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課題
解決手段
概要
背景
七宝焼による七宝製品は日本の伝統工芸品として従来からよく知られている。七宝焼によって形成される七宝層は、特有のガラス質の透明感と重量感があり、複雑に変化する微妙な色合いと光沢が生じて、美しく優雅な趣がある。
従来の七宝製品は、一般に銅板による基材の表面をよく磨いてから、その表面に様々な模様を描くように色彩の七宝釉薬を施し、それを焼成して釉着させ、ガラス質の七宝層を形成して作られる。
一方、ブローチ、ペンダント、ネクタイピン等の各種装身具は、一般に金や銀、プラチナなどの貴金属と宝石などによって作られているが、例えば、特許文献1に見られるように、表面に七宝焼による七宝層を形成した七宝装身具も製造されている。
特許文献1に記載された例では、金又は金合金製の装身具基材の表面に純銀メッキを施し、その上に各種の七宝釉薬を塗ってある程度乾燥させた後、釜又は炉に入れて焼成して七宝層を形成していた。それによって、七宝層の色彩や色調が経年変化するのを防ぎ、長期間に亘って品質が変化しないようにしている。
概要
簡単な工程で高級感のある七宝製品を製造でき、色濃度の調整や発色調整が容易で、繰り返し加熱しても表面の光沢がなくなったり変色が生じないようにする。素地加工工程S1で、金合金等の貴金属素材を所望形状の素地に加工した後、施釉工程S2で、その素地の表面(施釉面)に七宝釉薬を施して乾燥させ、貴金属コロイド塗布工程S3で、施釉工程S2で施された七宝釉薬上に貴金属ナノ粒子が溶媒中に分散した貴金属コロイドを塗布する。そして、乾燥工程S4である程度乾燥させた半製品を、焼成工程S5で電気炉に入れて焼成することにより、釉薬と貴金属コロイドの貴金属ナノ粒子とが一体となって釉着して、素地の表面に透明感のある光沢と安定した発色を呈する七宝層を形成する。その後、仕上研磨工程S6で、七宝層の表面を仕上げ研磨し、美しい七宝製品を完成させる。
目的
すなわち、比較的簡単な工程で高級感のある七宝製品を製造でき、色濃度の調整や発色調整が容易で、繰り返し加熱しても表面の光沢がなくなったり変色が生じるようなことがなく、常に安定して所望の仕上がり色味を得ることができ、気泡が入ったり割れが生じることもないようにすることを目的とする
効果
実績
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この技術が所属する分野
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請求項1
七宝胎又は素地に七宝釉薬を施して乾燥させる施釉工程と、該施釉工程で施された七宝釉薬上に貴金属ナノ粒子が溶媒中に分散した貴金属コロイドを塗布する貴金属コロイド塗布工程と、前記七宝胎又は素地に前記七宝釉薬が施され、その上に前記貴金属コロイドが塗布された半製品を焼成して七宝層を形成する焼成工程と、を有することを特徴とする七宝製品の製造方法。
請求項2
前記施釉工程から貴金属コロイド塗布工程を経て前記焼成工程までを複数回繰り返し行うことによって、前記七宝層の色の濃淡を制御することを特徴とする請求項1に記載の七宝製品の製造方法。
請求項3
前記貴金属コロイド塗布工程において、前記七宝釉薬上に前記貴金属コロイドを塗布して乾燥させた後、再び前記貴金属コロイドを塗布して乾燥させることを複数回繰り返すことによって、前記七宝層の色の濃淡を制御することを特徴とする請求項1に記載の七宝製品の製造方法。
請求項4
請求項5
技術分野
背景技術
0002
