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技術 ダイカスト金型用鋼及びダイカスト金型

出願人 大同特殊鋼株式会社
発明者 河野正道
出願日 2018年5月15日 (2年7ヶ月経過) 出願番号 2018-094066
公開日 2019年11月21日 (1年1ヶ月経過) 公開番号 2019-199634
状態 未査定
技術分野 チル鋳造・ダイキャスト 物品の熱処理 鋼の加工熱処理 鋳型又は中子及びその造型方法 鋳型又は中子の材料
主要キーワード 最表面温度 穴あけ速度 水冷孔 鋳造ショット 熱疲労亀裂 最低到達温度 アルミ溶 焼戻し炉
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (6)

課題

離型剤の塗布による金型温度の低下が小さいダイカストに適用して、ダイカスト金型低コスト化、ダイカストのサイクル短縮、鋳造品高品位化を同時に実現することが可能なダイカスト金型用鋼を提供する。

解決手段

ダイカスト金型用の鋼は、質量%で0.16≦C≦0.26,0.001≦Si≦0.80,1.20≦Mn≦2.00,2.41≦Cr≦2.73,0.48≦Mo≦0.97,0.003≦V≦0.28,0.0005≦Al≦0.15,0.0002≦N≦0.050を含有し、残部がFe及び不可避的不純物組成を有し、硬さが26〜43HRCであり、レーザーフラッシュ法を用いて測定した25℃における熱伝導率λ[W/m/K]が27.0≦λである。

概要

背景

ダイカストは、溶融金属キャビティ製品形状をした金型の隙間)に短時間で圧入し、凝固させ、効率良く鋳物を製造する技術である。ダイカスト鋳造品の9割近くは自動車用途であり、ダイカストは自動車高品位化支え続けている。

ダイカスト金型の表面は、溶融金属との接触による急加熱と、離型剤塗布による急冷却に晒される。この結果、金型表面には圧縮応力引張応力周期的に作用し、鋳造ショット数が増加してゆくと「ヒートチェック」と呼ばれる熱疲労亀裂が金属表面に発生する。

ヒートチェックの軽減はダイカストの重要課題である。その理由は、ヒートチェックが鋳造品の表面に転写されて製品の商品価値を損なうこと、ヒートチェックが大割れ(金型を貫通する深い亀裂)の起点となること、による。

ヒートチェックは離型剤塗布時の冷却が弱いほど、つまり離型剤塗布時の引張応力が弱いほど軽減される。このため近年ではヒートチェックの軽減を目的として、離型剤の塗布量を減らす「微量塗布」が行われる傾向にある。どの程度の塗布量を、微量と扱うかについて明確な規定は無いが、何れにせよ離型剤塗布による金型表面の急冷を回避すべく行なわれるものである。

離型剤の微量塗布ではヒートチェックが発生し難くなるため、従来の金型よりも高温強度が不要になる。従って強度を確保するための合金元素は少なくて済み、また金型の調質硬さを下げることも可能である。このような「省合金化」と「低硬度化」は金型のコスト低減に有効である。

一方で、離型剤を微量塗布するダイカストでは、金型の高温度化によるサイクルタイム延長鋳造品質の低下が問題となる。塗布する離型剤の量が少ないことから、金型表面があまり冷却されず高温で維持されるため、圧入された溶融金属の凝固に時間が掛かり(サイクルタイムの延長)、またゆっくり凝固した鋳造品の組織は粗いためである。これらの問題を解決するためには金型の冷却を速める必要があり、これには金型の熱伝導率を高くすることが有効である。

25℃における熱伝導率で比較すると、汎用ダイカスト金型用鋼JISSKD61は約24[W/m/K]と低い。そこで熱伝導率を27[W/m/K]程度に高めた高性能Cr鋼が開発されている。しかし、これでも熱伝導率は不足気味であり、サイクルタイムの延長や鋳造品質の低下の問題は依然として未解決である。

また、樹脂射出成形金型に用いられる鋼(以下、プラ型用鋼と称する場合がある)を、離型剤を微量塗布するダイカストの金型に流用することも不可能ではない。しかしプラ型用鋼では、あまりにも高温強度が低いこと、焼入れ性が低くフェライトベイナイトを生じやすいこと、衝撃値が低いため大割れの心配があること、からダイカスト金型への適用は実際には困難である。

なお、下記特許文献1には、耐ヒートチェック性を向上させる合金元素の添加量を最小限とし、焼入れ性と高熱伝導性とを重視した成分バランスとしたダイカスト金型用鋼が開示されている。しかしながら特許文献1に記載のものは、Cr−Moの成分範囲が本発明とは異なっている。

概要

離型剤の塗布による金型温度の低下が小さいダイカストに適用して、ダイカスト金型の低コスト化、ダイカストのサイクル短縮、鋳造品の高品位化を同時に実現することが可能なダイカスト金型用鋼を提供する。ダイカスト金型用の鋼は、質量%で0.16≦C≦0.26,0.001≦Si≦0.80,1.20≦Mn≦2.00,2.41≦Cr≦2.73,0.48≦Mo≦0.97,0.003≦V≦0.28,0.0005≦Al≦0.15,0.0002≦N≦0.050を含有し、残部がFe及び不可避的不純物組成を有し、硬さが26〜43HRCであり、レーザーフラッシュ法を用いて測定した25℃における熱伝導率λ[W/m/K]が27.0≦λである。 なし

目的

本発明は以上のような事情背景とし、離型剤の塗布による金型温度の低下が小さいダイカストに適用して、ダイカスト金型の低コスト化、ダイカストのサイクル短縮、鋳造品の高品位化を同時に実現することが可能なダイカスト金型用鋼及びダイカスト金型を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

