図面 (/)

技術 耐熱性の被覆層ないし被膜を有するステンレス鋼部材およびその製造方法

出願人 国立研究開発法人物質・材料研究機構国立大学法人室蘭工業大学
発明者 ガンル村上秀之佐伯功
出願日 2018年2月21日 (2年4ヶ月経過) 出願番号 2018-028920
公開日 2019年8月29日 (10ヶ月経過) 公開番号 2019-143203
状態 未査定
技術分野 その他の表面処理 金属質材料の表面への固相拡散
主要キーワード 耐熱性被覆層 Cr高 タングステン種 混入元素 ニッケル被覆層 耐熱性金属材料 Niオ 隣接材料
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2019年8月29日)のものです。
また、この項目は機械的に抽出しているため、正しく解析できていない場合があります

図面 (9)

課題

固体酸化物形燃料電池集電部材などの高温に曝される用途に十分対応できるような、クロム被毒防止性能を有するステンレス鋼部材を提供すること。

解決手段

Cr:11〜40質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼基材とし、該基材上に形成された被膜として、最表面にCo酸化物を含む層を有すると共に、該Co酸化物を含む層よりも前記基材側にCoWO4を含む層を有する、厚さ0.5〜50μmの積層体を備える、ステンレス鋼部材とする。

概要

背景

近年、石油を代表とする化石燃料枯渇化、CO2排出による地球温暖化現象等の問題から、新しい発電ステムの実用化が求められている。自動車等の動力源として使える発電システムとしては燃料電池がある。燃料電池にはいくつかの種類があるが、その中でも固体酸化物形燃料電池SOFC)はエネルギー効率が高く、実用化が期待されている発電システムの一つである。

固体酸化物形燃料電池(SOFC)の作動温度は従来1000℃程度と高く、その構成部材には主にセラミックスが使用されており、ステンレス鋼等の金属材料の使用は困難であった。しかし、近年になって固体電解質膜の改良により作動温度が600〜850℃程度まで引き下げられるようになった。これは耐熱性金属材料の適用が可能な温度域である。

このような低温作動形の固体酸化物形燃料電池(SOFC)では、集電部材セパレータインターコネクタ集電板など)に耐熱性金属材料を使用することがコスト面で有利である。そのような耐熱性金属材料に要求される特性は、600〜850℃の温度域で良好な電気伝導度(30mΩ・cm2以下)、耐水蒸気酸化性、およびセラミックス系固体酸化物と同等の低い熱膨張係数常温〜800℃で13×10−6(1/K)程度)を十分満足することである。加えて、起動・停止を頻繁に繰り返す場合は耐熱疲労性も要求される。

Cr高Niオステナイト系ステンレス鋼は、耐水蒸気酸化性に優れる反面、熱膨張係数が高いため、自動車用途などでは頻繁な起動・停止に伴う膨張収縮の繰り返しによって酸化スケール剥離しやすく、適用は困難である。一方、フェライト系ステンレス鋼は、セラミックス系固体酸化物と同等の低い熱膨張係数を有するため、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の構成部材には適している。

また、ステンレス鋼は、表面に導電性の乏しい酸化物被膜が形成されると、固体酸化物形燃料電池の集電部材に適用した場合に電池内部抵抗が大きくなり、電池性能を向上させる上でマイナス要因となる。このため、酸化物被膜の導電性を向上させる手法を検討する必要も生じてきた。

特許文献1には、Cr:15〜30質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼からなる固体酸化物形燃料電池セパレータ用鋼が開示されている。この鋼は700〜950℃程度で良好な電気伝導度を有する酸化被膜を形成するとともに、長時間の使用において良好な耐酸化性耐スケール剥離性を有し、かつ電解質との熱膨張差が小さいという。

しかし、ステンレス鋼の表面に生成するスケールには、鋼成分に由来するクロム高濃度で含まれるため、600〜850℃の水蒸気雰囲気に曝される固体酸化物形燃料電池のセパレータ環境では、このクロムが水蒸気と反応して蒸発し、固体電解質および電極触媒材料被毒してしまうという問題がある。この問題を解決する手段として、ステンレス鋼の表層に高価な銀などを塗布して使用する方法等があるが、これはコスト高を招来する。

クロムによる被毒を防止する手法としては、Alを含有するステンレス鋼を基材に使用することが提案されている(特許文献2、3)。しかし、固体酸化物形燃料電池においては、製造段階で集電部材と固体電解質および電極触媒材料とを接合するときや、実際の使用中に、部材が高温に加熱されるため、集電部材にAl含有ステンレス鋼を使用すれば、その加熱時にステンレス鋼表面絶縁性のAl2O3が生成し、表面電気伝導度は一層低下してしまう。また、Al含有ステンレス鋼基材の表面に導電性被膜(例えばAg)をコーティングしたとしても、加熱時に基材とコーティング層の間にAl2O3の酸化被膜が生成されてしまい、切断端面からのクロム蒸発は防止できるものの、表面電気伝導度の改善には至らない。

クロムによる被毒を防止する他の手法としては、ニッケル被覆層を有するステンレス鋼を基材に使用することも考えられる(特許文献4)。しかし、基材となるフェライト系ステンレス鋼は、必須元素としてAlを1%以上含有する必要があるため、汎用のSUS430ステンレス鋼等のJISに規定されるフェライト系ステンレス鋼が使用できないという不都合があった。

概要

固体酸化物形燃料電池の集電部材などの高温に曝される用途に十分対応できるような、クロム被毒防止性能を有するステンレス鋼部材を提供すること。Cr:11〜40質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材とし、該基材上に形成された被膜として、最表面にCo酸化物を含む層を有すると共に、該Co酸化物を含む層よりも前記基材側にCoWO4を含む層を有する、厚さ0.5〜50μmの積層体を備える、ステンレス鋼部材とする。

目的

そのような耐熱性金属材料に要求される特性は、600〜850℃の温度域で良好な電気伝導度(30mΩ・cm2以下)、耐水蒸気酸化性、およびセラミックス系の固体酸化物と同等の低い熱膨張係数(常温〜800℃で13×10−6(1/K)程度)を十分満足することである

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

この技術が所属する分野

ライセンス契約や譲渡などの可能性がある特許掲載中! 開放特許随時追加・更新中 詳しくはこちら

請求項1

Cr:11〜40質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼基材とし、該基材上に形成された被覆層として、厚さ1〜100μm、W含有量3〜67.5質量%(1〜40原子%)、残部Coおよび不可避的不純物からなるCo−W被覆層を備える、ステンレス鋼部材

