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技術 車両の制動制御装置

出願人 株式会社アドヴィックス
発明者 寺坂将仁北原知沙
出願日 2017年11月29日 (2年5ヶ月経過) 出願番号 2017-228625
公開日 2019年6月24日 (10ヶ月経過) 公開番号 2019-098795
状態 未査定
技術分野 ブレーキシステム(制動力調整)
主要キーワード 制限基準値 非制限領域 直線動力 制限ブロック 減少モード 字リンク 常時開状態 アウトレット弁
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2019年6月24日)のものです。
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図面 (6)

課題

アンチスキッド制御を実行する車両の制動制御装置において、車両の方向安定性減速性とが好適に両立され得るのを提供する。

解決手段

制動制御装置は、左右車輪摩擦係数が異なる路面が判別された場合に、摩擦係数が高い側の前輪制動トルク増加勾配を調整するアンチスキッド制御を実行する。装置は、操舵角を検出する操舵角センサヨーレイトを検出するヨーレイトセンサとを備える。装置は、操舵角に基づいて規範旋回量演算し、ヨーレイトに基づいて実旋回量を演算し、規範旋回量と実旋回量との偏差に基づいて増加勾配を設定する。そして、偏差が拡大する場合には、設定された増加勾配が小さくなるよう修正される。また、偏差が縮小する場合には、設定された増加勾配が大きくなるよう修正される。

概要

背景

特許文献1には、「ABS車で、左右スプリット路面等での制動時の車両の操安性を確保し、制動距離の増加防止を図る」ことを目的に、「装置のコントローラは、車両左右車輪のどちらか一方にアンチスキッド制御が作動した場合、発生ヨーレイト目標ヨーレイトとの偏差に応じて、アンチスキッド制御が作動していない左右車輪の反対輪液圧上昇を変化させる液圧上昇速度変更制御を実行する。両輪ともアンチスキッド制御に至った後のアンチスキッド制御ではヨーレイト偏差に応じた基準スリップ率変更制御を加味することができる。左右スプリット路面における制動初期の車両の操縦定性は確保され、旋回制動時のヨーレイト発生防止や制動距離の増加防止との両立が図れる」旨が記載されている。

特許文献2には、スプリット路面でのアンチスキッド制御に加え、「アンダステア時の車両の不安定性応答性良く改善でき、ドライバによる修正操舵振幅を一定範囲内に維持して行うこと」を目的に、「車両の旋回方向を判定する旋回方向判定手段と、制御モードとして増圧モードが設定されているときに旋回アンダステア特定制御を実行し、旋回方向判定手段によって判定された旋回方向に基づいて決まる旋回外側前輪に対して、舵角偏差演算手段にて演算された舵角偏差の絶対値に基づいてアンチスキッド制御における増圧制御増圧制限をかけ、絶対値が大きいほど増圧制御の増圧勾配を小さくする増減圧制御手段と、を備える」装置について記載されている。該装置では、車両のオーバステアが判定され、舵角偏差の絶対値がしきい値よりも大きく、且つ、オーバステアではない場合に、増圧勾配が小さくされる。

アンチスキッド制御において、車両の方向安定性減速性との間には、トレードオフ関係が存在する。増圧制御の増圧勾配(「増加勾配」ともいう)が減少されれば、方向安定性は向上される。一方、増加勾配が増加されれば、車両の減速性は高まる。従って、アンチスキッド制御を実行する車両の制動制御装置においては、上記トレードオフ関係が、好適に両立され得るものが望まれている。

概要

アンチスキッド制御を実行する車両の制動制御装置において、車両の方向安定性と減速性とが好適に両立され得るのを提供する。 制動制御装置は、左右車輪で摩擦係数が異なる路面が判別された場合に、摩擦係数が高い側の前輪制動トルクの増加勾配を調整するアンチスキッド制御を実行する。装置は、操舵角を検出する操舵角センサとヨーレイトを検出するヨーレイトセンサとを備える。装置は、操舵角に基づいて規範旋回量を演算し、ヨーレイトに基づいて実旋回量を演算し、規範旋回量と実旋回量との偏差に基づいて増加勾配を設定する。そして、偏差が拡大する場合には、設定された増加勾配が小さくなるよう修正される。また、偏差が縮小する場合には、設定された増加勾配が大きくなるよう修正される。

目的

従って、アンチスキッド制御を実行する車両の制動制御装置においては、上記トレードオフ関係が、好適に両立され得るものが望まれている

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

車両の車輪制動トルクを個別に調整するアクチュエータと、前記車両の左右の車輪で摩擦係数が異なる路面が判別された場合に、前記アクチュエータを介して、前記摩擦係数が高い側の前輪の制動トルクの増加勾配を調整するアンチスキッド制御を実行するコントローラと、を備えた車両の制動制御装置であって、前記車両の操向車輪操舵角を検出する操舵角センサと、前記車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサと、を備え、前記コントローラは、前記操舵角に基づいて規範旋回量演算し、前記ヨーレイトに基づいて実旋回量を演算し、前記規範旋回量と前記実旋回量との偏差に基づいて前記増加勾配を設定し、前記偏差が拡大する場合には前記増加勾配を小さくなるよう修正する、車両の制動制御装置。

請求項2

車両の車輪の制動トルクを個別に調整するアクチュエータと、前記車両の左右の車輪で摩擦係数が異なる路面が判別された場合に、前記アクチュエータを介して、前記摩擦係数が高い側の前輪の制動トルクの増加勾配を調整するアンチスキッド制御を実行するコントローラと、を備えた車両の制動制御装置であって、前記車両の操向車輪の操舵角を検出する操舵角センサと、前記車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサと、を備え、前記コントローラは、前記操舵角に基づいて規範旋回量を演算し、前記ヨーレイトに基づいて実旋回量を演算し、前記規範旋回量と前記実旋回量との偏差に基づいて前記増加勾配を設定し、前記偏差が縮小する場合には前記増加勾配を大きくなるよう修正する、車両の制動制御装置。

請求項3

車両の車輪の制動トルクを個別に調整するアクチュエータと、前記車両の急旋回が判別された場合に、前記アクチュエータを介して、前記車両の旋回外側の前輪の制動トルクの増加勾配を調整するアンチスキッド制御を実行するコントローラと、を備えた車両の制動制御装置であって、前記車両の操向車輪の操舵角を検出する操舵角センサと、前記車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサと、を備え、前記コントローラは、前記操舵角に基づいて規範旋回量を演算し、前記ヨーレイトに基づいて実旋回量を演算し、前記規範旋回量と前記実旋回量との偏差に基づいて前記増加勾配を設定し、前記偏差が拡大する場合には前記増加勾配を小さくなるよう修正する、車両の制動制御装置。

請求項4

車両の車輪の制動トルクを個別に調整するアクチュエータと、前記車両の急旋回が判別された場合に、前記アクチュエータを介して、前記車両の旋回外側の前輪の制動トルクの増加勾配を調整するアンチスキッド制御を実行するコントローラと、を備えた車両の制動制御装置であって、前記車両の操向車輪の操舵角を検出する操舵角センサと、前記車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサと、を備え、前記コントローラは、前記操舵角に基づいて規範旋回量を演算し、前記ヨーレイトに基づいて実旋回量を演算し、前記規範旋回量と前記実旋回量との偏差に基づいて前記増加勾配を設定し、前記偏差が縮小する場合には前記増加勾配を大きくなるよう修正する、車両の制動制御装置。

技術分野

0001

本発明は、車両の制動制御装置に関する。

背景技術

0002

特許文献1には、「ABS車で、左右スプリット路面等での制動時の車両の操安性を確保し、制動距離の増加防止を図る」ことを目的に、「装置のコントローラは、車両左右車輪のどちらか一方にアンチスキッド制御が作動した場合、発生ヨーレイト目標ヨーレイトとの偏差に応じて、アンチスキッド制御が作動していない左右車輪の反対輪液圧上昇を変化させる液圧上昇速度変更制御を実行する。両輪ともアンチスキッド制御に至った後のアンチスキッド制御ではヨーレイト偏差に応じた基準スリップ率変更制御を加味することができる。左右スプリット路面における制動初期の車両の操縦定性は確保され、旋回制動時のヨーレイト発生防止や制動距離の増加防止との両立が図れる」旨が記載されている。

0003

特許文献2には、スプリット路面でのアンチスキッド制御に加え、「アンダステア時の車両の不安定性応答性良く改善でき、ドライバによる修正操舵振幅を一定範囲内に維持して行うこと」を目的に、「車両の旋回方向を判定する旋回方向判定手段と、制御モードとして増圧モードが設定されているときに旋回アンダステア特定制御を実行し、旋回方向判定手段によって判定された旋回方向に基づいて決まる旋回外側前輪に対して、舵角偏差演算手段にて演算された舵角偏差の絶対値に基づいてアンチスキッド制御における増圧制御増圧制限をかけ、絶対値が大きいほど増圧制御の増圧勾配を小さくする増減圧制御手段と、を備える」装置について記載されている。該装置では、車両のオーバステアが判定され、舵角偏差の絶対値がしきい値よりも大きく、且つ、オーバステアではない場合に、増圧勾配が小さくされる。

