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図面 (9)

課題

肥厚性瘢痕の形成を抑制するための組成物を提供すること。

解決手段

Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩を少なくとも1種含む、肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物

概要

背景

皮膚等の創傷(具体的には、切傷、擦過傷火傷等の急性創傷及び褥瘡等の慢性創傷)の治癒過程は、一般的に、凝固止血期、炎症期、増殖期組織再構築期、成熟期の5つのステップ分類される。増殖期には、創傷部位線維芽細胞及び毛細血管が侵潤し、線維芽細胞の増殖及び膠原繊維の生成が促進される。その結果、増殖期では、創傷部位に肉芽組織が形成される。

増殖期において形成された肉芽組織は、その後の組織再構築期及び成熟期においてやがて退縮し、最終的に治癒組織に置き換わる。しかし、増殖期において肉芽組織が過剰に形成される等、創傷の治癒過程に異常をきたした場合には、肥厚性瘢痕ケロイドを含む)を形成することが知られている。

概要

肥厚性瘢痕の形成を抑制するための組成物を提供すること。Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩を少なくとも1種含む、肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。なし

目的

本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、肥厚性瘢痕の形成を抑制するための組成物を提供する

効果

実績

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請求項1

Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩を少なくとも1種含む、肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物

請求項2

メカニカルストレスの影響を受けやすい部位における肥厚性瘢痕の形成を抑制するために用いられる、請求項1に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。

請求項3

前記メカニカルストレスの影響を受けやすい部位は、腹部胸部上腕部、顔部及び軟部組織からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項2に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。

請求項4

前記ポリペプチドは、2〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを含む、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。

請求項5

前記ポリペプチドは、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるアミノ酸配列からなるジペプチドを含む、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。

請求項6

前記ポリペプチドは、天然コラーゲン由来のポリペプチド、リコンビナントポリペプチド又は合成されたポリペプチドである、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。

請求項7

経口投与剤サプリメント食品又は飲料である、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。

請求項8

経皮投与剤局所投与剤静脈投与剤又は化粧品である、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。

技術分野

0001

本発明は、肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物に関する。

背景技術

0002

皮膚等の創傷(具体的には、切傷、擦過傷火傷等の急性創傷及び褥瘡等の慢性創傷)の治癒過程は、一般的に、凝固止血期、炎症期、増殖期組織再構築期、成熟期の5つのステップ分類される。増殖期には、創傷部位線維芽細胞及び毛細血管が侵潤し、線維芽細胞の増殖及び膠原繊維の生成が促進される。その結果、増殖期では、創傷部位に肉芽組織が形成される。

0003

増殖期において形成された肉芽組織は、その後の組織再構築期及び成熟期においてやがて退縮し、最終的に治癒組織に置き換わる。しかし、増殖期において肉芽組織が過剰に形成される等、創傷の治癒過程に異常をきたした場合には、肥厚性瘢痕(ケロイドを含む)を形成することが知られている。

先行技術

0004

小川 令ら、「創傷治癒における物理的刺激役割とその分子メカニズムメカバイオロジーとメカノセラピー−」、創傷、5(3):102−107、2014

発明が解決しようとする課題

0005

皮膚の美観の観点又は生活の質(QOL)の観点から肥厚性瘢痕の形成を抑制する方法が検討されている。しかしながら、上述の肉芽組織の形成は、そのメカニズムがまだ十分に理解されていない。従来の技術では、肥厚性瘢痕の形成を抑制する方法としては、創傷部位の安静、固定及び圧迫等、物理的な処置を行う方法が知られているに留まっている(例えば、創傷、5(3):102−107、2014(非特許文献1))。そのため、肥厚性瘢痕の形成を抑制するための組成物等の開発が望まれている。

0006

本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、肥厚性瘢痕の形成を抑制するための組成物を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0007

本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、特定の配列を有するポリペプチドが、肥厚性瘢痕の形成を有効に抑制することを見いだし、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。

0008

[1]Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩を少なくとも1種含む、肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。
[2]メカニカルストレスの影響を受けやすい部位における肥厚性瘢痕の形成を抑制するために用いられる、[1]に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。
[3]上記メカニカルストレスの影響を受けやすい部位は、腹部胸部上腕部、顔部及び軟部組織からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、[2]に記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。
[4]上記ポリペプチドは、2〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。
[5]上記ポリペプチドは、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるアミノ酸配列からなるジペプチドを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。
[6]上記ポリペプチドは、天然コラーゲン由来のポリペプチド、リコンビナントポリペプチド又は合成されたポリペプチドである、[1]〜[5]のいずれかに記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。
[7]経口投与剤サプリメント食品又は飲料である、[1]〜[6]のいずれかに記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。
[8]経皮投与剤局所投与剤静脈投与剤又は化粧品である、[1]〜[6]のいずれかに記載の肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物。

0009

[9]Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩の少なくとも1種の有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、肥厚性瘢痕の形成を抑制する方法。
[10]肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物を製造するための、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩の少なくとも1種の使用。
[11]肥厚性瘢痕の形成を抑制するための、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩の少なくとも1種。

発明の効果

0010

本発明によれば、肥厚性瘢痕の形成を抑制するための組成物を提供することが可能になる。

図面の簡単な説明

0011

図1は、実施例において用いた腹壁切創モデルマウスを示す写真である。
図2は、創傷部位の組織変化を示す写真である。
図3は、Pro−Hypのジペプチドを腹腔内投与又は経口投与した後のマウスにおける当該ジペプチドの血液内濃度の経時変化を示すグラフである。
図4は、マウスへの投与日程を示す模式図である。
図5は、創傷部位の組織変化を示す写真である。
図6は、肉芽組織におけるコラーゲン分布を示す写真である。
図7は、腹壁切創モデルのマウスにおける創傷部位の治癒後の腹部を示す写真である。
図8は、腹壁切創モデルのマウスにおける腹壁側から見た創傷部位の経時変化を示す写真である。
図9は、肉芽組織におけるコラーゲンの分布を示す写真である。

