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概要
背景
電気インピーダンストモグラフィ装置は従来技術によって知られており、電気インピーダンス測定により得られた信号およびそれらの信号から取得されたデータならびにデータ流に基づき、1つの画像、複数の画像、または連続的な画像シーケンスを生成するように構成され、そのために設けられている。それらの画像または画像シーケンスによって、骨、皮膚、体液および器官特に肺といった種々の体部組織の導電率の差が示され、これは患者の状態を観測するのに役立つものである。
たとえば米国特許第6,236,886号明細書(US 6,236,886)には、複数の電極が配置され、少なくとも2つの電極において電流が給電され、それ以外の電極において信号が検出される電気インピーダンストモグラフィ装置について記載されており、さらに骨、皮膚および血管など体部の導電率の分布を特定するための画像再構成アルゴリズムを用いた方法が示されており、この場合、基本構成として、信号検出コンポーネント(電極)、信号処理コンポーネント(増幅器、A/D変換器)、給電コンポーネント(発生器、電圧/電流変換器、電流制限器)、および制御コンポーネントが設けられている。
米国特許出願公開第5,807,251号明細書(US 5,807,251)に記載されているように、EITの臨床用途において、複数の電極から成るセットを電極リングとして用意することが知られている。それらの電極のセットは、たとえば患者の胸郭周囲などに互いに所定の間隔で皮膚と電気的に接触させて配置される。電流入力信号または電圧入力信号が、互いに隣り合って配置された電極から成る可能な電極ペアのうち、複数の異なる電極ペアの間に、またはすべての電極ペアの間に、それぞれ交替しながら加えられる。互いに隣り合って配置された電極のペアのうち1つのペアに入力信号が加えられる間に、残りの電極の互いに隣り合うペア各々の間で、電流または電圧が測定され、得られた測定データが処理されて、電極リングが周囲に配置された患者横断面全体にわたる固有の電気抵抗の分布が描出され、画面に表示される。
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)は、放射線による他の画像生成方法(レントゲン装置、放射線によるコンピュータトモグラフィ)とは異なり、患者に有害な放射線負荷が発生しない、という利点を有する。また、ソノグラフィ方法とは異なりEITによれば、電極ベルトを用いることで患者の胸部全体および肺の代表的な横断面にわたって、連続的な画像捕捉を行うことができる。
良好に換気されている肺組織のインピーダンスと、あまり良好には換気されていない肺組織のインピーダンスとは、互いに著しく異なることから、特にEITを用いることによって、いずれの肺区域が目下良好に換気されており、いずれの肺区域があまり良好には換気されていないのか、という肺の性状描出を、体部横断方向平面におけるいわゆる「換気イメージ」として、画像で実現できるようになる。
換気される肺の局所的分布を分析するための基本的な前提は、個々の呼吸特にその吸気相と呼気相を時間的に分解できるよう画像シーケンスの再構成を可能にするサンプリングレートで、測定値を捕捉することである。これによれば、換気される肺の局所的分布を、吸気終末状態と呼気終末状態において分析することもできるし、吸気中および呼気中の時間特性も調べることができ、それらに基づき種々の肺区域において肺のメカニズムの作用、事象および経過特性に関して推定を下せるようになる。
肺のメカニズムの事象および経過特性とはたとえば、気道および気管支もしくは細気管支ならびに肺胞における流れ抵抗に起因する空気の流入時間特性または流出時間特性であり、さらには吸気継続期間中もしくは呼気継続時間中の種々の肺区域間における再配分でもある。
また、たとえば人工呼吸の圧力が高すぎるときにも低すぎるときにも、肺のメカニズムによる別の作用が発生して、いくつかの肺区域内の肺胞が一方では過剰な膨満(Overdistension, Hyperdistension,肺気腫)に起因して、他方では不十分な開通圧力に起因して肺胞が虚脱し、その結果、それらの肺胞は血液循環による酸素と二酸化炭素のガス交換に使われなくなってしまう。
肺のメカニズムによる局所的な事象および経過特性の一例が、専門家向け記事“Tidal recruitment assessed by electrical impedance tomography and computed tomography in a porcine model of lung injury”,[Critical Care Med 2011 Vol. 40, No. 3]に記載されている。圧力制御された人工呼吸であるのかまたは容量制御された人工呼吸であるのかなど、種々の異なる人工呼吸形態は、患者に適合された人工呼吸パラメータたとえば換気量(Vt)、呼吸頻度(Respiratory Rate:RR)、吸気と呼気の比(I:E-Ratio)、吸気および呼気の休止、吸気圧力(Pinsp)、呼気終末陽圧(Positive endexpiratoric pressure:PEEP)などと共に、吸気の時間経過中に呼吸ガスが種々の肺区域にどのように流入するのか、という点でそれぞれ異なる。つまり、いくつかの肺区域が過膨張している可能性がある一方、ほぼ同じ時点で他の肺区域では、個々の肺胞に対する開通圧力が、それらを開通して虚脱状態を終わらせるには低すぎる、という状況が発生する場合がある。
ガス交換に及ぼされる可能性のある作用については、専門家向け記事“Tidal recruitment assessed by electrical impedance tomography and computed tomography in a porcine model of lung injury”, [Critical Care Med 2011 Vol. 40, No. 3]に記載されており、これによれば、人工呼吸の手法によって肺区域のガス交換において、いわゆる「換気リクルートメント(Tidal recruitment)」に起因して生じる遅延が引き起こされる。「換気リクルートメント」とは、以下のような肺区域の状態を表すものである。すなわちこの状態においては、個々のまたは複数の虚脱した肺胞が、その他の肺区域に比べると、吸気中は圧力が高まってからはじめて遅延して開通し、呼気中は人工呼吸圧力が弱まると、残りの肺区域と比べると再び早めに閉鎖し、つまり虚脱する。
この場合、人工呼吸圧力および人工呼吸圧力経過特性の調整によって、どのように、いつ、どの肺区域に「換気リクルートメント」が加えられるのか、について作用が及ぼされる。つまりこれら個々のまたは複数の虚脱した肺胞に関しては、他の肺区域に比べると、吸気継続時間も短くなるし呼気継続時間も短くなる。