請求項2

Cr:11〜40質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材とし、該基材上に形成された被膜として、最表面にCo酸化物を含む層を有すると共に、該Co酸化物を含む層よりも前記基材側にCoWO4を含む層を有する、厚さ0.5〜50μmの積層体を備える、ステンレス鋼部材。

請求項3

前記被膜が、前記CoWO4を含む層よりも前記基材側に、該基材側から順にCr2O3を含む層、および(Co,Fe,Cr)3O4を含む層をさらに備えると共に、前記Co酸化物を含む層がCo3O4を含む、請求項2に記載のステンレス鋼部材。

請求項4

前記基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、Cr:11〜40%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、C:0.12%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.1%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のステンレス鋼部材。

請求項5

前記基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、さらにAl:6%以下、Mo:4%以下、W:4%以下、Cu:2%以下、Nb:0.8%以下、Ti:0.5%以下、Zr:0.5%以下、V:0.5%以下、Ta:0.5%以下、Ni:2%以下の1種以上を含有する、請求項4に記載のステンレス鋼部材。

請求項6

前記基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、さらにY:0.1%以下、REM希土類元素):0.1%以下、Ca:0.01%以下、B:0.01%以下、Mg:0.01%以下の1種以上を含有する、請求項4または5に記載のステンレス鋼部材。

請求項7

前記Co−W被覆層が、Fe、Ni、Ti、Nb、Zr、Ta、V、Mo、P、およびBから選択される1種以上を、合計10質量%以下の範囲でさらに含有し、該Co−W被覆層のCr含有量が0〜2質量%である、請求項1または4〜6のいずれか1項に記載のステンレス鋼部材。

請求項8

前記ステンレス鋼部材が、固体酸化物形燃料電池SOFC)の集電部材である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のステンレス鋼部材。

請求項9

Cr:11〜40質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材として準備する工程と、当該基材の表面に、厚さ1〜100μm、W含有量3〜67.5質量%(1〜40原子%)のCo−W被覆層を形成する工程と、を有することを特徴とする、ステンレス鋼部材の製造方法。

請求項10

前記Co−W被覆層が表面に形成された前記基材を、600℃〜850℃の範囲で熱処理して、該基材の表面に、最表面にCo酸化物を含む層を有すると共に、該Co酸化物を含む層よりも前記基材側にCoWO4を含む層を有する、厚さ0.5〜50μmの積層体被膜を形成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載のステンレス鋼部材の製造方法。

請求項11

前記積層体被膜を、前記CoWO4を含む層よりも前記基材側に、該基材側から順にCr2O3を含む層、および(Co,Fe,Cr)3O4を含む層をさらに備えると共に、前記Co酸化物を含む層がCo3O4を含む積層体とする、請求項10に記載のステンレス鋼部材の製造方法。

技術分野

0001

本発明は、600〜850℃の高温域で、耐酸化性に優れ、かつ水蒸気環境でのクロム溶出が抑制されるコバルトタングステン(Co−W)被覆フェライト系ステンレス鋼部材に関する。

背景技術

0002

近年、石油を代表とする化石燃料枯渇化、CO2排出による地球温暖化現象等の問題から、新しい発電ステムの実用化が求められている。自動車等の動力源として使える発電システムとしては燃料電池がある。燃料電池にはいくつかの種類があるが、その中でも固体酸化物形燃料電池SOFC)はエネルギー効率が高く、実用化が期待されている発電システムの一つである。

0003

固体酸化物形燃料電池(SOFC)の作動温度は従来1000℃程度と高く、その構成部材には主にセラミックスが使用されており、ステンレス鋼等の金属材料の使用は困難であった。しかし、近年になって固体電解質膜の改良により作動温度が600〜850℃程度まで引き下げられるようになった。これは耐熱性金属材料の適用が可能な温度域である。

0004

このような低温作動形の固体酸化物形燃料電池(SOFC)では、集電部材セパレータインターコネクタ集電板など)に耐熱性金属材料を使用することがコスト面で有利である。そのような耐熱性金属材料に要求される特性は、600〜850℃の温度域で良好な電気伝導度(30mΩ・cm2以下)、耐水蒸気酸化性、およびセラミックス系固体酸化物と同等の低い熱膨張係数常温〜800℃で13×10−6(1/K)程度)を十分満足することである。加えて、起動・停止を頻繁に繰り返す場合は耐熱疲労性も要求される。

0005

Cr高Niオステナイト系ステンレス鋼は、耐水蒸気酸化性に優れる反面、熱膨張係数が高いため、自動車用途などでは頻繁な起動・停止に伴う膨張収縮の繰り返しによって酸化スケール剥離しやすく、適用は困難である。一方、フェライト系ステンレス鋼は、セラミックス系固体酸化物と同等の低い熱膨張係数を有するため、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の構成部材には適している。

0006

また、ステンレス鋼は、表面に導電性の乏しい酸化物被膜が形成されると、固体酸化物形燃料電池の集電部材に適用した場合に電池内部抵抗が大きくなり、電池性能を向上させる上でマイナス要因となる。このため、酸化物被膜の導電性を向上させる手法を検討する必要も生じてきた。

0007

特許文献1には、Cr:15〜30質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼からなる固体酸化物形燃料電池セパレータ用鋼が開示されている。この鋼は700〜950℃程度で良好な電気伝導度を有する酸化被膜を形成するとともに、長時間の使用において良好な耐酸化性、耐スケール剥離性を有し、かつ電解質との熱膨張差が小さいという。

0008

しかし、ステンレス鋼の表面に生成するスケールには、鋼成分に由来するクロムが高濃度で含まれるため、600〜850℃の水蒸気雰囲気に曝される固体酸化物形燃料電池のセパレータ環境では、このクロムが水蒸気と反応して蒸発し、固体電解質および電極触媒材料被毒してしまうという問題がある。この問題を解決する手段として、ステンレス鋼の表層に高価な銀などを塗布して使用する方法等があるが、これはコスト高を招来する。