0004

アンチスキッド制御において、車両の方向安定性減速性との間には、トレードオフ関係が存在する。増圧制御の増圧勾配(「増加勾配」ともいう)が減少されれば、方向安定性は向上される。一方、増加勾配が増加されれば、車両の減速性は高まる。従って、アンチスキッド制御を実行する車両の制動制御装置においては、上記トレードオフ関係が、好適に両立され得るものが望まれている。

先行技術

0005

特開平6−344884号公報
特開2011−73575号公報

発明が解決しようとする課題

0006

本発明の目的は、アンチスキッド制御を実行する車両の制動制御装置において、車両の方向安定性と減速性とが好適に両立され得るのを提供することである。

課題を解決するための手段

0007

本発明に係る車両の制動制御装置は、車両の車輪(WH)の制動トルク(Tq)を個別に調整するアクチュエータ(HU)と、前記車両の左右の車輪(WH)で摩擦係数が異なる路面が判別された場合に、前記アクチュエータ(HU)を介して、前記摩擦係数が高い側の前輪の制動トルク(Tq)の増加勾配(Kz)を調整するアンチスキッド制御を実行するコントローラ(ECU)と、を備える。更に、制動制御装置は、前記車両の操向車輪(WHi、WHj)の操舵角(Sa)を検出する操舵角センサ(SA)と、前記車両のヨーレイト(Yr)を検出するヨーレイトセンサ(YR)と、を備える。

0008

本発明に係る車両の制動制御装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記操舵角(Sa)に基づいて規範旋回量(Tr)を演算し、前記ヨーレイト(Yr)に基づいて実旋回量(Ta)を演算し、前記規範旋回量(Tr)と前記実旋回量(Ta)との偏差(hT)に基づいて前記増加勾配(Kz)を設定し、前記偏差(hT)が拡大する場合には前記増加勾配(Kz)を小さくなるよう修正する。また、前記コントローラ(ECU)は、前記偏差(hT)が縮小する場合には前記増加勾配(Kz)を大きくなるよう修正する。

0009

車両の左右の車輪WHで摩擦係数が異なる路面(所謂、スプリット路)にてアンチスキッド制御が作動されると、摩擦係数の相違に起因する制動力差が前輪に生じる。この制動力差は、車両を偏向させるため、運転者の意図した車両方向と実際の車両方向とのズレが生じる。上記構成によれば、この方向ズレを抑制するように、旋回量偏差hTに基づいて、増加勾配Kzが設定される。このとき、増加勾配Kzは、スプリット路が判定されない場合よりも小さく設定される。更に、旋回量偏差hTが拡大する場合には、設定された増加勾配Kzが小さくなるよう修正される。旋回量偏差hTの拡大時は、増加勾配Kzは、減少されているが、未だ、大き過ぎる状態である。このため、増加勾配Kzが、更に、小さくなるよう修正され、方向ズレが、直ちに抑制される。一方、旋回量偏差hTが縮小する場合には、設定された増加勾配Kzが大きくなるよう修正される。旋回量偏差hTの縮小時は、増加勾配Kzが、十分に減少された状態である。このため、増加勾配Kzが、徐々に、大きくなるよう修正され、車両減速が確保される。

0010

本発明に係る車両の制動制御装置は、車両の車輪(WH)の制動トルク(Tq)を個別に調整するアクチュエータ(HU)と、前記車両の急旋回が判別された場合に、前記アクチュエータ(HU)を介して、前記車両の旋回外側の前輪の制動トルク(Tq)の増加勾配(Kz)を調整するアンチスキッド制御を実行するコントローラ(ECU)と、を備える。更に、制動制御装置は、前記車両の操向車輪(WHi、WHj)の操舵角(Sa)を検出する操舵角センサ(SA)と、前記車両のヨーレイト(Yr)を検出するヨーレイトセンサ(YR)と、を備える。

0011

本発明に係る車両の制動制御装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記操舵角(Sa)に基づいて規範旋回量(Tr)を演算し、前記ヨーレイト(Yr)に基づいて実旋回量(Ta)を演算し、前記規範旋回量(Tr)と前記実旋回量(Ta)との偏差(hT)に基づいて前記増加勾配(Kz)を設定し、前記偏差(hT)が拡大する場合には前記増加勾配(Kz)を小さくなるよう修正する。また、前記コントローラ(ECU)は、前記偏差(hT)が縮小する場合には前記増加勾配(Kz)を大きくなるよう修正する。

0012

車両が旋回している場合には、旋回内側荷重は減少し、旋回外側の荷重が増大される。この状態にてアンチスキッド制御が作動されると、垂直荷重の相違に起因する制動力差が前輪に生じる。この制動力差は、運転者の意図した車両方向よりも、実際の車両は旋回外側に偏向する(所謂、車両のアンダステアが増加する)。上記構成によれば、このアンダステアを抑制するように、旋回量偏差hTに基づいて、増加勾配Kzが設定される。このとき、増加勾配Kzは、車両の急旋回が判定されない場合よりも小さく設定される。更に、旋回量偏差hTが拡大する場合には、設定された増加勾配Kzが小さくなるよう修正される。旋回量偏差hTの拡大時は、増加勾配Kzは、減少されているが、未だ、大き過ぎる状態である。このため、増加勾配Kzが、更に、小さくなるよう修正され、アンダステアが、直ちに抑制される。一方、旋回量偏差hTが縮小する場合には、設定された増加勾配Kzが大きくなるよう修正される。旋回量偏差hTの縮小時は、増加勾配Kzが、十分に減少された状態である。このため、増加勾配Kzが、徐々に、大きくなるよう修正され、車両減速が確保される。

図面の簡単な説明

0013

本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態を説明するための全体構成図である。
コントローラECUでの演算処理を説明するための機能ブロック図である。
増加勾配制限ブロックUZでの第1の演算例を説明するための制御フロー図である。
増加勾配制限ブロックUZでの第2の演算例を説明するための制御フロー図である。
スプリット路が判定される場合と、急旋回が判定される場合との相違を説明するための概略図である。

実施例

0014

構成部材等の記号、記号末尾添字、及び、運動・移動方向>
以下の説明において、「ECU」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各種記号の末尾に付された添字「i」〜「l」は、それが何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、4つの各ホイールシリンダにおいて、右前輪ホイールシリンダCWi、左前輪ホイールシリンダCWj、右後輪ホイールシリンダCWk、及び、左後輪ホイールシリンダCWlと表記される。更に、記号末尾の添字「i」〜「l」は、省略され得る。添字「i」〜「l」が省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を表す。例えば、「WH」は各車輪、「CW」は各ホイールシリンダを表す。

0015

各種記号の末尾に付された添字「1」、「2」は、2つの制動系統において、それが何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「1」は第1系統、「2」は第2系統を示す。例えば、2つのマスタシリンダ流体路において、第1マスタシリンダ流体路HM1、及び、第2マスタシリンダ流体路HM2と表記される。更に、記号末尾の添字「1」、「2」は省略され得る。添字「1」、「2」が省略された場合には、各記号は、2つの各制動系統の総称を表す。例えば、「HM」は、各制動系統のマスタシリンダ流体路を表す。

0016

<本発明に係る車両の制動制御装置の実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの実施形態について説明する。マスタシリンダCMは、マスタシリンダ流体路HM、及び、ホイールシリンダ流体路HWを介して、ホイールシリンダCWに接続されている。流体路は、制動制御装置SCの作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管流体ユニット流路ホース等が該当する。流体路の内部には、制動液BFが満たされている。流体路において、リザーバRVに近い側が、「上流」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側が、「下流」と称呼される。

0017

車両には、2系統の流体路が採用される。2系統のうちの第1系統(第1マスタシリンダ室Rm1に係る系統)は、ホイールシリンダCWi、CWlに接続される。また、第2系統(第2マスタシリンダ室Rm2に係る系統)は、ホイールシリンダCWj、CWkに接続される。第1の実施形態では、所謂、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用されている。

0018

制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP、ホイールシリンダCW、リザーバRV、マスタシリンダCM、及び、ブレーキブースタBBが備えられる。制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクTqが調整され、車輪WHに制動力が発生される。

0019

車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられ、その内部の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTqが発生される。制動トルクTqによって、車輪WHに減速スリップが発生され、その結果、制動力が生じる。

