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課題

フリクションを低減すると共に、優れた耐焼き付き性を有する鋳鉄シリンダライナを提供する。

解決手段

鋳鉄から構成される内周摺動面を有する鋳鉄製シリンダライナ、および、鋳鉄から構成される内周摺動面を有するシリンダボアを備えた内燃機関において、内周摺動面が、下式(1)〜(3)を満たす領域を含むことを特徴とする。・式(1)Rvk/Rk≧1.0、・式(2)0.08μm≦Rk≦0.3μm、・式(3)Rk−Rpk>0〔式(1)〜(3)中、Rkは、JIS B0671−2:2002に基づくコア部のレベル差であり、Rpkは、JISB0671−2:2002に基づく突出山部高さであり、Rvkは、JISB0671−2:2002に基づく突出谷部深さRvkである。〕

概要

背景

近年の内燃機関の課題として低燃費化が挙げられ、ピストン系摩擦損失低減は内燃機関の低燃費化の手段として有効である。ピストン系の摩擦損失を低減するために、a)ピストン部分については、ピストンリング低張力化、摺動面の外周形状および表面処理低摩擦係数化等の研究が行なわれており、b)シリンダあるいはシリンダライナについては、内周摺動面の表面粗さ、材質、表面処理等の低摩擦係数化の研究が行われている(たとえば、特許文献1〜5)。

ここで、特許文献1には、表面粗さRz(十点平均粗さ、JIS B 0601:1994)が0.5〜1.0μmの摺動面を有するピストンリングと、表面粗さRz(十点平均粗さ,JIS B 0601:1994)が0.5〜1.5μm、且つDIN4776規格に基づく初期摩耗高さRpkが0.05〜0.2μm、有効負荷粗さRkが0.2〜0.6μmおよび油溜まり深さRvkが0.10〜0.35μmの摺動面を有するシリンダライナと、を有する組み合わせ摺動部材が提案されている。また、特許文献1には、シリンダライナの摺動面が、鋳鉄ボロン鋳鉄および鉄鋼のいずれかであることが開示されている。特許文献1記載の技術によれば、低フリクション化の要求を満たすことができると共に、耐スカッフ性(耐焼き付き性)に優れた摺動部材が提供される。

また、特許文献2には、シリンダブロック基材シリンダボア内周面上に形成されたシリンダブロック用鉄系溶被膜が提案されている。気孔を有するこのシリンダブロック用鉄系溶射被膜のシリンダボア内面に相当する表面は、平均粗さRaが0.4μm以下であり、油溜まり深さRvkが0.2〜2.0μmである。高出力エンジンのように非常に高い筒内圧がかかるシリンダブロックにおいては、高い燃焼圧によって、溶射被膜に高荷重が繰り返し負荷されるため、溶射被膜の内部で亀裂や剥離が発生するため、この問題を解決すべく、特許文献2に開示の技術では、高面圧下での耐剥離性に優れたシリンダブロック用鉄系溶射被膜を提供している。

また、特許文献3には、面圧0.03〜0.2MPaで互いに摺動する、アルミニウム合金製シリンダライナと、外周摺動面窒化層が形成され所定の表面粗さを有するピストンリングとの組み合わせが提案されている。ここで、アルミニウム合金製シリンダライナはの内周面の表面粗さは、JIS B 0601:1994に準拠する十点平均粗さRz=0.5〜1.0μm、有効負荷粗さRk=0.2〜0.4μm、初期摩耗高さRpk=0.05〜0.1μm、油溜まり深さRvk=0.08〜0.2μmである。この特許文献3に開示の技術は、エンジンの軽量化の要請応えると共に、シリンダライナとピストンリングとの低フリクション化、互いの摩耗量の低減および耐スカッフ性の向上を図ることを目的としている。

また、特許文献4には、シリンダボアの表面が、Rk+Rpk<1.0μm、かつ、Rk+Rvk<2.0μm、となるように形成されたアルミニウム合金製シリンダブロックが提案されている。ここで、Rkは有効負荷粗さ、Rpkは初期摩耗高さ、Rvkは油溜まり深さである。特許文献4記載の技術は、シリンダボア表面に必要な特性を確保しつつも、安価に製造することのできるアルミニウム合金製シリンダブロックを提供することを目的としている。また、特許文献4では、Rkが0.65μmよりも大きく、かつ、シリンダボアの表面に螺旋状に形成された、凹凸高低差が2μm未満のピット空白領域の幅を1.0μm以下とすることにより、シリンダボア表面に、鋳鉄製シリンダーライナー以上の耐スカッフ性が確保できることが開示されている。

さらに、特許文献5には、ホーニング加工によって形成された摺接面の十点平均粗さ(Rz)、負荷長さ率(tp)および有効負荷粗さ(Rk)が、それぞれ、1μm以上5μm以下、55%以上98%以下および1μm以下である有摺接面部材が提案されている。特許文献5記載の技術は、潤滑剤保持機能に優れると共に、所定の部材が摺接する際の摩擦抵抗が十分に低い摺接面を有する有摺接面部材を提供することを目的としている。

概要

フリクションを低減すると共に、優れた耐焼き付き性を有する鋳鉄性シリンダライナを提供する。鋳鉄から構成される内周摺動面を有する鋳鉄製シリンダライナ、および、鋳鉄から構成される内周摺動面を有するシリンダボアを備えた内燃機関において、内周摺動面が、下式(1)〜(3)を満たす領域を含むことを特徴とする。・式(1)Rvk/Rk≧1.0、・式(2)0.08μm≦Rk≦0.3μm、・式(3)Rk−Rpk>0〔式(1)〜(3)中、Rkは、JIS B0671−2:2002に基づくコア部のレベル差であり、Rpkは、JISB0671−2:2002に基づく突出山部高さであり、Rvkは、JISB0671−2:2002に基づく突出谷部深さRvkである。〕

目的

特許文献4記載の技術は、シリンダボア表面に必要な特性を確保しつつも、安価に製造することのできるアルミニウム合金製シリンダブロックを提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
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請求項1

鋳鉄から構成される内周摺動面を有し、前記内周摺動面が、下式(1)〜(3)を満たす領域を含むことを特徴とする鋳鉄製シリンダライナ。・式(1)Rvk/Rk≧1.0・式(2)0.08μm≦Rk≦0.3μm・式(3)Rk−Rpk>0〔前記式(1)〜(3)中、Rkは、JISB0671−2:2002に基づくコア部のレベル差であり、Rpkは、JISB0671−2:2002に基づく突出山部高さであり、Rvkは、JISB0671−2:2002に基づく突出谷部深さRvkである。〕

請求項2

前記式(1)〜(3)を満たす領域のRvk/Rkが1.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄製シリンダライナ。

請求項3

前記式(1)〜(3)を満たす領域のコア部のレベル差Rkが0.2μm以上であり、かつ、Rvk/Rkが3.0以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋳鉄製シリンダライナ。

請求項4

前記領域のJISB0601:2013に基づく算術平均粗さRaが0.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の鋳鉄製シリンダライナ。

請求項5

前記式(1)〜(3)を満たす領域に、第一の平行直線群と、前記第一の平行直線群と交差する前記第二の平行直線群とを含むクロスハッチパターンからなる加工痕が形成されており、シリンダライナ周方向の一方側から他方側へと向かうように前記第一の平行直線群が伸びる方向と、シリンダライナ周方向の一方側から他方側へと向かうように前記第二の平行直線群が伸びる方向とが成すクロスハッチ角度が、3度以上50度以下であることを特徴とする請求項1〜4の鋳鉄製シリンダライナ。

請求項6

前記鋳鉄が片状黒鉛鋳鉄であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の鋳鉄製シリンダライナ。

請求項7

前記鋳鉄のJISZ2245:2011に基づく硬さが、90HRB以上115HRB以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の鋳鉄製シリンダライナ。

請求項8

鋳鉄から構成される内周摺動面を有するシリンダボアと、前記シリンダボアの内周側に配置されたピストンと、前記ピストンの外周面に、ピストン周方向に沿って設けられた環状溝に装着されたピストンリングと、を備え、前記内周摺動面が、下式(1)〜(3)を満たす領域を含むことを特徴とする内燃機関。・式(1)Rvk/Rk≧1.0・式(2)0.08μm≦Rk≦0.3μm・式(3)Rk−Rpk>0〔前記式(1)〜(3)中、Rkは、JISB0671−2:2002に基づくコア部のレベル差であり、Rpkは、JISB0671−2:2002に基づく突出山部高さであり、Rvkは、JISB0671−2:2002に基づく突出谷部深さRvkである。〕

請求項9

前記式(1)〜(3)を満たす領域を含む内周摺動面を有する鋳鉄製シリンダライナを備えることを特徴とする請求項8に記載の内燃機関。

請求項10

前記シリンダボアが設けられた鋳鉄製シリンダブロックを備えることを特徴とする請求項8に記載の内燃機関。

請求項11

前記ピストンリングが、リング状基材と、前記リング状基材の外周面を被覆すると共に、前記鋳鉄製シリンダライナの内周摺動面と接触摺動する硬質被膜とを備え、前記硬質被膜が、CrN系被膜および非晶質炭素被膜からなる群より選択されるいずれか1種の被膜であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1つに記載の内燃機関。

請求項12

前記CrN系被膜の外周摺動面におけるJISZ2244:2009に基づく表面硬さが800HV0.1以上であり、前記外周摺動面のJISB0601:2013に基づく算術平均粗さRaが0.10μm以下であることを特徴とする請求項11に記載の内燃機関。

請求項13

前記非晶質炭素被膜の外周摺動面におけるJISZ2244:2009に基づく表面硬さが1200HV0.1以上であり、前記外周摺動面のJISB0601:2013に基づく算術平均粗さRaが0.10μm以下であり、前記非晶質炭素被膜が水素を含まないことを特徴とする請求項11に記載の内燃機関。

技術分野

0001

本発明は、鋳鉄製シリンダライナおよび内燃機関に関するものである。

背景技術

0002

近年の内燃機関の課題として低燃費化が挙げられ、ピストン系摩擦損失低減は内燃機関の低燃費化の手段として有効である。ピストン系の摩擦損失を低減するために、a)ピストン部分については、ピストンリング低張力化、摺動面の外周形状および表面処理低摩擦係数化等の研究が行なわれており、b)シリンダあるいはシリンダライナについては、内周摺動面の表面粗さ、材質、表面処理等の低摩擦係数化の研究が行われている(たとえば、特許文献1〜5)。

