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技術 mTORインヒビターを含む、眼の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬およびその応用

出願人 学校法人同志社
発明者 小泉範子奥村直毅
出願日 2019年4月18日 (1年0ヶ月経過) 出願番号 2019-079579
公開日 2019年9月12日 (7ヶ月経過) 公開番号 2019-151640
状態 未査定
技術分野 蛋白脂質酵素含有:その他の医薬 化合物または医薬の治療活性 他の有機化合物及び無機化合物含有医薬
主要キーワード 初期熱 視感覚 文部科学省 コントロール点 希釈用液 切断カス 細胞障害抑制作用 オーバーハング部分
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2019年9月12日)のものです。
また、この項目は機械的に抽出しているため、正しく解析できていない場合があります

図面 (20)

課題

眼の症状、障害または疾患を予防または治療するための医薬および方法の提供。

解決手段

本発明は、mTORインヒビターを含む、眼の症状、障害または疾患を予防または治療するための組成物。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防することができ、特に、角膜内皮の症状、障害または疾患は、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルおよび/または細胞外マトリクス(ECM)の過剰発現に起因するものである。

概要

背景

視覚情報は、眼球最前面の透明な組織である角膜から取り入れられた光が、網膜に達して網膜の神経細胞興奮させ、発生した電気信号視神経を経由して大脳視覚野に伝達することで認識される。良好な視力を得るためには、角膜が透明であることが必要である。角膜の透明性は、角膜内皮細胞ポンプ機能バリア機能により、含水率が一定に保たれることにより保持される。

ヒトの角膜内皮細胞は、出生時には1平方ミリメートル当たり約3000個の密度で存在しているが、一度障害を受けると再生する能力は極めて限定的である。フックス角膜内皮ジストロフィは、角膜の内側の内皮細胞が異常を来し角膜内皮細胞の密度が著しく減少し、その結果、角膜の浮腫を生じたりする疾患であり、その原因は不明である。また、フックス角膜内皮ジストロフィでは、コラーゲンフィブロネクチン等の細胞外マトリクスが角膜の後部にあるデスメ膜の後面の一部分に沈着しグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚を生じる。グッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚はフックス角膜内皮ジストロフィ患者における羞明、霧視の原因であり患者のQOLを著しく損なう。このように、フィブロネクチンなどの細胞外マトリクスはまた、角膜内皮面の疣贅グッタータ)や、デスメ膜の混濁グッテー等の視力低下の原因となる症状に関連しており、曇り角膜混濁白斑などの角膜の濁りに関連する角膜内皮障害の主な原因となりうる。フックス角膜内皮ジストロフィは角膜移植以外に有効な治療法はないとされるが、日本での角膜提供は不足しており、角膜移植の待機患者約2600人に対し、年間に国内で行われている角膜移植件数は1700件程度である。

フックス角膜内皮ジストロフィについては、フックス角膜患者由来の角膜内皮細胞の培養(非特許文献1および3)や不死化報告(非特許文献2)があるが、細胞外マトリックス過剰産生を伴うなどの疾患の特徴を維持した、治療薬、進行予防薬スクリーニングに適切な細胞の報告はないため、その治療薬の開発には限界があり、現在のところ臨床で使用されている治療薬は存在せず角膜移植に頼らざるを得ない。

概要

眼の症状、障害または疾患を予防または治療するための医薬および方法の提供。本発明は、mTORインヒビターを含む、眼の症状、障害または疾患を予防または治療するための組成物。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防することができ、特に、角膜内皮の症状、障害または疾患は、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)シグナルおよび/または細胞外マトリクス(ECM)の過剰発現に起因するものである。なし

目的

また、グッテーまたはデスメ層の肥厚、角膜混濁、白斑などの濁りの症状)などの細胞外マトリクス(例えば、フィブロネクチン)の過剰産生に起因する角膜内皮細障害に起因する疾患を処置または予防しうる医薬も提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

この技術が所属する分野

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請求項1

本明細書に記載の発明。

技術分野

0001

本発明は、mTOR(mechanistic target of rapamycin mammalian target of rapamycinとも称された。)インヒビターを含む、眼の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬およびその応用に関する。

背景技術

0002

視覚情報は、眼球最前面の透明な組織である角膜から取り入れられた光が、網膜に達して網膜の神経細胞興奮させ、発生した電気信号視神経を経由して大脳視覚野に伝達することで認識される。良好な視力を得るためには、角膜が透明であることが必要である。角膜の透明性は、角膜内皮細胞ポンプ機能バリア機能により、含水率が一定に保たれることにより保持される。

0003

ヒトの角膜内皮細胞は、出生時には1平方ミリメートル当たり約3000個の密度で存在しているが、一度障害を受けると再生する能力は極めて限定的である。フックス角膜内皮ジストロフィは、角膜の内側の内皮細胞が異常を来し角膜内皮細胞の密度が著しく減少し、その結果、角膜の浮腫を生じたりする疾患であり、その原因は不明である。また、フックス角膜内皮ジストロフィでは、コラーゲンフィブロネクチン等の細胞外マトリクスが角膜の後部にあるデスメ膜の後面の一部分に沈着しグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚を生じる。グッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚はフックス角膜内皮ジストロフィ患者における羞明、霧視の原因であり患者のQOLを著しく損なう。このように、フィブロネクチンなどの細胞外マトリクスはまた、角膜内皮面の疣贅グッタータ)や、デスメ膜の混濁グッテー等の視力低下の原因となる症状に関連しており、曇り角膜混濁白斑などの角膜の濁りに関連する角膜内皮障害の主な原因となりうる。フックス角膜内皮ジストロフィは角膜移植以外に有効な治療法はないとされるが、日本での角膜提供は不足しており、角膜移植の待機患者約2600人に対し、年間に国内で行われている角膜移植件数は1700件程度である。

0004

フックス角膜内皮ジストロフィについては、フックス角膜患者由来の角膜内皮細胞の培養(非特許文献1および3)や不死化報告(非特許文献2)があるが、細胞外マトリックス過剰産生を伴うなどの疾患の特徴を維持した、治療薬、進行予防薬スクリーニングに適切な細胞の報告はないため、その治療薬の開発には限界があり、現在のところ臨床で使用されている治療薬は存在せず角膜移植に頼らざるを得ない。

先行技術

0005

Zaniolo K, et al. Exp Eye Res.;94(1):22-31. 2012
Azizi B, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2;52(13):9291-9297. 2011
Kelliher C. et al. Exp Eye Res Vol.93(6), 880-888, 2011

課題を解決するための手段

0006

本発明者らは、mTORを阻害することにより、眼、特に角膜内皮細胞の細胞死アポトーシス)が抑制され、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する角膜内皮障害(特に、フックス角膜内皮ジストロフィの角膜内皮障害)等の眼科疾患の治療または予防に使用することに応用することを見出した。また、本発明者らは、mTORを阻害することにより、予想外にフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)の過剰発現を抑制することができることを見出した。これにより、本発明者らは、mTORインヒビターを、細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮障害(例えば、グッテー、デスメ層の肥厚、角膜混濁、白斑などの濁りの症状など)の改善、治療または予防にも応用可能であることを見出した。細胞死と細胞外マトリクスとは独立した事象であるため、両方を抑制することができることは好ましい。

0007

したがって、本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
mTORインヒビターを含む、眼の症状、障害または疾患を予防または治療するための組成物
(項目2)
前記眼の症状、障害または疾患が、角膜内皮の症状、障害または疾患である、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記眼の症状、障害または疾患が、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患である、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷眼科手術眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)、特発性角膜内皮障害、およびサイトメガロウイルス角膜内皮炎からなる群より選択される、項目1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、細胞外マトリクス(ECM)の過剰発現に起因するものである、項目1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、グッテーの形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、混濁、瘢痕角膜片角膜斑角膜白斑、羞明、および霧視からなる群より選択される、項目5に記載の組成物。
(項目7)
前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、項目1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシンテムシロリムスエベロリムス、PI−103、CC−223、INK128、AZD8055、KU 0063794、ボクスタリシブ、リダフォロリムス、NVP−BEZ235、CZ415、トルキニブ、トリン1、オミパリシブ、OSI−027、PF−04691502、アピトリシブ、WYE−354、ビスセルチブ、トリン2、タクロリムス、GSK1059615、ゲダトリシブ、WYE−125132、BGT226、パロミド529、PP121、WYE−687、CH5132799、WAY−600、ETP−46464、GDC−0349、XL388、ゾタロリムス、およびクリソファン酸からなる群から選択される、項目1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
前記mTORインヒビターが、mTOR遺伝子の発現抑制物質である、項目1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)
前記mTOR遺伝子の発現抑制物質は、mTOR遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸またはリボザイムである、項目9に記載の組成物。
(項目11)
前記mTOR遺伝子の発現抑制物質は、mTOR遺伝子に対するsiRNAであり、該siRNAは、配列番号1に示される核酸配列、または1〜3塩基ヌクレオチド欠失置換、挿入および/または付加されている核酸配列からなるセンス鎖と、配列番号2に示される核酸配列、または1〜3塩基のヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されている核酸配列からなるアンチセンス鎖とを含む、項目9または10に記載の組成物。
(項目12)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシン、テムシロリムスおよびエベロリムスからなる群より選択される、項目1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目13)
前記組成物が点眼剤である、項目1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシンであり、少なくとも約0.1nMで前記組成物中に存在する、項目1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目15)
前記組成物が点眼剤であり、前記mTORインヒビターが、ラパマイシンであり、少なくとも約0.1mMで該点眼剤中に存在する、項目1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目16)
前記mTORインヒビターが、テムシロリムスであり、少なくとも約0.01nMで前記組成物中に存在する、項目1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)
前記組成物が点眼剤であり、前記mTORインヒビターが、テムシロリムスであり、少なくとも約0.01mMで該点眼剤中に存在する、項目1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目18)
前記mTORインヒビターが、エベロリムスであり、少なくとも約0.1nMで前記組成物中に存在する、項目1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目19)
前記組成物が点眼剤であり、前記mTORインヒビターが、エベロリムスであり、少なくとも約0.1mMで該点眼剤中に存在する、項目1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目1A)
被験体中の眼の症状、障害または疾患を予防または治療するための方法であって、該方法は、mTORインヒビターの有効量を該被験体に投与する工程を含む、方法。
(項目2A)
前記眼の症状、障害または疾患が、角膜内皮の症状、障害または疾患である、項目1Aに記載の方法。
(項目3A)
前記眼の症状、障害または疾患が、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患である、項目1Aまたは2Aに記載の方法。
(項目4A)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)、特発性角膜内皮障害、およびサイトメガロウイルス角膜内皮炎からなる群より選択される、項目1A〜3Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目5A)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、細胞外マトリクス(ECM)の過剰発現に起因するものである、項目1A〜4Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目6A)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、グッテーの形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、混濁、瘢痕、角膜片雲、角膜斑、角膜白斑、羞明、および霧視からなる群より選択される、項目5Aに記載の方法。
(項目7A)
前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、項目1A〜6Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目8A)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、PI−103、CC−223、INK128、AZD8055、KU 0063794、ボクスタリシブ、リダフォロリムス、NVP−BEZ235、CZ415、トルキニブ、トリン1、オミパリシブ、OSI−027、PF−04691502、アピトリシブ、WYE−354、ビスツセルチブ、トリン2、タクロリムス、GSK1059615、ゲダトリシブ、WYE−125132、BGT226、パロミド529、PP121、WYE−687、CH5132799、WAY−600、ETP−46464、GDC−0349、XL388、ゾタロリムス、およびクリソファン酸からなる群から選択される、項目1A〜7Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目9A)
前記mTORインヒビターが、mTOR遺伝子の発現抑制物質である、項目1A〜7Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目10A)
前記mTOR遺伝子の発現抑制物質は、mTOR遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸またはリボザイムである、項目9Aに記載の方法。
(項目11A)
前記mTOR遺伝子の発現抑制物質は、mTOR遺伝子に対するsiRNAであり、該siRNAは、配列番号1に示される核酸配列、または1〜3塩基のヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されている核酸配列からなるセンス鎖と、配列番号2に示される核酸配列、または1〜3塩基のヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されている核酸配列からなるアンチセンス鎖とを含む、項目9Aまたは10Aに記載の方法。
(項目12A)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシン、テムシロリムスおよびエベロリムスからなる群より選択される、項目1A〜8Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目13A)
前記mTORインヒビターが点眼剤として投与される、項目1A〜12Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目14A)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシンであり、少なくとも約0.1nMの濃度で投与される、項目1A〜8Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目15A)
前記mTORインヒビターが点眼剤として投与され、前記mTORインヒビターが、ラパマイシンであり、少なくとも約0.1mMで前記点眼剤中に存在する、項目1A〜8Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目16A)
前記mTORインヒビターが、テムシロリムスであり、少なくとも約0.01nMの濃度で投与される、項目1A〜8Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目17A)
前記mTORインヒビターが点眼剤として投与され、前記mTORインヒビターが、テムシロリムスであり、少なくとも約0.01mMで前記点眼剤中に存在する、項目1A〜8Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目18A)
前記mTORインヒビターが、エベロリムスであり、少なくとも約0.1nMの濃度で投与される、項目1A〜8Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目19A)
前記mTORインヒビターが点眼剤として投与され、前記mTORインヒビターが、エベロリムスであり、少なくとも約0.1mMで前記点眼剤中に存在する、項目1A〜8Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目20A)
前記mTORインヒビターが局所投与される、項目1A〜19Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目21A)
前記mTORインヒビターが眼に局所投与される、項目1A〜20Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目22A)
前記mTORインヒビターが角膜に接触するように投与される、項目1A〜21Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目1B)
眼の症状、障害または疾患を予防または治療するための医薬の製造のためのmTORインヒビターの使用。
(項目2B)
前記眼の症状、障害または疾患が、角膜内皮の症状、障害または疾患である、項目1Bに記載の使用。
(項目3B)
前記眼の症状、障害または疾患が、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患である、項目1Bまたは2Bに記載の使用。
(項目4B)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)、特発性角膜内皮障害、およびサイトメガロウイルス角膜内皮炎からなる群より選択される、項目1B〜3Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目5B)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、細胞外マトリクス(ECM)の過剰発現に起因するものである、項目1B〜4Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目6B)
前記角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、グッテーの形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、混濁、瘢痕、角膜片雲、角膜斑、角膜白斑、羞明、および霧視からなる群より選択される、項目5Bに記載の使用。
(項目7B)
前記症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む、項目1B〜6Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目8B)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、PI−103、CC−223、INK128、AZD8055、KU 0063794、ボクスタリシブ、リダフォロリムス、NVP−BEZ235、CZ415、トルキニブ、トリン1、オミパリシブ、OSI−027、PF−04691502、アピトリシブ、WYE−354、ビスツセルチブ、トリン2、タクロリムス、GSK1059615、ゲダトリシブ、WYE−125132、BGT226、パロミド529、PP121、WYE−687、CH5132799、WAY−600、ETP−46464、GDC−0349、XL388、ゾタロリムス、およびクリソファン酸からなる群から選択される、項目1B〜7Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目9B)
前記mTORインヒビターが、mTOR遺伝子の発現抑制物質である、項目1B〜7Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目10B)
前記mTOR遺伝子の発現抑制物質は、mTOR遺伝子に対するsiRNA、アンチセンス核酸またはリボザイムである、項目9Bに記載の使用。
(項目11B)
前記mTOR遺伝子の発現抑制物質は、mTOR遺伝子に対するsiRNAであり、該siRNAは、配列番号1に示される核酸配列、または1〜3塩基のヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されている核酸配列からなるセンス鎖と、配列番号2に示される核酸配列、または1〜3塩基のヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されている核酸配列からなるアンチセンス鎖とを含む、項目9Bまたは10Bに記載の使用。
(項目12B)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシン、テムシロリムスおよびエベロリムスからなる群より選択される、項目1B〜8Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目13B)
前記医薬が点眼剤である、項目1B〜12Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目14B)
前記mTORインヒビターが、ラパマイシンであり、少なくとも約0.1nMで前記医薬中に存在する、項目1〜8のいずれか一項に記載の使用。
(項目15B)
前記医薬が点眼剤であり、前記mTORインヒビターが、ラパマイシンであり、少なくとも約0.1mMで該点眼剤中に存在する、項目1B〜8Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目16B)
前記mTORインヒビターが、テムシロリムスであり、少なくとも約0.01nMで前記医薬中に存在する、項目1B〜8Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目17B)
前記医薬が点眼剤であり、前記mTORインヒビターが、テムシロリムスであり、少なくとも約0.01mMで該点眼剤中に存在する、項目1B〜8Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目18B)
前記mTORインヒビターが、エベロリムスであり、少なくとも約0.1nMで前記医薬中に存在する、項目1B〜8Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目19B)
前記医薬が点眼剤であり、前記mTORインヒビターが、エベロリムスであり、少なくとも約0.1mMで該点眼剤中に存在する、項目1B〜8Bのいずれか一項に記載の使用。
(項目1C)
眼の症状、障害または疾患の予防または治療に使用するための、mTORインヒビター。
(項目2C)
上記項目の1または複数の特徴を含む、項目1Cに記載のmTORインヒビター。
(項目1D)
mTORインヒビターを含む角膜内皮細胞を保存するための組成物。
(項目2D)
上記項目の1または複数の特徴を含む、項目1Dに記載の組成物。
(項目1E)
mTORインヒビターの有効量を角膜内皮細胞に接触させる工程を包含する、角膜内皮細胞を保存するための方法。
(項目2E)
上記項目の1または複数の特徴を含む、項目1Eに記載の方法。
(項目1F)
mTORインヒビターの有効量を角膜内皮細胞に接触させる工程を包含する、角膜内皮細胞を増殖または角膜内皮細胞の増殖を促進するための方法。
(項目2F)
上記項目の1または複数の特徴を含む、項目1Eに記載の方法。