0020

リザーバ(大気圧リザーバ)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダCMは、制動操作部材BPに、ブレーキロッドクレビス(U字リンク)等を介して、機械的に接続されている。マスタシリンダCMは、タンデム型であり、マスタピストンPL1、PL2によって、その内部が、マスタシリンダ室Rm1、Rm2に分けられている。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダCMのマスタシリンダ室Rm1、Rm2とリザーバRVとは連通状態にある。マスタシリンダCMには、マスタシリンダ流体路HM1、HM2が接続されている。制動操作部材BPが操作されると、マスタピストンPL1、PL2が前進し、マスタシリンダ室Rm1、Rm2は、リザーバRVから遮断される。制動操作部材BPの操作が増加されると、制動液BFは、マスタシリンダCMから、マスタシリンダ流体路HM1、HM2を介して、ホイールシリンダCWに向けて圧送される。

0021

ブレーキブースタ(単に、「ブースタ」ともいう)BBによって、運転者による制動操作部材BPの操作力Fpが軽減される。ブースタBBとして、負圧式のものが採用される。負圧は、エンジン、又は、電動負圧ポンプにて形成される。ブースタBBとして、電気モータ駆動源とするものが採用されてもよい(例えば、電動ブースタアキュムレータ式ハイドロリックブースタ)。

0022

車両には、車輪速度センサVW、操舵角センサSA、ヨーレイトセンサYR、前後加速度センサGX、横加速度センサGY、制動操作量センサBA、操作スイッチST、及び、距離センサOBが備えられる。車両の各車輪WHには、車輪速度Vwを検出するよう、車輪速度センサVWが備えられる。車輪速度Vwの信号は、車輪WHのロック傾向(即ち、過大な減速スリップ)を抑制するアンチスキッド制御等の各輪での独立制御に利用される。

0023

操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)WSには、操舵角Sa(操向車輪WHi、WHjの舵角)を検出するように操舵角センサSAが備えられる。車両の車体には、ヨーレイト(ヨー角速度)Yrを検出するよう、ヨーレイトセンサYRが備えられる。また、車両の前後方向(進行方向)の加速度前後加速度)Gx、及び、横方向(進行方向に直角な方向)の加速度(横加速度)Gyを検出するよう、前後加速度センサGX、及び、横加速度センサGYが設けられる。

0024

運転者による制動操作部材BP(ブレーキペダル)の操作量Baを検出するよう、制動操作量センサBAが設けられる。制動操作量センサBAとして、マスタシリンダCM内の液圧マスタシリンダ液圧)Pmを検出するマスタシリンダ液圧センサPM、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。

0025

制動操作部材BPには、操作スイッチSTが設けられる。操作スイッチSTによって、運転者による制動操作部材BPの操作の有無が検出される。制動操作部材BPが操作されていない場合(即ち、非制動時)には、操作信号Stとしてオフ信号が出力される。一方、制動操作部材BPが操作されている場合(即ち、制動時)には、操作信号Stとしてオン信号が出力される。

0026

車両には、自車両の前方に存在する物体他車両、固定物、人、自転車、等)と、自車両との間の距離(相対距離)Obを検出するよう、距離センサOBが設けられる。例えば、距離センサOBとして、カメラレーダ等が採用される。距離Obは、コントローラECJに入力される。コントローラECJでは、相対距離Obに基づいて、要求減速度Grが演算される。

0027

電子制御ユニットECU≫
制動制御装置SCは、コントローラECU、及び、流体ユニットHU(「アクチュエータ」に相当)にて構成される。
コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUは、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムとを含んで構成される。コントローラECUは、車載通信バスBSを介して、他のコントローラ(例えば、運転支援用コントローラECJ)と、信号(検出値演算値等)を共有するよう、ネットワーク接続されている。運転支援用コントローラECJから、車両前方の物体(例えば、障害物)との衝突を回避するよう、自動制動制御を実行するための要求減速度Gr(目標値)が送信される。コントローラECUでは、要求減速度Grに基づいて、自動制動制御が実行される。

0028

制動用コントローラECUには、制動操作量Ba、制動操作信号St、車輪速度Vw、ヨーレイトYr、操舵角Sa、前後加速度Gx、横加速度Gy、要求減速度Grが入力される。コントローラECU(電子制御ユニット)によって、入力信号に基づいて、流体ユニットHUの電気モータML、及び、電磁弁UP、VI、VOが制御される。具体的には、上記制御アルゴリズムに基づいて、電磁弁UP、VI、VOを制御するための駆動信号Up、Vi、Voが演算され、電気モータMLを制御するための駆動信号Mlが演算される。

0029

コントローラECUには、電磁弁UP、VI、VO、及び、電気モータMLを駆動するよう、駆動回路DRが備えられる。駆動回路DRには、電気モータMLを駆動するよう、スイッチング素子MOS−FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成される。また、駆動回路DRには、電磁弁UP、VI、VOを駆動するよう、スイッチング素子が設けられ、それらの通電状態(即ち、励磁状態)が制御される。なお、駆動回路DRには、電気モータML、及び、電磁弁UP、VI、VOの実際の通電量供給電流)を検出する通電量センサ(電流センサ)が設けられる。

0030

≪流体ユニットHU≫
マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間には、公知の流体ユニットHUが設けられる。流体ユニット(アクチュエータ)HUは、電動ポンプDL、低圧リザーバRL、調圧弁UP、マスタシリンダ液圧センサPM、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOにて構成される。

0031

電動ポンプDLは、1つの電気モータML、及び、2つの流体ポンプQL1、QL2にて構成される。電気モータMLによって、流体ポンプQL1、QL2が回転されと、吸込部Bs1、Bs2(調圧弁UPの上流側)から制動液BFが汲み上げられる。汲み上げられた制動液BFは、吐出部Bt1、Bt2(調圧弁UPの下流側)に吐出される。流体ポンプQL1、QL2の吸込み側には、低圧リザーバRL1、RL2が設けられる。

0032

調圧弁UP1、UP2が、マスタシリンダ流体路HM1、HM2に設けられる。調圧弁UPとして、通電状態(例えば、供給電流)に基づいて開弁量リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(「差圧弁」ともいう)が採用される。調圧弁UP1、UP2として、常開型の電磁弁が採用される。車両安定化制御、自動制動制御等の演算結果(例えば、ホイールシリンダCWの目標液圧)に基づいて、調圧弁UPの目標通電量が決定される。該目標通電量に基づいて駆動信号Upが決定され、調圧弁UPへの通電量(電流)が調整され、その開弁量が調整される。

0033

流体ポンプQLが駆動されると、制動液BFの還流が形成される。調圧弁UPへの通電が行われず、常開型の調圧弁UPが全開状態である場合には、調圧弁UPの上流側の液圧(マスタシリンダ液圧Pm)と、調圧弁UPの下流側の液圧とは、略一致する。常開型調圧弁UPへの通電量が増加され、調圧弁UPの開弁量が減少されると、制動液BFの環流が絞られ、オリフィス効果によって、下流側液圧は、上流側液圧Pmから増加される。電動ポンプDL、及び、調圧弁UPが制御されることによって、制動操作部材BPの操作に応じたマスタシリンダ液圧Pmよりも、制動液圧Pwを増加される。調圧弁UPの上流側には、マスタシリンダ液圧Pm1、Pm2を検出するよう、マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2が設けられる。なお、「Pm1=Pm2」であるため、マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2のうちの一方は、省略可能である。

0034

マスタシリンダ流体路HM1、HM2は、分岐部Bw1、Bw2にて、ホイールシリンダ流体路HWi〜HWlに分岐される。ホイールシリンダ流体路HWには、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが設けられる。インレット弁VIとして常開型のオンオフ電磁弁が採用され、アウトレット弁VOとして常閉型のオン・オフ電磁弁が採用される。電磁弁VI、VOは、コントローラECUによって、駆動信号Vi、Voに基づいて制御される。インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOによって各輪の制動液圧Pwが独立して制御され得る。

0035

インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOにおいて、各車輪WHに係る構成は同じである。ホイールシリンダ流体路HW(部位BwとホイールシリンダCWとを結ぶ流体路)には、常開型のインレット弁VIが設けられる。ホイールシリンダ流体路HWは、インレット弁VIの下流部にて、常閉型のアウトレット弁VOを介して、低圧リザーバRLに接続される。

0036

例えば、アンチスキッド制御において、ホイールシリンダCW内の液圧(制動液圧)Pwを減少するために、インレット弁VIが閉位置にされ、アウトレット弁VOが開位置される。インレット弁VIからの制動液BFの流入が阻止され、ホイールシリンダCW内の制動液BFは、低圧リザーバRLに流出し、制動液圧Pwは減少される。また、制動液圧Pwを増加するため、インレット弁VIが開位置にされ、アウトレット弁VOが閉位置される。低圧リザーバRLへの制動液BFの流出が阻止され、調圧弁UPによって調節された下流側液圧が、ホイールシリンダCWに導入され、制動液圧Pwが増加される。

