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図面 (5)

課題

ダイヤモンド結晶構造中の炭素空孔中心が負電荷の状態に安定するダイヤモンドを有するセンサ素子を提供する。

解決手段

センサ素子が有するダイヤモンドを、n型にリンドープされており、かつ窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドとすることにより、ダイヤモンド格子中の炭素−空孔中心が中性状態になる確率が減少し、窒素−空孔中心が負電荷の状態に安定する。

概要

背景

ダイヤモンド結晶構造において、窒素空孔中心と呼ばれる複合欠陥が見られることがある。この窒素−空孔中心は、結晶格子炭素原子の位置に置き換わる形で入った窒素原子と、その窒素原子の隣接位置に存在する(炭素原子が抜けている)空孔との対からなるもので、NV中心(Nitrogen Vacancy center)とも呼ばれる。

このNV中心は、空孔に電子捕獲された状態(負電荷状態、以下「NV−」と呼ぶ)においては、電子が捕獲されていない状態(中性状態、以下「NV0」と呼ぶ)に比べて、外部磁場縦方向に揃えた電子スピン磁化を横方向に傾けた後、個々のスピン歳差運動が原因となり個々の向きがずれていって全体としての横磁化消失するまでの時間が長い。つまりNV−は長い横緩和時間デコヒーレンス時間、以下「T2」と呼ぶ)を示す。また、室温(約300K)下であっても長いT2値を示す。

NV−の電子スピン状態は外部の磁場に反応して変化し、この電子スピン状態の測定も室温下で可能であるため、NV中心を含むダイヤモンドは磁場センサ素子の材料として利用できる。

さらにNV−の電子スピン状態はマイクロ波照射などの方法により、外部から人為的に操作する(特定の電子スピン状態に置く)こともできる。この操作も室温下で可能であるため、T2が長いことと合わせて、NV中心は量子状態の書き込み・読み出しが安定して行える量子ビットとして利用可能なことが期待され、NV中心を含むダイヤモンドは量子情報素子や電子回路素子の材料として利用できる。

概要

ダイヤモンド結晶構造中の炭素−空孔中心が負電荷の状態に安定するダイヤモンドを有するセンサ素子を提供する。センサ素子が有するダイヤモンドを、n型にリンドープされており、かつ窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドとすることにより、ダイヤモンド格子中の炭素−空孔中心が中性状態になる確率が減少し、窒素−空孔中心が負電荷の状態に安定する。

目的

本発明では、NV中心がNV−に安定するダイヤモンドを有するセンサ素子を提供する

効果

実績

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請求項1

n型にリンドープされており、かつ1つ以上の窒素空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドを有する、センサ素子

請求項2

前記ダイヤモンドの結晶を構成する炭素原子のうち12Cの割合が99%超であり、前記ダイヤモンドに含まれるリン濃度が1×1015cm−3以上・1×1018cm−3以下である、請求項1に記載のセンサ素子。

請求項3

前記ダイヤモンドに含まれる前記窒素−空孔中心のデコヒーレンス時間T2が2.1ms超であり、対応のT2*が0.5ms超であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のセンサ素子。

請求項4

前記ダイヤモンドに含まれる前記窒素−空孔中心が、単一で交番磁場に対し3.1nTHz−1/2未満の値の感度を有し、単一で定磁場に対し20nTHz−1/2未満の値の感度を有する、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のセンサ素子。

請求項5

動作環境温度が10−3K以上・103K以下である、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のセンサ素子。

請求項6

請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の素子を有し、磁場、電場、温度、力学量、のうち少なくとも1つを測定する測定装置

請求項7

医療機器に組み込まれた測定装置、車載装置に組み込まれた測定装置、ライフサイエンス用装置に組み込まれた測定装置、のうち少なくとも1つであることを特徴とする、請求項6に記載の測定装置。

請求項8

炭素化合物リン化合物窒素原子、を含む雰囲気下において、n型にリンドープされており、かつ1つ以上の窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドを製造する工程を含む、センサ素子の製造方法。

請求項9

前記ダイヤモンドを製造する工程において、化学気相成長法によって基板上にダイヤモンド膜成長させる、請求項8に記載のセンサ素子の製造方法。

請求項10

n型にリンドープされており、かつ1つ以上の窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドを有する、電子回路素子

請求項11

n型にリンドープされており、かつ1つ以上の窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドを有する、量子情報素子。

技術分野

0001

本発明は、センサ素子に関するものであり、特にダイヤモンドを有するセンサ素子に関するものである。また本発明はこのセンサ素子を有する測定装置、センサ素子の製造方法にも関するほか、ダイヤモンドを有する電子回路素子、ダイヤモンドを有する量子情報素子にも関するものである。