0008

本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。

発明の効果

0009

本発明は、mTORインヒビターが予想外に、フックス角膜内皮ジストロフィ等におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する障害または疾患に起因する疾患を処置または予防しうることを見出し、そのような疾患を含む眼の症状、障害または疾患の処置または予防をなしうる医薬を提供し得る。また、グッテーまたはデスメ層の肥厚、角膜混濁、白斑などの濁りの症状)などの細胞外マトリクス(例えば、フィブロネクチン)の過剰産生に起因する角膜内皮細障害に起因する疾患を処置または予防しうる医薬も提供する。さらに、本発明は、mTORインヒビターを含む角膜内皮細胞の保存のための組成物または角膜内皮細胞の増殖を促進するための組成物、ならびに角膜内皮細胞を保存する、および/または増殖するもしくは増殖を促進する方法を提供する。

図面の簡単な説明

0010

図1は、iFECDの顕微鏡画像を示す。左上がTGF−β2を添加していないコントロール群、右上がTGF−β2を添加した群、左下がTGF−β2およびラパマイシンを添加した群、右下がTGF−β2およびカスパーゼ阻害剤であるZ−VD−FMKを添加した群を示す。
図2は、全長カスパーゼ3(total caspase 3)、切断型カスパーゼ3(cleaved caspase 3)、PARP、およびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。左から、TGF−β2を添加していないコントロール群、TGF−β2を添加した群、TGF−β2およびラパマイシンを添加した群、TGF−β2およびカスパーゼ阻害剤であるZ−VD−FMKを添加した群を示す。
図3は、Akt、p−Akt、S6K、p−S6K、およびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。左から、TGF−β2を添加していないコントロール群、TGF−β2を添加した群、TGF−β2およびラパマイシンを添加した群、TGF−β2およびカスパーゼ阻害剤であるZ−VD−FMKを添加した群を示す。
図4は、Smad2、p−Smad2、Smad3、p−Smad3、およびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。左から、TGF−β2を添加していないコントロール群、TGF−β2を添加した群、TGF−β2およびラパマイシンを添加した群、TGF−β2およびカスパーゼ阻害剤であるZ−VD−FMKを添加した群を示す。
図5は、フィブロネクチンおよびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す(n=3)。左から、TGF−β2を添加していないコントロール群、TGF−β2を添加した群、TGF−β2およびラパマイシンを添加した群、TGF−β2およびカスパーゼ阻害剤であるZ−VD−FMKを添加した群を示す。
図6は、アガロースゲル電気泳動およびウェスタンブロットの結果を示す。上パネルが、mTORおよびGAPDHのアガロースゲル電気泳動の結果を示し、下パネルが、mTOR、S6K、p−S6K、およびGAPDHのウェスタンブットの結果を示す。各パネルの左から、Random siRNA添加群、TGF−β2+Random siRNA添加群、mTOR siRNA添加群、TGF−β2+mTOR siRNA添加群を示す。
図7は、iFECDの顕微鏡画像を示す。左上がRandom siRNA添加群、右上がmTOR siRNA添加群、左下がTGF−β2+Random siRNA添加群、右下がTGF−β2+mTOR siRNA添加群を示す。
図8は、全長カスパーゼ3(total caspase 3)、切断型カスパーゼ3(cleaved caspase 3)、PARP、およびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。左から、Random siRNA添加群、TGF−β2+Random siRNA添加群、mTOR siRNA添加群、TGF−β2+mTOR siRNA添加群を示す。
図9は、フィブロネクチンおよびGAPDHのウェスタンブロットの結果を示す。左から、Random siRNA添加群、TGF−β2+Random siRNA添加群、mTOR siRNA添加群、TGF−β2+mTOR siRNA添加群を示す。
図10は、カスパーゼ3/7活性グラフを示す。左から、TGF−β2非添加群、コントロール群、TGF−β2(10ng/ml)+ラパマイシン(0.00001nM、0.0001nM、0.001nM、0.01nM、0.1nM、1nM、10nM、100nM)、TGF−β2(10ng/ml)+Z−VD−FMK(10μM)を示す。統計学的有意は、Dunnett−t検定により行った(*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。n=5)。
図11は、カスパーゼ3/7活性のグラフを示す。左から、TGF−β2非添加群、コントロール群、TGF−β2(10ng/ml)+エベロリムス(0.0001μM、0.001μM、0.01μM、0.1μM)、TGF−β2(10ng/ml)+Z−VD−FMK(10μM)を示す。統計学的有意は、Dunnett−t検定により行った(*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。n=5)。
図12は、カスパーゼ3/7活性のグラフを示す。左から、TGF−β2非添加群、コントロール群、TGF−β2(10ng/ml)+テムシロリムス(0.000001μM、0.00001μM、0.0001μM、0.001μM、0.01μM、0.1μM、1μM、10μM)、TGF−β2+Z−VD−FMK(10μM)を示す。統計学的有意は、Dunnett−t検定により行った(*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。n=5)。
図13は、カスパーゼ3/7活性のグラフを示す。左から、TGF−β2非添加群、コントロール群、TGF−β2(10ng/ml)+PI−103(0.001μM、0.01μM、0.1μM、1μM)、TGF−β2(10ng/ml)+Z−VD−FMK(10μM)を示す。統計学的有意は、Dunnett−t検定により行った(*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。n=5)。
図14は、カスパーゼ3/7活性のグラフを示す。左から、TGF−β2非添加群、コントロール群、TGF−β2(10ng/ml)+CC−223(0.001μM、0.01μM、0.1μM、1μM)、TGF−β2(10ng/ml)+Z−VD−FMK(10μM)を示す。統計学的有意は、Dunnett−t検定により行った(*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。n=5)。
図15は、カスパーゼ3/7活性のグラフを示す。左から、TGF−β2非添加群、コントロール群、TGF−β2(10ng/ml)+INK128(0.001μM、0.01μM、0.1μM、1μM)、TGF−β2(10ng/ml)+Z−VD−FMK(10μM)を示す。統計学的有意は、Dunnett−t検定により行った(*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。n=5)。
図16は、カスパーゼ3/7活性のグラフを示す。左から、TGF−β2非添加群、コントロール群、TGF−β2(10ng/ml)+AZD8055(0.001μM、0.01μM、0.1μM、1μM)、TGF−β(10ng/ml)2+Z−VD−FMK(10μM)を示す。統計学的有意は、Dunnett−t検定により行った(*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。n=5)。
図17は、カスパーゼ3/7活性のグラフを示す。左から、TGF−β2非添加群、コントロール群、TGF−β2(10ng/ml)+KU 0063794(0.001μM、0.01μM、0.1μM、1μM)、TGF−β2(10ng/ml)+Z−VD−FMK(10μM)を示す。統計学的有意は、Dunnett−t検定により行った(*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。n=5)。
図18は、視力と角膜内皮細胞およびECM沈着との関係の概略図を示す。角膜内皮細胞およびECM沈着が増加するにつれて視力が低下することが示される。ECM沈着によるグッテーまたはデスメ層の肥厚は、フックス角膜内皮ジストロフィ患者において一般的には30代から40代に生じ始め、生涯を通じて進行する。進行により霧視、ハローグレア、視力低下などの視力障害を生じる。また同時に角膜内皮細胞死が進行するが角膜内皮細胞密度が約1000個/mm2を下回るまではポンプ機能を残された角膜内皮が代償することで角膜の透明性は維持される。一方で、約1000個/mm2を下回ると角膜に前房水が進入することで角膜浮腫をきたし、重篤な視力障害を生じる。本技術はECM沈着および角膜内皮細胞死の双方を抑制することで、視機能を維持することができるものである。
図19は、mTORインヒビター点眼剤(1mM)を、毎日朝夕の2回、左右の眼に2μlずつ2ヶ月間点眼したFECDモデルマウスにおける接触式角膜内皮スペキュラーにより観察される角膜内皮細胞像の代表例を示す。コントロールとして、生理的食塩水基剤)を点眼したものを示す。
図20は、mTORインヒビター点眼剤を点眼されたFECDモデルマウスにおける角膜内皮細胞密度(個/mm2)のグラフを示す。コントロールとして、生理的食塩水(基剤)を点眼したものを示す。統計学的有意は、Student’s t検定により行った(*はp<0.05を示す。n=3)。
図21は、mTORインヒビター点眼剤を点眼されたFECDモデルマウスにおけるグッテーの面積(%)のグラフを示す。コントロールとして、生理的食塩水(基剤)を点眼したものを示す。統計学的有意は、Student’s t検定により行った(**はp<0.01を示す。n=3)。

