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技術 耐摩耗鋼板および耐摩耗鋼板の製造方法

出願人 JFEスチール株式会社
発明者 高山直樹寺澤祐介林謙次長谷和邦奥城賢士上岡悟史竹村悠作室田康宏原田直樹杉岡正敏平田直人
出願日 2017年9月12日 (2年6ヶ月経過) 出願番号 2017-175186
公開日 2018年4月12日 (1年11ヶ月経過) 公開番号 2018-059189
状態 特許登録済
技術分野 鋼の加工熱処理
主要キーワード 最低硬度 運搬機器 保持時間経過後 耐摩耗鋼板 耐摩耗鋼 ブリネル硬さ 転位密度ρ 基地相
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図面 (4)

課題

優れた耐摩耗性曲げ加工性兼備した耐摩耗鋼板とその製造方法を提供する。

解決手段

所定の成分組成を有し、表面から1mmの深さにおける硬度ブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000であり、表面から1mmの深さにおけるマルテンサイト体積率が90%以上であり、表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m−2)、および下記(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板。 Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1) ρu=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2) ρ≦ρu…(3)

概要

背景

鋼材耐摩耗性は、高硬度化することにより向上することが知られている。そのため、例えば土、砂などによる摩耗を受け、耐摩耗性が要求される部材には、焼入などの熱処理を施して高硬度化した鋼材が使用されてきた。

例えば、特許文献1には、所定の成分組成を有する鋼材に熱間圧延を施して厚鋼板とした後、焼入れすることによって耐摩耗厚鋼板を製造する方法が記載されている。引用文献1に記載された方法によれば、C、合金元素、およびNの含有量を制御することにより、焼入れままで340HB以上の硬さと、高靭性とを有し、溶接低温割れ性が改善された耐摩耗厚鋼板が得られるとされている。

また、特許文献2には、所定の成分組成を有する鋼に、900℃〜Ar3変態点の温度で圧下率15%以上の熱間圧延を施し、次いで、Ar3変態点以上の温度から直接焼入れすることによって耐摩耗鋼材を製造する方法が記載されている。引用文献2に記載された技術によれば、成分組成と焼入れ条件を制御することにより、高い硬度を有する耐摩耗鋼を容易に得ることができるとされている。

特許文献1および2に記載された上記技術では、硬度を高めることによって耐摩耗特性を向上させている。一方、様々な形状の部材への適用や溶接個所の低減のため、耐摩耗性だけではなく曲げ加工性にも優れる耐摩耗鋼に対する需要が高まっている。

このような需要に対し、例えば、特許文献3には、重量%で、C:0.05〜0.20%、Mn:0.50〜2.5%、Al:0.02〜2.00%を含有し、マルテンサイト面積分率が5%以上、50%以下である耐摩耗鋼が提案されている。特許文献3によれば、熱間圧延された鋼をAc3点とAc1点の間のフェライトオーステナイト2相域温度に加熱した後、急冷することによってマルテンサイトの面積分率を制御し、それにより加工性および溶接性に優れた耐摩耗鋼が得られるとされている。

また、特許文献4には、所定の成分組成を有する鋼を、熱間圧延後直ちにMs点±25℃まで冷却し、冷却を中断してMs点+50℃以上に復熱させた後、室温まで冷却する耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。引用文献4によれば、前記製造方法で得られた鋼板の表面から深さ5mmまで領域における最低硬度が、該鋼板のさらに内部の領域における最高硬度よりも40HV以上低く、その結果、曲げ加工性が向上するとされている。

さらに、特許文献5には、DIが60以上である所定の成分組成を有する鋼を、熱間圧延し、次いで0.5〜2℃/sの平均冷却速度で400℃以下の温度域まで冷却する、耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。特許文献5によれば、前記製造方法で得られる耐摩耗鋼板には、平均粒径0.5〜50μm以上のTi系炭化物が400個/mm2以上析出しており、その結果、熱処理を行うことなしに、優れた耐摩耗性と曲げ加工性を兼ね備えた耐摩耗鋼が得られるとしている。

概要

優れた耐摩耗性と曲げ加工性を兼備した耐摩耗鋼板とその製造方法を提供する。所定の成分組成を有し、表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000であり、表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が90%以上であり、表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m−2)、および下記(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板。 Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1) ρu=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2) ρ≦ρu…(3)

目的

本発明は、上記の問題を解決し、優れた耐摩耗性と曲げ加工性を兼備した耐摩耗鋼板を提供する

効果

実績

技術文献被引用数
0件
牽制数
0件

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請求項1

質量%で、C:0.34%超、0.50%以下、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.05〜2.00%、P:0.020%以下、S:0.050%以下、Al:0.100%以下、Cr:0.05〜0.90%、N:0.0050%以下、およびO:0.0050%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、表面から1mmの深さにおける硬度ブリネル硬さで560〜690HBW10/3000であり、表面から1mmの深さにおけるマルテンサイト体積率が90%以上であり、表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m−2)、および下記(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板。Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)ρu(m−2)=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2)ρ≦ρu…(3)(ただし、上記(1)および(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

請求項2

前記成分組成が、質量%で、Nb:0.005〜0.025%、Ti:0.005〜0.030%、およびB:0.0001〜0.0018%からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1に記載の耐摩耗鋼板。

請求項3

前記成分組成が、質量%で、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜5.00%、Mo:0.01〜2.00%、V:0.01〜1.00%、W:0.01〜1.00%、およびCo:0.01〜1.00%からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1または2に記載の耐摩耗鋼板。

請求項4

前記成分組成が、質量%で、Ca:0.0005〜0.0100%、Mg:0.0005〜0.0100%、およびREM:0.0005〜0.0100%からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。

請求項5

表面から1mmの深さにおける平均粒径が500nm以上の介在物および析出物密度が3.0個/mm2以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。

請求項6

質量%で、C:0.34%超、0.50%以下、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.05〜2.00%、P:0.020%以下、S:0.050%以下、Al:0.100%以下、Cr:0.05〜0.90%、N:0.0050%以下、およびO:0.0050%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材加熱温度に加熱し、前記加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、前記熱延鋼板の焼入れを、焼入れ開始温度から開始し、下記(1)式で定義されるMf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱するか、または、前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法であって、前記焼入れが、前記焼入れ開始温度がAr3変態点以上である直接焼入れ、または、前記焼入れ開始温度がAc3変態点以上である再加熱焼入れであり、前記焼戻し温度が(Mf点−100℃)以上、Mf点以下である、耐摩耗鋼板の製造方法。記Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)(ただし、上記(1)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

請求項7

前記成分組成が、質量%で、Nb:0.005〜0.025%、Ti:0.005〜0.030%、およびB:0.0001〜0.0018%からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項6に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

