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技術 転がり軸受用保持器および転がり軸受

出願人 NTN株式会社
発明者 中西雅樹三上英信
出願日 2017年7月27日 (3年6ヶ月経過) 出願番号 2017-145483
公開日 2019年2月21日 (2年0ヶ月経過) 公開番号 2019-027476
状態 未査定
技術分野 軸・クランク・連接棒及び関連の軸受 ころがり軸受
主要キーワード 表層形成 各軸受部材 黒鉛ターゲット 傾斜組織 反跳粒子 相対滑り速度 内側磁石 硬質カーボン
関連する未来課題
重要な関連分野

この項目の情報は公開日時点(2019年2月21日)のものです。
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図面 (8)

課題

耐焼き付き性、耐摩耗性耐腐食性にも優れ、軸受部材間の金属接触に起因する損傷などを防止できる転がり軸受保持器および転がり軸受を提供する。

解決手段

転がり軸受用保持器は、保持器本体と、この保持器本体の外表面のうち、少なくとも前記転動体との摺接面および他部材との摺接面に形成される硬質膜とを備える。硬質膜は、保持器本体の外表面の上に直接成膜された下地層と、この下地層の上に成膜されたWCとDLCとを主体とする混合層と、この混合層の上に成膜されたDLCを主体とする表面層とを有する。混合層は、下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、混合層中のDLCの含有率が高くなる層であり、混合層における水素含有量が10原子%未満である。

概要

背景

回転軸を支持するころ軸受は、複数のころ(転動体)と、複数のころを保持する保持器とからなる。図7は、コンロッド小端部および大端部にころ軸受を使用したエンジンの縦断面図である。図7に示すように、エンジンは、回転運動を出力するクランク軸51と、混合気燃焼により直線往復運動を行なうピストン52と、クランク軸51とピストン52とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッド54とを有する。クランク軸51は、回転中心軸を中心に回転し、バランスウェイトによって回転のバランスをとっている。コンロッド54は、直線状棒体の下方に大端部を、上方に小端部を設けたものからなる。クランク軸51は、コンロッド54の大端部に、ピストン52とコンロッド54を連結するピストンピン53は、コンロッド54の小端部に、それぞれ係合穴に取り付けられたころ軸受55、56を介して回転自在に支持されている。

ころ軸受55、56には、軸受投影面積が小さいにもかかわらず、高荷重負荷を受けることができ、かつ、高剛性である針状ころ軸受が使用される。針状ころ軸受は、複数の針状ころと、複数の針状ころを保持する保持器とを含む。保持器には、針状ころを保持するためのポケットが設けられ、各ポケットの間に位置する柱部で、各針状ころの間隔を保持する。ここで、コンロッドの小端部および大端部における針状ころ軸受は、針状ころの自転運動および公転運動により針状ころ軸受にかかる荷重を軽減するために、積極的に小端部および大端部に設けられた係合穴の内径面に保持器の外径面を接触させる外径案内で使用される。

一方、一般の転がり軸受は、内輪外輪シール材等とで軸受内部が密閉され、その軸受内部に転動体と保持器が設けられ、グリース充填され、そのグリースで転動体と保持器が常に潤滑される。それに対して、針状ころ軸受は、内輪と外輪とシール材等とを有しないので軸受内部が密閉されず、グリースをその軸受内部に充填することができない。そのため、針状ころ軸受の回転の際には、ポンプ等で潤滑油摺動部に常に供給する必要がある。

ポンプ等は、針状ころ軸受の回転と同時に稼動を開始するので、回転開始直後は針状ころ軸受の全体に潤滑油がまだ行きわたっておらず、十分な潤滑がなされない。そのため、保持器と針状ころとの間に大きな摩擦が生じ、保持器や針状ころの表面が摩耗したり、保持器外径面実機ハウジング内径面とが摩耗し、最悪の場合、両者が焼き付いたりするおそれがある。そのため、針状ころ軸受の回転開始直後の摩耗や焼き付きを防止すべく、保持器の表面に潤滑性を有する被膜硬質膜)を予め形成する技術が提案されている。

近年では、硬質膜に硬質カーボン膜が用いられてきている。硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素無定形炭素、硬質無定形炭素、i−カーボンダイヤモンド状炭素など、様々な呼称がある。

DLCの本質は、構造的にはダイヤモンドグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性固体潤滑性熱伝導性化学安定性耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型工具類耐摩耗性機械部品研磨材摺動部材磁気光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法イオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロンスパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。

このため、従来では、転がり軸受の軌道輪軌道面、転動体の転動面、保持器摺接面などに対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。このため、転がり軸受における上記各面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。

すなわち、従来には、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図った転動装置が提案されている(特許文献1)。この場合、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるDLC層とが、この順に形成されたものである。