0009

クロムによる被毒を防止する手法としては、Alを含有するステンレス鋼を基材に使用することが提案されている(特許文献2、3)。しかし、固体酸化物形燃料電池においては、製造段階で集電部材と固体電解質および電極触媒材料とを接合するときや、実際の使用中に、部材が高温に加熱されるため、集電部材にAl含有ステンレス鋼を使用すれば、その加熱時にステンレス鋼表面絶縁性のAl2O3が生成し、表面電気伝導度は一層低下してしまう。また、Al含有ステンレス鋼基材の表面に導電性被膜(例えばAg)をコーティングしたとしても、加熱時に基材とコーティング層の間にAl2O3の酸化被膜が生成されてしまい、切断端面からのクロム蒸発は防止できるものの、表面電気伝導度の改善には至らない。

0010

クロムによる被毒を防止する他の手法としては、ニッケル被覆層を有するステンレス鋼を基材に使用することも考えられる(特許文献4)。しかし、基材となるフェライト系ステンレス鋼は、必須元素としてAlを1%以上含有する必要があるため、汎用のSUS430ステンレス鋼等のJISに規定されるフェライト系ステンレス鋼が使用できないという不都合があった。

先行技術

0011

特開2003−105503号公報
特開2003−187828号公報
特開2006−107936号公報
特開2010−236012号公報

発明が解決しようとする課題

0012

本発明はこのような現状に鑑み、固体酸化物形燃料電池の集電部材(セパレータ、インターコネクタ、集電板)などの高温に曝される用途に十分対応できるような、固体電解質および電極触媒材料のクロム被毒を防止できるステンレス鋼部材を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0013

前記課題を解決するために、本発明では、以下の手段を採用する。
(1)Cr:11〜40質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材とし、
該基材上に形成された被覆層として、厚さ1〜100μm、W含有量3〜67.5質量%(1〜40原子%)、残部Coおよび不可避的不純物からなるCo−W被覆層を備える、ステンレス鋼部材。
(2)Cr:11〜40質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材とし、該基材上に形成された被膜として、最表面にCo酸化物を含む層を有すると共に、該Co酸化物を含む層よりも前記基材側にCoWO4を含む層を有する、厚さ0.5〜50μmの積層体を備える、ステンレス鋼部材。
(3)前記被膜が、前記CoWO4を含む層よりも前記基材側に、該基材側から順にCr2O3を含む層、および(Co,Fe,Cr)3O4を含む層をさらに備えると共に、前記Co酸化物を含む層がCo3O4を含む、前記(2)のステンレス鋼部材。
(4)前記基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、Cr:11〜40%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、C:0.12%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、N:0.1%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する、前記(1)〜(3)のいずれかのステンレス鋼部材。
(5)前記基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、さらにAl:6%以下、Mo:4%以下、W:4%以下、Cu:2%以下、Nb:0.8%以下、Ti:0.5%以下、Zr:0.5%以下、V:0.5%以下、Ta:0.5%以下、Ni:2%以下の1種以上を含有する、前記(4)のステンレス鋼部材。
(6)前記基材のフェライト系ステンレス鋼が、質量%で、さらにY:0.1%以下、REM希土類元素):0.1%以下、Ca:0.01%以下、B:0.01%以下、Mg:0.01%以下の1種以上を含有する、前記(4)または(5)のステンレス鋼部材。
(7)前記Co−W被覆層が、Fe、Ni、Ti、Nb、Zr、Ta、V、Mo、P、およびBから選択される1種以上を、合計10質量%以下の範囲でさらに含有し、該Co−W被覆層のCr含有量が0〜2質量%である、前記(1)または(4)〜(6)のいずれかのステンレス鋼部材。
(8)前記ステンレス鋼部材が、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の集電部材である、前記(1)〜(7)のいずれかのステンレス鋼部材。
(9)Cr:11〜40質量%を含有するフェライト系ステンレス鋼を基材として準備する工程と、当該基材の表面に、厚さ1〜100μm、W含有量3〜67.5質量%(1〜40原子%)のCo−W被覆層を形成する工程と、を有することを特徴とする、ステンレス鋼部材の製造方法。
(10)前記Co−W被覆層が表面に形成された前記基材を、600℃〜850℃の範囲で熱処理して、該基材の表面に、最表面にCo酸化物を含む層を有すると共に、該Co酸化物を含む層よりも前記基材側にCoWO4を含む層を有する、厚さ0.5〜50μmの積層体被膜を形成する工程をさらに含むことを特徴とする、前記(9)のステンレス鋼部材の製造方法。
(11)前記積層体被膜を、前記CoWO4を含む層よりも前記基材側に、該基材側から順にCr2O3を含む層、および(Co,Fe,Cr)3O4を含む層をさらに備えると共に、前記Co酸化物を含む層がCo3O4を含む積層体とする、前記(10)のステンレス鋼部材の製造方法。

発明の効果

0014

本発明の耐熱性被覆層を有するステンレス鋼部材によれば、高温で良好な耐水蒸気酸化性を有し、コーティングに銀のような高価な金属を用いることなくクロムの蒸発(固体電解質および電極触媒材料の被毒)の問題を解決した、耐熱性被覆層を有するステンレス鋼部材を提供できる。
また、本発明の耐熱性被覆層を有するステンレス鋼部材の製造方法によれば、Co−W被覆層を形成してから所定条件の熱処理を行うだけで耐熱性被覆層を形成でき、既設のステンレス鋼部材であっても、容易に耐熱性被覆層を形成でき、既存設備の高度化改修が容易にできる。

図面の簡単な説明

0015

本発明の一実施形態にかかる、Co−2.4W(原子%)が電気めっきされた試験片断面の顕微鏡写真(A)、および該断面の元素分布(B)を示す図である。
本発明の一実施形態にかかる、Co−2.4W(原子%)が電気めっきされた試験片のX線回折スペクトルが800℃での等温酸化によって変化する様子を示す。(a)は開始前即ちめっき直後、(b)は酸化試験開始時(tox=0s)、(c)は15分経過後、(d)は30分経過後、(e)は250時間経過後、(f)は1000時間経過後、を示している。
800℃での等温酸化後のCo−2.4W(原子%)が電気めっきされた試験片の断面の顕微鏡写真および該断面における元素分布を示す図で、(a)は開始時、(b)は15分経過後、(c)は30分経過後、(d)は1時間経過後、(e)は3時間経過後、(f)は25時間経過後、(g)は250時間経過後、(h)は1000時間経過後、を示している。
NIST標準データベース番号69を用いて構築されたEllingham−Richardsonダイアグラムを示す図である。
厚さ10μmのCo−W電気めっき層を有する場合と、該電気めっき層が無い場合とについて、SUS430ステンレス鋼を酸化処理した際の、質量変化放物線プロット(a)、および長期酸化速度(b)を示す図である。
サンプルの被覆層ないし耐熱性被膜の構造を示す模式図である。
800℃で3容量%の水分を含有する空気中での等温酸化中に、Co−2.4W(原子%)電気めっき層を伴うSUS430ステンレス鋼上に形成された各酸化物層の厚さの割合の時間変化を示す図である。
Co−2.4W(原子%)電気めっき層を伴うSUS430ステンレス鋼において、Wの質量収支から計算された、異なる酸化時間での蒸発指数ηWを示す図である。