0012

以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここで、本明細書において「A〜B」という形式表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
また、「Pro」、「Hyp」及び「Gly」は、それぞれプロリン4−ヒドロキシプロリン及びグリシンを意味する。

0013

≪肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物≫
本実施形態に係る肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(以下、単に「ポリペプチド」という場合がある。)、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩を少なくとも1種含む。
上記ポリペプチドは、そのアミノ酸配列中にPro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を含む。そのため、例えば上記ポリペプチドを、経皮投与又は経口投与すると、体内で分解され、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるアミノ酸配列からなるジペプチドが生成される。そして、生成された当該ジペプチドが血中から創傷部位に到達することによって、肥厚性瘢痕の形成を抑制できると本発明者らは考えている。

0014

本実施形態において「肥厚性瘢痕」とは、外傷後に、傷口(以下、「創傷部位」と表記する場合がある。)を修復しようとしてできた線維組織が過剰に産生されることによって形成された隆起状傷跡を意味する。肥厚性瘢痕のうち正常な皮膚にも広がっていく瘢痕のことを特に「ケロイド」と呼ぶ。

0015

本実施形態において「肥厚性瘢痕の形成抑制」、「肥厚性瘢痕の形成を抑制する」とは、創傷治癒過程の増殖期における肉芽組織の過剰な増殖又は膠原繊維の過剰な生成を抑制すること、創傷治癒過程の組織再構築期及び成熟期における肉芽組織の退縮を促進すること等によって、肥厚性瘢痕の形成が抑制されることを意味する。ここで、「創傷」とは、例えば、切傷、擦過傷、火傷等の急性創傷又は褥瘡等の慢性創傷等を意味する。

0016

本実施形態において「ポリペプチド」とは、2以上のアミノ酸ペプチド結合することによって形成される鎖状分子を意味する。本実施形態では、2〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるポリペプチドを「オリゴペプチド」と呼ぶ。なかでも、2つのアミノ酸がペプチド結合することによって形成されるオリゴペプチドを「ジペプチド」と呼ぶ。3つのアミノ酸がペプチド結合することによって形成されるオリゴペプチドを「トリペプチド」と呼ぶ。

0017

上記ポリペプチドは、そのアミノ酸配列中にPro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有する。上記ポリペプチドは、そのアミノ酸配列中にPro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を1〜500個有してもよいし、1〜10個有していてもよい。

0018

本実施形態において、上記ポリペプチドは、2〜20アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを含むことが好ましく、2〜15アミノ酸残基のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドを含むことがより好ましい。オリゴペプチドとすることによって、例えば経皮投与又は経口投与した場合、体内における分解及び体内への吸収が促進され、効率よく創傷部位にPro−Hyp又はHyp−Glyで示されるアミノ酸配列からなるジペプチドを供給することが可能になる。上記オリゴペプチドとしては、例えば、以下のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドが挙げられる。
Gly−Pro−Hyp−Gly−Pro−Hyp−Gly−Ala−Ser−Gly−Pro−Gln (配列番号1)

0019

本実施形態の他の側面では、上記ポリペプチドは、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるアミノ酸配列からなるジペプチドを含むことが好ましく、Pro−Hypで示されるアミノ酸配列からなるジペプチドを含むことがより好ましい。ジペプチドとすることによって、経皮投与、経口投与等に加えて、局所投与であっても効率よく創傷部位に当該ジペプチドを供給することが可能になる。

0020

また、上記ポリペプチドは、入手方法、製造方法は特に制限されないが、例えば、天然のコラーゲン由来のポリペプチド、リコンビナントポリペプチド又は合成されたポリペプチドであってもよい。

0021

「天然のコラーゲン」としては、例えば、等の哺乳動物鳥類などに由来するコラーゲン、サメ、鯛、ティラピア等の魚類に由来するコラーゲン等が挙げられる。これらは、上記哺乳動物や鳥類の骨、皮、などの部分、上記魚類の骨、皮、部分等の結合組織から得ることができる。具体的には、上記骨、皮、鱗等に脱脂処理脱灰処理、又は抽出処理等の従来公知の処理を施せばよい。

0022

「天然のコラーゲン由来のポリペプチド」としては、例えば、天然のコラーゲンを酵素処理等によって加水分解することで得られるポリペプチドが挙げられる。上記酵素処理に用いる酵素としては、例えば、コラゲナーゼチオールプロテアーゼセリンプロテアーゼ酸性プロテアーゼアルカリ性プロテアーゼメタロプロテアーゼ等が挙げられる。上述の酵素は、これらを単独で、又は複数組み合わせて用いることができる。上記チオールプロテアーゼとしては、植物由来キモパパインパパインブロメラインフィシン動物由来カテプシンカルシウム依存性プロテアーゼ等が挙げられる。また、上記セリンプロテアーゼとしては、トリプシンカテプシンD等が挙げられる。上記酸性プロテアーゼとしては、ペプシンキモトリプシン等が挙げられる。なお、使用する酵素としては、得られたポリペプチドを医薬又は特定保健用食品等に利用することを考慮すると、病原性微生物由来の酵素以外の酵素(例えば、非病原性微生物に由来する酵素)を用いることが好ましい。上記酵素の由来となる非病原性の微生物としては、Bacillus Iicheniforms、Bacillus subtillis、Aspergillus oryzae、Streptomyces、Bacillus amyloliquefaciens等が挙げられる。上記酵素は、1種の上記非病原性の微生物に由来する酵素を用いてもよいし、複数種の上記非病原性の微生物に由来する酵素を組み合わせて用いてもよい。酵素処理の具体的な方法は、従来から知られている方法を用いればよい。
また、非リボソーム型ペプチド合成酵素等を用いてペプチドを合成してもよい。

