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技術 脳内のアミロイドβペプチド蓄積状態を評価するサロゲート・バイオマーカー及びその分析方法

出願人 株式会社島津製作所国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
発明者 金子直樹柳澤勝彦
出願日 2018年9月21日 (2年1ヶ月経過) 出願番号 2018-177878
公開日 2019年4月4日 (1年6ヶ月経過) 公開番号 2019-053063
状態 拒絶査定
技術分野 ペプチド又は蛋白質 生物学的材料の調査,分析
主要キーワード 確率楕円 中途段階 派生型 検査費用 認知機能検査 検出不可 濃度基準値 度順位
関連する未来課題
重要な関連分野

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図面 (20)

課題

生体由来試料中のアミロイド前駆タンパク質APP)由来ペプチド指標とした脳内Aβ蓄積状態を評価するバイオマーカー及びその分析方法を提供。

解決手段

被験対象の生体由来試料を測定して、APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42));APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42);及びAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求め、認知機能正常者の前記各比よりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、認知機能正常者よりも多いと判断する。

概要

背景

アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)は認知症の主な原因で、認知症全体の50−60%を占める。2001年で2400万人以上いた世界の認知症患者数は、2040年には8100万人に達すると推定される(非特許文献1)。アルツハイマー病の発症にはAβが深く関わっていると考えられている。Aβは、膜一回貫通タンパク質で770残基のアミノ酸から成るアミロイド前駆タンパク質(APP)がβセクレターゼとγセクレターゼによってタンパク質分解を受けることによって産生される(図1参照)。Aβの線維化を伴う凝集により老人斑出現すると、これを引き金にして神経細胞内タウタンパク質が凝集蓄積し、神経機能不全神経細胞死が引き起こされる。この結果として、極度認知能力の低下が起こると考えられている。Aβは主に40mer(Aβ1-40)と42mer(Aβ1-42)からなることが古くから知られており、脳脊髄液CSF)や血液中移行することもわかっている。さらに近年では、Aβ1-40とAβ1-42とは長さの異なるAβ様のペプチドがCSF中にも存在することが報告されている(非特許文献2)。

アルツハイマー病は潜在的に発症し緩徐に進行する。アルツハイマー病の診断は、臨床症状を調べるためのADAS-cog、MMSE、DemTect、SKT、又は時計描画テストのような認知機能検査や、核磁気共鳴画像診断(MRI)や陽電子放出断層撮影法(PET)等の画像所見の確認などを合わせて行われている。 MRIは脳の変性萎縮を検出できる画像診断法であるが、脳の萎縮はアルツハイマー病に特異的ではない。一方、Aβ沈着を特異的に検出するリガンド分子(PiB: Pittsburgh compound-B)の停留可視化する画像診断法としてPiB-PETがある。チオフラビンT-類似体(11C)PiBが、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)又は軽度アルツハイマー病を有する患者の脳の特定の領域で次第に蓄積するAβを反映して停留することが見出されており、Aβ沈着の検出方法として最適なツールとなっている。アルツハイマー病の剖検病理所見により、軽度の認知機能低下の症例でもすでに多くの老人斑が蓄積していることがわかっている。このことから認知症が顕在化するかなり以前からAβの凝集・沈着が始まるのではないかと推測されており、PiB-PETの所見でもそれを裏付ける結果が報告されている。しかしながら、PET検査には大掛かりな設備が必要であり、また一回の検査料も高額であり、広く国民受診できるような方法としては適さない。

血液や脳脊髄液(CSF)のバイオマーカーは、病気の発症や進行を分子レベルで検出できる有用な指標である。アルツハイマー病においては、CSF中のAβ1-42の濃度やAβ1-42/Aβ1-40の濃度比の低下、総タウ値あるいはリン酸化タウ値の上昇が有用な診断マーカーであると報告されている(特許文献1:特開2010−19864号公報、非特許文献3)。しかしながら、CSFの採取侵襲性が高く、広く国民が受診できるような方法としては適さない。

そこで、血液検査として、血中に存在するAβ1-42がアルツハイマー病診断マーカーになりえるのではないかと期待されているが、CSF中のAβ1-42の挙動とは異なり、血中Aβ1-42濃度とアルツハイマー病発症との関連性は低いことが報告されている(非特許文献3)。その原因については解明されていない。

また、特許文献2:特開2013−63976号公報には、可溶性Aβモノマーを認識せず、可溶性Aβオリゴマーのみに特異的に結合するモノクローナル抗体が開示され、前記抗体を用いたアルツハイマー病の診断法が開示されている。同号公報の[0104]には、被験者試料中におけるAβモノマーに対するAβオリゴマーの比が、健常者と比較して高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定される方法が開示されている。

非特許文献4には、免疫沈降法と質量分析装置の組み合わせにより、ヒト血漿に22種類のAPP由来のAβ及びAβ様ペプチドが存在することが開示されている。また、これらAβ及びAβ様ペプチドを定量する方法も開示されている。

概要

生体由来試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)由来ペプチドを指標とした脳内Aβ蓄積状態を評価するバイオマーカー及びその分析方法を提供。被験対象の生体由来試料を測定して、APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42));APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42);及びAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求め、認知機能正常者の前記各比よりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、認知機能正常者よりも多いと判断する。

目的

本発明の目的は、生体由来試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)由来のペプチドを指標とした脳内のAβ蓄積状態を評価するバイオマーカー及びその分析方法を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

被験対象由来する生体由来試料を、APP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)と、APP669−711(配列番号7)、APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)、APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)、APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)、APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、前記生体由来試料中のAPP672−713(Aβ1−42)と、APP669−711、APP672−709(Aβ1−38)、APP674−711(Aβ3−40)、APP672−710(Aβ1−39)、APP672−711(Aβ1−40)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP669−711レベルの比:APP669−711/APP672−713(Aβ1−42);APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−709(Aβ1−38)レベルの比:APP672−709(Aβ1−38)/APP672−713(Aβ1−42);APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP674−711(Aβ3−40)レベルの比:APP674−711(Aβ3−40)/APP672−713(Aβ1−42);APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−710(Aβ1−39)レベルの比:APP672−710(Aβ1−39)/APP672−713(Aβ1−42);APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−711(Aβ1−40)レベルの比:APP672−711(Aβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42);及びAPP672−713(Aβ1−42)レベルに対するOxAPP672−711(OxAβ1−40)レベルの比:OxAPP672−711(OxAβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42)からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程と、被験対象の前記各比が、脳内のAβの蓄積陰性である認知機能正常者NC−の前記各比を基準レベルとして、前記各比の基準レベルよりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC−の脳内Aβの蓄積量よりも多いと判断する評価工程と、を含む脳内のAβ蓄積状態を判断する分析方法

