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技術 新規乳酸菌、及びそれを用いた醤油の製造方法

出願人 宮崎県
発明者 高山清子山本英樹水谷政美福良奈津子
出願日 2018年8月13日 (2年3ヶ月経過) 出願番号 2018-152544
公開日 2020年2月20日 (9ヶ月経過) 公開番号 2020-025506
状態 未査定
技術分野 醤油及び醤油関連製品 食品の調整及び処理一般 微生物、その培養処理
主要キーワード 凝集性試験 品質調整 醤油もろみ 選択イオン検出 留意事項 白菜キムチ 弱アルカリ性条件 滅菌処理済み
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (9)

課題

醤油醸造もろみにおいてヒスタミンを生成せず、醤油の香味を改善する新規醤油乳酸菌、及びこの乳酸菌を用いた醤油の製造方法を提供する。

解決手段

ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子(HDC遺伝子) を有せず、アルギニンを分解しない、アスパラギン酸を分解しアラニンを生成する、凝集性を有する、ジアセチルを高生産するテトラジェノコッカスハロフィラス(Tetragenococcus halophilus) に属する新規乳酸菌を醤油乳酸菌として醤油を製造する。

概要

背景

醤油味噌は日本の食事に欠かせない発酵食品である。これらの製造には、麹菌乳酸菌および酵母の3種類の微生物関与しており、それぞれが共生しながら良質で味のよい醤油や味噌が醸造される。特に醤油製造において、熟成の間、もろみ中では麹菌由来酵素による糖やアミノ酸の生成、乳酸菌による乳酸発酵生成、酵母による香りの形成が並行して行われ、醤油特有の味や色、香りが醸造される。なかでも乳酸菌は、もろみ中に乳酸を蓄積しpHを低下させることで醤油酵母生育環境を整え、また糖やアミノ酸に対して多様な資化性を示すことで、乳酸由来酸味以外に醤油に多様な風味香味を付与すると考えられており、醤油製造には重要な微生物である。

これら三種の微生物のうち、麹菌および酵母は優良菌が開発提供されてきているものの、乳酸菌については、特に中小規模醸造場では依然として蔵付きの野生菌に依存している現状もあり、最近では、醤油もろみ中の野生乳酸菌がヒスチジンヒスタミンに変換することで、アレルギー様症状を引き起こす可能性のあるヒスタミンが製品中に蓄積されることが問題となっている。このため、乳酸菌についても、ヒスタミン等の不要な物質を生成しない安全性の高い乳酸菌(優良乳酸菌)が求められている。

なお、醤油乳酸菌及び醤油の製造方法に関する先行文献の例示として、下記の特許文献1及び非特許文献1〜3等を挙げることができる。

概要

醤油醸造もろみにおいてヒスタミンを生成せず、醤油の香味を改善する新規醤油乳酸菌、及びこの乳酸菌を用いた醤油の製造方法を提供する。ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子(HDC遺伝子) を有せず、アルギニンを分解しない、アスパラギン酸を分解しアラニンを生成する、凝集性を有する、ジアセチルを高生産するテトラジェノコッカスハロフィラス(Tetragenococcus halophilus) に属する新規乳酸菌を醤油乳酸菌として醤油を製造する。なし

目的

本発明はかかる問題を解決するために開発されたものであり、醤油の製造に適したテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する新規乳酸菌であって、醤油もろみ中のヒスチジンをヒスタミンに変換する能力のない乳酸菌を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

下記(a)〜(d)の特性を有する、テトラジェノコッカスハロフィラス(Tetragenococcus halophilus)に属する乳酸菌:(a)ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子をもたない、(b)エリスリトールD−キシロース、及びメチル−α−D−マンノピラノシドを資化し、D−リボースを資化しない、(c)アルギニンを分解しない、(d)アスパラギン酸を分解してアラニンを生成する。

請求項2

さらに下記(e)および(f)の特性を有する、請求項1記載の乳酸菌:(e)凝集性、(f)ジアセチル生産性

請求項3

醤油乳酸菌である請求項1または2に記載する乳酸菌。

請求項4

請求項1〜3のいずれか1項に記載する乳酸菌を用いた発酵食品

請求項5

醤油の製造工程において醤油乳酸菌として請求項1〜3のいずれかに記載する乳酸菌を用いることを特徴とする、醤油の製造方法。

請求項6

醤油の製造工程において醤油乳酸菌として請求項1〜3のいずれかに記載する乳酸菌を用いることを特徴とする、醤油製造におけるヒスタミン生成の抑制方法

技術分野

0001

本発明は、テトラジェノコッカスハロフィラス(Tetragenococcus halophilus)に属する新規乳酸菌に関する。特に醤油の製造に適した新規醤油乳酸菌に関する。また本発明は当該乳酸菌を用いた醤油の製造方法、醤油製造におけるヒスタミン生成の抑制方法に関する。

背景技術

0002

醤油や味噌は日本の食事に欠かせない発酵食品である。これらの製造には、麹菌、乳酸菌および酵母の3種類の微生物関与しており、それぞれが共生しながら良質で味のよい醤油や味噌が醸造される。特に醤油製造において、熟成の間、もろみ中では麹菌由来酵素による糖やアミノ酸の生成、乳酸菌による乳酸発酵生成、酵母による香りの形成が並行して行われ、醤油特有の味や色、香りが醸造される。なかでも乳酸菌は、もろみ中に乳酸を蓄積しpHを低下させることで醤油酵母生育環境を整え、また糖やアミノ酸に対して多様な資化性を示すことで、乳酸由来酸味以外に醤油に多様な風味香味を付与すると考えられており、醤油製造には重要な微生物である。

