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技術 水素侵入環境下の転がり疲れ寿命に優れる軸受用鋼

出願人 山陽特殊製鋼株式会社
発明者 金下武士藤松威史
出願日 2018年5月11日 (2年7ヶ月経過) 出願番号 2018-092633
公開日 2019年11月14日 (1年1ヶ月経過) 公開番号 2019-196540
状態 未査定
技術分野 磁性鉄合金の熱処理 物品の熱処理 金属質材料の表面への固相拡散 熱処理
主要キーワード 実施例鋼 X線回折法 荷重増大 水素起因 平均水素濃度 EPMA測定 化学腐食 比較例鋼
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (1)

課題

水素起因転がり疲れによるはく離寿命に優れる軸受用鋼を提供すること

解決手段

質量%でC:0.13〜0.35%、Si:0.20〜1.15%、Mn:0.20〜1.80%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.00〜3.50%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を浸炭焼入焼戻し又は浸炭窒化焼入焼戻しした状態であって、下記の式(1)で求められるMsが該鋼の最表面から100μmの深さ位置では140℃以下で300μmの深さ位置では220℃以下、下記の式(2)で求められるMdが該鋼の最表面から100μmの深さ位置では110℃以下で300μmの深さ位置では250℃以下、該鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置における残留γ量が25〜50vol%でレンズ状マルテンサイト組織が30vol%以上の、水素侵入環境下のはく離寿命に優れる軸受用鋼。Ms(℃)=539−423C−30.4Mn−12.1Cr−17.7Ni−7.5Mo ・・・(1)Md(℃)=551−462C−9.2Si—8.1Mn−29Ni−13.7Cr−18.5Mo ・・・(2)

概要

背景

自動車用電装軸受等において、水素を起因とする転がり疲れによる組織変化が発生し、やがて白色組織変化を伴いながら大きなき裂成長して、早期破損を起こすことが問題となっている。また、その他、たとえば海上風車用軸受等の潤滑油の分解等を介して水素が発生し、侵入するような軸受用途に対しても、同様の早期破損が懸念されている。これらの組織変化を伴う早期はく離は、軸受の小型・軽量化にともなう荷重増大や、伝達効率向上のための低粘度潤滑油の使用が進むなか、いっそう顕在化する可能性が高く、その対策の実施が強く求められている。

そこで、これらの水素を起因としたはく離の対策として、潤滑油側での水素の発生および鋼中への水素の侵入の防止などの鋼材以外の観点からの方策が採られている。しかしながら、これらの方策のみでは不十分な場合や適用が困難な場合があり、軸受の素材となる鋼材についても対策が求められている。

このような状況に対して、軸受の転がり環境における潤滑油分解による水素発生および水素侵入による早期はく離に対し、鋼材側での対策として、V、Ti、Nbといった炭化物生成元素を添加することで、炭化物に水素をトラップさせることによって、鋼材の長寿命化を図る技術がある(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらの元素の添加は素材コストの増加をもたらす。また、これらの炭化物形成元素の添加自体が応力集中源となる大型の炭化物を生じさせる可能性が高く、水素が炭化物周囲に局在化して早期破損の原因となりうるため、この方策のみでは長寿命化に対して限界がある。

また、本願出願人は、Crを2.30%以上含有するなどする、規定された成分範囲の鋼成分からなる鋼に対し、さらに浸炭焼入焼戻し後のまたは浸炭窒化焼入焼戻し後の鋼の最表面から100〜300μmの母相成分中に固溶したSi、Mn、Cr、Ni、Moの合計を3.0%以上とし、さらに残留オーステナイト(以下「残留γ」という。)の量を20〜50vol%として、その残部の組織マルテンサイト組織であることを特徴とする耐白色組織変化はく離寿命に優れる軸受用鋼を提案している(特許文献2参照。)。

この文献では、水素が侵入し、水素を起因とした白色組織変化が起こる環境においても、白色組織変化を抑制しうる軸受用鋼が提案されている。しかしながら、この技術においては、残留γ量のみが注目されているにすぎず、残留γの量を制御する以外の事項、たとえば残留γの分散状態や、あるいはマルテンサイト組織の形態を任意に制御することは試みられていなかった。たとえば、マルテンサイトの形態としては、ラス形態、レンズ状形態、薄板状形態といったものが知られているところ、その制御の必要性については考慮されていなかった。そこで、この文献においては、はく離寿命改善のために少なくとも2.30%以上のCrの添加が必要となっており、コスト面などに課題が残っていた。

