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課題
解決手段
概要
背景
近年、電気化学セルがクリーンエネルギー源として注目されている。電気化学セルのうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルは、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力や水素燃料を得ることができる等の長所を有しており、幅広い分野での活用が期待されている。電気化学セルは、基本構造として、燃料極と空気極との間に電解質層が配置された構造を有する。
特許文献1には、経時的な酸素イオン伝導率の低下が抑制されているスカンジア安定化ジルコニア膜を製造することを目的として、かさ密度が0.9g/mL以上1.05g/mL以下のスカンジア安定化ジルコニア粉末と、かさ密度が1.05g/mL超1.4g/mL以下のスカンジア安定化ジルコニア粉末を混合した混合粉末を用いてスカンジア安定化ジルコニア膜を得る工程を含むスカンジア安定化ジルコニア膜を製造するための方法が記載されている。
特許文献2には、焼結助剤を用いることなく低い焼成温度で得られる、緻密な固体酸化物燃料電池用電解質を製造することを目的として、平均粒子径が0.1μm以上1μm以下である第1粒子と平均粒子径が1nm以上20nm以下である第2粒子とを用いて製造された固体酸化物燃料電池用電解質が記載されている。
しかしながら、固体酸化物形燃料電池や固体電解質形電気化学セル等の電気化学セルの効率(出力)については、改善の余地があった。
概要
電流−電圧特性に優れた電気化学セルを与える電解質層、およびそれを含む電気化学セルを提供すること。本発明の電気化学セル用電解質層は、ジルコニア系酸化物を主成分として含む、電気化学セル用電解質層であって、上記電解質層の断面において、走査型電子顕微鏡によって観察される粒子の個数基準の粒子径分布において、2つ以上のピークを有することを特徴とする。また、本発明の電気化学セルは、燃料極、上記電気化学セル用電解質層、空気極をこの順に配置してなる。
目的
本発明の課題は、電流−電圧特性に優れた電気化学セルを与える電解質層、およびそれを含む電気化学セルを提供する
効果
実績
- 技術文献被引用数
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この技術が所属する分野
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技術分野
背景技術
0002
近年、電気化学セルがクリーンエネルギー源として注目されている。電気化学セルのうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルは、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力や水素燃料を得ることができる等の長所を有しており、幅広い分野での活用が期待されている。電気化学セルは、基本構造として、燃料極と空気極との間に電解質層が配置された構造を有する。
0003
特許文献1には、経時的な酸素イオン伝導率の低下が抑制されているスカンジア安定化ジルコニア膜を製造することを目的として、かさ密度が0.9g/mL以上1.05g/mL以下のスカンジア安定化ジルコニア粉末と、かさ密度が1.05g/mL超1.4g/mL以下のスカンジア安定化ジルコニア粉末を混合した混合粉末を用いてスカンジア安定化ジルコニア膜を得る工程を含むスカンジア安定化ジルコニア膜を製造するための方法が記載されている。
0004
特許文献2には、焼結助剤を用いることなく低い焼成温度で得られる、緻密な固体酸化物燃料電池用電解質を製造することを目的として、平均粒子径が0.1μm以上1μm以下である第1粒子と平均粒子径が1nm以上20nm以下である第2粒子とを用いて製造された固体酸化物燃料電池用電解質が記載されている。
しかしながら、固体酸化物形燃料電池や固体電解質形電気化学セル等の電気化学セルの効率(出力)については、改善の余地があった。
先行技術
0005
特開2016−69237号公報
特開2016−100080号公報
発明が解決しようとする課題
0006
従って、本発明の課題は、電流−電圧特性に優れた電気化学セルを与える電解質層、およびそれを含む電気化学セルを提供することにある。
課題を解決するための手段
0007
本発明者は、電気化学セル用の電解質層について、電解質層の粒子の個数基準の粒子径分布をコントロールすることにより、電流−電圧特性に優れた電気化学セルを与える電解質層、およびそれを含む電気化学セルを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
0008
すなわち、本発明の電気化学セル用電解質層は、ジルコニア系酸化物を主成分として含む、電気化学セル用電解質層であって、上記電解質層の断面において、走査型電子顕微鏡によって観察される粒子の個数基準の粒子径分布において、2つ以上のピークを有することを特徴とする。
0009
また、本発明の電気化学セルは、燃料極、上記電気化学セル用電解質層、空気極をこの順に配置してなる。
発明の効果
0010
本発明によれば、電流−電圧特性に優れた電気化学セルを与える電解質層、およびそれを含む電気化学セルを提供できる。
図面の簡単な説明
0011
実施例の電気化学セルにおける、電解質層の断面の走査型電子顕微鏡によって観察された粒子の個数基準の粒子径分布を示すグラフである。
0012
1.電気化学セル
本発明の電気化学セルは、燃料極、電解質層、空気極をこの順に配置してなる電気化学セルである。上記電解質層と上記空気極との間には、バリア層が配置されていてもよい。本発明の電気化学セルとしては、例えば固体酸化物形燃料電池や固体電解質形電解セルが挙げられ、固体酸化物形燃料電池が好ましい形態である。上記電気化学セルは、燃料極を支持体とする燃料極支持型セル、電解質層を支持体とする固体電解質支持型セル、空気極を支持体とする空気極支持型セルであってもよい。また、上記電気化学セル用単セルは、金属隔壁から構成され複数の貫通孔を備えた支持基板上に、燃料極と上記電解質層と空気極とが、この順に配置されたメタルサポートセルであってもよいし、あるいは燃料極と、上記電解質層とバリア層と空気極とが、この順に配置されたメタルサポートであっても良い。
0013
本発明の電気化学セルは、固体酸化物形燃料電池として用いた場合には、好ましくは、燃料極における過電圧が低く、固体酸化物形燃料電池の出力を高めることができる。また、本発明の電気化学セルは、固体電解質形電解セルとして用いた場合には、好ましくは、低消費電力で高効率の電気分解反応を進めることができる。
0014
1−1電解質層
本発明の電気化学セル用電解質層を構成する電解質としては、ジルコニア系酸化物を主成分として含んでいればよく、特に限定されず公知のものが使用できる。本明細書においては、ジルコニア系酸化物を主成分として含むとは、電解質100質量%中、ジルコニア系酸化物を例えば50質量%以上、好ましくは60質量%以上含んでいることを指す。
0015