請求項8

前記成分組成が、質量%で、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜5.00%、Mo:0.01〜2.00%、V:0.01〜1.00%、W:0.01〜1.00%、およびCo:0.01〜1.00%からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項6または7に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

請求項9

前記成分組成が、質量%で、Ca:0.0005〜0.0100%、Mg:0.0005〜0.0100%、およびREM:0.0005〜0.0100%からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

請求項10

前記耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける平均粒径が500nm以上の介在物および析出物の密度が3.0個/mm2以下である、請求項6〜9のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

請求項11

請求項6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を前記焼戻し温度まで再加熱し、さらに、前記再加熱された熱延鋼板を、前記焼戻し温度に保持する、耐摩耗鋼板の製造方法。

請求項12

請求項6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を、5℃/s以上の平均昇温速度で前記焼戻し温度まで再加熱する、耐摩耗鋼板の製造方法。

請求項13

請求項6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、次いで、前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法。

技術分野

0001

本発明は、耐摩耗鋼板に関し、とくに建設土木および鉱山等の掘削等の分野で使用される産業機械運搬機器の部材用として好適な、曲げ加工性に優れた耐摩耗鋼材ならびにその製造方法に関する。

背景技術

0002

鋼材耐摩耗性は、高硬度化することにより向上することが知られている。そのため、例えば土、砂などによる摩耗を受け、耐摩耗性が要求される部材には、焼入などの熱処理を施して高硬度化した鋼材が使用されてきた。

0003

例えば、特許文献1には、所定の成分組成を有する鋼材に熱間圧延を施して厚鋼板とした後、焼入れすることによって耐摩耗厚鋼板を製造する方法が記載されている。引用文献1に記載された方法によれば、C、合金元素、およびNの含有量を制御することにより、焼入れままで340HB以上の硬さと、高靭性とを有し、溶接低温割れ性が改善された耐摩耗厚鋼板が得られるとされている。

0004

また、特許文献2には、所定の成分組成を有する鋼に、900℃〜Ar3変態点の温度で圧下率15%以上の熱間圧延を施し、次いで、Ar3変態点以上の温度から直接焼入れすることによって耐摩耗鋼材を製造する方法が記載されている。引用文献2に記載された技術によれば、成分組成と焼入れ条件を制御することにより、高い硬度を有する耐摩耗鋼を容易に得ることができるとされている。

0005

特許文献1および2に記載された上記技術では、硬度を高めることによって耐摩耗特性を向上させている。一方、様々な形状の部材への適用や溶接個所の低減のため、耐摩耗性だけではなく曲げ加工性にも優れる耐摩耗鋼に対する需要が高まっている。

0006

このような需要に対し、例えば、特許文献3には、重量%で、C:0.05〜0.20%、Mn:0.50〜2.5%、Al:0.02〜2.00%を含有し、マルテンサイト面積分率が5%以上、50%以下である耐摩耗鋼が提案されている。特許文献3によれば、熱間圧延された鋼をAc3点とAc1点の間のフェライトオーステナイト2相域温度に加熱した後、急冷することによってマルテンサイトの面積分率を制御し、それにより加工性および溶接性に優れた耐摩耗鋼が得られるとされている。

0007

また、特許文献4には、所定の成分組成を有する鋼を、熱間圧延後直ちにMs点±25℃まで冷却し、冷却を中断してMs点+50℃以上に復熱させた後、室温まで冷却する耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。引用文献4によれば、前記製造方法で得られた鋼板の表面から深さ5mmまで領域における最低硬度が、該鋼板のさらに内部の領域における最高硬度よりも40HV以上低く、その結果、曲げ加工性が向上するとされている。

0008

さらに、特許文献5には、DIが60以上である所定の成分組成を有する鋼を、熱間圧延し、次いで0.5〜2℃/sの平均冷却速度で400℃以下の温度域まで冷却する、耐摩耗鋼板の製造方法が提案されている。特許文献5によれば、前記製造方法で得られる耐摩耗鋼板には、平均粒径0.5〜50μm以上のTi系炭化物が400個/mm2以上析出しており、その結果、熱処理を行うことなしに、優れた耐摩耗性と曲げ加工性を兼ね備えた耐摩耗鋼が得られるとしている。

先行技術

0009

特開昭63−169359号公報
特開昭64−031928号公報
特許第2864960号公報
特開2006−104489号公報
特許第4899874号公報

発明が解決しようとする課題

0010

特許文献3〜5に記載されているように、従来の耐摩耗鋼の曲げ性を向上させる方法は、鋼板の基地相マトリックス)の硬度を抑制して曲げ加工性を確保しつつ、ミクロ組織の制御または炭化物の析出によって耐摩耗性を向上させるという考え方に基づいている。そのため、前記方法では、基地相の硬度を十分に向上させることが難しく、したがって耐摩耗性に問題を残していた。

0011

本発明は、上記の問題を解決し、優れた耐摩耗性と曲げ加工性を兼備した耐摩耗鋼板を提供することを目的とする。また本発明は、前記耐摩耗鋼板の製造方法を提供することを目的とする。

課題を解決するための手段

0012

本発明者らは、上記目的を達成するために、耐摩耗鋼板の曲げ加工性に影響する各種要因について、鋭意検討を重ねた。その結果、次の(1)〜(4)の知見を得た。
(1)耐摩耗鋼板の曲げ加工性には、該耐摩耗鋼板表層部の硬度および延性が大きく寄与する。
(2)熱間圧延と該熱間圧延後の焼入れによって製造された耐摩耗鋼板を、さらに適切な温度範囲再加熱して焼戻すことにより、焼入れによって導入された転位タングル(もつれ)が緩和され、その結果、鋼板表層部の延性が改善する。
(3)上記(2)の方法によれば、耐摩耗性に大きく影響を及ぼす基地相の硬度を低下させることなく、曲げ加工性を向上させることができる。
(4)焼入れ後に急速加熱する方法、または焼入れ時の冷却を所定温度で停止する方法によっても、条件を適切に選択すれば、上記(2)の方法と同様の効果を得ることができる。

0013

初めに、本発明の基礎となった実験結果について説明する。

0014

次の手順で耐摩耗鋼板を製造した。まず、質量%で、
C :0.39%、
Si:0.50%、
Mn:1.20%、
P :0.005%、
S :0.002%、
Ti:0.015%、
Al:0.03%、および
Cr:0.80%を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、鋼素材として用意した。前記鋼スラブを1150℃に加熱し、熱間圧延して、板厚:12mmの熱延鋼板とした。前記熱延鋼板を熱間圧延終了直後から空冷し、次いで、再加熱焼入れを行った。前記再加熱焼入れにおいては、前記熱延鋼板を900℃の焼入れ開始温度まで再加熱した後、焼入れ停止温度である室温まで水冷した。前記再加熱焼入れ後、さらに、種々の焼戻し温度で、10分間保持する焼戻しを行った。