0023

「リコンビナントポリペプチド」とは、大腸菌酵母培養細胞等を宿主として、遺伝子組換え技術を用いて人工的に作製したポリペプチドを意味する。リコンビナントポリペプチドの製造方法としては、従来から知られている方法を用いればよい。具体的には、例えば以下の方法が挙げられる。まず、目的のポリペプチドをコードする塩基配列を有するベクター及びアミノ酸のヒドロキシル化を行う酵素(例えば、L−プロリンcis−4−水酸化酵素)をコードする塩基配列を有するベクターを宿主である大腸菌に導入し、形質転換を行う。形質転換した大腸菌を所定の培地で培養することによって、当該大腸菌に目的のポリペプチドを合成させる。
また、以下のような方法も可能である。まず、遺伝子組換え技術を用いてペプチド結合形成酵素を有する大腸菌を作製し、当該酵素を当該大腸菌に合成させた後に単離する。単離された上記酵素とアミノ酸とを反応させることによって、目的とするアミノ酸配列を有するポリペプチドを合成する。アミノ酸のヒドロキシル化においては、従来技術である、L−プロリンcis−4−水酸化酵素を用いた方法を採用してもよい。

0024

「合成されたポリペプチド」とは、原料であるアミノ酸を逐次結合させていくことによって生成されるポリペプチドを意味する。アミノ酸からの合成方法としては、例えば、固相合成法液相合成法が挙げられる。固相合成法としては、例えば、Fmoc法、Boc法等が挙げられる。本実施形態に係るポリペプチドは、いずれの方法で合成してもよい。

0025

例えば、上記ポリペプチドは、プロリンを担体ポリスチレンに固定し、アミノ基の保護としてfluorenyl−methoxy−carbonyl基(Fmoc基)又はtert−Butyl Oxy Carbonyl基(Boc基)を使用する公知の固相合成法により合成することができる。すなわち、表面をアミノ基で修飾した直径0.1mm程度のポリスチレン高分子ゲルビーズを固相として用い、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミドDIC)を用いた脱水反応によってFmoc基でアミノ基を保護したプロリンにヒドロキシプロリンを結合(ペプチド結合)させる。その後、上記固相を溶媒でよく洗い、残ったヒドロキシプロリン等を除去する。この後、固相に結合しているプロリンの保護基を除去(脱保護)することにより、Pro−Hypの配列を含むジペプチドを合成することができる。続いて、同様の方法で、このジペプチドのヒドロキシプロリン残基におけるアミノ基にグリシンを結合(ペプチド結合)させることで、Pro−Hyp−Glyの配列を含むトリペプチドを得ることができる。このようにして、アミノ酸を順次結合していくことで、目的のポリペプチドを合成することができる。

0026

本実施形態においてポリペプチドの「化学修飾体」とは、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸残基におけるアミノ基、カルボキシル基又はヒドロキシ基化学修飾されたポリペプチドを意味する。化学修飾を受けたポリペプチドは、水に対する溶解性等電点等を変化させることができる。具体的には、ヒドロキシプロリン残基のヒドロキシ基については、O−アセチル化等の化学修飾が挙げられる。グリシン残基のα−カルボキシル基については、エステル化アミド化等の化学修飾が挙げられる。プロリン残基のα−アミノ基については、ポリペプチジル化、スクシニル化マレイル化、アセチル化、脱アミノ化ベンゾイル化アルキルスルホニル化、アリルスルホニル化、ジニトロフェニル化、トリニトロフェニル化、カルバミル化、フェニルカルバミル化、チオール化等の化学修飾が挙げられる。また、エチレンジアミン化、スペルミン化等を行うことで、特定のペプチドを塩基性にすることもできる。

0027

ポリペプチドの化学修飾の具体的手段及び処理条件は、通常のポリペプチドの化学修飾技術が適用される。ヒドロキシプロリン残基のヒドロキシ基の化学修飾について、例えば、O−アセチル化は水溶媒中又は非水溶媒中無水酢酸を作用させること等により、行うことができる。グリシン残基のα−カルボキシル基の化学修飾について、例えば、エステル化はメタノールへの懸濁後に乾燥塩化水素ガス通気すること等により行うことができる。グリシン残基のα−カルボキシル基の化学修飾について、アミド化はカルボジイミド等を作用させることにより行うことができる。

0028

本実施形態においてポリペプチドの「薬学上許容される塩」とは、薬学上許容され、元となるポリペプチドの所望の薬理活性(肥厚性瘢痕の形成抑制性)を有する塩を意味する。薬学上許容される塩としては、例えば、塩酸塩硫酸塩、リン酸塩及び臭化水素酸塩等の無機酸塩酢酸塩メタンスルホン酸塩ベンゼンスルホン酸塩p−トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩シュウ酸塩フマル酸塩及びマレイン酸塩等の有機酸塩ナトリウム塩カリウム塩及びカルシウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩等の有機塩基塩等が挙げられる。常法に従って、特定のペプチドを薬学上許容される塩にすることができる。

0029

本実施形態における肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、上記ポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩を少なくとも1種含む。すなわち、上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、単一の上記ポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩と、当該組成物を構成する他の成分(例えば、後述する賦形剤結合剤溶剤等)とを含んでいてもよい。また、上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、上記ポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩の複数種を含んでいてもよい。なお、上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物が上記ポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩の複数種を含むとき、上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は上述の他の成分を更に含んでいてもよい。

0030

例えば、上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、第1のポリペプチドと、第2のポリペプチドの化学修飾体とを含んでいてもよい。上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、第1のポリペプチドと、第2のポリペプチドの化学修飾体と、第3のポリペプチドの薬学上許容される塩とを含んでいてもよい。また、上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、複数種のポリペプチドを含むポリペプチド混合物であってもよい。上記ポリペプチド混合物であって、コラーゲンを加水分解することによって得られるポリペプチド混合物を「コラーゲンの加水分解物」と呼ぶことがある。