背景技術

0002

ダイヤモンドの結晶構造において、窒素空孔中心と呼ばれる複合欠陥が見られることがある。この窒素−空孔中心は、結晶格子炭素原子の位置に置き換わる形で入った窒素原子と、その窒素原子の隣接位置に存在する(炭素原子が抜けている)空孔との対からなるもので、NV中心(Nitrogen Vacancy center)とも呼ばれる。

0003

このNV中心は、空孔に電子捕獲された状態(負電荷状態、以下「NV−」と呼ぶ)においては、電子が捕獲されていない状態(中性状態、以下「NV0」と呼ぶ)に比べて、外部磁場縦方向に揃えた電子スピン磁化を横方向に傾けた後、個々のスピン歳差運動が原因となり個々の向きがずれていって全体としての横磁化消失するまでの時間が長い。つまりNV−は長い横緩和時間デコヒーレンス時間、以下「T2」と呼ぶ)を示す。また、室温(約300K)下であっても長いT2値を示す。

0004

NV−の電子スピン状態は外部の磁場に反応して変化し、この電子スピン状態の測定も室温下で可能であるため、NV中心を含むダイヤモンドは磁場センサ素子の材料として利用できる。

0005

さらにNV−の電子スピン状態はマイクロ波照射などの方法により、外部から人為的に操作する(特定の電子スピン状態に置く)こともできる。この操作も室温下で可能であるため、T2が長いことと合わせて、NV中心は量子状態の書き込み・読み出しが安定して行える量子ビットとして利用可能なことが期待され、NV中心を含むダイヤモンドは量子情報素子や電子回路素子の材料として利用できる。

先行技術

0006

www.nature.comにて2009年4月6日にオンライン公開された、Nature Materials volume 8, pages 383-387 (2009)内の、Gopalakrishnan Balasubramanian、水落憲和ら論文「Ultralong spin coherence time in isotopically engineered diamond」

発明が解決しようとする課題

0007

ところが、従来のダイヤモンドではNV中心がNV−の状態に安定しない。特に表面付近では電荷が不安定であり、NV0状態のNV中心が多くみられる。電荷が不安定であることに起因して、室温におけるT2の値はある程度以上長くできず、非特許文献1に示されているような1.8ms程度がT2の限界となっていた。そのため、このダイヤモンドを有するセンサ素子の性能にも限界が生じていた。

0008

そこで本発明では、NV中心がNV−に安定するダイヤモンドを有するセンサ素子を提供することを目的とする。また本発明は、このセンサ素子を有する測定装置、センサ素子の製造方法、およびダイヤモンドを有する電子回路素子や量子情報素子を提供することも
目的とする。

課題を解決するための手段

0009

上記課題を解決するため、本発明に係るセンサ素子は、n型にリンドープされており、かつ1つ以上の窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドを有することを特徴とする。

0010

このセンサ素子が有するダイヤモンドについて、ダイヤモンドの結晶を構成する炭素原子のうち12Cの割合が99%超であり、前記ダイヤモンドに含まれるリン濃度が1×1015cm−3以上・1×1018cm−3以下であることが好ましい。

0011

またこのダイヤモンドについて、前記窒素−空孔中心のデコヒーレンス時間T2が2.1ms超であり、対応のT2*が0.5ms超であることが好ましい。

0012

またこのダイヤモンドについて、前記窒素−空孔中心が、単一で交番磁場に対し3.1nTHz−1/2未満の値の感度を有し、定磁場に対し20nTHz−1/2未満の値の感度を有することが好ましい。

0013

また本発明のセンサ素子は、動作環境温度が10−3K以上・103K以下であることが好ましい。

0014

また本発明のセンサ素子を含む装置として、磁場、電場、温度、力学量、のうち少なくとも1つを測定する測定装置を作ることができる。

0015

この測定装置は、医療機器に組み込まれた測定装置、車載装置に組み込まれた測定装置、ライフサイエンス用装置に組み込まれた測定装置、のうち少なくとも1つとすることができる。

0016

また本発明のセンサ素子の製造方法は、炭素化合物リン化合物、窒素原子、を含む雰囲気下において、n型にリンドープされており、かつ1つ以上の窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドを製造する工程を含むことを特徴とする。

0017

この製造方法は、化学気相成長法によって基板上にダイヤモンド膜成長させるものであることが好ましい。

0018

また本発明の電子回路素子は、n型にリンドープされており、かつ1つ以上の窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドを有することを特徴とする。