0015

次に、上記手順で得られた耐摩耗鋼板から硬さ測定用試験片採取し、JIS Z 2243(1998)の規定に準拠してブリネル硬さを測定した。前記測定は、耐摩耗鋼板表面に存在するスケールおよび脱炭層の影響を除くため、鋼板表面から1mmの深さまでの領域を研削除去したのちに実施した。したがって、測定された硬度は、鋼板表面から1mmの深さの面における表面硬度である。なお、測定に際しては、直径10mmのタングステン硬球を使用し、荷重は3000kgfとした。

0016

また、得られた耐摩耗鋼板から、幅25mm×長さ25mmの転位密度測定試験片を採取し、転位密度を測定した。前記測定は、耐摩耗鋼板表面に存在するスケールおよび加工組織の影響を除くため、研削機械研磨、および電解研磨によって鋼板表面から1mmの深さまでの領域を除去したのちに実施した。したがって、測定された転位密度は、鋼板表面から1mmの深さの面における転位密度である。転位密度は、X線回折測定によりラインプロファイルを取得し、得られたラインプロファイルをmodified Williamson-Hall法およびmodified Warren-Averbach法を用いて解析することによって算出した。

0017

さらに、得られた鋼板から、幅50mm×長さ150mmの曲げ試験片を採取し、JIS Z 2248の規定に準拠して、曲げ角度:180°における限界曲げ半径を測定した。なお、ここで「限界曲げ半径」とは、鋼板表面で割れが発生しない最小の曲率半径をいい、割れ発生のない最小の曲げ半径R(mm)、および板厚t(mm)を用いて、R/tとして表すことができる。

0018

得られた結果を図1〜3に示す。図1は表面硬度(ブリネル硬さ)と焼戻し温度の関係を、図2は転位密度と焼戻温度の関係を、図3は限界曲げ半径と焼戻温度の関係を、それぞれ示している。なお、図1〜3においては、比較のために焼入れまま(as-quenched)の耐摩耗鋼板における値を横軸の最も左側に黒丸で示している。

0019

図1〜3から分かるように、(Mf点−100℃)未満の焼戻し温度で焼戻しを行ったサンプルは、焼入れままの鋼板と同程度の表面硬度を維持しているものの、転位密度も焼入れままの鋼板とほぼ同様であり、その結果、限界曲げ半径に改善が見られない。また、Mf点より高い焼戻し温度で焼戻しを行ったサンプルは、焼入れままの鋼板に比べて転位密度が大きく減少し、その結果、限界曲げ半径は大幅に改善しているが、同時に表層硬度が低下しているため、耐摩耗性に劣っている。これに対して、(Mf点−100℃)以上、Mf点以下の焼戻し温度で焼戻しを行ったサンプルは、焼入れままの鋼板と同程度の表面硬度を備えていると同時に、焼入れままの鋼板よりも転位密度が低く、その結果、限界曲げ半径が小さくなっている。なお、ここでMf点は、下記(1)式で定義される値である。
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
(ただし、上記(1)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

0020

本発明は、以上の知見を踏まえ、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。

0021

1.質量%で、
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.050%以下、
Al:0.100%以下、
Cr:0.05〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000であり、
表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が90%以上であり、
表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m−2)、および下記(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板。
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
ρu(m−2)=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2)
ρ≦ρu…(3)
(ただし、上記(1)および(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

0022

2.前記成分組成が、質量%で、
Nb:0.005〜0.025%、
Ti:0.005〜0.030%、および
B :0.0001〜0.0018%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1に記載の耐摩耗鋼板。

0023

3.前記成分組成が、質量%で、
Cu:0.01〜1.00%、
Ni:0.01〜5.00%、
Mo:0.01〜2.00%、
V :0.01〜1.00%、
W :0.01〜1.00%、および
Co:0.01〜1.00%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1または2に記載の耐摩耗鋼板。

0024

4.前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0100%、
Mg:0.0005〜0.0100%、および
REM:0.0005〜0.0100%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1〜3のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。

0025

5.表面から1mmの深さにおける平均粒径が500nm以上の介在物および析出物密度が3.0個/mm2以下である、上記1〜4のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。

0026

6.質量%で、
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.050%以下、
Al:0.100%以下、
Cr:0.05〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を加熱温度に加熱し、
前記加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板の焼入れを、焼入れ開始温度から開始し、
下記(1)式で定義されるMf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱するか、または、
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れが、前記焼入れ開始温度がAr3変態点以上である直接焼入れ、または、前記焼入れ開始温度がAc3変態点以上である再加熱焼入れであり、
前記焼戻し温度が(Mf点−100℃)以上、Mf点以下である、耐摩耗鋼板の製造方法。

Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
(ただし、上記(1)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

0027

7.前記成分組成が、質量%で、
Nb:0.005〜0.025%、
Ti:0.005〜0.030%、および
B :0.0001〜0.0018%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記6に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

0028

8.前記成分組成が、質量%で、
Cu:0.01〜1.00%、
Ni:0.01〜5.00%、
Mo:0.01〜2.00%、
V :0.01〜1.00%、
W :0.01〜1.00%、および
Co:0.01〜1.00%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記6または7に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

0029

9.前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0100%、
Mg:0.0005〜0.0100%、および
REM:0.0005〜0.0100%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記6〜8のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

0030

10.表面から1mmの深さにおける平均粒径が500nm以上の介在物および析出物の密度が3.0個/mm2以下である、上記6〜9のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

0031

11.上記6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を前記焼戻し温度まで再加熱し、
さらに、前記再加熱された熱延鋼板を、前記焼戻し温度に保持する、耐摩耗鋼板の製造方法。

0032

12.上記6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を、5℃/s以上の平均昇温速度で前記焼戻し温度まで再加熱する、耐摩耗鋼板の製造方法。

0033

13.上記6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、
次いで、前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法。

発明の効果

0034

本発明によれば、曲げ加工性と耐摩耗性を兼備した耐摩耗鋼板を、容易に製造することができる。

0035

なお、下記a〜kは、本発明の他の好適な実施態様の一例である。

0036

a.質量%で、
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.50〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.020%以下、
Al:0.04%以下、
Cr:0.15〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000であり、
表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が90%以上であり、
表面から1mmの深さにおける転位密度ρ、下記(1)式で定義されるMf点、および下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板。
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
ρu(m−2)=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2)
ρ(m−2)≦ρu…(3)
(ただし、上記(1)および(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