本発明の電気化学セル用電解質層を構成するジルコニア系酸化物としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属元素、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Ybなどの希土類元素、Inなどのその他の金属元素などを1種または2種以上含有するジルコニア、好ましくはこれらの元素の1種または2種以上を安定化剤として固溶している安定化ジルコニア;さらには、上記ジルコニア(好ましくは安定化ジルコニア)に、Al2O3、TiO2、Ta2O3、Nb2O5などが分散強化剤として添加されたジルコニア;などを例示することができる。
0016
上記電解質層は、他の酸化物イオン伝導性材料を含んでいてもよく、例えば、イットリウム、サマリウム、ガドリニウム、イッテルビウム等を含有するセリア、好ましくはこれらの元素の1種または2種以上が固溶しているドープドセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅等で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物;などを例示することができる。
0017
ジルコニア系酸化物としては、より高度な熱的特性、機械的特性、化学的特性および酸化物イオン伝導特性を有する安定化ジルコニアとして、スカンジウム、イットリウム、セリウム、およびイッテルビウムから選択される少なくとも1種の元素で安定化されたものがより好ましい。また、結晶構造として正方晶または立方晶を含む(部分)安定化ジルコニアが好ましい。
0018
ジルコニア系酸化物の中でも、イットリウム、スカンジウム、イッテルビウム等の希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(安定化元素ともいう)が固溶することにより結晶構造が安定化している安定化ジルコニアが好ましい。
中でも、イットリウム、スカンジウムおよびイッテルビウムからなる群から選択される少なくとも1種の元素を固溶する安定化ジルコニアが好ましい。
より好ましい形態としては、安定化ジルコニアを構成するジルコニウムの原子数100モル%に対し、スカンジウムを原子数換算で7.0〜27.5モル%の割合で含有するジルコニア(スカンジア安定化ジルコニア)、原子数換算でスカンジウムを17.0〜25.0モル%、セリウムを0.5〜2.5モル%の割合で含有するジルコニア(スカンジア、セリア安定化ジルコニア)、イットリウムを原子数換算で6.0〜22.5モル%の割合で含有するジルコニア(イットリア安定化ジルコニア)、又はイッテルビウムを原子数換算で6.0〜35.5モル%の割合で含有するジルコニア(イッテルビア安定化ジルコニア)が挙げられる。
0019
さらに好ましい形態としては、安定化ジルコニアを構成するジルコニウムの原子数100モル%に対し、スカンジウムを原子数換算で13.0〜25.0モル%の割合で含有するジルコニア、原子数換算でスカンジウムを16.0〜22.0モル%、セリウムを0.5〜2.0モル%の割合で含有するジルコニア(スカンジア、セリア安定化ジルコニア)、イットリウムを原子数換算で12.0〜28.0モル%の割合で含有するジルコニア、イッテルビウムを原子数換算で12.0〜28.0モル%の割合で含有するジルコニアが好ましい。
特に安定化ジルコニアを構成するジルコニウムの原子数100モル%に対し、イッテルビウムを原子数換算で12.0〜28モル%の割合で含有するジルコニアが好ましい。
上記電解質層は、ジルコニア(好ましくは安定化ジルコニア)を50質量%以上含んでいることが好ましく、80質量%以上含んでいることがより好ましく、85質量%以上含んでいることが一層好ましく、90質量%以上含んでいることが特に好ましい。
0020
上記電解質層の膜厚は、例えば1〜1000μm、好ましくは1〜500μm、より好ましくは1〜300μmである。電極支持型セルまたは金属支持型セルに使用する場合には、1〜50μmが好ましく、1μm以上30μm未満がより好ましく、1〜20μmがさらに好ましい。膜厚を薄くすることにより、酸化物イオン伝導性を向上できる。
0021
本発明の電気化学セル用電解質層では、上記電解質層の断面の走査型電子顕微鏡によって観察される粒子の個数基準の粒子径分布において、2つ以上のピークを有する。上記粒子径分布において、3つ以上のピークを有することが好ましい。
0022
2つ以上のピークの位置は、全てが粒子径1.0μm以上の範囲にあることが好ましく、全てが粒子径1.1μm以上の範囲にあることがより好ましい。言い換えれば、ピーク位置の粒径が小さい順からピーク1、ピーク2、・・・ピークn(n:2以上)とした場合、ピーク1の位置が粒子径1.0μm以上の範囲にあることが好ましく、1.1μm以上の範囲にあることがより好ましい。
なお、上記ピークの位置とはピークの極大値の粒子径を意味する。
0023
また、ピーク1の位置(粒径)とピーク2の位置(粒径)との差(ピーク間隔ともいう)が0.50μm以上であることが好ましく、0.70μm以上であることがより好ましい。一方、上記ピーク間隔は1.80μm以下であることが好ましく、1.50μm以下であることがより好ましい。存在する全てのピークの位置について、隣接するピークのピーク間隔が上記の範囲であることが好ましい。特に全てのピークの位置について隣接するピークのピーク間隔が0.25〜1.5μmの範囲で観測されることが好ましい。
上記の範囲にすることにより、核となる粒子の隙間を埋めるように粒子が配置されるので粒界抵抗が減少し、酸化物イオンの伝導が良くなり、性能が向上すると考えられる。
0024
上記電解質層の断面の粒子の走査型電子顕微鏡による観察は、2次電子像で観察することが好ましい。2次電子像であれば、反射電子像よりも、取得できる画像が鮮明になるので、1つ1つの粒子を判別しやすくなる。ただし、粒子が判別できるのであれば、2次電子像ではなく、反射電子像であっても構わない。
粒子径の測定に当たっては、還元状態(燃料極中の導電成分が還元されている状態)の電気化学セルを評価して、粒子径を測定することが好ましい。還元状態であれば、電気化学セルとして、稼働している状態に近い状態のものを測定することができるからである。しかし、燃料極に用いられる導電成分とは異なり、ジルコニア系酸化物は酸化・還元により、粒子径等が変わりにくいこと、高温で還元処理を施さなくても観察できることから、酸化状態のものを測定しても構わない。
電解質層中の粒子については、電解質層全領域の代表として、取得した画像の100個以上の粒子について測定することが好ましく、200個以上測定することがより好ましい。数が多ければ多いほど好ましいと言えるが、それだけ時間を要するため、500個を測定すれば十分である。
粒子径の粒度分布におけるピーク数を求めるにあって、階級と階級間隔については、データの最大値:Pmax、最小値:Pminの差:ΔP=Pmax−Pminを求め、ΔPを20に近い数で割りその値を参考に決めれば良い(応用統計ハンドブック、応用統計ハンドブック委員会編:養賢堂、p12〜を参照)。
0025
また、上記粒子径分布において、観測されるピークのうち、もっとも頻度の大きいピークを第1ピーク、頻度が2番目に大きいピークを第2ピーク、頻度が3番目に大きいピークを第3ピークとした場合、(第2ピークの頻度/第1ピークの頻度)で表される値が20%以上50%以下であることが好ましく、25%以上40%以下であることがより好ましい。上記粒子径分布において、3つ以上のピークを有する場合は、(第3ピークの頻度/第1ピークの頻度)で表される値が8%以上25%以下であることが好ましく、10%以上20%以下であることがより好ましい。
