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課題
解決手段
概要
背景
液体ヘリウムによる冷却を要しない高温超電導線材として、銅酸化物超電導線材が開発されており、中でもBi系超電導線材とY系超電導線材が実用化されている。
Bi系超電導線材は超電導体の結晶自体が配向し易い特徴を有するため、金属シースに多結晶試料を充填して縮径し、熱処理を行うというパウダーインチューブ法(Powder-in-tube法)により線材化が可能となる。
一方で20K程度の伝導冷却条件において磁場下での臨界電流特性はBi系超電導線材に比べ、Y系超電導線材が勝っている。ところが、Y系超電導線材は超電導体の結晶方位を厳密に揃えないと、臨界電流特性が低下する特徴があるため、成膜法などによる2軸配向化プロセスが必要となる。ところが、成膜法による2軸配向化プロセスは製造プロセスの肥大化、高コスト化につながる問題がある。20K程度の伝導冷却とは冷凍機を用いて到達できる冷却温度である。
このため、実用超電導線材を用いた超電導コイルの分野では20K以上の運転温度の高磁場下において、より高い臨界電流密度を示す超電導材料を用いた超電導線材が求められている。
近年、銅酸化物超電導体とは異なる高温超電導体として、鉄を中心とした鉄系混合アニオン化合物が発見された。
この種の鉄系超電導体として、56K程度の臨界温度(Tc)を示すZrCuSiAs型の結晶構造をもつ1111系化合物、38K程度のTcを示すThCr2Si2型結晶構造をもつ122系化合物、15K程度のTcを示すα‐PbO型結晶構造をもつ11系化合物など、異なる結晶構造を有する多くの超電導体が見つかっている。
このうち、Tcの高い1111系化合物や122系化合物については、銅酸化物超電導体に匹敵する高い上部臨界磁場(Hc2)を示すため、線材への応用を目指しPIT法によるシース線材作製や、PLD法等の成膜法により超電導膜を積層したテープ線材の作製が試みられている(特許文献1参照)。
また、Nb−TiやNb3Snなどの液体ヘリウム冷却が必要な低温超電導体では、永久電流モードを実現可能な超電導コイルが市販されている。しかしながら、銅酸化物超電導線材あるいは鉄系高温超電導線材を長尺化した超電導コイルにあっては、未だ永久電流モードが実現されていないのが現状である。
従来の高温超電導線材において永久電流モードを実現できない原因は、超電導体の結晶粒同士の粒間において生じる超電導電流を阻害する弱結合(ウィークリンク)を生じることが原因とされている。
この問題を解決できる1つの技術として、PIT法と称される線材作製プロセスにより製造可能な超電導材料による超電導線材の長尺化とその接合方法が重要であると考えられている。
概要
本発明の目的は、臨界温度と臨界電流密度の高い超電導線材とその製造方法の提供にある。本発明の超電導線材は、A2DFeAsO3-δ(Aはアルカリ土類金属Mg、Ca、Sr、Baの中から選択される1種または2種以上の元素を示し、Dは遷移金属Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、希土類La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、アルカリ土類金属Mg、典型金属元素Alの中から選択される1種または2種以上の元素を示す。)なる組成式で示されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体を含むコア部が金属シースの内部に充填されたことを特徴とする。
目的
効果
実績
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請求項1
A2DFeAsO3-δ(Aはアルカリ土類金属Mg、Ca、Sr、Baの中から選択される1種または2種以上の元素を示し、Dは遷移金属Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、希土類La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、アルカリ土類金属Mg、典型金属元素Alの中から選択される1種または2種以上の元素を示す。)なる組成式で示される混合アニオン型鉄系超電導体を含むコア部が金属シースの内部に充填されたことを特徴とする超電導線材。
請求項2
前記組成式における酸素欠損量を示すδの値が0<δ<0.2の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
請求項3
請求項4
臨界温度(Tc)の測定値と、10K〜20Kにおける臨界電流密度の測定値(Jc)との関係において、Jc(0){1−(T/Tc)2}…(1)式の関係から求められる0Kにおける臨界電流密度が25A/cm2以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の超電導線材。
請求項5
A2DFeAsO3-δ(Aはアルカリ土類金属Mg、Ca、Sr、Baの中から選択される1種または2種以上の元素を示し、Dは遷移金属Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、希土類La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、アルカリ土類金属Mg、典型金属元素Alの中から選択される1種または2種以上の元素を示す。)なる組成式で示される混合アニオン型鉄系超電導体を金属シースの内部に設けた超電導線材を製造するに際し、元素Aと元素DとFeとAsを前記組成式の割合または前記組成式に近似した割合で含む原料混合粉末を用意し、この原料混合粉末を予備焼成して仮焼き粉末を得、この仮焼き粉末を金属チューブの内部に充填した後、前記金属チューブを圧縮して金属シースとその内部に充填されたコア部を有する圧縮体を得るとともに、前記圧縮体を本焼成して前記コア部内にA2DFeAsO3-δなる組成式で示される超電導体を生成することを特徴とする混合アニオン型鉄系超電線材の製造方法。
請求項6
請求項7
前記A2DFeAsO3-δなる組成式で示される超電線材が、Sr2VFeAsO3-δなる組成式で示される混合アニオン型鉄系超電線材であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の混合アニオン型鉄系超電導線材の製造方法。
請求項8
技術分野
背景技術
0002
液体ヘリウムによる冷却を要しない高温超電導線材として、銅酸化物超電導線材が開発されており、中でもBi系超電導線材とY系超電導線材が実用化されている。