0037

b.前記成分組成が、質量%で、
Nb:0.005〜0.020%、
Ti:0.010〜0.017%、および
B :0.0001〜0.0015%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記aに記載の耐摩耗鋼板。

0038

c.前記成分組成が、質量%で、
Cu:0.01〜0.2%、
Ni:0.01〜2.0%、
Mo:0.1〜0.5%、
V :0.01〜0.05%、
W :0.01〜0.05%、および
Co:0.01〜0.05%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記aまたはbに記載の耐摩耗鋼板。

0039

d.前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0040%、
Mg:0.0005〜0.0050%、および
REM:0.0005〜0.0080%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記a〜cのいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。

0040

e.質量%で、
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.50〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.020%以下、
Al:0.04%以下、
Cr:0.15〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を加熱温度に加熱し、
前記加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板の焼入れを、焼入れ開始温度から開始し、
下記(1)式で定義されるMf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱するか、または、
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れが、前記焼入れ開始温度がAr3変態点以上である直接焼入れ、または、前記焼入れ開始温度がAc3変態点以上である再加熱焼入れであり、
前記焼戻し温度が(Mf点−100℃)以上、Mf点以下である、耐摩耗鋼板の製造方法。

Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
(ただし、上記(1)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

0041

f.前記成分組成が、質量%で、
Nb:0.005〜0.020%、
Ti:0.010〜0.017%、および
B :0.0001〜0.0015%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記eに記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

0042

g.前記成分組成が、質量%で、
Cu:0.01〜0.2%、
Ni:0.01〜2.0%、
Mo:0.1〜0.5%、
V :0.01〜0.05%、
W :0.01〜0.05%、および
Co:0.01〜0.05%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記eまたはfに記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

0043

h.前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0040%、
Mg:0.0005〜0.0050%、および
REM:0.0005〜0.0080%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記e〜gのいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。

0044

i.上記e〜hのいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を前記焼戻し温度まで再加熱し、
さらに、前記再加熱された熱延鋼板を、前記焼戻し温度に保持する、耐摩耗鋼板の製造方法。

0045

j.上記e〜hのいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を、5℃/s以上の平均昇温速度で前記焼戻し温度まで再加熱する、耐摩耗鋼板の製造方法。

0046

k.上記e〜hのいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、
さらに、前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法。

図面の簡単な説明

0047

表面硬度と焼戻し温度の関係を示すグラフである。
転位密度と焼戻し温度の関係を示すグラフである。
限界曲げ半径と焼戻し温度の関係を示すグラフである。

0048

[成分組成]
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。本発明においては、耐摩耗鋼板およびその製造に用いられる鋼素材が、上記成分組成を有することが重要である。そこで、まず本発明において鋼の成分組成を上記のように限定する理由を説明する。なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。

0049

C:0.34%超、0.50%以下
Cは、基地相の硬さを増加させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るために、C含有量を0.34%超とする。C含有量は0.37%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.50%を超えると、基地相の硬度が過度に上昇し、曲げ加工性が著しく低下する。そのため、C含有量は0.50%以下とする。C含有量は0.47%以下とすることが好ましい。

0050

Si:0.05〜1.00%
Siは、脱酸剤として作用する元素である。また、Siは、鋼中に固溶し、固溶強化により基地相の硬さを上昇させる作用を有している。これらの効果を得るために、Si含有量を0.05%以上とする。Si含有量は、0.10%以上とすることが好ましく、0.20%以上とすることがより好ましい。一方、Si含有量が1.00%を超えると、延性および靭性が低下し、さらに介在物量が増加するなどの問題が生じる。そのため、Si含有量を1.00%以下とする。Si含有量は0.80%以下とすることが好ましく、0.60%以下とすることがより好ましく、0.40%以下とすることがさらに好ましい。

0051

Mn:0.05〜2.00%
Mnは、基地相の硬さを上昇させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るために、Mn含有量を0.05%以上とする。Mn含有量は、0.25%以上とすることが好ましく、0.50%以上とすることがより好ましい。一方、Mn含有量が2.00%を超えると硬さが高くなりすぎるため、曲げ加工性が低下する。そのため、Mn含有量は2.00%以下とする。Mn含有量は、1.80%以下とすることが好ましく、1.60%以下とすることがより好ましい。

0052

P:0.020%以下
Pは、不可避的不純物として含有される元素であり、粒界偏析することによって破壊発生起点となることや、リン化物を形成して曲げ加工性を低下させるなど、悪影響を及ぼす。そのため、P含有量は、0.020%以下とする。P含有量は、0.015%以下とすることが好ましい。一方、P含有量はできる限り低くすることが望ましいため、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、P含有量は0.001%以上とすることが好ましい。

0053

S:0.050%以下
Sは、不可避的不純物として含有される元素であり、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在し、破壊の発生起点となるなど、悪影響を及ぼす元素である。そのため、S含有量は、0.050%以下とする。S含有量は、0.020%以下とすることが好ましい。一方、S含有量はできる限り低くすることが望ましいため、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Sは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、S含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。

0054

Al::0.100%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、結晶粒微細化する作用を有する元素である。これらの効果を得るためには、Al含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Al含有量が0.100%を超えると、酸化物系介在物が増加して清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、Al含有量は0.100%以下とする。なお、Al含有量は0.050%以下とすることが好ましく、0.040%以下とすることがより好ましく、0.030%以下とすることがさらに好ましい。

0055

Cr:0.05〜0.90%
Crは、基地相の硬さを増加させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るために、Cr含有量を0.05%以上とする。Cr含有量は、0.15%以上とすることが好ましく、0.25%以上とすることがより好ましい。一方、Cr含有量が0.90%を超えると硬さが高くなりすぎるため、曲げ加工性が低下する。そのため、Cr含有量は0.90%以下とする。Cr含有量は、0.85%以下とすることが好ましく、0.80%以下とすることがより好ましい。

0056

O:0.0050%以下
Oは、不可避的不純物として含有される元素であり、酸化物などの介在物として鋼中に存在し、破壊の発生起点となるなど、悪影響を及ぼす元素であるが、0.0050%以下の含有は許容できる。O含有量は、0.0040%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。一方、O含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。

0057

N:0.0050%以下
Nは、不可避的不純物として含有される元素であり、窒化物などの介在物として鋼中に存在し、破壊の発生起点となるなど、悪影響を及ぼす元素であるが、0.0050%以下の含有は許容できる。N含有量は、0.0040%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。一方、N含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Nは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。

0058

本発明の一実施形態における耐摩耗鋼板および鋼素材は、以上の成分と、残部のFeおよび不可避的不純物とからなる。

0059

以上が本発明における基本の成分組成であるが、他の実施形態において上記成分組成は、任意に、Nb:0.005〜0.025%、Ti:0.005〜0.030%、およびB:0.0001〜0.0018%からなる群より選択される1または2以上をさらに含有することができる。