0037

制動液圧Pwの増減によって、車輪WHの制動トルクTqが増減(調整)される。制動液圧Pwが増加されると、摩擦材が回転部材KTに押圧される力が増加され、制動トルクTqが増加される。結果、車輪WHの制動力が増加される。一方、制動液圧Pwが減少されると、摩擦材の回転部材KTに対する押圧力が減少され、制動トルクTqが減少される。結果、車輪WHの制動力が減少される。

0038

<コントローラECUでの演算処理>
図2の機能ブロック図を参照して、コントローラECUでの演算について説明する。コントローラECUには、車輪速度Vw、ヨーレイトYr、操舵角Sa、横加速度Gy、制動操作量Ba、制動操作信号St、及び、要求減速度Grが入力される。制動コントローラECUには、車体速度演算ブロックVX、車輪加速度演算ブロックDV、車輪スリップ演算ブロックSW、アンチスキッド制御ブロックAC、及び、駆動回路DRが含まれる。

0039

車体速度演算ブロックVXにて、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。例えば、車両の加速時を含む非制動時には、4つの車輪速度Vwのうちの最も遅いもの(最遅の車輪速度)に基づいて、車体速度Vxが演算される。また、制動時には、4つの車輪速度Vwのうちの最も速いもの(最速の車輪速度)に基づいて、車体速度Vxが演算される。更に、車体速度Vxの演算において、その時間変化量において制限が設けられ得る。即ち、車体速度Vxの増加勾配の上限値αup、及び、減少勾配の下限値αdnが設定され、車体速度Vxの変化が、上下限値αup、αdnによって制約される。

0040

車輪加速度演算ブロックDVにて、車輪速度Vwに基づいて、車輪加速度dV(車輪速度Vwの時間変化量)が演算される。具体的には、車輪速度Vwが時間微分されて、車輪加速度dVが演算される。

0041

車輪スリップ演算ブロックSWにて、車体速度Vx、及び、車輪速度Vwに基づいて、車輪WHの減速スリップ(「車輪スリップ」ともいう)Swが演算される。車輪スリップSwは、走行路面に対する車輪WHのグリップの程度を表す状態量である。例えば、車輪スリップSwとして、車輪WHの減速スリップ速度(車体速度Vxと車輪速度Vwと偏差)hVが演算される(hV=Vx−Vw)。また、車輪スリップSwとして、スリップ速度速度偏差)hVが車体速度Vxにて無次元化された車輪スリップ率(=hV/Vx)が採用され得る。

0042

アンチスキッド制御ブロックACにて、車輪加速度dV、車輪スリップSw、制動操作量Ba、操作信号St、要求減速度Gr、車体速度Vx、ヨーレイトYr、操舵角Sa、及び、横加速度Gyに基づいて、アンチスキッド制御が実行される。具体的には、先ず、制動操作量Ba、操作信号St、及び、要求減速度Grの少なくとも1つに基づいて、「制動中か、否か」が判定される。「制動操作量Baが所定値bo以上」、「操作信号Stがオン状態」、及び、「要求減速度Grが所定値go以上」のうちの少なくとも1つの条件が満足され、「制動中であること」が肯定される場合に、各車輪WHにおいて、アンチスキッド制御の実行開始許可される。

0043

アンチスキッド制御ブロックACでは、車両の走行している路面が、「左右の車輪で摩擦係数が大きく異なるスプリット路であるか、否か」が判定される。アンチスキッド制御が開始される前には、左右の前輪には同一の制動液圧Pw(即ち、制動トルクTq)が付与される。例えば、スプリット路の判定は、車輪加速度dV、及び、車輪スリップSwの少なくとも1つにおいて、左右前輪の間で所定値以上の差が生じた場合に、「スプリット路である」ことが判定される。このとき、左右車輪のうちで、高摩擦係数側にある車輪と、低摩擦係数側にある車輪とが識別される。

0044

また、アンチスキッド制御ブロックACでは、「車両が急旋回しているか、否か」が判定される。例えば、車両急旋回の判定は、実横加速度Gyに基づいて行われる。横加速度Gyが所定値gy以上の場合に、車両の旋回状態が、急旋回状態であることが判別される。一方、横加速度Gyが所定値gy未満である場合には、車両急旋回は判定されない。ここで、所定値gyは、予め設定された定数である。車体速度Vxが考慮されると、ヨーレイトYr、又は、操舵角Saに基づいて、横加速度は演算可能である。従って、車両急旋回の判定は、横加速度Gy、ヨーレイトYr、及び、操舵角Saのうちの少なくとも1つに基づいて判定される。この場合も、上記同様に、所定値gyとの比較に基づいて、車両急旋回状態の有無が判定される。

0045

急旋回の判定に併せて、車両の旋回方向が識別される。旋回方向は、横加速度Gy、ヨーレイトYr、及び、操舵角Saのうちの少なくとも1つに基づいて識別される。また、旋回方向に基づいて、旋回において、外側車輪内側車輪とが識別され、旋回外側前輪が特定される。具体的には、旋回外側前輪は、左旋回では右前輪WHiに、右旋回では左前輪WHjに決定される。

0046

各車輪WHにおける、アンチスキッド制御の実行(即ち、各ホイールシリンダCWの液圧Pwの調整)は、減少モード減圧モード)Mg、及び、増加モード(増圧モード)Mzのうちの何れか1つのモードが選択されることによって行われる。ここで、減少モードMg、及び、増加モードMzは、「制御モード」と総称され、アンチスキッド制御ブロックACに含まれる制御モード選択ブロックMDによって決定される。具体的には、制御モード選択ブロックMDでは、アンチスキッド制御の各制御モードを決定するよう、複数のしきい値が予め設定されている。これらのしきい値と、「車輪加速度dV、及び、車輪スリップSw」との相互関係に基づいて、減少モードMg、及び、増加モードMzのうちでの何れか1つが選択される。加えて、制御モード選択ブロックMDでは、上記の相互関係に基づいて、減少モードMgにおける減少勾配Kg(制動液圧Pwの減少時の時間変化量)、及び、増加モードMzにおける増加勾配Kz(制動液圧Pwの増加時の時間変化量)が決定される。そして、減少勾配Kgに基づいてアウトレット弁VOのデューティ比Dgが演算される。また、増加勾配Kzに基づいてインレット弁VIのデューティ比Dzが決定される。ここで、「デューティ比」は、単位時間当たりの通電時間(オン時間)の割合である。

0047

アンチスキッド制御ブロックACには、増加勾配制限ブロックUZが含まれる。増加勾配制限ブロックUZによって、スプリット路にてアンチスキッド制御が実行される場合、摩擦係数が高い側の前輪の増加勾配Kzが制限される。また、車両急旋回時のアンチスキッド制御において、旋回外側前輪の増加勾配Kzが制限される。増加勾配制限ブロックUZでは、実ヨーレイトYr、及び、操舵角Saに基づいて、偏向状態量Dsが演算される。そして、偏向状態量Dsに基づいて、最終的な制限値Uzが演算され、増加勾配Kzが制限値Uzに制限される。偏向状態量Ds、及び、制限値Uzの詳細な演算方法については後述する。

0048

吹き出し部FKの時系列線図を参照して、増加勾配Kzと最終制限値Uzとの関係について説明する。時系列線図は、時間Tに対する、制動液圧Pw(即ち、制動トルクTq)の変化を示している。破線で示す制限されていない(即ち、制限前の)増加勾配Kzは、時間Tに対する制動液圧Pwの変化量である。左右前輪のうちの一方にアンチスキッド制御が実行され、他方にはアンチスキッド制御が実行されていない場合には、他方の前輪(つまり、高摩擦係数側の前輪、又は、旋回外側の前輪)の制限前の増加勾配Kzは、制動操作部材BPの操作(特に、操作速度)に応じて定まる。また、自動制動制御による制動では、制限前の増加勾配Kzは、要求減速度Grの時間変化量によって定まる。左右前輪にアンチスキッド制御が実行されている場合には、制限前の増加勾配Kzは、車輪加速度dV、及び、車輪スリップSwのうちの少なくとも1つによって、コントローラECUによって指示される。