0031

上記ポリペプチド混合物は、市販されているものを用いてもよい。市販品としては、例えば、新田ゼラチン株式会社製のイクオスHDL−50SP(商品名)、SCP−5200(商品名)、コラペプJB(商品名)及びイクオスHDL−12SP(商品名)、TYPE−S(商品名)、コラペプPU(商品名)等が挙げられるがこの限りではない。

0032

上記ポリペプチド混合物は、その重量平均分子量が130〜7000であることが好ましく、150〜6500であることがより好ましい。上記重量平均分子量は、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーによって求めることが可能である。
具体的には、以下の条件にてゲル濾過クロマトグラフィーによる測定を行い、重量平均分子量を求めることが可能である。
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸含有45%アセトニトリル(55%水)
固定相:TSK−Gel−2000SWXLカラム(TOSOH製)
流速:1.0ml/min、
カラム温度:40℃、
分析時間 :15分、
インジェクション量:10μl、
検出波長:214nm

0033

上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、メカニカルストレスの影響を受けやすい部位における肥厚性瘢痕の形成を抑制するために用いられることが好ましい。ここで「メカニカルストレス」とは、皮膚、軟部組織等において自然の状態で生じている物理的な力を意味する。当該物理的な力としては、例えば、圧力、張力せん断応力静水圧浸透圧等が挙げられる。ここで、「軟部組織」とは、骨格以外の支持組織を意味し、例えば、腱、靭帯筋膜脂肪組織、血管、筋肉等(例えば、横紋筋平滑筋)が挙げられる。

0034

上述のメカニカルストレスの影響を受けやすい部位としては、皮膚又は軟部組織において伸縮が起きやすい部位であることが好ましい。
本実施形態において、メカニカルストレスの影響を受けやすい部位は、腹部、胸部、上腕部、顔部及び軟部組織からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。

0035

ここで、メカニカルストレスの影響を受けやすい部位における創傷治癒の過程について腹部の創傷を例に説明する。腹部には張力等のメカニカルストレスがかかっているため、腹部に創傷が形成されると、張力によって創傷部位が広がる。張力等のメカニカルストレスの影響によって広がった創傷部位を治癒するには、(1)肉芽組織によって創傷部位を埋めること及び(2)メカニカルストレスの影響によって広がった創傷部位を当該メカニカルストレスに抗して収縮させることが重要になる。このような場合、通常はまず肉芽組織が増殖し創傷部位を被覆する。次に、創傷部位の収縮及びそれに伴い肉芽組織の退縮が起こり、最終的に創傷が治癒する。このとき、肉芽組織の増殖が過剰になると、組織再構築期及び成熟期における肉芽組織の退縮が十分に起こらず肥厚性瘢痕を形成することになる。

0036

従来、肥厚性瘢痕の形成を抑制する方法としては、創傷部位の安静、固定及び圧迫等、物理的な処置を行う方法が知られているだけであった。しかし、本実施形態に係る肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物を用いると、有効成分である上記ジペプチド等がメカニカルストレスの影響によって広がった創傷部位の収縮をまず促進する。その結果、創傷部位を被覆する肉芽組織の量が少なくてすむため、肉芽組織の増殖が結果的に抑制される。最終的に、組織再構築期及び成熟期において肉芽組織の退縮が十分に起こり肥厚性瘢痕の形成が抑制される、と本発明者らは考えている。

0037

上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、経口投与剤、サプリメント、食品又は飲料であってもよい。

0038

経口投与剤の剤形としては、例えば、錠剤顆粒剤カプセル剤散剤粉剤液剤が挙げられる。

0039

経口投与剤のための医薬担体としては、例えば、賦形剤(結晶性セルロース乳糖砂糖コーンスターチリン酸カリウムソルビット、グリシン等)、結合剤(シロップアラビアゴム、ソルビット、トラガントポリビニルピロリドン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウムタルクポリエチレングリコールシリカ等)、崩壊剤バレイショデンプン等)及び湿潤剤ラウリル硫酸ナトリウム等)等の慣用のものを挙げることができる。

0040

サプリメントとしては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、粉剤、液剤が挙げられる。

0041

食品としては、例えば、キャンディーガム錠菓及びスナック等の菓子類アイスクリーム及びシャーベット等の冷菓類、もち及びインスタント米飯等の米飯類、うどん、ラーメン及びパスタ等の麺類即席スープ及びポタージュ等のスープ類が挙げられる。また当該食品は、特定保健用食品であってもよい。

0042

飲料としては、例えば、果実飲料茶系飲料コーヒー飲料清涼飲料水乳飲料乳酸菌飲料炭酸飲料、栄養飲料等が挙げられる。

0043

本実施形態における肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物が経口投与剤、サプリメント、食品又は飲料である場合、上記ポリペプチドの含有割合は、肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物の全体を基準として、0.0001〜100質量%であることが好ましく、0.001〜80質量%であることがより好ましい。経口摂取用サプリメントに用いる場合、錠剤では0.001〜80質量%が好ましく、顆粒剤では0.001〜80質量%が好ましく、カプセル剤では0.1〜30質量%が好ましく、散剤及び粉剤では0.001〜100質量%が好ましく、液剤では0.1〜30質量%が好ましい。また、食品に用いる場合、キャンディ及びガムでは0.001〜30質量%が好ましく、錠菓では0.001〜80質量%が好ましく、スナック類、冷菓類及び米飯類では0.0001〜30質量%が好ましく、麺類では0.0001〜20質量%が好ましく、スープ類では0.0001〜50質量%が好ましい。さらに、飲料に用いる場合は、果実飲料、茶系飲料、コーヒー飲料、清涼飲料水、乳飲料、乳酸菌飲料及び栄養補給飲料では、0.0001〜50質量%が好ましい。

0044

また、上記肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物は、経皮投与剤、局所投与剤、静脈投与剤又は化粧品であってもよい。