七宝焼による七宝製品は日本の伝統工芸品として従来からよく知られている。七宝焼によって形成される七宝層は、特有のガラス質の透明感と重量感があり、複雑に変化する微妙な色合いと光沢が生じて、美しく優雅な趣がある。
従来の七宝製品は、一般に銅板による基材の表面をよく磨いてから、その表面に様々な模様を描くように色彩の七宝釉薬を施し、それを焼成して釉着させ、ガラス質の七宝層を形成して作られる。
0003
一方、ブローチ、ペンダント、ネクタイピン等の各種装身具は、一般に金や銀、プラチナなどの貴金属と宝石などによって作られているが、例えば、特許文献1に見られるように、表面に七宝焼による七宝層を形成した七宝装身具も製造されている。
特許文献1に記載された例では、金又は金合金製の装身具基材の表面に純銀メッキを施し、その上に各種の七宝釉薬を塗ってある程度乾燥させた後、釜又は炉に入れて焼成して七宝層を形成していた。それによって、七宝層の色彩や色調が経年変化するのを防ぎ、長期間に亘って品質が変化しないようにしている。
先行技術
0004
特開2008−161603号公報
発明が解決しようとする課題
0005
しかしながら、このような従来の七宝装身具等の七宝製品の製造に使用する色付きの七宝釉薬としては、ステンドガラスの材料のような色付きガラスを溶かして固めた後、細かく砕いて微粉末状にしたものを、水とフノリ等でペースト状にしたものが多く使用されていた。
色付きガラス粉末による七宝釉薬として、例えば、朱赤系統の発色を得る釉薬の顔料にはセレンが使用されているが、セレンはレアアースのため入手が困難であることと、濃淡を作れないという問題があった。
0006
ピンク系統の発色を得る釉薬の顔料には金が使用されているが、常に安定して所望の仕上がり色味を出すのが難しく、さらに、修理などで焼き直しをすると、表面の光沢がなくなって曇ってくるという問題もあった。
ピンクの発色を得ようとする場合、基材に金顔料の七宝釉薬を直接施釉すると朱色になるため、基材の表面に銀メッキをして、白透(シロスケ)という透明な釉薬で下地を施し、その上に金顔料の七宝釉薬を重ねることによってピンクを出している。そのため、工程が増えてしまうとともに、気泡の混入や割れが生じやすいという問題がある。また、変色が起こりやすく、例えば周辺部が茶色く変色することが確認された。
0007
この発明は、七宝製品を製造するための上述のような問題を解消するためになされたものである。すなわち、比較的簡単な工程で高級感のある七宝製品を製造でき、色濃度の調整や発色調整が容易で、繰り返し加熱しても表面の光沢がなくなったり変色が生じるようなことがなく、常に安定して所望の仕上がり色味を得ることができ、気泡が入ったり割れが生じることもないようにすることを目的とする。
課題を解決するための手段
0008
この発明による七宝製品の製造方法は、上記の目的を達成するため、七宝胎又は素地に七宝釉薬を施して乾燥させる施釉工程と、その施釉工程で施された七宝釉薬上に貴金属ナノ粒子が溶媒中に分散した貴金属コロイドを塗布する貴金属コロイド塗布工程と、上記七宝胎又は素地に七宝釉薬が施され、その上に上記貴金属コロイドが塗布された半製品を焼成して七宝層を形成する焼成工程とを有することを特徴とする。
0009
上記施釉工程から貴金属コロイド塗布工程を経て焼成工程までを複数回繰り返し行うことによって、上記七宝層の色の濃淡を制御することができる。
上記貴金属コロイド塗布工程において、上記七宝釉薬上に上記貴金属コロイドを塗布して乾燥させた後、再び上記貴金属コロイドを塗布して乾燥させることを複数回繰り返すことによっても、上記七宝層の色の濃淡を制御することができる。
上記貴金属コロイド中の貴金属ナノ粒子の元素の種類あるいは粒子径又は粒子形状により、上記七宝層の発色を制御することもできる。