概要

水素起因の転がり疲れによるはく離寿命に優れる軸受用鋼を提供すること 質量%でC:0.13〜0.35%、Si:0.20〜1.15%、Mn:0.20〜1.80%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.00〜3.50%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を浸炭焼入焼戻し又は浸炭窒化焼入焼戻しした状態であって、下記の式(1)で求められるMsが該鋼の最表面から100μmの深さ位置では140℃以下で300μmの深さ位置では220℃以下、下記の式(2)で求められるMdが該鋼の最表面から100μmの深さ位置では110℃以下で300μmの深さ位置では250℃以下、該鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置における残留γ量が25〜50vol%でレンズ状マルテンサイト組織が30vol%以上の、水素侵入環境下のはく離寿命に優れる軸受用鋼。Ms(℃)=539−423C−30.4Mn−12.1Cr−17.7Ni−7.5Mo ・・・(1)Md(℃)=551−462C−9.2Si—8.1Mn−29Ni−13.7Cr−18.5Mo ・・・(2) なし

目的

本発明が解決しようとする課題は、転がり疲れにおいて、水素起因による転がり疲れによって、組織変化が発生し、その組織変化の発達によって白色組織変化を伴った大型のき裂を形成し、早期はく離が生じるという課題に対し、浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しされた軸受用鋼のミクロ組織構成相である残留γとマルテンサイトについて、その形態・サイズ・体積分率・構成相の分散状態(相の位置関係)を制御することにより、はく離寿命の延長が可能な軸受用鋼を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

質量%で、C:0.13〜0.35%、Si:0.20〜1.15%、Mn:0.20〜1.80%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.00〜3.50%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、さらに浸炭焼入焼戻し又は浸炭窒化焼入焼戻しした状態であって、下記の式(1)で求められるマルテンサイト変態開始温度Msの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では140℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMsの範囲が220℃以下であること、下記の式(2)で求められるγ組織安定度指標Mdの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では110℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMdの範囲が250℃以下であること、さらに該鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置における残留γ量が25〜50vol%であってレンズ状マルテンサイト組織が30vol%以上であること、を特徴とする、水素侵入環境下のはく離寿命に優れる軸受用鋼。Ms(℃)=539−423C−30.4Mn−12.1Cr−17.7Ni−7.5Mo・・・(1)Md(℃)=551−462C−9.2Si—8.1Mn−29Ni−13.7Cr−18.5Mo・・・(2)ここで、式(1)ならびに(2)の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素含有量代入され、含有しない元素が存在する場合は、該当する元素の含有量をゼロとして値を求める。

請求項2

請求項1の化学成分に加えて、さらに、質量%で、Ni:0.10〜4.00%、Mo%:0.03〜1.00%、V:0.01〜0.30%、Nb:0.01〜0.20%、Ti:0.01〜0.20%から選択した1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、さらに浸炭焼入焼戻し又は浸炭窒化焼入焼戻しした状態であって、下記の式(1)で求められるマルテンサイト変態開始温度Msの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では140℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMsの範囲が220℃以下であること、下記の式(2)で求められるγ組織の安定度の指標Mdの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では110℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMdの範囲が250℃以下であること、さらに該鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置における残留γ量が25〜50vol%であってレンズ状マルテンサイト組織が30vol%以上であること、を特徴とする、水素侵入環境下のはく離寿命に優れる軸受用鋼。Ms(℃)=539−423C−30.4Mn−12.1Cr−17.7Ni−7.5Mo・・・(1)Md(℃)=551−462C−9.2Si—8.1Mn−29Ni−13.7Cr−18.5Mo・・・(2)ここで、式(1)ならびに(2)の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素が存在する場合は、該当する元素の含有量をゼロとして値を求める。

技術分野

0001

本発明は、鋼材中水素侵入することで水素を起因とする転がり疲れによる組織変化が発生する環境において、はく離寿命に優れる軸受用鋼に関する。

背景技術

0002

自動車用電装軸受等において、水素を起因とする転がり疲れによる組織変化が発生し、やがて白色組織変化を伴いながら大きなき裂成長して、早期破損を起こすことが問題となっている。また、その他、たとえば海上風車用軸受等の潤滑油の分解等を介して水素が発生し、侵入するような軸受用途に対しても、同様の早期破損が懸念されている。これらの組織変化を伴う早期はく離は、軸受の小型・軽量化にともなう荷重増大や、伝達効率向上のための低粘度潤滑油の使用が進むなか、いっそう顕在化する可能性が高く、その対策の実施が強く求められている。

0003

そこで、これらの水素を起因としたはく離の対策として、潤滑油側での水素の発生および鋼中への水素の侵入の防止などの鋼材以外の観点からの方策が採られている。しかしながら、これらの方策のみでは不十分な場合や適用が困難な場合があり、軸受の素材となる鋼材についても対策が求められている。

0004

このような状況に対して、軸受の転がり環境における潤滑油分解による水素発生および水素侵入による早期はく離に対し、鋼材側での対策として、V、Ti、Nbといった炭化物生成元素を添加することで、炭化物に水素をトラップさせることによって、鋼材の長寿命化を図る技術がある(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらの元素の添加は素材コストの増加をもたらす。また、これらの炭化物形成元素の添加自体が応力集中源となる大型の炭化物を生じさせる可能性が高く、水素が炭化物周囲に局在化して早期破損の原因となりうるため、この方策のみでは長寿命化に対して限界がある。