請求項2

前記生体由来試料が、血液、脳脊髄液、尿、体分泌液糞便唾液、及びからなる群から選ばれる、請求項1に記載の脳内のAβ蓄積状態を判断する分析方法。

請求項3

生体由来試料中のAPP669−711(配列番号7)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせからなる群から選ばれる脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカー。

請求項4

被験対象に由来する血液試料をAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672−713(Aβ1−42)の測定レベルを得る測定工程と、被験対象の前記APP672−713(Aβ1−42)の測定レベルが、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC−のAPP672−713(Aβ1−42)のレベルを基準レベルとして、前記基準レベルよりも低い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC−の脳内Aβの蓄積量より多いと判断する評価工程と、を含む脳内のAβ蓄積状態を判断する分析方法。

請求項5

被験対象に対して行われた医学介入の前後において、被験対象に由来する生体由来試料を、APP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)と、APP669−711(配列番号7)、APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)、APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)、APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)、APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、前記生体由来試料中のAPP672−713(Aβ1−42)と、APP669−711、APP672−709(Aβ1−38)、APP674−711(Aβ3−40)、APP672−710(Aβ1−39)、APP672−711(Aβ1−40)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP669−711レベルの比:APP669−711/APP672−713(Aβ1−42);APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−709(Aβ1−38)レベルの比:APP672−709(Aβ1−38)/APP672−713(Aβ1−42);APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP674−711(Aβ3−40)レベルの比:APP674−711(Aβ3−40)/APP672−713(Aβ1−42);APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−710(Aβ1−39)レベルの比:APP672−710(Aβ1−39)/APP672−713(Aβ1−42);APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−711(Aβ1−40)レベルの比:APP672−711(Aβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42);及びAPP672−713(Aβ1−42)レベルに対するOxAPP672−711(OxAβ1−40)レベルの比:OxAPP672−711(OxAβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42)からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程とを行い、医学的介入の前における被験対象の前記各比と、医学的介入の後における被験対象の前記各比との比較を行い、脳内のAβ蓄積状態に関して前記医学的介入の有効性を判断する方法。

技術分野

0001

本発明は、脳神経科学分野、及び臨床医学分野に属し、脳内のアミロイド・βペプチド(Aβ)蓄積状態を評価するサロゲートバイオマーカー及びその分析方法に関する。より詳しくは、本発明は、アミロイド前駆タンパク質(Amyloid precursorprotein;APP)が分解されることにより生じるAβ及びAβ様ペプチド生体由来試料中レベル指標とした脳内Aβ蓄積状態を評価するサロゲート・バイオマーカー及びその分析方法に関する。本発明のバイオマーカーは、アルツハイマー病に関して、発症診断、発症予防介入先制治療投与等)対象者スクリーニング、及び治療薬予防薬薬効評価等に利用するためのマーカーである。

背景技術

0002

アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)は認知症の主な原因で、認知症全体の50−60%を占める。2001年で2400万人以上いた世界の認知症患者数は、2040年には8100万人に達すると推定される(非特許文献1)。アルツハイマー病の発症にはAβが深く関わっていると考えられている。Aβは、膜一回貫通タンパク質で770残基のアミノ酸から成るアミロイド前駆タンパク質(APP)がβセクレターゼとγセクレターゼによってタンパク質分解を受けることによって産生される(図1参照)。Aβの線維化を伴う凝集により老人斑出現すると、これを引き金にして神経細胞内タウタンパク質が凝集蓄積し、神経機能不全神経細胞死が引き起こされる。この結果として、極度認知能力の低下が起こると考えられている。Aβは主に40mer(Aβ1-40)と42mer(Aβ1-42)からなることが古くから知られており、脳脊髄液CSF)や血液中移行することもわかっている。さらに近年では、Aβ1-40とAβ1-42とは長さの異なるAβ様のペプチドがCSF中にも存在することが報告されている(非特許文献2)。

0003

アルツハイマー病は潜在的に発症し緩徐に進行する。アルツハイマー病の診断は、臨床症状を調べるためのADAS-cog、MMSE、DemTect、SKT、又は時計描画テストのような認知機能検査や、核磁気共鳴画像診断(MRI)や陽電子放出断層撮影法(PET)等の画像所見の確認などを合わせて行われている。 MRIは脳の変性萎縮を検出できる画像診断法であるが、脳の萎縮はアルツハイマー病に特異的ではない。一方、Aβ沈着を特異的に検出するリガンド分子(PiB: Pittsburgh compound-B)の停留可視化する画像診断法としてPiB-PETがある。チオフラビンT-類似体(11C)PiBが、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)又は軽度アルツハイマー病を有する患者の脳の特定の領域で次第に蓄積するAβを反映して停留することが見出されており、Aβ沈着の検出方法として最適なツールとなっている。アルツハイマー病の剖検病理所見により、軽度の認知機能低下の症例でもすでに多くの老人斑が蓄積していることがわかっている。このことから認知症が顕在化するかなり以前からAβの凝集・沈着が始まるのではないかと推測されており、PiB-PETの所見でもそれを裏付ける結果が報告されている。しかしながら、PET検査には大掛かりな設備が必要であり、また一回の検査料も高額であり、広く国民受診できるような方法としては適さない。

0004

血液や脳脊髄液(CSF)のバイオマーカーは、病気の発症や進行を分子レベルで検出できる有用な指標である。アルツハイマー病においては、CSF中のAβ1-42の濃度やAβ1-42/Aβ1-40の濃度比の低下、総タウ値あるいはリン酸化タウ値の上昇が有用な診断マーカーであると報告されている(特許文献1:特開2010−19864号公報、非特許文献3)。しかしながら、CSFの採取侵襲性が高く、広く国民が受診できるような方法としては適さない。

0005

そこで、血液検査として、血中に存在するAβ1-42がアルツハイマー病診断マーカーになりえるのではないかと期待されているが、CSF中のAβ1-42の挙動とは異なり、血中Aβ1-42濃度とアルツハイマー病発症との関連性は低いことが報告されている(非特許文献3)。その原因については解明されていない。

0006

また、特許文献2:特開2013−63976号公報には、可溶性Aβモノマーを認識せず、可溶性Aβオリゴマーのみに特異的に結合するモノクローナル抗体が開示され、前記抗体を用いたアルツハイマー病の診断法が開示されている。同号公報の[0104]には、被験者試料中におけるAβモノマーに対するAβオリゴマーの比が、健常者と比較して高い場合に、被験者がアルツハイマー病候補であると判定される方法が開示されている。