質量%で0.16≦C≦0.260.001≦Si≦0.801.20≦Mn≦2.002.41≦Cr≦2.730.48≦Mo≦0.970.003≦V≦0.280.0005≦Al≦0.150.0002≦N≦0.050を含有し、残部がFe及び不可避的不純物組成を有し、硬さが26〜43HRCであり、レーザーフラッシュ法を用いて測定した25℃における熱伝導率λ[W/m/K]が27.0≦λであることを特徴とするダイカスト金型用鋼

請求項2

請求項1において、質量%で0.30<Cu≦1.500.30<Ni≦1.50の少なくとも1種を更に含有することを特徴とするダイカスト金型用鋼。

請求項3

請求項1,2の何れかにおいて、質量%で0.0001<B≦0.0050を更に含有することを特徴とするダイカスト金型用鋼。

請求項4

請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で0.30<W≦4.000.10<Co≦3.00の少なくとも1種を更に含有することを特徴とするダイカスト金型用鋼。

請求項5

請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で0.004<Nb≦0.2000.004<Ta≦0.2000.004<Ti≦0.2000.004<Zr≦0.200の少なくとも1種を更に含有することを特徴とするダイカスト金型用鋼。

請求項6

請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で0.008<S≦0.0500.0005<Ca≦0.20000.03<Se≦0.500.005<Te≦0.1000.01<Bi≦0.500.03<Pb≦0.50の少なくとも1種を更に含有することを特徴とするダイカスト金型用鋼。

請求項7

請求項1〜6の何れかに記載の鋼から成ることを特徴とするダイカスト金型

技術分野

0001

この発明は、離型剤微量塗布するダイカストに適用して好適なダイカスト金型用鋼及びダイカスト金型に関する。

背景技術

0002

ダイカストは、溶融金属キャビティ製品形状をした金型の隙間)に短時間で圧入し、凝固させ、効率良く鋳物を製造する技術である。ダイカスト鋳造品の9割近くは自動車用途であり、ダイカストは自動車高品位化支え続けている。

0003

ダイカスト金型の表面は、溶融金属との接触による急加熱と、離型剤塗布による急冷却に晒される。この結果、金型表面には圧縮応力引張応力周期的に作用し、鋳造ショット数が増加してゆくと「ヒートチェック」と呼ばれる熱疲労亀裂が金属表面に発生する。

0004

ヒートチェックの軽減はダイカストの重要課題である。その理由は、ヒートチェックが鋳造品の表面に転写されて製品の商品価値を損なうこと、ヒートチェックが大割れ(金型を貫通する深い亀裂)の起点となること、による。

0005

ヒートチェックは離型剤塗布時の冷却が弱いほど、つまり離型剤塗布時の引張応力が弱いほど軽減される。このため近年ではヒートチェックの軽減を目的として、離型剤の塗布量を減らす「微量塗布」が行われる傾向にある。どの程度の塗布量を、微量と扱うかについて明確な規定は無いが、何れにせよ離型剤塗布による金型表面の急冷を回避すべく行なわれるものである。

0006

離型剤の微量塗布ではヒートチェックが発生し難くなるため、従来の金型よりも高温強度が不要になる。従って強度を確保するための合金元素は少なくて済み、また金型の調質硬さを下げることも可能である。このような「省合金化」と「低硬度化」は金型のコスト低減に有効である。

0007

一方で、離型剤を微量塗布するダイカストでは、金型の高温度化によるサイクルタイム延長鋳造品質の低下が問題となる。塗布する離型剤の量が少ないことから、金型表面があまり冷却されず高温で維持されるため、圧入された溶融金属の凝固に時間が掛かり(サイクルタイムの延長)、またゆっくり凝固した鋳造品の組織は粗いためである。これらの問題を解決するためには金型の冷却を速める必要があり、これには金型の熱伝導率を高くすることが有効である。

0008

25℃における熱伝導率で比較すると、汎用のダイカスト金型用鋼JISSKD61は約24[W/m/K]と低い。そこで熱伝導率を27[W/m/K]程度に高めた高性能Cr鋼が開発されている。しかし、これでも熱伝導率は不足気味であり、サイクルタイムの延長や鋳造品質の低下の問題は依然として未解決である。

0009

また、樹脂射出成形金型に用いられる鋼(以下、プラ型用鋼と称する場合がある)を、離型剤を微量塗布するダイカストの金型に流用することも不可能ではない。しかしプラ型用鋼では、あまりにも高温強度が低いこと、焼入れ性が低くフェライトベイナイトを生じやすいこと、衝撃値が低いため大割れの心配があること、からダイカスト金型への適用は実際には困難である。

0010

なお、下記特許文献1には、耐ヒートチェック性を向上させる合金元素の添加量を最小限とし、焼入れ性と高熱伝導性とを重視した成分バランスとしたダイカスト金型用鋼が開示されている。しかしながら特許文献1に記載のものは、Cr−Moの成分範囲が本発明とは異なっている。

先行技術

0011

特開2017−43809号公報

発明が解決しようとする課題

0012

本発明は以上のような事情背景とし、離型剤の塗布による金型温度の低下が小さいダイカストに適用して、ダイカスト金型の低コスト化、ダイカストのサイクル短縮、鋳造品の高品位化を同時に実現することが可能なダイカスト金型用鋼及びダイカスト金型を提供することを目的としてなされたものである。

課題を解決するための手段

0013

而して請求項1のものは、ダイカスト金型用鋼に関するもので、質量%で0.16≦C≦0.26,0.001≦Si≦0.80,1.20≦Mn≦2.00,2.41≦Cr≦2.73,0.48≦Mo≦0.97,0.003≦V≦0.28,0.0005≦Al≦0.15,0.0002≦N≦0.050を含有し、残部がFe及び不可避的不純物組成を有し、
硬さが26〜43HRCであり、レーザーフラッシュ法を用いて測定した25℃における熱伝導率λ[W/m/K]が27.0≦λであることを特徴とする。