0011

以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。

0012

(定義)
本明細書において、数値の前の「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。

0013

本明細書において、「mTORインヒビター」とは、mTORのシグナル伝達を阻害する任意の薬剤をいう。mTORインヒビターは、水溶性のものが好ましい。水溶性でなければ、溶媒として身体に適合しにくいものを使用することが必要となりうるからである。水溶性かどうかについては薬局方の溶解度の定義に基づき分類されうる。すなわち、溶質1gまたは1mLを溶かすのに要する溶媒量として、極めて溶けやすい:1mL未満;溶けやすい:1mL以上10mL未満;やや溶けやすい:10mL以上30mL未満;やや溶けにくい:30mL以上100mL未満;溶けにくい:100mL以上1000mL未満;極めて溶けにくい:1000mL以上10000mL未満;ほとんど溶けない:10000mL以上と定義されており、本明細書においても同様に評価する。水溶性とは、水を溶媒としたときに、これらのうち有効量を溶解させるものであれば、任意の溶解性のものを利用することができることが理解される。このような水溶性の成分であれば、点眼剤としても有利に使用される。

0014

mTOR(mammalian target of rapamycin)はラパマイシンの標的分子として同定されたセリンスレオニンキナーゼで、細胞の分裂生存などの調節に中心的な役割を果たすと考えられており、SKS; FRAP; FRAP1; FRAP2; RAFT1; RAPT1としても知られ、NCBIのGeneIDとして2475が付されており、この情報をもとに、当業者は、種々のmTORインヒビターを設計し製造することができる。

0015

本発明において使用され得るmTORインヒビターは、mTOR阻害活性を有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、PI−103、CC−223、INK128、AZD8055、KU 0063794、ボクスタリシブ(Voxtalisib(XL765、SAR245409))、リダフォロリムス(Ridaforolimus(Deforolimus、MK−8669))、NVP−BEZ235、CZ415、Torkinib(PP242)、トリン1(Torin 1)、オミパリシブ(Omipalisib(GSK2126458、GSK458))、OSI−027、PF−04691502、アピトリシブ(Apitolisib(GDC−0980、RG7422))、WYE−354、ビスツセルチブ(Vistusertib(AZD2014))、トリン2(Torin 2)、タクロリムス(Tacrolimus(FK506))、GSK1059615、ゲダトリシブ(Gedatolisib(PF−05212384、PKI−587))、WYE−125132(WYE−132)、BGT226(NVP−BGT226)、パロミド529(Palomid 529(P529))、PP121、WYE−687、CH5132799、WAY−600、ETP−46464、GDC−0349、XL388、ゾタロリムス(Zotarolimus(ABT−578))、クリソファン酸(Chrysophanic Acid)が挙げられる。

0016

好ましいmTORインヒビターとしては、ラパマイシン、テムシロリムスおよびエベロリムスが挙げられるが、これに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、これらの医薬品はFDAやPMDAなどで承認されており、安全性や毒性の面で問題が最小限化されているからである。さらに好ましいmTORインヒビターはラパマイシンである。別の好ましいmTORインヒビターはテムシロリムスである。別の好ましいmTORインヒビターはエベロリムスであるこれらに限定されない。

0017

このほかの、本発明で用いることができるmTORインヒビターとしては、例えば、mTORに対する中和抗体、mTORの活性を阻害する化合物、mTORをコードする遺伝子の転写を阻害する化合物(例えば、アンチセンス核酸、siRNA、リボザイム)、ペプチド植物成分漢方などの古典的医薬の成分等の化合物等が挙げられる。

0018

本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用により、mTORのシグナル伝達経路メンバー等をコードする遺伝子(核酸)の発現および/または機能を阻害してもよい。一つの実施形態としては、上述のmTORをコードする遺伝子のmRNAの5’端近傍の非翻訳領域に相補的アンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3’の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、上述のmTOR等をコードする遺伝子の翻訳領域だけでなく、非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明で利用されるアンチセンス核酸に含まれる。使用されるアンチセンス核酸は、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3’側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製された核酸は、公知の方法を用いることで所望の動物(細胞)に形質転換することができる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換される動物(細胞)が有するmTORをコードする遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは標的遺伝子転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に阻害するには、アンチセンス核酸の長さは少なくとも12塩基以上25塩基未満であることが好ましいが、本発明のアンチセンス核酸は必ずしもこの長さに限定されず、例えば、11塩基以下、100塩基以上、または500塩基以上であってもよい。アンチセンス核酸は、DNAのみから構成されていてもよいが、DNA以外の核酸、例えば、ロックド核酸(LNA)を含んでいてもよい。1つの実施形態としては、本発明で用いられるアンチセンス核酸は、5’末端にLNA、3’末端にLNAを含むLNA含有アンチセンス核酸であってもよい。また、本発明において、アンチセンス核酸を用いる実施形態では、例えば平島および井上,新生化学実験講座2 核酸IV遺伝子の複製と発現,日本生化学会編,東京化学同人,1993,319-347.に記載される方法を用いて、mTORの核酸配列に基づき、アンチセンス配列を設計することができる。

0019

mTORの発現の阻害は、リボザイム、またはリボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNasePに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.)。

0020

例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3’側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi, M. et al.,FEBSLett, 1988, 228,228.)。基質結合部位標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi, M. et al., FEBS Lett, 1988, 239, 285.、小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.、 Koizumi,M. et al., Nucl. AcidsRes., 1989,17,
7059.)。

0021

また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えば、タバコリングスポットウイルスサテライトRNAマイナス鎖に見出される(Buzayan,JM., Nature, 1986, 323, 349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi,Y. & Sasaki,N., Nucl. AcidsRes,1991, 19, 6751.、池洋,化学と生物, 1992, 30,112.)。このように、リボザイムを用いてmTOR等をコードする遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を阻害することができる。

0022

mTORの内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interference、以下「RNAi」と略称する)によっても行うことができる。RNAiは、2本鎖RNA(dsRNA)が直接細胞内に取り込まれると、このdsRNAと相同な配列を持つ遺伝子の発現が抑えられ現在注目を浴びている手法である。哺乳類細胞においては、短鎖dsRNA(siRNA)を用いることにより、RNAiを誘導する事が可能で、RNAiは、ノックアウトマウスと比較して、効果が安定、実験が容易、費用が安価であるなど、多くの利点を有している。siRNAについては、本明細書において他の箇所において詳述される。

0023

本明細書において、「siRNA」とは、15〜40塩基からなる二本鎖RNA部分を有するRNA分子であり、前記siRNAのアンチセンス鎖と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。詳細には、本発明におけるsiRNAは、mTORのmRNA中の連続したRNA配列と相同な配列からなるセンスRNA鎖と、該センスRNA配列に相補的な配列からなるアンチセンスRNA鎖とからなる二本鎖RNA部分を含むRNAである。かかるsiRNAおよび後述の変異体siRNAの設計および製造は当業者の技量の範囲内である。mTORの配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを作製することは、当業者においては、通常の試行の範囲内において適宜行い得ることである。また、該配列の転写産物であるmRNA配列から、より強いRNAi効果を有するsiRNA配列を選択することも、当業者においては、公知の方法によって適宜実施することが可能である。また、一方の鎖が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。siRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。

0024

二本鎖RNA部分の長さは、塩基として、15〜40塩基、好ましくは15〜30塩基、より好ましくは15〜25塩基、更に好ましくは18〜23塩基、最も好ましくは19〜21塩基である。これらの上限および下限は、これら特定のものに限定されず、これら列挙されているものの任意の組み合わせであってもよいことが理解される。siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の末端構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端オーバーハング)を有するものであってもよく、3’端が突き出したタイプが好ましい。センスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖の3’末端に数個の塩基、好ましくは1〜3個の塩基、さらに好ましくは2個の塩基からなるオーバーハングを有するsiRNAは、標的遺伝子の発現を抑制する効果が大きい場合が多く、好ましいものである。オーバーハングの塩基の種類は特に制限はなく、RNAを構成する塩基あるいはDNAを構成する塩基のいずれであってもよい。好ましいオーバーハング配列としては、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)等を挙げることができる。例えば、好ましいsiRNAとしては、全てのsiRNAのセンス・アンチセンス鎖の、3’末端にdTdT(デオキシTを2bp)をつけているものが挙げられるがそれに限定されない。

0025

さらに、上記siRNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖の一方または両方において1〜数個までのヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されているsiRNAも用いることができる。ここで、1〜数塩基とは、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜4塩基、さらに好ましくは1〜3塩基、最も好ましくは1〜2塩基である。かかる変異の具体例としては、3’オーバーハング部分塩基数を0〜3個としたもの、3’−オーバーハング部分の塩基配列を他の塩基配列に変更したもの、あるいは塩基の挿入、付加または欠失により上記センスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖の長さが1〜3塩基異なるもの、センス鎖および/またはアンチセンス鎖において塩基が別の塩基にて置換されているもの等が挙げられるが、これらに限定されない。ただし、これらの変異体siRNAにおいてセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイゼーションしうること、ならびにこれらの変異体siRNAが変異を有しないsiRNAと同等の遺伝子発現抑制能を有することが必要である。

0026

さらに、siRNAは、一方の端が閉じた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(Short Hairpin RNA;shRNA)であってもよい。shRNAは、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖RNA、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖RNA、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含むRNAであり、センス鎖部分とアンチセンス鎖部分がハイブリダイズし、二本鎖RNA部分を形成する。

0027

siRNAは、臨床使用の際には、いわゆるoff−target効果を示さないことが望ましい。off−target効果とは、標的遺伝子以外に、使用したsiRNAに部分的にホモロジーのある別の遺伝子の発現を抑制する作用をいう。off−target効果を避けるために、候補siRNAについて、予めDNAマイクロアレイなどを利用して交差反応がないことを確認することが可能である。また、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などが提供する公知のデータベースを用いて、標的となる遺伝子以外に候補siRNAの配列と相同性が高い部分を含む遺伝子が存在しないかを確認する事によって、off−target効果を避けることが可能である。

0028

本発明のsiRNAを作製するには、化学合成による方法および遺伝子組換え技術を用いる方法等、公知の方法を適宜用いることができる。合成による方法では、配列情報に基づき、常法により二本鎖RNAを合成することができる。また、遺伝子組換え技術を用いる方法では、センス鎖配列やアンチセンス鎖配列をコードする発現ベクター構築し、該ベクター宿主細胞に導入後、転写により生成されたセンス鎖RNAやアンチセンス鎖RNAをそれぞれ取得することによって作製することもできる。また、標的遺伝子の特定配列のセンス鎖、該センス鎖配列に相補的な配列からなるアンチセンス鎖、およびその両鎖を繋ぐリンカー配列を含み、ヘアピン構造を形成するshRNAを発現させることにより、所望の二本鎖RNAを作製することもできる。

0029

siRNAは、標的遺伝子の発現抑制活性を有する限りにおいては、siRNAを構成する核酸の全体またはその一部は、天然の核酸であってもよいし、修飾された核酸であってもよい。

0030

本発明におけるsiRNAは、必ずしも標的配列に対する一組の2本鎖RNAである必要はなく、標的配列を含んだ領域に対する複数組(この「複数」とは特に制限されないが、好ましくは2〜5個程度の少数を指す。)の2本鎖RNAの混合物であってもよい。ここで標的配列に対応した核酸混合物としてのsiRNAは、当業者においては市販の核酸合成機およびDICER酵素を用いて適宜作製することが可能であり、また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することができる。なお、本発明のsiRNAには、所謂「カクテルsiRNA」が含まれる。また、本発明におけるsiRNAは、必ずしも全てのヌクレオチドがリボヌクレオチド(RNA)でなくともよい。即ち、本発明において、siRNAを構成する1もしくは複数のリボヌクレオチドは、対応するデオキシリボヌクレオチドであってもよい。この「対応する」とは、糖部分の構造は異なるものの、同一の塩基種アデニングアニンシトシンチミンウラシル))であることを指す。例えば、アデニンを有するリボヌクレオチドに対応するデオキシリボヌクレオチドとは、アデニンを有するデオキシリボヌクレオチドのことをいう。

0031

さらに、本発明の上記RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、mTOR等の発現を抑制し得る核酸の好ましい実施形態に含まれる。例えば、本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、適宜作製することができる。より具体的には、目的のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。