0007

非特許文献4には、免疫沈降法と質量分析装置の組み合わせにより、ヒト血漿に22種類のAPP由来のAβ及びAβ様ペプチドが存在することが開示されている。また、これらAβ及びAβ様ペプチドを定量する方法も開示されている。

0008

特開2010−19864号公報
特開2013−63976号公報

先行技術

0009

Blennow K, de Leon MJ, Zetterberg H. :Alzheimer's disease. Lancet. 2006 Jul 29; 368(9533): 387-403
Portelius E, Westman-Brinkmalm A,Zetterberg H, Blennow K. : Determination of beta-amyloid peptide signatures incerebrospinal fluid using immunoprecipitation-mass spectrometry. JProteome Res. 2006 Apr; 5(4): 1010-6
HampelH, Shen Y, WalshDM, Aisen P,Shaw LM, Zetterberg H, Trojanowski JQ, Blennow K. : Biological markers ofamyloid beta-related mechanisms in Alzheimer's disease. Exp Neurol. 2010Jun; 223(2): 334-46
Kaneko N, Yamamoto R, Sato TA, TanakaK. : Identification and quantification of amyloid beta-related peptides inhuman plasma using matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flightmass spectrometry.. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2014;90(3):104-17

発明が解決しようとする課題

0010

アルツハイマー病(AD)患者では、認知機能低下が顕在化する以前に大量のAβが沈着していることがわかっている。PiB-PETはAβ蓄積の検出に有効であるが、検査費用が高額で、検査の所要時間も長いため、多くの高齢者が容易に受診できる診断方法ではない。したがって、臨床症状が顕在化する前にAβ蓄積の増加を検出できる簡便な分析方法が必要とされている。

0011

上述したように、一般的に、血液や脳脊髄液(CSF)に存在するバイオマーカーを指標とした検査方法は、病気の発症や進行を分子レベルで簡便に検出できる有効な方法である。上記特許文献1、及び非特許文献3には、アルツハイマー病においては、CSF中のAβ1-42の濃度やAβ1-42/Aβ1-40の濃度比の低下、総タウ値あるいはリン酸化タウ値の上昇が有用な診断マーカーであると報告されている。しかしながら、一方で、非特許文献3には、CSFAβ1-42とは異なり、血中Aβ1-42濃度とAD発症との関連性は低いことが報告されている。

0012

血液中のAβに関するこれまでの報告では、血液中のAβ1-40及びAβ1-42の2種類の濃度についてのみしかADとの相関性が調べられていない。しかし、CSF中にはAβ1-40及びAβ1-42以外にも、Aβ1-40のN末端側やC末端側で切断されている短いAβも存在することが、免疫沈降法と質量分析装置を組み合わせた方法で発見されている。血液中においてはCSF中よりも微量に存在するAβを免疫沈降法と質量分析装置で検出することは技術的に難しかったが、免疫沈降法の改良により、ヒトの血漿中に22種類のAPP由来のAβ及びAβ様ペプチドが存在することが明らかとなり、そのペプチドの定量方法も開発された(非特許文献4)。

0013

そこで、本発明の目的は、生体由来試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)由来のペプチドを指標とした脳内のAβ蓄積状態を評価するバイオマーカー及びその分析方法を提供することにある。特に、本発明の目的は、血液試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)由来のAβ及びAβ様ペプチドを指標とした脳内のAβ蓄積状態を評価するバイオマーカー及びその分析方法を提供することにある。より詳しくは、本発明の目的は、アルツハイマー病に関して、発症前診断、発症予防介入(先制治療薬投与等)対象者のスクリーニング、及び治療薬・予防薬の薬効評価等に利用するためのマーカー及びその分析方法を提供することにある。

課題を解決するための手段

0014

本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のAPP由来のAβ及びAβ様ペプチドが上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。

0015

本明細書において、アミロイド・βペプチドの略称として「Aβ」を用いる。すなわち、「Aβ」とは、Aβ1−40、及びAβ1−42を含んでいる。アミロイド前駆タンパク質(Amyloidprecursor protein;APP)が切断されることにより生じる前記Aβ以外のペプチドをAβ様ペプチドと称することがある。アミロイド前駆タンパク質(Amyloidprecursor protein;APP)が切断されることにより生じるAβ及びAβ様ペプチドを、「APP派生型ペプチド」と称することがある。

0016

本発明は、以下の発明を含む。
(1)被験対象に由来する生体由来試料を、
APP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)と、
APP669−711(配列番号7)、APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)、APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)、APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)、APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つと
を含むマーカーの検出に供して、前記生体由来試料中の
APP672−713(Aβ1−42)と、
APP669−711、APP672−709(Aβ1−38)、APP674−711(Aβ3−40)、APP672−710(Aβ1−39)、APP672−711(Aβ1−40)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つと
の各測定レベルを得る測定工程と、
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP669−711レベルの比:
APP669−711/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−709(Aβ1−38)レベルの比:
APP672−709(Aβ1−38)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP674−711(Aβ3−40)レベルの比:
APP674−711(Aβ3−40)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−710(Aβ1−39)レベルの比:
APP672−710(Aβ1−39)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−711(Aβ1−40)レベルの比:
APP672−711(Aβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42); 及び
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するOxAPP672−711(OxAβ1−40)レベルの比:
OxAPP672−711(OxAβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程と、
被験対象の前記各比が、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC−の前記各比を基準レベルとして、前記各比の基準レベルよりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC−の脳内Aβの蓄積量よりも多いと判断する評価工程と、
を含む脳内のAβ蓄積状態を判断する分析方法。

0017

(2) 前記生体由来試料が、血液、脳脊髄液、尿、体分泌液糞便唾液、及びからなる群から選ばれる、上記(1)に記載の脳内のAβ蓄積状態を判断する分析方法。

0018

(3)生体由来試料中のAPP669−711(配列番号7)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:
APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:
APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:
APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ:
APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ: 及び
OxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)とAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)との組み合わせ
からなる群から選ばれる脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカー。

0019

(4)被験対象に由来する血液試料をAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672−713(Aβ1−42)の測定レベルを得る測定工程と、
被験対象の前記APP672−713(Aβ1−42)の測定レベルが、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC−のAPP672−713(Aβ1−42)のレベルを基準レベルとして、前記基準レベルよりも低い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC−の脳内Aβの蓄積量より多いと判断する評価工程と、
を含む脳内のAβ蓄積状態を判断する分析方法。

