、板厚の表層部を軟質組織とし、板厚の中央部を硬質組織で構成することにより、板厚方向に急激な硬さの勾配が発生してしまうため、曲げ変形を受けた際に、急激な硬さの勾配が発生している軟質組織と硬質組織の境界付近で割れが発生しやすいという課題がある。また、特許文献3では、板厚の表層部を軟質組織とし、板厚の中央部を硬質組織と軟質組織の複合組織とすることで、板厚方向に急激な硬さの勾配を低減させているが、板厚の中央部を複合組織とするため、引張強さの上限が1300MPa程度となってしまい、ホットプレス部品に求められる引張強さ1500MPa以上を確保することは困難である。

先行技術

0010

特開2015−30890号公報
特開2006−104546号公報
国際公開第2015/097882号

発明が解決しようとする課題

0011

本発明は、従来技術の課題に鑑み、耐衝突特性を実現するための高い曲げ性及び高い延性と耐水素脆化特性を両立させ、かつ硬さばらつきを抑えるホットスタンプ成形体を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0012

本発明者らは上記課題を解決する方法について鋭意検討した。その結果、耐水素脆化特性を向上させるためには、板厚表層の格子欠陥の密度を低減させることが有効であり、そのためには、表層に軟質組織を形成させる必要がある。一方、1500MPa以上の引張強度を確保するためには、板厚の中央部を硬質組織のみで構成する必要がある。このように、板厚の表層を軟質組織とし、板厚の中央部を硬質組織で構成した場合に、硬質組織と軟質組織の境界近傍で発生する板厚方向の急激な硬さの勾配を低減することができれば、引張強さ1500MPa以上の強度と良好な耐水素脆化特性を担保しながら、良好な曲げ性が得られると考えた。

0013

そこで、発明者らは、軟質組織である表層の組織制御により良好な曲げ性が得られた鋼板の金属組織調査し、鋭意検討を重ねた。その結果、表層を構成する金属組織が、板厚断面において、15°以上の方位差を持つ粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義したときに、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が8°〜15°の結晶粒で構成されていると良いことが見出された。これらの測定は、表層の表面下20μmの深さ位置から表層の厚さ1/2の深さ位置(表層中心)までの領域においてなされた。このような金属組織により、ホットスタンプ成形体の表面性状の影響や、板厚中央部から表層に至る遷移部分の影響を排除することができることが見出された。

0014

さらに、板厚の中央部におけるMnとSiの添加量を制御することにより、延性を向上させると共に、焼入れ性を高めて安定的に高い強度を確保した。その結果、曲げ変形時の割れの発生を抑制させることができ、1500MPa以上の引張強さと良好な耐水素脆化特性を担保しながら、優れた曲げ性、延性、さらには強度安定性を実現させることに成功し、耐衝突特性と耐水素脆化特性に優れたホットスタンプ成形体を得ることが出来た。

0015

本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)板厚中央部と、前記板厚中央部の両側又は片側に配置された軟化層とを備えるホットスタンプ成形体であって、
前記板厚中央部は、
質量%で、
C:0.20%以上、0.70%未満、
Si:3.00%未満、
Mn:0.20%以上、3.00%未満、
P:0.10%以下、
S:0.10%以下、
sol.Al:0.0002%、以上3.0000%以下 、
N:0.01%以下を含有し、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、500Hv以上800Hv以下の硬さを有し、
前記軟化層の表面下の20μmの深さから軟化層の厚さの1/2の深さまでの金属組織が、板厚方向に平行な断面において、15°以上の方位差を持つ粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義したときに、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が8°以上15°以下である結晶粒の合計の面積率が50%以上85%未満であることを特徴とするホットスタンプ成形体。
(2)Si含有量が0.50%以下であり、Mn含有量が0.20%以上、1.50%未満であることを特徴とする(1)に記載のホットスタンプ成形体。
(3)Si含有量が0.50%以下であり、Mn含有量が1.50%以上、3.00%未満であることを特徴とする(1)に記載のホットスタンプ成形体。
(4)Si含有量が0.50%超、3.00%未満であり、Mn含有量が0.20%以上、1.50%未満であり、前記板厚中央部が、面積分率で、1.0%以上、5.0%未満の残留オーステナイトを含むことを特徴とする(1)に記載のホットスタンプ成形体。
(5)Si含有量が0.50%超、3.00%未満であり、Mn含有量が1.50%以上、3.00%未満であり、前記板厚中央部が、面積分率で、1.0%以上、5.0%未満の残留オーステナイトを含むことを特徴とする(1)に記載のホットスタンプ成形体。
(6)前記板厚中央部は、更に、質量%で、Ni:0.01%以上3.00%以下 を含有することを特徴とする(1)〜(5)のうちいずれかに記載のホットスタンプ成形体。
(7)前記板厚中央部は、更に、質量%で、Nb:0.010%以上0.150%以下、Ti:0.010%以上0.150%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、B:0.0005%以上0.0100%以下のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(6)のうちいずれかに記載のホットスタンプ成形体。
(8)前記軟化層上にめっき層が形成されていることを特徴とする(1)〜(7)のうちいずれかに記載のホットスタンプ成形体。

発明の効果

0016

本発明によれば、曲げ性、延性、耐衝突特性、及び、耐水素脆化特性に優れ、かつ硬さのばらつきの小さいホットスタンプ成形体を提供することができる。

図面の簡単な説明

0017

本発明のホットスタンプ成形体を製造する際のC原子拡散を説明する模式図である。
本発明のホットスタンプ成形体を製造する方法において用いられる粗圧延に関する圧延パス後の転位密度変化を示すグラフである。

0018

(本発明に係るホットスタンプ成形体の構造)
本発明に係るホットスタンプ成形体は、その両側、または片側の表面上に軟化層が配置される構造である。前記軟化層は、板厚中央部の硬さよりも10Hv以上低い硬さを有する領域である。

0019

(板厚中央部)
本発明に係るホットスタンプ成形体の板厚中央部は、500Hv以上800Hv以下の硬さを有することを要件とする。板厚中央部の硬度を前述の範囲にするため、板厚中央部の成分組成を限定する理由について以下の通り説明する。以下、成分組成に係る%は質量%を意味する。

0020

(C:0.20%以上、0.70%未満)
Cは、板厚中央部において500Hv以上、800Hv以下の硬さ得るために重要な元素である。0.20%未満では、板厚中央部において500Hv以上を確保することが困難であるので、Cは0.20%以上とする。好ましくは0.30%以上である。一方、0.70%を超えると、板厚中央部の硬さが800Hvを超えて、曲げ性が低下するので、Cは0.70%以下とする。好ましくは0.50%以下である。

0021

(Si:3.00%未満)
Siは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素である。金属組織中へのSiの固溶による鋼板の強度を向上する効果を得るためのSi添加量は、好ましくは0.30%以上であるが、0.5%を超えてSiを添加しても前記効果は飽和する。

0022

Siは残留オーステナイトを生成させて延性を高める効果も有する。その効果を得るためには少なくとも0.50%超添加する必要がある。一方、3.00%を超えて添加してもその効果は飽和するため、Siの添加量は3.00%未満を上限とする。好ましくは2.0%未満である。

0023

(Mn:0.20%以上、3.00%未満)
Mnは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素である。金属組織中へのMnの固溶による鋼板の強度を向上する効果は、0.20%未満の添加量では効果が得られないため、0.20%以上添加する。好ましくは0.70%以上である。一方、1.50%以上添加してもその効果は飽和する。

0024

また、Mnは、焼き入れ性を高める効果も有する。1.50%以上添加することにより、焼き入れ性を高めて安定的に高い強度を得ることができる。焼き入れ性を向上する効果を得るための好ましい添加量は、1.70%以上である。3.00%以上添加しても、上記効果は飽和するため、Mn添加量の上限を3.00%とする。好ましくは、2.00%未満である。

0025

(P:0.10%以下)
Pは、粒界に偏析し、粒界の強度を阻害する元素である。0.10%を超えると、粒界の強度が著しく低下し、耐水素脆化特性や曲げ性が低下するので、Pは0.10%以下とする。好ましくは0.05%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Pコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用上、0.0001%が実質的な下限である。