七宝装身具等を製造する場合には、上記七宝胎又は素地を金合金等の貴金属素地とし、上記貴金属コロイドとして、金ナノ粒子が溶媒中に分散した金コロイドを使用するとよい。
発明の効果
0010
この発明によれば、比較的簡単な工程で高級感のある七宝製品を製造でき、色濃度の調整や発色調整が容易で、繰り返し加熱しても、表面の光沢がなくなったり変色が生じるようなことがなく、常に安定して所望の仕上がり色味を得ることができ、気泡が入ったり割れが生じることもない。
図面の簡単な説明
0011
この発明による製造方法によって製造された七宝製品の一例を示すブローチの正面図である。
この発明の一実施形態の各工程を説明するための図1のX−X線に沿う断面に相当する模式的な拡大断面図である。
この発明による七宝製品の製造方法の一実施形態の工程図である。
実施例
0012
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は、この発明による製造方法によって製造されて七宝装製品の一例を示すブローチの正面図である。この七宝装製品1は、花びらをモチーフとした装身具のブローチであり、三つ又状になった支持部2と、その各先端に設けた花びら部3の輪郭縁11と七宝層12の形成面となる素地(基材)は、例えば金合金等の貴金属で作られる。
そして、その各花びら部3の図2に示す素地10の輪郭縁11で囲まれた領域である施釉面10a上に七宝層12が形成される。この七宝層を形成する基材を七宝胎とも称す。
0013
図2の(a)〜(d)は、この発明の一実施形態の各工程を説明するための図1のX−X線に沿う断面に相当する模式的な拡大断面図である。
まず、(a)は七宝胎となる素地の加工工程を示す。この工程では、この例では金合金等の貴金属によって、図1に示した支持部2と共に花びら部3の輪郭縁11を含む素地10を作成する。支持部2と各花びら部3とを別に作成してもよい。ここでは、花びら部3の製造についてのみ説明する。
0014
花びら部3の輪郭縁11及び施釉面10aを含む素地10は、金合金等の貴金属素材を鋳造、プレス、あるいは彫造などによって加工して作る。これが、素地加工工程である。その際、施釉面10aに凹凸による任意の模様を形成してもよい。そうすると、後の工程で透明釉薬と貴金属コロイドを用いて七宝層を形成した場合に、その凹凸による模様が透けて見えるようになる。
0015
このように加工した素地10を加熱(空焼き)して焼き鈍しを行った後、酸化被膜を除去し、金属光沢が得られるまで研磨するとよい。さらに、素地10に合った処理を施した後、重層などを用いて脱脂処理を行うのが望ましい。これらが、必要に応じて実施する前処理工程である。
素地10に合った処理とは、例えば素地10が金色の製品の場合、白透釉薬と金コロイドを使用して七宝層を形成し、橙色として見せたい場合は研磨処理のみでよいが、桃色として見せたい場合は素地10に銀メッキ処理を施すことにより鮮やかに見える。素地10が銀色の製品の場合は、研磨処理のみで桃色を鮮やかに見せることができる。
0016
次の工程で、図2の(b)に示すように、素地10の輪郭縁11で囲まれた施釉面10a上に七宝釉薬13を筆やホセ(竹べら)を使用して施して(盛り込み)、乾燥させる。これが施釉工程である。七宝釉薬13としては、例えば無色の透明釉薬である白透(シロスケ)を使用するとよい。
しかし、七宝釉薬13は従来と同様な各種のものを使用することができる。すなわち、半透明の半透(ハンスケ)釉薬や白色の白釉薬、場合によっては顔料を含む色釉薬を使用してもよい。
0017
次に、図2の(c)に示す貴金属コロイド塗布工程で、(b)の施釉工程で施された七宝釉薬13上に貴金属ナノ粒子が溶媒中に分散した貴金属コロイド15を塗布する。塗布された貴金属コロイド15は、七宝釉薬13内に浸み込んでいく。