0003

これら三種の微生物のうち、麹菌および酵母は優良菌が開発提供されてきているものの、乳酸菌については、特に中小規模醸造場では依然として蔵付きの野生菌に依存している現状もあり、最近では、醤油もろみ中の野生乳酸菌がヒスチジンをヒスタミンに変換することで、アレルギー様症状を引き起こす可能性のあるヒスタミンが製品中に蓄積されることが問題となっている。このため、乳酸菌についても、ヒスタミン等の不要な物質を生成しない安全性の高い乳酸菌(優良乳酸菌)が求められている。

0004

なお、醤油乳酸菌及び醤油の製造方法に関する先行文献の例示として、下記の特許文献1及び非特許文献1〜3等を挙げることができる。

0005

特開2000−245443号公報

先行技術

0006

金子収著 「醤油醸造におけるヒスタミン・チラミン低減のための留意事項」 日本醤油協会 2015
般若攝也著 「アミン低減に関する小規模工場用留意事項」 日本醤油協会 2016
辰六郎著 「増補醤油の科学と技術」財団法人日本醸造協会 1994

発明が解決しようとする課題

0007

前述するように、近年、醤油製造において、もろみ中の醤油乳酸菌がヒスチジンをヒスタミンに変換することで醤油中にヒスタミンが蓄積されることが問題となっており、それを解消する方法として、製造現場清掃と優良乳酸菌の利用が急務とされている。特に、醤油乳酸菌として、従来より野生の蔵付き乳酸菌を用いて醤油製造を行っている中小規模の現場では、ヒスタミンを生成しない優良乳酸菌の利用が求められる。

0008

本発明はかかる問題を解決するために開発されたものであり、醤油の製造に適したテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する新規乳酸菌であって、醤油もろみ中のヒスチジンをヒスタミンに変換する能力のない乳酸菌を提供することを課題とする。また醤油に良好な香味を付与することができる乳酸菌を提供することを課題とする。

0009

また、本発明は、当該乳酸菌を用いた発酵食品の提供、並びに醤油を製造する方法を提供することを課題とする。さらに本発明は醤油製造において生じ得るヒスタミン生成を抑制する方法を提供することを課題とする。

課題を解決するための手段

0010

本発明者らは、崎県内にある多数の醤油製造場が所有する醤油もろみを対象として鋭意検討していたところ、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子をもたず、ヒスチジンをヒスタミンに変換する能力(ヒスタミン生成能)がなく、しかも香味が良好な醤油の製造に適したテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌を見出し、当該乳酸菌が従来知られていない新規な乳酸菌であることを確認して本発明を完成するに至った。

0011

本発明は下記の実施態様を包含する:
(I)新規乳酸菌
(I−1)下記(a)〜(d)の特性を有する、テトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌:
(a)ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子をもたない、
(b)エリスリトールD−キシロース、及びメチル−α−D−マンノピラノシドを資化し、D−リボースを資化しない、
(c)アルギニンを分解しない、
(d)アスパラギンを分解しアラニンを生成する。
(I−2)さらに下記(e)および(f)の特性を有する、(I−1)記載の乳酸菌:
(e)凝集性
(f)ジアセチル生産性
(I−3)醤油もろみから採取された乳酸菌であって、テトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する「MS0204」(受託番号NITEP-02727)、またはその継代株。
(I−4)醤油乳酸菌である(I−1)〜(I−3)のいずれかに記載する乳酸菌。

0012

(II)発酵食品
(II−1)(I−1)〜(I−4)のいずれかに記載する乳酸菌を用いた発酵食品。
(II−2)前記発酵食品が醤油または味噌である(II−1)記載の発酵食品。
(II−3)前記醤油が生揚げ醤油である(II−2)記載の発酵食品。

0013

(III)醤油の製造方法
(III−1)醤油の製造工程において醤油乳酸菌として(I−1)〜(I−4)のいずれかに記載する乳酸菌を用いることを特徴とする、醤油の製造方法。

0014

(IV)醤油製造におけるヒスタミン生成の抑制方法
(IV−1)醤油の製造工程において醤油乳酸菌として(I−1)〜(I−4)のいずれかに記載する乳酸菌を用いることを特徴とする、醤油製造におけるヒスタミン生成の抑制方法。

発明の効果

0015

本発明の乳酸菌は、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子をもたないことを特徴とするテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌であって、特徴的な糖類資化性及びアミノ酸資化性を有する。このため、ヒスタミンの生成を抑制し、香味高い醤油の製造に好適に使用することができる。