0026

(S:0.10%以下)
Sは、介在物を形成する元素である。0.10%を超えると、介在物が生成し耐水素脆化特性や曲げ性が低下するので、Sは0.10%以下とする。好ましくは0.0025%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0015%未満に低減すると、脱Sコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用上、0.0001%が実質的な下限である。

0027

(sol.Al:0.0002%、以上3.0000%以下)
Alは、溶鋼脱酸して鋼を健全化する作用をなす元素である。本発明において、脱酸作用を得るために、鋼に含有される全てのAlでなく、いわゆる酸可溶性アルミニウム(sol.Al)としての含有量の範囲が規定される。sol.Alの含有量が0.0002%未満では、脱酸が十分でないので、sol.Alは0.0002%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。一方、3.0%を超えて添加してもその効果は飽和するので、3.0000%以下とする。

0028

(N:0.01%以下)
Nは、不純物元素であり、窒化物を形成して曲げ性を阻害する元素である。0.01%を超えると、粗大な窒化物が生成して曲げ性が著しく低下するので、Nは0.01%以下とする。好ましくは0.0075%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Nコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用上、0.0001%が実質的な下限である。

0029

(Ni:0.010%以上、3.00%以下)
Niは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上添加する。好ましくは0.5%以上である。一方、3.00%を超えて添加してもその効果は飽和するので、3.00%以下とする。好ましくは2.50%以下である。

0030

(Nb:0.010%以上、0.150%以下)
Nbは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上添加する。好ましくは0.035%以上である。一方、0.150%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.150%以下とする。好ましくは0.120%以下である。

0031

(Ti:0.010%以上、0.150%以下)
Tiは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上とする。好ましくは0.020%である。一方、0.150%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.150%以下とする。好ましくは0.120%以下である。

0032

(Mo:0.005%以上、1.0%以下)
Moは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.005%未満では効果が得られないので、0.005%以上とする。好ましくは0.0100%以上である。一方、1.000%を超えて添加してもその効果は飽和するため、1.000%以下とする。好ましくは0.800%以下である。

0033

(B:0.0005%以上、0.0100%以下)
Bは、粒界に偏析し粒界の強度を向上させる元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.0005%未満では添加効果が十分に得られないので、0.0005%以上添加する。好ましくは0.0010%以上である。一方、0.0100%を超えて添加してもその効果は飽和するため、0.0100%以下とする。好ましくは0.0075%以下である。

0034

板厚中央部の成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、鋼原料から及び/又は製鋼過程不可避的に混入し、本発明に係るホットスタンプ成形体の特性を阻害しない範囲で許容される元素である。

0035

(板厚中央部の硬さ:500Hv以上、800Hv以下)
板厚中央部の硬さは500Hv以上であると、本発明のホットスタンプ成形体の引張強度として1500MPa以上を確保することができる。好ましくは、600Hv以上である。一方、板厚中央部の硬さが800Hvを超えると、軟化層との硬さの差が大きくなりすぎ、曲げ性の劣化を招くため、800Hvを上限とする。好ましくは720Hv以下である。

0036

板厚中央部の硬さの測定方法は以下の通りである。ホットスタンプ成形体の板面に垂直な断面を採取し、測定面の試料調製を行い、硬さ試験に供する。測定面の調製方法は、JIS Z 2244に準じて実施すれば良く、例えば、#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して測定面を研磨した後、粒度1μmから6μmのダイヤモンドパウダーアルコール等の希釈液や純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げれば良い。硬さ試験は、JIS Z 2244に記載の方法で実施すれば良く、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて、板厚の1/2位置に、荷重1kgfで、圧痕の3倍以上の間隔で10点測定し、その平均値をホットスタンプ成形体の板厚中央部の硬さとする。

0037

(板厚中央部の金属組織)
板厚中央部は、残留オーステナイトを面積分率で1%以上含むことにより、延性を向上させることができる。板厚中央部における残留オーステナイトの面積分率は、好ましくは2%以上である。但し、残留オーステナイトの面積分率を5%以上とすると、曲げ性の劣化を招くため、上限を5%未満とする。好ましくは4.5%未満である。

0038

残留オーステナイトの面積分率は以下の方法で測定できる。ホットスタンプ成型後の部材から、試料を採取し、圧延面法線方向から板厚の1/2深さまで面削し、面削して得られた面をX線回折測定に供する。MoのKα線を用いたX線回折法により得られる像から、次式を用いて残留オーステナイトの面積率Vγを求めることができる。
Vγ=(2/3){100/(0.7×α(211)/γ(220)+1)}+(1/3){100/(0.78×α(211)/γ(311)+1)}
ここで、α(211)はフェライトの(211)面におけるX線回折強度、γ(220)はオーステナイトの(220)面におけるX線回折強度、γ(311)はオーステナイトの(311)面におけるX線回折強度)である。

0039

(軟化層)
前述したように、本発明において軟化層とは、ホットプレス成形体の板厚断面の板厚方向において、板厚中央部の硬さ(板厚の1/2位置における硬さ)から10Hv以上低下した位置から、前記成形体表面までの領域である。

0040

(軟化層の金属組織)
発明者らが良好な曲げ性が得られた鋼板の金属組織を調査した結果、軟化層を構成する金属組織が、板厚断面において、15°以上の方位差を持つ粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義したときに、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が8°〜15°の結晶粒で構成されていると良いことが見出された。これらの測定は、軟化層の表面下20μmの深さ位置から軟化層の厚さ1/2の深さ位置(軟化層中心)までの領域においてなされた。本発明者らが鋭意検討した結果、曲げ性等の効果の観点から、軟化層の表面から20μmの位置から軟化層の厚さ1/2の深さ位置までの組織分率が重要であることが見出された。このような金属組織により、ホットスタンプ成形体の表面性状の影響や、板厚中央部から軟化層に至る遷移部分の影響を排除することができる。

0041

軟化層の前記金属組織において、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が8°〜15°の結晶粒の合計の面積率が50%以上であり、更に好ましくは55%以上であるとよい。一方、軟化層の前記金属組織の合計の面積率が85%以上では、軟化層と板厚中央部の硬度差が大きくなりすぎて、曲げ変形時に発生する板厚方向の急激な硬さの勾配を低減する効果が得られないため、85%未満とする。更に好ましくは、80%以下である。

0042

なお、軟化層の厚さ1/2の深さ位置(軟化層中央)から板厚中央部との間については、軟化層の板厚中央部側(板厚中央部との境)における硬さをHvA、軟化層中心の硬さをHvBとすると、HvA−HvB≧10Hvの関係にある。

0043

軟化層表面下20μmから当該軟化層の厚さの1/2位置までの領域を決定する方法を以下に説明する。測定対象のホットスタンプ成形体の表面に対して垂直な断面(板厚断面)を採取して測定面の試料調製を行い、硬さ試験に供する。測定面の調製方法は、JIS Z 2244に準じて実施すれば良く、例えば、#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して測定面を研磨した後、粒度1μmから6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液や純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げれば良い。測定面を調製した試料に対し、JIS Z 2244記載の方法に準じてマイクロビッカース硬さ試験機を用いて、2回の測定を実施する。1回目は、前記ホットスタンプ成形体の表面から板厚方向に20μm以内の領域から板厚中央部(板厚の1/2位置)までを、前記表面に対して垂直な方向(板厚方向)に、荷重0.3kgfで、圧痕の3倍以上の間隔で測定する。但し、めっき層が存在する場合は、めっき、または、めっきと軟化層の素材との合金層の直下20μm以内の領域から測定する。前記の板厚中央部の硬さ(板厚の1/2位置における硬さ)から10Hv以上低下し始める位置を決定し、その板厚位置から前記ホットスタンプ成形体の表面までを軟化層とする。軟化層が両面に存在する場合、2回目の測定は、1回目と反対側の表面(裏面)にて同様の方法で実施して、板厚中央部の硬さから10Hv以上低下し始める位置を決定する。