人工呼吸パラメータの設定および人工呼吸パラメータの継続的なコントロールのために、過膨張および虚脱した胞(肺胞)の区域を視覚化するのが有利である。過膨張および虚脱に関する人工呼吸パラメータについて、専門家向け記事“Bedside estimation of recruitable alveolar collapse and hyperdistension by electrical impedance tomography”,[Intensive Care Med. 2009]には、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)と放射線によるコンピュータトモグラフィ(CT)とを時間的に同時に適用して、過膨張(Hyperdistension)および/または虚脱(collapse)の状態が生じている肺区域をどのようにして識別できるのか、が記載されている。このため、人工呼吸圧力の値を関与させ、吸気相および呼気相の終了時にそれぞれ所定の時点で呼気終末陽圧を段階的に下げるよう所期のように操作措置(PEEPトライアル)を行うことによって、個々の肺区域のできりかぎり最善または最大のコンプライアンスすなわち伸展性のイメージが求められる。コンプライアンスは、臨床および医学の分野では、容量変化と圧力変化との商として定義されている。測定単位はl/kPaであり、医学ではしばしばml/cm H2Oが用いられる。容量変化と等価なものとして、電気インピーダンストモグラフィにより過膨張と虚脱を特定する場合には、EITにより捕捉されたインピーダンスまたはインピーダンス変化が利用される。
欧州特許第1292224号明細書(EP 1 292 224 B2)には、電気インピーダンストモグラフィにより得られたデータを表示する方法および装置について記載されている。この文献には、評価のための種々の特別なモードについて述べられており、これらのモードに基づき患者の肺の状態分析が行われる。たとえば相対モードが設けられており、このモードによれば、経過した期間に関する換気の二次元分布の局所的変化が処理され、換気のダイナミクスを処理するために、位相シフトモードが用いられる。さらに潅流モードが設けられており、このモードによって肺の潅流の二次元分布が作成される。さらにこの欧州特許第1292224号明細書に記載されているモードは、絶対モード、時定数モードおよび局所肺活量測定モードである。これら種々のモードは、様々な肺状態を区別するために用いられる。
この欧州特許第1292224号明細書に記載されたすべてのモードに共通しているのは、過膨張または虚脱など局所的に異なる肺状態を合わせて表示できるようにするモードおよびモードの組み合わせが提供されない、ということである。
概要
肺換気の局所的特性を検出および視覚化するために、電気インピーダンストモグラフィ装置のデータを処理および視覚化する装置を提供する。。生体の肺の局所的特性を検出および視覚化するために、電気インピーダンストモグラフィ装置30から得られた少なくとも1つの肺区域のEITデータ3を処理および視覚化する装置10に関する。過膨張または虚脱に関して肺または肺区域の局所的特性の視覚化が実現される。
目的
換気される肺の局所的分布を分析するための基本的な前提は、個々の呼吸特にその吸気相と呼気相を時間的に分解できるよう画像シーケンスの再構成を可能にするサンプリングレートで、測定値を捕捉することである
効果
実績
- 技術文献被引用数
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この技術が所属する分野
(分野番号表示ON)※整理標準化データをもとに当社作成
請求項1
肺の特性を検出および視覚化するために少なくとも1つの肺区域のEITデータ(3)を処理および視覚化する装置(10)であって、前記EITデータ(3)は、電気インピーダンストモグラフィ装置(30)により得られたものであり、・データ入力ユニット(50)と、・計算および制御ユニット(70)と、・出力ユニット(80)と、が設けられており、前記データ入力ユニット(50)は、前記少なくとも1つの肺区域の前記EITデータ(3)を、1つの観測期間にわたって受け取りかつ供給するように構成されており、前記データ入力ユニット(50)は、前記観測期間中の人工呼吸圧力の圧力経過特性(20)を示すデータ(4)を、受け取りかつ供給するように構成されており、前記計算および制御ユニット(70)は、以下のように構成されており、すなわち、・前記EITデータ(3)から、前記少なくとも1つの肺区域の局所的インピーダンス値および局所的インピーダンス変化を特定し、・前記局所的インピーダンス値および前記局所的インピーダンス変化から、前記観測期間中の人工呼吸圧力の圧力経過特性(20)を示すデータを考慮して、肺の伸展性に対する尺度を示す肺の局所的特性を含むデータセットを求め、・前記肺の局所的特性を含むデータセットを、前記肺の局所的特性が局所的肺区域の過膨張を示すか否かについて、第1の比較基準(76)に基づき評価し、・局所的過膨張を示す局所的特性を有する前記局所的肺区域を表す第2の制御信号(27)を発生しかつ供給し、・前記肺の局所的特性を含むデータセットを、前記肺の局所的特性が局所的肺区域の虚脱を示すか否かについて、第2の比較基準(77)に基づき評価し、・局所的虚脱を示す局所的特性を有する前記局所的肺区域を表す第3の制御信号(28)を発生しかつ供給する、ように構成されており、前記出力ユニット(80)は、前記第2の制御信号(27)および前記第3の制御信号(28)を用いて、出力信号(37)を発生、供給または出力するように構成されており、前記出力信号(37)は、それぞれ前記第1の比較基準(76)または前記第2の比較基準(77)とは隔たっている局所的特性を有する局所的肺区域を表示するための特性イメージ(900)を表す、装置(10)。
請求項2
前記計算および制御ユニット(70)は、少なくとも1つの肺区域の局所的インピーダンス値(710)および局所的インピーダンス変化を、前記EITデータ(3)から求め、前記局所的インピーダンス値(710)および前記局所的インピーダンス変化から、肺のインピーダンス値(710)およびインピーダンス変化の目下の局所的分布を含む換気イメージを求め、求められた肺の換気イメージを表す第1の制御信号(17)を発生しかつ供給する、ように構成されている、請求項1記載の装置(10)。
請求項3
グラフィックビジュアリゼーションのための構成要素(99)を備えたデータ出力ユニット(90)が、EITデータ(3)を処理および視覚化する前記装置(10)内に配置されており、または、前記装置(10)に接続されており、前記データ出力ユニット(90)は、前記第1の制御信号(17)および/または前記第2の制御信号(27)および/または前記第3の制御信号(28)および/または前記出力信号(37)を用いて、求められた換気イメージおよび/または特性イメージ(900)を視覚化するように構成されている、請求項1または2記載の装置(10)。
請求項4
前記計算および制御ユニット(70)により、人工呼吸プロセスの圧力測定値を示す前記データ(4)に基づき、呼気終末陽圧値(PEEP)を示す値(720)が前記観測期間中に求められる、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置(10)。
請求項5