0032

本発明において標的遺伝子の発現を抑制する核酸には、修飾された核酸を用いてもよい。修飾された核酸とは、ヌクレオシド塩基部位糖部位)および/またはヌクレオシド間結合部位に修飾が施されていて、天然の核酸と異なった構造を有するものを意味する。修飾された核酸を構成する「修飾されたヌクレオシド」としては、例えば、無塩基(abasic)ヌクレオシド;アラビノヌクレオシド、2’−デオキシウリジン、α−デオキシリボヌクレオシド、β−L−デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシド;ペプチド核酸(PNA)、ホスフェート基が結合したペプチド核酸(PHONA)、ロックド核酸(LNA)、モルホリノ核酸等が挙げられる。上記糖修飾を有するヌクレオシドには、2’−O−メチルリボース、2’−デオキシ−2’−フルオロリボース、3’−O−メチルリボース等の置換五単糖;1’,2’−デオキシリボースアラビノース;置換アラビノース糖;六単糖およびアルファアノマーの糖修飾を有するヌクレオシドが含まれる。これらのヌクレオシドは塩基部位が修飾された修飾塩基であってもよい。このような修飾塩基には、例えば、5−ヒドロキシシトシン、5−フルオロウラシル4−チオウラシル等のピリミジン;6−メチルアデニン、6−チオグアノシン等のプリン;および他の複素環塩基等が挙げられる。

0033

修飾された核酸を構成する「修飾されたヌクレオシド間結合」としては、例えば、アルキルリンカーグリセリルリンカー、アミノリンカーポリエチレングリコール)結合、メチルホスホネートヌクレオシド間結合;メチルホスホノチオエートホスホトリエステル、ホスホチオトリエステル、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、トリエステルプロドラッグスルホンスルホンアミドサルファメート、ホルムアセタール、N−メチルヒドロキシルアミンカルボネートカルバメート、モルホリノ、ボラノホスホネート、ホスホルアミデートなどの非天然ヌクレオシド間結合が挙げられる。

0034

本発明の二本鎖siRNAに含まれる核酸配列としては、mTORまたは他のmTORのシグナル伝達のメンバーに対するsiRNAなどを挙げることができる。

0035

また、本発明の核酸または薬剤をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAまたはshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入することができる。そして、得られる細胞を例えば、静脈内、動脈内等に全身投与する。眼の必要な部位等に局所的に投与することもできる。siRNAはin vitroにおいては非常に優れた特異的転写後抑制効果を示すが、in vivoにおいては血清中ヌクレアーゼ活性により速やかに分解されてしまうため持続時間が限られるためより最適で効果的なデリバリーシステム開発が求められてきた。一つの例としては、Ochiya,T et al.,Nature Med.,5:707-710,1999、Curr.Gene Ther.,1 :31-52,2001より生体親和性材料であるアテロコラーゲンが核酸と混合し複合体を形成させると、生体中の分解酵素から核酸を保護する作用がありsiRNAのキャリアーとして非常に適しているキャリアーであると報告されており、このような形態を利用することができるが、本発明の核酸、治療または予防薬の導入の方法はこれには限られない。このようにして、生体内においては血清中の核酸分解酵素の働きにより、速やかに分解されてしまうため長時間の効果の継続を達成することができる。例えば、Takeshita F. PNAS.(2003) 102(34) 12177-82、Minakuchi Y Nucleic AcidsReserch(2004) 32(13) e109では、牛皮由来のアテロコラーゲンが核酸と複合体を形成し、生体内の分解酵素から核酸を保護する作用があり、siRNAのキャリアーとして非常に適していると報告されており、このような技術を用いることができる。

0036

本明細書において「iFECD」(immortalized Fuchs’ endothelial corneal dystrophy)は、フックス角膜内皮ジストロフィの不死化細胞の略称である。iFECDの製造法については、例えば、WO2015/015655に記載されている。

0037

本明細書において「HCEC」(human corneal endothelial cells)とは、ヒト角膜内皮細胞の略称である。「iHCEC」は、不死化(immortalized)ヒト角膜内皮細胞の略称である。

0038

本明細書において、「プログラム細胞死」とは、あらかじめプログラムされているかのように決まった時期や環境で自発的に細胞が死ぬ現象を指す。プログラム細胞死は、例えば「アポトーシス」を含む意味で使用される。

0039

本明細書において「トランスフォーミング増殖因子−β(トランスフォーミング成長因子−β;略称TGF−βとも表示される)」とは、当該分野で用いられるものと同様の意味で用いられ、様々な硬化性疾患や、関節リウマチ増殖性硝子体網膜症病態形成を担い、脱毛に深く関与し、免疫担当細胞の働きを抑制する一方、プロテアーゼの過剰産生を抑制することによって肺組織が分解され肺気腫に陥るのを防ぎ、癌細胞の増殖を抑制するなど、多彩生物活性を示す分子量25kDのホモダイマー多機能性サイトカインである。「TGF−βシグナル」とは、TGF−βによって媒介されるシグナルであって、TGF−βによって惹起されるものをいう。TGF−βシグナル例えば、TGF−β2によって媒介されるシグナルが含まれ、このほか、TGF−β1、TGF−β3等によって媒介されるシグナルも例示される。TGF−βについて、ヒトでは、TGF−β1〜β3までの相同性約70%の3つのアイソフォームが存在し、その作用は類似している。TGF−βはレセプターに結合できない分子量約300kDの不活性な潜在型として産生され、標的細胞表面やその周囲において活性化されてレセプターに結合できる活性型となり、その作用を発揮する。

0040

理論に束縛されることを望まないが、標的細胞におけるTGF−βの作用はSmadという情報伝達を担う一連のタンパク質のリン酸化経路によって伝達されるとされている。まず、活性型TGF−βが標的細胞表面に存在するII型TGF−βレセプターに結合すると、II型レセプター2分子とI型TGF−βレセプター2分子からなるレセプター複合体が形成され、II型レセプターがI型レセプターをリン酸化する。次に、リン酸化I型レセプターは、Smad2またはSmad3をリン酸化すると、リン酸化されたSmad2およびSmad3はSmad4と複合体を形成して核に移行し、標的遺伝子プロモーター領域に存在するCAGA boxと呼ばれる標的配列に結合し、コアクチベーターとともに標的遺伝子の転写発現を誘導するとされている。

0041

トランスフォーミング(形質転換)増殖因子−β(TGF−β)シグナル伝達経路は、その標的遺伝子の調節によって、細胞増殖および分化、増殖停止、プログラム細胞死、ならびに上皮間充織分化転換EMT;上皮間葉転換ともいう)といったような、多くの細胞活性を調節することができる。TGF−β自体(例えば、TGF−β1、TGF−β2およびTGF−β3)、アクチビンおよび骨形成タンパク質(BMP)が含まれる、TGF−βファミリーのメンバーは、細胞増殖、分化、移動およびプログラム細胞死等の強力な調節剤である。

0042

TGF−βは、Bリンパ球Tリンパ球および活性化マクロファージを含め、多くの細胞により、および多くの他の細胞型により産生される、約24Kdのタンパク質である。免疫系に対するTGF−βの効果の中には、IL−2レセプター誘導、IL−1誘発性胸腺細胞増殖の阻害、およびIFN−γ誘発性マクロファージ活性化遮断がある。TGF−βは、様々な病的状態に関与すると考えられており(Border et al.(1992)J.Clin.Invest.90:1)、そして腫瘍抑制物質または腫瘍プロモーターのいずれかとして機能することが十分裏付けられている。

0043

TGF−βは、2つのセリン/スレオニンキナーゼ細胞表面レセプターであるTGF−βRIIおよびALK5によって、そのシグナル伝達を媒介する。TGF−βシグナル伝達は、TGF−βRIIがALK5レセプターをリン酸化するのを可能とする、リガンド誘発性レセプター二量体化で開始される。そのリン酸化は、ALK5キナーゼ活性を活性化して、活性化ALK5は次に、下流エフェクターSmadタンパク質(MADの脊椎動物相同体、または「Mothers againstDPP(デカペンタプレジック)」タンパク質)、Smad2または3をリン酸化する。Smad4とのp−Smad2/3複合体は、核に入って、標的遺伝子の転写を活性化する。

0044

Smad3は、SmadのR−Smad(レセプター−活性化Smad)サブグループのメンバーであって、TGF−βレセプターによる転写活性化の直接メディエーターである。TGF−β刺激は、Smad2およびSmad3のリン酸化および活性化をもたらし、これらは、Smad4(脊椎動物における「共通(common)Smad」または「co−Smad」)と複合体を形成し、これが核と共に蓄積して、標的遺伝子の転写を調節する。R−Smadは、細胞質局在し、そしてTGF−βレセプターによるリガンド誘発性リン酸化で、co−Smadと複合体を形成して、核へと移動し、ここで、それらは、クロマチンおよび協同転写因子と関連のある遺伝子発現を調節する。Smad6およびSmad7は阻害性Smad(「I−Smad」)であり、すなわち、TGF−βにより転写的に誘発されて、TGF−βシグナル伝達の阻害剤として機能する(Feng et al.(2005)Annu.Rev.Cell.Dev.Biol.21:659)。Smad6/7は、R−Smadのレセプター媒介活性化を妨げることにより、それらの阻害効果を発揮する;それらは、R−Smadの動員およびリン酸化を競合的に妨げる、I型レセプターと関連する。Smad6およびSmad7は、Smad6/7相互作用タンパク質ユビキチン化および分解をもたらす、E3ユビキチンリガーゼを補充することが知られている。

0045

TGF−βシグナル伝達経路は、このほか、BMP−7などによって伝達される経路も存在し、これは、ALK−1/2/3/6を経由し、Smad1/5/8を介して機能が発現されるとされている。TGF−βシグナル伝達経路については、J. Massagu’e, Annu. Rev. Biochem. 1998. 67: 753-91;Vilar JMG, Jansen R, Sander C (2006)PLoS Comput Biol 2(1):e3; Leask, A., Abraham, D. J.FASEB J.18, 816-827 (2004); Coert Margadant & Arnoud SonnenbergEMBO reports (2010)11, 97-105; Joel Rosenbloom et al., Ann Intern Med. 2010; 152: 159-166等を参照のこと。

0046

本明細書において、「眼の症状、障害または疾患」とは、眼における任意の症状、障害または疾患をいう。眼の症状、障害または疾患は、例えば、網膜、硝子体液水晶体、角膜、強膜、または眼の他の部分の症状、障害または疾患である。本発明におけるmTORインヒビターは、特に角膜内皮の症状、障害または疾患に有効であり得る。

0047

本明細書において「トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患」とは、角膜内皮細胞におけるTGF−βに誘導される任意の角膜内皮の症状、障害または疾患を指す。本発明では、角膜内皮細胞、例えば、フックス角膜内皮ジストロフィのモデル細胞(例えば、iFECD)を、TGF−β2に曝露したところ、驚くべきことに種々の障害(例えば、プログラム細胞死)が生じた。このような現象は従来よく解明されていなかった現象である。そして、本発明者らは、このTGF−βシグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患をさらに分析したところ、予想外にも、mTORインヒビターによって、この障害を抑制することができることを見出した。TGF−βシグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患はmTORのシグナル伝達経路とは異なるものであり、TGF−βシグナルに起因する角膜内皮の症状、障害または疾患としては、例えば、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術後の障害、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD:posterior polymorphous dystrophy)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED:congenital hereditary endothelial dystrophy)、特発性角膜内皮障害およびサイトメガロウイルス角膜内皮炎等において、TGF−βの発現がみられるものを挙げることができるがそれらに限定されない。特にTGF−β2の発現が通常より亢進している角膜内皮細胞または角膜内皮組織では、本発明で見出された障害またはそれに関連する障害が発現または亢進していると考えられることから、そのような角膜内皮細胞または角膜内皮組織がみられる任意の角膜内皮の症状、障害または疾患は、特に本発明の対象として意図される。

0048

本明細書において「角膜内皮細胞における細胞外マトリックス(ECM)の過剰発現」とは、正常な角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの発現レベルと比べて、異常なレベルで細胞外マトリックスを発現することをいう。「異常なレベルで細胞外マトリックスを発現する」とは、フィブロネクチン等の細胞外マトリクスタンパク質が、正常形態における細胞外マトリクスにおいて産生されている量よりも多く産生されていることをいう。産生状況は刺激なしのものに加え、必要に応じてトランスフォーミング増殖因子(TGF)βに対する応答により発現量が増加することも含む。たとえば、ヒト角膜内皮細胞についていえば、正常における細胞外マトリクスの量の約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.3倍以上、約1.4倍以上、約1.5倍以上、約1.6倍以上、約1.7倍以上、約1.8倍以上、約1.9倍以上、約2.0倍以上でありうる。正常に対する相違は統計学的に有意であることが好ましいが必ずしも有意でなくともよく、医学的に有意な相違であればよい。

0049

本明細書において、「細胞外マトリクス(ECM)の過剰発現に起因する角膜内皮障害」またはその「症状」とは、主に細胞外マトリクスに起因する濁りや沈着、肥厚等に関連する障害またはその症状であり、角膜内皮面の疣贅(グッタータ)や、デスメ膜の混濁グッテー等の、デスメ膜の肥厚等が生じ、視力低下の原因となる症状に関連するものである。フックス角膜ジストロフィなどの角膜内皮障害においては、角膜内皮細胞の細胞死(特にアポトーシス)が原因による症状悪化とは異なり、この細胞外マトリクスの過剰産生は細胞数の減少が起こらなかったとしても視力、視感覚を悪化させるものであり、細胞死を抑制できたとしても取り組まなければならない点である。「細胞外マトリクス(ECM)の過剰産生に起因する角膜内皮障害」またはその「症状」には以下:混濁、瘢痕、角膜片雲、角膜斑、角膜白斑などを挙げることができるが、これらに限定されない。