また、ピーク1が第1ピークであることが好ましく、さらにピーク2が第2ピークであることがより好ましい。ピークが3つ以上観測される場合、ピーク1が第1ピークであり、ピーク2が第2ピークであり、ピーク3が第3ピークであることが好ましい。
0026
上記電解質層の断面の走査型電子顕微鏡によって観察される粒子は、ジルコニア系酸化物からなる粒子であることが好ましく、ジルコニア系酸化物からなる粒子が前記規定を満足することが好ましい。前記した好ましい態様はジルコニア系酸化物からなる粒子についても適用できる。
0027
電解質層を構成する粒子の粒度分布のピークについて、上記のように制御することにより、核となる粒子の隙間を埋めるように粒子が配置されるので粒界抵抗が減少し、酸化物イオンの伝導が良くなり、性能が向上すると考えられる。上記電解質層中の粒子はジルコニア系酸化物からなる粒子であることが好ましく、この場合には、電解質層中のジルコニア系酸化物の粒度分布のピークについて、上記のように制御することにより、核となる粒子の隙間を埋めるように粒子が配置されるので粒界抵抗が減少し、酸化物イオンの伝導が良くなり、性能が向上すると考えられる。
0028
電解質層中の粒子の粒度分布のピークについて、2つ以上とするためには、原料となる電解質粉末の粒子径分布を制御する方法、電解質層を形成するために行う焼成条件(たとえば焼成する際の昇降温の速度、焼成温度及び焼成時間、並びにこれらの組み合わせ)をコントロールする方法を挙げることができる。例えば、上記範囲になるように原料粉末の大きさを調整しても良いし、あるいは、焼成時の昇降温の速度と、焼成温度や焼成時間をコントロールしても良く、あるいは、これらを組み合わせても良い。また別の方法としては、電解質層を形成するために行う焼成の温度と同程度の温度で、原料粉末を仮焼した粉末を用意し、これのみを用いて電解質層を形成したり、原料粉末と仮焼粉末を混合して電解質層を形成しても良く、この方法に、電解質層を形成する際の焼成条件(たとえば焼成する際の昇降温の速度、焼成温度及び焼成時間、並びにこれらの組み合わせ)をコントロールする方法を組み合わせても良い。
0029
さらに、上記電解質層の断面において、走査型電子顕微鏡によって観察される粒子の個数基準の平均粒子径D50は、電解質層の厚みTに対し、下記式(1)
D50×1.30≦T≦D50×25 (1)
を満足することが好ましく、下記式(2)
D50×1.50≦T≦D50×15 (2)
を満足することがより好ましく、下記式(3)
D50×1.80≦T≦D50×10 (3)
を満足することがさらに好ましく、下記式(4)
D50×2.30≦T≦D50×3 (4)
を満足することが特に好ましい。
上記電解質層の断面において、走査型電子顕微鏡によって観察される粒子は、ジルコニア系酸化物からなる粒子であることが好ましい。
0030
また、上記電解質層の断面において、走査型電子顕微鏡によって観察される粒子の粒子径の標準偏差を平均値(平均粒子径D50)で割った変動係数は20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。該変動係数の上限は特に限定されないが、80%以下であることが好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。
0031
上記電解質層の断面の粒子の走査型電子顕微鏡による観察は、上記電解質層の平面の中央部付近の断面で行うことが好ましく、厚み方向においては、全ての粒子の粒子径を観察することが好ましい。上記中央部付近の断面における観察は、厚み方向において全ての粒子の粒子径を観察した場合に、観察される粒子数が好ましくは80個以上、より好ましくは100個以上になるように複数の場所で行うことが好ましい。
0032
1−2燃料極
上記燃料極は、ニッケル、コバルト、銅、鉄、ルテニウム等の、電気化学セルで燃料極触媒活性を有する金属やその前駆体である金属酸化物のうち1種類以上を含む層であれば、特に制限はされない。燃料極触媒活性を有する金属の前駆体である金属酸化物は、電気化学セルの運転雰囲気下では還元されて、該層は燃料極触媒活性を有する金属が含まれる層となる。燃料極は、さらに、上記ジルコニア系酸化物(好ましくは安定化ジルコニア)、セリア(好ましくはドープドセリア)、安定化ビスマスやランタンガレートなどの酸化物イオン伝導性金属酸化物や酸化物イオンと電子との混合伝導性金属酸化物のうち1種類以上が混合された層であることが好ましい。
0033
燃料極としては、NiまたはNiOとジルコニアとが混合された層;または、NiまたはNiOとセリアとが混合された層がより好ましい。NiまたはNiOと酸化物(ジルコニアまたはセリア)との体積比は、NiまたはNiOについてはNiO換算でNiO/酸化物=40/60〜70/30が好ましい。これらの体積比は、NiOと各酸化物のバルクの比重から重量比に換算できる。燃料極は、直接に接している電解質層と共通する化合物を含んでいることが好ましい。
燃料極は、燃料ガス透過性が高いという観点から、運転時の条件において気孔を有する層であることが好ましい。膜厚は3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましい。
0034
1−3空気極
上記空気極は、電気化学セルの反応時に空気極触媒活性を有する金属酸化物を含む層であれば、特に制限されない。空気極触媒活性を有する金属酸化物としては、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mn、Ni等のうちの少なくとも1種を含有する各種の複合酸化物(例えば、ストロンチウムを固溶したランタンマンガナイト、ランタンフェライト、ランタンコバルトフェライトやランタンコバルタイト、ランタンストロンチウムコバルタイト等)が挙げられる。空気極は、さらに、上記安定化ジルコニア、ドープドセリア、安定化ビスマスやランタンガレートなどの酸化物イオン伝導性金属酸化物や酸化物イオンと電子との混合伝導性金属酸化物のうち1種類以上が混合された層であることが好ましい。
0035
上記空気極の膜厚は5〜100μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。また、上記空気極は、上記電解質層または好ましくは備えていてもよいバリア層側に設けられた平均粒子径が0.01μm以上1μm以下の原料粒子から調製された層と、該層上の、上記電解質層または好ましくは備えていてもよいバリア層が設けられている表面と反対側に設けられた平均粒子径が1μm超10μm以下の原料粒子から調製された層と、からなっていてもよい。
0036
1−4バリア層
本発明の電気化学セルは、電気化学セルの作製時や反応時に、空気極と電解質層とが直接接していることで絶縁物質を作りやすく、この絶縁物質の生成を抑制することを目的として、バリア層を備えていてもよい。上記バリア層は、上記電解質層と上記燃料極ならびに上記空気極の少なくとも一方との間に配置されることが好ましく、より好ましくは、上記電解質層と上記空気極との間に配置される。絶縁層の生成が十分に抑制されている場合には無くても構わない。