Bi系超電導線材は超電導体の結晶自体が配向し易い特徴を有するため、金属シースに多結晶試料を充填して縮径し、熱処理を行うというパウダーインチューブ法(Powder-in-tube法)により線材化が可能となる。
一方で20K程度の伝導冷却条件において磁場下での臨界電流特性はBi系超電導線材に比べ、Y系超電導線材が勝っている。ところが、Y系超電導線材は超電導体の結晶方位を厳密に揃えないと、臨界電流特性が低下する特徴があるため、成膜法などによる2軸配向化プロセスが必要となる。ところが、成膜法による2軸配向化プロセスは製造プロセスの肥大化、高コスト化につながる問題がある。20K程度の伝導冷却とは冷凍機を用いて到達できる冷却温度である。
このため、実用超電導線材を用いた超電導コイルの分野では20K以上の運転温度の高磁場下において、より高い臨界電流密度を示す超電導材料を用いた超電導線材が求められている。
0003
近年、銅酸化物超電導体とは異なる高温超電導体として、鉄を中心とした鉄系混合アニオン化合物が発見された。
この種の鉄系超電導体として、56K程度の臨界温度(Tc)を示すZrCuSiAs型の結晶構造をもつ1111系化合物、38K程度のTcを示すThCr2Si2型結晶構造をもつ122系化合物、15K程度のTcを示すα‐PbO型結晶構造をもつ11系化合物など、異なる結晶構造を有する多くの超電導体が見つかっている。
このうち、Tcの高い1111系化合物や122系化合物については、銅酸化物超電導体に匹敵する高い上部臨界磁場(Hc2)を示すため、線材への応用を目指しPIT法によるシース線材作製や、PLD法等の成膜法により超電導膜を積層したテープ線材の作製が試みられている(特許文献1参照)。
0004
また、Nb−TiやNb3Snなどの液体ヘリウム冷却が必要な低温超電導体では、永久電流モードを実現可能な超電導コイルが市販されている。しかしながら、銅酸化物超電導線材あるいは鉄系高温超電導線材を長尺化した超電導コイルにあっては、未だ永久電流モードが実現されていないのが現状である。
従来の高温超電導線材において永久電流モードを実現できない原因は、超電導体の結晶粒同士の粒間において生じる超電導電流を阻害する弱結合(ウィークリンク)を生じることが原因とされている。
この問題を解決できる1つの技術として、PIT法と称される線材作製プロセスにより製造可能な超電導材料による超電導線材の長尺化とその接合方法が重要であると考えられている。
先行技術
0005
特開2014−227329号公報
発明が解決しようとする課題
0006
特許文献1に記載の従来の混合アニオン化合物鉄系超電導体の線材化では、線材加工と線材の熱処理時に生じる超電導体の化学組成変化により超電導転移温度の著しい低下が避けられなかった。
そこで本発明者らは、PIT法を適用して超電導線材を製造する場合に有望な鉄系超電導体の候補として、30K程度の超電導転移温度を有し、臨界磁場が200Tを超えると報告されているSr2VFeAsO3-δなる組成の混合アニオン化合物鉄系超電導体を選択し、線材化の研究を行った。現状では本発明者の知る限り、このような組成の混合アニオン化合物鉄系超電導体を用いて超電導線材の製造に成功したという報告はなされていない。
0007
そこで、本発明者が上述の混合アニオン化合物鉄系超電導体を用い、PIT法に従って超電導線材の製造について試験したところ以下の知見を得ることができた。
混合アニオン化合物鉄系超電導体の原料粉末からなる超電導コアをAgの内部シースとFeの外部シースで覆う構造を採用し、この超電導コアを熱処理した。その結果、熱処理時にAsがシース側に拡散してしまい、超電導コアに含まれるべきAsが不足し、超電導コアに生成するべき超電導体の化学組成が崩れることを確認できた。また、PIT法による製造条件を種々検討したところ、混合アニオン化合物鉄系超電導体の一部のものは、熱処理による化学変化に対し臨界温度の変化を鈍感にすることが可能なことを確認できた。
0008
本発明は、前記の課題に鑑みなされたものであって、線材熱処理による化学変化に対し臨界温度の変化を鈍感にすることが可能な混合アニオン化合物鉄系超電導体を用いた超電導線材とその製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
0009
本発明は、上記課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
(1)本発明の超電導線材は、A2DFeAsO3-δ(Aはアルカリ土類金属Mg、Ca、Sr、Baの中から選択される1種または2種以上の元素を示し、Dは遷移金属Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、希土類La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、アルカリ土類金属Mg、典型金属元素Alの中から選択される1種または2種以上の元素を示す。)なる組成式で示される混合アニオン型鉄系超電導体を含むコア部が金属シースの内部に充填されたことを特徴とする。
A2DFeAsO3-δなる組成式で示される鉄系超電導体を含むコア部を金属シースの内部に充填した構造の超電導線材であるならば、20K程度の臨界温度を示すとともに、優れた臨界電流密度を示す超電導線材を提供できる。
0010
(2)本発明において、前記組成式における酸素欠損量を示すδの値を0<δ<0.2の範囲で選択できる。
超電導線材のコア部に適用する鉄系超電導体としてA2DFeAsO3-δなる組成式で示されるものを適用することができ、酸素欠損量を示すδの値を0<δ<0.2の範囲とすることで、臨界温度の高い、臨界電流密度の高い超電導線材を得ることができる。
0011
(3)本発明において、前記金属シースがCuシース、Feシース、CuとFeの複合材シース、Agシース、AgとFeの複合材シースのうち、いずれかからなるものを選択できる。
超電導コアを取り囲む金属シースとしてこれらの金属からなるシースを適用することができ、金属シースで超電導コアを覆った安定性の良好な臨界温度の高い、臨界電流密度の高い超電導線材を得ることができる。
0012
(4)本発明において、臨界温度(Tc)の測定値と、10K〜20Kにおける臨界電流密度の測定値(Jc)との関係において、Jc(0){1−(T/Tc)2}…(1)式の関係から求められる0Kにおける臨界電流密度が25A/cm2以上の超電導線材を得ることができる。
0013