0045

経皮投与剤又は局所投与剤の剤形としては、例えば、クリーム剤ゲル剤軟膏剤、液剤、塗布剤乳剤噴霧剤滴剤貼付剤ドレッシング剤注射剤等が挙げられる。上記経皮投与剤は、必要に応じて適当な賦形剤を加えることができる。賦形剤は、一般的に医薬品、医療用機器医薬部外品等に用いられるものであれば種類を問わない。賦形剤としては、例えば、ポリビニルアルコールグリセロールキトサンカルボキシメチルセルロースヒアルロン酸ポリプロピレングリコール等が挙げられる。

0046

静脈投与剤の剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤等が挙げられる。注射剤及び点滴剤には、溶液、懸濁液、乳濁液、及び必要時に溶剤に溶解又は懸濁して用いる固形薬剤が含まれる。上記静脈投与剤は、上記ポリペプチドを溶剤に溶解、懸濁又は乳化させて用いられる。溶剤として、例えば、注射用蒸留水生理食塩水植物油プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等及びそれらの組み合わせが挙げられる。さらに上記静脈投与剤は、安定剤、溶解補助剤グルタミン酸アスパラギン酸ポリソルベート80登録商標)等)、懸濁化剤乳化剤無痛化剤緩衝剤保存剤等を含んでいてもよい。

0047

化粧品としては、例えば、化粧水乳液美容液パックファンデーション等が挙げられる。

0048

本実施形態における肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物が経皮投与剤、局所投与剤、静脈投与剤又は化粧品である場合、上記ポリペプチドの含有割合は、肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物の全体を基準として、0.000001〜100質量%であることが好ましく、0.001〜20質量%であることがより好ましい。経皮投与又は局所投与する場合、クリーム剤、ゲル剤及び軟膏剤では0.0001〜10質量%が好ましく、液剤、乳剤、噴射剤及び貼付剤では0.0001〜20質量%が好ましく、ドレッシング剤では0.01〜5質量%が好ましく、注射剤では0.0001〜0.5質量%が好ましい。また、静脈投与する場合、注射剤及び点滴剤では、0.0001〜0.5質量%が好ましい。化粧品に用いる場合、化粧水及び乳液では、0.0001〜5質量%が好ましく、美容液及びパックでは、0.0001〜100質量%が好ましく、ファンデーションなどのメイクアップ商品では、0.000001〜1質量%が好ましい。

0049

≪肥厚性瘢痕の形成を抑制する方法≫
本実施形態に係る肥厚性瘢痕の形成を抑制する方法は、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩の少なくとも1種の有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む。

0050

ここで「有効量」とは、肥厚性瘢痕の形成を抑制するために必要な上記ポリペプチド、その化学修飾体及びその薬学上許容される塩の合計量を意味する。

0051

上記対象としては、例えば、マウス、ラットウサギネコイヌウシウマサル及びヒト等の哺乳動物が挙げられる。上記対象は、ヒトであることが好ましい。

0052

上記ポリペプチドの投与経路は、例えば、経口投与、経皮投与、局所投与、静脈投与、腹腔内投与等が挙げられる。

0053

上記ポリペプチドの投与量は、対象の年齢性別、体重、感受性差、投与方法投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類等によって異なる。上記ポリペプチドを経口投与する場合、当該投与量は、例えば、成人1日あたり0.01〜50000mg/kgであることが好ましく、1〜500mg/kgであることがより好ましい。
また、上記ポリペプチドがPro−Hyp又はHyp−Glyで示されるアミノ酸配列からなるジペプチドであって、他の投与単位を用いる場合、経口投与による投与量は、例えば、成人1日あたり0.0001〜70000μmol/kgであってもよいし、0.01〜700μmol/kgであってもよい。

0054

上記ポリペプチドを経皮投与する、局所投与する、静脈投与する又は腹腔内投与する場合、当該投与量は、例えば、成人1日あたり0.01〜150mg/kgであることが好ましく、1〜15mg/kgであることがより好ましい。
また、上記ポリペプチドがPro−Hyp又はHyp−Glyで示されるアミノ酸配列からなるジペプチドであって、他の投与単位を用いる場合、経皮投与、局所投与、静脈投与又は腹腔内投与による投与量は、例えば、成人1日あたり0.01〜6000μmol/kgであってもよいし、1〜60μmol/kgであってもよい。

0055

上記ポリペプチドの投与の頻度は、特に制限されないが、例えば、1週間に一度であってもよいし、3日に一度であってもよいし、1日に1度であってもよい。

0056

本実施形態に係る肥厚性瘢痕の形成を抑制する方法は、上記ポリペプチド等の有効量を対象に投与することと併せて、他の処置が施されてもよい。当該他の処置としては、創傷部位の縫合、創傷部位の圧迫、湿潤療法等が挙げられる。

0057

≪他の実施態様≫
本実施形態の他の態様として、肥厚性瘢痕の形成抑制用組成物を製造するための、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩の少なくとも1種の使用が挙げられる。
本実施形態の別の他の態様として、肥厚性瘢痕の形成を抑制するための、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド、その化学修飾体又はその薬学上許容される塩の少なくとも1種が挙げられる。

0058

以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。

0059

≪腹壁正中切開モデル(Model−1)のマウスを用いた実験
<Model−1のマウスの作製>
8−10週齢の雌のC57BL/6Nマウスを用いた。マウス1頭あたり200μL(0.065mg/体重1g)の麻酔薬ソムノペンチル(Shering−Plough製)を腹腔内に投与した。次に、手術用ハサミを用いてマウス腹部の皮膚を1.5cm正中切開した(創傷部位の形成)。ここで、当該腹部は、皮膚の伸縮が起きやすい部位であり、メカニカルストレスの影響を受けやすい部位である。切開後は皮膚の張力を解除するため、切開した皮膚(以下、「創傷部位」という場合がある。)の上端より0.25cmの部分及び下端より0.25cmの部分を縫合した(図1の上側)。その後、皮膚を3M社製のテガターム(商品名、商標)で被包し、さらに創傷部位の自傷を防ぐため、パンツ型シリコンプロテクターを装着した。このようにして作製されたModel−1のマウスを用いて以下の実験を行った。