0005

また、本願出願人は、Crを2.30%以上含有するなどする、規定された成分範囲の鋼成分からなる鋼に対し、さらに浸炭焼入焼戻し後のまたは浸炭窒化焼入焼戻し後の鋼の最表面から100〜300μmの母相成分中に固溶したSi、Mn、Cr、Ni、Moの合計を3.0%以上とし、さらに残留オーステナイト(以下「残留γ」という。)の量を20〜50vol%として、その残部の組織マルテンサイト組織であることを特徴とする耐白色組織変化はく離寿命に優れる軸受用鋼を提案している(特許文献2参照。)。

0006

この文献では、水素が侵入し、水素を起因とした白色組織変化が起こる環境においても、白色組織変化を抑制しうる軸受用鋼が提案されている。しかしながら、この技術においては、残留γ量のみが注目されているにすぎず、残留γの量を制御する以外の事項、たとえば残留γの分散状態や、あるいはマルテンサイト組織の形態を任意に制御することは試みられていなかった。たとえば、マルテンサイトの形態としては、ラス形態、レンズ状形態、薄板状形態といったものが知られているところ、その制御の必要性については考慮されていなかった。そこで、この文献においては、はく離寿命改善のために少なくとも2.30%以上のCrの添加が必要となっており、コスト面などに課題が残っていた。

先行技術

0007

特開2008−280583号公報
特開2017−053002号公報

発明が解決しようとする課題

0008

本発明が解決しようとする課題は、転がり疲れにおいて、水素起因による転がり疲れによって、組織変化が発生し、その組織変化の発達によって白色組織変化を伴った大型のき裂を形成し、早期はく離が生じるという課題に対し、浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しされた軸受用鋼のミクロ組織構成相である残留γとマルテンサイトについて、その形態・サイズ・体積分率・構成相の分散状態(相の位置関係)を制御することにより、はく離寿命の延長が可能な軸受用鋼を提供することである。

課題を解決するための手段

0009

さて、発明者らは、さらなる鋭意検討のもと、水素起因の転がり疲れによる組織変化の発達を抑制することによって、はく離寿命が向上することを見出した。そして、はく離寿命向上のためには、従来提案されていた残留γ量を増量する対策のみでは不十分であり、浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しされた軸受用鋼のミクロ組織の構成相である残留γとマルテンサイトについて、その形態・サイズ・体積分率・分散状態(両構成相の位置関係)について適正に制御することが重要であることを見出した。

0010

発明者らは、水素が侵入し、水素を起因とした転がり疲れが起こる環境において、まず組織変化が発生し、それらが発達して白色組織変化を伴った大型のき裂を形成し、早期破損が発生すると推定している。
この組織変化は疲労の初期の段階において、針状を呈する形状で出現し、その長さは数μm以下程度と微細である。その発生箇所は、これまでラス状マルテンサイト組織のブロック界面や旧オーステナイト粒界旧γ粒界)と考えられてきた。この針状を呈する組織変化は、転がり疲れが進行していく過程でき裂化し、そのき裂の伝ぱやき裂同士の連結によって成長していくことで白色組織変化を伴いながら大型のき裂に成長し、はく離をもたらすとみている。つまり、針状を呈する組織変化の制御が長寿命化の鍵と考えられる。

0011

そこで、この転がり疲れの初期段階における針状を呈する組織変化の挙動に注目し、鋭意研究を行った。発明者らは、肌焼鋼スラスト型の転がり疲れ試験片形状に加工した後に浸炭焼入焼戻しを行い、一定量以上の残留γ量を確保しつつ、マルテンサイト組織の形態がラス状マルテンサイト組織ではなく、レンズ状マルテンサイト組織主体になるようにミクロ組織を制御した。

0012

続いて、試験片水素チャージを行ってから、転がり疲れ試験を実施し、水素影響下の転がり疲れにおける針状を呈する組織変化の発生箇所とミクロ組織との関係を調べた。その結果、レンズ状マルテンサイト組織とした場合、針状を呈する組織変化がレンズ状マルテンサイト組織における特有結晶面において発生して、その長さが短くなりやすいために、伝ぱ段階に移行し難いことを突き止めた。

0013

さらに、針状を呈する組織の先端部分は、レンズ状マルテンサイトに隣接して存在する微細かつ塊状の残留γ内で留まっていることを見出した。つまり、残留γの分散状態の制御を通じて、き裂が大きく成長しないように留めることが可能であることを見出した。

0014

これらの結果をもとに、浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しされた軸受用鋼のミクロ組織の構成相としての残留γとマルテンサイトについて、その形態・サイズ・体積分率・ミクロ組織の構成相の分散状態(相の位置関係)を制御することにより、はく離寿命の延長が可能な軸受用鋼のはく離寿命の延長が可能なことを見出して本発明に至った。