前記計算および制御ユニット(70)により、伸展性を示す前記局所的特性に基づき、かつ、人工呼吸プロセスの圧力測定値を示す前記データ(4)に基づき、かつ/または複数の局所的肺区域に関する呼気終末陽圧値(PEEP)から、前記観測期間中の最大の局所的伸展性を含むデータセットが求められる、請求項1から4までのいずれか1項記載の装置(10)。
請求項6
前記計算および制御ユニット(70)により、前記最大の局所的伸展性のデータセットと、呼気終末陽圧値(PEEP)を示す前記値(720)と、に基づき、前記観測期間中、前記第1の比較基準(76)が決定される、請求項3または4記載の装置(10)。
請求項7
前記計算および制御ユニット(70)により、前記最大の局所的伸展性のデータセットと、呼気終末陽圧値(PEEP)を示す前記値(720)と、に基づき、前記観測期間中、前記第2の比較基準(77)が決定される、請求項3または4記載の装置(10)。
請求項8
請求項9
前記観測期間として、前記人工呼吸圧力(20)の変化を伴う操作措置の継続時間が選択され、好ましくは、1つの吸気相と1つの呼気相とをそれぞれ含む複数の呼吸サイクルを有するデクリメントPEEPトライアルまたはインクリメントPEEPトライアルの継続時間が選択される、請求項1から8までのいずれか1項記載の装置(10)。
請求項10
請求項11
技術分野
0001
本発明は、生体の肺換気の局所的特性を検出および視覚化するために、電気インピーダンストモグラフィ装置のデータを処理および視覚化する装置に関する。
0003
特性が対応づけられる肺区域として挙げられるのは、一方では個々の肺区域または肺胞(alveolus胞状部)に過膨張が生じている区域であり、他方では肺胞が潰れており、つまり個々の肺区域または肺胞(alveolus胞状部)に虚脱が生じている肺区域である。
背景技術
0004
電気インピーダンストモグラフィ装置は従来技術によって知られており、電気インピーダンス測定により得られた信号およびそれらの信号から取得されたデータならびにデータ流に基づき、1つの画像、複数の画像、または連続的な画像シーケンスを生成するように構成され、そのために設けられている。それらの画像または画像シーケンスによって、骨、皮膚、体液および器官特に肺といった種々の体部組織の導電率の差が示され、これは患者の状態を観測するのに役立つものである。
0005
たとえば米国特許第6,236,886号明細書(US 6,236,886)には、複数の電極が配置され、少なくとも2つの電極において電流が給電され、それ以外の電極において信号が検出される電気インピーダンストモグラフィ装置について記載されており、さらに骨、皮膚および血管など体部の導電率の分布を特定するための画像再構成アルゴリズムを用いた方法が示されており、この場合、基本構成として、信号検出コンポーネント(電極)、信号処理コンポーネント(増幅器、A/D変換器)、給電コンポーネント(発生器、電圧/電流変換器、電流制限器)、および制御コンポーネントが設けられている。
0006
米国特許出願公開第5,807,251号明細書(US 5,807,251)に記載されているように、EITの臨床用途において、複数の電極から成るセットを電極リングとして用意することが知られている。それらの電極のセットは、たとえば患者の胸郭周囲などに互いに所定の間隔で皮膚と電気的に接触させて配置される。電流入力信号または電圧入力信号が、互いに隣り合って配置された電極から成る可能な電極ペアのうち、複数の異なる電極ペアの間に、またはすべての電極ペアの間に、それぞれ交替しながら加えられる。互いに隣り合って配置された電極のペアのうち1つのペアに入力信号が加えられる間に、残りの電極の互いに隣り合うペア各々の間で、電流または電圧が測定され、得られた測定データが処理されて、電極リングが周囲に配置された患者横断面全体にわたる固有の電気抵抗の分布が描出され、画面に表示される。
0007
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)は、放射線による他の画像生成方法(レントゲン装置、放射線によるコンピュータトモグラフィ)とは異なり、患者に有害な放射線負荷が発生しない、という利点を有する。また、ソノグラフィ方法とは異なりEITによれば、電極ベルトを用いることで患者の胸部全体および肺の代表的な横断面にわたって、連続的な画像捕捉を行うことができる。
0008
良好に換気されている肺組織のインピーダンスと、あまり良好には換気されていない肺組織のインピーダンスとは、互いに著しく異なることから、特にEITを用いることによって、いずれの肺区域が目下良好に換気されており、いずれの肺区域があまり良好には換気されていないのか、という肺の性状描出を、体部横断方向平面におけるいわゆる「換気イメージ」として、画像で実現できるようになる。
0009
換気される肺の局所的分布を分析するための基本的な前提は、個々の呼吸特にその吸気相と呼気相を時間的に分解できるよう画像シーケンスの再構成を可能にするサンプリングレートで、測定値を捕捉することである。これによれば、換気される肺の局所的分布を、吸気終末状態と呼気終末状態において分析することもできるし、吸気中および呼気中の時間特性も調べることができ、それらに基づき種々の肺区域において肺のメカニズムの作用、事象および経過特性に関して推定を下せるようになる。
0010
肺のメカニズムの事象および経過特性とはたとえば、気道および気管支もしくは細気管支ならびに肺胞における流れ抵抗に起因する空気の流入時間特性または流出時間特性であり、さらには吸気継続期間中もしくは呼気継続時間中の種々の肺区域間における再配分でもある。
0011
また、たとえば人工呼吸の圧力が高すぎるときにも低すぎるときにも、肺のメカニズムによる別の作用が発生して、いくつかの肺区域内の肺胞が一方では過剰な膨満(Overdistension, Hyperdistension,肺気腫)に起因して、他方では不十分な開通圧力に起因して肺胞が虚脱し、その結果、それらの肺胞は血液循環による酸素と二酸化炭素のガス交換に使われなくなってしまう。
0012
肺のメカニズムによる局所的な事象および経過特性の一例が、専門家向け記事“Tidal recruitment assessed by electrical impedance tomography and computed tomography in a porcine model of lung injury”,[Critical Care Med 2011 Vol. 40, No. 3]に記載されている。圧力制御された人工呼吸であるのかまたは容量制御された人工呼吸であるのかなど、種々の異なる人工呼吸形態は、患者に適合された人工呼吸パラメータたとえば換気量(Vt)、呼吸頻度(Respiratory Rate:RR)、吸気と呼気の比(I:E-Ratio)、吸気および呼気の休止、吸気圧力(Pinsp)、呼気終末陽圧(Positive endexpiratoric pressure:PEEP)などと共に、吸気の時間経過中に呼吸ガスが種々の肺区域にどのように流入するのか、という点でそれぞれ異なる。つまり、いくつかの肺区域が過膨張している可能性がある一方、ほぼ同じ時点で他の肺区域では、個々の肺胞に対する開通圧力が、それらを開通して虚脱状態を終わらせるには低すぎる、という状況が発生する場合がある。