また、従来には、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図った転がり軸受が提案されている(特許文献2)。この場合、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成したものである。

概要

耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、軸受部材間の金属接触に起因する損傷などを防止できる転がり軸受用保持器および転がり軸受を提供する。転がり軸受用保持器は、保持器本体と、この保持器本体の外表面のうち、少なくとも前記転動体との摺接面および他部材との摺接面に形成される硬質膜とを備える。硬質膜は、保持器本体の外表面の上に直接成膜された下地層と、この下地層の上に成膜されたWCとDLCとを主体とする混合層と、この混合層の上に成膜されたDLCを主体とする表面層とを有する。混合層は、下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中のWCの含有率が小さくなり、混合層中のDLCの含有率が高くなる層であり、混合層における水素含有量が10原子%未満である。

目的

本発明は、上記課題に鑑みて、軸受保持器の摺動面などに硬質膜を有し、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でもこの硬質膜の耐剥離性に優れ、膜本来の特性を発揮して耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、軸受部材間の金属接触に起因する損傷などを防止できる転がり軸受用保持器およびこれらを備えた転がり軸受を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
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請求項1

転がり軸受における転動体を保持する転がり軸受用保持器であって、保持器本体と、この保持器本体の外表面のうち、少なくとも前記転動体との摺接面および他部材との摺接面に形成される硬質膜とを備え、前記硬質膜は、前記保持器本体の外表面の上に直接成膜された下地層と、この下地層の上に成膜されたタングステンカーバイドダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、この混合層の上に成膜されたダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とを有し、前記混合層は、前記下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の前記タングステンカーバイドの含有率が小さくなり、この混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であり、前記混合層における水素含有量が10原子%未満であることを特徴とする転がり軸受用保持器。

請求項2

前記硬質膜の表面層は、前記混合層との隣接側に、前記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用保持器。

請求項3

前記保持器本体は、高炭素クロム軸受鋼炭素鋼工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼から選ばれる鉄系材料であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の転がり軸受用保持器。

請求項4

前記硬質膜の下地層が、クロムとタングステンカーバイドとを主体とする層であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の転がり軸受用保持器。

請求項5

複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備えてなる転がり軸受であって、前記保持器が請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受用保持器であることを特徴とする転がり軸受。

請求項6

前記転がり軸受が、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの端部に設けられた係合穴に取り付けられることを特徴とする請求項5記載の転がり軸受。

技術分野

0001

本発明は、転がり軸受保持器およびこれを備えた転がり軸受に関し、特に、外表面に硬質膜を有する転がり軸受用保持器に関する。

背景技術

0002

回転軸を支持するころ軸受は、複数のころ(転動体)と、複数のころを保持する保持器とからなる。図7は、コンロッド小端部および大端部にころ軸受を使用したエンジンの縦断面図である。図7に示すように、エンジンは、回転運動を出力するクランク軸51と、混合気燃焼により直線往復運動を行なうピストン52と、クランク軸51とピストン52とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッド54とを有する。クランク軸51は、回転中心軸を中心に回転し、バランスウェイトによって回転のバランスをとっている。コンロッド54は、直線状棒体の下方に大端部を、上方に小端部を設けたものからなる。クランク軸51は、コンロッド54の大端部に、ピストン52とコンロッド54を連結するピストンピン53は、コンロッド54の小端部に、それぞれ係合穴に取り付けられたころ軸受55、56を介して回転自在に支持されている。

0003

ころ軸受55、56には、軸受投影面積が小さいにもかかわらず、高荷重負荷を受けることができ、かつ、高剛性である針状ころ軸受が使用される。針状ころ軸受は、複数の針状ころと、複数の針状ころを保持する保持器とを含む。保持器には、針状ころを保持するためのポケットが設けられ、各ポケットの間に位置する柱部で、各針状ころの間隔を保持する。ここで、コンロッドの小端部および大端部における針状ころ軸受は、針状ころの自転運動および公転運動により針状ころ軸受にかかる荷重を軽減するために、積極的に小端部および大端部に設けられた係合穴の内径面に保持器の外径面を接触させる外径案内で使用される。

0004

一方、一般の転がり軸受は、内輪外輪シール材等とで軸受内部が密閉され、その軸受内部に転動体と保持器が設けられ、グリース充填され、そのグリースで転動体と保持器が常に潤滑される。それに対して、針状ころ軸受は、内輪と外輪とシール材等とを有しないので軸受内部が密閉されず、グリースをその軸受内部に充填することができない。そのため、針状ころ軸受の回転の際には、ポンプ等で潤滑油摺動部に常に供給する必要がある。