0044

次に、軟化層の金属組織の面積率の算出方法について説明する。ホットスタンプ成形体からその表面に垂直な断面(板厚断面)が観察できるようにサンプルを切り出す。サンプルの長さは、測定装置にもよるが、50μm程度で良い。サンプルの板厚方向に、軟化層の表面から前記軟化層の厚さ1/2位置(軟化層中心)までの領域を、0.2μmの測定間隔でEBS解析して結晶方位情報を得る。ここでEBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡JEOL製SM−7001F)とEBSD検出器(TSL製DVC5型検出器)で構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施する。

0045

次に、得られた結晶方位情報に対して、15°以上の方位差を持つ粒界に囲まれた領域を一つの結晶粒と定義し、板面方向の結晶方位マップを作成する。得られた結晶方位マップを用いて、一つの結晶粒の長軸線結晶粒界との交点を求める。2つの交点のうち、いずれかの1点を始点とし、もう1点を終点として、結晶粒の長軸線上に含まれる全ての測定点間の方位差を算出する。得られた方位差の最大値を、当該結晶粒における最大結晶方位差とし、上記解析を測定領域に含まれる全ての結晶粒について実行した後、それらの値の平均値を15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差と定義する。

0046

上記で定義した最大結晶方位差は、例えば、EBSD解析装置付属ソフトウェア「OIMAnalysis(登録商標)」に搭載された「Inverse Pole Figure Map」および「Profile Vector」機能を用いれば、簡便に算出することが可能である。「Inverse Pole Figure Map」機能では、大傾角粒界として15°以上の傾角を持つ粒界を描くことが可能であり、さらに、板面方向の結晶方位マップを作成することができる。「Profile Vector」機能では、任意の直線上に含まれる全ての測定点間のMisorientation Angle(結晶方位差)を算出することができる。測定領域に含まれる全ての結晶粒(測定領域の端部にある結晶粒は含まない)について、上記解析を実施し、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率を算出する。軟化層が両面に形成されている場合は、上記手順をホットスタンプ成形体の裏面側でも実施し、表面側と裏面側から得られた面積率の平均値を採用する。

0047

(軟化層の組成
軟化層の組成は、強度及び/或いは曲げ性を阻害する不可避的不純物元素であるP、S、N以外、特に限定されないが、ホットスタンプ成形体の強度及び優れた曲げ性を示す鋼を確保するために、以下の組成にすることが好ましい。

0048

軟化層の組成は、C含有量、Si含有量、及びMn含有量のうちいずれか1つ又は2つ以上が、板厚中央部の対応する元素含有量の0.6倍以下であることが好ましく、その場合の各々の成分の好適な範囲については以下のとおりである。

0049

(C:0.05%以上、0.42%未満)
Cは、強度を高めるために0.05%以上添加しても良い。部材としての耐荷重を高めて衝撃特性を向上させる観点では、好ましくは、0.10%以上である。軟化層の硬さを板厚中央部の硬さより低くするため、板厚中央部より少なくすることが好ましい。このための軟化層の好ましいCの含有量は0.42%未満であり、好ましくは0.35%以下である。

0050

(Si:2.00%未満)
Siは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、強度を高めるために添加される。但し、軟化層の硬さを板厚中央部の硬さより低くするため、板厚中央部より少なくすることが好ましい。

0051

板厚中央部のSi含有量が0.50%以下である場合、軟化層の好ましいSiの含有量は0.30%以下であり、更に好ましくは0.20%以下である。また、板厚中央部のSi含有量が0.50%超、3.00%未満の場合、軟化層の好ましいSiの含有量は2.00%未満であり、更に好ましくは1.50%以下である。

0052

(Mn:0.12%以上、1.80%%未満)
Mnは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、強度を高めるために0.12%以上添加しても良い。但し、軟化層の硬さを板厚中央部の硬さより低くするため、板厚中央部より少なくすることが好ましい。

0053

板厚中央部のMn含有量が0.20%以上、1.50%未満である場合、軟化層の好ましいMnの含有量は0.90%未満であり、より好ましくは0.70%以下である。また、板厚中央部のMn含有量が1.50%以上、3.00%未満である場合、軟化層の好ましいMnの含有量は1.80%未満であり、好ましくは1.40%以下である。

0054

(P:0.10%以下)
Pは、粒界に偏析し、粒界の強度を阻害する元素である。0.10%を超えると、粒界の強度が著しく低下し、耐水素脆化特性や曲げ性が低下するので、Pは0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Pコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用上、0.0001%が実質的な下限である。

0055

(S:0.10%以下)
Sは、介在物を形成する元素である。0.10%を超えると、介在物が生成し耐水素脆化特性や曲げ性が低下するので、Sは0.10%以下とする。好ましくは0.0025%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0015%未満に低減すると、脱Sコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用上、0.0001%が実質的な下限である。

0056

(sol.Al:0.0002%、以上3.0000%以下)
Alは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用をなす元素である。本発明において、脱酸作用を得るために、鋼に含有される全てのAlでなく、いわゆる酸可溶性のアルミニウム(sol.Al)としての含有量の範囲が規定される。sol.Alの含有量が0.0002%未満では、脱酸が十分でないので、sol.Alは0.0002%以上とすることが好ましい。好ましくは0.0010%以上である。一方、3.0000%を超えて添加してもその効果は飽和するので、3.0000%以下とする。

0057

(N:0.01%以下)
Nは、不純物元素であり、窒化物を形成して曲げ性を阻害する元素である。0.01%を超えると、粗大な窒化物が生成して曲げ性が著しく低下するので、Nは0.01%以下とする。好ましくは0.0075%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Nコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用上、0.0001%が実質的な下限である。

0058

なお、軟化層の成分については、C含有量、Si含有量、及びMn含有量の1種又は2種以上が、板厚中央部のC含有量、Si含有量、及びMn含有量に対してそれぞれ0.6倍以下であることが好ましく、強度及び/或いは曲げ性を阻害する不可避的不純物元素であるP、S、Nの上限が規定される以外、他の成分については特に限定されない。一般的には、軟化層は、C、Si及びMn以外に、任意選択で、下記の成分のうち1種又は2種以上を含んでもよい。

0059

(Ni:0.01%以上、3.00%以下)
Niは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.01%未満では効果が得られないので、0.01%以上添加することが好ましい。より好ましくは0.50%以上である。一方、3.00%を超えて添加してもその効果は飽和するので、3.00%以下とする。好ましくは2.50%以下である。

0060

(Nb:0.010%以上、0.150%以下)
Nbは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上添加することが好ましい。より好ましくは0.035%以上である。一方、0.150%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.150%以下とする。好ましくは0.120%以下である。

0061

(Ti:0.010%以上、0.150%以下)
Tiは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.020%である。一方、0.150%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.150%以下とする。好ましくは0.120%以下である。

0062

(Mo:0.005%以上、1.000%以下)
Moは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.005%未満では効果が得られないので、0.005%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.010%以上である。一方、1.000%を超えて添加してもその効果は飽和するため、1.000%以下とする。好ましくは0.800%以下である。

0063

(B:0.0005%以上、0.0100%以下)
Bは、粒界に偏析し粒界の強度を向上させる元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.0005%未満では添加効果が十分に得られないので、0.0005%以上添加することが好ましい。より好ましくは0.0010%以上である。一方、0.0100%を超えて添加してもその効果は飽和するため、0.0100%以下とする。好ましくは0.0075%以下である。

0064

(ホットスタンプ成形体の断面硬さ分布
ホットスタンプ成形体の表面に対して垂直な断面において、板厚中央部において硬さ分布はばらつきが無く均一であることが好ましい。ハット構造においては縦壁部には金型が接触しにくく、冷却速度が小さくなるため硬さが低下する場合がある。ハット成形体の長手方向に対して垂直な断面の平均硬さに対して100HV以上硬さが低下する領域があった場合、衝突時に変形が軟化部に集中し早期に破断するため高い衝突特性が得られない。このためホットスタンプ成形体の表面に垂直な断面における硬さ分布の平均値(以下、「断面平均硬さ」という。)から100HVを下回る点があってはならない。前記断面における硬さ分布及び断面平均硬さは、ビッカース硬さ試験機(荷重1kgf)を用いて、長尺状のホットスタンプ成形体の長手方向に垂直な断面を、当該長手方向における任意の位置で採取し、縦壁を含む全断面領域板厚中心位置において、1mmピッチ以下の等間隔で、前記断面の端部間のビッカース硬さを測定することによって得られる。