0020

(5)被験対象に対して行われた医学的介入の前後において、
被験対象に由来する生体由来試料を、
APP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)と、
APP669−711(配列番号7)、APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)、APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)、APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)、APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つと
を含むマーカーの検出に供して、前記生体由来試料中の
APP672−713(Aβ1−42)と、
APP669−711、APP672−709(Aβ1−38)、APP674−711(Aβ3−40)、APP672−710(Aβ1−39)、APP672−711(Aβ1−40)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つと
の各測定レベルを得る測定工程と、
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP669−711レベルの比:
APP669−711/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−709(Aβ1−38)レベルの比:
APP672−709(Aβ1−38)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP674−711(Aβ3−40)レベルの比:
APP674−711(Aβ3−40)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−710(Aβ1−39)レベルの比:
APP672−710(Aβ1−39)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−711(Aβ1−40)レベルの比:
APP672−711(Aβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42); 及び
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するOxAPP672−711(OxAβ1−40)レベルの比:
OxAPP672−711(OxAβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程と
を行い、
医学的介入の前における被験対象の前記各比と、医学的介入の後における被験対象の前記各比との比較を行い、脳内のAβ蓄積状態に関して前記医学的介入の有効性を判断する方法。

0021

本発明において、マーカーのレベルとは、基本的には濃度を意味するが、当業者が濃度に準じて用いる他の単位でもよい。被験対象とは、ヒト、及びヒト以外の哺乳動物ラットイヌネコなど)が含まれる。また、本発明において、生体由来試料は、由来元の被験対象(例えば、被験者)に戻すことなくは破棄される。医学的介入とは、治療薬や予防薬の投与、食事療法運動療法、学習療法、外科手術などが含まれる。

発明の効果

0022

本発明によれば、生体由来試料中のAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)と、APP669−711(配列番号7)、APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)、APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)、APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)、APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとの組み合わせからなる、被験対象の脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカーが提供される。また、前記マーカーの分析方法が提供される。

0023

被験対象の生体由来試料中の前記マーカーの分析を行うことにより、被験対象の脳内のAβ蓄積が基準レベル以下か、あるいは、脳内のAβが過剰蓄積している状態かの判別を行うことができる。本発明は、脳内のAβが過剰蓄積されていて認知機能障害も現れているアルツハイマー病進行段階のみならず、脳内のAβが過剰に蓄積されているが認知機能障害は現れていないアルツハイマー病早期段階の検出にも適用可能である。

0024

本発明によれば、前記生体由来試料として、血液のみならず、脳脊髄液(CSF)、尿、体分泌液、糞便、唾液、及び痰も用い得る。そのため、アルツハイマー病の予防法ならびに先制的治療法確立した段階においては、一般の健康診断人間ドック等において、認知機能正常者に対しても脳内のAβの蓄積状態を分析することによりアルツハイマー病発症前診断に有効である。

0025

被験対象に対して行われた医学的介入の前後において、本発明を適用すれば、アルツハイマー病の治療薬、予防薬の薬効評価、あるいはその他の処置の有効性評価を行い得る。また、本発明は、アルツハイマー病患者経過観察にも有用である。

図面の簡単な説明

0026

アミロイド前駆タンパク質(APP)の分解による、Aβ及びp3ペプチドの生成経路を模式的に示す図である。
実施例1において、図2は、APP672-713(Aβ1-42)について、各グループ(NC−、NC+、MCI、AD)における内部標準SIL-Aβ1-38に対するAPP672-713(Aβ1-42)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図3(A)、及び図3(B)は、それぞれ、APP672-713(Aβ1-42)/SIL-Aβ1-38について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI)の受信者動作特性(Receiver Operatorating Characteristic;ROC)曲線である。
図4(C)、及び図4(D)は、それぞれ、APP672-713(Aβ1-42)/SIL-Aβ1-38について、NC−グループに対する各グループ(AD、PiB+)のROC曲線である。
実施例1において、図5は、各グループ(NC−、NC+、MCI、AD)におけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-709 (Aβ1-38)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図6(A)、及び図6(B)は、それぞれ、APP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI)のROC曲線である。
図7(C)、及び図7(D)は、それぞれ、APP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(AD、PiB+)のROC曲線である。
実施例1において、図8は、各グループ(NC−、NC+、MCI、AD)におけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP674-711 (Aβ3-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図9(A)、及び図9(B)は、それぞれ、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI)のROC曲線である。
図10(C)、及び図10(D)は、それぞれ、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(AD、PiB+)のROC曲線である。
実施例1において、図11は、各グループ(NC−、NC+、MCI、AD)におけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-710 (Aβ1-39)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図12(A)、及び図12(B)は、それぞれ、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI)のROC曲線である。
図13(C)、及び図13(D)は、それぞれ、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(AD、PiB+)のROC曲線である。
実施例1において、図14は、各グループ(NC−、NC+、MCI、AD)におけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-711 (Aβ1-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図15(A)、及び図15(B)は、それぞれ、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI)のROC曲線である。
図16(C)、及び図16(D)は、それぞれ、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(AD、PiB+)のROC曲線である。
実施例1において、図17は、各グループ(NC−、NC+、MCI、AD)におけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するOxAPP672-711 (OxAβ1-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図18(A)、及び図18(B)は、それぞれ、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI)のROC曲線である。
図19(C)、及び図19(D)は、それぞれ、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(AD、PiB+)のROC曲線である。
実施例1において、図20は、各グループ(NC−、NC+、MCI、AD)におけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP669-711の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。
図21(A)、及び図21(B)は、それぞれ、APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI)のROC曲線である。
図22(C)、及び図22(D)は、それぞれ、APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(AD、PiB+)のROC曲線である。
実施例1において、図23は、全62症例における脳皮質領域のPiB集積平均値(mcSUVR:mean cortical StandardUptake Value Ratio)とAPP669-711/APP672-713(Aβ1-42)の散布図である。確率楕円(p=0.95)を曲線で示した。

0027

[1.被験対象]
本発明において、被験対象には、ヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ラット、イヌ、ネコなど)が含まれる。以下、ヒトの場合について主として説明するが、ヒト以外の哺乳動物の場合にも、同様である。

0028

本発明の方法において、これまでの病歴を問わず、健常者と思われる者を含め、どのような者でも被験者とすることができる。健常者と思われる者の場合には、一般の健康診断や人間ドック等において、好ましくは血液検査によって脳内のAβの蓄積状態を判断することができ、アルツハイマー病の早期発見・診断に特に有効である。また、臨床症状を調べるためのADAS-cog、MMSE、DemTect、SKT、又は時計描画テストのような認知機能検査や、核磁気共鳴画像診断(MRI)や陽電子放出断層撮影法(PET)等の画像所見の確認などにより、アルツハイマー病候補の疑いのある被験者の場合には、本発明の方法により、アルツハイマー病診断の補助とすることができる。