0014

なお、ダイカスト金型用鋼において、下記に示す成分が下記範囲で不可避的不純物として含まれ得る。
P≦0.050,S≦0.008,Cu≦0.30,Ni≦0.30,W≦0.30,O≦0.05,Co≦0.10,Nb≦0.004,Ta≦0.004,Ti≦0.004,Zr≦0.004,B≦0.0001,Ca≦0.0005,Se≦0.03,Te≦0.005,Bi≦0.01,Pb≦0.03,Mg≦0.02,REM≦0.10などである。

0015

請求項2のものは、請求項1において、質量%で0.30<Cu≦1.50,0.30<Ni≦1.50の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。

0016

請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、質量%で0.0001<B≦0.0050を更に含有することを特徴とする。

0017

請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で0.30<W≦4.00,0.10<Co≦3.00の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。

0018

請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で0.004<Nb≦0.200,0.004<Ta≦0.200,0.004<Ti≦0.200,0.004<Zr≦0.200の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。

0019

請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で0.008<S≦0.050,0.0005<Ca≦0.2000,0.03<Se≦0.50,0.005<Te≦0.100,0.01<Bi≦0.50,0.03<Pb≦0.50の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。

0020

請求項7のものは、ダイカスト金型に関するものであって、請求項1〜6の何れかに記載の鋼から成ることを特徴とする。
なお、本発明において「金型」には金型本体はもとより、これに組み付けられて使用されるピン等の金型部品も含まれる。更に、本発明の鋼からなる金型で、表面処理が施されたものも含まれる。

0021

本発明者は、上記課題を解決するため、強度や熱伝導率や衝撃値に及ぼす鋼材成分の影響を調査した。その結果、C−Si−Mn−Cr−Mo−V−Nを狭い範囲内に規定した場合に、上記課題が解決されることを見出した。また、その基本成分に選択元素を加えることで、特性をより安定化できることも確認した。

0022

このようにして完成させた本発明を以下に説明する。
汎用の5Crダイス鋼SKD61は、4.50≦Cr≦5.50,1.00≦Mo≦1.50,0.80≦V≦1.20である。これに対し本発明鋼では、2.41≦Cr≦2.73,0.48≦Mo≦0.97,0.003≦V≦0.28とSKD61対比で希少金属を大幅に低減した。高性能5Crダイス鋼のMoは1.80%以上であるが、これと比較すればMoの低減効果は更に大きくなる。

0023

本発明鋼では、このような省合金成分でもフェライトやベイナイトを析出し難くするため、Mnを1.20≦Mn≦2.00とし、5Crダイス鋼の0.20≦Mn≦1.20よりも高めた。Mnは安価な元素であるため、Mnの増量によるコスト上昇は非常に小さく、CrとMoとVを低減したコスト削減効果の方が勝っている。また、結晶粒度と調質硬さの観点から、本発明鋼のNは、SKD61と同等量の0.0002≦N≦0.0500とした。

0024

このように本発明鋼は、省合金化で金型用鋼のコストが下がる。さらに所定硬さ(26〜43HRC)に調質した本発明鋼は、従来、荒加工と精加工に分けて行われていた機械加工一括して行なうことが可能である。すなわち、従来の、荒の機械加工や焼入れ焼戻しが不要となり、この工程省略においても金型のコストが下がる。また焼入れ時の割れや変形の問題も無くなるため、そのような不具合による金型の再作製も不要となり、この点においても金型のコストが下がる。以上に述べた内容に関して、金型の製造工程を比較すれば以下の通りである。
従来は、金型素材(焼鈍状態)→ドリル加工→機械加工(荒)→焼入れ焼戻し(43〜52HRC)→機械加工(精)、であったのに対し、
本発明では、金型素材(26〜43HRC)→ドリル加工−−−−−−−−−−→機械加工(一括)、とすることができる。

0025

43HRC調質材の25℃における熱伝導率は、SKD61が23〜24[W/m/K]、高熱伝導率タイプの5Cr系ダイス鋼は27[W/m/K]程度である。これに対し、25℃における本発明鋼の熱伝導率は27[W/m/K]以上と高い。マトリクス中に固溶する元素と、炭化物や窒化物炭窒化物として析出する元素のバランスを適正化し、このように高い熱伝導率を実現した。本発明鋼によれば、離型剤塗布による金型温度の低下が小さいダイカストに適用して、十分な耐ヒートチェック性を有し、且つダイカストのサイクル短縮および鋳造品の高品位化も実現することができる。

0026

次に本発明における各化学成分等の限定理由を以下に説明する。なお、各化学成分の値は何れも質量%である。
「請求項1の化学成分について」
0.16≦C≦0.26
C<0.16では、焼戻し温度が高い場合に26HRC以上を安定して得にくい。粉末積層造形に適用した場合に26HRC以上を得ることが難しい。また耐アルミ溶損性が著しく低下する。一方、0.26<Cでは溶接性が低下する。また熱伝導率の低下が大きい。好ましいCの範囲は、0.17≦C≦0.25であり、より好ましくは0.18≦C≦0.24である。

0027

0.001≦Si≦0.80
Si<0.001では、機械加工時被削性が著しく劣化する。また焼戻し温度が高い場合に26HRC以上を安定して得にくい。一方、0.80<Siでは、熱伝導率の低下が大きく、また衝撃値の低下が大きい。好ましいSiの範囲は、0.005≦Si≦0.70であり、より好ましくは0.010≦Si≦0.60である。

0028

下記の表1は、25℃での熱伝導率に及ぼすSi量の影響を示す。
0.26C−1.67Mn−2.41Cr−0.73Mo−0.16V−0.0084Nを基本成分とし、Si量を変化させた鋼材を用い、焼入れ後に36HRCに焼戻した。この焼戻し材の25℃における熱伝導率をレーザーフラッシュ法によって測定した。
表1で示すように、Si量が0.8%で熱伝導率λは27[W/m/K]であり、0.80<Siでは27≦λを満たしていない。これがSiの上限を0.8%に規定する1つの理由である。