(5)本発明の製造方法は、A2DFeAsO3-δ(Aはアルカリ土類金属Mg、Ca、Sr、Baの中から選択される1種または2種以上の元素を示し、Dは遷移金属Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、希土類La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、アルカリ土類金属Mg、典型金属元素Alの中から選択される1種または2種以上の元素を示す。)なる組成式で示される混合アニオン型鉄系超電導体を金属シースの内部に設けた超電導線材を製造するに際し、
元素Aの単体粉末あるいは酸化物粉末と元素Dの単体粉末あるいは酸化物粉末とFeの単体粉末あるいは酸化物粉末とAsの単体粉末あるいは酸化物粉末を各元素が前記組成式で示される割合あるいは前記組成式に近似した割合になるように混合して原料混合粉末を得、この原料混合粉末を仮焼きして仮焼き粉末を得、この仮焼き粉末を金属チューブの内部に充填した後、前記金属チューブを圧縮して金属シースとその内部に圧縮充填されたコア部を有する圧縮体を得るとともに、前記圧縮体を本焼成して前記コア部内にA2DFeAsO3-δなる組成式で示される超電導体を生成することを特徴とする。
A2DFeAsO3-δで示される組成比となるように原料粉末を配合した原料混合粉末を仮焼きして仮焼き粉末を得、この仮焼き粉末を金属シースに充填して圧縮した圧縮体を本焼成することにより、原料粉末に含まれて近接配置された成分どうしが反応してA2DFeAsO3-δで示される超電導体を生成することができ、目的の超電導コアを備えた超電導線材が得られる。
0014
(6)本発明において、前記本焼成温度を800〜1030℃、前記本焼成時間を16時間以内とすることが好ましい。
800〜1030℃の焼成温度で本焼成し、本焼成時間を16時間以内とすることで超電導コアに含まれている元素の金属シース側への拡散を低く抑制できる。このため、超電導コアにおける特定元素の不足を抑制しつつ組成の整った超電導体を含む超電導コアを有する超電導線材を製造できる。
0015
(7)本発明において、前記A2DFeAsO3-δなる組成式で示される超電導体が、Sr2VFeAsO3-δなる組成式で示されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体であることが好ましい。
Sr2VFeAsO3-δなる組成式で示されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体であるならば、20K程度以上の臨界温度を示し、臨界電流密度の高い超電導線材を提供できる。
0016
(8)本発明において、前記A2DFeAsO3-δなる組成式で示される超電導体が、Sr2VFeAsO3-δなる組成式で示されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体であり、前記一次混合粉末を得る場合、Srの酸化物粉末と、FeAs粉末と、Vの単体粉末またはVの酸化物粉末を混合して焼成することが好ましい。
発明の効果
0017
本発明によれば、A2DFeAsO3-δなる組成式で示される鉄系超電導体を含むコア部を金属シースの内部に充填した構造の超電導線材であるので、20K程度以上の臨界温度を示すとともに、優れた臨界電流密度を示すペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導線材を提供できる。
図面の簡単な説明
0018
本発明に係る第1実施形態のペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導線材を示す横断面図。
組成式Sr2VFeAsO3-δで表されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体の結晶構造を示す説明図。
第1実施形態の超電導線材の製造工程について示すもので、(A)は原料粉末の混合工程を示す斜視図、(B)は原料混合粉末からなるペレットを示す斜視図、(C)は仮焼き用の焼成炉を示す斜視図、(D)は仮焼き後の焼成体を示す斜視図、(E)は仮焼き後の焼成体を粉砕混合する工程を示す斜視図、(F)は粉砕混合物をAgチューブに充填する工程を示す斜視図、(G)は圧延ロールでチューブを圧延している状態を示す斜視図、(H)は本焼成炉を示す斜視図。
Sr2VFeAsO3-δで表される組成比となるように原料粉末を配合して原料混合粉末を製造する工程について示す説明図。
原料混合粉末に施す熱処理条件の一例を示すグラフ。
実施例においてFeのチューブの中にAgのチューブを挿入し、Agのチューブ内に包まれた混合アニオン型鉄系超電導体混合粉末を充填して製造された複合管を示す写真。
実施例において得られた超電導線材の一例を示す拡大断面写真。
比較のために製造された超電導バルク体の低温域における抵抗変化を示すグラフ。
実施例において1時間、2時間、4時間、8時間、16時間、32時間、64時間、128時間のいずれかの焼成時間で製造された超電導線材において、超電導コアの一部と内部シースの一部に対しEDXライン分析を行った位置を示す組織写真。
図9に示す各焼成時間毎の超電導線材に対しSrについてEDXライン分析した結果を示す図。
図9に示す各焼成時間毎の超電導線材に対しVについてEDXライン分析した結果を示す図。
図9に示す各焼成時間毎の超電導線材に対しAgについてEDXライン分析した結果を示す図。
図9に示す各焼成時間毎の超電導線材に対しFeについてEDXライン分析した結果を示す図。
図9に示す各焼成時間毎の超電導線材に対しOについてEDXライン分析した結果を示す図。
図9に示す各焼成時間毎の超電導線材に対しAsについてEDXライン分析した結果を示すグラフであり、横軸の0以下は銀シース部分に属し、横軸の0以上はコア部分に属することを示す図。
鉄からなる外部シースにおけるAs量のスポット分析について焼成時間に対するAs量の変化を示すグラフ。
1時間熱処理を行って得た超電導線材について、超電導コアと銀の内部シースの界面付近に対しEDX測定によりAs量対応カウント強度を求め、このカウント強度にについて50点に対し線形近似により近似直線の傾きaを求め、このaの値について位置依存性を示した図。
1時間〜128時間熱処理を行って得た実施例の各超電導線材について、図17で求めた近似直線の傾きaの最大値または極大値付近の周囲を拡大表示したグラフであり、(a)は1時間焼成により得た超電導線材について示すグラフ、(b)は2時間焼成により得た超電導線材について示すグラフ、(c)は4時間焼成により得た超電導線材について示すグラフ、(d)は8時間焼成により得た超電導線材について示すグラフ、(e)は16時間焼成により得た超電導線材について示すグラフ、(f)は32時間焼成により得た超電導線材について示すグラフ、(g)は64時間焼成により得た超電導線材について示すグラフ、(h)は128時間焼成により得た超電導線材について示すグラフである。