図面の簡単な説明

0016

各種醤油乳酸菌(本発明の醤油乳酸菌[MS0204]、既存株[NBRC12172、NBRC100498、NBRC100726、NBRC100727、3737、NBRC100499])を対象としてヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)遺伝子に特異的な領域をPCR法にて増幅した生成物マイクロチップ電気泳動パターンを示す。図中、左レーンより、Lane1−3:ladder、Lane4:MS0204、Lane5:NBRC12171、Lane6:NBRC100498、Lane7:NBRC100726、Lane8:NBRC100727、Lane9:3737、Lane10:NBRC100499、Lane11:negative control(dH20)、Lane12:positive controlの結果を示す。positive control に認められるバンドが、HDC遺伝子に相当するバンドである。
各種醤油乳酸菌(本発明の醤油乳酸菌[MS0204]、既存株[NBRC12172、NBRC100498、NBRC100726、NBRC100727、3737])におけるアルギニン代謝能(Arg→Orn)を示す図である。図中、「Arg培地」は醤油乳酸菌を接種せずに培養したアルギニン含有MRS培地を意味する。縦軸は、培養物中のアルギニン(Arg)及びオルニチン(Orn)のアミノ酸の総濃度(mg/100mL)を示す。各棒グラフにおいて薄色アルギニン濃度、濃色はオルニチン濃度を示す。
各種醤油乳酸菌(本発明の醤油乳酸菌[MS0204]、既存株[NBRC12172、NBRC100498、NBRC100726、NBRC100727、3737])におけるアスパラギン酸代謝能(Asp→Ala)を示す図である。図中、「Asp培地」は醤油乳酸菌を接種せずに培養したアスパラギン酸含有MRS培地を意味する。縦軸は、培養物中のアスパラギン酸(Asp)及びアラニン(Ala)のアミノ酸の総濃度(mg/100mL)を示す。各棒グラフにおいて薄色はアスパラギン酸濃度、濃色はアラニン濃度を示す。
醤油もろみから分離した醤油乳酸菌218数の株のろ紙透過率分布を示すグラフである。
醤油もろみから分離した乳酸菌(MS0204、選抜株MS0304、MS0305、MS1308、MS6501、MS6504)について、クエン酸添加培地(薄色棒グラフ)、0.3%クエン酸添加培地(濃色棒グラフ)でのジアセチル生産性を示すグラフである。縦軸は各培地におけるジアセチル濃度(μg/L)を示す。
各醤油乳酸菌(本発明の醤油乳酸菌[MS0204]、市販の醤油乳酸菌)を用いて製造した醤油もろみの醸造過程におけるpH変化を示す。醤油乳酸菌を用いないで製造した醤油もろみのpH変化も併せて示す(無添加)。
各醤油乳酸菌(本発明の醤油乳酸菌[MS0204]、市販の醤油乳酸菌)を用いて製造した醤油もろみの醸造過程における醸造過程でのアミノ酸含量の変化を示す。醤油乳酸菌を用いないで製造した醤油もろみのアミノ酸含量の変化も併せて示す(無添加)。(A)アルギニンの含量変化を示す。(B)オルニチンの含量変化を示す。
各醤油乳酸菌(本発明の醤油乳酸菌[MS0204]、市販の醤油乳酸菌)を用いて製造した醤油もろみの醸造過程における醸造過程でのアミノ酸含量の変化を示す。醤油乳酸菌を用いないで製造した醤油もろみのアミノ酸含量の変化も併せて示す(無添加)。(A)アスパラギン酸の含量変化を示す。(B)アラニンの含量変化を示す。
(A)本発明の醤油乳酸菌を用いて90日間発酵させた後の醤油もろみのLC/MS/MSクロマトグラム、(B)醤油乳酸菌を用いずに90日間発酵させた後の醤油もろみのLC/MS/MSクロマトグラムをそれぞれ示す。(B)に認められる保持時間8分付近ピークはヒスタミンのピークに相当する。

0017

(I)新規乳酸菌
本発明の乳酸菌は、醤油もろみから、常法に従って10%塩化ナトリウムを添加しpH7に調整したMRS寒天平板培地を用いて分離されたテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌であって、少なくとも下記(a)〜(d)の特性を有することを特徴とする。また当該乳酸菌は、さらに下記(e)および(f)の特性を備えることもできる。
(a)ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子をもたない、
(b)エリスリトール、D−キシロース、及びメチル−α−D−マンノピラノシドを資化し、D−リボースを資化しない、
(c)アルギニンを分解しない、
(d)アスパラギン酸を分解しアラニンを生成する、
(e)凝集性、
(f)ジアセチル生産性。

0018

これらの特性は以下の試験により評価、確認することができる。
(a)ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子をもたない
本発明の乳酸菌におけるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子(HDC遺伝子)の有無の確認は、テトラジェノコッカス・ハロフィラスのHDC遺伝子であるhdcA(GenBank:Accession No.: AB076394.1)に特異的なプライマーを作成してPCRを行い、電気泳動に供して、hdcAに起因する増幅産物の生成の有無を確認することで実施することができる。その詳細は、実験例1(2)の記載に従って行うことができる。本発明の乳酸菌は、HDC遺伝子を持たないことを特徴とする。このため、本発明の乳酸菌は、ヒスチジンを基質としてヒスタミンを生成することはできない。

0019

(b)エリスリトール、D−キシロース、及びメチル−α−D−マンノピラノシドを資化し、D−リボースを資化しない
本発明の乳酸菌の糖類資化性の評価及び確認は、細菌の炭水化物代謝を試験する市販の検査キット(例えば、API50CH[シスメックスビオメリュー株式会社]等)を用いて行うことができる。本発明の乳酸菌に含まれる「MS0204」を例として、本発明の乳酸菌の糖類資化性を評価した結果を実験例2の表4に示す。表4に示すように、エリスリトール、D−キシロース、及びメチル−α−D−マンノピラノシドを資化する点、並びにD−リボースを資化しない点が、テトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する既存の乳酸菌と相違し、本発明の乳酸菌に固有性が認められた。このため、本発明の乳酸菌は、エリスリトール、D−キシロース、及びメチル−α−D−マンノピラノシドを資化する点、並びにD−リボースを資化しないことを特徴とし、少なくともこれらの点で新しい特性を有する新規な乳酸菌であると認められる。

0020

(c)アルギニンを分解しない
本発明の乳酸菌におけるアルギニン代謝能の有無の確認は、L-アルギニンを添加した培地を用いた資化性試験で実施することができる。その詳細は、実験例3(1)の記載に従って行うことができる。本発明の乳酸菌は、アルギニン代謝能(アルギニン資化性)を有さない。つまり培地(例えば醤油もろみ)中のアルギニンを基質としてオルニチンを生成しないことを特徴とする。