0015

そこで、上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、質量%で、C:0.13〜0.35%、Si:0.20〜1.15%、Mn:0.20〜1.80%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.00〜3.50%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、
さらに浸炭焼入焼戻し又は浸炭窒化焼入焼戻しした状態であって、
下記の式(1)で求められるマルテンサイト変態開始温度Msの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では140℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMsの範囲が220℃以下であること、
下記の式(2)で求められるオーステナイト組織(γ組織)の安定度指標Mdの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では110℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMdの範囲が250℃以下であること
さらに該鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置における残留γ量が25〜50vol%であってレンズ状マルテンサイト組織が30vol%以上であること、
を特徴とする、水素侵入環境下のはく離寿命に優れる軸受用鋼である。

Ms(℃)=539−423C−30.4Mn−12.1Cr−17.7Ni−7.5Mo ・・・(1)

Md(℃)=551−462C−9.2Si—8.1Mn−29Ni−13.7Cr−18.5Mo ・・・(2)

ここで、式(1)ならびに(2)の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量代入され、含有しない元素が存在する場合は、該当する元素の含有量をゼロとして値を求める。

0016

本発明の第2の手段では、上記の第1の手段の化学成分に加えて、さらに、質量%で、Ni:0.10〜4.00%、Mo%:0.03〜1.00%、V:0.01〜0.30%、Nb:0.01〜0.20%、Ti:0.01〜0.20%から選択した1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、
さらに浸炭焼入焼戻し又は浸炭窒化焼入焼戻しした状態であって、
下記の式(1)で求められるマルテンサイト変態開始温度Msの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では140℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMsの範囲が220℃以下であること、
下記の式(2)で求められるγ組織の安定度の指標Mdの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では110℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMdの範囲が250℃以下であること、
さらに該鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置における残留γ量が25〜50vol%であってレンズ状マルテンサイト組織が30vol%以上であること、
を特徴とする、水素侵入環境下のはく離寿命に優れる軸受用鋼である。

Ms(℃)=539−423C−30.4Mn−12.1Cr−17.7Ni−7.5Mo ・・・(1)

Md(℃)=551−462C−9.2Si—8.1Mn−29Ni−13.7Cr−18.5Mo ・・・(2)

ここで、式(1)ならびに(2)の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素が存在する場合は、該当する元素の含有量をゼロとして値を求める。

発明の効果

0017

上記の手段とすることで、本発明の軸受用鋼およびこの鋼からなる軸受部品は、浸炭焼入焼戻し後または浸炭窒化焼入焼戻し後の鋼のマルテンサイト変態開始温度Msの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では140℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMsの範囲が220℃以下であること、また当該鋼のγ組織の安定度の指標としてMdの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では110℃以下であり、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMdの範囲が250℃以下であること、さらに該鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置における残留γ量が25〜50vol%であってレンズ状マルテンサイト組織が30vol%以上であることとすることができる。

0018

そこで、本発明の手段によると、水素が侵入しやすい環境下において、代表的な軸受用素材であるJIS規定の高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ2に対して3倍以上の疲労寿命を有し、水素環境下での寿命特性に優れることから、部品の長寿命化に効果を奏するものとなる。

0019

このことは、使用中に鋼中に水素が侵入し、水素を起因とする転がり疲れによる組織変化が発生する実際の使用環境模擬して、陰極チャージ法により試験水素を添加した後に、最大接触面圧5.3GPaでスラスト型転動疲労試験機を用いて、はく離までの寿命を評価した場合においても確認できるところであり、代表的な軸受用素材であるJIS規定の高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ2に対して3倍以上の疲労寿命を有し、水素環境下での寿命特性に優れることから、部品の長寿命化に効果を奏することがわかる。

図面の簡単な説明

0020

浸炭焼入れパターンの一例を示す図である。

実施例

0021

本発明を実施するための形態について説明するのに先立ち、本発明の各手段に記載の軸受用鋼の化学成分について、その成分範囲の限定理由ならびに当該鋼の各種の限定理由について以下に説明する。なお、化学成分の%は質量%であり、残留γ量、およびレンズ状マルテンサイトの体積分率の%はvol%である。

0022

(C:0.13〜0.35%)
Cは、鋼製部品焼入れしたときの芯部の焼入れ性、あるいは鋼製部品の鍛造性機械加工性に影響する元素である。Cは0.13%未満では十分な芯部の硬さが得られずに強度が低下するので、Cは0.13%以上の添加が必要である。一方、Cは0.35%より多く添加すると、鋼素材の硬さが増加し、被削性および鍛造性等の加工性阻害する。そこで、Cは0.13〜0.35%とし、好ましくは、0.15〜0.30%とする。