貴金属コロイド15は、白金、金、銀等の貴金属の粒径がナノサイズ(1〜100nm)にコントロールされた微粒子が、溶媒である液体中に均一に分散している。これを貴金属コロイド溶液あるいは貴金属コロイド液ともいう。
0018
貴金属ナノ粒子が金ナノ粒子である金コロイドは、例えばインフルエンザの検査等に使用する抗体標識の試薬に使用され、あるいは医療用などにも使用されている。この例では、この金コロイドを使用するとよい。
なお、貴金属ナノ粒子の元素の種類あるいは粒子径又は粒子形状により、七宝層の発色を制御することができる。その具体例については後述する。
0019
貴金属ナノ粒子を分散させる溶媒としては、蒸留水、リン酸緩衝液、ポリエチレングリコール溶液、有機溶剤など、貴金属ナノ粒子が凝集しない溶液であれば、どの溶液でも使用可能である。さらに、貴金属ナノ粒子表面をアミノ酸修飾して、粒子同士が凝集しないようにしたものは、より安定した分散状態を維持するため、発色が安定する。
0020
貴金属コロイドの濃度に関しては、市販品のものを基準に、それぞれの溶液で希釈することによって薄い色味を、溶液を揮発させることによって濃い色味を得ることが可能である。市販品としては、基本的に抗原・抗体の検査法であるイムノクロマト法で使用されている貴金属コロイドであれば、安定して使用することができる。それは、例えばシグマアルドリッチ社やコスモバイオ社などが市販している。
0021
このようにして、素地10の表面(施釉面10a)に七宝釉薬13が施され、その上に貴金属コロイド15が塗布された半製品(この例では花びら部3の半製品)を加熱して焼成することによって、図2の(d)に示すように、貴金属素地上に七宝層12が形成される。これが焼成工程である。この焼成工程の前に、七宝釉薬13上に塗布した貴金属コロイド15をある程度乾燥させることによって、泡の混入を防ぎ、より透明性の高い七宝層を得ることができる。そのため乾燥工程を行うのが望ましい。特に、貴金属コロイド15を重ね塗りする場合は、先に塗った貴金属コロイド15がある程度乾燥してから再度貴金属コロイドを塗る必要がある。
0022
焼成工程は、素地10の表面に七宝釉薬13が施され、その上に貴金属コロイド15が塗布された図2の(c)に示すような半製品を電気炉に入れ、通常の七宝焼の焼成工程と同様の温度帯(700〜800℃)で同様な焼成時間(数十秒〜数分)だけ行う。
それによって、七宝釉薬13と貴金属コロイド15の貴金属ナノ粒子とが一体となって釉着して七宝層12を形成し、透明感のある光沢と安定した発色を呈する。例えば、白透釉薬と金コロイドを使用した場合、従来より透明感の高い幾分青みがかったピンク色に発色した。
0023
このように七宝層12を形成した後、仕上研磨工程で、バフ研磨や炭研ぎなどの仕上げ研磨を行って、装身具を完成させる。施釉工程で素地10からはみ出して施釉されて七宝層が形成された部分などを炭研ぎで落として面を整えるとよいが、その場合は、七宝層の表面に小さな傷が入るため、再度焼成を行って表面を平滑に整えるのが望ましい。
0024
図3は、この発明による七宝製品の製造方法の一実施形態の工程図である。
この実施形態による七宝製品の製造方法は、図3に示すように、素地加工工程S1、施釉工程S2、貴金属コロイド塗布工程S3、乾燥工程S4、焼成工程S5、仕上研磨工程S6の各工程を順に実施する。その各工程の内容については、図2によって前述したとおりである。
0025
まず、素地加工工程S1で、例えば金合金等の貴金属素材を所望形状の素地に加工した後、必要に応じて前述した空焼き、研磨、脱脂処理等の前処理工程を実施するのが望ましい。この工程を、後述する各種の材料によって七宝胎を形成する七宝胎形成工程としてもよい。