0021

(d)アスパラギン酸を分解しアラニンを生成する
本発明の乳酸菌におけるアスパラギン酸代謝能の有無の確認は、L-アスパラギン酸を添加した培地を用いた資化性試験で実施することができる。その詳細は、実験例3(2)の記載に従って行うことができる。本発明の乳酸菌は、アスパラギン酸代謝能(アスパラギン酸資化性)を有する。つまり培地(例えば醤油もろみ)中のアスパラギン酸を基質としてアラニンを生成することを特徴とする。アスパラギン酸は酸味成分であるのに対して、アラニンは甘味成分である。このため、本発明の乳酸菌は、マイルドな味を有する醤油を製造する醤油乳酸菌として有用である。

0022

(e)凝集性
本発明の乳酸菌の凝集性有無の確認は、乳酸菌を培養した培養物についてろ紙透過率を求めることで実施される。その詳細は、実験例4の記載に従って行うことができる。本発明の乳酸菌は、ろ過透過率が30%以下、好ましくは20%以下と小さく、高い凝集性を有している(凝集性乳酸菌)。このことから、本発明の乳酸菌は、清澄度の高い生揚醤油、つまり品質の高い醤油が製造できる醤油乳酸菌として有用である。

0023

(f)ジアセチル生産性
本発明の乳酸菌のジアセチル生産性の有無の確認は、乳酸菌を培養した培養物についてジアセチル生成の有無(培地中のジアセチル濃度)を求めることで実施される。その詳細は、実験例5の記載に従って行うことができる。本発明の乳酸菌は、ジアセチルを生産する能力を有している(凝集性乳酸菌)。このことから、本発明の乳酸菌は、ジアセチルの風味(バター風味チーズ風味)に起因して風味のある醤油を製造する醤油乳酸菌として有用である。

0024

これらの本発明の乳酸菌の特性を、既存の醤油乳酸菌の特性を対比した結果を表1に示す。これらの既存乳酸菌はいずれも18%食塩濃度の培地で生育可能な醤油の醸造に適したテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌である。



表1からもわかるように、本発明の乳酸菌は、既存の乳酸菌とは異なる特性を有する新規なテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌である。

0025

このような特徴を有する本発明の乳酸菌の菌学的性質を実験例2の表3に示す。つまり、本発明の乳酸菌は、表3に記載する菌学的性質を有するテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌であって、前述する(a)〜(d)の特性を有する。こうした特性を有する乳酸菌は、ヒスタミンの生成がみられない醤油もろみを原料として、前記(a)〜(d)の記載、詳細には実験例1〜3の記載を参考にしてスクリーニング操作をすることで単離することができる。さらに前述する(e)〜(f)の特性を有する乳酸菌は、前記スクリーニングに加えて、前記(e)〜(f)の記載、詳細には実験例4〜5の記載を参考にしてスクリーニング操作をすることで単離することができる。

0026

このようにして醤油もろみから分離同定された本発明の乳酸菌の一つを、微生物の表示(識別の表示)を「MS0204」とし、2018年6月13日に日本国千葉県木更津市かずさ足2−5−8に住所を有する「独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター」に寄託した(受託番号NITEP−02727、受託通知日2018年6月13日/通知番号2018−0186)。本明細書では、かかる寄託菌を含めて、前述する特性を有するテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌を「本発明の乳酸菌」または「本発明の醤油乳酸菌」と総称する。後述する実験例5(4)に示すように、本発明の乳酸菌を用いて調製される醤油は、官能試験において柔らかな香り、芳香バランスがよい、後味がよい等の味及び香りの両方において良好な評価が得られたことから、本発明の乳酸菌は優良醤油乳酸菌であると考えられる。

0027

(II)発酵食品、及びその製造方法
本発明が対象とする食品は、前述する本発明の乳酸菌を用いた発酵食品である。後述する実験例1に示すように、本発明の乳酸菌は18%の食塩濃度の環境下で生育する特性を有するので(耐塩性)、好ましくは食塩を含有する発酵食品である。ここで食塩含有発酵食品は、食塩を含有する発酵食品であればよく、例えば食塩濃度が3〜25%の範囲を挙げることができるが、好ましく食塩濃度が3〜25%の範囲にある発酵食品である。かかる範囲で食塩を含有する発酵食品としては、醤油、味噌、漬け物を挙げることができる。好ましくは醤油及び味噌、特に好ましくは醤油である。

0028

なお、醤油には、濃口醤油淡口醤油、溜醤油、再仕込醤油及び白醤油があるが、これらはいずれも本発明の醤油に含まれる。また味噌には、使用する原料に応じて、米味噌、麦味噌豆味噌、及び合わせ味噌があるが、これらはいずれも本発明の味噌に含まれる。また本発明が対象とする漬け物には、すぐき漬、白菜キムチサワークラウト等の乳酸発酵を利用した漬け物を挙げることができる。

0029

このような食塩含有発酵食品は、定法に従って、食塩含有発酵食品の原料混合物を、前述した本発明の乳酸菌を用いて発酵させる工程を有する方法で製造することができる。

0030

食塩含有発酵食品の原料混合物中の食塩濃度は、食塩含有発酵食品の種類に応じて、3〜25%の範囲になるように調整する。例えば食塩含有発酵食品が醤油である場合は、15〜25重量/容量%の範囲、好ましくは15〜20重量/容量%の範囲、味噌である場合は10〜15重量/重量%の範囲、漬け物である場合は、3〜10重量/重量%の範囲を挙げることができるが、これらに制限されることはない。