0060

予備実験
(1)創傷部位の組織変化の観察
Model−1のマウスを用いて、創傷部位の形成後何も投与せずに、当該創傷部位の組織変化を観察した。具体的には、Model−1のマウス(N=4)に創傷部位の形成後3、5、7及び10日目のそれぞれに、マウスを麻酔下で脱血死させた。創傷部位を含む腹壁組織を摘出し、伸展させた後、5%ホルムアルデヒド溶液に一晩浸漬することにより固定を行った。固定後の組織は常法に従ってパラフィン包埋した後、ミクロトームにて組織切片を作製した。その後作製した組織切片に対してマッソントリクローム染色を実施した。この染色により、細胞質は赤色に、コラーゲン線維は青色に染め分けられる。染色した組織切片を顕微鏡下で観察した。創傷部位の形成後3日目では、創傷部位における組織の結合は不完全で観察には不向きであった(図示せず)。しかし、創傷部位の形成後5日目以降では表皮接合、肉芽組織による創傷部位における組織の癒合が進行していた(図2)。創傷部位の完治は約2週間目以降となるため、創傷部位の組織変化(肉芽組織の変化)の観察は、創傷部位の形成後5、7、10日目(Day5、7、10)が適当と判断した。

0061

(2)Pro−Hypの投与後の血液内移行
創傷部位を形成していないC57BL/6Nマウス(8−10週齢、雌)(各群、N=4)へ、Pro−Hypのアミノ酸配列からなるジペプチド(以下、単に「Pro−Hyp」と表記する場合がある。)の生理食塩水溶液(500nmol/200μL)を注射により腹腔内投与(単回投与)するか、又はPro−Hypの生理食塩水溶液(2500nmol/200μL)をゾンデを用いて経口投与(単回投与)した。投与後、経時的に採血し、血液内に出現するPro−HypをLC−MS/MS法で測定した。LC−MS/MS法の測定条件は以下の通りである。
LC−MS/MS法の測定条件
採取した血液を生理食塩水で2倍希釈後、20℃、500×g、15分間の条件で遠心分離を行った。遠心分離を行った後に回収した上清に3倍量の100%エタノールを加えた。100%エタノールを加えた上記上清を20℃にて13000rpmで15分間遠心分離し、除タンパク処理を行った。続いて、除タンパク処理を行った試料を50mM重炭酸アンモニウムで10倍に希釈し、LC−MS/MS分析に供した。LCの条件として、ガードカラムとして、CAPCLLPAK C1 UG120 10mm×I.D. 2.0mm (OSAKA SODA)を用い、Hypersil Gold PFP150mm×I.D. 2.1mm, 5μm(Thermo製)のカラムを用いて分析を行った。分析条件は、移動相A MeOH、移動相B 2mM酢酸アンモニウム含有2%ギ酸水溶液、インジェクション量5μL、グラジェントは、下記表1のように行った。

0062

0063

MS/MS条件としては、タンデム型質量分析装置(TSQ Vantage(Thermo製))を用いて、イオン化法:PositiveESI、スプレー電圧:3000V、ベーポライザー:300℃、シースガス:30、Auxガス:15、Capillary温度:250℃、MRM条件:Parent Mass 229.1、Product Mass 70、Collisionエネルギー:29ev、S−Lens:68で行った。

0064

測定結果図3に示す。図3の結果から腹腔内投与群及び経口投与群ともに、投与後15分でPro−Hypの血中濃度ピークを迎えたが、投与してから1時間後には減少し、投与してから3時間後には、ベースラインベルに減少したことが明らかになった。また、腹腔内投与は、消化管吸収を介さずに、血中移行するため非常に高い濃度に達した。一方、経口投与では血中移行量は腹腔内投与に比べて少ないものの、確実に血中移行することが示された。この結果から、腹腔内投与だけではなく、経口投与によっても循環血液を介し創傷部位へのジペプチドの移行が推測された。この実験では、創傷部位を形成していないC57BL/6Nマウスを用いたが、同系統のマウスから作製されたModel−1のマウス及びModel−2のマウスにおいても同様の結果が得られると考えられる。

0065

<肥厚性瘢痕の形成抑制試験
(1)創傷部位における肉芽組織の経過観察
創傷部位を形成したModel−1のマウス(各群、N=5)の腹腔内に、Pro−Hypの生理食塩水水溶液(500nmol/200μL)又はPro−Hypを含まない生理食塩水を投与した。手術日(創傷部位を形成した日、Day0)を含め、毎日1回、マウス1頭あたり各溶液200μLを7日間にわたり投与した(図4)。創傷部位の形成後5、7及び10日目(Day5、7、10)のそれぞれに、マウスを麻酔下で脱血死させた。創傷部位を含む腹壁組織を摘出し、伸展させた。その後、5%ホルムアルデヒド溶液に一晩浸漬することにより固定を行った。固定後の組織は常法に従ってパラフィン包埋した後、ミクロトームにて組織切片を作製した。その後作製した組織切片に対してマッソントリクローム染色を実施した。この染色により、細胞質は赤色に、コラーゲン線維は青色に染め分けられる。染色した組織切片を顕微鏡下で観察した。

0066

結果を図5に示す。創傷部位の形成後5日目になると表皮の治癒は殆ど完了しているが、腹腔側の治癒はなお進行中であった。全体的に、対照群生理食塩水投与群、比較例)では創傷部位の肉芽組織は大きく(図5楕円で示された部分)、創傷部位の離開指標となる腹直筋間の距離(図5太線の長さ)は広い。一方、Pro−Hyp投与群(実施例)では、肉芽組織は小さく、腹直筋間の距離は短くなっていた。この結果から、Pro−Hypを投与することによって、創傷部位における肉芽組織の増殖を抑制することが示唆された。