0060

Nb:0.005〜0.025%
Nbは、基地相の硬さを増加させ、耐摩耗性の向上に寄与する元素である。Nbを添加する場合、前記効果を得るためにNb含有量を0.005%以上とする。Nb含有量は0.007%以上とすることが好ましい。一方、Nb含有量が0.025%を超えるとNbCが多量に析出し、曲げ加工性が低下する。そのため、含Nbを添加する場合、Nb含有量を0.025%以下とする。Nb含有量は0.023%以下とすることが好ましく、0.021%以下とすることがより好ましく、0.020%以下とすることがさらに好ましく、0.019%以下とすることが最も好ましい。

0061

Ti:0.005〜0.030%
Tiは、窒化物形成傾向が強く、Nを固定して固溶Nを低減する作用を有する元素である。そのため、Tiの添加により、母材および溶接部の靭性を向上させることができる。また、TiとBの両者が添加される場合、TiがNを固定することによってBNの析出が抑制され、その結果、Bの焼入れ性向上効果が助長される。これらの効果を得るために、Tiを添加する場合、Ti含有量を0.005%以上とする。Ti含有量は、0.010%以上とすることが好ましく、0.012%以上とすることがさらに好ましい。一方、Ti含有量が0.030%を超えると、TiCが多量に析出し、曲げ加工性を低下させる。そのため、Tiを含有する場合、Ti含有量は0.030%以下とする。Ti含有量は、0.025%以下とすることが好ましく、0.020%以下とすることがより好ましく、0.017%以下とすることがさらに好ましい。

0062

B:0.0001〜0.0018%
Bは、微量の添加でも焼入れ性を著しく向上させる作用を有する元素である。したがって、Bを添加することによりマルテンサイトの形成を助長し、耐摩耗性をさらに向上させることができる。前記効果を得るために、Bを添加する場合、B含有量を0.0001%以上とする。B含有量は、0.0005%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがより好ましい。一方、B含有量が0.0018%を超えると、ホウ化物などの介在物が多量になり破壊の発生起点となるなど、悪影響が生じる。そのため、Bを添加する場合、B含有量を0.0018%以下とする。B含有量は0.0016%以下とすることが好ましく、0.0015%以下とすることがより好ましく、0.0014%以下とすることがより好ましい。

0063

また、本発明の他の実施形態において、上記成分組成は、任意に、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜5.00%、Mo:0.01〜2.00%、V:0.01〜1.00%、W:0.01〜1.00%、およびCo:0.01〜1.00%からなる群より選択される1または2以上をさらに含有することができる。

0064

Cu:0.01〜1.00%
Cuは、焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Cuを添加する場合、前記効果を得るためにCu含有量を0.01%以上とする。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Cuを添加する場合、Cu含有量を1.00%以下とする。Cu含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.20%以下とすることがより好ましい。

0065

Ni:0.01〜5.00%
Niは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Niを添加する場合、前記効果を得るためにNi含有量を0.01%以上とする。一方、Ni含有量が5.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Niを添加する場合、Ni含有量を5.00%以下とする。Ni含有量は3.00%以下とすることが好ましく、2.00%以下とすることがより好ましい。

0066

Mo:0.01〜2.00%
Moは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Moを添加する場合、前記効果を得るためにMo含有量を0.01%以上とする。Mo含有量は0.1%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が2.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Moを添加する場合、Mo含有量を2.00%以下とする。Mo含有量は1.00%以下とすることが好ましく、0.50%以下とすることがより好ましい。

0067

V:0.01〜1.00%
Vは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Vを添加する場合、前記効果を得るためにV含有量を0.01%以上とする。一方、V含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Vを添加する場合、V含有量を1.00%以下とする。V含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.25%以下とすることがより好ましく、0.05%以下とすることがさらに好ましい。

0068

W:0.01〜1.00%
Wは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Wを添加する場合、前記効果を得るためにW含有量を0.01%以上とする。一方、W含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Wを添加する場合、W含有量を1.00%以下とする。W含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.25%以下とすることがより好ましく、0.05%以下とすることがさらに好ましい。

0069

Co:0.01〜1.00%
Coは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Coを添加する場合、前記効果を得るためにCo含有量を0.01%以上とする。一方、Co含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Coを添加する場合、Co含有量を1.00%以下とする。Co含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.25%以下とすることがより好ましく、0.05%以下とすることがさらに好ましい。

0070

また、本発明の他の実施形態において、上記成分組成は、任意に、Ca:0.0005〜0.0100%、Mg:0.0005〜0.0100%、およびREM:0.0005〜0.0100%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有することができる。

0071

Ca:0.0005〜0.0100%
Caは、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Caを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0005%以上とする。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量0.0100%以下とする。Ca含有量は0.0050%以下とすることが好ましく、0.0040%以下とすることがより好ましい。

0072

Mg:0.0005〜0.0100%
Mgは、Caと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Mgを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0005%以上とする。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0100%以下とする。Mg含有量は0.0060%以下とすることが好ましく、0.0050%以下とすることがより好ましい。

0073

REM:0.0005〜0.0100%
REM(希土類金属)は、Ca、Mgと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、REMを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、REMを添加する場合、REM含有量を0.0005%以上とする。一方、REM含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、REMを添加する場合、REM含有量を0.0100%以下とする。REM含有量は0.0080%以下とすることが好ましく、0.0060%以下とすることがより好ましい。

0074

言い換えると、本発明における耐摩耗鋼板およびその製造に用いられる鋼素材は、以下の成分組成を有することができる。
質量%で、
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.050%以下、
Al:0.100%以下、
Cr:0.05〜0.90%、
N :0.0050%以下、
O :0.0050%以下、
任意に、Nb:0.005〜0.025%、Ti:0.005〜0.030%、およびB:0.0001〜0.0018%からなる群より選択される1または2以上、
任意に、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜5.00%、Mo:0.01〜2.00%、V:0.01〜1.00%、W:0.01〜1.00%、およびCo:0.01〜1.00%からなる群より選択される1または2以上、
任意に、Ca:0.0005〜0.0100%、Mg:0.0005〜0.0100%、およびREM:0.0005〜0.0100%からなる群より選択される1または2以上、並びに
残部のFeおよび不可避的不純物からなる成分組成。

0075

[表面硬度]
ブリネル硬さ:560〜690HBW 10/3000
本願発明の耐摩耗鋼板は、上記成分組成を有することに加えて、表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000である。表面硬度を前記範囲に限定する理由を以下に説明する。