0031

以下に、例示として食塩含有発酵食品が醤油、味噌、及び漬け物であるそれぞれ場合について、その製造方法を簡単に説明する。

0032

(II−1)醤油の製造方法
本発明の醤油は、醤油乳酸菌(種菌)として前述した本発明の乳酸菌を用いる以外は従来の慣用方法に従って製造することができる。例えば、仕込み時に醤油麹、塩水と共に本発明の乳酸菌を添加して、発酵及び熟成を行う方法が挙げられる。本醸造方式、混合醸造方式、及び混合方式の別を問わないが、本発明の乳酸菌固有の糖資化性及びアミノ酸資化性を活かした味や香りを有する点で本醸造方式を採用することが好ましい。なお、本発明の醤油乳酸菌を用いて醤油を製造する場合、醤油乳酸菌は予め前培養しておくことが好ましい。例えば、凍結保存している醤油乳酸菌を使用前に液体培地で培養しそれをスターターとして用いることが好ましい。この場合の液体培地には、生揚げ醤油25%、塩化ナトリウム7.5%、グルコース2%の組成からなる培地をpH7に調製したものなどが含まれる。

0033

発酵熟成工程により得られた醤油もろみは、ナイロン濾布などを用いて圧搾し、得られた圧搾液は、必要に応じて油分等を分離して清澄化した後、生揚げ醤油として調製される。なお、混合方式によれば、調製した醤油もろみを圧搾した後の液汁アミノ酸液を配合して醤油として調製される。また、次いで、規格調製、火入れ、及びオリ引き(濾過)等をして、醤油として調製することができる。

0034

後述する実験例5(4)に示すように、本発明の乳酸菌を用いて調製される醤油は、官能評価試験により、柔らかな香り、芳香、バランスがよい、後味がよい等、味及び香りの両面において良好な評価が得られている。また実験例6に示すように、本発明の乳酸菌を用いて醤油を醸造することで醤油におけるヒスタミンの生成を抑制することができる。つまり、本発明の乳酸菌を用いて製造された醤油はヒスタミンを含まないか、または含んでいても極めて低濃度に抑制されていると考えられる。

0035

(II−2)味噌の製造方法
本発明の味噌は、味噌を製造するための原料混合物(味噌仕込)に、前述する本発明の乳酸菌を用いて発酵させる工程を有する方法で製造することができる。この味噌仕込の食塩濃度は、味噌の種類や嗜好によっても異なるが、通常10〜15重量/重量%の範囲である。これを25〜30℃程度で1〜12ヶ月間保持して発酵熟成させる。発酵途中、1〜2回味噌を掘り起こして味噌を均一化することが好ましい(切り返し)。発酵熟成が完了した味噌は、掘り起こし、必要に応じて品質調整のため、2種以上をブレンドし、そのまま粒味噌として製品化するか、またはチョッパーで漉して漉味噌として製品化する。

0036

(II−3)漬け物の製造方法
本発明の漬け物は、漬け物原料(例えばぬか漬けの場合、米ぬか野菜及び調味料の混合物)に、前述する本発明の乳酸菌を用いて発酵させる工程を有する方法で製造することができる。この漬け物原料の食塩濃度は、漬け物の種類や嗜好によっても異なるが、通常3〜10重量/重量%の範囲である。これを10〜30℃程度で5〜30日間保持して発酵させて、漬け物とする。

0037

(III)醤油製造におけるヒスタミン生成の抑制方法
前述するように、醤油の製造工程において醤油乳酸菌として本発明の乳酸菌を用いることで醤油製造におけるヒスタミン生成を抑制することができる。このため、本発明は、醤油の製造工程において、醤油乳酸菌として本発明の乳酸菌を用いることで醤油製造で生じ得るヒスタミン生成を抑制する方法を提供する。当該方法は、醤油乳酸菌(種菌)として本発明の乳酸菌を用いる以外は、慣用の醤油製造方法に従って処理することで実施することができる。

0038

以下に実験例を用いて本発明の構成及び効果を説明する。但し、本発明はこれらの実験例に何ら影響されるものではない。なお、特に言及しない場合、下記の実験は大気圧及び室温(25±5℃)条件下で実施した。また特に言及しない場合、「%」は「質量%」を意味するものとする。

0039

実験例1
宮崎県内の醤油製造場から入手した醤油もろみのうちヒスタミンが生成されない醤油もろみからヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子(HDC遺伝子)を有しない乳酸菌を見出し、当該乳酸菌を分離し、同定した。

0040

(1)乳酸菌の分離同定
醤油もろみのうちヒスタミンが生成されない醤油もろみを10%の塩化ナトリウムを含む乳酸菌培養用の滅菌処理済み平板培地(MRS培地、pH7)(表2参照)に塗沫した。

0041

0042

これを嫌気条件で30℃で4日間培養し、ハローを形成した白色コロニーを、グラム染色して検鏡し、グラム陽性及び4連球の形状を有する乳酸菌であることを確認した。さらに、カタラーゼ活性ガス発生の有無、発酵形式、15℃及び45℃での生育性酸性及び弱アルカリ性条件での生育性、及び18%の高食塩濃度条件下での生育性を評価して、表3に記載する菌学的特性を有していることを確認した。

0043

0044

当該乳酸菌の16SrRNA遺伝子塩基配列について、遺伝子データベースであるMicro SEQ微生物同定ソフトウェアv3.0(Applied Biosystems, U.S.)を用いてホモロジー検索を行った。その結果、当該データベース登録された公知のテトラジェノコッカス・ハロフィラスとの相同性は100%であった。なお、当該同定は、別の同定法としてテトラジェノコッカス・ハロフィラスの16S rDNAに特異的な領域を増幅するプライマー(193f:5’−AGCTCAAAGGCGCTTTAC−3’[配列番号1],480r:5’−TTCTGGTCAGCTACCGTC−3’[配列番号2])を用いたPCRを行うことで行うこともできる(A. Juste’, B. Lievens, M. Klingeberg, C. W. Michiels, T. L. Marsh, K. A. Willems : Food Microbiology, 25, 413 - 421 (2008))。この結果から、前記醤油もろみから分離した菌を、テトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌(醤油乳酸菌)と同定した。これらの菌を、宮崎県宮崎市佐土原東上那珂16500−2に所在する宮崎県食品開発センターに分譲可能な状態で保存するとともに、そのうちの一つの継代株を、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)に「微生物の識別の表示:MS0204」という名称で2018年6月13日(寄託日)に国内寄託した(受託番号:NITEP−02727)。