0016

本発明では、基材に、Crを11〜40質量%含有するフェライト系ステンレス鋼を用いる。その基材表面にCo−W被覆層を形成させる。Co−W被覆層を有する基材を高温に加熱して拡散処理することで、耐熱性被膜を形成する。高温加熱時にCo−W被覆層に含まれるCoとWとが反応して、耐熱性被膜中にCoWO4を含む中間層が形成される。フェライト系ステンレス鋼基材と、当該中間層を含む旧Co−W被覆層とで構成された部材は、耐熱性被膜を有するステンレス鋼部材となる。耐熱性被膜中のCoWO4は非常に安定であり、基材側から旧Co−W被覆層表面側へのCrの拡散を防止することで、表面からのCrの蒸発を抑えることができる。さらに、CoWO4は600〜850℃で導電性を有することから、耐熱性被膜の電気伝導度が高まることも期待される。前述の耐熱性被膜を有するステンレス鋼を製造する際には、基材のステンレス鋼が素材鋼帯の状態にあるときに、連続ラインを用いてCo−W被覆層を形成することができる(プレコート)。このため、所定形状に成形された後に個々の部材にコーティングを施す場合(ポストコート)と比較して、製造性が格段に向上する。

0017

CoWO4を含む耐熱性被膜は、被膜状に形成されたCoWO4を含む層である。耐熱性被膜全体の厚さは、0.5μm以上であることが必要であり、1μm以上の厚さであることがより好ましい。ただし、過剰に厚くなると材料の硬化脆化を招くので、中間層の厚さは50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。

0018

上記のような十分な厚さの耐熱性被膜を生成させるためには、基材上に形成するCo−W被覆層の平均厚さを1μm以上とすることが必要であり、2μm以上とすることが好ましい。欠陥の少ないCo−W被覆層とするためには平均厚さ5μm以上とすることが効果的である。ただしCo−W被覆層が過剰に厚くなると、基材とCo−W被覆層との間に熱膨張差による応力が発生し、起動・停止を繰り返した際に、両者の間にボイドが発生しやすくなり、被覆層が剥離する要因となる。種々検討の結果、Co−W被覆層の平均厚さは100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。

0019

Co−W被覆層中のCr含有量は0〜2質量%とすることが好ましい。それよりCr含有量が多くなると、電池セルへのCrの拡散または蒸発が問題となる。Co−W被覆層中には、その他の元素として、Fe、Ni、Ti、Nb、Zr、Ta、V、Moの1種以上を含有させることができる。これらの金属元素はCo−W被覆層の耐酸化性、耐スケール剥離性を高める作用を有する。また、基材側へこれらの元素が拡散し、界面および粒界金属間化合物を形成させることにより電気伝導度を高める効果もある。また、Co−W被覆層中にはP、Bが含まれていてもよい。P、Bは特に無電解コバルトめっきまたはコバルトろうとしてCo−W被覆層を形成させる場合に有効な添加元素となる。すなわち無電解めっきの場合はコバルトめっき浴の還元剤として、また、ろう付けの場合はろう材融点下げるための元素として添加される。種々検討の結果、Co−W被覆層中に含有されるこれらFe、Ni、Ti、Nb、Zr、Ta、V、Mo、P、Bの合計含有量は10質量%以下とすることが好ましい。

0020

Co−W被覆層中のW含有量は、3〜67.5質量%(1〜40原子%)とする必要がある。W含有量が3質量%未満の場合には、熱処理後に耐熱性被膜中に現れるCoWO4が少なくなり、基材からCrが蒸発することを防止する効果を十分に得られない。W含有量が67.5質量%超の場合には、Coが不足して、CoWO4を覆うFeCo2O4、Co3O4が現れなくなり、耐熱性被膜からWが気化する虞がある。Co−W被覆層中のW含有量は、好ましくは6〜44質量%(2〜20原子%)であり、より好ましくは7.1〜25.7質量%(2.4〜10原子%)である。

0021

Co−W被覆層の形成方法は、フェライト系ステンレス鋼の表面に電気Co−Wめっきを施す手法が採用できる他、無電解コバルトめっき法、コバルトろうを被覆する方法、コバルトまたはコバルト基合金の板または箔をクラッド法により被覆する方法など、種々の手法が適用できる。タングステン被覆層の形成方法は、例えばスパッタによる蒸着法、プラズマ溶射法等が利用できる。

0022

CoWO4を含む耐熱性被膜を形成させるための熱処理は、例えば、600〜850℃で10〜3600分保持する加熱条件が適用でき、該保持時間は1〜3時間とすることが好ましい。また、該加熱条件は、より好ましくは、700〜800℃で60〜540分保持する条件である。この加熱は、固体酸化物形燃料電池の製造段階で集電部材と固体電解質および電極触媒材料を接合させるための熱処理や、燃料電池の装置立ち上げ時の稼働による加熱によって兼ねることができる。

0023

フェライト系ステンレス鋼基材の成分組成は、例えば以下の範囲とすることが好ましい。以下、基材の成分組成における「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。

0024

Crは、ステンレス鋼に必要な耐食性、耐酸化性、電気伝導度を付与するうえで必要な成分である。600℃前後での耐水蒸気酸化性および良好な電気伝導度を確保するためには、11%以上のCr含有量が必要である。特に水蒸気雰囲気に曝される際の耐久性重視する場合、15%以上のCr含有量を確保することが好ましい。ただし、40%を超えるCrを含有は、フェライト系ステンレス鋼の加工性の低下、低温靭性の低下および475℃脆化感受性の増大を招く。したがって、Cr含有量は40%以下とし、35%以下とすることが好ましい。