0049

一点鎖線で示す制限値Uz(目標値)によって、増加勾配Kzが制限される。増加勾配Kzが制限値Uzを超えない場合には、増加勾配Kzは、そのままにされる(線分p1−p2)。一方、増加勾配Kzが制限値Uzを超える場合には、増加勾配Kz(目標値)が制限値Uzに決定される(線分p2−p3)。結果、実際の増加勾配Kzは、実線で示す様に、制限前の増加勾配Kz(破線)から減少されて、指示される(線分p1−p2−p3)。目標とする増加勾配Kzが減少されると、常開型のインレット弁VIのデューティ比Dzが増加される。インレット弁VIの閉位置の時間が長くされ(即ち、インレット弁VIが、より閉じる側に駆動され)、実際の増加勾配Kzが減少される。例えば、高摩擦係数側の前輪において、スプリット路ではない路面でアンチスキッド制御が実行される場合(つまり、スプリット路が判別されない場合)の増加勾配Kz(制動操作量Ba、要求減速度Gr、車輪加速度dV、及び、車輪スリップSwのうちの少なくとも1つに応じた値であり、制限前の増加勾配Kz)に対して、制限値Uzによって制限が加えられ、増加勾配Kzが、制限前の増加勾配Kzから減少するよう調整される。同様に、旋回外側前輪において、急旋回が判定された場合には、増加勾配Kzが、制限前(即ち、急旋回が判定されない場合)の増加勾配Kzから減少するよう調整される。

0050

アンチスキッド制御によって、減少モードMgが選択され、制動液圧Pwが減少される場合には、インレット弁VIが閉状態にされ、アウトレット弁VOが開状態にされる。つまり、増加デューティ比Dzが「100%(常時通電)」に決定され、アウトレット弁VOが、減圧デューティ比Dgに基づいて駆動される。ホイールシリンダCW内の制動液BFが、低圧リザーバRLに移動され、制動液圧Pwが減少される。ここで、減圧速度(制動液圧Pwの減少における時間勾配であり、減少勾配)は、アウトレット弁VOのデューティ比Dgによって決定される。減圧デューティ比Dgの「100%」が、アウトレット弁VOの常時開状態に対応し、制動液圧Pwは急減される。「Dg=0%(非通電)」によって、アウトレット弁VOの閉位置が達成される。

0051

アンチスキッド制御によって、増加モードMzが選択され、制動液圧Pwが増加される場合には、インレット弁VIが開状態にされ、アウトレット弁VOが閉状態にされる。つまり、減圧デューティ比Dgが「0%」に決定され、インレット弁VIが、増加デューティ比Dzに基づいて駆動される。制動液BFが、マスタシリンダCMからホイールシリンダCWに移動され、制動液圧Pwが増加される。インレット弁VIのデューティ比Dzによって、増圧速度(制動液圧の増加における時間勾配であり、増加勾配Kz)が調整される。増加デューティ比Dzの「0%」が、インレット弁VIの常時開状態に対応し、制動液圧Pwは急増される。「Dz=100%(常時通電)」によって、インレット弁VIの閉位置が達成される。

0052

なお、アンチスキッド制御によって、制動液圧Pwの保持が必要な場合には、減少モードMg、又は、増加モードMzにおいて、アウトレット弁VO、又は、インレット弁VIが、常時、閉状態にされる。具体的には、減少モードMgにおいて、制動液圧Pwの保持が必要な場合には、アウトレット弁VOのデューティ比Dgが「0%(常閉状態)」に決定される。また、増加モードMzにおいて、制動液圧Pwの保持が必要な場合には、インレット弁VIのデューティ比Dzが「100%(常閉状態)」に決定される。

0053

駆動回路DRにて、増減圧デューティ比Dz、Dg、及び、駆動信号Mlに基づいて、電磁弁VI、VO、及び、電気モータMLが駆動される。駆動回路DRでは、アンチスキッド制御を実行するよう、増加デューティ比Dzに基づいて、インレット弁VI用の駆動信号Viが演算されるとともに、減圧デューティ比Dgに基づいて、アウトレット弁VO用の駆動信号Voが決定される。また、電気モータMLを予め設定された所定回転数で駆動するよう、駆動信号Mlが演算される。電気モータMLの駆動によって、制動液BFは、低圧リザーバRLからインレット弁VIの上流部Btに戻される。

0054

<増加勾配制限ブロックUZでの第1の演算例>
図3の制御フロー図を参照して、増加勾配制限ブロックUZでの第1の演算処理例について説明する。該処理は、左右車輪で摩擦係数が相違するスプリット路(「μスプリット路」ともいう)でのアンチスキッド制御が、左右の前輪のうちの少なくとも一方で開始されたことを前提に実行される。増加勾配制限ブロックUZでは、高摩擦係数側の前輪の増加勾配Kzを制限し、減少調整するよう、制限値Uzが演算される。

0055

≪旋回方向≫
先ず、各状態量(ヨーレイトYr、操舵角Sa、横加速度Gy等)の方向について説明する。車両の旋回方向には、左方向と右方向とが存在する。旋回方向を区別するため、車両の直進状態が「0(中立位置)」とされ、各状態量の符号によって旋回方向が表現される。以下の説明では、「左旋回方向」が「正符号(+)」によって表され、「右旋回方向」が「負符号(−)」にて表現される。

0056

テップS110にて、操舵角Sa、及び、ヨーレイトYrが読み込まれる。操向車輪(前輪)WHi、WHjの舵角である操舵角Sa(例えば、ステアリングホイールWSの操作角)は、操舵角センサSAによって検出される。また、車両の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレイトYrは、ヨーレイトセンサYRによって検出される。ステップS120にて、操舵角Saに基づいて規範旋回量Trが演算される。規範旋回量Trは、運転者が意図する車両進行方向を表す状態量である。換言すれば、規範旋回量Trは、全ての車輪WHにおいて、スリップが僅かであり、グリップ状態にある場合の車両の進行方向を表現する状態変数である。ステップS130にて、実際のヨーレイトYrに基づいて実旋回量Taが演算される。実旋回量Taは、運転者の操舵操作、及び、アンチスキッド制御(つまり、制動力の左右差)の結果として、実際の車両の進行方向を表す状態量である。ここで、規範旋回量Trと実旋回量Taとは、同一物理量として演算される。

0057

例えば、規範旋回量Trと実旋回量Taとが、同一物理量として、ヨーレイトの次元にて演算される。この場合、操舵角Sa、車体速度Vx、及び、スタビリティファクタを考慮した所定の関係に基づいて、規範旋回量Tr(規範ヨーレイト)が決定される。このとき、実ヨーレイトYrが、そのまま、実旋回量Taとして決定される(Ta=Yr)。或いは、規範旋回量Trと実旋回量Taとが、操舵角の次元にて演算される。この場合、規範旋回量Trとして、操舵角Saが、そのまま、決定される(Tr=Sa)。そして、実旋回量Taは、ヨーレイトYr、車体速度Vx、及び、所定の関係に基づいて演算される。何れの場合においても、操舵角Saに基づいて規範旋回量Trが演算され、ヨーレイトYrに基づいて実旋回量Taが演算される。

0058

ステップS140にて、規範旋回量Trと実旋回量Taとの偏差hT、及び、実旋回量Taの方向sgnTaに基づいて、偏向状態量Dsが演算される。偏向状態量Dsは、操舵角Saに対する車両の偏向の程度を表す状態量である。換言すれば、偏向状態量Dsは、スプリット路、或いは、車両旋回時の荷重移動に起因する前輪制動力の左右差の影響の大小を表現する状態変数である。具体的には、偏向状態量Dsは、以下の式(1)にて演算される。
Ds=sgnTa・(Tr−Ta)=sgnTa・hT …式(1)
ここで、sgnは、符号関数(「シグナム関数」ともいう)であり、引数の符号に応じて、「プラス1」、「マイナス1」、「0」のいずれかを返す関数である。なお、実旋回量Taは、実ヨーレイトYrに基づいて演算されるため、実旋回量Taの方向sgnTaは、実ヨーレイトYrの方向sgnYrと一致する。

0059

ステップS150にて、偏向状態量Dsの時間変化量(「偏向変化量」という)dDが演算される。偏向変化量dDは、偏向状態量Dsが時間微分されて演算される。例えば、前回演算周期の偏向状態量Dsと、今回演算周期の偏向状態量Dsとが比較されて、偏向変化量dDが決定される。偏向変化量dDは、旋回量偏差hT(=Tr−Ta)が拡大、又は、縮小していることを表す状態量である。

0060

ステップS160にて、車両の走行している路面が、「左右の車輪で摩擦係数が大きく異なるスプリット路であるか、否か」が判定される。スプリット路の有無は、車輪加速度dV、及び、車輪スリップSwの少なくとも1つに基づいて判定される。具体的には、上記状態量dV、Swにおいて、左右前輪の間で所定値以上の差が生じた場合に、「スプリット路である」ことが判定される。ステップS160では、左右車輪のうちで、高摩擦係数側にある車輪と、低摩擦係数側にある車輪とが識別される。