0029

[2.生体由来試料]
本発明のマーカーは、被験者の生体由来試料において検出及び分析可能である。従って、本発明の方法においては、被験者の生体由来試料中のマーカーのレベルが分析される。

0030

生体由来試料は、血液、脳脊髄液(CSF)、尿、体分泌液、唾液、及び痰などの体液; 及び糞便から選ぶことができる。これらのうち、一般の健康診断や人間ドック等におけるアルツハイマー病の診断および発症前診断には、血液が好ましい。

0031

血液試料は、マーカーレベルの測定工程に直接供される試料であり、全血、血漿及び血清などが含まれる。血液試料は、被験対象から採取された全血を、適宜処理することによって調製することができる。採取された全血から血液試料の調製を行う場合に行われる処理としては特に限定されず、臨床医学的に許容されるいかなる処理が行われてよい。例えば遠心分離などが行われうる。また、測定工程に供される血液試料は、その調製工程の中途段階又は調製工程の後段階において、適宜冷凍など低温下での保存が行われたものであってよい。なお、本発明において血液試料などの生体由来試料は、由来元の被験者に戻すことなく破棄される。

0032

[3.マーカー]
本発明のマーカーは、生体由来試料中のAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)と、APP669−711(配列番号7)、APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)、APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)、APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)、APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとの組み合わせからなる。これらマーカーは、脳内のAβ蓄積が陰性である認知機能正常者からの血漿試料中のレベルと、脳内のAβが過剰に蓄積されている被験者からの血漿試料中のレベルとの間に有意な差が認められたものである。

0033

APP672−713(Aβ1−42)(配列番号6):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA
APP669−711(配列番号7):
VKMDAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGG
APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2):
EFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGV
APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV
OxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5):
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV (Met 706が酸化されている)

0034

アミロイド前駆タンパク質(APP)は、膜一回貫通タンパク質で770残基のアミノ酸から成る。アミロイド前駆タンパク質(APP)は、βセクレターゼとγセクレターゼによってタンパク質分解を受け、タンパク質分解によってアミロイド・ベータペプチド(Aβ)が産生される。APP672−713とAβ1−42とは同じペプチドを表す(配列番号6)。また、APP672−711とAβ1−40とは同じペプチドを表す(配列番号4)。

0035

APP派生型ペプチドのアミノ酸配列を表1に示し、その理論平均質量を表2に示す。これらのペプチドを対象に脳内のAβ蓄積状態を判断するためのマーカーの分析を行った。

0036

0037

0038

表1〜2において、
APP-derived peptides: APP派生型ペプチド
Theoretical average mass: 理論平均質量

0039

表1〜2において、配列番号5のOxAPP672−711(OxAβ1−40)は、配列番号4のAPP672−711(Aβ1−40)のMet 706で酸化されたペプチドを示す。

0040

アルツハイマー病においては家族性アルツハイマー病が存在する。本発明のマーカーは、一般に知られている家族性アルツハイマー病のアミノ酸配列変異が起きていてもよい。

0041

家族性アルツハイマー病には、例えば、次の変異配列が知られている。
Swedish変異:APP670〜671 のアミノ酸KM がNLに変異している
Italian変異:APP673 のアミノ酸 A が V に変異している
Leuven変異:APP682 のアミノ酸 E が K に変異している
Icelandic変異:APP673 のアミノ酸 A が T に変異している
British変異:APP677 のアミノ酸 H が R に変異している
Tottori変異:APP678 のアミノ酸 D が N に変異している
Arctic変異:APP693 のアミノ酸 E が G に変異している
Iowa変異:APP694 のアミノ酸 D が N に変異している
Dutch変異:APP693 のアミノ酸 E が Q に変異している

0042

[4.マーカーの分析]
本明細書において、アルツハイマー病の進行度合いの観点から、次のように分類する。

0043

NC−:脳内のAβの蓄積が陰性で、かつ、認知機能障害は現れていない者
NC+:脳内のAβの蓄積が陽性で、認知機能障害は現れていない者
MCI:脳内のAβの蓄積が陽性で、軽度認知機能障害が現れている者
AD: 脳内のAβの蓄積が陽性で、認知機能障害が現れている者
PiB+:NC+とMCIとADのグループを合わせたグループ
認知機能障害の有無に関わらず、脳内のAβの蓄積が陽性と判定された者
通常、脳内のAβの蓄積状態の判断については、PiB-PET画像を元に大脳皮質白質のPiB集積量の比較により判定する。

0044

本発明のマーカーの分析方法は、被験対象に由来する生体由来試料をAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)と、APP669−711(配列番号7)、APP672−709(Aβ1−38)(配列番号1)、APP674−711(Aβ3−40)(配列番号2)、APP672−710(Aβ1−39)(配列番号3)、APP672−711(Aβ1−40)(配列番号4)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、前記生体由来試料中のAPP672−713(Aβ1−42)と、APP669−711、APP672−709(Aβ1−38)、APP674−711(Aβ3−40)、APP672−710(Aβ1−39)、APP672−711(Aβ1−40)、及びOxAPP672−711(OxAβ1−40)からなる群から選ばれる少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP669−711レベルの比:
APP669−711/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−709(Aβ1−38)レベルの比:
APP672−709(Aβ1−38)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP674−711(Aβ3−40)レベルの比:
APP674−711(Aβ3−40)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−710(Aβ1−39)レベルの比:
APP672−710(Aβ1−39)/APP672−713(Aβ1−42);
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するAPP672−711(Aβ1−40)レベルの比:
APP672−711(Aβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42); 及び
APP672−713(Aβ1−42)レベルに対するOxAPP672−711(OxAβ1−40)レベルの比:
OxAPP672−711(OxAβ1−40)/APP672−713(Aβ1−42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程と、
被験対象の前記各比が、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC−の前記各比を基準レベルとして、前記各比の基準レベルよりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC−の脳内Aβの蓄積量よりも多いと判断する評価工程と、
を含む。これにより、脳内のAβ蓄積状態を判断する、あるいは判断の補助とすることができる。

0045

また、本発明のマーカーの分析方法は、被験対象に由来する血液試料をAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672−713(Aβ1−42)の測定レベルを得る測定工程と、
被験対象の前記APP672−713(Aβ1−42)の測定レベルが、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC−のAPP672−713(Aβ1−42)のレベルを基準レベルとして、前記基準レベルよりも低い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC−の脳内Aβの蓄積量より多いと判断する評価工程と、
を含む。これにより、脳内のAβ蓄積状態を判断する、あるいは判断の補助とすることができる。