0037
上記バリア層を構成する成分としては特に制限はされないが、酸化物イオン伝導性材料であり、電気化学セルの作製時や反応時にバリア層と空気極あるいは、電解質層との間で酸素イオン伝導性を阻害する成分を生成しにくい成分であることが好ましい。
上記バリア層を構成する成分としては特に制限はされないが、Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Ybなどの希土類元素を含有するセリアを主成分として含むことが好ましく、該セリアがこれらの元素と固溶体を構成していることがより好ましい。上記希土類元素は1種または2種以上含まれていてもよい。該セリアを主成分として含むとは、バリア層100質量%中、該セリアを50質量%以上含むことを意味し、好ましくは60質量%以上含み、70質量%以上含んでいることがさらに好ましい。また、バリア層において、希土類元素/Ceのモル比が0.01〜0.40であることが好ましく、0.05〜0.30であることがより好ましい。
0038
上記希土類元素としては、Y、Gd、Sm、Ybがより好ましく、Gd、Smがさらに好ましい。また、Gd、Smに加えて、2種目の希土類元素としてYbが含まれていることが特に好ましい。
0039
上記バリア層は、上記希土類元素を、セリウム元素100モル%に対して、合計で、5〜50モル%含んでいることが好ましく、7〜40モル%含んでいることがより好ましく、8〜35モル%含んでいることがさらに好ましい。
0040
バリア層の厚みは特に限定されないが、例えば0.2〜20μmであることが好ましい。
0041
1−5支持体
本発明の好ましくは支持体を有する電気化学セルとしては、燃料極を支持体とする形態(燃料極支持型セル)、電解質層を支持体とする形態(固体電解質支持型セル)、空気極を支持体とする形態(空気極支持型セル)、あるいは金属隔壁から構成され複数の貫通孔を備えた支持基板を支持体とする形態(メタルサポートセル)、セラミックス材料を基材として導電物質を混合、または、修飾したものを支持体とする形態、等があげられる。
中でも好ましい支持体の形態としては、燃料極支持基板が挙げられ、一般的に、安定化ジルコニアと導電性成分とを含むものが好ましく使用できる。燃料極支持基板における安定化ジルコニアと導電性成分の割合は適宜調整すればよいが、例えば、安定化ジルコニアと導電性成分の合計に対する導電性成分の質量割合で40質量%以上80質量%以下程度とすることができる。
0042
燃料極支持基板を構成する安定化ジルコニアとしては、イットリウム、スカンジウム、イッテルビウム、カルシウム、マグネシウムおよびランタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(安定化元素ともいう)が固溶することにより結晶構造が安定化しているジルコニア(安定化ジルコニア)が好ましい。
当該安定化ジルコニアにおけるイットリウム等の元素の含有割合、好ましくは固溶量としては、原子数換算で、安定化ジルコニアに含まれるジルコニウム100モル%に対して4.0モル%以上35.5モル%以下であることが好ましい。当該割合が4.0モル%以上であれば、結晶相の安定化効果などの効果がより確実に得られる。一方、当該割合が過剰になると強度が低下するおそれがあり得るので、当該割合としては35.5モル%以下が好ましい。当該割合としては、5.0モル%以上27.0モル%以下がより好ましい。
0043
電解質層、燃料極、燃料極支持基板に使用される安定化ジルコニアは、イットリウム、スカンジウム、イッテルビウム等の特に好ましい安定化元素に加えてさらに他の金属元素を含んでいてもよい。さらなる金属元素の添加により、酸素イオン伝導性、強度、耐久性などの特性がより一層向上する可能性がある。かかる金属元素としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属元素;Ce、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Erなどの希土類元素;Al、Inなどの第13族元素;Si、Ge、Snなどの第14族元素;Bi、Sbなどの第15族元素;Ti、Hfなどの第4族元素;Nb、Taなどの第5族元素などを挙げることができる。これらの中でも、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、アルミニウム(Al)およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の金属元素が特に好ましい。これらその他の金属元素は、いずれか1種のみであってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。また、これらの他の金属元素の割合としてはこれらの合計含有量が、原子数換算で、安定化ジルコニアに含まれるジルコニウム100モル%に対して0.05モル%以上5.0モル%以下が好ましい。
0044
燃料極支持基板は、燃料極へ水素などの燃料ガスを不均一にならないよう供給し、反応により生じる電子をインターコネクタへ受け渡し、電解質層やカソード層を支持する役割を有する。よって、燃料極支持基板は、安定化ジルコニアに加え、発電時の還元的条件下で還元されて導電性を示す導電性成分を含むことが好ましい。かかる導電性成分としては、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅などを用いることができ、酸化ニッケルが最も一般的である。
0045
上記燃料極支持基板の厚さは、特に限定されないが、例えば100μm以上が好ましく、120μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましい。また、燃料極支持基板の厚さは、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下がさらに好ましく、500μm以下が特に好ましい。燃料極支持基板の厚さが上記範囲内であれば、燃料極支持基板の機械的強度とガス通過性とをバランス良く両立しやすくなる。
0046
2.電気化学セルの製造方法
本発明の電気化学セルにおいて、燃料極、電解質層、空気極をこの順に、さらに好ましくは含まれていてもよいバリア層を配置して製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法が使用できる。
0047
好ましくは、本発明の電気化学セルの製造方法(S)は、
(i)支持体または支持体前駆体膜上へ、電極前駆体膜を形成する工程と、
(ii) 上記電極前駆体膜上へ、電解質層前駆体膜を形成する工程と、
(iii)上記工程で形成した電解質層前駆体膜上へ、バリア層前駆体膜を形成する工程と、
(iv) 上記支持体または支持体前駆体膜と、上記電極前駆体膜と、上記電解質層前駆体膜とバリア層前駆体膜を共焼成する焼成工程と、
(v) 上記工程で形成したバリア層上へ、他の電極前駆体膜を形成する工程と
(vi) 上記支持体と、上記電極と、上記電解質層と、上記バリア層と、上記他の電極前駆体膜とを共焼成する焼成工程と
を含んでいてもよい。
0048