次の施釉工程S2では、その素地又は七宝胎の表面(施釉面)に、前述したように七宝釉薬を施して乾燥させる。
そして、貴金属コロイド塗布工程S3で、施釉工程S2で施された七宝釉薬上に貴金属ナノ粒子が溶媒中に分散した貴金属コロイドを塗布する。そして、乾燥工程S4である程度乾燥させる。
0026
このようにして、貴金属素地の表面(施釉面)に七宝釉薬が施され、その上に貴金属コロイドが塗布された半製品を、焼成工程S5で電気炉に入れて加熱し、700〜800℃で数十秒〜数分間焼成する。
それによって、七宝釉薬と貴金属コロイドの貴金属ナノ粒子とが一体となって釉着して、素地の表面に七宝層を形成し、透明感のある光沢と安定した発色を呈する。
その後、仕上研磨工程S6で、七宝層の表面を仕上げ研磨し、美しい七宝製品(前述の例では装身具であるブローチ)を完成させる。
0027
なお、貴金属コロイド塗布工程S3において、七宝釉薬上に貴金属コロイドを塗布し、乾燥工程S4で乾燥させた後、図3に一点鎖線の矢印線で示すように、再び貴金属コロイド塗布工程S3で金コロイドを塗布し、乾燥工程S4で乾燥させることを複数回繰り返してもよい。それによって、一度の焼成によって形成される七宝層の発色による色の濃淡を制御することができる。このようにして、貴金属コロイドを塗布する回数を多くするほど発色する色の濃度が濃くなる。
0028
あるいは、図3に破線の矢印線で示すように、施釉工程S2で素地又は七宝胎の表面(施釉面)に七宝釉薬を施して乾燥させ、貴金属コロイド塗布工程S3において七宝釉薬上に貴金属コロイドを塗布し、乾燥工程S4で乾燥させ、焼成工程S5で焼成した後、再び施釉工程S2から焼成工程S5までを、複数回繰り返し行うことによっても、七宝層の色合いや発色の濃淡を制御することができる。
この場合も、繰り返し回数すなわち貴金属コロイドを塗布する回数が多くなるほど、発色する色の濃度が濃くなる。
0029
また、後述するように、貴金属コロイド塗布工程S3において塗布する貴金属コロイド中の貴金属ナノ粒子の元素の種類あるいは粒子径又は粒子形状により、七宝層の発色を制御することもできる。
たとえば、金コロイドを使用した場合、金ナノ粒子が球形であれば、粒子径が20nmで橙色、40nmで桃色、80nmで青紫色を発色する。金ナノ粒子が平板状のものでは青色を、円柱状のものでは紫色を発色する。金ナノ粒子が球形以外のものの場合、その厚みや大きさにより発色の色味を制御することが可能である。そして、それらの金ナノ粒子を分散させた金コロイドを七宝釉薬上に塗布して焼成しても、前述と同様に各色に発色する七宝層を形成することができる。
0030
貴金属ナノ粒子の元素が金以外の貴金属、例えば銀である銀コロイド、あるいは白金(プラチナ)である白金コロイドなども使用することができる。そして、貴金属コロイド中の貴金属ナノ粒子の元素の種類によっても七宝層の発色を制御することが可能である。
銀コロイドやプラチナコロイドも基本的には粒径などの大きさによって発色が変化する。さらに、銀コロイドの場合は特殊な特性を有しており、色の三原則をもとに調色することで、銀ナノ粒子の大きさが異なる銀コロイドを混ぜても所望の色を呈する。他の貴金属コロイドの場合は、赤と青を混ぜても紫にはならないが、銀コロイドの場合は原則通り紫色になるため、水彩絵の具のような混色も行え、グラデーション表現も容易に行える。
0031
このような七宝製品の製造方法によれば、比較的簡単な工程で高級感のある七宝製品を製造でき、色濃度の調整や発色調整が容易で、繰り返し加熱しても表面の光沢がなくなったり変色が生じるようなことがなく、常に安定して所望の仕上がり色味を得ることができ、気泡が入ったり割れが生じることもない。