1時間、2時間、4時間、8時間、16時間、32時間、64時間、128時間熱処理を行って得た各超電導線材について拡散を生じてAsの濃度勾配を生じている領域を示すグラフ。
(A)は比較のために製造した超電導バルク体のX線回折分析結果を示すグラフ、(B)は実施例において2時間焼成して得た超電導線材の超電導コアのX線回折分析結果を示すグラフ。
実施例で製造した超電導線材において0−300Kにおける電気抵抗の温度依存性を示すグラフ。
実施例で製造した超電導線材において0−50Kにおける電気抵抗の温度依存性を示すグラフ。
実施例で製造した超電導線材において6−15Kにおける電気抵抗の温度依存性を示すグラフ。
実施例において製造された各超電導線材の0Kにおける臨界電流密度を計算で求めるためのグラフであり、上段は1時間焼成により製造した超電導線材について16Kと18Kにおける印加電圧と電流の関係を示し(試料につけた電極と電圧計の間の温度差に由来する熱起電力はV0として差し引いた。)、中段は2時間焼成により製造した超電導線材の17K、18Kの印加電圧と電流の関係、下段は4時間焼成により製造した超電導線材の13K、15Kの印加電圧と電流の関係を示すグラフ。
実施例で3種類の焼成時間により製造した超電導線材について0Kにおける臨界電流密度を見積もった結果を対比して示すグラフ。
先の研究により求められているSr2VFeAsO3-δで表されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体の相図。
0019
以下、本発明の実施形態を挙げて本発明の詳細について説明する。
図1は本発明に係るペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導線材の横断面構造の一例を示すもので、この実施形態の超電導線材Aは、超電導体の結晶を内部に含む円形断面の超電導コア1と、この超電導コア1の外周を取り囲むチューブ状の金属製の内部シース2と、この内部シース2の外周を取り囲むチューブ状の金属製の外部シース3とからなる。
超電導線材Aの全体形状は長尺の線材であることが好ましいが、用途に応じた必要な長さの線材あるいは短尺の線材であっても良い。長尺の線材であれば超電導コイル用の巻線や送電線用途に使用することができ、短尺のものでも超電導線接続用の端子などの用途に適用することができるので、長さは問わない。
また、超電導線材Aの断面形状は図1に示すような断面円形状に限らず、矩形断面形状や十字型や四葉型などの異形断面形状であっても良い。更に、超電導コア1を内部シース2の内に1つのみ有する図1の単芯構造に限らず、内部シース2の内部に複数の超電導コアを有する多芯構造であっても良い。
0020
本実施形態の超電導コア1は、後述する製造工程において説明するようにA2DFeAsO3-δなる組成式で示される超電導体の構成元素を含む複数の原料粉末をシース材とともに圧延し、焼成してなる。原料粉末の圧密時に内部シース2と外部シース3も圧着一体化されるので、焼成後に得られる超電導コア1と内部シース2と外部シース3は相互に密着一体化されている。
0021
前記組成式A2DFeAsO3-δにおいて、Aはアルカリ土類金属Mg、Ca、Sr、Baの中から選択される1種または2種以上の元素を示し、Dは遷移金属Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、希土類La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、アルカリ土類金属Mg、典型金属元素Alの中から選択される1種または2種以上の元素を示す。1つの具体例として、Sr2VFeAsO3-δなる組成式で示されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体を例示することができるが、この他にCa2(Al,Ti)FeAsO3なる組成、Sr2(Mg,Ti)FeAsO3なる組成、Ca2AlFeAsO3なる組成の鉄系超電導体を例示できる。
0022
組成式Sr2VFeAsO3-δで表される超電導体の結晶構造の一例を図2に示す。
図2に示す結晶構造は、層状ペロブスカイト構造のSr2VO3-δ層をブロック層としてFeAs層を上下のブロック層でサンドイッチした結晶構造であり、この結晶構造の結晶格子定数はa=0.393nm、c=1.57nmであり、空間群P4/nmmに分類される結晶構造を有する化合物である。
0023
図1に示す超電導コア1の周囲を取り囲む内部シース(金属シース)2はAg、Cu、Au、Feなどの良電気伝導性の金属材料あるいはこれら金属材料を主体とする合金からなり、内部シース2の周囲を取り囲む外部シース(金属シース)3はFe、Ag、Cu、Auなどの金属材料あるいはこれら金属材料を主体とする合金からなることが好ましい。なお、内部シース2は超電導体の結晶と隣接配置されるので、超電導体の安定化材として機能することが好ましく、特に電気伝導性の優れたAgやCuなどの金属材料からなることが好ましい。
0024
図3は図1に示す超電導線材Aの製造方法の一例工程を示すもので、まず、出発材料となる原料混合粉末を用意する。原料混合粉末は、例えば、A2DFeAsO3-δなる組成式で示される目的の組成比となるように元素Aと元素DとFeとAsを含む原料の混合粉末である。
原料混合粉末を得る場合、元素Aの単体粉末あるいは酸化物粉末と、元素Dの単体粉末あるいは酸化物粉末と、Feの単体粉末あるいは酸化物粉末と、Asの単体粉末あるいは酸化物粉末を混合することができる。また、元素Aの単体粉末あるいは酸化物粉末と、元素Dの単体粉末あるいは酸化物粉末と、FeAs粉末を混合して原料混合粉末を得ることもできる。例えば、元素Aの酸化物粉末と、FeAs粉末と、元素Dの粉末または元素Dの酸化物粉末を混合して原料混合粉末を得ることができる。
なお、原料混合粉末を調整する場合、後の焼成時に昇華などの理由により消失する成分がある場合は、その成分を多く原料混合粉末に混入しておくことが好ましい。