0029

0030

1.20≦Mn≦2.00
Mn<1.20では焼入れ性が不足し、フェライトの混入による硬さ不足や、ベイナイトの混入による靭性の低下を招く。一方、2.00<Mnでは焼鈍性が非常に劣化し、焼鈍を行った場合に軟質化させる熱処理が複雑かつ長時間となって製造コストを増加させる。また、2.00<Mnでは熱伝導率の低下が大きい。更に焼き戻し温度が高い場合に衝撃値が低下する。特にSiやPの含有量が多い場合に顕著である。
好ましいMnの範囲は、1.30≦Mn≦1.95であり、より好ましくは1.40≦Mn≦1.90である。

0031

下記の表2は、25℃での熱伝導率に及ぼすMn量の影響を示す。
0.26C−0.60Si−2.73Cr−0.73Mo−0.16V−0.0084Nを基本成分とし、Mn量を変化させた鋼材を用い、焼入れ後に36HRCに焼戻した。この焼戻し材の25℃における熱伝導率をレーザーフラッシュ法によって測定した。
表2で示すように、Mn量が2.00%で熱伝導率λは27[W/m/K]であり、2.00<Mnでは27≦λを満たしていない。これがMnの上限を2.00%に規定する1つの理由である。

0032

0033

2.41≦Cr≦2.73
Cr<2.41では高温強度が低くなる。また焼入れ性が不足し、フェライトの混入による硬さ不足や、ベイナイトの混入による靭性の低下を招く。また耐食性極端に悪くなり、金型内部の水冷孔が顕著に錆びる。一方、2.73<Crでは熱伝導率の低下が大きい。また、焼戻し硬さの温度依存性が大きくなり、素材断面内の全部位の硬さを狭い範囲に収めることが困難になる。好ましいCrの範囲は、2.43≦Cr≦2.70であり、より好ましくは2.45≦Cr≦2.68である。

0034

下記の表3は、25℃での熱伝導率に及ぼすCr量の影響を示す。
0.26C−0.65Si−1.76Mn−0.73Mo−0.16V−0.0084Nを基本成分とし、Cr量を変化させた鋼材を用い、焼入れ後に36HRCに焼戻した。この焼戻し材の25℃における熱伝導率をレーザーフラッシュ法によって測定した。
表3で示すように、Cr量が2.73%で熱伝導率λは27[W/m/K]であり、2.73<Crでは27≦λを満たしていない。これがCrの上限を2.73%に規定する1つの理由である。

0035

0036

またCrの上限は、焼入れ硬さの調整し易さも考慮して定めた。焼入れる素材のサイズは小さいものから大きなものまで様々である。焼入れ速度は、小さな素材で大きく(急冷となり)、大きな素材で小さくなる(緩冷となる)。また焼入れ速度は、素材の表面で大きく(急冷となり)、内部で小さくなる(緩冷となる)。このように、焼入れの速度が急冷と緩冷で異なる場合、同一条件で焼戻しても焼戻し硬さが異なってくる。この理由は急冷で得られるマルテンサイトと緩冷で得られるベイナイトでは焼戻し軟化抵抗が異なるためである。その一例を図1に示す。

0037

ここで重要なパラメータは、焼入れ速度によらず狙い硬さ33〜37HRCが得られる「温度幅」である(図1参照)。一般に、この「温度幅」は極端には広くないため、焼入れ速度が異なる品を焼戻す場合には、全ての品の断面内全部位を狙い硬さに納めることが難しい。
更に狙い硬さに収めることを難しくする要因として、焼戻し炉温度変動と炉内の位置による温度差がある。通常、所定温度に保持されている炉は、温度が時間に対して完全に一定ではなく、±5℃程度の変動がある。つまり最低時と最高時とで10℃程度の差を生じる。また、炉内の場所(中央か/端か)の違いによってやはり5〜15℃の差が生じることがある。
以上の経緯から、焼入れ速度やサイズが異なる品を全て狙い硬さに収めるためには、「温度幅」が15℃以上の鋼が望ましいと言える。図2は、その温度幅と鋼材のCr量の相関を示したものであり、おおよそCr≦2.73で温度幅が15℃以上になることが分かる。このような理由からも、Crの上限を2.73%としている。

0038

0.48≦Mo≦0.97
Mo<0.48では、2次硬化の寄与が小さく、焼戻し温度が高い場合に26HRC以上の高硬度を安定して得ることが難しい。また、Mo<0.48では焼入れ性が不足し、フェライトの混入による硬さ不足や、ベイナイトの混入による靭性の低下を招く。一方、0.97<Moでは衝撃値や破壊靭性が低下し、金型が大割れする危険性が増す。また素材コストの上昇も著しい。好ましいMoの範囲は、0.50≦Mo≦0.95であり、より好ましくは0.52≦Mo≦0.90である。

0039

ところで、本発明鋼は「プレハードン鋼材」に該当する。焼入れ焼戻しによって、直接の一括加工が可能な26〜43HRCの低硬度に調質(プレハードン)した鋼材である。例えば、図3に示すように、金型ユーザは、鋼材10から金型20を削り出すのであるが、形態的に鋼材10の内部10aを金型20の表面として露出させることになる。
ここで図4に示すように、焼入れの際、焼入れ速度が小さい鋼材の内部10aは、焼入れ速度が大きい鋼材10の表面側(例えば図3の角部10b)よりもフェライトを析出する可能性が高い。鋼材10の内部10aでフェライトを析出すると、先述の通り、機械加工によってその箇所が金型表面として露出する。この状態でダイカスト鋳造を行うと、低強度であるフェライト部には亀裂が容易に発生し、金型寿命が著しく短くなる。従って本発明のプレハードン鋼には、焼入れ速度の小さい鋼材内部でもフェライトが析出しない焼入れ性が必要である。