0003

ここで、特許文献1には、表面粗さRz(十点平均粗さ、JIS B 0601:1994)が0.5〜1.0μmの摺動面を有するピストンリングと、表面粗さRz(十点平均粗さ,JIS B 0601:1994)が0.5〜1.5μm、且つDIN4776規格に基づく初期摩耗高さRpkが0.05〜0.2μm、有効負荷粗さRkが0.2〜0.6μmおよび油溜まり深さRvkが0.10〜0.35μmの摺動面を有するシリンダライナと、を有する組み合わせ摺動部材が提案されている。また、特許文献1には、シリンダライナの摺動面が、鋳鉄ボロン鋳鉄および鉄鋼のいずれかであることが開示されている。特許文献1記載の技術によれば、低フリクション化の要求を満たすことができると共に、耐スカッフ性(耐焼き付き性)に優れた摺動部材が提供される。

0004

また、特許文献2には、シリンダブロック基材シリンダボア内周面上に形成されたシリンダブロック用鉄系溶被膜が提案されている。気孔を有するこのシリンダブロック用鉄系溶射被膜のシリンダボア内面に相当する表面は、平均粗さRaが0.4μm以下であり、油溜まり深さRvkが0.2〜2.0μmである。高出力エンジンのように非常に高い筒内圧がかかるシリンダブロックにおいては、高い燃焼圧によって、溶射被膜に高荷重が繰り返し負荷されるため、溶射被膜の内部で亀裂や剥離が発生するため、この問題を解決すべく、特許文献2に開示の技術では、高面圧下での耐剥離性に優れたシリンダブロック用鉄系溶射被膜を提供している。

0005

また、特許文献3には、面圧0.03〜0.2MPaで互いに摺動する、アルミニウム合金製シリンダライナと、外周摺動面窒化層が形成され所定の表面粗さを有するピストンリングとの組み合わせが提案されている。ここで、アルミニウム合金製シリンダライナはの内周面の表面粗さは、JIS B 0601:1994に準拠する十点平均粗さRz=0.5〜1.0μm、有効負荷粗さRk=0.2〜0.4μm、初期摩耗高さRpk=0.05〜0.1μm、油溜まり深さRvk=0.08〜0.2μmである。この特許文献3に開示の技術は、エンジンの軽量化の要請応えると共に、シリンダライナとピストンリングとの低フリクション化、互いの摩耗量の低減および耐スカッフ性の向上を図ることを目的としている。

0006

また、特許文献4には、シリンダボアの表面が、Rk+Rpk<1.0μm、かつ、Rk+Rvk<2.0μm、となるように形成されたアルミニウム合金製シリンダブロックが提案されている。ここで、Rkは有効負荷粗さ、Rpkは初期摩耗高さ、Rvkは油溜まり深さである。特許文献4記載の技術は、シリンダボア表面に必要な特性を確保しつつも、安価に製造することのできるアルミニウム合金製シリンダブロックを提供することを目的としている。また、特許文献4では、Rkが0.65μmよりも大きく、かつ、シリンダボアの表面に螺旋状に形成された、凹凸高低差が2μm未満のピット空白領域の幅を1.0μm以下とすることにより、シリンダボア表面に、鋳鉄製シリンダーライナー以上の耐スカッフ性が確保できることが開示されている。

0007

さらに、特許文献5には、ホーニング加工によって形成された摺接面の十点平均粗さ(Rz)、負荷長さ率(tp)および有効負荷粗さ(Rk)が、それぞれ、1μm以上5μm以下、55%以上98%以下および1μm以下である有摺接面部材が提案されている。特許文献5記載の技術は、潤滑剤保持機能に優れると共に、所定の部材が摺接する際の摩擦抵抗が十分に低い摺接面を有する有摺接面部材を提供することを目的としている。

先行技術

0008

特開2004−116707号公報
特許第4984214号
特許第4954644号
特開2012−12957号公報
特許第4678802号

発明が解決しようとする課題

0009

上述したように、近年では、内燃機関の軽量化・コストダウン等の観点で、特許文献3、4に例示されるようなアルミニウム合金製のシリンダライナあるいはシリンダブロックが検討されている。しかし、シリンダボアの内周摺動面を構成する材料がアルミニウム合金製である場合、鉄系材料と比べて剛性耐熱性が劣る上に、耐摩耗性および耐スカッフ性に問題が生じ易い(たとえば、特許文献2、段落0002−0003参照)。また、特許文献2に例示されるように、シリンダボアの内周摺動面を構成する材料が溶射被膜である場合、溶射被膜とシリンダブロックとの間に界面が存在する上に、溶射被膜中には気孔も存在するため、界面での剥離の発生および気孔を起点とする亀裂の発生は根本的に避け難い。これらの点を踏まえると、内周摺動面の材質という観点では、より優れたトライボロジー特性が確保し易いことから、鋳鉄製シリンダライナがより有利であると考えられる。

0010

一方、内燃機関の低燃費化の要請に応えるために、フリクションを低減すべく、近年ではより低粘度の潤滑油が使用されつつある。しかし、潤滑油の粘度を低下させると、ピストンリングの外周摺動面と、シリンダボアの内周摺動面とが直接接触する機会が増えるため、焼き付きが生じ易くなる。このため、従来の鋳鉄製シリンダライナであっても、フリクションの低減と、優れた耐焼き付き性とを同時に確保するのが困難となりつつある。

0011

本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フリクションを低減すると共に、優れた耐焼き付き性を有する鋳鉄製シリンダライナおよび内燃機関を提供することを課題とする。

課題を解決するための手段

0012

上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明の鋳鉄製シリンダライナは、鋳鉄から構成される内周摺動面を有し、内周摺動面が、下式(1)〜(3)を満たす領域を含むことを特徴とする。
・式(1) Rvk/Rk≧1.0
・式(2) 0.08μm≦Rk≦0.3μm
・式(3) Rk−Rpk>0
〔式(1)〜(3)中、Rkは、JIS B0671−2:2002に基づくコア部のレベル差であり、Rpkは、JIS B0671−2:2002に基づく突出山部高さであり、Rvkは、JIS B0671−2:2002に基づく突出谷部深さRvkである。〕

0013

本発明の鋳鉄製シリンダライナの一実施形態は、式(1)〜(3)を満たす領域のRvk/Rkが1.5以上であることが好ましい。

0014

本発明の鋳鉄製シリンダライナの他の実施形態は、式(1)〜(3)を満たす領域のコア部のレベル差Rkが0.2μm以上であり、かつ、Rvk/Rkが3.0以上であることが好ましい。

0015

本発明の鋳鉄製シリンダライナの他の実施形態は、式(1)〜(3)を満たす領域のJIS B0601:2013に基づく算術平均粗さRaが0.5μm以下であることが好ましい。

0016

本発明の鋳鉄製シリンダライナの他の実施形態は、式(1)〜(3)を満たす領域に、第一の平行直線群と、第一の平行直線群と交差する前記第二の平行直線群とを含むクロスハッチパターンからなる加工痕が形成されており、シリンダライナ周方向の一方側から他方側へと向かうように第一の平行直線群が伸びる方向と、シリンダライナ周方向の一方側から他方側へと向かうように第二の平行直線群が伸びる方向とが成すクロスハッチ角度が、3度以上50度以下であることが好ましい。

0017

本発明の鋳鉄製シリンダライナの他の実施形態は、鋳鉄が片状黒鉛鋳鉄であることが好ましい。

0018

本発明の鋳鉄製シリンダライナの他の実施形態は、鋳鉄のJIS Z 2245:2011に基づく硬さが、90HRB以上115HRB以下であることが好ましい。

0019

本発明の内燃機関は、鋳鉄から構成される内周摺動面を有するシリンダボアと、シリンダボアの内周側に配置されたピストンと、ピストンの外周面に、ピストン周方向に沿って設けられた環状溝に装着されたピストンリングと、を備え、内周摺動面が、下式(1)〜(3)を満たす領域を含むことを特徴とする。
・式(1) Rvk/Rk≧1.0
・式(2) 0.08μm≦Rk≦0.3μm
・式(3) Rk−Rpk>0
〔前記式(1)〜(3)中、Rkは、JIS B0671−2:2002に基づくコア部のレベル差であり、Rpkは、JIS B0671−2:2002に基づく突出山部高さであり、Rvkは、JIS B0671−2:2002に基づく突出谷部深さRvkである。〕

0020

本発明の内燃機関の一実施形態は、式(1)〜(3)を満たす領域を含む内周摺動面を有する鋳鉄製シリンダライナを備えることが好ましい。

0021

本発明の内燃機関の他の実施形態は、シリンダボアが設けられた鋳鉄製シリンダブロックを備えることが好ましい。

0022

本発明の内燃機関の他の実施形態は、ピストンリングが、リング状基材と、リング状基材の外周面を被覆すると共に、片状黒鉛鋳鉄製シリンダライナの内周摺動面と接触摺動する硬質被膜とを備え、硬質被膜が、CrN系被膜および非晶質炭素被膜からなる群より選択されるいずれか1種の被膜であることが好ましい。

0023

本発明の内燃機関の他の実施形態は、CrN系被膜の外周摺動面におけるJIS Z 2244:2009に基づく表面硬さが800HV0.1以上であり、外周摺動面のJIS B0601:2013に基づく算術平均粗さRaが0.10μm以下であることが好ましい。

0024

本発明の内燃機関の他の実施形態は、非晶質炭素被膜の外周摺動面におけるJIS Z 2244:2009に基づく表面硬さが1200HV0.1以上であり、外周摺動面のJIS B0601:2013に基づく算術平均粗さRaが0.10μm以下であり、非晶質炭素被膜が水素を含まないことが好ましい。

発明の効果

0025

本発明によれば、フリクションを低減すると共に、優れた耐焼き付き性を有する鋳鉄製シリンダライナおよび内燃機関を提供することができる。

図面の簡単な説明

0026

コア部のレベル差Rk、突出山部高さRpkおよび突出谷部深さRvkの概要について説明する模式図である。ここで、図1(A)は、Rk、RpkおよびRvkの測定対象とした物体表面(粗さ曲線)の一例を示す模式断面図であり、図1(B)は、図1(A)に示す物体表面(粗さ曲線)を測定して得られた負荷曲線を示すグラフである。
本実施形態のシリンダライナの一例を示す模式図である。
本実施形態のシリンダライナの内周摺動面近傍断面構造の一例を示す金属顕微鏡写真倍率:400倍)である。
本実施形態のシリンダライナの他の例を示す模式図である。
図4に示すシリンダライナの内周摺動面に形成されたクロスハッチパターンからなる加工痕の金属顕微鏡写真である。ここで、図5(A)は、図4に示す領域Tuの金属顕微鏡写真の一例であり、図5(B)は、図4に示す領域Tdの金属顕微鏡写真の一例である。
図4に示すシリンダライナの内周摺動面の表面粗さを測定した際の粗さ曲線のプロファイルである。ここで、図6(A)は、図4に示す領域Tuの粗さ曲線のプロファイルの一例であり、図6(B)は、図4に示す領域Tdの粗さ曲線のプロファイルの一例である。
本実施形態の内燃機関の一例を示す模式図である。
本実施形態のシリンダライナの内周摺動面の表面粗さを測定した際の粗さ曲線のプロファイルである。ここで、図8(A)は、実施例A1(CHA30)のシリンダライナの内周摺動面の粗さ曲線のプロファイルの一例であり、図8(b)は、実施例A14(CHA30)のシリンダライナの内周摺動面の粗さ曲線のプロファイルの一例であり、図8(C)は、実施例A18(CHA30)のシリンダライナの内周摺動面の粗さ曲線のプロファイルの一例である。
摩擦係数の測定および耐焼付き性の評価に用いた往復動摩擦試験機を示す模式図である。