0013
ガス交換に及ぼされる可能性のある作用については、専門家向け記事“Tidal recruitment assessed by electrical impedance tomography and computed tomography in a porcine model of lung injury”, [Critical Care Med 2011 Vol. 40, No. 3]に記載されており、これによれば、人工呼吸の手法によって肺区域のガス交換において、いわゆる「換気リクルートメント(Tidal recruitment)」に起因して生じる遅延が引き起こされる。「換気リクルートメント」とは、以下のような肺区域の状態を表すものである。すなわちこの状態においては、個々のまたは複数の虚脱した肺胞が、その他の肺区域に比べると、吸気中は圧力が高まってからはじめて遅延して開通し、呼気中は人工呼吸圧力が弱まると、残りの肺区域と比べると再び早めに閉鎖し、つまり虚脱する。
0014
この場合、人工呼吸圧力および人工呼吸圧力経過特性の調整によって、どのように、いつ、どの肺区域に「換気リクルートメント」が加えられるのか、について作用が及ぼされる。つまりこれら個々のまたは複数の虚脱した肺胞に関しては、他の肺区域に比べると、吸気継続時間も短くなるし呼気継続時間も短くなる。
0015
人工呼吸パラメータの設定および人工呼吸パラメータの継続的なコントロールのために、過膨張および虚脱した胞(肺胞)の区域を視覚化するのが有利である。過膨張および虚脱に関する人工呼吸パラメータについて、専門家向け記事“Bedside estimation of recruitable alveolar collapse and hyperdistension by electrical impedance tomography”,[Intensive Care Med. 2009]には、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)と放射線によるコンピュータトモグラフィ(CT)とを時間的に同時に適用して、過膨張(Hyperdistension)および/または虚脱(collapse)の状態が生じている肺区域をどのようにして識別できるのか、が記載されている。このため、人工呼吸圧力の値を関与させ、吸気相および呼気相の終了時にそれぞれ所定の時点で呼気終末陽圧を段階的に下げるよう所期のように操作措置(PEEPトライアル)を行うことによって、個々の肺区域のできりかぎり最善または最大のコンプライアンスすなわち伸展性のイメージが求められる。コンプライアンスは、臨床および医学の分野では、容量変化と圧力変化との商として定義されている。測定単位はl/kPaであり、医学ではしばしばml/cm H2Oが用いられる。容量変化と等価なものとして、電気インピーダンストモグラフィにより過膨張と虚脱を特定する場合には、EITにより捕捉されたインピーダンスまたはインピーダンス変化が利用される。
0016
欧州特許第1292224号明細書(EP 1 292 224 B2)には、電気インピーダンストモグラフィにより得られたデータを表示する方法および装置について記載されている。この文献には、評価のための種々の特別なモードについて述べられており、これらのモードに基づき患者の肺の状態分析が行われる。たとえば相対モードが設けられており、このモードによれば、経過した期間に関する換気の二次元分布の局所的変化が処理され、換気のダイナミクスを処理するために、位相シフトモードが用いられる。さらに潅流モードが設けられており、このモードによって肺の潅流の二次元分布が作成される。さらにこの欧州特許第1292224号明細書に記載されているモードは、絶対モード、時定数モードおよび局所肺活量測定モードである。これら種々のモードは、様々な肺状態を区別するために用いられる。
0017
この欧州特許第1292224号明細書に記載されたすべてのモードに共通しているのは、過膨張または虚脱など局所的に異なる肺状態を合わせて表示できるようにするモードおよびモードの組み合わせが提供されない、ということである。
発明が解決しようとする課題
0018
本発明の課題は、これまで述べてきた従来技術の欠点を踏まえて、EITデータから肺の種々の局所的特性を求め、それら種々の局所的特性を1つの共通の表示としてまとめることができるようにした装置を提供することである。
課題を解決するための手段
0019
これらの課題およびその他の課題は、独立請求項である添付の請求項1によって解決される。
0021
最初に、本特許出願において用いられる概念について詳しく説明する。
0022
「観測期間」とは、本発明の内容に即していえば、時間経過中の1つの時間区間のことである。かかる観測期間の開始と終了は、決められた時点または整合可能な時点によって与えられるか、あるいは呼吸または人工呼吸の特性によって定められた事象によって与えられる。呼吸または人工呼吸をもとに定められる観測期間の例は、1つの呼吸サイクル、複数の呼吸サイクル、呼吸サイクルの一部分たとえば息の吸い込み(吸気)、吸気休止、息の吐き出し(呼気)、呼気休止である。機械による人工呼吸に特有のさらに別の観測期間を、特有の人工呼吸操作措置の一部または時間区間であるプラトー圧、PIP圧(Positive Inspiratoric Pressure PIP)またはPEEP圧(Positive End Expiratoric Pressure PEEP)、PIP圧またはPEEP圧の段階、PIP圧またはPEEP圧の上昇傾斜または下降傾斜、といった特定の圧力レベルを有する期間とすることができ、これらの期間は人工呼吸形態の所定の特性(たとえばBi- Level Positive Airway Pressure BiPAP)に対応する。
0023
「EIT測定信号」とは、本発明の内容に即していえば、EIT装置により電極群または電極ベルトを用いて捕捉可能な信号またはデータのことである。これらの信号またはデータとして様々な信号形態のEIT測定信号が挙げられ、たとえば電極または電極群に対応づけられた、あるいは電極のポジションまたは電極ベルトにおける電極群のポジションにおける電圧または電圧測定信号、電流または電流測定信号であり、さらには電圧および電流から導出された電気抵抗値または電気インピーダンス値である。
0024
「測定サイクル」とは、本発明の内容に即していえば、複数の給電電極ペアにおいて給電を行うと共に、それ以外の電極ではそれぞれ1つの対応する測定周期が行われる一連の流れのことである。この場合、かかる測定サイクルは、EITデータの処理において一般的には、いわゆる「フレーム」または「タイムフレーム」と呼ばれる。1つの測定サイクルは、複数の測定周期が合わさったものである。本発明の内容に即していえば、1つの測定周期において、2つの給電用電極いわゆる給電電極ペアにおいて信号の給電が行われ、これら双方の給電用電極とは異なる他の電極では、EIT測定信号の捕捉が行われる。したがって測定サイクルの一部である1つの測定周期は、EITデータの処理においては一般には「部分フレーム」と呼ばれる。
0025