0040

一般に大きな鋼材の内部は、9℃/min程度まで焼入れ速度が低下するため、9℃/minでもフェライトを析出しないことが必達要件となる。フェライトの析出抑制にはMoの添加が効果的であり、この様子を図5に示す。
ここでは、0.16C−0.2Si−1.35Mn−2.41Cr−0.19V−0.0092Nを基本成分とし、Mo量を変化させた鋼材を用い、フェライトが析出する焼入れ速度を調査した。図5において、「○」はフェライト未析出、「×」はフェライトが析出したことを意味する。当然ながら「○」が好ましい。0.48≦Moでは、焼入れ速度が2℃/minであっても結果「○」となることから、本発明では0.48≦Moと規定している。

0041

0.003≦V≦0.28
V<0.003では、窒化物や炭窒化物が少なくなるため、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する効果が乏しく、粗粒化により衝撃値の低下を招く。また2次硬化の寄与が小さく、焼戻し温度が高い場合に26HRC以上を安定化して得ることが困難となる。一方、0.28<Vではコスト増が著しい。また粗大な窒化物や炭窒化物が増加し、それが亀裂の起点となるため衝撃値や疲労強度が低下する。好ましい範囲は0.008≦V≦0.27である。

0042

0.0005≦Al≦0.15
Al<0.0005では、AlNが少なくなるため、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する効果が乏しく、粗粒化により衝撃値の低下を招く。表面処理に窒化を用いた場合に、表層硬化が不十分となりやすい。一方、0.15<Alでは熱伝導率が低下する。またAlの酸化物が増加し、それが亀裂の起点となるため衝撃値や疲労強度が低下する。好ましい範囲は、0.0008≦Al≦0.13であり、より好ましくは0.001≦Al≦0.11である。

0043

0.0002≦N≦0.050
N<0.0002では、窒化物や炭窒化物が少なくなるため、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する効果に乏しく、粗粒化による衝撃値の低下を招く。一方、0.050<Nでは、N添加に要する精錬の時間とコストが増加し、素材コストの上昇を招く。更に、粗大な窒化物や炭窒化物が増加し、それが亀裂の起点となるため衝撃値や疲労強度が低下する。好ましいNの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.0008≦N≦0.040であり、より好ましくは0.0012≦N≦0.030である。

0044

熱伝導率λ[W/m/K]が27.0以上
製品を速く冷却したり、熱応力による金型損傷を軽減するには、金型を高熱伝導率化する必要がある。ダイカストなどに用いられる汎用鋼SKD61の25℃における熱伝導率λは、約24[W/m/K]である。製品を速く冷却したり、金型損傷を軽減するには、熱伝導率λは、27[W/m/K]以上である必要がある。さらに好ましくは、28[W/m/K]以上である。なお、熱伝導率λの上限値は特に限定するものではないが、44[W/m/K]を超えて高熱伝導率化してもその効果が飽和するため実益に乏しい。

0045

硬さが26〜43HRC
金型には、摩耗し難さや変形し難さが求められる。そのため、金型には、硬さが必要である。硬さが26HRCを超えていれば、離型剤の塗布による金型温度の低下が小さいダイカストに適用して、摩耗や変形の問題は起き難い。さらに好ましくは、27HRC以上である。一方、硬さが高すぎると、鋼材から金型を削り出す加工が非常に困難となる。そのため、硬さは、43HRC以下にする必要がある。

0046

「請求項2の化学成分について」
本発明鋼は、ダイカスト金型の汎用鋼であるSKD61と比較してMnとCrの合計量が少ない。このため本発明鋼は、焼入れ性があまり高くない。焼入れ性の向上には、CuやNiの添加が有効である。具体的には、
0.30<Cu≦1.50
0.30<Ni≦1.50
の少なくとも1種を含有させれば良い。
これらの元素はフェライトノーズだけでなく、ベイナイトノーズも長時間側へシフトさせ、安定して焼入れ性を高める。
Cuは、solute drag効果によって焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果も有する。但し、Cuの過多では、熱間加工時の割れ、コスト増が問題となる。Niが過多でもコスト増が問題となる。

0047

「請求項3の化学成分について」
焼入れ性の改善策として、Bの添加も有効である。具体的には、
0.0001<B≦0.0050
を含有させる。
Bは、微量添加でフェライトノーズを長時間側へシフトさせる効果が大きい。一方、ベイナイトノーズの位置にはあまり影響しない。
Bは、BNを形成すると焼入れ性の向上効果が無くなるため、鋼中にB単独で存在させる必要がある。具体的には、BよりもNとの親和力が強い元素で窒化物を形成させ、BとNを結合させなければ良い。そのような元素の例としては、Nb、Ta、Ti、Zrが挙げられる。これらの元素は不純物レベルで存在してもNを固定する効果はあるが、N量によっては請求項5に規定する範囲で添加する場合もある。
Bが鋼中のNと結合してBNが形成されても、余剰のBが鋼中に単独で存在すればそれが焼入れ性を高める。Bはまた被削性の改善にも有効である。被削性を改善する場合にはBNを形成させれば良い。BNは性質黒鉛に類似しており、切削抵抗を下げると同時に切屑破砕性を改善する。なお、鋼中にBとBNがある場合には焼入れ性と被削性が同時に改善される。