0005

ポンプ等は、針状ころ軸受の回転と同時に稼動を開始するので、回転開始直後は針状ころ軸受の全体に潤滑油がまだ行きわたっておらず、十分な潤滑がなされない。そのため、保持器と針状ころとの間に大きな摩擦が生じ、保持器や針状ころの表面が摩耗したり、保持器外径面実機ハウジング内径面とが摩耗し、最悪の場合、両者が焼き付いたりするおそれがある。そのため、針状ころ軸受の回転開始直後の摩耗や焼き付きを防止すべく、保持器の表面に潤滑性を有する被膜(硬質膜)を予め形成する技術が提案されている。

0006

近年では、硬質膜に硬質カーボン膜が用いられてきている。硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す。また、DLCを主体とする膜/層をDLC膜/層ともいう。)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素無定形炭素、硬質無定形炭素、i−カーボンダイヤモンド状炭素など、様々な呼称がある。

0007

DLCの本質は、構造的にはダイヤモンドグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性固体潤滑性熱伝導性化学安定性耐腐食性などに優れる。このため、例えば、金型工具類耐摩耗性機械部品研磨材摺動部材磁気光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法イオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、化学的蒸着(以下、CVDと記す)法、アンバランスド・マグネトロンスパッタリング(以下、UBMSと記す)法などが採用されている。

0008

このため、従来では、転がり軸受の軌道輪軌道面、転動体の転動面、保持器摺接面などに対し、DLC膜を形成する試みがなされている。DLC膜は、膜形成時に極めて大きな内部応力が発生し、また高い硬度およびヤング率を持つ反面、変形能が極めて小さいことから、基材との密着性が弱く、剥離しやすいなどの欠点を持っている。このため、転がり軸受における上記各面にDLC膜を成膜する場合には、密着性を改善する必要性がある。

0009

すなわち、従来には、中間層を設けてDLC膜の密着性改善を図った転動装置が提案されている(特許文献1)。この場合、鉄鋼材料で形成された軌道溝や転動体の転動面に、クロム(以下、Crと記す)、タングステン(以下、Wと記す)、チタン(以下、Tiと記す)、珪素(以下、Siと記す)、ニッケル、および鉄の少なくともいずれかの元素を含む組成下地層と、この下地層の構成元素と炭素とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側より大きい中間層と、アルゴンと炭素とからなりアルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるDLC層とが、この順に形成されたものである。

0010

また、従来には、アンカー効果によりDLC膜の密着性改善を図った転がり軸受が提案されている(特許文献2)。この場合、軌道面にイオン衝撃処理により10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を形成し、この軌道面上にDLC膜を形成したものである。

先行技術

0011

特許第4178826号公報
特許第3961739号公報

発明が解決しようとする課題

0012

しかしながら、転がり軸受において発生する高い接触面圧下では被膜の耐剥離性の確保は容易でなく、特に滑り摩擦により被膜に対して強いせん断力が発生し得るような潤滑・運転条件においては被膜の耐剥離性の確保がより困難となる。特に、DLC膜の適用が検討される摺動面は、潤滑状態が悪く、滑りを伴うといった状況であることが多く、一般的な転がり軸受における運転状況より厳しい場合が多い。

0013

すなわち、上記した各特許文献の技術は、硬質膜の剥離防止などを図ったものであるが、得られた転がり軸受について、使用条件に応じた要求特性満足させるべく、DLC膜を適用する際の膜構造成膜条件には更なる改善の余地がある。

0014

そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、軸受保持器の摺動面などに硬質膜を有し、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でもこの硬質膜の耐剥離性に優れ、膜本来の特性を発揮して耐焼き付き性、耐摩耗性、耐腐食性にも優れ、軸受部材間の金属接触に起因する損傷などを防止できる転がり軸受用保持器およびこれらを備えた転がり軸受を提供するものである。

課題を解決するための手段

0015

本発明の転がり軸受用保持器は、転がり軸受における転動体を保持する転がり軸受用保持器であって、保持器本体と、この保持器本体の外表面のうち、少なくとも前記転動体との摺接面および他部材との摺接面に形成される硬質膜とを備え、前記硬質膜は、前記保持器本体の外表面の上に直接成膜された下地層と、この下地層の上に成膜されたタングステンカーバイドとダイヤモンドライクカーボンとを主体とする混合層と、この混合層の上に成膜されたダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層とを有し、前記混合層は、前記下地層側から前記表面層側へ向けて連続的または段階的に、該混合層中の前記タングステンカーバイドの含有率が小さくなり、この混合層中の前記ダイヤモンドライクカーボンの含有率が高くなる層であり、前記混合層における水素含有量が10原子%未満である。ここで、タングステンカーバイドとは、等モル量のタングステン原子炭素原子からなる無機化合物炭化物)である。また、ダイヤモンドライクカーボンとは、ダイヤモンドとグラファイト(黒鉛)の両方の炭素−炭素結合を併せ持つ炭素を主成分とした物質で作られた薄膜の総称である。