0045

(2)ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子(HDC遺伝子)の確認
ヒスタミンを生成するテトラジェノコッカス・ハロフィラスに属する乳酸菌(醤油乳酸菌)はプラスミドピルボイル型HDC遺伝子(hdcA)を有していることが知られている。このことから、醤油乳酸菌のhdcA(GenBank:Accession No.: AB076394.1)に特異的なプライマーを作成して(2745f:5’−TTGAACACACTTGGGGTTGA−3’ [配列番号3],3566r:5’−AATTGAGCCACCTGGAATTG−3’ [配列番号4])、上記(1)で分離した乳酸菌について、定法に従ってPCRを行い、生成した増幅物を電気泳動に供した。比較試験として、(1)で分離した乳酸菌以外に、6種類の既存の醤油乳酸菌(NBRC12171、NBRC100498、NBRC100726、NBRC100727、3737、NBRC100499)についても同様にしてPCRを行い、生成した増幅物を電気泳動に供した。結果を図1に示す。図1中、レーン4に示す結果が、(1)で分離した乳酸菌の結果である。これからわかるように、当該分離菌の結果からはPCR増幅物は検出できず、このことから(1)で分離した乳酸菌はHDC遺伝子を持たないことが確認された。つまり、当該乳酸菌は醤油もろみ中に存在するヒスチジンをヒスタミンに変換することはできない(ヒスタミン生成能力なし)。

0046

実験例2醤油乳酸菌の糖類資化性の評価
実施例1においてHDC遺伝子の有無を確認した醤油乳酸菌を対象として、糖類に対する資化性を測定した。具体的には、10%の塩化ナトリウムを含む平板培地(MRS培地、pH7)で培養した各種の醤油乳酸菌を、細菌の炭水化物代謝を試験する検査キットであるAPI50CH(シスメックス・ビオメリュー株式会社製)に供し、そのマニュアルに従って、各糖基質に対する反応性陽性(+)、陰性(−)、判定不能(±))を評価した。結果を表4に示す。

0047

0048

この結果からわかるように、本発明の醤油乳酸菌は、エリスリトール、D−キシロース及びメチル-α-D-マンノピラノシドに対して資化性を有する一方、D−リボースに対して資化性を有しない点において、既存の醤油乳酸菌と明らかに異なる糖類資化性を有していることが確認された。特に、前記実験例1(2)で示すように、既存の醤油乳酸菌のうち、NBRC12172、NBRC100498、NBRC100726、NBRC100727、及び3737は、HDC遺伝子を有しない点で本発明の醤油乳酸菌と共通するものの、糖類資化性において相違する特性を備えていることが確認された。このことから、本発明の醤油乳酸菌は、既存の醤油乳酸菌とは相違する新規な醤油乳酸菌である。

0049

実験例3醤油乳酸菌のアミノ酸代謝能の評価
実施例2において糖類資化性を測定した醤油乳酸菌(本発明の醤油乳酸菌[MS0204]、既存醤油乳酸菌[NBRC12172、NBRC100498、NBRC100726、NBRC100727、及び3737])を対象として、アミノ酸(アルギニン、アスパラギン酸)の代謝能を測定した。

0050

(1)アルギニン代謝能の評価
醤油乳酸菌のアルギニン代謝能は、L−アルギニンを添加した培地を用いた資化性試験により確認することができる。具体的には、まず、0.3%L−アルギニン及び10%塩化ナトリウムを含有するMRS培地(pH7.5)に、各醤油乳酸菌の培養液を接種し、30℃で7日間静置培養した。次いで、得られた培養物をアミノ酸分析に供し、培養物中のアルギニン及びオルニチン濃度を求めて、その量から各醤油乳酸菌のアルギニン資化性、つまりアルギニン代謝能を確認した。

0051

結果を図2に示す。図2からわかるように、本発明の醤油乳酸菌の培養物にはオルニチンは殆ど検出されなかったことから、本発明の醤油乳酸菌はアルギニン資化性、つまりアルギニン代謝能を有しないことが判明した。一方、HDC遺伝子を有しない点で本発明の醤油乳酸菌と共通する既存の醤油乳酸菌(NBRC12172、NBRC100498、NBRC100726)は、アルギニン資化性(アルギニン代謝能)を有している点で、本発明の醤油乳酸菌とは異なる特性を備えていることが確認された。

0052

(2)アスパラギン酸代謝能の評価
醤油乳酸菌のアスパラギン酸代謝能は、L−アスパラギン酸を添加した培地を用いた資化性試験により確認することができる。具体的には、まず、0.3%L−アスパラギン酸及び10%塩化ナトリウムを含有するMRS培地(pH7.5)に、各醤油乳酸菌の培養液を接種し、30℃で7日間静置培養した。次いで、得られた培養物をアミノ酸分析に供し、培養物中のアスパラギン酸及びアラニン濃度を求めて、その量から各醤油乳酸菌のアスパラギン酸資化性、つまりアスパラギン酸代謝能を確認した。