0076

鋼板の耐摩耗性は、該鋼板の表層部における硬度を高めることにより向上させることができる。鋼板表層部における硬度がブリネル硬さで560HBW未満では、十分な耐摩耗性を得ることができない。そのため、鋼板表層部における硬度がブリネル硬さで560HBW以上とする。一方、鋼板表層部における硬度がブリネル硬さで690HBWを超えると、曲げ加工性が劣化する。そのため、鋼板表層部における硬度を、ブリネル硬さで690HBW以下とする。なお、ここで「鋼板の表層における硬度」とは、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さの位置におけるブリネル硬さを指すものとする。また、前記ブリネル硬さは、直径10mmのタングステン硬球を使用し、荷重3000kgfで測定した値(HBW 10/3000)とする。該ブリネル硬さは、実施例に記載した方法で測定することができる。

0077

[ミクロ組織]
マルテンサイトの体積率:90%以上
本願発明においては、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率(以下、単に「マルテンサイトの体積率」という)を90%以上とする。マルテンサイトの体積率が90%未満であると、鋼板の基地組織の硬度が低下するため、耐摩耗性が劣化する。そのため、マルテンサイトの体積率を90%以上とする。マルテンサイト以外の残部組織は特に限定されないが、フェライト、パーライト、オーステナイト、ベイナイト組織などの他の組織が1種または2種以上存在してよい。一方、マルテンサイトの体積率は高いほどよいため、該体積率の上限は特に限定されず、100%であってよい。なお、前記マルテンサイトの体積率は、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さの位置における値とする。前記マルテンサイトの体積率は、実施例に記載した方法で測定することができる。

0078

なお、本発明におけるマルテンサイトとは、焼戻しマルテンサイトではないマルテンサイト、すなわち、セメンタイトが析出していないマルテンサイトを指すものとする。後述する製造条件を採用し、焼戻し温度を(Mf点−100℃)以上、Mf点以下とすることにより、焼戻しマルテンサイトではないマルテンサイトの体積率が90%であるミクロ組織を得ることができる。

0079

[転位密度]
さらに、本発明においては、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m−2)、および上述した(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する。
ρu=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2)
ρ≦ρu…(3)
(ただし、上記(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

0080

鋼板の転位密度は、炭素濃度と、該鋼板の製造時の温度条件(例えば、焼戻し温度)の影響を受ける。転位密度ρがρuより大きいと、耐摩耗鋼板の表層の延性が、焼入れままの状態と同等となり、曲げ加工性は向上しない。そのため、転位密度ρはρu以下とする。一方、転位密度は低いほどよいため、下限は特に限定されないが、通常は1.0×1015以上である。なお、前記転位密度は、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さの位置における値とする。

0081

[介在物・析出物の密度]
介在物・析出物の密度:3.0個/mm2以下
介在物および析出物の密度は、Al、N、Oなどの鋼板の成分と該鋼板の製造時の温度条件(例えば、加熱温度)の影響を受ける。耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける、平均粒径が500nm以上の介在物・析出物の密度(以下、単に「介在物・析出物の密度」という)を3.0個/mm2以下とすることにより、曲げ加工時の割れの起点を減らし、曲げ加工性をさらに向上させることができる。そのため、前記介在物・析出物の密度を3.0個/mm2以下とすることが好ましい。一方、介在物・析出物の密度は低いほどよいため、下限は特に限定されないが、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、0.1個/mm2以上とすることが好ましい。

0082

[板厚]
本発明の耐摩耗鋼板の板厚は特に限定されず、任意の厚さとすることができるが、製造上の観点からは、4〜50mmとすることが好ましい。

0083

[製造方法]
次に、本発明の一実施形態における耐摩耗鋼板の製造方法について説明する。本発明の耐摩耗鋼板は、上述した成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、熱間圧延した後に、焼入れを含む熱処理を後述する条件で行うことによって製造することができる。

0084

[鋼素材]
前記鋼素材の製造方法は、とくに限定されないが、例えば、上記した組成を有する溶鋼を常法により溶製し、鋳造して製造することができる。前記溶製は、転炉電気炉誘導炉等、任意の方法により行うことができる。また、前記鋳造は、生産性の観点から連続鋳造法で行うことが好ましいが、造塊−分解圧延法により行うこともできる。前記鋼素材としては、例えば、鋼スラブを用いることができる。

0085

[加熱]
得られた鋼素材は、熱間圧延に先立って加熱温度に加熱される。前記加熱は、鋳造などの方法によって得た鋼素材を一旦冷却した後に行ってもよく、また、得られた鋼素材を冷却することなく直接、前記加熱に供することもできる。

0086

前記加熱温度は特に限定されないが、該加熱温度が900℃未満であると、鋼素材の変形抵抗が高いため、熱間圧延における圧延機への負荷が増大し、熱間圧延を行うことが困難となる場合がある。そのため、前記加熱温度は900℃以上とすることが好ましく、950℃以上とすることがより好ましく、1100℃以上とすることがさらに好ましい。一方、前記加熱温度が1250℃より高いと、鋼の酸化が顕著となり、酸化によるロスが増大する結果、歩留まりが低下する。そのため、前記加熱温度は1250℃以下とすることが好ましく、1200℃以下とすることがより好ましく、1150℃以下とすることがさらに好ましい。

0087

[熱間圧延]
次いで、前記加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とする。前記熱間圧延の条件は特に限定されず、常法に従って行うことができる。ただし、圧延温度が850℃未満であると、鋼素材の変形抵抗が高いため、熱間圧延における圧延機への負荷が増大し、熱間圧延を行うことが困難となる場合がある。そのため圧延温度を850℃以上とすることが好ましく、900℃以上とすることがより好ましい。一方、圧延温度が1000℃より高いと、高温のため鋼の酸化が顕著となり、酸化によるロスが増大する結果、歩留まりが低下する。そのため、前記圧延温度は1000℃以下とすることが好ましく、950℃以下とすることがより好ましい。

0088

[焼入れ]
次いで、得られた熱延鋼板を焼入れ開始温度から焼入れ停止温度まで焼入れする。前記焼入れは、直接焼入れ(DQ)と再加熱焼入れ(RQ)のいずれの方法で行ってもよい。また、前記焼入れにおける冷却方法は特に限定されないが、水冷で行うことが好ましい。なお、ここで「焼入れ開始温度」とは焼入れ開始時における鋼板の表面温度とする。前記「焼入れ開始温度」を、単に「焼入れ温度」という場合がある。また、「焼入れ停止温度」とは、焼入れ終了時における鋼板の表面温度とする。例えば、焼入れを水冷によって行う場合には、水冷開始時の温度を「焼入れ開始温度」、水冷終了時の温度を「焼入れ停止温度」とする。