0050

好ましい実施形態では、本発明が対象とする症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィに関する障害である。フックス角膜内皮ジストロフィに関しては、角膜内皮細胞におけるTGF−β誘導が関与していることが示されており、FECDにおける細胞喪失に関与し得ることも示されている。したがって、TGF−βシグナル伝達経路の阻害は、FECDの有効な治療になり得ることが当然予想される。しかしながら、本発明者らは、予想外にも、mTORインヒビターが、TGF−βシグナルに起因する障害を抑制できることを見出した。

0051

本発明の医薬は、フックス角膜内皮ジストロフィの中でもひとつの重要な異常または障害の原因となるTGF−β2に誘導される細胞障害等を処置しうることから、フックス角膜内皮ジストロフィの治療または予防に有用であることが理解される。特に、本発明では実施例において、フックス角膜内皮ジストロフィモデルにおいてTGF−β2に誘導される細胞障害あるいはプログラム細胞死を抑制することができたことから本発明は、フックス角膜内皮ジストロフィモデルにおけるTGF−β2に関連する重症患者の治療に使用することができると考えられる。また、本発明の医薬は、予想外にも細胞外マトリックス(ECM)の過剰発現を抑制することが可能であり、ECMのデスメ層への沈着などの角膜内皮における障害等を処置または予防し得る。したがって、本発明は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける角膜内皮細胞の障害や、角膜内皮密度低下、グッテー(guttae)の形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、角膜上皮障害、混濁、瘢痕、角膜実質混濁、羞明、霧視、視力障害、眼痛流涙充血疼痛水疱性角膜症、眼の不快感コントラスト低下、ハロー、グレアおよび角膜実質の浮腫などを処置しまたは予防し得る。

0052

(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience; Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methodsfrom Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience; Innis,M.A.(1990).PCRProtocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press; Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates; Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates; Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press; Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates; Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress; Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press; Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach,IRL Press; Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall; Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim; Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press; Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques, Academic Press、別冊実験医学遺伝子導入発現解析実験法土社、1997などに記載されている。角膜内皮細胞については、Nancy Joyceらの報告{Joyce, 2004 #161} {Joyce, 2003 #7}がよく知られているが、前述のごとく長期培養継代培養より線維芽細胞様の形質転換を生じ、効率的な培養法の研究が現在も行われている。これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。

0053

(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。

0054

<医薬>
1つの局面において、本発明は、mTORインヒビターを含む、眼の症状、障害または疾患を予防または治療するための組成物を提供する。特に、mTORインヒビターは、角膜内皮における症状、障害または疾患に有効である。

0055

mTORは、細胞内のシグナル伝達に関与し、細胞分裂、細胞の生存等の調節を担っているとされているが、角膜内皮におけるそのメカニズムは明らかになっていない。そのため、mTORインヒビターが、眼科、特に角膜内皮、疾患、障害または症状の治癒または予防に有効であることは予想できなかったことであり驚くべきことである。

0056

1つの実施形態では、角膜内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術後の障害、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD:posterior polymorphous dystrophy)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED:congenital hereditary endothelial dystrophy)、特発性角膜内皮障害、およびサイトメガロウイルス角膜内皮炎からなる群より選択される。

0057

1つのさらなる好ましい実施形態では、本発明は、フックス角膜内皮ジストロフィにおける細胞外マトリクスの過剰発現に起因する症状を治療または予防する作用効果を有し、このような症状の治療または予防のための医薬または治療法もしくは予防法を提供する。このような症状としては、角膜内皮面の疣贅(グッタータ)、デスメ膜の混濁グッテー、デスメ膜の肥厚、霧視、ハロー、グレア、視力低下、角膜混濁、白斑および視感覚の異常等を挙げることができる。細胞外マトリクスの過剰産生に起因する症状については、さらに以下に述べる。

0058

さらに別の局面において、本発明は、mTORインヒビターを含む、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬を提供する。上述のとおり、mTORインヒビターは、TGF−βシグナルに起因する角膜内皮障害等を処置または予防し得るものであるが、mTORインヒビターがさらに角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現を抑制することが可能であることは驚くべきことであった。これは、mTORインヒビターが、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルおよび細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮障害を同時に処置し得ることを示唆する。特に、フックス角膜内皮ジストロフィは、TGF−βシグナルに起因して角膜内皮細胞の密度が著しく減少し、さらに細胞外マトリクスがデスメ膜に沈着しグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚を生じる疾患であるため、細胞外マトリックスの過剰発現を抑制することは、フックス角膜内皮ジストロフィの治療および予防における著明な改善が可能であり、場合によっては完全な治癒が可能であることを意味している。また、フックス角膜内皮ジストロフィ等の角膜内皮障害における細胞外マトリクス過剰産生により発生し得るグッテー(Corneal guttae)およ
びデスメ膜の肥厚やこのほか混濁や沈着に関連する症状(遷延化する角膜浮腫による不可逆的な角膜実質混濁など)を改善し、処置しまたは予防することができる。

0059

1つの実施形態では、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、角膜内皮細胞におけるフィブロネクチンの過剰発現に起因し得る。

0060

1つの実施形態では、角膜内皮細胞における細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、グッテーの形成、デスメ膜の肥厚、角膜厚の肥厚、混濁、瘢痕、角膜実質混濁、角膜上皮浮腫、角膜上皮障害、羞明、および霧視からなる群より選択される。

0061

別の局面において、本発明は、mTORインヒビターを含む、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルおよび細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための医薬を提供する。mTORインヒビターは、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルおよび細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮障害を同時に処置または予防し得る。

0062

1つの実施形態では、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルおよび細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィ、その他の角膜内皮ジストロフィ、ならびに薬物、手術、外傷、感染症、ぶどう膜炎などによる角膜内皮障害からなる群より選択される。

0063

1つの実施形態では、角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルおよび細胞外マトリックスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患は、フックス角膜内皮ジストロフィを含む。フックス角膜内皮ジストロフィは、TGF−βシグナルに起因して角膜内皮細胞の密度が著しく減少し、さらに細胞外マトリクスがデスメ膜に沈着しグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚などの障害等を生じる疾患であるため、細胞外マトリックスの過剰発現を抑制することは、フックス角膜内皮ジストロフィの著明な改善が可能であり、場合によっては完全な治癒が可能であることを意味している。mTORインヒビターによる、フックス角膜内皮ジストロフィ等の疾患でのグッテー(Corneal guttae)およびデスメ膜の肥厚などの障害等の改善は、眼科疾患における質的改善をもたらすものであり、座して死すしかなかったフックス角膜内皮ジストロフィ等の疾患において、従来にない治療効果を与えることになる。

0064

1つの実施形態において、本発明の利用法としては、例えば点眼薬が挙げられるが、これに限定されず、前房内への注射、徐放剤への含浸結膜下注射、全身投与(内服静脈注射)などの投与方法も挙げることができる。

0065

1つの実施形態において、本発明において用いられるmTORインヒビターは、眼(例えば、角膜内皮)の症状、障害または疾患の治療または予防に有効である限りどのような種類のものを使用してもよい。具体的なmTORインヒビターとしては、ラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、PI−103、CC−223、INK128、AZD8055、KU 0063794、ボクスタリシブ(Voxtalisib(XL765、SAR245409))、リダフォロリムス(Ridaforolimus(Deforolimus、MK−8669))、NVP−BEZ235、CZ415、Torkinib(PP242)、トリン1(Torin 1)、オミパリシブ(Omipalisib(GSK2126458、GSK458))、OSI−027、PF−04691502、アピトリシブ(Apitolisib(GDC−0980、RG7422))、WYE−354、ビスツセルチブ(Vistusertib(AZD2014))、トリン2(Torin 2)、タクロリムス(Tacrolimus(FK506))、GSK1059615、ゲダトリシブ(Gedatolisib(PF−05212384、PKI−587))、WYE−125132(WYE−132)、BGT226(NVP−BGT226)、パロミド529(Palomid 529(P529))、PP121、WYE−687、CH5132799、WAY−600、ETP−46464、GDC−0349、XL388、ゾタロリムス(Zotarolimus(ABT−578))、クリソファン酸(Chrysophanic Acid)からなる群より選択される少なくとも1つを含む。

0066

本発明の医薬において、上記mTORインヒビターは、単独で使用されてもよく、組み合わせて使用されてもよい。本発明で使用されるmTORインヒビターの濃度は、mTORインヒビターの種類に応じて適宜変更することができるが、例えば、少なくとも約0.0001nM(nmol/L)、少なくとも約0.001nM、少なくとも約0.01nM、少なくとも約0.1nM、少なくとも約1nM、少なくとも約10nM、少なくとも約100nM、または少なくとも約1000nMであり得るが、これらに限定されない。本発明で使用されるmTORインヒビターの濃度の上限としては、約100μM(μmol/L)、約10μM、約1μM、または約0.5μMが挙げられるが、これらに限定されない。本発明で使用されるmTORインヒビターの濃度範囲としては、例えば、約0.01nM〜約100μM、約0.1nM〜約100μM、約1nM〜約100μM、約10nM〜約100μM、約100nM〜約100μM、約1μM〜約100μM、約0.01nM〜約10μM、約0.1nM〜約10μM、約1nM〜約10μM、約10nM〜約10μM、約100nM〜約10μM、約1μM〜約10μM、約0.01nM〜約1μM、約0.1nM〜約1μM、約1nM〜約1μM、約10nM〜約1μM、約100nM〜約1μM、約0.01nM〜約100nM、約0.1nM〜約100nM、約1nM〜約100nM、約10nM〜約100nMが挙げられるが、これらに限定されない。2種以上のmTORインヒビターを組み合わせて使用する場合はそれぞれのmTORインヒビターの濃度を適宜変更することができる。

0067

好ましい実施形態では、mTORインヒビターは、例えば、ラパマイシン、テムシロリムスおよびエベロリムスならびにそれらの塩からなる群より選択される。理論に束縛されることを望まないが、ラパマイシン、テムシロリムスおよびエベロリムスなどのmTORインヒビターによる処置によって、他のmTORインヒビターに比べても、顕著な治療成績が示され、特に、フック内皮ジストロフィ等のトランスフォーミング増殖因子−β2(TGF−β2)に関連する角膜内皮の疾患または障害、あるいは細胞外マトリクス(ECM)の過剰発現に関連する角膜内皮の疾患または障害の治癒成績が顕著に改善することが見出されているからである。また、これらのmTORインヒビターはFDA、PMDAなどですでに承認されたものであり、安全性などの面を考慮しても医薬品として眼科用医薬としても投与可能であることが期待されているからである。

0068

本発明の医薬において、上記化合物は、単独で使用されてもよく、組み合わせて使用されてもよい。本発明で使用される化合物の濃度は、約0.01nM〜100μM(μmol/l)、または約0.1nM〜100μM、通常約1nM〜100μM、約10nM〜100μM、好ましくは約0.1〜30μM、より好ましくは約1〜10μMであり、これらの上限下限は適宜組み合わせて設定されることができ、2種以上の化合物を組み合わせて使用する場合は適宜変更することができ、他の濃度範囲としては、例えば、通常、約0.01nM〜100μM、約0.1nM〜100μM、あるいは約0.001〜100μM、好ましくは、約0.01〜75μM、約0.05〜50μM、約1〜10μM、約0.01〜10μM、約0.05〜10μM、約0.075〜10μM、約0.1〜10μM、約0.5〜10μM、約0.75〜10μM、約1.0〜10μM、約1.25〜10μM、約1.5〜10μM、約1.75〜10μM、約2.0〜10μM、約2.5〜10μM、約3.0〜10μM、約4.0〜10μM、約5.0〜10μM、約6.0〜10μM、約7.0〜10μM、約8.0〜10μM、約9.0〜10μM、約0.01〜50μM、約0.05〜5.0μM、約0.075〜5.0μM、約0.1〜5.0μM、約0.5〜5.0μM、約0.75〜5.0μM、約1.0〜5.0μM、約1.25〜5.0μM、約1.5〜5.0μM、約1.75〜5.0μM、約2.0〜5.0μM、約2.5〜5.0μM、約3.0〜5.0μM、約4.0〜5.0μM、約0.01〜3.0μM、約0.05〜3.0μM、約0.075〜3.0μM、約0.1〜3.0μM、約0.5〜3.0μM、約0.75〜3.0μM、約1.0〜3.0μM、約1.25〜3.0μM、約1.5〜3.0μM、約1.75〜3.0μM、約2.0〜3.0μM、約0.01〜1.0μM、約0.05〜1.0μM、約0.075〜1.0μM、約0.1〜1.0μM、約0.5〜1.0μM、約0.75〜1.0μM、約0.09〜35μM、約0.09〜3.2μMであり、より好ましくは、約0.05〜1.0μM、約0.075〜1.0μM、約0.1〜1.0μM、約0.5〜1.0μM、約0.75〜1.0μMを挙げることができるがこれらに限定されない。