0065

(めっき層の形成)
軟化層の表面上に、耐食性の向上等を目的として、めっき層を形成してもよい。めっき層は、電気めっき層及び溶融めっき層のいずれでもよい。電気めっき層としては、電気亜鉛めっき層電気Zn−Ni合金めっき層等が例示される。溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき層合金化溶融亜鉛めっき層溶融アルミニウムめっき層溶融Zn−Al合金めっき層、溶融Zn−Al−Mg合金めっき層、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき層等が例示される。めっき層の付着量は、特に制限されず一般的な付着量でよい。

0066

(本発明に係るホットスタンプ成形体の製造方法)
次に、本発明に係るホットスタンプ成形体を得るための製造方法の形態を説明するが、本発明は、以下に説明する複層鋼板の形態に限定されない。

0067

本発明の製造方法の一実施形態として、まず、上記の板厚中央部の成分組成の要件を満足する鋼板の表面及び/或いは裏面を研削して表面酸化物を除去した後、研削された面側に軟化層形成用鋼板(以下、「表層用鋼板」という。)を積層する。前記表層用鋼板と板厚中央部用の前記鋼板との固定方法は特に限定されないが、アーク溶接接着することによって行っても良い。なお、C含有量、Si含有量、及びMn含有量のうちいずれか1つ又は2つ以上が板厚中央部用鋼板の対応する元素含有量の0.6倍以下である表層用鋼板を積層することが好ましい。

0068

また、表層用鋼鈑の連続鋳造工程において鋳込み速度をton/min以上に制御することにより、表層用鋼鈑においてMnのミクロ偏析を抑制され、表層用鋼鈑におけるMnの濃度分布を均一にすることができる。Mnは、オーステナイトの降伏強度を上昇させることにより、変態後の組織において粒界の生成挙動に影響を与えるため、15°以上の方位差を持つ粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義したときに、結晶粒内部の最大結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の生成を促進させる効果を持つ。そのため、上記ミクロ組織の生成促進を目的として、表層用鋼鈑の連続鋳造工程において鋳込み速度を6ton/min以上に制御しても良い。

0069

また、上記の方法で作製した複層鋼板を、更に1100℃以上、1350℃以下の温度で20分以上60分未満保持することが好ましい。保持したものを、本発明に係るホットスタンプ成形体用の鋼板として用いることが好ましい。発明者らが検討した結果、1100℃以上、1350℃以下で20分以上60分未満保持する熱処理を行うことにより、軟化層の表面下20μmの深さ位置から軟化層中心までの領域の金属組織は、15°以上の方位差を持つ粒界で囲まれた領域を結晶粒と定義したときに、結晶粒内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、前記結晶粒内部の最大結晶方位差が8°〜15°の結晶粒の合計の面積率が50%以上、85%未満となり、良好な曲げ性と耐水素脆化特性が得られることがわかった。

0070

上記の製法にて製造された積層体(複層鋼板)に熱間圧延冷間圧延、ホットスタンプ、連続溶融めっきなどを施すことで、本発明に係るホットスタンプ成形体を得ることができる。

0071

熱間圧延は、通常の条件で実施する熱間圧延でよい。例えば、仕上げ温度も810℃以上の温度域で実施すれば良く、その後に続く冷却条件も特に規定する必要はなく、750℃以下の温度域で巻取を実施する。また、熱延後の前記複層鋼板の軟質化を目的とした再加熱処理を実施しても構わない。

0072

但し、板厚中央部の形成をより促進させるためには、複層鋼板の上記熱処理後の熱間圧延が、粗圧延及び仕上げ圧延を含み、当該粗圧延は、1100℃以上の温度にて1パスあたりの板厚減少率が5%以上50%未満、及びパス間時間が3秒以上の条件下で2回以上行われることが好ましい。

0073

具体的には、本発明における板厚中央部の形成をより促進させるためには、合金元素、特にC原子の濃度が緩やかに分布するように制御する必要がある。C濃度の分布はC原子の拡散によって得られ、C原子の拡散頻度は高温ほど増加する。したがって、C濃度を制御するためには、熱延加熱から粗圧延における制御が重要となる。熱延加熱では、C原子の拡散を促すために、加熱温度を高温化する必要があり、好ましくは1100℃以上1350℃以下、より好ましくは1150℃超1350℃以下である。熱延加熱では、図1に示す(i)及び(ii)の変化が生じる。(i)は板厚中央部から表層へのC原子の拡散であり、(ii)は表層から外部へと脱離するCの脱炭反応である。この(i)と(ii)のC原子の拡散と脱離反応の兼ね合いによりC濃度に分布が生じる。1100℃未満では、(i)の反応が不足するため、好ましいC濃度分布が得られない。一方、1350℃超では、(ii)の反応が過度に生じるため、同様に好ましい濃度分布が得られない。

0074

熱延加熱温度の調節により好ましいC濃度分布に制御した上で、さらに最適なC濃度分布を得るためには、粗圧延でのパス制御が極めて重要となる。粗圧延は、粗圧延温度が1100℃以上、1パスあたりの板厚減少率が5%以上50%未満、及びパス間時間が3秒以上の条件下で2回以上行われる。これは、粗圧延で導入される歪により、図1中の(i)のC原子の拡散を促すためである。仮に、熱延加熱でC濃度を好ましい状態に制御したスラブを常法で粗圧延及び仕上げ圧延すると、C原子が表層内で十分に拡散できないまま板厚が減少することになる。したがって、200mmを超える厚みをもつスラブから、厚さ数mmの熱延鋼板を常法の熱延にて製造すると、表層でC濃度が急激に変化する鋼板となり、緩やかな硬さ変化が得られなくなる。これを解決するために見出された方法が上記の粗圧延のパス制御である。C原子の拡散は、温度だけでなく歪(転位密度)の影響を大きく受ける。特に、格子拡散に比べて、転位拡散では10倍以上に拡散頻度が高まるため、転位密度を残しつつ、圧延により板厚を薄くする工夫が必要となる。図2曲線1は粗圧延の1パスあたりの板厚減少率が小さい場合の、圧延パス後の転位密度変化を示しており、長時間にわたって歪が残存していることがわかる。このように長時間にわたって歪を表層に残存させることで、表層内のC原子の拡散が十分に起こり、最適なC濃度分布を得ることが可能となる。一方、曲線2は板厚減少率が大きな場合の転位密度の変化であり、圧延により導入される歪量が高まると、回復が促進されやすくなり、転位密度が急激に低下する。このため、最適なC濃度分布を得るためには、曲線2のような転位密度の変化を生じさせないことが必要である。このような観点から、1パスあたりの板厚減少率の上限が50%未満となる。なお、表層でのC原子の拡散を促すために、ある量の転位密度と保持時間の確保が必要となるため、板厚減少率の下限が5%となり、パス間時間として3秒以上の確保が必要となる。

0075

冷間圧延は、通常の圧下率、例えば、30〜90%で行う冷間圧延でよい。熱延鋼板及び冷延鋼板には、そのまま、又は前記熱延鋼板または冷延鋼板に通常の条件で再結晶焼鈍を施した鋼板や、通常の条件で調質圧延を施した鋼板も含まれる。

0076

ホットスタンプ時の加熱、成型、冷却工程も、通常の条件で実施すればよい。例えば、熱間圧延工程で巻き取った熱延鋼板を巻き戻した熱延鋼板、又は、巻き取った熱延鋼板を巻き戻して冷間圧延を施した冷延鋼板、若しくは冷延鋼板にめっきを施して、0.1℃/s以上、200℃/sの加熱速度で、810℃以上、1000℃以下の温度まで加熱し、この温度に保持した鋼板を、所要の形状に通常のホットスタンプで成形する。