0048

「請求項4の化学成分について」
本発明鋼は、ダイカスト金型の汎用鋼であるSKD61と比較しCrやMoやVが少ない。このため本発明鋼は、高温強度があまり高くない。高温強度の確保には、WやCoの選択的な添加が有効である。具体的には、
0.30<W≦4.00
0.10<Co≦3.00
の少なくとも1種を含有させれば良い。
Wは炭化物の析出によって強度を上げる。Coは母材への固溶によって強度を上げると同時に、炭化物形態の変化を介して析出硬化にも寄与する。また、これらの元素はsolute drag効果によって焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果も有する。但し、何れの元素も所定量を超えると特性の飽和と著しいコスト増を招く。

0049

「請求項5の化学成分について」
焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制するためには、Nb−Ta−Ti−Zrを選択的に添加することも有効である。具体的には、
0.004<Nb≦0.200
0.004<Ta≦0.200
0.004<Ti≦0.200
0.004<Zr≦0.200
の少なくとも1種を含有させれば良い。
これらの元素との結合によって生成した炭化物や炭窒化物はオーステナイト結晶粒界の移動を抑制する。但し、いずれの元素も所定量を超えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、それが金型の破壊起点となる。

0050

「請求項6の化学成分について」
ダイカスト金型の汎用鋼であるSKD61と比較してSiが低い本発明鋼は、被削性があまり高くない。被削性の改善には、S−Ca−Se−Te−Bi−Pbを選択的に添加することも有効である。具体的には、
0.0080<S≦0.0500
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.50
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えた場合は熱間加工性や衝撃値が大きく低下する。

発明の効果

0051

以上のような本発明によれば、離型剤の塗布による金型温度の低下が小さいダイカストに適用して、ダイカスト金型の低コスト化、ダイカストのサイクル短縮、鋳造品の高品位化を同時に実現することが可能なダイカスト金型用鋼及びこれを用いたダイカスト金型を提供することができる。

図面の簡単な説明

0052

焼戻し温度と焼戻し硬さとの関係を示した図である。
狙い硬さが得られる焼戻し温度の幅とCr量との関係を示した図である。
プレハードン鋼材からの金型削り出し加工を説明する図である。
本発明の金型用鋼の連続冷却変態図を模式的に示した図である。
フェライトの析出抑制に対するMoの効果を示した図である。
金型表面の温度推移を示した図である。

0053

下記の表4に示す発明鋼16種および比較鋼5種(計21鋼種)について素材コストおよび特性を評価した。なお、比較鋼1は、JISSCM420である。ダイカスト金型には使われないが、Cr−Mo系材料の代表として評価に加えた。比較鋼2は、3Cr系のJISSKD7である。比較鋼3は、ダイカスト金型用の汎用鋼JIS SKD61である。比較鋼4は、ダイカスト金型用の高性能鋼(市販品)である。比較鋼5は、他の比較鋼よりも本発明に近い鋼種である。

0054

0055

<素材コストについての評価>
素材コストについては、コストに直結するCr+Mo+Vの量で評価した。Cr+Mo+Vの量が2.0未満である場合を「◎」、2.0〜5.0未満である場合を「○」、一方、SKD61(比較例3)と略同等もしくはこれよりも多い5.0以上である場合を「×」と判断した。
その結果を下記の表5に示す。本発明鋼は、ダイカスト金型用の汎用鋼JIS SKD61(比較例3)と比較して、素材コストの点で優れていることが分かる。

0056

0057

特性の評価は、少量溶解材に対する各種の基礎特性、工業サイズの素材を用いたダイカスト試験、と手順を踏んで行なった。
まず、少量溶解材に対する各種の基礎特性について述べる。溶鋼を150kgのインゴット鋳込んだ後、1240℃で24時間の均質化処理を施した。そして熱間鍛造によって60mm×45mmの矩形断面の棒状に仕上げた。引き続き1020℃に加熱して室温まで冷却する焼きならしと、690℃で12時間保持する焼戻しを施した。この焼戻し材から試験片を作製して評価を行った。

0058

<焼入れ時のフェライト析出についての評価>
先述の素材から切り出した外形Φ4mm×10mmの試験片を焼入れ温度に加熱し、60分保持後に12℃/minで100℃以下まで冷却した。焼入れ温度は発明鋼16種と比較鋼1,5が900℃、比較鋼2〜比較鋼4は1030℃である。
冷却速度12℃/minは、幅530mm×厚さ250mm×長さ650mmの鋼材を衝風焼き入れた時の、冷却が最も遅い中心部の高温域における冷却速度に相当する。冷却後は試験片を切断して、その断面を腐食して組織を観察し、フェライト相の有無を確認した。フェライト相の発生が認められなかった場合を「○」、フェライト相の発生が認められた場合を「×」と判断した。

0059

結果は表5に示す通りである。比較鋼1と比較鋼5でフェライトが析出していた。フェライトの量は焼入れ性が著しく不足している比較鋼1で非常に多い。比較鋼5のフェライト量も金型となった場合に悪影響を及ぼすレベルである。比較鋼1と比較鋼5が大断面のプレハードン鋼材に適さないことは明らかである。比較鋼1と比較鋼5が大断面をプレハードン焼入れすると内部にフェライトが析出し、プレハードン鋼材から金型を彫り出した際、そのフェライト析出部が金型の意匠面(鋳造溶融と接触する面)となり、フェライト部を起点としてヒートチェックが早期に発生するであろう。

0060

他の鋼にはフェライトが皆無であり、大断面のプレハードン鋼材に適した焼入れ性を備えていることが分かる。以下の評価では、大断面のプレハードン鋼材に適さない比較鋼1と比較鋼5を対象から除外した。

0061

<焼戻し硬さについての評価>
先述の素材から切り出した15mm×15mm×20mmの小ブロックを焼入れ温度に加熱し、60分保持後に12℃/minで100℃以下まで冷却した。焼入れ温度は発明鋼16種が900℃、比較鋼2〜比較鋼4は1030℃である。更に、小ブロックを620℃で2Hr保持した後に室温まで冷却する焼戻しを施し、HRC硬さを測定した。