0027

本実施形態の鋳鉄製シリンダライナ(以下、「シリンダライナ」と略す場合がある)は、鋳鉄から構成される内周摺動面を有し、内周摺動面が、下式(1)〜(3)を満たす領域を含むことを特徴とする。
・式(1) Rvk/Rk≧1.0
・式(2) 0.08μm≦Rk≦0.3μm
・式(3) Rk−Rpk>0
ここで、式(1)〜(3)中、Rkは、JIS B0671−2:2002に基づくコア部のレベル差であり、Rpkは、JIS B0671−2:2002に基づく突出山部高さであり、Rvkは、JIS B0671−2:2002に基づく突出谷部深さRvkである。

0028

本実施形態の鋳鉄製シリンダライナは、鋳鉄から構成される内周摺動面を有する。そして、鋳鉄は、自己潤滑性を有する析出黒鉛を含むため、摺動材料として好ましい。また、内周摺動面を構成する材料がアルミニウム合金である場合および内周摺動面が溶射被膜から構成される場合と比べて、内周摺動面を構成する材料が鋳鉄である場合、より優れたトライボロジー特性を確保し易い。

0029

なお、式(1)〜式(3)中に示すコア部のレベル差Rk、突出山部高さRpkおよび突出谷部深さRvkは、JIS B0671−2:2002に基づく粗さパラメータである。図1は、コア部のレベル差Rk、突出山部高さRpkおよび突出谷部深さRvkの概要について説明する模式図である。ここで、図1(A)は、Rk、RpkおよびRvkの測定対象とした物体表面(粗さ曲線)の一例を示す模式断面図であり、図1(B)は、図1(A)に示す物体表面(粗さ曲線)を測定して得られた負荷曲線を示すグラフである。図1(A)および図1(B)の縦軸は物体表面(粗さ曲線)の高さを表し、図1(A)の横軸は高さと直交する方向を表し、図1(B)の横軸は負荷長さ率(%)を表す。

0030

図1(A)に示すように評価長さln(lはLの小文字)の範囲内で物体表面の粗さを測定した場合、図1(B)に示すように、S字状で変曲点を1つ有する負荷曲線を得ることができる。ここで、Rk、RpkおよびRvkは、粗さ曲線の測定点の40%を含む負荷曲線の中央部分において求められた等価直線(最も緩い傾斜を持つ直線)と、負荷長さ率0%の位置と、負荷長さ率100%と位置とから求められる。コア部のレベル差(core roughness depth)Rkは粗さ曲線のコア部の上側レベルと下側レベルとの差、突出山部高さ(reduced peak height)Rpkは粗さ曲線のコア部の上にある突出山部の平均高さ、突出谷部深さ(reduced valley depth)Rvkは粗さ曲線のコア部の下にある突出谷部の平均探さである。なお、図1(B)中、Mr1は、粗さ曲線において突出山部とコア部との境界を成す直線が負荷曲線と交わる点のパーセント単位の負荷長さ率であり、Mr2は、粗さ曲線において突出谷部とコア部との境界を成す直線が負荷曲線と交わる点のパーセント表示の負荷長さ率である。

0031

図1から明らかなように、Rkは、粗さ曲線の高さ方向の中央部分(コア部)に対応する粗さパラメーターであり、Rpkは、粗さ曲線のコア部の上側に突出する突出山部に対応する粗さパラメーターであり、Rvkは、粗さ曲線のコア部の下側に深く窪んだ突出谷部に対応する粗さパラメーターである。なお、Rk、RpkおよびRvkの測定条件の詳細については後述する。

0032

式(1)に示すように、Rvk/Rkを1.0以上とすることは、突出谷部深さRvkをコア部のレベル差Rkより同じかより大きく形成することになるため、コア部に対して相対的に深い突出谷部(窪み部)が形成されることを意味する。すなわち、コア部のレベル差Rkが一定の場合において、Rvk/Rkを1.0以上とすることにより、潤滑油が滞留容易な突出谷部(窪み部)の容積をより大きくすることができる。このため、摩擦状態境界潤滑状態あるいは混合潤滑状態である場合においては、突出谷部(窪み部)に滞留する潤滑油がコア部の表面周辺に潤滑油を供給する作用を発揮するため、耐焼付き性を向上させる。また、このような作用効果は、摩擦状態が境界潤滑条状態あるいは混合潤滑状態に成りやすい表面性状(たとえば、コア部のレベル差Rkが0.2μm未満)においてより顕著に発揮される。

0033

なお、潤滑油が滞留容易な突出谷部(窪み部)の容積をより大きくするため、RvK/Rkは1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましい。また、耐焼付き性をより向上させたい場合は、Rkを0.2μm以上、かつ、RvK/Rkを3.0以上とすることが好ましく、Rkを0.2μm以上、かつ、RvK/Rkを4.0以上とすることがより好ましい。

0034

一方、RvK/Rkの上限値は特に限定されるものでは無いが、RvK/Rkの値が大きすぎる場合は、内周摺動面を形成する際の加工精度が不安定となる。このため、RvK/Rkは、10.0以下が好ましく、8.0以下がより好ましい。

0035

また、式(2)に示すように、コア部のレベル差Rkを0.3μm以下とすることにより摩擦係数を小さくすることでフリクションが低減できる。さらに、コア部のレベル差Rkを0.08μm以上とすることにより、耐焼付き性を向上させることができる。コア部のレベル差Rkは、摩擦係数を小さくし、フリクションをより一層低減する観点からは、0.25μm以下が好ましく、0.20μm以下がより好ましく、耐焼付き性をより向上させる観点からは、0.10μm以上が好ましく、0.12μm以上がより好ましい。

0036

さらに、式(3)に示すように、コア部のレベル差Rkを、突出山部高さRpkよりも大きくすることで、摩擦係数を小さくしフリクションを低減できる。この理由は、以下の通りである。まずコア部のレベル差Rkが、突出山部高さRpkと同等あるいは突出山部高さRpkよりも小さい場合においてはシリンダライナの内周摺動面は、主に突出山部の頂点部にピストンリングの外周摺動面と高い接触面圧で接触し易くなる。このため、仮に摩擦状態が流体潤滑状態であっても、突出山部の頂点部では潤滑油が介在しない接触が発生し、ミクロスカッフ発現する機会が多くなる。それゆえ、このような状況では結果的に摩擦係数が大きくなり、フリクションが増大してしまうためである。なお、Rk−Rpkの値は、0.02μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましい。

0037

また、Rk−Rpkの値の上限値は特に限定されるものではないが、実用上は、0.27μm以下が好ましく、0.23μm以下がより好ましい。

0038

以上に説明したように、本実施形態の鋳鉄製シリンダライナにおいては、内周摺動面を構成する材料を、鋳鉄とし、且つ、内周摺動面に、式(1)〜式(3)を満たす領域が含まれるものとすることにより、摩擦係数を小さくしてフリクションを低減すると共に、優れた耐焼き付き性を確保することができる。

0039

また、図1(A)からは、突出山部およびコア部は、相手部材との接触による摩擦力発生の主たる原因となる部分と考えられる。すなわち、コア部のレベル差Rkと、突出山部高さRpkとの和(Rk+Rpk)は、相手部材との接触による摩擦係数との相関が強く、摩擦力の大きさに強く関係する粗さパラメーターである。よって、摩擦係数を小さくしてフリクションを低減する観点から、式(1)〜式(3)を満たす領域のRk+Rpkは、0.6μm未満であることが好ましく、0.45μm以下であることがより好ましく、0.38μm以下であることがさらに好ましく、0.31μm以下であることが特に好ましく、0.26μm以下であることが最も好ましい。なお、Rk+Rpkの下限値は特に限定されないが、実用上は、0.11μm以上であることが好ましく、0.15μm以上であることがより好ましい。

0040

また、式(1)〜式(3)を満たす領域の算術平均粗さRaは、摩擦係数を小さくする観点から、0.5μm以下であることが好ましく、0.41μm以下であることがより好ましく、0.32μm以下であることがさらに好ましく、0.28μm以下であることが特に好ましい。また、算術平均粗さRaの下限値は特に限定されるものではないが、実用上は0.03μm以上が好ましい。なお、本願明細書において、算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzは、JIS B0601:2013に基づく粗さパラメータである。ここで、算術平均粗さRaおよび最大高さ粗さRzは、基準長さl(lはLの小文字)を0.8mmとして、粗さ曲線から得られる値である。Ra、Rzの測定条件の詳細については後述する。

0041

内周摺動面は、式(1)〜式(3)を満たす領域を含む限り、上述したRk、Rpk、Rvk、Ra以外の粗さパラメーターの値、および、表面加工により形成される加工痕のパターンなどの表面性状は特に限定されない。しかしながら、式(1)〜式(3)を満たす領域には、第一の平行直線群と、第一の平行直線群と交差する第二の平行直線群とを含むクロスハッチパターンからなる加工痕が形成されていることが特に好ましい。

0042

図2は、本実施形態のシリンダライナの一例を示す模式図であり、具体的には、円筒状のシリンダライナを2分割して得られた半円筒状部材の内周摺動面を拡大して示す図である。ここで、図2中、記号Aはシリンダライナの中心軸を表し、記号Cは、シリンダライナの周方向を表す。なお、図2に示す例では、クロスハッチパターンからなる加工痕は、内周摺動面の全面に形成されているが、クロスハッチパターンおよびクロスハッチ角度の説明を容易とするために、クロスハッチパターンからなる加工痕の一部分のみを示している。

0043

図2に示すシリンダライナ10A(10)の内周摺動面12には、第一の平行直線群22と、第一の平行直線群22と交差する第二の平行直線群24とを含むクロスハッチパターンからなる加工痕20が形成されている。ここで、シリンダライナ周方向Cの一方側から他方側へと向かうように第一の平行直線群22が伸びる方向D1と、シリンダライナ周方向Cの一方側から他方側へと向かうように第二の平行直線群24が伸びる方向D2とが成す角度θ(周方向C側の一方側から他方側に向うに従い2つの平行直線群22、24の間が開いて行く角度)は、クロスハッチ角度(以下、「CHA」と略す場合がある)と呼ばれる。