電解質層中の粒子の粒度分布のピークについて、2つ以上とするためには、原料となる電解質粉末の粒子径分布を制御する方法、電解質層を形成するために行う焼成条件(たとえば焼成する際の昇降温の速度、焼成温度及び焼成時間、並びにこれらの組み合わせ)をコントロールする方法を挙げることができる。例えば、上記範囲になるように原料粉末の大きさを調整しても良いし、あるいは、焼成時の昇降温の速度と、焼成温度や焼成時間をコントロールしても良く、あるいは、これらを組み合わせても良い。また別の方法としては、電解質層を形成するために行う焼成の温度と同程度の温度で、原料粉末を仮焼した粉末を用意し、これのみを用いて電解質層を形成したり、原料粉末と仮焼粉末を混合して電解質層を形成しても良く、この方法に、電解質層を形成する際の焼成条件(焼成する際の昇降温の速度と、焼成温度や焼成時間)をコントロールする方法を組み合わせても良い。
0049
また、電解質層前駆体膜は、組成は同一で焼成温度の異なる原料粒子を用いた2種以上の電解質層前駆体膜用ペーストを重ね塗りして形成してもよいし、組成は同一で粒子径の異なる原料粒子を用いた2種以上の電解質層前駆体膜用ペーストを重ね塗りして形成してもよい。
上記電極と他の電極とは、それぞれ燃料極と空気極のどちらでもよいが、上記電極が燃料極で、上記他の電極が空気極であることが好ましい。
なお、上記製造方法において、本発明の燃料極と電解質層と空気極とをこの順に配置してなる電気化学セルでは、電解質層と空気極との間のバリア層前駆体膜及びバリア層の形成は省略する。
0050
上記の電気化学セルの製造方法(S)は、支持体を有する電気化学セルの製法として、好ましく採用し得る。
0051
また好ましくは、本発明の電気化学セルの製造方法(T)は、
(1)電極または電極前駆体膜上へ、電解質層前駆体膜を形成する工程と、
(2)上記電極または電極前駆体膜と、上記電解質層前駆体膜とを共焼成する焼成工程と、
(3)上記工程で形成した電解質層上へ、バリア層前駆体膜を形成する工程と、
(4)上記工程で形成したバリア層前駆体膜上へ、他の電極前駆体膜を形成する工程と、
(5)上記電極と、上記電解質層と、上記バリア層前駆体膜と、上記他の電極前駆体膜とを共焼成する焼成工程と
を含むか、または、
(11)電極または電極前駆体膜上へ、電解質層前駆体膜を形成する工程と、
(12)上記工程で形成した電解質層前駆体膜上へ、バリア層前駆体膜を形成する工程と、
(13)上記工程で形成したバリア層前駆体膜上へ、他の電極前駆体膜を形成する工程と、
(14)上記電極または電極前駆体膜と、上記電解質層前駆体膜と、上記バリア層前駆体膜と、上記他の電極前駆体膜とを共焼成する焼成工程とを含んでいてもよい。
0052
上記電極前駆体膜、上記電解質層前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜の焼成は、工程(12)と工程(13)の間に行って、上記電極前駆体膜、上記電解質層前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜を工程(13)の前に、電極、電解質層およびバリア層としておいてもよい。
上記電極前駆体膜、上記電解質層前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜の焼成は、工程(12)と工程(13)の間に行なうことが好ましい。
0053
電極と他の電極は、それぞれ、燃料極であっても空気極であってもよいが、電極は燃料極であることが好ましく、他の電極は空気極であることが好ましい。空気極は、空気極前駆体膜1と空気極前駆体膜2との2層を重ねてもよい。
上記の電気化学セルの製造方法(T)は、燃料極または空気極を支持体とする電極支持型セル(燃料極支持型セル、空気極支持型セル)の製法として、またメタルサポートセルの製法として、好ましく採用し得る。
0054
また好ましくは、本発明の電気化学セルの製造方法(A)は、
(20)電解質スラリーをドクターブレード法などにより電解質前駆体膜を作製する工程と、
(21)上記電解質前駆体膜を焼成して電解質層を製造する工程と、
(22)上記電解質層上に電極前駆体膜を形成する工程と、
(23)上記電解質層の上記電極前駆体膜が形成された面とは反対側の表面上にバリア層前駆体膜を形成する工程と、
(24)上記バリア層前駆体膜の表面上に他の電極前駆体膜を形成する工程と、
(25)上記電解質層と、上記電極前駆体膜と、上記バリア層前駆体膜と、上記他の電極前駆体膜とを焼成する工程とを含んでいてもよい。
0055
上記電極前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜の焼成は、工程(23)と工程(24)の間に行って、上記電極前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜を工程(24)の前に、電極、およびバリア層としておいてもよい。
上記電極前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜の焼成は、工程(23)と工程(24)の間に行なうことが好ましい。
電極と他の電極は燃料極であっても空気極であってもよいが、電極は燃料極であることが好ましく、他の電極は空気極であることが好ましい。空気極は、空気極前駆体膜1と空気極前駆体膜2との2層を重ねてもよい。
0056
また好ましくは、本発明の電気化学セルの製造方法(B)は、
(31)電解質層前駆体膜を製造する工程と、
(32)上記電解質層前駆体膜上に電極前駆体膜を形成する工程と、
(33)上記電解質層前駆体膜の上記電極前駆体膜が形成された面とは反対側の表面上にバリア層前駆体膜を形成する工程と、
(34)上記バリア層前駆体膜上に他の電極前駆体膜を形成する工程と、
(35)上記電解質層前駆体膜と、上記電極前駆体膜と、上記バリア層前駆体膜と、上記他の電極前駆体膜とを焼成する工程とを含んでいてもよい。
0057
上記電解質層前駆体膜、上記電極前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜の焼成は、工程(33)と工程(34)の間に行って、上記電解質層前駆体膜、上記電極前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜を工程(34)の前に、電解質層、電極、およびバリア層としておいてもよい。
上記電解質層前駆体膜、上記電極前駆体膜、および上記バリア層前駆体膜の焼成は、工程(33)と工程(34)の間に行なうことが好ましい。
電極と他の電極は、それぞれ、燃料極であっても空気極であってもよいが、電極は燃料極であることが好ましく、他の電極は空気極であることが好ましい。空気極は、空気極前駆体膜1と空気極前駆体膜2との2層を重ねてもよい。
0058
上記の電気化学セルの製造方法(A)、(B)は、固体電解質支持型セルの製法として、特に好ましく採用し得る。
0059
上記の各前駆体膜(グリーン層)の形成方法としては、各原料粉末を、公知のバインダーおよび/または溶剤(分散媒)、必要により更に分散剤や可塑剤等と混合して塗布用インク(ペースト、スラリーとも言う)とし、これら塗布用インクを、ドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法等によってポリエステルシート等の平滑な基板上に塗布し、乾燥して分散媒を揮発除去することによって、シート(グリーンシート)を形成してもよい。また、上記塗布用インクをブレードコート、スリットダイコート等のコーティング法やスクリーン印刷等により塗布し、乾燥して分散媒を揮発除去することによって塗膜を形成してもよい。