0067

(2)腹直筋間の距離の計測
マッソントリクローム染色像より、病理学所見から治癒に伴う腹直筋間の乖離部を腹直筋間の距離として、画像解析ソフト(商品名:BZ−analyzer:Keyence社製)を用いて計測した。結果を表2に示す。表2中の腹直筋間の距離は、各群5頭のマウスで求めた平均値を示している。腹直筋間の距離(例えば、図5)は、対照群では実験期間を通し大きな変動はなかった。一方、Pro−Hyp投与群における腹直筋間の距離は時間依存的に短縮し、創傷部位の形成後7日目、10日目とも、対照群に対して有意な差を認めた。

0068

0069

(3)肉芽組織の面積の計測
上述のマッソントリクローム染色像より、病理学的所見から治癒過程で形成された肉芽組織の面積を、画像解析ソフト(商品名:BZ−analyzer:Keyence社製)を用いて、計測した。結果を表3に示す。表3中の肉芽組織の面積は、各群5頭のマウスで求めた平均値を示している。対照群での肉芽組織の面積は、創傷部位の形成後7日目にピークを迎えその後減少するのに対し、Pro−Hyp群では時間依存的に減少が認められた。Pro−Hyp群は、創傷部位の形成後7日目、10日目に対照群に対して有意な差を認めた。

0070

0071

(4)肉芽組織内におけるコラーゲンの分布
上記(1)に記載の方法に従い作製した組織切片を使用して、ピクロシリウスレッドによる染色を実施した。これにより肉芽組織内のコラーゲン線維を赤色に染色できる。染色後、組織切片における肉芽組織の写真撮影を行った。結果を図6に示す。
創傷部位の形成後5日目の初期の肉芽組織内のコラーゲンは細く、細網線維状に分布し、その後時間経過に伴い染色性が強くなり、創傷部位の形成後10日目では太いコラーゲン束を形成していた。この結果から、創傷治癒の進行に伴い肉芽組織内の細胞足場となるコラーゲン線維は脆弱で細いコラーゲン(III型コラーゲン)から太く成熟したもの(I型コラーゲン)に変化していることが示唆された。

0072

(5)肉芽組織内におけるコラーゲンの面積
ピクロシリウスレッド染色画像を、画像処理ソフト(商品名:Image J、アメリカ国立衛生研究所製)を用いて二値化した。色閾値(≧150)に濃染された線維性コラーゲンを成熟コラーゲン(I型コラーゲン)としてその分布面積を測定し、肉芽組織内における単位面積あたりの成熟コラーゲンの分布面積として算出した。結果を表4に示す。表4中のコラーゲン分密度は、各群5頭のマウスで求めた平均値を示している。実験期間中、対照群の肉芽組織内のコラーゲン密度に大きな変動はなかった。一方、Pro−Hyp群では時間依存的にコラーゲン分布密度の増加を認め、肉芽組織内のコラーゲンの成熟はPro−Hyp群で顕著に起きていた。

0073

0074

(6)Pro−Hyp投与後の目視による腹壁側から見た創傷部位の観察
Pro−Hyp投与後の目視による創傷部位の観察像を対照群と比較した(図7)。創傷部位の形成後10日後のマウスについて、観察を行った。対照群では切開後の組織修復部は蛇行した白色調の肉芽が太く残存していた(図7の左側の写真における矢印が示す部分)。一方、Pro−Hyp投与群はスムースな直線を示し、肉芽組織の少ない治り方をしていた(図7の右側の写真における矢印が示す部分)。すなわち、Pro−Hypで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(ジペプチド)を投与することで、肥厚性瘢痕の形成を抑制できることが示された。

0075

≪腹壁円形切除モデル(Model−2)のマウスを用いた実験≫
<Model−2のマウスの作製>
腹壁正中切開モデル(Model−1)において、肉芽組織の形成は創傷部位における皮膚組織と腹直筋組織とに見られ、どちらの組織に由来するのかの分別が難しい場合がある。本実施例では、張力がかかる腹膜層に形成される肉芽組織を検討することが目的であるため、皮膚層からの治癒反応の影響が最小限で、筋肉の張力に直接的影響を受ける腹膜層間に形成される肉芽組織形成新規モデル(Model−2)を、以下の手順で作製した。8−10週齢の雌のC57BL/6Nマウスを用いた。マウス1頭あたり200μL(0.065mg/体重1g)の麻酔薬ソムノペンチル(Shering−Plough製)を腹腔内投与することにより麻酔を導入した。麻酔を導入した後、手術用ハサミを用いて腹部の皮膚を1.5cm正中切開した。ここで、当該腹部は、皮膚の伸縮が起きやすい部位であり、メカニカルストレスの影響を受けやすい部位である。その後、腹壁中央部分を外径3mmの先丸ピンセットで摘み上げ、腹壁中央部分の組織を先曲り極小手術バサミで円形に完全切除した(図1の下側)。切開後は皮膚の張力を解除するため、切開した皮膚(創傷部位)の上端より0.25cmの部分及び下端より0.25cmの部分を縫合した。その後、皮膚をテガタームで被包し、更に創傷部位の自傷を防ぐため、パンツ型のシリコンプロテクターを装着した。このようにして作製されたModel−2のマウスを用いて以下の実験を行った。

0076

<創傷部位の収縮の評価実験
Model−2のマウス(各群、N=5)において、腹壁に創傷部位(円形欠損創)を形成した後、図4と同様の投与スケジュールで7日間のPro−Hypの生理食塩水溶液(500nmol/200μL)の投与を行った。このとき対照群にはジペプチドを含まない生理食塩水を投与した。手術日(創傷部位を形成した日、Day0)を含め、毎日1回、マウス1頭あたり各溶液200μLを7日間にわたり腹腔内投与した(図4)。対象群には生理食塩水200μLを同様に投与した(図4)。創傷部位を形成した日から10日目(Day10)の腹壁側から見た創傷部位を比較した。結果を図8に示す。対照群に比べPro−Hyp群では創傷部位は縮小し、平たんとなったものが多く、治癒は進行していた。残存する創傷部位の面積を測定すると、対照群に比べ創傷部位の収縮は有意に進行していた(表5)。なお、表5中の創傷部位の面積は、各群5頭のマウスで求めた平均値を示している。