0061

ステップS170にて、「偏向状態量Dsが、第1しきい値dsよりも大きいか、否か」が判定される。ここで、第1しきい値dsは、予め設定された、判定用の定数である。例えば、第1しきい値dsは、「0」として決定される。或いは、第1しきい値dsは、所定の幅を有する範囲として設定され得る。「Ds>ds:YES」である場合には、増加勾配Kzは調整(制限)されない。処理は、ステップS400に進み、通常のアンチスキッド制御が実行される。この場合、「制動操作量Ba、及び、要求減速度Grのうちの少なくとも1つの応じた、調整前の増加勾配Kz」、又は、「車輪加速度dV、及び、車輪スリップSwのうちの少なくとも1つに基づいて演算された、調整前の増加勾配Kz」によって、高摩擦係数側の前輪の増加デューティ比Dzが決定される。つまり、スプリット路が判別されない場合と同等の、増加デューティ比Dzが演算される。

0062

一方、「Ds≦ds:NO」であり、ステップS170が否定される場合には、処理は、ステップS180に進む。ステップS180にて、偏向状態量Dsに基づいて、制限基準値Ut(目標値)が演算される。
吹き出し部UTを参照して、制限基準値Utの演算について説明する。制限基準値Utは、偏向状態量Ds、及び、予め設定された演算マップZutに基づいて演算される。「Ds>ds」では、制限基準値Utは演算されず、増加勾配Kzは制限されない。「Ds≦ds」では、偏向状態量Dsに応じて、制限基準値Utが演算される。偏向状態量Dsが所定値dr未満では、制限基準値Utは所定値ur(下限値)に演算される。偏向状態量Dsが、所定値dr以上、第1しきい値ds以下では、偏向状態量Dsが増加するに従って、制限基準値Utが、所定値urから所定値umに向けて増加するように演算される。つまり、偏差の絶対値|hT|が大きいほど(換言すれば、偏向状態量Dsが第1しきい値dsから離れるほど)、制限基準値Utが小さくなるように、制限基準値Utが決定される。ここで、所定値ds、dr、um、urは予め設定された定数である。

0063

ステップS190にて、偏向変化量dDに基づいて、制限修正値Uaが演算される。制限修正値Uaは、運転者が指示する車両の進行方向と、実際の車両の進行方向との間のズレ(方向ズレ)を効率的に低減するため、制限基準値Utを調整(修正)するものである。
吹き出し部UAを参照して、制限修正値Uaの演算について説明する。制限修正値Uaは、偏向変化量dD、及び、予め設定された演算マップZuaに基づいて演算される。偏向変化量dDが負符号の領域(「dD<0」の場合)は、偏向状態量Dsが、時間の経過に伴って減少していることに対応する。一方、偏向変化量dDが正符号の領域(「dD>0」の場合)は、偏向状態量Dsが、時間とともに増加していることに対応する。制限基準値Utは、偏向状態量Dsが第1しきい値ds以下である場合に演算されるため、偏向状態量Dsの減少(つまり、「dD<0」)は、偏向状態量Dsが第1しきい値dsから離れていく(即ち、車両の方向ズレが拡大する)ことに対応する。一方、偏向状態量Dsの増加(つまり、「dD>0」)は、偏向状態量Dsが第1しきい値dsに近付いていく(即ち、方向ズレが縮小する)ことに対応する。従って、制限修正値Uaは、偏向変化量dDが「0」未満の場合には、偏向変化量dDの増加に従って、「0」に向けて増加するように演算される。即ち、制限修正値Uaは、負の値である。また、制限修正値Uaは、偏向変化量dDが「0」より大きい場合には、偏向変化量dDの増加に従って、「0」から増加するように演算される。即ち、制限修正値Uaは、正の値である。制限修正値Uaには、上限値um、下限値−umが設けられる。また、不感帯「−da〜da」が設けられる。ここで、所定値um、daは、予め設定された定数である。

0064

ステップS200にて、制限基準値Ut、及び、制限修正値Uaに基づいて、最終的な制限値(「最終制限値」ともいう)Uzが演算される。最終制限値Uzは、増加勾配Kzを制限するための目標値である。最終制限値Uzは、制限基準値Utに制限修正値Uaが加算されて決定される。従って、偏向状態量Dsが減少し、第1しきい値dsから離れる方向に変化している場合(「dD<0」の場合)には、最終制限値Uzは、偏向変化量dDが小さいほど、制限基準値Utよりも、より小さい値に修正される。一方、偏向状態量Dsが増加し、第1しきい値dsに近付く方向に変化している場合(「dD>0」の場合)には、最終制限値Uzは、偏向変化量dDが大きいほど、制限基準値Utよりも、より大きい値に調整される。

0065

ステップS210にて、最終制限値Uzに基づいて、目標とする増加勾配Kzが制限される。つまり、上記の調整前の増加勾配Kzが、最終制限値Uzによって調整(制限)され、実際の増加勾配Kzが減少するよう、高摩擦係数側の前輪の増加デューティ比Dzが決定される。ステップS400にて、調整された増加デューティ比Dzに基づいて、アンチスキッド制御が実行される。

0066

方向ズレが増加している際(「dD<0」の場合)には、制限修正値Uaに基づいて、偏向変化量dDの減少に応じて、増加勾配Kzが、制限基準値Utから、より減少して調整される。このため、車両の進行方向が、直ちに安定化される。また、方向ズレが減少している際(「dD>0」の場合)には、制限修正値Uaによって、偏向変化量dDの増加に従って、増加勾配Kzが、制限基準値Utから、より増加して調整される。結果、車両の減速性が確保され得る。つまり、偏向変化量dDに基づいて、偏向状態量Dsの変化が考慮され、制限基準値Utが微調整される。これにより、車両の方向安定性と減速性とが、効率的に両立される。

0067

<増加勾配制限ブロックUZでの第2の演算例>
図4の制御フロー図を参照して、増加勾配制限ブロックUZでの第2の演算処理例について説明する。第1の処理例では、スプリット路が判定された場合、摩擦係数が高い側の前輪で、増加勾配Kzが制限される態様について説明した。第2の処理例では、車両急旋回が判定された場合、旋回外側の前輪で、増加勾配Kzが制限される。

0068

第2の処理例において、第1の処理例と同一の記号が付された処理ステップは、第1の処理例と同じである。ステップS110にて、操舵角Sa、ヨーレイトYrが読み込まれる。ステップS120にて、操舵角Saに基づいて規範旋回量Trが演算される。ステップS130にて、ヨーレイトYrに基づいて実旋回量Taが演算される。ここで、規範旋回量Trの物理量、及び、実旋回量Taの物理量は、同じである。ステップS140にて、規範旋回量Trと実旋回量Taとの偏差hT、及び、実旋回量Taの方向sgnTaに基づいて、偏向状態量Ds(操舵角Saに対する車両偏向の程度を表す状態変数)が演算される。ステップS150にて、偏向状態量Dsに基づいて偏向変化量dDが演算される。偏向変化量dDは、偏向状態量Dsの時間における変化量を表す状態変数である。

0069

ステップS260にて、横加速度Gy(横加速度センサGYの検出値)に基づいて、「車両の旋回状態が、急であるか、否か」が判定される。実横加速度Gyが所定値gy以上であれば、車両の急旋回が判別される。一方、横加速度Gyが所定値gy未満である場合には、車両急旋回は否定される。ここで、所定値gyは、予め設定された定数である。

0070

ステップS260では、実横加速度Gyに基づく判定に代えて、或いは、それに加えて、ヨーレイトYr、及び、操舵角Saのうちの少なくとも1つに基づいて、車両急旋回の有無が判定される。具体的には、車体速度Vxが考慮され、横加速度の推定値が演算される。推定値と所定値gyとの比較に基づいて、車両急旋回が判定される。つまり、車両急旋回の判定は、横加速度Gy、ヨーレイトYr、及び、操舵角Saのうちの少なくとも1つに基づいて行われる。

0071

ステップS260にて、車両の旋回方向が識別され、旋回外側前輪が決定される。なお、旋回方向は、横加速度Gy、ヨーレイトYr、及び、操舵角Saのうちの少なくとも1つに基づいて、車両の直進方向(「Sa=0」に対応)に対する符号(「0」、正、又は、負)に基づいて識別される。具体的には、左旋回では右前輪WHiが、右旋回では左前輪WHjが、旋回外側前輪に決定される。

0072

ステップS270にて、「偏向状態量Dsが、第2しきい値duよりも小さいか、否か」が判定される。ここで、第2しきい値duは、予め設定された定数である。例えば、第2しきい値duは、「0」に決定される。第2しきい値duは、第1しきい値dsと同じ値でもよい。或いは、第2しきい値duは、所定の幅を有する範囲として設定され得る。「Ds<du:YES」である場合には、増加勾配Kzは調整(制限)されない。処理は、ステップS400に進み、スプリット路の場合と同様に、通常のアンチスキッド制御が実行される。つまり、急旋回状態が識別されない場合と同等の、増加デューティ比Dzが演算される。