「制御信号」とは、本発明の内容に即していえば、単独の制御信号、複数の制御信号から成る集合の一部である1つの制御信号のことであり、さらには複数の制御信号または複数の制御信号から成る集合のことである。
0026
「出力信号」とは、本発明の内容に即していえば、単独の出力信号、複数の出力信号から成る集合の一部である1つの出力信号のことであり、さらには複数の出力信号または複数の出力信号から成る集合のことである。
0027
「肺の換気イメージ」とは、本発明の内容に即していえば、特定の時点で局所的に分解された、肺の横断方向の視点での局所的インピーダンスの分布を表したものに相応する。これらのインピーダンスは、測定サイクル中に連続的に求められる。局所的インピーダンスは、息を吸い込み吐き出すリズムで局所的な肺胞が空気で満たされる度合いを表す。換気イメージの表示は、一般的な表示手法によれば、生体胸部の水平方向切断平面において、いわゆる背側ビューとして行われる。
0028
肺の複数の換気イメージを時間順に示すことで、たとえば画像シーケンスまたはフィルム(映像)として示すことで、インピーダンスの変化が表され、ひいては個々の局所的肺区域の換気の時間的変化が表される。
0029
本発明による装置は、画像生成用のデータの作成に適した電気インピーダンストモグラフィ装置により得られた、肺または胸部の少なくとも1つの区域のEITデータを処理および視覚化するために、
・データ入力ユニット、
・計算および制御ユニット、および
・出力ユニット、
を備えている。
0030
データ入力ユニットは、肺または胸部の少なくとも1つの区域のEITデータを、受け取りかつ供給するように構成されている。EITデータは複数の肺区域について、1つの観測期間にわたる肺の少なくとも1つの部位における局所的肺換気状態を表す。1つの典型的な観測期間は、EITデータを伴う多数の測定サイクル(タイムフレーム、部分フレーム)を含む1つのEIT捕捉期間である。
0032
データ入力ユニットはさらに、たとえば医用測定機器、医用診断機器たとえば生理学的モニタ、医用治療機器または医用処置機器から、好ましくは麻酔器または人工呼吸器などから供給されるデータを、受け取りかつ供給するように構成されている。
0033
データ入力ユニットはオプションとして好ましくはさらに、医用治療機器または医用処置機器好ましくは麻酔器または人工呼吸器から供給される人工呼吸制御データを、受け取りかつ供給するように構成されている。
0034
このためデータ入力ユニットは、好ましくはインタフェース要素と整合要素とを備えている。インタフェース要素とはたとえば、レベル変換器、増幅器、A/D変換器、過電圧保護部品、論理素子、ならびにデータおよび信号を有線または無線で受け取るためのさらに別の電子的構成要素などであり、整合要素とはたとえば、計算および制御ユニットにおいてさらに処理するために信号およびデータを整合するための、コード変換要素またはプロトコル変換要素などである。
0035
計算および制御ユニットは以下のように構成されている。すなわち、
・EITデータから、少なくとも1つの肺区域の局所的インピーダンスおよび局所的インピーダンス変化を特定し、
・局所的インピーダンス値および局所的インピーダンス変化から、観測期間中の人工呼吸圧力の圧力経過特性を示す供給されたデータを考慮して、肺の伸展性(コンプライアンス)に対する尺度を示す肺の局所的特性を含むデータセットを求め、
・求められた肺の局所的特性を含むデータセットを、この局所的特性が局所的肺区域の過膨張を示すか否か、について第1の比較基準に基づき評価し、
・局所的過膨張を示す局所的特性を有する局所的肺区域を表す第2の制御信号を発生しかつ供給し、
・求められた局所的特性を含むデータセットを、この局所的特性が局所的肺区域の虚脱を示すか否か、について第2の比較基準に基づき評価し、
・局所的虚脱を示す局所的特性を有する局所的肺区域を表す第3の制御信号を発生しかつ供給する、
ように構成されている。
0036
肺の局所的特性の特定は計算および制御ユニットによって、EIT装置から供給されるEITデータに基づき、少なくとも1つの肺区域のインピーダンスまたはインピーダンス変化が特定されるようにして行われる。通常、EITデータは、電圧測定値または電流測定値として供給されている。この場合、計算および制御ユニットをEIT装置の一部として構成できることも、本発明の内容に共に含まれている。
0037
さらに計算および制御ユニットによって、観測期間中の人工呼吸圧力の圧力経過特性を示すデータが考慮される。
0038
本発明によれば肺の局所的特性の特定は、観測期間に関連づけられた比較基準に基づき行われ、それらの比較基準は、それぞれ個々の肺区域において肺区域の「可能なかぎり最良の伸展性」(ベストコンプライアンス)を示すものである。
0039
好ましくは、観測期間中の人工呼吸圧力の圧力経過特性を示すデータとして、以下のような複数の呼気相が適用される。すなわちそれらの呼気相は、人工呼吸圧力の変化を伴う操作措置の段階として、呼気終末陽圧(PEEP)の値が互いに異なる観測期間である。したがってこれらの値について、それぞれEITデータから求められ互いに異なる呼気終末陽圧(PEEP)の値に対応する、局所的インピーダンスおよび局所的インピーダンス変化を用いることができ、これによって局所的肺区域についてそれぞれ伸展性(コンプライアンス)に対する尺度が求められる。
0040
呼気終末陽圧(PEEP)の互いに異なる段階を発生させるために有利である適切な操作措置は、いわゆるPEEPトライアルであって、このPEEPトライアルによれば、出発値からスタートして人工呼吸圧力が、すなわちそれぞれ呼気終了時に人工呼吸圧力を低減する目標値となる呼気終末陽圧(PEEP)の圧力レベルが、段階的に高められるか(インクリメントPEEPトライアル)、または段階的に低くされる(デクリメントPEEPトライアル)。
0041
出力信号を発生、供給または出力するために、出力ユニットにおいて第2の制御信号および第3の制御信号が用いられる。出力信号は、第1の比較基準または第2の比較基準からそれぞれ隔たっている局所的特性を有する局所的肺区域を表示するための特性イメージを表す。
0042
つまり出力信号は、局所的虚脱または局所的膨張を示す局所的特性を有する1つまたは複数の肺区域における個々の局所的特性の特性イメージを表している。
0043
したがって有利であるのは、この出力信号を、1つの共通の表示において出力するために用い、この共通の表示において、過膨張を含む肺区域も虚脱を含む肺区域も同時に見ることができるようにすることである。
0044
ここで「出力信号」とは、本発明の内容に即していえば、局所的特性を表す要素のほかに、以下のような情報要素も含むことができ、これらの情報要素によって、ハッチング、カラー、グレー階調ベースのグラフィックコーディング、輝度レベル、カラーの透明段階または飽和段階またはパターンを用いて、局所的区域の強調を実現することができ、つまりはデータ出力ユニットによって画像としてグラフィカルかつ/または視覚的に表示させることができる。
0045