0016

本発明の転がり軸受用保持器は、保持器本体の外表面のうち、少なくとも転動体との摺接面および他部材との摺接面に、DLCを含む所定の膜構造を有する硬質膜が成膜されてなる。中間層がWCとDLCの混合層(WC/DLC)であり、傾斜組成とされているので、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。これに加えて、この混合層における水素含有量が10原子%未満であるので、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でも硬質膜の耐剥離性に優れる。

0017

前記硬質膜の表面層は、前記混合層との隣接側に、前記混合層側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有するのが好ましい。このように、傾斜層部分を有するものでは、混合層と表面層との急激な硬度差がなくなり、混合層と表面層との密着性の向上を図ることができる。

0018

前記保持器本体は、高炭素クロム軸受鋼炭素鋼工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼から選ばれる鉄系材料を用いることができる。すなわち、保持器本体として、保持器材として一般的に用いられる任意の材料を使用できる。

0019

前記硬質膜の下地層が、クロムとタングステンカーバイドとを主体とする層であるのが好ましい。このように設定することによって、下地層と混合層との密着性の向上を図ることができる。

0020

複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備えてなる転がり軸受であって、前記保持器が前記転がり軸受用保持器であるのが好ましい。

0021

前記転がり軸受が、回転運動を出力するクランク軸を支持し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッドの端部に設けられた係合穴に取り付けられるのが好ましい。

発明の効果

0022

本発明の転がり軸受用保持器では、硬質膜は、例えば、保持器摺動面に形成されながら耐剥離性に優れ、DLC本来の特性を発揮できる。この結果、本発明の転がり軸受用保持器は、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れ、苛酷な潤滑状態でも摺動面などの損傷が少なく長寿命となる。

0023

本発明の転がり軸受は、複数の転動体と、この転動体を保持する前記保持器とを備えてなるので、長期にわたり保持器摺接面での潤滑性を維持でき、焼き付き等を安定して防止できる。

0024

また、前記転がり軸受をコンロッドに用いたものでは、保持器外径面や係合穴内径面での摩擦が摺動初期から長期にわたって防止され、装置(例えば、エンジン)全体の長寿命化を図ることができる。

図面の簡単な説明

0025

本発明の転がり軸受を使用した4サイクルエンジンの断面図である。
本発明の転がり軸受用保持器を用いた針状ころ軸受を示す斜視図である。
硬質膜の構造を示す模式断面図である。
UBMS法の成膜原理を示す模式図である。
UBMS装置の模式図である。
円筒試験機の模式図である。
4サイクルエンジンの断面図である。

0026

以下本発明の実施の形態を図1図6に基づいて説明する。図1は本発明の転がり軸受の一例として針状ころ軸受を使用した4サイクルエンジンの縦断面図である。4サイクルエンジンは、吸気バルブ7aを開き、排気バルブ8aを閉じてガソリンと空気を混合した混合気を吸気管7を介して燃焼室9に吸入する吸入行程と、吸気バルブ7aを閉じてピストン6を押し上げて混合気を圧縮する圧縮行程と、圧縮された混合気を爆発させる爆発行程と、爆発した燃焼ガスを排気バルブ8aを開き排気管8を介して排気する排気行程とを有する。そして、これらの行程で燃焼により直線往復運動を行なうピストン6と、回転運動を出力するクランク軸4と、ピストン6とクランク軸4とを連結し、直線往復運動を回転運動に変換するコンロッド5とを有する。クランク軸4は、回転中心軸10を中心に回転し、バランスウェイト11によって回転のバランスをとっている。

0027

コンロッド5は、直線状棒体の下方に大端部13を、上方に小端部14を設けたものからなる。クランク軸4は、コンロッド5の大端部13の係合穴に取り付けられた針状ころ軸受1aを介して回転自在に支持されている。また、ピストン6とコンロッド5を連結するピストンピン12は、コンロッド5の小端部14の係合穴に取り付けられた針状ころ軸受1bを介して回転自在に支持されている。

0028

前記針状ころ軸受1a、1bは、本発明に係る転がり軸受用保持器を用いた針状ころ軸受1(図2参照)である。針状ころ軸受1は、複数の針状ころ3と、この針状ころ3を一定間隔、もしくは不等間隔で保持する保持器2とで構成される。この転がり軸受は、内輪および外輪は設けられず、直接に、保持器2の内径側にクランク軸4やピストンピン12などの軸が挿入され、保持器2の外径側がハウジングであるコンロッド5の係合穴に嵌め込まれる(図1参照)。内外輪を有さず、長さに比べて直径が小さい針状ころ3を転動体として用いるので、この針状ころ軸受1は、内外輪を有する一般の転がり軸受に比べて、コンパクトなものとなる。