0044

内周摺動面12の式(1)〜式(3)を満たす領域に、クロスハッチパターンからなる加工痕20が形成されている場合、クロスハッチ角度θは、特に限定されるものではないが、3度以上50度以下であることが好ましい。クロスハッチ角度を50度以下とすることにより、摩擦係数を小さくしフリクションを低減することがより容易となる。また、クロスハッチ角度θを3度以上とすることにより、耐焼付き性を向上させることが容易となる。なお、摩擦係数を小さくすることによるフリクションの低減と耐焼付き性の向上とをよりバランス良く両立させるためには、クロスハッチ角度θは20度以上40度以下が好ましく、25度以上35度以下がより好ましい。

0045

また、クロスハッチ角度θは、内周摺動面12のいずれの箇所においても同一であってもよいが、内周摺動面12の一部の領域内と、他の部分の領域内とで異なるものとしてもよい。クロスハッチ角度θは、一般的な内視鏡または金属顕微鏡を用いて測定することができる。クロスハッチ角度θの測定位置は、クロスハッチ角度θが同一の領域内において、シリンダライナ10の軸方向Aの中央位置が選択される。

0046

なお、内周摺動面を構成する材料が、鋳鉄である場合において、式(1)〜式(3)を満たす表面性状、すなわち、後述する図6および図8に例示したような内周摺動面の台地部分を構成する高さをほぼ一定とした平滑面としつつも、台地部分と台地部分との間に形成される谷部(窪み部)における潤滑油の保持力をより向上させた表面性状については、本発明者らが検討したところ特許文献1等に開示された従来のホーニング加工条件では得ることができないことが判った。また、特許文献3等に開示された鋳鉄以外の材料(アルミニウム合金、溶射被膜等)をホーニング加工の対象とした従来のホーニング加工条件は、材料特性が全く異なる鋳鉄のホーニング加工を行なう上では全く参考にできない。このため、本発明者らは、内周摺動面を構成する材料が、鋳鉄である場合において、式(1)〜式(3)を満たす表面性状が得られる新規なホーニング加工条件を検討し、見出した。以下に、本実施形態のシリンダライナを製造する際の好適な内周摺動面の加工方法の詳細を説明する。

0047

まず、鋳造により鋳鉄製の円筒状部材未完成状態のシリンダライナ)を準備する。次に、この円筒状部材の内周面をボーリング加工することで内径寸法を、完成品の内径寸法(最終寸法付近となるように調整する。このボーリング加工は、たとえば、内径寸法を大雑把に最終寸法に近づけるためのラフボーリング工程と、ラフボーリング工程後の内径寸法をより最終寸法に近づけるためにより精度の高いボーリング加工を行なうファインボーリング工程と、の2回に分けて実施することが好ましい。

0048

次に、ボーリング工程を終えた後の円筒状部材に対して、内径寸法をさらに最終寸法に近づけると共に、式(1)〜式(3)を満たす表面性状を有する内周摺動面12を形成するために、ホーニング加工を行なう。このホーニング加工では、ラフホーニング工程と、第一ファインホーニング工程と、第二ファインホーニング工程と、この順に実施する。ここで、ラフホーニング工程は、内径寸法をさらに最終寸法に近づけることを主目的とし、第一ファインホーニング工程および第二ファインホーニング工程は、式(1)〜式(3)を満たす内周摺動面を形成することを主目的とする工程である。なお、必要に応じて、第一ファインホーニング工程と、第二ファインホーニング工程との間で、円筒状部材の内周面に対してリン酸塩処理などの化成処理を実施する化成処理工程を実施してもよい。円筒状部材の内周面に対してリン酸塩処理を実施した場合、エッチング作用により完成したシリンダライナの内周摺動面に微細な穴が形成されるため、この微細な穴による潤滑油の保持性を向上させることができる。

0049

ここで、ラフホーニング工程では、結合剤としてメタルボンドを用いたダイヤモンド砥石を用い、油圧式拡張で円筒状部材の内周面に砥石押圧した状態で、水溶性研削液を用いて内径寸法が最終寸法となるまでホーニング加工を行なう。

0050

また、第一ファインホーニング工程では、ダイヤモンド砥石を用い、油圧式拡張で円筒状部材の内周面に砥石を押圧した状態で、水溶性研削液を用いてホーニング加工を行なう。但し、第一ファインホーニング工程で用いるダイヤモンド砥粒は、ラフホーニング工程で用いたダイヤモンド砥粒の平均粒径に対して約1/3前後の平均粒径を有し、かつ、ラフホーニング工程で用いたダイヤモンド砥粒の結合剤よりもより低い結合度のメタルボンドを用いて結着・固定されるものである。この第一ファインホーニング工程では、第二ファインホーニング工程終了後に所望のRvk値が得られるようにすることを主たる目的として実施される。

0051

さらに、第二ファインホーニング工程では、ダイヤモンド砥石を用い、油圧式拡張で円筒状部材の内周面に砥石を押圧した状態で、水溶性研削液を用いてホーニング加工を行なう。但し、第二ファインホーニング工程で用いるダイヤモンド砥粒は、第一ファインホーニング工程で用いたダイヤモンド砥粒の平均粒径に対して約1/3前後の平均粒径を有し、かつ、第一ファインホーニング工程で用いたダイヤモンド砥粒の結合剤よりもより低い結合度のメタルボンドを用いて結着・固定されるものである。

0052

以上に説明したホーニングプロセスを実施することで、内周摺動面を構成する材料が鋳鉄である場合において、式(1)〜式(3)を満たす表面性状を実現することができる。なお、式(1)〜式(3)を満たす範囲内において所望の表面性状を得るために、ホーニング加工面圧(ホーニング砥石拡張圧とホーニング砥石の加工面面積との組合せにより決まる面圧)、ホーニングヘッド回転数などのその他のホーニング条件を適宜調整することができる。たとえば、最終寸法が80mm前後である場合、ホーニングヘッドに取り付けるホーニング砥石は、その個数を4個〜6個、ホーニング砥石の長さを40mm〜100mm、ホーニング砥石の幅を1mm〜4mmとすることが好ましく、ホーニングヘッドの回転数は160rpm〜240rpmとすることが好ましい。また、内周面のクロスハッチ角度θは第一ファインホーニング工程で設定され、他のホーニング工程におけるクロスハッチ角度は、任意でも良い。

0053

なお、内周摺動面12の軸方向Aに対して、2つ以上の表面性状の異なる領域を形成したい場合は、軸方向Aに対して、シリンダヘッド上下動、回転数またはホーニング砥石拡張圧を適宜変更すればよい。これにより、たとえば、内周摺動面12の軸方向Aの一方側の領域と他方側の領域とで、Rk、Rpk、Rvkなどの粗さパラメーターの値、および/または、クロスハッチ角度θなどの加工痕のパターンを互いに異なるものとしたシリンダライナ10を得ることもできる。

0054

本実施形態のシリンダライナ10において、内周摺動面12の突出谷部深さRvkの値は特に制限されない。しかし、内周摺動面12の突出谷部深さRvkが1.8μmを超えると、ホーニング加工性が悪くなり、内周摺動面12の粗さの変動が大きくなったり、あるいは、式(1)〜式(3)のいずれかを満たすのが困難となる傾向がある。このため、内周摺動面12の突出谷部深さRvkは、1.8μm以下が好ましい。

0055

また、ホーニング加工に用いる研削液は、一般的に、水溶性研削液よりも油性研削液を用いるほうが、砥石の切れ味が良く、ホーニング加工後の内周面にバリの少ないクリーン加工目が得られやすい。言い換えれば、水溶性研削液よりも油性研削液を用いるほうが、式(2)、(3)を満たすことがより容易である。しかし、廃液処理の点では油性研削液よりも水溶性研削液の方がより有利である。しかしながら、本発明者らが検討したところ、上述した水溶性研削液を用いたホーニング加工方法では、水溶性研削液を用いているにも関わらずバリの発生を抑えて式(2)、(3)を満たすことも容易であることが判った。

0056

なお、本実施形態のシリンダライナは、上記ホーニング加工条件を利用して製造することが好適である。しかし、本実施形態のシリンダライナの製造方法は、上記ホーニング加工条件を利用した製造方法に限定されるものではなく、上記ホーニング加工条件以外の内周加工方法・条件により製造されたものでもよい。

0057

本実施形態のシリンダライナ10の鋳造方法は特に限定されず、砂型鋳造法遠心鋳造法などの公知の鋳造法が利用できる。また、本実施形態のシリンダライナを構成する材料は鋳鉄であり、鋳鉄であれば片状黒鉛鋳鉄やバーミキュラ鋳鉄等の公知の材料がいずれも利用できるが、特に片状黒鉛鋳鉄を用いることが好ましい。好適な片状黒鉛鋳鉄としては、たとえば、JIS G5501に基づく鋳鉄材であるFC250もしくはFC300、あるいは、これら鋳鉄材に相当する材料(下記に示すFC250相当材もしくはFC350相当材)が挙げられる。また、鋳鉄の硬さは特に限定されるものでは無いが、JIS Z 2245:2011に基づく硬さは、90HRB以上であることが好ましい。硬さを90HRB以上とすることにより、低摩擦係数化(フリクションの低減)および耐焼き付き性の向上がより容易となる。一方、硬さの上限は特に限定されるものではないが、加工性などの実用上の観点から115HRB以下であることが好ましい。また、低摩擦係数化(フリクションの低減)および耐焼き付き性の向上をより重視する場合、硬さは100HRB以上115HRB以下が好ましく、加工性等をより重視する場合、硬さは90HRB以上105HRB以下が好ましい。硬さの測定は、シリンダライナの軸方向中央位置の任意の軸方向断面において、内周摺動面から1mm以上離れた位置で測定する。内周摺動面にリン酸塩処理などの化成処理を施したシリンダライナの材料硬さについても、同一の測定方法とする。

0058

(1)FC250相当材
組成>質量%で、C:3.0%以上3.7%以下、Si:2.0%以上2.8%以下、Mn:0.5%以上1.0%以下、P:0.2%以下、S:0.15%以下、Cr:0.2%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成。また、当該組成に、B、Cu,Nb、W等の少なくとも一つの元素が含まれていてもよい。
<黒鉛のサイズ等>黒鉛のサイズは特に限定されないが、たとえば、4〜6(ISO 945−1:2008)であってもよい。また、片状黒鉛鋳鉄のマトリックス中には硬化物相が含まれていてもよい。
<硬さ>90HRB以上105HRB以下。