例えば、酸素(O)やヒ素(As)は800〜1000℃焼成時に昇華するおそれがあるので、原料混合粉末中に前述の組成比の割合よりも0〜5原子%程度多く含有させておくことができる。酸素の割合を調整する場合は、例えば、原料のVとV酸化物の割合を調整することで実施できる。原料のVに対してV酸化物を増量すれば酸素の割合を増加できる。このため、本明細書においてA2DFeAsO3-δなる組成式で示される目的の組成比となるように元素Aと元素DとFeとAsを含む原料の混合粉末を得る場合、組成式で規定する割合に近似する割合としてこれらの元素を0〜5原子%程度多く配合する場合を含むものとする。なお、A2DFeAsO3-δなる組成式において酸素含有量については2.5〜3.1の範囲を採用することが可能である。
0025
原料混合粉末の粒径は微細な方が望ましいが、微細に過ぎると粉末の製造が容易ではなくなり、粉末のハンドリングも容易ではなくなるので、平均粒径1〜30μmなどの範囲でできるだけ粒径が整った混合粉末とすることが好ましい。
原料混合粉末を得る場合、図3(A)に示すように必要量秤量した複数の原料粉末10、11をめのう乳鉢などの混合鉢12に収容して乳棒などの混合棒13で摺り合わせることで複数の粉末を混合粉砕することができる。勿論、工業的に原料混合粉末を大量処理する場合は、ボールミルやアトライタなどの混合装置を用いて大量の原料粉末を混合しても良い。
0026
原料混合粉末を得る場合、一例として、図4に示すように、Sr(OH)2・8H2O粉末を900℃程度の温度で数時間〜数10時間程度、例えば10時間程度加熱してSrO粉末を得る。続いて、Fe粉末とAs粉末を混合して600℃程度の温度で数時間〜数10時間程度、例えば10時間程度加熱してFeAs粉末を得、先のSrO粉末とともにこれらの粉末にV粉末とV2O5粉末を混合して組成式Sr2VFeAsO3-δで表される組成比になるように各粉末の配合量を調整することができる。
0027
なお、Srの単体金属は粘度が高いので微細粉末とすることが容易ではない。このため、Srを含む原材料としては、純度の高いものが入手容易なSr(OH)2・8H2O粉末を利用し、この粉末を加熱脱水してSrO粉末とすることで微細粉末化を容易とすることができる。また、Sr(OH)2・8H2O粉末を焼成してSrO粉末とする場合、酸素以外の他の不要元素の混入が生じ難いのでSrO粉末の状態で原料粉末混合の配合に適用することが有利となる。また、FeAs粉末は脆いので微細粉末化が容易にできる。V粉末については高純度のものは高価であるので酸化物として広く入手可能なV2O5粉末を用いることができるが、V2O3粉末やVO2粉末などの他の酸化物粉末を用いても良い。V2O5粉末を多く用いると酸素の割合が多くなり過ぎるので、V粉末とV2O5粉末の混合粉末を用いることが好ましい。
以上説明のように原料混合粉末を得る場合の各粉末配合の具体例を説明したが、原料混合粉末を得る場合の配合例はこの例に限らず、目的の組成比になるように各粉末を配合する方法を適宜選択すればよい。
0028
原料混合粉末を得たならば、この原料混合粉末をプレス装置などで加圧して例えば図3(B)に示すペレット状(円盤状)の圧縮体15を得る。この圧縮体15を必要個数揃えて図3(C)に示すオーブンなどの加熱炉16に収容して真空雰囲気中あるいはアルゴン等の不活性雰囲気中において500〜1150℃程度の高温に加熱して仮焼きする。
一例として、組成式Sr2VFeAsO3-δで表される超電導体を製造する場合に前述の原料混合粉末を用いると1050℃を超える温度で成分の一部が溶融するおそれがあるので、1050℃の仮焼き温度を上限とすることが好ましい。また、500℃未満の焼成温度では成分元素の反応が進まないので500℃以上とする必要がある。なお、仮焼き温度を低く設定し過ぎると反応に要する焼成時間が長くなり、仮焼き時間が長くなるので、実質的には800〜1050℃程度の温度範囲で仮焼きすることが好ましい。
0029
仮焼き後のペレット状の圧縮体17を図3(E)に示すめのう乳鉢などの混合鉢18に収容して乳棒などの混合棒19で摺り合わせて再度混合粉砕することで図3(F)に示すような最終混合粉末20を得ることができる。なお、ここで得た最終混合粉末20から再度ペレットを形成して粉砕混合し、仮焼きする処理を必要回数繰り返し施しても良い。
前記最終混合粉末20を図3(F)に示すように内部シースを構成する金属からなるチューブ21の内部に充填する。内部シース2をAgから構成する場合はAgのチューブ21を用いる。チューブ21に最終混合粉末20を充填したならば、外部シースを構成する金属からなる外チューブに全体を収容する。外部シース3をFeから構成する場合はFeの外チューブに収容する。あるいは、予めAgのチューブ21の外部にFeの外チューブを被せておいた複合管を用意し、この複合管に最終混合粉末20を充填しても良い。
0030
次に、最終混合粉末20を充填したチューブ21を内部に収容した図3(G)に示す外チューブ22を圧延装置23にて圧延する。ここで用いる圧延装置23は、上下に配置された圧延ロール23A、23Aを有し、圧延ロール23A、23Aの長さ方向中央部外周に周溝23aが形成された装置である。本実施形態で図1に示す断面円形状の超電導線材Aを製造する場合に、圧延ロール23Aに設ける周溝23aは丸溝型の周溝で良い。なお、図3(G)では後述する実施例において矩形断面形状の超電導線材を得るための凹型の周溝23aが描かれている。
なお、断面矩形型の超電導線材を製造する場合は角溝型の周溝23aとすれば良く、周溝の幅を大きくして浅い周溝とすればシート状の超電導線材を製造することもできる。本願の明細書で記載する超電導線材とは断面丸型の線材や矩形断面形状の線材に限らず、シート状の線材も含む概念とするので、圧延ロール23A、23Aに形成する周溝23aの断面形状を工夫することで任意の断面形状の超電導線材を製造できる。
0031
図3(G)に示すように圧延装置23で加圧することで内部の最終混合粉末20は加圧されて棒状の圧密体となり、チューブ21を圧延した内部シース2で圧密体を覆い、更に外チューブ22を圧延した外部シース3で内部シース2を覆った構造の複合線材25が得られる。
この複合線材25を図3(H)に示すオーブンなどの加熱炉26に収容し、真空雰囲気中あるいはアルゴン等の不活性雰囲気中において(500〜1000)℃、より好ましくは800〜950℃に加熱する本焼成処理を行う。本焼成の温度は原料成分の溶融を防止するために、前述の仮焼き温度の望ましい上限1050℃より低い温度とすることが好ましい。また、銀からなるシースを用いる場合に銀の融点である961℃より高くすることができないので本焼成の場合の上限温度を950℃としている。
この本焼成処理によって原料混合粉末の圧密体の内部で必要な成分元素どうしの反応が進み、A2DFeAsO3-δなる組成式で示される酸化物超電導体、例えば、組成式Sr2VFeAsO3-δなる組成式で表される図2に示す結晶構造の超電導体が生成し、図1に示す超電導コア1を備えた超電導線材Aが得られる。