0029

保持器2には、針状ころ3を保持するためのポケット2aが設けられ、図3に示すように、各ポケットの間に位置する柱部2bで、各針状ころ3の間隔を保持する。保持器2は、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼から選ばれる鉄系材料からなる保持器本体2Aと、保持器本体の外表面に形成される硬質膜(硬質被膜)30(図3参照)とで構成される。硬質膜30を形成する保持器本体2Aの表面部位は、保持器本体2Aの外表面全体のうち、少なくとも転動体である針状ころ3との摺接面および他部材との摺接面である。すなわち、保持器本体2Aの外表面とは、保持器2の最外表面を構成し、実際に転動体である針状ころ3や他部材と摺接する表面である。これらの外表面は、潤滑油等と接触する部位でもある。また、他部材とは、内・外輪や、コンロッドの端部などである。

0030

製造が容易であることから、硬質膜(硬質被膜)30は、針状ころ3と接触するポケット2aの表面を含めた保持器2の全外表面に形成することが好ましい。また、保持器2の最外表面部位に加えて、転動体である針状ころ3の表面やコンロッド5の係合穴内径面にも同様の硬質膜(硬質被膜)30を形成することができる。

0031

これらの軸受部材において、硬質膜30が形成される面の硬さが、ビッカース硬さでHv650以上であることが好ましい。Hv650以上とすることで、硬質膜30(この硬質膜30の後述する下地層30a)との硬度差を少なくし、密着性を向上させることができる。

0032

硬質膜30が形成される面において、硬質膜形成前に、窒化処理により窒化層が形成されていることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、窒化処理後の表面の硬さがビッカース硬さでHv1000以上であることが、硬質膜30(硬質膜30の下地層30a)との密着性をさらに向上させるために好ましい。

0033

硬質膜30が形成される面の表面粗さRaは、0.05μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが0.05μmをこえると、粗さの突起先端に硬質膜が形成され難くなり、局所的に膜厚が小さくなる。

0034

硬質膜30の構造を図3に基づいて説明する。図3は、図1の針状ころ軸受1a(1b)に示す硬質膜30の構造を示す模式断面図である。図3に示すように、硬質膜30は、保持器本体2A上に直接成膜される下地層30aと、下地層30aの上に成膜されるWC(タングステンカーバイド)とDLC(ダイヤモンドライクカーボン)とを主体とする混合層30bと、混合層30bの上に成膜されるDLCを主体とする表面層30cとからなる3層構造を有する。ここで、タングステンカーバイドとは、等モル量のタングステン原子と炭素原子からなる無機化合物(炭化物)である。また、ダイヤモンドライクカーボンとは、ダイヤモンドとグラファイト(黒鉛)の両方の炭素−炭素結合を併せ持つ炭素を主成分とした物質で作られた薄膜の総称である。このように、硬質膜30の膜構造を上記のような3層構造とすることで、急激な物性(硬度・弾性率等)変化を避けるようにしている。

0035

下地層30aは、基材となる各軸受部材の表面に直接成膜される下地層である。材質や構造は、基材との密着性を確保できるものであれば特に限定されず、例えば材質としてCr(クロム)、W(タングステン)、Ti(チタン)、Si(ケイ素)などが使用できる。これらの中でも、基材となる軸受部材(例えば高炭素クロム軸受鋼)との密着性に優れることから、Crを含むことが好ましい。

0036

また、下地層30aは、混合層30bとの密着性も考慮して、CrとWCとを主体とする層であることが好ましい。WCは、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。特に、保持器本体2A側から混合層30b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる傾斜組成とすることが好ましい。これにより、保持器本体2Aと混合層30bとの両面での密着性に優れる。

0037

混合層30bは、下地層30aと表面層30cとの間に介在する中間層となる。混合層30bに用いるWCは、上述のように、CrとDLCとの中間的な硬さや弾性率を有し、成膜後の残留応力の集中も発生し難い。混合層30bが、下地層30a側から表面層30c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成である。このため、下地層30aと表面層30cとの両面での密着性に優れる。また、混合層30b内において、WCとDLCとが物理的に結合する構造となっており、混合層30b内での破損などを防止できる。さらに、表面層30c側ではDLC含有率が高められているので、表面層30cと混合層30bとの密着性に優れる。

0038

また、混合層30bは、非粘着性の高いDLCをWCによって下地層30a側にアンカー効果で結合させる層となる。後述の実施例に示すように、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合において耐剥離性を向上させるには、混合層中の水素含有量をある程度少なくすることが重要となる。