0059

(2)FC300相当材
<組成>質量%で、C:2.85%以上3.35%以下、Si:1.95%以上2.55%以下、Mn:0.45%以上0.8%以下、P:0.03%以上0.25%以下、S:0.15%以下、Cr:0.15%以上0.55%以下、Mo:0.15%以上0.65%以下、Ni:0.15%以上0.65%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成。また、当該組成に、B、Cu,Nb、W等の少なくとも一つの元素が含まれていてもよい。
<黒鉛のサイズ等>黒鉛のサイズは特に限定されないが、たとえば、4〜8(ISO 945−1:2008)であってもよい。また、片状黒鉛鋳鉄のマトリックス中には硬化物相が含まれていてもよい。
<硬さ>100HRB以上115HRB以下。

0060

マトリックス中における片状黒鉛析出形態については特に限定されるものではない。しかしながら、図3に例示した金属顕微鏡写真のように、内周摺動面12の面内において、一つの析出黒鉛のR方向の他端から内周摺動面12の面内の一端に向かう黒鉛形状が、内周摺動面12の一端の部分で切削加工または研削加工(ホーニング加工を含む)等の外力によってA方向に変形、彎曲した形状が見られず、黒鉛が内周摺動面12に露出していることが好ましく、このような析出黒鉛が複数あることが好ましい。ここで図3は、本実施形態のシリンダライナ10の内周摺動面12近傍の断面構造の一例を示す金属顕微鏡写真(倍率:400倍)である。ここで、図中、Aはシリンダライナ10の軸方向を表し、Rはシリンダライナ10の径方向を表す。

0061

また、本実施形態のシリンダライナ10では、内周摺動面12を構成する材料も鋳鉄(化成処理された鋳鉄も含む)である。すなわち、本実施形態のシリンダライナ10を内燃機関に用いた際には、ピストンの外周面やピストンリングの外周摺動面が、内周摺動面12を構成する鋳鉄と接触摺動する。このため、内周摺動面12を構成する材料がアルミニウム合金である場合と比べて、内周摺動面12を構成する材料が鋳鉄である場合はより硬度が高いため、低摩擦係数化(フリクションの低減)および耐焼付き性の向上に関して極めて有利である。また、内周摺動面12が溶射被膜から構成される場合と比べて、内周摺動面12を構成する材料が鋳鉄では、内周摺動面12近傍には気孔が存在しないため、被膜の剥離・亀裂という問題が生じることも無い。

0062

本実施形態のシリンダライナ10では、(i)内周摺動面12の全面が同一の表面性状であってもよいが、(ii)内周摺動面12を2つ以上の領域に区分した場合において、各々の領域の表面性状が互いに異なるものであってもよい。(i)前者の場合は、内周摺動面の全面が式(1)〜(3)を満たす。一方、(ii)後者の場合、少なくともいずれか1つの領域が式(1)〜(3)を満たしていればよく、全ての領域が式(1)〜(3)を満たしていることが好ましい。これらの点は、式(1)〜(3)に示す粗さパラメーターであるRvk/Rk、Rkおよび(Rk−Rpk)以外のその他の粗さパラメーターの好適な範囲、ならびに、クロスハッチ角度の好適な範囲についても同様である。また、内周摺動面12を2つ以上の領域に区分する場合、通常、内周摺動面12は、軸方向Aに対して2つ以上の領域に区分される。

0063

また、内周摺動面12の一部分の領域のみが式(1)〜式(3)を満たす場合、式(1)〜式(3)を満たす領域の割合は、内周摺動面12の全面積を100%とした際に、33.3%以上が好ましく、66.7%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。

0064

さらに、内周摺動面12の一部分の領域のみが式(1)〜式(3)を満たし、かつ、内周摺動面12を軸方向Aに対して2つ以上の領域に区分する場合、シリンダライナ10の軸方向Aの長さをLとすると、L/3以上の長さに相当する領域が式(1)〜式(3)を満たすことが好ましく、2L/3以上の長さに相当する領域が式(1)〜式(3)を満たすことがより好ましく、4L/5以上の長さに相当する領域が式(1)〜式(3)を満たすことがさらに好ましい。また、この場合、式(1)〜式(3)を満たす領域は、軸方向Aの中央部近傍に位置することが好ましい。たとえば、L/3以上の長さに相当する領域が式(1)〜式(3)を満たすときは、シリンダライナ10の軸方向Aの一端側の位置を0、他端側の位置をLとすると、L/3以上2L/3以下の範囲内の領域、あるいは、当該領域よりも、若干、一端側あるいは他端側にずれた領域において式(1)〜式(3)を満たすことが好ましい

0065

(i)内周摺動面12の全面が同一の表面性状である場合、内周摺動面12の表面粗さは、1つのサンプルにつき4箇所測定して、その平均値を求めたものである。この場合の表面粗さの具体的な測定位置については、後述する「2.表面粗さ(Rk、Rvk、Rpk、Ra、Rz)の測定」の欄に示した。一方、(ii)内周摺動面12を2つ以上の領域に区分し、かつ、各々の領域の表面性状が互いに異なる場合、各々の領域につき4箇所測定して、その平均値を求めたものである。この場合、各領域毎に、表面粗さの平均値を得ることになる。この場合、測定位置は、各々の領域の輪郭形状に応じて適宜選択されるが、可能な限り、隣り合う2つの測定位置間の距離、および、各測定位置と領域の輪郭線との距離が略同一となるように選択する。たとえば、領域の輪郭形状が方形状であれば、領域を縦に3等分する2本の直線と、領域を横に3等分する2本の直線とが交差する4箇所の交点を測定位置とする。

0066

図4は、本実施形態のシリンダライナの他の例を示す模式図であり、シリンダライナ10の周方向Cの1点においてシリンダライナ10を軸方向Aに沿って切断することで、円筒状の内周摺動面12を平面状に展開した平面展開図を示したものである。ここで、図中、記号Yは、シリンダライナ10の中心軸Aと平行を成す方向であり、記号Xは、シリンダライナ10の周方向Cと平行を成す方向である。また、シリンダライナ10を内燃機関内に配置した場合において、Y1方向側は、燃焼室側を意味し、Y2方向側はクランク室側を意味する。なお、これらの点は後述する図5においても同様である。また、図4に示す例では、クロスハッチパターンからなる加工痕は、内周摺動面の全面に形成されているが、クロスハッチパターンおよびクロスハッチ角度の説明を容易とするために、クロスハッチパターンからなる加工痕の一部分のみを示している。

0067

図4に示すシリンダライナ10B(10)は、内周摺動面12が、軸方向A(Y方向)に対して3つの領域に区分されており、燃焼室側(Y1方向側)からクランク室側(Y2方向側)へと、領域Tu、領域Tmおよび領域Tdが設けられている。図4に示す例では、領域Tu、Tm、Tdのいずれも式(1)〜式(3)を満たすものとすることができる。

0068

ここで、シリンダライナ10Bの軸方向Aの長さをLとすると、領域Tuの長さがL1であり、領域Tdの長さがL2である。また、図中において、点線PSbは、不図示のピストンが上死点位置に到達した際のピストンスカート下端位置を示す。ここで、Y方向において、内周摺動面12の燃焼室側の端から点線PSbまでの距離はLpである。なお、図4中では、L1=Lpとなっているが、L1≠Lpであってもよい。

0069

また、領域Tuには、クロスハッチ角度θuを有する第一のクロスハッチパターンからなる加工痕20A(20)が形成されており、領域Tdには、クロスハッチ角度θdを有する第二のクロスハッチパターンからなる加工痕20B(20)が形成されている。また、領域Tmは、領域Tuと領域Tdとの中間領域であり、第一のクロスハッチパターンからなる加工痕20Aと第二のクロスハッチパターンからなる加工痕20Bとが重畳的に形成されている。

0070

領域Tu、Td、Tmの表面性状および長さL、L1、L2、Lpは、シリンダライナ10Bを用いる内燃機関の設計仕様に応じて適宜選択することができる。一例としては、1つのピストンに3つのピストンリング(トップリングセカンドリングおよびオイルリング)が装着されている場合、L>L1+L2を満たすことを前提として、L1=0.2L〜0.4L、Lp≦L1、L2≧0.55Lとすることができる。ここで、L2≧0.55Lは、Y方向におけるトップリングの摺動範囲の略中央に対応する位置となるように考慮したものである。また、内燃機関運転中の各領域における摩擦状態は、領域Tuが相対的により境界潤滑状態あるいは混合潤滑状態の傾向にあり、領域Tdが相対的により
混合潤滑状態あるいは流体潤滑状態の傾向にある。

0071

図4に示すシリンダライナ10Bの具体例としては、たとえば以下に説明する例を挙げることができる。なお、領域Tmの表面性状については、領域Tuと領域Tdとの中間的な表面性状である。
<領域Tuの表面性状>
Ra=0.11μm
Rk=0.21μm
Rpk=0.09μm
Rvk=0.29μm
Rvk/Rk=1.38
Rk−Rpk=0.12μm
θu=20度
<領域Tdの表面性状>
Ra=0.19μm
Rk=0.28μm
Rpk=0.10μm
Rvk=0.56μm
Rvk/Rk=2.00
Rk−Rpk=0.18μm
θd=10度

0072

上記の具体例について、参考までに図5に内周摺動面12に形成されたクロスハッチパターンからなる加工痕のスンプ法によるレプリカの金属顕微鏡写真(倍率:100倍)を示し、図6に内周摺動面12の表面粗さを測定した際の粗さ曲線のプロファイルを示す。なお、図5(A)は領域Tuの金属顕微鏡写真であり、図5(B)は領域Tdの金属顕微鏡写真であり、図6(A)は領域Tuの曲線のプロファイルの一例であり、図6(B)は領域Tdの曲線のプロファイルの一例である。

0073

なお、図4図6に例示したような各領域Tu、Td、Tmの表面性状が異なるシリンダライナ10Bを製造する場合、第一ファインホーニング工程に際して、領域Tuでは第一のホーニング条件で実施し、領域Tdでは第二のホーニング条件で実施すればよい。この場合、領域Tmは、第一のホーニング条件から第二のホーニング条件へと切り替える領域となる。第二ファインホーニング工程は領域Tuと領域Tdは同一のホーニング条件で良い。

0074

本実施形態の内燃機関は、鋳鉄から構成される内周摺動面を有するシリンダボアと、シリンダボアの内周側に配置されたピストンと、ピストンの外周面に、ピストン周方向に沿って設けられた環状溝に装着されたピストンリングと、を備える。そして、シリンダボアの内周摺動面は、上記式(1)〜(3)を満たす領域を含むことを特徴とする。本実施形態の内燃機関においても、シリンダボアの内周摺動面やその形成方法は、上述した本実施形態のシリンダライナと同様とすることができる。

0075

また、本実施形態の内燃機関は、上述したシリンダボアと、ピストンと、ピストンリングとを少なくとも備えるものであれば、その構造は特に制限されない。たとえば、本実施形態の内燃機関は、式(1)〜(3)を満たす領域を含む内周摺動面を有する鋳鉄製シリンダライナ(本実施形態のシリンダライナ)を備える内燃機関であってもよく、式(1)〜(3)を満たす領域を含む内周摺動面を有するシリンダボアが設けられた鋳鉄製シリンダブロックを備える内燃機関(シリンダライナレス型の内燃機関)であってもよい。