0069

点眼剤として用いられる場合は、涙液などでの希釈も考慮し、毒性にも気を付けながら、上記有効濃度の約1〜10000倍、好ましくは約100〜10000倍、例えば、約1000倍を基準として製剤濃度を決定することができ、これらを上回る濃度を設定することも可能である。例えば、約0.01μM(μmol/l)〜1000mM(mmol/l)、約0.1μM〜100mM、約1μM〜100mM、約10μM〜100mM、あるいは約0.1μM〜30mM、約1μM〜30mM、より好ましくは約1μM〜10mM、約10μM〜10mM、約100μM〜10mM、約10μM〜100mM、約100μM〜100mMであり、約¥mM〜10mM、約1mM〜100mMであり得、これらの上限下限は適宜組み合わせて設定されることができ、2種以上の化合物を組み合わせて使用する場合は適宜変更することができる。

0070

別の実施形態では、mTORインヒビターはラパマイシンである。使用されるラパマイシンの濃度は、少なくとも約0.1nMであり、少なくとも約1nMであり、少なくとも約10nMであり、好ましくは、約100nMである。好ましい実施形態では、ラパマイシンは点眼剤として用いられ、その場合の使用されるラパマイシンの濃度は、少なくとも約0.1mMであり、少なくとも約1mMであり、少なくとも約10mMであり、好ましくは、少なくとも約100mMである。濃度の上限としては飽和量または1000mMが例示される。

0071

別の実施形態では、mTORインヒビターはテムシロリムスである。使用されるテムシロリムスの濃度は、少なくとも約0.01nMであり、少なくとも約0.1nMであり、好ましくは、約1nM、好ましくは、約10nM、より好ましくは、約100nM、より好ましくは、約1μM、より好ましくは、約10μM、である。テムシロリムスは点眼剤として用いられ、その場合の使用されるテムシロリムスの濃度は、少なくとも約0.01mMであり、少なくとも約0.1mMであり、少なくとも約1mMであり、好ましくは、少なくとも約10mMである。濃度の上限としては飽和量または1000mMが例示される。別の実施形態では、mTORインヒビターはエベロリムスである。使用されるエベロリムスの濃度としては、少なくとも約0.1nMであり、少なくとも約1nMであり、少なくとも約10nMであり、好ましくは、約100nMである。エベロリムスは点眼剤として用いられ、その場合の使用されるエベロリムスの濃度は、少なくとも約0.1mMであり、少なくとも約1mMであり、少なくとも約10mMであり、好ましくは、少なくとも約100mMである。濃度の上限としては飽和量または1000mMが例示される。

0072

1つの実施形態では、本発明の治療または予防するための医薬は、角膜内皮を有する任意の動物、例えば哺乳動物を対象とすることができ、好ましくは霊長類の角膜内皮の治療または予防を目的とする。好ましくは、この治療または予防の対象は、ヒトの角膜内皮である。

0073

さらなる実施形態では、mTORインヒビターは、mTOR遺伝子の発現抑制物質で合ってもよい。mTOR遺伝子の発現抑制物質としては、例えば、siRNA、アンチセンス核酸またはリボザイムが挙げられるが、これらに限定されない。

0074

特定の実施形態では、mTORインヒビターはmTOR遺伝子に対するsiRNAである。本発明において使用されるsiRNAの代表的な例は、以下:
CAUUCGCAUUCAGUCCAUAtt(配列番号1)
に示されるセンス鎖と
UAUGGACUGAAUGCGAAUGat(配列番号2)
に示されるアンチセンス鎖とを含むがこれに限定されず、mTOR遺伝子に対するアンチセンス効果あるいはRNAi効果させあれば、どのような配列でもよい。これらのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、1〜3塩基のヌクレオチドが欠失、置換、挿入および/または付加されていてもよい。

0075

別の局面では、本発明は、mTORインヒビターの有効量をそれを必要な被験体に投与する工程を含む、眼(例えば、角膜内皮)の症状、障害または疾患(角膜内皮細胞におけるTGF−βシグナルおよび/または細胞外マトリクスの過剰発現に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患)の治療または予防のための方法を提供する。

0076

本明細書において「被験体」とは、本発明の治療および予防するための医薬または方法の投与(移植)対象を指し、被験体としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウスラットハムスターウサギネコイヌウシウマヒツジサル等)があげられるが、霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。

0077

特定の疾患、障害または状態の治療に有効な本発明の医薬の有効量は、障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。さらに、必要に応じて、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。しかし、投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.001、1、5、10、15、100、または1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与回数、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、投与形態対象臓器等により、適宜選択してもよい。例えば、本発明は点眼剤として使用され得る。また、本発明の医薬を前房内に注入することもできる。また治療薬は、治療有効量、または所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。治療マーカーが、投与後に有意に減少した場合に、治療効果があったと判断してもよい。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系から得られる用量−反応曲線から推定可能である。

0078

<角膜内皮細胞の保存および増殖>
別の局面において、本発明は、mTORインヒビターを含む角膜内皮細胞を保存するための組成物を提供する。本発明はまた、mTORインヒビターの有効量を角膜内皮細胞に接触させる工程を包含する、角膜内皮細胞を保存するための方法を提供する。角膜内皮細胞の保存に使用されるmTORインヒビター等の実施形態は、本明細書において<医薬>において記載される任意の実施形態が利用可能であることが理解される。角膜内皮細胞への接触、インビボであっても、エキソビボであってもインビトロであってもよく、細胞製剤の製造において使用されてもよい。

0079

別の局面において、本発明は、mTORインヒビターを含む角膜内皮細胞を増殖する、または増殖を促進するための組成物を提供する。本発明はまた、mTORインヒビターの有効量を角膜内皮細胞に接触させる工程を包含する、角膜内皮細胞を増殖する、または増殖を促進するための方法を提供する。角膜内皮細胞の増殖または増殖の促進に使用されるmTORインヒビター等の実施形態は、本明細書において<医薬>において記載される任意の実施形態が利用可能であることが理解される。角膜内皮細胞への接触、インビボであっても、エキソビボであってもインビトロであってもよく、細胞製剤の製造において使用されてもよい。

0080

本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。

0081

以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。

0082

以下に、本発明の例を記載する。該当する場合生試料等の取り扱いは、厚生労働省文部科学省等において規定される基準を遵守し、該当する場合はヘルシンキ宣言またはその宣言に基づき作成された倫理規定に基づいて行った。研究のための眼の寄贈については、全ての故人ドナー近親者から同意書を得た。本研究は、エルランゲン大学(ドイツ)、SightLifeTM(Seattle,WA)アイバンクの倫理委員会またはそれに準ずるものの承認を受けた。

0083

(調製例:フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の不死化角膜内皮細胞株(iFECD)モデルの作製)
本実施例では、フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の角膜内皮細胞から不死化角膜内皮細胞株(iFECD)を作製した。

0084

培養方法
シアトルアイバンクから購入した研究用角膜より角膜内皮細胞を基底膜とともに機械的に剥離し、コラゲナーゼを用いて基底膜よりはがし回収後、初代培養を行った。培地はOpti−MEMI Reduced−Serum Medium, Liquid(INVITROGENカタログ番号:31985−070)に、8%FBS(BIOWEST、カタログ番号:S1820−500)、200mg/ml CaCl2・2H2O(SIGMA カタログ番号:C7902−500G)、0.08%コンドロイチン硫酸(SIGMA カタログ番号:C9819−5G)、20μg/mlアスコルビン酸(SIGMA カタログ番号:A4544−25G)、50μg/mlゲンタマイシン(INVITROGEN カタログ番号:15710−064)および5ng/ml EGF(INVITROGEN カタログ番号:PHG0311)を加えた3T3フィーダー細胞用の馴化させたものを基本培地として用いた。また、基本培地にSB431542(1μmol/l)およびSB203580(4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルホニルフェニル)−5(4−ピリジルイミダゾール<4−[4−(4−フルオロフェニル)−2−(4−メチルスルフィニルフェニル)−1H−イミダゾール−5−イルピリジン)(1μmol/l)を添加したもの(本明細書では「SB203580+SB431542+3T3馴化培地」ともいう)で培養した。

0085

取得方法
フックス角膜内皮ジストロフィの臨床診断により水疱性角膜症に至り、角膜内皮移植(デスメ膜内皮角膜移植=DMEK)を実施されたヒト患者3名より文書による同意および倫理員会の承認のもと角膜内皮細胞を得た。DMEKの際に機械的に病的な角膜内細胞と基底膜であるデスメ膜とともに剥離し、角膜保存液であるOptisol−GS(ボシュロム社)に浸漬した。その後、コラゲナーゼ処理を行い酵素的に角膜内皮細胞を回収して、SB203580+SB431542+3T3馴化培地により培養した。培養したフックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の角膜内皮細胞はSV40ラージT抗原およびhTERT遺伝子をPCRにより増幅して、レンチウイルスベクター(pLenti6.3_V5−TOPO; Life Technologies Inc)に導入した。その後、レンチウイルスベクターを3種類のヘルパープラスミド(pLP1、pLP2、pLP/VSVG; Life Technologies Inc.)とともにトランスフェクション試薬(Fugene HD; Promega Corp., Madison, WI)を用いて293T 細胞 (RCB2202; Riken Bioresource Center, Ibaraki, Japan)に感染させた。48時間の感染後にウイルスを含む培養上清を回収して、5μg/mlのポリブレンを用いて、培養したフックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の角膜内皮細胞の培養液に添加して、SV40ラージT抗原およびhTERT遺伝子を導入した。フックス角膜内皮ジストロフィ患者由来の不死化角膜内皮細胞株(iFECD)の位相差顕微鏡像を確認した。コントロールとしてシアトルアイバンクから輸入した研究用角膜より培養した角膜内皮細胞を同様の方法で不死化し、正常角膜内皮細胞の不死化細胞株を作製した(iHCEC)。健常ドナー由来の不死化角膜内皮細胞株(iHCEC)および不死化角膜内皮細胞株(iFECD)の位相差顕微鏡像をみると、iHCECおよびiFECDはいずれも正常の角膜内皮細胞同様に一層の多角形の形態を有する。iHCECおよびiFECDはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎仔血清(FBS)により維持培養を行った。

0086

(実施例1:TGF−β2により誘導される細胞障害に対するラパマイシンの抑制効果
本実施例では、mTORインヒビターの代表例であるラパマイシンの、眼の細胞障害に対する効果を実証した。

0087

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTAナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0088

12ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり1×105個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地は、DMEM+10%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、ラパマイシンを添加し24時間培養した(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトTGF−β2(Wako、200−19911)およびラパマイシンを含有する培地を添加し、24時間培養を行った(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0089

(結果)
(ラパマイシンはTGF−β2により誘導される細胞障害を抑制する)
図1に結果を示す。ラパマイシン非存在下で、組み換えヒトTGF−β2によりiFECDを刺激した場合、顕著に細胞が障害されていることが認められる。他方で、ラパマイシンでプレトリートメントした場合、角膜内皮細胞の障害が抑制されていることが観察された。したがって、ラパマイシンは組み換えヒトTGF−β2により誘導される細胞障害を抑制することが認められた。

0090

(実施例2:TGF−β2により誘導されるカスパーゼ活性のラパマイシンによる抑制効果)
本実施例では、mTORインヒビターの代表例であるラパマイシンの、カスパーゼ活性に対する効果を実証した。

0091

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0092

12ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり1×105個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地は、DMEM+10%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、ラパマイシンを添加し24時間培養した(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトTGF−β2(Wako、200−19911)およびラパマイシンを含有する培地を添加し、24時間培養を行った(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0093

観察後、以下の手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。

0094

1)タンパク質の回収
浮遊及び死細胞も回収するため、上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800gで12分遠心上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mMEDTA、0.1% SDS、0.5%DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊及び死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpmで10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。

0095

2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質8μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗Caspase 3抗体(Cell Signaling、9662)、ウサギ抗PARP抗体(Cell Signaling、9542)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA931V,NA934V)を用いた。1次抗体はウサギ抗Caspase 3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗PARP抗体:2000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:5000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(ナカライテスク、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)及びImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。

0096

(結果)
(ラパマイシンは、TGF−β2により誘導されるカスパーゼ活性を抑制する)
図2にカスパーゼについてのウェスタンブロットの結果を示す。ラパマイシン非存在下で、組み換えヒトTGF−β2によりiFECDを刺激した場合、活性型である約17kDaの切断カスパーゼ3(約17kDa)が認められた。他方で、ラパマイシン添加群においては、活性型の切断カスパーゼ3はほとんど確認されなかった。したがって、による解析よりラパマイシンは組み換えヒトTGF−β2により誘導されるカスパーゼの活性化を抑制することが認められた。mTORは、カスパーゼのシグナルとは無関係であり、また、mTORインヒビターがカスパーゼの活性化を抑制することも知られていないため、ラパマイシンが、カスパーゼの活性化を抑制できたことは驚くべきことであった。