0073

一方、「Ds≧du:NO」であり、ステップS270が否定される場合には、処理は、ステップS280に進む。ステップS280にて、偏向状態量Dsに基づいて、制限基準値Ur(目標値)が演算される。
吹き出し部URを参照して、制限基準値Urの演算について説明する。制限基準値Urは、偏向状態量Ds、及び、予め設定された演算マップZurに基づいて演算される。「Ds<du」では、制限基準値Urは演算されず、増加勾配Kzは制限されない。「Ds≧du」では、偏向状態量Dsに応じて、制限基準値Urが演算される。偏向状態量Dsが、第2しきい値du以上、所定値dv未満では、偏向状態量Dsが増加するに従って、制限基準値Urが、所定値unから所定値uvに向けて減少するように演算される。偏向状態量Dsが所定値dv以上では、制限基準値Urは所定値uv(下限値)に演算される。つまり、偏差の絶対値|hT|が大きいほど(換言すれば、偏向状態量Dsが第2しきい値duから離れるほど)、制限基準値Urが小さくなるように、制限基準値Urが決定される。ここで、所定値du、dv、un、uvは予め設定された定数である。

0074

ステップS290にて、偏向変化量dDに基づいて、制限修正値Ubが演算される。制限修正値Ubは、運転者が指示する車両の進行方向と、実際の車両の進行方向との間のズレ(方向ズレであり、車両のアンダステア挙動)を効率的に低減するため、制限基準値Urを調整(修正)するものである。
吹き出し部UBを参照して、制限修正値Ubの演算について説明する。制限修正値Ubは、偏向変化量dD、及び、予め設定された演算マップZubに基づいて演算される。吹き出し部UAと同様に、偏向変化量dDが負の領域(「dD<0」の場合)では、偏向状態量Dsは、時間の経過に伴い減少している。一方、偏向変化量dDが正の領域(「dD>0」の場合)では、偏向状態量Dsは、時間とともに増加している。制限基準値Urは、偏向状態量Dsが第2しきい値du以上である場合に演算されるため、偏向状態量Dsの増加(つまり、「dD>0」)は、偏向状態量Dsが第2しきい値duから離れていく(即ち、アンダステア傾向が拡大する)ことに対応する。一方、偏向状態量Dsの減少(つまり、「dD<0」)は、偏向状態量Dsが第2しきい値duに近付いていく(即ち、アンダステアが縮小する)ことに対応する。従って、制限修正値Ubは、偏向変化量dDが「0」未満の場合には、偏向変化量dDの増加に従って、「0」に向けて減少するように演算される。即ち、制限修正値Ubは、正の値である。また、制限修正値Ubは、偏向変化量dDが「0」より大きい場合には、偏向変化量dDの増加に従って、「0」から減少するように演算される。即ち、制限修正値Ubは、負の値である。制限修正値Ubには、上限値un、下限値−unが設けられる。また、不感帯「−db〜db」が設けられる。ここで、所定値un、dbは、予め設定された定数である。

0075

ステップS300にて、制限基準値Ur、及び、制限修正値Ubに基づいて、最終的な制限値Uzが演算される。最終制限値Uzは、増加勾配Kzを制限するための目標値であり、制限基準値Urに制限修正値Ubが加算されて決定される。偏向状態量Dsが減少し、第2しきい値duに近付く方向に変化している場合(「dD<0」の場合)には、最終制限値Uzは、偏向変化量dDが小さいほど、制限基準値Urよりも、より大きい値に修正される。一方、偏向状態量Dsが増加し、第2しきい値duから離れる方向に変化している場合(「dD>0」の場合)には、最終制限値Uzは、偏向変化量dDが大きいほど、制限基準値Urよりも、より小さい値に調整される。

0076

ステップS310にて、ステップS210と同様に、最終制限値Uzに基づいて、目標とする増加勾配Kzが制限される。調整前の増加勾配Kzが、最終制限値Uzによって調整(制限)され、実際の増加勾配Kzが減少するよう、旋回外側の前輪の増加デューティ比Dzが決定される。ステップS400にて、調整された増加デューティ比Dzに基づいて、アンチスキッド制御が実行される。

0077

車両の方向ズレ(この場合、車両のアンダステア挙動)が増加している際(「dD>0」の場合)には、制限修正値Ubに基づいて、偏向変化量dDの増加に従って、増加勾配Kzが、制限基準値Urから、より減少して調整される。このため、車両の進行方向が、直ちに安定化される。また、アンダステア挙動が縮小している際(「dD<0」の場合)には、制限修正値Ubによって、偏向変化量dDの減少に応じて、増加勾配Kzが、制限基準値Urから、より増加して調整される。結果、車両の減速性が確保され得る。つまり、偏向変化量dDに基づいて、偏向状態量Dsの変化が考慮され、制限基準値Urが微調整される。これにより、車両の急旋回時にも、スプリット路と同様に、車両の方向安定性と減速性とが、効果的に両立される。

0078

<スプリット路が判定される場合と、急旋回が判定される場合との相違>
図5の概略図(車両を上方から視たもの)を参照して、スプリット路における高摩擦係数側前輪の増加勾配Kzの制限と、急旋回時の旋回外側前輪の増加勾配Kzの制限との相違について説明する。ここで、ヨーレイトYr、操舵角Sa、横加速度Gy等の方向は、上述したように、左方向が正符号で、右方向が負符号で表される。また、旋回量偏差hTは、規範旋回量Trから、実旋回量Taが減算されて求められる。

0079

図5(a)は、車両左右で路面の摩擦係数が大きく相違するスプリット路で、直進走行をしている際に、アンチスキッド制御が作動した場合を表している。左側車輪接地する路面の摩擦係数が高く、右側車輪の接地する路面の摩擦係数が低い。左前輪の制動力が、右前輪の制動力よりも大きくなるため、この制動力差によって、車両は、左方向に旋回され、実際のヨーレイトYrが発生する。車両は直進走行をしているため、操舵角Saは、略「0」であり、規範ヨーレイトYtは小さい。従って、「|Yr|>|Yt|」の関係にある。このとき、値sgnTa(例えば、値sgnYr)は「+1(正)」であり、「Yt−Yr」に応じた、旋回量偏差hTは、負の値になる。結果、偏向状態量Dsは負の値として演算される。

0080

路面摩擦係数高低が左右で逆転した場合を考える。制動力差によって、車両は、右旋回され、「|Yr|>|Yt|」の関係にある。このとき、値sgnTa(例えば、値sgnYr)は「−1(負)」であり、負の値として表されるヨーレイトYr、Ytに応じて、旋回量偏差hTは、正の値になる。結果、偏向状態量Dsは、上記同様、負の値として演算される。このように、上記前提(旋回方向、旋回量偏差hTの演算方法)に基づけば、スプリット路のアンチスキッド制御の実行時に、増加勾配Kzの制限が必要な状態は、偏向状態量Dsが負符号で演算された場合に対応する。なお、スプリット路での増加勾配Kzが減少調整される車輪は、旋回の内側前輪に相当する。

0081

図5(b)は、摩擦係数が均一な路面で、車両が左方向に急旋回している際に、アンチスキッド制御が作動した場合を表している。車両の旋回に伴い、旋回内輪ら旋回外輪に荷重移動が生じるため、右前輪の制動力が、左前輪の制動力よりも大きくなる。この制動力差によって、車両は、旋回の外側方向にふくらもうとする。所謂、アンダステア挙動が発生し、車輪がグリップしている場合よりも、旋回半径が大きくなり、実際に発生するヨーレイトYrは減少される。従って、「|Yr|<|Yt|」の関係にある。このとき、値sgnTa(例えば、値sgnYr)は「+1(正)」であり、「Yt−Yr」に応じた、旋回量偏差hTは、正の値になる。結果、偏向状態量Dsは正の値として演算される。

0082

車両急旋回において、旋回方向が左右で逆転した場合を考える。このとき、値sgnTa(例えば、値sgnYr)は「−1(負)」であり、負の値として表されるヨーレイトYr、Ytに応じて、旋回量偏差hTは、負の値になる。結果、偏向状態量Dsは、上記同様、正の値として演算される。このように、スプリット路の場合とは逆に、急旋回時に増加勾配Kzの制限が必要な状態は、偏向状態量Dsが正符号で演算された場合に対応する。なお、増加勾配Kzが減少調整される側は、スプリット路の場合とは反対の旋回外側前輪である。

0083

上述したように、スプリット路での増加勾配抑制と、急旋回時の増加勾配抑制とでは、偏向状態量Dsにおいて、増加勾配Kzを減少調整する領域が逆転する。具体的には、しきい値ds、duに対して対称となる。なお、値の大小関係は、旋回方向の定義方法、及び、偏向状態量Dsの演算方法で異なる。表1に、スプリット路における制限領域非制限領域、及び、急旋回時における制限領域、非制限領域をまとめる。「制限領域」は、増加勾配Kzを減少調整する領域であり、「非制限領域」は、該調整を行わない領域である。