0077

保持時間は、成形態様に応じて設定すればよいので、特に限定しない。例えば、30秒以上、600秒以下であれば良いホットスタンプ後の成形体を室温まで冷却する。

0078

冷却速度も通常の条件に設定すれば良く、例えば、加熱温度から400℃超までの温度域における平均冷却速度が50℃/s以上であればよい。板厚中央部におけるSi含有量が0.50%超、3.00%未満であり、板厚中央部におけるMn含有量が0.20%以上、1.50%未満である鋼鈑、および、板厚中央部におけるSi含有量が0.50%超、3.00%未満であり、板厚中央部におけるMn含有量が1.50%以上、3.00%未満であり鋼鈑の場合は、残留オーステナイトの生成量を増加させて延性を向上させることを目的として、加熱保持後の冷却において、200℃以上、400℃以下の温度域における平均冷却速度を50℃/s未満に制御することが好ましい。

0079

また、強度の調整等を目的として、室温まで冷却した成形体に150℃〜600℃の範囲で焼戻し処理を施してもよい。

0080

前述の実施形態のホットスタンプ成形体の製造方法では、板厚中央部及び軟化層をそれぞれ別々の鋼板で構成している。しかし、本発明のホットスタンプ成形体は、前述したような2つの鋼板を積層した複層鋼板に限定されない。板厚中央部及び軟化層は単一の素材の鋼板内に形成されていても良く、例えば、単層鋼板を脱炭処理してその表層部分を軟化することにより、軟化層と板厚中央部とからなる高強度鋼板を製造することも可能である。

0081

次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。

0082

[製造例A]
表A−1−1に示す化学組成を持つ板厚中央部用鋼板No.1〜18(表中の「鋼No.1〜18」)の表面を研削して表面酸化物を除去した。その後、それぞれの板厚中央部用鋼板の両面又は片側面に表A−1−2に示す化学組成を持つ表層用鋼板をアーク溶接で積層して、ホットスタンプ成形体用の積層鋼板No.1〜43を作製した。なお、アーク溶接後の表層用鋼板と板厚中央部用鋼板の合計の板厚は200mm〜300mmとし、表層用鋼板の厚さは、板厚中央部用鋼板の厚さの1/3程度(片側の場合は1/4程度)とする。積層鋼板No.37は片側面のみに表層用鋼板を溶接した鋼である。表A−1−1〜表A−1−2の積層鋼板No.1〜43のうち、板厚中央部用鋼板が本発明に係るホットスタンプ成形体の板厚中央部の組成要件を満たさないものは、備考欄に「比較鋼」として示されている。

0083

積層鋼板No.1〜43のそれぞれに対して、表A−2−1〜表A−2−2に示す製造条件No.1〜43の条件にて、熱間圧延前熱処理、粗圧延および熱間圧延、冷間圧延を施して鋼板とした。次いで、該鋼板に対して表A−2−1〜表A−2−2に示す熱処理(表中、「ホットスタンプ成形体の熱処理」)を施すことによってホットスタンプを行い、ホットスタンプ成形体(表A−3の項目「成形体」)No.1A〜43Aをそれぞれ製造した。尚、No.35A、36Aのホットスタンプ成形体には、溶融めっきラインにて、その表面に、付着量120〜160g/m2のアルミニウムめっきをした。

0084

表中、「粗圧延」の項目「板厚減少率」は粗圧延の1パス当たりの板厚減少率を意味し、項目「圧延回数」はパス間時間が3秒以上の条件下での圧延回数を意味する。また、表中の項目「加熱速度(℃/s)」は、冷間圧延工程後「ホットスタンプ時の熱処理」の加熱温度に到達するまでの昇温速度を意味する。また、表中、「ホットスタンプ時の熱処理」の項目「加熱温度(℃)」はホットスタンプ成形時の温度であり、「平均冷却速度(℃/s)(400℃超)」は前記加熱温度から400℃超までの温度域における平均冷却速度(℃/s)を意味し、「平均冷却速度(℃/s)(400℃以下)」は、200℃以上400℃以下の温度域における平均冷却速度(℃/s)を意味する。また、表中、符号「−」が付された欄は、該当する処理がされなかったことを示す。

0085

表A−3に、ホットスタンプ成形体No.1A〜43Aの金属組織と特性を示す。ホットスタンプ成形体から採取したサンプルの板厚1/2の位置および、軟化層の表面から20μmの位置を分析した成分は、表A−1−1〜表A−1−2の積層鋼板No.1〜43の板厚中央部用鋼板および、表層用鋼板の成分と同等であった。

0086

ホットスタンプ後の鋼板の金属組織を、先述の方法により測定し、板厚中央部を構成する板厚中央部用鋼板の硬さ、軟化層を構成する表層用鋼板の表面から厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率を算出した。前記面積率の算出値を表A−3の項目「大角粒界内の最大結晶方位差1°以下の結晶粒と、最大結晶方位差8°〜15°の結晶粒の合計の面積率(%)」に示す。

0087

ホットスタンプ成形体の引張試験を行った。その結果を表A−3に示す。引張試験は、JIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に記載の試験方法に従って実施した。

0088

ホットスタンプ成形体の耐水素脆化特性は、成形体より切り出した試験片を用いて評価した。一般にホットスタンプ成形体はスポット溶接等の接合手法を用いてその他部品を接合され、部品形状精度によってはホットスタンプ成形体にねじりが加わり応力が付加される。応力は部品の位置によって異なり、これを正確に算出することは難しいが、降伏応力遅れ破壊しなければ実用上問題無いと考えられている。そこで、成形体より、板厚1.2mm×幅6mm×長さ68mmの試験片を切り出し、四点曲げ試験にて降伏応力相当の歪を付与した後、pH3の塩酸に100h浸漬し、割れの発生有無で耐水素脆化特性を評価した。破断無しの場合を合格(○)、破断が有りの場合を不合格(×)とした。

0089

ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を評価する目的で、ドイツ自動車工業会で規定されたVDA基準(VDA238−100)に基づいて以下の測定条件で評価を行った。本発明では曲げ試験で得られる最大荷重時変位をVDA基準で角度に変換し、最大曲げ角度を求めることにより、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を評価した。

0090

試験片寸法:60mm(圧延方向)×60mm(圧延と垂直方向)、または、30mm(圧延方向)×60mm(圧延と垂直方向)
曲げ稜線:圧延と直角な方向
試験方法:ロール支持、ポンチ押し込み
ロール径:φ30mm
ポンチ形状:先端R=0.4mm
ロール間距離:2.0×板厚(mm)+0.5mm
押し込み速度:20mm/min
試験機SIMAZU AUTOGRAPH 20kN

0091

引張強度が1500MPa以上であり、なおかつ、最大曲げ角度(°)が70(°)以上であり、なおかつ、耐水素脆性が合格となった場合を、耐衝突特性と耐水素脆化特性に優れるとして、発明例とした。上記3つの性能のうち、何れか一つでも満足しない場合は、比較例とした。

0092

本発明例のホットスタンプ成形体はいずれも、表層用鋼板の表面から厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率が、50%以上85%未満であった。また、本発明例のホットスタンプ成形体はいずれも、引張強度、曲げ性と耐水素脆化特性に優れている。

0093

これに対して、No.5Aのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板の炭素含有量が少なかったために板厚中央部の硬さが不十分となり、引張強度が不十分となった。No.9Aのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板の炭素含有量が過剰であったため、板厚中央部の硬さも過剰となり、目標とする曲げ性が得られなかった。また、No.11Aのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板のMn含有量が乏しいために板厚中央部の硬さが不十分となり、引張強度が不十分となった。

0094

No.30A〜32Aのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前に好ましい熱処理が適用されなかったホットスタンプ成形体用の積層鋼板を用いて製造された比較例である。No.30Aのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理温度が低く、No.31Aのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理時間が短かったため、軟化層の表面から厚さ1/2までの当該軟化層の金属組織において、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、目標とする曲げ性が得られなかった。また、No.32Aのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理温度が過剰に高かったため、曲げ変形時に発生する板厚方向の急激な硬さの勾配を低減する効果が得られなかった。