0076

本実施形態のシリンダライナを備える内燃機関は、ピストンと、ピストンリングと、本実施形態のシリンダライナと、このシリンダライナを直接保持固定する保持固定部材とを、少なくとも有する。この場合、鋳鉄から構成される内周摺動面を有するシリンダボアは、本実施形態のシリンダライナにより形成される。また、保持固定部材の典型例としては、シリンダライナを鋳包むシリンダブロックを挙げることができる。本実施形態のシリンダライナを備える内燃機関の一連の製造プロセスにおいて、ホーニング工程により式(1)〜(3)を満たす領域を含む内周摺動面を形成するタイミングは、特に制限されず、適宜選択することができる。なお、シリンダライナを鋳包むシリンダブロックを有する典型的な内燃機関では、一般的に、ホーニング工程による内周摺動面の形成は、シリンダライナを鋳包む鋳包工程の後に実施される(たとえば、特許第2860537号、特許第4954644号など)。したがって、本実施形態のシリンダライナを備える内燃機関が、このシリンダライナを鋳包むシリンダブロックもさらに備える場合は、同様のタイミングで式(1)〜(3)を満たす領域を含む内周摺動面を形成することが好適である。

0077

一方、シリンダライナレス型の内燃機関は、シリンダライナを用いずに、鋳鉄製シリンダブロックに設けられたシリンダボアの内周面(鋳鉄製シリンダブロックと同一の鋳鉄材からなる内周面)を直接ホーニング加工することで、式(1)〜(3)を満たす領域を含む内周摺動面を形成した内燃機関である。本実施形態のシリンダライナレス型の内燃機関において用いられる鋳鉄製シリンダブロックを構成する鋳鉄としては、片状黒鉛鋳鉄やバーミキュラ鋳鉄等の公知の鋳鉄がいずれも利用できる。

0078

次に、本実施形態の内燃機関の具体例として、本実施形態のシリンダライナを備える内燃機関を図面を用いて説明する。図7は、本実施形態の内燃機関100の一例を示す模式図であり、シリンダライナ10、シリンダブロック110および燃焼室140については断面図を示し、シリンダライナの内周側に配置されたピストン120およびピストンリング130については側面図を示している。また、記号Aはシリンダライナの中心軸を表し、記号Cは、シリンダライナ10の周方向を表す。なお、図中、シリンダライナ10の内周摺動面12に形成されたクロスハッチパターンなどの加工痕については記載を省略してある。

0079

図7に示す内燃機関100は、シリンダブロック110と、シリンダブロック110に鋳ぐるまれたシリンダライナ10と、シリンダライナ10の内周側に配置されたピストン120と、ピストン120の外周面に、ピストン周方向に沿って設けられた環状溝に装着された3つのピストンリング130と、を備えている。なお、3つのピストンリング130は、燃焼室140側から順に、トップリング130A、セカンドリング130Bおよびオイルリング130Cの順に配置されている。なお、図7に示す例ではシリンダライナ10の上端側もシリンダブロック110に覆われているが、シリンダライナ10の上端部分近傍あるいは下端部分近傍は、もシリンダブロック110に覆われていなくてもよい。また、内燃機関100は、ディーゼルエンジンでよく採用されているように、シリンダライナ10の外周面が、シリンダブロック110により覆われずに、冷却水と直接接触可能な構造を有していてもよい。

0080

また、図7に示す例では、ピストンリング130として、トップリング130A、セカンドリング130Bおよびオイルリング130Cが用いられているが、少なくともいずれか1種類が用いられていればよい。ピストンリング130の断面形状としては、トップリング130Aが図7に示す例では矩形状の断面形状、インナーベベルリングの断面形状あるいはフルキーストンリングの断面形状のいずれであってもよく、セカンドリング130Bが図7に示す例では矩形状の断面形状、外周面が燃焼室140側に開くテーパ面を有する断面形状あるいは外周面の燃焼室140側から離れる側にアンダーカットを有する断面形状のいずれであっても良い。また、オイルリング130Cとしては、たとえば、組合せ鋼製オイルリング窓付きオイルコントロールリングベベルオイルコントロールリングなどを用いることができ、さらにそれら以外のコイルエキスパンダ付きオイルリングを用いることもできる。

0081

ピストンリング130は、リング状基材のみから構成されていてもよいが、リング状基材と、リング状基材の外周面を被覆すると共にシリンダライナ10の内周摺動面12と接触摺動する硬質被膜とを備えていることが好ましい。この硬質被膜としては、CrN系被膜または非晶質炭素被膜などを例示することができ、非晶質炭素被膜は水素を含まないものでもよい。これらの被膜は、たとえば、スパッタリング法アークイオンプレーティング法などのPVD(Physical Vapor Deposition)法などにより成膜することができる。

0082

なお、CrN系被膜には、必要に応じてCr以外のその他の金属元素がさらに含まれていてもよく、また、非金属元素としては、Nに加えて、その他の非金属元素がさらに1種類以上含まれていてもよい。このようなその他の非金属元素としては、酸素Oあるいは炭素Cが好適である。また、水素を含まない非晶質炭素被膜は、実質的に水素を含まない被膜である。但し、水素を含まない非晶質炭素被膜中に、成膜時に使用するカーボンターゲットに起因する不純物水素や、成膜室内壁に付着した水素を含むガス成分(水分子)などに起因する不純物水素などが不可避的に含まれることは許容される。さらに、水素を含まない非晶質炭素被膜は、アモルファスカーボン構造からなるDLC被膜(a−C層)でもよく、テトラヘドラルカーボン構造からなるDLC被膜(ta−C層)でもよく、両者を交互に積層した多層構造を有していてもよい。水素を含まない非晶質炭素被膜が多層構造を有する場合、その被膜厚さは2μm以上が好ましい。また、リング状基材の外周面と水素を含まない非晶質炭素被膜との間にTi被膜などの接着層を設けてもよい。

0083

これらの硬質被膜の外周摺動面の算術平均粗さRaは0.10μm以下であることが好ましく、0.06μm以下であることがより好ましい。算術平均粗さRaを0.10μm以下とすることにより、シリンダライナ10の内周摺動面12に傷が発生するのを抑制することができる。硬質被膜の外周摺動面の算術平均粗さRaの下限値は特に限定されないが、実用上は0.01μm以上であることが好ましい。なお、ピストンリング130の外周摺動面を所望の表面粗さとするためには、微細砥粒メディアとする外周ラッピング加工またはバフ仕上げを利用することができる。

0084

ピストンリング130の外周摺動面がCrN系被膜で構成される場合、外周摺動面におけるJIS Z 2244:2009に基づく表面硬さは800HV0.1以上が好ましく、ピストンリング130の外周摺動面が水素を含まない非晶質炭素被膜で構成される場合、外周摺動面におけるJIS Z 2244:2009に基づく表面硬さは1200HV0.1以上が好ましい。これら硬質被膜において、表面硬さを上述した値以上とすることにより、ピストンリング130の外周摺動面の摩擦の進行を抑制できる。このため、シリンダライナ10の軸方向Aにおける、シリンダライナ10の内周摺動面12と、ピストンリング130の外周摺動面との接触長さの増大を長期に渡って抑制でき、シリンダライナ10とピストンリング130との間における潤滑油圧力を発生しやすくなるため金属接触を回避し、摩擦係数の増大も抑制できる。なお、表面硬さの上限は特に限定されないが、実用上、CrN系被膜では2000HV0.1以下が好ましく、水素を含まない非晶質炭素被膜では2500HV0.1以下が好ましい。

0085

また、低摩擦係数化の観点からは、本実施形態の内燃機関100では、FC300相当材の組成および硬さを有する片状黒鉛鋳鉄製のシリンダライナ10と、リング状基材の外周面が水素を含まない非晶質炭素被膜により被覆されたピストンリング130とを組み合わせて用いることが好適である。

0086

また、本実施形態の内燃機関100では、耐焼付き性をさらに向上させるために、ピストンリング130と、シリンダライナ10とが接触する際の面圧をより低下させてもよい。面圧はピストンリング130の張力により制御できる。たとえば、内燃機関100がガソリンエンジンである場合、ピストンリング130の1シリンダ当たりの合計張力(接線張力)をFt(単位:N(ニュートン))、シリンダライナ10の内径(ボア径)をD(単位:mm)とするとき、Ft/Dを0.5以下とすることが好ましく、0.4以下とすることより好ましく、0.3以下とすることさらに好ましい。なお、Ft/Dの下限は特に限定されないが、実用上、0.25以上が好ましい。

0087

なお、上記に説明したピストンリング130およびFt/D値は、シリンダライナレス型の内燃機関にも勿論適用できる。

0088

以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。

0089

1.シリンダライナの作製
各実施例および比較例のシリンダライナは以下の手順で作製した。まず、遠心鋳造により鋳鉄製の円筒状部材を作製した。この際、以下の2種類の鋳鉄材(片状黒鉛鋳鉄)LA、LBからなる円筒状部材を作製した。なお、鋳鉄材の種類によらず、遠心鋳造条件は同一とした。

0090

[LA]
組成:質量%でC:3.66%、Si:2.41%、Mn:0.54%、P:0.12%、S:0.0.042%、Cr:0.08%、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成。
硬さ:90HRB。

0091

[LB]
組成:質量%でC:2.87%、Si:2.01%、Mn:0.74%、P:0.24%、S:0.041%、Cr:0.52%、Mo:0.64%、Ni:0.63%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成。
硬さ:115HRB。

0092

遠心鋳造により得られた円筒状部材については、ラフボーリング工程と、ファインボーリング工程とをこの順に実施した。続いてホーニング加工を実施した。

0093

ここで、各実施例および各比較例のシリンダライナの作製に用いた円筒状部材は、ラフホーニング工程と、第一ファインホーニング工程と、第二ファインホーニング工程とを、この順に実施した。各工程の主なホーニング条件は以下の通りである。

0094

なお、第一ファインホーニング工程において、3種類のダイヤモンド砥石を準備した。ここで、完成後の内周摺動面の突出谷部深さRvkが、下記(1)〜(3)のいずれかの水準を満たす実施例あるいは比較例のシリンダライナの作製に際して、各々の水準に、異なる種類のダイヤモンド砥石を割り当てて使用した。
(1)Rvk≦0.5μm
(2)0.5μm<Rvk≦1.2μm
(3)1.2μm<Rvk≦2.0μm