0089

(直接焼入れ)
前記焼入れを直接焼入れで行う場合、上記熱間圧延終了後、熱延鋼板を再加熱することなく焼入れを行う。その際、前記焼入れ開始温度をAr3変態点以上とする。これはオーステナイト状態からの焼入れによってマルテンサイト組織を得るためである。前記焼入れ開始温度がAr3変態点未満であると十分に焼きが入らないため鋼板の硬度を十分に向上させることができず、その結果、最終的に得られる鋼板の耐摩耗性が低下する。一方、直接焼入れにおける焼入れ開始温度の上限は特に限定されないが、950℃以下とすることが好ましい。焼入れ停止温度については後述する。

0090

なお、Ar3変態点は、例えば、次の(4)式で求めることができる。
Ar3(℃)=910−273×C−74×Mn−57×Ni−16×Cr−9×Mo−5×Cu…(4)
(ただし、(4)式中の各元素記号は、質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

0091

(再加熱焼入れ)
前記焼入れを再加熱焼入れで行う場合、上記熱間圧延終了後、熱延鋼板を再加熱した後に焼入れする。その際、前記焼入れ開始温度をAc3変態点以上とする。これはオーステナイト状態からの焼入れによってマルテンサイト組織を得るためである。前記焼入れ開始温度がAc3変態点未満であると十分に焼きが入らないため鋼板の硬度を十分に向上させることができず、その結果、最終的に得られる鋼板の耐摩耗性が低下する。一方、再加熱焼入れにおける焼入れ開始温度の上限は特に限定されないが、950℃以下とすることが好ましい。焼入れ停止温度については後述する。

0092

なお、Ac3変態点は、例えば、次の(5)式で求めることができる。
Ac3(℃)=912.0−230.5×C+31.6×Si−20.4×Mn−39.8×Cu−18.1×Ni−14.8×Cr+16.8×Mo…(5)
(ただし、(5)式中の各元素記号は、質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)

0093

(平均冷却速度)
上記焼入れにおける冷却速度は特に限定されず、マルテンサイト相が形成される冷却速度であれば任意の値とすることができる。例えば、焼入れ開始から焼入れ停止の間における平均冷却速度は、25〜70℃/sとすることが好ましく、30〜60℃/sとすることが好ましい。なお、前記平均冷却速度は、鋼板表面の温度を用いて求められる冷却速度とする。

0094

本発明の耐摩耗鋼板の製造方法は、さらに次の(i)および(ii)の処理のいずれか一方を含む:
(i)Mf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱する。
(ii)前記焼戻し温度で前記焼入れを停止する。
以下、上記(i)および(ii)のそれぞれについて説明する。

0095

[処理(i)の場合]
焼入れ停止温度:Mf点以下
上記焼入れ工程における焼入れ停止温度がMf点より高いと、マルテンサイトの体積率を十分に高めることができず、鋼板の硬度が低下する。そのため、Mf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止する。焼入れ停止温度は、200℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましく、120℃以下とすることがさらに好ましい。一方、焼入れ停止温度の下限は特に限定されないが、過度の冷却は製造効率の低下を招くため、焼入れ停止温度を20℃以上とすることが好ましく、30℃以上とすることがより好ましい。

0096

焼戻し温度まで再加熱
前記焼入れ停止後、焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱する。前記再加熱を行うことにより、焼入れ後の鋼板が焼き戻される。先に述べたように、前記焼戻し温度が(Mf点−100℃)未満であると、転位密度を低下させることができず、したがって、曲げ加工性が改善しない。そのため、前記焼戻し温度を(Mf点−100℃)以上とする。前記焼戻し温度は(Mf点−90℃)以上とすることが好ましく、(Mf点−80℃)以上とすることがより好ましい。一方、先に述べたように、前記焼戻し温度がMf点より高いと、転位密度は減少するものの、表面硬度の低下が顕著となる。そのため、前記焼戻し温度をMf点以下とする。前記焼戻し温度は、(Mf点−10℃)以下とすることが好ましく、(Mf点−20℃)以下とすることがより好ましい。

0097

上記再加熱は、熱処理炉を用いた加熱、高周波誘導加熱通電加熱など任意の方法で行うことができる。また、前記再加熱は、オフラインオンラインのいずれで行うこともできる。

0098

次に、上記処理(i)の2つの好適な実施形態について説明する。

0099

・製造条件A
再加熱後温度保持を行う場合)
上記処理(i)においては、焼入れされた熱延鋼板を前記焼戻し温度まで再加熱した後、さらに、前記再加熱された熱延鋼板を前記焼戻し温度に保持することができる。以下、この製造条件を、「製造条件A」という。前記焼戻し温度に保持される時間(以下、「保持時間」という)は、特に限定されないが、焼戻しの効果を高めるという観点からは、30秒以上とすることが好ましく、1分以上とすることがより好ましい。一方、保持時間が過度に長いと鋼板の硬度が低下するため、保持時間は60分以下とすることが好ましく、30分以下とすることがより好ましく、20分以下とすることがさらに好ましい。

0100

上記温度保持を行う場合には、熱処理炉を用いて上記再加熱を行うことが好ましい。また、この製造条件Aにおいては、前記再加熱時における平均昇温速度を0.1〜10℃/sとすることが好ましい。なお、前記保持時間が経過した後は、例えば、炉冷や空冷を行うことができる。

0101

・製造条件B
(焼入れ後、急速加熱を行う場合)
上記処理(i)においては、前記焼戻し温度までの再加熱を急速加熱で行うこともできる。その場合、前記再加熱における平均昇温速度を5℃/s以上とすることが好ましい。前記平均昇温速度を5℃/s以上とすることにより、炭化物を微細に析出させることができ、その結果、曲げ加工性が向上する。前記平均昇温速度を10℃/s以上とすることがより好ましい。以下、この製造条件を、「製造条件B」という。一方、前記平均昇温速度の上限は特に限定されないが、過度に昇温速度を高めると、再加熱を行うための設備が大型化することに加え、消費電力の増大が問題となる。そのため、前記平均昇温速度は30℃/s以下とすることが好ましく、25℃/s以下とすることがより好ましい。

0102

上記急速加熱を行う場合、前記焼戻し温度に到達した後は、再加熱を停止すれば良い。再加熱を停止した後は、特に限定されないが、例えば、再加熱された熱延鋼板を空冷することができる。なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、前記再加熱の後、水冷を行うことや、水冷と空冷の両者を行うことも許容される。

0103

上記急速加熱を行う場合、高周波誘導加熱または通電加熱により加熱を行うことが好ましい。また、生産性の観点からは、前記急速加熱をオンラインで行うことが好ましく、上記熱間圧延、焼入れ、および急速加熱を同一ライン上で行うことがより好ましい。