0095

No.41Aのホットスタンプ成形体は、粗圧延の圧延温度が低かった。また、No.42Aのホットスタンプ成形体は、粗圧延の板厚減少率が低かった。また、No.43Aのホットスタンプ成形体は、パス間時間が3秒以上の条件下での圧延回数が少ない。これらのホットスタンプ成形体は、好適な粗圧延条件で製造されていないため、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、曲げ変形によって発生するひずみを緩和することができず、目標とする曲げ性を得ることができなかった。

0096

製造No.44のホットスタンプ成形体は、表層用鋼鈑の連続鋳造工程において鋳込み速度を6ton/min以上に制御した鋼鈑であり、表層用鋼板の表面から厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率(%)を高めることができ、曲げ性に優れている。

0097

0098

0099

0100

0101

0102

[製造例B]
表B−1−1に示す化学組成を持つ板厚中央部用鋼板No.1〜18(表B−1−1中の「鋼No.1〜18」)の表面を研削して表面酸化物を除去した。その後、それぞれの板厚中央部用鋼板の両面又は片側面に表B−1−2に示す化学組成を持つ表層用鋼板をアーク溶接で積層して、ホットスタンプ成形体用の積層鋼板No.1〜41を作製した。なお、アーク溶接後の表層用鋼板と板厚中央部用鋼板の合計の板厚は200mm〜300mmとし、表層用鋼板の厚さは、板厚中央部用鋼板の厚さの1/3程度(片側の場合は1/4程度)とする。積層鋼板No.37は片側面のみに表層用鋼板を溶接した鋼である。No.37以外の積層鋼板には、それぞれの板厚中央部用鋼板の両面に表層用鋼板が溶接されている。表B−1−3の積層鋼板No.1〜41のうち、板厚中央部用鋼板が本発明に係るホットスタンプ成形体の板厚中央部の組成要件を満たさないものは、備考欄に「比較鋼」として示されている。

0103

積層鋼板No.1〜41のそれぞれに対して、表B−2−1〜表B−2−2に示す製造条件No.1〜41の条件にて、熱間圧延前熱処理、粗圧延および熱間圧延、冷間圧延を施して鋼板とした。次いで、該鋼板に対して表B−2−1〜表B−2−2に示す熱処理(表中、「ホットスタンプ成形体の熱処理」)を施すことによってホットスタンプを行い、ホットスタンプ成形体(表B−3−1及び表B−3−2の項目「成形体」)No.1B〜41Bをそれぞれ製造した。尚、No.35B、36Bのホットスタンプ成形体には、溶融めっきラインにて、その表面に、付着量120〜160g/m2のアルミニウムめっきをした。尚、表B−2−1〜表B−2−2の各項目は、表A−2−1〜表A−2−2の項目にそれぞれ対応する。また、表中、符号「−」が付された欄は、該当する処理がされなかったことを示す。

0104

表B−3−1及び表B−3−2に、ホットスタンプ成形体No.1B〜41Bの金属組織と特性を示す。ホットスタンプ成形体から採取したサンプルの板厚1/2の位置(板厚中心部)および、軟化層の表面から20μmの位置を分析した成分は、表B−1−1〜表B−1−3の積層鋼板No.1〜41の板厚中央部用鋼板および、表層用鋼板の成分と同等であった。

0105

ホットスタンプ後の鋼板の金属組織を、先述の方法により測定し、板厚中央部を構成する板厚中央部用鋼板の硬さ、軟化層を構成する表層用鋼板の表面から当該軟化層の厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率(%)を算出した。前記面積率の算出値を表B−3−1〜表B−3−2の項目「大角粒界内の最大結晶方位差1°以下の結晶粒と、最大結晶方位差8°〜15°の結晶粒の合計の面積率(%)」に示す。

0106

また、ホットスタンプ成形体No.1B〜41Bのそれぞれについて、板厚中心部(板厚の1/2位置)における平均硬さ(HV)及び最小硬さ(HV)を、先述した方法により測定した。その測定結果を表B−3−1〜表B−3−2に示す。ホットスタンプ成形体No.1B〜41Bのそれぞれについて、平均硬さ(HV)と最小硬さ(HV)との差を表B−3−1〜表B−3−2の「断面の硬度ばらつき」に示す。尚、断面の硬度ばらつきが100HV以上のものを不合格とした。

0107

ホットスタンプ成形体の引張試験を行った。その結果を表B−3−1〜表B−3−2に示す。引張試験は、JIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に記載の試験方法に従って実施した。

0108

ホットスタンプ成形体の耐水素脆化特性は、製造例Aと同様に、成形体より切り出した試験片を用いて評価した。すなわち、成形体より、板厚1.2mm×幅6mm×長さ68mmの試験片を切り出し、四点曲げ試験にて降伏応力相当の歪を付与した後、pH3の塩酸に100h浸漬し、割れの発生有無で耐水素脆化特性を評価した。破断無しの場合を合格(○)、破断が有りの場合を不合格(×)とした。

0109

ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を評価する目的で、ドイツ自動車工業会で規定されたVDA基準(VDA238−100)に基づいて、製造例Aと同じ測定条件で評価を行った。本発明では曲げ試験で得られる最大荷重時の変位をVDA基準で角度に変換し、最大曲げ角度を求めることにより、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を評価した。

0110

引張強度が1500MPa以上であり、なおかつ、最大曲げ角度(°)が70(°)以上であり、なおかつ、耐水素脆性が合格となった場合を、耐衝突特性と耐水素脆化特性に優れるとして、発明例とした。上記3つの性能のうち、何れか一つでも満足しない場合は、比較例とした。

0111

本発明例のホットスタンプ成形体はいずれも、表層用鋼板の表面から厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率(%)が、50%以上85%未満であった。また、本発明例のホットスタンプ成形体はいずれも、引張強度、曲げ性と耐水素脆化特性に優れている。

0112

これに対して、No.5Bのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板の炭素含有量が少なかったために板厚中央部の硬さが不十分となり、引張強度が不十分となった。No.9Bのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板の炭素含有量が過剰であったため、板厚中央部の硬さも過剰となり、目標とする曲げ性が得られなかった。また、No.11Bのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板のMn含有量が乏しいために板厚中央部の硬さが不十分となり、引張強度が不十分となった。

0113

No.30B〜32Bのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前に好ましい熱処理が適用されなかったホットスタンプ成形体用の積層鋼板を用いて製造された比較例である。No.30Bのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理温度が低く、No.31Bのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理時間が短かったため、軟化層の表面から厚さ1/2までの当該軟化層の金属組織において、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、目標とする曲げ性が得られなかった。また、No.32Bのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理温度が過剰に高かったため、曲げ変形時に発生する板厚方向の急激な硬さの勾配を低減する効果が得られなかった。

0114

No.38Bのホットスタンプ成形体は、粗圧延の圧延温度が低かった。また、No.39Bのホットスタンプ成形体は、粗圧延の板厚減少率が低かった。また、No.40Bのホットスタンプ成形体は、パス間時間が3秒以上の条件下での圧延回数が少ない。これらのホットスタンプ成形体は、好適な粗圧延条件で製造されていないため、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、曲げ変形によって発生するひずみを緩和することができず、目標とする曲げ性を得ることができなかった。

0115

No41Bのホットスタンプ成形体は、表層用鋼鈑の連続鋳造工程において鋳込み速度を6ton/min以上に制御した鋼鈑であり、表層用鋼板の表面から厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率を高めることができ、曲げ性に優れている。

0116

0117

0118

0119

0120

0121

0122

0123

[製造例C]
表C−1−1〜表C−1−2に示す化学組成を持つ板厚中央部用鋼板の表面を研削して表面酸化物を除去した。その後、それぞれの板厚中央部用鋼板の両面又は片側面に表C−1−3〜表C−1−4に示す化学組成を持つ表層用鋼板をアーク溶接で積層して、ホットスタンプ成形体用の積層鋼板No.1〜49を作製した。なお、アーク溶接後の表層用鋼板と板厚中央部用鋼板の合計の板厚は200mm〜300mmとし、表層用鋼板の厚さは、板厚中央部用鋼板の厚さの1/3程度(片側の場合は1/4程度)とした。積層鋼板No.31は片側面のみに表層用鋼板を溶接した鋼である。表C−1−1〜表C−1−4の積層鋼板No.1〜53のうち、板厚中央部用鋼板が本発明に係るホットスタンプ成形体の板厚中央部の組成要件を満たさないものは、備考欄に「比較鋼」として示されている。