0023

(Si:0.20〜1.15%)
Siは、脱酸に必要な元素であり、さらに、高温環境での鋼素材の強度を高め、組織変化の抑制、転動疲労寿命の向上につながる元素である。これらの効果を十分に得るためには、Siは0.20%以上の添加が必要である。また、Siは、γ組織の安定度の指標であるMdを低下させることで、残留γの安定度を高める。
一方、Siは1.15%より多くなると、鋼素材の硬さが増加し、被削性および鍛造性等の加工性を阻害し、また、浸炭阻害を起こし、浸炭または浸炭窒化しても十分な材料強度が得られない。そこで、Siは0.20〜1.15%とし、好ましくは0.25〜0.80%とし、より好ましくは0.25〜0.65%とする。

0024

(Mn:0.20〜1.80%)
Mnは、焼入れ性の確保に必要な元素であると同時に、γ安定化元素であるため、鋼素材を浸炭または浸炭窒化後に焼入れした際、残留γ量を増加させ、水素に起因した組織変化の抑制に寄与する元素である。また、Mnは、マルテンサイト変態開始温度Msを低下させることで、低温で生成するレンズ状マルテンサイトの生成を促進する。さらに、Mnは、γ組織の安定度の指標であるMdを低下させることで、残留γの安定度を高める。これらの効果を十分に得るには、Mnは0.20%以上の添加が必要である。
一方、Mnは1.80%より多くなると、鋼素材の硬さが増加し、被削性および鍛造性等の加工性を阻害し、また、Sと結合してMnSとなることで、水素を起因とした組織変化の起点として作用する。
そこで、Mnは0.20〜1.80%とし、好ましくは、0.45〜1.60%とし、さらに好ましくは、0.65〜1.25%とする。

0025

(P:0.030%以下)
Pは、0.030%より多く含有されると、鋼素材を脆化させ、疲労強度を低下させる元素である。そこで、Pは0.030%以下に制限する。

0026

(S:0.030%以下)
Sは、0.030%より多く含有されると、鋼素材の冷間加工性を阻害し、疲労強度を低下させる元素である。そこで、Sは0.030%以下に制限する。

0027

(Cr:1.00〜3.50%)
Crは、焼入れ性の確保に必要な元素であり、鋼素材を浸炭または浸炭窒化後に焼入れした際に、残留γ量を増加させ、水素を起因とした組織変化の抑制に寄与する元素である。また、Crはマルテンサイト変態開始温度Msを低下させることで、低温で生成するレンズ状マルテンサイトの生成を促進する。さらにCrは、γ組織の安定度の指標であるMdを低下させることで、残留γの安定度を高める。また、Crは微細で均質な残留γを形成するのに有効であり、水素を起因とした組織変化の抑制効果をさらに高める。これらの効果を得るには、Crは1.00%以上の添加が必要である。
一方、Crは過剰になると浸炭または浸炭窒化時に、鋼材最表面で酸化物を形成することで浸炭阻害を引き起こし、強度劣化につながる元素である。また、Crは浸炭時に粗大炭化物を形成し、粗大炭化物の周囲において水素を起因とした白色組織変化の起点ともなるので、Crは3.50%以下とする必要がある。
そこで、Crは1.00〜3.50%とし、好ましくは1.10〜3.20%とし、より好ましくは1.30〜2.25%とする。

0028

(Ni:0.10〜4.00%)
Niは、添加により鋼の焼入れ性を高める元素であると同時に、γ安定化元素であるため、鋼素材の浸炭または浸炭窒化後に焼入れした際に残留γ量の増加をもたらす。また、Niは、マルテンサイト変態開始温度Msを低下させることで、低温で生成するレンズ状マルテンサイトの生成を促進する。さらに、Niは、γ組織の安定度の指標であるMdを低下させることで、残留γの安定度を高める。これらの効果を十分に得るには、Niは0.10%以上の添加が必要である。
一方、Niは過剰に添加すると、素材コストが大きく増加するので、4.00%を上限として添加するのが良い。
そこで、Niは0.10〜4.00%とする。望ましくは、Niは0.25〜2.50%とする。

0029

(Mo:0.03〜1.00%)
Moは、添加により鋼材の焼入性を高める元素であり、鋼材を浸炭または浸炭窒化した際に、残留γ量を増加し、組織を均質化し、残留γを均質に分布させるのに有効である。また、Moは、マルテンサイト変態開始温度Msを低下させることで、低温で生成するレンズ状マルテンサイトの生成を促進する。さらに、Moは、γ組織の安定度の指標であるMdを低下させることで、残留γの安定度を高める。これらの効果を十分に得るためには、Moは0.03%以上が必要である。
一方、Moは過剰に添加すると素材コストが大きく増加し、また、組織を均質化する組織変化の抑制の効果は1.00%で飽和するので、Moは1.00%以下の添加とする。
そこで、Moは0.03〜1.00%とし、好ましくは、0.10〜0.65%とする。