0104

・製造条件C
[処理(ii)の場合]
処理(ii)においては、前記焼入れを停止した後、前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する。そして、前記焼入れにおける焼入れ停止温度を、前記焼戻し温度、すなわち、(Mf点−100℃)以上、Mf点以下とする。これにより、上記処理(i)の場合と同様に鋼板が焼き戻され、転位密度を低下させることができる。以下、この製造条件を、「製造条件C」という。

0105

焼入れ停止温度:(Mf点−100℃)以上、Mf点以下
上記焼入れ工程における焼入れ停止温度がMf点より高いと、マルテンサイトの体積率を十分に高めることができず、鋼板の硬度が低下する。そのため、Mf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止する。焼入れ停止温度は、(Mf点−10℃)以下とすることが好ましく、(Mf点−20℃)以下とすることがより好ましい。一方、焼入れ停止温度が(Mf点−100℃)未満であると、転位密度を低下させることができず、したがって、曲げ加工性が改善しない。そのため、前記焼入れ停止温度を(Mf点−100℃)以上とする。前記焼入れ停止温度は(Mf点−90℃)以上とすることが好ましく、(Mf点−80℃)以上とすることがより好ましい。

0106

表1に示す成分組成を有する溶鋼を溶製し、鋼スラブとした。得られた鋼スラブを用いて、上記製造条件A、B、およびCのそれぞれにより、耐摩耗鋼板を製造した。具体的な製造手順は以下のとおりとした。

0107

・製造条件A
鋼スラブに対し、次の(1)〜(4)の処理を順次施した:
(1)加熱、
(2)熱間圧延、
(3)直接焼入れまたは再加熱焼入れ、および
(4)焼戻し。

0108

各工程における処理条件を表2に示す。なお、前記焼戻しは、焼入れされた熱延鋼板を、熱処理炉を用いて表2に示した焼戻し温度まで再加熱し、次いで表2に示した保持時間、前記焼戻し温度に保持して行った。前記保持時間経過後は、焼き戻された鋼板を空冷した。なお、比較のため、一部の比較例においては、焼戻しを行わなかった。

0109

・製造条件B
鋼スラブに対し、次の(1)〜(4)の処理を順次施した:
(1)加熱、
(2)熱間圧延、
(3)直接焼入れまたは再加熱焼入れ、および
(4)急速加熱。

0110

各工程における処理条件を表3に示す。なお、前記急速加熱には高周波誘導加熱装置を使用して、焼入れ終了後、直ちに行った。前記急速加熱における平均昇温速度および加熱温度は、表3に示した通りとした。前記急速加熱後は、加熱された鋼板を空冷した。なお、比較のため、一部の比較例においては、急速加熱を行わなかった。

0111

・製造条件C
鋼スラブに対し、次の(1)〜(4)の処理を順次施した:
(1)加熱、
(2)熱間圧延、
(3)直接焼入れまたは再加熱焼入れ、および
(4)空冷。

0112

各工程における処理条件を表4に示す。なお、直接焼入れまたは再加熱焼入れにおいては、表4に示した焼入れ停止温度で冷却を停止した。また、前記焼入れ後は、焼入れされた鋼板を空冷した。

0113

次いで、上記各条件で得られた耐摩耗鋼板のそれぞれについて、表面硬度、マルテンサイトの体積率、転位密度、介在物・析出物の密度、および限界曲げ半径を評価した。評価方法は次の通りである。

0114

(表面硬度)
得られた耐摩耗鋼板から硬さ測定用試験片を採取し、JIS Z 2243(1998)の規定に準拠してブリネル硬さを測定した。前記測定は、耐摩耗鋼板表面に存在するスケールおよび脱炭層の影響を除くため、鋼板表面から1mmの深さまでの領域を研削除去したのちに実施した。したがって、測定された硬度は、鋼板表面から1mmの深さの面における表面硬度である。なお、測定に際しては、直径10mmのタングステン硬球を使用し、荷重は3000kgfとした。また、測定位置は、鋼板の幅方向中央とした。

0115

(マルテンサイトの体積率)
鋼板の幅方向中央、表面から1mmの深さの位置が観察位置となるよう、各鋼板からサンプルを採取した。前記サンプルの表面を鏡面研磨し、さらにナイター腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10mm×10mmの範囲を撮影した。撮影された像を、画像解析装置を用いて解析することによってマルテンサイトの面積分率を求めた。ランダムに10視野の観察を行い、得られた面積分率の平均値をマルテンサイトの体積率とした。

0116

(転位密度)
得られた耐摩耗鋼板から、測定位置が鋼板の幅方向中央となるように、幅25mm×長さ25mmの転位密度測定用試験片を採取し、転位密度を測定した。前記測定は、耐摩耗鋼板表面に存在するスケールおよび加工組織の影響を除くため、研削、機械研磨、および電解研磨によって鋼板表面から1mmの深さまでの領域を除去したのちに実施した。したがって、測定された転位密度は、鋼板表面から1mmの深さの面における転位密度である。転位密度は、X線回折測定によりラインプロファイルを取得し、得られたラインプロファイルをmodified Williamson-Hall法およびmodified Warren-Averbach法を用いて解析することによって算出した。前記X線回折測定は、次の条件で実施した。
電圧:40kV、
電流:150mA、
X線源:CuKα

0117

(介在物・析出物の密度)
鋼板の幅方向中央、表面から1mmの深さの位置が観察位置となるよう、各鋼板からサンプルを採取した。前記サンプルの表面を鏡面研磨し、SEMを用いて10mm×10mmの範囲を撮影した。撮影された像を、画像解析装置を用いて解析することによって介在物・析出物の粒径個数を求め、平均粒径500nm以上の介在物・析出物について個数を測定し、密度を求めた。

0118

(限界曲げ半径)
得られた鋼板から、幅50mm×長さ150mmの曲げ試験片を採取し、JIS Z 2248の規定に準拠して、曲げ角度:180°での曲げ試験を実施した。前記曲げ試験における、割れ発生のない最小の曲げ半径R(mm)、および板厚t(mm)から、限界曲げ半径R/tを求めた。限界曲げ半径R/tが3.8以下を曲げ加工性が良好であると判定した。

0119

以上の方法により得られた評価結果を、表2〜4に併記する。

0120

0121

0122

0123

実施例

0124

表2〜4に示した結果から分かるように、本願発明の条件を満たす耐摩耗鋼板は、優れた耐摩耗性と曲げ加工性を兼ね備えていた。このように、本発明によれば、耐摩耗鋼板の表面硬度を低下させることなく曲げ加工性を向上させることができるため、産業上極めて有用である。

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