0025

Siは、Cr系酸化物を安定化させる作用を有し、耐水蒸気酸化性の向上に有効である。しかし、過剰のSi含有は、表層に電気抵抗の高いSiO2を生成させる要因となる。また、低温靱性の低下、表面疵の発生、製造性の低下を招く要因となる。Si含有量は1.5%以下の範囲とすることが好ましい。

0026

Alは、ステンレス鋼の鋼素地表面にAl2O3酸化被膜を形成させる合金元素である。このAl2O3被膜は耐高温酸化性の顕著な向上をもたらすとともに、特に固体酸化物形燃料電池の集電部材では切断端面で剥き出しとなっている鋼素地からのクロム蒸発を抑止する上で有効に機能する。しかし、過剰のAl含有は鋼の加工性・靱性を低下させ、また製造性を損なう要因となる。種々検討の結果、Al含有量は、6%以下とすることが好ましい。より好ましいAl含有量は、1%未満である。

0027

Mnは、フェライト系ステンレス鋼の耐スケール剥離性を改善する作用を有するが、過剰のMn含有は鋼を硬質化し、加工性、低温靱性を低下させる要因となる。Mn含有量は1.5%以下の範囲とすることが好ましい。

0028

Mo、Wは、固溶強化により、Cuは固溶強化または析出強化により、それぞれ高温強度および耐熱疲労特性を向上させる元素であり、これらの1種以上を必要に応じて添加することができる。特にスタックに積層することによるクリープ強度、起動・停止の繰り返しによる熱疲労特性が問題となる用途ではこれらの元素の添加が有効である。Mo、W、Cuとも、0.1%以上の含有量を確保することがより効果的である。ただし、これらの元素の含有量が多くなると鋼が硬質化するので、これらの1種以上を含有させる場合は、Mo、Wはいずれも4%以下、Cuは2%以下の含有量範囲とすることが好ましい。

0029

Nb、Ti、Zr、V、Taは、固溶強化または析出強化によりフェライト系ステンレス鋼の高温強度を更に向上させる元素であり、必要に応じてこれらの1種以上を含有させることができる。これらいずれの元素も、0.03%以上の含有量とすることがより効果的である。ただし、過剰の含有は鋼を硬質化させるので、これらの1種以上を含有させる場合は、Nbは0.8%以下、Ti、Zr、V、Taはいずれも0.5%以下の含有量範囲とすることが好ましい。

0030

C、Nは、基材ステンレス鋼の高温強度、特にクリープ特性を改善する元素であるが、フェライト系ステンレス鋼に過剰添加すると加工性、低温靱性を低下させる。また、Ti、Nbとの反応によって炭窒化物を生成しやすく、高温強度の改善に有効な固溶Tiや固溶Nbを減少させる。検討の結果、本発明の対象鋼は、Cが0.12%以下、Nが0.1%以下であることが好ましい。

0031

Y、REM(希土類元素)、Caは、酸化物被膜中に固溶し、酸化物被膜の強化および耐酸化性の向上に有効な元素であり、本発明ではこれらの1種以上を必要に応じて含有させることができる。それらの作用を十分に発揮させるためには、Y、REM、Caとも0.0005%以上の含有量とすることがより効果的である。ただし、これらの元素は鋼を硬化させ、また表面疵の原因ともなるので、これらの1種以上を含有させる場合は、Y、REMはそれぞれ0.1%以下、Caは0.01%以下の含有量範囲とすることが好ましい。

0032

B、Mgはステンレス鋼の熱間加工性を向上させる元素であり、本発明ではこれらの1種以上を必要に応じて含有させることができる。Bは0.0002%以上、Mgは0.0005%以上の含有量を確保することがより効果的である。ただし、過剰の含有は逆に熱間加工性を低下させるので、これらの1種以上を含有させる場合は、B、Mgとも0.01%以下の含有量範囲とすることが好ましい。

0033

Pは、0.1%までの含有が許容される。
Sは、熱間加工性、耐溶接高温割れ性に悪影響を及ぼし、また異常酸化の起点にもなるので、0.01%以下とすることが好ましい。

0034

鋼中には製鋼工程において混入されるNiは2%まで許容されるが、0.6%以下であることが好ましい。その他の混入元素として、Oは0.02%以下、Reは2%以下、Snは1%以下、Coは2%以下、Hfは1%以下、Scは0.1%以下の含有量範囲に抑えるように管理することが好ましい。

0035

以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。

0036

市販のSUS430ステンレス鋼を準備した。当該ステンレス鋼の化学組成は、16.2Cr−1.0Mn−0.7Si−0.12C−0.02S−0.04P(質量%)であった。当該ステンレス鋼を20×15×0.5mm3の寸法を有する小さな試験片に切断した。

0037

試験片を、#2000グレードまでのSiC紙で、蒸留水を加えつつ湿式研磨した後、アセトン超音波洗浄した。洗浄後の試験片をカソードとし、表1に示す組成のストライク電気めっき溶液で、カソード電流密度icが20A/dm2で60秒間の条件で、薄いCoを試験片上に堆積させた。ここで、ストライクめっきとは素地不働態被膜を除去、活性化した後に、めっきの密着を良くするために行われる下地めっきのことである。次いで、表1に示す組成の酸性浴を用いて、Co−W合金電着層(Co−W被覆層)の形成を行った。カソード電流密度icは3A/dm2であり、電気めっき時間は厚さ10μmのCo−W層(85g/m2)が得られるように調整した。すべての溶液は、分析等級試薬および脱イオン水で調製した。電気めっきセルは、2本のグラファイトアノードロッド(直径6mm)と、2つのアノードの間に配置されたカソードとから構成されている。CoのストライクめっきおよびCo−W合金の電気めっき浴溶液温度は、それぞれ室温および40℃であった。Co−W電気めっきの組成は、エネルギー分散X線蛍光分析器(XRF)を用いて測定した。

0038

0039

めっき形成後の試験片を、温度が800℃に維持されている反応管に挿入し、一定時間保持した。酸化時間tox=0sは、挿入後167秒に試料の温度が800℃に達したときと定義した。試験片は、酸化時間tox=1000時間迄の種々の時間、3体積%の水蒸気を含む空気中にて800℃で酸化された。ガスの流量は100cm3/minであった。

0040

酸化処理前後の試験片の質量変化は、酸化の前後における試料の質量を用いて計算した。形成された酸化物の構造は、50kVおよび45mAのCuKα放射線とグラファイトモノクロメーターを用いたX線回折(XRD)によって確認された。試料の形態は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、深さ(厚さ)方向の元素分布をエネルギー分散型X線分光器(EDS)で分析した。