0030

(V:0.01〜0.30%)
Vは、結晶粒を微細化し、粒界における平均水素濃度を低減することで水素を起因とした組織変化を抑制し、また、浸炭または浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物や炭窒化物を形成することで、水素トラップとして機能して組織変化の抑制に有効な元素であり、十分な効果を得るには、0.01%以上の添加が必要である。一方、過剰に添加すると粗大な炭化物や炭窒化物が生成して、水素起因の組織変化のサイトとなり、かえって寿命に悪影響を及ぼすので、Vは0.30%以下とする。そこで、Vは0.01〜0.30%とする。

0031

(Nb:0.01〜0.20%)
Nbは、結晶粒を微細化し、粒界における平均水素濃度を低減することで水素を起因とした組織変化を抑制する。また、浸炭または浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物や炭窒化物を形成することで水素トラップとして機能し、組織変化の抑制に有効である。これらの十分な効果を得るためには、Nbは0.01%以上の添加が必要である。一方、過剰に添加すると粗大な炭化物や炭窒化物が生成して、水素起因の組織変化のサイトとなり、かえって寿命に悪影響を及ぼすので、Nbの添加は0.20%以下とする。そこで、Nbは0.01〜0.20%とする。

0032

(Ti:0.01〜0.20%)
Tiは、結晶粒を微細化し、粒界における水素濃度を低減することで水素を起因とした白色組織変化を抑制する。また、Tiは浸炭または浸炭窒化時にサブミクロンオーダーの炭化物を形成することで、水素トラップとして機能し、白色組織変化の抑制に有効である。これらの効果を十分に得るためには、Tiは0.01%以上の添加が必要である。一方、過剰に添加すると粗大な炭化物が生成して、水素起因の組織変化のサイトとなり、かえって寿命に悪影響を及ぼすので、Tiの添加は0.20%以下とする。そこで、Tiは0.01〜0.20%とする。

0033

(浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しされた鋼の最表面から100μm〜300μmの範囲を評価する理由)
浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しされた鋼の最表面から100〜300μmの範囲では、軸受の使用環境における転がり疲れによって比較的高い繰り返しのせん断応力を受ける。この領域に水素が侵入すると、転がり疲れの作用と相まって針状を呈する組織変化が生じる。そこで、この深さ領域における組織変化の発達を抑制することが重要である。そのために本発明では、浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しされた鋼の最表面から100〜300μmの範囲内において、マルテンサイト変態開始温度Ms、γ組織の安定度の指標Md、残留γの量およびサイズ、レンズ状マルテンサイト組織の体積分率、を規定するものとしている。

0034

(浸炭焼入焼戻しされた鋼または浸炭窒化焼入焼戻しされた鋼の最表面から100μmの深さ位置におけるマルテンサイト変態開始温度Msを140℃以下、最表面から300μmの深さ位置におけるマルテンサイト変態開始温度Msを220℃以下とすること)
浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しにおいて、マルテンサイトの形態をレンズ状マルテンサイト主体に制御することにより、水素侵入環境下でのはく離寿命を向上させることができる。そのためには、浸炭焼入焼戻しされた状態または浸炭窒化焼入焼戻しされた状態の鋼の最表面から100μmの深さ位置におけるマルテンサイト変態開始温度Msを140℃以下とし、鋼の最表面から300μmの深さ位置におけるマルテンサイト変態開始温度Msを220℃以下とすると良い。他方、それぞれの深さ位置について規定したMs点を上回る場合、レンズ状マルテンサイトの所要量を確保しにくくなることから、剥離寿命の向上が難しくなる。

0035

(浸炭焼入焼戻しされた鋼または浸炭窒化焼入焼戻しされた鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置における残留γ量:25〜50vol%)
残留γは水素のトラップサイトとして機能することで水素の局所的な濃化を抑制し、また、鋼中の水素の拡散速度を遅くする効果があり、水素を起因とした組織変化の抑制に有効である。さらに、レンズ状マルテンサイトの周囲に隣接するように残留γを生成させておくことによって、レンズ状マルテンサイトの内部で水素侵入環境下の転がり疲れによって生成する針状を呈する組織がき裂化した後の伸長や連結を抑制し、その後の白色組織変化を伴った大型のき裂への成長、ひいては早期はく離の抑制に有効に作用する。これらの効果を得るために、残留γ量は25vol%以上が必要である。
一方、残留γ量が50vol%より多いと、転がり疲れ部品として必要な鋼の硬さが得られず、また使用中の寸法安定性を悪化させる。そのため残留γ量は50vol%以下とする。
そこで、浸炭窒化焼入焼戻し後の該鋼の最表面から100〜300μmの範囲における残留γ量は25〜50vol%とし、より望ましくは、残留γは30〜50vol%とし、さらに望ましくは、残留γは35〜50vol%とする。
なお、円相当直径が0.2〜5μmの残留γを、レンズ状マルテンサイトの周囲に隣接して分散させるのが良い。