0039

混合層30bにおける水素含有量は、10原子%未満とする。この範囲とすることで、境界潤滑で転がり滑り接触する条件下でも硬質膜の剥離を防止できる。混合層30bの水素含有量が10原子%をこえる場合、中間層となる混合層30b中に比較的軟質なDLCが存在することとなり、上記のような条件下では剥離しやすくなるおそれがある。また、転がり接触時の疲労特性を向上させるため、DLC用の炭素供給源として炭化水素系ガスは併用して水素を僅かに含有させつつ上記範囲内とすることが好ましい。

0040

ここで、本発明における「混合層における水素含有量(原子%)」は、公知の分析法により算出できる。例えば、GD分析グロー放電発光分光分析)で求めることができる。GDS分析は深さ方向と元素量の関係を調べることができる分析であり、各元素の検量線を用意すれば定量が可能である。水素量検量線は、水素の絶対量測定が可能なERDA分析(弾性反跳粒子検出法)を用いて作成できる。GDS分析における水素量出力値は、試験片材質の違いによって異なるため、混合層(WC/DLC)を構成しているDLCとWCそれぞれについて水素量検量線を作成する必要がある。DLC単層膜試験片およびWC単層膜試験片について、混合層(WC/DLC)の成膜条件に合わせた条件で炭化水素系ガス導入量を調整することで水素含有量の異なる試験片を作製し、ERDA分析とGDS分析を行ない、GDS分析における水素量出力値とERDA分析で測定した水素量(原子%)の関係(検量線)を調べる。上記DLC水素量検量線で求めた水素含有量と、上記WC水素量検量線で求めた水素含有量とは異なるため、これら両方の検量線で求めた水素含有量の平均をとることで、任意の水素量出力値に対応する水素含有量(原子%)が算出できる。

0041

表面層30cは、DLCを主体とする膜である。表面層30cにおいて、混合層30bとの隣接側に、緩和層部分30dを有することが好ましい。これは、混合層30bと表面層30cとで成膜条件パラメータ(炭化水素系ガス導入量、真空度バイアス電圧)が異なる場合、これらパラメータの急激な変化を避けるために、このパラメータの少なくとも1つを連続的または段階的に変化させることで得られる緩和層部分である。より詳細には、混合層30bの最表層形成時の成膜条件パラメータを始点とし、表面層30cの最終的な成膜条件パラメータを終点として、各パラメータをこの範囲内で連続的または段階的に変化させる。これにより、混合層30bと表面層30cとの急激な物性(硬度・弾性率等)の差がなくなり、混合層30bと表面層30cとの密着性がさらに優れる。なお、バイアス電圧を連続的または段階的に上昇させることで、DLC構造におけるグラファイト構造(sp2)とダイヤモンド構造(sp3)との構成比率が後者に偏っていき、硬度が傾斜(上昇)する。

0042

硬質膜30の膜厚(3層の合計)は0.5〜3.0μmとすることが好ましい。膜厚が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣る場合があり、3.0μmをこえると剥離し易くなる。さらに、該硬質膜30の膜厚に占める表面層30cの厚さの割合が0.8以下であることが好ましい。この割合が0.8をこえると、混合層30bにおけるWCとDLCの物理結合するための傾斜組織が不連続な組織となりやすく、密着性が劣化するおそれがある。

0043

硬質膜30を以上のような組成の下地層30a、混合層30b、表面層30cからなる3層構造とすることで、耐剥離性に優れる。

0044

本発明の転がり軸受において、以上のような構造・物性の硬質膜を形成することで、軸受使用時に転がり滑り接触などの負荷を受けた場合でも、該膜の摩耗や剥離を防止でき、苛酷な潤滑状態でも軌道面などの損傷が少なく長寿命となる。また、グリースを封入した転がり軸受において、軌道輪などの損傷により金属新生面露出すると、触媒作用によりグリース劣化を促進させるが、本発明の転がり軸受では、硬質膜により金属接触による軌道面や転動面の損傷を防止できるので、このグリース劣化も防止できる。

0045

以下、本発明の硬質膜の形成方法について説明する。上記硬質膜は、軸受部材の成膜面に対して、下地層30a、混合層30b、表面層30cをこの順に成膜して得られる。

0046

表面層30cの形成は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図4に示す模式図を用いて説明する。図中において、基材12は、成膜対象の軸受部材である保持器2等であるが、模式的に平板で示してある。図4に示すように、丸形ターゲット15の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石14a、外側磁石14bが配置され、ターゲット15付近高密度プラズマ19を形成しつつ、磁石14a、14bにより発生する磁力線16の一部16aがバイアス電源11に接続された基材12近傍まで達するようにしたものである。この磁力線16aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材12付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法では、基材12付近まで達する磁力線16aに沿って、Arイオン17および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット18をより多く基材12に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)13を成膜できる。