0046

マーカーのレベルとは、基本的には濃度を意味するが、当業者が濃度に準じて用いる他の単位、例えば、質量分析における検出イオン強度であってもよい。本発明による生体由来試料中のマーカーの濃度分析は、測定値基準値との比較によって行われる。より正確な分析のため、比較される測定値と基準値とは、同じ条件(前処理条件保存条件など)で用意された生体由来試料に基づく値であることが好ましい。前記マーカーの基準レベルとしては、脳内のAβ蓄積が陰性である認知機能正常者NC−についての測定値を用いることができる。あるいは、前記マーカーの基準レベルとして、脳内のAβ蓄積が陰性である認知機能正常者NC−についての確立された濃度基準値を用いてもよい。

0047

マーカーの測定は、好ましくは、生体分子特異的親和性に基づく検査によって行われる。生体分子特異的親和性に基づく検査は、当業者によく知られた方法であり、特に限定されないが、イムノアッセイが好ましい。具体的には、ウェスタンブロットラジオイムノアッセイELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)(サンドイッチイムノ法、競合法、及び直接吸着法を含む)、免疫沈降法、沈降反応免疫拡散法免疫凝集測定、補体結合反応分析、免疫放射定量法蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの、競合及び非競合アッセイ系を含むイムノアッセイが含まれる。イムノアッセイにおいては、生体由来試料中の上記マーカーに結合する抗体を検出する。

0048

本発明において、マーカーの測定を、アミロイド前駆タンパク質(APP)由来のペプチドを認識可能な抗原結合部位を持つ免疫グロブリン、またはアミロイド前駆タンパク質(APP)由来のペプチドを認識可能な抗原結合部位を含む免疫グロブリン断片を用いて作製された抗体固定化担体を用いて行ってもよい。前記抗体固定化担体を用いた免疫沈降法により質量分析装置での試料中ペプチドの検出を行うことができる(Immunoprecipitation-Mass Spectrometry; IP-MS)。

0049

実施例の項で示すように、被験対象に由来する血液試料をAPP672−713(Aβ1−42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672−713(Aβ1−42)の測定レベルを得て、被験対象の前記APP672−713(Aβ1−42)の測定レベルが、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC−のAPP672−713(Aβ1−42)のレベルを基準レベルとして、前記基準レベルよりも低い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC−の脳内Aβの蓄積量より多いと判断することができる。

0050

以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下において%で示される物の量は、特に断りがない場合は、その物が被験者である場合は重量基準液体である場合は体積基準で示されている。

0051

実験例1]
(1)臨床サンプルを用いた、本発明マーカーによるアルツハイマー病診断の性能評価
国立長寿医療研究センターにて、NC−、NC+、MCI、ADのグループに分類された症例の血漿サンプルを用意した。

0052

NC−: 脳内のAβの蓄積が陰性で、かつ、認知機能障害は現れていない者
NC+:脳内のAβの蓄積が陽性で、認知機能障害は現れていない者
MCI:脳内のAβの蓄積が陽性で、軽度認知機能障害が現れている者
AD:脳内のAβの蓄積が陽性で、認知機能障害が現れている者
PiB+:NC+とMCIとADのグループを合わせたグループ
認知機能障害の有無に関わらず、脳内のAβが陽性と判定された者

0053

脳内のAβの蓄積についての陽性と陰性を判断するために、被験者の脳のPiB-PET画像を取得した。大脳皮質のPiB集積量が、非特異的な白質のPiB集積量よりも多い、もしくは同等であった被験者は陽性と判定した。白質への非特異的な集積のみで、皮質にはほとんど集積しない被験者は陰性と判定した。認知機能障害は2011年に発表されたNIA-AA診断基準準拠して判断した。

0054

各グループの特徴と症例数を表3に示す。

0055

0056

アルツハイマー病の早期診断への応用を考えた場合、NC−グループと比較して、認知機能障害は現れてないけれども脳内のAβ蓄積が陽性であると判断されたNC+グループから測定レベル変動が見られる血中マーカーが診断に有効であると考えられる。つまり、脳内のAβ蓄積の陽性と陰性を判別できる診断性能を有する血中マーカーを見つけることが重要になる。この観点から、マーカー解析に関してはNC−グループに比べて、他のグループとの間で測定レベル差があるかどうかを評価基準とした。

0057

(2)抗体固定化ビーズの作製
Aβの第3−8残基をエピトープとする抗Aβ抗体(6E10: Covance)250μgを Ficinアガロースビーズ(Thermo) 1250 μL(33%スラリー)により消化、Aβの第18−22残基をエピトープとする抗Aβ抗体 (4G8: Covance)100 μgをリシルエンドペプチダーゼ(LysC) 500 ngにより消化し、それぞれの消化物サイズ排除クロマトグラフィーで分離・分取した。分画したサンプルを還元および非還元SDS-PAGE で確認し、F(ab')2 に相当するフラクションプールした。この 6E10 と 4G8 の F(ab')2画分をそれぞれ30mMの濃度の cysteamineで還元することにより F(ab’) が得られた。次に、アミノ磁気ビーズ(DynabeadsM-270 Amine: Invitrogen) 5 μL(ビーズ量150 μg)を用意し、その表面に結合しているアミノ基にSM(PEG)24 のNHS基を室温で30分間反応させることで、PEGとビーズを共有結合させた。磁気ビーズに結合された SM(PEG) 24 に、6E10 F(ab’)と 4G8 F(ab’)を 0.25 μgずつ同時に加えたものを室温で2時間反応させてマレイミド基チオール基を共有結合させた。最後に、0.4 mM L-システインを室温で30分間反応させることで、マレイミド基のブロッキングを行った。作製された抗体固定化ビーズは使用するまで4℃で保存した。

0058

(3)内部標準ペプチドの準備
内部標準ペプチドとして AnaSpec (San Jose, CA, USA)の安定同位体標識されたAβ1-38(SIL-Aβ1-38と呼ぶ)を使用した。SIL-Aβ1-38 は Pheと Ileの炭素原子が13Cで置換されている。SIL-Aβ1-38の乾燥品を50 mM NaOHで溶解した後に、COSMOSIL(R) 5Diol-120-II [7.5 mm I.D. x 600mm] column (NacalaiTesque, Kyoto) を設置した ProminenceHPLCSystem (ShimadzuCorp, Kyoto, Japan)でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。移動相:40 mM Tris-HCl, pH8.0、流速:1 mL/min、カラム温度:25 ℃、検出波長:214/280 nmの設定で行った。分取したフラクションの一部は非還元状態で15-20% Tricine-SDS-PAGEへ供し、Silver Stainingkit (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)でバンドを染色した。単量体と確認されたフラクションを 1 mg/mL bovine serum albuminを含む40 mMTris-HCl, 150 mM NaCl, pH8.0 で希釈した後、分注して -80 ℃で保存した。一部を取り出し、Human Amyloid β (1-38) (FL) Assay Kit (Immuno-BiologicalLaboratories; Gunma, Japan)を用いてSIL-Aβ1-38の濃度を測定した。