0124

表C−1−3〜表C−1−4の「板厚中央部用鋼板に対する表層用鋼板のC、Si、Mn含有量の比率」は、ホットスタンプ成形体用の積層鋼板No.1〜53のそれぞれに関し、板厚中央部用鋼板のC、Si、Mn含有量に対する表層用鋼板のC、Si、Mn含有量の割合を示す。

0125

積層鋼板No.1〜53のそれぞれに対して、表C−2−1〜表C−2−2に示す製造条件No.1〜53の条件にて、熱間圧延前熱処理、粗圧延および熱間圧延、冷間圧延を施して鋼板とした。次いで、該鋼板に対して、表C−2−1〜表C−2−2に示す熱処理(表中、「ホットスタンプ成形体の熱処理」)を施すことによってホットスタンプを行い、ホットスタンプ成形体(表C−3−1〜表C−3−2の項目「成形体」)No.1C〜53Cをそれぞれ製造した。尚、No.30Cのホットスタンプ成形体には、溶融めっきラインにて、その表面に、付着量120〜160g/m2のアルミニウムめっきをした。尚、表C−2−1〜表C−2−2の各項目は、表A−2−1〜表A−2−2の項目にそれぞれ対応する。また、表中、符号「−」が付された欄は、該当する処理がされなかったことを示す。

0126

表C−3−1〜表C−3−2に、ホットスタンプ成形体No.1C〜53Cの金属組織と特性を示す。ホットスタンプ成形体から採取したサンプルの板厚1/2の位置(板厚中心部)および、軟化層の表面から20μmの位置を分析した成分は、表C−1−1〜表C−1−4の積層鋼板No.1〜53の板厚中央部用鋼板および、表層用鋼板の成分と同等であった。

0127

ホットスタンプ後の鋼板の金属組織を、先述の方法により測定し、板厚中央部を構成する板厚中央部用鋼板の硬さ、軟化層を構成する表層用鋼板の表面から当該軟化層の厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率を算出した。前記面積率の算出値を表C−3−1〜表C−3−2の項目「大角粒界内の最大結晶方位差1°以下の結晶粒と、最大結晶方位差8°〜15°の結晶粒の合計の面積率(%)」に示す。

0128

ホットスタンプ成形体の引張試験を行った。その結果を表C−3−1〜表C−3−2に示す。引張試験は、JIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に記載の試験方法に従って実施した。

0129

ホットスタンプ成形体の耐水素脆化特性は、製造例Aと同様に、成形体より切り出した試験片を用いて評価した。すなわち、成形体より、板厚1.2mm×幅6mm×長さ68mmの試験片を切り出し、四点曲げ試験にて降伏応力相当の歪を付与した後、pH3の塩酸に100h浸漬し、割れの発生有無で耐水素脆化特性を評価した。破断無しの場合を合格(○)、破断が有りの場合を不合格(×)とした。

0130

ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を評価する目的で、ドイツ自動車工業会で規定されたVDA基準(VDA238−100)に基づいて、製造例Aと同じ測定条件で評価を行った。本発明では曲げ試験で得られる最大荷重時の変位をVDA基準で角度に変換し、最大曲げ角度を求めることにより、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を評価した。

0131

引張強度が1500MPa以上であり、なおかつ、最大曲げ角度(°)が70(°)以上であり、均一伸びが5%以上でありなおかつ、耐水素脆性特性が合格となった場合を、耐衝突特性と耐水素脆化特性および延性に優れるとして、発明例とした。上記3つの性能のうち、何れか一つでも満足しない場合は、比較例とした。

0132

本発明例のホットスタンプ成形体はいずれも、表層用鋼板の表面から当該表層用鋼板の厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率が、50%以上85%未満であった。また、本発明例のホットスタンプ成形体はいずれも、引張強度、曲げ性と耐水素脆化特性に優れている。

0133

これに対して、No.5Cのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板の炭素含有量が少なかったために板厚中央部の硬さが不十分となり、引張強度が不十分となった。No.9Cのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板の炭素含有量が過剰であったため、板厚中央部の硬さも過剰となり、目標とする曲げ性が得られなかった。また、No.11Cのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板のSi含有量が低く、板厚中央部の金属組織の残留オーステナイト(γ)の面積分率が1.0%未満であり、均一伸びが低かった。

0134

No.25C〜27C、49Cのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前に好ましい熱処理が適用されなかったホットスタンプ成形体用の積層鋼板を用いて製造された比較例である。No.25Cのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理温度が低くすぎたため、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、ホットスタンプ成形体の表面性状の影響や、板厚中央部から軟化層に至る遷移部分の影響を排除することができず、優れた曲げ性を得ることができなかった。

0135

また、No.26Cのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理時間が過剰に高かったため、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が過剰となり、軟化層と板厚中央部の硬度差が大きくなりすぎて、曲げ変形時に発生する板厚方向の急激な硬さの勾配を低減する効果が得られなかった。そのため、製造No.26Cのホットスタンプ成形体は、目標とする曲げ性が得られなかった。

0136

また、No.27C、49Cのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理時間が長すぎたために、軟化層と板厚中央部の硬度差が大きくなりすぎて、熱処理温度が過剰に高かったため、曲げ変形時に発生する板厚方向の急激な硬さの勾配を低減する効果が得られなかった。そのため、製造No.27C、49Cのホットスタンプ成形体は、優れた曲げ性を得ることができなかった。

0137

No.50Cのホットスタンプ成形体は、粗圧延の圧延温度が低かった。また、No.51Cのホットスタンプ成形体は、粗圧延の板厚減少率が低かった。また、No.52Cのホットスタンプ成形体は、パス間時間が3秒以上の条件下での圧延回数が少ない。これらのホットスタンプ成形体は、好適な粗圧延条件で製造されていないため、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、曲げ変形によって発生するひずみを緩和することができず、目標とする曲げ性を得ることができなかった。

0138

No.53Cのホットスタンプ成形体は、表層用鋼鈑の連続鋳造工程において鋳込み速度を6ton/min以上に制御した鋼鈑であり、表層用鋼板の表面から厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率を高めることができ、曲げ性に優れている。

0139

0140

0141

0142

0143

0144

0145

0146

0147

[製造例D]
表D−1−1、表D−1−2に示す化学組成を持つ板厚中央部用鋼板No.1〜37(表中の「鋼No.1〜37」)の表面を研削して表面酸化物を除去した。その後、それぞれの板厚中央部用鋼板の両面又は片側面に表D−1−3、表D−1−4に示す化学組成を持つ表層用鋼板をアーク溶接で積層して、ホットスタンプ成形体用の積層鋼板No.1〜60を作製した。なお、アーク溶接後の表層用鋼板と板厚中央部用鋼板の合計の板厚は200mm〜300mmとし、表層用鋼板の厚さは、板厚中央部用鋼板の厚さの1/3程度(片側の場合は1/4程度)とした。積層鋼板No.37は片側面のみに表層用鋼板を溶接した鋼である。No.37以外の積層鋼板には、それぞれの板厚中央部用鋼板の両面に表層用鋼板が溶接されている。表D−1−1〜表D−1−4の積層鋼板No.1〜60のうち、板厚中央部用鋼板が本発明に係るホットスタンプ成形体の板厚中央部の組成要件を満たさないものは、備考欄に「比較鋼」として示されている。

0148

積層鋼板No.1〜60のそれぞれに対して、表D−2−1〜表D−2−3に示す製造条件No.1〜60の条件にて、熱間圧延前熱処理、粗圧延および熱間圧延、冷間圧延を施して鋼板とした。次いで、該鋼板に対して表D−2−1〜表D−2−3に示す熱処理(表中、「ホットスタンプ成形体の熱処理」)を施すことによってホットスタンプを行い、ホットスタンプ成形体(表D−3−1〜表D−3−3の項目「成形体」)No.1D〜60Dをそれぞれ製造した。尚、No.38D、39Dのホットスタンプ成形体には、溶融めっきラインにて、その表面に、付着量120〜160g/m2のアルミニウムめっきをした。尚、表D−2−1〜表D−2−3の各項目は、表A−2−1〜表A−2−2の項目にそれぞれ対応する。また、表中、符号「−」が付された欄は、該当する処理がされなかったことを示す。