0041

<Co−W被覆層>
Co−W電気めっき(被覆層)におけるWの含有量は、XRFにより2.4原子%(7.1質量%)と推定されたので、この被覆層をCo−2.4W被覆層と呼ぶこととする。Co−2.4W被覆層を有する試験片の断面の顕微鏡写真を図1(A)に示す。Co−2.4W被覆層は、基材表面に強固に接着しており、緻密な層となっている。また、図1(B)からは、Wが被覆層全体に均一に分布していることが確認される。層の厚さは、設計通りに約10μmである。Co−2.4W被覆層のX線回折スペクトルを図2(a)に示す。被覆層では、Coのピークのみが確認される。

0042

酸化物構造
酸化時間toxが0分から1000時間における、800℃での等温酸化後の耐熱性被膜を有する試験片の断面の顕微鏡写真および該断面における元素分布を図3に示す。図3(a)では酸化時間toxが0分(以下、「tox=0分」のように表記する)、図3(b)はtox=15分、図3(c)はtox=30分、図3(d)はtox=1時間、図3(e)はtox=3時間、図3(f)はtox=25時間、図3(g)はtox=250時間、図3(h)はtox=1000時間を示している。また、図3中、領域aは基材内のCo拡散領域、領域bはCr2O3、領域cは(Co,Fe,Cr)3O4、領域dは被覆層、領域eも被覆層、領域fはW富化領域、領域gは鉄含有酸化物領域、領域hはCo酸化物領域である。

0043

酸化時間tox=0s(図3(a))では、Co−2.4W被覆層(領域dおよびe)の上部にCo酸化物(領域h)が形成される。図2(b)に示すように、XRDによって、このCo酸化物には、Co3O4とCoOが割り当てられる。タングステンはCo酸化物の下に蓄積し(領域f)、CoWO4を含むと思われる。被覆層(領域e)の外側には少量の酸素が含まれている。被覆層と基材との間の界面は、2つの層の主成分の相互拡散のために、図1に示す酸化前に観察されるものに比べて不鮮明であった。

0044

酸化時間tox=15分では、鉄の外側拡散が進行し、鉄含有酸化物(領域g)がCo酸化物(領域h)とW富化領域(領域f)との間に観察される(図3(b))。酸化時間tox=30分(図3(c))では、最上層のCo3O4層(領域h)の厚さが増加し、Co3O4の下にFe2CoO4の酸化物(領域g)が観察される。XRD分析により、この酸化物は図2(d)に示すようにCoFe2O4であることが判明した。また、tox=30分では、少量の被覆層(領域d)の残存が確認される。OおよびCrの富化が、残存する被覆層の内部で観察され、これは、Crが基材(領域a)/被覆層(領域d)界面で酸化することを意味する。

0045

酸化時間tox=1時間(図3(d))では、被覆層は完全に酸化物に変換される。CoFe2O4(領域g)の下のCoWO4を含むW富化領域(領域f)の量が増加し、形成されたCr酸化物(領域bおよび領域c)がCoWO4を含むW富化領域(領域f)に面する。
酸化時間tox=3、25時間では、酸化物層の構造は1時間の酸化後の構造と類似しているが、層間の界面が鮮明になる(図3(e)、(f))。

0046

基材内のCo拡散領域(領域a)におけるCo量は、酸化時間tox=30分で増加し、tox=25時間で減少するが、これは被覆層が消失する30分から1時間までに、被覆層と基材との間の相互拡散が終了することを意味する。tox=250時間(図3(g))では、Crは基材/酸化物の界面に蓄積するが、このCrは領域bにおいてCr2O3を形成すると思われる。Cr2O3とCoWO4との間にもCrの蓄積(領域c)が観察される。この特徴はtox=1000時間で明らかになる(図3(h))。外側のCr富化層は、おそらく(Co,Fe,Cr)3O4(領域c)の形のCr、Co、FeおよびOを含む。1000時間の酸化後、酸化物(耐熱性被膜)は、基材側から外側へCr2O3、(Co,Fe,Cr)3O4、CoWO4、FeCo2O4、およびCo3O4の5層からなる。CrがCoWO4層の上側(基材と反対側)では確認されていないことは重要であり、これはCoWO4がCrイオン外方拡散に対する障壁として作用することを意味する。

0047

図4は、NIST標準データベース番号69(NIST Chemistry webbook)を用いて構築されたEllingham−Richardsonダイアグラムを示す。いくつかの曲線でのキンクねじれ)は、生成ギブズエネルギーを計算するために使用される熱容量の不連続性を反映する。Cr2O3、CoWO4、FeCo2O4およびCo3O4層の形成および位置は妥当である。(Co,Fe,Cr)3O4自体のギブス生成エネルギーは利用できなかったが、少量の溶存Feを含むCoCr2O4として(Co,Fe,Cr)3O4を認識すると、Cr2O3とCoWO4の間で(Co,Fe,Cr)3O4の生成が見込まれる。CoO、FeO、WO3の生成は図4から予測されるが、これらの酸化物は図3では検出されなかった。これは、これら三化合物が反応したことによると思われる。

0048

酸化反応速度論>
図5(a)は、厚さ10μmのCo−W被覆層を有するSUS430ステンレス鋼と、該被覆層を有しないSUS430ステンレス鋼とを、それぞれ酸化処理した際の放物線プロットを示す。放物線プロットは、質量増加ΔWが酸化時間toxに対して放物線則(ΔW2∝tox)に従う場合の両者の関係を示すものである。被覆層を有しない試験片では、質量増加ΔWは酸化時間toxの平方根の増加に伴って急速に増加し、その後、曲線の傾きは10分後に減少する。10分までの放物線速度定数(直線の傾き)は、2×10−3g2m−4s−1であるが、これは800℃でのFe−25Cr合金のそれよりも2桁大きい。FeCr合金の酸化の開始時に、FeおよびCrの両方が酸化する。その後、表面に均一なCr2O3酸化物を形成した後に、Crの優先酸化が行われる。10分より前の被覆層を有しない試験片の酸化は、Cr2O3の拡散制御成長の前の一時的な段階であると思われる。