0059

(4)血漿中Aβ及びAβ様ペプチドの測定
全62症例に対して、抗体固定化ビーズを用いて内部標準ペプチドとしてSIL-Aβ1-38を用いて、IP-MSを行った。

0060

免疫沈降法は次のとおりに実施した。
ヒト血漿250 μLに、10 pM SIL-Aβ1-38を含む結合バッファー(0.2%(w/v) n-Dodecyl-β -D-maltoside (DDM), 0.2%(w/v) n-Nonyl-β-D-thiomaltoside (NTM), 800mM GlcNAc,100mM Tris-HCl, 300mM NaCl, pH7.4) 250 μLを混合させた。この血漿サンプルに含まれる沈殿物は Ultrafree-MC, DV 0.65 μm, centrifugal filterdevicesを用いて遠心除去した。Protein G Plus Agarose (50% slurry; Pierce, Rockford, IL) 500 μLをH2O400 μLで1回洗浄後、洗浄バッファー(0.1%(w/v) DDM, 0.1%(w/v) NTM, 50mM Tris-HCl, 150mM NaCl,pH7.4) 400 μLで3回洗浄した。そのProtein G Plus Agaroseに先ほどの血漿サンプルを混合させて4℃で1時間インキュベーションさせた。血漿サンプルからProtein G PlusAgaroseを取り除いた後、OTG-glycineバッファー(1% n-Octyl-β-D-thioglucoside (OTG), 50mM glycine , pH2.8)で2回洗浄、洗浄バッファー100 μLで3回洗浄された抗体固定化ビーズ150 μgに血漿サンプルを混合させて4℃で1時間インキュベーションすることによりAβ及びAβ様ペプチドを捕捉した。その後、洗浄バッファー500 μLで1回洗浄、100 μLで4回洗浄後、50mM酢酸アンモニウム20 μLで2回洗浄した。さらにH2O 20 μLで1回洗浄した後、5 mM塩酸を含む70%アセトニトリル2.5 μLで抗体固定化ビーズに捕捉されたAβ及びAβ様ペプチドを溶出させた。溶出液を0.5 μLずつμFocus MALDI plateTM900 μm上の4 wellへ滴下した。0.5 μLのマトリックス溶液(0.5 mg/mL CHCA, 0.2%(w/v) MDPNA)を混合した後、Linear TOF MSで測定した。

0061

血漿中Aβ及びAβ様ペプチドの測定値はLinear TOFで測定された4wellから得られる内部標準ペプチド(SIL-Aβ1-38)に対する各Aβ及びAβ様ペプチドのピーク強度比を平均化した値を用いた。MSピーク強度のシグナル変動を補正するために次のような基準を設けた。1回の免疫沈降からは4つのマススペクトルが取得され、結果的に1つのペプチドに対して4つのピーク強度比が得られる。あるペプチドにおける4つのピーク強度比の中央値の0.7〜1.3倍の間から外れたピーク強度比は外れ値とみなして、平均化のデータ処理には用いないことにした。あるペプチドの平均化に用いるピーク強度比のデータ数は最大4つであるが、検出限界に達しなかった場合(S/N < 3)や、外れ値が出た場合はデータ数が減る。もし、平均化に用いるピーク強度比のデータ数が3つ未満であった場合、その時の免疫沈降において、そのピークの強度比は検出不可(N/D)であると定義した。

0062

図2は、APP672-713(Aβ1-42)について、各グループにおける内部標準SIL-Aβ1-38に対するAPP672-713 (Aβ1-42)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。図3(A)、図3(B)、図4(C)、及び図4(D)は、それぞれ、APP672-713 (Aβ1-42)/SIL-Aβ1-38について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。

0063

箱ひげ図において、各グループにおいて、箱で示された範囲は、全検体のうち濃度順位が25〜75%に当たるサンプルの強度比分布範囲(四分位範囲)を表し、箱の上下に示す横線は、箱の上端及び下端から四分位範囲の1.5倍までの範囲内にあるサンプルのそれぞれ最大値及び最小値を表し、箱中の横棒は強度比の中央値を表す。

0064

NC−グループに比べて、他のグループとの間で統計的な有意差があるかどうかをDunnett's testを用いて検定し、P < 0.05を示した場合、有意な差があるとした。検出限界以下=0と設定した。その結果、60%以上の症例において検出されたAβ及びAβ様ペプチドは9種類あり、そのうち、APP672-713(Aβ1-42)において、NC−と比べてNC+、MCI、およびADで統計的な有意差があった(図2)。APP672-713(Aβ1-42)の診断性能を評価するために、NC−グループに対するNC+、MCI、AD、およびPiB+グループのROC曲線を作成した。ROC曲線以下の面積(AUC)は、NC−vs NC+=0.789、NC− vs MCI=0.746、NC− vs AD=0.864、NC− vs PiB+=0.808であり、比較的高い値を示した(図3(A)、図3(B)、図4(C)、及び図4(D))。

0065

図2に示すように、APP672-713(Aβ1-42)については、強度比APP672-713(Aβ1-42)/SIL-Aβ1-38は、NC−と比べてNC+、MCI、およびADで統計的な有意差をもって減少が見られた。図3(A)、図3(B)、図4(C)、及び図4(D)に示すように、AUCは、NC−vs NC+=0.789、NC− vs MCI=0.746、NC− vs AD=0.864であることから、APP672-713(Aβ1-42)は、NC−とNC+、NC−とMCI、及びNC−とADを判別できる能力が比較的高いことが示された。また、NC− vsPiB+=0.808であることから、脳内のAβ蓄積が陽性である被験者を検出できる性能が比較的高いことも示された。このことから、APP672-713(Aβ1-42)は脳内のAβの蓄積状態を推測できる血中マーカーであることを示唆しており、そのことによりアルツハイマー病診断の補助として利用できる可能性がある。

0066

(5)より詳細な解析
NC−と比較して各グループ(NC+、MCI、AD)との間のより明確な差を見るために、さらに以下の検討を行った。

0067

図5は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-709 (Aβ1-38)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。図6(A)、図6(B)、図7(C)、及び図7(D)は、APP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。

0068

図8は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP674-711 (Aβ3-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。図9(A)、図9(B)、図10(C)、及び図10(D)は、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。

0069

図11は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-710 (Aβ1-39)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。図12(A)、図12(B)、図13(C)、及び図13(D)は、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。

0070

図14は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP672-711 (Aβ1-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。図15(A)、図15(B)、図16(C)、及び図16(D)は、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。