0053

結果を図3に示す。図3からわかるように、本発明の醤油乳酸菌の培養物にはアラニンが検出されたことから、本発明の醤油乳酸菌にはアスパラギン酸資化性、つまりアスパラギン酸代謝能を有することが判明した。なお、この特性は既存の醤油乳酸菌も共通して有する特性であるが、この特性を有することで、醤油もろみ中のアスパラギン酸を資化してまろやかな味のアラニンに変えることができ、その結果、醤油の風味をまろやかにすることができる。

0054

実験例4醤油乳酸菌の凝集性評価
本発明の醤油乳酸菌(MS0204]について凝集性を測定した。凝集性の評価は、凝集性試験植木達朗,井沢圭史,大場和徳,野田義治:醤油の研究と技術, 26, 197 - 207 (2000)」に従って、醤油乳酸菌培養液のろ紙透過率を求めることで実施することができる。具体的には、まず、乳酸菌を16.5%の塩化ナトリウムを含むMRS培地(pH7)にて30℃で4日間培養した培養液10mLを、ろ紙(No.2, ADVANTEC)を用いてろ過し、ろ過前後の培養液の濁度(660 nmにおける吸光度OD660)を分光光度計( UV2100。(株)島津製作所)で測定する。ろ過前の培養液の濁度(OD660)に対するろ過後の培養液の濁度(OD660)の百分率を「ろ紙透過率」として算出し、ろ紙透過率が30%以下である醤油乳酸菌を「凝集性あり」と判断する。

0055

その結果、本発明の醤油乳酸菌のろ紙透過率は16%であり、凝集性があることが確認された。また醤油もろみに含まれる醤油乳酸菌221数について、同様にして、ろ紙透過率を測定した結果を図4に示す。この結果から、凝集性のない醤油乳酸菌が95.9%を占め、凝集性のある醤油乳酸菌は4.1%と小数であった。そのうち、ろ紙透過率が20%以下と、凝集性の高い醤油乳酸菌は全体の僅か0.9%であり希少であることが確認された。

0056

実験例5醤油乳酸菌のジアセチル生産性の評価
本発明の醤油乳酸菌(MS0204)について、ジアセチル生産性の有無を評価した。具体的には、塩化ナトリウムを10%添加したMRS液体培地に0.3%クエン酸一水和物を添加してpH7に調整した培地(クエン酸添加培地)、及びクエン酸一水和物を添加しないでpH7に調整した培地(クエン酸無添加培地)のそれぞれを使用して、本発明の醤油乳酸菌(MS0204)を30℃で7日間培養して、発酵後の培養物のジアセチル濃度を測定することで、醤油乳酸菌のジアセチル生産性の有無を確認した。

0057

なお、培養物のジアセチル濃度は、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて,ヘッドスペース固相マイクロ抽出(SPME) により測定した。分析条件は以下の通りである。
装置:GCMS-QP2010 Plus, AOC-5000 Auto Injector (株)島津製作所(SPME)
SPMEファイバー : 60 μm Polyethylene Glycol
試料: 3 mL / 5 mLバイアル
SPME条件 : バイアル温度 40℃, 抽出時間 30分間 (アジテーションON),ヘッドスペース法
(GC条件)
注入口温度: 230℃
カラム: DB-WAX 30 m, Diam. 0.25 mm, Film 0.25μm
オーブン: 40℃(10分) -4℃/min -230℃(5分)
インターフェース温度: 230℃
(MS条件)
イオン化モード:EI
イオン源温度: 200℃
測定モード:選択イオン検出法(SIM) m/z = 86。

0058

本発明の醤油乳酸菌(MS0204)と同様に、醤油もろみから分離された他の醤油乳酸菌(MS0304、MS0305、MS1308、MS6501、MS6504)についても、それぞれクエン酸添加培地またはクエン酸無添加培地で培養した培養物中のジアセチル濃度を測定した結果を図5に示す。その結果、本発明の醤油乳酸菌によるクエン酸添加培地での培養物のジアセチル濃度は1140μg/L、クエン酸無添加培地での培養物のジアセチル濃度は326μg/Lと、いずれの培地でもジアセチルが生成されていることが確認された。当該ジアセチル濃度は、醤油もろみから同様に分離された他の醤油乳酸菌の培養物中のジアセチル濃度と比較して有意に高く、このことから本発明の醤油乳酸菌がジアセチル高生産性であることが確認された。ジアチルはバター様またはチーズ様の香りを有する化合物であることから、本発明の醤油乳酸菌によると醤油に複雑な味わい高い香りを付与することができると考えられる。

0059

実験例5醤油の製造とその評価
(1)生揚げ醤油の製造
前述した本発明の醤油乳酸菌(MS0204)を用いて醤油を製造した。具体的には、質量比1:1の大豆及び小麦を定法により製麹して得た醤油麹1215gに23.2%の塩水2065mLを添加混合してもろみ出来高:3000mL(3630g)とし、4L容量の果実酒ビン(5号)に仕込んだ。当該仕込と同時に、これに醤油乳酸菌を生菌が106CFU/mLとなるように、容量比1/500(前記3000mLに対して6mL)の割合で添加した。仕込み後、1ヵ月間は15℃の暗所で管理し、1ヵ月目以降は30℃の暗所で90日間発酵させて醤油もろみを製造した。なお、仕込み時、並びに30℃での培養(発酵)開始から5日、15日、30日、45日、60日、及び90日後に、醤油もろみに雑菌混入しないように注意しながら液汁を採取し、pH及び遊離アミノ酸濃度を測定した。

0060

3ヶ月の発酵により熟成した醤油もろみを定法にしたがって圧搾して、得られた液汁を生揚げ醤油として調製した。またこの液汁に、必要に応じて塩化ナトリウムなどの成分を添加するなど成分調整をした後許、加熱処理(火入れ)することで、醤油(火入れ醤油)を製造することもできる。