0047

下地層30aおよび混合層30bの形成も、上記のスパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされることが好ましい。下地層30aがCrとWCとを主体とする層である場合は、ターゲット15としてCrターゲットおよびWCターゲットを併用する。また、混合層30bを形成する際には、(1)WCターゲット、および、(2)黒鉛ターゲットと必要に応じて炭化水素系ガスを用いる。各層の形成毎に、それぞれに用いるターゲットを逐次取り替える。

0048

下地層30aにおいて、上述のようなCrとWCの傾斜組成とする場合は、連続的または段階的に、WCターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、Crターゲットに印加する電力下げながら成膜する。これにより混合層30b側に向けてCrの含有率が小さく、かつ、WCの含有率が高くなる構造の層とできる。

0049

混合層30bは、連続的または段階的に、炭素供給源となる黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を上げながら、かつ、WCターゲットに印加する電力を下げながら成膜する。これにより表面層30c側に向けてWCの含有率が小さく、かつ、DLCの含有率が高くなる傾斜組成の層とできる。

0050

本発明の転がり軸受用保持器は、保持器本体の外表面のうち、少なくとも転動体との摺接面および他部材との摺接面に、DLCを含む所定の膜構造を有する硬質膜が成膜されてなる。中間層がWCとDLCの混合層(WC/DLC)であり、傾斜組成とされているので、成膜後の残留応力の集中が発生し難い。これに加えて、この混合層における水素含有量が10原子%未満であるので、潤滑状態が悪く滑りを伴う条件下で他部材と接触する場合でも硬質膜の耐剥離性に優れる。

0051

このため、本発明の転がり軸受用保持器では、硬質膜30は、例えば、保持器摺動面に形成されながら耐剥離性に優れ、DLC本来の特性を発揮できる。この結果、本発明の転がり軸受用保持器は、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れ、苛酷な潤滑状態でも摺動面などの損傷が少なく長寿命となる。

0052

前記硬質膜30の表面層30cは、前記混合層30bとの隣接側に、前記混合層30b側から硬度が連続的または段階的に高くなる傾斜層部分を有することになる。このように、傾斜層部分を有するものでは、混合層30bと表面層30cとの急激な硬度差がなくなり、混合層30と表面層30cとの密着性の向上を図ることができる。

0053

前記保持器本体2Aは、高炭素クロム軸受鋼、炭素鋼、工具鋼、または、マルテンサイト系ステンレス鋼から選ばれる鉄系材料を用いる。このため、保持器本体2Aとして、保持器材として一般的に用いられる任意の材料を使用できる。

0054

前記硬質膜30の下地層30aが、クロムとタングステンカーバイドとを主体とする層であるので、下地層30aと混合層30bとの密着性の向上を図ることができる。

0055

本発明に係る転がり軸受では、長期にわたり保持器摺接面での潤滑性を維持でき、焼き付き等を安定して防止できる。また、前記転がり軸受をコンロッドに用いたものでは、保持器外径面や係合穴内径面での摩擦が摺動初期から長期にわたって防止され、装置(例えば、エンジン)全体の長寿命化を図ることができる。

0056

以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、転がり軸受の形式として、ラジアル軸受であっても、スラスト軸受であってもよい。また、転動体として、玉であってもころであってもよい。また、ころの場合、円筒ころ,針状ころ,円すいころ,又はたる形をした球面ころ等であってもよい。なお、転動体を実施形態のようにころ形状のものを用いれば、本発明の転がり軸受は、上述のように、コンロッドの小端部および大端部に設けられた係合穴に取り付けられ、ピストンピンおよびクランク軸を支持することができ、軸受投影面積が小さいにもかかわらず、高荷重の負荷を受けることができる。特に、高剛性である針状ころを転動体として使用した転がり軸受は、ころを転動体として使用した転がり軸受よりも、さらに高荷重の負荷を受けることができる。

0057

また、本発明の転がり軸受は、上述したコンロッド用の他、エアコンカーエアコンなどの空気調和機用の圧縮機などで使用される転がり軸受としても好適に使用できる。

0058

本発明の転がり軸受に形成する硬質膜として、所定の基材に対して硬質膜を形成し、該硬質膜の物性に関する評価をした。また、2円筒試験機を用いた転がり滑り試験にて耐剥離性の評価を行なった。

0059

硬質膜の評価用に用いた試験片、UBMS装置、およびスパッタリングガスなどは以下のとおりである。
(1)試験片物性:SUJ2焼き入れ焼き戻し品 硬さ780Hv
(2)試験片:鏡面研磨された(0.02μmRa)SUJ2リング(φ40×L12副曲率なし)の摺動表面に対して各条件にてDLC膜を成膜したもの
(3)相手材研削仕上げ(0.7μmRa)SUJ2リング(φ40×L12副曲率60)
(4)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202
(5)スパッタリングガス:Arガス