0071

図17は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するOxAPP672-711 (OxAβ1-40)の強度比(Intensity ratio)を示す箱ひげ図である。図18(A)、図18(B)、図19(C)、及び図19(D)は、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。

0072

図20は、各グループにおけるAPP672-713(Aβ1-42)に対するAPP669-711の強度比(Intensityratio)を示す箱ひげ図である。図21(A)、図21(B)、図22(C)、及び図22(D)は、APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)について、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のROC曲線である。

0073

60%以上の症例において検出された9種類のAβ及びAβ様ペプチドの中で、APP672-713 (Aβ1-42)以外の8種類のピーク強度をAPP672-713 (Aβ1-42)のピーク強度でそれぞれ割った値(比率)を比較解析した。その結果、APP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42)、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42)、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、及びAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)において、NC−と比較して、NC+、MCI、及びADは統計学的有意に増加していることが示された(図5、8、11、14、17、及び20)。特に、APP669-711/APP672-713(Aβ1-42)はアルツハイマー病の進行に伴って上昇する傾向が強いことが示された(図20)。

0074

APP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、及びAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)の診断性能を評価するために、NC−グループに対するNC+、MCI、AD、およびPiB+グループのROC曲線を作成した。その結果、これら6種類の比率の全てにおいて、高いAUCを示しており、NC−とNC+、NC−とMCI、及びNC−とADを判別できる能力、及び脳内のAβ蓄積が陽性である被験者を検出できる性能が高いことが示された[図6(A)、図6(B)、図7(C)、及び図7(D);図9(A)、図9(B)、図10(C)、及び図10(D);図12(A)、図12(B)、図13(C)、及び図13(D);図15(A)、図15(B)、図16(C)、及び図16(D);図18(A)、図18(B)、図19(C)、及び図19(D);図21(A)、図21(B)、図22(C)、及び図22(D)]。

0075

図21(A)、図21(B)、図22(C)、及び図22(D)から、これらの中でも特に、APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)のROC曲線において、NC−グループに対するNC+、MCI、ADのAUCは0.930以上であったことから、NC−とNC+、NC−とMCI、及びNC−とADを判別できる能力が非常に高いことが示された。また、NC−vs PiB+=0.969であることから、脳内のAβ蓄積が陽性である被験者を検出できる性能が非常に高いことも示された。このことから、これら6種類の比率は脳内のAβの蓄積状態を推測できる血中マーカーであることを示唆しており、そのことによりアルツハイマー病診断の補助として利用できる可能性がある。

0076

次に、NC−と比較して、NC+、MCI、ADは統計学的有意に増加していることが示されたAPP672-709 (Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42)、APP674-711 (Aβ3-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、APP672-710 (Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42)、APP672-711 (Aβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、OxAPP672-711 (OxAβ1-40)/APP672-713 (Aβ1-42)、及びAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)について、カットオフ値(Cut-off point)を設定することによるアルツハイマー病の判別評価を行った。図6、7、9、10、12、13、15、16、18、19、21、及び22におけるそれぞれのROC曲線で、sensitivity - (1 - specificity)が最も高い値を示した各ペプチド/APP672-713 (Aβ1-42)をカットオフ値に設定した。設定したカットオフ値と、その場合のSpecificityと、NC−グループに対する各グループ(NC+、MCI、AD、PiB+)のSensitivity、Positive Predictive Value(PPV)、Negative Predictive Value(NPV)、Accuracyを表4に示す。

0077

0078

表4において、
Cut-off point:カットオフ値
Positive Predictive Value(PPV)=(真陽性の数)/(真陽性の数+偽陽性の数)
Negative Predictive Value(NPV)=(真陰性の数)/(真陰性の数+偽陰性の数)
Accuracy=(真陽性の数+真陰性の数)/全症例数

0079

APP669-711/APP672-713(Aβ1-42)がSpecificityと、Sensitivity、Positive Predictive Value(PPV)、Negative Predictive Value(NPV)、Accuracyの全てにおいて非常に高い数値を示しており、NC−と、NC+、MCI、AD、及びPiB+を判別できる能力が非常に高いことを示しており、特に脳内のAβ蓄積の陽性判断に有効であることを示していた。また、NC−と、NC+、MCI、及びADを判別できる能力が非常に高いことから、アルツハイマー病診断の補助として活用できることも示している。その他の5種類の比率に関しても、Specificityと、Sensitivity、Positive Predictive Value(PPV)、Negative Predictive Value(NPV)、又はAccuracyにおいて高い値を示しているため、NC−と、NC+、MCI、AD、及びPiB+を判別できる能力が高いことを示しており、特に脳内のAβ蓄積の陽性判断に有効である可能性を示していた。また、NC−と、NC+、MCI、及びADを判別できる能力が高いことから、アルツハイマー病診断の補助として活用できる可能性も示している。

0080

(6)PiB測定値との相関解析
脳内のAβ蓄積はアルツハイマー病の重要な病理学的指標であり、認知症が顕在化するかなり前からAβの過剰蓄積は開始していることが知られている。PiBはAβ凝集体に特異的に結合する放射性薬剤であり、その集積をPETで測定することにより脳内のAβの蓄積を画像化することができる。高い精度で脳内のAβ蓄積が陽性である被験者を判断できる能力を示した血漿中APP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)が脳内Aβ蓄積状態を反映しているかどうかを調べるために、APP669-711/APP672-713(Aβ1-42)と脳皮質領域のPiB集積平均値(mcSUVR:mean cortical Standard Uptake Value Ratio)との相関を解析した。

0081

図23は、全62症例において、横軸にPiB集積平均値(mcSUVR)、縦軸にAPP669-711/APP672-713(Aβ1-42)比率、を示す散布図である。

0082

PiB集積平均値は皮質のPiB集積を定量し、小脳を基準に大脳の集積比を求めた。IP-MSにより得られたAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)比率と、PETにより得られたPiB集積平均値(mcSUVR)の相関をPearson product-moment correlation coefficientにより評価した。その結果、相関係数(r)は0.687、p<0.001であった(図23)。

0083

APP669-711/APP672-713(Aβ1-42)比率とPiB集積平均値(mcSUVR)は有意に強い相関があることが示された。このことは、血漿中のAPP669-711/APP672-713 (Aβ1-42)比率は脳内のAβ蓄積状態を反映していることを意味しており、脳内Aβ蓄積状態を判断する血中マーカーとして利用できる可能性を示している。

実施例

0084

以上例証した結果は、本発明のマーカーは、脳内Aβ蓄積状態を判断する血中マーカーとして有用であることを示している。また、そのことによりアルツハイマー病診断の補助ならびに発症前診断に活用することができることが示された。

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