また、上記各層は溶射法やパウダージェットデポジション法等の粉体成膜法を用いて層形成してもよく、この場合には、前駆体層形成工程、脱脂工程および焼成工程を省略できる。
0060
本発明の電気化学セルが有していてもよい支持体の形成は従来公知の方法を採用できるが、たとえば、上記燃料極支持基板の製造では、上記安定化ジルコニアの粉末と上記導電性成分の粉末とを含むものが好ましく使用できる。スラリーを基材上に塗工した後に乾燥することにより作製する。当該スラリーは、少なくとも、安定化ジルコニア粉末、導電性成分粉末、溶媒およびバインダーを含み、その他に、例えば可塑剤、分散剤、空孔形成材、消泡剤などを添加してもよい。
0061
スラリー調製に用いる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、α−テルピネオールなどのアルコール類;アセトン、2−ブタノンなどのケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類などを例示することができ、これらから適宜選択して使用する。これらの溶媒は単独で使用し得る他、2種以上を混合して使用することができる。
0062
溶媒の使用量は、グリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が1Pa・s以上80Pa・s以下、より好ましくは1Pa・s以上50Pa・s以下の範囲となるように調整するのがよい。
0063
スラリーを製造する際に用いられるバインダーの種類は、焼成により分解したり燃焼することで除去されるものであれば格別の制限はなく、従来から知られた有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、(メタ)アクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロースなどのセルロース類などが例示される。
0064
これらの中でも特に好ましいのは、数平均分子量が5,000以上200,000以下、より好ましくは10,000以上100,000以下の(メタ)アクリレート系共重合体である。これらの有機質バインダーは、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。特に好ましいのは、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルアクリレートを60質量%以上含むモノマーの重合体である。
0065
バインダーの使用量は適宜調整すればよいが、安定化ジルコニア粉末と導電性成分粉末の合計100質量部に対して10質量部以上50質量部以下程度が好ましい。
0066
可塑剤を、グリーンシートに柔軟性を付与するために添加してもよい。可塑剤としては、例えば、低分子可塑剤、コオリゴマー可塑剤および高分子可塑剤がある。低分子可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチルやフタル酸ジオクチルなどフタル酸エステル類を挙げることができる。コオリゴマー可塑剤および高分子可塑剤としては、ポリエステル類が挙げられる。可塑剤の配合量は、使用するバインダーのガラス転移温度にもよるが、安定化ジルコニア粉末と導電性成分粉末の合計100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下程度とすることが好ましい。
0067
スラリーの調製に当たっては、固体電解質材料の解膠や分散を促進し、スラリーの流動性を増加せしめ、スラリー中での固体電解質材料の沈降を抑制するため、分散剤を添加してもよい。分散剤の配合量は、安定化ジルコニア粉末と導電性成分粉末の合計100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下程度とすることが好ましい。
0068
空孔形成材は、支持体や電極における気孔の形成を促進し、支持体や電極内部のガスの拡散を促進するために添加されるものであり、焼成により分解したり燃焼することで除去されたりするものであれば特に制限はない。従来から知られた空孔形成材としては、例えばカーボンブラックなどの炭素材料を挙げることができる。空孔形成材の配合量は、安定化ジルコニア粉末と導電性成分粉末の合計100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下程度とすることが好ましいが、支持体や電極内部におけるガスの拡散が十分である場合には添加しなくても良い。
0070
基材上へのスラリーの塗工方法は特に制限されず、ドクターブレード法、カレンダーロール法、印刷法などの常法を用いることができる。具体的には、例えば、スラリーを塗工ダムへ輸送し、ドクターブレードやスクリーン印刷機などにより均一な厚さとなるようPETフィルムなどの基材上にキャスティングし、乾燥することにより、燃料極支持基板グリーンシートとする。
0071
グリーンシートの乾燥条件は、使用した溶媒の種類などに応じて適宜調整すればよいが、通常は40℃以上150℃以下程度とする。乾燥は一定温度で行ってもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
0072
燃料極支持基板グリーンシートは、所望の形状に切断してもよい。燃料極支持基板グリーンシートの形状は特に制限されず、例えば、目的のハーフセルまたは単セルの形状に合わせればよい。例えば、円形、楕円形、R(アール)を持った角形などとすることができ、また、これらのシート内に円形、楕円形、Rを持った角形などの穴を有するものであってもよい。
0073
上記燃料極支持基板グリーンシートは、焼成することにより単独の燃料極支持基板としてもよい。但し本発明では、この段階で燃料極支持基板グリーンシートを焼成せず、その上に燃料極グリーン層などを形成するなどし、所望の形状に切断した上でまとめて共焼成してもよい。また、以降の工程の説明において、グリーン層の上に別のグリーン層を形成することのみが記載されていても、グリーン層を適宜焼成した上で別のグリーン層を形成してもよいものとする。以降の焼成条件は、いずれの層の焼成や共焼成にも適用することができる。
0074
焼成条件は適宜調整すればよいが、例えば、十分量の酸素の存在下、1200℃以上1500℃以下程度で焼成する。1200℃以上で焼結すれば十分な焼成効果が得られ、十分な強度が得られる。一方、焼成温度が高過ぎると各層の結晶粒径が過大となって靭性がかえって低下するおそれがあるため、上限を1500℃とする。より好ましくは1250℃以上1450℃以下である。
焼成温度に至るまでの加熱速度は適宜調整すればよいが、通常、0.05℃/分以上4℃/分以下程度とすることができる。
0075
以下、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。また、以下に述べる実施例において記載する「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表すものである。