0077

0078

≪マウス胎児由来の皮膚線維芽細胞を用いた実験≫
コラーゲンゲル収縮度合の評価>
線維芽細胞をコラーゲンゲル包埋培養し、コラーゲンゲルの収縮度合を測定した。マウス胎児由来の皮膚線維芽細胞である3T3−L1細胞株を、10%FBS牛胎児血清GIBCO製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM)(High−Glucose)(WAKO製)を用い、37℃、5%CO2条件下で培養した。ブタ由来I型コラーゲン溶液(新田ゼラチン株式会社製)、10倍濃度D−MEM溶液(新田ゼラチン株式会社製)及び再構成緩衝液(新田ゼラチン株式会社製)を、冷却下、8:1:1の体積割合で混合した。そこにトリプシン溶液を用いて回収した上記の細胞ペレット播種密度が2.5×105個/wellとなるように、また、Pro−Hyp濃度が各最終濃度になるように調製した溶液を加えて混合し、300μLずつ24wellプレートに注いだ。なお、ブランクにはPro−Hyp及び細胞を添加しないコラーゲンゲルを用いた。その後37℃、5%CO2条件下で1時間インキュベートしてコラーゲンをゲル化させた。その後、D−MEM(High−Glucose)400μLを静かに重層し、滅菌したスパーテルを用いてコラーゲンゲルを壁面から剥がし、ゲルを培地中に浮遊させた。さらに69時間インキュベートした後、コラーゲンゲルの写真をスキャナーで取り込み、画像処理ソフト(ImageJ)を用いてゲルの収縮度合を判定した。ゲル収縮度合は、ゲルの片方ウェルの壁面に接するように寄せ、その反対側の壁との距離を測定することで判定した。結果を表6に示す。Pro−Hypの添加により濃度依存的に線維芽細胞を包含したコラーゲンゲルが収縮したことから、Pro−Hypに線維芽細胞を介したコラーゲン線維を収縮させる作用があることが明らかになった。すなわち、Pro−Hypを腹腔に投与すると、張力等のメカニカルストレスによって広がった創傷部位において、線維芽細胞を介したコラーゲン線維の収縮が誘導され結果的に創傷部位の収縮を促進することが示唆された。

0079

0080

<各種ポリペプチド投与による肉芽組織の形成>
本実験では、腹壁円形切除モデル(Model−2)のマウスを用いた。表7に記載の各種ポリペプチドの生理食塩水溶液を用い、腹腔内投与を1日1回、7日間行い(図4)、肉芽組織の形態を比較した。また、コラーゲン加水分解物に含まれるポリペプチドの重量平均分子量は、以下の条件によるゲル濾過クロマトグラフィーによって算出した。
(ゲル濾過クロマトグラフィーの測定条件)
移動相:0.1%トリフルオロ酢酸含有45%アセトニトリル(55%水)
固定相:TSK−Gel−2000SWXLカラム(TOSOH製)
流速:1.0ml/min、
カラム温度:40℃、
分析時間 :15分、
インジェクション量:10μl、
検出波長:214nm

0081

創傷部位の形成後7日目(Day7)の創傷部位における組織の薄切切片をマッソントリクローム染色し、肉芽組織を観察した。結果を図9に示す。対照群(生理食塩水)では肉芽組織の形成は軽微で、コラーゲン線維の分布が疎となっているのに対し、Pro−Hyp、Hyp−Gly、各コラーゲン加水分解物の投与群ではいずれもコラーゲン線維が密であり組織として成熟している可能性が示唆された。すなわち、この実験によってPro−Hyp、Hyp−Gly等のジペプチドだけでなく、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを投与すれば、張力等のメカニカルストレスによって広がった創傷部位において、線維芽細胞を介したコラーゲン線維の収縮が誘導され、結果的に創傷部位の収縮を促進することが示唆された。

0082

0083

上述した一連の実験結果から、以下のようなメカニズムで肥厚性瘢痕の形成が抑制されることが示唆された。
(1)まず、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(例えば、Pro−Hypのジペプチド)を投与すると、メカニカルストレス(張力等)によって広がった創傷部位において、線維芽細胞を介したコラーゲン線維の収縮が誘導され、結果的に創傷部位の収縮を促進する(表6及び図9)。
(2)収縮された創傷部位は、少量の肉芽組織で被覆することができるため、肉芽組織の増殖が結果的に抑制される(図8)。
(3)その結果、肉芽組織が過剰に増殖することはなく、最終的に、修復過程において肉芽組織の退縮が十分に起こり、肥厚性瘢痕の形成が抑制される(図7)。

0084

従来、創傷の治癒には、肉芽組織の増殖が必須であると考えられていた。しかし、創傷部位の収縮を促進できる「質が改善された肉芽組織」であれば、肉芽組織の増殖を抑制しながら(すなわち、肥厚性瘢痕の形成を抑制しながら)、創傷の治癒が進行することを本発明者らははじめて見出した。さらに本発明者らは、肉芽組織の質を改善し、肥厚性瘢痕の形成を抑制するために、Pro−Hyp又はHyp−Glyで示されるジペプチド配列を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド(例えば、Pro−Hypのジペプチド)を投与することを初めて見出した。当該ポリペプチドを用いることで肥厚性瘢痕の形成を抑制するという優れた効果は、従来の技術常識では予測不可能であり、且つ極めて異質な効果であると本発明者らは考えている。

0085

以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。

実施例

0086

今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

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