0036

また、残留γが水素侵入環境下での転がり疲れの過程で分解しやすいと、寿命に悪影響を及ぼすことから、残留γが安定に存在することが良く、そのためにγ組織の安定度の指標であるMdについても規定しておくとよい。

0037

(浸炭焼入焼戻しされた鋼または浸炭窒化焼入焼戻しされた鋼の最表面から100μm〜300μmの深さ位置におけるレンズ状マルテンサイトの量:30vol%以上)
転がり疲れにおいて、水素起因による白色組織変化を伴った早期はく離に至る過程は、針状を呈する初期き裂が形成され、さらにその伝ぱや連結によって大型の内部き裂を形成することにより引き起される。
マルテンサイトの形態をレンズ状マルテンサイト組織主体に制御することで、ラス状マルテンサイト組織を主体とする場合に比べて、マルテンサイト内部に生じる針状を呈する組織変化の長さを短くすることが可能となり、組織変化に起因するはく離寿命を向上させることができる。その効果を得るには、レンズ状マルテンサイト組織の体積分率を30vol%以上とするのが良い。
なお、このときのレンズ状マルテンサイトの厚みとしては、0.2〜2.5μmとしておくのが望ましい。

0038

(浸炭焼入焼戻しされた鋼または浸炭窒化焼入焼戻しされた鋼の最表面から100μmの深さ位置におけるγ組織の安定度の指標となるMdを110℃以下、最表面から300μmの深さ位置におけるMdを250℃以下とすること)
浸炭焼入焼戻しまたは浸炭窒化焼入焼戻しにおいて、残留γを第二相として、適切な量を析出させつつ、なおかつ残留γを水素侵入環境下での転がり疲れにおいて安定に残存させて、レンズ状マルテンサイト組織と隣接するように維持することにより、水素侵入環境下でのはく離寿命を向上させることができる。そのためには、浸炭焼入焼戻しされた状態または浸炭窒化焼入焼戻しされた状態の鋼において、γ組織の安定度の指標Mdの範囲が該鋼の最表面から100μmの深さ位置では110℃以下とし、かつ該鋼の最表面から300μmの深さ位置ではMdの範囲が250℃以下とするのが良い。他方、それぞれの深さ位置について規定したにMdを上回る場合、安定な残留γの所要量を確保しにくくなることから、剥離寿命に劣ることとなる。

0039

次いで、発明の実施の形態を説明する。
表1に示す化学組成からなる本発明の成分を満たす実施例鋼No.A〜Kの試料、および本発明で規定する条件の一部を満たさない比較例鋼No.L、Mの試料を、それぞれ100kg真空溶解炉で溶製した。
なお、比較例鋼No.LはJIS規定の高炭素クロム軸受鋼鋼材であるSUJ2であり、比較例鋼No.MはJIS規定のクロム鋼鋼材であるSCr420である。

0040

これらの鋼のうち比較例鋼No.LのSUJ2を除いた鋼は、1250℃で直径65mmに鍛伸して、900℃で1時間保持した後、空冷して焼ならしを行った。
また、比較例鋼No.LのSUJ2は、1150℃で直径65mmに鍛伸して、900℃で1時間保持した後、空冷して焼ならしを行ってから、さらに800℃で球状化焼鈍を実施した。
その後、比較例鋼No.LのSUJ2を除く全ての鋼を、外径60mm、内計20mm、厚さ8.3mmのスラスト型転動疲労試験片粗加工した。比較例鋼No.LのSUJ2については、外径60mm、内径20mm、厚さ6.0mmのスラスト型転動疲労試験片に粗加工した。
なお、実施の形態はこの試験片の形状に限らないので、たとえば、軸受等の部品形状の鋼に浸炭焼入焼戻し又は浸炭窒化焼入焼戻しを施して本発明にいう特性を備えたものであれば本発明にいう鋼に属する。

0041

0042

続いて、実施例鋼No.E、No.F、および比較例鋼No.LのSUJ2を除く、実施例鋼No.A〜D、G〜Kおよび比較例鋼No.Mについて、スラスト型転動疲労試験片を、図1に示す浸炭焼入れパターンの条件(浸炭温度:930℃、狙いのカーボンポテンシャル=0.90%)でガス浸炭焼入れを実施した後に、180℃で90分保持して空冷することで焼戻し処理を実施した。これらは表2に記載の通り、加工No.1〜4、加工No.7〜11および加工No.13とした。

0043

続いて、実施例鋼No.E、No.Fについて、スラスト型転動疲労試験片を、図1に示す浸炭焼入れパターンの条件(浸炭温度:930℃、狙いのカーボンポテンシャル=1.10%)でガス浸炭焼入れを実施した後に、180℃で90分保持して空冷することで焼戻し処理を実施した。これらは表2に記載の通り、加工No.5、6とした。