0062

結果は表5に示す通りである。全ての鋼種(評価しない比較鋼1と比較鋼5を除く)でプレハードン鋼材に適した34HRC以上となった。つまり焼戻しを更に高温・長時間としても26HRC以上が得られる。もちろん焼戻しを低温・短時間とすれば43HRCの高硬度も得られる。発明鋼は焼戻し条件の調整で26〜43HRCにできる。

0063

<熱伝導率についての評価>
上記の焼戻した小ブロックに対して様々な条件で追加の焼戻しを施し、34HRCに調質した。この小ブロックからΦ10mm×2mmの熱伝導率測定用の試験片を作製した。この試験片の25℃における熱伝導率をレーザーフラッシュ法によって測定した。金型の長寿命化や鋳造品質の向上の観点から熱伝導率は高いほど好ましく、熱伝導率[W/m/K]の値が32を超えた場合を「◎」、27を超え32以下であった場合を「〇」、24を超え27以下であった場合を「△」、24以下であった場合を「×」、と判断した。

0064

結果は表5に示す通りである。(表中ではこれら◎、○、△、×の評価と併せて、括弧書きで実際に測定された熱伝導率[W/m/K]も併せて示してある。)
ダイカスト金型用の既存鋼である比較鋼3と比較鋼4は熱伝導率が低い。特にSi含有量の多い比較鋼3は24W/m/Kを未達である。これに対し発明鋼は、およそ30〜44W/m/Kの高い熱伝導率を有していた。

0065

<衝撃値についての評価>
先述の素材から切り出した11mm×11mm×55mmの角棒を焼入れ温度に加熱し、60分保持後に12℃/mimで100℃以下まで冷却した。焼入れ温度は、発明鋼16種が900℃、比較鋼2〜比較鋼4が1030℃である。更に様々な焼戻し条件で34HRCに調質した。その後10mm×10mm×55mmの衝撃試験片(Uノッチ底半径1mm、ノッチ下高さ8mm、ノッチ下の横断面0.8cm2)に加工した。衝撃値は衝撃試験における吸収エネルギー[J]を試験片の断面積[0.8cm2]で除した値を意味する。室温での衝撃値を試験片10本の平均値で評価した。
衝撃値が70J/cm2以上あれば、金型設計の問題がない限り大割れはほぼ起こらないため、平均値で評価した衝撃値[J/cm2]が、70以上であった場合を「○」、60〜70未満であった場合を「△」、60未満であった場合を「×」と判定した。

0066

結果は表5に示す通りである。(表中ではこれら○、△、×の評価と併せて、括弧書きで実際に測定された衝撃値[J/cm2]も併せて示してある。)
比較鋼2は焼入れ性を高めるMn+Crが低めで、且つ靭性を低下させるMoが約3%と多いため、衝撃値が低かった。比較鋼3は、衝撃値が極端に低いというわけではないが、70J/cm2を超えておらず大割れが懸念される。これに対し、発明鋼は83J/cm2以上の高衝撃値であった。

0067

ドリル被削性についての評価>
先述の素材から切り出した40mm×55mm×200mmのブロックを焼入れ温度に加熱し、60分保持後に12℃/mimで100℃以下まで冷却した。焼入れ温度は、発明鋼16種が900℃、比較鋼2〜比較鋼4が1030℃である。更に様々な焼戻し条件で34HRCに調質した。
このブロックに深さ20mmの穴をΦ5mmのハイス鋼ドリルで次々にあけてゆき、ドリルが折れた時点をドリル寿命と扱った。このドリル寿命を穴あけ速度を様々に変えて評価した。そして穴の累積深さが1000mm(つまり穴50個分)となる穴あけ速度を求め、この速度をVL1000としてドリル被削性の指標とした。
VL1000が加工の効率であることから、VL1000の値が30を超えた場合を「◎」、23を超え30以下であった場合を「○」、21を超え23以下であった場合を「△」、21以下であった場合を「×」と判定した。

0068

結果は表5に示す通りである。(表中ではこれら◎、○、△、×の評価と併せて、括弧書きで実際に測定されたVL1000の値も併せて示してある。)
各発明鋼は、VL1000の値が24m/min以上と大きく被削性に優れている。特にSを含む発明鋼16は被削性に優れていた。発明鋼の金型を機械加工する際、同じ硬さの既存鋼と比較して切削工具寿命が極端に短くなることはないと考えられる。比較鋼4は、高温強度を高めるCr+Moの量が多いため被削性が悪かった。

0069

上記5つの基礎特性を確認した後、引き続き、工業サイズの素材を用いたダイカスト試験で実用性能を評価した。評価の対象は、表4における19鋼種(比較鋼1および比較鋼5を除く)である。これらの鋼の溶鋼を10tonのインゴットに鋳込んで、このインゴットを1240℃で24時間保持する均質化の後、鍛造で570mm×270mmの矩形断面に成形した。この鍛造材を成分に応じた焼入れ温度に加熱し(発明鋼16種が900℃、比較鋼2〜4は1030℃)、60℃の湯中に浸漬して焼入れた。続いて、成分に応じた焼戻し条件で34HRCに調質してプレハードン鋼材とした。

0070

<耐ヒートチェック性についての評価>
上記のプレハードン鋼材の内部(中心付近)から、可動型および固定型からなる一対のダイカスト金型を製作し、この金型を型締力135tonのダイカストマシンに組み込み、鋳造テストとして質量600gの鋳造品を5000ショット鋳造した時の金型のヒートチェックを評価した。なお、溶湯は700℃のADC12である。ヒートチェック抑制のため、離型剤の塗布量を少なめとした。離型剤は水溶性タイプを用い、1サイクルあたり3ccをミスト状にして塗布した。塗布量3ccは、離型剤を塗布するノズル1本当りではなく、全部のノズルから、一対の金型の意匠面に塗布される量の合計を指す。