0061

(2)醤油もろみのpH変化
仕込み時、培養から5日、15日、30日、45日、60日、及び90日目の醤油もろみのpHを図6に示す。図6には、本発明の醤油乳酸菌による醤油もろみのpH変化に加えて、市販の醤油乳酸菌(比較例)、及び醤油乳酸菌無添加系(コントロール)による醤油もろみのpH変化も併せて示す。この結果からわかるように、市販の醤油乳酸菌と同様、本発明の醤油乳酸菌によれば、乳酸発酵から30日以降45日にかけて速やかに醤油もろみのpHが低下し、これにより酵母が発酵しやすい環境(アルコール発酵環境)が整うことが確認された。

0062

(3)醤油もろみのアミノ酸含量
仕込み時、培養から5日、15日、30日、45日、60日、及び90日目の醤油もろみ中のアルギニン及びオルニチンの濃度(mg/100mL)を図7に、アスパラギン酸及びアラニンの濃度(mg/100mL)を図8に示す。図7及び8には、本発明の醤油乳酸菌による醤油もろみ中のアミノ酸濃度の変化に加えて、市販の醤油乳酸菌(比較例:アルギニン分解/アスパラギン非分解株)、及び醤油乳酸菌無添加系(コントロール)による醤油もろみのpH変化も併せて示す。なお、醤油もろみ中の各遊離アミノ酸の濃度は、採取した醤油もろみの液汁を0.02mol/L塩酸で200倍に希釈し、0.45μmのメンブランフィルターでろ過後、高速アミノ酸分析計(L-8900,(株)日立製作所)に供してニンヒドリン発色法により測定した。

0063

図7からわかるように、アルギニン分解株である市販の醤油乳酸菌によって調製される醤油もろみは、アルギニンが分解されてしてオルニチンが生成される結果、アルギニン低含量/オルニチン低含量であったのに対して、アルギニン非分解株である本発明の醤油乳酸菌によって調製される醤油もろみは、アルギニンが分解されないため、アルギニン高含量/オルニチン不含量であった。また、図8からわかるように、アスパラギン酸分解株である市販の醤油乳酸菌と同様に、アスパラギン酸分解株である本発明の醤油乳酸菌によって調製される醤油もろみは、アスパラギン酸が分解されてアラニンが生成されていることが確認された。なお、図8に示すように、アスパラギン酸分解能は、市販株>本発明の醤油乳酸菌>無添加系に存在する菌株の順に高い。

0064

(4)生揚げ醤油の官能評価
上記(1)において、本発明の醤油乳酸菌を用いて製造した生揚げ醤油(本発明醤油)、及び市販の醤油乳酸菌を用いて製造した生揚げ醤油(基準醤油)について、その味と香りを、醤油の官能評価経験者12名をパネリストとして評価してもらった。具体的には基準醤油の味と香りと総合評価を基準(評点3)として、それとの比較で本発明醤油の味と香りと総合を、5段階(1:評価低い 〜5:評価高い)で評価した(評点法)。
12名のパネリストの評点の平均値を表5に示す。



上記表からわかるように、本発明の醤油乳酸菌を用いて製造した生揚げ醤油は、柔らかな香り、芳香、バランスがよい、後味がよい等、味及び香りの両方において良好な評価が得られた。

0065

実験例6醸造醤油ヒスタミン濃度
前記実験例5(1)において、発酵後の醤油もろみ中に含まれているヒスタミン量を測定した。具体的には、90日間培養して発酵させた後の醤油もろみから濾過によって採取した液汁を水で1000倍希釈して、0.45μmメンブランフィルターでろ過後、表4に記載する条件に設定した液体クロマトグラフ質量分析計LCMSMS)(API3200,(株)エービー・サイエックス)に供して、ヒスタミンを分析した。なお、ヒスタミン量の分析は、本発明の乳酸菌を用いて製造した醤油(醤油もろみの液汁)、及び醤油乳酸菌無添加系(コントロール)による醤油の各々について実施した。

実施例

0066

結果を図9に示す。図9に示すように、乳酸菌無添加で製造した醤油中にはヒスタミンの生成が認められたのに対して、本発明の乳酸菌を用いて製造した醤油中にはヒスタミンの生成が認められなかった。乳酸菌無添加で製造した醤油中にヒスタミンの生成が認められた理由として、製麹時に付着した微量の乳酸菌がヒスタミン生成菌であった可能性が考えられる。これに対して本発明の乳酸菌を用いて製造した醤油中にヒスタミンの生成が認められなかった理由として、推測ではあるものの、本発明の乳酸菌の添加により、微量に混在した乳酸菌の増殖が抑えられ、本発明の乳酸菌が優位に働いたため、混在した乳酸菌によるヒスタミン生成が抑制されたものと考えられる。このことから、醤油の製造に際して、本発明の醤油乳酸菌を使用することで、醤油醸造において生じ得るヒスタミン生成を抑制することが可能であると考えられる。

0067

醤油醸造に本発明の新規乳酸菌を用いることで、醤油のヒスタミン量を低減することが可能になる。また味と香りのよい醤油を安定して製造することができる。つまり、当該乳酸菌を分譲することで、分譲先(例えば宮崎県下の醤油製造業者など)の醤油のヒスタミン低減化、品質向上に繋げることができる。

0068

NITEP−02727

0069

配列番号1及び2は、それぞれテトラジェノコッカス・ハロフィラスの16S rDNAに特異的な領域を増幅するフォワードプライマー(193f)及びリバースプライマー(480r)の塩基配列を示す。配列番号3及び4は、それぞれ醤油乳酸菌のhdcAに特異的な領域を増幅するフォワードプライマー(2745f)及びリバースプライマー(3566r)の塩基配列を示す。

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