0149

表D−3−1〜D−3−3に、ホットスタンプ成形体No.1D〜60Dの金属組織と特性を示す。ホットスタンプ成形体から採取したサンプルの板厚1/2の位置(板厚中心部)および、軟化層の表面から20μmの位置を分析した成分は、表D−1−1〜表D−1−3の積層鋼板No.1〜60の板厚中央部用鋼板および、表層用鋼板の成分と同等であった。

0150

ホットスタンプ後の鋼板の金属組織を、先述の方法により測定し、板厚中央部を構成する板厚中央部用鋼板の硬さ、軟化層を構成する表層用鋼板の表面から当該軟化層の厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率を算出した。前記面積率の算出値を表D−3−1〜D−3−3の項目「大角粒界内の最大結晶方位差1°以下の結晶粒と、最大結晶方位差8°〜15°の結晶粒の合計の面積率(%)」に示す。

0151

ホットスタンプ成形体No.1D〜60Dの引張試験を行った。その結果を表D−3−1〜表D−3−3に示す。引張試験は、JIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に記載の試験方法に従って実施した。

0152

ホットスタンプ成形体の耐水素脆化特性は、製造例Aと同様に、成形体より切り出した試験片を用いて評価した。すなわち、成形体より、板厚1.2mm×幅6mm×長さ68mmの試験片を切り出し、四点曲げ試験にて降伏応力相当の歪を付与した後、pH3の塩酸に100h浸漬し、割れの発生有無で耐水素脆化特性を評価した。破断無しの場合を合格(○)、破断が有りの場合を不合格(×)とした。

0153

ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を評価する目的で、ドイツ自動車工業会で規定されたVDA基準(VDA238−100)に基づいて、製造例Aと同じ測定条件で評価を行った。本発明では曲げ試験で得られる最大荷重時の変位をVDA基準で角度に変換し、最大曲げ角度を求めることにより、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を評価した。

0154

ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を延性の観点からも評価した。具体的には、ホットスタンプ後の鋼板の引張試験により当該鋼板の均一伸びを求めて耐衝突特性を評価した。引張試験は、JIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に記載の試験方法に従って実施し、最大引張荷重が得られた伸びを均一伸びとした。

0155

局所的な軟化部は衝突時に変形が集中し、割れ発生の要因となるため、成形体における硬さのばらつきが小さいこと、すなわち安定的な強度を確保することは、耐衝突特性を確保する上で重要である。そこで、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を、硬さばらつきの観点からも評価した。長尺状のホットスタンプ成形体の長手方向に垂直な断面を、当該長手方向における任意の位置で採取し、縦壁を含む全断面領域の板厚中心位置の硬さを測定した。測定にはビッカース試験機を用い、測定荷重は1kgf、測定点数は10点、測定間隔は1mmとした。平均断面硬度と最小硬さとの差を表D−3−1〜表D−3−3に示す。全測定点の平均値から100Hvを下回る測定点が無い場合を硬さばらつきが小さい、すなわち強度安定性に優れ、結果として耐衝突特性に優れるとして合格とし、100Hvを下回る測定点がある場合を不合格とした。

0156

引張強さが1500MPa以上であり、均一伸びが5%以上であり、硬さばらつきが合格であり、最大曲げ角度(°)が70.0(°)以上であり、耐水素脆化特性が合格である場合を、耐衝突特性と耐水素脆化特性に優れたホットスタンプ成形体として評価した(表D−3−1〜表D−3−3中の発明例)。一方、上記5つの性能のうち、何れか一つでも満足しない場合は、比較例とした。

0157

本発明例のホットスタンプ成形体はいずれも、表層用鋼板の表面から厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率が、50%以上85%未満であった。また、本発明例のホットスタンプ成形体はいずれも、引張強度、曲げ性と耐水素脆化特性に優れている。

0158

これに対して、No.5Dのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板の炭素含有量が少なかったために板厚中央部の硬さが不十分となり、引張強度が不十分となった。No.9Dのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板の炭素含有量が過剰であったため、板厚中央部の硬さも過剰となり、目標とする曲げ性が得られなかった。また、No.10D及びNo.11Dのホットスタンプ成形体は、板厚中央部用鋼板のSi含有量が乏しいために均一伸びが不十分であった。また、No.12Dのホットスタンプ成形体はMn含有量が不十分であったために、板厚中央部の硬さが不十分となり、引張強度が不十分であった。No.14D及びNo.15Dのホットスタンプ成形体は、Si含有量及びMn含有量が乏しいので、残留オーステナイトの面積分率が1.0%未満となり、均一伸びが不十分であった。尚、No.12D〜No.15Dのホットスタンプ成形体は、いずれも硬さばらつきが大きく、不合格であった。

0159

No.33D〜35Dのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前に好ましい熱処理が適用されなかったホットスタンプ成形体用の積層鋼板を用いて製造された比較例である。No.33Dのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理温度が低かったため、軟化層の表面から厚さ1/2までの当該軟化層の金属組織において、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、目標とする曲げ性が得られなかった。No.34Dのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理温度が過剰に高かったため、軟化層の表面から20μmの位置から軟化層の厚さ1/2の深さ位置までの組織分率が85%を超えるまでに発達している。そのため、No.34Dのホットスタンプ成形体では、軟化層と板厚中央部の硬度差が大きくなりすぎて、曲げ変形時に発生する板厚方向の急激な硬さの勾配を低減する効果が得られなかった。また、No.35Dのホットスタンプ成形体は、ホットスタンプ工程前の熱処理時間が短かったため、軟化層の表面から厚さ1/2までの当該軟化層の金属組織において、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、目標とする曲げ性が得られなかった。

0160

No.40Dのホットスタンプ成形体はSi含有量が過剰であったために、残留オーステナイトが面積分率で5%を超えるまで過剰に生成した。そのため、No.40Dのホットスタンプ成形体は、曲げ性に劣る。No.41Dのホットスタンプ成形体は、Mn含有量が過剰であったために、引張強度がホットスタンプ成形体No.1D〜56Dの中で最も大きくなり、曲げ性が劣化した。No.42Dのホットスタンプ成形体は酸可溶性のアルミニウムの含有量に乏しいために酸素を含む介在物が過剰に生成し、曲げ性が劣化した。また、No.45Dのホットスタンプ成形体はアルミニウムを過剰に含むため、アルミニウムを主体とする酸化物が過剰に生成し、曲げ性が劣化した。

0161

No.57Dのホットスタンプ成形体は、粗圧延の圧延温度が低かった。また、No.58Dのホットスタンプ成形体は、粗圧延の板厚減少率が低かった。また、No.59Dのホットスタンプ成形体は、パス間時間が3秒以上の条件下での圧延回数が少ない。これらのホットスタンプ成形体は、好適な粗圧延条件で製造されていないため、軟質組織及び中間の硬さの金属組織の成長が不十分となり、曲げ変形によって発生するひずみを緩和することができず、目標とする曲げ性を得ることができなかった。

0162

No60Dのホットスタンプ成形体は、表層用鋼鈑の連続鋳造工程において鋳込み速度を6ton/min以上に制御した鋼鈑であり、表層用鋼板の表面から厚さ1/2までの金属組織における、15°以上の粒界で囲まれた領域内部の最大結晶方位差が1°以下の結晶粒と、結晶方位差が8°〜15°である結晶粒の合計の面積率を高めることができ、曲げ性に優れている。

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実施例

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0173

本発明のホットスタンプ成形体は、強度、延性、曲げ性、耐衝突特性及び耐水素脆化特性に優れ、かつ硬度ばらつきの小さいので、強度が必要な自動車や構造物の構造部材や補強部材に好適に使用することができる。

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