0071

このように塗布量が少なめであるため、サーモビューワーによる最表面温度の評価にて、金型温度は、定常状態において、溶湯と接触する金型表面の最低到達温度(離型剤の塗布後)は201℃以上の高温で推移した。
また、金型表面の温度推移を図6に示した。こちらは装入した熱電対による、表面から深さ1mm位置での温度であるが、細い射抜きピンであるため温度が定常状態に達するのも早く、およそ7ショットでほぼ定常状態(最高温度最低温度もある値に収斂した状態)に達している。7ショット以降の定常状態において、最低到達温度は200℃を超えている。なお、離型剤の塗布量が多い通常のダイカストでは、溶湯と接触する金型表面の最低到達温度が定常状態で150℃未満の低温になることも珍しくない。

0072

金型表面には凸部があり、応力集中部となる凸部の基部にヒートチェックが発生したかどうかを評価した。ヒートチェックの判定は、金型に浸透探傷法を用いると同時に、鍛造品へのヒートチェックの転写を触診することにより行ない、ヒートチェックの発生が認められなかった場合を「◎」、発生が軽微な場合を「○」、発生がかなり目立つが、製品への悪影響はない場合を「△」、損傷が顕著で製品への転写が問題になるレベルを「×」とした。

0073

結果は表5に示す通りである。比較鋼3と比較鋼4はヒートチェックがかなり発生し、特に熱伝導率が低い比較鋼3は損傷が顕著であった。これに対し、発明鋼の耐ヒートチェック性は非常に良く、凸部の基部にヒートチェックは発生していない。但し、熱伝導率が低めであった発明鋼3と発明鋼10にはごく僅かにヒートチェックが発生した。

0074

<サイクル短縮についての評価>
上記の鍛造において、サイクル短縮の検討も行なった。比較鋼3のJISSKD61の金型を用いた場合、射出から型開きまでは10秒が必要であった。これより早く型を開くと、未凝固部から溶湯が流れ出たり、未凝固部に巻き込まれていた空気が減圧によって膨張して未凝固部が破裂する場合がある。
ここでは金型の鋼種を変えて、射出から型開きまでの時間を短縮する評価を行なったところ、発明鋼については射出から型開きまでの時間をJIS SKD61の場合よりも2秒以上短縮しても、上記の問題は発生しなかった。比較鋼4でも多少のサイクル短縮は可能であったが効果は不十分であった。

0075

鋳造組織についての評価>
上記の鋳造において、サイクルを短縮した鋳造品の組織を評価した。鋳造組織の判定は、鋳巣のサイズや数が非常に少なく、組織も非常に微細な場合を「◎」、鋳巣があるものの小さく、組織も微細である場合を「○」、鋳巣は小さいが組織が粗大な場合を「△」、大きな鋳巣が多くあり、組織も粗大である場合を「×」とした。

0076

結果は表5に示す通りである。比較鋼3のJISSKD61の金型を用いた場合、鋳造品の組織は粗大で鋳巣も多く、機械的性質気密性に問題があると懸念される。一方、発明鋼の金型を用いた場合は、鋳造サイクルを短縮しているにもかかわらず、鋳造品の組織が微細化した。特に、熱伝導率の高い発明鋼において組織微細化の効果が大きい。比較鋼4でも鋳造品の組織は、多少は微細化されたが改善効果は不十分であった。

0077

以上の評価の結果によれば、発明鋼は、コストに直結するCr+Mo+Vの量が少なく安価であるにもかかわらず、特性評価の全項目で○あるいは◎が得られている。本発明鋼であれば、素材コストおよび耐ヒートチェック性に優れておりダイカスト金型の低コスト化が可能であり、併せてダイカストのサイクル短縮、鋳造品の高品位化も同時に実現可能であることが分かる。また、本発明鋼は省合金であることから環境負荷の軽減にも貢献できる。
一方、Cr+Mo+Vの量が多い比較鋼には、×や△が目立ち高コスト割りに特性が低いことが分かる。

0078

以上本発明の実施例を詳述したように、本発明は離型剤塗布による金型表面の温度低下が小さいダイカストに好適である。このようなダイカストでは、通常のダイカストよりも金型が高温度化する。本発明が特に効果を発揮するのは、金型温度が定常状態において、「溶湯と接触した金型表面」の温度が離型剤塗布後に150℃以上の場合である。なお、溶湯と接触した金型表面とは、鋳造品のうち製品となる部分と接触していた金型の表面を意味する。鋳造品にある「ランナーオーバーフローバリ」は、「製品となる部分ではない」ため、ランナーやオーバーフローやバリの部分に該当する金型表面は、「溶湯と接触した金型表面」には含まれない。

0079

上記実施例では、離型剤として「水溶性の液状」タイプを選定し、これを少なめにミスト状に塗布する(金型の表面を急冷却しない)場合を示し、溶湯と接触する金型表面の最低到達温度が150℃以上の高温で推移した。
一方、同じく「金型の表面を急冷却しない離型剤の塗布方法」として、油性の液状タイプの離型剤を少なめにミスト状に塗布する場合や、粉体タイプの離型剤を塗布する場合であっても、溶湯と接触する金型表面の最低到達温度が150℃以上の高温であれば、本発明鋼を用いることで、上記実施例の場合と同様の効果が得られる。

0080

本発明鋼に、ショットピーニング窒化処理PVD処理CVD処理PCVD処理メッキ処理その他の表面改質処理を施して使用することも有効である。本発明鋼は炭化物が少ないために、溶融金属を反応しやすいが、表面改質によって溶融金属との反応を抑制することができる。また本発明鋼は、粉末や板の積層造形による金型作成に使う粉末や板にも適用でき、棒線状として金型の本体や部品溶接補修に使用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。

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