0032
また、例えば金素地の七宝装身具の場合、ニューピンク、シルバーピンク、あるいはG100(ピンク)の釉薬を使用して七宝層を形成した現行品は、幾分黄色味がかったピンク色である。これに対して、白透釉薬上に金コロイドを塗布して七宝層を形成したこの発明の実施品は、黄色味がなく透明感の高い幾分青味がかったピンク色であるとの評価を受けた。
例えば、現行品のシルバーピンクの色データは、#e1c17c5で、Light grayish red と定義され、色構成はRGB(88,78,77)CMYK(0,12,12,12)となる。明度の高い部位では #ffe0e0で、Very pale red(Pink tone)と定義される。
0033
一方、この発明を実施した製品の色データは、#bb87a3で、Slightly desaturated pinkと定義され、その色構成はRGB(73,53,64)CMYK(0,28,13,27)となった。そして、明るい部位では#ffb8deでPale pinkと定義される。
消費者は、自身の肌色に応じて装身具の色を選択する傾向にあり、このような色味の違いによって、消費者の選択肢が増えるという点でも有効である。
0034
装身具等の高級品を製造する場合、七宝胎となる素地の材料として貴金属を使用する。例えば、K24、K22、K18などの金合金(ホワイトゴールドなどの色違いも含む)、純銀、Sil925などの銀合金、Pt1000、Pt950などのプラチナ合金等である。日用品や装飾品などの場合は、銅や鉄、黄銅など他の金属も使用できる。
あるいはさらに、陶器やセラミックによる七宝胎、その表面に銀メッキ等の金属メッキを施したり、金属箔を被覆した七宝胎を使用することもできる。
すなわち、図3によって前述した、S2〜S5の工程によって七宝層の形成を行える材料であれば、どのようなものでも素地あるいは七宝胎として使用できる。
0035
この発明は、前述したような無線七宝に限らず、有線七宝や透胎七宝、省胎七宝など、全ての七宝技術への応用が可能である。
有線七宝の場合は、素地上に銀線等の貴金属で模様の輪郭線を作り、その輪郭線で区切られた領域ごとに異なる釉薬を施したり、その釉薬上に発色が異なる貴金属コロイドを塗布したり、貴金属コロイドの塗布回数を変えたりすることができ、その後の焼成によって、複数色からなる複雑な模様の七宝層を形成することができる。
0036
透胎七宝は、胎(素地)の一部を切り貫いて透かしにし、そこに透明釉薬を施して、他の部分には通常の七宝層を形成する技法である。その場合、透かし部分に透明釉薬の水分の表面張力を利用して薄い透明な七宝の層を焼成し、その後、目的の釉薬を載せることで、安定した透胎を作成することができる。
0037
省胎七宝は、例えば銅胎(素地)に銀線で模様を付けて七宝層を形成した後、銅胎を酸で腐食させて除去し、銀線とそれに囲まれた七宝部分だけを残す技法である。このような七宝製品の製造にもこの発明を適用することができる。このようにして製造した装身具(宝飾品)は、貴石を地金で留めたものと同様なイメージになる。
0038
この発明によって製造できる七宝製品の具体例としては、ブローチ、ペンダント、イヤリング、ピアス、指環、ネックレス、ブレスレット、ネクタイピン、カフス、クラスプ、髪飾り、帯留め等の装身具や宝飾品がある。しかし、それらに限らず、コンパクト、時計、メガネ、手鏡、フォトフレーム、筆記具(ボールペンや万年筆等)などの日用品雑貨を含む、広範な七宝製品にこの発明を適用することができる。
0039
1:七宝製品(ブローチ) 2:支持部 3:花びら部
10:素地10a:施釉面 11:輪郭縁12:七宝層
13:七宝釉薬15:貴金属コロイド