0032
本焼成時間は1分〜24時間程度の範囲が望ましく、1分〜16時間程度の範囲がより望ましく、1分〜8時間程度の範囲が最も望ましい。本焼成の時間と本焼成の温度の関係の一例を図5に示す。
図5は目的の本焼成温度を900℃に設定した場合の温度履歴の一例を示し、目的の温度例えば900℃に、常温から2時間程度かけて昇温し、上述の範囲の時間保持した後、加熱装置のヒーターへの通電を停止してから空冷する条件を記載している。常温から目的の温度まで昇温する場合、昇温速度は特に制限はない。例えば、900℃に加熱した加熱炉の外部に試料を保持しておき、加熱炉に試料を挿入して急速加熱する方法を用いても良い。
0033
本焼成時間が長い場合はA2DFeAsO3-δなる組成式で示される酸化物超電導体において特にAsが内部シース2側に拡散するか、内部シース2を通過して外部シース3側にまで拡散する。Asの拡散が進行すると超電導コア1の内部に含まれるAsの量が減少する結果、目的とするA2DFeAsO3-δなる組成式のFe系超電導体を生成するためのAs量が不足するので、超電導コア1の内部に生成するFe系超電導体の割合が減少するか、目的の組成から外れたAs量の少ない物質が多く生成されてしまうおそれがある。
前述の範囲の熱処理時間とすることで、目的の組成比のペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体の生成割合が高くなり、生成するペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体の量も増加する結果、臨界温度の高い、臨界電流密度の高い超電導線材Aを得ることができる。
0034
以上説明の製造方法により得られた、例えば、組成式Sr2VFeAsO3-δで表される図2に示す結晶構造の超電導体を含む超電導コア1を有する超電導線材Aであるならば、Tc=20K前後の優れた臨界温度を示し、臨界電流密度の高い超電導線材Aを提供できる。
特に前述の製造方法ではチューブ21の内部に最終混合粉末20を充填してから圧縮し、熱処理するというPIT法により超電導線材Aを製造しているので、2軸配向制御を要する成膜法などのコストのかかる特別な方法を採用する必要がない。このため、本実施形態の製造方法によれば、優れた臨界温度を示し、臨界電流密度の高いペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導線材Aを成膜法で製造する場合に比べて低コストで製造できる特徴を有する。
また、上述の製造方法によれば、20K以上の高い臨界温度を示す組成式Sr2VFeAsO3-δで表されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体の原料である最終混合粉末20をチューブ21の内部に充填し、圧縮してから焼成するというPIT法により製造しているので、臨界電流密度の高い超電導線材を提供できる。
0035
ペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導線材を製造するに際し、初めに前駆体としてSrO及びFeAsを合成した。
Sr(OH)28H2O(1.374g)を900℃に10時間加熱して脱水し、SrO(0.5360g)粉末を得た。次に、Fe(3N、0.1444g)粉末とAs粉末を(6N、0.1938g)を秤量して混合し、混合粉末を真空雰囲気中において600℃で焼成し、FeAs(0.3382g)粉末を得た。焼成後のFeAs粉末をめのう乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、FeAs粉砕物の粉末を得た。
SrO粉末(0.5360g)、FeAs粉末(0.3382g)、V粉末(0.0791g)、V2O5粉末(0.0941g)を秤量して混合し、圧延によりペレット状に成形した後、真空雰囲気中で1050℃に加熱する仮焼きを行った。仮焼き時の加熱条件は、常温から30分間かけて1050℃まで昇温し、1050℃に40分間保持し、600℃になるまで80分間かけて降温し、600℃に降温後、大気中で放冷した。
0036
仮焼き後のペレットをめのう乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、この粉砕物を最終混合粉末として、内径3.0mm、外径4.1mmのAgからなるチューブに充填し、このチューブの外方に内径4.1mm、外径6.0mmのFeからなるパイプを被せ、図6の写真に示す概形の複合体を得た。
この複合体を図3に(G)に示すような圧延ロールで圧延し、横断面略4角形状で対角線に沿う外径約1mmの圧延線材を得た。この圧延線材に対し、大気中において図5に示す温度履歴で本焼成(900℃加熱)した。昇温時間は常温から900℃となるまで2時間に設定し、900℃で所定時間加熱後、加熱炉の加熱ヒーターへの通電を停止し、600℃になるまで炉冷し、600℃になってから大気中に取り出して放冷した。
0037
同等の条件で複数の圧延線材を用意し、それぞれについて図5に示す温度履歴に従い、900℃に保持する時間を1時間、2時間、4時間、8時間、16時間、32時間、64時間、128時間のいずれかに設定して焼成し、複数の超電導線材を作成した。
得られた複数の超電導線材のうち、1時間本焼成した試料の断面写真を図7に示す。図7に示す断面構造の超電導線材は、中心部分に四葉型に圧縮加工された超電導コアを有し、その周囲をAgからなる薄い内部シース材が覆い、この内部シース材の周囲をFeからなる厚い外部シース材が覆った構造となっている。図7に示すようにこの4角柱状の超電導線材の対角部分の長さは約1mmである。
0038
図8は上述の超電導線材を製造するためにAgのチューブに充填した最終混合粉末をペレット状に加圧成形し、そのペレットを900℃で本焼成して得た超電導バルク体の抵抗の温度依存性を示すグラフである。ここで前記粉砕物の粉末に対する本焼成の際の昇温時と降温時の温度履歴は先の実施例の場合と同等にしている。
図8に示すグラフから、ペレット状の超電導バルク体のTconsetは36.27Kであり、Tczeroは30.6Kであることがわかった。即ち、上述の最終混合粉末をペレット状に加工し、焼成して得られた超電導バルク体の臨界温度がこの種のFe系超電導体の臨界温度として知られている値に近似するので、前述の工程において超電導線材の製造に用いた最終混合粉末はFe系超電導体を製造するために望ましい組成比の最終混合粉末であることがわかる。
0039