0095

また、第二ファインホーニング工程において4種類のダイヤモンド砥石を準備した。ここで、完成後の内周摺動面のコア部のレベル差Rkが、下記(1)〜(4)のいずれかの水準を満たす実施例あるいは比較例のシリンダライナの作製に際して、各々の水準に、異なる種類のダイヤモンド砥石を割り当てて使用した。
(1)コア部のレベル差Rkが、0.12μm以下である、実施例A1−A10、B1−B10、比較例A3、A4、B3、B4
(2)コア部のレベル差Rkが、0.16μm以上0.20μm以下である、実施例A11−A19、B11−B19
(3)コア部のレベル差Rkが、0.25μm以上0.33μm以下である、実施例A20−A31、B20−B31、比較例A1、A2、B1、B2
(4)コア部のレベル差Rkが、0.4μm以上である、比較例A5、B5

0096

そして、第一ファインホーニング工程および第二ファインホーニング工程のそれぞれにおいて、まず、クロスハッチ角度3°、30°、50°となる主軸回転数、および軸上下速度を設定し、次に、それぞれのクロスハッチ角度において、これらダイヤモンド砥石の拡張圧を第一ファインホーニング工程、第二ファインホーニング工程のそれぞれにおいて適宜選択することで、所望の表面性状(Rk、Rvk、Rpkの値)を得た。第一ファインホーニング工程および第二ファインホーニング工程におけるクロスハッチ角度は同一である。なお、円筒状部材の内周面は、その全面を同一のホーニング条件でホーニング加工した。

0097

また、下記(a)、(b)、(c1)および(c2)に示す工程において、全実施例および比較例における主軸回転数、軸上下速度および研削液(水溶性研削液)は同一条件とした。
(a)ラフホーニング工程(全実施例および比較例)
・砥石:ダイヤモンド砥石Rの1種類(結合剤はメタルボンド)1種類
ダイヤモンド砥石Rの平均粒径Rは125μm
・クロスハッチ角度:3°、30°、50°(完成した内周摺動面のクロスハッチ角度と同一)

0098

(b)第一ファインホーニング工程(全実施例および比較例)
・砥石:ダイヤモンド砥石A1、A2、A3の3種類(結合剤はメタルボンド)
ダイヤモンド砥石A2の平均粒径A2は、ラフホーニング工程で用いたダイヤモンド砥石の平均粒径Rの約1/3とし、ダイヤモンド砥石A1の平均粒径A1は、平均粒径A2より約10μm小さい値とし、ダイヤモンド砥石A3の平均粒径A3は、平均粒径A2より約10μm大きい値とした。また、ダイヤモンド砥石A1、A2、A3のメタルボンドの結合度はラフホーニング工程で用いたダイヤモンド砥石Rのメタルボンドよりも低いものとした。
・クロスハッチ角度:3°、30°、50°(完成した内周摺動面のクロスハッチ角度と同一)

0099

(c1)第二ファインホーニング工程(但し、比較例A5、B5を除く)
・砥石:ダイヤモンド砥石B1、B2、B3の3種類(結合剤はメタルボンド)
ダイヤモンド砥石B2の平均粒径B2は第一ファインホーニング工程で用いたダイヤモンド砥石A2の平均粒径A2の約1/3とし、ダイヤモンド砥石B1の平均粒径B1は、平均粒径B2より約5μm小さい値とし、ダイヤモンド砥石B3の平均粒径B3は、平均粒径B2より約5μm大きい値とした。また、ダイヤモンド砥石B1、B2、B3のメタルボンドの結合度は、第一ファインホーニング工程で用いたダイヤモンド砥石A1、A2、A3のメタルボンドよりも低いものとした。
・クロスハッチ角度:3°、30°、50°(完成した内周摺動面のクロスハッチ角度と同一)

0100

(c2)第二ファインホーニング工程(但し、比較例A5、B5のみ)
・砥石:ダイヤモンド砥石Cの1種類(結合剤はメタルボンド)
ダイヤモンド砥石Cの平均粒径Cは第一ファインホーニング工程で用いたダイヤモンド砥石A2の平均粒径A2の約1/3より約10μm大きい値とした。また、ダイヤモンド砥石Cのメタルボンドの結合度は、第一ファインホーニング工程で用いたダイヤモンド砥石A2のメタルボンドよりも低いものとした。
・クロスハッチ角度:3°、30°、50°(完成した内周摺動面のクロスハッチ角度と同一)

0101

なお、各実施例および比較例のサンプルについては、Rk、Rvk、Rpkの値が同一であり、クロスハッチ角度のみが互いに異なる3種類のシリンダライナを1組として準備した。Rk、Rvk、Rpkの値が同一であり、クロスハッチ角度のみが互いに異なる3種類のシリンダライナは、クロスハッチ角度を決定するホーニング条件を互いに異なるものとし、砥石拡張圧を調整した以外は同一のホーニング条件にてホーニング加工されたものである。

0102

以下の説明においては、クロスハッチ角度が互いに異なっていても、Rk、Rvk、Rpkの値が同一のサンプルについては、便宜上、1つの試験例番号(たとえば、「実施例A1」など)を付与することとする。また、1つの試験例番号のサンプルについてクロスハッチ角度の異なるサンプルを区別して説明する場合は、試験例番号の後にクロスハッチ角度を意味する表記など)を付与することとする。たとえば、実施例A1について、クロスハッチ角度が3度のサンプルであれば「実施例A1(CHA3)」と表記する。

0103

以上に説明した手順により実施例A1〜A31および比較例A1〜A5のシリンダライナおよび実施例B1〜B31および比較例B1〜B5のシリンダライナを得た。なお、これら各実施例および比較例のシリンダライナの内径寸法は86mm、軸方向の長さは86mmであり、内周摺動面を構成する材料も鋳鉄からなる。各実施例および比較例のシリンダライナについては、後述する各種測定および試験のために、必要に応じて適切な形状及びサイズを有する試験片に加工した。

0104

なお、実施例A1〜A31のシリンダライナの各々と、実施例B1〜B31のシリンダライナの各々とは、鋳造に用いた鋳鉄材の種類が異なるだけで、表面性状は同一である。同様に、比較例A1〜A5のシリンダライナの各々と、比較例B1〜B5のシリンダライナの各々とは、鋳造に用いた鋳鉄材の種類が異なるだけで、表面性状は同一である。

0105

2.表面粗さ(Rk、Rvk、Rpk、Ra、Rz)の測定
表面粗さ(Rk、Rvk、Rpk、Ra、Rz)の測定には、株式会社小坂研究所の触針式表面粗さ測定器サーフコーダSE−3500)を用い、検出器探針)はPU−DJ2S(先端球半径は2μm、円錐テーパ角度は60度)を用いた。Ra、Rzを測定する際の基準長さl(lはLの小文字)は0.8mm、Rk、Rvk、Rpkを測定する際の評価長さln(lはLの小文字)は4.0mmである。なお、表面粗さの測定に際して、探針はシリンダライナの軸方向に沿って走査させた。

0106

ここで、各実施例および比較例のシリンダライナの内周摺動面の表面粗さを測定する場合の測定位置は、シリンダライナの周方向の任意の位置を0度とした際に、以下の(a)および(b)に示す合計4箇所とした。そしてこれら4箇所での測定位置における表面粗さの平均値を求め、この平均値を表1〜表4に示す各実施例および比較例のシリンダライナの内周摺動面の表面粗さとした。
(a)軸方向に対してシリンダライナの一端側から15mm離れた位置において、0度および180度の位置。
(b)シリンダライナの軸方向の中央部の位置において、90度および270度の位置。

0107

なお、Rk、Rvk、Rpkについては、1つの試験例について、クロスハッチ角度の異なるサンプル毎に上記(a)および(b)に示す合計4箇所を測定した平均値でありクロスハッチ角度の異なるサンプル間でRk、Rvk、Rpkの平均値が一致していることを確認している。詳細は後述するが、1つの試験例における一種類のクロスハッチ角度の摩擦係数の測定(摩擦係数A,摩擦係数B)と耐焼付き性の評価とには、一つのシリンダライナから切り出した9つの試験片を、各々の測定・評価に対してそれぞれ3つずつ用いた。

0108

なお、参考までに、図8(A)に実施例A1(CHA30)のシリンダライナの内周摺動面の粗さ曲線のプロファイルの一例を示し、図8(b)に実施例A14(CHA30)のシリンダライナの内周摺動面の粗さ曲線のプロファイルの一例を示し、図8(C)に実施例A18(CHA30)のシリンダライナの内周摺動面の粗さ曲線のプロファイルの一例を示す。なお、図8に示す粗さ曲線の縦横の倍率は、図8(A)が縦10,000倍、横50倍であり、図8(B)および(C)が縦5,000倍、横50倍である。また、横軸目盛りおよび縦軸目盛りの単位はmmである。

0109

また、往復動摩擦摩耗試験機による摩擦係数の測定に用いた上試験片作製用のピストンリングの外周摺動面の表面粗さを測定する場合の測定位置は、ピストンリングの合口部を0度とした際に、90度、180度および270度の合計3カ所とした。そしてこれら3箇所での測定位置における表面粗さの平均値、を求め、この平均値をピストンリングの外周摺動面の表面粗さとした。

0110

一方、往復動摩擦摩耗試験機による耐焼付き性の測定に用いた先端部が半球状の上試験片の表面粗さの測定位置および表面粗さについては、硬質クロムめっきで被覆された上試験片の先端部近傍について、周方向の任意の位置を0度とした際に、0度から180度に向かい先端部頂点を通る方向と、90度から270度に向かい先端部頂点を通る方向の合計2箇所とし、それらの平均値を用いた。

0111

3.摩擦係数の測定
各実施例および比較例のシリンダライナの内周摺動面と、ピストンリングの外周摺動面とを接触摺動させた際の摩擦係数を、図9に示す往復動摩擦摩耗試験機を用いて測定した。ここで、図9に示す往復動摩擦試験機200は、上試験片210を、スプリング荷重により荷重Pを加えてプレート状の下試験片220に押し付け、下試験片220が往復動することにより両者が摺動するよう構成されている。また、下試験片220は、保持台230の上面に固定されている。摩擦係数の測定に用いた上試験片210および下試験片220は以下の手順で準備した。

0112

<上試験片の作製>
上試験片210の作製に用いたピストンリングは、リング状基材とリング状基材の外周面を被覆する硬質被膜とを備えたものであり、ピストンリング呼び径が72.5mm、幅(ピストンに装着した際のピストンが往復動する方向の長さ)が1.2mm、外周摺動面の外周形状がバレルフェース、リング状基材を構成する材料がJIS SUS440B相当材である。上試験片210は、周方向に沿って20mmの長さで切り出した部材を用いた。ここで、各実施例および比較例において、3種類のクロスハッチ角度毎に、摩擦係数の測定用として同一のピストンリングから切り出した3つの上試験片210を準備した。