0097

(実施例3:組み換えヒトTGF−β2により誘導されるS6Kのリン酸化活性のラパマイシンによる抑制効果)
本実施例では、mTORインヒビターの代表例であるラパマイシンの、TGF−β2により誘導されるS6Kのリン酸化活性に対する効果を実証した。

0098

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0099

12ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり7×104個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地は、DMEM+10%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、ラパマイシンを添加し24時間培養した(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトTGF−β2(Wako、200−19911)およびラパマイシンを含有する培地を添加し、24時間培養を行った(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0100

観察後、以下の手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。

0101

1)タンパク質の回収
浮遊及び死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800gで12分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mMEDTA、0.1% SDS、0.5%DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊及び死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpmで10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。

0102

2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質5μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗Akt1抗体(Cell Signaling、2938)、マウス抗Phospho−Akt抗体(Cell Signaling、4051)、ウサギ抗S6K抗体(Cell Signaling、9202)、ウサギ抗Phospho−S6K抗体(Cell Signaling、9204)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA931V,NA934V)を用いた。1次抗体はウサギ抗Akt抗体:1000倍希釈、マウス抗Phospho−Akt抗体:1000倍希釈、ウサギ抗S6K抗体:1000倍希釈、ウサギ抗Phospho−S6K抗体:1000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:5000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(ナカライテスク、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)及びImageQuantTM software(GE Healthcare社
)により解析した。

0103

(結果)
(ラパマイシンはTGF−β2により誘導されるS6Kのリン酸化活性を抑制する)
図3に結果を示す。ラパマイシン非存在下で、組み換えヒトTGF−β2によりiFECDを刺激した場合、Aktのリン酸化活性が認められた。他方で、ラパマイシン添加群においては、S6Kのリン酸化活性が抑制された。ウェスタンブロットによる解析よりラパマイシンはmTORシグナル経路阻害作用を有することを確認した。AktはmTORの上流、S6KはmTORの下流に存在する。そのため、mTORインヒビターにより、上流のAktはリン酸化され、他方で下流のS6Kのリン酸化は抑制されたことから、ラパマイシンがmTOR経路を阻害していることが確認された。

0104

(実施例4:TGF−β2により誘導されるSmad2/3のリン酸化活性のラパマイシンによる抑制効果)
本実施例では、mTORインヒビターの代表例であるラパマイシンの、TGF−β2により誘導されるSmad2/3のリン酸化活性に対する抑制効果を実証した。

0105

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0106

12ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり8×104個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地は、DMEM+10%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、ラパマイシンを添加し24時間培養した(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトTGF−β2(Wako、200−19911)およびラパマイシンを含有する培地を添加し、24時間培養を行った(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0107

観察後、以下の手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。

0108

1)タンパク質の回収
浮遊及び死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800gで12分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mMEDTA、0.1% SDS、0.5%DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊及び死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpmで10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。

0109

2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質8μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗Smad2抗体(Cell Signaling、5339)、マウス抗Phospho−Smad2抗体(Cell Signaling、3108)、ウサギ抗Smad3抗体(Cell Signaling、9523)、ウサギ抗Phospho−Smad3抗体(Cell Signaling、9520)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA931V,NA934V)を用いた。1次抗体はウサギ抗Smad2抗体:1000倍希釈、マウス抗Phospho−Smad2抗体:1000倍希釈、ウサギ抗Smad3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗Phospho−Smad3抗体:1000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:5000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(ナカライテスク、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)及びImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。

0110

(結果)
(ラパマイシンはTGF−β2により誘導されるSmad2/3のリン酸化活性を抑制しない)
図4に結果を示す。ラパマイシン存在下で、組み換えヒトTGF−β2により刺激した場合、Smad2及びSmad3のリン酸化活性が認められた。したがって、ウェスタンブロットによる解析よりラパマイシンは組み換えヒトTGF−β2により誘導されるSmad2/3のリン酸化活性を抑制しないことが認められた。TGF−βの作用は、Smadのリン酸化経路によって伝達されるとされているため、ラパマイシンの細胞障害抑制作用は、TGF−βシグナルの阻害によるものでないことが明らかになった。これは、ラパマイシンが、TGF−βシグナルを直接阻害することなくTGF−βシグナルに起因する角膜内皮の障害等を抑制することを示唆しており、予想外の結果であった。

0111

(実施例5:TGF−β2により誘導されるフィブロネクチンの産生に対するラパマイシンの抑制効果)
本実施例では、mTORインヒビターの代表例であるラパマイシンの、TGF−β2により誘導されるフィブロネクチンの産生に対する抑制効果を実証した。

0112

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0113

6ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり2×105個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地は、DMEM+10%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、ラパマイシンを添加し24時間培養した(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトTGF−β2(Wako、200−19911)およびラパマイシンを含有する培地を添加し、24時間培養を行った(培地は、DMEM+2%FBS+1%P/Sを使用した)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0114

観察後、以下の手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。

0115

1)タンパク質の回収
浮遊及び死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800gで12分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mMEDTA、0.1% SDS、0.5%DOC、1%NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊及び死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpmで10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。

0116

2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質5μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、マウス抗Fibronectin抗体(BD Bioscience、610077)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA931V,NA934V)を用いた。1次抗体はマウス抗Fibronectin抗体:15000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:5000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(ナカライテスク、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)及びImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。

0117

(結果)
(ラパマイシンはTGF−β2により誘導されるフィブロネクチンの産生を抑制する)
図5に結果を示す。ラパマイシン非存在下で、組み換えヒトTGF−β2により刺激した場合、iFECDにおいてフィブロネクチンの産生が認められた。他方で、ラパマシン添加群においては、フィブロネクチンの産生はほとんど確認されなかった。したがって、ウェスタンブロットによる解析よりラパマイシンは組み換えヒトTGF−β2により誘導されるフィブロネクチンの発現量を抑制することが認められた。mTORがフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスの産生に関与していることは知られていなかったため、mTORインヒビターが、細胞外マトリックス産生を抑制することができることは予想外であった。

0118

フックス角膜内皮ジストロフィにおいてはフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスの過剰産生およびデスメ膜への沈着による、デスメ膜肥厚、グッテー(guttae)の形成などの障害が生じる。これらの障害は、フックス角膜内皮ジストロフィ患者において一般的には30代から40代に生じ始め、生涯を通じて進行する。進行により霧視、ハロー、グレア、視力低下などの視力障害を生じる。さらに、フックス角膜内皮ジストロフィでは角膜内皮細胞が継続的に障害されるが、細胞密度が約1000個/mm2を下回るまではポンプ機能を残された角膜内皮が代償することで角膜の透明性は維持される。一方で、約1000個/mm2を下回ると角膜に前房水が進入することで、角膜浮腫が生じ視力障害を生じる(図18)。このように、フックス角膜内皮ジストロフィ患者では、主に細胞外マトリックスの過剰産生と角膜内皮細胞死の2つの原因により視機能障害が生じる。本発明におけるカスパーゼ阻害剤の働きは、細胞外マトリックス産生の抑制および角膜内皮細胞死抑制の双方に働くことで、フックス角膜内皮ジストロフィ治療に特に有用であると言える。

0119

(実施例6:mTORの発現およびS6Kのリン酸化に対するmTOR siRNA抑制効果)
本実施例では、mTORインヒビターの別の代表例であるmTOR siRNAの、mTORの発現およびS6Kのリン酸化に対する抑制効果を実証した。

0120

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0121

12ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり3×104個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。24時間後、培地を除去し、Lipofectamine(invitrogen、92008)及び3pmolのmTORsiRNA(Ambion、AS026M0L)を添加し24時間培養した(培地:OptiMEM−I(invitrogen、31985−088))。使用したmTORsiRNAは、配列番号1に示されるセンス鎖および配列番号2に示されるアンチセンス鎖を有する。24時間後、培地を除去し、37℃(5% CO2)で72時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。72時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトGF−β2(Wako、200−19911)入りの培地を添加し、24時間培養を行った(培地:DMEM+2%FBS+1%P/S)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0122

観察後、以下の手順でPCR法によりcDNAの塩基配列の増幅を行った。

0123

1)total RNAの回収
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、RNeasy mini Kit(QIAGEN、M610A)のBuffer RLTLysis bufferを350μl添加し、細胞を溶出した。その後、350μlの70%EtOHを添加し、RNeas mini spin column(QIAGEN)に移した後、10000rpmで15秒遠心し、Flow−throughを捨てた。さらに30μlのRNeasy free water(QIAGEN)をRNeasy mini spin columnに添加した後、10000rpmで1分遠心しtotal RNAを抽出した。

0124

2)cDNA合成
抽出したtotal RNA450ng、Rever Tra Ace(TOYOBO)、10mM dNTP Mixture(TOYOBO)、5×RTBuffer(TOYOBO)、ランダムプライマー(invitrogen)をそれぞれ添加し、T3000 Thermocycler(biometra)を用いて補助的DNAを合成した。反応条件は30℃で10分のアニーリング反応、42℃で60分の逆転写反応、99℃で5分の熱変性反応で行った。

0125

3)PCR法
合成した補助的DNA1μl、2×GO Taq GreenMaster Mix(Promega)を5μl、mTORのForwardカスタムプライマー(invitrogen)を1μl、Reverseカスタムプライマー(invitrogen)を1μl、H2Oを2μl混合し、T3000 Thermocycler(biometra)を用いて、補助的DNAの塩基配列を増幅させた。反応条件は94℃で2分の初期熱変性反応の後、95℃で30秒の熱変性反応、53℃で20秒のアニーリング反応、72℃で25秒伸長反応を26サイクル行い、さらに72℃で5分の伸長反応を行った。増幅の後、アガロースゲルを用いた電気泳動及びAmershamTM Imager 600(GEヘルスケアジャパン)でUV照射によって検出した。

0126

また、観察後、以下の手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。

0127

1)タンパク質の回収
浮遊及び死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800g、12分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mMEDTA、0.1% SDS、0.5%DOC、1% NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊及び死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpmで10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。

0128

2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質5μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗mTOR抗体(Cell Signaling、2972)、ウサギ抗S6K抗体(Cell Signaling、9202)、ウサギ抗Phospho−S6K抗体(Cell Signaling、9204)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA931V,NA934V)を用いた。1次抗体はウサギ抗mTOR抗体:1000倍希釈、ウサギ抗S6K抗体:1000倍希釈、ウサギ抗Phospho−S6K抗体:1000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:5000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(ナカライテスク、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)及びImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。

0129

(結果)
(mTOR siRNAはmTORの発現およびS6Kのリン酸化を抑制する)
図6に結果を示す。iFECDにおいてmTORに対してRNAiを行った場合、RNAレベル及びタンパクレベルのどちらにおいてもmTORの発現抑制が認められた。また、mTOR siRNAにより、タンパクレベルにおいてS6Kのリン酸化が抑制されたことが認められた。したがって、PCR及びウェスタンブロットによる解析よりmTOR siRNAはmTORの発現およびS6Kのリン酸化を抑制したことが認められた。

0130

(実施例7:TGF−β2により誘導される細胞障害に対するmTOR siRNAの抑制効果)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0131

12ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり3×104個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。24時間後、培地を除去し、Lipofectamine(invitrogen、92008)及び3pmolのmTORsiRNA(Ambion、AS026M0L)を添加し24時間培養した(培地:OptiMEM−I(invitrogen、31985−088))。使用したmTORsiRNAは、配列番号1に示されるセンス鎖および配列番号2に示されるアンチセンス鎖を有する。24時間後、培地を除去し、37℃(5% CO2)で72時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。72時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトGF−β2(Wako、200−19911)入りの培地を添加し、24時間培養を行った(培地:DMEM+2%FBS+1%P/S)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0132

(結果)
(mTOR siRNAはTGF−β2により誘導される細胞障害を抑制する)
図7に結果を示す。mTOR siRNAを使用せず、組み換えヒトTGF−β2によりiFECDを刺激した場合、顕著に細胞が障害されていることが認められる。他方で、mTOR siRNAを使用した場合、角膜内皮細胞の障害が抑制されていることが観察された。したがって、mTORの発現抑制がTGF−β2により誘導される細胞障害を抑制することが認められた。

0133

(実施例8:TGF−β2により誘導されるカスパーゼの活性化に対するmTOR siRNAの抑制効果)
本実施例では、mTORインヒビターの別の代表例であるmTOR siRNAの、TGF−β2により誘導されるカスパーゼの活性化に対する抑制効果を実証した。

0134

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0135

12ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり3×104個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。24時間後、培地を除去し、Lipofectamine(invitrogen、92008)及び3pmolのmTORsiRNA(Ambion、AS026M0L)を添加し24時間培養した(培地:OptiMEM−I(invitrogen、31985−088))。使用したmTORsiRNAは、配列番号1に示されるセンス鎖および配列番号2に示されるアンチセンス鎖を有する。24時間後、培地を除去し、37℃(5% CO2)で72時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。72時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトGF−β2(Wako、200−19911)入りの培地を添加し、24時間培養を行った(培地:DMEM+2%FBS+1%P/S)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0136

観察後、以下の手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。

0137

1)タンパク質の回収
浮遊及び死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800gで12分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mMEDTA、0.1% SDS、0.5%DOC、1% NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊及び死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpmで10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。