0019

また本発明の量子情報素子は、n型にリンドープされており、かつ1つ以上の窒素−空孔中心を結晶構造中に含んでいるダイヤモンドを有することを特徴とする。

発明の効果

0020

本発明のセンサ素子が有するn型にリンドープされたダイヤモンドは、NV中心がNV−の状態に安定し、従来よりも長いデコヒーレンス時間T2が得られる。このダイヤモンドを用いることにより、本発明のセンサ素子は従来に比べて優れた性能を有する。またこのセンサ素子は測定装置に使用するのに好適である。また同様のダイヤモンドを用いることにより、優れた電子回路素子や量子情報素子が得られる。

図面の簡単な説明

0021

実施形態の一例において用いられるリンドープn型ダイヤモンドと、従来のダイヤモンドにおける、NV中心の蛍光ダイミクスヒストグラム化したグラフであり、上側の図はリンドープn型ダイヤモンドのグラフ、下側の図はノンドープダイヤモンドのグラフ。
本実施形態のセンサ素子を有する測定装置の一例を示す模式図。
本実施形態において用いられるリンドープn型ダイヤモンドのT2値測定結果を示すグラフ。
本実施形態において用いられるリンドープn型ダイヤモンドと従来のダイヤモンドの空間分解能、および従来の磁場センサの空間分解能を比較して示すグラフ。

0022

本発明に係る実施形態の一例のセンサ素子において用いられる、n型にリンドープされたダイヤモンドについて説明する。このダイヤモンドは、単原子窒素を含むIb型ダイヤモンド結晶基板の(111)面上へダイヤモンド膜をホモエピタキシャル成長させたことによって製造された合成ダイヤモンドである。

0023

n型にリンドープされており、かつNV中心を1つ以上結晶構造中に含むダイヤモンドを製造可能な方法で合成ダイヤモンドを製造し、結晶を構成する炭素原子のうち12Cの割合が99%超であり、リン濃度が1×1015cm−3以上・1×1018cm−3以下となっているリンドープn型ダイヤモンドを用意する。

0024

このn型にリンドープされたダイヤモンドに含まれるNV中心は、従来のダイヤモンドに比べてNV−の状態に安定しやすい。図1に、リンドープn型ダイヤモンドにおけるNV中心の蛍光ダイナミクスと、リンドープを施されていない従来の合成ダイヤモンドにおけるNV中心の蛍光ダイナミクスとをヒストグラムにして示す。図1上側の図に示す通り、本実施形態のリンドープn型ダイヤモンドではNV0の状態に由来する蛍光ダイナミクスがほとんど現れておらず、従来の合成ダイヤモンドに比べてNV中心がNV−の状態に安定しやすくなっている。

0025

さらに、NV中心がNV−の状態に安定しやすいことにより、このダイヤモンドでは従来1.8ms程度が限界であったT2が2.1ms超となり、また対応のディフェージング時間も、従来より長い0.5ms超の値となる。

0026

またこのダイヤモンドの結晶中に存在するNV中心についても、単一のNV中心による交番磁場感度が従来の4.3nTHz−1/2に比べて優れた感度を示す。そしてこのダイヤモンドは単一のNV中心で優れた磁場感度を示すため、空間分解能についても優れた性能を示す。

0027

以上のように、n型にリンドープされたダイヤモンドは、室温下で長いT2を示し、また磁場に対する感度がNV中心1つあたり非常に高くなっており空間分解能も優れているため、センサ素子の材料として非常に優れている。

0028

本実施形態のセンサ素子20を有する測定装置10の一例を図2に示す。ここでは一例として磁場を測定する装置について説明する。なお具体的な装置としては原子間力顕微鏡などの走査型プローブ顕微鏡とすることができる。測定装置10のプローブ12先端に本実施形態のセンサ素子20が取り付けられる。このセンサ素子20は上述のリンドープn型ダイヤモンドを有するもので、ダイヤモンドの他にプローブ12に取り付けるための接続部材などを含んでいてもよい。

0029

測定装置10には、センサ素子20にレーザ光照射するレーザ部14と、センサ素子20にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部16と、センサ素子20から放たれる光子または電磁波を検出する検出部18が設けられている。なお検出部18はデータ処理部30と接続されている。このデータ処理部30は測定装置10と一体化したものであってもよいし、あるいは測定装置10の外部に設けられたコンピュータなどの外部装置であってもよい。

0030

この測定装置10により、測定対象50から発生している交番磁場52の測定を行うことができる。測定にあたっては、レーザ部14から照射されるレーザ光により、センサ素子20が有するダイヤモンドのNV中心を基底状態偏極させ、マイクロ波照射部16から照射されるマイクロ波により、NV中心を特定の電子スピン状態(基底状態と他の準位との重ね合わせ状態)に置く。