これによって有利には、共通の表示の評価の可能性が高められる。それというのも、特に関心のある局所的肺区域つまり虚脱または過膨張が存在する局所的肺区域が、共通の表示において際立つように見えるようになるからである。これによって得られる利点とは、過膨張と虚脱の局所的特性について肺換気状態を推定するために重要な関わりをもつ局所的特性が対象となるよう用意されたビューが、ただ1つの共通の表示において時間的に同時に、かつ直接互いに区別できるように、ユーザに提供されることであり、この場合、過膨張と虚脱について互いに別々に視覚化された2つの表示において、変化を視覚的にかつ認識に基づき同時に捉えなくてもよい。
0046
このようにすることで後続の出力ユニットは、実質的に虚脱していない肺区域および過膨張していない肺区域を、淡青色から白色に至る青色のカラースケールで、換気の度合いに対するグラフィック段階として表示することができ、虚脱と過膨張の局所的特性をそれぞれ異なるカラースケールで表示することができ、たとえば過膨張については暗赤色から淡赤色に至る赤色のカラースケールで、また、虚脱を含む区域については淡褐色から暗褐色に至る褐色のカラースケールで、過膨張または虚脱についてそれぞれ種々の度合いに対するグラフィック段階として表示することができる。
0047
計算および制御ユニットは、この計算および制御ユニットの既述の役割を実施するために、データ処理、計算およびシーケンス制御のための要素を有しており、たとえばマイクロコントローラ(μC)、マイクロプロセッサ(μP)、信号プロセッサ(DSP)、ロジック素子(FPGA,PLD)、メモリ素子(ROM,RAM,SD−RAM)、およびこれらの組み合わせのバリエーションを、たとえば「組み込みシステム」の形態で有しており、これらは互いに連携するように構成されかつ互いに整合されており、またはプログラミングにより構成されていて、肺の局所的特性を特定するために、画像生成用のデータの作成に適したEIT装置によって得られたデータを処理および視覚化するために必要とされるステップを実行し、さらに肺の特性イメージを表示するための出力信号を準備処理する。
0048
出力ユニットは、画像準備処理およびデータ出力ユニットとして、出力信号を用いて肺の局所的特性を出力、供給または表示するように構成されている。
0049
出力ユニットは、出力信号を発生、供給または表示するように構成されている。出力信号は、好ましくは映像信号(たとえば映像出力、コンポーネント映像、S映像、HDMI,VGA,DVI,RGB)として、以下のように構成されている。すなわち、出力ユニットと無線または有線(WLAN,Bluetooth,WiFi)で接続された表示ユニットに、またはデータ出力ユニット自体に、肺の局所的特性をグラフィカルに、数値として、または画像として表示できるように構成されている。
0050
1つの好ましい実施形態によれば、計算および制御ユニットは、少なくとも1つの肺区域の局所的インピーダンスおよび局所的インピーダンス変化をEITデータから特定し、特定された局所的インピーダンスおよび局所的インピーダンス変化から、肺におけるインピーダンス値およびインピーダンス変化の目下の局所的分布の換気イメージを求め、求められた目下の肺の換気イメージを表す第1の制御信号を発生しかつ供給するように構成されている。
0051
1つの好ましい実施形態によれば、グラフィックビジュアライゼーションのための構成要素を備えたデータ出力ユニットが、EITデータを処理および視覚化する装置内に配置されており、またはこの装置に接続されている。グラフィックビジュアライゼーションのための構成要素は、出力信号を用いて視覚化を行うように構成されている。
0052
この場合、求められた換気イメージおよび/または特性イメージの、グラフィックビジュアライゼーションのための1つの構成要素を用いた視覚化は、第1の制御信号および/または第2の制御信号および/または第3の制御信号および/または出力信号を用いて行われる。好ましくは、グラフィックビジュアライゼーションのための構成要素を用いた視覚化を、換気イメージと特性イメージとを組み合わせた1つの表示において行うことができる。この場合、グラフィックビジュアライゼーションのための構成要素により組み合わせられた表示を、好ましくはたとえば画面上で水平方向または垂直方向に分割された表示として(分割スクリーン)構成してもよいし、あるいは表示ウィンドウを任意に選択可能にかつオーバラップさせてまたは上下に重ね合わせて画面上に配置したものとして構成してもよい。
0053
1つの好ましい実施形態によれば、計算および制御ユニットにより、人工呼吸プロセスの圧力測定値を示すデータに基づき、呼気終末陽圧値(PEEP)を示す値が観測期間中に求められる。
0054
さらに別の好ましい実施形態によれば、計算および制御ユニットにより、伸展性を示す局所的特性に基づき、かつ人工呼吸プロセスの圧力測定値を示すデータに基づき、かつ/または複数の局所的肺区域に関する呼気終末陽圧値(PEEP)から、観測期間において最大の局所的伸展性を含むデータセットが求められる。
0055
さらに別の好ましい実施形態によれば、計算および制御ユニットにより、最大の局所的伸展性を含むデータセットと呼気終末陽圧値(PEEP)を示す値とに基づき、観測期間中、第1の比較基準が決定される。
0056
さらに別の好ましい実施形態によれば、計算および制御ユニットにより、最大の局所的伸展性を含むデータセットと呼気終末陽圧値(PEEP)を示す値とに基づき、観測期間中、第2の比較基準が決定される。
0057
さらに別の好ましい実施形態によれば、観測期間として、1つの吸気相と1つの呼気相とをそれぞれ含む少なくとも2つの呼吸サイクルから成る継続時間が選択される。
0058
さらに別の好ましい実施形態によれば、観測期間として、人工呼吸圧力の変化を伴う操作措置の継続時間が選択され、好ましくは1つの吸気相と1つの呼気相とをそれぞれ含む複数の呼吸サイクルを伴うデクリメントPEEPトライアルまたはインクリメントPEEPトライアルの継続時間が選択される。
0059
さらに別の好ましい実施形態によれば、人工呼吸器または麻酔器からデータが供給される。
0060
人工呼吸器または麻酔器からデータが供給される場合、それらのデータにはたとえば、換気量(Vt)、呼吸頻度(Respiratory Rate:RR)、吸気と呼気の比(I:E-Ratio)、吸気および呼気の休止、吸気圧力(Pinsp)、呼気終末陽圧(Positive endexpiratoric pressure:PEEP)を示すデータを含めることができる。これらのデータから計算および制御ユニットによって、吸気終末および呼気終末ならびに呼気開始または吸気開始といった人工呼吸プロセス中の時点およびそれらの時点に対応する圧力値を求めることができる。
0061
さらに別の好ましい実施形態によれば、肺の特性を検出および視覚化する装置は、人工呼吸実施機能および/または麻酔実施機能、インピーダンストモグラフィ(EIT)実施機能、および肺の特性を検出および視覚化する機能を備えた機器または機器の組み合わせとして構成されている。
0062
次に、本発明について、図1を参照しながら対応する図面の説明を通して、さらに詳しく説明する。ただしこれによっても、本発明の一般的着想が制限されるものではない。
図面の簡単な説明