0049

Co−2.4W被覆層を有する試験片では、酸化時間tox=180分(tox0.5=13.4min1/2)で、ΔWが約30g/m2に達すると、酸化曲線はほぼ平坦になる。180分より前の推定された放物線速度定数は4×10−2g2m−4s−1であり、800℃の空気中でのCo酸化のそれに匹敵する。

0050

酸化時間tox=160時間より後の長期酸化反応速度を図5(b)に示す。被覆層を有する試験片の質量増加は29〜38g/m2であった。Co−2.4W被覆層の85g/m2が完全に酸化された場合、試験片の質量増加は以下のように計算することができる。800℃での反応のギブス自由エネルギーΔγG0800℃によると、CoはCo2+またはCo3+にイオン化し、WはW4+またはW6+にイオン化する(図4)。Co3+およびW6+が優先的に形成されると仮定すると、最大質量増加ΔWcalc,maxは、式(1)によって推定することができる。

0051

0052

ここで、mplatingは被覆層の質量、fWは被覆層におけるWの原子分率(0.024)であり、MO、MCoおよびMWはそれぞれO、CoおよびWのモル重量である。計算されたΔWcalc,maxは28.4g/m2であり、図5(b)に示すように実際の質量増加の方が大きくなっており、電気めっき層が酸化時間tox=160時間までに酸化物に変換されたことを示している。ΔWcalc,maxの差は、SUS430ステンレス鋼の基材中のFeおよびCrの酸化に使用される酸素の質量に対応し得る。酸化時間tox=160時間後の質量増加は、各実験についてtox=1000時間までの小さな変化を示し、図3に示すように、CoWO4層によってCrの外方拡散が防止されたことに対応するものと思われる。一方、被覆層を有しない試験片では、おそらくCr2O3からのCrの蒸発のために、酸化時間tox=160時間後に質量が減少し始めた。質量損失率は8×10−8g/m2sと推定され、これは760℃の空気+H2O雰囲気中でのCr2O3の蒸発速度よりもわずかに高い。

0053

多層酸化物の形成メカニズム
上述したように、Co−2.4W被覆層は、まず、大気中の酸素と反応して数種類の酸化物を生成する(ステップ1)。次に、被覆層が消費された後に多層酸化物が形成する(ステップ2)。以下では、両ステップに基づく多層酸化物の形成メカニズムを、熱力学的観点に基づいて説明する。

0054

ステップ1は過渡酸化段階である。それは、図6(a)から図6(c)に示すような酸化時間tox=0、15分および30分までの3つの小さな副段階によって進行する。酸化時間tox=0分で外部Co3O4層と内部CoO層とが形成される(図6(a))。サンプルの温度が800℃に達する迄の間に、CoとWの両方が酸化する可能性があり、W酸化物の800℃でのギブス生成自由エネルギーΔγG0800℃は、Co酸化物のそれよりも負であるが(図4)、めっきのW含有量が低いために、Coが外部酸化物層を形成すると考えられる。この現象は、低Cr含量のFe−Cr合金の酸化時に、連続Fe酸化物層の下にCrが内部酸化物を形成する現象と同様である。自由エネルギーから見ると、被膜中にWO3(s)も形成されるはずであるが、XRD結果からはその形成は確認できなかった。その理由は、形成されたWO3が式(2)に従ってCoOと直ちに反応してCoWO4を生成するためと解される。

0055

0056

なお、式(2)中のギブス生成エネルギーΔγG0800℃は、図4から得られた値である。

0057

また、XRDによりWO2(s)が形成されていないことも確認された。酸化物イオン(O2−)は、被覆層中のCoWO4および酸化されたW金属を通って内側に移動し、その後、生成したW酸化物が連続的にCoWO4に転化することで、内部CoWO4は基材に向かって成長したと解される。図6(b)に示される酸化時間tox=15分でのCoWO4量の増加は、このことを表している。過渡酸化段階において被覆層(図3(a)-(c)の領域e)で観察された酸素は、このCoWO4内部酸化物に起因するものと解される。また、過渡酸化段階では、基材からFeの外向き拡散が起こり、拡散前面が被覆層の中央にまで達したことが確認された(図3(a)-(c))。拡散したFeは、被覆層/酸化物の界面に到達し、負のギブス生成自由エネルギーを有する式(3)に従って、CoOと反応してFeCo2O4を形成したと解される。

0058

0059

すなわち、この過渡酸化段階では、大量のCo−W被覆層が残っているため、はじめにCoが酸化して、残存被覆層/Co酸化物領域界面にCoOを生成する。次に、CoO中のCoイオンは、p型CoOおよびCo3O4層を通って外側に移動し、Co酸化物/ガス界面で酸化物核を形成する。また、CoWO4内部酸化物の基材方向への成長に伴い、いくつかの酸化物が最終的に基材/残存被覆層界面に到達する。該界面におけるCrの酸化は、CoWO4を通って輸送された酸素イオンの消費によってtox=30分で開始される(図6(c))。この系ではCr2O3が最も安定な酸化物であるため(図4)、この界面でのCrの優先的酸化が妥当である。Crが優先的に酸化されるにつれて、基材中のCo含有量が増加する(図3(c)−(d))。CoとFeの両方が被覆層を通って外側に拡散する。このとき、残存被覆層中のCoの量が少ないため、Feの拡散がCoの拡散よりも速くなる結果、FeがCoO層に達して酸化され、連続FeCo2O4層を形成する。このように、過渡酸化段階における酸化物構造の変化は合理的に説明される。なお、基材として概ね22質量%以上のCrを含むステンレス鋼を用いると、基材からのFeの拡散が起こらなくなり、FeCo2O4は生成しなくなると考えられる。

0060

ステップ2は、定常状態における酸化過程として特徴付けられる。被覆層全体が酸化時間tox=1時間で消費されたので、金属種の外方への拡散は不可能となった。その結果、FeCo2O4およびCo3O4層の厚さは、tox=30分で形成された層の厚さからほとんど変化しない。基材/酸化物被膜(耐熱性被膜)界面近傍では、基材中のCr含有量が低すぎて連続Cr2O3層を形成できないため、一部のCrは、基材表面で酸化したFeおよびCoと共に(Co,Fe,Cr)3O4を形成する(図3(d)、図6(d))。しかし、基材表面近傍のCr含有量は、酸化時間の経過とともに増加するため、最終的に、tox=3時間で連続Cr2O3層を形成できるようになる(図3(e)、図6(e))。その後、tox=250時間で(Co,Fe,Cr)3O4とCr2O3との界面が明らかになる(図3(g))。前述した深さ方向に沿った層の順序は、図4から見て、熱力学的に妥当である。