本焼成時間を1時間、2時間、4時間、8時間、16時間、32時間、64時間、128時間のいずれかに設定して得た超電導線材について、超電導コアの部分から内部シースの部分まで到達する図9に示す矩形領域(走査型電子顕微鏡:Hitchi, TM3030 Plus Miniscope にて表面観察して特定した領域)に沿ってEDX(エネルギー分散型蛍光X線分光装置:Brunker nano GmbH,Quantax 70)によるライン分析を元素毎に行った結果について、図10〜図15に示す。
図10はSrに関するEDXライン分析結果を示し、図11はVに関するEDXライン分析結果を示し、図12はAgに関するEDXライン分析結果を示し、図13はFeに関するEDXライン分析結果を示し、図14はOに関するEDXライン分析結果を示し、図15はAsに関するEDXライン分析結果を示す。
0040
図10に示すSrの測定結果について、横軸に示す距離0(Distance:μm)の位置が超電導コアの部分と内部シースとの界面に相当し、0〜400μmの領域にSrが多く存在し、0〜−100μmの領域に殆どSrが存在しない。このため、0〜400μmの領域が超電導コアに該当し、0〜−100μmの領域が内部シースに対応する。
図10に示す測定結果から、Srについて、1〜128時間のいずれの焼成時間においても超電導コアの部分と内部シースとの間でSrは殆ど拡散していないと思われる。
図11に示す結果から、Vについて、1〜128時間のいずれの焼成時間においても超電導コアの部分と内部シースとの間でV含有量のバランスを変えるほど大量の拡散が生じたとは思われないことが判る。
0041
図12に示す結果から、Agについて、1〜128時間のいずれの焼成時間においても超電導コアの部分と内部シースとの間でAg含有量のバランスを変えるほど大量の拡散が生じたとは思われないことが判る。
図13に示す結果から、Feについて、0〜400μmの領域において多く、0〜−100μmの領域において少ないが、いずれの焼成時間でも0〜−100μmの領域にある程度存在していると推定できる。これは外部シースと超電導コアの両方にFeが含まれているので、それぞれの領域から内部シース側に微量のFe拡散がなされているとも推定できる。
図14に示す結果から、Oについては0〜400μmの領域において多く、0〜−100μmの領域において少ない結果が得られた。
0042
図15に示す結果から、Asについてはかなりの量の拡散がなされていることが想定される。焼成時間が16時間までの超電導線材はいずれも距離0の境界付近のAs濃度が急激に変化しているが、32時間以上の超電導線材では距離0付近のAs濃度の変化は緩やかになっている。これはAsが超電導コアからシース側に相当量拡散し、超電導コアと内部シースの境界部分にAsが拡散したことにより両層の境界部分に拡散層が生成し、この拡散層の幅が焼成時間の増加に応じて徐々に拡がったことを示唆している。
図15においてIAgはAg(内部シース)の部分の回折強さを示し、Icoreは超電導コアの部分の回折強さを示す。焼成時間が長いほど、両層の境界部分の幅が大きくなっていることがわかる。
0043
図15に示すAsのEDXラインスキャンに対して、Boltzmann−Matano解析を行う場合、得られたデータに沿ったなめらかなAs量の増加曲線を決定しなければならない。より正確なAs量の増加曲線を得るためには、拡散に寄与する区間の設定が必要である。この際、ノイズ対策として、Fe外部シースにおけるAs量のスポット分析の焼成時間に対する変化(図16)と矛盾のないように区間の設定を行った。則ち、Fe外部シースにおけるAs含有量と拡散に寄与する区間の長さは正の相関をもつと仮定した。図16は、鉄からなる外部シースにおけるAs量のスポット分析について焼成時間に対するAs量の変化を示すグラフである。
0044
Asに対するEDXラインスキャンのプロットに関して、銀シース側から1,2,3, ……..とプロット番号を付ける。あるプロット番号nのときに、nからn+49まで連続する50プロットに対して最小二乗法による線形近似を行い、このときに求まる近似直線の傾きaに対して、縦軸をa、横軸をn+49としてaの位置依存を図17に示す。このとき、強度変化によるピークをある一つに決定し、そのピークまわりで、傾きaが負から正になるプロット番号を強度変化開始プロット番号ns、傾きaが正から負になるプロット番号を強度変化終了プロット番号nfとした。また、強度変化開始位置XsをNs=nsのときの位置、強度変化終了位置XfをNf=nf−49のときの位置とした。
0045
図17において、傾きaの極大は複数観察されるが、これらのうち、最も大きいa= 0.00006の極大を示すa>0の構造をAsの濃度変化によるものと帰属する。このAsの濃度変化による構造を拡大したものが図18(a)である。このとき、ns=106、nf=161である。よって、Ns=106,Nf=112であり、Xs=−6.131、xf=−1.053である。
図18(b)〜(h)に、焼成時間2h〜128hの結果を示す。焼成時間16h,64h、128hの結果では図に示す○印で囲む1の極大付近の構造をAsの濃度変化に帰属して結果をまとめたものが以下の表1である。
0046
0047
強度変化距離xf−xs(μm)は1hから8hまで焼成時間とともに大きくなっている。ところが、この方法では16h以上では焼成時間との正の相関がみられない。これは、図18(f)で見られるように、Asの濃度変化によるa>0の構造内において極小が出現する場合があることに起因する。この極小がa<0となる場合、正確なAsの濃度分布、則ち、正確なMatano面を得ることができない。これは、強度変化の傾きが緩やかになり、ノイズの効果が相対的に大きくなったことに起因する。
0048
よって、以上のような問題点を解決する解析上の手段として、以下のような処理を行った。
強度変化による極大をとるa>の構造を一つではなく、図16の結果と矛盾しないように複数考慮し、拡散係数の算出に寄与する区間として用いる。
焼成時間16h、64hについて、図18(e)及び(g)の○印で囲む1に加え、○印で囲む2もそれぞれのAsの濃度変化による構造として帰属した。また、128hに関しては、○印で囲む0、1、2を同様に帰属した。このとき、処理の適用前後のそれぞれのパラメータの変化をまとめたものが表2、3である。この補正を行い、それぞれのxs,xfをAsのEDXラインスキャンデータに追加したものが図19である。これらの結果をまとめたものが以下の表4である。
0049
0050
0051
0052