0063
虚脱と過膨張の局所的特性の画像表示を伴ってデータを処理および視覚化するための装置を示す概略図
実施例
0064
図1には、データを処理および視覚化する装置10が示されている。装置10は基本構成要素として、データ入力ユニット50、計算および制御ユニット70、画像準備処理および出力ユニット80、ならびにデータ出力ユニット90を備えている。
0065
EIT装置30から、EITデータ3がデータ入力ユニット50を介して計算および制御ユニット70へ伝達または案内される。計算および制御ユニット70において、EITデータ3がさらに処理される。計算および制御ユニット70内に設けられているインピーダンス計算ユニット71は、EITデータ3の入力後、肺の局所的インピーダンス値710を計算する。ここでは種々の局所的肺区域のインピーダンス値710が計算され、それらの値によって、EIT装置30により得られたEITデータ3に基づき、生体の肺におけるインピーダンス分布を視覚化することができる。インピーダンスは、各肺区域の換気もしくは換気品質の様々な度合いを表す。
0066
インピーダンス計算ユニット71により得られたインピーダンス値710およびインピーダンス変化は、肺の換気イメージを表すものであり、画像準備処理および出力ユニット80における画像加工処理ユニット81の第1の制御信号17として、後続処理のために供給される。
0067
人工呼吸器40から圧力値20が、人工呼吸器40の測定または動作データ4として、計算および制御ユニット70内に配置されたデータ供給ユニット72へ、データ入力ユニット50を介して伝達または案内される。計算および制御ユニット70において、測定または動作データ4は、データ統合ユニット73により準備処理されて供給され、第1の特性検出ユニット74および第2の特性検出ユニット75によって、インピーダンス値710と共にさらに処理される。別の選択肢として、動作データ4を、さらに別のデータとも連携させて、データネットワーク1001たとえば病院内のイントラネットなどを介して間接的に、データ供給ユニット72へ案内することができる。
0068
データ統合およびデータ準備処理ユニット73は、以下のように構成され、以下のために設けられている。すなわち、たとえば人工呼吸器により実施される操作措置によりいわゆるPEEPトライアル中に生じる呼気終末陽圧(PEEP)の種々の段階の結果として発生するまたは発生した測定または動作データ4と関連させて、肺の局所的呼気終末インピーダンス値のデータセットが求められ、呼気終末陽圧値(PEEP)を示す局所的値720と共に準備処理されたデータセットとして供給される。
0070
デクリメントPEEPトライアルすなわち出発値からのPEEPレベルの段階的な低減によって、肺の伸展性に対する基準尺度いわゆる「コンプライアンス(compliance)」が、局所的インピーダンス変化71と対応するPEEP値との商として求められる。
0071
この場合、PEEP値の出発値は、この出発値がちょうど以下のようになるのと同じ大きさに選定される。すなわち、その値であれば平均的に肺の僅かな過膨張から出発できるように選定されるのである。局所的肺区域ごとにいわゆる「ベストコンプライアンス(best compliance)」が求められ、したがって肺区域の換気に適用された圧力に基づく状態が特に有利となる値が求められ、つまり肺区域すなわち肺胞が最大に膨張し、ひいてはその肺区域内における血液循環と呼吸ガスとの最適な局所的ガス交換のために、過度に高い圧力により過膨張することなく、最大表面を有することになる大きさに、呼気終末陽圧(PEEP)が選定されている。「ベストコンプライアンス」はたとえば、PEEPトライアルのデクリメントプロセスにおいて、以下の値が「ベストコンプライアンス」として求められることによって決定される。すなわちその値よりも下げてさらに圧力を低減したならば、商として伸展性(コンプライアンス)のあまりよくない尺度が算出されるような値が、「ベストコンプライアンス」として求められることによって決定される。「コンプライアンス」および「ベストコンプライアンス」を求めることについて、この個所で既述の専門家向け記事"Bedside estimation of recruitable alveolar collapse and hyperdistension by electrical impedance tomography", [Intensive Care Med 2009]を参照されたい。
0072
これに続いて各局所的区域に対して、種々のPEEPレベルについて求められた伸展性の局所的尺度が、「ベストコンプライアンス」と関係づけられる。これは、過膨張を示す第1の特性を第1の比較基準76に基づき求めるために、計算および制御ユニット70内に第1の特性検出ユニット74が設けられていることによって行われる。さらに、虚脱を示す第2の特性を第2の比較基準77に基づき求めるために、計算および制御ユニット70内に第2の特性検出ユニット75が設けられている。
0073
第1および第2の比較基準は「ベストコンプライアンス」から導出され、たとえば「ベストコンプライアンス」よりも10%高い値および10%低い値であり、または「ベストコンプライアンス」と等しい値である。
0074
かかるPEEPトライアルを、有利には圧力制御された人工呼吸の場合に、複数のPEEPレベルを有するデクリメントPEEPトライアルとして、複数のPEEPレベル間で一定の予め定められた圧力差を有する既知の圧力レベルからスタートするように実施すれば、過膨張もしくは虚脱を計算するための数式から、それぞれ異なるPEEPレベルの圧力差が消去されて、数学的アプローチが簡略化される。「コンプライアンス」、「ベストコンプライアンス」、「虚脱」ならびに「過膨張」を求めるための数学的関係について、この個所で既述の専門家向け記事"Bedside estimation of recruitable alveolar collapse and hyperdistension by electrical impedance tomography", [Intensive Care Med 2009]を参照されたい。
0075
以下の数式1,2,3a,3bは、一定の圧力変化段階ΔPでPEEPトライアルを実施すれば可能であるように、一定の圧力差ΔPのときに過膨張と虚脱の尺度(コンプライアンス)を求めれば、数式1を数式2に適用し、数式3bを用いることで、圧力差ΔPが消去される様子を簡単に示すために用いたにすぎない。
0076
数式3aは、圧力差ΔPの数学的消去の数学的中間ステップを示す。
0077
0078
このようにすれば、個々のPEEP段階間の圧力差ΔPの個々の絶対値に関する知識がなくても、インピーダンス値71からPEEPトライアルによる局所的肺区域の特性を求めることができる。この場合、供給されたEITデータ3がPEEPトライアル中に得られたことを示す情報が、計算および制御ユニット70に提供されればよい。PEEPトライアルがその際にデクリメンタルに実施されたのかインクリメンタルに実施されたのか、という情報は、評価のために役立つけれども必須ではなく、このことは同様に出発値についても出発点についても当てはまる。