0113

また、ピストンリングの硬質被膜(上試験片210の摺動面を構成する被膜に対応)は、以下の2種類の硬質被膜RA、RBを用いた。従って、摩擦係数の測定に際しては、硬質被膜RAを用いた上試験片210および硬質被膜RBを用いた上試験片210の2種類を用いた。

0114

[RA]
硬質被膜RAは、CrN被膜である。試験に用いたピストンリング72個について、硬質被膜RAの表面硬さは800HV0.1〜850HV0.1であり、外周摺動面の算術平均粗さRaは0.04μm〜0.06μmであり、被膜厚さは17μm〜20μmである。被膜RAは、PVD法の一種であるアークイオンプレーティング手法により、アークイオンプレーティング装置によりCrターゲットを用いて、リング状基材の外周面に成膜した。なお、成膜時のプロセスガスとしては、N2ガスのみを用いた。試験に用いたピストンリング72個の硬質被膜RAは同一処理である。

0115

[RB]
硬質被膜RBは、水素を含有しない非晶質炭素被膜である。試験に用いたピストンリング70個について、硬質被膜RBの表面硬さは1200HV0.1〜1250HV0.1であり、外周摺動面の算術平均の粗さRaは0.03μm〜0.06μmであり、接着層を除く硬質被膜RB自体の被膜厚さは5〜6μmである。被膜RBは以下の手順でリング状基材の外周面に成膜した。まず、PVD法により、接着層としてTi被膜を成膜した。次に、Cターゲットを用いて、Ti被膜の上にアモルファスカーボン構造からなるDLC被膜(a−C層)を、アルゴンイオン雰囲気下にてスパッタリングで成膜し、さらにa−C層の上にテトラヘドラルカーボン構造からなるDLC被膜(ta−C層)を、フィルタードアーイオンプレーティング法により成膜した。これら2層を交互に繰り返し積層し、最表面はテトラヘドラルカーボン構造からなるDLC被膜(ta−C層)とした。試験に用いたピストンリング70個の硬質被膜RBは同一処理である。

0116

<下試験片の作製>
2種類の鋳鉄材LA、LBのそれぞれについて、各実施例および比較例において、表面粗さRk、Rvk、Rpkの値が同一であり、クロスハッチ角度のみが互いに異なる3種類のシリンダライナを1組として準備した。次に、シリンダライナの内周摺動面を基準として、一つのシリンダライナから周方向に沿って20mmの長さ、軸方向に沿って60mmの長さで9つ切り出した部材のうち6つを、摩擦係数測定用の下試験片220とした。6つの下試験片220のうち最初の3つは、硬質被膜RAを備えた3つの上試験片210と組み合わせて摩擦係数を評価し、残りの3つは、硬質被膜RBを備えた3つの上試験片210と組み合わせて摩擦係数を評価した。また、摩擦係数の測定に用いなかった残り3つの下試験片220は、後述する耐焼付き性の評価に用いた。

0117

摺動条件
摩擦係数は、摺動時において上試験片210の摩擦力をロードセルにより検出することで測定した。摺動条件の詳細は以下の通りである。
・一往復の距離:100mm(摺動方向は、実際の内燃機関と同様にシリンダライナの軸方向とした)
・速度:300cycle/min(平均摺動速度:0.5m/s)
・荷重P:30N
・使用した潤滑油:GF−5、0W−20(等級ILSAC規格、粘度分類:SAEJ300)
・潤滑油の供給方法:5分毎に0.025mlの潤滑油を下試験片220の摺動面に滴下して供給
・下試験片220の温度:室温

0118

なお、使用した潤滑油は市場で普及している低燃費タイプの潤滑油である。また、上述した潤滑油の供給条件は、上試験片210と下試験片220との摩擦状態が流体潤滑状態となるように設定したものである。この試験は、同一種類の上試験片210および下試験片220の組み合わせについて3回実施し、各回の測定で得られた摩擦係数の平均値を、各実施例および比較例のシリンダライナの摩擦係数として求めた。

0119

4.耐焼付き性の評価
各実施例および比較例のシリンダライナの内周摺動面と、ピストンリングの外周摺動面とを接触摺動させた際の耐焼付き性を、図9に示す往復動摩擦摩耗試験機を用いて測定した。耐焼付き性の評価に用いた上試験片210および下試験片220は以下の手順で準備した。

0120

<上試験片の作製>
上試験片210は、JISSK5相当の材料からなる直径8mmのピンの先端部に、硬質クロムめっきが施された部材を用いた。この上試験片210の先端部は、先端部の曲率半径が18mmRの半球状である。各実施例および比較例において、クロスハッチ角度のことなるシリンダライナ毎に、上試験片210を3つずつ準備した。なお、上試験片210の摺動面を構成する硬質被膜は以下の硬質被膜RCを用いた。

0121

[RC]
硬質被膜RCは、硬質クロムめっき被膜(JIS H8615:1999工業用クロムめっき)である。試験に用いた72個の上試験片210について、硬質被膜RCの表面硬さは800HV0.1〜840HV0.1であり、硬質被膜RCの表面はバフ研磨鏡面仕上げされたものであり、めっき厚さが50μm〜54μmである。なお、被膜RCは、電気めっきを用いて成膜した。72個の上試験片210の被膜RCは同一処理である。

0122

<下試験片の作製>
摩擦係数の測定に際して作製した下試験片220のうち、摩擦係数の測定に使用しなかった残余の下試験片220を用いた。

0123

<摺動条件>
耐焼付き性は、摺動時において上試験片210の摩擦力をロードセルにより検出し、この際の摩擦力が0.75N(摩擦係数が0.3に相当する摩擦力)に到達するまでの時間として評価した。摺動条件の詳細は以下の通りである。
・一往復の距離:100mm(摺動方向は、実際の内燃機関と同様にシリンダライナの軸方向とした)
・速度:200cycle/min(平均摺動速度:0.3m/s)
・荷重P:2.5N
・使用した潤滑油:軸受油
・潤滑油の供給方法:試験開始前に下試験片220の摺動面に潤滑油を塗布した後に拭き取り、拭き取り後に摺動面に付着している潤滑油を試験に用いた。
・最大試験時間:45分(但し、45分に到達する前に摩擦力が0.75Nに達した場合はその時点で試験を終了した)
・下試験片220の温度:室温

0124

なお、使用した潤滑油(軸受油)は、一般的なエンジン用の潤滑油よりも粘度が低いものである。また、上述した潤滑油の供給条件は、上試験片210と下試験片220との摩擦状態が境界潤滑状態となるように設定したものである。この試験は、同一種類の上試験片210および下試験片220の組み合わせについて3回実施した。ここで、3回の試験のいずれにおいても、最大試験時間である45分時点において摩擦力が0.75N未満であれば「スカッフなし」と判定した。また、3回の試験の少なくともいずれか1回において、最大試験時間である45分に到達する前に摩擦力が0.75Nに達した場合には、各回の試験終了時間の平均値を耐焼付き性の評価結果とした。この場合、比較例A5のクロスハッチ角度50度における耐焼付き性の評価結果を基準値(100)として、相対値(スカッフ時間比)として評価した。

0125

耐焼付き性の評価結果は、クロスハッチ角度が3度、30度および50度のいずれにおいても、スカッフ時間比が85以上であることが好ましい。

0126

5.摩擦係数および耐焼付き性の評価結果
表1〜表4に各実施例および比較例のシリンダライナの材質、表面粗さ(Rk、Rvk、Rpk、Ra、Rz)および特性値(Rk+Rpk、Rvk/Rk、Rk−Rpk)を示す。なお、表1〜表4中、Ra(CHA3)は、クロスハッチ角度3度の1つのサンプルについて4箇所測定した算術平均粗さRaの平均値を意味し、Ra(CHA30)は、クロスハッチ角度30度の1つのサンプルについて4箇所測定した算術平均粗さRaの平均値を意味し、Ra(CHA50)は、クロスハッチ角度50度の1つのサンプルについて4箇所測定した算術平均粗さRaの平均値を意味し、Rz(CHA30)は、クロスハッチ角度30度の1つのサンプルについて4箇所測定した最大高さ粗さRzの平均値を意味する。表面粗さのパラメータRk、Rvk、Rpkが同一であっても、クロスハッチ角度が変化すれば、算術平均粗さRa、最大高さ粗さRzが変化する。

0127

また、表5〜表8に各実施例および比較例のシリンダライナの摩擦係数の測定結果および評価結果を示し、表9〜表12に各実施例および比較例のシリンダライナの耐焼付き性の測定結果および評価結果を示す。ここで、表5〜表8中に示す「摩擦係数評価」および表9〜表12中に示す「耐焼付き性評価」の欄に示す評価結果の評価基準は以下の通りである。なお、「摩擦係数A評価」は、上試験片210の被膜がRAである場合、「摩擦係数B評価」は、上試験片210の被膜がRBである場合を意味する。

0128

さらに、参考までに、表13に、シリンダライナ材料の種類のみが異なる実施例A13(CHA30)の摩擦係数A(上試験被膜RA)および摩擦係数B(上試験被膜RB)の評価結果と、実施例B13(CHA30)の摩擦係数A(上試験被膜RA)および摩擦係数B(上試験被膜RB)の評価結果と、をシリンダライナ材料の種類および上試験被膜の種類に関して整理した結果を示す。

0129

−「摩擦係数評価」の評価基準−
A:クロスハッチ角度50度において、摩擦係数が0.09以下。
B:クロスハッチ角度50度において、摩擦係数が0.09を超え0.10以下。
C:クロスハッチ角度50度において、摩擦係数が0.10を超え0.11以下。
D:クロスハッチ角度50度において、摩擦係数が0.11を超える。

0130

−「耐焼付き性評価」の評価基準−
A:クロスハッチ角度が3度、30度および50度での耐焼付き性の評価において、全ての評価結果が「スカッフなし」。
B:クロスハッチ角度3度、30度および50度での耐焼付き性の評価において、最も悪い評価結果が、スカッフ時間比で90以上である。
C:クロスハッチ角度3度、30度および50度での耐焼付き性の評価において、最も悪い評価結果が、スカッフ時間比で85以上である。
D:クロスハッチ角度3度、30度および50度での耐焼付き性の評価において、最も悪い評価結果が、スカッフ時間比で85未満である。

0131

0132

0133

0134

0135

0136

0137

0138

0139

0140

0141

0142

実施例

0143

0144

10、10A、10B:シリンダライナ
12 :内周摺動面
14 :片状黒鉛
20、20A、20B:加工痕
22 :第一の平行直線群
24 :第二の平行直線群
100 :内燃機関
110 :シリンダブロック
120 :ピストン
130 :ピストンリング
130A :トップリング
130B :セカンドリング
130C :オイルリング
140 :燃焼室
200 :往復動摩擦試験機
210 :上試験片
220 :下試験片
230 :保持台

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