0076
<粉体の粒子径の評価>
ピロリン酸ナトリウム[和光純薬工業(株)製、商品名「ピロりん酸ナトリウム+水和物」]を0.2重量%になるように純水に溶解し、分散媒とした。この分散媒に粉体を分散させ、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置[(株)堀場製作所製、型番LA−920]を用いて、粉体の粒子径を測定した。
0077
<ペースト中の凝集物の最大粒子径の評価>
ペースト中の凝集物の最大粒子径は、JIS K5600−2−5.分散度に従い、グラインドメータを用いて測定した。具体的には、グラインドメータ(BYK社製)の溝にペーストを垂らし、スクレーバーを用いてしごき溝の中に厚さが連続して変化したペースト層を作る。この時、ペースト中の凝集物による顕著な斑点が現れ始めた箇所の層の厚さを読み取り、凝集物の最大粒子径とする。なお、この測定を3回行い、3回の平均値を求めてペースト中の凝集物の最大粒子径とした。
0078
<実施例1>
(支持基板グリーンシートの作製)
導電成分としての酸化ニッケル[正同化学工業(株)製]60質量部、骨格成分としての3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末[東ソー(株)製、商品名「TZ3Y」]40質量部、空孔形成剤としてのカーボンブラック[SECカーボン(株)製、SGP−3]10質量部、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(分子量:30,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量部)30質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部及び分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶剤80質量部を、ボールミルにより混合して、スラリーを調製した。得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート成形し、70℃で5時間乾燥させて、燃料極支持基板グリーンシートを作製した。なお、グリーンシートの厚みについては、同じ組成のスラリーを用いて、予備実験を行い、グリーンシートと焼成後の厚みを考慮して、焼成後の厚みが400μmになるようにコントロールして作製を行った。
0079
(8YbSZ原料粉末の作製)
塩化イッテルビウム(III)水和物[和光純薬工業(株)製]および、塩化ジルコニウム(IV)[和光純薬工業(株)製]を焼成後に8モル%イッテルビア安定化ジルコニア[8YbSZ:(Yb2O3)0.08(ZrO2)0.92]になるように計量した。純水を用意し、加温機能付きのマグネチックスターラーを用いて水温が20℃になるようにコントロールし、上記塩化物を溶解させた。なお、30分経っても溶解しない場合には、さらに純水を加え、目視で、塩化物が溶解するまで溶解させた。目視で塩化物が溶解したことを確認した後、それまで溶解に必要とした純水の1割に当たる量を加え、さらに、水溶液を25℃になるように加温・保温しながら、1時間撹拌し、塩化物を完全に溶解させた。得られた水溶液をアンモニア水に滴下して得られた沈殿を洗浄、乾燥後、800℃で1時間仮焼した。仮焼した粉末にエタノールを加え、ボールミルで10時間粉砕混合してから乾燥させて、さらに乳鉢にて、解砕を行い、解砕した粉を1200℃で焼成して8YbSZ原料粉末を得た。ポリ容器に得られた原料粉末とエタノールとYSZボールを入れ、回転数と時間を調整しながらボールミルで粉砕し、乾燥させることで、平均粒子径が0.23μmの8YbSZ原料粉末を得た。
0080
(燃料極層用ペーストの作製)
ポリ容器に、導電成分としての酸化ニッケル[日興リカ(株)製、商品名「高純度酸化ニッケルF」]60質量部、イオン伝導成分としての調製した8YbSZ原料粉末40質量部、さらに分散媒としてのエタノールとYSZボールを加え、これをボールミルで粉砕混合してから乾燥させて、ボールミル処理したNiO/8YbSZ混合粉末を得た。
NiO/8YbSZ混合粉末60質量部、溶剤としてのα−テルピネオール[和光純薬工業(株)製]36質量部、バインダーとしてのエチルセルロース[和光純薬工業(株)製]4質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート[和光純薬工業(株)製]6質量部及び分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、燃料極層用ペーストを作製した。なお、このペースト化処理では、3本ロールミル間のギャップと回転速度を調整することによって、グラインドメータで計測される凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕/混練した。
0081
(電解質層用ペーストの作製)
上記で調製した8YbSZ原料粉末60質量部、バインダーとしてエチルセルロース[和光純薬工業(株)製]を5質量部、溶剤としてα−テルピネオール[和光純薬工業(株)製]を40質量部、可塑剤としてジブチルフタレート[和光純薬工業(株)製]を6質量部及び分散剤としてソルビタン酸エステル系界面活性剤[三洋化成工業(株)製、商品名「イオネットS−80」]5質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、8YbSZ電解質層用ペーストを作製した。なお、このペースト化処理では、3本ロールミル間のギャップと回転速度を調整することによって、グラインドメータで計測される凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕/混練した。
0082
(バリア層用のペーストの作製)
セラミック質として10モル%ガドリニアがドープされているセリア粉末[阿南化成(株)製]60質量部、バインダーとしてのエチルセルロース[和光純薬工業(株)製]5質量部、溶剤としてのα−テルピネオール[和光純薬工業(株)製]40質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート[和光純薬工業(株)製]6質量部及び分散剤としてのソルビタン酸エステル系界面活性剤[三洋化成工業(株)製、商品名「イオネットS−80」]5質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。これにより、バリア層用ペーストを得た。なお、このペースト化処理では、3本ロールミル間のギャップと回転速度を調整することによって、グラインドメータで計測される凝集物の最大粒子径が10μm以下になるまで解砕/混練した。
0083
(燃料極層用グリーン層の形成)
上記で得た燃料極層用ペーストをスクリーン印刷により、上記で得た支持基板グリーンシートに、焼成後の厚さが20μmとなるように印刷し、100℃で30分間乾燥させ、燃料極層用グリーン層を形成した。
0084
(電解質層用グリーン層の形成)
上記で得た燃料極層用グリーン層上に、上記で得た電解質層用ペーストをスクリーン印刷により、焼成後の厚さが4μmとなるように印刷した。