0138

2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質6μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗Caspase 3抗体(Cell Signaling、9662)、ウサギ抗PARP抗体(Cell Signaling、9542)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA931V,NA934V)を用いた。1次抗体はウサギ抗Caspase 3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗PARP抗体:2000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:5000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(ナカライテスク、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)及びImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。

0139

(結果)
(mTOR siRNAはTGF−β2により誘導されるカスパーゼの活性化を抑制する)
図8に結果を示す。mTOR siRNAを使用せず、組み換えヒトTGF−β2により刺激した場合、iFECDにおいて活性型である約17kDaの切断カスパーゼ3が認められた。他方で、mTOR siRNA添加群においては、活性型の切断カスパーゼ3はほとんど確認されなかった。したがって、ウェスタンブロットによる解析より、mTORのシグナル抑制はTGF−β2により誘導されるカスパーゼの活性化を抑制することが示された。

0140

(実施例9:組み換えヒトTGF−β2により誘導されるフィブロネクチンの産生に対するmTOR siRNAの抑制効果)
本実施例では、mTORインヒビターの別の代表例であるmTOR siRNAの、TGF−β2により誘導されるフィブロネクチンの産生に対する抑制効果を実証した。

0141

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0142

12ウェルプレートにiFECDを1ウェル当たり3×104個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。24時間後、培地を除去し、Lipofectamine(invitrogen、92008)及び3pmolのmTORsiRNA(Ambion、AS026M0L)を添加し24時間培養した(培地:OptiMEM−I(invitrogen、31985−088))。使用したmTORsiRNAは、配列番号1に示されるセンス鎖および配列番号2に示されるアンチセンス鎖を有する。24時間後、培地を除去し、37℃(5% CO2)で48時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。48時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトGF−β2(Wako、200−19911)入りの培地を添加し、24時間培養を行った(培地:DMEM+2%FBS+1%P/S)。24時間後、位相差顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0143

観察後、以下の手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。

0144

1)タンパク質の回収
浮遊及び死細胞も回収するため、氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(−)で2回洗浄した溶液も回収し、4℃、800gで12分遠心し上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞は、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mMEDTA、0.1% SDS、0.5%DOC、1% NP−40)を加えてタンパク質を抽出した。その後、上記浮遊及び死細胞の遠心後の沈殿物も一緒に懸濁して抽出した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR、TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒、3回粉砕後に、4℃、15000rpmで10分遠心し、タンパク質の上清を回収した。

0145

2)ウェスタンブロット法
上記抽出したタンパク質7μgをSDS−PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、マウス抗Fibronectin抗体(BDBioscience、610077)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社、M171−3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences、NA931V,NA934V)を用いた。1次抗体はウサギ抗Caspase 3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗PARP抗体:2000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:5000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出にはChemi Lumi ONE Ultra(ナカライテスク、11644−40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS−4000mini(富士フィルム社)及びImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。

0146

(結果)
(mTOR siRNAは組み換えヒトTGF−β2により誘導されるフィブロネクチンの産生を抑制する)
図9に結果を示す。mTOR siRNAを使用せず、組み換えヒトTGF−β2により刺激した場合、iFECDにおいてフィブロネクチンの先生が認められた。他方で、mTOR siRNA添加群においては、フィブロネクチンの産生はほとんど確認されなかった。したがって、ウェスタンブロットによる解析よりmTOR siRNAは組み換えヒトTGF−β2により誘導されるフィブロネクチンの発現を抑制することが認められた。

0147

(実施例10:TGF−β2により誘導されるカスパーゼ活性に対する各mTORインヒビターの抑制効果)
本実施例では、各種mTORインヒビターの、TGF−β2により誘導されるカスパーゼ活性に対する抑制効果を実証した。

0148

(材料および方法)
iFECDを培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(−)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(−)を添加し、37℃(5% CO2)で3分インキュベートした。PBS(−)除去後、0.05% Trypsin−EDTA(ナカライテスク、32778−34)を添加し、37℃(5% CO2)で5分インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分遠心することで細胞を回収した。培地は、DMEM(ナカライテスク、08456−36)+10%FBS(Biowest、S1820−500)+1%P/S(ナカライテスク、26252−94)を使用した。

0149

96ウェルプレートに不死化FECD患者由来角膜内皮細胞(ロット:iFECD3−5)を1ウェル当たり4×103個の割合で播種し、37℃(5% CO2)で24時間培養した(培地:DMEM+10%FBS+1%P/S)。24時間後、培地を除去し、各mTORインヒビターを添加し24時間培養した(培地:DMEM+2%FBS+1%P/S)。24時間後、培地を除去し、10ng/mlの組み換えヒトTGF−β2(Wako、200−19911)および各mTORインヒビターを含有する培地を添加し、24時間培養を行った(培地:DMEM+2%FBS+1%P/S)。24時間後、位相
顕微鏡下で細胞形態及びアポトーシスを観察した。

0150

観察後、以下の手順で、Caspase−Glo(登録商標) 3/7 Assayによるカスパーゼ3/7活性の測定を行った。

0151

1ウェルあたり50μlになるように培地を捨て、Caspase Glo(登録商標) 3/7 Assay Reagent(Caspase−Glo(登録商標) 3/7 Assay BufferとCaspase−Glo(登録商標) 3/7 Assay Substrateの混合液)(Promega、G8091)溶液を培地と1:1になるように50μl/well加えた。ここからの作業は遮光で行った。シェイカーを120分−1程度で2分よく混ぜ、室温で40分静置させた。静置後、Assay plate(Corning、3912、Assay plate 96well、white polystyrene)に80μlを移し、GloMax-Multi Detection System(Promega、E7051)を用いて吸光度を測定した。

0152

本実施例で使用したmTORインヒビターは、以下のとおりである。
・ラパマイシン(Wako、#53123−88−9)
・エベロリムス(Cayman Chemical、#11597)
・テムシロリムス(Tocris Bioscience、#5264)
・PI−103(Cayman Chemical、#10009209)
・CC−223(Cayman Chemical、#19917)
・INK128(Cayman Chemical、#11811)
・AZD8055(Cayman Chemical、#16978)
・KU 0063794(Tocris Bioscience、#3725)

0153

(結果)
(ラパマイシン)
結果を図10に示す。Caspase−Glo(登録商標) 3/7 Assayは、アポトーシス誘導に伴うカスパーゼ3/7の活性を測定することができる。カスパーゼ3/7の活性が高いほど、細胞障害が誘導されていることを表す。図10より、0.00001、0.0001、0.001、0.01nMのラパマイシンを添加した場合はコントロールと比較してカスパーゼ3/7の活性に有意な差は認められなかった。一方で0.1、1、10、100nMのラパマイシンを添加すると、コントロール群と比較して有意にカスパーゼ3/7の活性が抑制したことを認めた。0.1nMという極めて低い濃度でもラパマイシンはカスパーゼ3/7活性を有意に抑制することが明らかになった。

0154

(エベロリムス)
結果を図11に示す。0.0001、0.001、0.01、0.1μMのエベロリムスを添加すると、コントロールと比較して有意にカスパーゼ3/7の活性が抑制したことを認めた。0.0001μMという極めて低い濃度でもエベロリムスはカスパーゼ3/7活性を有意に抑制することが明らかになった。

0155

(テムシロリムス)
結果を図12に示す。0.000001μMのテムシロリムスを添加した場合はコントロールと比較してカスパーゼ3/7の活性に有意な差は認められなかった。一方で0.00001、0.0001、0.001、0.01、0.1、1、10μMのテムシロリムスを添加すると、コントロールと比較して有意にカスパーゼ3/7の活性が抑制されたことを認めた。0.00001μMという極めて低い濃度でもテムシロリムスはカスパーゼ3/7活性を有意に抑制することが明らかになった。

0156

(PI−103)
結果を図13に示す。1μMのPI−103を添加した場合はコントロールと比較してカスパーゼ3/7の活性に有意な差は認められなかった。一方で0.001、0.01、0.1μMのPI−103を添加すると、コントロールと比較して有意にカスパーゼ3/7の活性が抑制したことを認めた。

0157

(CC−223)
結果を図14に示す。0.001、0.01、0.1、1μMのCC−223を添加すると、コントロールと比較して有意にカスパーゼ3/7の活性が抑制したことを認めた。

0158

(INK128)
結果を図15に示す。0.001、0.01、0.1、1μMのINK128を添加すると、コントロールと比較して有意にカスパーゼ3/7の活性が抑制したことを認めた。

0159

(AZD8055)
結果を図16に示す。0.01、0.1、1μMのAZD8055を添加すると、コントロールと比較して有意にカスパーゼ3/7の活性が抑制したことを認めた。

0160

(KU 0063794)
結果を図17に示す。0.001、0.01μMのKU 0063794を添加した場合はコントロールと比較してカスパーゼ3/7の活性に有意な差は認められなかった。一方で0.1、1μMのKU 0063794を添加すると、コントロールと比較して有意にカスパーゼ3/7の活性が抑制したことを認めた。

0161

(実施例11:マウスモデルにおけるin vivo評価)
本実施例では、フックス角膜内皮ジストロフィマウスモデル用いた評価系におけるmTORインヒビターのin vivoでの効果を実証した。
詳細には、本実施例では、フックス角膜内皮ジストロフィのモデルマウスである8型コラーゲンの変異を有するマウス(Col8a2 Q455K/Q455K)にmTORインヒビターの点眼を行ってin vivoでの効果を確認した。

0162

(材料および方法)
フックス角膜内皮ジストロフィのモデルマウスであるAlpha2 Collagen VIII (Col8a2) Q455Kノックインマウス(Hum Mol Genet. 2012 Jan 15;21(2):384−93.)を用いて、in vivoでの評価が行った。このモデルマウスはヒトにおけるフックス角膜内皮ジストロフィに認められるのと同様にguttaeと呼ばれる細胞外マトリックス(コラーゲンやフィブロネクチンなど)の角膜内皮基底膜(デスメ膜)への沈着および角膜内皮障害による細胞密度減少を認めるため、フックス角膜内皮ジストロフィの良いモデルであるとされる。

0163

このようなマウスに対して、mTORインヒビターを点眼投与、前房内投与、硝子体内投与、結膜下投与、全身投与を行う、あるいは遺伝子治療により角膜内皮のmTOR経路を阻害することによって、フックス角膜内皮ジストロフィの治療または発症を予防もしくは病態の進行を遅らせることができるため、本実施例において効果確認のために用いた。

0164

(mTORインヒビター点眼剤の調製)
mTORインヒビターの点眼剤として、トーリセル(登録商標)点滴静注液25mg(ファイザー株式会社)(テムシロリムス)を用いた。本製品と本製品に添付されている希釈用液を2:3の割合で混合し、9.7mM混合液92.78μlを作製した。さらに大塚生食注(大塚製薬株式会社)(生理食塩液)807.22μlで希釈し、1mM混合液900μlを1.5mlチューブに調製した。次に、作製した1mM混合液9μlと大塚生食注891μlを用いて10μM混合液900μlを調製した。調製後、1.5mlチューブをアルミホイルで覆い遮光状態にし、4℃冷蔵庫で保存した。

0165

(マウスへの点眼試験
フックス角膜内皮ジストロフィ(FECD)のモデルマウスである8型コラーゲンの変異を有するマウス(Col8a2Q455K/Q455K)を用いた(Johns Hopkins Universityより入手した。)。点眼試験前の角膜内皮像から、FECDの重症度グレーディングを行い、同程度の症状を持つ生後20〜24週齢のFECDモデルマウスを用いた。調製したmTORインヒビター点眼剤(1mM、10μM)を、マウス45匹に対し毎日朝夕の2回、左右の眼2μlずつ点眼した。コントロールには大塚生食注を用いた。点眼期間は3ヶ月とし、その間、実験担当者はmTORインヒビター点眼剤およびコントロール点眼剤(大塚生食注)についてブラインドの状態で実験を行った。

0166

(点眼剤の有効性の評価)
点眼試験開始前に、接触式角膜内皮スペキュラー(KSSP slit−scanning wide−field contact specular microscope(Konan medical Inc.,Hyogo,Japan))で角膜内皮像を観察し、グレーディングを行った。点眼試験開始後、4週間おきに接触式角膜内皮スペキュラーを用いてマウスの角膜内皮像を観察し、mTORインヒビター点眼剤の有効性を評価した。

0167

(結果)
mTORインヒビター点眼剤(1mM)を、毎日朝夕の2回、左右の眼に2μlずつ2ヶ月間点眼したFECDモデルマウスにおける接触式角膜内皮スペキュラーにより観察される角膜内皮細胞像の代表例を図19示す。コントロールとして、生理的食塩水を点眼したものを示す。コントロールと比べてmTORインヒビター点眼剤の点眼を行った個体では角膜内皮細胞の大きさが小さく、細胞密度が高い。さらに、接触式角膜内皮スペキュラーにより黒く観察されるグッテー(guttae)と呼ばれる細胞外マトリックスの状の沈着像の発生が抑えられた(図19)。

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