図20はAgのチューブに充填する前の最終混合粉末の仮焼き粉末についてペレット状に成形して本焼成したものにおいて、X線回折パターンを求めた結果(図20(A)にバルクと表示)と、上述の実施例において本焼成時間を2時間に設定して得られた超電導線材の超電導コアについてX線回折パターンを求めた結果(図20(B)に2時間焼成線材と表示)を対比して示す。
図20(A)に示すバルクの試験結果と図20(B)に示す超電導コアの試験結果を対比すると、異相が示す回折ピークを除くと両者とも類似した回折ピークを得られたことがわかる。
よって実施例の超電導線材において超電導コアに形成されている物質は、鉄系超電導体であると推定できる。
0053
図21は先に1時間焼成により製造した超電導線材と2時間焼成により製造した超電導線材と4時間焼成により製造した超電導線材と8時間焼成により製造した超電導線材と16時間焼成により製造した超電導線材について個々の線材の電気抵抗率の温度依存性(0−300K)を測定した結果を示す。図22は同等超電導線材の電気抵抗率の温度依存性(0−50K)を測定した結果を示す。図23は同等超電導線材の電気抵抗率の温度依存性(6−15K)を測定した結果を示す。これらの図の測定結果は、4端子法に従い、±50mA通電した場合の結果を示す。±の両方の電圧を印加することで配線抵抗やゼーベック系数に起因する熱電効果の影響を相殺して除去することができる。
0054
図21、図22に示す結果から、1〜16時間のいずれの焼成時間で焼成した超電導線材であっても、電気抵抗がほぼ0となることを確認できた。なお、これらの図に示す電気抵抗値の状態から類推すると、焼成時間1〜8時間の超電導線材の方が焼成時間16時間の超電導線材よりも電気抵抗率の低下の割合が急峻である。このため、焼成時間によるAsの拡散の進行度合いからPIT法による焼成時間を1〜8時間とすることがより好ましいと考えられる。
0055
図24は1時間焼成、2時間焼成、4時間焼成によりそれぞれ得られた超電導線材に対し超電導転移温度以下、すなわち1時間焼成は16Kと18K、2時間焼成は17Kと18K、4時間焼成は13Kと15Kにおいて臨界電流Icを測定した場合、超電導コアの単位面積当たりの臨界電流密度JcはJc(T)=Jc(0){1−(T/Tc)2}…(1)式で示す外挿式が成立するため、0Kにおける臨界電流密度Jc(0)を計算により算出できることを示す説明図である。
超電導線材の測定により図24の1時間焼成(1h)の16KにおけるIc(16K)=29.7mA、Ic(18K)=16.7mAとなる。また、この超電導線材において、Jc(17K)=17.2A/cm2、Jc(18K)=9.65A/cm2と測定できた。この場合の超電導線材のTcは20.3Kとなる。上述の16K、18KのJcの場合、(1)式を用いてJc(0)を算出すると、Jc(0)=45.3A/cm2と見積もることができる。
0056
同じく、超電導線材の測定により図23の2時間焼成(2h)の17KにおけるIc(17K)=19.8mA、Ic(18K)=12.9mA、Jc(17K)=10.6A/cm2、Jc(18K)=6.94A/cm2と測定できた。この場合の超電導線材のTcは19.7Kとなる。1)式を用いてJc(0)を算出すると、Jc(0)=41.2A/cm2と見積もることができる。
同じく、超電導線材の測定により図23の4時間焼成(4h)の13KにおけるIc(13K)=20.1mA、Ic(15K)=8.35mA、Jc(13K)=9.66A/cm2、Jc(15K)=4.01A/cm2と測定できた。この場合の超電導線材のTcは16.3Kとなる。
0057
以上説明のように、図24を基に説明した如く本実施例の超電導線材は0Kにおいて、45.3A/cm2、41.2A/cm2あるいは26.7A/cm2の優れた臨界電流密度を得ることができると見積もることができた。
0058
以上説明した組成式Sr2VFeAsO3-δで表されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体の原料をPIT法に従い金属チューブの内部に充填し、金属チューブを圧縮して原料を圧縮体としてから本焼成することで臨界温度の高い、臨界電流密度の高い超電導線材を得ることができることが判明した。このことは、成膜法などのように超電導体の結晶を2軸配向する技術を用いなくとも、PIT法によりある程度高い臨界温度と臨界電流密度の超電導線材を製造できたこととなる。このことは、組成式Sr2VFeAsO3-δで表されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体は、熱処理(焼成)による元素拡散の影響を受け難く、熱処理(焼成)による化学変化に対し臨界温度の変化を鈍感にできる超電導体であることを確認できた。従って、ペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体は、PIT法を更に改良することで更に超電導特性を向上できる可能性を秘めた超電導体であると期待できる。
0059
図24を基に先に説明した0Kにおける臨界電流密度Jc(0)の見積もりについて、0〜20Kにおける臨界電流密度の推定値をまとめて図25に示す。
先の(1)式が示す臨界電流密度の関係は0〜20Kの温度範囲に展開すると図24に示す1h(1時間焼成の超電導線材)と2h(2時間焼成の超電導線材)と4h(4時間焼成の超電導線材)の線分で示される。
これらのデータを基に解析すると、先の実施例の如く1〜16時間の本焼成時間を選択する場合、できるだけ短い時間で本焼成することでより、より高い臨界電流密度の超電導線材を得られることがわかる。図25に示す結果によれば、本焼成時間を1時間〜2時間にすることが最も望ましい焼成条件であると推定できる。
実施例
0060
図26は先に本出願人が研究した結果により得られたSr2VFeASO3-δの組成式で示されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体の相図を示す。
この相図からSr2VFeASO3-δの組成式で示されるペロブスカイト関連混合アニオン型鉄系超電導体において、酸素欠損量を示すδの値は、0<δ<0.2の範囲の中でも、0<δ<0.145の範囲が好ましく、0.06<δ<0.145の範囲が最も好ましいことがわかる。
0061
A…超電導線材、1…超電導コア、2…内部シース(金属シース)、3…外部シース(金属シース)、10、11…原料粉末、15…ペレット、16…加熱炉、17…圧縮体、20…最終混合粉末、21…チューブ、22…外チューブ、23…圧延装置、23A…圧延ロール、23a…周溝、25…複合線材、26…加熱炉。