0060

下地層30aの形成条件を以下に説明する。成膜チャンバー内を5×10-3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材となる試験片をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCrターゲットとWCターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させ、基材側でCrが多く表面側でWCが多いCr/WC傾斜層を形成した。

0061

混合層の形成条件を以下に説明する。下地層と同様にUBMS法にて成膜した。ここで、該混合層については、炭化水素系ガスであるメタンガスを供給しながら、WCターゲットと黒鉛ターゲットに印加するスパッタ電力を調整し、WCとDLCの組成比を傾斜させ、下地層側でWCが多く表面層側でDLCが多いWC/DLC傾斜層を形成した。混合層の具体的な成膜条件を表1に示す。なお、混合層における水素含有量(原子%)は、GDS分析(グロー放電発光分光分析)により上述の方法で求めた。結果を表1に併記する。

0062

表面層の形成条件は、前記表1に示すとおりである。

0063

図5はUBMS装置の模式図である。図5に示すように、円盤20上に配置された基材21に対し、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)22を非平衡な磁場により、基材21近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大すること(図4参照)によって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合せた複合被膜を成膜することができる。この実施例では、基材とするリングに、下地層、混合層、表面層をUBMS被膜として成膜している。

0064

実施例1〜3及び比較例1〜5では、表1に示す基材をアセトン超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、これをUBMS装置に取り付け、上述の形成条件にて下地層および混合層を形成した。その上に、表1に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。なお、表1における「真空度」は上記装置における成膜チャンバー内の真空度である。得られた試験片を下記に示す2円筒試験機を用いた転がり滑り試験に供した。結果を表1に併記する。

0065

<2円筒試験機による転がり滑り試験>
得られた試験片について図6に示す2円筒試験機を用いて転がり滑りによる耐剥離性の試験を行なった。この2円筒試験機は、駆動側試験片23と転がり滑り接触する従動側試験片24とを備え、それぞれの試験片(リング)は支持軸受26で支持されており、負荷用バネ27により荷重が負荷されている。また、図中の25は駆動用プーリ、28は非接触回転計である。硬質膜の剥離を助長するために相手材粗さを大きくし、潤滑油粘度を下げ境界潤滑とし、回転差をつけて滑りを発生させ、被膜の剥離が発生するまでの時間(h)を剥離寿命として評価を行った。具体的な試験条件は以下のとおりである。
(試験条件)
潤滑油:VG1.5相当油(添加剤含有)滴下給油
油温:40〜50℃
最大接触面圧:2.7GPa
回転数:(試験片側)270 min-1
(相手材側)300 min-1
相対滑り速度:0.06 m/s
油膜パラメータ:0.006
打ち切り時間:48h

0066

各実施例1〜3と各比較例1〜5は、使用する基材および表面層の成膜条件が同一であり、表面層の硬度は平均値で約29GPaである。表1に示すように、混合層を形成する際の水素含有量を変化させた場合、水素含有量が高い場合において2円筒転がり滑り試験における剥離寿命が短い傾向があり、水素含有量が10.8原子%の時点で劇的に短寿命となっており、混合層内の水素含有量の高い比較的軟質なDLCの存在が被膜の耐剥離性に悪影響を及ぼしていると考えられる。

0067

DLC膜などの硬質膜は膜内に残留応力があり、残留応力は膜構造や成膜条件の影響を受け大きく異なり、その結果、耐剥離性にも大きな影響を及ぼす。また、耐剥離性は硬質膜が使用される条件によっても変化する。このため、本発明者らは、2円筒試験などにより、潤滑状態が悪い場合(境界潤滑条件)において転がり滑り接触するような条件下での検証を重ねた結果、該条件下となる軸受部材の表面に形成する硬質膜について、その膜構造を限定するとともに、特に水素含有量を所定範囲内とすることで、該条件での耐剥離性の向上が図れることを見出した。本発明はこのような知見に基づきなされたものである。

実施例

0068

ところで、DLCの適用が検討される摺動面・転動面は潤滑が希薄または滑り速度が速いなど苛酷な潤滑状態であることが多い。本発明の転がり軸受は、保持器摺動面にDLC膜が形成され、苛酷な潤滑状態で運転した場合においてもこのDL膜の耐剥離性に優れ、DLC本体の特性を発揮できるので、耐焼き付き性、耐摩耗性、および耐腐食性に優れる。このため、本発明の転がり軸受は、苛酷な潤滑状態での用途を含め、各種用途に適用可能である。

0069

1a軸受
1b 軸受
2保持器
2A 保持器本体
4クランク軸
5コンロッド
30硬質膜
30a下地層
30b混合層
30c表面層
30d緩和層部分

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