0085
(バリア層用グリーン層の形成)
上記で得た、電解質層のグリーン層上に上記のバリア層用ペーストを、スクリーン印刷により厚さ2μmとなるように印刷した。これを100℃で30分間乾燥させることによって、バリア層用グリーン層を形成した。
0086
(焼成)
バリア層用ペーストの乾燥後、上記で得たバリア層用グリーン層、電解質層用グリーン層、燃料極層用グリーン層が形成された支持基板用のグリーンシートを、焼成後の1辺が60mmの正方形になるように打ち抜いた。打ち抜いた後、1300℃で2時間焼成してバリア層を有するハーフセルを得た。
0087
(LSCの粉体材料の調製)
LSC空気極の原料となる粉体材料として、硝酸ランタン(III)水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト(II)水和物[いずれも和光純薬工業(株)製]を焼成後にLa0.6Sr0.4CoOxとなるように精製水に溶解させた。溶解後、この溶液を0.1モル/Lになるように精製水を加えて調整した(溶液:A)。調整した溶液:Aに対する量論比が1.2倍のシュウ酸アンモニウム水和物[関東化学(株)製]を精製水に溶かした溶液(溶液:B)を用意し、スターラーにて撹拌させた状態の溶液:Bに溶液:Aを滴下させた。
滴下後の混合溶液をロータリーエバポレータにてある程度の水分を留去した後、蒸発皿に移して100℃で乾燥を行った。得られた固形物について、乳鉢で粉砕した後、400℃で4時間熱分解、800℃で6時間仮焼、1100℃で7時間焼成を行なうことで粉末を得た。
得られた粉末にエタノールを加え、さらにこれをボールミルで粉砕混合してから乾燥させて、LSC(6−4−10)粉末を得た。なお、得られた粉末は、X線回折によって、ペロブスカイトからなる単一相であることが確認された。さらにその後、回転数と回転時間を調製しながら粉砕することによって、平均粒子径(D50)が0.52μmのLSC粉末:Aと、2.3μmのLSC粉末:Bを得た。
0088
(空気極層用スラリーの調製)
上記の方法で調製されたLSC粉末:A100質量部に対して、バインダーとしてのエチルセルロースが3質量%、溶剤としてのα−テルピネオールが30質量%の割合となるように加え、これを乳鉢を用いて混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて混練し、空気極層用スラリー:Aを得た。
同様に、LSC粉末:Aを、LSC粉末:Bに変えた以外は同様の方法で、空気極層用スラリー:Bを得た。
0089
(LSC空気極の形成)
上記バリア層を有する燃料極支持型ハーフセルのバリア層面に、スクリーン印刷により、上記空気極層用スラリー:Aを1cm×1cmで、焼成後の厚みが10μm程度になるように、正方形に塗布し、90℃で1時間乾燥させた。乾燥後に、上記空気極層用スラリー:Bを1cm×1cmで、焼成後の厚みが10μm程度になるように正方形に塗布し、90℃で1時間乾燥させ、2層からなる空気極層用グリーン層を形成した。この空気極層用グリーン層を、1000℃で2時間焼成し、実施例1に係る電気化学セルを得た。
0090
<比較例1>
実施例1における、電解質層用グリーン層の形成において、焼成後の厚さが2μmとなるように印刷した以外は実施例1に記載と同様の方法により比較例1に係る電気化学セルを得た。
0091
<比較例2>
実施例1における、焼成工程において、1400℃で2時間焼成した以外は実施例1に記載と同様の方法により、比較例2に係る電気化学セルを得た。
0092
<電気化学セルの電気性能評価(電池性能評価試験)>
実施例1及び比較例1,2の電気化学セルについて以下の方法で電池性能を評価した。電気化学セルの燃料極に100mL/分の窒素を、空気極に100mL/分の空気を供給しつつ、100℃/時間の速度で測定温度(750℃)まで昇温した。昇温後、燃料極、空気極の出口側のガスについて、流量計で、流量を測定し、漏れが無いことを確認した。
次いで、水素を6mL/分、窒素を194mL/分の水温25℃で、バブラーにより加湿した混合ガスを燃料極へ、400mL/分の空気を空気極へ供給した。10分以上経過後に起電力が発生し、漏れが無いことを再度確認した後、燃料極側のガスを、水温25℃でバブラーにより加湿した水素を194mL/分の流量で燃料極へ供給し、起電力が安定してから、10分以上経過後に電流密度(負荷)を1.0A/cm2に変更し、得られた電圧を記録した。結果を表1に示す。
0093
<粒子径の測定>
実施例1及び比較例1,2で作製した電気性能評価後サンプルについて(実施例については、評価前サンプルについても実施)、空気極が塗布されている面の中央部分を、長さ:10mm、幅:5mmになるように切り出し、断面観察用のサンプルとした。観察には電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製「JSM−7600F」)を用い、断面観察用の10,000倍の倍率の2次電子画像を同じ観察個所を含まないように、作製した断面観察用サンプルの任意の10点について取得した。
取得した画像について、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製「Image Pro Plusバージョン4.0」)を用いて、電解質層中のそれぞれの粒子の面積円相当径:dを求めた。電解質層中のジルコニア粒子については、粒子が100個以上になるように、得た断面観察画像について行い、粒子径の粒度分布におけるピーク数を求めた[階級と階級間隔については、応用統計ハンドブック(応用統計ハンドブック委員会編:養賢堂、p12〜)を参照した]。結果を表1に示す。また、電解質の厚み:t、粒子の個数についての平均:D50や標準偏差:Dσについても値を求めた。結果を表2に示す。なお、取得した断面観察画像から得られる粒子の個数がそれぞれ100個に満たない場合には、取得する断面観察画像を増やして100個以上になるようにした。
なお、燃料極と電解質、電解質とバリア層の境界については、以下のようにして、界面を求め、その内側を電解質層と判断した。取得した画像について、Ni(NiO)が最も電解質層へ(バリア層方向へ)入り込んでいる箇所と、その箇所から2μm以上離れて、Ni(NiO)が最も電解質層へ入り込んでいる箇所の2か所を結んだ直線を電解質層/燃料極界面とした。バリア層の場合には、Ce(CeO2)が最も電解質層へ(燃料極方向へ)入り込んでいる箇所と、その箇所から2μm以上離れて、Ce(CeO2)が最も電解質層へ入り込んでいる箇所の2か所を結んだ直線を電解質層/バリア層界面とし、その間を電解質層とした。
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図1に、実施例1の電気化学セルにおいて、電解質層の断面の走査型電子顕微鏡によって観察された粒子の個数基準の粒子径分布を示す。図1中の白抜き矢印は、ピークの位置を示す。図1に示すように、粒子の個数基準の粒子径分布において、粒子径1.5μm超1.75μm以下と、粒子径2.5μm超2.75μm以下と、粒子径3.5μm超3.75μm以下の範囲に、各1つずつ、計3つのピークが観察された。
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