0031

プローブ12を測定対象50に近づけて、上述の操作により特定の電子スピン状態となったNV中心の電子スピンを、測定対象50の交番磁場52と相互作用させる。十分な時間の相互作用をさせると、NV中心の電子スピン状態は交番磁場52の強度に応じた状態となる。そしてレーザ部14からレーザ光をセンサ素子20へ照射し、センサ素子20から放たれる光子または電磁波を検出部18によって検出することにより、相互作用後の電子スピン状態を読み出す。

0032

検出部18が検出した相互作用後の電子スピン状態をデータ処理部30が受信し、その検出データを処理する。相互作用後の電子スピン状態はマイクロ波照射部16が設定した特定の電子スピン状態および測定対象50の交番磁場52に応じたものとなっているので、検出データを適切に処理することにより、交番磁場52がどのような磁場であるかを調べることができる。例えば相互作用後の電子スピン状態が基底状態となる確率を求めるなどの処理を行うことにより、測定対象50の交番磁場52の強度を算出することができる。

0033

以上のようにして測定装置10により交番磁場52が測定される。そして、リンドープn型ダイヤモンドのNV中心は室温でも安定であるため、測定を室温下で行うことができる。また、このNV中心は非常に安定であるため、環境温度が10−3Kの極低温や、103Kの高温環境であってもセンサ素子20は正常に動作する。その一方で、室温下での測定であれば、超伝導量子干渉計(superconducting quantum interference device, SQUID)のような従来の装置では必須となる冷却機構を必要としないため、測定装置10は小型に作ることができる。

0034

なお、以上においては磁場の測定について説明したが、NV中心の電子スピンを測定対象と相互作用させることにより、磁場だけでなく測定対象の様々な情報を調べることができる。NV中心の電子スピン状態は、測定対象からの電場、測定対象の温度、測定対象に加わっている力学的ストレス(圧力)などの力学量、といった様々な要因によって変化するので、検出された相互作用後の電子スピン状態のデータを適切に処理することにより、測定対象の電場、温度、力学量などについても調べることができる。

0035

また、以上においては測定装置の具体例として走査型プローブ顕微鏡を挙げたが、本発明のセンサ素子を用いて測定対象の情報を調べる際、プローブを直接測定対象に接触させる必要はなく、量子状態を相互作用させるだけでよいため、例えば医療機関において非侵襲的患者の状態を調べることが可能であり、医療機器に本発明のセンサ素子を有する測定装置を組み込むことも可能である。

0036

また、以上においては微視的な状態を調べるための測定装置を挙げたが、103Kの高温環境であっても動作可能であることを利用して、走行中は非常に高温となることがある自動車車載機器に本発明のセンサ素子を有する測定装置を組み込むことも可能である。例えば電気自動車バッテリー残量を検知する装置に本発明のセンサ素子を用いることができる。本発明のセンサ素子は非常に優れた磁場感度を有するため、従来のバッテリー残量検知装置に比べてより正確にバッテリー残量を調べることができる。従来のバッテリー残量検知装置では一定以下の残量を正確に調べることができないため、正確に調べられる残量以下となった時点(例えば満量の3割程度)でバッテリー切れと判定していたが、本発明のセンサ素子を用いた残量検知装置であれば、それよりも少ない残量でもバッテリー稼働させても大夫だと判定することができ、バッテリーの蓄電量をより有効に使用することができるようになる。

0037

また、測定装置は従来に比べ小型化が可能であるので、例えば人間の頭部に装着されるヘッドギアに組み込むことも可能であり、この場合には人間の脳から発せられる脳波を調べる脳磁計として用いることができる。また高感度高分解能であるため、1個から数個程度の原子からなる分子構造解析や、タンパク質の構造解析にも用いることができる。また、ナノ粒子のダイヤモンドを生命体に導入し、そのナノ粒子のNV中心の電子スピンを調べることで生命体の生命活動を追跡することも可能である。このように、いわゆるライフサイエンス用装置に組み込まれるセンサ素子としてリンドープn型ダイヤモンドを用いることが可能である。

0038

また、以上においてはリンドープn型ダイヤモンドをセンサ素子に用いることを説明したが、NV中心の電子スピン状態が電磁場に反応することを利用して、リンドープn型ダイヤモンドを有する電子回路素子を作ることもできる。

0039

また、NV中心の電子スピンのコヒーレンス時間T2が非常に長い、つまり量子状態が長時間安定することを利用して、量子状態を記録する量子メモリや、量子通信において他の量子デバイスの量子状態を写し取って別の量子デバイスへ伝える量子中継器といった量子情報素子にも、リンドープn型ダイヤモンドを用いることができる。