0084

0085

旋回方向の符号において、No.1、及び、No.3では、旋回方向が、左が正、右が負にされる。一方、No.2、及び、No.4では、旋回方向が、左が負、右が正にされる。偏向状態量Dsの演算において、No.1、及び、No.2では、上記の式(1)に基づく。一方、No.3、及び、No.4では、偏向状態量Dsは、以下の式(2)にて演算される。
Ds=sgnTa・(−Tr+Ta) …式(2)
結果、増加勾配Kzの制限調整において、No.1とNo.4とは同じとなり、No.2とNo.3とが同じとなる。

0086

<作用・効果>
本発明の作用・効果についてまとめる。
制動制御装置SCは、車両の車輪WHの制動トルクTqを個別に調整するアクチュエータHUと、車両の左右の車輪WHで摩擦係数が異なる路面が判別された場合に、アクチュエータHUを介して、摩擦係数が高い側の前輪の制動トルクTqの増加勾配Kzを調整(減少調整)するアンチスキッド制御を実行するコントローラECUと、を備える。更に、制動制御装置SCは、車両の操向車輪である前輪WHi、WHjの操舵角Saを検出する操舵角センサSAと、車両のヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサYRと、を備える。

0087

制動制御装置SCのコントローラECUでは、操舵角Saに基づいて規範旋回量Trが演算され、ヨーレイトYrに基づいて実旋回量Taが演算され、規範旋回量Trと実旋回量Taとの偏差hTに基づいて増加勾配Kzが設定される。具体的には、旋回量偏差hTに基づいて、偏向状態量Dsが演算される。表1を参照して説明した何れの場合でも、増加勾配Kzが減少調整される領域において、偏向状態量Dsが、第1しきい値ds(予め設定された所定値)から離れるほど、制限基準値Utが小さく演算される。そして、制限基準値Utに基づいて、増加勾配Kzが減少される。つまり、旋回量偏差hT(運転者の意図する方向と実際の車両進行方向とのズレ)の大きさに基づいて、このズレが大きいほど、スプリット路が判定されない場合の増加勾配Kzよりも、増加勾配Kzが減少される。

0088

偏差hTが拡大する場合(方向ズレが増加している場合であり、「dD<0」の場合)には、増加勾配Kzが小さくなるよう修正される。時間変化において、旋回量偏差hTが増加している場合には、増加勾配Kzの減少が足りていない状態にある。このため、偏向状態量Dsに基づいて、旋回量偏差hTの変化傾向が判定され、旋回量偏差hTが拡大している場合には、旋回量偏差hTに基づいて設定された増加勾配Kzが、更に、減少修正される。これにより、短時間で、制動力差に起因する方向ズレが、是正され得る。例えば、旋回量偏差hTの変化傾向は、偏向状態量Dsの微分値(偏向変化量)dDに基づいて判定される。

0089

偏差hTが縮小する場合(方向ズレが減少し、収束している場合であり、「dD>0」の場合)には、増加勾配Kzが大きくなるよう修正される。時間変化において、旋回量偏差hTが減少している場合には、増加勾配Kzの減少が、既に十分な状態にある。従って、増加勾配Kzの減少調節が不要になりつつあるため、旋回量偏差hTに基づいて設定された増加勾配Kzが、増加修正される。これにより、高摩擦係数側の前輪の減速作用が、徐々に増加され、車両の減速度が確保され得る。

0090

制動制御装置SCは、車両の車輪WHの制動トルクTqを個別に調整するアクチュエータHUと、車両の急旋回が判別された場合に、アクチュエータHUを介して、車両の旋回外側の前輪の制動トルクTqの増加勾配Kzを調整(減少調整)するアンチスキッド制御を実行するコントローラECUと、を備える。スプリット路で作動する制動制御装置SCと同様に、制動制御装置SCは、車両の操向車輪WHi、WHjの操舵角Saを検出する操舵角センサSAと、車両のヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサYRと、を備える。

0091

制動制御装置SCのコントローラECUでは、操舵角Saに基づいて規範旋回量Trが演算され、ヨーレイトYrに基づいて実旋回量Taが演算され、規範旋回量Trと実旋回量Taとの偏差hTに基づいて増加勾配Kzが設定される。上記同様、表1の何れの場合でも、増加勾配Kzが減少調整される領域において、偏向状態量Dsが、第2しきい値du(予め設定された所定値)から離れるほど、制限基準値Urが小さく演算され、制限基準値Urに基づいて、増加勾配Kzが減少される。車両のアンダステアの程度が大きいほど、急旋回が判定されない場合の増加勾配Kzよりも、増加勾配Kzが減少される。なお、第2しきい値duは、第1しきい値dsとは同じ値であってもよいが、異なる値であってもよい。

0092

例えば、第1しきい値dsは、「0」未満の値に設定され、第2しきい値duが、「0」よりも大きい値に設定される。この場合、「ds<Ds<du」の範囲では、増加勾配Kzの減少調整が行われない。「スプリット路での増加勾配Kzの減少調整」、及び、「急旋回での増加勾配Kzの減少調整」が共に実行され得る制動制御装置SCでは、上記の範囲によって、夫々の制御領域が、明瞭に分離される。このため、夫々の減少調整が確実に行われ得る。

0093

偏向状態量Dsに基づいて、旋回量偏差hTの変化傾向が判定される。偏差hTが拡大する場合(アンダステア傾向が、順次、増大している場合であり、「dD>0」の場合)には、増加勾配Kzが小さくなるよう修正される。時間変化において、旋回量偏差hTが増加している場合には、増加勾配Kzの減少が足りていないため、旋回量偏差hTの拡大時には、旋回量偏差hTに基づいて設定された増加勾配Kzが、更に減少修正される。これにより、短時間で、アンダステアが、抑制され得る。

0094

偏差hTが縮小する場合(アンダステア傾向が収束しつつある場合であり、「dD<0」の場合)には、増加勾配Kzが大きくなるよう修正される。時間変化において、旋回量偏差hTが減少している場合には、増加勾配Kzの減少が十分であるため、旋回量偏差hTの縮小時には、旋回量偏差hTに基づいて設定された増加勾配Kzが、増加して、修正される。これにより、旋回外側の前輪制動力が有効活用され、車両の減速度が向上され得る。

0095

<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果を奏する。
上記実施形態では、最終制限値Uz(目標値)に基づいて、目標とする増加勾配Kzが制限され、増加デューティ比Dzが調整されて、実際の増加勾配Kzが減少された。これに代えて、偏向状態量Dsに基づいて、直接、増加デューティ比Dzが増加調整され得る。つまり、最終制限値Uzは演算されず、偏向状態量Dsに基づいて、実際の増加勾配Kzが減少される。

0096

上記実施形態では、2系統流体路として、ダイアゴナル型流体路が例示された。これに代えて、前後型(「H型」ともいう)の構成が採用され得る。前後型流体路では、第1マスタシリンダ流体路HM1(即ち、第1系統)には、前輪ホイールシリンダCWi、CWjが流体接続される。また、第2マスタシリンダ流体路HM2(即ち、第2系統)には、後輪ホイールシリンダCWk、CWlに流体接続される。

0097

上記実施形態では、ディスク型制動装置ディスクブレーキ)の構成が例示された。この場合、摩擦部材はブレーキパッドであり、回転部材はブレーキディスクである。ディスク型制動装置に代えて、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)が採用され得る。ドラムブレーキの場合、キャリパに代えて、ブレーキドラムが採用される。また、摩擦部材はブレーキシューであり、回転部材はブレーキドラムである。

0098

上記実施形態では、制動液BFによる液圧式の制動制御装置SCが例示された。これに代えて、制動液BFが用いられない、電動式の制動制御装置SCが採用される。該装置では、電気モータの回転が、ねじ機構等によって直線動力に変換され、摩擦部材が回転部材KTに押圧される。この場合には、制動液圧Pwに代えて、電気モータを動力源にして発生される、回転部材KTに対する摩擦部材の押圧力よって、制動トルクTqが発生される。

0099

BP…制動操作部材、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、UP…調圧弁、VI…インレット弁、VO…アウトレット弁、ECU…コントローラ、YR…ヨーレイトセンサ、SA…操舵角センサ、Tr…規範旋回量、Ta…実旋回量、sgnTa…実旋回量の方向、hT…旋回量偏差、Ds…偏向状態量、dD…偏向変化量、ds…第1しきい値、du…第2しきい値、Mz…増加モード、Mg…減少モード、Kz…増加勾配、Kg…減少勾配、Dz…増加デューティ比、Dg…減少デューティ比、Ut、Ur…制限基準値、Ua、Ub…制限修正値、Uz…最終制限値、Tq…制動トルク。

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