0079
人工呼吸が圧力制御されているときに実施されるPEEPトライアルのために特に、人工呼吸器40の測定または動作データ4が得られないときに、大雑把な推定の1つのバリエーションとして、個々のPEEP段階間の圧力差ΔPの代わりに、いわゆる「DELI値」(Delta-Endexpiratoric Lung Impedance)を代替値として用いることもできる。このために必要とされるのは、この推定に基づき、等間隔の圧力差ΔPから、捕捉されたEITデータ3においてやはりそれらの圧力差ΔPにほぼ同期した等間隔のインピーダンス変化71がDELI値として得られるように、PEEPトライアルが人工呼吸器40によって実施された、ということだけである。
0080
第1の特性検出ユニット74は、第1の比較基準76とインピーダンス値およびインピーダンス変化710に基づき、呼気終末陽圧値(PEEP)を示す局所的値720を含むデータセットを考慮しながら、過膨張特性を示す局所的肺区域を求め、過膨張特性を示す第2の制御信号27を発生する。
0081
第2の制御信号27は、画像準備処理および出力ユニット80内の画像加工処理ユニット81に供給されて、さらにデータが加工処理される。
0082
第2の特性検出ユニット75は、第2の比較基準77とインピーダンス値およびインピーダンス変化710に基づき、呼気終末陽圧値(PEEP)を示す局所的値720を含むデータセットを考慮しながら、虚脱特性を示す局所的肺区域を求め、虚脱特性を示す第3の制御信号28を発生する。
0083
第3の制御信号28は、画像準備処理および出力ユニット80内の画像加工処理ユニット81に供給されて、さらにデータが加工処理される。
0084
第1の比較基準76および第2の比較基準77は、「ベストコンプライアンス」から導出される基準であり、この場合、第1の比較基準76は、「ベストコンプライアンス」よりも強い局所的肺区域の膨満または過膨張を伴う状態を示し、第2の比較基準77は、「ベストコンプライアンス」よりも弱い局所的肺区域の充満または膨張を伴う状態を示す。
0085
1つの特別な変形実施形態によれば、第1の比較基準76と第2の比較基準77とが互いに等しく選定されているように構成することができ、たとえば、「ベストコンプライアンス」よりも強い膨満を伴う状態として、または局所的肺区域の「ベストコンプライアンス」よりも弱い充満を伴う状態として、または局所的肺区域の「ベストコンプライアンス」の状態と等しく選定されているように構成することができる。
0086
画像加工処理ユニット81は、第2の制御信号27および第3の制御信号28から出力信号37を発生する。この出力信号37は、局所的肺区域の換気状態に関する情報の画像表示を、特性イメージ900として背側ビューで表すものである。第1の制御信号17を出力信号37に関与させることによって、特性イメージ900を、肺の目下の換気を表す求められた肺換気イメージと組み合わせて表示できるようになり、これをたとえば分割された表示画面(分割スクリーン)の形態で実現してもよいし、またはオプションとして有利な実施形態によれば、表示ウィンドウを任意に選択可能にかつオーバラップさせてまたは上下に重ね合わせて表示画面上に配置したものとして実現してもよい。
0087
ここで示した図1の場合、出力信号37はたとえば、装置10と接続されたデータ出力ユニット90へ供給される。このデータ出力ユニット90には、様々な要素が設けられている。つまりたとえば、グラフィックビジュアライゼーションのための構成要素たとえば画面またはスクリーン99が設けられている。さらにデータ出力ユニット90には、キーボード97’またはロータリーノブ97といった操作要素97,97’が配置されている。さらにデータ出力ユニット90にはオプションとして、たとえば図1には詳細には示されていない外部のデータディスプレイ1000または病院データネットワーク1001(LAN、WAN、WLAN、イーサネット、WiFi)など、他の機器とのデータ交換のためのインタフェース98が設けられている。
0088
グラフィックビジュアライゼーションのための構成要素99において、特性イメージ900が表示される。別の選択肢として、または付加的に、データネットワーク1001によるデータ交換を介して装置10と接続された外部のデータディスプレイ1002にも、特性イメージ900’を表示させることができる。
0089
過膨張が識別された肺区域は、肺輪郭表示において特別にマーキングされた区域A,907としてレンダリングされており、グラフィカルに特別に強調されている。虚脱が識別された肺区域は、肺輪郭表示において特別にマーキングされた区域C,909としてレンダリングされており、グラフィカルに特別に強調されている。虚脱も過膨張も識別されていない肺区域は、ここに示した図1では区域B,908として表示されている。
0090
有利には、特性イメージ900におけるマーキングA,907およびC,909のやり方が、互いに異なる手法で行われ、たとえば(ここに示した図1に例示されているように)それぞれ異なるテクスチャパターンまたはハッチングパターンとして行われ、あるいはカラーバリエーションによっても行われる。
0091
これによって得られる利点とは、換気状態の推定に重要な関わりをもつ局所的特性が対象になるよう用意されたビューがユーザに提供される、ということである。このようにして用意されたビューによって、ユーザは視覚および認識に基づく換気状態の検出を簡単に行えるようになる。
0092
図1に示したようにハッチングによって強調する代わりに、カラー、グレー階調に基づくグラフィックコーディングまたはテクスチャ、輝度、カラーの透明段階または飽和段階またはパターンを用いた表示および強調が、出力信号37に情報として含まれるようにすることができ、このようにして区域A,907、B,908およびC,909を区別するために、それらの表示および強調をグラフィックで視覚的に画面99に表示させることができる。
0093
3EITデータ
4人工呼吸器の動作データ
10 データを処理および視覚化する装置
17 第1の制御信号(換気イメージ)
20圧力測定値
27 第2の制御信号(過膨張)
28 第3の制御信号(虚脱)
30電気インピーダンストモグラフィ装置
37出力信号
40 人工呼吸器
50データ入力ユニット
70 計算および制御ユニット
71インピーダンス計算ユニット
72データ供給ユニット
73データ統合ユニット(圧力値/インピーダンス値)
74 第1の特性検出ユニット
75 第2の特性検出ユニット
76 第1の比較基準
77 第2の比較基準
80画像準備処理および出力ユニット
81画像加工処理ユニット
90データ出力ユニット
97,97’操作要素
98インタフェース
99グラフィックビジュアライゼーションのための構成要素(画面、スクリーン)
710 インピーダンス値
720 圧力値
900,900’特性イメージ
907マーキングされた区域A(過膨張)
908 特別にマーキングされていない区域B
909 マーキングされた区域C(虚脱)
1000 双方向で接続されたデータ処理機器
1001データネットワーク、イントラネット、インターネット
1002 外部のデータディスプレイ