0061

Co−2.4W被覆層を伴うSUS430ステンレス鋼を800℃で等温酸化した際の、形成された酸化物層(耐熱性被膜)の厚さの割合を図7に示す。酸化時間tox=1時間後、層の割合は多少のばらつきはあるもののtox=1000時間までのものと概ね同様であった。Crイオンの拡散がCoWO4層によって阻止されたため、酸化はCoWO4層の下で進行した可能性がある。このとき、Crの酸化のためには、酸素イオンが耐熱性被膜中の固相拡散によって供給される必要があるため、Crの酸化速度は、大気中の酸化速度より遅くなると予想される。したがって、図7に示す5層酸化物は、基材金属中のCr含有量がCr2O3を維持するのに必要な臨界レベルより低くなるまで残ると解される。

0062

<CoWO4によるCr拡散ブロックのメカニズムとその安定性
本発明では、CrイオンがCoWO4層を貫通しないことが重要である。拡散防止の理由は、この酸化物の安定性および結晶構造に基づくと解される。
CoWO4は、a=0.4670nm、b=0.55687nm、c=0.54951nmの格子定数を持つ単斜晶系構造を持ち、ユニットセル内に2個のCo2+イオンと4個のW6+イオンを含む。
800℃において安定なCrイオンはCr3+のみであるため、CoWO4におけるCo2+イオンをCr3+イオンと置換したり、Coイオン空孔にCr3+イオンを収容したりすることは不可能である。これは、Coイオン空孔が2つの負電荷を持ち、2価イオンしか収容できないためである。CoWO4中にCrが存在せず、CoWO4層中に2価イオンとなりうるFeが存在する事実により、CoWO4に対する3価Crイオンの非混和性と、2価イオンの置換可能性とが説明される。

0063

上記の議論から明らかなように、CoWO4は、3価Crイオンの拡散を効果的に阻止し、その効果は800℃で酸化時間1000時間まで持続した。しかし、SOFCの推定寿命は一万時間以上であるため、この実験結果に示されているよりも10倍長時間ブロックする必要がある。そこで、熱力学に基づいて、CoWO4の隣接材料との反応性を調べた。具体的には、Cr2O3とCoWO4との間の反応についてのギブス自由エネルギーを、以下の式に従って計算した。安定な化合物でなければならないCoWO4とCr2O3の可能な生成物は、Cr−Co−O系とCr−W−O系で調査した。

0064

0065

これらの反応のΔγG01073K値両方とも正であるため、800WではCoWO4とCr2O3との反応が不可能であり、これはCoWO4が安定であり、800℃で長時間にわたって気相へのCrイオンの輸送を効果的に遮断することを意味する。
上記の議論から、供用開始前のCo−2.4W被覆層によって、H2O含有雰囲気中でのCr種の拡散および蒸発に伴う固体電解質および電極触媒材料の被毒が、SOFCの供用期間を通して防止され得るといえる。

0066

タングステン種の気化>
図3から、CoWO4層の厚さδCoWO4を知ることによって、蒸発指数ηWが式(6)によって得られる。

0067

0068

式(6)において、Sは試料の表面積であり、CoWO4の密度ρCoWO4=8.42g/cm3であり、CoWO4のモル質量MCoWO4=306.77g/molである。

0069

算出された蒸発指数ηWの酸化時間に対するプロットを図8に示す。蒸発指数ηWは酸化時間によらず1とほぼ一定であった。このことは、蒸発指数ηWが酸化時間とは無関係であり、Wの気化は起こらないことを示している。高温酸化の開始時に、連続したCo3O4層が表面を覆う前に、WO3(g)が試料から気化する可能性はあるが、W金属が大気に曝されていなければ、W揮発の虞はないと解される。そこで、Wの蒸発を更に抑制可能な態様として、基材に対してCo−Wの内層と純粋なCoの外層とからなる二層被覆を施すことが挙げられる。

実施例

0070

<実施例のまとめ>
Co−W合金電気めっきをSUS430型ステンレス鋼に施した。次いで、該合金被覆鋼を、空気+3体積%H2O中で800℃で1000時間迄酸化させた。酸化された試料の分析および観察から、以下の結論を引き出すことができる。
(1)クエン酸を含有する電気めっき浴を用いて、W含有量3〜67.5質量%(1〜40原子%)のCo−W合金で形成される被覆層を得た。
(2)Co−W合金で形成される被覆層の酸化処理により、Crイオンの拡散を効果的に遮断して、相互接続部からのCr気化を生じさせない連続的なCoWO4層が形成される。
(3)3時間以上の酸化処理でステンレス鋼上に生成した酸化物は、5層で構成されていた。これらの酸化物の積層順序は熱力学的に妥当である。5層酸化物の形成後のさらなる酸化は、ゆっくり進行し、ステンレス鋼からのCrの拡散遮断特性を長期に亘って示す。

0071

本発明のCo−W被覆層ないし積層体被膜を有するフェライト系ステンレス鋼は、例えば固体酸化物形燃料電池の集電部材に適用することにより、集電部材の耐久性向上、電池の性能向上、環境問題の改善が見込まれ、燃料電池の普及につながるものと期待される。

ページトップへ

この技術を出願した法人

この技術を発明した人物

ページトップへ

関連する挑戦したい社会課題

該当するデータがありません

関連する公募課題

該当するデータがありません

ページトップへ

おススメ サービス

おススメ astavisionコンテンツ

新着 最近 公開された関連が強い技術

この 技術と関連性が強い人物

関連性が強い人物一覧

この 技術と関連する社会課題

該当するデータがありません

この 技術と関連する公募課題

該当するデータがありません

astavision 新着記事

サイト情報について

本サービスは、国が公開している情報(公開特許公報、特許整理標準化データ等)を元に構成されています。出典元のデータには一部間違いやノイズがあり、情報の正確さについては保証致しかねます。また一時的に、各データの収録範囲や更新周期によって、一部の情報が正しく表示されないことがございます。当サイトの情報を元にした諸問題、不利益等について当方は何ら責任を負いかねることを予めご承知おきのほど宜しくお願い申し上げます。

主たる情報の出典

特許情報…特許整理標準化データ(XML編)、公開特許公報、特許公報、審決公報、Patent Map Guidance System データ