0044

また、比較例鋼No.LのSUJ2については、浸炭は行わず840℃で30分保持して油冷を行い、焼入れした後に、180℃で90分保持して空冷することで焼戻し処理を実施した。これを表2に記載の通り、加工No.12とした。

0045

なお、実施例鋼No.D、Fに示す鋼を同様の工程で、試験片の粗加工まで実施した後に、図1と同様の浸炭焼入れパターンの条件(浸炭温度:930℃、狙いのカーボンポテンシャル=0.90%)でガス浸炭焼入れを実施した後に、残留γ量の減少を目的に、液体窒素によるサブゼロ処理を実施し、その後、180℃で90分保持して空冷して焼戻し処理を実施して比較例鋼の加工No.14、15とした。

0046

なお、図1に示した浸炭焼入れパターンは一例であり、これ以外の浸炭焼入れパターンや浸炭窒化焼入れパターンにより、本発明の範囲を満たすようにしてもよい。また、浸炭あるいは浸炭窒化後に2次焼入れを行うことについても、本発明の範囲を満たすように条件を選定して実行してもよい。

0047

以上の熱処理を行った後に、比較例鋼の加工No.LのSUJ2を除く、全ての試験片については、試験面を0.15mm研磨し、さらに反対側を研磨することで高さを8.0mmに仕上げた。比較例鋼の加工No.LのSUJ2については、試験面を0.20mm研磨し、さらに反対側を研磨することで高さを5.6mmに仕上げた。また、これらの試験面は、バフ研磨にて鏡面仕上げとした。

0048

上記で作製したスラスト型転動疲労試験片を使用し、水素侵入環境下のはく離寿命を測定するために、表3に示す条件で、陰極チャージ法にて試験片に水素添加した後に、最大接触面圧は5.3GPa、転動体は3/8インチ鋼球を三球使用し、潤滑はISO VG10の油浴潤滑とした条件下でのスラスト型転動疲労試験を行って、はく離までの転動疲労寿命(サイクル数、ここではL50寿命で評価。)を評価した。また、マルテンサイト変態開始温度Msの計算のために、浸炭焼入焼戻し後に仕上げ研磨されたスラスト型転動疲労試験片の断面深さ方向にEPMA測定を行って、浸炭鋼の表面から100μm、300μmの位置の炭素濃度値を求め、下記の(式1)で求められるマルテンサイト変態開始温度Msをそれぞれ算出した。

Ms(℃)=539−423C−30.4Mn−12.1Cr−17.7Ni−7.5Mo ・・・(1)

同様に、下記の式(2)で求められるγ組織の安定度の指標Mdをそれぞれ算出した。

Md(℃)=551−462C−9.2Si—8.1Mn−29Ni−13.7Cr−18.5Mo ・・・(2)

ここで、式(1)ならびに(2)の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、含有しない元素が存在する場合は、該当する元素の含有量をゼロとして値を求めた。

0049

続いて、レンズ状マルテンサイト組織の体積分率の測定について説明する。レンズ状マルテンサイト組織の体積分率は、スラスト型転動疲労試験片の最表面から100μmもしくは、300μmの位置の深さ位置について鏡面研磨およびナイター腐食ののちにSEM写真撮影し、それを用いてポイントカウンティング法によって求めた。また、同様にスラスト型転動疲労試験片を用いて最表面から100μmもしくは、300μmの位置の深さとなるまで電解研磨を実施した後に、X線回折法を用いて残留γ量の測定を行った。

0050

なお、試験片の最表面から所定の深さ位置(100μm〜300μmの範囲内)における残留γの大きさ(円相当直径)や、レンズ状マルテンサイト組織の厚みを測定する場合は、所定の深さ位置において、表面の加工変質層、およびひずみが極力無くなるまで研磨し、そののち研磨まま、あるいは必要に応じて化学腐食を行った状態としてから、電子後方散乱回折(EBSD)観察像を取得してから求める方法やSEM観察による写真から求める方法や、それらを組み合わせた方法によって求めることができる。
なお、円相当直径とは、求められた投影面積について、この面積に相当する規則的形状である円形幾何学的に求めて換算した径をいう。

0051

表2に、各加工No.について、本発明で規定した事項に関する各種測定結果ならびにはく離寿命の評価結果を示す。表2において、本発明に規定する範囲を満足する実施例である加工No.1〜11は、本発明に規定する範囲を満たさない比較例である加工No.12〜15に対して、水素侵入環境下におけるはく離寿命に優れていることが明らかである。
また、比較例のうち、加工No.13の試料No.Mは成分範囲が本発明の規定する範囲を満足するものの浸炭焼入焼戻し後の炭素濃度に応じたMs、Mdが請求範囲を満たさないため、L50寿命に劣っている。

0052

0053

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