0040

本発明の実施例に係る合成ダイヤモンドの製造にあたっては、原料ガスとして炭素同位体12Cの割合が天然存在比98.89%を超える比率(ここでは99.99%)となっている炭素化合物(ここではメタンCH3)と、少量のリン化合物(ここではホスフィンPH3)を含む雰囲気下での化学気相成長CVD)法を用いた。雰囲気中には、これらの原料ガスの他に、大気由来水素分子H2や窒素分子N2もわずかに含まれていた。その結果、製造されるダイヤモンドの結晶構造には雰囲気中の窒素原子が取り込まれ、1つ以上の窒素−空孔(NV)中心が結晶構造中に含まれることとなった。

0041

上記のCVD法により、本実施例で使用されるダイヤモンドとして、結晶を構成する炭素原子のうち12Cの割合が99%超であり、リン濃度が1×1015cm−3以上・1×1018cm−3以下となっている、n型にリンドープされた合成ダイヤモンド試料が得られた。試料は複数種類製造されたが、以下に説明する実施例としては、12Cの割合が99.99%、リン濃度が6×1016cm−3となっている合成ダイヤモンド試料に関して説明する。

0042

このダイヤモンドについてHahn Echo法によりT2の測定を行ったところ、図3に示す結果が得られた。図3に示す通り、従来1.8ms程度が限界であったT2が2.3±0.1msと飛躍的に向上している。このように、本実施例のダイヤモンドは2.1ms超のT2を有する。なお、対応のディフェージング時間T2*についても測定したところ、これも0.620±0.096msと、従来の0.470±0.100msから飛躍的に向上した0.5ms超の値が得られた。なおこの測定は室温(約300K)にて行うことができた。

0043

またこのダイヤモンドの結晶中に存在するNV中心についても、単一のNV中心による磁場感度がどの程度であるかを調べたところ、3.0nTHz−1/2以下の値という、従来の4.3nTHz−1/2に比べて優れた感度を示した。なおこれは交番磁場に対する感度であるが、定磁場感度についても16nTHz−1/2という、従来の40nTHz−1/2に比べ優れた感度を示す。

0044

このリンドープn型ダイヤモンドは単一のNV中心で上記の磁場感度を有するため、空間分解能についても優れた性能を示す。図4に、本実施例のリンドープn型ダイヤモンドによる磁場感度に関する空間分解能と、従来の磁場センサの空間分解能を示す。なお点線は従来のダイヤモンドによる空間分解能を示す。

0045

従来のSQUIDでは低温環境を確保するために厚い断熱層が必要となるため空間分解能が低くなり、磁場感度およそ10nTHz−1/2に対して分解能1μm程度であった。これに対し、リンドープn型ダイヤモンドでは磁場感度10nTHz−1/2に対して10nm未満という分解能が得られた。さらに、この分解能は室温(約300K)条件下でのものである。すなわち、本実施例のリンドープn型ダイヤモンドは、SQUIDのような液体ヘリウムによる冷却を必要とする極低温(4K以下)でなくとも優れた空間分解能を示すものであった。

0046

本実施例においては測定装置50のセンサ素子20にリンドープn型ダイヤモンドを用いることにより、高い磁場感度(単一のNV中心で交番磁場に対し3.0nTHz−1/2以下すなわち3.1nTHz−1/2未満、定磁場に対し20nTHz−1/2未満を感知可能)、高い空間分解能(10nTHz−1/2に対し10nm以下)が実現された。

0047

なお、上述の実施例において使用したリンドープn型ダイヤモンドにおいて具体的な12Cの割合を99.99%としたが、これは天然比の98.89%を超える99%超であればよく、例えば12Cの割合が99.7%でも1.8ms超の良好なT2が観測されている。

0048

また上述の実施例において使用したリンドープn型ダイヤモンドにおいて具体的なリン濃度を6×1016cm−3としたが、優れたセンサ素子として使用できるダイヤモンドとして有効なリン濃度はある程度の幅があり、1×1015cm−3以上・1×1018cm−3以下の範囲であれば十分である。

実施例

0049

またリンドープn型ダイヤモンドを製造する方法としてCVDを挙げたが、12Cの割合が99%超、リン濃度が1×1015cm−3以上・1×1018cm−3以下のダイヤモンドを安定して製造することが可能であれば、それ以外の方法でリンドープn型ダイヤモンドを製造してもよい。

0050

10測定装置
14レーザ部
16マイクロ波照射部
18 検出部
20センサ素子
30データ処理部
50 測定対象

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